アルミニウム又はアルミニウム合金を基板とする多層膜積層体及びその積層方法
【課題】 柔らかく、温度変形しやすいアルミニウム又はアルミニウム合金系基材の最上部に、硬く、耐摩耗性に優れた非晶質炭素膜を、安定して、密着良く形成する方法、及び最上部に非晶質炭素膜を設けて耐磨耗性や摺動性を向上せしめたアルミニウム又はアルミニウム合金を提供する。
【解決手段】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材表面に亜鉛置換膜を形成し、該亜鉛置換層をプライマー層として無電解めっき法によりニッケルめっき層を形成し、次いで、硬質クロムめっき層を形成し、さらに、最上層として、350℃以下の条件下で、好ましくは低温プラズマCVD法により、非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成することにより、硬度の適切な傾斜構造を有した多層膜構造体を得ることができる。
【解決手段】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材表面に亜鉛置換膜を形成し、該亜鉛置換層をプライマー層として無電解めっき法によりニッケルめっき層を形成し、次いで、硬質クロムめっき層を形成し、さらに、最上層として、350℃以下の条件下で、好ましくは低温プラズマCVD法により、非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成することにより、硬度の適切な傾斜構造を有した多層膜構造体を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を基板とする多層膜積体及びその積層方法に関し、特に、最上層に非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を備えた多層膜積層体及びその積層方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、アルミニウム合金を切削、その他成形した機械部品、冶工具の表面処理として表面に陽極酸化皮膜(アルマイト、硬質アルマイト)を処理したものや、陽極酸化皮膜処理を行った上、同プロセス上表面に生じる微細な穴に、フッ素樹脂などを含浸させた複合処理などが、前述基材加工品の表面処理として広く普及しているが、その耐磨耗性や耐軟質金属の凝着防止性、静電気対応の導電性など、改善すべき問題を抱えている。
【0003】
一方近年、非晶質炭素膜又はシリコン等を含む非晶質炭素膜は、硬く、耐摩耗性に優れ、摩擦係数が小さく、軟質金属の凝着防止性も有しており、また、耐酸・アルカリ性があるため、中性洗剤でなくても清掃に供することができるなど、前述の基材にそれらをコーティングすることで、基材の表面に高機能を付与することができ、陽極酸化処理等に代わる、表面処理として、広い産業分野で利用され始めている。
【0004】
例えば、アルミニウム合金基材の表面に非晶質炭素膜を形成する方法として、基材を溶体化処理し、その後時効処理と非晶質炭素膜のコーティング処理とを同時に行うことが提案されている(特許文献1)。
しかしながら、基材であるアルミニウム又はアルミニウム合金は、その基材自体が柔らかく、その表面に硬い非晶質炭素膜を薄く形成しても、両者の硬さの差が大きすぎるために、密着性が劣り、また、荷重がかかると硬い膜の下にある基材自体が変形し、その変形に追随できない非晶質炭素膜は簡単に破壊されてしまうという問題がある。
【0005】
こうした問題を解決するために、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に、中間層として、無電解Ni−Pめっき層を成膜し、或いは、イオン窒化層からなる拡散層及び無電解Ni−Pめっき層を成膜し、その後非晶質炭素膜の成膜時に、基材の時効処理及び無電解メッキ膜の熱処理を同時に行うことが提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、基材であるアルミニウム又はアルミニウム合金上に、中間層として、蒸着やスパッタなどの真空プロセスで、クロム、タングステン、チタン及びそれらの合金あるいはそれらの炭化物からなる薄膜を形成し、その上に非晶質炭素膜を形成する方法も行われている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−47556号公報
【特許文献2】特開2004−346353号公報
【特許文献3】時開2003−293136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の方法では、無電解Ni−Pめっき層の熱処理により、該めっき層が結晶化して硬さが向上するために、硬さ分布が段階的に傾斜化されて耐荷重性が向上し、密着性も向上するとしている。
しかしながら、該Ni−Pめっき層の硬さと非晶質炭素膜の硬さの差はまだ大きく、耐荷重性が充分とはいえないばかりでなく、密着性のも充分でないという問題がある。
【0009】
また、特許文献3の方法は、原料となる固形のターゲットが高価であること、CVD装置で炭素膜を合成する場合、蒸着やスパッタなどの機構をCVD装置に追加することが必要であること、または、別の工程としてスパッタや蒸着装置が必要になり、加えて、蒸着やスパッタ薄膜を所望の膜厚まで析出させるための析出時間が長く、高価な炭素膜成膜装置での炭素膜形成の稼働率を落とすことになっている。また、中間層を形成する際に、スパッタ、蒸着等の熱反応で基材密着を図る方法では、方式によっては析出時間の長時間化に伴い、温度変形しやすいアルミニウム又はアルミニウム合金系基材を昇温させる等の不具合も生じる。
【0010】
また、アルミニウム、またはアルミニウム合金の熱線膨張係数23×10−6/℃と非晶質炭素膜の熱線膨張係数2×10−6/℃前後との間に大きな開きがあり、アルミニウム、またはアルミニウム合金上に非晶質炭素膜を成膜時、又は成膜品の使用上の温度変化を含めて、その密着性を確保するため、の熱線膨張率の大きな違いを考慮し、基材と非晶質炭素膜間の密着性を向上させる必要がある。
さらに、非晶質炭素膜は、成膜中に発生する異常放電等により、膜中に多数のピンホールを形成してしまうことが多く、アルミニウム、またはアルミニウム合金基材上に非晶質炭素膜成膜を成膜したものを使用中、酸やアルカリ系の洗浄液にて洗浄を行う場合や、屋外にて使用する場合、該ピンホールを通じてアルミ、アルミ合金を腐食させる、または腐食を誘発させる物質が進入し、基材の耐酸、アルカリ性、耐侯性保護膜としては欠陥が多く機能上不十分であるという問題もある。
【0011】
本発明は、こうした従来技術における課題を解決するものであって、柔らかく、温度変形しやすいアルミニウム又はアルミニウム合金系基材の最上部に、硬く、耐摩耗性に優れた非晶質炭素膜を、安定して、密着良く形成する方法、及び最上部に非晶質炭素膜を設けて耐磨耗性や摺動性を向上せしめたアルミニウム又はアルミニウム合金を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が、上記目的を達成すべく検討したところ、アルミニウム又はアルミニウム合金と置換反応にて亜鉛層を析出させたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材に、無電解ニッケルめっきを行い、さらに、当該無電解ニッケルめっき層に硬質クロムめっきを行い、更にその上に、非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を形成することにより、適切な硬度の傾斜構造を有し、しかも同時に、熱線膨張係数の傾斜構造に於いても、基材のアルミニウム又はアルミニウム合金の23×10−6/℃から、亜鉛の26.3×10−6/℃を経て、Niの12.8×10−6/℃、及びクロムの6.8×10−6/℃と続き、最後に非晶質炭素膜層の2×10−6/℃、と熱線膨張係数においても傾斜構造を形成可能で、基材と各層間の密着性の高いアルミニウム又はアルミニウム合金の多層膜構造体を得ることができるという知見を得た。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1] アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材上に、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層、硬質クロムめっき層、及び非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜がこの順に、又はさらに前記硬質クロムめっき層上に中間接着層を介してこの順に形成されていることを特徴とする多層膜構造体。
[2] 硬度の傾斜構造を有していることを特徴とする、上記[1]の多層膜構造体。
[3] アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材表面に亜鉛置換層を形成し、該亜鉛置換層をプライマー層として無電解めっき法によりニッケル層を形成し、次いで、めっき法により硬質クロム層を形成し、この上に又は中間接着層を介して、350℃以下の条件下で非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
[4] 前記非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を、プラズマCVD法で形成することを特徴とする、上記[3]のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
