説明

アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法

【課題】染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、ニッケル塩を用いずに染料定着性及び耐食性に優れた皮膜にすることができる封孔処理方法を提供すること。
【解決手段】染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬した後、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む封孔処理液に浸漬して封孔処理することを特徴とするアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法に関する。詳細には、本発明は、染色を行ったアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、ニッケル塩を用いないで封孔処理する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の陽極酸化皮膜には、汚れ防止、耐食性の向上等を達成するため封孔処理を施すのが一般的である。封孔方法として、沸騰水封孔、水蒸気封孔、常温封孔、酢酸ニッケル水溶液を用いて封孔処理を行う酢酸ニッケル封孔等が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
そして、陽極酸化皮膜に染料染色を行った場合には、これらの方法の中でも特に酢酸ニッケル封孔が用いられている。これは、沸騰水封孔又は蒸気封孔では激しい色抜けが発生し、常温封孔では染料の封孔処理液への移行(いわゆる「泣き出し」)が多く発生するのに対して、酢酸ニッケル封孔を用いると、染料の皮膜への定着性が高く、また沸騰水封孔に比べて皮膜の耐食性が得られやすいからである。しかし、近年、ニッケルアレルギーや微粉末性のニッケル塩の有害性が問題になっていることから、ニッケル塩を用いない封孔処理方法によって、酢酸ニッケル封孔と同等の染料定着性及び耐食性を有する陽極酸化皮膜の染色処理品を製造することが望まれている。
【0004】
以前から、ニッケル塩を用いない封孔処理がいくつか提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1及び2には、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属を含む封孔処理液を用いた封孔方法が開示されている。しかしながら、これらの封孔方法では封孔処理液への染料の移行が非常に多く、酢酸ニッケルで封孔したものに比べて、色抜け、色変わり又は色ムラ模様の多いものしか得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−511972号公報
【特許文献2】特開平5−106087号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】軽金属出版社編 アルミニウム表面技術便覧 金属塩封孔処理の項
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、ニッケル塩を用いずに染料定着性及び耐食性に優れた皮膜にすることができる封孔処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、染料染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に対してニッケル塩を使用しない封孔処理を種々検討した結果、染色した陽極酸化皮膜を特定の水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬し、その後に、マグネシウム及び/又はカルシウムを含む封孔処理液に浸漬すれば、染料定着性及び耐食性に優れた皮膜が得られることを見出し、さらにこれに検討を重ねることにより、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法を提供する。
【0010】
項1.染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬した後、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む封孔処理液に浸漬して封孔処理することを特徴とするアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法。
【0011】
項2.前記水溶性カチオンポリマーが、モノマー成分としてイミン、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記項1に記載の方法。
【0012】
項3.前記モノマー成分が、ジシアンジアミド、ジメチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、(メチル)ジアリルアミン塩酸塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物及びメチルジアリルアミン塩酸塩のエピクロルヒドリン変性体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項2に記載の方法。
【0013】
項4.前記水溶性カチオンポリマーが、ジシアンジアミドとジエチレントリアミン又はホルムアルデヒドとの重縮合物、ジメチルアミンとアンモニアとエピクロルヒドリンとの重縮合物、ヘキサメチレンジアミン又はジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物の重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの重縮合物、ジアリルアミン塩酸塩とアクリルアミドとの重縮合物、及びメチルジアリルアミン塩酸塩のエピクロルヒドリン変性体の重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
【0014】
項5.前記水溶性カチオンポリマーが、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの重縮合物、ジシアンジアミドとホルムアルデヒドとの重縮合物、及びジメチルアミンとアンモニアとエピクロルヒドリンとの重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種である、上記項4に記載の方法。
【0015】
項6.前記水溶性カチオンポリマー水溶液の濃度が、0.1g/L〜500g/Lである、上記項1〜5のいずれかに記載の方法。
【0016】
項7.前記マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤が、水溶性の塩である、上記項1〜6のいずれかに記載の方法。
【0017】
項8.前記封孔剤が、酢酸塩又は硝酸塩である、上記項7に記載の方法。
