説明

アルミニウム基材用耐食処理剤、及びそれを用いたアルミニウム基材の耐食処理方法

【課題】アルミニウム基材に化成処理を施さなくとも、優れた耐食性及び耐湿性を付与し、良好な親水性及び防臭性を付与し得るアルミニウム基材用耐食処理剤、及び耐食処理方法を提供する。
【解決手段】親水性樹脂とバナジウムを含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体からなるリン化合物並びにリチウムの中から選ばれる少なくとも一種を含む耐食処理剤を含み、アルミニウム基材上に形成される耐食皮膜における、バナジウム濃度が0.005〜25質量%であり、前記リン化合物とリチウムとの合計濃度が0.05〜25質量%であり、〔バナジウム/(該リン化合物+リチウム)〕質量比が0.002〜100であるアルミニウム基材用耐食処理剤、及び該耐食処理剤を用いたアルミニウム基材の耐食処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基材用耐食処理剤およびそれを用いたアルミニウム基材の耐食処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアコンに用いられる熱交換器は、通常、熱交換の表面積をできるだけ稼ぐためにアルミニウムフィンが狭い間隔で保持され、さらに、これらのフィンに冷媒を供給するためのアルミニウムチューブが入り組んで配置された複雑な構造となっている。エアコン稼働時に空気中の水分がフィン表面に凝縮水として付着するが、濡れ性の劣るフィン表面では略半球状の水滴となったり、フィン間にブリッジ状に存在したりして、排気のスムーズな流れを妨げ、通風抵抗を増大させてしまう。このようにフィン表面の濡れ性が悪いと熱交換効率を低下させることになる。
さらに、アルミニウムフィンやアルミニウムチューブ(以下、「アルミニウムフィン等」という。)を構成するアルミニウムやその合金は、通常、本来防錆性に優れているが、凝縮水がフィン表面に長時間滞留すると、酸素濃淡電池を形成し、又は大気中の汚染成分が次第に付着、濃縮されて水和反応や腐食反応が促進される。この腐食生成物は、フィン表面に堆積し、熱交換特性を害するほか、白い微粉となって送風機により排出される。
【0003】
そこで、これらの問題点を改善するため、例えば、アルミニウム材製熱交換器を酸洗浄後、ジルコニウム系化成処理液に浸漬してジルコニウム化成処理し、その後、変性ポリビニルアルコール、リン化合物塩、ホウ素化合物塩、親水性有機化合物、架橋剤等を混合した親水化処理剤に浸漬して親水化処理し、アルミニウム表面に良好な親水性と防臭性を付与する表面処理方法等が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、自動車用エアコンに用いられるアルミニウム材製熱交換器は、多くのアルミニウムフィンとアルミニウムチューブを組み立てた後、アルミニウムフィン同士やアルミニウムフィンとアルミニウムチューブとを接合するものであるが、アルミニウムの表面には強固で緻密な酸化皮膜が生成しているため,機械的接合法以外のろう付け、はんだ付け等による接合は簡単にできず、ろう付け方法としては、真空中でろう付けするVB法(真空ろう付け法)が主に行われていた。
【0005】
しかしながら、近年、酸化皮膜を効果的に除去、破壊する手段としてハロゲン系フラックスが開発され、ろう付けの管理が容易、炉が安価、ろう付け加工のコストが安価等の理由で、窒素ガス中でろう付けするNB法に代表されるフラックスろう付け法が用いられるようになってきた。
ところが、このNB法で作製されたNB熱交換器は、アルミニウム表面にフラックスが不可避的に残存するために表面状態が不均一になり、化成処理、親水化処理等の均一な表面処理ができず、耐食性、密着性等が不充分になるというNB熱交換器特有の問題がある。
したがって、このNB熱交換器に対して、良好な耐食性や耐湿性を付与し得る耐食処理剤が要望されている。また、近年、アルミニウム基材の耐食処理方法においては、工程数の削減も求められている。
【0006】
このような問題に対処するためにNB熱交換器を表面処理する方法として、例えば、NB熱交換器をジルコニウム系化成処理液に浸漬してジルコニウム化成処理し、その後、ポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコール、無機架橋剤、グアニジン化合物等を混合した親水化処理剤に浸漬して親水化処理し、良好な耐食・親水化効果に加えて防臭効果をも付与する表面処理方法等が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
一方、特に室外機の熱交換フィン材に対し、親水性及び耐食性に優れると共に、着霜防止に優れる皮膜を形成し得る親水化処理剤として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属の珪酸塩、好ましくは珪酸リチウム(a)、ポリビニルアルコール(b)、及び3,000〜300,000の範囲内の重量平均分子量を有し且つ400mgKOH/g以上の樹脂酸価を有するアクリル樹脂(c)を含有する熱交換器フィン材用親水化処理剤が開示され、さらにこの親水化処理剤を、アルミニウムフィン材表面に塗装し焼付けて乾燥膜厚0.2〜5μmの皮膜を形成する熱交換器アルミニウムフィン材の親水化処理方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0008】
他方、アルミニウム基材に対して、耐食性と親水性の両方を同時に付与し得る親水化処理剤及び親水化処理方法として、親水性樹脂と、特定の構造を有するグアニジン化合物やその塩を含有する親水化処理剤、及びこの親水化処理剤を用いるアルミニウムやアルミニウム合金の親水化処理方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−003282号公報
【特許文献2】特開2006−069197号公報
【特許文献3】特開2001−164175号公報
【特許文献4】特開2004−270030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1に記載の技術はジルコニウム化成処理と親水化処理の両方を必須とし、しかも親水化処理剤にはバナジウムが含まれていない。
