説明

アルミニウム塗装板及びこれを用いたプレコートアルミニウムフィン材

【課題】親水性、耐汚染性、被膜密着性、成形性、臭気物質の吸着性及び抗菌防黴性に優れたアルミニウム塗装板、ならびに、これを用いたプレコートアルミニウムフィン材を提供する。
【解決手段】アルミニウム基材と、その少なくとも一方の面に形成した親水性被膜とを備えたアルミニウム塗装板であって、親水性被膜が、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくとも一方と、12〜40nmの一次粒子径を有するカーボンブラックとを含有し、カーボンブラックが親水性樹脂100重量部に対して1〜200重量部含有され、親水性被膜の平均膜厚が0.01〜15μmであるアルミニウム塗装板、ならびに、これを用いたプレコートアルミニウムフィン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面に親水性、耐汚染性、被膜密着性、成形性、臭気物質の吸着性、抗菌防黴性に優れた親水性被膜を形成したアルミニウム塗装板、ならびに、当該塗装板から加工成形される、例えば熱交換器に用いられるプレコートアルミニウムフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料の表面は親水性に乏しいため、熱交換器のフィン材や印刷の平板印刷版材には、表面に親水性被膜が被覆されたものが使用されている。以下、空調機を例に挙げてその熱交換器のフィン材の場合について述べることとする。
【0003】
最近の空調機用熱交換器は、軽量化のために熱効率の向上とコンパクト化が要求され、フィン間隔をでき得る限り狭くする設計が取り入れられている。空調機用熱交換器では、冷房運転中に空気中の水分がアルミニウムフィン材の表面に凝縮水となって付着する。金属材料の表面は、一般に親水性に乏しいため、この凝縮水はフィン材表面に半円形又はフィン材間にブリッジ状に存在することになる。このような凝縮水によってフィン材間の空気の流れが妨げられることにより、通風抵抗が増大し熱交換効率が著しく低下する。したがって、熱交換器の熱効率を向上させるには、フィン材表面の凝縮水を迅速に排除することが必要となる。
【0004】
フィン材表面の凝縮水を迅速に排除するための方法として、(1)アルミニウムフィン材表面に高親水性被膜を形成し、凝縮水を薄い水膜として流下せしめる方法、(2)アルミニウムフィン材表面に撥水性被膜を形成し、凝縮水を表面に付着させないようにする方法、が考えられるが、(2)の方法は、現時点では極めて困難である。一方、(1)の方法は、親水性を得るために表面に被膜を形成するものであり、このような親水性被膜によって、アルミニウムフィン材表面における結露水滴の形成が防止され、また、アルミニウムフィン材表面に形成された水膜がその表面に保持される。
【0005】
従来から、親水性被膜の形成方法が種々提案され、実用化されている。例えば、アルミニウム材表面にアルカリ珪酸塩の潤滑性被膜を形成させる方法(下記特許文献1)、水性塗料樹脂、界面活性剤及び合成シリカを含有する親水性で潤滑性の被膜を形成する方法(下記特許文献2)、アルカリ珪酸塩とカルボニル化合物を有する低分子有機化合物と水溶性有機高分子化合物を含有する組成物をアルミニウム材に塗布し、親水性で潤滑性の被膜を形成する方法(下記特許文献3)等が提案されている。
【特許文献1】特公昭53−48177号公報
【特許文献2】特開昭55−164264号公報
【特許文献3】特開昭60−101156号公報
【0006】
しかしながら、親水性を付与するために、アルカリ珪酸塩の潤滑性被膜を形成させる方法は、親水性の経時的な持続性に乏しいこと、ならびに、素材に塗布されこれをフィンに加工する際に、潤滑性被膜硬度が高いために、金型の磨耗が大きく、フィン材にクラックが発生し易い問題があった。
【0007】
このような金型摩耗やクラック発生等の欠点のない潤滑性被膜を形成させる塗料も提案されている(下記特許文献4〜6)。このような塗料組成物として、例えばポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、セルロース系樹脂等の水溶性の親水性樹脂を含む親水性塗料組成物が挙げられている。
【特許文献4】特開昭63−173632号公報
【特許文献5】特開平5−302042号公報
【特許文献6】特開平9−14889号公報
【0008】
ところで、近年になって、環境に対する関心がますます高まっており、生活臭、ペット臭などの原因となるアンモニア、アセトアルデヒド、酢酸などが、熱交換器表面に付着した凝集水に補足され、使用時間とともに付着・蓄積され、これらの臭気成分がエアコン稼動時に熱交換器から離脱し、空気吹き出し口から異臭を放つことが問題となっている。従来の熱交換器では、これら臭気に対する脱臭性能が不十分な上、タバコ臭などの原因となる無極性分子や極性分子に対する脱臭効果がほとんど期待できなかった。
【0009】
また、空調機器等に用いられている熱交換器は、夏にはフィンに結露が生じ易く、フィンの間を空気が通るため塵埃や細菌又は黴等が付着し易いなど、その表面に細菌又は黴等が発生し易い条件が揃っている。一旦細菌や黴等が発生すると、不快な悪臭が発生したり、アレルギーに影響を与えるなどの問題点があった。そのため、プレコート被膜処理を行う際に、プレコート処理剤に抗菌防黴剤を添加することが知られている。しかしながら、プレコート被膜は極めて薄く、抗菌防黴剤を添加すると親水性等の被膜物性自体に悪影響を及ぼすため添加量を多くすることはできず、その結果、プレコート処理の抗菌防黴の実効は余り大きいものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、プレコートフィン材等の親水性で潤滑性の被膜を有する熱交換器用アルミニウム材であって、親水性、耐汚染性、被膜密着性、成形性に優れており、しかも、臭気成分の吸着性及び抗菌防黴性にも優れた親水性で潤滑性の被膜を設けたアルミニウム塗装板の開発について鋭意検討してきた。その結果、アルミニウム又はアルミニウム合金の基材の少なくとも一方の面に、特定の樹脂及び特定のカーボンブラックを含有する親水性被膜、或いは、更に抗菌防黴剤を含有する親水性被膜を設けたアルミニウム塗装板が、親水性、耐汚染性、被膜密着性、成形性、臭気成分吸着性及び抗菌防黴性のいずれにおいても優れた性能を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明の目的は、アルミニウム又はアルミニウム合金の基材表面に親水性、耐汚染性、被膜密着性、成形性、臭気成分吸着性及び抗菌防黴性において優れた性能を発揮する親水性被膜を備えたアルミニウム塗装板、ならびに、このようなアルミニウム塗装板を用いた、例えば熱交換器用のプレコートアルミニウムフィン材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は請求項1において、アルミニウム又はアルミニウム合金の基材と、当該基材の少なくとも一方の面に形成した親水性被膜とを備えたアルミニウム塗装板であって、
前記親水性被膜が、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくとも一方の親水性樹脂と、12〜40nmの一次粒子径を有するカーボンブラックとを含有し、当該カーボンブラックが前記親水性樹脂100重量部に対して1〜200重量部含有され、当該親水性被膜の平均膜厚が0.01〜15μmであるアルミニウム塗装板とした。
【0013】
本発明は請求項2において、前記カーボンブラックが、カルボキシル基、水酸基及びこれらの塩から選択される少なくとも一種を有する芳香族化合物が表面に付着しているものであり、カーボンブラック100重量部に対して芳香族化合物が0.5〜100重量部付着しているようにした。更に、本発明は請求項3において、前記芳香族化合物をフミン酸類とした。
【0014】
本発明は請求項4において、前記親水性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂を更に含有し、当該親水性樹脂100重量部中に前記ポリビニルアルコール系樹脂が5〜95重量部含有されるようにした。
【0015】
