説明

アルミニウム系材料及びその製造方法

【課題】本発明は、高強度及び高硬度で、鍛造性に優れたアルミニウム系材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、アルミニウム合金の結晶粒を含むアルミニウム系材料であって、(1)前記アルミニウム系材料がスカンジウム化合物微粒子を含有し、
(2)粒径が5μm以下である結晶粒がアルミニウム系材料1000μm当たり、100個以上存在する、ことを特徴とするアルミニウム系材料及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアルミニウム系材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機材料、自動車部品材料、精密機械部品材料、電子材料、バネ材料、ネジ材料等においては、軽量化の要求から高強度のアルミニウム合金成形材が広く用いられるようになっている。しかし、強度の点では、鋼鉄材料と比較すると未だ十分でないことから、種々の高強度合金が検討されている。
【0003】
ところで、一般的に、アルミニウム合金等の金属材料は結晶粒が多数配列してなる多結晶の構造を有している。そして、結晶粒の大きさと金属系材料の強度との関係(Hall−Petchの式)において、結晶粒の大きさと強度とは反比例の関係にあることが分かっている。すなわち、結晶粒が小さければ小さいほど、金属材料の強度が向上することが分かっている。従って、高強度とするためには、金属材料を構成する結晶粒を微細化することが重要である。
【0004】
この結晶粒を微細化するための方法として、アルミニウム合金等の金属材料を押出成形して成形体に加工した後、当該成形体を加熱させる方法(TMT法)が提案されている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、このTMT法は結晶粒を微細化することは可能であるが、特にアルミニウム合金においては、せいぜい結晶粒の大きさが10μm程度までしか微細化することができないため、さらに微細化させて強度及び硬度を向上させる余地が残されている。
【0006】
一方、アルミニウム合金は、上述のように種々の材料に用いられるため、複雑な構造の材料にも成形される。よって、高強度等のほかに、容易に成形加工できることも重要である。すなわち、使用時においては高強度であるが、加工時(高温)においては容易に変形できる特性(鍛造性)も求められている。
【非特許文献1】村上陽太郎:日本金属学会会報,Vol.13(1974),p479.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、より一層優れた強度及び硬度を備え、さらに鍛造性が良好であるアルミニウム系材料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術に鑑み、鋭意研究を重ねて来た。その結果、特定の原料を使用し、さらに特定の工程を行うことにより、一層優れた強度等を備え、さらに鍛造性が良好であるアルミニウム系材料が製造できることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、完成されたものである。すなわち、本発明は、下記のアルミニウム系材料、その鍛造品及びそれらの製造方法に係る。
【0009】
項1.アルミニウム合金の結晶粒を含むアルミニウム系材料であって、
(1)前記アルミニウム系材料がスカンジウム化合物微粒子を含有し、
(2)粒径が5μm以下である結晶粒がアルミニウム系材料1000μm当たり、100個以上存在する、
ことを特徴とするアルミニウム系材料。
【0010】
項2.アルミニウム系材料が、Al83.5〜90質量%、Zn7〜10質量%、Mg2〜4.5質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%を含む、項1に記載のアルミニウム系材料。
【0011】
項3.スカンジウム化合物微粒子の平均粒子径が3nm〜50nmである、項1又は2に記載のアルミニウム系材料。
【0012】
項4.スカンジウム化合物微粒子が、AlScである、項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム系材料。
【0013】
項5.スカンジウム化合物微粒子の含有量が、1〜5体積%である、項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム系材料。
【0014】
項6.項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム系材料を鍛造することにより得られる、アルミニウム系材料からなる鍛造品。
