説明

アルミニウム合金製ドアビーム及び自動車のドア構造

【課題】ドアビームの圧縮側フランジとドアのアウターパネルを接着剤を介して接着する場合に、フランジとアウターパネルの隙間を一定にして、接着しやすくする。衝突時の荷重方向が斜めにずれた場合でも、フランジがその荷重を垂直に受けることができるようにする。
【解決手段】ドアビームは、一対のフランジ41,42が一対のウエブ43,44により連結されたアルミニウム合金押出材からなる。長手方向に垂直な断面をみたとき、圧縮側フランジ41を外側に湾曲させ、その曲率をドアのアウターパネルの曲率に合わせることで、フランジ41とアウターパネルの隙間を一定にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドア補強用部材として使用されるアルミニウム合金製ドアビーム及び自動車のドア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、アルミニウム合金押出材からなり、長手方向に垂直な断面において、図5に示すように、圧縮側フランジ1と引張側フランジ2を一対のウエブ3、4により連結した断面形状を有し、かつ圧縮側フランジ1の中心線aと引張側フランジ2の中心線bがずれているドアビームが記載されている。なお、中心線a、bは、長手方向に垂直な断面において各フランジの中心(長さの中心)を通り荷重Pの方向に引いた線である。なお、図2のドアビームの両フランジ1、2はそれぞれ均一な厚さをもち、かつ互いに平行であるから、中心線a、bの方向は両フランジ1、2に垂直である。
【0003】
このドアビームは、荷重Pが圧縮側フランジ1に均等にかかったと仮想したときの荷重の作用線(圧縮側フランジ1の中心線aと同じ位置、矢印で表示)が引張側フランジの中心線bとずれているため、曲げ荷重Pを受けたとき、ビーム断面がひしゃげるように座屈変形(ウエブが倒れる)を起こしやすく、割れが生じるほど引張側に歪みが蓄積される前に荷重が大きく低下し、その結果、前記公報に記載されたように、引張側フランジ2側の負荷が緩和され、引張側に割れが発生し難くなり、圧縮側にも割れが発生しにくくなる。これにより、破断変位を大幅に改善することができ、短いビーム長でも大きい破断変位を得ることができ、同時に重量を増やすことなく必要な最大荷重及びエネルギー吸収量を稼ぐことができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−278054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドアビームは、剛性向上、振動騒音防止等のために、フランジとドアのアウターパネルを1乃至複数箇所で接着剤を介して接着しておく場合があるが、フランジは湾曲していないため湾曲したアウターパネルとの隙間が一定でなく、接着しにくいという不利がある。本発明は、この点を改良することを第1の目的とする。
また、実際の荷重方向が想定している方向(中心線a、bと平行)から斜めにずれた場合、フランジがその荷重を垂直に受けることができないという問題がある。本発明は、この点を改良することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウム合金製ドアビームは、一対のフランジが一対のウエブにより連結されたアルミニウム合金押出材からなり、長手方向に垂直な断面をみたとき、圧縮側フランジが外側に湾曲していることを特徴とする。
また、本発明に係るアルミニウム合金製ドアビームは、一対のフランジが一対のウエブにより連結されたアルミニウム合金押出材からなり、長手方向に垂直な断面をみたとき、圧縮側フランジが外側に湾曲し、その曲率をドアのアウターパネルの曲率に合わせたことを特徴とする。
さらに、本発明に係るアルミニウム合金製ドアビームは、一対のフランジが一対のウエブにより連結されたアルミニウム合金押出材からなり、長手方向に垂直な断面をみたとき、圧縮側フランジが外側に湾曲し、前記アウターパネルとの隙間がほぼ一定であることを特徴とする。
