説明

アルミニウム材との異材溶接接合用鋼板および異材接合体

【課題】 アルミニウム材と接合する際に、接合の信頼性を阻害することがなく、高い接合強度を有する接合部を得ることのできる、Si、Mnなどを含む高強度鋼板と、その鋼板とアルミニウム材との異材接合体を提供することにある。
【解決手段】 質量% で、C :0.02〜0.3%、Si:0.2 〜5.0%、Mn:0.2 〜2.0%、Al:0.002 〜0.1%、を含み、更に、Ti:0.005 〜0.10% 、Nb:0.005 〜0.10% 、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%の内の1 種または2 種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板において、鋼板表面上の既存の酸化物層を一旦除去した上で新たに生成させた、鋼板の鋼生地表面上に存在する外部酸化物層であって、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物の合計長さの平均割合として50〜80% であることとし、適切な溶接条件下において、異材接合体の高い接合強度を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い接合強度を得ることができる、アルミニウム材との異材溶接接合用鋼板、および、この鋼板とアルミニウム材とを溶接接合した異材接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から、自動車等の構造物にアルミニウム系材料(純アルミニウムおよびアルミニウム合金を総称したもので、以下、単にアルミニウム材と言う)等の軽合金を適用する試みがなされている。
【0003】
しかしながら、溶接性、耐食性、成形性の点から、自動車用部材の一部に使用されるにとどまっている。このため、従来から使用されている自動車用鋼板とアルミニウム材の共存状態となり、鋼板とアルミニウム材とを組み合わせた部材には、Fe-Al 異材接合の必要性が高まりつつある。
【0004】
Fe-Al 異材接合における問題点として、接合界面に形成される高硬度で非常に脆いFeとAlとの金属間化合物層の形成がある。このため、見かけ上互いに接合されてはいても、本化合物層の生成が原因となって、十分な接合強度が得られないことが多い。
【0005】
これを反映して、従来から、これら異種接合体(異種金属部材)の接合には、ボルトやリベット等、あるいは接着剤を併用した接合がなされているが、接合継手の信頼性、気密性、コスト等の問題がある。
【0006】
そこで、従来より、これら異種接合体のスポット溶接法について多くの検討がなされてきている。例えば、アルミニウム材と鋼材の間に、アルミニウム−鋼クラッド材をインサートする方法が提案されている(特許文献1〜6参照)。また、鋼材側に融点の低い金属をめっきしたり、インサートしたりする方法が提案されている(特許文献7〜9参照)。更に、アルミニウム材と鋼材の間に絶縁体粒子を挟む方法(特許文献10参照)や、部材に予め凹凸を付ける方法(特許文献11参照)なども提案されている。
【0007】
更に、アルミニウム材の不均一な酸化膜を除去した後、大気中で200 〜450 ℃、8 時間までの加熱を行って均一な酸化膜を形成し、アルミニウム表面の接触抵抗が高められた状態で、アルミニウム−鋼2 層の複層鋼板をインサート材に用いてスポット溶接する方法も提案されている(特許文献12参照)。
【0008】
一方、鋼板の高強度化のために、Si、Mn、Alなどの酸化物を形成しやすい元素を添加すると、母材表面には、これらSi、Mn、Alなどを含む酸化物が生成することが公知である。そして、これらSi、Mn、Alなどを含む酸化物が、亜鉛めっきなどの表面被覆と鋼板との密着性を阻害することも知られている。更に一方では、鋼板を酸洗などして、これらSi、Mn、Alなどを含む酸化物層の厚みを0.05〜1 μm の範囲とすれば、亜鉛めっきなどの表面被覆と鋼板との密着性および鋼板同士のスポット溶接性が向上されることも知られている(特許文献13参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平4−55066公報(全文)
【特許文献2】特開平4−127973公報(全文)
【特許文献3】特開平4−253578公報(全文)
【特許文献4】特開平5−111778公報(全文)
【特許文献5】特開平6−63763号公報(全文)
【特許文献6】特開平7−178563号公報(全文)
【特許文献7】特開平4−251676号公報(全文)
【特許文献8】特開平7−24581号公報(全文)
【特許文献9】特開平4−14383号公報(全文)
【特許文献10】特開平5−228643号公報(全文)
【特許文献11】特開平9−174249号公報(全文)
【特許文献12】特開平6−63763号公報(全文)
【特許文献13】特開2002−294487号公報(全文)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鋼とアルミよりなる2層構造のクラッド材を用いてシーム溶接或は抵抗溶接する方法では、アルミ板と鋼板の間にクラッド材がインサートされるため、本来2枚で済む板状部材の接合に、3枚の板を使用しなければならない。このため、実際の施工を考えると、クラッド材の挿入・固定・接合の各工程が必要で作業が煩雑になるばかりでなく、接合継手の品質に対する信頼性を欠く。また、接合に使用するクラッド材は、アルミ材と鋼材との接合によって製造されるもので、製造条件上の制約も多く、安価で性能の安定したクラッド材自体の製造に高度な技術が要求される。また、その他の技術についても難点として、現状の接合ラインに新たな設備を組み入れなければならないという問題があり、溶接コストも高くなる。また、溶接条件が著しく限定されるなど作業上の問題も多い。
【0011】
一方、前記した通り、Si、Mn、Alなどを含む高強度鋼板における、母材表面に生成したSi、Mn、Alなどを含む酸化物が、亜鉛めっきなどの表面被覆と鋼板との密着性を阻害することは知られていた。また、これらSi、Mn、Alなどを含む酸化物層の厚みを上記適正範囲とすれば、逆に、亜鉛めっきなどの表面被覆と鋼板との密着性および鋼板同士のスポット溶接性が向上されることも知られている。
【0012】