【0018】
項9.前記封孔処理液に含まれる前記封孔剤の濃度が1g/L〜50g/Lである、上記項1〜8のいずれかに記載の方法。
【0019】
項10.前記封孔処理液の温度が80℃〜沸点である、上記項1〜9のいずれかに記載の方法。
【0020】
項11.前記封孔処理液のpHが5.0〜8.0である、上記項1〜10のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ニッケル塩を用いずに、染料定着性及び耐食性に優れた皮膜を得ることができるアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法を提供することができる。本発明のアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法によれば、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む封孔処理液で封孔処理を行う前に皮膜を水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬することで、染料の皮膜内への固着が強固になるので、封孔処理に有毒なニッケル塩を用いなくても、染料定着性及び耐食性に優れた皮膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明は、染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬した後、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む封孔処理液に浸漬して封孔処理するアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法である。
【0024】
染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬することで染料染色の皮膜内への固着が強固となり、この後に、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む封孔処理液に浸漬して封孔処理することで、染料定着性及び耐食性に優れた皮膜を得ることができる。このように、本発明の封孔処理方法によれば、ニッケル塩を用いなくても染料定着性及び耐食性に優れた皮膜を得ることが可能になる。
【0025】
本発明の封孔処理方法には、染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜が用いられる。この染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜は、一般的なアルミニウム合金に公知の陽極酸化法及び公知の染色方法を適用して得られたものであれば、制限なく使用することができる。
【0026】
アルミニウム合金としては、例えば、JISに規定されているJIS−A 1千番台〜7千番台で示される展伸材系合金、AC、ADCの各番程で示される鋳物材等を代表とするアルミニウム主体の各種合金群から選ばれたものを使用することができる。
【0027】
アルミニウム合金に施される陽極酸化は、陽極酸化皮膜の染料による染色を目的とした公知の陽極酸化法であればいかなる方法でもよい。例えば、硫酸濃度が100g/L〜400g/L程度の水溶液を用い、液温を0〜30℃程度として、0.5〜4A/dm程度の陽極電流密度で電解を行う方法が挙げられる。
【0028】
染色は、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜染色用染料を用いた染色方法であれば、いかなる方法で行われていてもよい。例えば、染料の水溶液にアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を浸漬する方法が挙げられる。染料としては、一般的なアルミニウム合金の陽極酸化皮膜染色用染料を用いることができる。具体的には、クロム含金アゾ系、無含金アゾ系、無含金キサンテン系、無含金アントラキノン系、銅フタロシアニン系、鉄含金アゾ系等の染料が挙げられる。これらの染料は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。そして染色を行った後に、水洗を行う。
【0029】
本発明では、染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬する(以下、この工程を「染料固着工程」という)。封孔処理を行う前に、皮膜を水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬することで、染料の皮膜内への定着又は固着が強化される。この染料固着工程を経ることにより、次の封孔工程において、皮膜の封孔処理液浸漬中に起こる染料脱着を低減することができる。
【0030】
染料固着工程で使用される水溶性カチオンポリマーは特に限定されないが、モノマー成分としてイミン、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含むものである。モノマー成分として具体的には、ジシアンジアミド、ジメチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、(メチル)ジアリルアミン塩酸塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物、メチルジアリルアミン塩酸塩のエピクロルヒドリン変性体等を挙げることができる。水溶性カチオンポリマーは、上記モノマー成分のみで重縮合物を形成してもよいし、他のモノマー成分とともに重縮合物を形成してもよい。他のモノマー成分として、例えば、ジエチレントリアミン、ホルムアルデヒド、アンモニア、エピクロルヒドリン、アクリルアミド等を挙げることができる。
【0031】
水溶性カチオンポリマーの具体例として、例えば、ジシアンジアミドとジエチレントリアミン又はホルムアルデヒドとの重縮合物、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンとアンモニアとの重縮合物、ヘキサメチレンジアミン又はジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物の重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの重縮合物、ジアリルアミン塩酸塩とアクリルアミドとの重縮合物、及びメチルジアリルアミン塩酸塩のエピクロルヒドリン変性体の重縮合物等を挙げることができる。
【0032】
この中で、ジシアンジアミドとジエチレントリアミン又はホルムアルデヒドとの重縮合物、及びヘキサメチレンジアミン又はジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物が好ましい。
【0033】
これらの重縮合物は、1種単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0034】
