説明

アルミニウム合金製の部品をイオン注入によって窒化処理する装置および、そのような装置を利用する方法

本発明は、アルミニウム合金製の部品(5)へのイオン注入装置に関するものであって、該装置は、抽出圧力によって加速されたイオンを放出するイオン源(6)と、前記源(6)によって発信された初期イオンビーム(f1’)の、注入ビーム(f1)への第一の調整手段(7−11)とを有する。前記源(6)は、部品(5)内に120℃を下回る温度で注入されるマルチエネルギーイオンの初期ビーム(f1’)を生産する、電子サイクロトロン共鳴源である。前記調整手段(7−11)を介して調整された注入ビーム(f1)の、これらのマルチエネルギーイオンの注入は、源の抽出圧力によってコントロールされた深さに同時に実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、アルミニウム合金製の部品を、イオン源によって発信された窒素イオンビームに基づき、イオン注入によって窒化処理する装置を対象とするものである。本発明はまた、そのような装置を利用する、アルミニウム合金製の部品の窒化処理方法も対象とするものである。
【0002】
本発明は、例えばプラスチック成形加工業の分野において、用途が見出されるものであるが、この分野においては、プラスチック材料製の部品の大量生産用の型として使用される、アルミニウム合金で実現された部品を処理する必要がある。
【背景技術】
【0003】
技術の状況
プラスチック成形加工業の分野においては、プラスチック材料製の部品の大部分は、金属の型における成形によって実現される。現在では、型の大部分は鋼鉄製である。というのも、鋼鉄は、頑丈な物質であり、経時的に良好な機械的振舞を有する。鋼鉄製のそれぞれの型は、そのため、プラスチック材料製の部品を数多く実現することが可能であり、その数はおよそ500000から1000000個である。しかしながら、鋼鉄は、処理が難しい物質であり、その結果、市場で素早く生産することができない。また、形状の大きな自由度もなく、その一方で現在においては、プラスチック製部品の形状、つまりは射出成形用の型の形状を頻繁に変える傾向がある。これらの理由により、鋼鉄製の型は、加工コストや時間におけるコストが比較的高い。
【0004】
ゆえに、プラスチック成形加工業の分野においては、鋼鉄以外の金属での射出成形用の型の実現が次第に求められるようになってきている。アルミニウム合金は、これらの金属のうちの一つを成すものである。というのも、アルミニウム合金には、優れた加工性を持つという利点があり、すなわち、高速での加工が可能である。アルミニウム合金にはまた、大きな熱交換容量があり、これにより、プラスチック材料製の部品のより素早い冷却が引き起こされ、さらに、非常に軽量であるため、取扱いがより容易である。アルミニウム合金のコストは、同じ体積で、鋼鉄のコストにほぼ匹敵する。
【0005】
この分野において解決すべき一般的な問題とは、アルミニウム合金製の型が、経時的に限られた機械的振舞を有し、それゆえ、鋼鉄で実現された型と比して、生産力が弱いということに存する。アルミニウム合金製の一つの型において実現されるプラスチック材料製の部品の数は、典型的には、およそ1000個である。さらに、アルミニウム合金製の型の分野において解決すべき特徴的な問題は、成形表面の浸食や、接合面の光沢の消滅、または腐食といった現象が、鋼鉄製の型よりも早く現れるということにある。
【0006】
アルミニウム製の射出成形用の型の製造業者は、これらの型の表面の機械的振舞を向上させることによって、これらの問題を解決しようと努めている。そのために、彼らは、表面硬度および潤滑を増大させることによって(摩擦係数の減少)、また、主として塩素によるエッチングに由来する腐食に対する抵抗力を強化することによって、磨耗に対する抵抗力を高めようと努めている。
【0007】
アルミニウム合金製の型の機械的振舞を向上させるための、化学的または物理化学的な様々な方法が知られている。
【0008】
化学的方法の中では、アルミニウム合金製の型のアノダイジングから成る方法が知られている。アノダイジングとは、アルミナ(Al23)の自然層を厚くし、およそ20ミクロンの厚さにまですることが可能な電気分解方法である。このアルミナの層は、硬いが非常に壊れやすいものである(靭性はガラスのものとほぼ同一である)。さらに、この層は、高い熱膨張係数を示し、また、塩素によるエッチングに対する感受性があり、それゆえ、熱疲労および腐食に関する脆弱性が大きい。