【0015】
項7.粒径が5μm以下である結晶粒がアルミニウム系材料1000μm当たり、200個以上存在する、項6に記載の鍛造品。
【0016】
項8.アルミニウム系材料を製造する方法であって、
(1)アルミニウム及びスカンジウムを含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する第1工程、
(2)前記粉末を成形することにより成形体を作製する第2工程、
(3)前記成形体を加熱することにより成形体中にスカンジウム化合物微粒子を析出させる第3工程、及び
(4)前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る第4工程
を含むことを特徴とするアルミニウム系材料の製造方法。
【0017】
項9.溶湯が、Al78.5〜90.29質量%、Zn7〜12質量%、Mg2〜5質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%を含む、項8に記載の製造方法。
【0018】
項10.第3工程において、昇温速度10〜100℃/minで加熱する、項8又は9に記載の製造方法。
【0019】
項11.スカンジウム化合物微粒子の平均粒子径が3nm〜50nmである、項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
項12.項8〜11のいずれかに記載の製造方法により得られたアルミニウム系材料をさらに鍛造する第5工程、
を含む鍛造品の製造方法。
【0021】
1.アルミニウム系材料
本発明のアルミニウム系材料は、アルミニウム合金の結晶粒を含むアルミニウム系材料であって、(1)前記アルミニウム系材料がスカンジウム化合物微粒子を含有し、(2)粒径が5μm以下である結晶粒がアルミニウム系材料1000μm当たり、100個以上存在することを特徴とする。以下これを詳述する。
【0022】
本発明のアルミニウム系材料は、アルミニウム合金及びスカンジウム化合物微粒子を含む材料であって、複数のアルミニウム合金の結晶粒から構成される多結晶性の構造をしており、当該結晶粒の内部及び/又は結晶粒界にスカンジウム化合物微粒子を含有してなる。
【0023】
アルミニウム合金の結晶粒は限定的でないが、アルミニウムを80質量%程度以上含有していればよく、また、そのほかの金属種として、Zn、Mg、Cu、Ag、Si等を含有していればよい。本発明のアルミニウム合金の好ましい組成を具体的に挙げると、例えば、Al81〜94質量%、Zn4〜10質量%、Mg1〜4質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0〜0.2質量%である。特に好ましくは、Al82〜90質量%、Zn7〜10質量%、Mg2〜4質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%である。
【0024】
本発明では、粒径が5μm以下である結晶粒がアルミニウム系材料1000μm当たり、100個以上存在することを必須とする。好ましくは200個以上、最も好ましくは300個以上である。このように、ごく微小な粒径の結晶粒が多数存在することにより、本発明のアルミニウム系材料は、降伏強度、引っ張り強度等の強度が極めて高く、鍛造性にも優れたものとなる。存在する個数の上限は限定的でないが、通常800個以下程度である。また、粒径5μm以下の結晶粒の粒径の下限は限定されないが、例えば、1μm程度とすればよい。
【0025】
なお、本発明における結晶粒の粒径および結晶粒の数は、SEM−EBSD(走査型電子顕微鏡−電子線後方散乱回折法)を用いて、測定されるものである。
【0026】
本発明のアルミニウム系材料は、上記アルミニウム合金結晶粒に加えて、さらにスカンジウム(Sc)化合物の微粒子を含むものである。このようにスカンジウム化合物微粒子を含有させることにより、鍛造性等に優れることとなる。また、鍛造時に結晶粒をより微細化でき、鍛造後のアルミニウム系材料(鍛造品)をより高強度及び高硬度とすることができる。
【0027】
本発明のアルミニウム系材料の組成は、Al83.5〜90質量%、Zn7〜10質量%、Mg2〜4.5質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%からなることが好ましい。より好ましくは、Al84〜90質量%、Zn7〜10質量%、Mg2〜4質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%である。
【0028】