前記特許文献2に記載のNB熱交換器を表面処理する方法によると、NB熱交換器に、ジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物による防錆処理を施し、その後、特定の親水性樹脂及び防錆成分を含有する親水化処理剤組成物により親水化処理することによって、良好な耐食・親水化効果に加えて防臭効果を付与することができる。しかしながら、この技術においても、上記特許文献1と同様に、化成処理と親水化処理の両方を必須とし、かつ親水化処理剤にはバナジウムは含まれていない。
前記特許文献3に記載の技術は、化成処理を必要としないため、工程削減の効果はあるが、親水化処理剤にはバナジウムは含まれていない。
また、前記特許文献4に記載の技術は、上記特許文献3と同様に化成処理を必要としないため、工程削減の効果はあるが、親水化処理剤にはバナジウムは含まれていない。
【0011】
本発明は、このような状況下になされたもので、アルミニウム基材に化成処理を施さなくとも、該アルミニウム基材に優れた耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を付与し得ると共に、良好な親水性及び防臭性を付与し得るアルミニウム基材用耐食処理剤、及びそれを用いたアルミニウム基材、特にアルミニウム材製熱交換器(NB熱交換器を含む)の耐食処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、親水性樹脂とバナジウムイオンを含むと共に、特定のリン化合物及びリチウムイオンの中から選ばれる少なくとも一種を含む耐食処理剤として、その目的に適合し得ることを見出した。
また、この耐食処理剤を用いることにより、化成処理を必要とせずに、アルミニウム基材、特にアルミニウム材製熱交換器(NB熱交換器を含む)を、効果的に耐食処理し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 親水性樹脂とバナジウムを含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を含む耐食処理剤であって、
前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、前記リン化合物の濃度が0.05〜25質量%であり、〔バナジウム/リン化合物〕質量比が0.002〜100であることを特徴とするアルミニウム基材用耐食処理剤。
(2) 親水性樹脂とバナジウムとリチウムとを含む耐食処理剤であって、
前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、リチウムの濃度(金属換算)が0.01〜25質量%であり、〔バナジウム/リチウム〕質量比が0.002〜100であることを特徴とするアルミニウム基材用耐食処理剤。
(3) 親水性樹脂とバナジウムとリチウムとを含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を含む耐食処理剤であって、
前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、前記リン化合物の濃度が0.05〜25質量%であり、リチウムの濃度(金属換算)が0.01〜25質量%であり、〔バナジウム/リン化合物〕質量比が0.002〜100であり、〔バナジウム/リチウム〕質量比が0.002〜100であることを特徴とするアルミニウム基材用耐食処理剤。
(4) 親水性樹脂が、ケン化度90%以上のポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールである(1)〜(3)のいずれかに記載のアルミニウム基材用耐食処理剤。
(5) 前記耐食処理剤が架橋剤を含む(1)〜(4)のいずれかに記載のアルミニウム基材用耐食耐食処理剤。
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載の耐食処理剤でアルミニウム基材を被覆したのち、焼付け処理してその表面に耐食皮膜を形成させることを特徴とするアルミニウム基材の耐食処理方法。
(7) 前記耐食皮膜の皮膜量が0.03〜5.0g/m2である請求項6に記載のアルミニウム基材の耐食処理方法。
(8) アルミニウム基材を、予め化成処理液で化成処理して化成処理皮膜を形成させたのち、その表面に耐食皮膜を形成させる(6)又は(7)に記載のアルミニウム基材の耐食処理方法。
(9) アルミニウム基材が、アルミニウム材製熱交換器である(6)〜(8)のいずれかに記載のアルミニウム基材の耐食処理方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルミニウム基材に化成処理を施さなくとも、該アルミニウム基材に優れた耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を付与し得ると共に、良好な親水性及び防臭性を付与し得るアルミニウム基材用耐食処理剤、及びそれを用いたアルミニウム基材、特にアルミニウム材製熱交換器(NB熱交換器を含む)の耐食処理方法を提供することができる。また、本発明によれば、アルミニウム基材がNB熱交換器である場合でも、上記効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明のアルミニウム基材用耐食処理剤について説明する。
本発明のアルミニウム基材用耐食処理剤は、下記本発明1〜3のいずれかの態様からなる。なお、本発明1〜3をまとめて「本発明」ということがある。
【0016】
本発明1は、親水性樹脂とバナジウムを含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を含む耐食処理剤であって、前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、前記リン化合物の濃度が0.05〜25質量%であり、〔バナジウム/リン化合物〕質量比が0.002〜100であることを特徴とする。