[5] 前記プラズマCVD法が、DCパルスプラズマCVD法であることを特徴とする、上記[4]の多層膜積層方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、柔らかいアルミニウム又はアルミニウム合金系基材の最上部に、硬く、耐摩耗性に優れた非晶質炭素膜を密着良く形成でき、アルミニウム又はアルミニウム合金の耐磨耗性や摺動性を向上させることが可能になる。また、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材は、200℃前後に再結晶温度があると言われており、非晶質炭素膜含め、成膜時の温度を可能な限り低温、好ましくは200℃未満に抑える必要があるが、本発明の方法によれば、基材から非晶質炭素膜までの中間層は全て湿式処理のメッキ処理であるため、温度上昇はメッキ乾燥工程を考慮しても150℃前後に抑えることができる。さらにまた、本発明の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜をCVD法により形成する場合、該CVD装置に、スパッタ装置等の他の装置を追加する必要がなく、また、高価な、チタン、タングステン、クロムの固形ターゲットが不要になり、さらに高価な非晶質炭素膜の成膜装置の稼働率を下地層形成で落とす必要がなくなる。
また、本発明の多層膜構造体は、最上部の非晶質炭素膜にピンホールが発生して、そのピンホールからの異物や、ガス、水分などの浸入が生じても、下地の硬質クロムメッキ層及びニッケルめっき層は耐侯性に優れているため、最上層部の非晶質炭素膜の耐侯性を補完することができる。また、アルミニウム又はアルミニウム合金のアルマイト処理層の上に、本発明の方法により傾斜構造膜を析出させた場合は、絶縁層であるアルマイト層に代わり、導電の金属層を非晶質炭素膜の下地層とすることが可能となり、非晶質炭素膜が薄い場合は充分な静電気除去効果が期待できる。さらにまた、下地の最外層が硬質クロムめっき(Hv1000前後)となり、非晶質炭素膜の硬度(Hv1000〜)に近づき、一般に基材密着のため成膜されているシリコンを含む非晶質炭素膜からなる中間密着層を不要にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各種めっき膜の熱処理と被膜硬度の関係を示す図。
【図2】Al(5052材)無処理の板状基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図3】非晶質炭素膜を直接成膜したAl(5052材)基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図4】アルミ合金基材へ亜鉛置換層を形成した後に無電解Ni−Pめっきした基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図5】前記無電解Ni−Pめっきを5μm成膜したものの上に非晶質炭素膜を成膜した基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図6】試料1(本発明の多層膜構造体)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図7】試料1(本発明の多層膜構造体)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【図8】試料2(アルミニウム合金基材上に炭素膜のみを成膜したもの)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図9】試料2(アルミニウム合金基材上に炭素膜のみを成膜したもの)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【図10】試料3(超硬合金)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図11】試料3(超硬合金)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【図12】試料4(SUS420J2)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図13】試料4(SUS420J2)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に、アルミニウム又はアルミニウム合金との置換反応により亜鉛層を析出させた後、該亜鉛置換層上に、無電解ニッケルめっきを行い、次いで硬質クロムめっきを行い、更にその上に、非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成して、硬度の適切な傾斜構造を有する多層膜構造体を形成することを特徴とする。
特に本発明の中間層の形成方法である、無電解ニッケルめっき及び硬質クロムめっきは、いずれも大気雰囲気中で、大量生産が可能であって、比較的安価にて、それぞれ5〜40μmと厚膜の成膜が低温で実施可能な方法である。
また、本発明において、好ましくは、前記非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜はプラズマCVD法により形成される。
以下、本発明における下地層について詳しく記載する。
【0017】
アルミニウム又はアルミニウム合金系基材上の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を含む多層膜構造体上の重要ポイントは、
(1)部分的な押し込み圧力にも対応できる剛性を持ったアルミニウム又はアルミニウム合金基板上の強固な基礎中間層を形成し、高硬度ではるが、成膜の速度や、大きな内部応力による基材密着(剥離)を考慮した場合、数μ程度の膜の厚みに留まる非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の基礎構造層を形成すること、
(2)アルミニウム又はアルミニウム合金と非晶質炭素膜との熱線膨張係数の大きな乖離を、非晶質炭素膜の成膜時、また、成膜品使用上の温度変化も考慮し、多層膜間で傾斜的に変化させること含め、上記(1)の複数の材料で構成される基礎中間層の最初の層と、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材への密着力が充分であり、各層間の密着も最表面の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の応力に耐える密着力を有すること、
(3)上記基礎中間層の形成が、可能な限り低温工程であり、また形成速度が早く、低原価であること、
(4)さらに、最上部の非晶質炭素膜形成工程が、多層膜間の熱硬化特性や、基材を含めての各層間の熱線膨張係数の差が考慮されている温度、プロセスであること、
(5)さらに望ましくは、欠陥(ピンホール等)の多い非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の耐侯性不足を補完できる耐侯性を有していること、
が重要である。
【0018】
そこで、本発明では、下地層として、
(1)アルミニウム又はアルミニウム合金の表面は、大気中の酸素によって強固で緻密な酸化膜を形成しているため、鉄系の基材と異なり、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材に直接ニッケルめっき等を行っても、基材との密着性が確保できないため、第一層として、アルミニウム又はアルミニウム合金系の基材の上に、アルミニウム又はアルミニウム合金と物理形状的にも密着性の良い亜鉛置換膜を形成し、それをプライマー層とし、
(2)第二次層として、硬度Hv200前後〜Hv600前後までの無電解ニッケル(Ni−P又はNi−B)めっき層を形成し、
(3)第三次層として、Hv1000前後とさらに硬い硬質クロムメッキ層を形成し、
(4)最後に、Hv1000以上の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を形成することで、
第一次層から最上層まで、硬さが傾斜的に上昇し、最上部で最も硬く、その内部応力にて基材剥離を起しやすい炭素膜を最終的に、柔らかい基材であるアルミニウム又はアルミニウム系合金基材の最上部保護層として有効に使えるようにした傾斜多層構造膜とする点にある。
【0019】
さらに、アルミニウム、アルミニウム合金系基材との密着を良くしたい場合は、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材の表面をサンドブラスト処理などで荒らすと、亜鉛置換層の密着が向上する。
なお、上記処理を(2)までの無電解ニッケルメッキまでに留めた場合、加熱処理により無電解ニッケルめっき自体の硬度をHv600以上に上げ、炭素膜の下地中間硬度の傾斜層として、その上部に非晶質炭素膜を形成することも摩擦・磨耗試験上十分な効果を確認することもできるが、無電解ニッケルめっき層上に直接成膜される非晶質炭素膜が厚く、大きな内部応力を帯びてくると、非晶質炭素膜の結合に必要な炭素粒子がNiと反応して炭化物を生成しにくく、炭素がNiメッキ膜中に拡散して密着を確保するのが困難と予測され、無電解ニッケルメッキ層−非晶質炭素膜間の密着不足が生じ、非晶質炭素膜が無電解ニッケルめっき層界面から剥離してしまう現象が生じる。
本発明では、無電解ニッケルめっき層と非晶質炭素膜の間に、硬質クロムめっき層を介在させることで該問題を解決するものである。
【0020】
以下、本発明の方法について、各工程順に説明する。
第一次層:亜鉛置換膜の形成
本発明の亜鉛置換膜の形成工程は、無電解ニッケルめっきの下地処理として、すでに公知であり、脱脂工程と、酸性エッチング工程と、硝酸浸漬工程と、第一亜鉛置換工程と、硝酸亜鉛剥離工程と、第二亜鉛置換工程とからなるのが通常である。
具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金基材を、弱アルカリ溶液に浸漬して脱脂し、次いで、硫酸等の酸溶液に浸漬してエッチングした後、硝酸浸漬処理し、次いで、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換溶液にて亜鉛置換層を析出させ(第1次置換)、次いで、スマットを落とすために、硝酸に浸漬し、更に前記と同じ亜鉛置換溶液にて亜鉛置換(第二置換)を行う。
【0021】
第二次層:無電解ニッケルめっき層の形成
無電解ニッケルめっき層は、無電解Ni−Pめっき層であっても、或いは無電解Ni−Bめっき層であってもよい。
例えば、無電解Ni−Pメッキ層を形成する場合であれば、前記亜鉛置換膜を形成した基材を、ニッケルイオンと次亜リン酸イオンが入っためっき液に浸漬して、Ni−Pめっきを形成させる。