本発明は請求項5において、前記親水性被膜が、前記親水性樹脂100重量部に対して0.1〜25重量部の烏龍茶成分を更に含有するようにした。また、請求項6では、前記親水性被膜が、烏龍茶成分に加えて、前記親水性樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部の緑茶成分及び紅茶成分の少なくとも一方を更に含有するようにした。
【0016】
また、請求項7では、前記親水性樹被膜上にポリエチレングリコール系樹脂を主成分とする潤滑性被膜を更に設け、この潤滑性被膜の平均膜厚を0.01〜3μmとした。
【0017】
本発明は請求項8において、前記基材の表面に、クロム系、ジルコニウム系及びチタン系から成る群から選択される少なくとも一種の化成処理皮膜であって金属元素換算にて2〜50mg/m2の金属を含有する化成処理皮膜が形成されたものとした。更に、本発明は請求項9において、前記基材の表面に、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂から成る群から選択される少なくとも一種から成る0.1〜10g/mの量の耐食性有機皮膜が形成されたものとした。
【0018】
本発明は請求項10において、請求項1〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板を用いたプレコートアルミニウムフィン材とした。
【0019】
本発明は請求項11において、前記親水性被膜が抗菌防黴剤を更に含有し、当該抗菌防黴剤が前記親水性樹脂100重量部に対して0.5〜400重量部含有され、かつ、当該アルミニウム塗装板の単位面積(1m)当たり0.005〜10.0gの量で存在するものとした。
【0020】
本発明は請求項12において、前記抗菌防黴剤がビス−(2−ピリジルチオ−1−オキシド)−ジンク、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン及び2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールから成る群から選択される少なくとも一つを含有するものとした。
【0021】
本発明は請求項10において、請求項11又は12に記載のアルミニウム塗装板を用いたプレコートアルミニウムフィン材とした。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアルミニウム塗装板は、アルミニウム又はアルミニウム合金の基材表面に親水性、耐汚染性、被膜密着性、成形性、臭気成分吸着性、抗菌防黴性において優れた性能を発揮し、これを用いて製造したプレコートアルミニウムフィン材を用いた例えば熱交換器は、長期に亘って優れた熱交換効率を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
アルミニウム塗装板
本発明に係るアルミニウム塗装板は、アルミニウム又はアルミニウム合金の基材と、当該基材の少なくとも一方の面に形成した親水性被膜とを備える。
【0024】
A.アルミニウム基材
本発明で用いる基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材である。以下において、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる基材を、単に「アルミニウム材」と記す。なお、アルミニウム以外の金属を基材に用いることもできる。
【0025】
更に、アルミニウム材に耐食性下地皮膜を形成したものも用いることができる。耐食性下地皮膜としては、化成処理皮膜、耐食性有機皮膜、陽極酸化皮膜、ベーマイト皮膜等が挙げられ、いずれの耐食性下地皮膜を用いてもよい。耐食性、密着性、経済性の観点から、化成処理皮膜と有機耐食性皮膜を用いるのが好ましい。
【0026】
化成処理皮膜としては、クロム系、ジルコニウム系、チタン系の化成処理皮膜が用いられるが、耐食性、被膜密着性の観点からクロム系の化成処理皮膜が好ましい。化成処理皮膜の形成方法としては、塗布型、電解型、反応型の化成処理方法等が用いられるが、いずれの方法を用いてもよい。乾燥温度も任意である。上記化成処理皮膜の形成方法のうち、成形性、被膜密着性、耐食性に優れた塗布型クロメート法によるのが好ましい。この場合の塗布量はCr元素換算で2〜50mg/mである。塗布量がCr元素換算で2mg/m未満では、十分な耐食性と被膜密着性が得られない。また、50mg/mを超えても耐食性や被膜密着性の効果が飽和し経済性に欠ける。好ましい塗布量はCr元素換算で5〜15mg/mである。
また、耐食性有機皮膜としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂から成る皮膜が用いられるが、その上に形成される樹脂被膜の親水性及び臭気成分吸着性を損なわない限り、いずれの樹脂皮膜も用いることができる。耐食性有機皮膜の形成量は、0.1〜10g/m、好ましくは0.5〜5g/mである。0.1g/m未満では十分な耐食性が得られず、10g/m超えても効果が飽和し不経済となる。
【0027】
B.親水性被膜
本発明の親水性被膜は、親水性樹脂成分としてウレタン系樹脂又はアクリル系樹脂、或いは、これらの両方を含む。ウレタン系樹脂やアクリル系樹脂によって、親水性の他に被膜密着性や耐食性も親水性被膜にバランスよく付与される。親水性、被膜密着性、耐食性を更に一層向上させるために、親水性樹脂成分としてポリビニルアルコール系樹脂を含有させてもよい。
また、親水性被膜は、水ガラスやコロイダルシリカなどの無機成分から成る無機系被膜や、上記親水性樹脂成分とこれら無機成分とから成る有機/無機系被膜としてもよい。
【0028】
B−1.ウレタン系樹脂
ウレタン系樹脂としては、分子中にウレタン結合を有するものであれば特に制限されるものではなく、主にイソシアネート化合物とポリオール類又はポリエーテルとの反応により形成されるものが用いられる。
具体的には、イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルプロパン1−メチル2−イソシアノ4−カルバメート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート等が用いられる。ポリオール類又はポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテルトリオール等が用いられる。
【0029】
B−2.アクリル系樹脂
アクリル系樹脂としては、α、βモノエチレン系不飽和単量体とこれに重合可能な単量体との共重合体やブロック重合体、或いは、α、βモノエチレン系不飽和単量自体の重合体からなる樹脂が用いられる。
α、βモノエチレン系不飽和単量体としては、例えばアクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸2エチルへキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2エチルブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸3エトキシプロピル等);メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nへキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸デシルオクチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2メチルへキシル、メタクリル酸3メトキシブチル等);アクリロニトリル;メタクリロニトリル;酢酸ビニル;塩化ビニル;ビニルケトン;ビニルトルエン;及びスチレン等が用いられる。
【0030】
上記α、βモノエチレン系不飽和単量体と共重合し得る単量体とは、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、エチレン、トルエン、プロピレン、アクリルアミド、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸2ヒドリキシエチル、メタクリル酸2ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、Nメチロールアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等が用いられる。
