説明

アルミナ質セラミックスおよびその製造方法

【課題】高純度にもかかわらず、加工効率が高く、加工中のカケやチッピングが少ないアルミナ質セラミックスおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミナ純度が99.5重量%以上のアルミナ質セラミックスであって、長軸長さが10μm以上で、アスペクト比が2以上のアルミナの異方性結晶粒子10を60%以上含む。アルミナ粒子の粒径は、大きくなるほど粒界の抵抗が少なくなるため、アルミナ粒子の長軸の長さが10μm以上であることにより、加工効率が高くなる。また、アルミナ粒子のアスペクト比が2以上であるため、ある一定の向きGに砥石が当たった際に破壊しやすい傾向が顕著に現れる。その結果、高純度にもかかわらず、加工効率が高く、加工中のカケやチッピングが少ないアルミナ質セラミックスが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ純度が99.5重量%以上のアルミナ質セラミックスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強度に優れたアルミナ部材は、様々な分野や用途に応用されている。たとえば、特許文献1記載のアルミナ質焼結体は、長径が3μm以下、アスペクト比が1.5以下の等方性Al結晶粒を全量中15〜80体積%、長径が10μm以上、アルペクト比が3以上の異方性Al結晶粒を全量中20〜85体積%の割合で含有する。そして、このような組成により、強度と破壊靭性を向上させようとしている。
【0003】
これに対し、加工性に注目した研究開発も行なわれている。特許文献2記載のアルミニウム基複合材料は、化学式9Al・2Bで表されるほう酸アルミニウムの粒子を50〜75体積%含むことにより、ヤング率が高く、比重が小さくかつ機械加工が容易で破壊靭性値の大きい材料を提供しようとしている。
【0004】
一方、アルミナ部材はフッ素プラズマ等の腐食性環境下で耐食性の高さや機械的強度の大きさから、半導体や液晶の製造装置の部材として用いられている。そして、この様な環境での用途向けに、より高純度なアルミナ部材が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−87008号公報
【特許文献2】特開2004−353049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、高純度なアルミナは機械的強度が高いため、近年要求される大型かつ複雑形状の部品を製造しようとすると、加工時間が増大しコストアップをもたらす。さらに加工中のカケ等も発生しやすい。これに対し上記の特許文献2記載のアルミニウム基複合材料は、切削加工性に優れるが、半導体や液晶の製造装置の部材に使うにはアルミナの純度が低すぎ、ホウ素によりコンタミを生じやすい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高純度にもかかわらず、加工効率が高く、加工中のカケやチッピングが少ないアルミナ質セラミックスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明のアルミナ質セラミックスは、アルミナ純度が99.5重量%以上のアルミナ質セラミックスであって、長軸長さが10μm以上で、アスペクト比が2以上のアルミナの異方性結晶粒子を60%以上含むことを特徴としている。
【0009】
アルミナ粒子の粒径は、大きくなるほど粒界の抵抗が少なくなるため、アルミナ粒子の長軸の長さが10μm以上であることにより、加工効率が高くなる。また、アルミナ粒子のアスペクト比が2以上であるため、ある一定の向きに砥石が当たった際に破壊しやすい傾向が顕著に現れる。その結果、高純度にもかかわらず、加工効率が高く、加工中のカケやチッピングが少ないアルミナ質セラミックスが得られる。
【0010】
(2)また、本発明のアルミナ質セラミックスは、前記アルミナの異方性結晶粒子が、1粒子あたり平均2個以上のポアを含むことを特徴としている。このように1粒子あたり平均2個以上のポアを含むため、粒子内での破壊が生じやすくなり、アルミナ質セラミックスを加工効率が高く、加工中のカケやチッピングを少なくすることができる。
