説明

アルミニウム合金物品、アルミニウム合金部材およびその製造方法

【課題】アルコキシシラン含有トリアジンチオールを用いて、樹脂とアルミニウム合金との間に優れた接合力を有するアルミ合金物品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体1と、該基体1の表面の少なくとも一部分に、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を介して接合する樹脂4とを含むアルミニウム合金物品100であって、前記基体1と前記脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3との間に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜2を含むアルミニウム合金物品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の少なくとも一部に樹脂が接合されているアルミニウムおよびアルミニウム合金物品と表面の少なくともに一部に樹脂を被覆するために表面処理を行ったアルミニウム合金部材ならびにこれらの製造方法に関し、とりわけ、樹脂とアルミニウム合金基体との接合強度に優れるアルミニウム合金物品およびアルミニウム合金部材ならびにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムおよびアルミニウム合金は、軽量で比強度も高くまた加工性に優れることから、産業用材料として広く使用されている。そして、アルミニウム合金基体表面の少なくとも一部に樹脂を接合したアルミニウム合金物品は、アルミニウム合金基体により樹脂成形品単独では得られない、優れた強度および剛性を確保するとともに、樹脂によりアルミウム合金基体単独では形成できない複雑形状や審美性を得ることが可能であり、前述の用途を含む多くの分野で使用されている。
【0003】
従来、アルミニウム合金基体に予め切り欠きまたは穿孔を設け、例えば射出成形により樹脂をアルミニウム合金基体にインモールド成形を行う際に、樹脂がこれらの部分に入ることにより樹脂をアルミニウム合金基体に固定する方法が用いられている。
【0004】
しかし、この方法では、切り欠きまたは穿孔を設ける場所を確保する必要があり、デザイン上の制約が大きいという問題、および切り欠きまたは穿孔部以外では、樹脂と基体との間に接合力が作用しないため基体と樹脂との間に隙間を生じる場合があるという問題がある。従って、この手法では、アルミニウム合金基体と樹脂が完全に一体化していないため、変形応力が作用した時に、変形しやすい樹脂部分が容易に変形してしまう場合がある。
【0005】
そこで切り欠きや穿孔を必要とせず、また、樹脂とアルミニウム合金基体との接合面の全体に亘り接合力を作用できる方法として、例えば特許文献1には、アルミニウム合金基体をヒドラジン水溶液等に浸漬し表面に直径30〜300nmの凹部を形成した後、ポリフェニレンスルフィドを含む熱可塑性樹脂をこのアルミニウム合金基体表面に射出成形したアルミニウム合金物品(アルミニウム合金と樹脂の複合体)が開示されている。
【0006】
また、例えば特許文献2には、アルミニウム合金基体表面を有機溶剤、酸により洗浄して汚れおよび酸化膜を除去した後、メタノール、エタノール等の有機溶剤を溶媒とするトリアジンチオール溶液により表面処理を行うこと、およびこの表面処理を行った金属基体にゴム成分またはトリアジンチオール類を添加剤として添加した樹脂を射出成形により一体に複合成形することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−6721号公報
【特許文献2】特開平8−25409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、用いる樹脂がポリフェニレンスルフィドを含む必要があるため、使用可能な樹脂が制限されるという問題があった。
【0009】
一方、特許文献2の方法では、アルミニウムおよびアルミニウム合金の表面は極めて容易に酸化され、極めて短時間のうちに表面に緻密な酸化被膜が形成されることから、例え酸化被膜を除去した後短時間でトリアジンチオール溶液により表面処理を行っても十分な接合強度が得られないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、アルコキシシラン含有トリアジンチオールを用いて、樹脂とアルミニウム合金との間に優れた接合力を有するアルミ合金物品およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、表面に樹脂を接合するためのアルミニウム合金部材の提供およびその製造方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分に、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆を介して接合する樹脂とを含むアルミニウム合金物品であって、前記基体と前記脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆との間に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を含むことを特徴とするアルミニウム合金物品である。
【0012】
本発明は、また、アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体の少なくとも一部分に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて樹脂を接合する、アルミニウム合金物品の製造方法であって、水蒸気、I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アミン類、リン酸、リン酸塩、炭酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、ケイ酸、ケイ酸塩およびフッ化物から選択される少なくとも1つの水溶液を用いて前記基体の表面の少なくとも一部に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を形成する工程と、前記金属化合物皮膜に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させる工程と、前記アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させた部分に樹脂を接合する工程と、を含むことを特徴とする製造方法である。
【0013】
本発明は、更に、アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分に、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体またはシラノール含有トリアジンチオール誘導体を被覆したアルミニウム合金部材であって、前記基体と前記脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆または前記シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆との間に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を含むことを特徴とするアルミニウム合金部材である。
【0014】
本発明は、更にまた、アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体の少なくとも一部分に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させるアルミニウム合金部材の製造方法であって、水蒸気、またはI族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アミン類、リン酸、リン酸塩、炭酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、ケイ酸、ケイ酸塩およびフッ化物から選択される少なくとも1つの水溶液を用いて前記基体の表面の少なくとも一部に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を形成する工程と、前記金属化合物皮膜に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させる工程と、を含むことを特徴とする製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、アルミニウム合金基体の表面に所定の金属化合物皮膜を導入し、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体(例えば、アルコキシシラン含有トリアジンチオール金属塩)を用いて、この金属化合物皮膜表面に反応性官能基を導入することにより、その表面に樹脂を高い接合力で接合可能なアルミニウム合金部材、およびアルミニウム合金基体と樹脂との間に高い接合強度を有するアルミニウム合金物品、ならびにそれらの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るアルミニウム合金物品の断面図である。
【図2】従来のアルミニウム合金物品の断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 アルミニウム合金基体、2 金属化合物皮膜、3 脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜、4 樹脂
【発明を実施するための形態】
【0018】
