アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料及びその製造方法、並びに該複合材料を用いた熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール
【課題】Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、熱電変換モジュールの材料として好適に使用可能なアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料であって、優れた熱電変換特性を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を提供する。
【解決手段】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmである。このアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は熱電変換特性に優れているため、熱電変換素子を製造する際に好適である。
【解決手段】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmである。このアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は熱電変換特性に優れているため、熱電変換素子を製造する際に好適である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料;熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール;並びにアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりに応じて、各種のエネルギーを効率的に利用する様々な手段が検討されている。特に、産業廃棄物の増加等に伴って、これらを焼却する際に生じる廃熱の有効利用が課題となっている。例えば大型廃棄物焼却施設では、廃熱により高圧の蒸気を発生させ、この蒸気により蒸気タービンを回転させて発電することにより廃熱回収が行われている。しかし、廃棄物焼却施設の大多数を占める中型・小型廃棄物焼却施設では、廃熱の排出量が少ないため、蒸気タービン等により発電する廃熱の回収方法は採用できていない。
【0003】
このような中型・小型の廃棄物焼却施設において採用することが可能な廃熱を利用した発電方法としては、例えば、ゼーベック効果或いはペルチェ効果を利用して可逆的に熱電変換を行う熱電変換材料・熱電変換素子・熱電変換モジュールを用いた方法が提案されている。
【0004】
熱電変換モジュールとしては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0005】
ここで、図1に示すように、電極1015,1025の側を加熱し、電極1016,1026の側から放熱することで、電極1015,1025と、電極1016,1026との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、熱励起されたキャリアによってp型熱電変換部102がn型熱電変換部101よりも高電位となる。このとき、電極1016と電極1026との間に負荷として抵抗3を接続することで、p型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと電流が流れる。
【0006】
一方、図2に示すように、直流電源4によってp型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において吸熱作用が生じ、電極1016,1026において発熱作用が生じる。また、n型熱電変換部101からp型熱電変換部102へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において発熱作用が生じ、電極1016,1026において吸熱作用が生じる。
【0007】
熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる(例えば特許文献1を参照)。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体のみが熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0008】
この場合、図3に示すように、電極1035側を加熱し、電極1036側から放熱することで、電極1035と電極1036との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、電極1035側が電極1036側よりも高電位となる。このとき、電極1035と電極1036との間に負荷として抵抗3を接続することで、電極1035側から電極1036側へと電流が流れる。
【0009】
一方、図4に示すように、直流電源4によって電極1036側からn型熱電変換部103を経て電極1035側へと直流電流を流すことで、電極1035において吸熱作用が生じ、電極1036において発熱作用が生じる。また、直流電源4によって電極1035側からn型熱電変換部103を経て電極1036へと直流電流を流すことで、電極1035において発熱作用が生じ、電極1036において吸熱作用が生じる。
【0010】
このように極めてシンプルな構成で効率的に熱電変換を行うことができる熱電変換素子は、従来特殊な用途を中心に応用展開されている。
【0011】
ここで、従来、Bi−Te系、Co−Sb系、Zn−Sb系、Pb−Te系、Ag−Sb−Ge−Te系等の熱電変換材料により、燃料電池、自動車、ボイラー・焼却炉・高炉等の約200℃から800℃程度の廃熱源を利用して電気に変換する試みが行われてきた。しかし、このような熱電変換材料には有害物質が含まれるため、環境負荷が大きくなるという問題があった。
【0012】
また、高温用途で用いるものとしては、B4C等、ホウ素を多量に含むホウ化物、LaS等のレアアース金属カルコゲナイト等が研究されているが、B4CやLaS等の金属間化合物を主体とする非酸化物系の材料は、真空中で比較的高い性能を発揮するものの、高温下で結晶相の分解が生じる等、高温領域での安定性が劣るという問題があった。
【0013】
一方、環境負荷が少ないMg2Si(例えば特許文献2及び3、非特許文献1〜3を参照)、Mg2Si1−xCx(例えば非特許文献4を参照)等のシリサイド系(珪化物系)の金属間化合物を含む材料も研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−274578号公報
【特許文献2】特開2005−314805号公報
【特許文献3】国際公開第03/027341号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Semiconducting Properties of Mg2Si Single Crystals Physical Review Vol.109,No.6,March 15,1958,p.1909−1915
【非特許文献2】Seebeck Effect In Mg2Si Single Crystals J.Phys.Chem.Solids Program Press 1962.Vol.23,pp.601−610
【非特許文献3】Bulk Crystals Growth of Mg2Si by the vertical Bridgman method Science Direct Thin Solid Films 461(2004)86−89
【非特許文献4】Thermoelectric Properties of Mg2Si Crystal Grown by the Bridgeman method
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上記Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料は、熱電変換性能が低いといった問題点があり、Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料を実際に熱電変換モジュールに実用化するには至っていなかった。
【0017】
例えば、特許文献2,3に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料については、これが有する熱電特性については、全く検討されていない。しかし、本発明者らが検討したところによれば、特許文献2,3に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料は、本願で必要とされるマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を有しないものであった。
【0018】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、熱電変換モジュールの材料として好適に使用可能なアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料であって、優れた熱電変換特性を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、Al、Mg、及びSiからなる合金を含むアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が優れた熱電変換特性を有すると共に、熱電変換性能を決定する要因のうち、特に電気伝導率が高いものであることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0020】
[1] Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmであるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【0021】
[1]に記載の発明は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、熱電変換材料の熱電変換特性を示す性能指数は、一般に以下の数式(1)によって導出され、上記性能指数に絶対温度Tを乗じた数値が無次元性能指数ZTとなる。
【数1】
[上記式(1)において、αはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、κは熱伝導率を示す。]
【0022】
上記数式(1)から明らかなように、電気伝導率が高い材料は無次元性能指数も高くなる傾向にある。このため、[1]に記載の発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【0023】
なお、[1]に記載の発明における複合材料は、「Al、Mg、及びSiからなる合金」を含むものであり、例えばMg2Si等のマグネシウムシリサイドに、不純物程度のアルミニウムを含有する、アルミニウムをドープした材料とは異なるものである。本発明において、上記複合材料としては、通常、Al元素の含有量が0.5at%以上のものを指す。
【0024】
[2] Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料から合成される[1]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【0025】
[2]に記載の発明は、[1]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造する際の組成原料を規定したものである。したがって、[2]に記載の発明によれば、[1]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0026】
[3] 前記組成原料中のAlの含有量が3.5〜6.0at%である[2]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【0027】
[3]に記載の発明は、[2]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造する際の組成原料中の好ましいAlの含有量を規定したものである。この[3]に記載の発明によれば、[2]に記載の発明の効果に加え、焼結体の機械的強度に優れるという効果を得ることができる。
【0028】
[4] Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法。
【0029】
[4]に記載の発明は、[1]又は[2]に記載の発明を、製造方法の発明として規定したものである。したがって、[4]に記載の発明によれば、[1]又は[2]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0030】
[5] [1]から[3]のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【0031】
[6] 熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、前記熱電変換部が[1]から[3]のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【0032】
[7] [6]に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【0033】
[5]から[7]に記載の発明は、[1]から[3]のいずれかに記載の発明を熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの発明として規定したものである。したがって、[5]から[7]に記載の発明によれば、[1]から[3]のいずれかに記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0034】