水溶性カチオンポリマーの分子量は、例えば、GPCによる分子量で、500〜100万程度、好ましくは1000〜10万程度であればよい。
【0035】
上記水溶性カチオンポリマー水溶液の濃度は、通常0.1g/L〜500g/L程度であり、好ましくは1g/L〜100g/L程度である。処理温度は、通常0〜50℃程度であり、好ましくは5〜35℃程度である。浸漬時間は、通常10秒〜30分であり、好ましくは30秒〜10分である。これらの値を上記範囲とすることにより、皮膜の染料が水溶性カチオンポリマー水溶液に移行する量が増大したり、封孔後の皮膜が粉吹き状態(皮膜表面に粉状の微粒子が付着した外観不良状態)となるのを防ぐとともに、水溶性カチオンポリマー水溶液が染料固着効果を発揮し、封孔処理で皮膜から染料の封孔処理液への移行(いわゆる「泣き出し」)を防止する効果を得ることができる。そして、染料固着工程後には、通常、水洗が行われる。
【0036】
上記染料固着工程後に、皮膜を本発明の封孔処理液に浸漬する。この工程により染料定着性と、皮膜の耐食性とを有する皮膜を、非ニッケル塩を用いた封孔処理で実現することができる。
【0037】
本発明の封孔処理液として、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む水溶液が用いられる。封孔処理液に使用する封孔剤は、マグネシウム塩及びカルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、マグネシウム塩、カルシウム塩、又はマグネシウム塩とカルシウム塩との混合物のいずれかである。
【0038】
マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤は、水溶性の塩であれば特に限定されないが、酢酸塩又は硝酸塩が好ましく、pH緩衝性がある酢酸塩が特に好ましい。封孔処理液に含まれる封孔剤の濃度は、通常1g/L〜50g/Lであり、好ましくは3g/L〜20g/L程度である。
【0039】
封孔処理液は、封孔性能(外観、耐食性等)を向上させるために、pH緩衝剤、界面活性剤等の添加剤成分を含んでもよい。添加剤として、例えば、酢酸、酢酸塩、硝酸、硝酸塩、安息香酸、安息香酸塩等のpH緩衝剤又はpH調整剤;ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩等のスルホン酸系分散剤等が挙げられる。
【0040】
封孔処理液のpHは、通常5.0〜8.0であり、好ましくは5.3〜6.0である。封孔処理液のpHは、例えば、酢酸、硝酸、安息香酸、硫酸等の酸類;水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア水等のアルカリ類を用いて上記pH範囲となるように調整する。
【0041】
封孔処理液の温度(処理温度)は通常80℃〜沸点程度であり、好ましくは85℃〜沸点程度である。浸漬時間は、通常1分〜60分程度であり、好ましくは3分〜30分程度である。処理温度及び浸漬時間を上記範囲にすることにより、封孔後の皮膜が粉吹き状態になるのを防ぐとともに、皮膜の耐汚染性を向上し、また耐食性を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の具体例(実施例)を示すが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0043】
下記の実施例及び比較例に用いる、陽極酸化及び染色を施したアルミニウム合金試験片は、以下の製造条件に従って製造した。
【0044】
アルミニウム合金の試験片(JIS A1100P板材、縦10cm×横5cm)を弱アルカリ性脱脂液(奥野製薬工業(株)製トップアルクリーン101(商品名)の30g/L水溶液、浴温:60℃)に3分間浸漬して脱脂し、水洗した後、硫酸を主成分とする陽極酸化浴(遊離硫酸180g/L及び溶存アルミ8.0g/Lを含む)で陽極酸化(浴温:20±1℃、陽極電流密度:1A/dm、電解時間:30分間、膜厚:約10μm)した。得られた陽極酸化皮膜を水洗し、98%硫酸100mL/Lを含む酸活性浴(浴温:室温)に1分間浸漬して酸活性し、水洗後に下記染料の水溶液(浴温:50℃)に5分間浸漬して染色し、水洗することにより、陽極酸化及び染色を施したアルミニウム合金試験片(以下、「陽極酸化−染色済試験片」という)を得た。
【0045】
ここで、染料及びその濃度は、TACブラック415(クロム含金アゾ系)2g/L、TACイエロー201(クロム含金アゾ系)2g/L、TACレッド102(クロム含金アゾ系)5g/L、TACブルー502(銅フタロシアニン系) 5g/L、TACブラウン601(クロム含金アゾ系)5g/L、TACイエロー4G(無含金アゾ系)2g/L、TACピンク131(無含金キサンテン系)5g/L、TACピンク139(無含金アントラキノン系)5g/L、TACブラウンRH(鉄含金アゾ系)5g/Lである。なお、上記染料は、いずれも奥野製薬工業(株)製TAC染料である。
【0046】
実施例1
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、下記の構造式:
【0047】
【化1】

【0048】
を有する、センカ(株)製ユニセンスKHE−102L(商品名)(ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン重縮合物、GPCによる分子量:10万未満、固形分:50%、粘度:100〜300mPa・s)の15mL/L水溶液(浴温:室温)に5分間浸漬し、水洗した。その後、酢酸マグネシウムを20g/L含み、硝酸でpH5.70に調整した封孔処理液を入れた浴(浴温:90〜92℃)に12分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0049】
実施例2
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、下記の構造式:
【0050】
【化2】

【0051】
を有する、センカ(株)製ユニセンスKHF10P(商品名)(ジシアンジアミド−ホルムアルデヒド重縮合物、固形分:98%)の20g/L水溶液(浴温:室温)に5分間浸漬し、水洗した。その後、酢酸マグネシウムを20g/L含み、硝酸でpH5.70に調整した封孔処理液を入れた浴(浴温:90〜92℃)に12分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0052】
実施例3
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、下記の構造式:
【0053】
【化3】

【0054】
を有する、センカ(株)製ユニセンスKHP10P(商品名)(ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン重縮合物、固形分:98%)の50g/L水溶液(浴温:室温)に1分間浸漬し、水洗した。その後、硝酸カルシウムを10g/L含み、酢酸でpH5.70に調整した封孔処理液を入れた浴(浴温:90〜92℃)に12分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0055】
