説明

アルミナコロイド含有水溶液の製造方法及び該製造方法で得られたアルミナコロイド含有水溶液

【課題】中性領域を包含し、長期保存安定性に優れたアルミナコロイド含有水溶液を提供する。
【解決手段】有機酸とアルミナ水和物とアルカリ剤とを混合、加熱することを特徴とする、pH5.5〜9のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法である。または、塩基性有機酸アルミニウム水溶液と、アルカリ剤とを混合することを特徴とする、pH5.5〜9のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法である。但し、上記いずれの製造方法においても、前記アルミナコロイド含有水溶液中の、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積(A)と、Alのモル数(B)が、A/B=1.0〜2.0の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ水和物等からなるコロイド(以下、アルミナコロイドと云う)及びイオン性アルミニウム化合物を含有したpH5.5〜9のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法、及びその製造方法によって得られた保存安定性に優れたアルミナコロイド含有水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナコロイドが溶液中に分散したゾル(以下、アルミナゾルと云うことがある。)、あるいはアルミニウム塩が溶解した水溶液(以下、アルミナ水溶液と云うことがある。)は、光学材料、電子材料、触媒担体、陶磁器、耐熱バインダーや化粧品、医薬品における軟膏類の配合ベースなど多種多様の材料として幅広く利用されている。
【0003】
アルミナゾル及びアルミナ水溶液とその製造方法に関しては、従来より種々の技術が開示されている。例えば、酸性のアルミナゾルとしては、擬ベーマイト結晶からなる酸性アルミナゾル(特許文献1)、あるいは、水溶性塩基性アルミニウム塩から得たアルミナゲルを有機酸の存在下に水熱処理してベーマイト態結晶格子を有する酸性アルミナゾルを製造する方法(特許文献2)が挙げられる。また、アルカリ性のアルミナゾルとしては、陰イオン性コロイド状水和アルミナを含むアルカリ性のアルミナゾル(特許文献3)、あるいは、酸性アルミナ水和物ゾルをアルカリの存在下で陰イオン交換体を利用してアルミナ水和物からなるアルカリ性アルミナゾルを製造する方法(特許文献4)が挙げられる。
【0004】
一方、特許文献5では、アルミン酸アルカリ金属塩の水溶液に有機ヒドロキシル酸の水溶液を滴下で添加して中和することによって、中性領域においても安定なアルミナゾルが得られることを開示している。
また、本願出願人は、正塩よりも当量あたりの酸量が少ない塩基性アルミニウムからなる酸性のアルミナ水溶液の製造方法を開示している(特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−78925号公報
【特許文献2】特開昭53−112299号公報
【特許文献3】特開昭59−195527号公報
【特許文献4】特開平8−325010号公報
【特許文献5】特開昭59−223223号公報
【特許文献6】特公昭58−5174号公報
【特許文献7】特公昭59−40381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸性のアルミナゾルは陽イオン性のアルミニウム化合物で構成されているため、コロイダルシリカなどの陰イオン性の微粒子と混合すると激しく凝集を起こし、このため用途の限定や使用上の制約があった。また、アルカリ性のアルミナゾルは透明性や経時安定性において必ずしも十分なものであるとは云い難い。さらに、特許文献3記載のアルミナゾルは、pHが10〜14と高く、製法においてもアルミナ三水和物を仮焼して一水和物とし、これをアルカリ性溶液中で混練するものであるから作業者の安全面からも好ましくなく、また特許文献4記載の方法では陰イオン交換体を使用するため、製造に長時間を要し経済的でなかった。