[8] [1]から[3]のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【0035】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、電気伝導率が高い材料は無次元性能指数も高くなる傾向にあるため、本発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図2】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図3】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図4】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図5】焼結装置の一例を示す図である。
【図6】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における無次元性能指数と温度との関係を示す図である。
【図7】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における電気伝導率とアルミニウムの組成比との関係を示す図である。
【図8】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における無次元性能指数と電気伝導率との関係を示す図面である。
【図9】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における無次元性能指数とアルミニウムの組成比との関係を示す図である。
【図10】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における圧縮強度とアルミニウムの組成比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について図面を挙げて詳細に説明する。
【0039】
<アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料>
[アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の特性]
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmである。ここで、熱電変換材料の性能指数を示す上記の数式(1)から明らかなように、電気伝導率σが高い材料は、性能指数も高くなる傾向にある。このため、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、優れた熱電変換性能を有する傾向にある。アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が優れた電気伝導率を示すことにより、例えば、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。なお、上記電気伝導率は、1100〜2500S/cmであることが好ましく、1200〜2000S/cmであることが更に好ましい。
【0040】
ここで、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、組成原料を加熱溶融し、好ましくは加熱溶融後の試料を粉砕した後のものであっても、粉砕後の試料を焼結した後のものであってもよいが、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の電気伝導率に言及するとき、Al、Mg、及びSiを含む組成原料を加熱溶融し、加熱溶融後の試料を粉砕して、粉砕後の試料を焼結した後に測定されたものを指すものとする。同様に、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の無次元性能指数に言及するとき、Al、Mg、及びSiを含む組成原料を加熱溶融し、加熱溶融後の試料を粉砕して、粉砕後の試料を焼結した後に測定されたものを指すものとする。
【0041】
すなわち、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料とは、組成原料の加熱溶融物、当該加熱溶融物の粉砕物及び当該粉砕物の焼結体を包含した意味をなし、これらの加熱溶融物、粉砕物、及び焼結体は、それぞれ単独で商品としての価値を有するものである。本発明に係る熱電変換材料自体及び熱電変換素子を構成する熱電変換部は、当該焼結体から構成されるものである。
【0042】
上述したとおり、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、「Al、Mg、及びSiからなる合金」を含むものであり、例えばMg2Si等のマグネシウムシリサイドに、不純物程度のAlを含有する、Alをドープした材料とは異なるものである。本発明において上記複合材料としては、通常、Alの含有量が0.5at%以上のものを指す。
【0043】
また、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、860Kにおける無次元性能指数が0.47以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましい。無次元性能指数が上記範囲内にあることにより、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を熱電変換材料として用いたときに、優れた熱電変換性能を得ることができる。
【0044】
なお、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、インゴット状のもの、粉末状のもの、粉末状のものを焼結したもの等、いかなる形態のものであってもよいが、粉末状のものを焼成したものであることが好ましい。更に、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、後述する熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、このような用途に限定されるものではなく、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【0045】
更に、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、機械的強度に優れるものである。このため、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、これを容易に熱電変換素子等に加工することができる。
【0046】
<熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール>
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、熱電変換材料として好適に使用できるものである。即ち、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、300Kにおける電気伝導率が1000〜3000S/cmのものであるので、熱電変換性能に優れる傾向にあり、これを熱電変換材料として熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0047】
<アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法等>
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法は、Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するものである。
【0048】
また、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法は、加熱溶融工程において得られた試料を粉砕する粉砕工程と、粉砕された上記試料を焼結する焼結工程とを有することが好ましい。
【0049】
なお、組成原料中におけるAlの含有量は、3.5〜6.0at%であることがより好ましく、3.8〜5.8at%であることが更に好ましい。Alの含有量をこのような範囲とすることにより、焼結体の機械的強度に優れるようになる。したがって、例えばブレードソーによって焼結体を所望の大きさに切り出す際にも、素子が破損することを防止できる。
【0050】
(混合工程)
混合工程においては、Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合して、Alの含有量が1〜10at%、好ましくは3.5〜6.0at%、より好ましくは3.8〜5.8at%である組成原料を得る。
【0051】
Siとしては、例えば3N以上、好ましくは6N以上のシリコンを利用することができる。ここで、シリコンとしては、具体的には、例えばLSI用高純度シリコン原料、太陽電池用高純度シリコン原料、高純度金属シリコン、高純度シリコンインゴット、高純度シリコンウエハ等を挙げることができる。
【0052】
混合工程においてAl及びMgの原料としてAl及びMgの混合物を用いる場合、Mgとしては、99.5wt%程度以上の純度を有するものであり、実質的に不純物を含有しないものである限り、特に限定されるものではないが、例えば、Si、Mn、Al、Fe、Cu、Ni、Cl等の不純物を含むものであっても差し支えない。
【0053】
また、混合工程においてAl及びMgの原料としてAl及びMgの混合物を用いる場合、Alとしては、99.5wt%程度以上の純度を有するものであり、実質的に不純物を含有しないものである限り、特に限定されるものではないが、例えば、Si、Mn、Mg、Fe、Cu、Ni、Cl等の不純物を含むものであっても差し支えない。
【0054】
更に、混合工程においてAl及びMgの原料としてAlを含有するMg合金を用いる場合には、Alを2.0〜8.2at%、好ましくは3.5〜6.0at%、より好ましくは3.8〜5.8at%含有する合金を挙げることができる。このような合金としては、具体的には、AM20、AZ31B、AM60B、及びAZ91Dを挙げることができる。このような合金は、市場の様々な製品からリサイクル可能であるため、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造コストを低減することができる。
【0055】
混合工程において用いられる組成原料は、Mgの含有量がMg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量がMg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で33.23〜33.83at%である。
【0056】
なお、Mgの含有量は、Mg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で66.27〜66.67at%であることが好ましく、このときのSiの含有量は、Mg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で33.33〜33.73at%であることが好ましい。
【0057】
(加熱溶融工程)
加熱溶融工程においては、Al、Mg、及びSiを含む組成原料を還元雰囲気下且つ好ましくは減圧下において、Mg及びAlの融点を超えSiの融点を下回る温度条件下で熱処理してAl、Mg、及びSiからなる合金を溶融合成することが好ましい。ここで、「還元雰囲気下」とは、特に水素ガスを5体積%以上含み、必要に応じてその他の成分として、不活性化ガスを含む雰囲気を指す。斯かる還元雰囲気下で加熱溶融工程を行うことにより、Mg、Al、及びSiを確実に反応させることでき、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を合成することができる。
【0058】
加熱溶融工程における圧力条件としては、大気圧でもよいが、1.33×10−3Pa〜大気圧が好ましく、安全性を考慮すれば、例えば0.08MPa程度の減圧条件とすることが好ましい。
また、加熱溶融工程における加熱条件としては、700℃以上1410℃未満、好ましくは1085℃以上1410℃未満で、例えば3時間程度熱処理することができる。ここで、熱処理の時間は2〜10時間であってもよい。熱処理を長時間のものとすることにより、得られるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料をより均一化することができる。なお、Alの融点は660.4℃、Siの融点は1410℃である。
【0059】
ここで、Mgの融点である693℃以上に加熱することによりMgが溶融した場合、Al及びSiがその中に溶け込んで反応を開始するが、反応速度がやや遅いものとなる。一方、Mgの沸点である1090℃以上に加熱した場合、反応速度は速いものとなるが、Mgが急激に蒸気となって飛散するおそれがあるので注意して合成する必要がある。
【0060】
また、組成原料を熱処理する際の昇温条件としては、例えば、150℃に達するまでは150〜250℃/hの昇温条件、1100℃に達するまでは350〜450℃/hの昇温条件を挙げることができ、熱処理後の降温条件としては、900〜1000℃/hの降温条件を挙げることができる。
【0061】
