説明

アルミニウムオキシカーバイド組成物及びその製造方法、並びに耐火物

【課題】使用中のAlCの酸化を抑制でき、AlCの効果を長時間持続させることができるアルミニウムオキシカーバイド組成物を提供すること。
【解決手段】AlCの結晶を有するアルミニウムオキシカーバイド組成物において、当該アルミニウムオキシカーバイド組成物を任意の断面で見たときに、AlCの結晶の断面積を円に換算したときの平均直径が20μm以上である。このアルミニウムオキシカーバイド組成物は、炭素質原料とアルミナ質原料とをアーク炉で溶融後、当該アーク炉内で冷却することで製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスや耐火物、あるいはこれらの原料として使用されるアルミニウムオキシカーバイド組成物及びその製造方法、並びにそのアルミニウムオキシカーバイド組成物を使用した耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムオキシカーバイドとしては、AlOC及びAlCの2種類が知られている。特にAlCは高温で安定し、酸化防止効果を有しており、耐食性に優れ、更に低熱膨張率という特徴を持つ。耐火物やセラミックスあるいはこれらの原料として将来期待される材料である。特に鉄鋼などの溶融金属用の耐火物として使用されているアルミナカーボン質耐火物やマグネシアカーボン質耐火物などのカーボン含有耐火物の原料として期待されている。
【0003】
このAlC(アルミニウムオキシカーバイド)を含むアルミニウムオキシカーバイド組成物の製造方法として、非特許文献1にはアルミナと黒鉛とをアルゴン雰囲気で熱処理する方法が開示されている。具体的には、平均粒径が0.1μmのアルミナと粒径が45μm以下の黒鉛試薬とにエタノールを加え、メノウ乳鉢で混合した後、乾燥し、混合物の粉体(2g)を黒鉛るつぼに入れ、電気炉内を真空にした後、アルゴンガスを送入し1700℃で焼成している。また、非特許文献2には、アルミニウムオキシカーバイド組成物をアーク炉で製造する方法が開示されている。ただし、非特許文献2では、その製造方法で得られるアルミニウムオキシカーバイド組成物のカーボン量が多くなると、水と反応しやすいAlが多くなることが指摘されている。
【0004】
一方、特許文献1には、Alの生成を抑制するために、炭素質原料とアルミナを均一に混合し、C成分のばらつきをなくすことが開示されている。
【0005】
しかしながら、AlCは大気中では約850℃で酸化されアルミナ化することが知られており、AlCの結晶粒子が微細な場合、耐火物の原料として使用すると、酸化され、耐酸化性、耐食性、低熱膨張率といった効果を長時間持続することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/113972号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】耐火物 第59巻 288頁 2007年
【非特許文献2】耐火物 第35巻 316頁 1983年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、使用中のAlCの酸化を抑制でき、AlCの効果を長時間持続させることができるアルミニウムオキシカーバイド組成物及びその製造方法、並びにそのアルミニウムオキシカーバイド組成物を使用したカーボン含有耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は、AlCの結晶を有するアルミニウムオキシカーバイド組成物において、当該アルミニウムオキシカーバイド組成物を任意の断面で見たときに、AlCの結晶の断面積を円に換算したときの平均直径が20μm以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は、AlCの他にコランダムの結晶を含むことが好ましく、コランダムの結晶とAlCの結晶が交互に層状に配列していることがより好ましい。また、本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は、AlCとコランダムの他に、少量のAl2OCやAlONなどの酸窒化物、γ-Al2などを含むこともある。また、カーボン含有量は3.2〜6.3質量%以下であることが好ましい。
【0011】
上述の本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物を製造するための本発明の製造方法は、炭素質原料とアルミナ質原料とをアーク炉で溶融後、当該アーク炉内で冷却することを特徴とする。
【0012】