アルミニウム合金基体と樹脂とを接合するアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて接合する場合、銅合金等の他の金属よりなる基体を用いる場合と比べ、十分に高い結合力が得られない理由について、本発明の発明者らは検討を行った。その結果、アルミニウム合金基体の表面の酸化膜に起因する可能性が高いことを見出した。
【0019】
アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて、金属と樹脂とを接合する場合、アルコキシシラン部分が金属と化学結合し、金属表面にトリアジンチオール誘導体部分よりなる反応性官能基が導入される。この官能基(トリアジンチオール誘導体部分)が樹脂と化学結合することにより、金属と樹脂との間を、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体(上記アルコキシシラン部分が金属と化学結合の結果、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体より生じる生成物)を介して化学的に結合でき、これにより強い結合力を得ることが可能となる。
【0020】
通常、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体のアルコキシシラン基と金属との結合は、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の溶液を調製し、この溶液中に金属を浸漬することで金属表面の水酸基(OH基)とアルコキシシラン基が反応することで行われる。このため、プラズマ処理等によって金属表面の酸化被膜を除去すると共に、金属表面に水酸基(OH基)を導入する方法が一般的に用いられている。
【0021】
しかし、アルミニウムは酸素との結合力が強く、アルミニウム合金表面に形成される酸化被膜が緻密で、かつ強固なために、OH基が十分に導入されず、アルミニウム合金とアルコキシシラン基との間で十分な結合数(密度)を得ることができないものと推測できる。また、単に酸化被膜を取り除くだけでは、アルミニウムが水中または空気中の酸素と結びついて直ちに新たな酸化被膜を形成してしまうため、高い結合力を得ることができない。
【0022】
そこで、本発明者らは、アルミニウム合金基体を表面処理することで、アルミニウム合金表面にアルコキシシラン基と反応して結合する、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を形成した後に、アルコキシシラン含有トリアジンチオールを用いて、アルミニウム合金基体とその表面に配置される樹脂とを強く結合するという本願記載の発明に至った。
以下に本発明の詳細を説明する。
【0023】
図1は、全体が100で表される本発明にかかるアルミニウム合金物品の一部分を模式的に示す断面図である。アルミニウムまたはアルミニウム合金から成るアルミニウム合金基体1と樹脂層4とが、詳細を後述する金属化合物皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3とを介して接合している。
脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を用いて、アルミニウム合金基体1と樹脂層4とを接合した従来のアルミニウム合金物品200の断面を図2に示す。従来のアルミニウム合金物品200は、金属化合物皮膜2を有していない。
【0024】
本発明にかかるアルミニウム合金物品100の特徴である金属化合物皮膜2は、水酸化物、水和酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つである。
この金属化合物皮膜2を用いることでアルミニウム合金基体1と樹脂4との間が強く接合されている本発明のアルミニウム合金物品100を製造する方法を以下に詳述する。
【0025】
1.洗浄処理
アルミニウム合金基体1の表面は、製造工程で生じる偏析、酸化被膜により不均一となったり、加工成形時に使用した圧延油、切削油、プレス油などが付着したり、あるいは搬送時に、発錆、指紋の付着等などで汚れる場合がある。このため、アルミニウム合金基体1の表面の状態によっては適切な洗浄方法を用いて洗浄処理を行うのが好ましい。
【0026】
洗浄方法には、研削、バフ研磨、ショットブラストなどの物理的方法、例えばアルカリ性の脱脂液中で電解処理を行い、発生する水素や酸素を利用して洗浄を行う電気化学的方法、アルカリ性、酸性および中性の溶剤(洗浄剤)による化学的方法を用いることができる。
【0027】
操作の簡便性、コストの優位性から、化学的洗浄法を用いるのが好ましい。化学洗浄に用いる洗浄剤としては、硫酸−フッ素系、硫酸−リン酸系、硫酸系、硫酸−シュウ酸系、硝酸系のような酸性洗浄剤や水酸化ナトリウム系、炭酸ナトリウム系、重炭酸ナトリウム系、ホウ酸−リン酸系、リン酸ナトリウム系、縮合リン酸系、フッ化物系、ケイ酸塩系のようなアルカリ性洗浄剤を含む工業的に使用可能ないずれの洗浄剤を用いてもよい。安価であること、操作性が良いこと、アルミニウム合金基体1表面を荒らさないことから、縮合リン酸系、リン酸ナトリウム系、重炭酸ナトリウム系のような弱アルカリ性水溶液(弱アルカリ性洗浄剤)を用いるのが好ましい。
【0028】
本発明においては、洗浄処理に続いて、必要に応じて表面の粗面化処理を行った後、金属化合物処理により、アルミニウム合金基体1の表面に所望の金属化合物皮膜2を形成することが不可欠である。従って、その前工程である洗浄処理では、アルミニウム合金基体1の表面の付着物を除去し、次工程での処理が阻害されない程度に、基体表面のアルミニウムやその他の金属の酸化物皮膜を除去し、均一化しておくこととともにアルミニウム合金基体1が洗浄時に溶解等により過度に損傷しないことが好ましい。このため、アルミニウム合金基体1の溶解が僅かであるオルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウムのような弱エッチングタイプを用いるのが好ましく、表面を溶解しない非エッチングタイプを用いることがさらに好ましい。
【0029】
非エッチングタイプの洗浄剤としては、縮合リン酸塩を主体とした洗浄剤を用いるのが好ましい。縮合リン酸塩としては、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム等を用いることができ、例えば、アルカリ成分が30g/L(そのうち縮合リン酸塩の占める割合が50〜60%)のpH約9.5の水溶液を用いることができる。処理温度は、40〜90℃、処理時間5〜20分程度で良好な洗浄を行うことができる。洗浄後には、水洗を行う。アルカリ成分の好ましい濃度20〜100g/L、より好ましくは20〜60g/L、最も好ましくは20〜40g/Lであり、好ましいpHは9〜12、好ましい温度は40℃〜60℃である。このような条件を満たす弱アルカリ性水溶液中にアルミニウム合金基体1を浸漬することで、表面の洗浄および均一化を行うことができる。
【0030】
上記以外にも、オルソケイ酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ砂のようなナトリウム塩または第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム等の各種リン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムのようなリン酸塩類を用いてもよい。
【0031】
2.粗面化処理
詳細を後述する金属化合物処理の前処理として、アルミニウム合金基体1の表面を粗面化する(荒らす)ことが好ましい。アルミニウム合金基体1の表面が粗面化されていると、その表面に形成される金属化合物皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3の表面も粗面化されて微小な凹凸を生じる。そして、接合される樹脂4が脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3の表面の凹部に入り込むことによりに所謂アンカー効果が生じて接合強度をよりいっそう向上することができる。
【0032】
粗面化の好ましい方法の1つは、両性金属であるアルミニウムの特性を利用し、アルミニウム合金が溶解する酸性またはアルカリ性のpH領域で、アルミニウム合金基体を処理して、表面を粗面化する。すなわち、pHが2以下、好ましくはpH0〜2の酸性溶液またはpHが12以上、好ましくはpH12〜14のアルカリ性溶液と接触させる。
【0033】
pH2以下の酸性領域での粗面化には、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸、硫酸−フッ酸、硫酸−リン酸、硫酸−シュウ酸等を用いるのが好ましい。例えば、塩酸10〜20gを1リットルの水に溶解しpHを1以下とし、この塩酸水溶液を温度40℃に加熱しアルミニウム合金基体1を0.5〜2分浸漬し、その後、水洗する。pH12以上のアルカリ領域での粗面化には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム等を用いるのが好ましい。例えば、水酸化ナトリウム10〜20gを1リットルの水に溶解しpH13以上とし、40℃でアルミニウム合金基体1を0.5〜2分浸漬し、その後、水洗する。これらの処理により、日本工業規格(JIS B0601:2001)で規定される算術平均粗さ(表面粗さ)Raを0.1〜0.6μmとすることが好ましい。より好ましい表面粗さRaは、0.1〜0.4μmである。
【0034】
