説明

アルミニウム系金属の表面処理方法

【課題】本発明の目的は、アルミニウム系金属の表面に良好な耐食性及び塗装密着性を付与することができるアルミニウム系金属の表面処理方法、該方法により得られた表面処理済みアルミニウム系金属、及び該表面処理済みアルミニウム系金属への複合防食性皮膜の形成方法を提供することにある。
【解決手段】本発明のアルミニウム系金属の表面処理方法は、アルミニウム系金属を処理液体中に浸漬して加熱及び加圧することにより表面処理皮膜を形成することからなるアルミニウム系金属の表面処理方法であって、処理液体は少なくとも硝酸塩を含有してなる水溶液であり、加熱温度は100℃以上であり、加圧条件は0.1kgf/cm以上であり、処理時間は1分以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造、鍛造、ダイキャスト、展伸などによって成形したアルミニウム系金属(本明細書中、「アルミニウム系金属」とは、金属アルミニウム及びアルミニウム合金を包含するものとする)の表面の清浄化及び表面処理を低コストで行い、耐食性、特に、耐塩水性の良い表面が得られる表面処理方法、該方法により表面処理されたアルミニウム系金属、及び表面処理されたアルミニウム系金属上への密着性の良好な樹脂皮膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム系金属は、高温多湿時、特に、塩分を含んだ雰囲気中などにおいて、表面処理や塗装を施してない状態では腐食し易い。また、鋳造、ダイキャストなどでアルミニウム系金属を成形する時には、その表面に成形時に用いた離型剤が付着しているため、これを前処理によって清浄化しておかないと、塗装を施しても塗膜の密着性が著しく低下して早期に腐食が発生する要因となる。
【0003】
これらの解決策として、従来、例えば(a)アルミニウム系金属をアルカリ脱脂、酸洗い、あるいはブラスト研磨により、表面清浄を行う前処理工程;(b)クロム酸塩(クロメート)等による化成処理を行う下地処理工程;(c)塗料を塗布する塗装工程が行われていた。しかし、前処理工程(a)のブラスト研磨は、複雑な成形品の場合、深い凹部の中などを清浄化することは難しく、アルカリ脱脂、酸洗いなどの処理は、残留する水との接触で腐食を生じ易い。また、下地処理工程(b)のクロメート処理は、人体への影響などの点から採用しない方向にある。更に、塗装工程(c)においては、下地処理工程(b)の後、塗装するまでの間に腐食を生ずることがあり、クロム酸塩を用いた化成処理による下地処理工程に代わる下地処理(化成処理)が望まれていた。
【0004】
また、別法として、前処理工程(a);及び(d)陽極酸化処理工程とから構成される陽極酸化処理があるが、陽極酸化処理工程(d)は、特に複雑形状のものについては均一処理を行うことができず、また、前処理工程(a)が完璧に行われていない場合にも同様の問題があり、更に、処理コストも高い。
【0005】
更に、特許文献1には、リン酸イオン、硝酸イオン、亜鉛イオン、ナトリウムイオンおよびフッ素イオンを含有するリン酸亜鉛系化成処理液を用いるアルミニウムまたはアルミニウム合金のリン酸亜鉛系化成処理方法において、継続使用中の該リン酸亜鉛系化成処理液のpHとフッ素イオン濃度を測定し、リン酸イオン、硝酸イオンおよび亜鉛イオンを含有し亜鉛イオン/リン酸イオンのモル比が0.7〜1.3である組成物Aと、ナトリウムイオンとフッ素イオンのモル比が0.6〜1.0である組成物Bとを補給することにより、該リン酸亜鉛系化成処理液のリン酸イオン濃度とフッ素イオン濃度とを所望の価に保持することを特徴とする、アルミニウムまたはアルミニウム合金のリン酸亜鉛系化成処理方法(請求項1)が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、アルミニウム含有金属材料の表面の少なくとも1部に、化学エッチング処理を施し、次にリン酸ジルコニウム及びリン酸チタンの少なくとも1種を含む化成処理液による化成処理を施して、第1保護膜層を形成し、次にこの第1保護膜層に、親水性樹脂を含む第2保護膜層を形成する工程を含み、前記第2保護膜層中の親水性樹脂が、架橋されていない少なくとも1種の親水性官能基と、この親水性官能基とは異なる少なくとも1種の反応性官能基とを含み、この反応性官能基の少なくとも一部が架橋されている、ことを特徴とするアルミニウム含有金属材料の表面処理方法が開示されている。
【0007】