本発明の製造方法においては、前記炭素質原料と前記アルミナ質原料に、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属のうち1種以上を外掛けで0.2〜10.0質量%添加することが好ましく、また、炭素質原料、アルミナ質原料、炭化珪素等の原料をC成分のばらつきが±10%以内となるように均一に混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、AlCの結晶の断面積を円に換算したときの平均直径が20μm以上であるので、使用中のAlCの酸化を抑制でき、AlCの効果を長時間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物(表1の実施例2)のミクロ組織写真である。
【図2】従来のアルミニウムオキシカーバイド組成物(表1の比較例1)のミクロ組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は、AlCの結晶を有し、当該アルミニウムオキシカーバイド組成物を任意の断面で見たときに、AlCの結晶の断面積を円に換算したときの平均直径が20μm以上であることを特徴とする。
【0016】
アルミニウムオキシカーバイド組成物中のAlCの結晶は、斜方晶系であることから多くの場合、柱状もしくは角柱状の組織を呈する。顕微鏡で観察する場合は、どの断面で見るかによって形状が異なるが、本発明のAlCの結晶は、柱状組織を見た場合、短辺方向で10〜2000μm程度である。
【0017】
また、本明細書において「AlCの結晶の断面積を円に換算したときの平均直径」とは、アルミニウムオキシカーバイド組成物の顕微鏡観察において、その全体の半分の面積を超えるまで、断面積の大きいAlCの結晶から順に断面積を積算し、積算したそれぞれの結晶の断面積を円に換算したときのそれぞれの直径の平均値である。AlC結晶の断面積及び断面積を円に換算したときの直径は、画像処理ソフトを用いて算出することができる。
【0018】
このように平均直径が20μm以上というAlCの結晶を有するアルミニウムオキシカーバイド組成物は、炭素質原料とアルミナ質原料とをアーク炉で溶融後、例えば、当該アーク炉内で冷却、すなわち徐冷することで製造することができる。
【0019】
従来、研削材等では、アルミニウムオキシカーバイド組成物をアーク溶解により製造する場合、アーク炉で溶融後、アーク炉外の金型に鋳込んでインゴットとしていた。しかし、この製造方法では、アーク炉で溶融後、アーク炉外の金型に鋳込まれるため、溶融後の冷却速度が10℃/minを超える急冷となり、得られるAlCの結晶はその平均直径が10μmを下回る微細なものとなる。
【0020】
これに対して、アーク炉で溶融後、当該アーク炉内でそのまま冷却すると、その冷却速度は10℃/min以下の徐冷となり、その徐冷の過程でAlCの結晶が成長し、平均直径が20μm以上となる。なお、アルミニウムオキシカーバイド組成物は、AlCのほかにコランダムの結晶を有し、少量のAlOCやAlONなどの酸窒化物、γ-Al2などを含むこともある。
【0021】
このようにAlCの結晶が平均直径20μm以上であると、使用中のAlCの酸化が抑制され、AlCの効果を長時間持続させることができる。更に、コランダムの結晶が存在すると、コランダムがバリアとなってAlCの酸化が抑制され、AlCの効果を長時間持続させることができる。AlCの結晶の平均直径の上限は特に限定されないが、耐火物の骨材原料としての使用粒度が、一般的に粗粒域で3mm程度であることから、3mm以下が好ましい。
【0022】
本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は、上述のAlCの結晶とコランダムの結晶とが交互に積層されて配列された層状組織を有することが好ましい。先述したように、AlCは、850℃以上の酸化雰囲気では、酸化されアルミナとなることが知られている。酸化されアルミナとなると、AlC本来の特徴である酸化防止効果、耐食性改善効果、低熱膨張効果を得ることができない。コランダムの結晶が層状に積層された組織では、コランダム層がAlCの結晶の酸化を保護する効果があり、アルミニウムオキシカーバイド組成物全体の酸化を抑制する効果が高く、AlCのこれらの特徴を長時間保持することが可能である。
【0023】
本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は、カーボン含有量は3.2〜6.3質量%以下であることが好ましい。このカーボン含有量は、アルミニウムオキシカーバイド組成物中のAlCの含有量の指標となる。すなわち、理論上のAlCのカーボン含有量は6.52質量%であり、アルミニウムオキシカーバイド組成物のカーボン含有量が6.52質量%の場合、アルミニウムオキシカーバイド組成物中はAlCの含有量は100質量%となる。アルミニウムオキシカーバイド組成物のカーボン含有量が3.2質量%未満ではAlCが少なく、AlCの効果が十分には得られないことがある。一方、カーボン含有量が6.3質量%を超えると、水和されやすい炭化アルミニウムが生じやすく組織の安定性に欠けるだけでなく、コランダムの結晶が少ない、もしくは含まないことから、AlCの酸化抑制効果が小さく、酸化雰囲気ではAlCを長時間保持することが困難である。
