説明

アルミニウム合金製品およびその製造方法

【課題】より簡単な製造プロセスでもって、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品を得る。
【解決手段】5000系または7000系のアルミニウム合金を母材1としてアルミニウム合金製品を押出し加工する。押出し加工後に、その表面にショットブラストによる研磨を施し、表面に形成された粗大再結晶層2を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限定されないが、特に衝撃吸収のためのバンパーの裏に備えられる補強材であるリーンフォース材として用いるのに好適な、アルミニウム合金製品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衝撃吸収のためのバンパーの裏には補強材であるリーンフォース材が備えられる。リーンフォース材には機械的強度とともに軽量性も求められることから、母材としてアルミニウム合金が用いられ、また主に押出し加工により製造されることが多い。高強度化の観点から5000系または7000系のアルミニウム合金を押出し加工することが実用化されているが、5000系または7000系等の押出し合金は、表面に再結晶層が形成されるのを回避することはできず、形成された再結晶層によってアルミニウム合金製品の曲げ加工性の低下や応力腐食割れ感受性が高くなる不都合があり、その不都合を解決することが課題となっている。
【0003】
特許文献1には、Al−Zn−Mg系合金(7000系アルミニウム合金)の曲げ加工性と応力腐食割れは、表面に形成される再結晶層の厚さを抑制することで向上できることに鑑みて、押出し温度を450℃〜520℃とすることで表面再結晶層の厚さを50μm未満とするようにしたアルミニウム合金製品およびその製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−120388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、5000系または7000系のアルミニウム合金からなる製品に発生する応力腐食割れ感受性について、多くの実験と研究を行ってきており、その過程で、押出し条件(例えば、温度や速度等)を制御することで、表面に形成される再結晶層の厚さを制御することができ、薄くすることで応力腐食割れ感受性を低下させる、すなわち耐応力腐食割れ性を向上させることができることを知見したが、押出し条件を所望に制御することは困難なこと、また、どのように押出し条件を制御しても、押出し品の表面に再結晶層が形成されるのを完全に抑制することはできないことを経験した。
【0006】
本発明は、そのような研究環境下でなされたものであり、より簡単な製造プロセスで製造することのできる耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品を開示することを第1の課題とする。また、そのような耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品を製造する方法を開示することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるアルミニウム合金製品は、5000系または7000系のアルミニウム合金を母材とするアルミニウム合金製品であって、その表面の少なくとも一部に再結晶層を有しない部分を有することを特徴とする。
【0008】
上記のアルミニウム合金製品では、表面の全部または一部に再結晶層そのものを有しない。すなわち、本発明によるアルミニウム合金製品では、応力腐食割れ感受性を高める表層の粗大再結晶層は削り取ることにより消失し、より微細な結晶粒を持つ母材表面が現れており、それにより、応力腐食割れ感受性を低下させている。換言すれば、表面の全部に再結晶層を有するアルミニウム合金製品と比較して、耐応力腐食割れ性が向上する。
【0009】
なお、表面の一部に再結晶層を有しないアルミニウム合金製品の場合、その領域は、当該アルミニウム合金製品を他部材に固定するときに用いられる部分、換言すれば、製品を他の部材に固定するときに、ねじ締め等によって特に大きな引張応力が作用する部分であることが望ましい。また、本発明によるアルミニウム合金製品は、高い耐応力腐食割れ性が求められる任意の製品であってよいが、一例として、バンパーリーンフォース材が挙げられる。
【0010】
本発明による耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品の製造方法は、押出し成型後のアルミニウム合金の表層部にある再結晶層を研磨により削り取るプロセスを備えることを特徴とする。
【0011】
上記の製造方法において、溶融したアルミニウム合金を押出しする条件は、従来行われている押出し条件を適宜用いることができる。適宜の押出し条件で製造されたアルミニウム合金製品の表面には所要厚さの再結晶層が存在している。本発明の製造方法では、そのアルミニウム合金製品に対して研磨処理を行い、表面全部のあるいは必要とする表面領域の再結晶層を削り取る。研磨手段は任意であるが、作業の容易性および凹凸のある製品であっても適切に研磨を行うことができることから、研磨をショットブラストで行うことは、特に好ましい。
【0012】
本発明によるアルミニウム合金製品の製造方法において、温度や速度等を含む押出し条件を、表面に形成される再結晶層が薄くなるような条件に設定することは、後の研磨作業を容易にすることから望ましいが、厳密に制御する必要はない。そのために、全体としての製造プロセスは容易となる。
【0013】
なお、本発明によるアルミニウム合金製品の製造方法において、母材となるアルミニウム合金の種類は任意であるが、高強度の製品は得られるが応力腐食割れを起こし易い5000系または7000系のアルミニウム合金を母材として用いる場合に、本発明の製造方法は特に有効に機能する。
【0014】