更に、特許文献3には、アルミニウム合金部材を構成要素として含む金属部材の表面を塗装するに際し、その前処理として行われる化成処理法であって、フッ素イオン濃度が300〜350ppm、ケイフッ化水素濃度が500〜750ppm、遊離酸度が0.55〜0.8ポイントであるリン酸塩処理液を使用し、上記金属部材の表面を化成処理することにより、その表面に化成皮膜を形成することを特徴とする金属部材の化成処理法が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を、第2鉄イオン0.1〜0.4g/L及び硫酸イオンを含むpH0.6〜2.0の酸性水溶液で処理する工程(1)、ジルコニウムイオン又はチタニウムイオン0.01〜0.125g/L、リン酸イオン0.01〜1.0g/L、及び、フッ素イオン0.01〜0.5g/Lを含むpH1.5〜4.0の酸性化成処理剤で化成処理する工程(2)、エポキシ樹脂を含む溶液で処理する工程(3)、並びに、粉体塗装する工程(4)を含むことを特徴とするアルミニウム基材又はアルミニウム含有基材の処理方法が開示されている。
【0009】
更に、特許文献5には、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面を、周期表の4属または5属の金属イオンを含む溶液を用いて化成処理して該金属を含有する皮膜を形成する化成処理工程と、該金属を含有する皮膜の形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金をメルカプト化合物またはチオカルボニル基含有化合物の少なくともいずれか1つを含む溶液を用いて後処理する後処理工程とを有することを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法(請求項1);前記化成処理工程に先立ち、銅を除去可能な金属イオンを含む酸溶液により前記アルミニウム合金を表面処理する前処理工程をさらに有することを特徴とする請求項4記載のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法(請求項5);前記金属イオンが3価の鉄イオン、過マンガン酸イオン、ニッケルイオン、モリブデンイオン、セリウムイオン、またはコバルトイオンであることを特徴とする請求項5記載のアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法(請求項6)が開示されている。また、特許文献1の明細書中には、前処理工程及び化成処理工程の諸条件は開示されていないが、特許文献1の[0056]段落の実施例の記載によれば、前処理工程並びに化成処理工程は、いずれも60℃の温度で行われている。
【0010】
【特許文献1】特開平10−237667号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開平11−131254号公報 特許請求の範囲
【特許文献3】特開2000−34577号公報 特許請求の範囲
【特許文献4】特開2002−249886号 特許請求の範囲
【特許文献5】特開2002−275649号 特許請求の範囲 [0056]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1ないし5開示されているような従来の表面処理方法では、化成処理が不充分であり、表面処理済みアルミニウム系金属の耐食性及び塗装密着性を充分に得ることはできないという問題点があった。
【0012】
従って、本発明の目的は、アルミニウム系金属の表面に良好な耐食性及び塗装密着性を付与することができるアルミニウム系金属の表面処理方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記アルミニウム系金属の表面処理方法により表面処理された表面処理済みアルミニウム系金属を提供することにある。
更に、本発明の更に他の目的は、上記表面処理済みアルミニウム系金属に、良好な塗装密着性を有する樹脂皮膜を形成することができるアルミニウム系金属表面への複合防食性皮膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明のアルミニウム系金属の表面処理方法は、アルミニウム系金属を処理液体中に浸漬して加熱及び加圧することにより表面処理皮膜を形成することからなるアルミニウム系金属の表面処理方法であって、処理液体は少なくとも硝酸塩を含有してなる水溶液であり、加熱温度は100℃以上であり、加圧条件は0.1kgf/cm以上であり、処理時間は1分以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のアルミニウム系金属の表面処理方法は、少なくとも硝酸塩を含有してなる水溶液が更に珪酸塩を含有してなることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明のアルミニウム系金属の表面処理方法は、少なくとも硝酸塩を含有してなる水溶液が更にキレート剤を含有してなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のアルミニウム系金属の表面処理方法は、加熱温度が100℃〜250℃の範囲内であり、加圧条件が0.1〜20kgf/cmの範囲内であり、処理時間が1〜300分の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