説明

アルミニウム製熱交換器用表面処理剤及び表面処理方法

【課題】アルミニウム製フィンの表面に堆積して問題を生じる白錆の発生を充分に抑えつつ、アルミニウム製熱交換器から発生する臭気を抑える技術を提供する。
【解決手段】ジルコニウム元素と、バナジウム元素と、フッ素元素と、アルミニウム元素と、アクリル重合体とを含み、ジルコニウム元素の濃度がジルコニウム換算で100〜100,000質量ppmであり、バナジウム元素の濃度がバナジウム換算で50〜100,000質量ppmであり、フッ素元素濃度が125〜125,000質量ppmであり、アルミニウム元素の濃度がアルミニウム換算で5〜10,000質量ppmであり、アクリル重合体の濃度が100〜100,000質量ppmであり、pHが0.5〜3であるアルミニウム製熱交換器用表面処理剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製熱交換器用表面処理剤、及び当該アルミニウム製熱交換器用表面処理剤を用いる表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製熱交換器は、熱交換効率向上の観点から、通常、その表面積を可能な限り大きくすべく複数のフィンが狭い間隔で配置されるとともに、これらのフィンに冷媒供給用のチューブが入り組んで配置される。このような複雑な構造の熱交換器では、大気中の水分がフィンやチューブ(以下、「フィン等」という。)の表面に凝縮水として付着すると、この凝縮水がフィン等の表面に長時間滞留する場合がある。この場合には、局部的に酸素濃淡電池が形成されて腐食反応が進行する結果、錆が発生してしまう。
【0003】
これに対して、従来、アルミニウム材の表面の防錆性を向上させる技術として、その表面に表面処理剤を接触させて化成皮膜を形成する方法が知られている。例えば、アルミニウム製熱交換器に好適な表面処理剤として、ジルコニウム化合物、フッ素イオン、水溶性樹脂及びアルミニウム塩を含有する表面処理剤が提案されている(特許文献1参照)。この技術によれば、アルミニウム製熱交換器の表面に表面処理剤を塗布することで、その防錆性を向上できるとされている。
【0004】
また、バナジウム化合物及びジルコニウム等の金属を含む金属化合物を含有する表面処理剤や(特許文献2参照)、バナジウム化合物、チタニウムもしくはジルコニウム系の錯フッ化物及び樹脂を含有する表面処理剤が提案されている(特許文献3参照)。これらの技術によれば、優れた防錆性を有するバナジウム化合物を表面処理剤中に含有させることで、防錆性をさらに向上できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−303267号公報
【特許文献2】特開2002−30460号公報
【特許文献3】特開2002−60699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルミニウム製熱交換器の表面に形成された化成皮膜の防錆性が不十分であると、フィン等の表面に付着した水分によってアルミニウム表面の腐食が進行し、錆が発生する。これに伴い、無機成分が増加し、それ自体が臭気を発生したり、臭気を吸着したりする。特に、エアコンに用いられる熱交換器においては、臭気の発生は大きな問題である。通常、熱交換器では化成皮膜上に親水性皮膜が形成されるものの、この親水性皮膜にはガスバリア性がなく、臭気を抑制することはできない。従って、臭気を抑制するためには、表面処理剤により形成される化成皮膜の防錆性を高めることで、アルミニウム表面の腐食を抑制することが不可欠である。
【0007】
しかしながら特許文献1の技術では、優れた防錆性を有するバナジウム化合物を用いていないため、バナジウム化合物を用いた技術と比べて防錆性が十分であるとは言えない。
【0008】
また、特許文献2及び特許文献3の技術では、いずれもバナジウム化合物を用いてはいるものの、熱交換器用途の技術ではないため、その臭気の抑制に対する検討は何らなされていない。
【0009】
また、従来のアルミニウム製熱交換器の表面処理では、アルミニウム表面に形成されている酸化膜等の不純物を除去するために、酸洗工程及びその後の水洗工程を行っている製造ラインが一般的である。これらの酸洗工程及び水洗工程では、多量の廃水が発生するため、その処理に伴う費用や労力の軽減が求められているのが現状である。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来よりもアルミニウム製熱交換器に対して優れた防錆性を付与でき、腐食に伴う臭気を抑制できるとともに、表面処理に伴う廃水量を低減できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため本発明は、
ジルコニウム元素と、
硫酸バナジル、硝酸バナジル及びリン酸バナジルからなる群より選ばれる少なくとも1種のバナジウム元素と、
アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上を含む単量体を重合して得られる重合体と、
アルミニウム元素と、
フッ素元素と、を含み、
ジルコニウム元素の濃度が、ジルコニウム換算で100〜100,000質量ppmであり、
前記バナジウム元素の濃度が、バナジウム換算で50〜100,000質量ppmであり、
前記重合体の濃度が、100〜100,000質量ppmであり、
前記アルミニウム元素の濃度が、アルミニウム換算で5〜10,000質量ppmであり、
フッ素元素の濃度が、125〜125,000質量ppmであり、
