説明

アルミニウム表面に化成被覆を形成するための塗装材

0.05g/Lのジルコニウムイオン;ポリグリコシドなどの0.1g/Lの多糖類;0.11g/Lのリン酸塩;及び0.05g/Lのカルボン酸、を含有し、且つpHが2〜4.5の酸性溶液である、アルミニウム表面の被覆に使用する塗料溶液よりなる塗装材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装材、塗装材濃縮物、及び塗装方法に関し、また本発明を限定するものではないが特にアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を被覆するための塗装材及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの表面を、耐食性被覆を形成するのに有効な水性塗料溶液で被覆して、腐食性物質による攻撃から保護して該表面の劣化を防止することは知られている。一般に、このような塗料溶液から形成される被覆は、その上に形成される上塗り被覆が密着して強固に接着する特性を有する必要がある。このような上塗りは、装飾的であるか又は機能性であり、ペンキ、ラッカー、インク等の材料から形成される。
【0003】
アルミニウムの塗装の一例にはアルミ缶の塗装がある。一般に、アルミ缶に塗装された耐食性で接着性の被覆は、一様に無色透明であって、被覆された缶が下層のアルミニウムの明るく輝いた自然の外観を保持することが必要である。この明るく輝いた自然の外観は、最終製品において、缶の一部が着色ペンキ又はインクで被覆されている部分を通しても維持されることが望まれる。
【0004】
被覆されたアルミニウム缶が持つべき他の特性は、被覆された缶が適度の温度、例えば
60〜80℃の温度を有する温水に対する変色防止性である。ある用途ではアルミニウム缶はこのようにして加熱殺菌される。この処理は被覆しない又は場合により被覆したアルミニウム表面を黒ずんだものにし、或いは変色させ、缶の外観を魅力的でないものにする。
【0005】
アルミニウム缶用に広く使用されている塗料溶液はジルコニウム源と、遊離フッ素イオンと、植物性タンニンを含む。
このような塗料溶液は所望された型の被覆を形成することができるが、高度に腐食性で有害なフッ素イオンを含有するために、それらの使用は廃棄物処理と作業環境汚染の問題を生じる。
【0006】
アルミニウムに適用される処理溶液に対して払うべき重要な他の考慮は、(1)被覆が適用される温度等の化成被覆の塗布工程で利用されるエネルギー、(2)得られる被覆の品質、及び(3)所望の被覆を達成するために必要な調整である。短い塗布時間と比較的低い処理温度で高品質の被覆を得ることが最も望ましい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐食性、接着性及び色彩に関して満足な結果が得られる被覆は、現在の製造条件の範囲内で、許容される短い処理時間内(一般に10−20秒間)に上記の条件を満たさなければならない。通常これは遊離のフッ素イオンを利用することにより達成されるが、腐食と使用者への健康障害を起こし、環境に対して有害である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、
0.01−0.15g/Lのジルコニウムイオン;
0.05−0.5g/Lの多糖類;
0.01−10g/Lのリン酸塩;及び
0.01−10g/Lのカルボン酸アルカリ塩又はカルボン酸、
を含有し、且つpHが2〜4.5の酸性溶液である、アルミニウム表面の被覆に使用する塗料溶液よりなる塗装材により解決される。
【0009】
上記溶液は好ましくは水性である。
塗装材は好ましくは遊離のフッ素イオンの存在を要しないで効果を得ることができる。
この塗装材は好ましくは植物性タンニンを含まない。
塗装材は好ましくは塗布したときに実質的に透明な被覆を形成する。
【0010】
ジルコニウムイオンはフッ化ジルコン酸から得ることができるが、アルカリ金属又はアンモニウムのフッ化ジルコン酸塩、又はジルコニウムのフッ化物、硝酸塩又は炭酸塩から得ることもできる。
【0011】
前記塗料溶液は硝酸を、好ましくは0.05g/L〜0.2g/Lの濃度で含有する。
【0012】
塗料溶液は複合フッ化物を含むことができ、複合フッ化物はフッ化ケイ酸、フッ化フッ素酸、または同様なフッ素の複合酸である。複合フッ化物の好ましい濃度は0.05〜0.2g/Lである。
【0013】
前記多糖類はポリグルコシドが使用でき、好ましくは、植物、樹木又は海藻の、澱粉、ペクチン、アルギン酸塩又はガムから酸又は酵素を利用した加水分解で、合成で、又は酵母及びバクテリアで産生されたものである。
多糖類は好ましくはアルキル化され、エトキシ化され又はプロポキシ化されている。
【0014】
本発明はまた、
2−10g/Lジルコニウムイオン;
5−20g/Lの多糖類;
2.5−20g/Lのリン酸塩;及び
2−50g/Lのカルボン酸アルカリ塩又はカルボン酸
を含有する、アルミニウム表面に使用する塗料溶液を作製するための濃縮液を提供する。