【0031】
B−3.ポリビニルアルコール系樹脂
親水性被膜の樹脂成分を構成する親水性樹脂として、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくとも一方の他に、ポリビニルアルコール系樹脂を含有することもできる。ポリビニルアルコール系樹脂については、好ましくはその鹸化度が90モル%以上のものが用いられ、特に完全鹸化タイプのポリビニルアルコール(PVA)が好適に用いられる。また、重合度の点からは、平均重合度が好ましくは500〜4000、より好ましくは1500〜2500のPVAが好適に用いられる。
鹸化度が90モル%未満であったり、平均重合度が500未満であると親水性が劣る欠点がある。また、平均重合度が4000より大きいと粘度上昇が著しくなって、塗装の際においてローピング等が発生し均一な被膜が形成されないことがある。
【0032】
このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、上記PVA以外に、例えば、酢酸ビニルの重合時に少量(例えば5重量%以下)のアリルグリシジルエーテル(例えば、ナガセ化成工業社製、商品名:デナコールEX−III)を共重合させ、水酸基の一部がエポキシ基で置換されたもの、或いは、同じく酢酸ビニルの重合時にクロトン酸、アクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、MMA(メタクリル酸メチル)等のカルボキシル基を有するモノマーを共重合させることによって主鎖中にカルボキシル基を導入した変性ポリビニルアルコール等を用いることもできる。
【0033】
ポリビニルアルコール系樹脂は、親水性樹脂全体(ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくとも一方、ならびに、ポリビニルアルコール系樹脂)を100重量部とした際に、5〜95重量部、好ましくは25〜75重量部の割合で含有されるのがよい。ポリビニルアルコール系樹脂の割合が5重量部未満であると親水持続性が確保できず、95重量部を超えると親水性が飽和して不経済となる。
【0034】
B−4.架橋剤
上記の親水性樹脂に架橋剤を混入させて、3次元配列の架橋性樹脂としてもよい。架橋剤は得られる被膜の耐水溶解性を向上させるなどの目的で必要に応じて配合されるものである。このような架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、ポリエポキシ化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、チタンキレートなどの金属キレート化合物などを挙げることができる。
【0035】
B−5.カーボンブラック
本発明においては、親水性被膜中にカーボンブラックを含有させることにより、雰囲気中に存在する臭気成分を吸着する効果が発揮される。カーボンブラックの内部は網状平面構造を成して微細な空孔が多数存在するので、臭気成分が効率よく吸着される。また、カーボンブラックを添加することにより親水性被膜表面の凹凸が大きくなり、見かけの表面積が増大することにより水の接触角が低下し、親水性が更に向上し、水の介在によって臭気成分の吸着性能も向上する相乗効果も生じる。
【0036】
本発明に用いるカーボンブラックは公知の方法によって製造することができ、その製造方法に特に制限はないが、例えば、チャンネル法、ローラー法、ファーネス法等によって製造される。また、本発明におけるカーボンブラックの特性に適合する限りにおいて、製造したカーボンブラックに公知の酸化反応等の更なる処理を施してもよい。
【0037】
本発明では、12〜40nmの一次粒子径を有するカーボンブラックが用いられる。更に、このような一次粒子径を有するものであって、30〜150cm/100gのDBP吸油量と、60〜300m/gの窒素吸着比表面積とを有するものが好適に用いられる。
【0038】
カーボンブラックの一次粒子径は臭気成分の吸着性やカーボンブラックの分散性に強く影響する。カーボンブラックの一次粒子径は12〜40nmであり、12nm未満であると工業製造上困難である。一方、一次粒子径が40nmを超えると、上記被膜組成物の十分な保存安定性と分散性が得られず、これにより臭気成分の吸着性や親水性が劣ることになる。なお、一次粒子径は、顕微鏡法等の公知方法によって測定される。一般的に使われている通常のカーボンブラックの場合、被膜組成中での分散がしづらく、好ましくは25〜40nm、より好ましくは25〜35nmものが用いられる。また、一次粒子径が25nm未満であると、殆どの一次粒子が強固な凝集体を形成する。このような凝集体は、親水性被膜を形成するための溶液状の被膜組成物中で解離しないために、親水性被膜による臭気成分の吸着性が劣ることになるので、一次粒径は25〜40nmとするのが好ましい。
【0039】
カーボンブラックのDBP吸油量も臭気成分の吸着性に強く影響し、30〜150cm/100g、好ましくは60〜120cm/100gのものが用いられる。ここで、DBP吸油量とは、JIS K6221 A法に従って、100gのカーボンブラックが吸収するDPB(フタル酸ジブチル)の吸収量を容量(cm)で表わしたものである。DBP吸油量が30cm/100g未満では、カーボンブラック凝集体の発達度合いが低下し過ぎる。その結果、カーボンブラックの比容積量が少なくなり、臭気成分の十分な吸着効果が得られない。一方、DPB吸油量が150cm/100gを超えると、カーボンブラック凝集体の発達度合いが増大する。その結果、溶液状の被膜組成物中でカーボンブラックが沈降し易くなり、形成される親水性被膜中におけるカーボンブラックの分布が不均一になって、これまた臭気成分の十分な吸着効果が得られない。
【0040】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積も臭気成分の吸着性に強く影響し、60〜300m/g、好ましくは50〜150m/gのものが用いられる。ここで、窒素吸着比表面積とは、JIS K6221の方法に従って、1gのカーボンブラックに吸着される窒素ガスを吸着した量を表し、カーボンブラックの表面積(m)の指標とされるものである。窒素吸着比表面積が60m/g未満では、十分な臭気吸着性能を保持することができない。一方、窒素吸着比表面積が300m/gでは、臭気吸着性能が飽和して不経済となる。カーボンブラックの窒素吸着量は、一般に公知な方法によって測定され、例えばBET吸着法が好適に用いられる。
【0041】
カーボンブラックは、親水性樹脂100重量部に対して1〜200重量部、好ましくは5〜50重量部の割合で含有される。カーボンブラック量が1重量部未満では臭気物質の十分な吸着性や十分な親水性が得られない。一方、カーボンブラック量が200重量部を超えると、アルミニウム塗装板をフィン材等に成形する際にカーボンブラックが親水性被膜から脱落することがある。
【0042】
B−6.芳香族化合物が表面に付着したカーボンブラック
本発明では、カーボンブラックをそのまま用いることができるが、カルボキシル基、水酸基及びこれらの塩から選択される少なくとも一種を有する芳香族化合物を表面に付着したカーボンブラックを用いてもよい。このような芳香族化合物を表面に付着したカーボンブラックは、未付着のものに比べて分散性及び臭気成分の吸着性において更なる効果が認められる。
【0043】
カルボキシル基を有する芳香族化合物としては、安息香酸、フタル酸等が挙げられる。水酸基を有する芳香族化合物としては、フェノール、クレゾール、2,4,6−トリブロモフェノール、ピクリン酸、ナフトール、カテコール、ピロガロール、酸化ビタミンC等が挙げられる。カルボン酸と水酸基の両方を有する芳香族化合物としては、フミン酸類、サリチル酸等が挙げられる。更に、カルボキシル基や水酸基の塩としては、これらの基にアルカリ金属、アンモニウム又は2価以上の陽イオンが結合した塩が挙げられる。
【0044】
