説明

アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法

【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金表層に形成されているアルミニウム酸化皮膜を除去して第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する工程、及び第1の無電解ニッケルめっき皮膜の表面に第2の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する工程により、アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。
【効果】アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理する際、めっき皮膜のクラックの発生を引き起こさず、また、シリコンウェハの反りを可及的に抑制してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法、特にウェハにUBM(アンダーバンプメタル)又はバンプをめっきにより形成する場合のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェハ上にUBM又はバンプを形成する方法として、ウェハ上にパターンニングされたアルミニウム薄膜電極に亜鉛置換処理を施して亜鉛皮膜を形成し、その後に無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法、上記亜鉛置換処理の代わりにパラジウム処理を施した後に無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法、又は、アルミニウム薄膜電極の表面をニッケルで直接置換した後に自己触媒型無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法等が用いられている。
【0003】
しかしながら、このような方法で形成した無電解ニッケルめっき皮膜には、無電解ニッケルめっき皮膜の内部応力により、めっき皮膜にクラックが発生したり、無電解ニッケルめっき皮膜を形成したシリコンウェハが反ってしまったりすることが問題となっていた。
【0004】
【特許文献1】特開2004−263267号公報
【特許文献2】特開2006−206985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理する際に、めっき皮膜のクラックの発生を引き起こさず、また、シリコンウェハの反りを可及的に抑制してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理する際、アルミニウム又はアルミニウム合金上に、特定の異なる2種の無電解ニッケル−リンめっき浴により、複層の無電解ニッケルめっき皮膜を順に形成することにより、めっき皮膜がクラックを発生せず、また、シリコンウェハの反りを低減してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供する。
請求項1:
少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物の上記アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成するアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法であって、
上記被処理物の上記アルミニウム又はアルミニウム合金表層に形成されているアルミニウム酸化皮膜を除去して上記アルミニウム又はアルミニウム合金上に、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及び/又はその塩とを含む第1の無電解ニッケル−リンめっき浴を用いて第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する第1ニッケルめっき工程、及び
上記第1の無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸及び/又はその塩とを含み、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及びその塩を含まない第2の無電解ニッケル−リンめっき浴を用いて第2の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する第2ニッケルめっき工程
を含むことを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
請求項2:
上記第1ニッケルめっき工程が、上記被処理物をアルミニウムと置換可能な金属を含むアルミニウム酸化皮膜用除去液に浸漬して、上記アルミニウム酸化皮膜を除去しつつ前記除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成する工程、
該置換金属層を、酸化作用を有する酸性液で除去する工程、及び
上記置換金属層が除去されて露出したアルミニウム又はアルミニウム合金上に第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する工程
を含むことを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
請求項3:
上記アルミニウム酸化皮膜用除去液が、アルミニウムと置換可能な金属の塩と、酸とを含有してなることを特徴とする請求項2記載の表面処理方法。