【0015】
本発明はまた上記任意の塗装材を使用してアルミニウム又はアルミニウム合金を被覆する方法を提供する。
【0016】
被覆は上に定義した濃縮物から形成することができ、また硝酸を前記濃縮物に添加することができる。塗料溶液は被覆すべき表面に噴霧できる。被覆工程は温度20〜40℃、好ましくは25〜35℃の温度範囲で実施することができる。被覆工程は10〜60秒の範囲で実施できる。
【0017】
本発明の実施例を実施例により説明する。
5種の組成物を濃縮物から調製した。最初の2種の組成物は本発明によるものであり、他の組成物は参考例である。これらの塗料は、予め清浄にし、引き延ばし次いで平坦化したアルミニウム缶の面に噴霧された。缶への噴霧塗装に続き、缶を水道水で洗浄し、次いで冷たい脱イオン水で洗浄し、次いで180℃で2分間乾燥した。上記噴霧は噴霧圧力1バールで38℃で40秒間行った。組成物の内容は表1に示したとおりである。表の行は組成物番号を表し、列はそれぞれ次の通りである。
A)ジルコニウムイオン含有量g/L;
B)多糖類の含有量g/L;
C)カルボン酸含有量g/L;
D)リン酸塩含有量g/L。
【0018】
【表1】

【0019】
被覆した缶に対して次の4種の試験を実施した。
【0020】
マッフル炉試験
缶を清浄化し、塗装処理し、次いで乾燥した後、缶を約525℃のマッフル炉で5分間加熱した。アルミニウム表面の変色を観察した。金色がかった茶色(狐色)の缶が望ましい。明茶色は不十分な処理を表す。こげ茶色は過剰処理を表す。
【0021】
蓋染色試験
缶を清浄化し、塗装処理し、次いで乾燥した後、缶の蓋を切り取り、ホウ砂0.3g/L水溶液中に80℃で20分間浸漬した。アルミニウム表面の変色を観察した。変色した蓋は不合格である。
【0022】
テープ接着試験
テープ接着試験は、清浄化した表面と有機仕上げ又はオーバコートとの間の接着力を測定する。BASF社製のインクをゴムローラで塗布した。白色の水担持湿りインクニス(PPG社製)を#10引張りバーを使用してロール塗布して、被覆厚さ3g/m2を得た。塗布表面を強制空気オーブン中約177℃の温度で90秒で硬化した。仕上げした表面(塗布面)は硬化後に煮沸している水道水中に又は1%の洗剤(プロクター・アンド・ギャンボル社製のJOY(商品名))水溶液に15分間浸漬し、水道水ですすぎ、乾燥した。処理表面を次に交差溝付けし、透明スコッチテープ(3M社製)(#610)をこの交差溝付けした面に貼り付け、ついで剥がした。テープと一緒に剥がれた塗料の量を観察し、それを次のようにランク付けした。
10:接着力大
8−9:ごく微量剥離
5−8:明確な剥離
1−5:非常に明確な剥離
0:全面剥離
【0023】
ラッカー接着試験
ラッカーの健全性を試験する。結果はミリアンペアで与え、2ミリアンペアが1つの缶の最大許容読みである。試験は50缶についてランダムに行われた。読みが2ミリアンペア以上の缶の数は2アンペア以上のものの数である。結果は次の通りである。
【0024】
【表2】

【0025】
本発明は従って例えば殺菌処理の実行時に変色を回避する良好な特性を有する被覆を提供する。本発明の材料はフッ素イオンを含有しないので、フッ素イオンが存在する場合に一般に生じる腐食及び毒性の危険を回避することができる。さらに廃棄物処理の問題を実質的に回避することができる。
【0026】
さらに、本発明による被覆は比較的低い温度で且つ短い処理時間で形成できる。本発明の被覆では、多量のリン酸塩を利用することが可能になり、例えば特に殺菌処理時に生じる黒化のような腐食に対する大きい耐性を有する優れた被覆を提供する。これは、高レベルのリン酸塩が化成被覆層に疎水効果を与えて処理を不可能にするのを防ぐ多糖類を使用することにより可能となる。
【0027】
さらに、被覆を形成するための処理液は、「洗浄液ドラッグ」(すなわち化成被覆用処理液のpHを望ましくない程度に変化させる洗浄液の傾向)に対して敏感でない。例えば缶製造ラインにおいて缶から潤滑剤と細粒を除去するために使用される酸性洗浄液のドラッグは、それに続く化成被覆用処理液のpHを処理液の工業的な動作限界以下に低下させる。
【0028】
さらなる利益は、化成被覆処理中に缶からアルミニウムが溶出することが抑制されることである。これにより溶液中に放出されるアルミニウムの全量が従来技術よりもはるかに減少する。これは、ジルコニウムと反応して化成被覆処理を妨げるアルミニウムを封鎖するために、溶液中に遊離フッ素を過剰に存在させる必要がなくなることを意味する。
【0029】
すでに説明したように、多糖類は化成被覆工程でアルミニウムが缶表面から溶出するのを抑制する。放出される少量のアルミニウムは、処理液からアルミニウムの沈殿が生じることを抑制するカルボン酸又はその誘導体により化学封鎖される。
【0030】
これはまた、缶を腐食するフッ素が存在しないために、本発明により非常に明るく光輝のある缶が製造されることを意味する。多糖類は化成被覆を改良して、結晶構造を向上させ、より均一な被覆を形成させる。これによりその後に塗布される被覆に対する最適の接着性を付与する。