スカンジウム化合物微粒子としてが、例えば、スカンジウム−アルミニウム化合物、特に、AlScが好適に挙げられる。当該微粒子の平均粒子径は限定的でないが、通常3nm〜50nm程度、好ましくは5nm〜20nm程度である。この範囲とすることにより、当該微粒子によるピンニング力をより大きくすることができ、アルミニウム合金の結晶粒を増加することができる。その結果、強度、硬度等を向上させることができる。
【0029】
スカンジウム化合物微粒子の含有量は限定的でないが、例えば、アルミニウム系材料中、1〜5体積%程度、好ましくは2〜4体積%程度とすればよい。
【0030】
本発明では、さらに他の無機化合物の微粒子を含んでいてもよい。例えば、ジルコニウム化合物、スカンジウム−ジルコニウム複合化合物等の微粒子を含んでいてもよい。より具体的には、AlZr、Al(Zr,Sc)等が挙げられる。これら微粒子の平均粒子径は限定的でないが、通常3nm〜50nm程度、好ましくは5nm〜20nm程度である。
【0031】
ジルコニウム化合物微粒子等を含有する場合は、その含有量は、アルミニウム系材料中、0.01〜3体積%程度、好ましくは0.5〜2体積%程度とすればよい。
【0032】
上記スカンジウム化合物微粒子及び無機化合物微粒子は、上記アルミニウム合金を構成する結晶粒内及び/又はその結晶粒界に分散した状態で存在していることが好ましい。
【0033】
これらスカンジウム化合物微粒子及び無機化合物微粒子の平均粒子径の測定方法は、断面の電子顕微鏡観察(例えばTEM)による画像解析により任意の粒子を100個程度選択して平均値を算出するという方法により実施する。
【0034】
スカンジウム化合物微粒子及び無機化合物微粒子の含有量(体積%)の測定は、状態図(アルミニウム=スカンジウム二元状態図など)より算出される。
【0035】
本発明のアルミニウム系材料は、上記特徴を有するため、優れた強度、硬度等を有する。また、本発明のアルミニウム系材料は、鍛造性に優れる、すなわち、高温変形抵抗が低いため、加熱することにより容易に変形加工が可能となる。具体的には、常温では上記のような優れた強度を有するが、高温に加熱すると、より低い圧縮圧力で変形が加工となる。従って、より複雑な構造を有する部品への加工が容易となる。
【0036】
なお、鍛造した後のアルミニウム系材料(アルミニウム系材料鍛造品)は、さらに、鍛造工程により、さらに結晶粒が微細化され、より優れた強度、硬度等を有することとなる。
【0037】
2.アルミニウム系材料の製造方法
本発明のアルミニウム系材料の製造方法は、(1)アルミニウム及びスカンジウムを含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する第1工程、(2)前記粉末を成形することにより成形体を作製する第2工程、(3)前記成形体を加熱することにより、成形体中にスカンジウム化合物微粒子を析出させる第3工程、及び(4)前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る第4工程、を含むことを特徴とする。
【0038】
(1)第1工程
第1工程では、アルミニウム及びスカンジウムを含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する。
【0039】
本発明で使用する溶湯は、アルミニウム及びスカンジウムを含んでいる限り限定的でないが、例えば、アルミニウムを80質量%程度以上含有していればよく、また、そのほかの金属種として、Zn、Mg、Cu、Ag、Si等を含有していればよい。例えば、Al78.5〜90.29質量%、Zn7〜12質量%、Mg2〜5質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%(特に、Al84〜90質量%、Zn7〜10質量%、Mg2〜4.5質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%)を含む溶湯が好ましい。なお、この溶湯には、Zrをさらに0.15〜1.5質量%程度含んでいてもよい。
【0040】
溶湯の材料は、例えば、2000系、6000系、7000系合金等で一般的に使用される合金材料及び公知又は市販のスカンジウム等を使用し、これらを適当量配合して、上記溶湯の組成割合となるように調製すればよい。本発明では、7000系合金材料(Al−Zn−Mg−Cu系合金材料、特に、Al−Zn−Mg−Cu−Ag系合金材料)に、スカンジウム又はその化合物を上記配合割合(0.2〜2質量%)となるように混合することが好ましい。スカンジウムの割合が2質量%を超えると、アトマイズ法による処理に固溶しにくくなり、粗大なスカンジウム化合物微粒子が析出するおそれがある。一方、0.2質量%未満であると、結晶粒増加の効果が発揮されなくなるおそれがある。