本発明2は、親水性樹脂とバナジウムとリチウムとを含む耐食処理剤であって、前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、リチウムの濃度(金属換算)が0.01〜25質量%であり、〔バナジウム/リチウム〕質量比が0.002〜100であることを特徴とする。
本発明3は、親水性樹脂とバナジウムとリチウムとを含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を含む耐食処理剤であって、前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、前記リン化合物の濃度が0.05〜25質量%であり、リチウムの濃度(金属換算)が0.01〜25質量%であり、〔バナジウム/リン化合物〕質量比が0.002〜100であり、〔バナジウム/リチウム〕質量比が0.002〜100であることを特徴とする。
【0017】
なお、本発明において、「アルミニウム材」とは、アルミニウム又はアルミニウム合金を指し、アルミニウム基材とは、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材を指す。
本発明のアルミニウム基材用耐食処理剤は、アルミニウム基材の化成処理を必要とせずに、該基材表面に直接耐食皮膜を形成することにより、該アルミニウム基材に優れた耐食性及び耐湿性を付与すると共に、良好な親水性及び防臭性を付与することができ、工程数の削減につながる。
【0018】
[耐食処理剤]
本発明の耐食処理剤は水系溶液又は水系分散液である。なお、当該耐食処理剤は、さらに架橋剤を含むことができる。
【0019】
(親水性樹脂)
本発明の耐食処理剤は、親水性樹脂を含有することを要する。親水性樹脂に特に制限はないが、分子内に水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、スルホン酸基及び/又はエーテル基を有する水溶性又は水分散性の親水性樹脂であることが好ましい。上記親水性樹脂は、水との接触角が40度以下となるような皮膜を形成するものであることが好ましい。このような皮膜は良好な親水性を示すため、上記親水性樹脂を含む耐食処理剤を適用すると、充分な親水性を被処理物に付与することができる。上記親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、キトサン、ポリエチレンオキサイド、水溶性ナイロン、これらの重合体を形成するモノマーの共重合体、2−メトキシポリエチレングリコールメタクリレート/アクリル酸2−ヒドロキシルエチル共重合体等のポリオキシエチレン鎖を有するアクリル系重合体等が好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
これらの親水性樹脂は、優れた親水性及び耐水性を有するとともに、それ自体の臭気がなく、臭気物質が吸着しにくいので、上記親水性樹脂を含有する当該耐食処理剤は、親水性及び防臭性に優れ、又、得られる耐食皮膜は水滴や流水に曝されても劣化しにくいので、所望により含有されそれ自体の埃臭や吸着物質の不快臭を発するシリカ等の無機物や他の残存モノマー成分が露出しにくく、被処理剤自体が飛散して埃臭を発することが妨げられる。
上記親水性樹脂は、数平均分子量が1000〜100万の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が1000以上であると、造膜性、親水性及び他の皮膜物性が良好であり、一方100万以下であると、耐食処理剤の粘度が高くなりすぎることがなく、作業性や皮膜物性が良好となる。より好ましい数平均分子量は1万〜20万の範囲である。
なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定された標準ポリスチレン換算の値である。
【0021】
上記親水性樹脂は、臭気防止と親水性付与の点で優れていることからポリビニルアルコールであることがより好ましく、なかでもケン化度90%以上のポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールであることが特に好ましい。上記ケン化度が90%未満であると、親水性に劣る場合がある。上記ケン化度は、95%以上であることがより好ましい。
上記変性ポリビニルアルコールとしては、ペンダント基中の0.01〜20%が、下記一般式(1)
【0022】
【化1】

【0023】
〔式中、nは1〜500の整数を表し、R1は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表わす。〕で表わされるポリオキシアルキレンエーテル基であるポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールを用いることができる。
上記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールにおいて、ポリオキシアルキレン変性基がペンダント基中の0.1〜5%であることが好ましく、ポリオキシアルキレン基の重合度nは3〜30であることが好ましい。
上記ポリオキシアルキレン変性ポリビニルアルコールは、ポリオキシアルキレン基の親水性ゆえに、当該耐食処理剤において、特に親水性付与の役割を果たす。
【0024】
親水性樹脂は、本発明の耐食処理剤の固形分中、好ましくは10〜99質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。
【0025】
(バナジウム)
本発明の耐食処理剤には、前述した親水性樹脂と共に、バナジウムを含むことを要する。
本発明の耐食処理剤がバナジウムを含むことにより、該バナジウムは酸化剤としての作用を有し、アルミニウム材を酸化して不動態化し、耐食効果を発揮することが考えられる。従って、本発明の耐食処理剤により親水皮膜を形成した後も、当該親水皮膜中のバナジウムは継続して同様の効果を奏するので、経時的にアルミニウム基材からアルミニウムイオンが溶出しても長期にわたって優れた耐食効果が得られる。