しかし、これに対して、このSi、Mn、Alなどを含む高強度鋼板における母材表面に生成したSi、Mn、Alなどを含む酸化物が、この高強度鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合した際の、異材接合体における接合強度に与える影響は、これまで必ずしも明確ではなかった。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、アルミニウム材とを接合する際に、適用条件などの制約が少なく汎用性に優れると共に、接合部に脆弱な金属間化合物などが生成して接合の信頼性を阻害することがなく、高い接合強度を有する接合部を得ることのできる、Si、Mnなどを含む高強度鋼板と、その鋼板とアルミニウム材との異材接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための、本発明におけるアルミニウム材との異材溶接接合用鋼板の要旨は、質量% で、C :0.02〜0.3%、Si:0.2 〜5.0%、Mn:0.2 〜2.0%、Al:0.002 〜0.1%、を含み、更に、Ti:0.005 〜0.10% 、Nb:0.005 〜0.10% 、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%の内の1 種または2 種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板において、鋼板表面上の既存の酸化物層を一旦除去した上で新たに生成させた、鋼板の鋼生地表面上に存在する外部酸化物層であって、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物の合計長さの平均割合として50〜80% であることとする。
【0015】
ここで、上記外部酸化物層における、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物以外の残部は、Mn、Siの含有量が合計で1at%未満である酸化物と空隙であり、本発明における外部酸化物層は、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物、Mn、Siの含有量が合計で1at%未満である酸化物、空隙とから構成される。
【0016】
また、上記目的を達成するための、本発明における鋼材とアルミニウム材との異材接合体の要旨は、上記要旨の、または下記好ましい態様を含むいずれかの鋼板と、アルミニウム材とを溶接にて接合した異材接合体であって、鋼板とアルミニウム材との接合界面における反応層のナゲット深さ方向の平均厚みが0.1 〜10μmであるとともに、前記反応層の形成範囲が、線溶接では接合長の50%以上の長さ、点溶接では接合面積の50%以上の面積であることとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、Si、Mn、Alなどを含む高強度鋼板表面における、Si、Mn、Alなどを含む酸化物を適正範囲に存在させる点では、前記特許文献13と同じ方向である。
【0018】
しかし、本発明では、鋼板表面上の既存の酸化物層を、酸洗などにより一旦除去した上で、更に、酸素分圧を制御した雰囲気で焼鈍などして、新たに生成させた、鋼板の鋼生地表面上に存在する外部酸化物層を対象とする。
【0019】
前記特許文献13でも、鋼板表面上のMn、Si、Alを含む(Mn、Si、Alが濃化した)酸化物層の厚みを、酸洗などにより、0.05〜1 μm に制御して (残存させて) 、亜鉛めっきとの密着性を改善してる。しかし、前記特許文献13では、本発明のように、鋼板表面上の酸化物層を、酸洗などにより一旦除去してはいるものの、本発明のように、更に、酸素分圧を制御した雰囲気で焼鈍して、外部酸化層の形成割合や、内部酸化層深さを積極的に制御してはいない。
【0020】
このため、前記特許文献13の外部酸化物層では、本発明で規定する、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物の合計長さの平均割合として、上限の80% を簡単に超えてしまう。
【0021】
この結果、前記特許文献13におけるSi、Mn、Alなどを含む酸化物層の厚み規定とした鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合した際には、反応層(Fe とAlとの金属間化合物層: 以下の説明では、いずれかの表現を適宜使用する) が十分に形成されず、異材接合体における冶金的接合が出来なくなる。
【0022】
本発明者らは、Si、Mnなどを含む高強度鋼板表面上に生成した既存の酸化物層を、一旦除去した上で、新たに生成させたSi、Mnなどを含む外部酸化物層は、鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合した異種接合体の接合強度を却って向上させることを知見した。
【0023】
即ち、鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合する異種接合の場合に、前記新たに生成させたSi、Mnなどを含む外部酸化物層は、一定割合存在する場合に、接合時のFe、Alの拡散を抑えて、Al-Fe 系の脆い金属間化合物層の過剰生成を抑制する。
【0024】
また、本発明者らは、前記新たに生成させたSi、Mnなどを含む外部酸化物層は、その鋼板表面上に占める存在割合が、異種接合体の接合強度や、反応層の厚み・分布に大きく影響することも知見した。即ち、前記新たに生成させたSi、Mnなどを含む外部酸化物層は、上記本発明要旨のように存在割合を規定することで始めて、上記反応層の過剰生成抑制効果が発揮される。
【0025】
これら新たに生成させたSi、Mnなどを含む外部酸化物層の存在割合は、鋼板の酸洗後の焼鈍条件(酸素分圧)を制御することにより、制御することが可能である。
【0026】
鋼板同士のスポット溶接とは異なり、鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合する異種接合の場合には、前記した通り、接合界面に形成される高硬度で非常に脆いFeとAlとの金属間化合物層が形成される。このため、前記特許文献13で課題とする鋼板同士のスポット溶接性などとは溶接メカニズムが全く異なり、異種金属同士の溶接接合が著しく困難となる。
【0027】
より具体的には、鋼材とアルミニウム材との異材を接合する場合、鋼材はアルミニウム材と比較して、融点、電気抵抗が高く、熱伝導率が小さいため、鋼側の発熱が大きくなり、まず低融点のアルミニウムが溶融する。次に鋼材の表面が溶融し、結果として界面にて、Al-Fe 系の脆い金属間化合物層 (反応層) が形成する。
【0028】
このため、高い接合強度を得るためには、Al−Fe系の反応層は必要最小限に抑える必要がある。しかし、一方で、Al−Fe系の反応層を抑制しすぎ、接合部の全面積に対する反応層の形成面積が小さすぎても、冶金的接合が出来ないために高い接合強度は得られない。したがって、高い接合強度を実現するためには、冶金的接合に必要かつ最小限の厚みのAl-Fe 反応層を、接合部に出来るだけ広範囲に形成させる必要がある。
【0029】
このように、鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合する異種接合の場合には、鋼板同士のスポット溶接とは溶接メカニズムが全く異なり、異種金属同士の高い接合強度を実現することが著しく困難となる。
【0030】