【0041】
溶湯の調製は、例えば上記組成を有するAl合金原料を高周波溶解炉において融解させ、800〜1000℃程度の温度で保持すればよい。
【0042】
アトマイズ法は、例えばガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等のいずれであってもよいが、本発明ではガスアトマイズ法を好適に用いることができる。ガスアトマイズ法で用いるガス(流体)としては、例えば空気のほか、不活ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素等)を用いることができる。
【0043】
アトマイズは、公知の装置(ガスアトマイズ機)を用いて実施することができる。例えば、Al合金溶湯をアトマイズ機に付属した坩堝に流し込む。この坩堝の底には、穴が開けられており、溶湯の温度を低下させることなく、ここからアトマイズノズルの溶湯噴出口まで導けるようにしておく。Al合金溶湯がアトマイズノズル溶湯噴出口に達する直前に、ノズル穴から高圧の空気の噴霧(アトマイズ)ガスが噴出し、このガスの圧力により溶湯噴出口から出てきたAl合金溶湯は細かく粉砕される。このように細かく粉砕された溶湯は、高圧のガス及び/又は雰囲気により直ちに冷却され、凝固することにより、Al合金急冷凝固粉末が得られる。アトマイズに際しては、Al合金溶湯を10K/秒以上の冷却速度で凝固させる。
【0044】
アトマイズ法で得られるAl合金急冷凝固粉末は用途に応じて、所定の粒径(例えば、100メッシュのふるいにより、150μm以下)にふるい分けることができる。また、Al合金急冷凝固粉末の粒子形状も制限されず、球状、フレーク状、不定形状等のいずれであってもよい。
【0045】
(2)第2工程
第2工程では、前記粉末を成形することにより成形体を作製する。成形方法は、特に制限されず、例えば冷間静水圧プレス(CIP)、熱間静水圧(HIP)等の公知の方法を採用することができる。成形時における成形圧は、所望の相対密度、用いる前記粉末の組成等に応じて適宜決定できるが、通常は500〜5000kg/cm程度とすればよい。或いは、上記のようにして得たAl合金粉末急冷凝固粉末を固化成形した後に、必要ならば脱ガス処理を施しても構わない。
【0046】
(3)第3工程
第3工程では、前記成形体を加熱することにより、成形体中にスカンジウム化合物微粒子を析出させる。
【0047】
加熱温度は、400〜550℃程度、好ましくは450〜500℃程度である。この温度にすることにより、成形体(例えば、アルミニウム合金の結晶粒内及び/又は結晶粒界)にスカンジウム化合物微粒子(特にAlSc)を析出することができる。
【0048】
本発明では、上記加熱に際し、昇温速度を10〜100℃/min程度、特に15〜30℃/min程度にすることが好ましい。上記範囲の温度に成形体を加熱すると、スカンジウム化合物微粒子が析出するが、この析出する微粒子は、昇温速度に依存する。例えば、昇温速度が早すぎると、析出する上記微粒子の粒径が大きくなる。一方、昇温速度が遅すぎると、粒径が小さくなる。ここで、後述する第4工程時において、析出する微粒子が結晶粒を微細化させることとなるが、当該析出する微粒子の粒径が大きすぎると、第4工程で生じる微粒子による結晶粒を微細化させる力(ピンニング力)が小さくなりすぎて、微細化ができないおそれがある。また、小さすぎても上記ピンニング力が小さくなりすぎて、微細化できないおそれがある。従って、昇温速度を上記範囲とすることにより、より微細化に適している粒径(例えば、3nm〜50nm程度、特に5nm〜20nm程度のスカンジウム化合物微粒子を析出することが可能となる。これによって、結晶粒が1000μm当たり、100個以上存在する製造するアルミニウム系材料を容易に製造できる。
【0049】
昇温後の保持時間は限定的でないが、通常0.5〜5時間、好ましくは0.5〜1時間とすればよい。
【0050】
この場合の熱処理雰囲気は、一般には、空気中雰囲気で行うが、不活性雰囲気で加熱しても構わない。
【0051】
(4)第4工程
第4工程では、前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る。すなわち、第3工程で加熱した状態を維持したまま、押出を行う。この押出時に合金結晶が微細化されることとなるが、上記第3工程で析出したスカンジウム化合物微粒子の存在と成形体に印加される圧力との相乗効果によって、結晶粒の微細化が顕著に生じることとなる。
【0052】
熱間押出する場合の温度条件は、第3工程で行った加熱温度で行えばよく、通常は350〜550℃程度、好ましくは450〜500℃程度とすればよい。熱間押出の条件は限定されない。押出比は、5〜100程度(特に10〜60程度)で押し出すことにより、成形材とすることができる。