バナジウム源としては、2〜5価のバナジウム化合物を用いることができ、具体的にはメタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、五酸化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、硫酸バナジル、酸化バナジウム、二酸化バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、塩化バナジウム等が好ましい。
本発明においては、上記バナジウム化合物は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、4価及び5価のバナジウム化合物がより好ましく、具体的にはメタバナジン酸アンモニウム(5価)及び硫酸バナジル(4価)がさらに好ましい。
本発明の耐食処理剤の固形分におけるバナジウムの金属換算濃度は0.005〜25質量%であり、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。バナジウム濃度が0.005質量%未満では酸化剤としての効果が十分でなく、25質量%を超えると、基材の電位が上がりかえって腐食を引き起こす場合がある。
【0026】
(リン化合物)
本発明1及び3の耐食処理剤は、リン化合物を含有する。当該耐食処理剤によってアルミニウム基材表面にはリン化合物を含有する耐食皮膜が形成される。その結果、アルミニウム基材からアルミニウムが溶出しても、耐食皮膜中のリン化合物が当該溶出したアルミニウムと反応してリン酸アルミニウムを形成することで、更なるアルミニウムの溶出を長期にわたって抑制することができる。
リン化合物として、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体が用いられる。具体的にはリン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸、フィチン酸、ホスフィン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム塩、アクリルホスホン共重合体等を用いることができる。
これらのリン化合物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明1及び3の耐食処理剤の全固形分中におけるリン化合物の濃度は、上記リン化合物による効果を得る観点から、0.05〜25質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
また、〔バナジウム/リン化合物〕質量比は、0.002〜100であり、好ましくは0.01〜50であり、より好ましくは、0.05〜10である。当該質量比が0.002未満ではバナジウムの酸化効果が十分でない場合がある。
【0027】
(リチウム)
本発明2及び3の耐食処理剤には、前述した親水性樹脂と共に、リチウムを含むことができる。このリチウム源としては、耐食処理剤中でリチウムを形成し得るリチウム化合物であれば特に制限されず、例えば水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、乳酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、珪酸リチウム、メタ珪酸リチウム等を用いることができる。中でも、臭気への影響が少ない点で、水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウムを用いることが好ましい。リチウム源は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、当該耐食処理剤をNB熱交換器に適用する場合、このようにリチウムを含む耐食処理剤を用い、NB法によりフラックスろう付けされたアルミニウム材製熱交換器を表面処理して、耐食皮膜を形成させることにより、耐食性を大幅に向上させることができる。
【0028】
特に、本発明2及び3による耐食性を大幅に向上させるメカニズムを推論すると、フラックス、特にハロゲン系フラックス中のカリウムイオン等のアルカリ金属イオンと耐食皮膜からのリチウムイオンとのイオン交換反応を利用して、フラックス残渣と耐食皮膜との界面に難溶性の皮膜形成を行うものである。
イオン交換反応としては、例えば、次の式(2)のような反応が考えられる。
xAlFy + xLi+ → LixAlFy + xK+ (2)
(ただし、x及びyは、x=1,y=4、x=2,y=5又はx=3,y=6である。)
【0029】
フラックス残渣は、主に、フッ化カリウムやフッ化セシウムとフッ化アルミニウムの複合化合物であり、本発明は、リチウムを含む当該耐食処理剤による表面処理により、フラックス残渣中のカリウムイオン等と耐食皮膜からのリチウムイオンとのイオン交換反応により、少なくともフラックス残渣と耐食皮膜との界面に難溶性のリチウム塩を含む層を形成して、フラックス残渣の防錆性(耐食性)を向上させることができる。
また、耐食皮膜中のリチウムは長期間にわたって残存するので、上記効果は長期間にわたって持続し得る。
【0030】
当該耐食処理剤がリチウムを含む場合、該リチウムはフラックスに吸着して、前記のメカニズムで示すように、アルミニウム材のアルミニウム溶出を抑制するため、防錆効果を発揮する。
本発明2及び3の耐食処理剤の固形分中のリチウムの金属換算濃度は、0.01〜25質量%であり、より好ましくは0.05〜5質量%である。
〔バナジウム/リチウム〕質量比は、0.002〜100であり、好ましくは0.01〜50であり、より好ましくは、0.05〜10である。当該質量比が0.002未満ではバナジウムの酸化効果が十分でない場合がある。
【0031】
また、本発明3の耐食処理剤の固形分におけるリン化合物とリチウム(金属換算)との合計濃度は好ましくは0.06〜25質量%であり、より好ましくは0.07〜15質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。当該合計濃度が0.06質量%未満では防錆効果が不十分で腐食してしまい、25質量%を超えると、臭気に悪影響をしたり、基材の電位が上がりかえって腐食が促進してしまうことがある。
さらに、〔バナジウム/(リン化合物+リチウム)〕質量比は好ましくは0.002〜100であり、より好ましくは0.01〜50、さらに好ましくは0.05〜10である。当該質量比が0.002未満ではバナジウムの酸化効果が十分でない場合がある。