これに対して、本発明における、前記新たに生成させたSi、Mnなどを含む外部酸化物層は、上記要旨のように一定割合の存在下で、上記反応層の過剰生成を抑制し、冶金的接合に必要かつ最小限の厚みのAl-Fe 反応層を、接合部に広範囲に形成させる効果を発揮する。この結果、鋼板とアルミニウム材との異材溶接接合体において、高い接合強度を実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(鋼板の化学成分組成)
先ず、本発明が対象とする鋼板の成分組成について以下に説明する。なお化学成分の単位はすべて質量%である。
【0032】
本発明では、Si、Mnなどを含む高強度鋼板を対象とする。更には、表面上の既存の酸化物層を酸洗などにより一旦除去した上で、更に、酸素分圧を制御した雰囲気で焼鈍などした場合に、Si、Mnなどを所定量含む外部酸化物層を新たに生成させ得る鋼板を対象とする。
【0033】
このため、鋼板の成分組成については、Si、Mnなどを所定量含むことを前提に、C :0.02〜0.3%、Si:0.2 〜5.0%、Mn:0.2 〜2.0%、Al:0.002 〜0.1%、を含み、更に、Ti:0.005 〜0.10% 、Nb:0.005 〜0.10% 、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%の内の1 種または2 種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものとする。
【0034】
鋼板の各成分元素の限定理由は以下の通りである。
(C)
C は強度上昇に必要な元素であるが、含有量が0.02%未満では鋼板の強度確保ができず、また 0.3%を超えると冷間加工性が低下する。したがって、C 含有量は0.02〜0.3 %の範囲とする。
【0035】
(Mn 、Si)
Mn、Siは、鋼板の表面にSiまたはMnを所定量含む外部酸化物層を形成する。これらの外部酸化物層は、FeとAlの異種接合の場合に、FeとAlの拡散を妨害し、脆い金属間化合物の形成を最小限に抑えることができる。また、金属間化合物の脆性の改善にも役立っている可能性がある。
【0036】
更に、Mn、Siは、鋼板の内部にSiまたはMnを所定量含む内部酸化物層を形成する。これらの内部酸化物層は、鋼板表面上の外部酸化物層を破って形成されたAl-Fe反応層中に固溶し、Fe、Alの拡散を防いで反応層が過剰に生成するのを抑制する。
【0037】
したがって、鋼板におけるMn、Siの含有量が少な過ぎると、上記外部酸化物層や内部酸化物層が不足して、後述する通り、異種接合体の接合強度を向上できない。一方、鋼板におけるMn、Siの含有量が多過ぎると、後述する通り、却って、異種接合体の接合強度を低下させる。このため、適切な上記外部酸化物層や内部酸化物層を形成するためには、鋼板におけるMn、Siは、本発明で規定する上記含有量の範囲内であることが必要である。
【0038】
(Si)
Siは、鋼板の延性を劣化させずに、必要な強度確保が可能な元素としても重要であり、そのためには、0. 2%以上の含有量が必要である。一方、5.0%を超えて含有すると延性が劣化してくる。したがって、Si含有量は、この理由からも0.2〜5.0 %の範囲とする。
【0039】
(Mn)
Mnも、鋼板の強度と靱性を確保するための元素としても必要不可欠で、含有量が0.2%未満ではその効果は得られない。一方、含有量が2.0%を超えると著しく強度が上昇し冷間加工が困難となる。したがって、Mn含有量は、この理由からも0.2 〜2.0 %の範囲とする。
【0040】
(Al)
Alは、溶鋼の脱酸元素として、固溶酸素を捕捉するとともに、ブローホールの発生を防止して、鋼の靭性向上の為にも有効な元素である。Al含有量が0.002%未満ではこれらの十分な効果が得られず、一方で、0.10%を超えると、逆に溶接性を劣化させたり、アルミナ系介在物の増加により鋼の靭性を劣化させる。したがって、Al含有量は0.002%〜0.10%の範囲とする。
【0041】
(Ti 、Nb、Cr、Mo)
これら基本元素以外として、Ti、Nb、Cr、Moは1 種または2 種以上含有されると鋼の高強度化や高靭性化に寄与する。
【0042】
(Ti 、Nb)
Ti 、Nbは、鋼中に炭窒化物として析出して強度を高め、鋼のミクロ組織を微細化して強度、靭性等を向上させる。但し、多量に含有させると、靭性を大幅に劣化させる。したがって、Nb:0.005 〜0.10% 、Ti:0.005 〜0.10% とする。
【0043】
(Cr 、Mo)
Cr 、Moは鋼の焼き入れ性を向上させて、強度を向上させる。但し、多量に含有させると、鋼の靭性を大幅に劣化させる。したがって、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%とする。
【0044】
(鋼板の強度)
本発明においては、使用する鋼板の強度を特に限定するものではないが、自動車部材用を想定すると、鋼板の引張強度が400MPa以上であることが好ましい。これより低強度鋼では、一般に低合金鋼が多く、酸化皮膜がほぼ鉄酸化物であるため、FeとAlの拡散が容易となり、脆い金属間化合物が形成しやすい。また、SiまたはMn量が少ないために、鋼板の表面および内部に、本発明における上記Si、Mnを含む酸化物が形成されにくく、Si、Mnを含む酸化物の制御ができず、反応層の制御が困難となる。更には、例えば、スポット溶接による場合には、その電極チップによる加圧によって、鋼板の変形が大きく、酸化皮膜が容易に破壊されるため、アルミニウムとの反応が促進される。その結果、金属間化合物が形成しやすくなる。
【0045】
(アルミニウム材)
本発明で用いるアルミニウム材は、その合金の種類や形状を特に限定するものではなく、各構造用部材としての要求特性に応じて、汎用されている板材、形材、鍛造材、鋳造材などが適宜選択される。ただ、アルミニウム材の強度についても、上記鋼材の場合と同様に、スポット溶接時の加圧による変形を抑えるために高い方が望ましい。この点、アルミニウム合金の中でも強度が高く、この種構造用部材として汎用されている、A5000 系、A6000 系などの使用が最適である。
【0046】
(鋼板やアルミニウム材の板厚)
また、鋼板やアルミニウム材の板厚は特に限定されず、自動車部材など、適用部材の必要強度や剛性などの設計条件から適宜選択乃至決定される。
【0047】
但し、自動車部材などを想定すると、実用的には鋼板の板厚t1は0.3 〜2.5mm から選択される。鋼材の板厚t1が0.3mm 未満の場合、自動車部材として必要な強度や剛性を確保できず不適正である。また、それに加えて、例えば、スポット溶接による場合には、その電極チップによる加圧によって、鋼板の変形が大きく、酸化皮膜が容易に破壊されるため、アルミニウムとの反応が促進される。その結果、金属間化合物が形成しやすくなる。一方、板厚t1が2.5mm を越える場合は、溶接接合自体が難しくなり、他の接合手段が採用される。
【0048】