請求項4:
上記アルミニウム酸化皮膜用除去液が、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物と、該金属のイオンの可溶化剤と、アルカリとを含有してなり、pHが10〜13.5であることを特徴とする請求項2記載の表面処理方法。
請求項5:
上記アルミニウム酸化皮膜用除去液が、更に、界面活性剤を含有してなることを特徴とする請求項3又は4記載の表面処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理する際、めっき皮膜のクラックの発生を引き起こさず、また、シリコンウェハの反りを可及的に抑制してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の表面処理方法は、少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物の上記アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成するアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法であり、
上記被処理物の上記アルミニウム又はアルミニウム合金表層に形成されているアルミニウム酸化皮膜を除去して上記アルミニウム又はアルミニウム合金上に、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及び/又はその塩とを含む第1の無電解ニッケル−リンめっき浴を用いて第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する第1ニッケルめっき工程、及び
上記第1の無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸及び/又はその塩とを含み、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及びその塩を含まない第2の無電解ニッケル−リンめっき浴を用いて第2の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する第2ニッケルめっき工程
を含むものである。以下、上記各工程について説明する。
【0010】
[第1ニッケルめっき工程]
本発明においては、被処理物のアルミニウム又はアルミニウム合金表層に形成されているアルミニウム酸化皮膜を除去してアルミニウム又はアルミニウム合金上にまず、第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成するが、アルミニウム酸化皮膜の除去には、従来公知の方法を適用することができ、アルミニウム酸化皮膜を除去して露出したアルミニウム又はアルミニウム合金上に第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。
【0011】
この場合、被処理物をアルミニウムと置換可能な金属を含むアルミニウム酸化皮膜用除去液に浸漬して、アルミニウム酸化皮膜を除去しつつ除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成し、この置換金属層を、酸化作用を有する酸性液で除去して、置換金属層が除去されて露出したアルミニウム又はアルミニウム合金上に第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成することも可能である。
【0012】
このアルミニウム酸化皮膜用除去液としては、アルミニウムと置換可能な金属の塩と、酸と、好ましくは界面活性剤とを含有してなるもの(酸性除去液)、又はアルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物と、該金属のイオンの可溶化剤と、アルカリと、好ましくは界面活性剤とを含有してなり、pHが10〜13.5であるもの(アルカリ性除去液)を好適に用いることができる。
【0013】
(酸性除去液)
酸性除去液に含まれる金属塩を構成する金属としては、アルミニウムと置換可能な金属であれば特に制限はないが、アルミニウムよりもイオン化傾向の小さな金属であることが好ましく、例えば亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、錫、鉛、銅、水銀、銀、白金、金、パラジウム等が挙げられ、前記金属塩としては、このような金属の硝酸塩や硫酸塩等の水溶性塩が挙げられる。特には、硫酸塩が除去液の安定性やアルミニウム又はアルミニウム合金素材への攻撃性が少ないなどの理由により好ましい。これらは1種を単独で或いは2種以上を併用してもよい。中でも、銀、ニッケル、銅が、他の部位に析出するおそれが少ないため好ましく、特に銅、銀は、イオン化傾向がアルミニウムよりも大幅に小さいため、より置換反応が進行し易く、エッチング処理時間を短縮し得るため好適である。
【0014】
酸性除去液に用いられる金属塩の濃度としては、特に制限されるものではないが、金属量として通常1ppm以上、好ましくは10ppm以上、上限として通常10,000ppm以下、好ましくは5,000ppm以下である。金属塩の濃度が小さすぎると、素地のアルミニウムと充分に置換しない場合や、金属塩の補給を行う必要が生じる場合がある。一方、濃度が大きすぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金がウェハ上にパターンニングされた電極であるような場合には、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材を侵したり、或いは、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材上にはみ出して析出してしまう場合がある。