なお、アルミニウム合金基体1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より成り、アルミニウム合金としては工業上用いられるいずれのアルミニウム合金も使用可能である。好ましいアルミニウム合金の例は、(1)展伸用合金としては、日本工業規格(JIS)で規定されている1000番系(純アルミニウム系)、2000番系(Al−CuおよびAl−Cu−Mg系)、3000番系(Al−Mn系)、4000番系(Al−Si系)、5000番系(Al−Mg系)、6000番系(Al−Mg−Si系)、7000番系(Al−Zn−Mg系)および8000番系(Al−Fe−Mn系)があり、(2)鋳造用合金としては、JISで規定されるAC1AとAC1B(Al−Cu系)、AC2AとAC2B(Al−Cu−Si系)、AC3A(Al−Si系)、AC4AとAC4C(Al−Si−Mg系)、AC4D(Al−Si−Cu−Mg系)、AC5A(Al−Cu−Ni−Mg系)、AC7A(Al−Mg系)、AC8AとAC8B(Al−Si−Cu−Ni−Mg系)およびAC9AとAC9B(Al−Si−Cu−Ni−Mg系)があり、(3ダイカスト合金としては、JISで規定されるADC1(Al−Si系)、ADC3(Al−Si−Mg系)、ADC5とADC6(Al−Mg系)およびADC10とADC12とADC14(Al−Si−Cu系)がある。
【0035】
そして、その形状は、圧延板等の板(シート)状、パイプ等の管状、ワイヤー等の円筒状を含む如何なる形状であってもよい。
【0036】
3.金属化合物処理
必要に応じて上述の洗浄処理および/または粗面化処理を実施した後、アルミニウム合金基体1の表面に、金属化合物処理(「化合物処理」ともいう)を実施して、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物の少なくとも1つを含む金属化合物皮膜2(「化合物皮膜」ともいう)を形成する。
金属化合物処理は以下に示す化合物、酸等の少なくとも1つを用いて、例えばこれらの水溶液に浸漬することにより実施する。
【0037】
なお、本明細書に示す「金属化合物被膜」の「金属」とは、アルミニウム合金基体1に含まれる金属および詳細を以下に示す金属化合物処理に用いる溶液(金属化合物処理液)に含まれる金属のうちの少なくとも一種を意味する。
【0038】
金属化合物処理は、アルカリ性の溶液を用いるアルカリ処理と、酸性の溶液を用いる酸性処理に大別できる。以下にそれぞれの詳細を示す。
【0039】
アルカリ処理は詳細を以下に示す中性またはアルカリ性を示す溶液を用いて、例えばこれらの溶液に浸漬することにより金属化合物処理を行う。アルカリ処理ではpH7〜12の中性から弱アルカリ性を示す、化合物の水溶液を用いるのが好ましい。
【0040】
酸性処理とは詳細を以下に示す酸性を示す溶液を用いて、例えばこれらの溶液に浸漬することにより金属化合物処理を行う。酸性処理ではpH2〜5の弱酸性を示す、化合物の水溶液を用いるのが好ましい。
【0041】
すなわち、アルミニウムは、25℃の水溶液の場合、pH4〜8では、安定な酸化物の不動態皮膜形成するため、金属化合物皮膜の形成が困難となる場合があり、pH2〜4およびpH8〜12の範囲では、アルミニウムが徐々に溶解し、生じたアルミニウムイオンと溶液中の化合物との交換反応による不溶化またはアルミニウムの溶解によりアルミニウム合金基体近傍のpH変化による化合物の不溶化によって、金属化合物がアルミニウム合金基体上に析出し、容易に金属化合物皮膜を形成できる。処理時間短縮などの理由で、処理液温度を40℃以上とする場合があることを考慮した、実用的な好ましいpHの範囲が、上述のpH2〜5(酸性処理)およびpH7〜12(アルカリ処理)である。粗面化処理に適用するpH2以下およびpH12以上の粗面化処理の範囲は、アルミニウム合金基体の溶解速度が高く金属化合物皮膜の形成が困難な場合があることから金属化合物処理にとっては好ましい範囲となっていない。
アルカリ処理および酸性処理について、以下に具体的に用いる溶液を示して説明する。
【0042】
3−1.アルカリ処理
アルカリ処理に用いる金属化合物処理液(アルカリ化合物の水溶液)にアルミニウム合金基体1を浸漬し金属化合物処理を行うことができる。
【0043】
(1)I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩
リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムまたはセシウムのようなI族元素(周期律表でI族の元素)の水酸化物;I族元素の塩;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムまたはラジウムのようなII族元素(周期律表でII族の元素)の水酸化物およびII族元素の塩の水溶液を用いることができる。これらの何れかを用いることにより、アルミニウム合金基体1の表面に、水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が生成する。このような金属化合物皮膜2の主成分となる水酸化物の例として水酸化アルミニウム、金属水酸化物(金属はアルミニウム合金基体1に含まれる金属)がある。
【0044】
金属化合物処理に用いるI族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物およびII族元素の塩をより詳細に示す。
I族元素の水酸化物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示される。例えば、水酸化ナトリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水酸化ナトリウムの濃度0.04〜0.4g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。
【0045】
I族元素の塩とは、I族元素と酸とにより生ずる塩であり、その水溶液がアルカリ性を示す金属塩である。主に弱酸とI族元素とが結合して生じる塩であり、このようなI族元素の塩としては、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、およびステアリン酸カリウムが例示される。例えば、炭酸カリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、炭酸カリウムの濃度0.05〜15g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。
【0046】
II族元素の水酸化物として、水酸化カルシウム、水酸化バリウムが例示される。例えば、水酸化バリウム八水和物の水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水酸化バリウム八水和物の濃度0.05〜5g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。
また、II族元素の塩とは、II族元素と弱酸とにより生ずる塩であり、その水溶液がアルカリ性を示す金属塩である。主に弱酸とII族元素とが結合して生じる塩であり、このようなII族元素の塩としては、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、および酢酸バリウムが例示される。例えば、酢酸バリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、酢酸バリウムの濃度0.05〜100g/L、温度30〜80℃で処理を行うのが好ましい。
【0047】
例えばI族元素の塩およびII族元素の塩として、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のような、I族元素のケイ酸塩の水溶液を用いて金属化合物処理を行った場合は、形成された金属化合物皮膜2は主成分として水酸化物に加えケイ酸塩も含む場合が多い。なお、このようなケイ酸塩の例としてケイ酸アルミニウム、金属ケイ酸塩(金属はアルミニウム合金基体1に含まれる金属)がある。例えば、オルソケイ酸ナトリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、オルソケイ酸ナトリウムの濃度は0.05〜1g/L、温度は30〜80℃であることが好ましい。
【0048】
(2)アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体または水溶性アミン化合物
アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体または水溶性アミンの化合物の水溶液もアルカリ性を示す。これらの水溶液にアルミニウム合金基体1を浸漬しても金属化合物皮膜を形成できる。アルミニウム合金基体1の表面に、水酸化アルミニウム、金属水酸化物(金属はアルミニウム合金基体1に含まれる金属)のような水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が生成する。アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、水溶性アミンは、広い意味でのアミン系化合物であり、アンモニア、ヒドラジン以外ではヒドラジン誘導体として加水ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等を、水溶性アミンとしてメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、アリルアミン等を用いることができる。例えば、ヒドラジンの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、ヒドラジンの濃度0.5〜100g/L、温度30〜80℃であることが好ましい。
【0049】
以上に説明した「(1)I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩」および「(2)アンモニア、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体または水溶性アミン化合物」の具体例は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウムのような炭酸塩を含む。これらの炭酸塩の水溶液を用いて金属化合物処理を行うことで、アルミニウム合金基体1の表面に、これら炭酸塩、炭酸水素塩及び/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。これらの炭酸塩、炭酸水素塩および/または水酸化物は、炭酸アルミニウムおよび/または炭酸金属塩(金属はアルミニウム合金基体1に含まれる金属)を含んでもよい。また、種類の異なる金属の炭酸塩を混合した溶液中で金属化合物処理を行うことにより、炭酸アルミニウムおよびアルミニウム合金基体1に含まれる金属の炭酸塩以外の複数の炭酸塩を形成してもよい。