また、アルミニウム材の板厚t2は、同様に自動車部材などを想定すると、0.5 〜2.5mm の範囲から選択される。アルミニウム材の板厚t2が0.5mm 未満の場合、自動車部材としての強度が不足して不適切であるのに加え、ナゲット径が得られず、アルミニウム材料表面まで溶融が達しやすくチリができやすいため、高い接合強度が得られない可能性がある。一方、アルミニウム材の板厚t2が2.5mm を越える場合は、前記した鋼材の板厚の場合と同様に、溶接接合自体が難しくなり、他の接合手段が採用される。
【0049】
(鋼板の酸化物構成)
以上の前提的な条件を踏まえた上で、以下に、本発明で特徴的な鋼板の酸化物構成(規定条件)について説明する。
【0050】
一旦酸洗された後に酸素分圧を制御した雰囲気で焼鈍された、Si、Mnを含む鋼板の酸化物構造の模式図を図1 に示す。図1(a)は、低酸素分圧 (低露点) 雰囲気にて焼鈍した場合を示し、図1(b)は、高酸素分圧 (高露点) 雰囲気にて焼鈍した場合を各々示す。
【0051】
図1(a)の低酸素分圧雰囲気焼鈍の場合、一旦酸洗されて既存の外部酸化物層が除去された、Si、Mnを含む鋼板は、鋼板の鋼生地表面上に50nm程度の薄い外部酸化物層を有し、鋼生地表面から下の鋼板内部には、粒界酸化物を含む内部酸化物は形成されない。この外部酸化物層は、既存の酸化物層が除去された後で、上記焼鈍によって新たに生成された酸化物層であり、Mn2SiO4 またはSiO2などから構成される、Si、Mnが濃化して、Si、Mnを1at%以上含む酸化物、若しくはFe酸化物(Fe3O4) からなる酸化物層である。
【0052】
これに対して、図1(b)の高酸素分圧雰囲気焼鈍の場合、一旦酸洗されて既存の外部酸化物層が除去された、Si、Mnを含む鋼板には、上記した外部酸化物層とともに、鋼生地表面から下の鋼板内部に、内部酸化物が形成される。この内部酸化物は、概ねSi、Mnを1at%以上含む、SiO2やMn2SiO4 からなる球状乃至粒状の酸化物である。また、この際、鋼の粒界上に粒界酸化物も形成されるが、これも、概ねSi、Mnを1at%以上含む粒状の酸化物である。
【0053】
通常、鋼板の表面上の外部酸化層は、αFeOOH 、γFeOOH 、無定形オキシ水酸化物、Fe3O4 などの酸化物から構成される。これに対して、本発明のように、Si、Mnを含む鋼板であって、一旦酸洗された後に酸素分圧を制御した雰囲気で焼鈍された、鋼板の表面上の外部酸化層は、Si、Mnを合計量で1at%以上含む上記酸化物と、残部は、Mn、Siの含有量が合計で1at%未満であるFe3O4 などの酸化物、および空隙とから構成される。
【0054】
(外部酸化層の作用)
これら図1 の鋼板とアルミニウム材 (板) との溶接接合時 (レーザ溶接による重ね合わせ溶接を例示) には、図2 に示すように、溶接方法によらず、鋼板とアルミニウム板との接合面1 に、Al-Fe 反応層が、鋼板表面上の上記外部酸化層を破って、形成される。
【0055】
したがって、鋼板表面上の上記外部酸化層には、接合時のFe、Alの拡散を抑えて、Al-Fe 系の脆い金属間化合物層 (反応層) 生成を抑制する効果があるが、この実質的な効果は、鋼板表面上の上記外部酸化層に、一定割合のMn2SiO4 またはSiO2など、Si、Mnを含む酸化物相が存在する場合に限定される。
【0056】
このため、本発明では、鋼板の鋼生地表面上に存在する外部酸化物層において、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物の合計長さの平均割合として50〜80% であることとする。このように、外部酸化物層の組成を制御することで、適切な溶接条件下において、鋼板とアルミニウム材との接合界面における反応層の平均厚みは、後述する通り、0.1 〜10μm の最適範囲に制御され、高い接合強度が得られる。
【0057】
この割合が50% 未満では、接合時のFe、Alの拡散を抑えて、Al-Fe 系の脆い金属間化合物層 (反応層) 生成を抑制する効果が少ない。このため、適切な溶接条件としても、あるいは溶接条件によらず、鋼板とアルミニウム材との接合界面における反応層が、例えば反応層の平均厚みとして10μm を超えて過剰に生成し、高い接合強度が得られない。
【0058】
一方、この面積割合が80% を超えて形成されている場合は、適切な溶接条件としても、外部酸化層を破って反応層を形成するのが困難で、反応層が十分に形成されなくなる。このため、例えば反応層の平均厚みとして0.1 μm 未満となって、冶金的接合が出来なくなる。
【0059】
(内部酸化物1 の作用)
前記図2に示すような、鋼板とアルミニウム板との溶接接合時には、SiO2などの球状酸化物からなるMn、Siを合計量で1%以上含む内部酸化物は、鋼板表面上の前記外部酸化物層を破って形成されたAl-Fe 反応層中に固溶し、Fe、Alの拡散を防いで反応層が過剰に生成するのを抑制する。この内部酸化物には、粒界酸化物も含む。粒界酸化物も概ねMn、Siを合計量で1%以上含む酸化物である。
【0060】
このような効果を発揮させるためには、鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm 以下の鋼領域に存在する内部酸化物であって、この領域における視野面積10μm2内において、Mn、Siを合計量で1%以上含む、酸化物と粒界酸化物との占める合計の面積割合が3%以上、10% 未満とすることが好ましい。
【0061】
上記面積割合が3%より少ない場合は、反応層成長を抑える効果が不充分であり、鋼板とアルミニウム材との接合界面における反応層が、例えば反応層の平均厚みとして10μm を超えて過剰に生成し、高い接合強度が得られない。
【0062】
一方、上記面積割合が10%以上の場合は、却って、鋼板とアルミニウム材との接合界面における反応層が局所的に成長して、均一に成長せず、適切な溶接条件としても、冶金的接合が不可能となる可能性が高い。
【0063】
(内部酸化物2 の作用)
更に、鋼板表面から10μm 以上の深い内部領域では、Mn、Siを合計量で1%以上含む酸化物が鋼板内部深くまで多く存在すると、Fe中へのAl拡散が抑制されすぎて、反応層の厚みを十分に確保できなかったり、均一に反応層を生成させるのが困難となり、高い接合強度が得られなくなる可能性がある。この内部酸化物には、粒界酸化物も含む。粒界酸化物も概ねMn、Siを合計量で1%以上含む酸化物である。
【0064】
このため、この領域における視野面積10μm2内において、Mn、Siを合計量で1%以上含む酸化物と粒界酸化物との占める合計の面積割合を0.1%以下とすることが好ましい。
【0065】
(酸化物の測定方法)