なお、加熱溶融工程を行う際には、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを備え、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で行う必要がある。このように研磨処理することで、組成原料の組成比率に近い組成比率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。これは、上記蓋部と上記開口部の辺縁との接触面において隙間が形成されず、耐熱容器が密閉されるため、蒸発したMgやAlの耐熱容器外への飛散を抑制することができるためと考えられる。
【0062】
上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面との研磨処理については特に限定されず、研磨処理されたものでありさえすればよい。しかし、特に、当該接触面の表面粗さRaを0.2〜1μmとすると密着状態を形成するのに好ましく、0.2〜0.5μmとすると更に好ましい。表面粗さが1μmを超えると、開口部の辺縁と蓋部との密着性が不十分になる場合がある。一方、表面粗さRaが0.2μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。また、上記接触面は、表面うねりRmaxが0.5〜3μmであることが好ましく、0.5〜1μmであることが更に好ましい。表面うねりRmaxが0.5μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。
【0063】
ここで、このような耐熱容器としては、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、白金、イリジウム、シリコンカーバイト、ボロンナイトライド、パイロライティックボロンナイトライド、パイロライティックグラファイト、パイロライティックボロンナイトライドコート、パイロライティックグラファイトコート、及び石英からなる密閉容器を挙げることができる。また、上記耐熱容器の寸法としては、容器本体が内径12〜300mm、外径15〜320mm、高さ50〜250mmで、蓋部の直径が15〜320mmのものを挙げることができる。
【0064】
更に、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とを密着させるため、必要に応じて、上記蓋部の上面を直接又は間接におもりにて加圧することができる。当該加圧の際の圧力は、1〜10kgf/cm2であることが好ましい。
【0065】
加熱溶融工程を還元雰囲気下において行うために使用するガスとしては、100体積%の水素ガスでもよいが、水素ガス5体積%以上を含む窒素ガス又はアルゴンガス等、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを挙げることができる。このように、加熱溶融工程を還元雰囲気下で行う理由としては、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造するにあたって、酸化ケイ素のみならず、酸化マグネシウムの生成を極力避ける必要があることを挙げることができる。
【0066】
加熱溶融された試料は、自然冷却及び強制冷却によって冷却することができる。
【0067】
(粉砕工程)
粉砕工程は、加熱溶融された試料を粉砕する工程である。粉砕工程においては、加熱溶融された試料を、微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することが好ましい。微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することにより、これを焼結する際に、粉砕された粒子同士がその表面の少なくとも一部において融着し、空隙(ボイド)の発生がほとんど観察されない程度に焼結することができ、理論値の約70%から理論値とほぼ同程度の密度を有する焼結体を得ることができる。
【0068】
粉砕した上記試料は、好ましくは、平均粒径が0.01〜100μmのものを使用することができる。具体的には、75μm篩パスの粒子を使用することができる。
【0069】
なお、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を熱電変換材料として利用する場合には、粉砕工程の後にドーパントを所定量添加することにより焼結工程でドーピングを行ってもよい。
【0070】
ドーパントの具体例としては、例えば、2価のMgサイトにドープするホウ素、ガリウム、インジウム等の3価のドーパント;4価のSiサイトにドープするリン、ビスマス等の5価のドーパントを挙げることができる。これらのドーパントの1種以上を必要量添加して、n型熱電変換材料として用いられるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造することができる。
【0071】
また、ドーパントの他の具体例としては、例えば、2価のMgサイトにドープするAg、Cu、Au等の1価のドーパント;4価のSiサイトにドープするホウ素、ガリウム、インジウム等の3価のドーパントを挙げることができる。これらのドーパントの1種以上を必要量添加して、p型熱電変換材料として用いられるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造することができる。
【0072】
加圧圧縮焼結して安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体が得られる限り、ドーパントとしては、Mg2Siを焼結する際に使用する反応装置等からアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料に溶け込んでドープされるドーパントが、焼結体のドーパントの全部であってもよく、焼結体のドーパントの一部であってもよい。
【0073】
なお、一般に、加熱溶融工程でドーパントを添加する場合、熱平衡状態下での固溶限界濃度まで可能であるが、後述する焼結工程でドーピングを行う場合、固溶限界濃度を超えてドーパントの添加を行うことができる。
【0074】
(焼結工程)
焼結工程は、粉砕した上記試料を焼結する工程である。焼結工程における焼結の条件としては、場合によってドーパントを添加した上記試料を、加圧圧縮焼結法により真空又は減圧雰囲気下で焼結圧力5〜60MPa、焼結温度600〜1000℃で焼結する方法を挙げることができる。
【0075】
焼結圧力が5MPa未満である場合、理論密度の約70%以上の十分な密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。一方、焼結圧力が60MPaを超える場合、コストの面で好ましくなく、実用的でない。また、焼結温度が600℃未満では、粒子同士が接触する面の少なくとも一部が融着して焼成された理論密度の70%から理論密度に近い密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。また、焼結温度が1000℃を超える場合には、温度が高すぎるために試料の損傷が生じるばかりでなく、場合によってはMgが急激に蒸気となって、飛散するおそれがある。
【0076】
具体的な焼結条件としては、例えば、焼結温度を600〜800℃の範囲内のものとし、焼結温度が600℃に近い温度にあるときには、焼結圧力を60MPaに近い圧力とし、焼結温度が800℃に近い温度であるときには、焼結圧力を5MPaに近い圧力として、5〜60分間程度、好ましくは10分間程度焼結する焼結条件を挙げることができる。斯かる焼結条件の下で焼結を行うことで、高い機械的強度と、理論密度とほぼ同等の密度とを有し、安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体を得ることができる。
【0077】
また、気体が存在する環境下で焼結工程を行う場合、窒素やアルゴン等の不活性ガスを使用した雰囲気下で焼結することが好ましい。
【0078】
焼結工程において、加圧圧縮焼結法を採用する場合、ホットプレス焼結法(HP)、熱間等方圧焼結法(HIP)、及び放電プラズマ焼結法を採用することができる。これらの中でも、放電プラズマ焼結法が好ましい。
【0079】
放電プラズマ焼結法は、直流パルス通電法を用いた加圧圧縮焼結法の一種で、パルス大電流を種々の材料に通電することによって加熱・焼結する方法であり、原理的には金属・グラファイト等の導電性材料に電流を流し、ジュール加熱により材料を加工・処理する方法である。
【0080】
このようにして得られた焼結体は、高い機械的強度を有し、且つ安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体となり、風化せず、耐久性に優れて、安定性及び信頼性に優れた熱電変換材料として使用できる。
【0081】
(熱電変換素子)
本発明に係る熱電変換素子は、熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、この熱電変換部が本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造されるものである。
【0082】
(熱電変換部)
熱電変換部としては、上記の焼結工程にて得られた焼結体を、ワイヤーソー等を用いて所望の大きさに切り出したものを用いることができる。
この熱電変換部は、通常、1種類の熱電変換材料を用いて製造されるが、複数種類の熱電変換材料を用いて複層構造を有する熱電変換部としてもよい。複層構造を有する熱電変換部は、焼結前の複数種類の熱電変換材料を所望の順序で積層した後、焼結することにより製造することができる。
【0083】
(電極)
上記第1電極及び第2電極の形成方法は特に限定されるものではないが、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換素子は、メッキ法により電極を形成できることが特徴の1つである。
通常、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれないため、メッキ法により接着性の高い電極を形成することが可能である。メッキ法としては、特に限定されないが、無電界ニッケルメッキが好ましい。
【0084】
メッキ法により電極を形成する前の焼結体の表面に、メッキを行うのに支障となる凹凸がある場合には、研磨して平滑にすることが好ましい。
このようにして得られたメッキ層付きの焼結体を、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
【0085】
また、第1電極及び第2電極は、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の焼結時に一体して形成することも可能である。即ち、電極材料、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料、電極材料をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得ることができる。
【0086】
本発明における加圧圧縮焼結法による電極の形成方法として、2つの方法について説明する。
第1の方法は、例えばグラファイトダイ及びグラファイト製パンチからなる円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、SiO2のような絶縁性材料粉末の層、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層、上記絶縁性材料粉末の層を所定の厚さで積層した後、加圧圧縮焼結を行う。
上記絶縁性材料粉末は、焼結装置から電極形成用金属粉末に電気が流れるのを防止し、溶融を防ぐために有効であり、焼結後、形成された電極から該絶縁性材料を分離する。
第1の方法においては、カーボンペーパーを絶縁性材料粉末層と電極形成用金属粉末層との間に挟み、さらに円筒型焼結用冶具の側内壁表面にカーボンペーパーを設置しておけば、粉末同士の混合を防止し、また焼結後に電極と絶縁材料層を分離するのに有効である。
このようにして得られた焼結体の上下表面の多くは、凹凸が形成されるため、研磨して平滑にする必要があり、その後、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
絶縁性材料粉末を用いない従来の方法によると、電流によって電極形成用金属粉末を溶融させてしまうため、大電流を使用できず電流の調整が難しく、したがって、得られた焼結体から電極が剥離してしまう問題があった。一方、第1の方法では絶縁性材料粉末層を設けることによって、大電流を用いることができ、その結果、初期の焼結体を得ることができる。
【0087】
第2の方法は、上記第1の方法における絶縁性材料粉末層を用いないで、円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層を積層し、上記電極形成用金属粉末の層に接する焼結用冶具の上記グラファイトダイの表面に、BNのような絶縁性、耐熱性、且つ離型性のセラミックス粒子を塗布又はスプレーして、加圧圧縮焼結を行う。この場合、第1の方法のようにカーボンペーパーを使用する必要はない。
この第2の方法は、第1の方法の利点を全て有する上に、得られた焼結体の上下表面が平滑であるため、殆ど研磨する必要がないという利点を有する。
得られた焼結体を所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子を作製する方法は上記第1の方法と同様である。
【0088】
(熱電変換モジュール)
本発明に係る熱電変換モジュールは、上記のような本発明に係る熱電変換素子を備えるものである。
【0089】
熱電変換モジュールの一例としては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料から得られたn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0090】