【0015】
酸性除去液に含まれる酸としては、特に限定されるものではないが、酸化膜を溶かす酸であることが必要で、例えば、硫酸、りん酸、塩酸、フッ化水素酸などが挙げられ、これらは1種を単独で或いは2種以上を併用してもよい。中でも、除去液の安定性や、アルミニウム又はアルミニウム合金素材への攻撃性が少ない等の観点からは、硫酸が好ましい。
【0016】
酸の除去液中の濃度としても特に制限されるものではないが、通常10g/L以上、好ましくは15g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。酸の濃度が小さすぎると、酸化膜が溶けず効果がない場合があり、一方、濃度が大きすぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材を侵す場合がある。
【0017】
(アルカリ性除去液)
アルカリ性除去液に含まれる金属塩又は金属酸化物を構成する金属としては、アルミニウムと置換可能な金属であれば特に制限はないが、アルミニウムよりもイオン化傾向の小さな金属であることが好ましく、例えばマンガン、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、錫、鉛、銅、水銀、銀、白金、金、パラジウム等が挙げられ、前記金属塩としては、このような金属の硝酸塩や硫酸塩等の水溶性塩が挙げられる。中でも、マンガン、亜鉛が、素地であるアルミニウムとの還元電位差が小さいため好ましい。
【0018】
アルカリ性除去液に用いられる金属塩又は金属酸化物の濃度としては、特に制限されるものではないが、金属量として通常1ppm(mg/L)以上、好ましくは10ppm(mg/L)以上、上限として通常10,000ppm(mg/L)以下、好ましくは5,000ppm(mg/L)以下である。金属塩又は金属酸化物の濃度が小さすぎると、素地のアルミニウムと充分に置換しない場合や、金属塩又は金属酸化物の補給を行う必要が生じる場合がある。一方、濃度が大きすぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金がウェハ上にパターンニングされた電極であるような場合には、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材を侵したり、或いは、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材上にはみ出して析出してしまう場合がある。
【0019】
アルカリ性除去液に含まれる金属イオンの可溶化剤としては、特に制限されるものではないが、通常の錯化剤、キレート剤が使用できる。具体的には、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸等のヒドロキシカルボン酸及びその塩、グリシン、アミノジカルボン酸、ニトリロ3酢酸、EDTA、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、ポリアミノポリカルボン酸等のアミノカルボン酸及びその塩、HEDP、アミノトリメチルホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチルホスホン酸等の亜りん酸系キレート剤及びその塩、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン系キレート剤などが使用できる。
【0020】
アルカリ性除去液に用いられる可溶化剤の濃度としては、特に制限されるものではないが、使用される金属塩に対して可溶化剤のトータル濃度が0.5〜10(モル比)、好ましくは0.8〜5(モル比)が良い。
【0021】
アルカリ性除去液に含まれるアルカリとしては、特に限定されるものではないが、酸化膜を溶かすアルカリ(塩基)であることが必要で、例えば、LiOH,NaOH、KOH等のアルカリ金属又はトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、コリン等の第4級アンモニウムの水酸化物などを用いることができる。なお、アルカリの添加量は、除去液のpHを規定の範囲とする量、即ち、pHを10〜13.5、好ましくは11〜13とする量である。pHが10未満であると溶解速度が著しく低下するおそれがあり、pHが13.5を超えると溶解速度が速くなりすぎて制御できない場合がある。
【0022】
上記酸化皮膜用除去液には、酸性除去液及びアルカリ性除去液のいずれにおいても、水濡れ性を与える観点から、界面活性剤が含まれることが好適である。用いられる界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合型活性剤のようなノニオン型界面活性剤、その他、アニオン型、カチオン型界面活性剤が挙げられ、均一処理性の観点から、中でもノニオン型、アニオン型が好ましい。これらは1種を単独で用いても或いは2種以上を併用してもよい。
【0023】
例えば、界面活性剤としてポリエチレングリコールを用いる場合、その分子量としては特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは200以上、上限として通常20,000以下、好ましくは6,000以下である。分子量が大きすぎると、溶解性が悪い場合があり、一方、分子量が小さすぎると、水濡れ性が与えられない場合がある。なお、ポリエチレングリコールとしては市販品を使用し得る。
【0024】