本発明における酸化物の測定は、EDX(エネルギー分散型X 線分光法) を併用した1万〜3 万倍の倍率のTEM (透過電子顕微鏡)にて行なう。即ち、外部酸化物は、EDX(エネルギー分散型X 線分光法) により、鋼板の厚み方向断面における、鋼生地と外部酸化物層との界面を略水平方向に分析することによって、界面近傍の外部酸化物層中のMn、Siの合計量を求め、Mn、Siを合計量で1at%以上含む界面近傍の酸化物の相 (複数の酸化物) を、それ以外の相と区別して特定する。次いで、TEM により、EDX 分析と同じ界面領域における、このMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物相の、上記界面における略水平方向の長さを求める。そして、界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物相の合計長さの割合を求める。これを複数箇所にて行い、平均化する。
【0066】
内部酸化物は、前記した、鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm 以下の鋼領域、あるいは鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm を超える鋼領域の複数箇所におけるMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物を、前記したEDX によりそれ以外の相と区別して特定する。そして、TEM により、EDX と同じ界面領域における、このMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物相の、視野面積10μm2内において占める面積割合を各々求める。ここで、粒界酸化物の占める面積も、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物に加える。これを複数箇所にて行い、平均化する。
【0067】
(酸化物層制御)
これら鋼板の外部酸化物および内部酸化物の内、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の割合の制御は、前記した通り、鋼板の焼鈍条件(酸素分圧)を制御することにより行なうことができる。
【0068】
より具体的には、鋼板の焼鈍雰囲気中の酸素分圧(露点)を振って制御できる。いずれの鋼種においても、酸素分圧(露点)が高い場合は、鋼板表面上の外部酸化物層中の、Si、Mnが濃化した酸化物量が多くなる。また、鋼内部まで酸化し、内部酸化、粒界酸化が進んで、鋼内にSiO2、Mn2SiO4 などが形成され、鋼内に占めるSi、Mnを含む酸化物の面積割合が高まる。
【0069】
一方、いずれの鋼種においても酸素分圧(露点)が低い場合は、鋼板表面上の外部酸化物層中の、Mn2SiO4 、SiO2などのSi、Mnが濃化した酸化物は形成されるが、その量乃至面積割合は少なくなる。その一方で、鋼内部の酸化は進みにくくなり、鋼内のSiO2、Mn2SiO4 などの形成量は少なくなり、鋼内に占めるSi、Mnを含む酸化物の面積割合は少なくなる。
【0070】
(異材接合体の接合界面における反応層)
上記のように表面の酸化物層を制御した鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合した異材接合体においては、適切な溶接条件とすることによって、高い接合強度が得られる。但し、溶接素材側の条件を本発明鋼板として整えても、溶接施工条件 (溶接条件) によっては、高い接合強度を実現できない場合がある。
【0071】
このため、異材接合体側から見て、高い接合強度を得るための条件を規定して、溶接条件も、この異材接合体側条件に合うように制御して最適化する必要がある。したがって、本発明では、異材接合体としても、高い接合強度を得るための条件を規定する。
【0072】
前記した通り、異材接合体側から見ると、冶金的接合に必要かつ最小限の厚みのAl-Fe 反応層を、接合部に出来るだけ広範囲に形成させる必要がある。即ち、先ず、冶金的接合に必要かつ最小限の厚みとして、アルミニウム材との接合界面における反応層のナゲット深さ方向 (鋼板の板厚方向) の平均厚みを0.1 〜10μm の範囲に制御することが必要である。
【0073】
鋼板とアルミニウム材との溶接接合界面では、反応層として、溶接方法に依らず、鋼板側には層状のAl5Fe2系化合物層、アルミニウム材側には粒状または針状のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物とが混在した層、を各々有する。
【0074】
これらの脆い反応層のナゲット深さ方向の厚みが10μmを超えると、接合強度は著しく低下する。一方、反応層のナゲット深さ方向の厚みが0.1μmより薄い場合は、冶金的接合が不充分となり、十分な接合強度が得られない。したがって、上記表面の酸化物層を制御した鋼板とアルミニウム材との接合界面における反応層の平均厚みは、0.1 〜10μm の範囲とする。
【0075】
(反応層の形成範囲)
次ぎに、異材接合体における上記Al-Fe 反応層を、接合部に出来るだけ広範囲に形成させる必要がある。即ち、接合後の前記反応層の形成範囲が、レーザー、MIG溶接等の線溶接では溶接接合長さ (鋼板の略水平方向、ナゲット深さ方向に直角の方向) の50%以上の長さであることが好ましい。また、スポット溶接やFSW(摩擦攪拌接合)などの点溶接では、接合面積 (鋼板の略水平方向、ナゲット深さ方向に直角の方向) の50%以上の面積であることが好ましい。
【0076】
反応層は上記適正な厚み範囲の上で、この適正な厚み範囲が、出来るだけ広範囲に均一に形成されないと、確実に冶金的接合が達成できない可能性がある。これに対して、上記適正な厚み範囲の反応層が、上記各50% 以上形成されれば十分な接合強度が確実に得られる。
【0077】
(異材接合体の接合界面における反応層の測定)
上記本発明における反応層の測定は、後述する実施例の通り、鋼板−アルミ材との接合部を切断して、断面より接合界面をSEMにて観察し、反応層の上記測定を行なう。
【0078】
(溶接方法)
なお、本発明において、溶接方法は、スポット溶接、レーザー溶接、MIG溶接、超音波接合、拡散接合、スポットFSW(摩擦攪拌接合)、摩擦圧接、ろう付けなど、いずれの手法でも良い。
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより、下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0080】
以下、実施例1 としてスポット溶接、実施例2 としてレーザ溶接、実施例3 としてMIG 溶接による異材接合を各々行い、異材接合体を製作した。そして、これら各異材接合体の接合強度を測定、評価した。
【0081】
(実施例1:スポット溶接)
表1 に示す各成分組成の鋼を溶製して、1.2mm厚まで圧延した鋼板を一旦酸洗して既存の表面酸化層を除去した後、表2 に示すA 、B 、C 、D 、E の各条件で焼鈍雰囲気中の酸素分圧(露点)を種々変えて、酸化構造の異なる鋼板を作製した。
【0082】
これら焼鈍後の各鋼板の酸化構造を表4 〜7 に各々示す。なお、各鋼板の接合相当部における各酸化構造は、各々下記測定方法により測定した。
【0083】
