説明

アルミニウム多孔質焼結体の製造方法およびアルミニウム多孔質焼結体

【課題】孔径500μm以下の微小・整寸の開孔を有する高気孔率の均質な発泡アルミニウムを得ることができるアルミニウム多孔質焼結体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】アルミニウム粉末に焼結助剤元素を含む焼結助剤粉末を混合してアルミニウム混合原料粉末とし、このアルミニウム混合原料粉末を気孔を含む焼結前成形体とし、その焼結前成形体を非酸化性雰囲気にて加熱焼成することによりアルミニウムの多孔質焼結体を製造するアルミニウム多孔質焼結体の製造方法において、上記焼結助剤元素としてチタンを用い、かつ上記アルミニウム混合原料粉末が融解を開始する温度をTm(℃)としたときに、上記加熱焼成温度T(℃)をTm−10(℃)≦T≦685(℃)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、リチウムイオン二次電池や電気二重層型キャパシタの集電体や、熱膨張係数が異なるアルミニウム合金を接合する際の緩衝材として用いて好適なアルミニウム多孔質焼結体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン電池や電気二重層型のキャパシタの正極集電体として一般的にアルミニウム箔が用いられている。そして、近年、これらの電池やキャパシタが電気自動車などにも用いられるようになり、そのような用途拡大に伴って電池やキャパシタにおける電極集電体の高出力化、高エネルギー密度化が要求され、特許文献1および2に示すように、電極集電体として三次元網目構造の開気孔を有するアルミニウム多孔質体が知られるようになりつつある。
【0003】
このようなアルミニウム多孔質体の製造方法としては、例えば、特許文献3に開示されるように、溶融アルミニウムに増粘剤を加えて増粘させた後に、発泡剤としての水素化チタンを添加して、水素化チタンの熱分解反応によって生じる水素ガスを利用して溶融アルミニウムを発泡させつつ固化させる発泡溶融法が知られている。しかしながら、同方法によって得られる発泡アルミニウムは、数mmの大きな閉気孔を有するものであった。
【0004】
その他、第2の方法として、スポンジウレタンを中子にした鋳型にアルミニウムを圧入し、ウレタンが焼失して形成される空洞にアルミニウムを充填することにより、スポンジ骨格の発泡アルミニウムを得る方法がある。同方法によれば、40PPI以下の孔径、すなわち、1インチ当たり40セル以下の孔径(孔径約600μm以上)の開気孔を有する発泡アルミニウムが得られる。
【0005】
さらに、第3の方法として、特許文献4に開示されるように、中空セラミックスからなる強化材にアルミニウム合金を加圧浸透させて、強化材の寸法に応じた500μm以下の孔径の閉気孔を有する発泡アルミニウムを得る方法もある。
【0006】
また、第4の方法として、特許文献5に開示されるように、AlSi合金粉末とTiH2粉末との混合粉末をアルミニウム板材に挟んで加熱圧延することによって、TiH2粉末の分解によりアルミニウムを発泡させる方法があるものの、同方法によって得られる発泡アルミニウムは、数mm単位の大きな孔径を有するものである。
【0007】
さらには、第5の方法として、特許文献6に開示されるように、アルミニウムとの共晶温度がアルミニウムの融点よりも低い金属をアルミニウムに混合し、共晶温度よりも高くアルミニウムの融点よりも低い温度に加熱焼成する方法があるものの、同方法によって得られる発泡アルミニウムは、孔径を小さくすることができても気孔率が40%前後と小さい。このため、集電体としての発泡アルミニウムの気孔に浸透する正極活物質や負極活物質の量が少なく、所望の高出力化、高エネルギー密度化が図れない。
【0008】
従って、上述の発泡溶融法および第2〜第5の方法の中では、高出力化、高エネルギー密度化の目的を達成し得る微小の開気孔を有する発泡アルミニウムを製造する方法として、スポンジウレタンを中子にした鋳型にアルミニムを圧入する第2の方法が採用されうる。
【0009】
しかしながら、この第2の方法であっても、さらに開気孔の孔径を小さくするためには、目の細かいスポンジウレタンを用いざるを得ず、アルミニウムの流れが悪くなって圧入不能となったり、鋳造圧力が高くなりすぎたりすることから、40PPIよりも小孔径の発泡アルミニウムを製造することは困難である。
【0010】
これに対して、多数の微小の開気孔が均等に配置された小孔径・整寸の開気孔を有する高気孔率の発泡金属を製造する方法として、特許文献7に示すように、金属粉および発泡剤を含有する発泡性スラリーを発泡させ、乾燥させた後に焼結させるスラリー発泡法がある。同方法によれば、焼結可能な原料粉末が入手できれば、約10PPI〜約500PPI、すなわち、孔径2.5mm〜50μmの範囲の任意の孔径の整寸な開気孔を有する高気孔率の発泡金属を容易に製造することができる。なお、スラリー発泡法は、上述のように発泡剤を含有させることによって発泡させ、あるいは気体の注入や攪拌によって発泡させることにより、その発泡状態のまま発泡性スラリーなどを上述のように焼結させて発泡金属を得る方法を意味する。
【0011】
しかし、従来、スラリー発泡法では発泡アルミニウムを製造することは困難であった。