芳香族化合物としては、安息香酸やフェノール等の単物質をカーボンブラック表面に付着させてもよいが、付着性、薬物の毒性、水溶解性の観点や、界面活性作用、作業時の安定性、更にカーボンブラックの分散性、臭気の定着性及び親水性を大幅に向上させることが可能なことから、フミン酸類をカーボンブラック表面に付着させるのが好ましい。フミン酸類には天然物質から生成される多様な官能基(カルボキシル基、水酸基を含む)、幅広い分子量のスペクトルが存在することから、吸着剤としての多様性に富んでいる。
【0045】
本発明においてフミン酸類とは、フミン酸、フミン酸塩及びこれらの誘導体の塩類をいう。すなわち、堆積物、若年炭類を酸化剤により酸化分解して得られる生成物からアルカリ水溶液で抽出し、酸性水溶液を添加し、沈殿濾過して抽出するフミン酸;このフミン酸とアルカリ金属、アンモニウム又は2価以上の陽イオンと結合したフミン酸塩;前記フミン酸とアルデヒド類、アミン類又はフェノール類とを重縮合させた誘導体のアルカリ金属塩;等が用いられる。本発明で用いるフミン酸類は、これらのいずれかを少なくとも一種用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
上記芳香族化合物をカーボンブラック表面へ付着する方法としては、例えば、芳香族化合物を溶解又は分散した溶液(溶媒としては、水、水溶液、有機溶媒が用いられる)中にカーボンブラックの粉末を添加し、十分に攪拌混合して均一に分散し懸濁液を生成した後に、カーボンブラックを濾過して乾燥する方法が挙げられる。また、上記カーボンブラック懸濁液を親水性被膜形成用の樹脂組成物に添加することによっても、親水性被膜中に均一に分散することはできるが、親水性被膜中に芳香族化合物が溶出することによって親水性被膜の親水性が低下することもある。
【0047】
上記芳香族化合物は、カーボンブラック100重量部に対して0.5〜100重量部の量で付着させるのが好ましい。芳香族化合物量が0.5重量部未満であると、カーボンブラックへの付着量が少なく、親水性被膜形成時におけるカーボンブラックの分散性が十分でなく、芳香族化合物量が100重量部を超えると、親水性被膜の親水性を劣化させることになる。
【0048】
B−7.烏龍茶成分
本発明においては、親水性被膜成分に烏龍茶成分を添加することもできる。烏龍茶成分は、アンモニアやホルムアルデヒド等の臭気成分を吸着する機能を有する。
烏龍茶成分は、親水性樹脂100重量部に対して0.1〜25重量部、好ましくは0.5〜10重量部含有される。烏龍茶成分が0.1重量部未満では臭気成分の吸着性が十分に得られ難く、25重量部を超えたのでは所望の親水性が得られない。
【0049】
本発明に用いられる烏龍茶成分の製造方法は特に限定されるものではない。例えば、烏龍茶の葉や茎を、室温から所定温度に加熱する際に、水、酸性水溶液、含水エタノール、エタノール、含水メタノール、メタノール、アセトン、酢酸エチル又はグリセリン水溶液等の溶媒又はこれらの混合溶媒によって抽出した抽出物が用いられる。抽出液から溶媒を除去した抽出物を用いるだけでなく、抽出によって得られる抽出液(烏龍茶抽出成分と抽出溶媒からなる)としても、或いは、当該抽出液の濃縮液としても用いることができる。特に、室温水又は温水によって抽出した抽出液自体を被膜組成物に添加する方法が、臭気成分吸着性の観点から好ましい。
【0050】
このような抽出によって得られる烏龍茶成分には、カテキン類(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート);タンニン類が含有される。その他、ケンフェロール、クエルセチン、ミリセチン等のフラボノイド;GODポリフェノール等のポリフェノール類;マロン酸、コハク酸、没食子酸等の有機酸;カフェイン;アミノ酸;糖類;ビタミン類;等の種々の成分が含有されている。
【0051】
上記カテキン類等の烏龍茶成分を親水性被膜に含有させることにより、臭気成分の吸着性が高められる。烏龍茶成分の中でも、カテキン類(カテキン、ガロカテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート)が臭気成分の吸着性に大きく寄与する。特に、これらのカテキン類が会合した多量体、好ましくはカテキン2量体及び3量体が臭気成分の吸着性を高めるのに有効に作用する。このカテキンの2量体及び3量体は茶類の中でも特に烏龍茶に多く含まれているので、臭気成分の吸着性を確保するために烏龍茶成分を親水性被膜に含有させるのがよい。
【0052】
B−8.緑茶成分、紅茶成分
更に、本発明においては、烏龍茶成分に加えて緑茶成分及び紅茶成分の少なくともいずれか一方を親水性被膜の成分として添加する。これら緑茶成分及び紅茶成分は、烏龍茶成分によって吸着した臭気成分を被膜中に定着する機能を有する。したがって、緑茶成分や紅茶成分を親水性被膜成分として添加することにより、吸着した臭気成分の脱着率が低減されることにより定着性が高められる。結果的に、親水性被膜の吸着性が一層向上することになる。
【0053】
緑茶及び紅茶成分の少なくともいずれか一方は、親水性樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部含有される。緑茶成分や紅茶成分が0.1重量部未満では臭気成分の吸着性が得られ難く、50重量部を超えたのでは所望の親水性が得られなくなる。
なお、これら含有量は、緑茶成分単独又は紅茶成分単独の場合にはそれぞれ単独含有量としてのものであり、緑茶成分と紅茶成分の両方を用いる場合には両者を合計した含有量としてのものである。
【0054】
本発明に用いられる緑茶成分及び紅茶成分の製造方法もまた、特に限定されるものではない。これら緑茶成分及び紅茶成分の製造方法としては、上記の烏龍茶成分の抽出方法と同様の方法が用いられる。緑茶成分及び紅茶成分のうちポリフェノール類が臭気成分定着性において特に優れているので、ポリフェノール類をより多く含有する緑茶成分や紅茶成分を添加するのが好ましい。
【0055】
なお、本発明で用いる烏龍茶成分はアンモニア、アセトアルデヒド、酢酸だけでなく、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類、更には、他の種類の臭気成分の吸着にも用いることができる。また、本発明で用いる緑茶成分、紅茶成分もアンモニア、アセトアルデヒド、酢酸だけでなく、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類、更には、他の種類の臭気成分の定着にも用いることができる。
【0056】
なお、烏龍茶成分、緑茶成分、紅茶成分を親水性樹脂に添加するには、これらを予めカーボンブラックと混合してから親水性樹脂に添加するか、或いは、カーボンブラックと同時に親水性樹脂に添加するのが好ましい。表面積の大きなカーボンブラック表面にこれら茶成分を選択的に付着させることにより、臭気成分の吸着性を大きく向上させるができる。また、茶成分が付着したカーボンブラックが親水性被膜の表面に存在することにより、茶成分の多数の官能基が大気中の汚染物質に作用し、耐汚染性を向上させることもできる。ここで言う耐汚染性とは、大気中に存在するステアリン酸等の高級脂肪酸が親水性被膜表面付着した際に、親水性の低下を防止できることをいう。
【0057】
B−9.抗菌防黴剤成分
本発明において、得られる親水性被膜に防菌防黴性を付与することを目的として、抗菌防黴剤が添加される。本発明における抗菌防黴剤とは、抗菌性及び防黴性の少なくともいずれか一方を有するものであって、抗菌性及び防黴性の両方を有するものが好ましい。抗菌防黴剤としては、イソチアゾリン系、アルデヒド系、ベンズイミダゾール系、ハロゲン系、カルボン酸系、スルファミド系、チアゾール系、トリアゾール系、フェノール系、フタルイミド系、ナフテン酸系、ピリジン系等の有機系、Ag、Cu、Zn等の無機系が挙げられるが、その中でも、ジンクピリチオン、即ちビス−(2−ピリジルチオ−1−オキシド)−ジンク、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン及び2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールが、親水性等の被膜物性に影響を及ぼし難いこと、水不溶性、熱安定性に優れることから好ましい。したがって、ビス−(2−ピリジルチオ−1−オキシド)−ジンク、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン及び2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールの少なくともいずれかを用いるのが好ましい。
