説明

アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法

【課題】アルミニウム又はアルミニウム合金とめっき層との間に高い密着性が得られるアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供する。
【解決手段】少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物を含有する酸性又はアルカリ性のアルミニウム酸化皮膜除去液に浸漬し、アルミニウム又はアルミニウム合金表面にそのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成する工程、置換金属層を除去することなく亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程、置換亜鉛被膜と共に置換金属層を、酸化作用を有する液で除去する工程、及び、再び亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程を備えるアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法、特にウェハにUBM(アンダーバンプメタル)又はバンプをめっきにより形成する場合の前処理に有効なアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェハ上にUBM又はバンプを形成する方法として、ウェハ上にパターンニングされたアルミニウム薄膜電極に亜鉛置換処理を施して置換亜鉛被膜を形成し、その後に無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法、上記亜鉛置換処理の代わりにパラジウム処理を施した後に無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法、又は、アルミニウム薄膜電極の表面をニッケルで直接置換した後に自己触媒型無電解ニッケルめっきによりバンプを形成する方法等が用いられている。
【0003】
このようないずれの方法を用いてUBM又はバンプを形成する際においても、その前処理段階として、通常上記アルミニウム薄膜電極に対する脱脂処理、上記アルミニウム薄膜電極上のアルミニウム酸化皮膜や金属不純物等を除去する処理等が行われる。この場合、同じアルミニウム酸化皮膜であっても、硝酸浸漬等により生ずる極薄い厚みの酸化皮膜に対しては、その後工程でそのままめっき処理を施しても問題なくめっき処理を行うことが可能であるが、けずり工程や焼きなまし工程のような製造工程で生ずる強固なアルミニウム酸化皮膜が表面に残存する場合には、その後工程で形成されるめっき層の密着性が不充分となったり、めっき層に穴が生じたりする場合があり、はなはだしい場合はめっきが付かないことも生じる。従って、このような強固なアルミニウム酸化皮膜については事前にこれを完全に除去することが望まれる。
【0004】
このような問題に対処するため、アルミニウム酸化皮膜の溶解を行わずにドライプロセスでめっき下地を形成する方法(特許文献1:特開平11−87392号公報参照)が提案されている。しかし、この方法は工程が複雑である点、迅速性や生産コスト面で不利である点、更には、残存する酸化皮膜が電気を通さないため熱抵抗が増す結果、電気特性が悪くなる場合があるという点で、なお改善の余地を有するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平11−87392号公報
【特許文献2】特開2004−263267号公報
【特許文献3】特開2004−346405号公報
【特許文献4】特開2007−254866号公報
【非特許文献1】「コベルニクス」、Vol.13、p.6−8、株式会社コベルコ科研、OCT,2004
【非特許文献2】「密着性評価:m−ELT法」、[on line]、東芝ナノアナリシス株式会社技術資料、[平成20年7月22日検索]、インターネット<URL:http://www.nanoanalysis.co.jp/catalog/shoukai_melt.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、アルミニウム又はアルミニウム合金表面を過度にエッチングすることなく強固な酸化皮膜を容易、迅速、かつ確実に除去することができるアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物を含有する酸性又はアルカリ性のアルミニウム酸化皮膜除去液に、アルミニウム酸化皮膜が形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金表面を浸漬して、アルミニウム又はアルミニウム合金表面にそのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成したものに対し、形成された置換金属層を直ちに除去するのではなく、置換金属層を除去することなく亜鉛置換処理(ジンケート処理)を行って、置換亜鉛被膜を形成した後、置換亜鉛被膜と共に置換金属層を、酸化作用を有する液で除去し、再び置換亜鉛被膜を形成することが有効であることを見出した。