例えば、炭酸ナトリウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は炭酸ナトリウムの濃度:0.05〜10g/L、温度:30〜90℃の範囲内であることが好ましい。
【0050】
(3)ベーマイト処理
ベーマイト処理液を用いたベーマイト処理により金属化合物処理を行うことができる。
ベーマイト処理とは、(1)水(純水)または0.3%トリエタノールアミン水溶液もしくは0.3%アンモニア水溶液のような弱アルカリ性(pH7より大きく12以下(好ましくは12未満))水溶液(ベーマイト処理液)を50℃以上(好ましくは80℃以上)に加熱し、この加熱した水または弱アリカリ性水溶液にアルミニウム合金基体1を浸漬する、または(2)加圧水蒸気中にアルミニウム合金基体1に暴露する処理である。
金属化合物処理液として純水または水蒸気を用いる場合は、金属化合物処理液は中性であるため厳密にはアルカリ処理ではないが、本明細書においては便宜上「アルカリ処理」の項目に記載した。
なお、ベーマイト処理に用いる金属化合物処理液は、反応が水和反応であり、水酸基を効率よく形成させるために弱アリカリ性であることが好ましい。
【0051】
このベーマイト処理を行うことでアルミニウムおよびアルミニウム合金基体1に含まれる金属の水和酸化物(水和物)を主体とする化合物皮膜2がアルミニウム合金基体1の表面に生成する。多くの場合、このベーマイト処理により形成するベーマイト皮膜は、γ−AlO・OHまたはγ−AlO・OHとα−Alとを主成分とする無孔性の皮膜である。ベーマイト処理により、皮膜厚さが0.02〜10μm、より好ましくは、厚さ0.05〜2μmの比較的一様な金属化合物皮膜2を形成できる。
【0052】
このようにベーマイト処理は、主成分としてγ−AlO・OHを含む金属化合物皮膜を形成でき、すなわちアルミニウム基材表面にOH基を密に均一に形成できること、および表面に微細な凹凸が多く形成されることにより接触表面積が増加することから、接合強度向上に有効であり、本発明に係る金属化合物処理として好ましい。
【0053】
好ましいベーマイト処理の条件は以下の通りである。
純水に添加剤としてアンモニア、アミン、アルコールアミン、アミド系物質の少なくとも1つを添加し、pHを10〜12程度に調整したベーマイト処理液を用いる。好ましいベーマイト処理液の一例は、3g/Lのトリエチルアミン水溶液であり、そのpHは約10である。処理温度は好ましくは50〜100℃の範囲で、より好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは90〜100℃である。この範囲内であれば、比較的短い時間で緻密な金属化合物皮膜を得ることが可能である。処理時間は1〜120分が好ましい。形成される皮膜の厚さは、0.02〜10μm程度である。
【0054】
3−2.酸性処理
【0055】
以下に酸性処理に用いる金属化合物処理液の具体例を示す。
(1)リン酸、リン酸塩
リン酸、例えばリン酸水素亜鉛、リン酸水素マンガン、リン酸水素カルシウムのようなリン酸水素金属塩、例えばリン酸二水素カルシウムのようなリン酸二水素金属塩、および例えばリン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸ジルコニウムのようなリン酸金属塩等の−HPO、−HPOまたは−POを含有するリン酸およびリン酸塩の溶液を用い、金属化合物処理を行う。なお、本明細書でいうリン酸とはオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等を含む広義の酸性のリン酸であり、リン酸塩とは、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等の広義の酸性のリン酸の化合物を含む概念である。
【0056】
リン酸を用いることで、アルミニウム合金基体1の表面にリン酸アルミニウムおよび/またはリン酸金属塩および/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。
【0057】
一方、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩、リン酸金属塩、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、リン酸ジルコニウムバナジウムのようなリン酸塩(リン酸の金属塩)の水溶液を用いて金属化合物処理を行うことにより、アルミニウム合金基体1の表面に、これらリン酸塩および/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2を形成できる。これらのリン酸塩および/または水酸化物の金属化合物皮膜2は、リン酸アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金基体1に含まれるアルミニウム以外の金属のリン酸金属塩を含んでもよい。また、種類の異なる金属のリン酸塩を混合した溶液中で金属化合物処理を行うことにより、複数のリン酸塩を形成してもよい。
【0058】
例えば、リン酸ジルコニウムの水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は、濃度:1〜100g/L、温度:20〜90℃であることが好ましい。また、これ以外のリン酸、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩、リン酸金属塩、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウムのようなリン酸、リン酸塩の水溶液を用いる場合は、水溶液は、濃度:5〜30g/L、温度:20〜90℃であるのことが好ましく、温度については25℃〜75℃であることがより好ましい。一方、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウム、リン酸ジルコニウムバナジウムの水溶液を用いる場合は、水溶液は、濃度:0.2〜2g/L、温度:30〜70℃であるのことが好ましく、温度については50℃〜70℃であることがより好ましい。
【0059】
(2)カルボン酸、カルボン酸塩
タンニン酸のようなカルボン酸水溶液を用い、アルミニウム合金基体1に金属化合物処理を行う。これにより、アルミニウム合金基体1の表面に、カルボン酸のアルミニウム塩および/または金属塩、および/または水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜が生成する。
【0060】
ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸の金属塩の水溶液を用いて金属化合物処理を行ってもよい。この場合、アルミニウム合金基体1の表面には、主にアルミニウム塩および/または金属塩とその一部に水酸基が付いた塩基性の金属化合物皮膜2が生成する。例えばシュウ酸金属塩水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は、濃度:0.5〜100g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0061】
(3)フッ化物
フッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、ケイフッ化水素酸、ケイフッ化アンモニウム、ホウフッ化水素酸、ホウフッ化アンモニウムのようなフッ化物水溶液にアルミニウム合金基体1を浸漬しても金属化合物皮膜を形成ができる。これにより、アルミニウム合金基体1の表面に、フッ化アルミニウムおよび/またはアルミニウム以外の金属を含む金属フッ化物および/または水酸化アルミニウムおよびアルミニウム合金基体1に含まれる金属の水酸化物のような水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜2が形成される。例えば、フッ化水素アンモニウム水溶液を用いて金属化合物処理を行う場合、水溶液は、濃度:1〜60g/L、温度:30〜70℃であることが好ましい。
【0062】
以上に示した示す金属化合物処理の中でもアルカリ処理の、「(1)I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩」および「(3)ベーマイト処理」ならびに酸性処理の「(1)リン酸、リン酸塩」に記載の方法を用いるのが好ましい。
I族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩を用いた処理およびベーマイト処理が好ましい理由は、水酸化物、水和酸化物がアルミニウム合金基体表面に密に形成されやすく、そのOH基および酸基がトリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと結合しやすいこと、及びその結合強度が大きいからである。リン酸、リン酸塩による処理が好ましい理由は、金属化合物皮膜として形成されるリン酸塩化合物は大きな極性を有し、トリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと結合しやすいためと考えられる。
また、これらのなかでもベーマイト処理が、より好ましい。
【0063】
アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体が金属化合物皮膜2に浸透して、金属化合物皮膜2と反応するサイトが多くなり、トリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと金属化合物皮膜2の水酸基、リン酸基、炭酸基、カルボン酸基、またはフッ化物とが、加熱処理によって脱水反応または脱ハロゲン反応を起こし、化学的に結合する。この様にして、生成する脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3と金属化合物皮膜2との間に、より強固な結合を得ることができる。
【0064】
さらに、樹脂4が接合後に冷却されて収縮する際に、比較的厚い金属化合物皮膜2が樹脂4と金属化合物皮膜2との間に生じる応力を分散吸収し、樹脂4の剥離および金属化合物皮膜2のクラックの発生を防ぐ効果を有する。
【0065】
なお、上記の溶液を用いた金属化合物処理は、アルミニウム合金基体1の全体または一部を、溶液(金属化合物処理液)に浸漬することのみでなく、アルミニウム合金基体2の表面の全部または一部を、スプレー、塗布等により溶液で被覆すること、または溶液と接触させることも含む。
【0066】
従って、上記から明らかなように、金属化合物皮膜2は、必ずしもアルミニウム合金基体2の表面全体に形成される必要はなく、適宜、必要な部分にのみ形成してもよい。
【0067】
また、上述した金属化合物被膜を形成する方法を2つ以上組み合わせて、金属化合物処理としてもよいことは言うまでもない。
すなわち、複数の上述した金属化合物処理に用いる溶液(金属化合物処理液)を混合した溶液を用いて金属化合物皮膜を形成してもよい。また、上述した金属化合物処理に用いる溶液(金属化合物処理液)のうちの一種類を用いて金属化合物処理を行った後、別の種類の金属化合物処理液を用いて更に金属化合物処理を行ってもよい。
【0068】
上述の金属化合物処理により得られた金属化合物被膜2は通常、粗面化している。すなわち、金属化合物被膜2の表面粗さは金属化合物処理を行う前のアルミニウム合金基体1の表面粗さより粗くなっている。
例えば、表面粗さRaが0.10μm以下であるアルミニウム合金基体1の表面に、上述した粗面化処理を行って、Raを0.12〜0.60μmとした後、更に上述の金属化合物処理を施すことで、Raが0.15μm以上の金属化合物皮膜2を形成することができる。また、粗面化処理を行わない場合、すなわち例えばRaが0.10μm以下であるアルミニウム合金基体1の表面に粗面化処理を行わずに金属化合物処理を行った場合、形成された金属化合物皮膜2の表面粗さRaは0.15μm未満である。
金属化合物被膜2の表面粗面化は、金属化合物被膜2の上に形成される脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3と金属化合物皮膜2との接触面積を増加できることから、接合強度の向上に寄与する。
【0069】
3.アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の被覆
上述の方法により、アルミニウム合金基体1の表面に金属化合物皮膜2を形成した後、金属化合物皮膜2にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を被覆する。
用いるアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、例えばアルコキシシラン含有トリアジンチオール金属塩のような、既知のものでよい。
即ち、以下の(式1)または(式2)に示した一般式で表される。
【0070】
【化1】

【0071】
【化2】

【0072】
式中のR、RおよびRは炭化水素である。Rは、例えば、H−、CH−、C−、CH=CHCH−、C−、C−、C13−のいずれかである。Rは、例えば、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCHCHCHCHCH−、−CHCHSCHCH−、−CHCHNHCHCHCH−のいずれかである。Rは、例えば、−(CHCHCHOCONHCHCHCH−、または、−(CHCHN−CHCHCH−であり、この場合、NとRとが環状構造となる。
【0073】
式中のXは、CH−、C−、n−C−、i−C−、n−C−、i−C−、t−C−のいずれかである。Yは、CHO−、CO−、n−CO−、i−CO−、n−CO−、i−CO−、t−CO−等のアルコキシ基である。式中のnは1、2、3のいずれかの数字である。Mはアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、KまたはCeである。
【0074】
金属化合物皮膜2を被覆形成した後、金属化合物皮膜2の表面にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の被覆を形成するためにアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の溶液を作製する。用いる溶媒は、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体が溶解するものであればよく、水およびアルコール系溶剤がこれに該当する。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、カルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合溶媒も使用可能である。アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体の好ましい濃度は0.001g〜20g/Lであり、より好ましい濃度は0.01g〜10g/Lである。
【0075】
得られた、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体溶液中に、金属化合物皮膜2を備えたアルミニウム合金基体1を浸漬する。溶液の好ましい温度範囲、より好ましい温度範囲は、それぞれ0℃〜100℃、20℃〜80℃である。一方、浸漬時間は、1分〜200分が好ましく、3分〜120分がより好ましい。
【0076】
この浸漬により、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体のアルコキシシラン部分は、加水分解してシラノールになるので、浸漬後のアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、シラノール含有トリアジンチオール誘導体となり、金属化合物皮膜2との間に水素結合的な緩い結合を生じ化学的結合力を得ることができる。
【0077】
従って、これにより、アルミニウム合金基体1と金属化合物皮膜2およびシラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆よりなる、表面に樹脂を接合するのに用いるアルミニウム合金部材を得ることができる。
【0078】
そして、このアルミニウム合金部材を、乾燥および脱水反応促進熱処理を目的に100℃〜450℃まで加熱する。この加熱により、シラノール含有トリアジンチオール誘導体のシラノール部分に、上述した金属化合物皮膜2に含まれる水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸およびフッ化物の少なくとも1つと脱水または脱ハロゲン結合反応が起こることから、シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体に変わり、金属化合物皮膜2との間で化学的に結合する。
【0079】
従って、この加熱処理の結果、アルミニウム合金基体1と金属化合物皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3よりなる、表面に樹脂を接合するのに用いるアルミニウム合金部材を得ることができる。
【0080】
次に、この脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体と樹脂との接合力をより強くするために、金属化合物皮膜2の上に形成された脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を、必要に応じ適宜、接合補助剤として例えば、ジマレイミド類であるN,N’−m−フェニレンジマレイミドやN、N‘−ヘキサメエチレンジマレイミドのようなラジカル反応により結合性を有する化合物とジクルミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドのような過酸化物またはその他のラジカル開始剤とを含む溶液に浸漬する。浸漬後、アルミニウム合金部材を、30℃〜270℃で、1分〜600分間、乾燥・熱処理する。
【0081】
これにより、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、トリアジンチオール金属塩(トリアジンチオール誘導体)部分の金属イオンが除去され、硫黄がメルカプト基になって、このメルカプト基がN,N’−m−フェニレンジマレイミドのマレイン酸の2つの二重結合部の一方と反応してN,N’−m−フェニレンジマレイミドを結合した脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体となる。
ラジカル開始剤は、樹脂を成形する際に行う加熱等の熱による分解でラジカルを生じ、上記マレイン酸による2つの二重結合部の他方の結合を開き、樹脂と反応、結合させる作用を有する。
【0082】
さらに、必要に応じ適宜、過酸化物、レドックス触媒などのラジカル開始剤をベンゼン、エタノールなどの有機溶媒に溶解させた溶液を、浸漬またはスプレーにより噴霧する等によりアルミニウム合金部材表面に付着させて、風乾する。
【0083】
ラジカル開始剤は、樹脂を成形する際に行う加熱等の熱による分解でラジカルを生じ、上記マレイン酸による2つの二重結合部の他方の結合を開き、または、トリアジンチオール誘導体の金属塩部分に働いて、樹脂と反応、結合させる作用を有する。