前記ドアビームとアウターパネルの内側を、1乃至複数箇所において、接着剤で接着することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のドアビームの場合、長手方向に垂直な断面において圧縮側フランジが外側に湾曲していることに基づき、その曲率を湾曲したアウターパネルと合わせて隙間を一定にすることにより、フランジとアウターパネルの接着剤による接着がしやすくなるという利点がある。また、実際の荷重方向が想定している方向から斜めにずれた場合でも、フランジがその荷重を垂直に受けることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1にドアビームの一例(長手方向に垂直な断面)を示す。このドアビームは、一対のフランジ11、12が一対のウエブ13、14により連結されたアルミニウム合金押出材からなり、両フランジ11、12は互いに平行で同じ厚み(c=d)、同じ幅(e=f)を有し、両ウエブ13、14は両フランジに垂直で同じ厚み(g=h)、同じ長さを有する。また、長手方向に垂直な断面において、フランジ11の両張出幅e、eはフランジ12の両張出幅f、fと等しくされ(e=f、e=f)、フランジ11の中心線aとフランジ12の中心線bは左右にずれている。なお、中心線a、bは各フランジ11、12の中心(長さの中心)を通り荷重Pの方向に引いた直線であり、各フランジ11、12に対し垂直である。
両中心線a、bが左右にずれていることは、曲げの中立軸i及び図心Oを通り該曲げの中立軸iに垂直な軸jのいずれに対しても非対称であることを意味する。そして、上記ドアビームの断面形状は、長手方向に垂直な断面において、図心Oを対称中心として対称である。すなわち図心Oを中心として180゜回転しても同形状となる。
【0009】
なお、図5に示すドアビームのように、その断面形状において、両フランジ1、2の幅が異なり(e≠f)、対角上の張出幅が異なり(e≠f、e≠f)、あるいは厚みが異なる(c≠d)など、断面形状が図心Oを中心として対称でない場合は、図4(a)に示すように、(1)まず押出材の断面に垂直な面Aで所定長さに切断し、続いて各々の押出材の両端を斜めの面B、Cで切断する、又は(b)垂直な面Aで切断することなく、斜めの面B、Cのみで切断する、等の方法を採用している。しかし、いずれの方法でも、図4(a)にドットで示した部分が歩留まり落ち(製品に利用されない部分)となり、歩留まりが低下する。
【0010】
これに対し、図1に示すドアビームは、図4(b)に示すように、上記断面を有する長尺のアルミニウム合金押出材の長手方向に対して傾斜した面B(断面におけるフランジ11、12の幅が最小となる面)と、面Bとは逆に傾斜した面C(同じく断面におけるフランジ11、12の幅が最小となる面)で、前記押出材の長手方向に沿ってドアビームの長さ毎に交互に切断する。なお、この押出材では、面B、Cと押出材のフランジ面(フランジ11、12の表面)が交わる交線の向きは押出材の長手方向に垂直となる。
この押出材の断面形状は、長手方向に垂直な断面において、図心Oを対称中心として対称であるから、切断された各押出材21、22、23、24・・・は全て同じ断面及び立体形状であり、そのままドアビームとして利用することができ、歩留り落ちが少ない。また、この製造方法によれば切断工程の数が少なくなり、生産性が向上する。
【0011】
図2に示すのは、別のドアビームの例である(同じく長手方向に垂直な断面)。このドアビームは、一対のフランジ31、32が一対のウエブ33、34により連結されたアルミニウム合金押出材からなり、両フランジ31、32は互いに平行で同じ厚み(c=d)、同じ幅(e=f)を有し、両ウエブ33、34は互いに平行で両フランジに対し同方向に傾斜し同じ厚み(g=h)、同じ長さを有する。また、長手方向に垂直な断面において、フランジ31の両張出幅e、eはフランジ32の両張出幅f、fと等しくされ(e=f、e=f)、フランジ31の中心線aとフランジ32の中心線bは左右にずれている。なお、中心線a、bは各フランジ31、32に対し垂直である。
【0012】
このドアビームの断面形状は、曲げの中立軸i及び図心Oを通り該曲げの中立軸iに垂直な軸jに対して非対称である。そして、上記ドアビームの断面形状は、長手方向に垂直な断面において、図心Oを対称中心として対称である。すなわち図心Oを中心として180゜回転しても同形状となる。
なお、このドアビームも、図4(b)に示すように、上記断面形状を有する長尺のアルミニウム合金押出材を切断して製造することができる。
【0013】
図3に示すのは、本発明に係るドアビームの例である(同じく長手方向に垂直な断面)。このドアビームは、一対のフランジ41、42が一対のウエブ43、44により連結されたアルミニウム合金押出材からなり、両フランジ41、42が湾曲している点で図1に示すドアビームとは異なる。