即ち、この方法によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金表面の侵食を可及的に抑制しつつ、酸化皮膜を低温で、迅速に除去することが可能であり、更に、この方法により処理した置換亜鉛被膜が形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金にめっき層を形成すると、アルミニウム又はアルミニウム合金表面とめっき層との間に、高い密着性が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法を提供する。
請求項1:
(A)少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物を含有する酸性又はアルカリ性のアルミニウム酸化皮膜除去液に浸漬し、アルミニウム又はアルミニウム合金表面にそのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ前記除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成する工程、
(B)前記置換金属層を除去することなく亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程、
(C)前記置換亜鉛被膜と共に前記置換金属層を、酸化作用を有する液で除去する工程、及び
(D)再び亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程
を備えることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
請求項2:
前記(D)工程の後、前記置換亜鉛被膜の上にめっき層を形成することを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
請求項3:
前記(D)工程の後に、更に、
(E)前記置換亜鉛被膜を、酸化作用を有する液で除去する工程、及び
(F)更に、亜鉛置換処理を行って置換亜鉛被膜を形成する工程
を備え、(E)工程及び(F)工程の処理を順に1回ずつ、又は交互に各々2回以上ずつ繰り返して実施することを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
請求項4:
前記(F)工程の後、前記置換亜鉛被膜の上にめっき層を形成することを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面処理方法によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に、その侵食を可及的に抑制しつつ、除去液に含まれる金属の塩又は酸化物に由来する金属皮膜を形成することができ、しかも、この金属皮膜はアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を殆ど侵食することなく低温で、迅速に溶解除去することが可能であるため、アルミニウム又はアルミニウム合金の厚みが非常に薄い場合であっても、アルミニウム又はアルミニウム合金を確実に残存させつつその表面を活性化することができる。また、この方法により処理した置換亜鉛被膜が形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金にめっき層を形成すると、アルミニウム又はアルミニウム合金表面とめっき層との間に、高い密着性が得られる。更に、本発明の表面処理方法は、特にシリコンウェハ上に形成されたアルミニウム薄膜電極表面の活性化処理の際などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法は、
(A)少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物を含有する酸性又はアルカリ性のアルミニウム酸化皮膜除去液に浸漬し、アルミニウム又はアルミニウム合金表面にそのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ前記除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成する工程、
(B)前記置換金属層を除去することなく亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程、
(C)前記置換亜鉛被膜と共に前記置換金属層を、酸化作用を有する液で除去する工程、及び
(D)再び亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程
を備える。
【0011】