【0032】
以上のとおり、アルミニウム基材表面においてアルミニウムの溶出を抑制するバナジウム、リン化合物と、フラックス部分においてフラックスの溶出を抑制するリチウムを併用することにより、NBエバポレータの耐食処理においてお互いに耐食性を補完しあうため、格段に優れた耐食性・耐湿性が得られる。
【0033】
(架橋剤)
当該耐食処理剤には、それを用いて形成される耐食皮膜の耐水性を向上させる目的で、必要に応じ架橋剤を含有させることができる。
架橋剤としては、ポリビニルアルコールや変性ポリビニルアルコールの水酸基と反応する無機架橋剤や有機架橋剤を用いることができる。
無機架橋剤としては、二酸化珪素等のシリカ化合物、ジルコンフッ化アンモニウムやジルコン炭酸アンモニウム等のジルコニウム化合物、チタンキレート等の金属キレート化合物、Ca、Al、Mg、Fe、Zn等の金属塩等が挙げられる。
一方、有機架橋剤としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ化合物、ブロック化イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物等が挙げられる。
これらの架橋剤は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋剤を含有する場合は、耐食処理剤の固形分において0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましい。
【0034】
(他の任意成分)
当該耐食処理剤には、他の任意成分として、必要に応じて、分散剤、防錆添加剤、顔料、シランカップリング剤、抗菌剤(防腐剤)、界面活性剤、潤滑剤、消臭剤等を適宜含有させることができる。
前記分散剤としては特に限定されず、界面活性剤や、分散樹脂等を挙げることができる。
【0035】
防錆添加剤としては特に限定されず、例えば、タンニン酸、イミダゾール化合物、トリアジン化合物、トリアゾール化合物、グアニジン化合物、ヒドラジン化合物、ジルコニウム化合物等を挙げることができる。なかでも、防錆性を効果的に付与することができることから、ジルコニウム化合物が好ましい。上記ジルコニウム化合物としては特に限定されず、例えば、K2ZrF6等のアルカリ金属フルオロジルコネート;(NH42ZrF6等のフルオロジルコネート等の可溶性フルオロジルコネート等;H2ZrF6等のフルオロジルコン酸等;フッ化ジルコニウム;酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0036】
顔料としては、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、硫酸バリウム(BaSO4)、アルミナ(Al23)、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe23、Fe34)等、酸化アルミニウム(Al23)の無機顔料や、有機顔料等の各種着色顔料等を挙げることができる。
【0037】
シランカップリング剤を含有させると、上記親水性樹脂と上記顔料との親和性が向上し、密着性等を向上させることができる点で好ましい。シランカップリング剤は、縮合物または重合物でもよい。
上記シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
上記抗菌剤(防腐剤)としては特に限定されず、例えば、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、ジンクピリチオン、ベンゾイソチアゾリン等の従来公知の抗菌剤を使用することができる。
これらの任意成分を含有する場合は、耐食処理剤の固形分中、合計量で0.01〜50質量%が好ましく、0.1〜30質量%がより好ましい。
【0038】
(溶媒)
当該耐食処理剤の溶媒は特に限定されないが、廃液処理等の観点から水を主体とする水系溶媒が好ましい。また、造膜性を向上させ、より均一で平滑な皮膜を形成するために溶剤を併用してもよい。溶剤としては、塗料に一般的に用いられ、水と均一に混合することができるものであれば特に限定されず、例えばアルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系の有機溶剤等を挙げることができる。上記溶剤の使用量は、当該耐食処理剤中の該溶剤含有量が0.01〜5質量%であることが好ましい。
当該耐食処理剤は、処理液としての安定性を向上させるために、pHを調整してもよい。pHの調整は、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリで行うことができる。
【0039】
当該耐食処理剤中の全固形分濃度は、作業性、形成される耐食皮膜の均一性や厚さ、経済性等の観点から、好ましくは1〜11質量%、より好ましくは2〜5質量%である。
【0040】
[アルミニウム基材]
本発明の耐食処理剤は、被処理物としてアルミニウム基材に適用される。このアルミニウム基材の形状としては特に制限はなく、例えば家電、建材、食品容器等の分野で用いられるアルミニウム材、あるいはアルミニウム材製熱交換器、特に自動車用空調機器等に組み込んで使用するアルミニウム材製チューブ及びアルミニウム材製フィンを有する熱交換器等を挙げることができるが、当該耐食処理剤は、これらの中で熱交換器に適用することが好ましい。
この熱交換器としては、アルミニウム材製フィン同士やアルミニウム材製フィンとアルミニウム材製チューブとを、機械的に接合したもの、真空中でろう付けされるVB法(真空ろう付け法)により接合したもの、あるいは窒素ガス中でろう付けするNB法に代表されるフラックスろう付け法により接合したもの等があるが、当該耐食処理剤は、いずれの接合方法による熱交換器にも適用することができる。
【0041】
[耐食処理]
当該耐食処理剤による被処理物のアルミニウム基材の耐食処理は、前述した耐食処理剤と前記アルミニウム基材とを接触させることにより行うことができる。耐食処理後、焼付け処理することにより、被処理物のアルミニウム基材表面に耐食皮膜が形成され、該アルミニウム基材に、優れた耐食性及び耐湿性が付与されると共に、良好な親水性及び防臭性が付与される。なお、耐食処理及び焼付け処理については、後述のアルミニウム基材の耐食処理方法において詳述する。