また、熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料から得られたn型半導体がn型熱電変換部103の熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0091】
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、電気伝導率σが高い材料は、無次元性能指数も高くなる傾向にあるため、本発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0093】
<<試験例1;熱電特性の測定>>
<実施例1>
[混合工程]
高純度シリコン36.23質量部、マグネシウム62.72質量部、及びアルミニウム1.06質量部を混合し、MgとSiとの組成比が、Mg:Si=66.0:33.0、Alの含有量が1.0at%の組成原料(1.0at%Al、66.0at%Mg、33.0at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさ1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、アルミニウムとしては、フルウチ化学株式会社社製で、純度が99.99%、大きさ3〜7mmのチップ状のものを用いた。
【0094】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kgf/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0095】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0096】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。次いで、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0097】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いてアルゴン雰囲気下で焼結を行い、焼結体を得た。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:750℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:100℃/min×5min(〜500℃)
0℃/min×10min(500℃)
20℃/min×12.5min(500〜750℃)
0℃/min×2min(750℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0098】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.01で示すものとする。
【0099】
<実施例2>
混合工程において、アルミニウムの添加量を2.11質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を2.0at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0100】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.02で示すものとする。
【0101】
<実施例3>
混合工程において、アルミニウムの添加量を3.16質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を3.0at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0102】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.03で示すものとする。
【0103】
<実施例4>
混合工程において、アルミニウムの添加量を6.11質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を5.0at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0104】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.05で示すものとする。
【0105】
<実施例5>
混合工程において、アルミニウムの添加量を10.5質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を10at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0106】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.10で示すものとする。
【0107】
<実施例6>
混合工程において、高純度シリコン36.44g、及びアルミニウムを含有するマグネシウム合金(AM60)63.58gを混合し、MgとSiとの組成比を、Mg:Si=66.0:33.0、Alの含有量を3.8at%とした組成原料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0108】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.038で示すものとする。
【0109】
<実施例7>
混合工程において、高純度シリコン36.28g、及びアルミニウムを含有するマグネシウム合金(AZ91)63.75gを混合し、MgとSiとの組成比を、Mg:Si=66.0:33.0、Alの含有量を5.8at%とした組成原料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0110】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.058で示すものとする。
【0111】
<比較例1>
混合工程において、アルミニウムを添加しなかった点以外は、実施例1と同様の方法により、マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0112】
なお、図6〜図9において、本比較例に由来するサンプルはy=0で示すものとする。
【0113】
<比較例2>
混合工程において、アルミニウムの添加量を0.16質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を0.15at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0114】
なお、図6〜図9において、本比較例に由来するサンプルはy=0.0015で示すものとする。
【0115】
<比較例3>
混合工程において、アルミニウムの添加量を0.35質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を0.33at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0116】
なお、図6〜図9において、本比較例に由来するサンプルはy=0.0033で示すものとする。
【0117】
<評価>
[ゼーベック係数、熱伝導率、及び電気伝導率の測定]
実施例1〜7、比較例1〜3で得られた焼結体を、熱起電力・熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「ZEM2」)及びレーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「TC・7000H」)を用い、動作温度330〜860Kにおけるゼーベック係数α、熱伝導率κ、及び電気伝導率σを測定すると共に、300Kにおける電気伝導率を別途測定した。測定した各種パラメーターを元に、上記数式(1)に従って、無次元性能指数ZTを算出した。結果を表1及び図6〜図9に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1より、組成原料中のAlの含有量が1〜10at%である実施例1〜7のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、比較例1〜3の複合材料と比較して優れた熱電変換性能が得られていることが分かる。この結果より、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、熱電変換材料として好適に使用できることが分かる。
【0120】
<<試験例2;塑性の評価>>
試験例1に倣って、Alが0.0at%、1.0at%、3.0at%、5.8at%、又は10at%の組成原料から、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)又はマグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。これらの各焼結体につき、ダイヤモンドワイヤーソーを用いて切断し、切断後の断面におけるクラックの有無を調べた。ここで、クラックが入ったものを×、クラックが入っていないものを○とした。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
表2より、組成原料中のAlの含有量が1〜10at%である本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、マグネシウム・ケイ素複合材料と比べても優れた塑性を有することが分かる。この結果より、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、熱電変換素子への加工が容易であると推察される。
【0123】
<<試験例3;圧縮強度の評価>>
試験例1の実施例2,6,7に倣って、Alが2at%、3.8at%、又は5.8at%の組成原料から、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。これらの各焼結体につき、ダイヤモンドワイヤーソーを用いて2.7mm×2.7mm×10mmの大きさに切断し、オートグラフ(島津製作所製、「AG−10TA」)を用いて圧縮強度(N)を測定した。このときの試験速度は0.375mm/minとした。なお、測定は4回行い、最高値及び最低値を省いた2点の測定値及びその平均値を求めた。結果を図10に示す。
【0124】
図10より、組成原料中のAlの含有量が3.5〜6.0at%の範囲では、圧縮強度が特に優れることが分かる。この結果より、Alの含有量が3.5〜6.0at%である組成原料を用いて調製したアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)は、例えばブレードソーによって焼結体を所望の大きさに切り出す際にも、素子が破損することを防止できると考えられる。
なお、図示しないが、組成原料中のAlの含有量が6.0at%を超えると、圧縮強度は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、電気伝導率が高い材料は無次元性能指数も高くなる傾向にあるため、本発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【符号の説明】
【0126】
101 n型熱電変換部
1015,1016 電極
102 p型熱電変換部
1025,1026 電極
103 n型熱電変換部
1035,1036 電極
3 負荷
4 直流電源
10 グラファイトダイ
11a,11b グラファイト製パンチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料;熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール;並びにアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりに応じて、各種のエネルギーを効率的に利用する様々な手段が検討されている。特に、産業廃棄物の増加等に伴って、これらを焼却する際に生じる廃熱の有効利用が課題となっている。例えば大型廃棄物焼却施設では、廃熱により高圧の蒸気を発生させ、この蒸気により蒸気タービンを回転させて発電することにより廃熱回収が行われている。しかし、廃棄物焼却施設の大多数を占める中型・小型廃棄物焼却施設では、廃熱の排出量が少ないため、蒸気タービン等により発電する廃熱の回収方法は採用できていない。
【0003】
このような中型・小型の廃棄物焼却施設において採用することが可能な廃熱を利用した発電方法としては、例えば、ゼーベック効果或いはペルチェ効果を利用して可逆的に熱電変換を行う熱電変換材料・熱電変換素子・熱電変換モジュールを用いた方法が提案されている。
【0004】
熱電変換モジュールとしては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0005】
ここで、図1に示すように、電極1015,1025の側を加熱し、電極1016,1026の側から放熱することで、電極1015,1025と、電極1016,1026との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、熱励起されたキャリアによってp型熱電変換部102がn型熱電変換部101よりも高電位となる。このとき、電極1016と電極1026との間に負荷として抵抗3を接続することで、p型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと電流が流れる。
【0006】