比較例1
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、酢酸ニッケル系封孔剤(奥野製薬工業(株)製トップシール H−298(商品名))を40mL/L含み、酢酸でpH5.70に調整した封孔処理液を入れた浴(浴温:90〜92℃)に12分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0056】
比較例2
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、酢酸マグネシウムを20g/L含み、硝酸でpH5.70に調整した封孔処理液を入れた浴(浴温:90〜92℃)に12分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0057】
比較例3
上記製造条件に従って製造した各陽極酸化−染色済試験片を、硝酸カルシウムを10g/L含み、酢酸でpH5.70に調整した封孔処理液を入れた浴(浴温:90〜92℃)に12分間浸漬して封孔処理を行い、その後、水洗及び乾燥を行った。
【0058】
上記実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた試験片について、以下のように染色度合いの判定、耐食性試験及び封孔度試験を行った。その結果を表1及び2に示す。なお、耐食性試験及び封孔度試験については、染料としてブラック415を使用した場合のみ行った。
1.染色度合いの判定
比較例1の酢酸ニッケルで封孔した試験片の染色度合いを色の濃さ基準「5」として、「0」(無着色)から「10」(濃い着色)の11段階で目視評価した。
2.耐食性試験
JISH 8681−1:1999(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の耐食性試験方法 第1部:耐アルカリ試験−アルカリ滴下試験)に準拠して行った。
3.封孔度試験
JIS H 8683−2:1999(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の封孔度試験方法 第2部:リン酸−クロム酸水溶液浸漬試験)に準拠して行った。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
表1及び2の結果から、染料固着工程を行った後にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む封孔処理液に浸漬した実施例1〜3は、酢酸ニッケル塩で封孔処理した比較例1と同程度の染料定着性及び封孔性能が得られることがわかった。また、実施例1〜3は、染料固着工程を行わずにマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤で封孔処理した比較例2及び3と比較すると、染料定着性に優れていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色したアルミニウム合金の陽極酸化皮膜を、水溶性カチオンポリマー水溶液に浸漬した後、マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤を含む封孔処理液に浸漬して封孔処理することを特徴とするアルミニウム合金の陽極酸化皮膜用封孔処理方法。
【請求項2】
前記水溶性カチオンポリマーが、モノマー成分としてイミン、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第4級アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマー成分が、ジシアンジアミド、ジメチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、(メチル)ジアリルアミン塩酸塩、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物及びメチルジアリルアミン塩酸塩のエピクロルヒドリン変性体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性カチオンポリマーが、ジシアンジアミドとジエチレントリアミン又はホルムアルデヒドとの重縮合物、ジメチルアミンとアンモニアとエピクロルヒドリンとの重縮合物、ヘキサメチレンジアミン又はジメチルアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級化物の重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの重縮合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの重縮合物、ジアリルアミン塩酸塩とアクリルアミドとの重縮合物、及びメチルジアリルアミン塩酸塩のエピクロルヒドリン変性体の重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記水溶性カチオンポリマーが、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの重縮合物、ジシアンジアミドとホルムアルデヒドとの重縮合物、及びジメチルアミンとアンモニアとエピクロルヒドリンとの重縮合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性カチオンポリマー水溶液の濃度が、0.1g/L〜500g/Lである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記マグネシウム塩及び/又はカルシウム塩からなる封孔剤が、水溶性の塩である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記封孔剤が、酢酸塩又は硝酸塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記封孔処理液に含まれる前記封孔剤の濃度が1g/L〜50g/Lである、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記封孔処理液の温度が80℃〜沸点である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記封孔処理液のpHが5.0〜8.0である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−248545(P2010−248545A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96784(P2009−96784)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)