めっき液中のニッケルイオンと還元剤である次亜リン酸イオンが接触すると、基材が触媒となって脱水素分解を生じる。その生成した水素原子が、基材に吸着されて活性化し、これがめっき液中のニッケルイオンに接触してニッケルを金属に還元して触媒金属表面に析出するものである。また、触媒金属表面の活性化した水素原子は、液中の次亜リン酸イオンとも反応し、含有するリンを還元してニッケルと合金化する。この析出したニッケルが触媒となって前述のニッケルの還元めっき反応が継続して進行する。すなわちニッケルの自己触媒作用によりめっきの継続進行する特徴がある。これにより、めっき液が流通する空隙があれば、均一にめっき被膜が形成され、まためっき被膜の厚さはめっき時間と比例しており、時間の制御で容易に管理される。
また、無電解Ni−Bメッキ層を形成する場合であれば、ニッケルイオンと、還元剤であるアミンボランなどのホウ素系薬剤を含有する無電解めっき液を用いて同様に形成される。なお、無電解Ni−Bめっきの場合、めっき液の分解劣化が激しく、その都度使い捨てにしなくてはならないので、実際の生産では、無電界Ni−Pが適している。
さらに、本発明の無電解ニッケルめっき層は、無電解Ni−Pめっき層の上に無電解Ni−Bめっき層を形成した二層構造であってもよく、この場合には、後述する図1に示すとおり、無電解Ni−Bめっき層の硬度は、無電解Ni−Pめっき層の硬度より高く、且つ、硬質クロムめっき層の硬度より低いので、より好ましい硬度傾斜構造が形成できる。
形成されるニッケルめっき層の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は0.1〜40μmであり、好ましくは3〜20μmである。
【0022】
第三次層:硬質クロムメッキ層の形成
第三次層である硬質ニッケルめっき層は、クロム酸を含む硫酸水溶液中で通電することにより形成される。
形成される硬質クロムめっき層の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は0.1〜40μmであり、好ましくはフラッシュと言われる0.2〜20μmある。
なお、形成される硬質クロムめっきは、温度を高くすればするほど硬度が落ちる。すなわち、硬質クロムめっき後は1000Hv以上あるが、300℃以上の熱処理を施すと、800Hv程度にまで落ちる。しかしながら、スパッタ法で形成されるクロムの硬度500〜600Hvよりは充分に高い。
【0023】
図1は、各種めっき膜の熱処理と被膜硬度の関係を示す図である。
各めっき層の厚さは35μmであり、測定器には、アカシ製MVK−H3を用い、荷重を、25gf(荷重時間20秒)として測定した。
図1に示すとおり、第三次層の硬質クロムめっき層は加熱により軟質化するので、第二次層にNi−Pめっき層を用いる場合には、めっき後の加温でより硬質化して、350℃付近で硬質クロム層と硬度が同じになり、その後逆転する。したがって、好ましい硬度傾斜構造を得る場合には、硬質クロムめっき後に350℃以上に加熱されることを避けることが必要である。
なお、第二次層がNi−Bめっき層である場合には、めっき後の加熱によっても硬質クロムめっき層との硬度の大小の関係は変化しない。
【0024】
最上層:非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜の形成
非晶質炭素膜は、プラズマCVD法等のCVD(化学的蒸着)法、又はイオンプレーティング法、スパッタリング法等の物理的蒸着(PVD)法等、種々の方法で形成できることが知られているが、本発明では、350℃以下の低温プラズマCVD法を用いるのが好ましい。
すなわち、前述のとおり、硬質クロムめっき層は加熱により硬度が落ちるために、その上に非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成する際に、従来のPVD処理では、350〜500℃に加温されて硬質クロムめっき層の硬度が低下してしまい、場合によっては、無電解ニッケルめっき膜と硬質クロムめっき層の硬度が逆転して、好ましい硬度傾斜構造を有する多層膜構造体を得るのが困難になる。
また、硬質クロムめっき層はその製造法上、多量の水素を膜中に含有し、水素フリーで硬く仕上げたい方向の従来のPVD法では、硬質クロムめっき膜中の水素が邪魔になると考えられる。
さらに、PVD法自体が高温処理のため、その高温にて、アルミニウム又はアルミニウム合金系基板のソリ・ゆがみが激しく、PVDの非常に硬いDLC膜との密着性なども含め、アルミ基板へのPVD処理は適していない。
【0025】
350℃以下の低温にて炭素膜を成膜可能な方法として、水素のコンタミを無視した場合には低温スパッタ法や、さらにワークへの強制冷却装置など複雑で高価な機構を設ければその他種類の方法も考えられるが、好ましい方法としては、プラズマCVD法があげられる。プラズマCVD法は、反応ガスにより成膜するものであって、低温、常圧下でも可能で、均質、均一厚、ち密で、密着性のよい膜を大面積に形成可能であり、成膜装置の構造も単純で安価であるために好ましく用いられる。
プラズマCVD法としては、高周波放電を用いる高周波プラズマCVD法や、直流放電を利用する直流プラズマCVD法、あるいはマイクロ波放電を利用するマイクロ波プラズマCVD法などが挙げられるが、特に、300℃以下、好ましくは、200℃以下の低温プラズマCVD法を用いることにより、ニッケル層(Hv500)→硬質クロム層(Hv1000)→非晶質炭素膜(Hv1500)等の綺麗な階段構造を取ることができる。
【0026】
中でも、後述する一連の検証に示すとおり、特に高圧パルスプラズマCVD法が好ましく用いられる。
高圧パルスプラズマCVD法が好ましい理由は、パルス周波数の増減により電源のDuty比を2%〜10%まで制御可能であることを主とし、他成膜方法に比して成膜温度をより低温にて制御しやすく、可能な限り等間隔の硬度傾斜層を構成可能とし、併せて、熱を可能な限り基材に加えないことで多層膜間の熱線膨張係数の違いによる密着不良を抑制し、また炭素イオン等を高圧にて基材に注入可能で、低温であってもより基材との密着が取りやすい炭素膜の成膜方式であるためである。
【0027】
形成される非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は10nm〜10μmであり、好ましくは0.1μm〜3μmある。
また、硬質クロムめっき層と非晶質炭素膜の密着性をより向上させるために、中間層としてシリコンを含有する非晶質炭素膜を用いることもできる。その場合、この中間層の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は10nm〜1μmであり、好ましくは0.1μm〜0.5μmである。
【0028】
非晶質炭素膜形成用の反応ガスには、メタン、アセチレン、ベンゼン等の炭化水素ガスが用いられ、シリコンを含有する非晶質炭素膜形成用の反応ガスには、さらに、Si(CH3)4、SiH4等の珪素化合物ガスを用いればよく、この際、通常、キャリアガスにはアルゴンガスが用いられる。炭化水素ガスと混合しても用いることが可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実験例等を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、テスト用の板状基材として、30mm角、板厚1mmの5000系のアルミニウム合金基材(5052材)を準備し、摺動性、耐磨耗性改善のテストを行った。
【0030】
1.試験基材の準備
以下の1)〜5)の基材を準備した。
1)Al(5052材)無処理の板状基材
2)非晶質炭素膜を直接成膜したAl(5052材)基材
炭素膜の成膜条件は、高圧パルスプラズマCVD装置にて、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め約25分炭素膜を成膜した。炭素膜の厚さは0.5μm、硬度はHv1500を得た。
3)アルミニウム合金基材へ亜鉛置換層の形成した後無電解Ni−Pめっきした基材
まず、テスト基材を弱アルカリの溶液に浸漬して、70℃で脱脂し、70℃の硫酸溶液
に浸漬し基材表面をエッチィングした。
さらに室温にて、50%の硝酸で基材を酸浸漬し、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換液にて室温で亜鉛置換層を析出させ、スマットを落とすため、50%の硝酸に室温で浸漬し、さらに、前液と同じ亜鉛置換液にて亜鉛置換を計2回行った。
基材がアルマイト層を形成したアルミ、またはアルミニウム合金である場合、上記処理の硝酸による酸浸漬や、強アルカリ溶液を使用する亜鉛置換処理にて、10マイクロ厚位のアルマイト層であれば1〜3分間も浸漬すれば容易に溶解してしまい、アルマイト処理済アルミニウム、アルミニウム合金の再表面処理としても有効である。
上記、亜鉛置換層を形成した後の基材に、無電解Ni―Pめっき層を5μの厚さで析出させた。
4)前記の無電解Ni−Pメッキを5μm成膜した基板の上層に、炭素膜を成膜した基材
炭素膜の成膜条件は、高圧パルスプラズマCVD装置にて、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め約25分炭素膜を析出させた。炭素膜の厚さは0.5μ、硬度はHv1500を得た。成膜終了時の成膜室の温度は97℃であった。
【0031】
2.ボールオンディスク法(以下、「BOD法」)による摩擦磨耗試験
図1〜4は、上記1)〜4)の試験結果を示すものである。
1)の基板は、試験開始直後に柔らかい基材表面は破壊され、摩擦係数が大きく上昇しているのが解る(図2参照)。
また、2)の基板は、摩擦、磨耗性は飛躍的に改善し、4000回転までは摩擦係数は安定して0.2以下を示したが、4000回転弱で、突然基材が破壊され、摩擦係数が急上昇している(図3参照)。これは、BOD法のボール付加荷重により基材が変形したためと推測できる。
3)の基板は、摩擦係数は、試験開始早々大きく0.8に上昇し、その後も0.4から0.8までの高い数値を示した。摩擦係数の改善が不十分であることが確認できた(図4参照)。