【0053】
押出速度は限定的でないが、通常10〜300mm/min程度、好ましくは30〜100mm/minとすればよい。
【0054】
押出時における成形体に印加する圧力は、通常400MPa〜2000MPa程度とすればよい。
【0055】
(5)第5工程
本発明では、必要に応じて、第4工程後にさらに本第5工程を行ってもよい。第5工程では、前記押出材を鍛造することにより、アルミニウム系材料鍛造品を得る。
【0056】
鍛造は、例えば、高温で圧縮することにより行えばよい。
【0057】
鍛造時の温度は、通常350〜550℃程度、好ましくは400〜480℃程度とすればよい。
【0058】
圧縮時の圧力は、上記温度でアルミニウム系材料を圧縮することができる限り特に制限されないが、通常1MPa〜30MPa程度、好ましくは1MPa〜20MPa程度とすればよい。
【0059】
さらに必要に応じて、第5工程後において(第5工程を行わない場合は第4工程後において)、前記第5工程で得られた鍛造品又は第4工程で得られた押出材を400〜550℃(好ましくは450〜500℃)で容体化処理した後、氷水中で急冷し、さらにT6処理を行うこともできる。T6処理は、例えば450〜500℃で0.5〜2時間加熱した後、さらに、100〜130℃で20〜100時間程度加熱すればよい。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、特定の微粒子を含み、さらに特定の微細な結晶構造を備えていることから、より優れた強度、硬度及び鍛造性を有するアルミニウム系材料及びその鍛造品を提供することができる。
【0061】
本発明の製造方法によれば、特定の材料を原料とし、さらに、高温状態で成形させていることから、特定の微粒子を含み微細な結晶構造を備えたアルミニウム系材料及びその鍛造品を製造することができる。
【0062】
本発明のアルミニウム系材料及び鍛造品は、例えば、航空機材料、自動車部品材料、精密機械部品材料、電子材料、バネ材料、ネジ材料等として好適に用いることができる。特に軽量化及び精密化の要請が高い自動車部品等の材料としても最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0064】
下記に示す各組成のアルミニウム(Al)合金原料を用いてアルミニウム(Al)系材料を作製した。なお、下記組成において、Alの組成割合(mass%)は、他の合金成分の残分である。
・組成No.1:Al−9.59Zn−3.11Mg−1.47Cu−0.04Ag−1.43Sc(mass%)
・組成No.2:Al−9.60Zn−3.09Mg−1.45Cu−0.04Ag−0.74Sc(mass%)
・組成No.3:Al−9.50Zn−3.15Mg−1.42Cu−0.04Ag−0.37Sc(mass%)
・組成No.4:Al−8.76Zn−2.93Mg−1.62Cu−0.04Ag(mass%)
実施例1
(第1工程)
上記の組成No.1の組成を有するAl合金原料を高周波溶解炉において融解させ、900℃の温度で保持した後、Al合金溶湯をアトマイズ機に付属した坩堝に流し込み、ガスアトマイズ法によりAl合金急冷凝固粉末(平均粒子径は40μm)を得た。粒度測定は、レーザー回折式粒度分布測定法により行った。
【0065】
(第2工程)
得られた粉末をゴム型に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)により、1500kg/cmの成形面圧で直径95mm×長さ200mmの寸法の粉末圧粉体を作製し、熱間押出用のビレットとした。
【0066】
(第3工程)
次いで、このビレットを昇温速度40℃/minにて、500℃まで加熱した。これにより、スカンジウム化合物微粒子(AlSc)がAl合金中に析出した。この析出した微粒子の平均粒子径を測定したところ、31nmであった。平均粒子径の測定は、TEMにより測定した。
【0067】
(第4工程)
上記ビレットを500℃で1時間維持した後、押出比10、押出速度30mm/minで熱間押出しを行い、直径10mmの棒状の実施例1の押出材(Al系材料)を作製した。この押出材から試験片を作製した。
【0068】
得られた実施例1のAl系材料をSEM/EBSDにより測定し、Al系材料を構成する結晶粒を測定した。この測定結果を図1に示す。なお、この図1から粒径5μm以下の結晶粒を計算したところ、1000μm当たり、385個存在した。また、Al3Sc微粒子のAl系材料中の含有量は、3.9体積%であった。この含有量(体積%)は、ビレットの加熱温度である500℃にて状態図(アルミニウム=スカンジウム二元状態図)により算出した。
【0069】