その理由について述べると、このスラリー発泡法では、金属粉末に圧縮等の応力をかけることなく焼結するフリーシンタリングによって焼結して発泡金属を得ることになる。しかし、アルミニウム粉末は表面に数nm〜数10nmの緻密な酸化アルミニウム被膜で覆われていて、それが固相、液相を問わずに焼結を阻害する。そのためにフリーシンタリンングでは焼結が困難であって、そのためスラリー発泡法で均質な発泡アルミニウムが得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3591055号公報
【特許文献2】特開2009―43536号公報
【特許文献3】特開平08−209265号公報
【特許文献4】特開2007−238971号公報
【特許文献5】特表2003−520292号公報
【特許文献6】特公昭61−48566号公報
【特許文献7】特許第3535282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、このアルミニウム粉末をフリーシンタリングする方法として上述の第5の方法に、スラリー発泡法を組み合わせた手法を採用し、アルミニウムとの共晶温度がアルミニウムの融点よりも低い金属である銅粉末を発泡材とともにアルミニウムに混合し、共晶温度よりも高くアルミニウムの融点よりも低い温度に加熱焼成して発泡アルミニウムを得ても、その表面にアルミニウムの液滴が滲み出し、それが凝固した多数の半球状のアルミニウムの塊が形成されてしまう。特に、発泡アルミニウムが薄板状であると、図4に示すように、アルミニウムの塊の形成が顕著であり、所望の均質な発泡アルミニウムを製造することができなかった。
【0014】
一方、例えば窒化アルミニウム製のパワーモジュール基板に、アルミニウム製の放熱板を接合する場合のように、アルミニウムとアルミニウム合金や、組成の異なるアルミニウム合金同士を接合する場合には、一般にロウ付け等の接合方法が採用されているが、これらのアルミニウムとその合金間においては、互いの熱膨張係数が異なるために、当該熱膨張係数の相違に起因して接合時に発生する熱応力により、接合の信頼性が低下したり、あるいは接合強度が低下したりするという問題点があった。
【0015】
このような問題点を解消する手段として、互いに組成の異なるアルミニウムまたはアルミニウム合金同士を接合する際に、両者間に緩衝材として全体気孔率が10〜70%程度の多孔質のアルミニウム合金を介在させてロウ付け等により接合すると、効果的であることが知られている。
【0016】
そこで、従来、上記緩衝材としてAl−Cu系や、Al−Si系などの共晶組成の多孔質アルミニウム合金を用いる方法が多く採用されている。
ところが、この種の多孔質アルミニウム合金を用いた場合においても、液相発生によって融点が低下する結果、上記接合時の耐熱性が低下し、このため使用条件(特に、使用される温度条件)によっては、実際の使用に耐え得ないことがあった。
【0017】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、孔径が40PPI以上、すなわち600μm以下の微小・整寸の開気孔を有する高気孔率の均質な多孔質のアルミニウムを得ることができるアルミニウム多孔質焼結体の製造方法を提供することを課題とする。また、高出力化、高エネルギー密度化が要求される電池やキャパシタの正極集電体や、熱膨張係数が異なるアルミニウム合金を接合する際の緩衝材として用いて好適なアルミニウム多孔質焼結体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、アルミニウム粉末にチタンを含む焼結助剤粉末を混合して所定の範囲の温度で加熱焼成すると、フリーシンタリングであっても、液滴の塊が生成することなく焼結できる条件があることを見出し、請求項1に記載の本発明を完成するに至ったものである。
【0019】
すなわち、請求項1に記載の発明は、アルミニウム粉末に焼結助剤元素を含む焼結助剤粉末を混合してアルミニウム混合原料粉末とし、このアルミニウム混合原料粉末を気孔を含む焼結前成形体とし、その焼結前成形体を非酸化性雰囲気にて加熱焼成することによりアルミニウムの多孔質焼結体を製造するアルミニウム多孔質焼結体の製造方法において、上記焼結助剤元素がチタンであり、かつ上記アルミニウム混合原料粉末が融解を開始する温度をTm(℃)としたときに、上記加熱焼成温度T(℃)がTm−10(℃)≦T≦685(℃)であることを特徴としている。
【0020】
ここで、非酸化性雰囲気とは、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気を含めアルミニウム混合原料粉末を酸化させない雰囲気であることを意味する。また、上述の加熱焼成温度は、アルミニウム混合原料粉末の温度ではなく、すなわち、アルミニウム混合原料粉末の反応温度などを測定したものでなく、アルミニウム混合原料粉末の周囲の保持温度を意味するものである。
【0021】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法において、上記アルミニウム粉末の平均粒子径が2〜200μmであることを特徴としている。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法において、上記焼結助剤粉末の平均粒子径をr(μm)、上記焼結助剤粉末の配合比をW質量%としたときに、1(μm)≦r≦30(μm)、1≦W≦20(質量%)であり、かつ0.1≦W/r≦2であることを特徴としている。
