説明

アルミニウム合金

【課題】酸、アルカリなどの腐食性条件下においても優れた耐食性を有するアルミニウム合金を提供する。
【解決手段】マグネシウム含有量が1重量%以上8重量%以下、ケイ素含有量が0.0001重量%以上0.02重量%以下、鉄含有量が0.0001重量%以上0.03重量%以下のアルミニウム合金であって、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、鉄以外の元素の含有量が、それぞれ0.005重量%以下であり、かつ、アルミニウム、マグネシウム以外の元素の含有量の合計が、0.1重量%以下であるアルミニウム合金。該アルミニウム合金は、酸、アルカリなどの腐食性条件下においても優れた耐食性を有すため、建築材料、自動車材料、電池、キャパシタなどの蓄電デバイス材料として好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金に関する。詳細には本発明は、酸、アルカリなどの腐食性条件下においても優れた耐食性を有するアルミニウム合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、建築材料、自動車材料として広く使用されている。また、近年、アルミニウム合金は電池やキャパシタなどの蓄電デバイス材料への適用が検討されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−214229号公報
【特許文献2】特開2009−64560号公報
【特許文献3】特開2009−205864号公報
【特許文献4】米国特許明細書4942100号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のアルミニウム合金は、酸やアルカリに対する耐食性が十分とはいえなかった。そのため、アルミニウム合金を蓄電デバイス材料へ適用する場合、電解液へのアルミニウム合金の構成成分の溶出や電池の自己放電の原因となるため、アルミニウム合金の耐食性の向上が求められてきた。
【0005】
かかる状況下、本発明の目的は、酸、アルカリなどの腐食性条件下においても高い耐久性を有するアルミニウム合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> マグネシウム含有量が1重量%以上8重量%以下、ケイ素含有量が0.0001重量%以上0.02重量%以下、鉄含有量が0.0001重量%以上0.03重量%以下のアルミニウム合金であって、
アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、鉄以外の元素の含有量が、それぞれ0.005重量%以下であり、かつ、
アルミニウム、マグネシウム以外の元素の含有量の合計が、0.1重量%以下であるアルミニウム合金。
<2>合金マトリックス中に金属間化合物粒子を含み、
合金表面において観察される金属間化合物粒子のうち、
粒子サイズが0.1μm2以上100μm2未満の金属間化合物粒子の密度が、1000個/mm2以下であり、
粒子サイズが100μm2以上の金属間化合物粒子の密度が、10個/mm2以下であり、かつ、
アルミニウム合金単位面積当りの金属間化合物粒子の占有面積が、0.5%以下である前記<1>記載のアルミニウム合金。
<3> 0.2%耐力が、150N/mm2以上である前記<1>または<2>記載のアルミニウム合金。
<4> 圧延されてなる前記<1>から<3のいずれかに記載のアルミニウム合金。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアルミニウム合金は、酸、アルカリなどの腐食性条件下においても優れた耐久性を有する。このアルミニウム合金を電池、キャパシタなどの蓄電デバイス材料に使用することにより、電解液へのアルミニウム合金の構成成分の溶出が抑制され、自己放電が低下されるなど電池などの蓄電デバイスの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Al溶出量−溶出時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、マグネシウム含有量が1重量%以上8重量%以下、ケイ素含有量が0.0001重量%以上0.02重量%以下、鉄含有量が0.0001重量%以上0.03重量%以下のアルミニウム合金であって、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、鉄以外の元素の含有量が、それぞれ0.005重量%以下であり、かつ、アルミニウム、マグネシウム以外の元素の含有量の合計が、0.1重量%以下であるアルミニウム合金(以下、「本発明のアルミニウム合金」あるいは、単に「アルミニウム合金」と称す場合がある。)に係るものである。