【0031】
本発明の範囲内で各種の変形例が可能である。例えば本発明の塗装材は水性系に限らず溶媒系で使用することができる。
【0032】
本書では特に重要と思われる発明の各種の特徴に特に注意を払うべく努力したが、特に強調したか否かに拘わらず、ここに記載した特許性のある任意の特徴又はそれらの組み合わせを本出願人は特許請求をするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01−0.15g/Lのジルコニウムイオン;
0.05−0.5g/Lの多糖類;
0.01−10g/Lのリン酸塩;及び
0.01−10g/Lのカルボン酸アルカリ塩又はカルボン酸、
を含有し、且つpHが2〜4.5の酸性溶液である、アルミニウム表面の被覆に使用する塗料溶液よりなる塗装材。
【請求項2】
塗料溶液は水性塗料である請求項1の塗装材。
【請求項3】
塗装材は有効成分として遊離のフッ素イオンの存在を必要としない請求項1又は2の塗装材。
【請求項4】
塗装材は植物性タンニンを実質的に含有しない請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項5】
塗装材は塗装したときに実質的に透明な被覆を形成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項6】
ジルコニウムイオンはフッ化ジルコン酸より得られる請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項7】
ジルコニウムイオンは、アルカリ金属又はアンモニウムのフッ化ジルコン酸塩、ジルコニウムのフッ化物、硝酸塩又は炭酸塩から得られる請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項8】
前記塗料溶液は硝酸を含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項9】
硝酸濃度は0.05g/L〜0.2g/Lである請求項8の塗装材。
【請求項10】
塗料溶液は複合フッ化物を含有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項11】
前記複合フッ化物はフッ化ケイ酸、フッ化フッ素酸、または同様なフッ素の複合酸である請求項10の塗装材。
【請求項12】
複合フッ化物の濃度は0.05〜0.2g/Lである請求項10または11の塗装材。
【請求項13】
多糖類はポリグルコシドである請求項1〜12のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項14】
ポリグルコシドは植物、樹木又は海藻の、澱粉、ペクチン、アルギン酸塩又はガムから酸又は酵素を利用した加水分解で、合成で、又は酵母及びバクテリアで産生されたものである請求項13の塗装材。
【請求項15】
多糖類はアルキル化され、エトキシ化され又はプロポキシ化されている請求項1〜14のいずれか一項に記載の塗装材。
【請求項16】
2−10g/Lジルコニウムイオン;
5−20g/Lの多糖類;
2.5−20g/Lのリン酸塩;及び
2−50g/Lのカルボン酸アルカリ塩又はカルボン酸
を含有する、アルミニウム表面に使用する塗料溶液を作製するための濃縮液。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の塗装材を使用してアルミニウム又はアルミニウム合金の表面を塗装する方法。
【請求項18】
塗装材は請求項16の濃縮液より形成される請求項17の方法。
【請求項19】
硝酸が前記濃縮液に添加される請求項18の方法。
【請求項20】
塗料溶液は前記表面に噴霧される請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
塗装は温度20〜40℃で行われる請求項17〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
塗装は温度25〜35℃で行われる請求項21の方法。
【請求項23】
塗装は10〜60秒間行われる請求項17〜22のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2007−527465(P2007−527465A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516471(P2006−516471)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002720
【国際公開番号】WO2005/001158
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(505476087)ネイテック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】