一方、図2に示すように、直流電源4によってp型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において吸熱作用が生じ、電極1016,1026において発熱作用が生じる。また、n型熱電変換部101からp型熱電変換部102へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において発熱作用が生じ、電極1016,1026において吸熱作用が生じる。
【0007】
熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる(例えば特許文献1を参照)。この熱電変換モジュールでは、熱伝導率の小さいn型半導体のみが熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0008】
この場合、図3に示すように、電極1035側を加熱し、電極1036側から放熱することで、電極1035と電極1036との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、電極1035側が電極1036側よりも高電位となる。このとき、電極1035と電極1036との間に負荷として抵抗3を接続することで、電極1035側から電極1036側へと電流が流れる。
【0009】
一方、図4に示すように、直流電源4によって電極1036側からn型熱電変換部103を経て電極1035側へと直流電流を流すことで、電極1035において吸熱作用が生じ、電極1036において発熱作用が生じる。また、直流電源4によって電極1035側からn型熱電変換部103を経て電極1036へと直流電流を流すことで、電極1035において発熱作用が生じ、電極1036において吸熱作用が生じる。
【0010】
このように極めてシンプルな構成で効率的に熱電変換を行うことができる熱電変換素子は、従来特殊な用途を中心に応用展開されている。
【0011】
ここで、従来、Bi−Te系、Co−Sb系、Zn−Sb系、Pb−Te系、Ag−Sb−Ge−Te系等の熱電変換材料により、燃料電池、自動車、ボイラー・焼却炉・高炉等の約200℃から800℃程度の廃熱源を利用して電気に変換する試みが行われてきた。しかし、このような熱電変換材料には有害物質が含まれるため、環境負荷が大きくなるという問題があった。
【0012】
また、高温用途で用いるものとしては、B4C等、ホウ素を多量に含むホウ化物、LaS等のレアアース金属カルコゲナイト等が研究されているが、B4CやLaS等の金属間化合物を主体とする非酸化物系の材料は、真空中で比較的高い性能を発揮するものの、高温下で結晶相の分解が生じる等、高温領域での安定性が劣るという問題があった。
【0013】
一方、環境負荷が少ないMg2Si(例えば特許文献2及び3、非特許文献1〜3を参照)、Mg2Si1−xCx(例えば非特許文献4を参照)等のシリサイド系(珪化物系)の金属間化合物を含む材料も研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−274578号公報
【特許文献2】特開2005−314805号公報
【特許文献3】国際公開第03/027341号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Semiconducting Properties of Mg2Si Single Crystals Physical Review Vol.109,No.6,March 15,1958,p.1909−1915
【非特許文献2】Seebeck Effect In Mg2Si Single Crystals J.Phys.Chem.Solids Program Press 1962.Vol.23,pp.601−610
【非特許文献3】Bulk Crystals Growth of Mg2Si by the vertical Bridgman method Science Direct Thin Solid Films 461(2004)86−89
【非特許文献4】Thermoelectric Properties of Mg2Si Crystal Grown by the Bridgeman method
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、上記Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料は、熱電変換性能が低いといった問題点があり、Mgを含有するシリサイド系の金属間化合物を含む材料を実際に熱電変換モジュールに実用化するには至っていなかった。
【0017】
例えば、特許文献2,3に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料については、これが有する熱電特性については、全く検討されていない。しかし、本発明者らが検討したところによれば、特許文献2,3に記載のマグネシウム−ケイ素複合材料は、本願で必要とされるマグネシウム−ケイ素複合材料の特性を有しないものであった。
【0018】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、熱電変換モジュールの材料として好適に使用可能なアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料であって、優れた熱電変換特性を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、Al、Mg、及びSiからなる合金を含むアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が優れた熱電変換特性を有すると共に、熱電変換性能を決定する要因のうち、特に電気伝導率が高いものであることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0020】
[1] Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmであるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【0021】
[1]に記載の発明は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、熱電変換材料の熱電変換特性を示す性能指数は、一般に以下の数式(1)によって導出され、上記性能指数に絶対温度Tを乗じた数値が無次元性能指数ZTとなる。
【数1】
[上記式(1)において、αはゼーベック係数を、σは電気伝導率を、κは熱伝導率を示す。]
【0022】
上記数式(1)から明らかなように、電気伝導率が高い材料は無次元性能指数も高くなる傾向にある。このため、[1]に記載の発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【0023】
なお、[1]に記載の発明における複合材料は、「Al、Mg、及びSiからなる合金」を含むものであり、例えばMg2Si等のマグネシウムシリサイドに、不純物程度のアルミニウムを含有する、アルミニウムをドープした材料とは異なるものである。本発明において、上記複合材料としては、通常、Al元素の含有量が0.5at%以上のものを指す。
【0024】
[2] Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料から合成される[1]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【0025】
[2]に記載の発明は、[1]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造する際の組成原料を規定したものである。したがって、[2]に記載の発明によれば、[1]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0026】
[3] 前記組成原料中のAlの含有量が3.5〜6.0at%である[2]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【0027】
[3]に記載の発明は、[2]に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造する際の組成原料中の好ましいAlの含有量を規定したものである。この[3]に記載の発明によれば、[2]に記載の発明の効果に加え、焼結体の機械的強度に優れるという効果を得ることができる。
【0028】
[4] Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法。
【0029】
[4]に記載の発明は、[1]又は[2]に記載の発明を、製造方法の発明として規定したものである。したがって、[4]に記載の発明によれば、[1]又は[2]に記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0030】
[5] [1]から[3]のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【0031】
[6] 熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、前記熱電変換部が[1]から[3]のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【0032】
[7] [6]に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【0033】
[5]から[7]に記載の発明は、[1]から[3]のいずれかに記載の発明を熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの発明として規定したものである。したがって、[5]から[7]に記載の発明によれば、[1]から[3]のいずれかに記載の発明と同等の効果を得ることができる。
【0034】
[8] [1]から[3]のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【0035】
本発明に係るマグネシウム−ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、電気伝導率が高い材料は無次元性能指数も高くなる傾向にあるため、本発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図2】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図3】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図4】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図5】焼結装置の一例を示す図である。
【図6】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における無次元性能指数と温度との関係を示す図である。
【図7】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における電気伝導率とアルミニウムの組成比との関係を示す図である。
【図8】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における無次元性能指数と電気伝導率との関係を示す図面である。
【図9】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における無次元性能指数とアルミニウムの組成比との関係を示す図である。
【図10】本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料における圧縮強度とアルミニウムの組成比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について図面を挙げて詳細に説明する。
【0039】
<アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料>
[アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の特性]
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmである。ここで、熱電変換材料の性能指数を示す上記の数式(1)から明らかなように、電気伝導率σが高い材料は、性能指数も高くなる傾向にある。このため、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、優れた熱電変換性能を有する傾向にある。アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が優れた電気伝導率を示すことにより、例えば、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。なお、上記電気伝導率は、1100〜2500S/cmであることが好ましく、1200〜2000S/cmであることが更に好ましい。
【0040】
ここで、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、組成原料を加熱溶融し、好ましくは加熱溶融後の試料を粉砕した後のものであっても、粉砕後の試料を焼結した後のものであってもよいが、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の電気伝導率に言及するとき、Al、Mg、及びSiを含む組成原料を加熱溶融し、加熱溶融後の試料を粉砕して、粉砕後の試料を焼結した後に測定されたものを指すものとする。同様に、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の無次元性能指数に言及するとき、Al、Mg、及びSiを含む組成原料を加熱溶融し、加熱溶融後の試料を粉砕して、粉砕後の試料を焼結した後に測定されたものを指すものとする。