【0009】
もう一つの化学的方法は、硬質クロムめっきである。この方法は、アルミニウム合金製の型の電気分解処理であり、それらを硬化させることが可能である。しかしながら、この方法は、型のエッジにおける厚みの均質性の問題を提起する。さらに、酸洗いという、表面の準備(7から8ミクロンのざらついた微小な引っかかりの生成)が必要であり、その質は下請けの技量しだいであって、それゆえ、金属工の間では評判が悪い。
【0010】
もう一つの化学的方法とは、ニッケルめっきである。この方法は、表面の滑りを良くするために、テフロン(登録商標)を溶浸させたニッケルの層を一様に堆積させることから成る。しかしながら、テフロン(登録商標)によるニッケルの溶浸には、型を数時間の間250℃の温度に維持することが必要であり、アルミニウム合金の機械的特性に対して有害である。テフロン(登録商標)なし、つまり潤滑なしでは、今度はニッケル層に剥離のおそれがある。
【0011】
もう一つの化学的方法は、窒化クロムの蒸着である。この方法は、窒化クロム層の接着に関する問題を提起するが、これは、許可された塗付温度(この温度を越えると、被覆用素材の機械的特性が損なわれる)の低さを原因とする質の悪さによるものである。
【0012】
物理化学的方法とは、熱窒化処理である。これは、窒素によって金属の部品を浸炭し、表面の大きな硬度を獲得することから成るものである。一般的に、この窒化処理は熱によって実現され、すなわち、処理されるべき金属部品が、アンモニアガスの流れの中で、500℃を越える温度で熱せられるということである。この温度においては、アンモニアガスは溶解し、合金の中に拡散して、窒化物を形成する。例えば、米国特許第4597808号明細書(新井透、他)の文書を参照することができるが、この文書は、上掲のタイプの物理化学的方法を記載している。しかしながら、処理すべき物質、すなわちアルミニウム合金のタイプに結びついたもう一つの問題が存在する。というのも、これらのアルミニウム合金は、120と150℃の間に含まれる熱による焼戻しで得られた硬化性の析出物を含有し、これらの析出物は、これら合金の良好な機械的振舞の性質をもつものである。ところが、米国特許4597808号明細書で推奨されているように、アルミニウム合金の温度が500℃を越える温度に上昇すると、これらの析出物が取り除かれる傾向がある。これによると、米国特許第4597808号明細書の文書に記載された方法は、アルミニウム合金の求められる機械的振舞に関しては、満足のいかないものだということになる。
【0013】
電子工学の分野で使用されることを目的としたアルミニウム部品の窒化処理方法が他にも存在する。これらの方法によって追求される目的は、アルミニウム表面の表面処理を実現し、窒化アルミニウムまたは酸化アルミニウムの薄い層を堆積させることであるが、該層は、電子工学の観点から見て興味深い特徴と、とりわけ良好な遮音材および良好な熱伝導体の特徴を示すものであり、これは、アルミニウム製部品の電気工学的な特性を保存するためのものである。例えば、欧州特許第1288329号明細書(CCR GmbH Beschichtungs−techno)および米国特許第4698233号明細書(岩木正哉、他)の文書を参照することができるが、これらは、電子工学の分野で使用されるアルミニウム部品の、このような処理方法を記載している。
【0014】
別の面では、米国特許第5925886号明細書(登木口克己、他)の文書によって、電子サイクロトロン共鳴イオン源(ECR源)に基づいてイオンビームを生産する可能性が言及されている。ECR源には二つの主要な特徴があることを改めて述べておく:
−源の内部に位置する、プラズマチャンバと呼ばれる画定された空間の中にイオンを閉じ込める、磁場、および
−源の内側に放出され、電子を加熱することを目的とする高周波であり、電子は、このときにイオン化されうる。
【0015】
源のチャンバは、高温のプラズマを有し、該プラズマは、磁気的に閉じ込められたイオンと電子の混合物から成る。イオンは、孔によってチャンバから抽出されることができ、次いで加速される。(酸素、窒素、ネオン等の)気体のイオンを生産のために、選択された気体は、所望のイオンビームの強さに達するに充分な量で源の中に導入される。
【特許文献1】米国特許第4597808号明細書