実施例1のAl系材料の引張強度、降伏強度及び硬度を測定した。これらの結果を表1に示す。なお、引張強度及び降伏強度は、実施例1の押出材(Al系材料)を直径2.4mm×長さ15.9mmの円柱形試験片に切削し、この試験片にT6処理を施した後、引張り試験機(島津製作所製、オートグラフAG−IS)を用いて、初期歪み速度2%/minで引張り試験を行うことにより測定した。硬度は、実施例1の押出材(Al系材料)を直径10mm×長さ10mmの円柱形試験片に切削し、この試験片にT6処理を施した後、ヴィッカース硬度計(AKASHI社製、MVK−E)を用いて、300gf荷重でヴィッカース硬度測定を行うことにより測定した。本実施例において、T6処理は、試験片を490℃で30分間加熱した後、さらに110℃で30時間加熱することにより行った。
【0070】
また、鍛造性を評価するため、実施例1のAl系材料の高温変形抵抗を測定した。この結果を表1に示す。高温変形抵抗は、実施例1の押出材(Al系材料)を直径10mm×長さ15mmの円柱形試験片に切削した後、油圧サーボ式材料強度試験機(島津製作所製、EHF−ED5)を用いて、この試験片を440℃、初期歪み速度120%/minの条件下で圧縮し、圧縮抵抗を計測することにより、測定した。
【0071】
実施例2
Al合金原料を組成No.2の組成とした以外は実施例1と同様にして、実施例2のAl系材料を製造した。
【0072】
なお、第3工程で析出したAl3Sc微粒子の平均粒子径は、33nmであった。含有量は、2.1体積%であった。また、得られた実施例のAl系材料の粒径5μm以下の結晶粒を測定したところ、1000μm当たり、159個存在した。
【0073】
実施例2のAl系材料の引張強度、硬度及び降伏強度の測定結果を表1に示す。
【0074】
実施例3
Al合金原料を組成No.3の組成とした以外は実施例1と同様にして、実施例3のAl系材料を製造した。
【0075】
なお、第3工程で析出したAl3Sc微粒子の平均粒子径は、22nmであった。含有量は、1.0体積%であった。また、得られた実施例のAl系材料の粒径5μm以下の結晶粒を測定したところ、1000μm当たり、125個存在した。
【0076】
実施例3のAl系材料の引張強度、降伏強度、硬度及び高温変形抵抗の測定結果を表1に示す。
【0077】
実施例4
第3工程における昇温速度を15℃/minとした以外は実施例1と同様にして、実施例4のAl系材料を製造した。
【0078】
なお、第3工程で析出したAl3Sc微粒子の平均粒子径は、5.1nmであった。含有量は、3.9体積%であった。また、得られた実施例のAl系材料の粒径5μm以下の結晶粒を測定したところ、1000μm当たり、433個存在した。
【0079】
実施例4のAl系材料の引張強度、降伏強度、硬度及び高温変形抵抗の測定結果を表1に示す。
【0080】
実施例5
Al合金原料を組成No.2の組成とし、且つ、第3工程における昇温速度を15℃/minとした以外は、実施例1と同様にして、実施例5のAl系材料を製造した。
【0081】
なお、第3工程で析出したAl3Sc微粒子の平均粒子径は、7.8nmであった。含有量は、2.1体積%であった。また、得られた実施例のAl系材料の粒径5μm以下の結晶粒を測定したところ、1000μm当たり、223個存在した。
【0082】
実施例5のAl系材料の引張強度、降伏強度、硬度及び高温変形抵抗の測定結果を表1に示す。
【0083】
比較例1
Al合金原料を組成No.4の組成とした以外は実施例1と同様にして、比較例1のAl系材料を製造した。
【0084】
得られた比較例1のAl系材料の結晶粒を測定した。この測定結果を図2に示す。なお、この図2から粒径5μm以下の結晶粒を計算したところ1000μm当たり、29個存在した。
【0085】
比較例1のAl系材料の引張強度、降伏強度、硬度及び高温変形抵抗の測定結果を表1に示す。
【0086】
なお、実施例2〜5及び比較例1の第1工程で得られたAl合金急冷凝固粉末の平均粒子径はいずれも35〜50μmの範囲内であった。
【0087】
【表1】

【0088】
実施例6
(第5工程)
実施例1で得られたAl系材料を、初期歪み速度120%/min、440℃にて高温圧縮(圧縮圧力:10MPa)することにより、実施例6のAl系材料鍛造品を製造した。
【0089】
この鍛造品を構成する結晶粒を測定した。この測定結果を図3に示す。この図3から粒径5μm以下の結晶粒を計算したところ、1000μm当たり、523個存在した。
【0090】
また、実施例6の鍛造品の硬度を測定した。この結果を表2に示す。
【0091】
実施例7〜8及び比較例2
実施例2〜3及び比較例1で得られたAl系材料を実施例6と同様にして第5工程を行い、それぞれ実施例7〜8及び比較例2のAl系材料鍛造品を製造した。
