説明

アルミニウムアルコキサイドの製造方法

【課題】 金属アルミニウムとアルコールを含む液との固液反応によってアルミニウムアルコキサイドを効率よく製造することができるアルミニウムアルコキサイドの製造方法を提供する。
【解決手段】ガリウム、インジウムおよびこれらの金属化合物から選ばれる少なくとも1種の存在下で、金属アルミニウムと炭素数1〜8個の一価アルコールであるアルコールを含む液との固液反応によりアルミニウムアルコキサイドを製造する方法において、アルコールを含む液中のケトン類濃度が130ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムアルコキサイドの製造方法に関する。詳しくは、金属アルミニウムとアルコールを含む液との固液反応によりアルミニウムアルコキサイドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムアルコキサイドは、高純度アルミナの原料、有機合成触媒、脱水縮合剤、表面処理剤や、塗料、インキ、接着剤などの改質用添加剤、或いは撥水剤、機能性ガラスなどとして幅広く利用されている。
近年、表示材料、エネルギー、自動車、半導体やコンピューターといった高い成長が期待される分野での高純度アルミナの需要が拡大しており、その原料となるアルミニウムアルコキサイドを効率よく製造することが求められている。
【0003】
アルミニウムアルコキサイドの製造方法として、金属アルミニウムとアルコールとを固液反応させる製造方法が知られている。特許文献1には、ガリウム、インジウム或いはこれら金属の化合物の少なくとも1種を液相に対し0.02〜50ppm(金属換算)存在する条件下で固液反応させる方法が開示されており、特許文献2には、触媒の非存在下で、金属アルミニウムとして、直径が2mm〜100mmの粒状アルミニウムを用い、使用するアルコール中の水分が2000ppm以下である条件下で固液反応させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−25070号公報
【特許文献2】特開平6−172236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法では、アルミニウムアルコキサイドを効率よく製造することはできず、従って、従来の方法よりも、さらに効率よくアルミニウムアルコキサイドを製造することが求められている。
本発明は、金属アルミニウムとアルコールを含む液との固液反応によってアルミニウムアルコキサイドを効率よく製造することができるアルミニウムアルコキサイドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、アルコールを含む液中に含まれる、アルコールの製造過程で副産物として生成するケトン類が、金属アルミニウムとアルコールを含む液との固液反応の進行に影響を与えるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)金属アルミニウムとアルコールを含む液との固液反応によりアルミニウムアルコキサイドを製造する方法において、アルコールを含む液中のケトン類濃度が130ppm以下であることを特徴とするアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
(2)固液反応は、ガリウム、インジウムおよびこれらの金属化合物から選ばれる少なくとも1種の存在下で行われる前記(1)記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
(3)アルコールが、炭素数1〜8個の一価アルコールである前記(1)または(2)記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
(4)ケトン類が、分子内にカルボニル基を1個含有する炭素数3〜8個の直鎖状飽和ケトンである前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
(5)アルコールを含む液中にアルミニウムアルコキサイドを、アルコール/アルミニウムアルコキサイドが重量比で5/95〜85/15の割合となるように含有させて、金属アルミニウムと固液反応を行わせる前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
(6)アルコール/アルミニウムアルコキサイドが重量比で5/95〜80/20である前記(5)に記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
(7)アルコールがイソプロピルアルコールであり、ケトン類がアセトンである前記(1)〜(6)のいずれか記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、アルコールを含む液中のケトン類濃度が130ppm以下であるので、効率よくアルミニウムアルコキサイドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のアルミニウムアルコキサイドの製造方法は、金属アルミニウムと、ケトン類を所定割合で含有するアルコールを含む液とを固液反応させてアルミニウムアルコキサイドを製造する方法である。
【0010】
(金属アルミニウム)
原料としての金属アルミニウムは、その純度は特に限定されないが、例えば、本発明の製造方法により得られるアルミニウムアルコキサイドを純度99.99%以上の高純度アルミナの原料として使用する場合、純度99.99%以上の高純度であるのが好ましい。純度が上記範囲内であれば、金属アルミニウム中の鉄、ケイ素、銅、マグネシウム等の不純物濃度が、金属アルミニウムの総重量に対して、100ppm以下であるので、得られるアルミニウムアルコキサイドの精製が不要となる。
金属アルミニウムの形状としては、特に限定されず、例えば、インゴット、ペレット、板、箔、線、粉末などが挙げられる。
【0011】
(アルコール)