pHが0.5〜3であるアルミニウム製熱交換器用表面処理剤を提供する。
【0012】
上記アルミニウム製熱交換器用表面処理剤において、アルミニウム換算の前記アルミニウム元素の濃度に対するジルコニウム換算の前記ジルコニウム元素の濃度の比(Zr/Al)が、4/1〜24/1であり、
バナジウム換算での前記バナジウム元素の濃度に対するジルコニウム換算でのジルコニウム元素の濃度の比(Zr/V)が1/2〜6/1であり、
前記フッ素元素の濃度に対するジルコニウム換算の前記ジルコニウム元素の濃度の比(Zr/F)が1/2〜9/10であり、
アルミニウム換算でのアルミニウム元素の濃度に対するバナジウム換算でのバナジウム元素の濃度の比(V/Al)が、4/1〜24/1であり、
前記重合体の濃度に対するジルコニウム換算でのジルコニウム元素の濃度とバナジウム換算でのバナジウム元素の濃度との合計の比((Zr+V)/重合体)が1/10〜2.5/1であることが好ましい。
【0013】
また、上記目的を達成するために本発明は、
表面に酸化膜を有するアルミニウム製熱交換器に、本発明のアルミニウム製熱交換器用表面処理剤を接触させる化成処理工程と、
前記化成処理工程を経たアルミニウム製熱交換器を加熱乾燥させることで、表面に化成皮膜を形成する第一乾燥工程と、を備えるアルミニウム製熱交換器の表面処理方法を提供する。
【0014】
上記化成処理工程は、化成皮膜における、ジルコニウム元素の含有量が1〜1,000(mg/m)になり、バナジウム元素の含有量が1〜1,000(mg/m)になるように、アルミニウム製熱交換器用表面処理剤を、アルミニウム製熱交換器に接触させることが好ましい。
【0015】
上記表面処理方法において、上記第一乾燥工程を経たアルミニウム製熱交換器を、親水化処理剤に接触させる親水化処理工程と、
上記親水化処理工程で上記化成皮膜の表面に形成された親水化処理剤膜を乾燥させて、化成皮膜の表面に親水性皮膜を形成する第二乾燥工程と、をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルミニウム製熱交換器に対して、優れた防錆性を付与するとともに、優れた防臭性を付与するアルミニウム製熱交換器用表面処理剤、及び表面処理方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
本実施形態に係るアルミニウム製熱交換器用表面処理剤(本明細書において、「本実施形態の表面処理剤」という場合がある)は、ジルコニウム元素と、特定のバナジウム元素と、フッ素元素と、アルミニウム元素と、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上を含む単量体を重合して得られる重合体(以下「アクリル重合体」という場合がある)とを含み、上記ジルコニウム元素の濃度がジルコニウム換算で100〜100,000質量ppmであり、上記バナジウム元素の濃度がバナジウム換算で50〜100,000質量ppmであり、上記フッ素元素濃度が125〜125,000質量ppmであり、上記アルミニウム元素の濃度がアルミニウム換算で5〜10,000質量ppmであり、上記アクリル重合体の濃度が100〜100,000質量ppmであり、pHが0.5〜3である。
【0019】
[熱交換器]
本実施形態の表面処理剤で処理されるアルミニウム製熱交換器は、自動車エアコン用途に好ましく用いられる。ここで、「アルミニウム製」とは、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、単に「アルミニウム」という。)からなることを意味する。
【0020】
上述したように、熱交換器は、熱交換効率向上の観点から、その表面積を可能な限り大きくすべく複数のフィンが狭い間隔で配置されるとともに、これらのフィンに冷媒供給用のチューブが入り組んで配置される。
【0021】
[アルミニウム製熱交換器用表面処理剤]
本実施形態の表面処理剤は、ジルコニウム元素とバナジウム元素とフッ素元素とアルミニウム元素とアクリル重合体とを含む塗布型の化成処理剤である。塗布型の化成処理剤は、金属表面に表面処理剤を接触させた後、これを水洗せずに乾燥する方法で使用される。従来、防錆性を付与させるためにアルミニウム熱交換器の表面に化成処理剤を接触させる前に、表面の酸化膜等を除去する酸洗工程、この酸洗工程後に水洗工程が必要とされている。しかし、本発明の表面処理剤を用いれば、表面処理剤をアルミニウム熱交換器の表面に接触させることで、表面の酸化膜等を除去できる。このため酸洗工程やその後の水洗工程を設ける必要がない。
【0022】
本実施形態の表面処理剤は、ジルコニウム化合物、バナジウム化合物、アルミニウム化合物を水に溶解することで得られる。なお、ジルコニウム化合物等がフッ素イオンを有さない場合には、フッ素化合物を用いる。化成処理剤において、ジルコニウム元素の濃度は、化成処理剤中のジルコニウム含有量(金属元素換算濃度)を表し、バナジウム元素の濃度は、化成処理剤中のバナジウム含有量(金属元素換算濃度)を表し、フッ素元素の濃度は、化成処理剤中のフッ素含有量(元素換算濃度)を表し、アルミニウム元素の濃度は、化成処理剤中のアルミニウム含有量(金属元素換算濃度)を表す。
【0023】
ジルコニウム元素から供給されるジルコニウムイオンは、アルミニウム製熱交換器の表面に形成される化成皮膜に対して防錆性を付与する。特に本実施形態の表面処理剤によれば、防錆性に優れた化成皮膜を形成できる。
【0024】