(A)工程は、少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物を含有する酸性又はアルカリ性のアルミニウム酸化皮膜除去液に浸漬して、アルミニウム又はアルミニウム合金表面にそのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ、当該被処理物のアルミニウム又はアルミニウム合金表面に、除去液に含まれる金属塩又は金属酸化物に由来する金属皮膜(置換金属層)を形成するものである。
【0012】
アルミニウム酸化皮膜除去液としては、例えば、特開2004−263267号公報(特許文献2)に記載されている除去液を用いることができ、具体的には、アルミニウムと置換可能な金属の塩と、酸とを含有するアルミニウム酸化皮膜除去液(第1の酸化皮膜除去液)を用いることができる。
【0013】
第1の酸化皮膜除去液(酸性除去液)に含まれる金属塩を構成する金属としては、アルミニウムと置換可能な金属であれば特に制限はないが、アルミニウムよりもイオン化傾向の小さな金属であることが好ましく、例えば亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、錫、鉛、銅、水銀、銀、白金、金、パラジウム等が挙げられ、前記金属塩としては、このような金属の硝酸塩や硫酸塩等の水溶性塩が挙げられる。特には、硫酸塩が除去液の安定性やアルミニウム又はアルミニウム合金素材への攻撃性が少ないなどの理由により好ましい。これらは1種を単独用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
中でも、銀、ニッケル、銅が、他の部位に析出するおそれが少ないため好ましく、特に銅、銀は、イオン化傾向がアルミニウムよりも大幅に小さいため、より置換反応が進行し易く、エッチング処理時間を短縮し得るため好適である。
【0015】
第1の酸化皮膜除去液に用いられる金属塩の濃度としては、特に制限されるものではないが、金属量として通常1ppm(mg/L)以上、好ましくは10ppm(mg/L)以上、上限として通常10,000ppm(mg/L)以下、好ましくは5,000ppm(mg/L)以下である。金属塩の濃度が低すぎると、素地のアルミニウムと充分に置換しない場合や、金属塩の補給を行う必要が生じる場合がある。一方、濃度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金がウェハ上にパターンニングされた電極であるような場合には、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材を侵したり、或いは、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材上にはみ出して析出してしまう場合がある。
【0016】
第1の酸化皮膜除去液に含まれる酸としては、特に限定されるものではないが、酸化膜を溶かす酸であることが必要で、例えば、硫酸、りん酸、塩酸、フッ化水素酸などが挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、除去液の安定性や、アルミニウム又はアルミニウム合金素材への攻撃性が少ない等の観点からは、硫酸が好ましい。
【0017】
酸の除去液中の濃度としても特に制限されるものではないが、通常10g/L以上、好ましくは15g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。pHは1以下になる。酸の濃度が低すぎると、酸化膜が溶けず効果がない場合があり、一方、濃度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材を侵す場合がある。
【0018】
また、アルミニウム酸化皮膜除去液としては、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物と、該金属のイオンの可溶化剤と、アルカリとを含有し、pHが10〜13.5であるアルミニウム酸化皮膜除去液(第2の酸化皮膜除去液)を用いることができる。
【0019】
第2の酸化皮膜除去液(アルカリ性除去液)に含まれる金属塩又は金属酸化物を構成する金属としては、アルミニウムと置換可能な金属であれば特に制限はないが、アルミニウムよりもイオン化傾向の小さな金属であることが好ましく、例えばマンガン、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、錫、鉛、銅、水銀、銀、白金、金、パラジウム等が挙げられ、前記金属塩としては、このような金属の硝酸塩や硫酸塩等の水溶性塩が挙げられる。中でも、マンガン、亜鉛が、素地であるアルミニウムとの還元電位差が小さいため好ましい。
【0020】