【0024】
本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は、上述のとおり、炭素質原料とアルミナ質原料とをアーク炉で溶融後、例えば当該アーク炉内で冷却(徐冷)することで製造する。
【0025】
このときに使用する炭素質原料としては、耐火物の原料として一般的に使用される炭素質原料を用いることができる。例えば、ピッチ、黒鉛、コークス、カーボンブラック、及び粉末有機樹脂等を使用することができる。このうち黒鉛としては鱗状黒鉛、土壌黒鉛、膨張黒鉛、及び人造黒鉛を使用することができる。炭素質原料のC含有率は90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0026】
また、アルミナ質原料としては、耐火物の原料として一般的に使用されるアルミナ質原料を用いることができる。例えば、天然のボーキサイト等をバイヤー法等で精製して人工的に作られ、Al純度が95質量%以上の電融アルミナ、焼結アルミナ、及び仮焼アルミナなどを使用することができる。また、バンケツ、ボーキサイト、粘土、及びれんが屑などもアルミナ質原料全体のAl純度が好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上となる範囲で使用することができる。
【0027】
なお、本発明では、アルミナカーボン質やアルミナグラファイト質の耐火物など、カーボンとアルミナを含有する耐火物を炭素質原料あるいはアルミナ質原料として使用してもよい。この場合、炭素質原料及びアルミナ質原料の全体に占めるカーボンとアルミナとの合計の含有量を90質量%以上、より好ましくは95質量%以上に調整し、更に炭素質原料及びアルミナ質原料の全体において、カーボンとアルミナの比率をモル比(C/Al)で0.8〜2.0の範囲に調整することが好ましい。
【0028】
AlCは下記(1)の反応により生成するので、理想的には、炭素質原料とアルミナ質原料とのモル比は1.5とするのが望ましい。
2Al+3C=AlC+2CO ・・・(1)
【0029】
炭素質原料の含有量を調整することにより、ある程度、アルミニウムオキシカーバイド組成物中のカーボン含有量(AlC含有量)をコントロールすることが可能であるが、通常の溶融条件では、原因は明確ではないが、カーボンが酸化されコランダム(Al)が多く生成する。更にAlが局所的に生成する等の問題が生じる。
【0030】
これは、アーク炉の形式、電圧条件等による溶融雰囲気の影響によるものと考えられる。実用的な大量生産を考慮した場合、大型のアーク炉を用いる必要があり、更に、高電圧、高電力で溶融する必要がある。この場合、溶融雰囲気は酸化雰囲気となることから、AlCが生成し難く、コランダム(Al)の生成が多くなると考えられる。
【0031】
そこで、本発明では、炭素質原料とアルミナ質原料に、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属のうち1種以上を外掛けで0.2〜10.0質量%添加し。アーク炉で溶融することも好ましい。
【0032】
メカニズムの詳細は不明であるが、このように金属等の酸化防止剤を添加することで、溶融時及び冷却時の雰囲気による炭素質原料の酸化が抑制され、効率的に炭素質原料がアルミナ質原料と反応溶融する。AlCの融点は、1850℃以上の高温域であるが、アルミナとカーボンの反応によるAlCの生成は、液相を生じる1850℃以下でかつ焼結反応すると考えられる1000℃以上の適当な温度下で起こると考えられる。したがって、本発明で添加する金属は、1000℃以上の温度域でカーボンよりも酸素親和力が強い必要がある。
【0033】
また、本発明では、添加した金属が、アルミナとカーボンの反応により生じた一酸化炭素と例えば下記(2)の反応をすることにより、一酸化炭素として消失するカーボンを固定化し、カーボンの収率を増加させる効果も奏すると考えられる。
【0034】
金属としてシリコンを添加した場合は、下記(2)の反応が生じる。
2CO+Si=SiO+2C ・・・(2)
【0035】
本発明で使用する金属は、金属粉あるいは金属塊として使用され、溶融や冷却時(製造時)の雰囲気による炭素質原料やAlCの酸化を抑制する。このため、カーボンの酸化が開始される500℃以上、望ましくはAlCが生成すると考えられる1000℃以上の温度域で、カーボンよりも酸素親和力が強い金属を用いる。具体的には、例えば、Si、Mn、Al、Ca、Mg、Zr、Tiなどのうち1種以上を使用することができる。また、これらの金属を含む合金を使用することも可能である。金属、合金の純度は特に限定しないが90%以上のものが望ましい。
【0036】
本発明の他の態様では、金属に代えて又は併用して、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム及び窒化硼素のうち1種以上を添加する。