【0042】
本発明においては、このようにして形成された耐食皮膜においては、優れた耐食性及び耐湿性と、良好な親水性と防臭性を被処理物に付与する観点から、バナジウム濃度は0.005〜25質量%であり、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。バナジウム濃度が0.005質量%未満では酸化効果が十分でなく腐食してしまい、25質量%を超えると、基材の電位が上がりかえって腐食が促進してしまう。
【0043】
また、本発明3におけるリン化合物とリチウムとの合計濃度は0.05〜25質量%であり、好ましくは0.07〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%である。当該合計濃度が0.05質量%未満では防錆効果が不十分で腐食してしまい、25質量%を超えると、臭気に悪影響をしたり、基材の電位が上がりかえって腐食が促進してしまうことがある。さらに、〔バナジウム/(リン化合物+リチウム)〕質量比は0.002〜100であり、好ましくは0.01〜50、より好ましくは0.05〜10である。当該質量比が0.002未満ではバナジウムの酸化効果が十分でなく腐食してしまい、100を超えると、基材の電位が上がりかえって腐食が促進してしまう。
【0044】
なお、前記耐食皮膜量は、通常0.03〜5.0g/m2、好ましくは0.05〜1.0g/m2、より好ましくは0.1〜0.5g/m2である。また、耐食処理剤がリチウムを含有し、この耐食処理剤を用いて形成された耐食皮膜中のリチウム濃度は、0.01〜25質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましい。
【0045】
次に、本発明のアルミニウム基材の耐食処理方法について説明する。
[アルミニウム基材の耐食処理方法]
本発明のアルミニウム基材の耐食処理方法は、前述したアルミニウム基材を、前述した本発明の耐食処理剤と接触させたのち、乾燥、焼付け処理してその表面に耐食皮膜を形成させることを特徴とする。
【0046】
(化成処理)
本発明のアルミニウム基材の耐食処理方法においては、被処理物のアルミニウム基材に対して化成処理を必要としないが、耐食性及び耐湿性をより一層向上させるために、必要に応じて化成処理を施すことができる。また、本発明の耐食処理剤は、化成処理が施されたアルミニウム基材に対しても当該化成処理の機能を阻害せずに、本発明の効果を十分に発揮させることができる。
なお、アルミニウム基材の形状については、前述した本発明の耐食処理剤において説明したとおりである。
この化成処理はアルミニウム基材を、ジルコニウム及び/又はチタニウム含有量が10〜10000質量ppm程度、及びpH1.5〜7程度である化成処理液で化成処理して、化成処理皮膜を形成させる。
なお、当該化成処理を施す前に、この化成処理効果をより一層向上させる目的で、必要に応じ、被処理アルミニウム基材を酸洗浄処理してもよい。酸洗浄処理条件に特に制限はなく、従来アルミニウム基材の酸洗浄処理に使用されている公知の方法を用いることができる。
【0047】
ジルコニウム及び/又はチタニウムを含む化成処理液は、ジルコニウム系化合物及び/又はチタニウム系化合物を水に溶解し、ジルコニウムイオン及び/又はチタニウムイオンを活性種とする溶液である。ジルコニウム系化合物としては、フルオロジルコニウム酸、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物、およびそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられる。また酸化ジルコニウム等のジルコニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させてもよい。
チタニウム系化合物としては、フルオロチタン酸、フッ化チタン等のチタニウム化合物、およびそれらのリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が挙げられ、これらを水に溶解して、チタニウムイオンを活性種とする化成処理液をつくる。また酸化チタニウム等のチタニウム化合物をフッ化水素酸等のフッ化物で溶解させてもよい。
【0048】
当該化成処理液においてはジルコニウム及び/又はチタニウム含有量は好ましくは、金属換算で30〜5000質量ppm、より好ましくは100〜3000質量ppmである。また、当該化成処理液のpHが1.5以上であれば、化成処理液によるエッチング過多を起こさずに化成皮膜を形成することができ、pHが7以下であれば、エッチング不足とならずに充分な量の化成皮膜を得ることができる。好ましいpHは3〜6である。このpHの調整は、硫酸、硝酸、アンモニア等の一般的な酸やアルカリで行うことができる。
また、この化成処理液は、上記ジルコニウム系及び/又はチタニウム系化合物の他に、防錆性を向上させるために、マンガン、亜鉛、セリウム、バナジウム、3価クロム等の金属、フェノール樹脂等の防錆剤;密着性向上のためのシランカップリング剤等が含有されていてもよい。
【0049】
この化成処理の方法は特に限定されず、スプレー法、浸漬法等のいずれであってもよい。化成処理液の温度は、好ましくは50〜70℃であり、さらに好ましくは55〜65℃である。また、化成処理の時間は、好ましくは20〜900秒であり、さらに好ましくは30〜600秒である。この範囲の処理液の温度及び処理の時間であれば、防錆性を有する化成皮膜を形成することができるからである。
このようにして化成処理を施し、その表面に形成された(Zr+Ti)皮膜量は金属換算で、通常1〜200mg/m2程度、好ましくは5〜150mg/m2、より好ましくは20〜100mg/m2である。
【0050】
(耐食処理)
本発明のアルミニウム基材の耐食処理方法においては、被処理物であるアルミニウム基材、又は必要に応じて化成処理皮膜が形成されたアルミニウム基材を、前述した耐食処理剤と接触させることにより、耐食処理を行う。
被処理物は、耐食処理する前に、従来公知の方法で水洗処理することが好ましい。