【0041】
すなわち、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料とは、組成原料の加熱溶融物、当該加熱溶融物の粉砕物及び当該粉砕物の焼結体を包含した意味をなし、これらの加熱溶融物、粉砕物、及び焼結体は、それぞれ単独で商品としての価値を有するものである。本発明に係る熱電変換材料自体及び熱電変換素子を構成する熱電変換部は、当該焼結体から構成されるものである。
【0042】
上述したとおり、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、「Al、Mg、及びSiからなる合金」を含むものであり、例えばMg2Si等のマグネシウムシリサイドに、不純物程度のAlを含有する、Alをドープした材料とは異なるものである。本発明において上記複合材料としては、通常、Alの含有量が0.5at%以上のものを指す。
【0043】
また、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、860Kにおける無次元性能指数が0.47以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましい。無次元性能指数が上記範囲内にあることにより、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を熱電変換材料として用いたときに、優れた熱電変換性能を得ることができる。
【0044】
なお、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、インゴット状のもの、粉末状のもの、粉末状のものを焼結したもの等、いかなる形態のものであってもよいが、粉末状のものを焼成したものであることが好ましい。更に、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の用途としては、好ましくは、後述する熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールの用途を挙げることができるが、このような用途に限定されるものではなく、例えば、耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、シラン発生装置等の用途に用いることもできる。
【0045】
更に、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、機械的強度に優れるものである。このため、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、これを容易に熱電変換素子等に加工することができる。
【0046】
<熱電変換材料、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール>
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、熱電変換材料として好適に使用できるものである。即ち、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、300Kにおける電気伝導率が1000〜3000S/cmのものであるので、熱電変換性能に優れる傾向にあり、これを熱電変換材料として熱電変換素子、熱電変換モジュールに使用する場合に、高い熱電変換性能を得ることができる。
【0047】
<アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法等>
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法は、Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料を、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを有し、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するものである。
【0048】
また、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法は、加熱溶融工程において得られた試料を粉砕する粉砕工程と、粉砕された上記試料を焼結する焼結工程とを有することが好ましい。
【0049】
なお、組成原料中におけるAlの含有量は、3.5〜6.0at%であることがより好ましく、3.8〜5.8at%であることが更に好ましい。Alの含有量をこのような範囲とすることにより、焼結体の機械的強度に優れるようになる。したがって、例えばブレードソーによって焼結体を所望の大きさに切り出す際にも、素子が破損することを防止できる。
【0050】
(混合工程)
混合工程においては、Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合して、Alの含有量が1〜10at%、好ましくは3.5〜6.0at%、より好ましくは3.8〜5.8at%である組成原料を得る。
【0051】
Siとしては、例えば3N以上、好ましくは6N以上のシリコンを利用することができる。ここで、シリコンとしては、具体的には、例えばLSI用高純度シリコン原料、太陽電池用高純度シリコン原料、高純度金属シリコン、高純度シリコンインゴット、高純度シリコンウエハ等を挙げることができる。
【0052】
混合工程においてAl及びMgの原料としてAl及びMgの混合物を用いる場合、Mgとしては、99.5wt%程度以上の純度を有するものであり、実質的に不純物を含有しないものである限り、特に限定されるものではないが、例えば、Si、Mn、Al、Fe、Cu、Ni、Cl等の不純物を含むものであっても差し支えない。
【0053】
また、混合工程においてAl及びMgの原料としてAl及びMgの混合物を用いる場合、Alとしては、99.5wt%程度以上の純度を有するものであり、実質的に不純物を含有しないものである限り、特に限定されるものではないが、例えば、Si、Mn、Mg、Fe、Cu、Ni、Cl等の不純物を含むものであっても差し支えない。
【0054】
更に、混合工程においてAl及びMgの原料としてAlを含有するMg合金を用いる場合には、Alを2.0〜8.2at%、好ましくは3.5〜6.0at%、より好ましくは3.8〜5.8at%含有する合金を挙げることができる。このような合金としては、具体的には、AM20、AZ31B、AM60B、及びAZ91Dを挙げることができる。このような合金は、市場の様々な製品からリサイクル可能であるため、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造コストを低減することができる。
【0055】
混合工程において用いられる組成原料は、Mgの含有量がMg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で66.17〜66.77at%であり、Siの含有量がMg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で33.23〜33.83at%である。
【0056】
なお、Mgの含有量は、Mg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で66.27〜66.67at%であることが好ましく、このときのSiの含有量は、Mg及びSiの合計含有量に基づく原子量比で33.33〜33.73at%であることが好ましい。
【0057】
(加熱溶融工程)
加熱溶融工程においては、Al、Mg、及びSiを含む組成原料を還元雰囲気下且つ好ましくは減圧下において、Mg及びAlの融点を超えSiの融点を下回る温度条件下で熱処理してAl、Mg、及びSiからなる合金を溶融合成することが好ましい。ここで、「還元雰囲気下」とは、特に水素ガスを5体積%以上含み、必要に応じてその他の成分として、不活性化ガスを含む雰囲気を指す。斯かる還元雰囲気下で加熱溶融工程を行うことにより、Mg、Al、及びSiを確実に反応させることでき、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を合成することができる。
【0058】
加熱溶融工程における圧力条件としては、大気圧でもよいが、1.33×10−3Pa〜大気圧が好ましく、安全性を考慮すれば、例えば0.08MPa程度の減圧条件とすることが好ましい。
また、加熱溶融工程における加熱条件としては、700℃以上1410℃未満、好ましくは1085℃以上1410℃未満で、例えば3時間程度熱処理することができる。ここで、熱処理の時間は2〜10時間であってもよい。熱処理を長時間のものとすることにより、得られるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料をより均一化することができる。なお、Alの融点は660.4℃、Siの融点は1410℃である。
【0059】
ここで、Mgの融点である693℃以上に加熱することによりMgが溶融した場合、Al及びSiがその中に溶け込んで反応を開始するが、反応速度がやや遅いものとなる。一方、Mgの沸点である1090℃以上に加熱した場合、反応速度は速いものとなるが、Mgが急激に蒸気となって飛散するおそれがあるので注意して合成する必要がある。
【0060】
また、組成原料を熱処理する際の昇温条件としては、例えば、150℃に達するまでは150〜250℃/hの昇温条件、1100℃に達するまでは350〜450℃/hの昇温条件を挙げることができ、熱処理後の降温条件としては、900〜1000℃/hの降温条件を挙げることができる。
【0061】
なお、加熱溶融工程を行う際には、開口部とこの開口部を覆う蓋部とを備え、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で行う必要がある。このように研磨処理することで、組成原料の組成比率に近い組成比率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。これは、上記蓋部と上記開口部の辺縁との接触面において隙間が形成されず、耐熱容器が密閉されるため、蒸発したMgやAlの耐熱容器外への飛散を抑制することができるためと考えられる。
【0062】
上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面との研磨処理については特に限定されず、研磨処理されたものでありさえすればよい。しかし、特に、当該接触面の表面粗さRaを0.2〜1μmとすると密着状態を形成するのに好ましく、0.2〜0.5μmとすると更に好ましい。表面粗さが1μmを超えると、開口部の辺縁と蓋部との密着性が不十分になる場合がある。一方、表面粗さRaが0.2μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。また、上記接触面は、表面うねりRmaxが0.5〜3μmであることが好ましく、0.5〜1μmであることが更に好ましい。表面うねりRmaxが0.5μm未満の場合、必要以上の研磨を行うこととなり、コスト面で好ましくない。
【0063】
ここで、このような耐熱容器としては、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、白金、イリジウム、シリコンカーバイト、ボロンナイトライド、パイロライティックボロンナイトライド、パイロライティックグラファイト、パイロライティックボロンナイトライドコート、パイロライティックグラファイトコート、及び石英からなる密閉容器を挙げることができる。また、上記耐熱容器の寸法としては、容器本体が内径12〜300mm、外径15〜320mm、高さ50〜250mmで、蓋部の直径が15〜320mmのものを挙げることができる。
【0064】
更に、上記開口部の辺縁における上記蓋部への接触面と、上記蓋部における上記開口部への接触面とを密着させるため、必要に応じて、上記蓋部の上面を直接又は間接におもりにて加圧することができる。当該加圧の際の圧力は、1〜10kgf/cm2であることが好ましい。
【0065】
加熱溶融工程を還元雰囲気下において行うために使用するガスとしては、100体積%の水素ガスでもよいが、水素ガス5体積%以上を含む窒素ガス又はアルゴンガス等、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを挙げることができる。このように、加熱溶融工程を還元雰囲気下で行う理由としては、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造するにあたって、酸化ケイ素のみならず、酸化マグネシウムの生成を極力避ける必要があることを挙げることができる。
【0066】
加熱溶融された試料は、自然冷却及び強制冷却によって冷却することができる。
【0067】
(粉砕工程)
粉砕工程は、加熱溶融された試料を粉砕する工程である。粉砕工程においては、加熱溶融された試料を、微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することが好ましい。微細で、狭い粒度分布を有する粒子に粉砕することにより、これを焼結する際に、粉砕された粒子同士がその表面の少なくとも一部において融着し、空隙(ボイド)の発生がほとんど観察されない程度に焼結することができ、理論値の約70%から理論値とほぼ同程度の密度を有する焼結体を得ることができる。
【0068】