【0092】
これらの鍛造品を構成する結晶粒を測定したところ、1000μm当たり、実施例7では、410個、実施例8では、248個、比較例2では、62個であった。なお、比較例2の鍛造品の測定結果を図4に示す。
【0093】
また、実施例7〜8及び比較例2の鍛造品の硬度を測定した。この結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
評価
本発明の実施例1〜5のAl系材料は、比較例1のAl系材料と比較して、降伏強度及び引張強度ともに高い値を示し、良好であった。また、高温変更抵抗の値が低いため、鍛造性にも優れていた。
【0096】
さらに、本発明の実施例6〜8のAl系材料鍛造品も、比較例2のAl系材料鍛造品と比較しても、硬度等が高い値を示し、良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、実施例1のAl系材料の結晶粒状態をSEM/EBSDにより測定したものである。
【図2】図2は、比較例1のAl系材料の結晶粒状態をSEM/EBSDにより測定したものである。
【図3】図3は、実施例6のAl系材料鍛造品の結晶粒状態をSEM/EBSDにより測定したものである。
【図4】図4は、比較例2のAl系材料鍛造品の結晶粒状態をSEM/EBSDにより測定したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の結晶粒を含むアルミニウム系材料であって、
(1)前記アルミニウム系材料がスカンジウム化合物微粒子を含有し、
(2)粒径が5μm以下である結晶粒がアルミニウム系材料1000μm当たり、100個以上存在する、
ことを特徴とするアルミニウム系材料。
【請求項2】
アルミニウム系材料が、Al83.5〜90質量%、Zn7〜10質量%、Mg2〜4.5質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%を含む、請求項1に記載のアルミニウム系材料。
【請求項3】
スカンジウム化合物微粒子の平均粒子径が3nm〜50nmである、請求項1又は2に記載のアルミニウム系材料。
【請求項4】
スカンジウム化合物微粒子が、AlScである、請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム系材料。
【請求項5】
スカンジウム化合物微粒子の含有量が、1〜5体積%である、請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム系材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアルミニウム系材料を鍛造することにより得られる、アルミニウム系材料からなる鍛造品。
【請求項7】
粒径が5μm以下である結晶粒がアルミニウム系材料1000μm当たり、200個以上存在する、請求項6に記載の鍛造品。
【請求項8】
アルミニウム系材料を製造する方法であって、
(1)アルミニウム及びスカンジウムを含む溶湯からアトマイズ法により急冷凝固粉末を調製する第1工程、
(2)前記粉末を成形することにより成形体を作製する第2工程、
(3)前記成形体を加熱することにより成形体中にスカンジウム化合物微粒子を析出させる第3工程、及び
(4)前記成形体を熱間押出することにより押出材を得る第4工程
を含むことを特徴とするアルミニウム系材料の製造方法。
【請求項9】
溶湯が、Al78.5〜90.29質量%、Zn7〜12質量%、Mg2〜5質量%、Cu0.5〜2質量%、Ag0.01〜0.1質量%及びSc0.2〜2質量%を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
第3工程において、昇温速度10〜100℃/minで加熱する、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
スカンジウム化合物微粒子の平均粒子径が3nm〜50nmである、請求項8〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載の製造方法により得られたアルミニウム系材料をさらに鍛造する第5工程、
を含む鍛造品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−91624(P2009−91624A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263599(P2007−263599)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】