(外部酸化物形成範囲)
外部酸化物は、断面試料を集束イオンビーム加工装置 (FIB:Focused Ion Beam Process、日立製作所製:FB-2000A)により製作し、前記EDX(型式:NORAN-VANTAGE) により、鋼板の厚み方向断面における、鋼生地と外部酸化物層との界面を略水平方向に分析することによって、界面近傍の外部酸化物層中のMn、Siの合計量を求め、Mn、Siを合計量で1at%以上含む界面近傍の酸化物の相 (複数の酸化物) を、それ以外の相と区別して特定した。
次いで、10万倍の倍率のTEM(JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡:JEM-2010F、加速電圧200kv ) により断面観察し、前記EDX と同じ界面領域における、このMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物相の、上記界面における略水平方向の長さを求める。そして、界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物相の合計長さの割合を求めた。これを各々3 視野にて行い、それらの平均値を求めた。
【0084】
(内部酸化物占有面積率)
内部酸化物は、前記した、鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm 以下の鋼領域、あるいは鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm を超える鋼領域の複数箇所におけるMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物を、前記EDX によりそれ以外の相と区別して特定する。
そして、3 万倍の倍率のTEM(JEOL製電界放射型透過電子顕微鏡:JEM-2010F、加速電圧200kv ) により断面観察し、前記EDX と同じ界面領域における、このMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物相の、10μm2当たりの視野面積 (地鉄面積) 内において占める面積割合を各々求めた。ここで、粒界酸化物の占める面積も、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物に加える。これを各々3 視野にて行い、それらの平均値を求めた。
【0085】
表1 に示す1 〜4 の各成分組成の鋼板は全て本発明が対象とする高強度鋼板であり、各鋼板の引張強度は、鋼番号1:450MPa、鋼番号2:750MPa、鋼番号3:990MPa、である。
【0086】
表2 に示す焼鈍条件の内、C 、D は酸素分圧(露点)が好適な焼鈍条件である。このため、表2 に示すように、焼鈍後の鋼板の外部酸化物層と内部酸化物とが本発明条件を満足する。即ち、外部酸化物層におけるMn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物の合計長さの平均割合が50〜80% の範囲内である。また、内部酸化物1(鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm 以下の鋼領域に存在) として、Mn、Siを合計量で1at%以上含む内部酸化物の占める割合が、粒界酸化物を含んだ上で、この鋼領域の視野面積10μm2内において占める平均面積割合として、3%以上で10% 未満の範囲内である。更に、内部酸化物2(鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm を超える鋼領域に存在) として、Mn、Siを合計量で1%以上含む内部酸化物の占める割合が、粒界酸化物を含んだ上で、この鋼領域の視野面積10μm2内において占める平均面積割合として、0.1%以下である。
【0087】
これに対して、表2 に示す焼鈍条件の内、A 、B は酸素分圧(露点)が低過ぎる。このため、焼鈍後の鋼板の外部酸化物層における上記酸化物の合計長さの平均割合が80% を超える。
【0088】
一方、E は酸素分圧(露点)が高過ぎる。このため、焼鈍後の鋼板の外部酸化物層における上記酸化物の合計長さの平均割合が50% を切って少なくなる。その一方で、内部酸化、粒界酸化物の占める割合が高くなりすぎて、局所的に反応層が成長するものの、反応層が均一に成長せず、形成範囲が狭くなる。
【0089】
これら酸化構造の異なる各鋼板とアルミニウム材とを、JIS A 3137記載の十字引張試験片形状に加工して重ね合わせ、表3 に示すa 、b 、c 、d の各条件でスポット溶接を行い、異材接合した。
【0090】
アルミニウム材については、各異材接合とも、共通した一種類のアルミニウム材とし、板厚1mm 厚、および1.6mm 厚の、A6022 材(Si:1.01% 含有、Mn:0.07% 含有)を用いた。
【0091】
スポット溶接は、直流抵抗溶接試験機を用い、表3 に示す溶接電流、加圧力、時間にて一点の溶接を行った。Cu-Cr合金からなるドーム型の電極を用い、正極をアルミニウム材、負極を鋼材とした。
【0092】
製作した各異材接合体の、界面反応層の厚さと形成範囲とを測定した。これらの結果を表4 〜7 に示す。
界面反応層の厚さ測定は、各スポット溶接部の中央にて切断し、樹脂に埋め込んで研磨をし、接合部全体に渡り0.5mm 間隔でSEM 観察を行った。反応層の厚さが 1μm 以上の場合は2000倍の視野にて、 1μm 未満の場合は10000 倍の視野にて測定し、各スポット溶接部ごとに平均値を求め、30点のスポット溶接部の平均値を界面反応層の平均厚みとした。
また、界面反応層の形成範囲は、各スポット溶接部において、スポット全面積に対する反応層形成面積の割合を求め、30点のスポット溶接部の平均値を求めた。
【0093】
これら製作した各異材接合体の十字引張試験を行い、剥離強度を求めた。これらの結果も表4 〜7 に示す。剥離強度は、A6022 アルミニウム材同士のスポット溶接接合強度=1.0kN を参考にして、1.5kN 以上であれば◎、1.0 〜1.5kN であれば○、0.5 〜1.0kN であれば△、0.5kN 未満であれば×とした。
【0094】
表4 〜7 から明らかな通り、表1 に示す1 〜4 の各成分組成の鋼板を用い、表2 に示す酸素分圧(露点)が好適なC 、D の焼鈍条件で処理した、各発明例の鋼板は、焼鈍後の鋼板の外部酸化物層と内部酸化物とが本発明条件を満足する。
【0095】
この結果、これら酸化物条件を満足する鋼板を用い、溶接条件を適切とした異材接合体の各発明例は、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲が本発明条件を満足し、異種接合体の接合強度が高くなることが分かる。
【0096】