アルコールを含む液を形成する原料としてのアルコールは、製造目的とするアルミニウムアルコキサイドによって適宜選択すればよく、炭素数が1〜8個の一価アルコールであるのが好ましく、なかでも、炭素鎖が長くなるほど金属アルミニウムとの反応性が低下するおそれがあることから、下記式(i)で表されるアルコールがより好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
1OH (i)
ここで、R1は、メチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、ネオブチル、ノルマルペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ノルマルヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、ノルマルヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、ノルマルオクチル、イソオクチル及びネオオクチルからなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0012】
アルコールを含む液中のケトン類としては、分子内にカルボニル基を1個含有する炭素数3〜8個の直鎖状飽和ケトンを例示することができ、具体的には、アセトン、2−ブタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−オクタノン、3−オクタノン、4−オクタノンである。
【0013】
ケトン類濃度は、アルコールを含む液の総重量に対するケトン類の重量であり、130ppm以下、好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは70ppm以下である。ケトン類濃度が、130ppmを越えると、金属アルミニウムとアルコールを含む液との固液反応の進行が著しく遅くなるおそれがある。
【0014】
ケトン類は、通常アルコールの製造過程で副産物として、あるいは保存中にアルコールの酸化反応によって生成して、アルコールを含む液中に含有されるので、このケトン類をアルコールを含む液中から例えば、蒸留操作により、アルコールを含む液の総重量に対して130ppm以下になるまで除去することにより、ケトン類濃度が130ppm以下のアルコールを含む液が得られる。
【0015】
アルコールは、前記した固液反応に悪影響を及ぼさない範囲で、ベンゼン、トルエン等の他の溶媒を含有していてもよい。
【0016】
(固液反応)
固液反応は、例えば、アルコールを含む液中に、金属アルミニウムを投入して行われる。その際、あらかじめ触媒を存在させたり、あらかじめアルコールを含む液中にアルミニウムアルコキサイドを添加しておくのが好ましい。なかでも、固液反応の進行を促進し、効率よくアルミニウムアルコキサイドを製造する観点から、触媒の存在下で反応を進行させるのが好ましく、より好ましくは、アルミニウムアルコキサイドとアルコールを含む液を混合して得られた液中に、触媒の存在下で、金属アルミニウムを投入して反応を進行させるのがよい。
【0017】
触媒をあらかじめ系内に存在させて固液反応を行う場合、触媒は、ガリウム、インジウムあるいはそれら金属の化合物である。ガリウム、インジウムの化合物としては、例えば、メトキサイド、エトキサイド、イソプロポキサイドなどのアルコキサイド化合物;フェノキサイドなどのアリロキサイド化合物;フォルメート、アセテートなどのカルボキシレート化合物;アセチルアセトネート化合物、塩化物などの無水ハロゲン化物の中から使用するアルコール或いは他の溶媒に溶解度のあるものを単独或いは混合して用いることができる。
【0018】
触媒の含有量は、金属アルミニウムと接触しているアルコールを含む液に含まれるアルミニウムの金属換算での総重量に対して、0.02〜50ppmであり(但し、ガリウムまたはインジウムの化合物の場合には、金属換算での値である。)、好ましくは0.1〜40ppmである。触媒の含有量が0.02ppm未満であると反応促進効果が認められず、他方、50ppmを越えると、得られるアルミニウムアルコキサイドを高純度アルミナ等のファインセラミックス粉末の原料として用いる場合に、ガリウム、インジウムが不純物として最終製品に移行し、焼結性や光学特性を悪化させるなどの不都合を生じるおそれがある。
【0019】
触媒をアルコールを含む液中に存在させる方法としては、アルコールを含む液中の濃度が上記範囲内となるようにすることができる方法であれば特に限定はされず、例えば、固液界面においてより有効に反応促進効果を発揮させる観点から、触媒をあらかじめアルコールを含む液中に混合分散させるか、あるいは金属アルミニウムに固溶させる等の公知の方法で含有させ、固液反応時に触媒をアルコールを含む液中に分散或いは溶出させつつ金属アルミニウムとアルコールを含む液を反応させる方法が好適に用いられる。
また、所望のガリウムおよび/またはインジウム量は、金属アルミニウム中からの溶出量と直接アルコールを含む液中に添加する量を勘案して、決定してもよい。
【0020】
ガリウムおよび/またはインジウムを含有する金属アルミニウムは、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1種を、金属アルミニウムの総重量に対して、好ましくは0.02〜50ppm、さらに好ましくは0.1〜40ppm、特に好ましくは0.5〜20ppm含有しているのが好ましい。これにより、新たに触媒をアルコールを含む液に添加することなく、または添加量を少なくして反応を行なわせることができる。
【0021】
アルミニウムアルコキサイドをあらかじめ系内に存在せしめ固液反応を行う場合、アルコールを含む液と混合するアルミニウムアルコキサイドとしては、製造目的とするアルミニウムアルコキサイドと同一の化合物であるのが好ましく、具体的には、下記式(ii)で表されるアルミニウムアルコキサイドなどが挙げられる。
Al(OR23 (ii)