また、界面活性剤の除去液中の濃度としても特に制限されるものではないが、通常1ppm以上(mg/L)、好ましくは10ppm(mg/L)以上、上限として通常5,000ppm(mg/L)以下、好ましくは2,000ppm(mg/L)以下である。界面活性剤の除去液中の濃度が小さすぎると、界面活性剤の添加によって得られる水濡れ性の効果が低い場合があり、一方、濃度が大きすぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材上に置換金属が析出してしまう場合がある。
【0025】
なお、上記酸化皮膜用除去液は、酸性除去液及びアルカリ性除去液のいずれにおいても、操作の安全性の観点から水溶液として調製されることが好ましいが、その他の溶媒、例えばメタノール、エタノール、IPA等を用いたり、水との混合溶媒とすることも可能である。なお、これらの溶媒は1種を単独で或いは2種以上を併用してもよい。
【0026】
除去液にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を浸漬する際の浸漬条件としては、特に制限されるものではなく、除去すべきアルミニウム酸化皮膜の厚み等を鑑み適宜設定することができるが、通常1分以上、好ましくは2分以上、上限として通常20分以下、好ましくは15分以下である。浸漬時間が短すぎると、置換が進まずに酸化皮膜の除去が不充分となる場合があり、一方、浸漬時間が長すぎると、置換金属層の小さな穴から除去液が侵入し、アルミニウム又はアルミニウム合金が溶出してしまうおそれがある。
【0027】
また、浸漬時の温度としても、特に制限されるものではないが、通常20℃以上、好ましくは25℃以上、上限として通常100℃以下、好ましくは95℃以下である。浸漬温度が低すぎると、酸化皮膜を溶解できない場合があり、一方、浸漬温度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材を侵す場合がある。なお、浸漬時には、均一に処理するという観点から、液撹拌や被処理物の揺動を行うことが好ましい。
【0028】
上記酸化皮膜用除去液を用いた場合、アルミニウム酸化皮膜が除去されるとともに、アルミニウムと置換可能な金属の置換金属層が形成されるが、この置換金属層は、酸化作用を有する酸性液により除去することができ、置換金属層を除去したアルミニウム又はアルミニウム合金上に直接又は亜鉛置換処理やパラジウム処理を行った後にめっきを行うことができる。
【0029】
置換金属層を、酸化作用を有する酸性液で除去するに際しては、下地であるアルミニウム又はアルミニウム合金との反応性を緩和する観点から酸化作用を有する酸性液が用いられる。この場合、酸化作用を有する酸性液としては、硝酸等の酸化作用を有する酸又はその水溶液、硫酸、塩酸等の酸化作用を有さない酸又はその水溶液に酸化剤、例えば過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の1種又は2種以上を添加したもの等が好ましく使用される。この場合、酸は置換金属を溶解させる作用を有し、酸化剤はアルミニウム又はアルミニウム合金素地に対する反応性を緩和する作用を有する。なお、酸化剤のうちでは、水素と酸素とからなり、還元されると水になる点から過酸化水素が好ましく、また安定性があり、取り扱いが容易であるという点からは、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが好ましい。
【0030】
ここで、酸(及び酸化剤)として硝酸を用いる場合には、溶解液(水溶液)中の硝酸量として通常200ml/L以上、好ましくは300ml/L以上、上限として通常1,000ml/L以下、好ましくは700ml/L以下である。硝酸量が少なすぎると、酸化力が低く、反応が止まらない場合がある。なお、硝酸1,000ml/Lとは全量が硝酸である場合である。
【0031】
また、酸化剤を用いる場合の、溶解液中の酸化剤量としては通常50g/L以上、好ましくは75g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。酸化剤量が少なすぎると、酸化力が低く、反応が止まらない場合があり、一方、多すぎると、経済性が悪い場合がある。また、このように、酸化剤と共に用いられる塩酸、硫酸等の酸の濃度は、通常10g/L以上、好ましくは15g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。酸の濃度が小さすぎると、置換金属層が溶解し難い場合が生じ、一方、濃度が大きすぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材を侵食するおそれがある。なお、ここで用いる酸は、非酸化性のものであることが好ましいが、硝酸等の酸化性の酸であってもよく、また酸化性の酸を非酸化性の酸と混合して使用してもよい。
【0032】
このような溶解処理において、処理時間としても特に制限はなく、例えば5〜300秒で溶解処理を行うことができ、溶解処理温度としては、例えば10〜40℃の条件を採用することができる。また、溶解処理中、めっき被処理物は静止していても揺動していてもよく、液撹拌を行ってもよい。
【0033】
アルミニウム酸化皮膜を除去して露出したアルミニウム又はアルミニウム合金上には、第1の無電解ニッケルめっき皮膜が形成される。この第1の無電解ニッケルめっきには、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及び/又はその塩とを含む無電解ニッケル−リンめっき浴を用いる。
【0034】