【特許文献2】欧州特許第1288329号明細書
【特許文献3】米国特許第4698233号明細書
【特許文献4】米国特許第5925886号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
発明の説明
本発明は、先に説明された技術の不都合および問題を改善することを目的とするものである。
【0017】
本発明は、とりわけ、アルミニウム合金製の部品に、その機械的振舞を向上させるために、とりわけ窒素イオンであるイオンを注入する装置を提案することを目指している。
【0018】
本発明はさらに、典型的にはおよそ0から3μmの厚さにおける、アルミニウム合金の深い処理を可能にするような装置を提案することを目指しており、また、該装置は、その利用によって、処理すべき部品の機械的特徴の変質を引き起こすことがなく、部品の再加工なしでの処理後のその使用を可能にするようなものである。
【0019】
本発明はまた、アルミニウム合金製の部品の特定の領域の処理を可能にするような装置を提案することを目指している。
【0020】
本発明は同様に、長い処理時間を必要としない、そのような装置を提案することを目指している。
【0021】
本発明は、最後に、工業的な枠内でのその使用を可能にするため、あまり高価でない装置を提案することを目指しており、そのコストは、他の処理方法のコストと比べて、致命的な欠陥となるようなものであってはならない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の進歩的なアプローチは、低温で、より正確には120℃を下回る温度で、マルチエネルギーイオンの同時注入によるアルミニウム合金製の部品の処理の実現を提案することから成る。これらのイオンは、電子サイクロトロン共鳴イオン源(ECR源)のプラズマチャンバ内で生成された一価および多価イオンを同一の抽出圧力で抽出することによって得られるものである。前記源によって生産されたそれぞれのイオンには、その電荷の状態に応じたエネルギーがある。その結果、電荷の状態が最も高いイオンは、それゆえエネルギーも最も高く、合金製の部品のより深くに注入される。
【0023】
記述のこの段階で指摘しておくが、この注入は、イオン源の高い抽出圧力を必要としないため、素早く、かつ、あまりコストがかからない。すなわち、一つのイオンの注入エネルギーを増加させるには、その抽出圧力を増加させるよりも、その電荷状態を増加させるほうが経済的に好ましい。
【0024】
同様に指摘しておくが、この装置は、120℃と150℃の間に含まれる温度で実施される熱による焼戻しによって事前に得られる硬化析出物の存在に由来するその機械的特性を変質させることなく、部品を処理することが可能である。
【0025】
アルミニウム合金製の部品へのイオン注入装置は、抽出圧力によって加速されたイオンを放出する源と、前記源によって発信された初期イオンビームの、注入ビームへの第一の調整手段とを有する。
【0026】
本発明によると、このような装置は、前記源が、部品内に120℃を下回る温度で注入されるマルチエネルギーイオンを生産する電子サイクロトロン共鳴源であり、注入ビームのイオン注入が、源の抽出圧力によってコントロールされた深さに同時に実施されるときに主に識別可能である。
【0027】
より具体的には、本発明の方法は、窒素があらかじめ内部に導入されたECRイオン源によって生産されたマルチエネルギーの窒素イオンを使用すること、および、同時に生産されたイオンをアルミニウム合金製の部品に注入することを提案しており、これによって、窒化アルミニウムの微細結晶が引き起こされ、その微細結晶によって硬度の増加がもたらされる。これらの窒素イオンの同時注入は、必要と部品の形状とに応じて、様々な深さで行われるものである。これらの深さは、注入ビームのイオンの注入エネルギーしだいである;これらの深さは、0から約3μmまで変化しうる。
【0028】