ただ、発明例の中でも、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲の、いずれかが下限に近い発明例8 、12、26、28は、溶接条件として溶接時間が比較的長い(400msec) 、表3 に示すb 、d の各条件でスポット溶接している。このため、他の条件は同じで、溶接時間のみが比較的短い(40msec)、表3 に示すa 、c の各条件でスポット溶接した、他の発明例7 、11、25、27に比して、各々異種接合体の接合強度が低くなっている。
【0097】
また、好適なC 、D の焼鈍条件が同じである発明例と比較例同士の対比において、発明例1 と比較例2 、発明例3 と比較例4 、発明例5 と比較例6 、発明例9 と比較例10 (以上表4)、発明例17と比較例18、発明例19と比較例20、発明例25と比較例26、発明例27と比較例28 (以上表5)は、他の条件は同じで、表3 に示すa 、b のスポット溶接条件 (溶接時間) のみが相違する。そして、このスポット溶接時間のみの相違によって、上記発明例と比較例との異種接合体の界面反応層の厚さと形成範囲、更に接合強度が大きく異なっている。
【0098】
したがって、これらの事実から、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲の本発明条件の意義が分かる。また、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲とが本発明条件を満足し、異種接合体の接合強度を高めるためには、酸化物条件を満足する鋼板を用いるだけではなく、溶接条件を適切とする必要があることが分かる。
【0099】
一方、表6 〜7 から明らかな通り、表1 に示す1 〜4 の各成分組成の鋼板を用いても、表2 に示す酸素分圧(露点)が不適なA 、B 、E の焼鈍条件で処理した、各比較例の鋼板は、焼鈍後の鋼板の外部酸化物層と内部酸化物とが本発明条件から外れる。
そして、これら酸化物条件が本発明範囲から外れる鋼板を用いた場合、前記表4 〜5 における発明例と同じような適切な溶接条件としても、各比較例は、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲が本発明条件から外れ、異種接合体の接合強度が著しく低くなることが分かる。言い換えると、酸化物条件が本発明範囲から外れる鋼板を用いた場合、スポット溶接条件やAl板厚によらず、異種接合体の高い接合強度が得られないことが分かる。
【0100】
したがって、これらの事実から、本発明異材接合体用鋼板の酸化物条件の臨界的な意義が裏付けられる。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
【表5】

【0106】
【表6】

【0107】
【表7】

【0108】
(実施例2)
実施例1 と同じく、前記表1 に示す各成分組成の1.2mm 厚の鋼板を一旦酸洗して既存の表面酸化層を除去した後、前記表2 に示す各条件で焼鈍雰囲気中の酸素分圧(露点)を振って、酸化構造の異なる鋼板を作製した。
【0109】
これらの鋼板と、実施例1 と同じ1.6mm 厚のアルミニウム板とを、共に100mm×300mmの板として、板の端部同士を重ね合わせ (重ね合わせ代: 30mm) 、図2 のような配置で、重ね合わせ部分をレーザ溶接して、異材接合体を製作した。
【0110】
レーザ溶接の主要条件を表8 、9 に示す。この他のレーザ溶接条件として、最大出力4.0kWのYAGレーザ溶接機を用い、レーザは鋼板側より照射した。シールドガスにはArを用いた。
【0111】
製作した各異材接合体の、界面反応層の厚さと形成範囲とを測定した。これらの結果を表8 、9 に示す。
反応層の厚みは、重ね合わせ溶接部の接合長全域に渡り、5mm ごとに断面試料を作製し、任意の10点の反応層厚みの平均値を求めた。反応層の厚さが1 μm 以上の場合は2000倍の視野にて、1 μm 未満の場合は10000 倍の視野にてSEM 観察して、厚みを測定した。
反応層の形成範囲は、上記断面試料において、接合長100 μm あたりの、反応層が形成されている接合長さの割合を求め、任意の10点における割合の平均値とした。
【0112】
また、異材接合体の重ね合わせ溶接部より、幅30mmの引張試験片を採取し、引張試験に供した。接合強度は、破断荷重が1kN以下のものを×、1 〜3kN のものを△、3 〜5kN のものを○、5kN を超えるものを◎とした。これらの結果も表8 、9 に示す。
【0113】
表8 、9 から明らかな通り、表1 に示す1 〜4 の各成分組成の鋼板を用い、表2 に示す酸素分圧(露点)が好適なC 、D の焼鈍条件で処理した、各発明例の鋼板は、焼鈍後の鋼板の外部酸化物層と内部酸化物とが本発明条件を満足する。
【0114】
この結果、これら酸化物条件を満足する鋼板を用い、溶接条件を適切とした異材接合体の各発明例は、溶接条件を好適に制御すれば、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲が本発明条件を満足し、異種接合体の接合強度が高くなることが分かる。
【0115】
一方、不適な焼鈍条件A 、B 、E で処理した鋼板を用いた比較例については、鋼板の表面酸化構造が本発明条件を満足していない。このため、レーザ出力を上げ、溶接速度を下げることにより、入熱量を上げて溶接条件を制御しても、異材接合体の反応層厚みが薄く、また反応層の形成範囲が十分でない。このため、高い接合強度が得られなかった。
【0116】
また、鋼の表面酸化構造を本発明範囲内とする焼鈍条件C 、D とした鋼板を用いても、溶接条件が適切でない比較例70、72、101 は、レーザ出力、溶接速度のみが異なる発明例69、71、102 に比して、反応層厚み、形成範囲が本発明範囲外となって、高い接合強度が得られなかった。
【0117】
したがって、これらの事実から、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲の本発明条件の意義が分かる。また、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲とが本発明条件を満足し、異種接合体の接合強度を高めるためには、酸化物条件を満足する鋼板を用いるだけではなく、溶接条件を適切とする必要があることが分かる。更に、本発明異材接合体用鋼板の酸化物条件の臨界的な意義が裏付けられる。
【0118】
【表8】

【0119】
【表9】

【0120】
(実施例3)
実施例1 と同じく、前記表1 に示す各成分組成の1.2mm 厚の鋼板を一旦酸洗して既存の表面酸化層を除去した後、前記表2 に示す各条件で焼鈍雰囲気中の酸素分圧(露点)を振って、酸化構造の異なる鋼板を作製した。
【0121】
これらの鋼板と、実施例1 と同じ1.6mm 厚のアルミニウム板とを、共に100mm×300mmの板として、図3に示すように板の端部同士を重ね合わせて配置し、重ねすみ肉継手 (重ね合わせ代: 15mm) とし、MIG ブレージング溶接した。MIG ブレージング溶接は交流電源を用いて行った。