【0058】
上記抗菌防黴剤は、親水性樹脂100重量部に対して0.5〜400重量部、好ましくは5〜50重量部の割合で含有される。0.5重量部未満では抗菌防黴剤の含有量が少なく、十分な抗菌・防黴性をえることができない。一方、抗菌防黴剤量が400重量部を超えると、アルミニウム塗装板をフィン材等に成形する際に親水性等の被膜物性を低下させ、フィン剤として使用に耐えられない。
【0059】
上記抗菌防黴剤は、アルミニウム塗装板の単位面積(1m)当たり0.005〜10.0gの量で存在させる必要がある。1m当たりの量が0.005g未満では抗菌防黴性を保持するのが不十分となり、10.0gを超えると塗膜密着性が不十分となる。
また、抗菌防黴剤はその粒径を5μm以下、好ましくは0.5〜4.0μmとするのが好ましい。5μm以下にすることによって、被膜中における抗菌防黴剤が保持され易くなり、抗菌防黴性効果が持続し易くなる。
【0060】
B−10.添加剤
本発明の親水性被膜には、必要に応じて、タンニン酸、没食子酸、フイチン酸、ホスフィン酸等の防錆剤;ポリアルコールのアルキルエステル類、ポリエチレンオキサイド縮合物等のレベリング剤;相溶性を損なわない範囲で添加されるポリアクリルアミド、ポリビニルアセトアミド等の充填剤;フタロシアニン化合物等の着色剤;アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩系等の界面活性剤;酸化亜鉛、酸化シリコン(シリカ)、酸化アルミ(アルミナ)、酸化チタン等の無機酸化物等;の添加剤を添加することができる。
【0061】
B−11.親水性被膜の形成
本発明のアルミニウム材面に親水性被膜を形成するには、アルミニウム材表面又はアルミニウム材表面に形成した耐食性下地皮膜表面に、親水性被膜用の液状の被膜組成物を塗装(塗布)しこれを焼付ける。
【0062】
このような被膜組成物は、親水性樹脂、カーボンブラック、烏龍茶等の茶成分、抗菌防黴剤、必要に応じた上記添加剤を、溶媒に溶解、分散させて調製される。このような溶媒には、各成分を溶解又は分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、水等の水性溶媒、アセトン等のケトン系溶剤、エタノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のジエチレングリコールアルキルエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル系溶剤、及びエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の一連のグリコールアルキルエーテル系溶剤のエステル化物等が挙げられ、その中でも水性溶媒が好ましく、水が特に好ましい。
【0063】
被膜組成物の塗布方法としては、ロールコーター法、ロールスクイズ法、ケミコーター法、エアナイフ法、浸漬法、スプレー法、静電塗装法等の方法が用いられ、被膜の均一性に優れ、生産性が良好なロールコーター法が好ましい。ロールコーター法としては、塗布量管理が容易なグラビアロール方式や、厚塗りに適したナチュラルコート方式や、塗布面に美的外観を付与するのに適したリバースコート方式等を採用することができる。また、被膜の乾燥には一般的な加熱法、誘電加熱法等が用いられる。
【0064】
被膜形成する際の焼付けは、焼付け温度(到達表面温度)が180〜300℃で、焼付け時間が1〜60秒の条件で行うのが好ましい。被膜形成における焼付け温度が180℃未満であったり、焼付け時間が1秒未満である場合には、被膜が十分に形成されず被膜密着性が低下する。焼付け温度が300℃を超えたり、焼付け温度が60秒を超える場合には、被膜成分が変性し、親水性を著しく低下させることになる。
【0065】
被膜厚さは、例えば熱交換器用のアルミニウム塗装板に形成する場合には、0.01〜15μmとする。親水性、耐汚染性、成形性、臭気吸着性及び抗菌防黴性を十分なものとするには、0.1μm以上とするのが好ましい。また、抗菌防黴剤を5〜10g/mといった高レベルで含有させる場合は、2〜15μmと厚くする必要がある。抗菌防黴剤の含有量が前述のような高レベルでない場合や、抗菌防黴剤を含有しない場合には、被膜を厚くする必要はなく、原材料費などの経済性の観点から、0.1〜1.2μm、特に0.1〜1.0μmとするのが好ましい。被膜厚さが0.01μm未満では、所望の親水性、耐汚染性、成形性、臭気吸着性及び抗菌防黴性が得られず、15μmより厚いとこれら各特性が飽和して不経済となる。
【0066】
C.潤滑性被膜
本発明に係るアルミニウム塗装板では、親水性被膜上にポリエチレングリコール系樹脂を主成分とする潤滑性被膜を形成することにより、成形性を向上することができる。ポリエチレングリコール系樹脂としては、好ましくは1000〜20000、より好ましくは4000〜11000の重量平均分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体等が用いられる。潤滑性被膜の厚さは0.01〜3μm、好ましくは0.05〜2μm、より好ましくは0.05〜1μmである。0.01μm未満では十分な成形性が得られず、3μmを超えると成形性が飽和して不経済となる。
【0067】
潤滑性被膜は、主成分であるポリエチレングリコール系樹脂の他に添加剤を含有していてもよい。このような添加剤には、先に挙げた親水性被膜中に含有させるカーボンブラック、烏龍茶成分、緑茶成分、紅茶成分、抗菌防黴剤を含有させることにより、臭気成分の吸着性、親水性、抗菌防黴性を更に向上させることができる。
【0068】
潤滑性被膜は、親水性被膜表面に潤滑性被膜用の液状の被膜組成物を塗装(塗布)し、これを焼付けることによって形成される。潤滑性被膜用の被膜組成物の塗布、焼付けは親水性被膜と同様に行なわれる。この被膜組成物は、ポリエチレングリコール系樹脂と、必要に応じてカーボンブラック、烏龍茶等の茶成分、抗菌防黴剤や上記添加剤を、溶媒に溶解、分散させて調製される。このような溶媒には、親水性被膜用の被膜組成物に用いるのと同じ上記溶媒を用いることができ、水性溶媒を用いるのが好ましく、水を用いるのが特に好ましい。
【0069】
潤滑性被膜は、親水性被膜の形成とは別個の工程で形成される。すなわち、親水性被膜用組成物をアルミニウム材表面又はアルミニウム材上の耐食性下地皮膜表面に塗布して焼付け、次いで、潤滑性被膜用組成物を親水性被膜上に塗布し焼付けすることにより二層構造を形成する方法(以下、「二度塗布二度焼付け法」と記す)が採用される。
【0070】
これに代わって、潤滑性被膜を親水性被膜と同時に形成してもよい。すなわち、親水性被膜用の被膜組成物と潤滑性被膜用の被膜組成物の混合溶液を、アルミニウム材表面又はアルミニウム材上の耐食性下地皮膜表面に塗布し、これを焼付けるものである。上記混合溶液を塗布すると、焼付け前において下層側(基材側)の親水性被膜成分と上層側(外側)の潤滑性被膜成分とに分離する。そして、これを焼付けることによって、基材側の親水性被膜とその上の潤滑性被膜から成る2層構造が得られる(以下、「一度塗布一度焼付け法」と記す)。
【0071】
更に、親水性被膜用組成物を基材上に塗布し、次いで、潤滑性被膜用組成物を親水性被膜用組成物上に塗布し、これらを焼付けすることにより二層構造を形成する方法(以下、「二度塗布一度焼付け法」と記す)を採用してもよい。
【0072】
「二度塗布二度焼付け法」や「二度塗布一度焼付け法」は、「一度塗布一度焼付け法」に比べて経済性に劣るため、一度塗布一度焼付けによる被膜形成方法を採用するのが好ましい。
【0073】
このようにして作製されるアルミニウム塗装板は、その表面にプレス成形加工用の揮発性プレス油を塗布してからスリット加工やコルゲート加工等の成形加工を施すことにより、所望のフィン形状からなるプレコートアルミニウムフィン材が作製される。このようなプレコートアルミニウムフィン材は、例えば空調機用熱交換器のフィン材として好適に用いられるが、フィン材間の結露等を防止する用途であれば、空調機用熱交換器に限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例1〜14及び比較例1〜7