第2の酸化皮膜除去液に用いられる金属塩又は金属酸化物の濃度としては、特に制限されるものではないが、金属量として通常1ppm(mg/L)以上、好ましくは10ppm(mg/L)以上、上限として通常10,000ppm(mg/L)以下、好ましくは5,000ppm(mg/L)以下である。金属塩又は金属酸化物の濃度が低すぎると、素地のアルミニウムと充分に置換しない場合や、金属塩又は金属酸化物の補給を行う必要が生じる場合がある。一方、濃度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金がウェハ上にパターンニングされた電極であるような場合には、アルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材を侵したり、或いはアルミニウム又はアルミニウム合金素地以外の部材上にはみ出して析出してしまう場合がある。
【0021】
第2の酸化皮膜除去液に含まれる金属イオンの可溶化剤としては、特に制限されるものではないが、通常の錯化剤、キレート剤が使用できる。具体的には、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸等のヒドロキシカルボン酸及びその塩、グリシン、アミノジカルボン酸、ニトリロ3酢酸、EDTA、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、ポリアミノポリカルボン酸等のアミノカルボン酸及びその塩、HEDP、アミノトリメチルホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチルホスホン酸等の亜りん酸系キレート剤及びその塩、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン系キレート剤などが使用できる。
【0022】
第2の酸化皮膜除去液に用いられる可溶化剤の濃度としては、特に制限されるものではないが、使用される金属塩に対して可溶化剤のトータル濃度が0.5〜10(モル比)、好ましくは0.8〜5(モル比)がよい。
【0023】
第2の酸化皮膜除去液に含まれるアルカリとしては、特に限定されるものではないが、酸化膜を溶かすアルカリ(塩基)であることが必要で、例えば、LiOH、NaOH、KOH等のアルカリ金属の水酸化物、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)、コリン等の4級アンモニウム化合物などを用いることができる。なお、アルカリの添加量は、除去液のpHを規定の範囲とする量、即ち、pHを10〜13.5、好ましくは11〜13とする量である。pHが10未満であると溶解速度が著しく低下し、pHが13.5を超えると溶解速度が速くなりすぎて制御できない。
【0024】
第1及び第2の酸化皮膜除去液には、水濡れ性を与える観点から、ポリエチレングリコール及び/又は界面活性剤が含まれることが好適である。用いられる界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレングリコール型界面活性剤、ポリオキシエチレン・オキシプロピレンブロック共重合型界面活性剤のようなノニオン型界面活性剤、その他、アニオン型、カチオン型界面活性剤が挙げられ、均一処理性の観点から、中でもノニオン型、アニオン型が好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
例えば、ポリエチレングリコールを用いる場合、その分子量としては特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは200以上、上限として通常20,000以下、好ましくは6,000以下である。分子量が大きすぎると、溶解性が悪い場合があり、一方、分子量が小さすぎると、水濡れ性が与えられない場合がある。なお、ポリエチレングリコールとしては市販品を使用し得る。
【0026】
また、ポリエチレングリコール及び/又は界面活性剤の除去液中の濃度としても特に制限されるものではないが、通常1ppm以上(mg/L)、好ましくは10ppm(mg/L)以上、上限として通常5,000ppm(mg/L)以下、好ましくは2,000ppm(mg/L)以下である。濃度が低すぎると、水濡れ性の効果が低い場合があり、一方、濃度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材上に置換金属が析出してしまう場合がある。
【0027】
なお、第1及び第2の酸化皮膜除去液は、操作の安全性の観点から水溶液として調製されることが好ましいが、その他の溶媒、例えばメタノール、エタノール、IPA等を用いることも、水との混合溶媒とすることも可能である。なお、これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