エネルギーつまり入射イオンの電荷状態による異なった噴霧効果を考慮に入れると、例えば、N+、N2+、N3+を同時に注入するか、または昇順の電荷状態によってN+、N2+、次いでN3+と次々に注入するか、あるいはまた、降順の電荷状態によってN3+、N2+、次いでN+と次々に注入するかによって、得られる入射イオンの濃度の特徴は同じでない。昇順の電荷状態によって次々と注入すると、厚みは大きいが濃度は低いという特徴が示される。降順の電荷状態によって次々と注入すると、厚みは小さいが濃度は高いという特徴が示される。同時の注入は先の二つのタイプの注入の中間の状態であり、中くらいの厚みと中くらいの濃度という特徴が得られる。昇順および降順で次々にイオンを注入するのは、時間の観点から見ると、コストがかかる。本発明の方法は、マルチエネルギーイオンをマルチエネルギービームでもって同時に注入することを推奨しており、そのため、技術的に有利であると同時に、得られる物理的な中間状態の面で最適である(バランスのとれた濃度の特徴)。
【0029】
アルミニウムの硬度の増加は、注入される窒素イオンの濃度と関係がある。例えば、10%の注入イオンに対して、部品の硬度は、局所的に、200%の割合で増加する。アルミニウムの場合、200%増加した硬度は、おおよそ、チタンと鋼鉄の、中間の硬度に相当する。部品に注入された20%の窒素イオンに対して、部品の硬度は、300%の割合で増加する。アルミニウムの場合、300%増加した硬度は、鋼鉄の硬度に等しいか、さらにはそれを上回る硬度に相当する。
【0030】
本発明の方法は、モノエネルギーの窒素イオンビームで実施される注入と比べて、非常に興味深い利点がある:同じ濃度の注入イオンに対して、確かに、マルチエネルギーの窒素イオンビームでは、硬度のより一層の増加がみられる。25%の注入イオン濃度に対しては、モノエネルギービームでの注入に比べて、マルチエネルギービームでの注入のために、60%の硬度の増加が測定された。マルチエネルギーイオンの同時注入は、衝突とカスケードにより、窒化アルミニウムの様々な層のより効果的な撹拌が引き起こされる(これらの層は、処理される厚みにおいて、様々な注入深さに、段状に重なっている)。窒化アルミニウムの層を構成する微細結晶の細分化および分散プロセスの効率の良さは、確かに、マルチエネルギー窒素イオンビームでの注入によって得られる、この硬度のより一層の増加の原因である。マルチエネルギービームは、機械的な用途に特に適合しており、一方で、モノエネルギービームは、電子工学的な用途に特にずっと適合しているが、電子工学的な用途については、カスケードや衝突による欠陥の発生が、窒化アルミニウムの電気的特性(とりわけその非常に高い電気的抵抗)を損なう傾向がある。
【0031】
アルミニウム合金製の射出成形用の型への適応において、本発明の方法は、アルミニウム合金の多くの機械的特性を保ちながらも、鋼鉄の硬度に近い表面硬度を有する型を得ることを可能にする。本発明の方法はまた、アルミニウム合金製のこれらの型の耐腐食性を向上させることも可能である。それによって、本発明の同時イオン注入による窒化処理方法で処理されたアルミニウム合金製の型の生産力は、従来のアルミニウム合金製の型に比べて、非常に大幅に増大される。
【0032】
さらに、本発明の装置は、有利には、部品とイオン源の相対的な位置の第二の調整手段を有する。イオン源と部品との間の相対的な移動は、この部品を領域ごとに処理することを可能にするために実施されるものであると理解される。例えば、同一の金属部品の複数の領域が、同一のまたは異なった硬度を得るように処理されることが可能である。処理する領域および、それら領域にもたらされる処理時間の選択は、それらの機能的な特性(例えば、型の接合面の領域、成形表面の領域)によって決まる。
【0033】
部品が源に対して可動である、本発明の装置の好ましい実現形状によると、第二の調整手段は、有利には、その処理の途中に部品を移動させるための、可動の部品ホルダーを有する。装置の他の好ましくない実現形状においては、処理すべき部品に対して移動するのはイオン源である;この実現形状は、処理すべき部品が非常にかさばるときに利用することができる。
【0034】
部品ホルダーは、好ましくは、マルチエネルギーイオンの注入の際に部品内で生じた熱を排出するための、冷却手段を備える。
【0035】
イオンビームの第一の調整手段は、源によって生産されたイオンをそれらの電荷およびそれらの質量によって選別するための質量分光計を、付随的に有する。
【0036】
好ましくは、初期イオンビームの第一の調整手段は、さらに、光学的集束手段、プロファイラー、強度変換器および遮断器を有する。
【0037】
装置は、有利には、真空ポンプを備えた囲いの中に閉じ込められる。
【0038】
部品およびイオン源の相対的な位置の第二の調整手段は、有利には、イオンビームの性質、部品の幾何学的形状、源に対する部品ホルダーの移動速度、および、先に実現されたパスの数に関する情報に基づいた、この位置の計算手段を有する。
