説明

アルミニウム又はアルミニウム合金用白色処理液組成物および白色処理方法

【課題】有害性、刺激性の強いフッ素化合物を用いることなく、かつ、特別な装置を必要としない簡便な化学的処理により、アルミニウム又はアルミニウム合金を装飾性のある白色面にするための処理液および処理方法を提供する。
【解決手段】リン酸および硫酸を混合してなる基本液1kgに対して、ビスマス化合物をビスマス元素として0.001〜0.020モル添加してなることを特徴とし、好ましくは、更に含窒素ポリカルボン酸類を添加してなる白色処理液。この液を90〜110℃に加温し、アルミニウム又はアルミニウム合金を60〜120秒処理することにより、表面が白色化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単にアルミニウム合金と略す。)の表面に白色面を形成するための白色処理液、およびその処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽くて耐久性があり加工も容易なため、種々な用途に利用され、意匠性や更に耐久性を高めるために表面処理が広く行われている。意匠の多様化が進む中、携帯電話やデジタルカメラの外装等、複雑な形状を有する軽薄短小物品の表面処理のひとつとして白色処理が行われている。
【0003】
アルミニウム合金の表面を白色処理する方法としては、非特許文献1に記載されているように、エッチング、ベーマイト法、化成皮膜等による化学的処理法、特殊アルミニウム合金や特殊浴を利用した陽極酸化法、塗装等がある。化学的処理法としては、特許文献1〜3に提案されているようなフッ素化合物を含有する液による処理が、その作業の簡便性や得られる面の白色度が高いことより古くから使用されている。しかし、薬液槽や製品を支持するハンガー等に耐フッ酸性の高価な素材を用いる必要があり、廃液処理も厄介である。また、刺激性が高く作業環境を悪化させるので、環境が重要視される現在は敬遠される方法である。フッ素化合物を用いない化学的処理方法として、特許文献4〜5にあるように、液組成に特徴のあるアルカリ浴が提案されているが、現在使用されているフッ素化合物のような優れた白色面は得られない。他の方法としては、特許文献6〜7にあるように、アルミニウム合金の合金成分を変えることにより陽極酸化後に白色にする方法が提案されているが、汎用される材質でなく、価格、入手性、強度等考慮する必要があり、煩雑である。一方、特殊浴を利用した陽極酸化法では、被処理物品の形状によって仕上がり面が不均一となったり、白色化のための専用浴が必要となる。また、ブラスト等の機械的処理後に薬液でエッチングを行い、更に陽極酸化する方法も行われているが、コスト高となり、また、機械的処理は複雑で肉厚の薄い物品ではショットの衝撃により変形して不良品が出るおそれがある。塗装では白色処理製品が長い間の使用中に一部はがれるといった不都合が生じる場合がある。これら機械的あるいは電解的方法では、設備が複雑であったり、処理面が被処理物品の形状に左右されやすかったり、使用中にはがれたりすることがある。したがって、環境的には好ましくないが、簡便な作業性、高い白色度から、フッ素化合物による白色処理が現在も主流となっている。
【0004】
【特許文献1】特公昭41−16363
【特許文献2】特公昭48−43016
【特許文献3】特公昭49−19506
【特許文献4】特公昭41−10490
【特許文献5】特開昭48−36038
【特許文献6】特開平3−47937
【特許文献7】特開平10−17965
【非特許文献1】「アルミニウム表面技術便覧」、軽金属出版、(1980)、p.519−521
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、設備的、コスト的に優れ、使用時の耐久性も優れている化学的処理方法で、かつ、有害性、刺激性の強いフッ素化合物を用いることなく、アルミニウム又はアルミニウム合金に白色度の高い白色面を形成する白色処理液、およびその処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ビスマス化合物を特定量含有するリン酸−硫酸混合液で化学処理することにより、アルミニウム合金表面が優れた白色面となることを発見し、本発明を完成したものである。
【0007】