4)の基板は、摩擦係数、耐久性ともに非常に良い結果が得られる複合膜が出来たことが確認できた(図5参照)。
しかし、このニッケルめっきまで行い、最上部に炭素膜を成膜したものを、後日、局面状を有する5000系のアルミニウム合金基材に行ったところ、局面部分で最上部の炭素膜が剥離する現象が確認され、本件複合膜に密着性、特に成膜時のヒートサイクルによる剥離に大きな課題があることが確認できた。
【0032】
3.基材密着性試験
膜の密着性を評価するため、5000系のアルミニウム合金基材(5052材)の材質で、直径φ10mmで高さ10mmの比較的短い回転半径、急局面を持つ円筒形の基材を用意した。
密着試験に円筒形の基材を使用するのは、基材表面が急な局面を示しており、平板と比較して、表面処理した膜の応力による剥離の影響をより受けやすいからである。
テスト基材を弱アルカリの溶液に浸漬して、70℃で脱脂し、70℃の硫酸溶液に浸漬し基材表面をエッチィングした。さらに室温にて、50%の硝酸で基材を酸浸漬し、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換液にて室温で亜鉛置換層を析出させ、スマットを落とすため、50%の硝酸に室温で浸漬し、さらに、前液と同じ亜鉛置換液にて亜鉛置換を計2回行った。
【0033】
1)上記、亜鉛置換層を形成した後の円筒基材に、
テストサンプル1(1):無電解Ni−Pメッキ層を5μm厚成膜した上に、非晶質炭素
膜(シリコンを含む中間層0.09μmを含む)を0.4μm厚
で成膜したもの
1(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
1(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
テストサンプル2(1)無電解Ni−Pメッキ層を5μm成膜し、その上層部に硬質クロ
ムメッキ層を5μmの厚さで成膜し、炭素膜(中間層含む)を
0.4μm厚で成膜したもの
2(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
2(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
テストサンプル3(1)電解Niメッキ層を5μ成膜し、非晶質炭素膜(同中間層含む)
を0.4μm厚で成膜したもの
3(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
3(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
テストサンプル4(1)アルミ5000系円筒基材上に直接炭素膜(中間層含む)を0
.4μm厚で成膜したもの
4(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
4(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
を準備した。
【0034】
非晶質炭素膜の成膜条件は、高圧パルスプラズマCVD装置にて、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め各々の膜厚となるように成膜時間を調整した。また、非晶質炭素膜厚0.8μmのものと1.6μmのものは同じ炭素膜中間層の厚みとなるように、成膜時間を調整した。なお、成膜終了時の成膜室の各温度は双方とも160℃未満であった。
よって、非晶質炭素膜厚が1.6μmのものが一番内部応力の大きい最外層を持つことになる。
【0035】
2)非晶質炭素膜成膜直後の現象
非晶質炭素膜の成膜後、基材冷却用のガスを導入せず、自然降温させ、成膜室の内部外周に取り付けた温度計が60℃を示した時点で、成膜室から各基材を取り出した。
この成膜後の状態で、サンプル1(1)(無電解Ni−P)、2(電解Ni)の全てにて非晶質炭素膜の基材から、特に、成膜条件状、同一サンプル内の炭素膜の厚い部位からの剥離が進行していることが確認された。
しかし、アルミ5000番系基材に置換析出させた亜鉛層の剥離は、全てのサンプルで確認されなかった。
また、硬質クロムめっき層を成膜したものも全て、非晶質炭素膜の剥離を確認することができなかった。
【0036】
3)ヒートサイクルによる、基材密着力の比較検証
Al(5052材)製円柱(直径:10mm、高さ:10mm)の試料基材を準備し、下地処理として
(1)亜鉛置換層+Ni−P(5μm)+硬質クロムメッキ(5μm)
(2)亜鉛置換層+Ni−P(5μm)+硬質クロムメッキ(05μm)
(3)比較対象として、未処理品
を行い、それぞれの基材を真空装置に入れ、高圧パルスプラズマCVD装置にて、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにてアルゴンプラズマによる表面クリーニングを10分行った後、一般的に密着を向上させるために実施されているシリコンを含む非晶質炭素膜を中間層として10分形成し、アセチレンを原料とする非晶質炭素膜を30分間成膜する工程を2回行い、中間層(0.4μm)を含む非晶質炭素膜1.2μm、Hv1500を各機材試料上に成膜した。成膜終了時の成膜室の温度は125℃であった。
成膜後、ヒートサイクルによる密着力の比較試験として、成膜後の各試料をホットプレートにて260℃まで昇温後、10分保持し、17℃の水に浸漬させ急冷するサイクルにて、膜の剥離状態を観察する試験を行った。
結果は、(3)は3サイクル目で基材からシリコンを含む非晶質炭素膜の部分剥離が観察され、他は、10サイクル目でも剥離は全く観察されなかった。
本件にて、アルミニウム基材と亜鉛置換層とNi−P(5μm)と硬質クロムメッキ(5μm)と非晶質炭素膜の全ての層の密着状態が、従来実施されている、アルミニウム、アルミニウム合金系基材上にシリコンを含む非晶質炭素膜を中間層として形成した上に形成される非晶質炭素膜の密着力より格段に優れていることが確認できた。
【0037】
4.各種基材の摩擦磨耗試験
1)試験試料の準備
下記の各試験試料1〜4(100mm×40mm、1mm厚)を準備し、摩擦磨耗試験機(JIS K 7218、ボール直径2mm、超硬球 押し込み荷重 500g〜700gに往復毎に変化)にて摩擦磨耗試験を行った。
(試料1)
アルミニウム合金5052材基材を弱アルカリの溶液に浸漬して、70℃で脱脂し、70℃の硫酸溶液に浸漬し基材表面をエッチィングした。さらに室温にて、50%の硝酸で基材を酸浸漬し、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換液にて室温で亜鉛置換層を析出させ、スマットを落とすため、50%の硝酸に室温で浸漬し、さらに、前液と同じ亜鉛置換液にて亜鉛置換を計2回行った。
上記、亜鉛置換層を形成した後の基材に、無電解Ni−Pめっき層を20分間行い10μの厚さで析出させた。さらにその上層に電解めっきにより硬質クロムめっき層を35分間行い10μの厚さで成膜したものを、超音波洗浄後、高圧パルスプラズマCVD装置に投入して1×10−3Paまで減圧し、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め約20分炭素膜を析出させた。
炭素膜の厚さは0.4μ、硬度はHv1500を得た。成膜終了時の成膜室の温度は86℃であった。
(試料2)
アルミニウム合金5052材基材を、多層構造とせず、上記試料1の基材上に直接炭素膜を成膜したもの。中間層、炭素膜とも厚みは上記試料1と同じとした。
(試料3)
超硬合金(タングステン・カーバイド)H1(住友電工ハードメタル製)
(試料4)
SUS420J2
【0038】
2)評価結果
(試料1)
図6は摩擦係数グラフ、図7はボール軌跡部分の写真である。
試料1(本発明の、アルミニウム合金基材上に多層膜を成膜したもの)は、ボール100往復終了後も摩擦係数は非常に低く、安定しており、ボールの軌跡写真も軌跡が殆ど見分けられない程良好な耐摩擦磨耗性を示した。
(試料2)
図8は摩擦係数グラフであり、図9はボール軌跡部分の写真である。
試料2(アルミニウム合金基材上に炭素膜のみを成膜したもの)は、ボールの2往復目で摩擦係数が急上昇しており、8往復目で試験中止した時点のボールの軌跡写真(b)から、高圧加圧に対してアルミニウム基材自体が大きく抉れて破壊されている様子が確認できる。
(試料3)
図10は摩擦係数グラフであり、図11は100往復終了時のボール軌跡部分の写真である。
試料3(超硬合金)は、10往復後系数が急上昇し20往復で破壊されたと考えられる。
(試料4)
図12は摩擦係数グラフであり、図13は100往復終了時のボール軌跡部分の写真である。
試料4(SUS420J2)は、20往復後系数が急上昇し、40往復時で破壊されたと考えられる。
【0039】
今回の評価を通じて、柔らかく加工性に富み、軽量でもあり、比較的安価に入手可能なアルミにウム合金の加工品等に本発明の多層膜を成膜することにより、大きな耐摩耗性を付与することが可能となり、部品や設備の軽量化、低価格化など技術、経済的な効果は大きいことが示された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金を基板とする多層膜積体及びその積層方法に関し、特に、最上層に非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を備えた多層膜積層体及びその積層方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、アルミニウム合金を切削、その他成形した機械部品、冶工具の表面処理として表面に陽極酸化皮膜(アルマイト、硬質アルマイト)を処理したものや、陽極酸化皮膜処理を行った上、同プロセス上表面に生じる微細な穴に、フッ素樹脂などを含浸させた複合処理などが、前述基材加工品の表面処理として広く普及しているが、その耐磨耗性や耐軟質金属の凝着防止性、静電気対応の導電性など、改善すべき問題を抱えている。
【0003】