【0039】
本発明による装置を利用する、イオン注入によるアルミニウム合金の処理方法の第一の変形例によると、この方法は、マルチエネルギーイオンビームが、部品に対して相対的な仕方で、一定の速度で移動するという点で、主に識別可能である。
【0040】
本発明による装置を利用する、イオン注入によるアルミニウム合金の処理方法の第二の変形例によると、この方法は、マルチエネルギーイオンビームが、部品に対して相対的な仕方で、部品の表面に対するマルチエネルギーイオンビームの入射角を考慮に入れた可変の速度で移動するという点で、主に識別可能である。
【0041】
移動するのが、処理されるべき部品であれ、イオン源であれ、これら二つの要素の間の相対的な移動速度は、少なくとも部品の領域の処理が持続している間は、表面に対するビームの入射角に応じて、一定または可変であることができる。速度の管理は、部品の処理すべき各領域によって異なることができる。速度は、ビームの流量、注入イオンの濃度の特徴、およびパスの数によって決まる。速度は、表面に対するビームの入射角に応じて変化し、注入深さの浅さを注入イオンの数の増加で補うことができる。
【0042】
好ましくは、マルチエネルギーイオンビームが発信される流量および発信エネルギーは、一定または可変であり、イオン源によって制御されたものである。先に説明したように、本発明の方法は、マルチエネルギーイオンが部品に進入する深さに影響を及ぼすことが可能である。これらの進入深さは、処理される深さにおいて段状になっており、部品の表面のところにイオンが入る様々なエネルギーに応じて変わる。より正確には、イオン源は、可変の発信エネルギーでもってイオンを放出する;この場合、イオン源は、各処理の際の抽出圧力を見込んで入射イオンのエネルギーを変化させるように制御されている。
【0043】
処理すべき部品の結晶構造に窒素イオンを注入することは、窒化アルミニウムの微細結晶(低い窒素濃度に対する面心立方構造から、高い窒素濃度に対する六方最密構造まで)を生成する効果があり、該微細結晶は、極めて硬く、物質の変形の原因である転位の滑り面を妨げる。言い換えれば、処理すべき部品に窒素イオンを注入することは部品の表面硬度を増加させ、それにより、部品の磨耗への抵抗力を非常に高くすることが可能であるということである。
【0044】
別の面では、アルミニウム合金製の射出成形用の型への適応において、アルミニウム内に存在する窒素は、塩基であるために、成形されたプラスチックに由来する塩化物イオンによって引き起こされた腐食孔に存在する酸性度を低下させる効果がある。したがって、腐食孔の拡大に関連する腐食は、本発明の方法によって大幅に減少される。
【0045】
本発明の方法は、入射イオンの通過によってもたらされる表面の噴霧現象によって、部品の微細な凹凸を消すことが可能であり、それに応じて、一般的に表面の窪みのおかげで形成される腐食孔の出現を減少させる。
【0046】
これらの配置の結果、本発明の方法は、幾何学的形状が複雑な部品の領域を有効に処理することが可能であるが、だからといって処理時間や部品の加熱リスクが増大することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
図面の簡単な記述
図1は、本発明の装置の機能的なダイアグラムを示している。
【0048】
図2は、N+、N2+およびN3+のイオンを同じ200KVの抽出圧力で生産する電子サイクロトロン共鳴源による、アルミニウム製の部品への注入の分布の例を示している。
【0049】
図3は、200KVの抽出圧力で、10秒間、1cm2の表面に集中された、N+(3.3mA)、N2+(3.3mA)、N3+(3.3mA)のビームで得られた注入の特徴を示している。この特徴は、オングストロームで表された注入深さに応じて注入された窒素イオンの濃度(%)を縦座標に示している。
【0050】
図4は、200KVの抽出圧力で、10秒間、1cm2の表面に集中された、N+(1.6mA)、N2+(3.2mA)、N3+(4.8mA)のビームで得られた、先の特徴と同じタイプの最適な注入の特徴を示している。
【実施例】
【0051】
発明の実現様式の詳細な記述
図1では、本発明による装置が、真空ポンプ2のおかげで真空にされた囲い3の中に置かれている。この真空は、残留性のガスによるビームの遮断を防ぐことと、注入の際に、これらの同じガスによって部品の表面が汚染されるのを避けることを目的としている。