【0023】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法において、上記焼結助剤粉末がチタンおよび/または水素化チタンであることを特徴としている。
【0024】
次いで、請求項5に記載の発明は、アルミニウム焼結素地に、Al−Ti化合物が分散して分布したアルミニウム多孔質焼結体であって、上記アルミニウム焼結素地は、アルミニウム粒子とアルミニウム粒子との焼結体であり、かつ上記Al−Ti化合物粒子は、アルミニウム粒子とチタン粒子の焼結合成反応によって生成したAl−Ti化合物粒子であり、上記Al−Ti化合物粒子は、上記アルミニウム焼結素地の上記アルミニウム粒子と焼結しており、かつ上記アルミニウム焼結素地のアルミニウム粒子間に空隙が形成されることにより、全体気孔率が10〜70%であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法によれば、アルミニウム粉末にチタンを含む焼結助剤粉末を混合したアルミニウム混合原料粉末をTm−10(℃)≦T≦685(℃)にて加熱焼成することによって、直線長さ100μmあたり2ヶ以上の開孔を有するアルミニウム多孔質焼結体を得ることができる。
【0026】
ここで、加熱焼成温度をTm−10(℃)以上に限定した理由は、アルミニウム混合原料粉末に含まれるアルミニウム粉末とチタンを含む焼結助剤粉末が反応を開始する温度がTm−10(℃)だからである。アルミニウムの融点をTmと記載したのは、純粋なアルミニウム融点は660℃であるが、工業的に利用されるアルミニウムは不純物として鉄やシリコンを含有するので融点は660℃よりも低くなるからである。他方、加熱焼成温度を685℃以下に限定した理由は、その温度よりも高い温度に加熱保持すると、焼結体にアルミニウムの液的状の塊が発生するようになるからである。
【0027】
また、上記アルミニウム粉末は、上記粘性組成物が所望の形状に成形可能な程度に粘性を有し、その粘性組成物に気泡を混合させた状態で乾燥させた焼結前成形体が所望のハンドリング強度を有するようするように調製される。すなわち、その平均粒子径が小さくなると、アルミニウム粉末の質量に対する水溶性樹脂結合剤の質量を多くして、上記粘性やハンドリング強度を確保する必要があるものの、水溶性樹脂結合剤の質量が多くなると焼結前成形体を加熱焼成する際にアルミニウム中に残存する炭素量が増加して、焼結反応が阻害されてしまう。他方、アルミニウム粉末の粒子径が大きすぎると、多孔質焼結体の強度が低下してしまう。従って、請求項2に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法のように、好ましくはアルミニウム粉末の平均粒子径を2μm以上として水溶性樹脂結合剤の質量を多くすることによる焼結反応の阻害を防止し、かつ200μm以下として多孔質焼結体の強度を確保する。さらに好ましくはアルミニウム粉末の平均粒子径を7μm〜40μmとする。
【0028】
さらに、焼結助剤粉末は、請求項3に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法のように、その平均粒子径r、配合比W質量%を1(μm)≦r≦30(μm)、0.1(質量%)≦W≦20(質量%)、0.1≦W/r≦2とすることが好ましい。
これは、焼結助剤粉末の配合比Wが20質量%を超えるとアルミニウム混合原料粉末中で焼結助剤粉末同士が接点を持つようになって、アルミニウムとチタンの反応熱を制御できなくなるとともに所望の多孔質焼結体が得られないようになるので、0.1(質量%)≦W≦20(質量%)とする。
【0029】
また、0.1(質量%)≦W≦20(質量%)の範囲内であっても、焼結助剤粉末の粒子径によってはアルミニウムとチタンの反応熱が大きくなりすぎる場合があり、反応熱によって溶解したアルミニウムの温度がさらに上昇して粘性が下がり、液滴を生じてしまう場合があった。
【0030】
そこで、種々の条件で作製した試験片を電子顕微鏡で観察した結果から、発熱量をチタンの配合量および粒子径で制御できる範囲内では、チタン粒子の露出表面側からほぼ一定の厚さの表層部だけがアルミニウム反応していることがわかった。これにより、液滴の発生を防止するためには1(μm)≦r≦30(μm)、かつ0.1≦W/r≦2であることが望ましいことを実験的に導出した。
【0031】
なお、0.1≦W/r≦2の意味について、焼結助剤粉末にチタンを利用する場合にて以下に説明すると、チタンの平均粒子径をr、チタンの粒子数をN、チタンの添加質量をw、チタンの比重をD、アルミニウムとの反応によるチタン粒径の減少量をdとすると、反応熱量Qは反応したチタンの体積に比例することから、Q∝4πr2dNである。さらに、チタン粒子の添加量は、チタン粒子1個の平均体積とチタン粒子の数との積により算出されることから、w=4/3πr3DNである。よって後者の式を前者の式に代入すると、Q∝3wd/rDとなる。ここで、3/Dが定数であること、ならびにdが焼結条件によらずほぼ一定であるという観察結果からQ∝w/rである。従って、液滴が発生しないW/rの範囲を実験的に求めて上述のように限定することによって、アルミニウムとチタンの反応熱が大きすぎることによる液滴の発生を防止するものである。