表1に示すように、樹脂成分として、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくとも一方からなるもの、或いは、アクリル樹脂と鹸化度92〜99モル%で平均重合度1800のポリビニルアルコール(PVA)とからなるもの、カーボンブラックとして所定の一次粒子径、DPB吸油量、窒素吸着比表面積を有するもの、茶成分として、烏龍茶抽出液、緑茶抽出液、紅茶抽出液を有するもの、を含有する親水性被膜用の組成物を調製した。
なお、実施例1〜6、14及び比較例1〜7では、茶成分を添加していない。実施例7では烏龍茶成分のみを添加し、実施例8〜13では、烏龍茶に加えて緑茶及び紅茶のいずれか一方を加えた。比較例3では、樹脂成分としてセルロース系樹脂を用いた。
さらに、実施例10〜13では、重量平均分子量9300のポリエチレングリコールを含有する潤滑性被膜用の組成物を調製した。
親水性被膜用組成物及び潤滑性被膜用組成物の溶媒には水を用いた。表1に示す各成分の含有量は、溶媒である水1リットル中における重量部を示す。ここで、表1に示す100重量部とは、具体的には100gである。
【0076】
【表1】

【0077】
烏龍茶抽出液、緑茶抽出液及び紅茶抽出液は、表2の成分にて調整された溶出液を用いた。烏龍茶抽出液は市販の烏龍茶抽出液であり、緑茶抽出液は市販の緑茶抽出液であり、紅茶抽出液は市販の紅茶葉からの抽出液である。ポリフェノール等の各成分は、高速液体クロマト法により測定した。表2に示すポリフェノール、カテキン、カフェイン、その他茶成分は、抽出液から抽出溶媒を除去した抽出物であり、各成分の重量%は、この抽出物全体を100%とした場合の数値を表す。
【0078】
【表2】

【0079】
アルミニウム材表面には、親水性被膜を以下のようにして形成した。アルミニウム合金板(1100−H24材、0.100mm厚さ)を弱アルカリ脱脂し、水洗した後に乾燥した。次いで、このように処理したアルミニウム合金板表面に、塗布型クロメート(日本ペイント社製SAT427)を塗布し、180℃で10秒間焼付けし、金属クロム換算にて、クロム付着量が10mg/m2 の塗布型クロメート系の化成皮膜を下地皮膜として形成した。次に、このアルミニウム合金板に、表1に示す各親水性被膜用組成物をロールコーターにて塗布し、到達板表面温度(PMT)250℃で20秒間焼付けしてアルミニウム塗装板を得た。なお、実施例10〜13では、親水性被膜用組成物と潤滑性被膜組成物の混合溶液を用いて、実施例1〜9、14と同様にして塗布、焼付けしてアルミニウム塗装板を得た。
【0080】
このようにして得られたアルミニウム塗装板について親水性、耐汚染性、成形性、カーボンブラック分散性、臭気成分吸着性(アンモニア、ホルムアルデヒド)を後述の方法で測定した。結果を、表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
実施例15〜31及び比較例8〜13
表4に示すように、樹脂成分として、アクリル系樹脂からなるもの、或いは、アクリル樹脂と鹸化度92〜99モル%で平均重合度1800のポリビニルアルコール(PVA)とからなるもの、カーボンブラックとして所定の一次粒子径が28nm、窒素吸着比表面積が79g/mを有するものに所定量のフミン酸を表面に付着したもの、茶成分として、烏龍茶抽出液、緑茶抽出液、紅茶抽出液を有するもの、を含有する親水性被膜用の組成物を調製した。
フミン酸の付着は、フミン酸を水に溶解して5重量%のフミン酸水溶液1リットルを調製し、この中にカーボンブラックの粉末0.59〜25gを添加し、十分に攪拌混合して均一に分散し懸濁液を生成した。次いで、懸濁液からカーボンブラックを濾過して100℃で1時間乾燥した。
【0083】
なお、実施例15〜26及び比較例8〜13では、茶成分を添加していない。実施例27では烏龍茶成分のみを添加し、実施例28〜31では、烏龍茶に加えて緑茶及び紅茶のいずれか一方を加えた。比較例8及び10では、樹脂成分としてセルロース系樹脂を用いた。
さらに、実施例30及び31では、重量平均分子量9300のポリエチレングリコールを含有する潤滑性被膜用の組成物を調製した。
親水性被膜用組成物及び潤滑性被膜用組成物の溶媒には水を用いた。表4に示す各成分の含有量は、溶媒である水1リットル中における重量部を示す。ここで、表4に示す100重量部とは、具体的には100gである。
【0084】
【表4】

【0085】
烏龍茶抽出液、緑茶抽出液及び紅茶抽出液は、表2の成分にて調整された溶出液を用いた。
【0086】
アルミニウム材表面には、親水性被膜を以下のようにして形成した。実施例15〜22、27〜31、及び比較例8〜13においては、実施例1と同様にして、クロム付着量が20mg/mの塗布型クロメート系の化成皮膜を下地皮膜として形成した(焼付け条件:180℃で10秒間)。実施例23では、実施例1の塗布型クロメートに代えて塗布型ジルコニウム系の下地皮膜を、ジルコニウム付着量が25mg/mとなるように形成した(焼付け条件:180℃で10秒間)。実施例24〜26では、実施例1の塗布型クロメートに代えて、耐食性有機皮膜であるエポキシ皮膜、ウレタン皮膜、アクリル皮膜の下地皮膜を、3.0mg/mとなるようにそれぞれ形成した(焼付け条件:240℃で10秒間)。
次に、このアルミニウム合金板に、表4に示す各親水性被膜用組成物をロールコーターにて塗布し、到達板表面温度(PMT)250℃で20秒間焼付けしてアルミニウム塗装板を得た。
なお、実施例30及び31では、親水性被膜用組成物と潤滑性被膜組成物の混合溶液を用いて、実施例1と同様にして塗布、焼付けしてアルミニウム塗装板を得た。
【0087】
このようにして得られたアルミニウム塗装板について親水性、成形性、被膜密着性、カーボンブラック分散性、臭気成分吸着性(アンモニア、アセトアルデヒド)を後述の方法で測定した。結果を、表5に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
まず試料を以下のようにして前処理した。各試料を揮発性プレス油(出光興産社製ダフニAF−2A)に1分間浸漬し、これを取り出した後に室温で試料を垂直に30秒間保持して油を切った。次いで、180℃の熱風炉中(大気雰囲気)に2分間投入した後に室温まで冷却した。
【0090】
親水性
ゴニオメーターで純水の接触角を測定した。アルミニウム塗装板を作製した直後の親水性と、乾湿サイクル後の親水性を評価した。乾湿サイクルは、作製したアルミニウム塗装板を流量が1リットル/分の水道水に8時間浸漬した後、80℃で16時間乾燥する工程を1サイクルとしてこれを20サイクル行なった。表3中の記号の意味は以下の通りであり、◎及び○を性能を満足する合格とした。
◎:接触角が20°以下であり非常に良好であることを示す。
○:接触角が20゜を越え、かつ30°以下であり、良好であることを示す。
△:接触角が30゜を越え、かつ40゜以下であり、不良であることを示す。
×:接触角が40゜を越え非常に不良であることを示す。
【0091】
耐汚染性
作製したアルミニウム塗装板を前処理し、次いで汚染サイクル処理を実施した。汚染サイクル処理はパルミチン酸蒸気を含む50℃の空気にアルミニウム塗装板を1時間暴露することにより気相中でパルミチン酸を吸着させ、次いで水道水に6時間浸漬後、乾燥機中で乾燥することを1サイクルとし、これを10サイクル実施した。10サイクル後の親水性被膜表面の接触角を、上記親水性評価と同様の方法で測定した。表3中の記号の意味は以下の通りであり、◎、○及び△を性能を満足する合格とした。
◎:接触角が20°以下であり非常に良好であることを示す。
○:接触角が20゜を越え、かつ40°以下であり、良好であることを示す。
△:接触角が40゜を越え、かつ60゜以下であり、不良であることを示す。
×:接触角が60゜を越え非常に不良であることを示す。
【0092】
成形性
実機フィンプレスにてドローレス成形を実施した状況で評価した。成形条件は以下の通りである。揮発性プレスオイル:AF−2C(出光興産)を使用し、しごき率は58%、成形スピードは250spmで実施した。評価結果である表3中の記号の意味は以下の通りであり、◎及び○を性能を満足する合格とした。
◎:非常に良好であることを示す。
○:良好であることを示す。