【0037】
そのメカニズムは明確ではないが、炭化珪素(SiC)、炭化硼素(BC)、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化硼素(BN)は、金属と同様に、雰囲気による溶融時及び冷却時の炭素質原料の酸化を抑制し、効率的に炭素質原料がアルミナと反応溶融する効果を奏すると推定される。更に、例えばSiCの場合、カーボンが、効率的に溶融原料中に溶出し、AlCの生成に寄与するものと考えられる。
【0038】
本発明で使用する炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム及び窒化硼素は、耐火物の技術分野において一般的にカーボンの酸化防止剤などとして使用されているものを使用することができる。その純度は特に限定しないが90%以上のものが望ましい。
【0039】
本発明において、上述の炭素質原料、アルミナ質原料、金属、炭化珪素等の原料はC成分のばらつきが±10%以内となるように均一に混合することが好ましい。このように原料を事前に均一に混合することで、AlCの収率を高め、しかもAlの生成を抑制することができる。
【0040】
ここで、「均一に混合する」とは、原料の混合物をサンプリングしたときにばらつきが非常に少ない状態になっていることをいう。本発明においてその指標はC成分のばらつきで表す。ここで「C成分のばらつき」とは、原料を混合した混合物から3回サンプリングし、サンプリングした混合物のC成分を分析し、C成分の目標設定値に対して最も差の大きな分析値と目標設定値との差の目標設定値に対する割合(%)のことをいう。このC成分のばらつきは±10%以内が好ましく、±5%以内がより好ましい。なお、均一に混合するためには、一般的に市販されている粉末用のミキサーを使用して混合することが好ましい。なお、目標設定値(%)とは原料の混合物に占める炭素含有原料の割合(%)×炭素含有原料のC成分含有率(%)である。炭素含有原料のC成分含有率は、混合前の測定値である。
【0041】
アーク炉としては、マグネシアやアルミナ等の耐火物を溶融して製造する際に通常使用されているものを使用することができる。アーク炉では、必要に応じて金属等を添加した炭素質原料とアルミナ質原料との混合物を溶融させる。具体的には1850〜2400℃程度で溶融させる。溶融後、そのアーク炉内で冷却し、得られたインゴットを粉砕することでアルミニウムオキシカーバイド組成物が得られる。
【0042】
また、本発明では、炭素質原料中のカーボンとアルミナ質原料中のアルミナのモル比(C/Al)を0.8〜2.0の範囲で制御することで、AlCの含有率をコントロールすることができる。
【0043】
本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物は耐火物の原料、特に骨材(粒径0.2mm以上)として好適に使用できる。また、本発明のアルミニウムオキシカーバイド組成物を耐火物の原料として使用する場合、その含有量は15〜95質量%であることが好ましい。アルミニウムオキシカーバイド組成物の含有量が15質量%未満ではアルミニウムオキシカーバイド組成物の効果が十分には得られないことがある。一方、含有量が95質量%を超えると、弾性率を低減することを目的に添加されるカーボンや、酸化防止や焼結材として添加される金属や炭化物、窒化物、硼化物などの酸化防止剤、さらにはバインダーとして添加されるフェノール樹脂などの添加量が制限され、耐火物として十分な、強度、弾性率、耐酸化性などの特性を得ることが困難になる。
【実施例】
【0044】
原料をアーク炉で溶融後、そのアーク炉内で冷却(徐冷)する本発明の製造方法と、比較例として原料をアーク炉で溶融後、アーク炉外の金型に鋳込んで急冷する従来の製造方法により、それぞれアルミニウムオキシカーバイド組成物を製造し、その特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示す割合で、仮焼アルミナ(Al成分99.9質量%)と鱗状黒鉛(C成分99質量%)とを合計500kgになるように秤量した。また、実施例1〜6、8、9及び比較例2では、仮焼アルミナ及び鱗状黒鉛の合計100質量%に対して外掛けでAl、Si又はSiCを添加した。
【0047】
また、実施例1〜5、8、9及び比較例2では、上述の原料を配合後、Vコーンミキサーにて5分間混合した。実施例6、7及び比較例1では均一混合の処理は行わなかった。原料の混合物のC成分のばらつきは上述の方法で評価した。
【0048】
これらの原料の混合物を1000KVAのアーク炉に入れて溶融後、実施例においてはそのまま徐冷し、比較例においてはアーク炉外の金型に鋳込むことで、それぞれアルミニウムオキシカーバイド組成物のインゴットを製造した。実施例における冷却速度は0.7℃/min程度であり、比較例における冷却速度は15℃/min程度である。