一方近年、非晶質炭素膜又はシリコン等を含む非晶質炭素膜は、硬く、耐摩耗性に優れ、摩擦係数が小さく、軟質金属の凝着防止性も有しており、また、耐酸・アルカリ性があるため、中性洗剤でなくても清掃に供することができるなど、前述の基材にそれらをコーティングすることで、基材の表面に高機能を付与することができ、陽極酸化処理等に代わる、表面処理として、広い産業分野で利用され始めている。
【0004】
例えば、アルミニウム合金基材の表面に非晶質炭素膜を形成する方法として、基材を溶体化処理し、その後時効処理と非晶質炭素膜のコーティング処理とを同時に行うことが提案されている(特許文献1)。
しかしながら、基材であるアルミニウム又はアルミニウム合金は、その基材自体が柔らかく、その表面に硬い非晶質炭素膜を薄く形成しても、両者の硬さの差が大きすぎるために、密着性が劣り、また、荷重がかかると硬い膜の下にある基材自体が変形し、その変形に追随できない非晶質炭素膜は簡単に破壊されてしまうという問題がある。
【0005】
こうした問題を解決するために、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に、中間層として、無電解Ni−Pめっき層を成膜し、或いは、イオン窒化層からなる拡散層及び無電解Ni−Pめっき層を成膜し、その後非晶質炭素膜の成膜時に、基材の時効処理及び無電解メッキ膜の熱処理を同時に行うことが提案されている(特許文献2)。
【0006】
また、基材であるアルミニウム又はアルミニウム合金上に、中間層として、蒸着やスパッタなどの真空プロセスで、クロム、タングステン、チタン及びそれらの合金あるいはそれらの炭化物からなる薄膜を形成し、その上に非晶質炭素膜を形成する方法も行われている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−47556号公報
【特許文献2】特開2004−346353号公報
【特許文献3】時開2003−293136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の方法では、無電解Ni−Pめっき層の熱処理により、該めっき層が結晶化して硬さが向上するために、硬さ分布が段階的に傾斜化されて耐荷重性が向上し、密着性も向上するとしている。
しかしながら、該Ni−Pめっき層の硬さと非晶質炭素膜の硬さの差はまだ大きく、耐荷重性が充分とはいえないばかりでなく、密着性のも充分でないという問題がある。
【0009】
また、特許文献3の方法は、原料となる固形のターゲットが高価であること、CVD装置で炭素膜を合成する場合、蒸着やスパッタなどの機構をCVD装置に追加することが必要であること、または、別の工程としてスパッタや蒸着装置が必要になり、加えて、蒸着やスパッタ薄膜を所望の膜厚まで析出させるための析出時間が長く、高価な炭素膜成膜装置での炭素膜形成の稼働率を落とすことになっている。また、中間層を形成する際に、スパッタ、蒸着等の熱反応で基材密着を図る方法では、方式によっては析出時間の長時間化に伴い、温度変形しやすいアルミニウム又はアルミニウム合金系基材を昇温させる等の不具合も生じる。
【0010】
また、アルミニウム、またはアルミニウム合金の熱線膨張係数23×10−6/℃と非晶質炭素膜の熱線膨張係数2×10−6/℃前後との間に大きな開きがあり、アルミニウム、またはアルミニウム合金上に非晶質炭素膜を成膜時、又は成膜品の使用上の温度変化を含めて、その密着性を確保するため、の熱線膨張率の大きな違いを考慮し、基材と非晶質炭素膜間の密着性を向上させる必要がある。
さらに、非晶質炭素膜は、成膜中に発生する異常放電等により、膜中に多数のピンホールを形成してしまうことが多く、アルミニウム、またはアルミニウム合金基材上に非晶質炭素膜成膜を成膜したものを使用中、酸やアルカリ系の洗浄液にて洗浄を行う場合や、屋外にて使用する場合、該ピンホールを通じてアルミ、アルミ合金を腐食させる、または腐食を誘発させる物質が進入し、基材の耐酸、アルカリ性、耐侯性保護膜としては欠陥が多く機能上不十分であるという問題もある。
【0011】
本発明は、こうした従来技術における課題を解決するものであって、柔らかく、温度変形しやすいアルミニウム又はアルミニウム合金系基材の最上部に、硬く、耐摩耗性に優れた非晶質炭素膜を、安定して、密着良く形成する方法、及び最上部に非晶質炭素膜を設けて耐磨耗性や摺動性を向上せしめたアルミニウム又はアルミニウム合金を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が、上記目的を達成すべく検討したところ、アルミニウム又はアルミニウム合金と置換反応にて亜鉛層を析出させたアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材に、無電解ニッケルめっきを行い、さらに、当該無電解ニッケルめっき層に硬質クロムめっきを行い、更にその上に、非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を形成することにより、適切な硬度の傾斜構造を有し、しかも同時に、熱線膨張係数の傾斜構造に於いても、基材のアルミニウム又はアルミニウム合金の23×10−6/℃から、亜鉛の26.3×10−6/℃を経て、Niの12.8×10−6/℃、及びクロムの6.8×10−6/℃と続き、最後に非晶質炭素膜層の2×10−6/℃、と熱線膨張係数においても傾斜構造を形成可能で、基材と各層間の密着性の高いアルミニウム又はアルミニウム合金の多層膜構造体を得ることができるという知見を得た。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1] アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材上に、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層、硬質クロムめっき層、及び非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜がこの順に、又はさらに前記硬質クロムめっき層上に中間接着層を介してこの順に形成されていることを特徴とする多層膜構造体。
[2] 硬度の傾斜構造を有していることを特徴とする、上記[1]の多層膜構造体。
[3] アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材表面に亜鉛置換層を形成し、該亜鉛置換層をプライマー層として無電解めっき法によりニッケル層を形成し、次いで、めっき法により硬質クロム層を形成し、この上に又は中間接着層を介して、350℃以下の条件下で非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
[4] 前記非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を、プラズマCVD法で形成することを特徴とする、上記[3]のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
[5] 前記プラズマCVD法が、DCパルスプラズマCVD法であることを特徴とする、上記[4]の多層膜積層方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、柔らかいアルミニウム又はアルミニウム合金系基材の最上部に、硬く、耐摩耗性に優れた非晶質炭素膜を密着良く形成でき、アルミニウム又はアルミニウム合金の耐磨耗性や摺動性を向上させることが可能になる。また、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材は、200℃前後に再結晶温度があると言われており、非晶質炭素膜含め、成膜時の温度を可能な限り低温、好ましくは200℃未満に抑える必要があるが、本発明の方法によれば、基材から非晶質炭素膜までの中間層は全て湿式処理のメッキ処理であるため、温度上昇はメッキ乾燥工程を考慮しても150℃前後に抑えることができる。さらにまた、本発明の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜をCVD法により形成する場合、該CVD装置に、スパッタ装置等の他の装置を追加する必要がなく、また、高価な、チタン、タングステン、クロムの固形ターゲットが不要になり、さらに高価な非晶質炭素膜の成膜装置の稼働率を下地層形成で落とす必要がなくなる。
また、本発明の多層膜構造体は、最上部の非晶質炭素膜にピンホールが発生して、そのピンホールからの異物や、ガス、水分などの浸入が生じても、下地の硬質クロムメッキ層及びニッケルめっき層は耐侯性に優れているため、最上層部の非晶質炭素膜の耐侯性を補完することができる。また、アルミニウム又はアルミニウム合金のアルマイト処理層の上に、本発明の方法により傾斜構造膜を析出させた場合は、絶縁層であるアルマイト層に代わり、導電の金属層を非晶質炭素膜の下地層とすることが可能となり、非晶質炭素膜が薄い場合は充分な静電気除去効果が期待できる。さらにまた、下地の最外層が硬質クロムめっき(Hv1000前後)となり、非晶質炭素膜の硬度(Hv1000〜)に近づき、一般に基材密着のため成膜されているシリコンを含む非晶質炭素膜からなる中間密着層を不要にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各種めっき膜の熱処理と被膜硬度の関係を示す図。
【図2】Al(5052材)無処理の板状基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図3】非晶質炭素膜を直接成膜したAl(5052材)基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図4】アルミ合金基材へ亜鉛置換層を形成した後に無電解Ni−Pめっきした基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図5】前記無電解Ni−Pめっきを5μm成膜したものの上に非晶質炭素膜を成膜した基材のBOD法による摩擦磨耗試験を示す図。