アルミニウム酸化皮膜除去液にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を浸漬する際の浸漬条件としては、特に制限されるものではなく、除去すべきアルミニウム酸化皮膜の厚み等を鑑み適宜設定することができるが、通常10秒以上、好ましくは20秒以上、より好ましくは1分以上、更に好ましくは2分以上、上限として通常20分以下、好ましくは15分以下である。浸漬時間が短すぎると、置換が進まずに酸化皮膜の除去が不充分となる場合があり、一方、浸漬時間が長すぎると、置換金属層の小さな穴から除去液が侵入し、アルミニウム又はアルミニウム合金が溶出してしまうおそれがある。
【0029】
また、浸漬時の温度としても、特に制限されるものではないが、通常30℃以上、好ましくは35℃以上、より好ましくは60℃以上、上限として通常100℃以下、好ましくは95℃以下、より好ましくは70℃以下である。特に、第1の酸化皮膜除去液(酸性除去液)の場合は60〜95℃が特に好ましく、また、第2の酸化皮膜除去液(アルカリ性除去液)の場合は、35〜70℃が特に好ましい。浸漬温度が低すぎると、酸化皮膜を溶解できない場合があり、一方、浸漬温度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材を侵す場合がある。なお、浸漬時には、均一に処理するという観点から、液撹拌や被処理物の揺動を行うことが好ましい。
【0030】
本発明が対象とする少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物としては、被処理物の全てがアルミニウム又はアルミニウム合金にて形成されていても、非アルミニウム材(例えばシリコン、FR4(プリント基板の基材))の表面の全部又は一部をアルミニウム又はアルミニウム合金で被覆してあるものでもよい。また、アルミニウムやアルミニウム合金の形態としても特に限定されず、例えば、ブランク材、圧延材、鋳造材、皮膜等に対して良好に適用することができる。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金の皮膜を非アルミニウム材表面に形成する場合、この皮膜の形成方法としても特に限定されるものではないが、その形成方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の気相めっき法が好適である。
【0031】
この皮膜の厚みとしては、本発明の表面処理方法を用いる際にアルミニウム又はアルミニウム合金素地を確実に残存させる観点から、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上である。なお、その厚みの上限は、特に制限されないが、通常100μm以下である。特に、第2の酸化皮膜除去液は、素地であるアルミニウム又はアルミニウム合金をほとんど侵食することがないことから、特に1.0μm以下の、従来の処理液では処理後の素地が薄くなってしまう問題から適用が困難であった厚みのものに対しても有効に使用することができる。
【0032】
更に、上記皮膜の成分としても、アルミニウム又はアルミニウム合金であれば特に限定されるものではないが、例えばAl−Si(Si含有率0.5〜1.0質量%)、Al−Cu(Cu含有率0.5〜1.0質量%)等の皮膜に対し、本発明の表面処理方法を好適に適用可能である。
【0033】
(B)工程は、(A)工程で形成した置換金属層を除去することなく亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程である。
【0034】
酸化皮膜除去液に上記のような被処理物を浸漬後、被処理物の表面に形成された金属皮膜(本発明の除去液に含まれるアルミニウムと置換可能な金属を含む金属の塩又は酸化物に由来する置換金属層)は、アルミニウム又はアルミニウム合金表面にめっき層を形成する場合、一般に、めっき層を形成する前に除去される。本発明においては、めっき層の密着性を向上させる観点から、形成された置換金属層を直ちに除去せず、亜鉛置換処理を行って、置換金属層、又は置換金属層が形成されていないアルミニウム若しくはアルミニウム合金表面、好ましくはそれら双方に置換亜鉛被膜を形成する。そして、後述する(C)工程において、置換金属層は置換亜鉛被膜と共に除去される。
【0035】
亜鉛置換処理(ジンケート処理)としては、酸性亜鉛置換処理であっても、アルカリ亜鉛置換処理であってもよいが、アルカリ亜鉛置換処理がより好ましい。亜鉛置換処理は、具体的には亜鉛塩を含む溶液を用い、亜鉛を置換析出させる処理を行うことを指すものである。アルカリ亜鉛置換処理の場合には、アルカリ性の亜鉛酸溶液を用いるものであり、また、酸性亜鉛置換処理としては、酸性の亜鉛塩を含む溶液を用いて亜鉛を置換析出させる処理を行うもので、これらは公知の方法で行うことができ、例えば、上村工業株式会社製 MCT−17等の市販のアルカリ亜鉛置換処理液、上村工業株式会社製 MCS−30等の市販の酸性亜鉛置換処理液を用いることができる。また、処理条件も特に限定されるものではないが、例えば10〜40℃の温度で5〜300秒間処理すればよい。また、亜鉛置換処理中、めっき被処理物は静止していても揺動していてもよく、液撹拌を行ってもよい。
【0036】