一方、特許文献5記載の中性のアルミナゾルの製造方法では、強アルカリ性のアルミン酸アルカリ金属水溶液を中和するために有機酸を多量に添加する必要があり、経済的ではなかった。
【0007】
さらに、アルミナゾルおよびアルミナ水溶液に関する技術を開示した多くの文献ではそれらが安定性に優れていることが謳われているが、実際に市販されているアルミナゾル及びアルミナ水溶液は製造後数週間〜数ヶ月程度で沈殿が生じるなど長期保存安定性が十分でないものが多く見られるという現状、及び中性領域のアルミナゾル又はアルミナ水溶液がほとんど見当たらないという現状があった。そこで、中性領域であり、且つ、長期保存安定性に優れたものが強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述のような現状に鑑み、有機酸含有量の少ない中性アルミナゾル及びアルミナ水溶液について鋭意検討を重ねた結果、有機酸とアルミニウムの配合量を巧みに設定し、アルカリ剤によって特定のpHに調整することによって、アルミナコロイドとイオン性アルミニウム化合物とを含有した、pH5.5〜9の中性領域を含む長期間の保存安定性に優れたアルミナコロイド含有水溶液が得られることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
即ち、本発明は、有機酸とアルミナ水和物とアルカリ剤とを混合、加熱することを特徴とする、pH5.5〜9のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法に関するものである。但し、前記アルミナコロイド含有水溶液中の、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積(A)と、Alのモル数(B)が、A/B=1.0〜2.0の範囲である。
また、本発明は、塩基性有機酸アルミニウム水溶液とアルカリ剤とを混合することを特徴とする、pH5.5〜9のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法に関するものである。但し、前記アルミナコロイド含有水溶液中の、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積(A)と、Alのモル数(B)が、A/B=1.0〜2.0の範囲である。
更に、本発明は、上記製造方法によって得られたアルミナコロイド含有水溶液を、さらに70〜200℃で加熱することを特徴とするアルミナコロイド含有水溶液の製造方法に関するものである。
また、本発明は、上記いずれかの製造方法によって製造されたアルミナコロイド含有水溶液に関するものである。
更にまた、本発明は、上記アルミナコロイド含有水溶液を、分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過した時の、ろ液中のAlが、ろ過前の水溶液中のAlに対して、5〜50質量%であるアルミナコロイド含有水溶液に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によって得られるアルミナコロイド含有水溶液は、(1)アルミニウムに対する有機酸の含有量がアルミニウムの正塩を構成する有機酸量よりも少ないこと、(2)pHが5.5〜9、即ち弱酸性〜中性〜弱アルカリ性の範囲であること、(3)長期保存安定性に優れること、(4)金属元素として実質的にアルミニウムのみを含むこと、即ち、原料中の不純物に由来する金属元素を除いてアルミニウム以外の金属元素を含まないこと、という特性を兼ね備えているため、様々な用途に広範に利用することができる。特に、中性領域を包含することにより、種々の金属塩やゾルとの混合が可能であり、各種用途において優れた特性を発揮する。さらに、製法が簡便であるという利点を有し、その工業的意義は絶大である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法について詳細に説明する。