【図6】試料1(本発明の多層膜構造体)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図7】試料1(本発明の多層膜構造体)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【図8】試料2(アルミニウム合金基材上に炭素膜のみを成膜したもの)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図9】試料2(アルミニウム合金基材上に炭素膜のみを成膜したもの)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【図10】試料3(超硬合金)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図11】試料3(超硬合金)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【図12】試料4(SUS420J2)の、摩擦磨耗試験における摩擦係数グラフを示す図。
【図13】試料4(SUS420J2)の、摩擦磨耗試験におけるボール軌跡部分の写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金表面に、アルミニウム又はアルミニウム合金との置換反応により亜鉛層を析出させた後、該亜鉛置換層上に、無電解ニッケルめっきを行い、次いで硬質クロムめっきを行い、更にその上に、非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成して、硬度の適切な傾斜構造を有する多層膜構造体を形成することを特徴とする。
特に本発明の中間層の形成方法である、無電解ニッケルめっき及び硬質クロムめっきは、いずれも大気雰囲気中で、大量生産が可能であって、比較的安価にて、それぞれ5〜40μmと厚膜の成膜が低温で実施可能な方法である。
また、本発明において、好ましくは、前記非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜はプラズマCVD法により形成される。
以下、本発明における下地層について詳しく記載する。
【0017】
アルミニウム又はアルミニウム合金系基材上の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を含む多層膜構造体上の重要ポイントは、
(1)部分的な押し込み圧力にも対応できる剛性を持ったアルミニウム又はアルミニウム合金基板上の強固な基礎中間層を形成し、高硬度ではるが、成膜の速度や、大きな内部応力による基材密着(剥離)を考慮した場合、数μ程度の膜の厚みに留まる非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の基礎構造層を形成すること、
(2)アルミニウム又はアルミニウム合金と非晶質炭素膜との熱線膨張係数の大きな乖離を、非晶質炭素膜の成膜時、また、成膜品使用上の温度変化も考慮し、多層膜間で傾斜的に変化させること含め、上記(1)の複数の材料で構成される基礎中間層の最初の層と、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材への密着力が充分であり、各層間の密着も最表面の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の応力に耐える密着力を有すること、
(3)上記基礎中間層の形成が、可能な限り低温工程であり、また形成速度が早く、低原価であること、
(4)さらに、最上部の非晶質炭素膜形成工程が、多層膜間の熱硬化特性や、基材を含めての各層間の熱線膨張係数の差が考慮されている温度、プロセスであること、
(5)さらに望ましくは、欠陥(ピンホール等)の多い非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の耐侯性不足を補完できる耐侯性を有していること、
が重要である。
【0018】
そこで、本発明では、下地層として、
(1)アルミニウム又はアルミニウム合金の表面は、大気中の酸素によって強固で緻密な酸化膜を形成しているため、鉄系の基材と異なり、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材に直接ニッケルめっき等を行っても、基材との密着性が確保できないため、第一層として、アルミニウム又はアルミニウム合金系の基材の上に、アルミニウム又はアルミニウム合金と物理形状的にも密着性の良い亜鉛置換膜を形成し、それをプライマー層とし、
(2)第二次層として、硬度Hv200前後〜Hv600前後までの無電解ニッケル(Ni−P又はNi−B)めっき層を形成し、
(3)第三次層として、Hv1000前後とさらに硬い硬質クロムメッキ層を形成し、
(4)最後に、Hv1000以上の非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜を形成することで、
第一次層から最上層まで、硬さが傾斜的に上昇し、最上部で最も硬く、その内部応力にて基材剥離を起しやすい炭素膜を最終的に、柔らかい基材であるアルミニウム又はアルミニウム系合金基材の最上部保護層として有効に使えるようにした傾斜多層構造膜とする点にある。
【0019】
さらに、アルミニウム、アルミニウム合金系基材との密着を良くしたい場合は、アルミニウム又はアルミニウム合金系基材の表面をサンドブラスト処理などで荒らすと、亜鉛置換層の密着が向上する。
なお、上記処理を(2)までの無電解ニッケルメッキまでに留めた場合、加熱処理により無電解ニッケルめっき自体の硬度をHv600以上に上げ、炭素膜の下地中間硬度の傾斜層として、その上部に非晶質炭素膜を形成することも摩擦・磨耗試験上十分な効果を確認することもできるが、無電解ニッケルめっき層上に直接成膜される非晶質炭素膜が厚く、大きな内部応力を帯びてくると、非晶質炭素膜の結合に必要な炭素粒子がNiと反応して炭化物を生成しにくく、炭素がNiメッキ膜中に拡散して密着を確保するのが困難と予測され、無電解ニッケルメッキ層−非晶質炭素膜間の密着不足が生じ、非晶質炭素膜が無電解ニッケルめっき層界面から剥離してしまう現象が生じる。
本発明では、無電解ニッケルめっき層と非晶質炭素膜の間に、硬質クロムめっき層を介在させることで該問題を解決するものである。
【0020】
以下、本発明の方法について、各工程順に説明する。
第一次層:亜鉛置換膜の形成
本発明の亜鉛置換膜の形成工程は、無電解ニッケルめっきの下地処理として、すでに公知であり、脱脂工程と、酸性エッチング工程と、硝酸浸漬工程と、第一亜鉛置換工程と、硝酸亜鉛剥離工程と、第二亜鉛置換工程とからなるのが通常である。
具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金基材を、弱アルカリ溶液に浸漬して脱脂し、次いで、硫酸等の酸溶液に浸漬してエッチングした後、硝酸浸漬処理し、次いで、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換溶液にて亜鉛置換層を析出させ(第1次置換)、次いで、スマットを落とすために、硝酸に浸漬し、更に前記と同じ亜鉛置換溶液にて亜鉛置換(第二置換)を行う。
【0021】
第二次層:無電解ニッケルめっき層の形成
無電解ニッケルめっき層は、無電解Ni−Pめっき層であっても、或いは無電解Ni−Bめっき層であってもよい。
例えば、無電解Ni−Pメッキ層を形成する場合であれば、前記亜鉛置換膜を形成した基材を、ニッケルイオンと次亜リン酸イオンが入っためっき液に浸漬して、Ni−Pめっきを形成させる。
めっき液中のニッケルイオンと還元剤である次亜リン酸イオンが接触すると、基材が触媒となって脱水素分解を生じる。その生成した水素原子が、基材に吸着されて活性化し、これがめっき液中のニッケルイオンに接触してニッケルを金属に還元して触媒金属表面に析出するものである。また、触媒金属表面の活性化した水素原子は、液中の次亜リン酸イオンとも反応し、含有するリンを還元してニッケルと合金化する。この析出したニッケルが触媒となって前述のニッケルの還元めっき反応が継続して進行する。すなわちニッケルの自己触媒作用によりめっきの継続進行する特徴がある。これにより、めっき液が流通する空隙があれば、均一にめっき被膜が形成され、まためっき被膜の厚さはめっき時間と比例しており、時間の制御で容易に管理される。
また、無電解Ni−Bメッキ層を形成する場合であれば、ニッケルイオンと、還元剤であるアミンボランなどのホウ素系薬剤を含有する無電解めっき液を用いて同様に形成される。なお、無電解Ni−Bめっきの場合、めっき液の分解劣化が激しく、その都度使い捨てにしなくてはならないので、実際の生産では、無電界Ni−Pが適している。
さらに、本発明の無電解ニッケルめっき層は、無電解Ni−Pめっき層の上に無電解Ni−Bめっき層を形成した二層構造であってもよく、この場合には、後述する図1に示すとおり、無電解Ni−Bめっき層の硬度は、無電解Ni−Pめっき層の硬度より高く、且つ、硬質クロムめっき層の硬度より低いので、より好ましい硬度傾斜構造が形成できる。
形成されるニッケルめっき層の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は0.1〜40μmであり、好ましくは3〜20μmである。
【0022】
第三次層:硬質クロムメッキ層の形成
第三次層である硬質ニッケルめっき層は、クロム酸を含む硫酸水溶液中で通電することにより形成される。
形成される硬質クロムめっき層の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は0.1〜40μmであり、好ましくはフラッシュと言われる0.2〜20μmある。
なお、形成される硬質クロムめっきは、温度を高くすればするほど硬度が落ちる。すなわち、硬質クロムめっき後は1000Hv以上あるが、300℃以上の熱処理を施すと、800Hv程度にまで落ちる。しかしながら、スパッタ法で形成されるクロムの硬度500〜600Hvよりは充分に高い。
【0023】
図1は、各種めっき膜の熱処理と被膜硬度の関係を示す図である。
各めっき層の厚さは35μmであり、測定器には、アカシ製MVK−H3を用い、荷重を、25gf(荷重時間20秒)として測定した。