ジルコニウム元素の供給源の例としてはフルオロジルコニウム酸、フルオロジルコニウム酸のリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、フッ化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、フッ化水素酸ジルコニウムを挙げることができ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、フッ素を含有するジルコニウム化合物を使用する場合、フッ素イオンが供給される。このため、別途フッ素元素を用いなくてもよい。
【0025】
本実施形態の表面処理剤中に含まれるジルコニウム元素の濃度は、ジルコニウム換算で100〜100,000質量ppm、好ましくは750〜12,000質量ppmである。濃度が100質量ppm未満では、化成皮膜の防錆性、親水性皮膜への密着性が低下することがある。一方、100,000質量ppmを超えて含有させると、表面処理剤の安定性が低下する。
【0026】
バナジウム元素から供給されるバナジウムイオンは、ジルコニウムイオンとともに化成皮膜の防錆性を向上させる成分である。また、バナジウム元素は、アルミニウム製熱交換器の表面のエッチングを促進する成分である。エッチング力は表面処理剤のpHが0.5〜3の場合に強力であり、表面処理剤がこのpHの範囲であればアルミニウム製熱交換器の表面形成されている酸化膜を除去することができる。より具体的には、このエッチングは、バナジウム元素を含まない表面処理剤のエッチングと比較して、溶かすアルミニウム量が非常に多く、アルミニウム製熱交換器の表面を均一にするため、化成皮膜を均一に形成させることが可能であり、防錆性が良好となる。また、表面処理剤にアルミニウム製熱交換器を浸漬する方法で表面に化成皮膜を形成する場合、本実施形態の表面処理剤を用いて、アルミニウム製熱交換器の化成処理を繰り返し行うと、表面処理剤中のアルミニウムイオン濃度が高くなり、エッチング力が弱くなる。しかし、バナジウム元素により促進されたエッチング力は、このアルミニウムイオンの濃度上昇の影響を受けず、性能を持続することができる。
【0027】
バナジウム元素の供給源としては、硫酸バナジル、硝酸バナジル及びリン酸バナジルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物が使用される。本実施形態の表面処理剤のpHを0.5〜3の範囲に調整することが可能であり、鋼板表面をエッチングすることができる。また、例えば、メタバナジン酸アンモニウムやバナジン酸アセトネート等の上記以外のバナジウム元素を用いると、本実施形態の表面処理剤のpHで安定に存在できずに凝集する等の問題が生じる。また、凝集が起こらない表面処理剤のpHに設定すると、酸化膜等が除去できず、防錆性が低下し、さらに臭気が発生する。本実施形態の表面処理剤では、硫酸バナジルが最も好ましく用いられる。
【0028】
本実施形態の表面処理剤中に含まれるバナジウム元素の濃度は、バナジウム換算で50〜100,000質量ppm、好ましくは500〜9,000質量ppmである。濃度が上記の範囲内であれば、化成皮膜の防錆性が高い。
【0029】
バナジウム換算でのバナジウム元素の濃度に対するジルコニウム換算でのジルコニウム元素の比(Zr/V)が1/2〜6/1であることが好ましい。比(Zr/V)が1/2以上であれば防錆性及び臭気性が良好になるという理由で好ましく、比(Zr/V)が6/1以下であればエッチング力の確保という理由で好ましい。より好ましくは1/1〜5/1である。
【0030】
フッ素元素は、初期段階におけるアルミニウム製熱交換器の表面のエッチングを促進する成分である。フッ素元素は、フッ素化合物やフッ素を有するジルコニウム化合物から供給される。フッ素元素の供給源としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素酸アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0031】
本実施形態の表面処理剤中に含まれるフッ素元素の濃度は、125〜125,000質量ppm、好ましくは950〜15,000質量ppmである。フッ素元素濃度が125質量ppm以上であれば初期のエッチング力の確保という効果があり、125,000質量ppmを超えると化成皮膜にフッ素が取り込まれ、防錆性が低下する。
【0032】
フッ素元素の濃度に対するジルコニウム換算のジルコニウム元素の濃度の比(Zr/F)が1/2〜9/10であることが好ましい。比(Zr/F)が1/2以上であれば防錆性が良好になるという理由で好ましく、比(Zr/F)が9/10以下であればエッチング力の確保という理由で好ましい。
【0033】
アルミニウム元素から供給されるアルミニウムイオンは、アルミニウム製熱交換器の表面に形成された表面処理剤の架橋反応を促進する成分である。また、アルミニウムイオンは遊離状態にあるフッ素イオンと結合してフルオロアルミニウムになり、フッ素イオンが化成皮膜を溶解して防錆性が低下することを抑制する。本実施形態の表面処理剤のように、塗布型の化成処理剤の場合には、化成処理剤をアルミニウム製熱交換器の表面に接触させた後、水洗工程を行わないため、化成皮膜中にフッ素イオンが残り、化成皮膜の防錆性を低下させるが、上記のアルミニウムイオンの存在によりこの問題は抑えられる。
【0034】