しかし、図1に示すドアビームと同じく、両フランジ41、42は同じ幅及び厚みを有し、両ウエブは互いに平行で同じ長さ及び厚みを有し、押出材の長さ方向に垂直な断面において、フランジ41の中心線aとフランジ42の中心線bは左右にずれている。この中心線a、bは各ウエブ43、44と平行である。また、その断面形状は、曲げの中立軸i及び図心Oを通り該曲げの中立軸iに垂直な軸jに対して非対称であり、かつ図心Oを対称中心として対称である。すなわち図心Oを中心として180゜回転しても同形状となる。
このドアビームも、図4(b)に示すように、上記断面形状を有する長尺のアルミニウム合金押出材を切断して製造することができる。
【0014】
このドアビームはフランジ41、42が外側に湾曲しているので、その曲率をドアのアウターパネルの曲率に合わせておけば、接着剤でフランジとアウターパネルの内側を接着する場合に(剛性向上、振動騒音防止等のために予めフランジとアウターパネルを1乃至複数箇所で接着剤を介して接着しておく場合がある)、隙間がほぼ一定であるので接着しやすく有利である。この場合、接着剤とドアビームの密着性を高めるため、ドアビームに表面処理等を適宜行うこともできる。表面処理としては、例えばアルマイト処理、水和酸化物皮膜の形成等が挙げられる。また、フランジ41、42が湾曲していることで、実際の荷重方向が想定している方向(中心線a、bと平行)から多少斜めにずれた場合でも、フランジがその荷重を垂直に受けることができる。
【0015】
なお、本発明に係るドアビームには、各種アルミニウム合金がいずれも適用できるが、特にZn:4〜9%(質量%、以下同じ)、Mg:0.8〜2%を含有するAl−Zn−Mg系アルミニウム合金、Mg:0.4〜1.3%、Si:0.2〜1.5%を含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金が好適であり、一般的な合金として、例えば7N01、6061、6063、6N01等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ドアビームの断面形状である。
【図2】ドアビームの別の断面形状である。
【図3】本発明に係るドアビームの断面形状である。
【図4】押出材を切断してドアビームを製造する方法であり、左側の図形はそれぞれの側面図である。
【図5】ドアビームの断面形状である。
【符号の説明】
【0017】
1 圧縮側フランジ
2 引張側フランジ
3、4、13、14、33、34、43、44 ウエブ
11、12、31、32、41、42 フランジ
a、b 中心線
O 図心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のフランジが一対のウエブにより連結されたアルミニウム合金押出材からなり、長手方向に垂直な断面をみたとき、圧縮側フランジが外側に湾曲していることを特徴とするアルミニウム合金製ドアビーム。
【請求項2】
自動車ドアのアウターパネルの内側に設置されたドアビームにおいて、一対のフランジが一対のウエブにより連結されたアルミニウム合金押出材からなり、長手方向に垂直な断面をみたとき、圧縮側フランジが外側に湾曲し、その曲率をドアのアウターパネルの曲率に合わせたことを特徴とするアルミニウム合金製ドアビーム。
【請求項3】
自動車ドアのアウターパネルの内側に設置されたドアビームにおいて、一対のフランジが一対のウエブにより連結されたアルミニウム合金押出材からなり、長手方向に垂直な断面をみたとき、圧縮側フランジが外側に湾曲し、前記アウターパネルとの隙間がほぼ一定であることを特徴とするアルミニウム合金製ドアビーム。
【請求項4】
請求項2又は3に記載されたドアビームとアウターパネルの内側が接着剤で接着されていることを特徴とする自動車のドア構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−103687(P2006−103687A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3013(P2006−3013)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【分割の表示】特願2000−320225(P2000−320225)の分割
【原出願日】平成12年10月20日(2000.10.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)