すなわち、リン酸および硫酸を混合してなる基本液1kgに対して、ビスマス化合物をビスマス元素として0.001〜0.020モル添加してなることを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金用白色処理液(請求項1)を要旨とし、基本液がリン酸を80.8〜42.5重量%、硫酸を4.9〜49.0重量%含有すること(請求項2)、基本液1kgに対して含窒素ポリカルボン酸類を0.001〜0.020モル添加してなること(請求項3)、含窒素ポリカルボン酸類が、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、およびそれらの塩からなる群より選択される一種または2種以上であること(請求項4)を特徴とする。更に、リン酸および硫酸を混合してなる基本液1kgに対して、ビスマス化合物をビスマス元素として0.001〜0.020モル添加してなる液により処理するアルミニウム又はアルミニウム合金表面の白色処理方法(請求項5)も要旨とし、基本液1kgに対して含窒素ポリカルボン酸類を0.001〜0.020モル添加してなる液を使用すること(請求項6)も特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有害性、刺激性の強いフッ素化合物を用いることなく、また、特別な設備を要することのない簡便な化学的処理により、アルミニウム合金に使用価値の高い白色面を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のアルミニウムまたはアルミニウム合金用白色処理液の構成成分、有効成分量を説明する。
【0010】
本発明の白色処理液は、リン酸と硫酸の混合液を基本液とし、基本液は、リン酸を80.8〜42.5重量%、硫酸を4.9〜49.0重量%含有する。リン酸は濃厚で高粘度のリン酸液体膜をアルミニウム基材表面に形成して平滑化に働き、硫酸は酸腐食を促進して粗面化に働き、白色処理には両成分がバランスよく配合されている必要がある。硫酸4.9重量%以上で白色化となり、これよりも少ないと粗面化が少なくリン酸による平滑化が強すぎて光沢化に働き、十分な白色面は得られない。硫酸濃度の増大と共に面の粗面化が進み、硫酸濃度が49.0重量%を超えると、リン酸による平滑化が十分に発揮されず、圧延痕跡等のムラが目立ってくる。用いるリン酸の濃度は、入手性、取扱い性、白色化効果の点で、85%あるいは75%が好ましいが特に限定しない。85%リン酸と98%硫酸を用いる場合であれば、85%リン酸:98%硫酸の重量比で、95:5〜50:50の範囲が好ましい。本発明で得られる白色面は、ひとつにはリン酸と硫酸による微細な粗面化に基づく乱反射面と考えられ、この範囲でリン酸と硫酸の組成を変更することにより、好みの粗さの面にすることができ、リン酸の多い組成では深度が浅く微細なものが得られ、硫酸量を多くすれば粗い方向に変化する。
【0011】
ビスマス化合物は、基本液1kgに対してビスマス金属として0.001〜0.020モル添加する。0.001モル未満では半光沢面となり白色面は得られず、また、必要以上に多くしても経済的によくない。本発明におけるビスマスの作用機構は定かではないが、アルミニウム表面に微細な凹凸が形成されて乱反射が起こり、白色化すると考えられる。使用するビスマス化合物は特に限定されるものではなく、三酸化ビスマス、硝酸ビスマス、ビスマス酸ナトリウム、塩化ビスマス等を用いることができる。ビスマス化合物の代わりに、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン等の化合物を添加しても、白色面とはならない。ビスマス化合物と他の金属化合物を併用してもよい。しかし、金属の作用は種類によって異なり、金属種によっては表面の凹凸が粗大となり、均一で深度の浅い凹凸面が得られないため乱反射が起こりにくくなり、白色面とならない場合がある。要望されている白色面に応じて、併用する金属種を選択する。
【0012】
本発明の白色処理液は、更に、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸およびそれらの塩のような含窒素ポリカルボン酸類を添加することが好ましく、圧延跡や白色度の濃淡ムラを解消する効果がある。添加量は、基本液1kgに対して0.001〜0.020モルとすることが好ましい。0.001モル未満ではムラ解消の効果はなく、また、必要以上に多くしても経済的によくなく、不溶解物による悪影響も生起しうる。含窒素ポリカルボン酸の代わりに、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸類等、アルミニウムに対して腐食促進効果のあるキレート化剤を添加してもよく、また、o−ヒドロキシアゾ化合物、アリザリン誘導体、トロポロン化合物等にスルホン酸基を導入した化合物や、エチレンチオ尿素、グリコール酸ナトリウム、p−ヒドロキシベンズアルデヒド等を添加しても、同様の効果が得られる。
【0013】
このほか、化学研磨において通常用いられている界面活性剤を適宜用いることができる。界面活性剤の添加は、ピット発生の防止や水洗を容易にする等の効果が生じる。
【0014】
本発明に係る白色処理液を調整するにあたっては、上記に挙げた各成分を所定量添加し、攪拌混合するものであり、それにより白色処理液を得ることができる。
【0015】