粉砕した上記試料は、好ましくは、平均粒径が0.01〜100μmのものを使用することができる。具体的には、75μm篩パスの粒子を使用することができる。
【0069】
なお、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を熱電変換材料として利用する場合には、粉砕工程の後にドーパントを所定量添加することにより焼結工程でドーピングを行ってもよい。
【0070】
ドーパントの具体例としては、例えば、2価のMgサイトにドープするホウ素、ガリウム、インジウム等の3価のドーパント;4価のSiサイトにドープするリン、ビスマス等の5価のドーパントを挙げることができる。これらのドーパントの1種以上を必要量添加して、n型熱電変換材料として用いられるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造することができる。
【0071】
また、ドーパントの他の具体例としては、例えば、2価のMgサイトにドープするAg、Cu、Au等の1価のドーパント;4価のSiサイトにドープするホウ素、ガリウム、インジウム等の3価のドーパントを挙げることができる。これらのドーパントの1種以上を必要量添加して、p型熱電変換材料として用いられるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を製造することができる。
【0072】
加圧圧縮焼結して安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体が得られる限り、ドーパントとしては、Mg2Siを焼結する際に使用する反応装置等からアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料に溶け込んでドープされるドーパントが、焼結体のドーパントの全部であってもよく、焼結体のドーパントの一部であってもよい。
【0073】
なお、一般に、加熱溶融工程でドーパントを添加する場合、熱平衡状態下での固溶限界濃度まで可能であるが、後述する焼結工程でドーピングを行う場合、固溶限界濃度を超えてドーパントの添加を行うことができる。
【0074】
(焼結工程)
焼結工程は、粉砕した上記試料を焼結する工程である。焼結工程における焼結の条件としては、場合によってドーパントを添加した上記試料を、加圧圧縮焼結法により真空又は減圧雰囲気下で焼結圧力5〜60MPa、焼結温度600〜1000℃で焼結する方法を挙げることができる。
【0075】
焼結圧力が5MPa未満である場合、理論密度の約70%以上の十分な密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。一方、焼結圧力が60MPaを超える場合、コストの面で好ましくなく、実用的でない。また、焼結温度が600℃未満では、粒子同士が接触する面の少なくとも一部が融着して焼成された理論密度の70%から理論密度に近い密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。また、焼結温度が1000℃を超える場合には、温度が高すぎるために試料の損傷が生じるばかりでなく、場合によってはMgが急激に蒸気となって、飛散するおそれがある。
【0076】
具体的な焼結条件としては、例えば、焼結温度を600〜800℃の範囲内のものとし、焼結温度が600℃に近い温度にあるときには、焼結圧力を60MPaに近い圧力とし、焼結温度が800℃に近い温度であるときには、焼結圧力を5MPaに近い圧力として、5〜60分間程度、好ましくは10分間程度焼結する焼結条件を挙げることができる。斯かる焼結条件の下で焼結を行うことで、高い機械的強度と、理論密度とほぼ同等の密度とを有し、安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体を得ることができる。
【0077】
また、気体が存在する環境下で焼結工程を行う場合、窒素やアルゴン等の不活性ガスを使用した雰囲気下で焼結することが好ましい。
【0078】
焼結工程において、加圧圧縮焼結法を採用する場合、ホットプレス焼結法(HP)、熱間等方圧焼結法(HIP)、及び放電プラズマ焼結法を採用することができる。これらの中でも、放電プラズマ焼結法が好ましい。
【0079】
放電プラズマ焼結法は、直流パルス通電法を用いた加圧圧縮焼結法の一種で、パルス大電流を種々の材料に通電することによって加熱・焼結する方法であり、原理的には金属・グラファイト等の導電性材料に電流を流し、ジュール加熱により材料を加工・処理する方法である。
【0080】
このようにして得られた焼結体は、高い機械的強度を有し、且つ安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体となり、風化せず、耐久性に優れて、安定性及び信頼性に優れた熱電変換材料として使用できる。
【0081】
(熱電変換素子)
本発明に係る熱電変換素子は、熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、この熱電変換部が本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造されるものである。
【0082】
(熱電変換部)
熱電変換部としては、上記の焼結工程にて得られた焼結体を、ワイヤーソー等を用いて所望の大きさに切り出したものを用いることができる。
この熱電変換部は、通常、1種類の熱電変換材料を用いて製造されるが、複数種類の熱電変換材料を用いて複層構造を有する熱電変換部としてもよい。複層構造を有する熱電変換部は、焼結前の複数種類の熱電変換材料を所望の順序で積層した後、焼結することにより製造することができる。
【0083】
(電極)
上記第1電極及び第2電極の形成方法は特に限定されるものではないが、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換素子は、メッキ法により電極を形成できることが特徴の1つである。
通常、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部にメッキ法で電極を形成しようとした場合、材料中に残留する金属マグネシウムに起因して水素ガスが発生し、メッキの接着性が悪くなる。一方、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造された熱電変換部の場合には、材料中に金属マグネシウムが殆ど含まれないため、メッキ法により接着性の高い電極を形成することが可能である。メッキ法としては、特に限定されないが、無電界ニッケルメッキが好ましい。
【0084】
メッキ法により電極を形成する前の焼結体の表面に、メッキを行うのに支障となる凹凸がある場合には、研磨して平滑にすることが好ましい。
このようにして得られたメッキ層付きの焼結体を、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
【0085】
また、第1電極及び第2電極は、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の焼結時に一体して形成することも可能である。即ち、電極材料、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料、電極材料をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得ることができる。
【0086】
本発明における加圧圧縮焼結法による電極の形成方法として、2つの方法について説明する。
第1の方法は、例えばグラファイトダイ及びグラファイト製パンチからなる円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、SiO2のような絶縁性材料粉末の層、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層、上記絶縁性材料粉末の層を所定の厚さで積層した後、加圧圧縮焼結を行う。
上記絶縁性材料粉末は、焼結装置から電極形成用金属粉末に電気が流れるのを防止し、溶融を防ぐために有効であり、焼結後、形成された電極から該絶縁性材料を分離する。
第1の方法においては、カーボンペーパーを絶縁性材料粉末層と電極形成用金属粉末層との間に挟み、さらに円筒型焼結用冶具の側内壁表面にカーボンペーパーを設置しておけば、粉末同士の混合を防止し、また焼結後に電極と絶縁材料層を分離するのに有効である。
このようにして得られた焼結体の上下表面の多くは、凹凸が形成されるため、研磨して平滑にする必要があり、その後、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が作製される。
絶縁性材料粉末を用いない従来の方法によると、電流によって電極形成用金属粉末を溶融させてしまうため、大電流を使用できず電流の調整が難しく、したがって、得られた焼結体から電極が剥離してしまう問題があった。一方、第1の方法では絶縁性材料粉末層を設けることによって、大電流を用いることができ、その結果、初期の焼結体を得ることができる。
【0087】
第2の方法は、上記第1の方法における絶縁性材料粉末層を用いないで、円筒型の焼結用冶具内にその底部から順次、Niのような電極形成用金属粉末の層、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の粉砕物の層、上記電極形成用金属粉末の層を積層し、上記電極形成用金属粉末の層に接する焼結用冶具の上記グラファイトダイの表面に、BNのような絶縁性、耐熱性、且つ離型性のセラミックス粒子を塗布又はスプレーして、加圧圧縮焼結を行う。この場合、第1の方法のようにカーボンペーパーを使用する必要はない。
この第2の方法は、第1の方法の利点を全て有する上に、得られた焼結体の上下表面が平滑であるため、殆ど研磨する必要がないという利点を有する。
得られた焼結体を所定の大きさにカットして、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子を作製する方法は上記第1の方法と同様である。
【0088】
(熱電変換モジュール)
本発明に係る熱電変換モジュールは、上記のような本発明に係る熱電変換素子を備えるものである。
【0089】
熱電変換モジュールの一例としては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料から得られたn型半導体及びp型半導体がそれぞれn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015,1025が、下端部には電極1016,1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0090】
また、熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料から得られたn型半導体がn型熱電変換部103の熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0091】
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、電気伝導率σが高い材料は、無次元性能指数も高くなる傾向にあるため、本発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0093】
<<試験例1;熱電特性の測定>>
<実施例1>
[混合工程]
高純度シリコン36.23質量部、マグネシウム62.72質量部、及びアルミニウム1.06質量部を混合し、MgとSiとの組成比が、Mg:Si=66.0:33.0、Alの含有量が1.0at%の組成原料(1.0at%Al、66.0at%Mg、33.0at%Si)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、マグネシウムとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさ1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、アルミニウムとしては、フルウチ化学株式会社社製で、純度が99.99%、大きさ3〜7mmのチップ状のものを用いた。
【0094】
[加熱溶融工程]
上記組成原料を、Al2O3製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。当該溶融ルツボは、開口部の辺縁の蓋部への接触面と、蓋部の開口部の辺縁への接触面とが、表面粗さRaが0.5μm、表面うねりRmaxが1.0μmとなるように研磨されたものを用いた。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kgf/cm2となるようにおもりで加圧した。
【0095】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0096】
その後、400℃/hで1100℃に達するまで加熱し、1100℃で3時間保持した。次いで、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却した。
【0097】
[粉砕工程・焼結工程]
加熱溶融後の試料は、陶製乳鉢を用いて75μmにまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、粉砕したマグネシウム−ケイ素複合材料1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチへのマグネシウム−ケイ素複合材料固着防止のためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いてアルゴン雰囲気下で焼結を行い、焼結体を得た。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:750℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:100℃/min×5min(〜500℃)