【0011】
(3)また、本発明のアルミナ質セラミックスの製造方法は、アルミナ純度が99.5重量%以上のアルミナ質セラミックスの製造方法であって、平均粒径が0.5μm以上1μm以下、長軸方向長さが0.5μm以上、アスペクト比が2以上の粒子からなるアルミナ粒体を成形する工程と、前記成形されたアルミナ粒体を、1400℃以上で、3時間以上焼成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
このように、平均粒径が0.5μm以上の粒子からなるアルミナ粒体を用いているため、粒子内にポアが残留しやすくなる。その一方で、平均粒径が1μm以下の粒子からなるアルミナ粒体を用いているため、粒界にポアが発生するのを防止できる。また、アスペクト比が2以上で長軸方向の長さが0.5μm以上の粒子をアルミナ粒体に含むため、得られたアルミナ質セラミックスでアスペクト比が2以上のアルミナの異方性結晶粒子が生成される。
【0013】
(4)また、本発明のアルミナ質セラミックスの製造方法は、前記焼成工程の昇温速度が、300℃/h以下であることを特徴としている。これにより、焼結後の厚みが10mm以上のアルミナ質セラミックスを容易に焼成できる。特に、昇温速度が速すぎると、表面と内部で温度差ができやすくなり、部位による加工性の差異が発生する。
【0014】
(5)また、本発明のアルミナ質セラミックスの製造方法は、前記成形工程では、Ti酸化物を添加物として加えたアルミナ粒体を用いることを特徴としている。これにより、長軸長さが10μm以上のアルミナ粒子を容易に生成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高純度のアルミナ質セラミックスであるにもかかわらず、加工効率を高くし、加工中のカケやチッピングを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)(b)それぞれ表面のアルミナ粒子の配置と砥石の当たる向きとの関係を示す概念図である。
【図2】本発明のアルミナ質セラミックスの表面のSEM写真を模したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「加工」とは、ダイヤモンド砥石を用いた研削加工を指す。
【0018】
(アルミナ質セラミックスの構成)
本発明のアルミナ質セラミックス(以下、アルミナ質セラミックス)は、アルミナ純度が99.5重量%以上であり、たとえば半導体や液晶の製造装置の部材に使用される。アルミナ質セラミックスに含有されるアルミナ粒子の長軸の長さは10μm以上であり、アルミナ粒子の粒径が大きくなるほど、粒界の抵抗が少なくなるため、部材の加工効率は高くなる。特に、アルミナ質セラミックスは、各面での加工性の差異がないため、厚さが10mm以上の部材に好適である。
【0019】
アルミナ質セラミックスには、長軸長さが10μm以上で、アスペクト比が2以上のアルミナの異方性結晶粒子が60%以上含有されている。好ましくは異方性結晶粒子の含有量は70%以上である。異方性結晶粒子のアスペクト比は2以上であり、このような粒子はある一定の向きに砥石が当たった際に破壊しやすい傾向が顕著に現れる。研削加工は、ミクロでみると砥石がワークを叩くことで加工される。以下に加工時のミクロのメカニズムを説明する。
【0020】
図1(a)、(b)は、それぞれ表面のアルミナ粒子の配置と砥石の当たる向きとの関係を示す概念図である。図1(a)、(b)は、アルミナ質セラミックスの研削加工面付近の粒子の断面と、研削用グラインダーの砥石が当たる向きを示している。図1(a)に示す例では、砥石の当たる向きGが、異方性結晶粒子10の長軸方向に垂直である。また、図1(b)に示す例では、砥石の当たる向きGが、異方性結晶粒子10の長軸方向に平行である。図1(b)に示す配置に比べ、図1(a)に示す配置であれば、加工が進みやすい。
【0021】