【0084】
なお、本願発明に係るアルミニウム物品100の金属化合物皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3は、例えばXPS分析(X線光電子分光分析)によりその成分を同定することができる。
【0085】
4.樹脂との接合
アルミニウム金属基体1の表面に金属化合物皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3を有するアルミニウム合金部材と樹脂4とを接合(複合一体化)してアルミニウム物品100を得る。樹脂4は、加熱した状態で脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3と接触するように配置される。これにより、樹脂4と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体3のトリアジンチオール誘導体部分(トリアジンチオール金属塩部分またはビスマレイミド類を結合したトリアジンチオール誘導体)が、ラジカル開始剤のラジカルを媒介として反応し、化学的結合を生じる。
なお、樹脂は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3の一部にのみ配置してもよい。
【0086】
本願発明において樹脂4は、接着剤を含む概念である。すなわち、樹脂4として接着剤として機能する樹脂を選択した場合には、得られたアルミニウム合金物品100と、別の物品とを樹脂4により接着することが可能となる。このような別の物品の例としては、アルミニウム、ステンレス、鉄、マグネシウム、チタン、亜鉛、銅もしくはこれらの金属またはそれらの合金からなる金属製物品、および樹脂等から成る物品がある。別の物品が金属製物品である場合には、金属化合物皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3をその表面に形成しておくことにより、接着剤樹脂4との接合強度を更に高くできる。
【0087】
加熱した樹脂4を脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3の上に配置する方法として、以下の4つの方法を例示できる。
【0088】
第1の方法は、金型にアルミニウム合金部材(金属基体1と金属化合物皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を含む)を配置し、金型中に溶融樹脂を射出してインサート成形物品またはアウトサート成形物品を得る際に、金型および樹脂の熱によりラジカル開始剤を分解し、ラジカル反応によりトリアジンチオール誘導体被覆と樹脂を化学的に結合させてアルミニウム合金部材と樹脂4とを接合する射出成形法である。
【0089】
第2の方法は、射出成形によりアルミニウム合金部材と樹脂とを一体にした射出成形品を得た後、荷重を付与した状態でこの射出成形品をオーブンまたは熱板上で加熱して、ラジカル開始剤を分解し、ラジカル反応により化学結合させてアルミニウム合金部材と樹脂を接合する第1の溶着法である。
【0090】
第3の方法は、アルミニウム合金部材(金属基体1と金属化合物皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を含む)を熱板上に置いて加熱し、その上に樹脂成形物品(樹脂4)を配置し、荷重を付与して持することで金属基体と樹脂を密着させて反応・接合する第2の溶着方法である。
【0091】
第4の方法は、アルミニウム合金部材(金属基体1と金属化合物皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を含む)に樹脂からなる接着剤(樹脂4)を塗布し、この接着剤上に接着しようとする別の物品を配置した後、所定の荷重を付与して、室温に放置するかオーブン内で加熱硬化することでアルミニウム合金物品と樹脂4を接合するのと同時に樹脂4と別の物品との間を接着する方法である。
接着剤(樹脂4)は、ガラス繊維、セラミック粉体、カーボン繊維等の強化材を含んでもよい。また、熱硬化樹脂に充填剤を配合し、強化繊維に含浸してシート状にした未硬化材料のシート・モールディング・コンパウンド(SMC)またはプレプリグや熱硬化性樹脂に充填剤とガラス繊維などをミキサーで混合してバルク状にしたバルク・モールディング・コンパウンド(BMC)でもよい。室温で接着する場合は、接着剤が室温で反応硬化するものである必要がある。
【0092】
第1の方法を用いる場合、金型温度を20〜220℃として、金型内でアルミ合金部材と樹脂とを45秒〜10分間保持するのが好ましい。第2〜第4の方法を用いる場合、オーブンまたは熱板の温度を30〜430℃のとし、加重を負荷した状態で1分〜10時間保持するのが好ましい。温度は、ラジカル開始剤の分解温度以上であることが必要であり、保持時間は、ラジカルがトリアジンチオール誘導体と樹脂との化学結合を生じるのに十分な時間が必要である。
【0093】
なお、アルミニウム合金部材と樹脂との接合は、上述の射出成形および射出成形品を加熱する溶着法に限定されるものではなく、工業的に用いられるアルミニウム合金と樹脂との任意の接合手法を用いることができる。このような接合方法の好適な例として熱板溶着等が挙げられる。熱板溶着とは高温の板等の熱源に樹脂を接触させて溶融し、溶融した樹脂が冷えて固まる前にアルミニウム合金部材を押し付けて接合する方法である。
【0094】
また、接合する樹脂4は、工業的に使用可能ないずれの樹脂も用いることが可能であるが、ラジカルに反応する元素、官能基を持った樹脂が好ましい。このような好ましい樹脂の例は、フェノール樹脂、ハイドロキノン樹脂、クレゾール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、レゾルシン樹脂、メラミン樹脂、グリプタル樹脂、エポキシ樹脂、変成エポキシ樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリヒドロキシメチルメタクリレートとその共重合体、ポリヒドロキシエチルアクリレートとその共重合体、アクリル樹脂、ポリビニルアルコールとその共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリケトンイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、6−ナイロン樹脂、66−ナイロン樹脂、610−ナイロン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、尿素樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、オレフィン系エラストマー樹脂、塩ビ系エラストマー樹脂、ウレタン系エラストマー樹脂、エステル系エラストマー樹脂、アミド系エラストマー樹脂、およびこれらの樹脂から選ばれた2種以上を複合した複合樹脂、ならびにこれら樹脂をガラス繊維、カーボン繊維、セラミックス等で強化した強化樹脂である。
【0095】
また、樹脂4として接着剤を用いる場合、接着剤の種類は特に限定されるものではないが、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤、ポリエステル系接着剤、フェノール系接着剤、ポリイミド系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エラストマー系接着剤、ホットメルト系接着剤などの工業的に利用される接着剤を使用できる。シート・モールディング・コンパウンド(SMC)としては、不飽和ポリエステル樹脂に炭酸カルシウムを配合し、ガラス繊維に含浸してシート状にしたもの、バルク・モールディング・コンパウンド(BMC)としては、不飽和ポリエステル樹脂に炭酸カルシウム、ガラス繊維短繊維を混合したものを使用できる。
【0096】
以上により、アルミニウム合金基体1と樹脂4とを金属化合物皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3とを介して接合したアルミニウム合金物品100を製造することが可能となる。
【0097】
なお、本方法で得られるアルミニウム合金物品は、アルミニウム合金基体と樹脂間の接合強度が高いという利点の他にも、アルミニウム物品の表面に特に機械加工を施す必要がなく、また、接着剤、応力緩和用の弾性樹脂等を使用しなくても樹脂を接合できることから、加工工数が少なく、接合部がきれいに仕上がり、寸法精度良く仕上げることが出来るという利点を有する。
【0098】
さらに、アルミニウム基体1の成形精度が悪い部分を樹脂4で覆うことにより、樹脂成形精度で物品が仕上がり、製品の歩留まりを高くできるという利点を有する。
【実施例】
【0099】
(1)洗浄処理
長さ80mm、幅20mm、厚さ1.5mmのA5052(日本工業規格、JIS A5052P)のアルミニウム合金圧延板(実施例1〜22、比較例1〜30)、および長さ80mm、幅20mm、厚さ2.0mmのADC12(日本工業規格、JIS ADC12)のアルミニウム合金ダイカスト板(実施例23〜44)を以下に詳細を示す方法により処理した。
洗浄処理の前に、株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡VK−8710を用い、表面粗さRa(JIS B0601:2001に規定されている算術平均粗さRa)を測定した。A5052の圧延板のRaは0.08μmであり、ADC12ダイカスト板のRaは0.10μmであった。
【0100】
洗浄処理は温度40℃のアルカリ成分が30g/L(そのうち縮合リン酸塩の占める割合が50〜60%)のpH約9.5の水溶液にアルミニウム合金基体1を5分間浸漬させることにより行った。洗浄処理後は、純水で1分間水洗した。