【0032】
また、焼結助剤粉末としての水素化チタンは、そのチタン含有量が95質量%以上である上に、470〜530℃にて脱水素してチタンとなるため、上述の加熱焼成により熱分解してチタンとなる。このため、請求項4に記載の発明のように、焼結助剤粉末としてチタンおよび/または水素化チタンを用いることによって、アルミニウム粉末との反応効率を高めることができる。
【0033】
さらに、請求項1〜4のいずれかに記載の発明と、既知のスラリー発泡法とを組み合わせることにより、孔径600μmよりも小さい微小・整寸の開気孔を有する高気孔率の均質な発泡アルミニウム多孔質焼結体を得ることが可能である。
【0034】
すなわち、この方法は、上記アルミニウム混合原料粉末に、水溶性樹脂結合剤と、水と、多価アルコール、エーテルおよびエステルのうちの少なくとも1種からなる可塑剤とを混合して粘性組成物とし、この粘性組成物に上記気泡を混合させた状態で乾燥させて上記焼結前成形体とし、次いで、この焼結前成形体を上記加熱焼成してアルミニウム多孔質焼結体を製造するもので、スラリー発泡法によって形成されるスポンジ骨格で囲まれてなる気孔と、請求項1の焼結法によりスポンジ骨格自体に形成される気孔との2種類の形態の異なる気孔を有する多孔質体が得られる。
【0035】
この際に、上記粘性組成物は、炭素数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤の添加によって発泡させて気泡を混合させることができる。
【0036】
また、上記水溶性結合剤は、アルミニウム混合原料粉末の質量の7%を超えて含まれると、加熱焼成する際に焼結前成形体などに残留する炭素量が増加して、焼結反応が阻害される。他方、0.5%未満であると、焼結前成形体のハンドリング強度を確保することができない。このため、アルミニウム混合原料粉末の質量の0.5%〜7%の範囲内で含まれていることが好ましい。
【0037】
これに加え、アルミニウム混合原料粉末に界面活性剤を添加することにより、効果的に気泡を生成させることができ、この界面活性剤の添加量をアルミニウム混合原料粉末の質量の0.02%以上とすることによって、上記界面活性剤の添加による効果を得ることができ、3%以下とすることによって、焼結前成形体などに残存する炭素量が増加することによる焼結反応の阻害を防止できる。
【0038】
さらには、粘性組成物を厚さ0.05mm〜5mmの厚さに引き伸ばして焼結前成形体を板状成形体とすることによって、この板状成形体を焼結させることにより、リチウムイオン二次電池や電気二重層型キャパシタの集電体として好適な、70〜90%の全体気孔率を有するリアルミニウム多孔質焼結体を得ることができる。
【0039】
これに対して、請求項1〜4のいずれかに記載の発明を、既知のスラリー発泡法と組み合わせること無く、アルミニウム粉末に焼結助剤元素を含む焼結助剤粉末を非酸化性雰囲気にて上記加熱焼成温度T(℃)で加熱焼成することにより、アルミニウム粉末に焼結助剤元素を含む焼結助剤粉末を混合する際に混入した気泡によって、請求項5に記載の発明のような10〜70%の全体気孔率を有するアルミニウム多孔質焼結体を得ることができる。
【0040】
そして、この様にして得られたアルミニウム多孔質焼結体は、チタン粒子を焼結助剤として用いることにより、当該チタン粒子がアルミニウム粒子との焼結反応における焼結促進効果を発揮することに加えて、さらに反応物として上記アルミニウム焼結素地のアルミニウム粒子と焼結したAl−Ti化合物が形成される。
このAl−Ti化合物粒子は、高融点(約1350℃)であるとともに、上記アルミニウム多孔質焼結体は、全体気孔率が10〜70%であるために、上述した互いに組成の異なるアルミニウムまたはアルミニウム合金同士をロウ付け等によって接合する際に、両者間に緩衝材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の発泡アルミニウムのSEM写真である。
【図2】図1の一部拡大SEM写真図である。
【図3】比較例1の発泡アルミニウムのSEM写真である。
【図4】アルミニウム粉末をフリーシンタリングする方法としての従来技術における第5の方法にスラリー発泡法を組み合わせた手法にて得られた発泡アルミニウムの写真である。
【図5】本発明に係るアルミニウム多孔質焼結体の熱分析結果を示すグラフである。
【図6】従来のAl−Si系アルミニウム多孔質体の熱分析結果を示すグラフである。
【図7】従来のAl−Cu系アルミニウム多孔質体の熱分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係るアルミニウム多孔質焼結体の製造方法について説明する。
【0043】
本実施形態のアルミニウムの製造方法は、アルミニウム粉末にチタンおよび/または水素化チタンを混合してアルミニウム混合原料粉末とするアルミニウム混合原料粉末調製工程と、このアルミニウム混合原料粉末に水溶性樹脂結合剤と水等を混合して気泡を含むスラリー状の粘性組成物を調製する粘性組成物調製工程と、この粘性組成物を乾燥させて焼結前成形体を得る焼結前工程と、焼結前成形体を非酸化性雰囲気にてTm−10(℃)≦加熱焼成温度T≦685(℃)で加熱焼成する焼結工程とを有する。なお、Tm(℃)は、アルミニウム混合原料粉末が溶解を開始する温度である。
【0044】