アルミニウム元素の供給源としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、ミョウバン、珪酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩、フルオロアルミニウム酸ナトリウム等のフルオロアルミニウム塩を挙げることができる。
【0035】
本実施形態の表面処理剤中に含まれるアルミニウム元素の濃度は、アルミニウム換算で5〜10,000質量ppm、好ましくは50〜500質量ppmである。5質量ppm未満では、化成皮膜の防錆性が低下する。一方、10,000質量ppmを超えると逆に処理液中にスラッジを発生させることがある。
【0036】
アルミニウム換算のアルミニウム元素の濃度に対するジルコニウム換算のジルコニウム元素の濃度の比(Zr/Al)が4/1〜24/1であることが好ましい。比(Zr/Al)が4/1以上であれば防錆性が良好になるという理由で好ましく、比(Zr/Al)が24/1以下であれば表面処理剤の安定性という理由で好ましい。より好ましくは8/1〜20/1である。
【0037】
アルミニウム換算でのアルミニウム元素の濃度に対するバナジウム換算でのバナジウム元素の濃度の比(V/Al)が、4/1〜24/1であることが好ましい。比(V/Al)が4/1以上であれば防錆性が良好になるという理由で好ましく、比(V/Al)が24/1以下であれば表面処理剤の安定性という理由で好ましい。より好ましくは4/1〜20/1である。
【0038】
アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上を含む単量体を重合して得られるアクリル重合体は、加熱乾燥することでジルコニウム、バナジウム、アルミニウム等の金属と架橋し、化成皮膜を強固にするとともに、化成皮膜内にジルコニウム、バナジウム、アルミニウム等を固定し、化成皮膜の防錆性を高める。また、後述する通り、このアクリル重合体がジルコニウム等の金属が原因となる臭気を抑える。本実施形態の表面処理剤はpHが0.5〜3と低いため、単量体としてアクリル酸及びメタクリル酸及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上を用いる必要がある。分子中に少なくとも一つのカルボキシル基を有するアクリルモノマーで構成されるアクリル重合体は、親水性皮膜との密着性が付与され、防錆性が良好となる。
【0039】
上記アクリル重合体はホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。本実施形態の表面処理剤においては、上記アクリル重合体として、ポリアクリル酸を使用することが好ましい。ポリアクリル酸はポリビニルアルコール等と比べてpHが低いため、本実施形態のpHが低い表面処理剤であっても凝集することがない。また、本実施形態の表面処理剤の粘度を調整する等の目的で、複数の上記アクリル重合体を使用したり、同種のアクリル重合体であって分子量の異なるものを併用したりすることができる。
【0040】
本実施形態の表面処理剤中に含まれる上記アクリル重合体の濃度は、100〜100,000質量ppm、好ましくは5,000〜20,000質量ppmである。100質量ppm未満では親水性皮膜との密着性が不足することがある。一方、100,000質量ppmを超えると、表面処理剤の粘度が高くなり作業性が低下する。
【0041】
上記アクリル重合体の濃度に対するジルコニウム換算でのジルコニウム元素の濃度とバナジウム換算でのバナジウム元素の濃度との合計の比((Zr+V)/アクリル重合体)が1/10〜2.5/1であることが好ましい。比((Zr+V)/アクリル重合体)が0.1以上であれば防錆性及び臭気性が良好になるという理由で好ましく、比((Zr+V)/アクリル重合体)が2.5以下であれば親水性皮膜との密着性という理由で好ましい。より好ましくは1/5〜2/1である。
【0042】
本実施形態の表面処理剤のpHは0.5〜3である。このように、表面処理剤のpHを低く設定することで、上記の通り、バナジウム元素がアルミニウム製熱交換器の表面をエッチングする効果が高まる。また、上記のpHに設定することで、アルミニウム製熱交換器の表面界面にジルコニウムが効率よく析出し、均一な皮膜となり、防錆性が良好となる。特に、本発明によれば、化成皮膜は長期間にわたって非常に優れた防錆性を維持することができる。pHのより好ましい範囲は1.5〜2である。なお、表面処理剤として反応型の化成処理剤を用いると、pHを0.5〜3に調整した場合、エッチングが過剰になり、化成皮膜の形成が困難になる。表面処理剤のpHはアンモニア水溶液又は硝酸を用いて調整することができる。
【0043】
また、上述の通り、本実施形態の表面処理剤は塗布型の化成処理剤である。塗布型の化成処理剤以外の化成処理剤としては反応型の化成処理剤があるが、反応型の化成処理剤の場合、化成処理剤のpHをジルコニウムイオン等の金属の沈殿pH近傍に設定することが求められる。この金属の沈殿pHはおよそ4であるため、反応型の化成処理剤では、pHを0.5〜3に調整してバナジウム元素によるエッチングの効果を高めることが困難である。
【0044】
本実施形態の表面処理剤は、上記必須成分以外に亜鉛元素を含有させることができる。亜鉛元素から供給される亜鉛イオンは、遊離フッ素イオンと結合して、遊離フッ素イオンが化成皮膜の防錆性等を低下させることを防ぐ。また、亜鉛イオンはジルコニウム等とアクリル重合体との架橋反応を促進させる。亜鉛元素の供給源としては、例えば、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、酸化亜鉛等を挙げることができる、また、亜鉛元素を含有する場合、表面処理剤中の濃度が5〜1,000質量ppmであることが好ましい。遊離フッ素イオンとは、活性が残っているフッ素イオンのことである。