第1の無電解ニッケル−リンめっき浴中の、水溶性ニッケル塩としては、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケルなどが挙げられる。めっき浴中の水溶性ニッケル塩の濃度はニッケルとして4〜7g/Lが好適である。
【0035】
また、次亜リン酸の塩としては、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸ニッケル等が挙げられる。この場合、めっき浴中の次亜リン酸及び/又はその塩の濃度は0.1〜0.3モル/Lであることが好ましい。
【0036】
一方、第1の無電解ニッケル−リンめっき浴は、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及び/又はその塩、即ち、分子中にカルボキシル基は有するが、アミノ基を有さない有機カルボン酸、例えば、通常、無電解ニッケル−リンめっき浴中に、錯化剤やpH緩衝剤として用いられる、クエン酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸やそれらの塩などを含む。めっき浴中のアミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及び/又はその塩の濃度は1〜50g/Lが好適である。
【0037】
なお、第1の無電解ニッケル−リンめっき浴においては、グリシン、アラニン、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の、分子中にアミノ基とカルボキシル基とを有するアミノカルボン酸及び/又はその塩を含んでいてもよい。それらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。この場合、めっき浴中のアミノカルボン酸及び/又はその塩の濃度は0.05〜2モル/Lであることが好ましい。
【0038】
第1の無電解ニッケル−リンめっき浴のpHは4.0〜6.5であることが好ましい。pHは、アンモニア水、水酸化ナトリウム等のアルカリ、硫酸、塩酸、硝酸等の酸で調整可能である。
【0039】
形成する第1の無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚は通常0.05〜5μm、より好ましくは0.5〜2μm程度であり、形成するめっき皮膜の膜厚に合わせて、めっき温度及びめっき時間が選定されるが、通常、めっき温度は70〜95℃、めっき時間は1〜30分である。
【0040】
なお、第1の無電解ニッケルめっきは、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に直接施すことができ、また、亜鉛置換処理、パラジウム処理等により、アルミニウム又はアルミニウム合金表面への活性化処理を行ってから第1の無電解ニッケルめっき処理を行ってもよい。このような活性化処理としては特に亜鉛置換処理、中でもアルカリ亜鉛置換処理を施すことにより、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に亜鉛被膜を形成することが、めっき皮膜の密着性向上の観点から好適である。
【0041】
ここで、亜鉛置換処理としては、具体的には亜鉛塩を含む溶液を用い、亜鉛を置換析出させる処理を行うことを指すものである。アルカリ亜鉛置換処理の場合には、アルカリ性の亜鉛酸溶液を用いるものであり、また、酸性亜鉛置換処理としては、酸性の亜鉛塩を含む溶液を用いて亜鉛を置換析出させる処理を行うもので、これらは公知の方法で行うことができる。更に、パラジウム処理としても、パラジウム塩を含む溶液を用いてパラジウムを置換析出させる処理を行うもので、公知の方法で行うことができる。
【0042】
[第2ニッケルめっき工程]
本発明においては、上記第1ニッケルめっき工程で形成した第1の無電解ニッケルめっき皮膜の表面に第2の無電解ニッケル−リンめっき浴を用いて第2の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。この第2の無電解ニッケルめっきには、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸及び/又はその塩とを含み、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及びその塩を含まない無電解ニッケル−リンめっき浴を用いる。
【0043】
第2の無電解ニッケル−リンめっき浴中の、水溶性ニッケル塩、並びに次亜リン酸及び/又はその塩については、上述した第1の無電解ニッケル−リンめっき浴と同様とすることができる。
【0044】
一方、アミノカルボン酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の、分子中にアミノ基とカルボキシル基とを有するアミノカルボン酸が好適であり、それらの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。この場合、めっき浴中のアミノカルボン酸又はその塩の濃度は0.2〜1モル/Lであることが好ましい。アミノカルボン酸又はその塩の濃度が0.2モル/Lよりも低いと、浴が白濁し、1モル/Lよりも濃度が高いと、めっき皮膜にクラックが発生する場合がある。また、濃度が0.2〜1モル/Lの範囲を外れると第2の無電解ニッケル−リンめっき皮膜が安定して得られない。
【0045】
なお、第2の無電解ニッケル−リンめっき浴は、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及びその塩を含まない。即ち、分子中にカルボキシル基は有するが、アミノ基を有さない有機カルボン酸、例えば、通常、無電解ニッケル−リンめっき浴中に、錯化剤やpH緩衝剤として用いられる、クエン酸、酢酸、コハク酸、リンゴ酸やそれらの塩などを含まないものである。