【0052】
この装置は、電子サイクロトロン共鳴イオン源6、いわゆるECR源を有する。このECR源6は、窒素のマルチエネルギーイオンの初期ビームf1’を、約10mAの合計電流(N+、N2+等、電荷の区別なく)で放出し、抽出圧力は、20KVから200KVまで変化しうる。ECR源6は、イオンビームf1’を、第一の調整手段7−11に向かって発信し、該手段は、集束と、ECR源6によって発信された初期ビームf1’のイオン注入ビームf1への調整とを確実に行い、該イオン注入ビームは、処理すべき部品5にぶつかることになる。
【0053】
これらの第一の調整手段7−11は、ECR源6から部品5に向かって、次の要素を有する:
−イオンの電荷およびイオンの質量に応じてイオンを通すのに適した、質量分光計7。この要素は任意のものである;というのも、純粋な窒素ガス(N2)を注入する場合には、源によって生産された一価および多価窒素イオンの集合を回収して、マルチエネルギー窒素イオンビームを得ることが可能であるためである。質量分光計は、非常に高価な要素であるため、ボンベで配達される純粋な窒素ガスから得られたマルチエネルギー窒素イオンビームを用いると、装置のコストは大幅に減少する。
−初期イオンビームf1’に、選択された半径で、例えば円筒形のような、選択された形状を与える役割を果たすレンズ8。
−垂直な切断面におけるビームの強度を分析する役割を果たすプロファイラー9。この分析器具は、レンズ8が第一の注入の際に最終的に調整されるとすぐに、任意のものとなる。
−初期ビームf1’の強度を、それを遮断することなく、継続して測定する、強度変換器10。この器具の主要な機能は、初期ビームf1’の全ての中断を検出すること、および、処理中のビームf1の強度の変化の記録を可能にすることである。
−ある時点で、例えば、部品の処理のない移動の際にイオンの軌道を中断させる役割を果たす、ファラデーケージであることができる遮断器11。
【0054】
図1に示された装置の好ましい実現形状によると、部品5は、ECR源6に対して可動である。部品5は、可動の部品ホルダー12に取り付けられ、該部品ホルダーの移動は、デジタル制御機器4によって制御され、該機器自体は、CAD/CAM(コンピュータ支援設計および製造)システム1によって計算されたポストプロセッサによって操作される。
【0055】
部品5の移動に際しては、ビームf1の半径、部品5の処理すべき領域の外側および内側の輪郭、表面に対するビームf1の角度に応じた一定または可変の移動速度、ならびに、先に実現されたパスの数が考慮される。
【0056】
コントロール情報(inf1)は、ECR源6からデジタル制御機器4に向けて伝達される。これらのコントロール情報は、ビームの状態に関するものである。特に、ECR源6は、イオンビームf1が送信される準備ができたときに、機器4に通知する。他のコントロール情報(inf2)は、機器4によって、遮断器11、ECR源6、および、場合によっては一つまたは複数の装置の外部の機器に伝達される。これらのコントロール情報は、イオンビームの半径の値、その流量、および、機器4の既知の他の全ての値であることができる。
【0057】
別の面では、部品ホルダー12は、マルチエネルギーイオンの注入の際に部品5において生じた熱を排出するための冷却回路13を備えている。
【0058】
本発明の装置の機能の仕方は、次のとおりである:
−処理すべき部品5を、部品ホルダー12に固定する、
−装置が入った囲い3を閉める、
−場合によっては、部品ホルダー12の冷却回路13を作動させる、
−真空ポンプ2を作動させ、囲い3の中に強度の真空を得るようにする、
−真空条件に達したら直ちに、調整手段7−11を使ってイオンビームf1’の生産および調整を行う、
−ビームが調整されると、遮断器11を取り除き、そして、デジタル制御機器4を始動させるが、すると該機器が、一つまたは複数のパスにおけるビームの前で、部品5の、位置および速度における変更を実行する、
−要求されるパスの数に達すると、ビームf1を切断するために遮断器11を下ろし、ビームf1’の生産を止め、囲い3を空気にさらすことで真空を破り、場合によっては冷却回路13を止め、そして処理された部品5を囲い3の外に出す。
【0059】