△:カラー部内面にキズが発生して不良であることを示す。
×:座屈、カラー飛びが発生して不良であることを示す。
【0093】
カーボンブラック分散性
親水性被膜中におけるカーボンブラックの分散性を、2000倍(2400μm)視野でSEM観察にて評価した。評価結果である表3中の記号の意味は以下の通りであり、◎及び○を性能を満足する合格とした。
○:視野中にカーボンブラックの凝集が見られず、分散性が良好であることを示す。
△:視野中にカーボンブラックの凝集が若干見られ、分散性がやや不良であることを示
す。
×:視野中にカーボンブラックの凝集が多く発生し、分散性が不良であることを示す。
【0094】
被膜密着性
JIS H4001に従った付着性試験を行い、碁盤目におけるテープ剥離後の残存個数を測定した。全て残存した場合(100/100)を合格とした。
【0095】
アンモニア吸着性
1.吸着試験
アンモニア雰囲気の容器中に各アルミニウム塗装板を配置し、アンモニアを吸着させた後の容器内のアンモニア濃度(Ca)を測定した。Caは未吸着のアンモニア量に対応する濃度である。測定条件は以下の通りであった。なお、下記のアンモニア初期濃度(20ppm)から上記アンモニア濃度Caを差し引いた濃度(Cb)が、アルミニウム塗装板によるアンモニア吸着量に対応する濃度である。アンモニアの吸着率(%)は、(Cb/20)×100で表わされる。
試料の面積 :100×200 mm
試料容器 :5リットルデシケータ
容器のガス量:5リットル
ガス初期濃度:アンモニア20ppm
ガス測定方法:アンモニア検知管
試験室温度 :20℃
測定時間 :24時間
【0096】
2.脱着試験
大気雰囲気の容器中にアンモニアを吸着した各アルミニウム塗装板を配置し、アンモニアを脱着させた後の容器内のアンモニア濃度(Cc)を測定した。測定条件は以下の通りであった。なお、上記アンモニア濃度Cbから上記アンモニア濃度Ccを差し引いた濃度(Cd)が、アルミニウム塗装板によるアンモニア定着量に対応する濃度である。したがって、アンモニアの定着率(%)は、(Cd/Cb)×100で表わされる。
試料の面積 :100×200 mm
試料容器 :5リットルデシケータ
容器のガス量:5リットル
ガス初期濃度:アンモニア 0ppm
ガス測定方法:アンモニア検知管
試験室温度 :20℃
測定時間 :24時間
【0097】
アンモニアの吸着率が35%以上で定着率が80%以上の場合を、アンモニア吸着性を満足する合格とした。
【0098】
ホルムアルデヒド吸着性、アセトアルデヒド吸着性
上記アンモニア吸着試験において、ホルムアルデヒドの初期濃度を15ppmとし、アセトアルデヒドでは20ppmとし、ガス測定方法としてホルムアルデヒド吸着管又はアセトアルデヒド吸着管を用いた以外は、アンモニア吸着試験と同様にしてホルムアルデヒド吸着試験又はアセトアルデヒド吸着試験を行ない、ホルムアルデヒド又はアセトアルデヒドの吸着率を測定した。更に、上記アンモニア脱着試験において、ガス測定方法としてホルムアルデヒド吸着管又はアセトアルデヒド吸着管を用いた以外は、アンモニア脱着試験と同様にしてホルムアルデヒド脱着試験又はアセトアルデヒド脱着試験を行ない、ホルムアルデヒド又はアセトアルデヒドの定着率を測定した。
【0099】
ホルムアルデヒドの吸着率が40%以上で定着率が30%以上の場合を、アセトアルデヒドの吸着率が55%以上で定着率が90%以上の場合を、ホルムアルデヒド吸着性又はアセトアルデヒド吸着性を満足する合格とした。
【0100】
表3に示すように実施例1〜14はいずれも、初期及びサイクル試験後の親水性、耐汚染性、成形性、カーボンブラック分散性、ならびに、臭気成分であるアンモニアとホルムアルデヒドを用いた吸着率と定着率に関する吸着性が良好であった。特に、烏龍茶抽出物を含有しているものは、耐汚染性、臭気成分の吸着性に優れている。その中でも、烏龍茶成分に加えて緑茶成分又は紅茶成分を含有している例は臭気成分の吸着性に優れており、特に緑茶成分を含んだ例は臭気成分の吸着性に際立って優れている。
また、潤滑性被膜を形成したものは、成形性に際立って優れている。
【0101】
これに対し、比較例1、2では、親水性被膜中にカーボンブラックが含有されていないため、臭気成分の吸着性を満足することは出来なかった。また、比較例3は、親水性被膜の親水性樹脂がセルロース系であるため、親水性を満足することは出来なかった。比較例4は、カーボンブラックの含有量が少な過ぎたことから、臭気成分の吸着性を満足することは出来なった。比較例5、6は、一次粒径が大き過ぎたため、親水性被膜中にカーボンブラックの凝集物が発生し、臭気成分の吸着性・脱着性を満足することは出来なかった。比較例7は、親水性被膜の膜厚が薄過ぎたため、サイクル試験後の親水性、ならびに、臭気成分の吸着性を満足することが出来なかった。
【0102】
表5に示すように、実施例15〜31ではいずれも、親水性、成形性、被膜密着性、カーボンブラック分散性、及び臭気成分(アンモニア・アセトアルデヒド)の吸着性に不具合は見られず、十分に満足していた。
これら実施例の中でも、烏龍茶抽出物を含有している実施例27〜31では、臭気物質の吸着性に優れていた。その中でも、緑茶成分又は紅茶成分を更に含有している実施例28〜31では、臭気物質の吸着性及び定着性に優れていた。成形性に関しては、潤滑性被膜を備えた実施例30及び31において特に優れていた。
【0103】
これに対して、比較例8及び9では、親水性被膜中にカーボンブラックが含有されていないため、臭気成分の吸着性を満足することができなかった。また、比較例10では、フミン酸が表面に付着されたカーボンブラックを親水性被膜中に含有することにより、臭気物質の吸着性は良好だったものの、親水性樹脂にセルロース系樹脂を用いたため、親水性を満足することができなかった。比較例11では、カーボンブラックの含有量が少な過ぎたため、臭気物質の吸着性を満足することができなかった。比較例12は、カーボンブラックの含有量が多過ぎたため、被膜密着性を確保できなかった。比較例13は、親水性被膜の膜厚が薄過ぎたため、親水性と臭気成分の吸着性を満足できなかった。
【0104】
実施例32〜48及び比較例14〜22
表6に示すように、樹脂成分として、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくとも一方からなるもの、或いは、アクリル樹脂と鹸化度92〜99モル%で平均重合度1800のポリビニルアルコール(PVA)とからなるもの、カーボンブラックとして所定の一次粒子径を有するもの、抗菌防黴剤として、ジンクピリチオン(ZPT)、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール(TBZ)を含有する親水性被膜用の組成物を調製した。実施例48では、カーボンブラックと抗菌防黴剤の他に烏龍茶成分と緑茶成分も加えた親水性被膜を用いた。
【0105】
親水性被膜用組成物及び潤滑性被膜用組成物の溶媒には水を用いた。表6に示す各成分の含有量は、溶媒である水1リットル中における重量部を示す。ここで、表6に示す100重量部とは、具体的には100gである。
【0106】
【表6】

【0107】
アルミニウム材表面には、親水性被膜を以下のようにして形成した。アルミニウム合金板(1100−H24材、0.100mm厚さ)を弱アルカリ脱脂し、水洗した後に乾燥した。次いで、このように処理したアルミニウム合金板表面に、塗布型クロメート(日本ペイント社製SAT427)を塗布し、180℃で10秒間焼付けし、金属クロム換算にて、クロム付着量が10mg/mの塗布型クロメート系の化成皮膜を下地皮膜として形成した。次に、このアルミニウム合金板に、表1に示す各親水性被膜用組成物をロールコーターにて塗布し、到達板表面温度(PMT)200℃で20秒間焼付けしてアルミニウム塗装板を得た。なお、実施例46〜48では、親水性被膜用組成物と潤滑性被膜組成物の混合溶液を用いて、実施例1と同様にして塗布、焼付けしてアルミニウム塗装板を得た。
【0108】
このようにして得られたアルミニウム塗装板について親水性、耐汚染性、成形性、被膜密着性、カーボンブラック分散性、抗菌防黴性を後述の方法で測定した。結果を、表7に示す。
【0109】
【表7】

【0110】