アルミナの異方性結晶粒子の長軸の方向は、多少の配向性があっても構わないが、ランダムな方が望ましい。組織に配向性がある場合、加工面によって研削条件を変えないと、特定面でチッピングやカケが発生しやすくなる。しかし、マシニングセンタを用いた複雑加工の場合に、特定面のみの加工条件を変えるというのは難しい。アルミナ粒子がアスペクト比を持つ場合、c軸が長くなる。アルミナ焼結体の場合、成形方法や焼成方法によっては、得られたアルミナ質セラミックスの組織が配向性を有する場合がある。
【0022】
アルミナ質セラミックス中のアルミナの異方性結晶粒子1個に含まれるポアが、平均2個以上であることが好ましい。ポアが多いほど、加工時に粒子内での破壊が生じやすくなる。ただし、あまりにポアが多いと密度低下につながるため、異方性結晶粒子の粒子あたりのポア数は15個以下が好ましい。また、異方性結晶粒子の粒子あたりのポア数が平均15個を超えると、半導体製造装置で使用する場合、コンタミの発生源となり、特に外部由来のゴミや微細なポア中のゴミは洗浄で除去しづらくなるため、好ましくない。
【0023】
(製造方法)
上記のように構成されるアルミナ質セラミックスの製造方法を説明する。アルミナ質セラミックスの原料となるアルミナ粒体には、平均粒径として0.5μm以上1μm以下のアルミナ粒子を用いる。平均粒径0.5μmより小さい粒子を用いると、粒子内にポアが残りにくくなる。また、1μmを超えると粒界にポアが発生しやすくなる。原料のアルミナ粒子には、アスペクト比が2以上で長軸方向の長さが0.5μm以上の粒子が含まれている。このような粒子が含まれることで、アルミナ質セラミックス内のアスペクト比2以上の異方性結晶粒子が生成される。アスペクト比が2以上で長軸方向の長さが0.5μm以上の粒子は5体積%以上であることが好ましい。
【0024】
次に、このようにして準備した原料のアルミナ粒体を成形する。成形方法としては、CIPや鋳込みで成形できる。また、ホットプレスやHIPで行なってもよい。成形方法は、配向性の制御に関係するため、より配向性が出難い成形方法を選択するのが好ましい。
【0025】
成形されたアルミナ粒体、すなわち成形体は、1400℃以上で3時間以上、大気中で焼成する。1500℃以上で3時間以上焼成するのが好ましく、1500℃以上で5時間以上焼成することがさらに好ましい。また、この昇温速度は、300℃/h以下であることが好ましい。昇温速度が速すぎると、表面と内部で温度差ができやすくなり、微構造が異なってしまい、部位による加工性の差異が発生するためである。特に焼結後の厚みが10mm以上のものを焼成するには、上記の原料の条件および焼成条件で焼成することが好適である。
【0026】
アルミナ粒体には、Ti酸化物を添加物として加えることが好ましい。Ti酸化物を加えることで、アルミナ質セラミックス内で10μm以上の粒子が生成しやすくなる。Ti酸化物の添加量は、酸化物換算で0.05重量%以上0.5重量%以下が好ましい。より好ましくは0.10重量%以下である。酸化物換算で0.05重量%未満の添加ではポアが残りにくく、粒成長も進みにくい。また、酸化物換算で0.5重量%を超えるとアルミナの純度が保てなくなる。なお、原料にTiが多く含まれると、焼結阻害物質となり、粒成長が生じにくくなるという実験結果も得られている。
【0027】
さらに、アルミナ粒体には1A、2A、3Bまたは4B族元素を添加してもよい。これらの添加量は、不純物レベルのわずかな量であっても効果がある。このような添加によりさらに、アルミナ質セラミックス内で10μm以上のアルミナ粒子の生成が促進される。これは、アルミナと添加物の元素の共晶点が下がることに起因している。上記の添加物の元素としては、特に、Mg、Si、Caが好ましい。MgO、SiO、CaOとして、50ppm以下で存在しても、十分に効果が得られる。
【0028】
(実施例、比較例)
アルミナ質セラミックスについて、実施例および比較例を作製し、加工負荷やカケ、チッピングの有無の評価を行った。原料として、純度99.5重量%のアルミナ粒体に純度99.9重量%以上、粒径0.4μm以下のルチル化率80%以上のチタニアを添加したものを用いた。このようなアルミナ粒体に、適切な配合で、溶媒、有機バインダー、分散剤を添加し、ミル混合した。このようにして得られた混合物をスプレードライヤーで顆粒化した。そして、顆粒をCIP成形し、150×150×20mmの板状の成形体を作製した。さらに、これを1400℃以上で3時間焼成した。
【0029】