前記被処理物と耐食処理剤とを接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法、塗布法等が挙げられるが、被処理物がアルミニウム材製熱交換器のように複雑な形状を有する場合、浸漬法が好ましい。浸漬法を採用する場合、通常室温で10秒間程度浸漬処理する。形成される耐食皮膜の皮膜量は、エアブローによりウェット量をコントロールすることにより、制御することができる。
【0051】
(耐食皮膜の形成)
前記のようにして本発明の耐食処理剤と接触されたアルミニウム基材を、焼付け処理して、その表面に耐食皮膜を形成させる。
本発明においては、被処理物を、それ自体の温度が、130〜150℃になるように加熱することで焼付け処理して耐食皮膜を形成する。焼付け時間としては、2〜120分が好ましい。この耐食皮膜の皮膜量は0.03〜5.0g/m2の範囲であることが好ましい。この皮膜量が0.03g/m2未満では耐食性及び耐湿性が不十分となり、一方5.0g/m2を超えると、その量の割には耐食性及び耐湿性の向上効果が発揮されず、むしろ経済的に不利となる。該皮膜量は、より好ましくは0.05〜1.0g/m2、よりさらに好ましくは0.1〜0.5g/m2である。
この耐食皮膜の性状については、前述した本発明の耐食処理剤における耐食処理において説明したとおりである。
【0052】
本発明のアルミニウム基材の耐食処理方法が適用されるアルミニウム基材の形態に特に制限はないが、熱交換器、特に自動車の空調装置に用いられる熱交換器が好適である。
この熱交換器としては、アルミニウム材製フィン同士やアルミニウム材製フィンとアルミニウム材製チューブとを、機械的に接合したもの、真空中でろう付けされるVB法(真空ろう付け法)により接合したもの、あるいは窒素ガス中でろう付けするNB法に代表されるフラックスろう付け法により接合したもの等があるが、当該耐食処理剤は、いずれの接合方法による熱交換器にも適用することができる。
本発明の耐食処理方法は、これらの熱交換器に優れた耐食性及び耐湿性(耐黒変性)を付与すると共に、良好な親水性及び防臭性を付与することができる。
【実施例】
【0053】
以下本発明について実施例をあげてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「%」、「部」は特に断りのない限り「質量%」、「質量部」を意味する。
なお、各例で得られた耐食処理剤を用いて耐食処理された試験片について、以下に示す物性評価を行った。
【0054】
(1)耐食性
JIS Z 2371に基づき、アルミニウム基材に5質量%食塩水を35℃にて噴霧し、500時間後の白錆発生面積を下記の評価基準で目視にて評価した。
10:白錆発生なし
9:白錆は見られたが、白錆発生面積が10%未満
8:白錆発生面積が10%以上20%未満
7:同20%以上30%未満
6:同30%以上40%未満
5:同40%以上50%未満
4:同50%以上60%未満
3:同60%以上70%未満
2:同70%以上80%未満
1:同80%以上90%未満
【0055】
(2)耐湿性(耐黒変性)
アルミニウム基材について温度55℃、湿度98%以上の雰囲気下で耐湿試験(500時間)を行い、処理片中の黒変した部分または白化して白錆となった部分の錆発生面積を上記(1)耐食性の評価基準に準じて目視にて評価した。
【0056】
(3)親水性
アルミニウム基材を流水に72時間接触させた後、水との接触角を測定した。接触角が小さい程、親水性が高いと考えられる。接触角の測定は、自動接触角計「CA−Z」(協和界面科学社製)を用いて行った。
親水性は、接触角が40°以下であることが好ましい。
【0057】
(4)臭気
アルミニウム基材を水道水流水に72時間接触させた後、臭いを嗅いで6段階評価した。臭気は1.5以下であることが好ましい。
0:無臭
1:やっとかすかに臭いを感じる
2:らくに臭いを感じる
3:明らかに臭いを感じる
4:強く臭いを感じる
5:非常に強く臭いを感じる
【0058】
<耐食処理試験片の作製>
被処理試験片(材質:A1100P 0.8×70×150mm日本テストパネル製)について、下記(イ)、(ロ)の各条件で耐食処理及び焼付け処理、又は化成処理、次いで耐食処理及び焼付け処理を行い、耐食処理試験片を作製した。
(イ)耐食処理→焼付け処理
被処理試験片をサーフクリーナー322N8(日本ペイント製)で60℃×30秒処理し、耐食処理剤の浴中に室温で10秒間浸漬後、エアブローにより、ウェット皮膜量を所定の値に制御する。次いで乾燥炉にて、試験片自体の温度が140℃にて5分間維持されるように加熱して焼付け処理し、耐食処理試験片を作製した。
(ロ)化成処理→水洗→耐食処理→焼付け処理
被処理試験片をサーフクリーナー322N8(日本ペイント製)で60℃×30秒処理したのち、化成処理液(Zr濃度500質量ppm、pH4)の浴中に60℃で60秒間浸漬処理して化成処理を行った。この化成処理後の試験片を50℃の温水で30秒間水洗したのち、耐食処理剤の浴中に室温で10秒間浸漬後、エアブローにより、ウェット皮膜量を所定の値に制御する。次いで乾燥炉にて、試験片自体の温度が140℃にて5分間維持されるように加熱して焼付け処理し、耐食処理試験片を作製した。
【0059】
<試験熱交換器の作製>
熱交換器としては、KAlF4及びK3AlF6のフラックスでろう付けされた自動車用
のアルミニウム材製熱交換器を用いた。この熱交換器の、フラックス量は、Kとして50
mg/m2(フィン表面)であった。
この熱交換器について、上記の処理条件(イ)又は処理条件(ロ)を施して試験熱交換器を作製した。
【0060】
実施例1
(1)耐食処理剤の調製
耐食処理剤の固形分中に、ポリビニルアルコールが50質量%、エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコールが25質量%、縮合リン酸が5質量%、バナジウム濃度(メタバナジン酸アンモニウム使用)が0.5質量%及びシリカが19.5質量%含まれるように各成分を配合し、これにイオン交換水を加えて2質量%濃度の耐食処理剤を調製した。
(2)耐食処理試験片
上記(1)で得られた耐食処理剤を用い、アルミニウム基材に対して前記(イ)の耐食処理及び焼付け処理を施し、物性の評価を行った。アルミニウム基材としては、耐食性、親水性及び臭気については前記耐食処理試験片を用い、耐湿性については前記アルミニウム材製熱交換器を用いた。