このアルミニウム混合原料粉末調製工程では、アルミニウム粉末として平均粒子径2〜200μmのものが用いられる。これは、平均粒子径が小さくなると、アルミニウム粉末に対して水溶性樹脂結合剤を多量に加えて、粘性組成物が所望の形状に成形可能な程度に粘性を有するように、かつ焼結前成形体がハンドリング強度を有するようにする必要がある。しかしながら、水溶性樹脂結合剤を多量に加えると、焼結前成形体を加熱焼成する際にアルミニウム中に残存する炭素量が増加して、焼結反応が阻害されてしまう。他方、アルミニウム粉末の粒子径が大きすぎると、アルミニウム多孔質焼結体の強度が低下してしまう。そこで、アルミニウム粉末としては、上述のように平均粒子径2〜200μmの範囲内、より好ましくは7μm〜40μmの範囲内のものが用いられる。
【0045】
さらに、このアルミニウム粉末にチタンおよび/または水素化チタンを混合する。これは、アルミニウム粉末にチタンを混合して、焼結前成形体をTm−10(℃)≦加熱焼成温度T≦685(℃)にて加熱焼成することによって、液滴の塊を生成させることのないアルミニウムのフリーシンタリングが可能となるためである。また、水素化チタン(TiH2)は、そのチタン含有量が47.88(チタンの分子量)/(47.88+1(水素の分子量)×2)で95質量%以上である上に、470〜530℃にて脱水素してチタンとなるため上述の加熱焼成により熱分解してチタンとなる。従って、水素化チタンを混合した場合にも液滴の塊を生成させることのないアルミニウムのフリーシンタリングが可能となる。
【0046】
その際、チタンあるいは水素化チタンの平均粒子径をr(μm)、チタンあるいは水素化チタンの配合比をW質量%としたときにの配合比をW質量%としたときに、1(μm)≦r≦30(μm)、0.1(質量%)≦W≦20(質量%)であり、かつ0.1≦W/r≦2とする。すなわち、平均粒子径4μmの水素化チタン粉の場合に、配合比Wは、0.1≦W/4≦2であることから0.4〜8質量%となり、平均粒子径20μmのチタン粉の場合に、配合比Wは、0.1≦W/20≦2であることから2〜40質量%となるが、0.1(質量%)≦W≦20(質量%)から2〜20質量%となる。
【0047】
また、水素化チタンの平均粒子径は0.1(μm)≦r≦30(μm)としたが、より好ましくは4(μm)≦r≦20(μm)とする。このようにしたのは、1μm以下であると、自然発火する恐れがあり、一方、30μmを超えると、前記水素化チタンは焼結後にアルミニウムとチタンとの化合物が被覆したチタン粒子になるが、そのアルミニウムとチタンの化合物相がチタン粒子から剥離しやすくなって、焼結体に所望の強さが得られなるためである。
【0048】
さらに、0.1(質量%)≦W≦20(質量%)としたのは、焼結助剤粉末の配合比Wが20質量%を超えるとアルミニウム混合原料粉末中で焼結助剤粉末同士が接点を持つようになって、アルミニウムとチタンの反応熱を制御できなくなるとともに所望の多孔質焼結体が得られないようになるためである。
【0049】
また、0.1(質量%)≦W≦20(質量%)の範囲内であっても、焼結助剤粉末の粒子径によってはアルミニウムとチタンの反応熱が大きくなりすぎる場合があり、反応熱によって溶解したアルミニウムの温度がさらに上昇して粘性が下がり、液滴を生じてしまう場合があった。
【0050】
そこで、種々の条件で作製した試験片を電子顕微鏡で観察した結果から、発熱量をチタンの配合量および粒子径で制御できる範囲内では、チタン粒子の露出表面側からほぼ一定の厚さの表層部だけがアルミニウム反応していることがわかった。これにより、液滴の発生を防止するためには1(μm)≦r≦30(μm)、かつ0.1≦W/r≦2であることが望ましいことを実験的に導出した。
【0051】
なお、0.1≦W/r≦2の意味について、焼結助剤粉末にチタンを利用する場合を説明すると、チタンの平均粒子径をr、チタンの粒子数をN、チタンの添加質量をw、チタンの比重をD、アルミニウムとの反応によるチタン粒径の減少量をdとすると、反応熱量Qは反応したチタンの体積に比例することから、Q∝4πr2dNである。さらに、チタン粒子の添加量は、チタン粒子1個の平均体積とチタン粒子の数との積により算出されることから、w=4/3πr3DNである。よって後者の式を前者の式に代入すると、Q∝3wd/rDとなる。ここで、3/Dが定数であること、ならびにdが焼結条件によらずほぼ一定であるという観察結果からQ∝w/rである。従って、液滴が発生しないW/rの範囲を実験的に求めて上述のように限定することによって、アルミニウムとチタンの反応熱が大きすぎることによる液滴の発生を防止するものである。
【0052】
次いで、70〜90%の全体気孔率を有することにより、リチウムイオン二次電池や電気二重層型キャパシタの集電体として好適に用いられる発泡アルミニウムを製造する場合には、上記粘性組成物調製工程において、上記アルミニウム混合原料粉末に、水溶性樹脂結合剤として、ポリビニルアルコール、メチルセルロースおよびエチルセルロースの少なくともいずれか一種以上を、可塑剤として、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびフタル酸ジNブチルの少なくともいずれか一種以上をそれぞれ加えるとともに、蒸留水と、界面活性剤としてのアルキルベタインとをそれぞれ加える。
【0053】