【0049】
製造されたアルミニウムオキシカーバイド組成物のインゴットを粉砕、整粒した後、見掛け比重及び見掛け気孔率をJIS−R2205に準拠して測定した。また、化学成分についてはJIS−R2011に準拠しC含有量を測定した。なお、C含有量は、JIS−R2205に記載のフリーカーボン、及び炭化珪素中の炭素の合計であるトータルカーボン量とした。すなわち、AlCは、820℃以上の温度で酸化がはじまることから、900℃で測定するカーボンと1350℃で測定する炭化珪素中のカーボン量の合計から、カーボン含有量を評価した。理論上のAlCのC含有量は、6.52質量%となる。
【0050】
鉱物相については、X線回折法の内部標準法によって定量化した。
【0051】
ミクロ組織は顕微鏡で観察し、AlCの結晶の平均直径は、上述のとおり、アルミニウムオキシカーバイド組成物の顕微鏡観察において、その半分の面積を超えるまで、断面積の大きいAlCの結晶から順に断面積を積算し、積算したそれぞれの結晶の断面積を円に換算したときのそれぞれの直径の平均値を示す。
【0052】
熱膨張率は、インゴットから直接、8×8×12mmの角柱サンプルを切り出し、熱機械分析(TMA)により、大気雰囲気下で1000℃まで測定を行った。また、アルミニウムオキシカーバイド組成物が酸化された後に熱膨張率の維持率を評価することを目的に、8×8×12mmの角柱サンプルを1500℃で大気雰囲気下、3時間酸化処理した後に、同じく熱機械分析(TMA)により、大気雰囲気下で1000℃まで測定を行った。
【0053】
耐酸化性は、AlCが酸化するとアルミナ(コランダム)に変化することから、AlCの減少率(コランダムの増加率)を示すアルミナ化率を算出することで評価を行った。ここで、アルミナ化率は次式で表される。
【数1】

【0054】
具体的には、インゴットから10×10×10mmのサンプルを切り出し、大気雰囲気下、1500℃の温度条件で、回転炉を用いて3時間酸化した後、カーボン含有量を測定し、酸化試験前に予め測定していたカーボン含有量と比較して、アルミナ化率を算出した。アルミニウムオキシカーバイド組成物は、コランダムとAlCが主であり、他の成分は極微量である。したがって、カーボン含有量を測定すれば、AlCの含有量を算出することができる。このため、酸化試験前後のカーボン含有量を測定することによって、酸化試験前後のAlCの含有量を求め、アルミナ化率を算出した。
【0055】
表1より、AlCの平均直径が20μm以上の実施例は、いずれも耐酸化性に優れていた。一方、比較例である、AlCの結晶の平均直径が10μm未満のものは、耐酸化性に劣っていた。
【0056】
また、大気雰囲気下、1500℃で酸化したアルミニウムオキシカーバイド組成物の熱膨張率は、実施例1〜9に示すAlCの結晶の平均直径が20μm以上のものは、いずれも低熱膨張率を維持していたが、比較例1及び2に示すAlCの結晶の平均直径が10μm未満のものは、熱膨張率が高くなった。
【0057】
また、実施例2と実施例6との比較より、原料を予め均一混合することにより、AlCの収率(含有率)が向上することが分かる。ただし、実施例2と比較例2との比較より、原料を予め均一混合するだけでは耐酸化性の向上には効果がないことが分かる。
【0058】
また、実施例6、8、9と実施例7との比較より、金属等の酸化防止剤を添加することにより、AlCの収率(含有率)が向上することが分かる。
【0059】
図1は実施例2のミクロ組織を示し、図2は比較例1のミクロ組織を示す。実施例2では、短径50〜250μm程度の柱状のAlCの結晶と、短径30〜300μm程度の柱状のコランダムの結晶、或いはコランダム及びAlCの共晶域が交互に配列され層状をなしつつ成長していることが分かる。一方、比較例1では、AlCの結晶とコランダムの結晶が10μm未満に微細化していた。
【0060】
次に、表1の実施例2、比較例1及び2のアルミニウムオキシカーバイド組成物を使用して、それぞれカーボン含有耐火物を製造し、その特性を評価した。その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示す割合で各種原料を配合し、バインダーとしてフェノール樹脂を外掛けで5質量%添加し、混合、成形した後に、300℃の温度で加熱することによりカーボン含有耐火物を製造した。
【0063】
製造されたカーボン含有耐火物について、AlC含有量、かさ比重、見掛け気孔率、熱膨張率、耐食性、耐酸化性、耐液相酸化性、及び耐熱衝撃性を評価した。
【0064】
かさ比重及び見掛け気孔率は、JIS−R2205に記載された方法により評価を行った。熱膨張率は、JIS−R2207−1に記載された非接触法により、窒素雰囲気下で1000℃まで評価を行った。
【0065】
耐食性は、高周波誘導炉を用いてSS材と酸化鉄粉を溶融してCaO/Al=2.2の合成スラグを作製し、この合成スラグ中で1600℃×3時間の試験を行い、溶損量を測定した。そして後述する表3の比較例5の溶損量を100として指数化した。数値が小さいほど耐食性は良好である。