洗浄処理後に測定した表面粗さRaは、A5052圧延材では、0.08μmであり、ADC12ダイカスト板では0.11μmであり、洗浄処理前のサンプルとほとんど変わらなかった。
【0101】
洗浄処理を行った後、粗面化処理と金属化合物処理を行った。
これらの条件について表1および表2に示す。
【0102】
(2)粗面化処理
表1に用いた処理液(水溶液)の種類、濃度およびpHと、それぞれの処理液に浸漬した時間とを示す。
実施例1〜6および実施例23〜28のサンプルについては粗面化処理を実施しなかった。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
なお、粗面化処理を行ったサンプルの表面粗さRaはA5052圧延材では0.12〜0.22μm、ADC12ダイカスト板では0.16〜0.19μmであった。
【0106】
(3)金属化合物処理
次に表1および表2に示す条件で金属化合物処理を行った。
なお、比較例1〜22のサンプルについては金属化合物処理を行わなかった。
【0107】
リン酸亜鉛水溶液を用いて金属化合物処理を行った実施例1、7、23、29のサンプルおよび比較例23のサンプルではアルミニウム合金基体1の表面に、リン酸亜鉛を主成分とする金属化合物皮膜が形成された。
【0108】
リン酸ジルコニウム水溶液を用いて金属化合物処理を行った実施例2、8、24、30のサンプルおよび比較例24のサンプルではアルミニウム合金基体1の表面に、リン酸ジルコニウムを主成分とする金属化合物皮膜が形成された。
【0109】
リン酸ジルコニウムバナジウム水溶液を用いて金属化合物処理を行った実施例3、9、25、31のサンプルおよび比較例25のサンプルではアルミニウム合金基体1の表面に、リン酸ジルコニウムおよびリン酸バナジウムを主成分とする金属化合物皮膜が形成された。
【0110】
水酸化ナトリウム水溶液を用いて金属化合物処理を行った実施例4、10、26、32のサンプルおよび比較例26のサンプルではアルミニウム合金基体1の表面に、水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜が形成された。
【0111】
アンモニア水溶液を用いて金属化合物処理を行った実施例5、11、27、33のサンプルおよび比較例27のサンプルではアルミニウム合金基体1の表面に、水酸化物を主成分とする金属化合物皮膜が形成された。
【0112】
実施例6、12〜22、28、34〜44および比較例28〜30のサンプルについてはベーマイト処理を行った。
ベーマイト処理液として濃度3g/L、pH8.0のトリエタノールアミン水溶液を用いた。水溶液の温度を95℃にして、サンプルを水溶液中に15分浸漬した。そしてアルミニウムの水和酸化物であるベーマイト(γ−AlO・OHとα−Al)を主成分とする金属化合物皮膜を得た。
【0113】
なお、上記のようにして金属化合物処理を行ったサンプルの表面粗さRaは粗面化処理を行った場合、A5052圧延材では0.16〜0.25μm、ADC12ダイカスト板では0.18〜0.22μmであり、粗面化処理を行なわなかった場合、A5052圧延材では0.11〜0.13μm、ADC12ダイカスト板では0.13〜0.15μmであった。
【0114】
表3〜4に実施例および比較例サンプルの金属化合物処理後の表面粗さRaの測定結果を示す。金属化合物処理を行わなかったサンプルについては粗面化処理後の表面粗さRaの測定結果を示している。
【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
(3)アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の被覆
次に実施例サンプルの全て(実施例1〜44)および比較例12〜22のサンプルについてアルコキシシラン含有トリアジンチオール溶液中に浸漬した。
用いたアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、トリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウムであり、濃度が0.7g/Lとなるようにエタノール95:水5(体積比)の溶媒に溶解し、溶液を得た。このトリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウム溶液に室温で30分間浸漬した。
【0118】
その後、これらサンプルをオーブン内にて160℃で10分間熱処理し、反応を完了させるとともに乾燥した。そして、濃度1.0g/LのN,N’−m−フェニレンジマレイミド(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド)と濃度2g/Lのジクミルパーオキシドを含有するアセトン溶液に室温で10分間浸漬し、オーブン内にて150℃で10分間熱処理した。その後、サンプルの表面全体に、濃度2g/Lのジクミルパーオキシドのエタノール溶液を室温で噴霧し、風乾した。
【0119】
(4)樹脂との接合
表1および表2に示す樹脂とそれぞれのサンプルを接合して、アルミニウム合金物品のサンプルを得た。
実施例16、18、20、22、38、40、42および44のサンプルでは射出成形により接合を行った。
すなわち、樹脂は金型内で、長さ80mm、幅20mm、厚さ3mmの板となるように成形され、1つの面の端末部の長さ12mm、幅20mmの部分が、上述の処理を行ったアルミニウム合金板サンプルの端末部上に配置され長さ12mm、幅20mmの部分と接触し、この部分を接合させた。
【0120】
実施例1〜15、17、19、21、23〜37、39、41、43および比較例1〜28のサンプルでは溶着法(上述の第2の溶着法)により接合を行った。
すなわち、表1および表2に示す種類の樹脂板と接触するように耐熱テープでそれぞれのサンプルを固定し、そして各々の樹脂の樹脂融点(または溶融可能な温度)に設定した加熱体の上に耐熱テープで固定したサンプルを配置し、このサンプルを上方から9kgfの荷重で加圧して、熱融着させることにより上述の射出成形で得たアルミニウム合金物品サンプルと同じ形状のアルミニウム合金物品サンプルを得た。
【0121】
用いた樹脂の詳細を以下に示す。
実施例16および38のサンプルでは、ポリプラスチックス株式会社製PPS樹脂(フォートロンPPS 1140A64)を320℃で射出成形し、アルミニウム物品サンプルを得た。
【0122】
実施例18および40のサンプルでは、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製PC/ABS樹脂(ユーピロン MB2215R)を270℃で射出成形し、アルミニウム物品サンプルを得た。
【0123】
実施例20および42のサンプルでは、東レ株式会社製66ナイロン(アミラン CM3001−N)を295℃で射出成形し、アルミニウム物品サンプルを得た。
【0124】
実施例22および44のサンプルでは、三菱化学株式会社製TPEEエラストマー樹脂(プリマロイ B1600N)を230℃で射出成形し、アルミニウム物品サンプルを得た。
【0125】
実施例1〜14、23〜36および比較例1〜30のサンプルでは、旭化成ケミカルズ株式会社製ABS樹脂(スタイラック(R)―ABS汎用026)の樹脂板を用いて上述の形状となるように固定し、得られたサンプルを230℃に設定した加熱体の上に配置し、溶着することでアルミニウム合金物品サンプルを得た。
【0126】
実施例15および37のサンプルでは、ポリプラスチックス株式会社製PPS樹脂(フォートロンPPS 1140A64)の樹脂板を用いて上述の形状となるように固定し、得られたサンプルを320℃に設定した加熱体の上に配置し、熱融着することでアルミニウム合金物品サンプルを得た。
【0127】
実施例17および39のサンプルでは、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製PC/ABS樹脂(ユーピロン MB2215R)の樹脂板を用いて上述の形状となるように固定し、得られたサンプルを260℃に設定した加熱体の上に配置し溶着することでアルミニウム合金物品サンプルを得た。
【0128】
実施例19および41のサンプルでは、東レ株式会社製66ナイロン(アミラン CM3001−N)の樹脂板を用いて上述の形状となるように固定し、得られたサンプルを290℃に設定した加熱体の上に配置し、熱融着することでアルミニウム合金物品サンプルを得た。
【0129】
実施例21および43のサンプルでは、三菱化学株式会社製TPEEエラストマー樹脂(プリマロイ B1600N)の樹脂板を用いて上述の形状となるように固定し、得られたサンプルを230℃に設定した加熱体の上に配置し、熱融着することでアルミニウム合金物品サンプルを得た。
【0130】
(5)強度評価
実施例1〜20、23〜42および比較例1〜30のサンプルについては以下に詳細を示す引張試験を行った。
一方、実施例21、22、43および44のサンプルについては、以下に詳細を示す90度剥離試験を行った。
【0131】
引張り試験には島津製作所製オートグラフAG−10TD試験器を用い、アルミニウム合金物品サンプルのアルミニウム板部(アルミニウム合金基材)と樹脂板部(樹脂)の端末部(接合部と反対側の端末部)をそれぞれフラットチャックで掴み、引張速度5mm/分の引張速度で破断するまで引張った。破断に至るまでの最高到達荷重を接合面積(長さ12mmX幅20mm)で除して求めた応力を接合強度(引張りせん断強度)とした。試験は各サンプルについて3回行った。
【0132】
また、90度剥離試験においては、アルミニウム合金物品サンプルのアルミニウム板部(アルミニウム合金基材)および樹脂の接合面が水平になるように該合金基体を、固定治具を用いて引張り試験機の固定台に固定し、樹脂の接合部から離れた部分をフラットチャックで掴み、該フラットチャックを接合面と90度の角度を成す方向に動かすことにより、速度100mm/分で剥離し、剥離強度(最高到達荷重を接合長さ(長さ20mm)で除して求めた応力)を求めた。試験は各サンプルについて3回行った。
