説明

アルミナ質焼結体及びその製造方法

【課題】電気特性の向上及び加工容易性の向上を図ることができるアルミナ質焼結体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】主原料であるAl、第1副原料としてのTi化合物及び第Sr、Ca、Mg及びBaのうち少なくとも1種を複合させた、第1副原料とは異なる2副原料が混合されることにより原料が調製される。各副原料の添加量が、p1=0.05〜1.50及びp2=0.05〜2.50により定義される「第1添加量範囲」又はp1=0.05〜0.60及びp2=0.05〜1.20により定義される「第2添加量範囲」に含まれるように調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ質焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的なファインセラミックスであるAlは、機械的強度に優れており、耐熱性、耐薬品性に優れていることから、半導体、液晶用高周波プラズマ装置用部材に多く用いられている。
【0003】
しかし、汎用的なAl原料中(目安の純度90.0〜99.9%)には、Na、Kイオンなどの不純物が存在するため、所望の電気特性(誘電損失)が実現されず、また、焼結体における電気特性が局所的に異なってしまい、電気特性が不安定になる。さらに、Alは、難加工性材料であり焼結体の加工コスト低下の妨げとなってしまう。
【0004】
電気特性の課題に関して、先行技術1によれば、Alに対してCaTiO及びSiOが添加されることにより、焼結体中にガラス質からなる粒界相が形成され、原料由来の不純物が粒界相にトラップされることで、電気特性を安定化(低誘電損失化)させることが提案されている(特許文献1参照)。同様に、先行技術2によれば、Alに対して、Si及びM(Mg、Ca、Sr及びBaの少なくとも1種)を他元素として含有させ、電気特性の安定化が図られている(特許文献2参照)。
【0005】
また、加工性の課題に関して、先行技術3によれば、焼結体内部に気孔を有する粒径10[μm]以上のアルミナ大径粒子と、粒径5[μm]以下のアルミナ小径粒子とを含有させ、開気孔率が0.1%以下に調節された快削性の磁器が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−124217号公報
【特許文献2】特開2011−116615号公報
【特許文献3】特開2004−352572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、先行技術1又は2によれば、Si成分が微量であるため、粒界相の割合が少なく、粒界全体に液相を均一に形成させることが難しく、焼結体内全体として安定した電気特性を得ることができない。また、先行技術2によれば、Si成分が粒界に凝集粒として存在しているため、安定した電気特性を得難い。さらに、プラズマ照射環境下においては、微細な結晶から成る凝集粒が選択的に粒子脱落し易いため使用が難しい。
【0008】
一方、先行技術3によれば、組織が制御されたのみであり、砥石負荷が掛かった際に、粒子脱落しながら加工が進行する。Al粒子自体が改質されたわけではないため、粒内破壊は起こり難く、飛躍的な加工コスト削減にはならない。
【0009】
そこで、本発明は、電気特性の向上及び加工容易性の向上を図ることができるアルミナ質焼結体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための本発明のアルミナ質焼結体は、主原料であるAlの100重量部に対して第1副原料としてのTi化合物がTiO換算で0.05〜1.5重量部含まれ、前記主原料及び前記第1副原料の総和100重量部に対してSr、Ca、Mg及びBaのうち少なくとも1種を複合させた、前記第1副原料とは異なる第2副原料としてのTi化合物がTiO換算で0.05〜2.5重量部含まれていることを特徴とする。
【0011】
前記アルミナ質焼結体において、前記主原料100重量部に対して前記第1副原料がTiO換算で0.05〜0.6重量部含まれ、前記主原料及び前記第1副原料の総和100重量部に対して前記第2副原料がTiO換算で0.05〜1.2重量部含まれていることが好ましい。
【0012】
前記課題を解決するための本発明のアルミナ質焼結体を製造する方法は、主原料であるAlの100重量部に対して第1副原料としてのTi化合物をTiO換算で0.05〜1.5重量部添加し、前記主原料及び前記第1副原料の総和100重量部に対してSr、Ca、Mg及びBaのうち少なくとも1種を複合させた、前記第1副原料とは異なる第2副原料としてのTi化合物をTiO換算で0.05〜2.5重量部添加することにより原料を調製し、前記原料を成形することにより成形体を作成し、前記成形体を酸化雰囲気において1400〜1600[℃]で3時間以上にわたり焼成することにより前記アルミナ質焼結体を製造することを特徴とする。
【0013】
さらに、前記第1副原料及び前記第2副原料のそれぞれの粒度を0.05〜2.5[μm]に調整し、前記成形体の焼成温度範囲700〜1600[℃]における昇温速度及び冷却速度を30[℃/hr]以下に制御することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】副原料の添加量範囲に関する説明図。
【図2】成形体の焼結過程に関する説明図。
【図3】焼結体の呈色に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアルミナ質焼結体は、次のような手順で製造される。まず、主原料であるAl、第1副原料としてのTi化合物及び第Sr、Ca、Mg及びBaのうち少なくとも1種を複合させた、第1副原料とは異なる第2副原料が混合されることにより原料が調製される。第1副原料は、TiOのほか、焼成後に酸化物を生成する塩化物、有機Ti化合物等であってもよい。第2副原料は、例えば、ACO(A=Ca,Mg,Sr,Ba)及びTiOから予め合成されたものでもよいし、市販のものでもよい。好ましくは、第1副原料及び第2副原料のそれぞれの粒度が0.05〜2.5[μm]に調整された上で、原料が調整される。