次に、本発明の白色処理方法について説明する。本発明の白色処理液は、JIS 1050、1100、5052、5056、6063等、通常の装飾用途に多用される一般的アルミニウム合金に用いることができる。より高度な白色度を得るには、1050や1100の純アルミニウム系を用いることが好ましい。
【0016】
本発明の白色処理方法は、前記白色処理液を、通常90〜110℃に加温し、処理する物品を60〜120秒浸漬し、その後、水洗、乾燥することにより行う。液温が90℃未満ではアルミニウムの溶解が進まないため白色化が困難となり、また110℃を超えると処理面の粗面化が進みすぎて逆に白色度が低下し、また、アルミニウムの過剰な溶解により肉薄となり、経済的、強度的に不都合が生じる。また、白色処理液に浸漬する処理時間は、アルミニウム合金の種類、大きさ、液温、液中のアルミニウム濃度等に応じて適宜設定されるものであるが、短かすぎると均一な白色化には至らず、また、長すぎるとアルミニウムの過剰な溶解により肉薄となり、経済的でなく、強度も低下する。液中のアルミニウム濃度が低い場合は、エッチング作用が激しく圧延跡が目立つ場合があり、新液においてはアルミニウムを0.3%程度となるように溶解することにより、安定した処理面が得られる。また、白色処理液を繰り返し使用しアルミニウム濃度が上がりすぎると、アルミニウムの溶解が進行せず処理面の白色化が低下する場合がある。そのような場合は、新液を追加してアルミニウム濃度を例えば、1%以下とすることにより、再び白色度が得られるようになる。
【実施例】
【0017】
次に、本発明の実施例について、比較例と対比して具体的に説明する。
<実施例1〜11および比較例1〜5>
圧延跡のあるアルミニウム合金の板材(1×50×100mm)を脱脂洗浄し、表1〜3に示す組成の液および処理条件で処理した後、水洗、乾燥し、表面状態を目視にて観察した。また、白色度の一指標であるL値をミノルタ製色彩色差計CR−200により測定した。その結果を表1〜3に併記した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】
実施例1〜4では、フッ素化合物で処理した比較例1とほぼ同等の、L値が90に近い明度の面が得られた。リン酸−硫酸系梨地液の公知例である比較例2では白色面は得られなかった。処理液のアルミニウム濃度が1%と比較的高い場合でも、含窒素ポリカルボン酸またはその塩が共存している実施例2〜4では、白色の濃淡ムラがなく十分な白色面が得られた。ビスマスが基本液に対して0.001モル以上となる実施例5〜7においては白色面が得られたが、ビスマス量が0.0004モルと少ない比較例3では白色面は得られなかった。また、ビスマス化合物の代わりにニッケル化合物や銅化合物を添加した比較例4および5では白色面が得られなかった。また、基本液が98%硫酸を5〜50重量%含有する実施例8、6、9〜11において白色面が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、装飾性を重視する部分に使用されるアルミニウム又はアルミニウム合金の白色化に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸および硫酸を混合してなる基本液1kgに対して、ビスマス化合物をビスマス元素として0.001〜0.020モル添加してなることを特徴とする、アルミニウム又はアルミニウム合金用白色処理液。
【請求項2】
基本液が、リン酸を80.8〜42.5重量%、硫酸を4.9〜49.0重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用白色処理液。
【請求項3】
基本液1kgに対して、含窒素ポリカルボン酸類を0.001〜0.020モル添加してなることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用白色処理液。
【請求項4】
含窒素ポリカルボン酸類が、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、およびそれらの塩からなる群より選択される一種または2種以上であることを特徴とする、請求項3に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用白色処理液。
【請求項5】
リン酸および硫酸を混合してなる基本液1kgに対して、ビスマス化合物をビスマス元素として0.001〜0.020モル添加してなる白色処理液により処理することを特徴とする、アルミニウム又はアルミニウム合金の白色処理方法。
【請求項6】
白色処理液が、基本液1kgに対して含窒素ポリカルボン酸類を0.001〜0.020モル添加してなることを特徴とする、請求項5に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の白色処理方法。