【0133】
表3およぶ表4に引張り試験結果(引張りせん断強度)および90度剥離試験結果(90度剥離強度)を示す。
表3および表4の結果は各サンプルについて3回行った試験結果の平均値を示している。
【0134】
実施例サンプルは、全て3.0MPa以上と優れた引張せん断強度を示した。一方、比較例サンプルについては最も高いサンプルでも1.6MPaであり実施例サンプルに比べ、大きく劣る結果となった。実施例サンプルでは、破断は接合面または、樹脂部での破断が確認された。さらに、接合面での破断面(アルミニウム合金板側)に関しては、樹脂または、接着剤の付着が認められ、破断の一部は樹脂内で起こっていることが確認された。
【0135】
90度剥離試験を行った実施例サンプルは、90度剥離強度が1.3N/mmと十分に高い値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分に、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆を介して接合する樹脂とを含むアルミニウム合金物品であって、
前記基体と前記脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆との間に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を含むことを特徴とするアルミニウム合金物品。
【請求項2】
前記金属化合物皮膜が、金属の水和酸化物および水酸化物の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金物品。
【請求項3】
前記金属化合物皮膜が、水和酸化物γ−AlO・OHを含むことを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム合金物品。
【請求項4】
前記金属化合物皮膜が、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩およびリン酸金属塩よりなる群から選択される少なくとも1つのリン酸塩を含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金物品。
【請求項5】
前記金属化合物皮膜が、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウムおよびリン酸ジルコニウムバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項4に記載のアルミニウム合金物品。
【請求項6】
アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体の少なくとも一部分に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて樹脂を接合する、アルミニウム合金物品の製造方法であって、
水蒸気、またはI族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アミン類、リン酸、リン酸塩、炭酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、ケイ酸、ケイ酸塩およびフッ化物から選択される少なくとも1つの水溶液を用いて前記基体の表面の少なくとも一部に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を形成する工程と、
前記金属化合物皮膜に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させる工程と、
前記アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させた部分に樹脂を接合する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記金属化合物皮膜を形成する工程が、pHが7より大きく12以下で温度が80℃以上の水溶液を用いてγ−AlO・OHを含む前記金属化合物皮膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属化合物皮膜を形成する工程が、水蒸気を用いてγ−AlO・OHを含む前記金属化合物皮膜を形成することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶水液が、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウムおよびリン酸ジルコニウムバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属化合物を形成する工程の前に、前記アルミニウム合金基体の表面粗さを増加させる粗面化処理工程を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体と、該基体の表面の少なくとも一部分に、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体またはシラノール含有トリアジンチオール誘導体を被覆したアルミニウム合金部材であって、
前記基体と前記脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆または前記シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆との間に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を含むことを特徴とするアルミニウム合金部材。
【請求項12】
前記金属化合物皮膜が、金属の水和酸化物および水酸化物の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項11に記載のアルミニウム合金部材。
【請求項13】
前記金属化合物皮膜が、水和酸化物γ−AlO・OHを含むことを特徴とする請求項12に記載のアルミニウム合金部材。
【請求項14】
前記金属化合物皮膜が、リン酸水素金属塩、リン酸二水素金属塩およびリン酸金属塩よりなる群から選択される少なくとも1つのリン酸塩を含むことを特徴とする請求項11に記載のアルミニウム合金部材。
【請求項15】
前記金属化合物皮膜が、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウムおよびリン酸ジルコニウムバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする特徴とする請求項14に記載のアルミニウム合金部材。
【請求項16】
アルミニウムまたはアルミニウム合金より成る基体の少なくとも一部分に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させるアルミニウム合金部材の製造方法であって、
水蒸気、またはI族元素の水酸化物、I族元素の塩、II族元素の水酸化物、II族元素の塩、アンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、アミン類、リン酸、リン酸塩、炭酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、ケイ酸、ケイ酸塩およびフッ化物から選択される少なくとも1つの水溶液を用いて前記基体の表面の少なくとも一部に、水酸化物、水和酸化物、アンモニウム塩、カルボン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩およびフッ化物よりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む金属化合物皮膜を形成する工程と、
前記金属化合物皮膜に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を接触させる工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項17】
前記金属化合物皮膜を形成する工程が、pHが7より大きく12以下で温度が80℃以上の水溶液を用いてγ−AlO・OHを含む前記金属化合物皮膜を形成することを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記金属化合物皮膜を形成する工程が、水蒸気を用いてγ−AlO・OHを含む前記金属化合物皮膜を形成することを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
前記溶水液が、リン酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸マンガン、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウムナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸バナジウムおよびリン酸ジルコニウムバナジウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項20】
前記金属化合物を形成する工程の前に、前記アルミニウム合金基体の表面粗さを増加させる粗面化処理工程を含むことを特徴とする請求項16〜19のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−52292(P2011−52292A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203786(P2009−203786)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(506362222)株式会社新技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】