【0016】
原料スラリーが調製される場合、分散剤としては、ポリカルボン酸系など公知のものが用いられる。溶媒は、水、特に不純物が少ないイオン交換水であることが好ましいが、アルコールなど公知の溶媒が用いられてもよい。バインダは、ポリビニルアルコールやアクリルエマルジョンなどの公知のものが用いられる。また、必要に応じて、pH調整剤や消泡剤等の添加剤が添加されてもよい。混合法としては、ボールミル混合等の公知の方法が採用されうる。
【0017】
主原料であるAl100重量部に対する第1副原料の添加量(TiO換算の重量部)を「p1」と記載し、主原料及び第1副原料の総和100重量部に対する第2副原料の添加量(TiO換算の重量部)を「p2」と記載する。各副原料の添加量が、図1に一点鎖線で囲まれているp1=0.05〜1.50及びp2=0.05〜2.50により定義される「第1添加量範囲」に含まれるように調節される。好ましくは、各副原料の添加量が、図1に二点鎖線で囲まれているp1=0.05〜0.60及びp2=0.05〜1.20により定義される「第2添加量範囲」に含まれるように調節される。
【0018】
さらに、原料が成形されることにより成形体が作成される。原料粉末の成形方法としては、一軸プレス成形、CIP成形、湿式成形、加圧鋳込み成形又は排泥鋳込み成形等、種々の成形方法が採用されうる。
【0019】
そして、成形体が酸化雰囲気において1400〜1600[℃]で3時間以上にわたり焼成することによりアルミナ質焼結体が製造される。酸化雰囲気は大気雰囲気など、酸素が存在するあらゆる雰囲気を意味する。成形体の焼成温度範囲700〜1600[℃]における昇温速度および冷却速度(以下、単に「焼成速度」という。)が30[℃/hr]以下に制御される。
【0020】
(実施例)
(実施例1)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.05」に調節され、第2副原料としての「CaTiO」の添加量p2が「0.05」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が0.1[μm]になるように調整された。
【0021】
成形体は、部位によらずに粒成長の程度及び誘電損失の測定の判断のため、□300×300×40mmtに成形された。焼成速度が25[℃/hr]に制御され、成形体が、大気雰囲気において1400〜1600[℃]で3時間以上にわたり焼成されることにより、実施例1のアルミナ質焼結体が製造された。
【0022】
(実施例2)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.05」に調節され、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「1.20」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が0.05[μm]になるように調整された。焼成速度が30[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例2のアルミナ質焼結体が製造された。
【0023】
(実施例3)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.60」に調節され、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「0.05」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.2[μm]になるように調整された。焼成速度が20[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例3のアルミナ質焼結体が製造された。
【0024】
(実施例4)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.60」に調節され、第2副原料としての「MgTiO」の添加量p2が「1.20」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が2.0[μm]になるように調整された。焼成速度が15[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例4のアルミナ質焼結体が製造された。
【0025】
(実施例5)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.20」に調節され、第2副原料としての「BaTiO」の添加量p2が「0.50」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.0[μm]になるように調整された。焼成速度が20[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例5のアルミナ質焼結体が製造された。
【0026】
(実施例6)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.40」に調節され、第2副原料としての「BaTiO」の添加量p2が「1.00」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.8[μm]になるように調整された。焼成速度が10[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例6のアルミナ質焼結体が製造された。
【0027】
(実施例7)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「1.50」に調節され、第2副原料としての「CaTiO」の添加量p2が「0.05」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.1[μm]になるように調整された。焼成速度が30[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例7のアルミナ質焼結体が製造された。
【0028】