【0011】
本発明のアルミニウム合金は、マグネシウム(Mg)含有量が1〜8重量%、好ましくは2〜6重量%である。Mg含有量が1重量%未満であると、アルミニウム合金の強度が低下する。Mg含有量が8重量%を超えると、アルミニウム合金鋳造や圧延加工が困難になる。
【0012】
本発明のアルミニウム合金は、シリコン(Si)含有量が、0.0001〜0.02重量%、好ましくは0.0005〜0.005重量%である。Si含有量が、0.0001重量%未満であると、製造が困難でコスト高になるという問題があり、0.02重量%を超えると、アルミニウム合金の耐食性が低下する。
【0013】
本発明のアルミニウム合金は、鉄(Fe)含有量が、0.0001〜0.03重量%、好ましくは0.0001〜0.005重量%である。Fe含有量が、0.0001重量%未満であると、製造が困難でコスト高になるという問題があり、0.03重量%を超えると、アルミニウム合金の耐食性が低下する。
【0014】
本発明のアルミニウム合金は、アルミニウム(Al)、Mg、SiおよびFeを除く他の金属の含有量が、それぞれ、0.005重量%以下、好ましくは0.002重量%以下である。他の金属は、例えば、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)である。他の金属の含有量が0.005重量%を超えると、アルミニウム合金の耐食性が低下する。
【0015】
本発明のアルミニウム合金は、AlおよびMg以外の金属の含有量の合計が、0.1重量%以下、好ましくは0.02重量%以下である。AlおよびMg以外の金属の含有量の合計が、0.1重量%を超えるとアルミニウム合金の耐食性が低下する。
【0016】
本発明のアルミニウム合金は、0.2%耐力が150N/mm2以上であることが好ましく、200N/mm2以上であることがさらに好ましい。なお、0.2%耐力とは、永久ひずみが0.2%になるために要する負荷の大きさである。
0.2%耐力が150N/mm2以上であるアルミニウム合金は、応力が加えられても変形が少なく、建築材料、自動車材料などの構造材料、および電極などの蓄電デバイス材料として好適に使用される。
【0017】
本発明に係るアルミニウム合金は、合金マトリックス中にAl3Mg、Mg2Si、Al−Fe系等の金属間化合物粒子(以下、単に「粒子」と称す場合がある。)を含むことができる。
ここで、合金表面において観察される金属間化合物粒子のうち、粒子サイズが0.1μm2以上100μm2未満の金属間化合物粒子の密度が、1000個/mm2以下であることが好ましく、500個/mm2以下であることがより好ましい。
また、粗大な化合物である粒子サイズが100μm2以上の金属間化合物粒子の密度は、10個/mm2以下であることが好ましい。
ここで、粒子サイズ、粒子密度は、アルミニウム合金の表面を鏡面研磨後に、エッチング液により表面をエッチングして、撮影した光学顕微鏡写真から求めることができる。
なお、粒子サイズは、光学顕微鏡写真において観察されるそれぞれの金属間化合物粒子が占める面積から判断する。
【0018】
粒子サイズが0.1μm2以上100μm2未満の金属間化合物粒子の密度が1000個/mm2以下であると、アルミニウム合金の耐食性がより向上する。他方、粒子サイズが0.1μm2以上100μm2未満の金属間化合物粒子の密度が前記範囲内であっても、粒子サイズが100μm2を超える金属間化合物粒子の密度が高すぎると、耐食性が低下する傾向にある。すなわち、粒子サイズが100μm2以上粗大な金属間化合物粒子が、アルミニウム合金中に粒子密度として10個/mm2超えて含まれている場合には耐食性を低下させるおそれがあるため好ましくない。
【0019】
また、アルミニウム合金単位面積当りの金属間化合物粒子の占有面積は、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。
該占有面積は、アルミニウム合金の単位面積当りにおいて観測される個々の金属間化合物粒子の粒子サイズの合計、すなわち、個々の粒子が占める面積の合計を表す。
【0020】
本発明のアルミニウム合金は、酸、アルカリなどの腐食性条件下においても優れた耐食性を有することから、リチウム電池の集電体、空気電池の負極、キャパシタの電極などの蓄電デバイス材料として好適に使用することができる。また、耐食性と共に高い強度を有するので、建築材料、自動車材料などの構造材料に使用できる。
【0021】
(アルミニウム合金の製造方法)