(C)工程は、(B)工程で形成した置換亜鉛被膜と共に、(A)工程で形成した置換金属層を、酸化作用を有する液で除去する工程である。上述したとおり、(A)工程で形成した置換金属層は、置換亜鉛被膜が形成された後に除去される。
【0037】
上記置換金属層及び置換亜鉛被膜を溶解するに際しては、下地であるアルミニウム又はアルミニウム合金との反応性を緩和する観点から酸化作用を有する液が用いられる。この酸化作用を有する液は、酸性液でもアルカリ性液でもよい。酸化作用を有する酸性液としては、硝酸等の酸化作用を有する酸又はその水溶液、硫酸、塩酸等の酸化作用を有さない酸又はその水溶液に酸化剤、例えば過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の1種又は2種以上を添加したもの等が好ましく使用される。この場合、酸は置換金属層及び置換亜鉛被膜を溶解させる作用を有し、酸化剤はアルミニウム又はアルミニウム合金素地に対する反応性を緩和する作用を有する。なお、酸化剤のうちでは、水素と酸素とからなり、還元されると水になる点から過酸化水素が好ましく、また安定性があり、取り扱いが容易であるという点からは、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが好ましい。
【0038】
酸(及び酸化剤)として硝酸を用いる場合には、溶解液(水溶液)中の硝酸量として通常200ml/L以上、好ましくは300ml/L以上、上限として通常1,000ml/L以下、好ましくは700ml/L以下である。硝酸量が少なすぎると、酸化力が低く、反応が止まらない場合がある。なお、硝酸1,000ml/Lとは全量が硝酸である場合である。
【0039】
また、酸化剤を用いる場合の、溶解液中の酸化剤量としては通常50g/L以上、好ましくは75g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。酸化剤量が少なすぎると、酸化力が低く、反応が止まらない場合があり、一方、多すぎると、経済性が悪い場合がある。また、このように、酸化剤と共に用いられる塩酸、硫酸等の酸の濃度は、通常10g/L以上、好ましくは15g/L以上、上限として通常500g/L以下、好ましくは300g/L以下である。酸の濃度が低すぎると、置換金属層が溶解し難い場合が生じ、一方、濃度が高すぎると、アルミニウム又はアルミニウム合金以外の部材を侵食するおそれがある。なお、ここで用いる酸は、非酸化性のものであることが好ましいが、硝酸等の酸化性の酸であってもよく、また酸化性の酸を非酸化性の酸と混合して使用してもよい。一方、酸化作用を有するアルカリ性洗浄液としては、公知のアルカリエッチャントを用いることができる。
【0040】
このような溶解処理において、処理時間としても特に制限はなく、例えば5〜300秒で溶解処理を行うことができ、溶解処理温度としては、例えば10〜40℃の条件を採用することができる。また、溶解処理中、めっき被処理物は静止していても揺動していてもよく、液撹拌を行ってもよい。
【0041】
(D)工程は、(C)工程において、置換亜鉛被膜と置換金属層とが除去されたアルミニウム又はアルミニウム合金表面に、再び亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程である。本発明においては、めっき層の密着性を向上させる観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に、再び亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成することが必要である。この(D)工程における亜鉛置換処理は、(B)工程の亜鉛置換処理と同様の処理液を用いることができ、処理条件も同様とすることができる。この(D)工程においては、(A)工程で形成した置換金属層と、(B)工程で形成した置換亜鉛被膜とが除去された後のアルミニウム又はアルミニウム合金表面に置換亜鉛被膜が形成される。
【0042】
このように、形成した置換金属層を、置換亜鉛被膜を形成してこれと共に除去し、更に、置換亜鉛被膜を形成することにより、処理した置換亜鉛被膜が形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金にめっき層を形成すると、アルミニウム又はアルミニウム合金表面とめっき層との間に、従来に比べて、更に高い密着性が得られる。
【0043】
この理由は明らかになっておらず、また、本発明は以下のメカニズムに限定されるものではないが、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に置換析出した金属が存在した状態で、このまま(C)工程で用いられる酸化作用を有する液を用いて置換金属層を除去した場合、置換金属で覆われていない露出面(アルミニウム又はアルミニウム金属)が置換金属との電位差の影響を受けて強く酸化されるために、アルミニウム又はアルミニウム金属表面に酸化皮膜の厚みが斑になった分布が生ずる。酸化皮膜は、薄い部分であれば、後のジンケート処理で除去することができるが、厚い部分は、ジンケート処理で除去されないまま酸化皮膜(酸化物の領域)が残るために、この上にめっき層を形成した場合、密着性に劣るものとなってしまうものと考えられる。