【0045】
また、本実施形態の表面処理剤には、マグネシウム元素を含有させることができる。マグネシウム元素から供給されるマグネシウムイオンは、遊離フッ素イオンと結合して、遊離フッ素イオンが化成皮膜の防錆性等を低下させることを防ぐ。また、マグネシウムイオンはジルコニウム等とアクリル重合体との架橋反応を促進させる。マグネシウム元素の供給源としては、例えば、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム等を挙げることができる。また、マグネシウム元素を含有する場合、表面処理剤中の濃度が5〜1,000質量ppmであることが好ましい。
【0046】
本実施形態の表面処理剤は、防錆性を向上する目的で、マンガン、セリウム、カルシウム、銅、鉄及び珪素等の元素を供給する化合物、ホスホン酸、リン酸及び縮合リン酸等のリン化合物、並びに、密着性向上のためのポリアリルアミン、アミノシラン及びエポキシシラン等の各種シランカップリング剤等を含んでいてもよい。
【0047】
[表面処理方法]
本実施形態の表面処理方法は、表面に酸化膜を有するアルミニウム製熱交換器に、本実施形態の表面処理剤を接触させる化成処理工程と、化成処理工程でアルミニウム製熱交換器の表面に形成した表面処理剤膜を乾燥させて、上記表面に化成皮膜を形成する第一乾燥工程と、を備える。
【0048】
本実施形態の表面処理方法では、化成処理工程を行う前に、アルミニウム製熱交換器に付着する汚れ等を除去する目的で、アルミニウム製熱交換器の表面を洗う湯洗工程、アルミニウム製熱交換器の表面を脱脂する脱脂工程を設けてもよい。湯洗工程を行う場合、40〜90℃の温水を用いることが好ましい。
【0049】
また、本実施形態の表面処理方法では、アルミニウム製熱交換器の表面の酸化膜を除去する酸洗工程や酸洗工程後の水洗工程を設ける必要がない。
【0050】
化成処理工程は、アルミニウム製熱交換器に本実施形態の表面処理剤を接触させて、アルミニウム製熱交換器の表面に、表面処理剤膜を形成させる工程である。
【0051】
化成処理工程において、本実施形態の表面処理剤をアルミニウム製熱交換器に接触させる方法は特に限定されない。スプレー法や浸漬法等のいずれの方法でもよいが、上述の通り、アルミニウム製熱交換器は複雑な形状をしているため、浸漬法により化成処理工程を行うことが好ましい。また、化成処理工程における表面処理剤の温度は、好ましくは5〜40℃である。また、化成処理工程に掛ける時間は、好ましくは5〜600秒であり、より好ましくは10〜300秒である。これらを満たす条件で行われる化成処理工程で形成された表面処理剤膜であれば、優れた防錆性及び耐湿性を有する化成皮膜を形成できる。
【0052】
化成処理工程において、本実施形態の表面処理剤を使用しているため、バナジウム元素を含有することにより、アルミニウム製熱交換器の表面の酸化膜等が除去され、上記表面のエッチングが促進される。このため、本実施形態の表面処理方法によれば酸洗工程を設ける必要が無く、さらに、酸洗工程後の水洗工程も設ける必要が無いため廃水量を低減できる。また、このバナジウム元素によるエッチング促進効果により溶け出たアルミニウムは、アルミニウム製熱交換器の表面付近のpHを上昇させる。その結果、上記表面付近におけるpHがジルコニウムイオン等の金属イオンが沈殿するpHに近づき、ジルコニウム等の金属がアルミニウム製熱交換器の表面側に偏って存在しやすくなる。ジルコニウム等の金属がアルミニウム製熱交換器の表面側に偏って存在することで、ジルコニウム等の金属は硬化した上記アクリル重合体で覆われることになり、ジルコニウム等の金属が原因となる臭気の発生が抑えられる。
【0053】
また、化成処理工程における表面処理剤膜の付着量を化成処理剤中の各成分の濃度で調整することで、後述する第一乾燥工程後にアルミニウム製熱交換器の表面に形成される化成皮膜中の、ジルコニウム元素の含有量、バナジウム元素の含有量等を調整できる。本実施形態の表面処理方法においては、化成皮膜中のジルコニウム元素の含有量が1〜1000(mg/m)になり、バナジウム元素の含有量が1〜1000(mg/m)になるように、アルミニウム製熱交換器に本実施形態の表面処理剤を接触させることが好ましい。化成皮膜におけるジルコニウム元素の含有量、バナジウム元素の含有量が上記の範囲にあれば、上記ジルコニウム元素による効果、上記バナジウム元素による効果が十分に高いといえる。また、化成皮膜中の、上記ジルコニウム元素の含有量のより好ましい範囲は3〜200(mg/m)であり、上記バナジウム元素の含有量のより好ましい範囲は3〜200(mg/m)である。
【0054】
第一乾燥工程は、上記化成処理工程でアルミニウム製熱交換器の表面に形成された表面処理剤膜を乾燥させて、上記表面に化成皮膜を形成させる工程である。第一乾燥工程ではアクリル重合体を加熱乾燥することでジルコニウム、バナジウム、アルミニウム等の金属と架橋し、ジルコニウム等の金属を化成皮膜中に固定する。
【0055】
第一乾燥工程における、乾燥温度、乾燥時間は特に限定されないが、乾燥温度は100〜220℃であることが好ましく、より好ましくは150〜200℃である。乾燥時間は10〜60分間であることが好ましい。乾燥温度が100℃未満では造膜性が不十分となりやすく、220℃を超えると親水持続性が低下する傾向にある。
【0056】