(実施例8)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「1.50」に調節され、第2副原料としての「CaTiO」の添加量p2が「2.50」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が0.8[μm]になるように調整された。焼成速度が30[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例8のアルミナ質焼結体が製造された。
【0029】
(実施例9)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.05」に調節され、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「2.50」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が2.2[μm]になるように調整された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例9のアルミナ質焼結体が製造された。
【0030】
(実施例10)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.20」に調節され、第2副原料としての「MgTiO」の添加量p2が「1.40」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が0.1[μm]になるように調整された。焼成速度が5[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例10のアルミナ質焼結体が製造された。
【0031】
(実施例11)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.80」に調節され、第2副原料としての「CaTiO」の添加量p2が「0.30」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が0.3[μm]になるように調整された。焼成速度が20[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例11のアルミナ質焼結体が製造された。
【0032】
(実施例12)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「1.50」に調節され、第2副原料としての「CaTiO」の添加量p2が「1.10」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が0.9[μm]になるように調整された。焼成速度が20[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例12のアルミナ質焼結体が製造された。
【0033】
(実施例13)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.20」に調節され、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「1.50」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が2.5[μm]になるように調整された。焼成速度が20[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例13のアルミナ質焼結体が製造された。
【0034】
(実施例14)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.60」に調節され、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「2.50」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.2[μm]になるように調整された。その他は実施例1と同様の条件下で実施例14のアルミナ質焼結体が製造された。
【0035】
(焼結体の物性評価)
焼結体の呈色は、焼結体が切断された上で、当該切断面における焼結体の外側及びその内側のそれぞれが目視されることにより評価した。図3(a)に明度の一様性により表現されているように、焼結体断面における外側の呈色及び内側の呈色(例えば、青色、黄色)が同一である場合は色が一様である(○)と評価された。その一方、図3(b)に明度のむらにより表現されているように、焼結体断面における外側の呈色(例えば青色)及び内側の呈色(例えば黄色)が異なる場合は色むらがある(×)と評価された。
【0036】
焼結体の加工性は、平面研削盤のプランジ加工2passアップカットでの測定値を採取した(加工機:ナガセ超精密平面研削盤 砥石:アライド製レジンボンドφ350 回転数:1300rpm 送り速度:2.5m/min 切り込み量:0.06mm/pass)。
【0037】
焼結体の平均焼結粒子径は、1つの焼結体から任意に20部位が選択され、研磨面を熱腐食させて粒界を析出させた後、SEMにより各部位が観察され、インターセプト法にしたがって算出された。誘電損失は、目黒電波測器社製QメータMQ−1601およびAGILEMTネットワークアナライザー8719ESにより測定された。強度は、島津社製オートグラフAG−2000B型が用いられて3点曲げ強度が測定された。
【0038】
実施例1〜14の焼結体のそれぞれの物性測定結果が、製造条件とともに表1にまとめて示されている。
【0039】
【表1】

【0040】
図1には、実施例1〜14のそれぞれの副原料の添加量(p1,p2)が丸付き数字の位置により示されている。実施例1〜14の焼結体は、各副原料の添加量がp1=0.05〜1.50及びp2=0.05〜2.50により定義される第1添加量範囲に含まれるように調節されている。実施例1〜6の焼結体は、各副原料の添加量がp1=0.05〜0.60及びp2=0.05〜1.20により定義される第2添加量範囲に含まれるように調節されている。
【0041】