このように、水溶性樹脂結合剤として、ポリビニルアルコール、メチルセルロースやエチルセルロースを用いることにより、その添加量が比較的少量で足りる。このため、その添加量をアルミニウム混合原料粉末の質量の0.5%〜7%の範囲内とする。これは、アルミニウム混合原料粉末の質量の7%を超えて含まれると、加熱焼成する際に焼結前成形体などに残留する炭素量が増加して焼結反応が阻害され、0.5%未満であると、焼結前成形体のハンドリング強度が確保されないためである。
【0054】
また、アルキルベタインは、アルミニウム混合原料粉末の質量の0.02%〜3%が添加される。これは、アルミニウム混合原料粉末の質量の0.02%以上とすることによって、後述の非水溶性炭化水素系有機溶剤の混合の際に気泡が効果的に生成され、3%以下とすることによって、焼結前成形体などに残存する炭素量が増加することによる焼結反応の阻害が防止される。
【0055】
そして、これらを混練した後に、さらに炭素数5〜8非水溶性炭化水素系有機溶剤を混合することにより発泡させて、気泡の混合した粘性組成物を調整する。この炭素数5〜8非水溶性炭化水素系有機溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンの少なくとも一種以上が使用可能である。
【0056】
これに対して、10〜70%の全体気孔率を有することにより、互いに組成の異なるアルミニウムまたはアルミニウム合金同士を接合する際に、両者間の緩衝材として好適に用いられるアルミニウム多孔質焼結体を得る場合には、上記粘性組成物調製工程において、上記アルミニウム混合原料粉末に、少なくとも上記水溶性樹脂結合剤および蒸留水を加えてスラリー状にする。この際に、当該スラリー状の粘性組成物中には、混合時に混入した気泡が含まれているのみであって、当該工程において積極的に発泡させて気泡を内包させることはない。
【0057】
次いで、上記いずれの場合においても、後工程である焼結前工程では、帯状のポリエチレンシートの剥離剤塗布面に、粘性組成物を厚さ0.05mm〜5mmの厚さに引き延ばして塗布し、周囲の温度および湿度を一定時間管理して、気泡を整寸化した後、大気乾燥機にて温度70度で乾燥させる。その際、粘性組成物は、ドクターブレード法、スラリー押出し法あるいはスクリーン印刷法などによって塗布する。
【0058】
そして、乾燥後の粘性組成物を、ポリエチレンシートから剥がして、必要に応じて直径100mmの円形などの所定形状に切り出して焼結前成形体が得られる。
【0059】
次いで、焼結工程では、上記焼結前成形体を、ジルコニア敷粉を敷いたアルミナセッターの上に載置して、露点が−20℃以下のアルゴン雰囲気中に520℃で1時間加熱保持する仮焼成を行う。これにより、焼結前成形体の水溶性樹脂結合剤成分、および添加している場合には、可塑剤成分、蒸留水およびアルキルベタインのバインダー溶液を飛ばす脱バインダーがなされるとともに、焼結助剤粉末として水素化チタンを用いた場合には脱水素がなされる。
【0060】
その後、仮焼成後の焼結前成形体を、Tm−10(℃)≦加熱焼成温度T≦685(℃)で加熱焼成して発泡アルミニウムを得る。
これは、焼結前成形体を融解温度Tm(℃)まで加熱することにより、アルミニウムとチタンとの反応が開始するものと考えられるものの、実際にはアルミニウムに不純物としてFeやSiなどの共晶合金元素を微量に含有して融点が低下することから、Tm−10(℃)まで加熱することによりアルミニウムとチタンとの反応が開始して発泡アルミニウムを形成するものと考えられるためである。実際に、アルミニウムの融点が660℃であるのに対して、純アルミニウム粉として流通している純度98%〜99.7%程度のアトマイズ粉では650℃前後が溶解開始温度となる。
【0061】
他方、アルミニウムとチタンの包晶温度である665℃になり、さらに融解潜熱が入熱されるとアルミニウムの焼結体が融解することから、炉内雰囲気温度を685℃以下に保つ必要がある。
【0062】
なお、焼結工程における加熱焼成は、アルミニウム粒子表面およびチタン粒子表面の酸化被膜の成長を抑制するため、非酸化性雰囲気にて行う必要がある。但し、加熱温度が400℃以下に30分間程度保持の条件であれば空気中で加熱してもアルミニウム粒子表面およびチタン粒子表面の酸化被膜はさほど成長しないので、例えば、焼結前成形体を、一旦空気中で300℃〜400℃に10分間程度加熱保持して脱バインダーした後、アルゴン雰囲気中で所定の温度に加熱して焼成してもよい。
【0063】
これにより得られた発泡アルミニウムは、有孔金属焼結体からなる三次元網目構造の金属骨格を有し、金属骨格間に空孔を有している。また、有孔金属焼結体にAl−Ti化合物が分散しており、空孔が直線長さ1cm当たりに20ヶ以上形成されて、70〜90%の全体気孔率を有し、リチウムイオン二次電池や電気二重層型キャパシタの集電体として好適に用いられる。
【0064】
また、発泡剤を添加することなく、混合時に混入した気泡のみで焼結されることによって得られたアルミニウム多孔質焼結体は、アルミニウム焼結素地のアルミニウム粒子と上記Al−Ti化合物粒子が焼結しており、かつ上記アルミニウム焼結素地のアルミニウム粒子間に空隙が形成されることにより、全体気孔率が10〜70%になる。そして、当該アルミニウム多孔質焼結体は、互いに組成の異なるアルミニウムまたはアルミニウム合金同士を接合する際に、両者間の緩衝材として好適に用いられる。