【0044】
これに対して、本発明の方法では、置換皮膜で覆われていない部分を洗浄液に浸漬する前に直接ジンケート処理液に浸漬して置換亜鉛被膜で覆ってしまい、エッチングされて活性になったアルミニウム金属が露出しないようにする。この際、置換金属の金属種によっては、イオン化傾向の関係で、置換金属上にも亜鉛が析出するが、その場合、表面から観察すると表面全体が亜鉛置換されて亜鉛金属で覆われた状態となる。この後、(C)工程において、酸化作用を有する液を用いて、置換亜鉛被膜と共に置換金属層を除去することで、アルミニウム又はアルミニウム金属の露出面が、置換金属層との電位差の影響を直接受けずに、置換金属層を溶解除去することができるので、均一な薄い酸化皮膜が形成される。この薄い酸化皮膜は(D)工程のジンケート処理で除去されるので、この上にめっき層を形成した場合、密着性がより良好になる。
【0045】
本発明においては、(D)工程の後に、形成された置換亜鉛被膜を除去し、更に置換亜鉛被膜を形成する処理を繰り返してもよい。即ち、本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法は、必要に応じて、(D)工程の後に、更に、
(E)前記置換亜鉛被膜を、酸化作用を有する液で除去する工程、及び
(F)更に、亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程
を備えていてもよい。(E)工程及び(F)工程の処理は、順に1回ずつ、又は交互に各々2回以上ずつ繰り返して実施することができる。
【0046】
この場合、(E)工程における処理は、(C)工程の酸化作用を有する液と同様の液を用いることができ、処理条件も同様とすることができる。この(E)工程においては、(D)工程又は前のサイクルの(F)工程で形成した置換亜鉛被膜が除去される。
【0047】
また、(F)工程における亜鉛置換処理は、(B)工程の亜鉛置換処理と同様の処理液を用いることができ、処理条件も同様とすることができる。この(F)工程においては、
(D)工程又は前のサイクルの(F)工程で形成した置換亜鉛被膜が(E)工程で除去された後のアルミニウム又はアルミニウム合金表面に、置換亜鉛被膜が形成される。
【0048】
本発明においては、前記(D)工程又は(F)工程の後、置換亜鉛被膜の上にめっき層を形成することで、アルミニウム又はアルミニウム合金表面とめっき層との間に、従来に比べて、更に高い密着性を得ることができる。
【0049】
めっき層を形成するめっき処理の方法としては、特に限定されるものではなく、電気めっき法であっても、無電解めっき法であってもよい。
【0050】
無電解めっき法は電気めっき法に対してエネルギーが低く、めっき層を不良なく形成するためには前処理が特に重要であるが、本発明によれば、アルミニウム酸化皮膜等の不純物が完全に除去されるため、無電解めっき法によってもめっき層を密着よく形成することが可能である。
【0051】
なお、電気めっき法を採用する際には配線が必要であるため、装置の組み立てに手間がかかったり、めっき密度を上げられなかったり、ノイズが生じて均一なめっき層の形成が困難である場合があるが、それらの問題は無電解めっき法を用いることで解決し得る。
【0052】
また、めっき金属の種類は、その用途に応じ適宜選択されるが、通常、Cu、Ni、Au等が挙げられ、これらは2層以上の層としてもよい。めっき浴及びめっき条件は公知の条件を採用し得る。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0054】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
めっき被処理物として、スパッタリング法により5μm厚みのアルミニウム層を被覆したシリコン板を、表1に示す配合にて調製した除去液に70℃にて10分間浸漬した。なお、除去液のpHはいずれも1以下であった。その後、表2に示すジンケート処理(ダブル)に従って、ジンケート処理、並びに置換金属層及び置換亜鉛被膜の除去処理を行なった。更に、無電解めっき法により1.0μm厚みのニッケルめっきを施した。
【0055】
得られためっき物について密着性の評価を行なった。サンプルとしてそれぞれ25片を切り出し、m−ELT法(Midified−Edge Lift off Test:「コベルニクス」、Vol.13、p.6−8、株式会社コベルコ科研、OCT,2004(非特許文献1)、「密着性評価:m−ELT法」、東芝ナノアナリシス株式会社技術資料(非特許文献2)参照)にて測定した。結果を表1に併記する。いずれもNi/Al間で剥離した。密着度の数値は平均値を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