図1に示すとおり、第三次層の硬質クロムめっき層は加熱により軟質化するので、第二次層にNi−Pめっき層を用いる場合には、めっき後の加温でより硬質化して、350℃付近で硬質クロム層と硬度が同じになり、その後逆転する。したがって、好ましい硬度傾斜構造を得る場合には、硬質クロムめっき後に350℃以上に加熱されることを避けることが必要である。
なお、第二次層がNi−Bめっき層である場合には、めっき後の加熱によっても硬質クロムめっき層との硬度の大小の関係は変化しない。
【0024】
最上層:非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜の形成
非晶質炭素膜は、プラズマCVD法等のCVD(化学的蒸着)法、又はイオンプレーティング法、スパッタリング法等の物理的蒸着(PVD)法等、種々の方法で形成できることが知られているが、本発明では、350℃以下の低温プラズマCVD法を用いるのが好ましい。
すなわち、前述のとおり、硬質クロムめっき層は加熱により硬度が落ちるために、その上に非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成する際に、従来のPVD処理では、350〜500℃に加温されて硬質クロムめっき層の硬度が低下してしまい、場合によっては、無電解ニッケルめっき膜と硬質クロムめっき層の硬度が逆転して、好ましい硬度傾斜構造を有する多層膜構造体を得るのが困難になる。
また、硬質クロムめっき層はその製造法上、多量の水素を膜中に含有し、水素フリーで硬く仕上げたい方向の従来のPVD法では、硬質クロムめっき膜中の水素が邪魔になると考えられる。
さらに、PVD法自体が高温処理のため、その高温にて、アルミニウム又はアルミニウム合金系基板のソリ・ゆがみが激しく、PVDの非常に硬いDLC膜との密着性なども含め、アルミ基板へのPVD処理は適していない。
【0025】
350℃以下の低温にて炭素膜を成膜可能な方法として、水素のコンタミを無視した場合には低温スパッタ法や、さらにワークへの強制冷却装置など複雑で高価な機構を設ければその他種類の方法も考えられるが、好ましい方法としては、プラズマCVD法があげられる。プラズマCVD法は、反応ガスにより成膜するものであって、低温、常圧下でも可能で、均質、均一厚、ち密で、密着性のよい膜を大面積に形成可能であり、成膜装置の構造も単純で安価であるために好ましく用いられる。
プラズマCVD法としては、高周波放電を用いる高周波プラズマCVD法や、直流放電を利用する直流プラズマCVD法、あるいはマイクロ波放電を利用するマイクロ波プラズマCVD法などが挙げられるが、特に、300℃以下、好ましくは、200℃以下の低温プラズマCVD法を用いることにより、ニッケル層(Hv500)→硬質クロム層(Hv1000)→非晶質炭素膜(Hv1500)等の綺麗な階段構造を取ることができる。
【0026】
中でも、後述する一連の検証に示すとおり、特に高圧パルスプラズマCVD法が好ましく用いられる。
高圧パルスプラズマCVD法が好ましい理由は、パルス周波数の増減により電源のDuty比を2%〜10%まで制御可能であることを主とし、他成膜方法に比して成膜温度をより低温にて制御しやすく、可能な限り等間隔の硬度傾斜層を構成可能とし、併せて、熱を可能な限り基材に加えないことで多層膜間の熱線膨張係数の違いによる密着不良を抑制し、また炭素イオン等を高圧にて基材に注入可能で、低温であってもより基材との密着が取りやすい炭素膜の成膜方式であるためである。
【0027】
形成される非晶質炭素膜又はシリコンを含む非晶質炭素膜の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は10nm〜10μmであり、好ましくは0.1μm〜3μmある。
また、硬質クロムめっき層と非晶質炭素膜の密着性をより向上させるために、中間層としてシリコンを含有する非晶質炭素膜を用いることもできる。その場合、この中間層の厚さは、基材の用途・用法によって多様であり、特に限定する必要はないが、通常は10nm〜1μmであり、好ましくは0.1μm〜0.5μmである。
【0028】
非晶質炭素膜形成用の反応ガスには、メタン、アセチレン、ベンゼン等の炭化水素ガスが用いられ、シリコンを含有する非晶質炭素膜形成用の反応ガスには、さらに、Si(CH3)4、SiH4等の珪素化合物ガスを用いればよく、この際、通常、キャリアガスにはアルゴンガスが用いられる。炭化水素ガスと混合しても用いることが可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実験例等を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、テスト用の板状基材として、30mm角、板厚1mmの5000系のアルミニウム合金基材(5052材)を準備し、摺動性、耐磨耗性改善のテストを行った。
【0030】
1.試験基材の準備
以下の1)〜5)の基材を準備した。
1)Al(5052材)無処理の板状基材
2)非晶質炭素膜を直接成膜したAl(5052材)基材
炭素膜の成膜条件は、高圧パルスプラズマCVD装置にて、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め約25分炭素膜を成膜した。炭素膜の厚さは0.5μm、硬度はHv1500を得た。
3)アルミニウム合金基材へ亜鉛置換層の形成した後無電解Ni−Pめっきした基材
まず、テスト基材を弱アルカリの溶液に浸漬して、70℃で脱脂し、70℃の硫酸溶液
に浸漬し基材表面をエッチィングした。
さらに室温にて、50%の硝酸で基材を酸浸漬し、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換液にて室温で亜鉛置換層を析出させ、スマットを落とすため、50%の硝酸に室温で浸漬し、さらに、前液と同じ亜鉛置換液にて亜鉛置換を計2回行った。
基材がアルマイト層を形成したアルミ、またはアルミニウム合金である場合、上記処理の硝酸による酸浸漬や、強アルカリ溶液を使用する亜鉛置換処理にて、10マイクロ厚位のアルマイト層であれば1〜3分間も浸漬すれば容易に溶解してしまい、アルマイト処理済アルミニウム、アルミニウム合金の再表面処理としても有効である。
上記、亜鉛置換層を形成した後の基材に、無電解Ni―Pめっき層を5μの厚さで析出させた。
4)前記の無電解Ni−Pメッキを5μm成膜した基板の上層に、炭素膜を成膜した基材
炭素膜の成膜条件は、高圧パルスプラズマCVD装置にて、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め約25分炭素膜を析出させた。炭素膜の厚さは0.5μ、硬度はHv1500を得た。成膜終了時の成膜室の温度は97℃であった。
【0031】
2.ボールオンディスク法(以下、「BOD法」)による摩擦磨耗試験
図1〜4は、上記1)〜4)の試験結果を示すものである。
1)の基板は、試験開始直後に柔らかい基材表面は破壊され、摩擦係数が大きく上昇しているのが解る(図2参照)。
また、2)の基板は、摩擦、磨耗性は飛躍的に改善し、4000回転までは摩擦係数は安定して0.2以下を示したが、4000回転弱で、突然基材が破壊され、摩擦係数が急上昇している(図3参照)。これは、BOD法のボール付加荷重により基材が変形したためと推測できる。
3)の基板は、摩擦係数は、試験開始早々大きく0.8に上昇し、その後も0.4から0.8までの高い数値を示した。摩擦係数の改善が不十分であることが確認できた(図4参照)。
4)の基板は、摩擦係数、耐久性ともに非常に良い結果が得られる複合膜が出来たことが確認できた(図5参照)。
しかし、このニッケルめっきまで行い、最上部に炭素膜を成膜したものを、後日、局面状を有する5000系のアルミニウム合金基材に行ったところ、局面部分で最上部の炭素膜が剥離する現象が確認され、本件複合膜に密着性、特に成膜時のヒートサイクルによる剥離に大きな課題があることが確認できた。
【0032】
3.基材密着性試験
膜の密着性を評価するため、5000系のアルミニウム合金基材(5052材)の材質で、直径φ10mmで高さ10mmの比較的短い回転半径、急局面を持つ円筒形の基材を用意した。
密着試験に円筒形の基材を使用するのは、基材表面が急な局面を示しており、平板と比較して、表面処理した膜の応力による剥離の影響をより受けやすいからである。
テスト基材を弱アルカリの溶液に浸漬して、70℃で脱脂し、70℃の硫酸溶液に浸漬し基材表面をエッチィングした。さらに室温にて、50%の硝酸で基材を酸浸漬し、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換液にて室温で亜鉛置換層を析出させ、スマットを落とすため、50%の硝酸に室温で浸漬し、さらに、前液と同じ亜鉛置換液にて亜鉛置換を計2回行った。
【0033】
1)上記、亜鉛置換層を形成した後の円筒基材に、
テストサンプル1(1):無電解Ni−Pメッキ層を5μm厚成膜した上に、非晶質炭素
膜(シリコンを含む中間層0.09μmを含む)を0.4μm厚
で成膜したもの
1(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
1(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
テストサンプル2(1)無電解Ni−Pメッキ層を5μm成膜し、その上層部に硬質クロ
ムメッキ層を5μmの厚さで成膜し、炭素膜(中間層含む)を
0.4μm厚で成膜したもの
2(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
2(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
テストサンプル3(1)電解Niメッキ層を5μ成膜し、非晶質炭素膜(同中間層含む)
を0.4μm厚で成膜したもの
3(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
3(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
テストサンプル4(1)アルミ5000系円筒基材上に直接炭素膜(中間層含む)を0
.4μm厚で成膜したもの
4(2)非晶質炭素膜(同中間層含む)を0.8μm厚で成膜したもの