本発明の第一の製法は、有機酸とアルミナ水和物とアルカリ剤とを混合、加熱することを特徴とする、pHが5.5〜9の範囲のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法である。但し、前記アルミナコロイド含有水溶液中の、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積(A)と、Alのモル数(B)が、A/B=1.0〜2.0の範囲である。
【0012】
ここでA/B値について云えば、A/B値が1.0未満の場合は、未反応のアルミニウム成分が残存するため均一な溶液状態が得られ難くなる。一方、A/B値が2.0を上廻ると、一旦溶液が得られても数日程度の保管で沈殿物発生やゲル化が生じて不安定な溶液となり易く、さらに、イオン性のアルミニウム成分が過剰量に生成するためバインダー性能が低下する傾向がみられる。尚、焼成処理をおこなう用途においては、有機酸の含有量は少ない方が好ましいが、本発明方法により得られるアルミナコロイド含有水溶液はこの点に於いても最適のものと云うことができる。
【0013】
本発明に使用する有機酸としては、オキシカルボン酸が好ましい。オキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸などが好例として挙げられ、このうち1種類だけでもあるいは2種類以上を用いてもよい。
また、アルミナ水和物としては、一般に市販されている水酸化アルミニウムや酸化アルミニウムの水和物、またはアルミニウム塩の中和等によって得られるアルミナ水和物ゲルなどが好適に使用できる。このうち、易溶解性のものが特に好ましい。
アルカリ剤としては、アルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、炭酸塩、重炭酸塩、アンモニア、アンモニウムの水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、アミン類、尿素のいずれでも使用できる。このうち、本発明のアルミナコロイド含有水溶液の用途において、乾燥処理や焼成処理して使用するときは、処理中に除去することができるアンモニア、炭酸水素アンモニウム、尿素、あるいはアミン類を使用することが好ましい。前記アルカリ剤は、1種類だけでもあるいは2種類以上を用いてもよい。アルカリ剤を水溶液として用いる場合の濃度は、アルカリ剤の種類により異なるが、一般的には0.2〜30質量%程度の濃度であることが好ましい。
【0014】
有機酸とアルミナ水和物とアルカリ剤との混合、加熱方法については、特に制限されるものではなく、例えば、水に溶解させた有機酸とアルミナ水和物の水溶液およびアルカリ剤を混合した溶液を加熱してもよいし、有機酸の水溶液にアルミナ水和物を添加して加熱した後、その加熱状態の温度が下がらないように維持しながら、アルカリ剤を添加しても良い。添加の態様は、連続的であっても間欠的であってもよく、添加速度も特に制限はないが、一度に多量に添加することは避けることが望ましい。また、混合の態様は、通常の撹拌方法であればよく、混合時間は適宜設定すればよい。本発明における加熱の目的は、アルミナ水和物の溶解であり、加熱温度は50〜200℃が好ましく、より好ましくは70〜140℃、さらに好ましくは、90〜120℃である。加熱方法に特に制限はなく、通常の加熱方法やオートクレーブ等が例示できる。
【0015】
本発明の第二の製法は、塩基性有機酸アルミニウム水溶液とアルカリ剤とを混合することを特徴とする、pHが5.5〜9の範囲のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法である。但し、前記アルミナコロイド含有水溶液中の、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積(A)と、Alのモル数(B)が、A/B=1.0〜2.0の範囲である。
【0016】