部品5の所与の点におけるビームf1の通過に関連した温度のピークを低下させるには、二つのやり方が存在する:ビームの半径を大きくする(ゆえに1cm2あたりの出力を減らす)か、移動速度を増すかである。
【0060】
もし部品が小さすぎて、処理に関連する熱を放射によって排出することができないときは、ビームf1の出力を減らす(ゆえに処理時間を増やす)か、または、部品ホルダー12に収められた冷却回路13を作動させることができる。
【0061】
図2は、アルミニウムの部品に注入された窒素Nイオンの分布例を示している。この例においては、イオン源は、N+、N2+およびN3+イオンを放出し、これらイオンは全て同一の、例えば200KVの、抽出圧力で抽出されたものである。したがって、イオン源によって発信されたN+イオンは200KeVのエネルギーを有し、N2+イオンは400KeVのエネルギーを有し、N3+イオンは600KeVのエネルギーを有する。
【0062】
+イオンは、0.37μm+/−0.075μmの深さに達する。N2+イオンは、約0.68μm+/−0.1μmの深さに達し、そしてN3+イオンは、約0.91μm+/−0.15μmの深さに達する。この例におけるイオンによって達成される最大の距離は、1.15μmである。
【0063】
ECRイオン源6の特性は、一価および多価イオンを放出するということにあり、これによって、同じ抽出圧力でマルチエネルギーイオンを同時に注入することが可能になる。したがって、処理される厚み全体にわたり、多かれ少なかれ良く分配された注入の特徴を同時に得ることが可能である。
【0064】
例えば、1cm2のアルミニウムの部品に対して、200KVの抽出圧力で、合計で10mAの合計電流(N+が3.3mA、N2+が3.3mA、N3+が3.3mA)を約10秒間放出するECR源を考慮すると、注入の特徴は、おおよそ、図3に示されたようなものになる。この特徴から明らかになる濃度は以下のとおりである:
−0.30と0.5μmの間では20%のNであり、これは硬度の300%の増加に相当する、
−0.5と0.85μmの間では8%のNであり、これは硬度の200%の増加に相当する、そして
−0.85と1.1μmの間では2%のNであり、これは硬度の35%の増加に相当する。
【0065】
源6の周波数を調整して、源のイオンの電荷状態が一様に分配された分布(1cm2あたり、および1秒あたりで、同じ数のN+、N2+、N3+イオン)を有するようにすることによって、注入の特徴について、最適な分配を得る。
【0066】
例えば、先の例をもう一度用いると、1cm2のアルミニウムの部品に対して、200KVの抽出圧力で、合計で10mAの合計電流(N+が1.6mA、N2+が3.2mA、N3+が4.8mA)を約10秒間放出するECR源を考慮すると、図4に示された注入の特徴は、0.25μmと1.1μmの間に含まれる厚さで、6と14%の間で変動する。
【0067】
同じ注入イオン濃度に対して、マルチエネルギーイオンの同時注入によって得られる硬度の観点での物理的な効果は、モノエネルギーオンの注入によって得られる効果を上回る。すなわち、(段状になった深さに注入される)マルチエネルギーイオンの撹拌の効率に由来する、窒化アルミニウムの微細結晶の分散は、モノエネルギーオンビームで得られるであろう硬度よりも増した、硬度のより一層の増加をもたらすのである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の装置の機能的なダイアグラム
【図2】N+、N2+およびN3+のイオンを同じ200KVの抽出圧力で生産する電子サイクロトロン共鳴源による、アルミニウム製の部品への注入の分布図
【図3】200KVの抽出圧力で、10秒間、1cm2の表面に集中された、N+(3.3mA)、N2+(3.3mA)、N3+(3.3mA)のビームで得られた注入の特徴を表す図
【図4】200KVの抽出圧力で、10秒間、1cm2の表面に集中された、N+(1.6mA)、N2+(3.2mA)、N3+(4.8mA)のビームで得られた注入の特徴を表す図
【符号の説明】
【0069】
1 CAD/CAMシステム
2 真空ポンプ
3 囲い
4 デジタル制御機器
5 部品