4(3)非晶質炭素膜(同中間層含む)を1.6μm厚で成膜したもの
を準備した。
【0034】
非晶質炭素膜の成膜条件は、高圧パルスプラズマCVD装置にて、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め各々の膜厚となるように成膜時間を調整した。また、非晶質炭素膜厚0.8μmのものと1.6μmのものは同じ炭素膜中間層の厚みとなるように、成膜時間を調整した。なお、成膜終了時の成膜室の各温度は双方とも160℃未満であった。
よって、非晶質炭素膜厚が1.6μmのものが一番内部応力の大きい最外層を持つことになる。
【0035】
2)非晶質炭素膜成膜直後の現象
非晶質炭素膜の成膜後、基材冷却用のガスを導入せず、自然降温させ、成膜室の内部外周に取り付けた温度計が60℃を示した時点で、成膜室から各基材を取り出した。
この成膜後の状態で、サンプル1(1)(無電解Ni−P)、2(電解Ni)の全てにて非晶質炭素膜の基材から、特に、成膜条件状、同一サンプル内の炭素膜の厚い部位からの剥離が進行していることが確認された。
しかし、アルミ5000番系基材に置換析出させた亜鉛層の剥離は、全てのサンプルで確認されなかった。
また、硬質クロムめっき層を成膜したものも全て、非晶質炭素膜の剥離を確認することができなかった。
【0036】
3)ヒートサイクルによる、基材密着力の比較検証
Al(5052材)製円柱(直径:10mm、高さ:10mm)の試料基材を準備し、下地処理として
(1)亜鉛置換層+Ni−P(5μm)+硬質クロムメッキ(5μm)
(2)亜鉛置換層+Ni−P(5μm)+硬質クロムメッキ(05μm)
(3)比較対象として、未処理品
を行い、それぞれの基材を真空装置に入れ、高圧パルスプラズマCVD装置にて、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにてアルゴンプラズマによる表面クリーニングを10分行った後、一般的に密着を向上させるために実施されているシリコンを含む非晶質炭素膜を中間層として10分形成し、アセチレンを原料とする非晶質炭素膜を30分間成膜する工程を2回行い、中間層(0.4μm)を含む非晶質炭素膜1.2μm、Hv1500を各機材試料上に成膜した。成膜終了時の成膜室の温度は125℃であった。
成膜後、ヒートサイクルによる密着力の比較試験として、成膜後の各試料をホットプレートにて260℃まで昇温後、10分保持し、17℃の水に浸漬させ急冷するサイクルにて、膜の剥離状態を観察する試験を行った。
結果は、(3)は3サイクル目で基材からシリコンを含む非晶質炭素膜の部分剥離が観察され、他は、10サイクル目でも剥離は全く観察されなかった。
本件にて、アルミニウム基材と亜鉛置換層とNi−P(5μm)と硬質クロムメッキ(5μm)と非晶質炭素膜の全ての層の密着状態が、従来実施されている、アルミニウム、アルミニウム合金系基材上にシリコンを含む非晶質炭素膜を中間層として形成した上に形成される非晶質炭素膜の密着力より格段に優れていることが確認できた。
【0037】
4.各種基材の摩擦磨耗試験
1)試験試料の準備
下記の各試験試料1〜4(100mm×40mm、1mm厚)を準備し、摩擦磨耗試験機(JIS K 7218、ボール直径2mm、超硬球 押し込み荷重 500g〜700gに往復毎に変化)にて摩擦磨耗試験を行った。
(試料1)
アルミニウム合金5052材基材を弱アルカリの溶液に浸漬して、70℃で脱脂し、70℃の硫酸溶液に浸漬し基材表面をエッチィングした。さらに室温にて、50%の硝酸で基材を酸浸漬し、NaOHを主成分とする強アルカリの亜鉛置換液にて室温で亜鉛置換層を析出させ、スマットを落とすため、50%の硝酸に室温で浸漬し、さらに、前液と同じ亜鉛置換液にて亜鉛置換を計2回行った。
上記、亜鉛置換層を形成した後の基材に、無電解Ni−Pめっき層を20分間行い10μの厚さで析出させた。さらにその上層に電解めっきにより硬質クロムめっき層を35分間行い10μの厚さで成膜したものを、超音波洗浄後、高圧パルスプラズマCVD装置に投入して1×10−3Paまで減圧し、アルゴンガスプラズマで基材を約5分クリーニングした後、シリコンを含む中間層を形成し、原料ガスにアセチレンを使用し、印加電圧−5kV、パルス周波数10kHz、ガス流量40SCCM、ガス圧2Paにて中間層を形成する工程含め約20分炭素膜を析出させた。
炭素膜の厚さは0.4μ、硬度はHv1500を得た。成膜終了時の成膜室の温度は86℃であった。
(試料2)
アルミニウム合金5052材基材を、多層構造とせず、上記試料1の基材上に直接炭素膜を成膜したもの。中間層、炭素膜とも厚みは上記試料1と同じとした。
(試料3)
超硬合金(タングステン・カーバイド)H1(住友電工ハードメタル製)
(試料4)
SUS420J2
【0038】
2)評価結果
(試料1)
図6は摩擦係数グラフ、図7はボール軌跡部分の写真である。
試料1(本発明の、アルミニウム合金基材上に多層膜を成膜したもの)は、ボール100往復終了後も摩擦係数は非常に低く、安定しており、ボールの軌跡写真も軌跡が殆ど見分けられない程良好な耐摩擦磨耗性を示した。
(試料2)
図8は摩擦係数グラフであり、図9はボール軌跡部分の写真である。
試料2(アルミニウム合金基材上に炭素膜のみを成膜したもの)は、ボールの2往復目で摩擦係数が急上昇しており、8往復目で試験中止した時点のボールの軌跡写真(b)から、高圧加圧に対してアルミニウム基材自体が大きく抉れて破壊されている様子が確認できる。
(試料3)
図10は摩擦係数グラフであり、図11は100往復終了時のボール軌跡部分の写真である。
試料3(超硬合金)は、10往復後系数が急上昇し20往復で破壊されたと考えられる。
(試料4)
図12は摩擦係数グラフであり、図13は100往復終了時のボール軌跡部分の写真である。
試料4(SUS420J2)は、20往復後系数が急上昇し、40往復時で破壊されたと考えられる。
【0039】
今回の評価を通じて、柔らかく加工性に富み、軽量でもあり、比較的安価に入手可能なアルミにウム合金の加工品等に本発明の多層膜を成膜することにより、大きな耐摩耗性を付与することが可能となり、部品や設備の軽量化、低価格化など技術、経済的な効果は大きいことが示された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材上に、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層、硬質クロムめっき層、及び非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜がこの順に、又はさらに前記硬質クロムめっき層上に中間接着層を介してこの順に形成されていることを特徴とする多層膜構造体。
【請求項2】
硬度の傾斜構造を有していることを特徴とする、請求項1に記載の多層膜構造体。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材表面に亜鉛置換層を形成し、該亜鉛置換層をプライマー層として無電解めっき法によりニッケル層を形成し、次いで、めっき法により硬質クロム層を形成し、この上に又は中間接着層を介して、350℃以下の条件下で非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
【請求項4】
前記非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を、プラズマCVD法で形成することを特徴とする、請求項3に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
【請求項5】
前記プラズマCVD法が、DCパルスプラズマCVD法であることを特徴とする、請求項4に記載の多層膜積層方法。
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材上に、亜鉛置換層、無電解ニッケルめっき層、硬質クロムめっき層、及び非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜がこの順に、又はさらに前記硬質クロムめっき層上に中間接着層を介してこの順に形成されていることを特徴とする多層膜構造体。
【請求項2】
硬度の傾斜構造を有していることを特徴とする、請求項1に記載の多層膜構造体。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材表面に亜鉛置換層を形成し、該亜鉛置換層をプライマー層として無電解めっき法によりニッケル層を形成し、次いで、めっき法により硬質クロム層を形成し、この上に又は中間接着層を介して、350℃以下の条件下で非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を形成することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
【請求項4】
前記非晶質炭素膜又はシリコン含有非晶質炭素膜を、プラズマCVD法で形成することを特徴とする、請求項3に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板への多層膜積層方法。
【請求項5】
前記プラズマCVD法が、DCパルスプラズマCVD法であることを特徴とする、請求項4に記載の多層膜積層方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【公開番号】特開2013−91811(P2013−91811A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37580(P2010−37580)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(593135365)太陽化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(593135365)太陽化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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