塩基性有機酸アルミニウム水溶液は、イオン性アルミニウム化合物を含有した水溶液であり、例えば、塩基性乳酸アルミニウム水溶液が挙げられる。これらは、市販の工業薬品を使用してもよいし、公知の製造方法により得られるものを使用してもよい。例えば、市販の工業薬品としては、塩基性乳酸アルミニウム水溶液(タキセラム(登録商標):多木化学(株)製。pH4〜5、A/B=1.5〜1.6、Al濃度:8〜9質量%)がある。公知の製造方法としては、塩基性乳酸アルミニウムの製造方法を開示した特許文献6(特公昭58−5174号公報)及び特許文献7(特公昭59−40381号公報)が例示できる。これらのうちA/B=1.0〜2.0ものが塩基性塩としての安定性が高いために、本発明に好適に使用できる。尚、最終製品であるアルミナコロイド含有水溶液のA/B値が2.0を上廻る場合は、上記第一の製法で記載したのと同様の現象が起きる。
尚、本発明においては、塩基性有機酸アルミニウム水溶液中に、製造原料に由来する無機酸根、あるいは塩基性有機酸アルミニウム水溶液の安定化のために添加される無機酸根が含有されていても構わない。
アルカリ剤の種類については、上記第一の製法と同様である。また、添加の態様と混合の態様も上記第一の製法と同様である。
尚、第二の製法では、上記A/B値の塩基性有機酸アルミニウム水溶液とアルカリ剤とを混合するだけなので、最終製品であるアルミナコロイド含有水溶液中のA/B値は、原料である塩基性有機酸アルミニウム水溶液のA/B値と同じである。
【0017】
次に、上記第一の製法及び第二の製法に共通するA/B値とpHのうち、A/B値については上記の通りであるので、pHについて説明する。上記両製法のいずれにおいても、最終製品であるアルミナコロイド含有水溶液のpHが5.5〜9の範囲となるように上記原料を混合することが肝要である。pHが5.5未満あるいは9を超えると、保存期間の長短に関わらず沈殿物の発生やゲル化が生じ本発明の目的を達成することができない。この範囲にあれば長期保存に十分耐え得るものであるが、当該水溶液の傾向として、経時と共に僅かではあるがpHが低下する傾向を有する。従って、製造直後のpHの範囲は、6.0〜9が好ましく、より好ましくは6.5〜9である。
尚、第一の製法において、混合した溶液のpHは未反応の有機酸およびアルカリ剤が溶液中に存在するために酸性〜中性を示すが、加熱処理によってアルミニウムと有機酸の反応が進行するため、残存するアルカリ剤の影響によりpHが上昇する。従って、第一の製法では、有機酸やアルカリ剤の量は、加熱温度や時間等の加熱条件を考慮して、加熱後のpHが前記範囲内に入るように適宜設定することが望ましい。
【0018】
また、本発明のアルミナコロイド含有水溶液中のAl濃度については、上限は20質量%以下であることが好ましい。20質量%を超えると粘性が上昇し、ハンドリング性が悪化する傾向にある。Al濃度の下限については、特に制限はないが、経済的な観点から1質量%以上であることが好ましい。尚、Al濃度のより好ましい範囲は、3〜15質量%である。
【0019】
本発明では、混合する原料がアンモニア等の揮散性のものを除いて系外へ逸失することが実質的になくそのまま最終製品に含有されるので、原料の配合割合は最終製品であるアルミナコロイド含有水溶液中の設計値に合わせて適宜設定すればよい。尚、第二の製法において、Alとして1〜10質量%程度の市販の塩基性有機酸アルミニウム水溶液を用いるときは、そのままあるいは希釈したものを原料として用いることができる。
【0020】
このような製造方法で得られる本発明のアルミナコロイド含有水溶液は、外観的にも透明度が高く、とりわけコーティング剤として利用できる。また、適度な量の有機酸を分散剤として含むことから、酸〜アルカリ性溶液との混合性に優れる他、有機酸を焼成により除去して用いる用途には特に有用である。
また、本発明のアルミナコロイド含有水溶液は、常温保存は勿論、50℃保存においても6ヶ月以上外観及び粘度にほとんど変化が見られず、長期保存安定性に優れている。
【0021】