【0065】
なお、本発明は、上述の実施形態に何ら限定されるものでなく、例えば、チタンや水素化チタン以外の焼結助剤粉末を用いてもよく、焼結助剤元素としてチタンを含む焼結助剤粉末を用いればよい。
【実施例】
【0066】
(実施例1〜16)
次に、平均粒子径2.1μm、9.4μm、24μm、87μmおよび175μmのAl粉と、平均粒子径9.8μm、24μmおよび42μmのTi粉と、平均粒子径4.2μm、9.1μmおよび21μmのTiH2粉とを用意する。そして、上述の実施の形態に従って、表1に示す割合でAl粉にTi粉および/またはTiH2粉を混合したアルミニウム混合原料粉末1〜10を調製し、表2に示す配合組成でバインダー溶液1〜5を調製し、それらと非水溶性炭化水素系有機溶剤を表3に示す割合で混練して実施例1〜16の粘性組成物を製造した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
次いで、これらの実施例1〜16の粘性組成物を、ドクターブレード法にて剥離剤が塗布されたポリエチレンシートに引き伸ばして塗布し、温度および湿度を一定時間保持するよう管理して、気泡を整寸化した後、大気乾燥機にて温度70℃で乾燥させる。その際の粘性組成物の塗布厚さ並びに上記温度、湿度及び保持時間を表3に示す。そして、乾燥後の粘性組成物を、ポリエチレンシートから剥がして、直径100mmの円形に切り出して実施例1〜16の焼結前成形体を得る。
【0071】
そして、これらの実施例1〜16の焼結前成形体を、ジルコニア敷粉を敷いたアルミナセッターの上に載置して、アルゴン気流雰囲気中または大気中で脱バインダーを行った後に、加熱焼成して、発泡アルミニウムを得る。その際の加熱焼成温度と加熱焼成保持時間についても表3に示す。
【0072】
次に、これにより得られた実施例1〜16の発泡アルミニウムの収縮率と気孔率とを算出した。また、実体顕微鏡写真から3次元空孔数および走査型電子顕微鏡(SEM)写真から骨格の孔数をそれぞれ計測するとともに、同SEM写真にて液滴凝固の有無を確認し、さらには、電子線マイクロアナライザー(EPMA)による面分析によって発泡アルミニウムの骨格表面にAl−Ti化合物の有無を確認した。それらの結果を表5に示すとともに、実施例1の発泡アルミニウムのSEM写真を図1に、その一部拡大写真を図2にそれぞれ示した。
【0073】
次に、実施例1〜16の発泡アルミニウムについて、それぞれ圧下率20%にてロール圧延テストを行って割れの有無を黙視にて確認した後に、20mm×50mmの矩形状に切り出して対向角部間の電気抵抗を測定した。次いで、これらの矩形状の発泡アルミニウムをそれぞれ直径5mmの円柱体の外周に巻きつけて、割れの有無を目視にて確認した。それらの結果を表5に示した。
【0074】
(比較例1〜9)
次いで、実施例と同一のAl粉、Ti粉およびTiH2粉を用意して調製した比較アルミニウム混合原料粉末1〜5を上記アルミニウム混合原料粉末1〜9とともに用いて、表2に示すバインダー溶液1〜5によって非水溶性炭化水素系有機溶剤を表4に示す割合で混練した他は、実施例と同様にして比較例1〜9の発泡アルミニウムを製造した。そして、比較例1〜9の発泡アルミニウムを実施例と同様の方法にて評価して表5に示すとともに、比較例1の発泡アルミニウムのSEM写真を図3した。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
表5から判るように、実施例1〜16の発泡アルミニウムは、有孔金属焼結体の骨格長さ100μm当たりの孔数2〜4であるとともに、金属骨格間にある3次元空孔を1インチ当たり52ヶ以上有し、すなわち、1cm当たりに20ヶ以上有している。そして、発泡アルミニウムに液滴状の塊が生じることもなく、電機抵抗も低く、巻き付け試験による割れもなかった。従って、高出力化、高エネルギー密度化が要求される電池やキャパシタの正極集電体に適している。
【0078】
次に、活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)粉末と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdE)と、導電材として人造黒鉛粉とを重量比で86:6:8に混合して正極剤を調製し、この正極剤に溶剤としてN−メチル−2ピロリドンを混合して正極活物質スラリーを調製した。
【0079】
次いで、この正極活物質スラリーに、実施例1〜16の発泡アルミニウムおよび従来例1の発泡アルミニウムを10分間浸漬し、取り出して乾燥させた後に、圧延して厚さ0.5mmの実施例1〜16のリチウムイオン電池の正極を作製した。
【0080】
なお、従来例1の発泡アルミニウムとしては、従来技術の第2の方法であるスポンジウレタンを中子にした鋳型にアルミニウムを圧入する方法で製造した30PPIの発泡アルミニウムを用いた。また、これらの実施例1〜16の発泡アルミニウムおよび従来例1の発泡アルミニウムの正極活物質の充填密度は表5に示した。
【0081】
次いで、直径1mm、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm、3.5mm、4mm、4.5mm、5mmの円柱体をそれぞれ用意して、実施例1〜16および従来例1のリチウムイオン電池の正極を巻き付けて、活物質が剥離するか否かを目視観察し、剥離が認められなかった最小径を表5に示した。