ここで、R2は、それぞれ独立に、メチル、エチル、ノルマルプロピル、イソプロピル、ノルマルブチル、イソブチル、ネオブチル、ノルマルペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ノルマルヘキシル、イソヘキシル、ネオヘキシル、ノルマルヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、ノルマルオクチル、イソオクチル及びネオオクチルからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、上述した式(i)のおけるR1と同一であるのが好ましい。
【0022】
アルコールを含む液中のアルミニウムアルコキサイドの含有量は、アルコール/アルミニウムアルコキサイドが重量比で5/95〜85/15、好ましくは5/95〜80/20、より好ましくは5/95〜70/30となる量である。アルミニウムアルコキサイドの含有量が上記範囲内であれば、反応促進効果を発揮することができる。
【0023】
固液反応に際し、アルコールを含む液中のアルコールと金属アルミニウムの使用量比は回分式或いは連続式等の反応様式や所望するアルミニウムアルコキサイドの濃度により一義的でないが、通常、アルコール/金属アルミニウムのモル比は、約3以上、好ましくは約4以上とするのがよい。
【0024】
金属アルミニウムとアルコールを含む液との反応温度は、反応が進行しさえすれば特に限定されず、反応を促進させる観点から、アルコールを含む液の沸騰、還流条件下での反応が好適である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0026】
(実施例1)
還流冷却器付き2リットルセパラブルフラスコに、約90重量%のアルミニウムイソプロポキサイドを溶解含有するイソプロピルアルコール溶液と、所定量のアセトンを含有するイソプロピルアルコールとを56:44の割合(重量比)で混合し、アルコールを含む液に対するアセトン類濃度が8ppmである溶液100重量部を得、昇温した。
次いで、下端部に攪拌用のローターブレードを備え、ポリテトラフルオロエチレン被覆された軸体の周面部にポリテトラフルオロエチレンチューブを用いて取り付けた2.3重量部のアルミニウム片(大きさ:直径約16.5mm×長さ約40mm、純度99.999%、Ga/Al=2ppm)を溶液中に投入して、0.17m/sの速度でアルミニウム片を軸線回りに回転させながらイソプロピルアルコールの沸騰還流下(約84℃)で、716分間反応を行った。反応の進行に伴い水素ガスの発生とアルミニウムの溶解が観察された。
716分間の反応後、アルミニウム片を取り出し、アルミニウム片の反応前後の重量減少からアルミニウムの溶解量、すなわち反応量を調べた。その結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2)
アルコールを含む液に対するアセトン濃度を53ppmとした他は、実施例1と同様にしてアルミニウムの反応量を評価した。その結果を表1に示す。
【0028】
(比較例1)
アルコールを含む液に対するアセトン濃度を135ppmとした他は、実施例1と同様にしてアルミニウムの反応量を評価した。その結果を表1に示す。
【0029】
(比較例2)
アルコールを含む液に対するアセトン濃度を164ppmとした他は、実施例1と同様にしてアルミニウムの反応量を評価した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
以上のように、比較例1、2では、アルコールを含む液に対するケトン類濃度が130ppmを超える溶液に金属アルミニウムを投入して固液反応をさせたので、金属アルミニウムが反応しなかったのに対して、実施例1、2では、アルコールを含む液に対するケトン類濃度が130ppm以下である溶液を用いたので、高いアルミニウムの反応量を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウムとアルコールを含む液との固液反応によりアルミニウムアルコキサイドを製造する方法において、
アルコールを含む液中のケトン類濃度が130ppm以下であることを特徴とするアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
【請求項2】
固液反応は、ガリウム、インジウムおよびこれらの金属化合物から選ばれる少なくとも1種の存在下で行われる請求項1記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
【請求項3】
アルコールが、炭素数1〜8個の一価アルコールである請求項1または2記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
【請求項4】
ケトン類が、分子内にカルボニル基を1個含有する炭素数3〜8個の直鎖状飽和ケトンである請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
【請求項5】
アルコールを含む液中にアルミニウムアルコキサイドを、アルコール/アルミニウムアルコキサイドが重量比で5/95〜85/15の割合となるように含有させて、金属アルミニウムと固液反応を行わせる請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
【請求項6】
アルコール/アルミニウムアルコキサイドが重量比で5/95〜80/20である請求項5に記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。
【請求項7】
アルコールがイソプロピルアルコールであり、ケトン類がアセトンである請求項1〜6のいずれか記載のアルミニウムアルコキサイドの製造方法。

【公開番号】特開2013−60387(P2013−60387A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199427(P2011−199427)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】