また、本発明のアルミナコロイド含有水溶液をコーティング剤として使用し、比較的強力な加熱乾燥時において被膜のクラックを防止したい場合、あるいは触媒、光学材料等として使用し、その性能を更に高めたい場合は、当該水溶液中のアルミナコロイドを更に粒成長させることによりその目的を達成することができる。即ち、当該水溶液を加熱することによってその目的を達成することができる。尚、ここで云うところの加熱は、第一の製法におけるアルミナ水和物の溶解を目的とした加熱とは異なり、本発明方法により製造されたアルミナコロイド含有水溶液の再加熱のことである。加熱温度は所望する粒子の大きさにより適宜設定すればよいが、温度範囲としては70〜200℃が好ましい。加熱時間も同様に所望する粒子の大きさにより適宜設定すればよい。一般的に、加熱温度が高い程粒成長は速く、加熱時間が長い程粒は大きくなる。加熱方法は特に限定されることなく、通常の加熱方法やオートクレーブ等を用いればよい。尚、加熱によってpHが低下するので、加熱する場合は、加熱後のpHが5.5〜9の範囲内となるように加熱前のpH値を設定することが望ましい。
【0022】
本発明のアルミナコロイド含有水溶液中のイオン性アルミニウム化合物とアルミナコロイドの混合割合については特に限定されることはないが、該水溶液を分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過した時に、ろ液中のAlが、ろ過前の水溶液中のAlに対して、5〜50質量%となることが望ましい態様の1つである。このとき、イオン性アルミニウム化合物とアルミナコロイドがAlとして5:95〜50:50の質量比で存在するとみなすこともできる。
【0023】
ところで、本発明のアルミナコロイド含有水溶液と上記第二の製法の原料である塩基性有機酸アルミニウム水溶液とを比べると、本発明のアルミナコロイド含有水溶液が、上記第二の製法の原料である塩基性有機酸アルミニウム水溶液とアルカリ剤との中和反応によってアルミナコロイドとイオン性アルミニウム化合物の両方を含む水溶液が得られるのに対し、該塩基性有機酸アルミニウム水溶液では大半がイオン性のアルミニウム化合物として溶液中に存在している。このことは、例えば、分画分子量10000の限外ろ過膜を用いてろ過したときのろ過漏れ率(ろ過前の水溶液中のAlに対するろ液中のAlの質量%)によって説明することができる。即ち、塩基性有機酸アルミニウム水溶液は、有機酸の種類や有機酸とアルミニウムの存在比によってろ過漏れ率は異なるが、例えば、塩基性乳酸アルミニウム水溶液のA/B値が1.0の場合のろ過漏れ率が55質量%、1.6の場合のろ過漏れ率が65質量%であるのに対して、本発明のアルミナコロイド含有水溶液は5〜50質量%であるという違いがある。また、本発明のアルミナコロイド含有水溶液と該塩基性有機酸アルミニウム水溶液について、100℃で乾燥させた乾燥物の粉末X線回折分析の結果では、前者が擬ベーマイトの結晶形を示すのに対し、後者では不定形(アモルファス状)を示すという違いがある。このような両者の違いが生じる理由については、本発明では該塩基性有機酸アルミニウム水溶液のpHを上げることによってイオン性アルミニウム化合物の一部が析出してコロイドとして分散するが、イオン性アルミニウム化合物とアルミナコロイドの存在割合が巧みな平衡状態を生み出すことがその原因であると推定される。
【0024】
本発明のアルミナコロイド含有水溶液は優れた安定性を有するので、限外ろ過または加熱等によって濃縮して利用したり、水などで希釈して利用することもできる。但し、限外ろ過では上記のようにすべてのアルミニウム成分を回収できないことから加熱濃縮が好ましい。加熱等によって濃縮するときは、濃縮後の水溶液中のAl濃度は、安定性やハンドリング性等の点から20質量%以下であることが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。尚、実施例において%は、特に断らない限り全て質量%を示す。
実施例に用いた原料は、試薬あるいは工業薬品として入手できるものを用いた。
【0026】
〈分析〉
(1)Al2O3濃度は、旧JIS K-5407-8に準じてアルミナコロイド含有水溶液を1000℃/5hで焼成した後の焼成残分により算出した。また鉄濃度は、酸化鉄濃度から計算により求めた。
(2)結晶構造は、水溶液を100℃で乾燥させたものをX線回折装置XRD-7000(島津製作所(株)製)で測定して解析した。