上記のアルミニウム合金は、例えば、高純度アルミニウム(純度:99.999%以上)を約680〜800℃で溶融し、所定量のマグネシウム(純度:99.99%以上)を溶融アルミニウム中に挿入して合金溶湯を得、合金溶湯に含まれる水素ガスや非金属介在物を除去して清浄にする処理(例えば、合金溶湯の真空処理)を行い製造することができる。真空処理は、通常、約700℃〜約800℃で約1時間〜約10時間、真空度0.1〜100Paの条件で行われる。合金を清浄にする処理としては、フラックス、不活性ガスや塩素ガスを吹き込む処理も利用できる。真空処理などで清浄にされた合金溶湯は、通常、鋳型にて鋳造され、鋳塊とされる。鋳型は50〜200℃に加熱した鉄や黒鉛製を用いて、680〜800℃の合金溶湯を流し込む方法で鋳造する。また、一般的に利用されている連続鋳造により鋳塊を得ることもできる。
【0022】
次いで、鋳塊は溶体化処理される。溶体化処理は、鋳塊を室温から約430℃まで約50℃/時の速度で昇温して約10時間保持し、引き続き、約500℃まで約50℃/時の速度で昇温して約10時間保持した後、約500℃から約200℃まで約300℃/時の速度で冷却する方法で行うことができる。
【0023】
その後、鋳塊はそのまま切削加工して電池部材に利用できる。鋳塊を圧延加工や押出加工、鍛造加工などを施して板材や型材にすると、部材に利用しやすく、0.2%耐力のより高いアルミニウム合金が得られる。
鋳塊の圧延加工においては、例えば、熱間圧延と冷間圧延とを行い、鋳塊を板材に加工する。熱間圧延は、例えば、鋳塊を温度350〜450℃、1パス加工率2〜20%の条件で、目的の厚さまで繰り返し行われる。
熱間圧延後には、通常、冷間圧延の前に焼鈍処理を行う。焼鈍処理は、例えば、熱間圧延した板材を、350〜450℃に加熱、昇温後直ちに放冷してもよいし、1〜5時間程度保持後に放冷してもよい。この処理にて、材料が軟質化して、冷間圧延に好ましい状態が得られる。
冷間圧延は、例えば、アルミニウム合金の再結晶温度未満の温度、通常、室温から80℃以下で、1パス加工率1〜10%の条件で、目的の厚さまで繰り返し行われる。冷間圧延により、薄い板材で、0.2%耐力が150N/mm2以上であるアルミニウム合金が得られる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
物性測定は以下にて行った。
(アルミニウム合金の成分分析)
発光分光分析装置(型式:ARL−4460、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用し、アルミニウム合金中のMg、Si、Fe、Cu、Ti、Mn、Ga、Ni、V、Znを定量した。
【0026】
(圧延の加工率)
加工前のアルミニウム合金の断面積(S0)と加工後のアルミニウム合金の断面積(S)から下式により算出した。
加工率(%)=(S0−S)/S0×100
【0027】
(アルミニウム合金中の金属間化合物の粒子サイズ、粒子密度、占有面積)
アルミニウム合金の表面を鏡面研磨した後、アルミニウム合金を20℃、1重量%水酸化ナトリウム水溶液に60秒間浸漬してエッチングし、水洗した。次いで、光学顕微鏡を使って表面を撮影した。撮影倍率200倍の光学顕微鏡写真から、金属間化合物粒子の粒子サイズ、粒子密度(単位面積当りの個数)及び占有面積を求めた。なお、光学顕微鏡写真での判断が困難な0.1μm2未満の粒子はカウントしていない。
【0028】
(アルミニウム合金の強度(0.2%耐力))
強度は、JIS5号試験片についてINSTRON 8802を使用して、試験速度:20mm/分、0.2%オフセット法により求めた。
【0029】
実施例1
高純度アルミニウム(純度:99.999%以上)を750℃で溶融し、マグネシウム(純度:99.99%以上)を溶融アルミニウム中に挿入して、Mg含有量が2.5重量%であるAl−Mg合金溶湯を得た。次に、合金溶湯を温度750℃で、2時間、真空度50Paの条件で保持して清浄化した。清浄化した合金溶湯を150℃の鋳鉄鋳型(22mm×150mm×200mm)にて鋳造し、鋳塊を得た。鋳塊の成分を表1に示す。
次いで、鋳塊を次の条件で溶体化処理した。
鋳塊を室温(25℃)から430℃まで50℃/時の速度で昇温し、430℃で10時間保持した。引き続き、500℃まで50℃/時の速度で昇温し、500℃で10時間保持した。その後、500℃から200℃まで300℃/時の速度で冷却した。
溶体化処理した鋳塊の両面を2mm面削加工した後、熱間圧延してアルミニウム合金板を得た。熱間圧延は、350℃から450℃にて厚さ18mmから3mmまで加工率83%で行った。次に、熱間圧延した板材を温度370℃に加熱、昇温後1時間保持して、放冷する方法で、焼鈍処理を行った。次に、アルミニウム合金板を冷間圧延して圧延板を得た。冷間圧延は50℃以下にて厚さ3mmから0.5mmまで加工率83%で行った。