の表面処理済みアルミニウム系金属は、上記アルミニウム系金属の表面処理方法によりアルミニウム系金属表面に表面処理皮膜が形成されてなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のアルミニウム系金属表面への複合防食性皮膜の形成方法は、上記表面処理済みアルミニウム系金属の表面処理皮膜上に、樹脂皮膜を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低コストでアルミニウム系金属表面へ良好な耐食性及び塗装密着性を付与することができ、更に、表面処理済みアルミニウム系金属に、良好な塗装密着性を有する樹脂皮膜を形成することができるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のアルミニウム系金属の表面処理方法では、アルミニウム系金属を例えばオートクレーブ等の容器内の処理液体中に浸漬し、加熱・加圧処理することにより、アルミニウム系金属表面を清浄化するものである。ここで、本発明の表面処理方法では、特定の処理液体を用いることにより、アルミニウム系金属表面に表面処理皮膜を形成することができ、従来、前処理工程並びに下地処理工程の二工程で行われていた表面処理が一工程に短縮され、低コスト化が図れると共に環境問題等を解決することができる。
【0021】
本発明の表面処理方法に使用される処理液体は、(1)水に硝酸塩を溶解させた水溶液;(2)水に硝酸塩と珪酸塩を溶解させた水溶液;または(3)水に硝酸塩と珪酸塩とキレート剤を溶解させた水溶液である。
【0022】
ここで、硝酸塩としては、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、銀、銅、バリウム、ビスマス、マンガン、リチウム等の金属塩や、アンモニウム塩、アミン塩等の化合物を使用できる。
【0023】
また、珪酸塩としては、例えばオルト珪酸、セキス珪酸、メタ珪酸、二珪酸、四珪酸のアルカリ金属塩、周期表4A、7A、8、1B、2B、3B、4B族の金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等の化合物を使用できる。特に、ナトリウム塩については、例えば二珪酸二ナトリウム(珪酸ソーダ1号:JIS)、五珪酸四ナトリウム(珪酸ソーダ2号:JIS)、三珪酸二ナトリウム(珪酸ソーダ3号:JIS)、四珪酸二ナトリウム(珪酸ソーダ4号:日本工業規格)、カリウム塩については、二珪酸二カリウム、五珪酸四カリウム、三珪酸二カリウム、四珪酸二カリウム等の化合物を使用することができる。
【0024】
更に、キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ヒドロキシエチリデンホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスホノブタン三カルボン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩、ポリアクリル酸、アクリル酸・マレイン酸コポリマーのアルカリ金属塩、周期表4A、7A、8、1B、2B、3B、4B族の金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等の化合物を使用することができる。
【0025】
水溶液の濃度は、硝酸塩を10質量%以下(ゼロを含まず)、好ましくは0.001〜5質量%の範囲内の濃度で、珪酸塩を15質量%以下、好ましくは0.001〜10質量%の範囲内の濃度で、キレート剤を15質量%以下、好ましくは0.001〜10質量%の範囲内の濃度で使用することができる。上記濃度範囲を超えると、表面処理効果が飽和し、経済的メリットがなく、更に、一般的に濃度が高過ぎると、表面処理済みアルミニウム系金属表面に処理液残渣が付着し、樹脂、塗料との密着性不良の原因となることがあるために好ましくない。
【0026】
上述のような液体への浸漬処理において、処理液体の温度並びに加圧の条件は、表面処理液の凝固点や沸点と関係するために一義的に特定できないが、加熱温度は、100〜250℃、好ましくは110〜180℃の範囲内とする。ここで、液体の温度が上記範囲を下回ると反応温度の低下に伴い、目的とする表面処理を行うことができないことがあるために好ましくない。また、液体の温度が250℃を超えると、液体の種類によっては、劣化が進行することがあり、また、経済的にも好ましくない。また、加圧は、0.1〜20kgf/cm、好ましくは0.5〜10kgf/cmの範囲内とする。ここで、加圧条件が0.1kgf/cm未満であると、目的とする表面処理を行うことができないために好ましくない。また、加圧条件が20kgf/cmを超えても、それに見合うだけの効果が得られないために好ましくない。また、処理時間は1〜300分、好ましくは5〜120分の範囲内で行われるが、アルミニウム系金属の種類により異なる場合もある。ここで、処理時間が1分未満では、目的とする表面処理を行うことができないために好ましくなく、また、処理時間が300分を超えても、それに見合うだけの効果が得られず、工業的コスト等の影響も大きいので好ましくない。