(3)電気伝導度は、電気伝導度計CM-14S(TOA ELECTRON Ltd.製)を用いて測定した。
(4)粘度は、水溶液の温度を25℃にした後、E型粘度計で測定した。
(5)透過率は、水溶液をAl2O3として7.5質量%に調整したものを側色差計 ND-300A(日本電飾工業(株)製)で測定した。但し、水溶液中のAl2O3が7.5質量%未満のものは原液のまま測定した。
(6)平均粒子径は、動的光散乱色粒度分布測定装置LB-500(堀場製作所(株)製)を用いて測定した。
【0027】
〈保存安定性試験〉
試料を50mL容サンプル瓶に封入した後50℃恒温槽で6ヶ月間保存し、保存前及び保存後のpH、EC、粘度、透過率の測定、及び目視による観察によって長期保存安定性を評価した。
〈ろ過漏れ率〉
ろ過漏れ率は、分画分子量10000の限外ろ過膜(ADVANTEC製 ウルトラフィルターユニット USY-1)でろ過した時の、ろ過前のアルミニウム成分の質量に対するろ液中のアルミニウム成分の質量の百分率により算出した。
〈A/B値〉
有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積をAとし、Al2O3のモル数をBとしたときのA/Bを、A/B値とする。
【0028】
〔実施例1〕
水酸化アルミニウムにイオン交換水を加えてAl2O3として10%のスラリーを得た。このスラリー100質量部に対し88%乳酸12質量部と20%アンモニア水10質量部を添加した(この時のpH6.8)。これを100℃で3h加熱を行い、Al2O3濃度が8.2%、pH8.5のアルミナコロイド含有水溶液を得た。得られた水溶液のA/B値は1.2であり、平均粒子径は11nmであった。製造直後、及び50℃/6ヶ月保存後の分析値を表1に示した。保存後に若干pHの低下が認められたものの、ゲル化や沈殿物発生は認められず、安定性を保持していた。また、この水溶液をエバポレーターを用いて、Al2O3濃度を15%まで濃縮したものは、6ヶ月の保存安定性試験後も安定状態を維持していた。尚、濃縮直後の水溶液の乾燥物の粉末X線回折が擬ベーマイトの回折パターンを示したことより、得られた水溶液にはアルミナコロイドが含有されていることが確認できた。
【0029】
〔実施例2〕
水酸化アルミニウムにイオン交換水を加えてAl2O3として10%のスラリーを得た。このスラリー100質量部に対し88%乳酸12質量部と10%水酸化ナトリウム水溶液27質量部を添加した(この時のpH3.7)。これを100℃で3h加熱を行い、Al2O3濃度が7.2%、pH7.3のアルミナコロイド含有水溶液を得た。得られた水溶液のA/B値は1.2であり、平均粒子径は11nmであった。製造直後、及び50℃/6ヶ月保存後の分析値を表1に示した。保存後に、ゲル化や沈殿物発生は認められず、安定性を保持していた。尚、この水溶液をイオン交換水でAl2O3濃度を1%まで希釈した水溶液は、6ヶ月の保存安定性試験後も安定状態を維持していた。希釈直後の水溶液の乾燥物の粉末X線回折が擬ベーマイトの回折パターンを示したことより、得られた水溶液にはアルミナコロイドが含有されていることが確認できた。
【0030】
〔実施例3〕
硫酸アルミニウム水溶液(Al2O3として10%)に炭酸水素アンモニウム水溶液(NH3として5%)をpHが8.0になるまでゆっくり添加して反応させた後、限外洗浄によってAl2O3として10%のアルミナ水和物ゲルを得た。このゲル100質量部に対し88%乳酸10質量部を反応させて、塩基性乳酸アルミニウム水溶液(Al2O3濃度=9.1%、乳酸/Al2O3のモル比=1.0、pH5.7)を作製した。この塩基性乳酸アルミニウム水溶液100質量部に対し20%アンモニア水2質量部を撹拌下で徐々に添加して、pH6.7のアルミナコロイド含有水溶液を得た。得られた水溶液のA/B値は1.0であり、Al2O3濃度は8.9%、平均粒子径6nmであった。この溶液を100、120、140℃で各3時間の水熱処理を行ったところ、平均粒子径がそれぞれ8、15、31nmであったことより、アルミナコロイドの粒子成長が確認された。水熱処理前の水溶液の製造直後、及び50℃/6ヶ月保存後の分析値を表1に示した。保存後に、ゲル化や沈殿物発生は認められず、安定性を保持していた。尚、製造直後のこの水溶液の乾燥物の粉末X線回折が擬ベーマイトの回折パターンを示したことより、得られた水溶液にはアルミナコロイドが含有されていることが確認できた。