【0046】
第2の無電解ニッケル−リンめっき浴においては、更に、亜リン酸及び/又はその塩を含むことが好ましく、めっき浴中の亜リン酸及び/又はその塩の濃度は0.1〜1モル/Lであることが好ましい。
【0047】
第2の無電解ニッケル−リンめっき浴のpHは5〜6であることが好ましい。pHは、アンモニア水、水酸化ナトリウム等のアルカリ、硫酸、塩酸、硝酸等の酸で調整可能であるが、このpH調整剤としてアミノカルボン酸以外のカルボン酸は用いない。
【0048】
形成する第2の無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚は通常1〜10μm、より好ましくは3〜5μm程度であり、形成するめっき皮膜の膜厚に合わせて、めっき温度及びめっき時間が選定されるが、通常、めっき温度は70〜95℃、めっき時間は1〜60分である。
【0049】
本発明において、第1の無電解ニッケルめっき皮膜(第1層)は、厚さ方向に割れにくい一方、応力が強く、曲がりやすいため、厚く形成すると基板に反りを与えてしまう。これに対して、第2の無電解ニッケルめっき皮膜(第2層)は、応力が弱く、曲がりにくい反面、厚さ方向に割れ(クラック)を生じ易い。これら無電解ニッケルめっき皮膜の形状の違いは、アミノカルボン酸の多寡(又は有無)によって生じるものと考えられ、アルミニウム上に、まず、比較的平滑な表面が形成される第1層を形成することで、アルミニウム表面に由来する表面の凹凸が緩和され、この上に第2層を形成することで、第2層のクラックの発生を抑制することができる。
【0050】
このように第2の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後は、必要に応じ金めっき皮膜等の他のめっき皮膜を公知の方法で形成することができる。
【0051】
本発明が対象とする少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物としては、被処理物の全てがアルミニウム又はアルミニウム合金にて形成されていても、非アルミニウム材(例えばシリコン、FRA(プリント基板の基材))の表面の全部又は一部をアルミニウム又はアルミニウム合金で被覆してあるものでもよい。また、そのアルミニウムやアルミニウム合金の形態としても特に限定されず、例えば、ブランク材、圧延材、鋳造材、皮膜等に対して良好に適用することができる。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金の皮膜を非アルミニウム材表面に形成する場合、この皮膜の形成方法としても特に限定されるものではないが、その形成方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の気相めっき法が好適である。
【0052】
この皮膜の厚みとしては、アルミニウム又はアルミニウム合金素地を確実に残存させる観点から、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上である。なお、その厚みの上限は、特に制限されないが、通常100μm以下である。
【0053】
更に、上記皮膜の成分としても、アルミニウム又はアルミニウム合金であれば特に限定されるものではないが、例えばAl−Si(Si含有率0.5〜1.0重量%)、Al−Cu(Cu含有率0.5〜1.0重量%)等の合金皮膜に対しても適用可能である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0055】
なお、下記例で使用したエピタスNPRは下記のとおりである。
エピタスNPR−18
水溶性ニッケル塩として硫酸ニッケルを20g/L、次亜リン酸ナトリウムを25g/L、及び有機カルボン酸塩としてコハク酸を35g/L含み、pH4.6の無電解ニッケルめっき浴。
エピタスNPR−22
水溶性ニッケル塩として硫酸ニッケルを25g/L、次亜リン酸ナトリウムを20g/L、アミノカルボン酸類としてグリシンを25g/L含み、pH5.6の無電解ニッケルめっき浴。
エピタスNPR−29
水溶性ニッケル塩として硫酸ニッケルを20g/L、次亜リン酸ナトリウムを30g/L、及び有機カルボン酸塩としてクエン酸を50g/L含み、pH4.3の無電解ニッケルめっき浴。
エピタスNPR−28
水溶性ニッケル塩として硫酸ニッケルを20g/L、次亜リン酸ナトリウムを15g/L、及び有機カルボン酸塩としてりんご酸を30g/L含み、pH6.0の無電解ニッケルめっき浴。
【0056】
[実施例1]
めっき被処理物として、スパッタリング法により5μm厚みのアルミニウム層を被覆したシリコン板(厚み0.15mm)を用い、このアルミニウム層に対して、表1に示される処理を順に施した。得られためっき皮膜及びシリコン板の反りについて、評価した結果を表2に示す。
【0057】
【表1】

酸化皮膜除去液:金属塩として硫酸亜鉛を2g/L、可溶化剤としてEDTA・2Naを10g/L、界面活性剤としてPEG(ポリエチレングリコール)−1000を1g/L、アルカリとしてNaOHを含み、pHを12.4に調整した水溶液
【0058】
[実施例2]
(7)の第1無電解ニッケルめっきを、高リンタイプ エピタス NPR−29(上村工業株式会社製)を用いて膜厚1μmの条件とした以外は、実施例1と同様にして処理を施した。得られためっき皮膜及びシリコン板の反りについて、評価した結果を表2に示す。
【0059】
[実施例3]