【0066】
耐液相酸化性は、高周波誘導炉を用いてSS材を溶融し、その溶鋼中で1600℃×5時間の試験を行い、鋼浴部の酸化層の厚みを測定した。そして後述する表3の比較例5の酸化層の厚みを100として指数化した。数値が小さいほど耐液相酸化性は良好である。
【0067】
耐熱衝撃性は、試料を1600℃の溶鋼に3分浸漬した後に空冷するサイクルを繰り返し、剥落するまでの回数から良否を判断した。具体的には、N=2の試料が剥落に至る平均回数で評価した。数値が大きいほど耐熱衝撃性は良好である。
【0068】
表2より、表1の実施例2のアルミニウムオキシカーバイド組成物を使用した実施例10は、表1の比較例1及び2のアルミニウムオキシカーバイド組成物を使用した比較例3及び4に比べ、耐食性、耐液相酸化性、耐熱衝撃性のいずれにおいても優れていることが分かる。実施例10は、高温の試験条件下においても、AlCが酸化されず、長時間保持されたことから、AlCの特徴である、スラグとの濡れ性改善により耐食性が良好であったと考えられる。また、液相酸化試験においても同様にAlCが保持されたことから高温域での耐酸化性が向上したと考えられる。耐液相酸化性の効果は、稼動面でAlCが、FeOと反応し緻密なAl層を形成し高い酸化抑制効果が得られたことによるものと考えられる。更に、耐熱衝撃性試験においても高温熱処理を繰り返す条件下にあってもAlCが保持されたことから、低熱膨張率効果により耐スポーリング性が優れていたと考えられる。これに対して、比較例3及び4では、アルミニウムオキシカーバイド組成物は、高温の試験条件下、短時間で酸化され、Al化したことからスラグとの濡れ性低下により耐食性が低下し、また、耐酸化性も低下、更には、高熱膨張率となり耐スポーリング性が低下したものと考えられる。
【0069】
次に、表1の実施例5のアルミニウムオキシカーバイド組成物を使用してカーボン含有耐火物を製造し、その特性を評価した。その結果を表3に示す。なお、表3の比較例5はアルミニウムオキシカーバイド組成物を使用していないカーボン含有耐火物である。
【0070】
【表3】

【0071】
表3に示す割合で各種原料を配合し、表2の例と同じ方法によりカーボン含有耐火物を製造した。また、製造したカーボン含有耐火物の特性も表2の例と同じ方法で評価した。
【0072】
いずれの実施例も、比較例5に比べ、耐食性、耐液相酸化性、耐熱衝撃性のいずれにおいても優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlCの結晶を有するアルミニウムオキシカーバイド組成物において、当該アルミニウムオキシカーバイド組成物を任意の断面で見たときに、AlCの結晶の断面積を円に換算したときの平均直径が20μm以上であることを特徴とするアルミニウムオキシカーバイド組成物。
【請求項2】
コランダムの結晶を更に含む請求項1に記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物。
【請求項3】
AlCの結晶とコランダムの結晶が、交互に層状に配列した請求項2に記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物。
【請求項4】
カーボン含有量が3.2〜6.3質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物の製造方法において、炭素質原料とアルミナ質原料とをアーク炉で溶融後、当該アーク炉内で冷却することを特徴とするアルミニウムオキシカーバイド組成物の製造方法。
【請求項6】
前記炭素質原料と前記アルミナ質原料に、炭化珪素、炭化硼素、窒化アルミニウム、窒化硼素及び金属のうち1種以上を外掛けで0.2〜10.0質量%添加し、アーク炉で溶融後、当該アーク炉内で冷却する請求項5に記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物の製造方法。
【請求項7】
原料をC成分のばらつきが±10%以内となるように均一に混合する請求項5又は6に記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物を骨材として含有する耐火物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウムオキシカーバイド組成物を15〜95質量%含有する耐火物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53034(P2013−53034A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191830(P2011−191830)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】