【0031】
〔実施例4〕
硫酸アルミニウム水溶液(Al2O3として10%)に炭酸水素アンモニウム水溶液(NH3として5%)をpHが8.0になるまでゆっくり添加して反応させた後、限外洗浄によってAl2O3として10%のアルミナ水和物ゲルを得た。このゲル100質量部に対し88%乳酸16質量部を反応させて、塩基性乳酸アルミニウム水溶液(Al2O3濃度=8.6%、乳酸/Al2O3のモル比=1.6、pH4.5)を作製した。この塩基性乳酸アルミニウム水溶液100質量部に20%アンモニア水7質量部を撹拌下で徐々に添加した後これを140℃で3h加熱を行い、pH7.8のアルミナコロイド含有水溶液を得た。得られた水溶液のA/B値は1.6であり、Al2O3濃度は8.0%、平均粒子径33nmであった。得られた水溶液の製造直後、及び50℃/6ヶ月保存後の分析値を表1に示した。保存後に、ゲル化や沈殿物発生は認められず、安定性を保持していた。尚、製造直後のこの水溶液の乾燥物の粉末X線回折が擬ベーマイトの回折パターンを示したことより、得られた水溶液にはアルミナコロイドが含有されていることが確認できた。
【0032】
〔実施例5〕
水酸化アルミニウムにイオン交換水を加えてAl2O3として20%のスラリーを得た。このスラリー100質量部に対し20%リンゴ酸125質量部と20%アンモニア水21質量部を添加した(この時のpH4.6)。これを140℃で3h加熱を行い、Al2O3濃度が8.1%、pH8.1のアルミナコロイド含有水溶液を得た。得られた水溶液のA/B値は1.9であり、平均粒子径は9nmであった。得られた水溶液の製造直後、及び50℃/6ヶ月保存後の分析値を表1に示した。保存後に、ゲル化や沈殿物発生は認められず、安定性を保持していた。尚、製造直後のこの水溶液の乾燥物の粉末X線回折が擬ベーマイトの回折パターンを示したことより、得られた水溶液にはアルミナコロイドが含有されていることが確認できた。
【0033】
〔比較例1〕
硫酸アルミニウム水溶液(Al2O3として10%)に炭酸水素アンモニウム水溶液(NH3として5%)をpHが8.0になるまでゆっくり添加して反応させた後、限外洗浄によってAl2O3として10%のアルミナ水和物ゲルを得た。このゲル100質量部に対し88%乳酸15質量部を反応させて、塩基性乳酸アルミニウム水溶液(Al2O3濃度=8.7%、乳酸/Al2O3のモル比=1.5、pH4.6)を作製した。この塩基性乳酸アルミニウム水溶液100質量部に対し2%アンモニア水15質量部を撹拌下で徐々に添加して、pH5.2のアルミナコロイド含有水溶液を得た。得られた水溶液のA/B値は1.5であり、Al2O3濃度は7.6%であった。しかし、得られた水溶液は、50℃/1ヶ月保存後には沈殿物の発生が認められた。
【0034】
〔比較例2〕
硫酸アルミニウム水溶液(Al2O3として10%)に炭酸水素アンモニウム水溶液(NH3として5%)をpHが8.0になるまでゆっくり添加して反応させた後、限外洗浄によってAl2O3として10%のアルミナ水和物ゲルを得た。このゲル100質量部に対し88%乳酸15質量部を反応させて、塩基性乳酸アルミニウム水溶液(Al2O3濃度=8.7%、乳酸/Al2O3のモル比=1.5、pH4.6)を作製した。この塩基性乳酸アルミニウム水溶液100質量部に対し24%水酸化ナトリウム水溶液17質量部を撹拌下で徐々に添加して、pH10.5のアルミナコロイド含有水溶液を得た。得られた水溶液のA/B値は1.5であり、Al2O3濃度は7.4%であった。しかし、得られた水溶液は、50℃/1ヶ月保存後にはゲル化していた。
【0035】
〔比較例3〕