耐食処理剤中の各成分の含有量及び物性の評価結果を表1に示す。
耐食皮膜量は0.2g/m2であり、耐食皮膜中のバナジウム濃度:0.22%、リン化合物濃度:5%、バナジウム/リン化合物質量比:0.04であった。
また、耐食皮膜の皮膜量は、標準皮膜サンプルの親水皮膜量とこれに含まれる有機炭素量の関係から算出した換算係数を用いて、TOC装置(島津製作所社製TOC−VCSH)の測定値から計算した。
【0061】
実施例2〜18及び比較例1〜4
(1)耐食処理剤の調製
耐食処理剤の各成分の固形分含有量が、表1又は表2に示す値となるように、実施例1(1)と同様にして耐食処理剤を調製した。
(2)耐食処理試験片、アルミニウム材製熱交換器の作製
実施例1(2)と同様にして耐食処理試験片を作製し、物性の評価を行った。
耐食処理試験片・アルミニウム材製熱交換器の物性の評価結果、並びに耐食皮膜における各成分の濃度及び耐食皮膜量等を表1に示す。
【0062】
実施例19
(1)耐食処理剤の調製
耐食処理剤の各成分含有量が、表1に示す値になるように、実施例1と同様にして耐食処理剤を調製した。
(2)耐食処理試験片・アルミニウム材製熱交換器の作製
上記(1)で得られた耐食処理剤を用い、前記(ロ)の化成処理→水洗→耐食処理→焼付け処理を施し、耐食処理試験片・アルミニウム材製熱交換器を作製し、物性の評価を行った。
耐食処理試験片の物性の評価結果、並びに耐食皮膜における各成分の濃度及び耐食皮膜量等を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
[注]
(1)耐食処理における各成分の固形分%は、耐食処理剤の固形分中の各成分の含有量を表す。
(2)PBTC:ホスホノブタントリカルボン酸
(3)ポリビニルアルコール:[ケン化度:99%、数平均分子量:60000]
(4)エチレンオキサイド変性ポリビニルアルコール:[ケン化度:99%、数平均分子量:20000]、ポリオキシエチレン基の含有割合(ポリビニルアルコールの全ペンダント基に対する割合):3%
(5)カルボキシメチルセルロース:[数平均分子量:10000]
(6)ポリビニルスルホン酸ナトリウム:[数平均分子量:20000]
(7)ポリアクリル酸:[数平均分子量:20000]
(8)シリカ(無水シリカ):[1次粒子の平均径:10nm]、無機架橋剤
(9)フェノール樹脂:[レゾール型フェノール、数平均分子量300]、有機架橋剤
【0065】
表1の実施例及び比較例の物性評価結果から分かるように、本発明における耐食処理剤を用いて耐食皮膜を形成してなる耐食処理試験片は、優れた耐食性及び耐湿性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のアルミニウム基材用親水化形成材料は、アルミニウム基材、特にアルミニウム材製熱交換器(NB熱交換器を含む)の耐食処理に効果的に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性樹脂とバナジウムを含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を含む耐食処理剤であって、
前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、前記リン化合物の濃度が0.05〜25質量%であり、〔バナジウム/リン化合物〕質量比が0.002〜100であることを特徴とするアルミニウム基材用耐食処理剤。
【請求項2】
親水性樹脂とバナジウムとリチウムとを含む耐食処理剤であって、
前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、リチウムの濃度(金属換算)が0.01〜25質量%であり、〔バナジウム/リチウム〕質量比が0.002〜100であることを特徴とするアルミニウム基材用耐食処理剤。
【請求項3】
親水性樹脂とバナジウムとリチウムとを含むと共に、リン酸、縮合リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種のリン化合物を含む耐食処理剤であって、
前記親水化処理剤の固形分における、前記バナジウム濃度(金属換算)が0.005〜25質量%であり、前記リン化合物の濃度が0.05〜25質量%であり、リチウムの濃度(金属換算)が0.01〜25質量%であり、〔バナジウム/リン化合物〕質量比が0.002〜100であり、〔バナジウム/リチウム〕質量比が0.002〜100であることを特徴とするアルミニウム基材用耐食処理剤。
【請求項4】
親水性樹脂が、ケン化度90%以上のポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールである請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム基材用耐食処理剤。
【請求項5】
前記耐食処理剤が架橋剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム基材用耐食耐食処理剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の耐食処理剤でアルミニウム基材を被覆したのち、焼付け処理してその表面に耐食皮膜を形成させることを特徴とするアルミニウム基材の耐食処理方法。
【請求項7】
前記耐食皮膜の皮膜量が0.03〜5.0g/m2である請求項6に記載のアルミニウム基材の耐食処理方法。
【請求項8】
アルミニウム基材を、予め化成処理液で化成処理して化成処理皮膜を形成させたのち、その表面に耐食皮膜を形成させる請求項6又は7に記載のアルミニウム基材の耐食処理方法。
【請求項9】
アルミニウム基材が、アルミニウム材製熱交換器である請求項6〜8のいずれかに記載のアルミニウム基材の耐食処理方法。

【公開番号】特開2011−214106(P2011−214106A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84665(P2010−84665)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】