【0027】
なお、本発明において、アルミニウム系金属の処理液体への浸漬は、上記加熱、加圧条件を満たすことができればどのような装置を使用しても良いが、例えばオートクレーブ等を使用することができる。
【0028】
次に、上記のようにして表面処理を施すことによりアルミニウム系金属表面に表面処理皮膜を形成することができ、それによってアルミニウム系金属表面に優れた耐食性並びに塗装密着性を付与することができる。なお、表面処理皮膜の形成メカニズム並びにその化学組成等についての詳細は現段階では不明であるが、後述の実施例において説明する表面処理済みアルミニウム系金属の耐食性及び塗装密着性のデータから表面処理済みアルミニウム系金属表面には、何らかの表面処理皮膜が形成されているものと推定される。
【0029】
次に、施した表面処理皮膜を有する表面処理済みアルミニウム系金属に、塗料を塗布することにより樹脂皮膜を形成してアルミニウム系金属表面に複合防食性皮膜を施すための樹脂皮膜の塗装方法について説明する。塗料としては、樹脂材料を有機溶媒または水で溶解した塗料の1種または2種以上が用いられる。樹脂材料としては、エポキシ、ウレタン、フェノール、ポリオレフィン、シリコーン、アルキド、アクリル、フッ素、メラミン系樹脂等を使用することができる。
【0030】
また、有機溶剤としては塗装後、常温、加熱処理または硬化剤の使用によりアルミニウム系金属に塗膜が形成されるものであれば特に限定されるものではない。また、硬化剤等も特に限定されるものではなく、各樹脂脂材料について、公知、慣用の物質を慣用の量で使用することができる。
【0031】
上述のように樹脂材料の塗装方法は、ディップ法、スプレー法、はけ塗り、静電塗装、電着塗装等を使用することができるが、特に限定されるものではない。アルミニウム系金属に塗布生成した樹脂層は、風乾または加熱処理、電子線、UV、硬化剤の添加等で硬化する。これらの塗装方法における加熱処理時間、塗料の濃度等については適宜選択することができる。
【0032】
上記のように塗料を塗布することにより、優れた塗装密着性を有する樹脂皮膜が形成され、上記皮膜処理皮膜と共に複合防食性皮膜を形成する。従来の方法では、特に鋳造物等では、表面に剥離剤が付着残留し、また、加工自体から避けられない表面細孔等により、これらの樹脂皮膜を形成しても良好な塗装密着性が得られなかったが、前述の表面処理により均一且つ清浄な表面処理皮膜が得られ、樹脂皮膜との密着性が優れているので、この表面処理皮膜と樹脂皮膜とからなる極めて耐食性の優れた複合防食性皮膜が形成される。
【0033】
なお、本発明の表面処理の対象となるアルミニウム系金属は、特に限定されるものではなく、金属アルミニウムは勿論のこと、例えばJIS規格品ADC12(Cu:1.5〜3.5%、Si:9.6〜12.0%、Mg:0.3%以下、Zn:1.0%以下、Ni:0.5%以下、Fe:1.3%以下、Mn:0.3%以下、Sn:0.3%以下、残Al);JIS規格品AC4CH(Cu:0.10%以下、Si:6.5〜7.5%、Mg:0.25〜0.45%、Zn:0.10%以下、Fe:0.20%以下、Mn:0.10%以下、Ni:0.05%以下、Ti:0.20%以下、Sn:0.05%以下、残Al)、JIS規格品A1050(Si:0.25%以下、Fe:0.40%以下、Cu:0.05%以下、Mn:0.05%以下、Mg:0.05%以下、Zn:0.05%以下、Ti:0.03%以下、残Al);JIS規格品A2024(Si:0.50%以下、Fe:0.50%以下、Cu:3.8〜4.9%、Mn:0.30〜0.90%、Mg:1.2〜1.8%、Cr:0.10%以下、Zn:0.25%以下、Ti:0.15%以下、残Al);JIS規格品A3003(Si:0.6%以下、Fe:0.7%以下、Cu:0.05〜0.20%、Mn:1.0〜1.5%、Zn:0.10%以下、残Al)、JIS規格品A5052(Si:0.25%以下、Fe:0.40%以下、Cu:0.10%以下、Mn:0.10%以下、Mg:2.2〜2.8%、Cr:0.15〜0.35%、Zn:0.10%以下、残Al);JIS規格品A6063(Si:0.20〜0.6%、Fe:0.35%以下、Cu:0.10%以下、Mn:0.10%以下、Mg:0.45〜0.9%、Cr:0.10%以下、Zn:0.10%以下、Ti:0.10%以下、残Al)、JIS規格品A7075(Si:0.40%以下、Fe:0.50%以下、Cu:1.2〜2.0%、Mn:0.30%以下、Mg:2.1〜2.9%、Cr:0.18〜0.28%、Zn:5.1〜6.1%、Ti:0.20%以下、残Al)に代表されるようなアルミニウム合金を例示することができるが、これらのアルミニウム合金に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。