表1からわかるように、実施例1〜14の焼結体の1[MHz]〜5[GHz]における誘電損失tanδは10-4台の値である。また、実施例1〜14の焼結体の研削抵抗は5〜25[kgf]である。比較例1〜14の焼結体を構成する主原料の粒子が柱状であり、当該柱の長軸方向の平均焼結粒子径が10〜50[μm]であった。
【0042】
さらに、実施例1〜14の焼結体には色むらがみられなかった。特に、実施例1〜6の焼結体の焼結体の呈色は、高純度のアルミナ質焼結体と同等である。
【0043】
(比較例)
(比較例1)
第1副原料が添加されず(p1=0)、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「0.03」に調節された。焼成速度が30[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例1のアルミナ質焼結体が製造された。
【0044】
(比較例2)
第2副原料は添加されず(p2=0)、第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.04」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が0.5[μm]になるように調整された。焼成速度が20[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例2のアルミナ質焼結体が製造された。
【0045】
(比較例3)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.03」に調節され、第2副原料としての「MgTiO」の添加量p2が「0.03」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.1[μm]になるように調整された。焼成速度が30[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例3のアルミナ質焼結体が製造された。
【0046】
(比較例4)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.50」に調節され、第2副原料としての「CaTiO」の添加量p2が「0.02」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.0[μm]になるように調整された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例4のアルミナ質焼結体が製造された。
【0047】
(比較例5)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「1.60」に調節され、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「0.03」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.3[μm]になるように調整された。焼成速度が20[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例5のアルミナ質焼結体が製造された。
【0048】
(比較例6)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「1.80」に調節され、第2副原料としての「BaTiO」の添加量p2が「1.30」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が2.1[μm]になるように調整された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例6のアルミナ質焼結体が製造された。
【0049】
(比較例7)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「1.90」に調節され、第2副原料としての「MgTiO」の添加量p2が「2.70」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.7[μm]になるように調整された。焼成速度が15[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例7のアルミナ質焼結体が製造された。
【0050】
(比較例8)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.60」に調節され、第2副原料としての「BaTiO」の添加量p2が「2.60」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が2.8[μm]になるように調整された。焼成速度が10[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例8のアルミナ質焼結体が製造された。
【0051】
(比較例9)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.04」に調節され、第2副原料としての「SrTiO」の添加量p2が「2.60」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.2[μm]になるように調整された。焼成速度が60[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例9のアルミナ質焼結体が製造された。
【0052】
(比較例10)
第1副原料としての「TiO」の添加量p1が「0.05」に調節され、第2副原料としての「BaTiO」の添加量p2が「2.90」に調節された。第1副原料及び第2副原料の粒度が1.8[μm]になるように調整された。焼成速度が30[℃/hr]に制御された。その他は実施例1と同様の条件下で比較例10のアルミナ質焼結体が製造された。
【0053】
比較例1〜10の焼結体のそれぞれの物性測定結果が、製造条件とともに表2にまとめて示されている。
【0054】
【表2】

【0055】