0℃/min×10min(500℃)
20℃/min×12.5min(500〜750℃)
0℃/min×2min(750℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0098】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.01で示すものとする。
【0099】
<実施例2>
混合工程において、アルミニウムの添加量を2.11質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を2.0at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0100】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.02で示すものとする。
【0101】
<実施例3>
混合工程において、アルミニウムの添加量を3.16質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を3.0at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0102】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.03で示すものとする。
【0103】
<実施例4>
混合工程において、アルミニウムの添加量を6.11質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を5.0at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0104】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.05で示すものとする。
【0105】
<実施例5>
混合工程において、アルミニウムの添加量を10.5質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を10at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0106】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.10で示すものとする。
【0107】
<実施例6>
混合工程において、高純度シリコン36.44g、及びアルミニウムを含有するマグネシウム合金(AM60)63.58gを混合し、MgとSiとの組成比を、Mg:Si=66.0:33.0、Alの含有量を3.8at%とした組成原料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0108】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.038で示すものとする。
【0109】
<実施例7>
混合工程において、高純度シリコン36.28g、及びアルミニウムを含有するマグネシウム合金(AZ91)63.75gを混合し、MgとSiとの組成比を、Mg:Si=66.0:33.0、Alの含有量を5.8at%とした組成原料を用いた点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0110】
なお、図6〜図9において、本実施例に由来するサンプルはy=0.058で示すものとする。
【0111】
<比較例1>
混合工程において、アルミニウムを添加しなかった点以外は、実施例1と同様の方法により、マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0112】
なお、図6〜図9において、本比較例に由来するサンプルはy=0で示すものとする。
【0113】
<比較例2>
混合工程において、アルミニウムの添加量を0.16質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を0.15at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0114】
なお、図6〜図9において、本比較例に由来するサンプルはy=0.0015で示すものとする。
【0115】
<比較例3>
混合工程において、アルミニウムの添加量を0.35質量部とし、組成原料中のアルミニウムの含有量を0.33at%とした点以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を得た。
【0116】
なお、図6〜図9において、本比較例に由来するサンプルはy=0.0033で示すものとする。
【0117】
<評価>
[ゼーベック係数、熱伝導率、及び電気伝導率の測定]
実施例1〜7、比較例1〜3で得られた焼結体を、熱起電力・熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「ZEM2」)及びレーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「TC・7000H」)を用い、動作温度330〜860Kにおけるゼーベック係数α、熱伝導率κ、及び電気伝導率σを測定すると共に、300Kにおける電気伝導率を別途測定した。測定した各種パラメーターを元に、上記数式(1)に従って、無次元性能指数ZTを算出した。結果を表1及び図6〜図9に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1より、組成原料中のAlの含有量が1〜10at%である実施例1〜7のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、比較例1〜3の複合材料と比較して優れた熱電変換性能が得られていることが分かる。この結果より、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、熱電変換材料として好適に使用できることが分かる。
【0120】
<<試験例2;塑性の評価>>
試験例1に倣って、Alが0.0at%、1.0at%、3.0at%、5.8at%、又は10at%の組成原料から、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)又はマグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。これらの各焼結体につき、ダイヤモンドワイヤーソーを用いて切断し、切断後の断面におけるクラックの有無を調べた。ここで、クラックが入ったものを×、クラックが入っていないものを○とした。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
表2より、組成原料中のAlの含有量が1〜10at%である本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、マグネシウム・ケイ素複合材料と比べても優れた塑性を有することが分かる。この結果より、本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、熱電変換素子への加工が容易であると推察される。
【0123】
<<試験例3;圧縮強度の評価>>
試験例1の実施例2,6,7に倣って、Alが2at%、3.8at%、又は5.8at%の組成原料から、アルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)を調製した。これらの各焼結体につき、ダイヤモンドワイヤーソーを用いて2.7mm×2.7mm×10mmの大きさに切断し、オートグラフ(島津製作所製、「AG−10TA」)を用いて圧縮強度(N)を測定した。このときの試験速度は0.375mm/minとした。なお、測定は4回行い、最高値及び最低値を省いた2点の測定値及びその平均値を求めた。結果を図10に示す。
【0124】
図10より、組成原料中のAlの含有量が3.5〜6.0at%の範囲では、圧縮強度が特に優れることが分かる。この結果より、Alの含有量が3.5〜6.0at%である組成原料を用いて調製したアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料(焼結体)は、例えばブレードソーによって焼結体を所望の大きさに切り出す際にも、素子が破損することを防止できると考えられる。
なお、図示しないが、組成原料中のAlの含有量が6.0at%を超えると、圧縮強度は低下した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明に係るアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料は、Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、高い電気伝導率を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料である。ここで、電気伝導率が高い材料は無次元性能指数も高くなる傾向にあるため、本発明によれば、熱電変換特性に優れたアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を得ることができる。
【符号の説明】
【0126】
101 n型熱電変換部
1015,1016 電極
102 p型熱電変換部
1025,1026 電極
103 n型熱電変換部
1035,1036 電極
3 負荷
4 直流電源
10 グラファイトダイ
11a,11b グラファイト製パンチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmであるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【請求項2】
Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料から合成される請求項1に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【請求項3】
前記組成原料中のAlの含有量が3.5〜6.0at%である請求項2に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【請求項4】
Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【請求項6】
熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、
前記熱電変換部が請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【請求項1】
Al、Mg、及びSiからなる合金を含み、300Kにおける電気伝導率σが1000〜3000S/cmであるアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【請求項2】
Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料から合成される請求項1に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【請求項3】
前記組成原料中のAlの含有量が3.5〜6.0at%である請求項2に記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料。
【請求項4】
Alを含有するMg合金、並びに/又はAl及びMgの混合物と、Siとを混合することにより得られ、Alの含有量が1〜10at%である組成原料を、開口部と前記開口部を覆う蓋部とを備え、前記開口部の辺縁における前記蓋部への接触面と、前記蓋部における前記開口部への接触面とが共に研磨処理された耐熱容器中で加熱溶融する工程を有するアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料からなる熱電変換材料。
【請求項6】
熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、
前記熱電変換部が請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料を用いて製造される熱電変換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム・マグネシウム・ケイ素複合材料が用いられてなる耐食性材料、軽量構造材、摩擦材、セラミックス基板、誘電体磁器組成物、水素吸蔵組成物、又はシラン発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−49538(P2011−49538A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167008(P2010−167008)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(591172526)昭和KDE株式会社 (17)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(591172526)昭和KDE株式会社 (17)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】
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