なお、実施例において用いた評価用試験基材は、アルミニウム合金JIS規格品ADC12(寸法75×150×2mm);JIS規格品AC4CH(寸法75×150×5mm);JIS規格品A1050(寸法75×150×2mm);JIS規格品A2024(寸法75×150×2mm);JIS規格品A3003(寸法75×150×2mm)、JIS規格品A5052(寸法75×150×2mm);JIS規格品A6063(寸法75×150×2mm)、JIS規格品A7075(寸法75×150×2mm)であって、酸、アルカリ、有機溶剤等で前処理していないものを使用した。なお、ADC12はダイカスト材、AC4CHは鋳物材、A1050、A2024、A3003、A5052、A7050は展伸材、A6063は鍛造材である。
加熱、加圧処理は全てオートクレーブを用い、オートクレーブ中で水に硝酸塩を溶解させた水溶液、水に硝酸塩と珪酸塩を溶解させた水溶液、水に硝酸塩と珪酸塩とキレート剤を溶解させた水溶液とし、これに試験基材を浸漬し、加熱、加圧処理を行い、水洗後、温風乾燥して試験片とした。なお、硝酸塩としては、硝酸ナトリウム、硝酸加カリウム、硝酸亜鉛を用い、珪酸塩としては、二珪酸二ナトリウム、二珪酸二カリウム、メタ珪酸ナトリウムを用い、キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウムを用いた。
液体の種類、濃度、加熱及び加圧条件、処理時間は以下の表に記載する通り。
【0035】
<試験・評価方法>
上述のようにして表面処理を施された評価用試験基材は、JIS Z2371「塩水噴霧試験方法」により、試験基材表面に白錆が発錆するのを目視にて観察し、白錆発錆までの時間(以下、「耐久時間」という)を測定した。そして、以下の判定基準により6段階に区分した:
レベルNo. 耐塩水噴霧性
0 24時間未満
1 24時間以上100時間未満
2 100時間以上240時間未満
3 240時間以上500時間未満
4 500時間以上1000時間未満
5 1000時間以上
レベルNo.0に該当する耐久時間が24時間未満のものは少なくとも実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、レベルNo.1〜5に該当する耐久時間24時間以上のものは、少なくとも実用的に問題ないと考えられ、白錆発錆までの時間が長いものほど耐久性があることを示す。
【0036】
また、塗料との密着性、耐食性を評価するため、溶剤系塗料としてウレタン系樹脂塗料(日本ペイント株式会社製のユニポン200系)、エポキシ系樹脂塗料(日本ペイント株式会社製ニッペパワーバインド)、メラミンアクリル樹脂系塗料(関西ペイント株式会社製マジクロン1000系)、アクリル系樹脂塗料(川上塗料株式会社製アクリカB−160)、シリコーン系樹脂塗料(千代田ケミカル株式会社製のチオライトB−5007)、メラミンアルキド系樹脂塗料(日本ペイント株式会社製オルガセレクト120)を用い、水溶性塗料として、メラミンアクリル系樹脂(神東塗料株式会社製オーディック#100)、エポキシ系樹脂塗料(東京ペイント株式会社製プラチロン#805)、ポリエステルメラミン樹脂系塗料(日本ペイント株式会社製オーデエコラインS−100)、アクリル樹脂系塗料(久保孝ペイント株式会社製アスコントップ)を用い、これらの塗料を単独でまたは配合したものを上記表面処理済み試験基材表面上にエアースプレーで塗布して厚さ20〜40μmの塗膜を形成した。
【0037】
塗料密着性試験は、JIS K5400「塗料一般試験方法」の8.5.1「碁盤目法」により、試験基材表面に碁盤目(1mm×1mm:100マス)を描き、JIS Z1522に規定するセロハン粘着テープを貼り付け、テープアップ後の格子残存数を計測することにより行われた。そして、以下の判定基準により、区分した:
×:残存数100マス未満
○:残存数100マス
「×」に該当する残存数100マス未満のものは、実用的に問題を生じる可能性のあるものであり、「○」に該当する残存数100マスのものは少なくとも実用的に問題がないものと考えられる。なお、上記各種塗膜について、塗料密着性試験は同様の結果が得られたので、纏めて以下の表に結果を記載する。
【0038】
塗装後の耐食性は、JIS Z2371の「塩水噴霧試験方法」により、塗膜を有する試験基材の表面にクロスカットを入れ、クロスカット部からの白錆によるふくれが発生するのを目視にて観察し、ふくれ幅が3mm以上になるまでの時間(以下、「耐久時間」という)を測定した。そして、以下の判定基準により6段階に区分した:
レベルNo. 耐塩水噴霧性
0 24時間未満
1 24時間以上100時間未満
2 100時間以上500時間未満
3 500時間以上1000時間未満
4 1000時間以上2000時間未満
5 2000時間以上
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
【表8】