(7)の第1無電解ニッケルめっきを、低リンタイプ エピタス NPR−28(上村工業株式会社製)を用いて膜厚1μmの条件とした以外は、実施例1と同様にして処理を施した。得られためっき皮膜及びシリコン板の反りについて、評価した結果を表2に示す。
【0060】
[実施例4]
(7)の第1無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚を2nm、(8)の第2の無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚を3nmとした以外は、実施例1と同様にして処理を施した。得られためっき皮膜及びシリコン板の反りについて、評価した結果を表2に示す。また、得られた無電解ニッケルめっき皮膜の表面の顕微鏡写真を図1に示す。
【0061】
[比較例1]
(7)の第1無電解ニッケルめっきを実施しなかった以外は、実施例1と同様にして処理を施した。得られためっき皮膜及びシリコン板の反りについて、評価した結果を表2に示す。また、得られた無電解ニッケルめっき皮膜の表面の顕微鏡写真を図2に示す。
【0062】
[比較例2]
(7)の第1無電解ニッケルめっきと、(8)の第2無電解ニッケルめっきの順序を入れ替えた以外は、実施例1と同様にして処理を施した。得られためっき皮膜及びシリコン板の反りについて、評価した結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
・2層めっきの外観:未着とムラなしを良好、未着又はムラありを不良とした。
・めっき皮膜のクラック:目視と実体顕微鏡により観察した。
・シリコン板の反り:めっき後のウェハ(シリコン板)を15mm×100mm角に切り出し、凸側を下にして、15mmの辺の一方を接地させた状態での反りを最小表示量0.01mmのデジタルノギスで測定した。他方の15mmの辺の接地面からの高さが0.01mm以下のものを「小さい」、0.02mm以上のものを「大きい」とした。
【0065】
図1と図2とで示されるように、実施例の無電解ニッケルめっき皮膜の表面にはクラックが見られないのに対し、比較例の無電解ニッケルめっき皮膜の表面には、ひび割れ様にクラックが発生していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例4において得られた無電解ニッケルめっき皮膜の表面の顕微鏡像である。
【図2】比較例1において得られた無電解ニッケルめっき皮膜の表面の顕微鏡像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物の上記アルミニウム又はアルミニウム合金上に無電解ニッケルめっき皮膜を形成するアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法であって、
上記被処理物の上記アルミニウム又はアルミニウム合金表層に形成されているアルミニウム酸化皮膜を除去して上記アルミニウム又はアルミニウム合金上に、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及び/又はその塩とを含む第1の無電解ニッケル−リンめっき浴を用いて第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する第1ニッケルめっき工程、及び
上記第1の無電解ニッケルめっき皮膜の表面に、水溶性ニッケル塩と、次亜リン酸及び/又はその塩と、アミノカルボン酸及び/又はその塩とを含み、アミノカルボン酸以外の有機カルボン酸及びその塩を含まない第2の無電解ニッケル−リンめっき浴を用いて第2の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する第2ニッケルめっき工程
を含むことを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項2】
上記第1ニッケルめっき工程が、上記被処理物をアルミニウムと置換可能な金属を含むアルミニウム酸化皮膜用除去液に浸漬して、上記アルミニウム酸化皮膜を除去しつつ前記除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成する工程、
該置換金属層を、酸化作用を有する酸性液で除去する工程、及び
上記置換金属層が除去されて露出したアルミニウム又はアルミニウム合金上に第1の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する工程
を含むことを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
【請求項3】
上記アルミニウム酸化皮膜用除去液が、アルミニウムと置換可能な金属の塩と、酸とを含有してなることを特徴とする請求項2記載の表面処理方法。
【請求項4】
上記アルミニウム酸化皮膜用除去液が、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物と、該金属のイオンの可溶化剤と、アルカリとを含有してなり、pHが10〜13.5であることを特徴とする請求項2記載の表面処理方法。
【請求項5】
上記アルミニウム酸化皮膜用除去液が、更に、界面活性剤を含有してなることを特徴とする請求項3又は4記載の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−190034(P2008−190034A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2833(P2008−2833)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】