なお、本発明において、7000系のアルミニウム合金とは、重量%でZn:5.0%〜8.0%、Mg=0.50%〜1.5%、Cu:0.30%以下、Cr:0.30%以下、Mn:0.30%以下、Zr:0.05%〜0.30%、Fe:0.40%以下、Si:0.30%以下で残部がA1及び不可避不純物からなる組成のアルミニウム合金であり、5000系のアルミニウム合金とは、重量%でZn:0.25%以下、Mg:2.2%〜5.0%、Cu:0.10%以下、Cr:0.05%〜0.35%以下、Mn:0.70%以下、Fe:0.50%以下、Si:0.40%以下で残部がA1及び不可避不純物からなる組成のアルミニウム合金である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、より簡単な製造プロセスでもって、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】押出し加工により得られたアルミニウム合金製品の断面を示す顕微鏡写真。
【図2】押出し加工により得られたアルミニウム合金製品に本発明による製造方法を適用する場合の一例を示す模式図。
【図3】実施例と比較例での応力腐食割れが発生する限界を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、押出し加工により得られたアルミニウム合金製品の断面を示す顕微鏡写真であり、図2は、押出し加工により得られたアルミニウム合金製品に本発明による製造方法を適用する場合の一例を示す模式図である。
【0018】
例えば7000系のアルミニウム合金のビレットを定法により製造し、適宜の均質化処理を行った後、定法により押出し加工を施す。得られたアルミニウム合金製品は、厚さの程度の差はあるものの、図1に示すように、母材1の表面には、粗大再結晶層2が形成される。合金組成や押出し加工の温度条件および速度条件によって変化するが、通常、粗大再結晶層2の厚さは40μm〜150μm程度であることが多い。粗大再結晶層2は母材1に比べて粒界が少ないため、応力分散しにくいなどの理由により、応力腐食割れの基点となりやすい。
【0019】
図2は、押出し加工によって得られた製品がバンパーリーンフォース材3の場合を例示している。通常、バンパーリーンフォース材3は、その表面側に、いずれも図示しない発泡樹脂のような緩衝材とバンパー本体が取り付けられ、その状態で、車両側の所定位置にねじ固定等によって装着される。図2において、4は固定時に用いられるねじ穴である。
【0020】
図2に示す例では、押出し加工によって得られたバンパーリーンフォース材3の表面側の全面と、裏面側のねじ穴4が形成されている領域に、粒径40μm〜200μmの非鉄投射材を用いて、定法によりショットブラストによる研磨を施し、前記した粗大再結晶層2を除去している。そして、それによって、バンパーリーンフォース材3に応力腐食割れが生じるのを抑制している。なお、このことは5000系のアルミニウム合金を用いる場合でも、同様である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例と比較例により本発明を説明する。
[実施例]
(1)組成の異なる3種の7000系のアルミニウム合金A,B,Cのビレットを用い、定法によりまた同じ条件で、棒状試験体を押出し加工した。3つの押出し加工品の引張強度は、7000系C>7000系B>7000系Aの順であった。
(2)3つの押出し成型品7000系C、7000系B、7000系Aに対して、その表面の全部に、同じ条件でショットブラストによる研磨を施し、表面に形成された粗大再結晶層のすべてを除去した。
(3)ショットブラスト処理を行った3つの押出し成型品7000系C、7000系B、7000系Aに対して、JIS H 8711に準じて、同じ条件での応力腐食割れ試験を行った。腐食環境は、交互浸漬法により、塩化ナトリウム溶液(3.5±0.1mas%)で、pHは6.4〜7.2になるように調整した。負荷応力は、定ひずみ試験(3点曲げ)とした。その結果を、図3にショットブラスト「有」として示した。
【0022】
[比較例]
実施例と同じようにして3つの押出し加工品を得た。実施例で行ったショットブラスト処理を行うことなく、実施例と同じ条件で応力腐食割れ試験を行った。その結果、図3にショットブラスト「無」として示した。
【0023】
[考察]
図3に示すように、ショットブラスト処理を行わなかった試験体は、20〜50サイクルで割れが生じているが、ショットブラスト処理を行った実施例品では、100サイクルに至っても割れが生じなかった。このことから、ショットブラスト処理などによって、押出し加工品から表面に形成された粗大再結晶層を除去することの有効性が立証される。
【符号の説明】
【0024】
1…アルミニウム合金である母材、
2…母材表面に形成される粗大再結晶層、
3…押出し加工品、
4…押出し加工品に形成したねじ穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5000系または7000系のアルミニウム合金を母材とするアルミニウム合金製品であって、その表面の少なくとも一部に再結晶層を有しない部分を有するアルミニウム合金製品。
【請求項2】
前記表面の少なくとも一部に再結晶層を有しない部分が、当該アルミニウム合金製品を他部材に固定するときに用いられる部分である請求項1に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項3】
アルミニウム合金製品がバンパーリーンフォース材である請求項1または2に記載のアルミニウム合金製品。
【請求項4】
アルミニウム合金の表層部にある再結晶層を研磨により削り取ることで得られる耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項5】
研磨がショットブラストによる研磨である請求項4に記載のアルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項6】
アルミニウム合金が5000系または7000系のアルミニウム合金である請求項4または5に記載のアルミニウム合金製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−172920(P2010−172920A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17066(P2009−17066)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】