【0047】
【表9】

【0048】
【表10】

【0049】
【表11】

【0050】
【表12】

【0051】
【表13】

【0052】
【表14】

【0053】
【表15】

【0054】
【表16】

【0055】
【表17】

【0056】
【表18】

【0057】
【表19】

【0058】
【表20】

【0059】
【表21】

【0060】
【表22】

【0061】
【表23】

【0062】
【表24】

【0063】
【表25】

【0064】
【表26】

【0065】
【表27】

【0066】
【表28】

【0067】
【表29】

【0068】
【表30】

【0069】
【表31】

【0070】
【表32】

【0071】
【表33】

【0072】
上記結果から、本発明の表面処理を施した試験基材の耐食性、塗装後の塗装密着性並びに塗装後の耐食性は、共に非常に良好であることから、反応機構の詳細は不明ではあるが、表面処理後の試験基材の表面には、表面処理皮膜が形成されているものと推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のアルミニウム系金属の表面処理方法は、鋳造、鍛造、ダイキャスト、展伸などによって成形したアルミニウム系金属表面の清浄化に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウム及びアルミニウム合金から選択されるアルミニウム系金属を処理液体中に浸漬して加熱及び加圧することにより表面処理皮膜を形成することからなるアルミニウム系金属の表面処理方法であって、処理液体は少なくとも硝酸塩を含有してなる水溶液であり、加熱温度は100℃以上であり、加圧条件は0.1kgf/cm以上であり、処理時間は1分以上であることを特徴とするアルミニウム系金属の表面処理方法。
【請求項2】
少なくとも硝酸塩を含有してなる水溶液が更に珪酸塩を含有してなる、請求項1記載のアルミニウム系金属の表面処理方法。
【請求項3】
少なくとも硝酸塩を含有してなる水溶液が更にキレート剤を含有してなる、請求項2記載のアルミニウム系金属の表面処理方法。
【請求項4】
加熱温度が100℃〜250℃の範囲内であり、加圧条件が0.1〜20kgf/cmの範囲内であり、処理時間が1〜300分の範囲内である、請求項1ないし3のいずれか1項記載のアルミニウム系金属の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のアルミニウム系金属の表面処理方法により表面処理皮膜が形成されてなることを特徴とする表面処理済みアルミニウム系金属。
【請求項6】
請求項5記載の表面処理済みアルミニウム系金属の表面処理皮膜上に、樹脂皮膜を形成することを特徴とするアルミニウム系金属表面への複合防食性皮膜の形成方法。

【公開番号】特開2006−144065(P2006−144065A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335019(P2004−335019)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(390011958)千代田ケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】