圧延板の強度(0.2%耐力)および圧延板の金属間化合物粒子の粒子サイズ、粒子密度、占有面積を求めた。圧延板の0.2%耐力を表2に示す。粒子密度、占有面積を表3,4にそれぞれ示す。
【0030】
アルミニウム合金の耐食性評価として、AlおよびMg溶出試験を行った。
圧延板からなる試験片(縦40mm、横40mm、厚さ0.5mm)を硫酸(濃度1mol/L、温度80℃)に浸漬した。浸漬後、2時間、8時間、24時間経過後、溶出したAl、Mgを測定した。溶出したAl、Mgは誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により定量した。AlおよびMg溶出試験の結果を表5に示す。
【0031】
実施例2
Mg含有量を2.5重量%から3.8重量%に変更したこと以外、実施例1と同じ操作を行ってアルミニウム合金および圧延板を得た。これらに対し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1〜5、図1に示す。
【0032】
比較例1
高純度Al(純度:99.999%以上)を普通純度Al(純度:99.8%)に変更したこと、およびMg含有量を2.5重量%から0重量%(Mg未添加)に変更したこと以外、実施例1と同じ操作を行ってアルミニウム合金および圧延板を得た。これらに対し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1〜5、図1に示す。
【0033】
比較例2
高純度Al(純度:99.999%以上)を普通純度Al(純度:99.8%)に変更したこと以外、実施例1と同じ操作を行ってアルミニウム合金および圧延板を得たこれらに対し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1〜5、図1に示す。
【0034】
比較例3
高純度Al(純度:99.999%以上)を普通純度Al(純度:99.8%)に変更したこと、およびMg含有量を2.5重量%から3.7重量%に変更したこと以外、実施例1と同じ操作を行ってアルミニウム合金および圧延板を得た。これらに対し、実施例1と同様の評価を行った。評価結果を表1〜5、図1に示す。
【0035】
【表1】


【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のアルミニウム合金は、酸、アルカリなどの腐食性条件下においても優れた耐食性を有し、従来のアルミニウム合金では使用が困難であった環境下、又は使用条件下において、建築材料、自動車材料、電池、キャパシタなどの蓄電デバイス材料として好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム含有量が1重量%以上8重量%以下、ケイ素含有量が0.0001重量%以上0.02重量%以下、鉄含有量が0.0001重量%以上0.03重量%以下のアルミニウム合金であって、
アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、鉄以外の元素の含有量が、それぞれ0.005重量%以下であり、かつ、
アルミニウム、マグネシウム以外の元素の含有量の合計が、0.1重量%以下であることを特徴とするアルミニウム合金。
【請求項2】
合金マトリックス中に金属間化合物粒子を含み、
合金表面において観察される金属間化合物粒子のうち、
粒子サイズが0.1μm2以上100μm2未満の金属間化合物粒子の密度が、1000個/mm2以下であり、
粒子サイズが100μm2以上の金属間化合物粒子の密度が、10個/mm2以下であり、かつ、
アルミニウム合金単位面積当りの金属間化合物粒子の占有面積が、0.5%以下である
請求項1記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
0.2%耐力が、150N/mm2以上である請求項1または2記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
圧延されてなる請求項1から3のいずれかに記載のアルミニウム合金。

【図1】
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【公開番号】特開2011−174159(P2011−174159A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40918(P2010−40918)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】