水酸化アルミニウムにイオン交換水を加えてAl2O3として10%のスラリーを得た。このスラリー100質量部に対し88%乳酸5質量部と10%アンモニア水5質量部を添加して(このときのpH4.7、A/B値は0.5)、100℃で3h加熱したところ、水溶液中には水酸化アルミニウムの未溶解物が認められ、収率良くアルミナコロイド含有水溶液が得られなかった。
【0036】
〔比較例4〕
特開昭59−223223号公報(実施例4)に従い、アルミン酸カリウム水溶液(Al2O3=8.0%、K2O/Al2O3モル比1.63)100質量部に対し、ホモミキサーの撹拌下に、20%乳酸水溶液130質量部を徐々に滴下しながら添加して、pH8.0の水溶液を得た。この水溶液のA/B値は3.7であり、Al2O3濃度は3.5%であった。この水溶液を50℃で保存したところ経時的に粘度上昇が認められた。
【0037】
〔比較例5〕
市販の塩基性塩化アルミニウム(多木化学(株)製「タンホワイト」 Al2O3濃度=23%、Cl=12%、pH2.5。有機酸を含まない。Cl/Al2O3(モル比)=1.5である。)をAl2O3として10%に希釈した。この希釈したもの100質量部に対し20%アンモニア水を4質量部添加したところ、添加直後から白濁が生じた。添加終了後、静置数分後には反応容器底部に沈殿物の発生が認められ、アルミナコロイド含有水溶液が得られなかった。
【0038】
〔参考例〕
実施例4と同様に、硫酸アルミニウム水溶液(Al2O3として10%)に炭酸水素アンモニウム水溶液(NH3として5%)をpHが8.0になるまでゆっくり添加して反応させた後、限外洗浄によってAl2O3として10%のアルミナ水和物ゲルを得た。このゲル100質量部に対し88%乳酸16質量部を反応させて、塩基性乳酸アルミニウム水溶液(Al2O3濃度=8.6%、乳酸/Al2O3のモル比=1.6、pH4.5、EC1.5mS/cm、粘度3.4mPa・s、透過率99%)を作製した。この水溶液の乾燥物の粉末X線回折分析よりアモルファスであることが確認できた。また、この水溶液を限外ろ過膜でろ過した際のろ過漏れ率は65質量%であった。さらに、ろ過前の塩基性アルミニウム水溶液を50℃で保存したところ、2週間程度で反応容器底部に沈殿物の発生が認められた。

【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸とアルミナ水和物とアルカリ剤とを混合、加熱することを特徴とする、pH5.5〜9のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法。
但し、前記アルミナコロイド含有水溶液中の、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積(A)と、Alのモル数(B)が、A/B=1.0〜2.0の範囲である。
【請求項2】
塩基性有機酸アルミニウム水溶液とアルカリ剤とを混合することを特徴とする、pH5.5〜9のアルミナコロイド含有水溶液の製造方法。
但し、前記アルミナコロイド含有水溶液中の、有機酸のモル数と該有機酸中のカルボキシル基数との積(A)と、Alのモル数(B)が、A/B=1.0〜2.0の範囲である。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法によって得られたアルミナコロイド含有水溶液を、さらに70〜200℃で加熱することを特徴とするアルミナコロイド含有水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法によって製造されたアルミナコロイド含有水溶液。
【請求項5】
請求項4記載のアルミナコロイド含有水溶液を、分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過した時の、ろ液中のAlが、ろ過前の水溶液中のAlに対して、5〜50質量%であるアルミナコロイド含有水溶液。

【公開番号】特開2012−131653(P2012−131653A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282908(P2010−282908)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】