この第一乾燥工程での乾燥中、表面処理剤膜内でジルコニウム、バナジウム等の金属は比重が重いため、アルミニウム製熱交換器の表面に沈む傾向にある。これも、アルミニウム製熱交換器の表面にジルコニウム、バナジウム等の金属が偏って存在する原因の一つである。このように化成皮膜中でジルコニウムやバナジウム等の金属が偏って存在し、この偏って存在する金属を上記アクリル重合体が覆うことで、上記の通り、ジルコニウム等の金属が原因となる臭気の発生を抑制できる。
【0057】
本実施形態の表面処理方法は、上記の第一乾燥工程後に親水化処理工程を行うことが好ましい。親水化処理工程とは上記第一乾燥工程を経たアルミニウム製熱交換器を、親水化処理剤に接触させる工程であり、この工程により、化成皮膜上に親水化処理剤膜が形成される。
【0058】
親水化処理工程で使用する親水化処理剤は、特に限定されず従来公知のものを使用可能であるが、本実施形態においては、以下の親水化処理剤を用いることが好ましい。
【0059】
本実施形態の表面処理方法に好ましく使用される親水化処理剤は、水媒体中にビニルアルコール系重合体で被覆されたシリカ微粒子が分散されているものである。
【0060】
シリカ微粒子としてはヒュームドシリカやコロイダルシリカが挙げられる。このうちヒュームドシリカは、例えばトリクロロシラン、テトラクロロシランのようなハロシランを気相中で高温加水分解して製造したものであり、表面積の大きな微粒子である。また、コロイダルシリカは、酸又はアルカリ安定型のシリカゾルを水分散させたものである。シリカ微粒子の体積平均粒径は5〜100nmであることが好ましく、より好ましくは7〜60nmである。この体積平均粒径が5nm未満では処理皮膜の凹凸が不足して親水性が低下し、100nmを超えると処理剤にした際に大粒径の凝集物が発生し作業性が悪くなる傾向にある。なお、体積平均粒径は、親水化処理剤の一部を脱イオン水で希釈し、動的光散乱測定器(ELS−800、大塚電子社製)により測定した。
【0061】
ビニルアルコール系重合体として典型的なものは、酢酸ビニル重合体をケン化して得られるポリビニルアルコール(PVA)である。PVAはケン化度の高いものが好ましく、特にケン化度98%以上のものが好ましい。またPVAの変性物、例えば水酸基の一部をプロピル基、ブチル基等のアルキル基で置換したもの等も、ビニルアルコール重合体として使用することが可能である。さらに、必要に応じて他の親水性ポリマー、例えば水酸基含有アクリル樹脂、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルイミダゾール、ポリエチレンオキサイド、ポリアミド、水溶性ナイロン等を、PVAに対して50質量%未満の量で併用させるようにすることもできる。
【0062】
上記親水化処理剤を製造するには、まずビニルアルコール系重合体(及び、必要に応じて他の親水性ポリマー。以下、単にビニルアルコール系重合体という)を、親水化処理剤に対して0.3〜17.5質量%、好ましくは0.5〜5質量%となるように溶解又は分散させる。そして、ここへシリカ微粒子を、親水化処理剤に対して0.3〜17.5質量%、好ましくは0.5〜5質量%添加する。
【0063】
また他の調製方法として、シリカ微粒子を、このシリカ微粒子の5〜50質量%固形分濃度のビニルアルコール系重合体水溶液中で分散することにより、予めシリカ微粒子をビニルアルコール系重合体で被覆し、その後にビニルアルコール系重合体水溶液を加えて濃度調整を行ってもよい。
【0064】
親水化処理剤中の、シリカ微粒子とビニルアルコール系重合体の合計含有量は0.2〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。なお、シリカ微粒子とビニルアルコール系重合体との質量比は30:70〜70:30であることが好ましく、より好ましくは40:60〜60:40である。上記ビニルアルコール重合体及びシリカ微粒子の合計量が0.2質量%未満では親水持続性及び防臭性の効果が出ず、一方、25質量%を超えると粘度が高くなって塗装作業性が悪くなる。また、シリカ微粒子とビニルアルコール系重合体との質量比が30:70〜70:30の範囲外では、シリカ微粒子の比率が高い場合には、造膜が不十分となり膜の剥離でシリカや素地から埃臭が発生し、ビニルアルコール系重合体の比率が高い場合には親水性が低下する。
【0065】
上記のように、ビニルアルコール系重合体とシリカ微粒子とが混合されると、両者の相互作用により凝集が起きる。そこで、この凝集物を超音波分散機、微小媒体分散機等により強制的に分散させる。分散機は、ミキサーのような単なる攪拌分散用では凝集物を分散させることはできず、ミルのようなすり潰し機能、あるいは超音波のような、微小部分において激しい攪拌効果を有するものを使用する必要がある。このような分散機の例としては、日本精機製作所製の超音波ホモジナイザー(USシリーズ)や、井上製作所製のスーパーミル(HM−15)がある。こうして強制的に分散された凝集物は、シリカ微粒子の表面にビニルアルコール系重合体がコーティングされた平均粒径5〜1,000nmの被覆粒子となり、水媒体中で分散体として安定する。この平均粒径が5nm未満では親水性が発現できず、1,000nmを超えると塗装作業性が悪くなる。
【0066】
上記親水化処理剤には、必要に応じて各種添加剤を使用することができる。各種添加剤とは、例えば、抗菌剤、潤滑剤、界面活性剤、顔料、染料、防錆性付与のためのインヒビターを挙げることができる。
【0067】