※1 500ml/L 硝酸水溶液
※2 上村工業株式会社製 MCT−17
※3 上村工業株式会社製 NPR−18
【0058】
[実施例4〜6、比較例4〜6]
めっき被処理物として、スパッタリング法により5μm厚みのAl−Si(Si含量0.5質量%)層を被覆したシリコン板を、表3に示す配合にて調製した除去液に70℃にて10分間浸漬した。なお、除去液のpHはいずれも1以下であった。その後、表4に示すジンケート処理(トリプル)に従って、ジンケート処理、並びに置換金属層及び置換亜鉛被膜の除去処理を行なった。更に、無電解めっき法により1.0μm厚みのニッケルめっきを施した。
【0059】
得られためっき物について密着性の評価を行なった。サンプルとしてそれぞれ25片を切り出し、m−ELT法にて測定した。結果を表3に併記する。いずれもNi/Al間で剥離した。密着度の数値は平均値を示す。
【0060】
【表3】

PEG:ポリエチレングリコール
【0061】
【表4】

※1 500ml/L 硝酸水溶液
※2 上村工業株式会社製 MCT−17
※3 上村工業株式会社製 NPR−18
【0062】
[実施例7〜9、比較例7〜9]
めっき被処理物として、スパッタリング法により5μm厚みのアルミニウム層を被覆したシリコン板を、表5に示す配合にて調製した除去液に50℃にて60秒間浸漬した。なお、除去液のpHはいずれも12.4とした。その後、表2に示すジンケート処理(ダブル)に従って、ジンケート処理、並びに置換金属層及び置換亜鉛被膜の除去処理を行なった。更に、無電解めっき法により1.0μm厚みのニッケルめっきを施した。
【0063】
得られためっき物について密着性の評価を行なった。サンプルとしてそれぞれ25片を切り出し、m−ELT法にて測定した。結果を表5に併記する。いずれもNi/Al間で剥離した。密着度の数値は平均値を示す。
【0064】
【表5】

【0065】
[実施例10〜12、比較例10〜12]
めっき被処理物として、スパッタリング法により5μm厚みのAl−Si(Si含量0.5質量%)層を被覆したシリコン板を、表6に示す配合にて調製した除去液に50℃にて60秒間浸漬した。なお、除去液のpHはいずれも12.4とした。その後、表4に示すジンケート処理(トリプル)に従って、ジンケート処理、並びに置換金属層及び置換亜鉛被膜の除去処理を行なった。更に、無電解めっき法により1.0μm厚みのニッケルめっきを施した。
【0066】
得られためっき物について密着性の評価を行なった。サンプルとしてそれぞれ25片を切り出し、m−ELT法にて測定した。結果を表6に併記する。いずれもNi/Al間で剥離した。密着度の数値は平均値を示す。
【0067】
【表6】

PEG:ポリエチレングリコール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも表面にアルミニウム又はアルミニウム合金を有する被処理物を、アルミニウムと置換可能な金属の塩又は酸化物を含有する酸性又はアルカリ性のアルミニウム酸化皮膜除去液に浸漬し、アルミニウム又はアルミニウム合金表面にそのアルミニウム酸化皮膜を除去しつつ前記除去液中に含まれるアルミニウムと置換可能な金属の置換金属層を形成する工程、
(B)前記置換金属層を除去することなく亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程、
(C)前記置換亜鉛被膜と共に前記置換金属層を、酸化作用を有する液で除去する工程、及び
(D)再び亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程
を備えることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項2】
前記(D)工程の後、前記置換亜鉛被膜の上にめっき層を形成することを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記(D)工程の後に、更に、
(E)前記置換亜鉛被膜を、酸化作用を有する液で除去する工程、及び
(F)更に、亜鉛置換処理を行って、置換亜鉛被膜を形成する工程
を備え、(E)工程及び(F)工程の処理を順に1回ずつ、又は交互に各々2回以上ずつ繰り返して実施することを特徴とする請求項1記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記(F)工程の後、前記置換亜鉛被膜の上にめっき層を形成することを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。

【公開番号】特開2010−47802(P2010−47802A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212924(P2008−212924)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】