【0122】
用いたワイヤは表10、11に各々示す通り、Al系ワイヤであり、例えばJIS で規定されるA4043 −WY、 A4047−WY、 A5356−WY、 A5183−WYである。
【0123】
製作した各異材接合体の、界面反応層の厚さと形成範囲とを実施例2 と同様に測定した。これらの結果を表10、11に示す。
【0124】
重ね合わせ溶接部から幅30mmの引張試験片を採取し、引張試験を行った。接合強度は、破断荷重が1kN より低いものは×、1 〜3kN のものを△、3 〜5kN のものを○、5kN を超えるものは◎とした。これらの結果も表10、11に示す。
【0125】
表10、11から明らかな通り、表1 に示す1 〜4 の各成分組成の鋼板を用い、表2 に示す酸素分圧(露点)が好適なC 、D の焼鈍条件で処理した、各発明例の鋼板は、焼鈍後の鋼板の外部酸化物層と内部酸化物とが本発明条件を満足する。
【0126】
この結果、これら酸化物条件を満足する鋼板を用い、溶接条件を適切とした異材接合体の各発明例は、溶接条件を好適に制御すれば、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲が本発明条件を満足し、異種接合体の接合強度が高くなることが分かる。
【0127】
一方、不適な焼鈍条件A 、B 、E で処理した鋼板を用いた比較例については、鋼板の表面酸化構造が本発明条件を満足していない。このため、MIG ブレージング溶接条件を発明例と同様に、溶接速度を下げて、入熱量を上げて、最適に制御しても、異材接合体の反応層厚みが薄く、また反応層の形成範囲が狭く十分でない。このため、高い接合強度が得られなかった。
【0128】
また、鋼の表面酸化構造を本発明範囲内とする焼鈍条件C 、D とした鋼板を用いても、溶接速度が比較的小さく、溶接条件が適切でない比較例109 、111 は、レーザ出力、溶接速度のみが異なる発明例110 、111 に比して、反応層厚み、形成範囲が本発明範囲外となって、高い接合強度が得られなかった。
【0129】
したがって、これらの事実から、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲の本発明条件の意義が分かる。また、異材接合体の界面反応層の厚さと形成範囲とが本発明条件を満足し、異種接合体の接合強度を高めるためには、酸化物条件を満足する鋼板を用いるだけではなく、溶接条件を適切とする必要があることが分かる。更に、本発明異材接合体用鋼板の酸化物条件の臨界的な意義が裏付けられる。
【0130】
【表10】

【0131】
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の鋼板を用いると、従来、Fe/Al接合界面に反応層が過剰に生成して、接合強度が得られなかった溶接プロセスにおいても、適切な厚みの反応層を広範囲に形成可能で、高い接合強度、信頼性を有する異材接合体が得られる。したがって、本発明によれば、クラッド材などの他材料を入れることなく、また別工程を入れることなく、更に、鋼材側やアルミニウム材側、あるいはスポット溶接側条件を大きく変えることなく、接合強度の高い鋼材とアルミニウム材との異種接合体を提供できる。このような接合体は、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等における各種構造部材として大変有用に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明の異種接合体用鋼板を示す模式図である。
【図2】異種接合体を得るためのレーザ溶接の態様を示す説明図である。
【図3】異種接合体を得るためのMIG ブレージング溶接の態様を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量% で、C :0.02〜0.3%、Si:0.2 〜5.0%、Mn:0.2 〜2.0%、Al:0.002 〜0.1%、を含み、更に、Ti:0.005 〜0.10% 、Nb:0.005 〜0.10% 、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.01〜1.0%の内の1 種または2 種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板において、鋼板表面上の既存の酸化物層を一旦除去した上で新たに生成させた、鋼板の鋼生地表面上に存在する外部酸化物層であって、Mn、Siを合計量で1at%以上含む酸化物の占める割合が、鋼生地と外部酸化物層との界面の略水平方向の長さ1 μm に対して占める、この酸化物の合計長さの平均割合として50〜80% であることを特徴とするアルミニウム材との異材溶接接合用鋼板。
【請求項2】
前記鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm 以下の鋼領域に存在する、Mn、Siを合計量で1at%以上含む内部酸化物の占める割合が、粒界酸化物を含んだ上で、この鋼領域の視野面積10μm2内において占める平均面積割合として、3%以上で10% 未満である請求項1に記載のアルミニウム材との異材溶接接合用鋼板。
【請求項3】
前記鋼板の鋼生地表面からの深さが 10 μm を超える鋼領域に存在する、Mn、Siを合計量で1%以上含む内部酸化物の占める割合が、粒界酸化物を含んだ上で、この鋼領域の視野面積10μm2内において占める平均面積割合として、0.1%以下である請求項1または2に記載のアルミニウム材との異材溶接接合用鋼板。
【請求項4】
前記鋼板が一旦酸洗された後に酸素分圧を制御した雰囲気で焼鈍されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム材との異材溶接接合用鋼板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかの鋼板とアルミニウム材とを溶接にて接合した異材接合体であって、鋼板とアルミニウム材との接合界面における反応層のナゲット深さ方向の平均厚みが0.1 〜10μmであるとともに、前記反応層の形成範囲が、線溶接では接合長の50%以上の長さ、点溶接では接合面積の50%以上の面積であることを特徴とする異材接合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−336070(P2006−336070A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161723(P2005−161723)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願〔平成16年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの〕
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】