上記の好ましい親水化処理剤を用いれば、シリカ微粒子の凹凸によって親水性皮膜の親水性を確保することができるだけでなく、長期間使用後に親水性皮膜が多少劣化しても、被覆されているシリカ微粒子は、直接露出したり凝縮水によって流出したりする可能性が少ない。そのため親水性皮膜の親水持続性が高い。また、シリカ粒子が被覆されていることで、シリカ特有の埃臭や、シリカの吸着によるバクテリア等の臭いも発生しにくい。
【0068】
親水化処理工程において、親水化処理剤を化成皮膜上に接触させる方法は特に限定されず、化成処理工程と同じく浸漬法、スプレー法等を採用できるが、上記の通り熱交換器は複雑な形状を有するため浸漬法が好ましい。親水化処理剤の温度は10〜50℃程度、処理時間は3秒〜5分程度が好ましい。また、化成皮膜上に形成される親水化処理剤膜の付着量を調整することで、親水性皮膜の皮膜量を調整することができる。親水化処理工程では、親水性皮膜の皮膜量が0.1〜3g/m(より好ましくは0.2〜1g/m)となるように化成皮膜上に親水化処理剤膜を形成することが好ましい。皮膜量が0.1g/m未満では親水化性能が発現し難く、一方、3g/mを超えると生産性が低下してしまう傾向にある。
【0069】
上記の親水化処理工程後に、化成皮膜上に形成された親水化処理剤膜を乾燥させる第二乾燥工程を行う。第二乾燥工程は、上記親水化処理剤膜を乾燥させて、化成皮膜上に親水性皮膜を形成する工程である。
【0070】
第二乾燥工程における、乾燥温度、乾燥時間は特に限定されないが、乾燥温度は100〜220℃であることが好ましく、より好ましくは150〜200℃である。乾燥時間は10〜60分間であることが好ましい。乾燥温度が100℃未満では造膜性が不十分となりやすく、220℃を超えると親水持続性が低下する傾向にある。
【実施例】
【0071】
以下本発明について実施例をあげてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「%」、「部」、「ppm」は特に断りのない限り「質量%」、「質量部」、「質量ppm」を意味する。
【0072】
[表面処理剤の調製]
純水、フッ化ジルコンアンモニウム、硝酸バナジル、硫酸アルミニウム、ポリアクリル酸(日本触媒社製、「アクアリックDL453」)、フッ化水素酸、硫酸亜鉛を、表面処理剤中の金属イオン等の含有量が表1、2に示す範囲になるように配合して、実施例及び比較例の表面処理剤を調整した。また、表面処理剤のpHは25%アンモニア水溶液、又は、67.5%硝酸を用いて、表1、2に示す範囲になるように調整した。なお、比較例4の表面処理剤のみフッ化ジルコンアンモニウムではなく、炭酸ジルコニウムアンモニウムを使用した。比較例7及び比較例8の表面処理剤のみバナジウム元素として、メタバナジン酸アンモニウムを使用した。
【0073】
[皮膜量]
各実施例及び比較例で得られた化成皮膜中のジルコニウム皮膜量及びバナジウム皮膜量は、蛍光X線分析装置「XRF−1700」(島津製作所製)の測定結果から算出した。
【0074】
[表面処理剤の安定性]
実施例及び比較例の表面処理剤を、25℃、3ヶ月間静置して、凝集物発生の有無を確認した。この安定性評価は以下の5段階評価で行った。評価結果は表1、2に記載した。
5点:3ヶ月間凝集物の発生無し
4点:1〜3ヶ月間で凝集物発生
3点:1日〜1ヶ月間で凝集物発生
2点:30分〜1日で凝集物発生
1点:直ちに凝集物発生
【0075】
[評価サンプル1の作製]
水道水を40℃に温めた浴中に、アルミニウム板(「1000系アルミニウム」(商品名、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm))を100秒間浸漬して引き上げた。
【0076】
湯洗された上記アルミニウム板を、実施例1〜12、比較例1〜10の表面処理剤(25℃)に15秒浸漬して、アルミニウム板の表面に表面処理剤膜を形成した。ここで、表面処理剤の付着量は、化成皮膜中のジルコニウム含有量、バナジウム含有量が表1、2に示す範囲になるように調整した。
【0077】
表面に表面処理剤膜が形成されたアルミニウム板を、170℃、30分の条件で乾燥させた。この乾燥によりアルミニウム板の表面には化成皮膜が形成された。
【0078】
この化成皮膜が形成されたアルミニウム板を室温(25℃)にて30分間空冷した後、25℃、親水化処理剤(ポリビニルアルコール・シリカ系親水化処理剤、日本ペイント社製、「サーフアルコート1100」)に30秒間浸漬し、化成皮膜上に親水化処理膜を形成した後、これを170℃、30分間の条件で乾燥させ、化成皮膜上に親水性皮膜を形成した。このようにして評価サンプル1が得られた。
【0079】
[耐白錆性の評価]
得られた評価サンプル1を塩水噴霧器に立てかけ480時間静置後、取り出し、純水にて水洗いを行った後、80℃の乾燥炉で10分間乾燥させ、表面の白錆面積を評価した。評価は以下の5段階で行った。評価結果は表1、2に示した。
5点:白錆面積が10%未満
4点:白錆面積が10%以上25%未満
3点:白錆面積が25%以上50%未満
2点:白錆面積が50%以上75%未満
1点:白錆面積が75%以上100%
【0080】
[親水性の評価]
評価サンプル1、及び、室温で純水に1週間浸漬し、劣化させた評価サンプル1に粘着テープを貼り付けて剥離した。このテープ剥離部に純水2μlをのせ、接触角を測定した。接触角の測定は、自動接触角計「CA−Z」(協和界面化学社製)を用いて行った。結果を表1、2に示した。なお、親水性の評価については、30°以下を合格とした。
【0081】
[評価サンプル2の作製]