【0082】
その結果、表5から判るように、実施例1〜16のリチウムイオン電池の正極は、直径1.5mm〜2.5mmの円柱体に巻き付けても活物質が剥離しなかったのに対して、従来例1の正極は、直径3mmの円柱体に巻き付けた段階で活物質が剥離してしまった。さらには、実施例1〜16のリチウムイオン電池の正極は、活物質の充填密度が4.1g/cm3以上であるのに対して、従来例1の正極は、活物質の充填密度が3.84.1g/cm3と小さかった。
【0083】
(他の実施例)
次に、表3で示した非水溶性炭化水素系有機溶剤を添加せずに混練して、同様にドクターブレード法にて剥離剤が塗布されたポリエチレンシートに引き伸ばして塗布し、乾燥させた後に、ポリエチレンシートから剥がして焼結前成形体を得、当該焼結前成形体を、ジルコニア敷粉を敷いたアルミナセッターの上に載置して、アルゴン気流雰囲気中または大気中で脱バインダーを行った後に、加熱焼成して、アルミニウム多孔質焼結体を得た。
【0084】
そして、このアルミニウム多孔質焼結体の融点を確認するために、熱分析(TG/DTA)を行った。また、比較例として、Al−Si系およびAl−Cu系のアルミニウム多孔質体に付いても、同様の熱分析(TG/DTA)を行った。
【0085】
図5は、本発明に係るアルミニウム多孔質焼結体の上記熱分析結果を示すものであり、図6および図7は、それぞれ比較例であるAl−Si系およびAl−Cu系のアルミニウム多孔質体の熱分析結果を示すものである。
ちなみに、本実施例においては、一例としてアルミニウムに、各々同量となる1.0重量%のTi、Si、Cu成分を配合したものを用いた。
【0086】
図6および図7に見られるように、従来のAl−Si系およびAl−Cu系のアルミニウム多孔質体においては、合金の融点を示す吸熱ピークの位置が、それぞれ566.1℃、534.8℃であるのに対して、図5に示す本発明に係るAl−Ti多孔質焼結体にあっては、644.6℃と高融点が得られた。
【0087】
したがって、本発明に係るAl−Ti多孔質焼結体によれば、耐熱性に優れ、よって互いに組成の異なるアルミニウムまたはアルミニウム合金同士をロウ付け等によって接合する際に、両者間の緩衝材として用いることにより、接合の信頼性を大幅に改善し得ることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0088】
発泡アルミニウムの製造方法として利用できる他、リチウムイオン二次電池や電気二重層型キャパシタの集電体、あるいは熱膨張係数が異なるアルミニウム合金を接合する際の緩衝材の製造方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム粉末に焼結助剤元素を含む焼結助剤粉末を混合してアルミニウム混合原料粉末とし、このアルミニウム混合原料粉末を気孔を含む焼結前成形体とし、その焼結前成形体を非酸化性雰囲気にて加熱焼成することによりアルミニウムの多孔質焼結体を製造するアルミニウム多孔質焼結体の製造方法において、
上記焼結助剤元素がチタンであり、かつ上記アルミニウム混合原料粉末が融解を開始する温度をTm(℃)としたときに、上記加熱焼成温度T(℃)がTm−10(℃)≦T≦685(℃)であることを特徴とするアルミニウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項2】
上記アルミニウム粉末は、平均粒子径が2〜200μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項3】
上記焼結助剤粉末の平均粒子径をr(μm)、上記焼結助剤粉末の配合比をW質量%としたときに、1(μm)≦r≦30(μm)、1≦W≦20(質量%)であり、かつ0.1≦W/r≦2であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項4】
上記焼結助剤粉末は、チタンおよび/または水素化チタンであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のアルミニウム多孔質焼結体の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム焼結素地に、Al−Ti化合物が分散して分布したアルミニウム多孔質焼結体であって、
上記アルミニウム焼結素地は、アルミニウム粒子とアルミニウム粒子との焼結体であり、かつ上記Al−Ti化合物粒子は、アルミニウム粒子とチタン粒子の焼結合成反応によって生成したAl−Ti化合物粒子であり、
上記Al−Ti化合物粒子は、上記アルミニウム焼結素地の上記アルミニウム粒子と焼結しており、かつ上記アルミニウム焼結素地のアルミニウム粒子間に空隙が形成されることにより、全体気孔率が10〜70%であることを特徴とするアルミニウム多孔質焼結体。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255089(P2010−255089A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186616(P2009−186616)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】