6 ECR源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出圧力によって加速されたイオンを放出する源(6)と、前記源(6)によって発信された初期イオンビーム(f1’)の、注入ビーム(f1)への第一の調整手段(7−11)とを有するものであり、前記源(6)が、部品(5)内に120℃を下回る温度で注入されるマルチエネルギーイオンを生産する電子サイクロトロン共鳴源であり、注入ビーム(f1)のマルチエネルギーイオンの注入が、源の抽出圧力によってコントロールされた深さに同時に実施されることを特徴とする、アルミニウム合金製の部品(5)へのイオン注入装置。
【請求項2】
部品(5)とイオン源(6)の相対的な位置の第二の調整手段(1、4、12)をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
第二の調整手段(1、4、12)が、その処理の途中に部品(5)を移動させるための可動の部品ホルダー(12)を有することを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
部品ホルダー(12)が、マルチエネルギーイオンの注入の際に部品(5)内で生じた熱を排出するための、冷却手段(13)を備えることを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
イオンビームの第一の調整手段(7−11)が、源(6)によって生産されたイオンをそれらの電荷およびそれらの質量によって選別するための質量分光計(7)を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載の装置。
【請求項6】
初期イオンビーム(f1’)の調整手段(7−11)が、さらに、光学的集束手段(8)、プロファイラー(9)、強度変換器(10)および遮断器(11)を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の装置。
【請求項7】
真空ポンプ(2)を備えた囲い(3)の中に閉じ込められることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の装置。
【請求項8】
部品(5)およびイオン源(6)の相対的な位置の第二の調整手段(1、4、12)が、イオンビームの性質、部品(5)の幾何学的形状、源(6)に対する部品ホルダー(12)の移動速度、および、先に実現されたパスの数に関する情報に基づいた、この位置の計算手段(1)を有することを特徴とする、請求項3に記載の装置。
【請求項9】
マルチエネルギーイオンビームが、部品(5)に対して相対的な仕方で、一定の速度で移動することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載の装置を利用する、イオン注入によるアルミニウム合金の処理方法。
【請求項10】
イオン注入によるアルミニウム合金の処理方法であって、マルチエネルギーイオンビームが、部品(5)に対して相対的な仕方で、部品(5)の表面に対するマルチエネルギーイオンビームの入射角を考慮に入れた可変の速度で移動することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載の装置を利用する処理方法。
【請求項11】
マルチエネルギーイオンビームが、一定の、流量および発信エネルギーで発信されることを特徴とする、請求項9または10に記載の処理方法。
【請求項12】
マルチエネルギーイオンビームが、イオン源(6)によって制御された、可変の、流量および発信エネルギーで発信されることを特徴とする、請求項9または10に記載の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2007−524760(P2007−524760A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551878(P2006−551878)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【国際出願番号】PCT/FR2005/000224
【国際公開番号】WO2005/085491
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(506266540)ソシエテ ケルテック アンジェニリ (キュイー) (1)
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE QUERTECH INGENIERIE (QI)
【Fターム(参考)】