まず試料を以下のようにして前処理した。各試料を揮発性プレス油(出光興産社製ダフニAF−2A)に1分間浸漬し、これを取り出した後に室温で試料を垂直に30秒間保持して油を切った。次いで、180℃の熱風炉中(大気雰囲気)に2分間投入した後に室温まで冷却した。
【0111】
親水性、耐汚染性、成形性、カーボンブラック分散性については、実施例1と同様にして評価し、被膜密着性については実施例15と同様にして評価した。抗菌防黴性については、下記の方法によって評価した。
【0112】
抗菌防黴性
1.抗菌性試験
JIS Z2801に従って試料を抗菌性試験(フィルム密着法)に供し、式R=log(A/B)を用いて抗菌活性値を求めた。ここで、R、A及びBは以下の通りである。
R:抗菌活性値
A:ブランク試料の培養後の生菌数平均値
B:抗菌加工試料の培養後の生菌数平均値
評価結果である表2中の記号の意味は以下の通りであり、○を性能を満足する合格とした。
○:Rが2.0以上であり、良好であることを示す。
×:Rが2.0未満であり、不良であることを示す。
【0113】
2.防黴性試験
JIS Z2911に従って試料をかび抵抗性試験に供し、菌糸の発育状況を肉眼で観察した。評価結果である表2中の記号の意味は以下の通りであり、3を、性能を満足する合格とした。
3:試料の接種した部分に菌糸の発育が認められない。
2:試料の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が、全表面積の1/3を超
えない。
1:試料の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積が、全表面積の1/3を超
える。
【0114】
表2に示すように実施例32〜48はいずれも、初期及びサイクル試験後の親水性、耐汚染性、成形性、被膜密着性、カーボンブラック分散性、ならびに、抗菌防黴性が良好であった。実施例33〜36、38、40、41及び45〜47では、抗菌防黴剤を添加しても、親水性が特に優れていた。また、潤滑性被膜を形成した実施例46及び47では、成形性に際立って優れていた。
【0115】
これに対し、比較例14、15では、親水性被膜中にカーボンブラック及び抗菌防黴剤が含有されていないため、耐汚染性及び抗菌防黴性を満足することができなかった。また、比較例16では、親水性被膜の親水性樹脂がセルロース系であり、かつ、抗菌防黴剤を含有していなかったため、親水性、耐汚染性及び抗菌防黴性を満足することができなかった。比較例17ではカーボンブラックの含有量が少な過ぎ、比較例18ではカーボンブラックを含有していなかったことから、いずれもサイクル試験後の親水性、ならびに、耐汚染性を満足できなかった。比較例19では抗菌防黴剤の塗装板単位面積当たりの存在量が少な過ぎたため、抗菌性及び防黴性を満足することができなかった。比較例20では抗菌防黴剤の被膜含有量が少な過ぎたため、防黴性を満足することができなかった。比較例21では、抗菌防黴剤の被膜含有量が多すぎたため、親水性、耐汚染性、成形性、被膜密着性の被膜特性を満足することができなかった。比較例22は、被膜厚が薄過ぎたため、親水性、耐汚染性、成形性の被膜物性を満足することができず、また、抗菌防黴剤の塗装板単位面積当たりの存在量が少な過ぎたため、抗菌性及び防黴性を満足することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明により、親水性、耐汚染性、成形性、被膜密着性、臭気成分の吸着性、抗菌防黴性において優れた性能を発揮する親水性被膜を表面に備えるアルミニウム塗装板が得られ、さらにこのアルミニウム塗装板を加工成形することにより得られる空調機の熱交換用フィン等の熱交換器は、長期に亘って優れた熱交換効率を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金の基材と、当該基材の少なくとも一方の面に形成した親水性被膜とを備えたアルミニウム塗装板であって、
前記親水性被膜が、ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の少なくとも一方の親水性樹脂と、12〜40nmの一次粒子径を有するカーボンブラックとを含有し、当該カーボンブラックが前記親水性樹脂100重量部に対して1〜200重量部含有され、当該親水性被膜の平均膜厚が0.01〜15μmであることを特徴とするアルミニウム塗装板。
【請求項2】
前記カーボンブラックが、カルボキシル基、水酸基及びこれらの塩から選択される少なくとも一種を有する芳香族化合物が表面に付着しているものであり、カーボンブラック100重量部に対して芳香族化合物が0.5〜100重量部付着している、請求項1に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項3】
前記芳香族化合物がフミン酸類である、請求項2に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項4】
前記親水性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂を更に含有し、当該親水性樹脂100重量部中に前記ポリビニルアルコール系樹脂が5〜95重量部含有される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項5】
前記親水性被膜が、前記親水性樹脂100重量部に対して0.1〜25重量部の烏龍茶成分を更に含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項6】
前記親水性被膜が、前記親水性樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部の緑茶成分及び紅茶成分の少なくとも一方を更に含有する、請求項5に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項7】
前記親水性被膜上にポリエチレングリコール系樹脂を主成分とする潤滑性被膜を更に備え、当該潤滑性被膜の平均膜厚が0.01〜3μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項8】
前記基材の表面に、クロム系、ジルコニウム系及びチタン系から成る群から選択される少なくとも一種の化成処理皮膜であって金属元素換算にて2〜50mg/m2の金属を含有する化成処理皮膜が形成された、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項9】
前記基材の表面に、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂及びアクリル系樹脂から成る群から選択される少なくとも一種から成る0.1〜10g/mの量の有機皮膜が形成された、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板を用いたプレコートアルミニウムフィン材。
【請求項11】
前記親水性被膜が抗菌防黴剤を更に含有し、当該抗菌防黴剤が前記親水性樹脂100重量部に対して0.5〜400重量部含有され、かつ、当該アルミニウム塗装板の単位面積(1m)当たり0.005〜10.0gの量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項12】
前記抗菌防黴剤がビス−(2−ピリジルチオ−1−オキシド)−ジンク、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)−ピリジン及び2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールから成る群から選択される少なくとも一つを含有する、請求項11に記載のアルミニウム塗装板。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のアルミニウム塗装板を用いたプレコートアルミニウムフィン材。

【公開番号】特開2008−1080(P2008−1080A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276727(P2006−276727)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】