図1には、比較例1〜10のそれぞれの副原料の添加量(p1,p2)が数字が付された黒球の位置により示されている。比較例1〜10の焼結体は、各副原料の添加量が第1添加量範囲から外れるように調節されている。
【0056】
表2からわかるように、比較例1〜10の焼結体の1[MHz]〜5[GHz]において、誘電損失tanδは少なくとも一部の周波数で10-3台の値を示す。比較例1〜3、9及び10の焼結体の研削抵抗は35〜56[kgf]であって、実施例1〜14の焼結体よりも研削抵抗が大きい。比較例1〜3、9及び10の焼結体を構成する主原料の粒子が柱状であるものの、当該柱の長軸方向の平均焼結粒子径が10[μm]未満であり、実施例1〜14の焼結体と比較して小さい。
【0057】
また、比較例4〜9の焼結体には色むらがみられた。比較例10の焼結体には色むらが見られなかったものの、その呈色は、高純度のアルミナ質焼結体と異なるものであった。
【0058】
第1副原料及び第2副原料の粒度が0.05〜2.5[μm]の範囲から外れている比較例8の焼結体は、色むらがあり、その研削抵抗が比較的大きく、かつ、電気特性が悪い(誘電損失が大きい)。これは、焼成時に不均一な粒界相が形成され、Alへの固溶が進行するため、均一な電気特性や加工性を得ることが困難となるためである。なお、第1副原料及び第2副原料の粒度が0.05[μm]未満である場合、原料調整に長時間を要し、また、混合粉砕の際、コンタミ混入を招く確率が上がるためであると推察される。
【0059】
焼成速度が30[℃/hr]を超えた比較例9の焼結体は、色むらがあり、その研削抵抗が比較的大きく、かつ、電気特性が悪い(誘電損失が大きい)。これは。均一なTiOの固溶及び粒成長が促進されず、副生成物であるAlTiOの形成タイミング又は分解タイミングが不均一となるためであると推察される。
【0060】
本発明のアルミナ質焼結体の製造方法によれば、図2(a)に模式的に示されているように、成形体の焼結過程において、TiO(第1副原料)のTiがTi4+の形でAl23に入り込んで固溶反応が進む。このため、原料中にSiOが介在する場合とは異なり、Alの粒成長が阻害されることなく促進される。固溶反応により粗大化した粒子は、焼結体の加工に際して粒内破壊によって当該加工の促進に寄与しうるため、本発明のアルミナ質焼結体の加工容易性の向上、さらにはその加工コストの節約が図られる。
【0061】
Alの粒成長に伴って粒界相の体積が小さくなるため、原料に不可避的に含まれる不純物由来のNa,K等のイオンが、イオンジャンプ又は粒界移動が困難な状態が実現される。これにより、本発明のアルミナ質焼結体の誘電損失tanδが安定化する(表1及び表2参照)。
【0062】
ただし、Ti4+がAl中に固溶できる量には限界がある(固溶限界)。このため、主原料に対して第1副原料が過剰に添加されると、固溶仕切れなかったTiOがAlと反応し、粒界でAlTiO(チタン酸アルミニウム)を形成する。一度形成されたAlTiOは、図2(b)に模式的に示されているように焼成冷却時にAl及びTiOに分解反応する。この分解の影響により、焼結体は青色又は濃紺色に変色する。更には、焼結体の内外において呈色は一定にならず、色相の差又は明度の高低差などの色むらが生じ易い(表2比較例4〜9参照)。TiOの添加量が減らされることで色むらが軽減されうるものの、焼結粒子径の粗大化が不十分となり、加工性が損なわれる(表2比較例1〜3参照)。
【0063】
そこで、主原料及び第1副原料に対してTi化合物が第2副原料として添加されることにより、TiOが過多であっても、AlTiOとは異なり分解が生じない化合物が形成され、焼結体の呈色が安定化するものと推察される。ただし、主原料及び第1副原料に対する第2副原料の添加量が多いと、一様の呈色とはなるが、第2副原料が支配的となり、Al本来の呈色と異なってしまうため(表2比較例10参照)、添加量p2の範囲が調節されることにより、このような事態が回避されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料であるAlの100重量部に対して第1副原料としてのTi化合物がTiO換算で0.05〜1.5重量部含まれ、前記主原料及び前記第1副原料の総和100重量部に対してSr、Ca、Mg及びBaのうち少なくとも1種を複合させた、前記第1副原料とは異なる第2副原料としてのTi化合物がTiO換算で0.05〜2.5重量部含まれていることを特徴とするアルミナ質焼結体。
【請求項2】
請求項1記載のアルミナ質焼結体において、
前記主原料100重量部に対して前記第1副原料がTiO換算で0.05〜0.6重量部含まれ、前記主原料及び前記第1副原料の総和100重量部に対して前記第2副原料がTiO換算で0.05〜1.2重量部含まれていることを特徴とするアルミナ質焼結体。
【請求項3】
請求項1記載のアルミナ質焼結体を製造する方法であって、
主原料であるAlの100重量部に対して第1副原料としてのTi化合物をTiO換算で0.05〜1.5重量部添加し、前記主原料及び前記第1副原料の総和100重量部に対してSr、Ca、Mg及びBaのうち少なくとも1種を複合させた、前記第1副原料とは異なる第2副原料としてのTi化合物をTiO換算で0.05〜2.5重量部添加することにより原料を調製し、
前記原料を成形することにより成形体を作成し、
前記成形体を酸化雰囲気において1400〜1600[℃]で3時間以上にわたり焼成することにより前記アルミナ質焼結体を製造することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3記載のアルミナ質焼結体を製造する方法であって、
前記第1副原料及び前記第2副原料のそれぞれの粒度を0.05〜2.5[μm]に調整し、
前記成形体の焼成温度範囲700〜1600[℃]における昇温速度及び冷却速度を30[℃/hr]以下に制御することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−75776(P2013−75776A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215652(P2011−215652)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】