このようにして焼結体として得られたアルミナ質セラミックスの加工性を評価した。ダイヤモンド砥石がレジンボンドで固定されたホイールを用いて研削加工した。ダイヤモンド砥石は#100の粗さでホイール径は200mmのものを用い、その回転数は2000rpmとして研削加工した。このとき加工機の軸にかかる負荷(電流表示)を測定した。また、加工後のチッピングやカケ、アルミナ表面状態としてのコゲの有無を目視で観察した。ここでの「コゲ」とは砥石のレジンが焼けて、ワークについたものを意味し、ワークが硬く加工性が低いことにより生じると考えられる。また、アルミナ以外の含有量はICP分析により測定した。表1は、実施例と比較例の組成の特徴と、加工性の評価を示すものである。
【表1】

【0030】
(実施例の粒子径とポア)
上記の実施例1について、加工面を研磨し、SEM観察した。図2は、アルミナ質セラミックスの表面のSEM写真を模したイメージ図である。図2に示すように、SEM写真からの測定長さを換算することでアルミナ粒子Aの粒径を測定した。また、200×200μmエリア内に存在する長軸10μm以上、粒径以上アスペクト比2以上の粒子、その粒子中に存在する2μm以下のポアPを数えた。表2に示すとおり、測定粒子数は26個であり、そのうちアスペクト比が2以上の粒子は21個であることが分かった。したがって、粒子数で異方性結晶粒子が占める割合は、21/26で、80.8%であることが分かった。
【0031】
また、実施例1のアルミナ質セラミックスの表面をラッピングによりRa0.1μm以下とし、サーマルでエッチングした。そして、任意の場所について500倍程度のSEM観察を行ない、200×200μmのエリアで粒子内のポア数を測定した。ポアは、上記のラップ、エッチングにより周囲より明るい点として観察できるため、500倍で確認できるものを対象に測定を行なった。目安としては0.5μm以上のポアを測定した。その結果、アルミナの異方性結晶粒子にはポアが平均2個以上あることが実証された。
【表2】

【0032】
以上のように、高純度にもかかわらず、加工効率が高く、加工中のカケやチッピングが少ないアルミナ質セラミックスを得ることができた。特に、アルミナの異方性結晶粒子1粒子あたり平均2個以上のポアを含む場合には、さらに高い効果を得られることが実証された。
【符号の説明】
【0033】
10 異方性結晶粒子
G 砥石の当たる向き
A アルミナ粒子
P ポア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ純度が99.5重量%以上のアルミナ質セラミックスであって、
長軸長さが10μm以上で、アスペクト比が2以上のアルミナの異方性結晶粒子を60%以上含むことを特徴とするアルミナ質セラミックス。
【請求項2】
前記アルミナの異方性結晶粒子は、1粒子あたり平均2個以上のポアを含むことを特徴とする請求項1記載のアルミナ質セラミックス。
【請求項3】
アルミナ純度が99.5重量%以上のアルミナ質セラミックスの製造方法であって、
平均粒径が0.5μm以上1μm以下、長軸方向長さが0.5μm以上、アスペクト比が2以上の粒子からなるアルミナ粒体を成形する工程と、
前記成形されたアルミナ粒体を、1400℃以上で、3時間以上焼成する工程と、を含むことを特徴とするアルミナ質セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程の昇温速度は、300℃/h以下であることを特徴とする請求項3記載のアルミナ質セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記成形工程では、Ti酸化物を添加物として加えたアルミナ粒体を用いることを特徴とする請求項3または請求項4記載のアルミナ質セラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10668(P2013−10668A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144663(P2011−144663)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】