アルミニウム板(「1000系アルミニウム」(商品名、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm))を、非腐食性フラックスブレージング製カーエアコン用エバポレーター(NBエバポレーター)に変更した以外は、評価サンプル1と同様の方法で評価サンプル2を製造した。
【0082】
[臭気の評価]
評価サンプル2、及び、水に168時間浸漬し、劣化させた評価サンプル2の臭いを嗅いで6段階評価した。結果を表1、2に示した。なお、臭気の評価については、2点以下を合格とした。
0点:無臭
1点:非常に弱い臭いを感じる
2点:弱い臭いを感じる
3点:臭いを感じる
4点:強い臭いを感じる
5点:非常に強い臭いを感じる
【0083】
【表1】

【表2】

【0084】
表1、2から明らかなように、ジルコニウム元素と、バナジウム元素と、フッ素元素と、アルミニウム元素と、アクリル重合体とを含み、ジルコニウム元素の濃度がジルコニウム換算で100〜100,000質量ppmであり、バナジウム元素の濃度がバナジウム換算で50〜100,000質量ppmであり、フッ素元素濃度が125〜125,000質量ppmであり、アルミニウム元素の濃度がアルミニウム換算で5〜10,000質量ppmであり、アクリル重合体の濃度が100〜100,000質量ppmであり、pHが0.5〜3であるアルミニウム製熱交換器用表面処理剤を用いれば、化成皮膜に優れた防錆性を付与できるとともに、ジルコニウム等の金属由来の臭気の発生を抑えられることが確認された。また、本発明の表面処理剤を用いれば、アルミニウム製熱交換器の表面の酸化膜を除去する酸洗工程を行う必要が無いため、従来よりも簡便な設備で、アルミニウム製熱交換器の表面に化成皮膜を形成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のアルミニウム製熱交換器用表面処理剤、及び当該表面処理剤を用いた表面処理方法によれば、化成皮膜に優れた防錆性を付与でき、また、化成皮膜から発生する臭気を抑えることができ、さらにアルミニウム製熱交換器の表面に化成皮膜を形成する際に、表面の酸化膜を予め除去する必要がないため、本発明の表面処理剤及び表面処理方法は、エアコン用のアルミニウム製熱交換器の表面処理に好ましく適用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム元素と、硫酸バナジル、硝酸バナジル及びリン酸バナジルからなる群より選ばれる少なくとも1種のバナジウム元素と、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる1種以上を含む単量体を重合して得られるアクリル重合体と、アルミニウム元素と、フッ素元素を含み、
前記ジルコニウム元素の濃度が、ジルコニウム換算で100〜100,000質量ppmであり、
前記バナジウム元素の濃度が、バナジウム換算で50〜100,000質量ppmであり、
前記重合体の濃度が、100〜100,000質量ppmであり、
前記アルミニウム元素の濃度が、アルミニウム換算で5〜10,000質量ppmであり、
フッ素元素の濃度が、125〜125,000質量ppmであり、
pHが0.5〜3であるアルミニウム製熱交換器用表面処理剤。
【請求項2】
アルミニウム換算の前記アルミニウム元素の濃度に対するジルコニウム換算の前記ジルコニウム元素の濃度の比(Zr/Al)が、4/1〜24/1であり、
バナジウム換算での前記バナジウム元素の濃度に対するジルコニウム換算でのジルコニウム元素の濃度の比(Zr/V)が1/2〜6/1であり、
前記フッ素元素の濃度に対するジルコニウム換算の前記ジルコニウム元素の濃度の比(Zr/F)が1/2〜9/10であり、
アルミニウム換算でのアルミニウム元素の濃度に対するバナジウム換算でのバナジウム元素の濃度の比(V/Al)が、4/1〜24/1であり、
前記重合体の濃度に対するジルコニウム換算でのジルコニウム元素の濃度とバナジウム換算でのバナジウム元素の濃度との合計の比((Zr+V)/アクリル重合体)が1/10〜2.5/1である請求項1に記載のアルミニウム製熱交換器用表面処理剤。
【請求項3】
表面に酸化膜を有するアルミニウム製熱交換器に、請求項1又は2に記載のアルミニウム製熱交換器用表面処理剤を接触させる化成処理工程と、
前記化成処理工程を経たアルミニウム製熱交換器を加熱乾燥させることで、表面に化成皮膜を形成する第一乾燥工程と、を備えるアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項4】
前記化成皮膜中におけるジルコニウム元素の含有量が1〜1,000mg/mであり、
前記化成皮膜中におけるバナジウム元素の含有量が1〜1,000mg/mである請求項3に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。
【請求項5】
前記第一乾燥工程を経たアルミニウム製熱交換器を親水化処理剤に接触させる親水化処理工程と、
前記親水化処理工程を経たアルミニウム製熱交換器を加熱乾燥させることで、前記化成皮膜上に親水性皮膜を形成する第二乾燥工程と、をさらに備える請求項3又は4に記載のアルミニウム製熱交換器の表面処理方法。

【公開番号】特開2013−76150(P2013−76150A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218051(P2011−218051)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】