説明

アルミニウム部材用防錆プライマー及びアルミニウム部材

【課題】アルミニウム部材に対して、透明性及び密着性に優れ、腐食の激しい環境でも錆の発生、特に糸錆腐食を防止することができ、しかもアルミニウム金属光沢を活かしたアルミニウム部材に塗装しても意匠性を低下させないアルミニウム部材用防錆プライマー及び該プライマーを塗布したアルミニウム部材を提供することである。
【解決手段】(A)ポリオレフィン樹脂 5〜30質量%(固形分)、
(B)添加剤 0.01〜20質量%、
(C)溶剤 49〜95質量%、及び
(D)溶剤に可溶な防錆剤 0.01〜5質量%
を含有することを特徴とするアルミニウム部材用防錆プライマー、及び該アルミニウム部材用防錆プライマーで塗布されたアルミニウム部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム部材に対して、密着性に優れ、金属光沢を阻害することなく糸錆の発生を防止するアルミニウム部材用防錆プライマー組成物及び該プライマーを塗布したアルミニウム部材を提供する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム部材として、例えば車両用のホイールは従来スチール製のホイールが多く用いられていたが、近年では軽量、燃費、耐食性、意匠性等の点から、ほとんどの車両にアルミニウム製ホイールが用いられるようになった。
【0003】
近年では、市場においてアルミニウムホイールの意匠性が強く求められてきている。例えば、アルミニウムホイールの表面を羽布加工等で滑らかにすることで鏡面に輝くものであったり、金属光沢を有するアルミニウムホイールの表面に微小な溝をつけることで干渉を生じさせたりして、意匠性を向上させたアルミニウムホイールが登場しており、アルミニウム金属の光沢を活かしたホイールが多く販売されている。
【0004】
一般にアルミニウム材料表面には、耐食性や密着性の向上のために表面処理が行われ、化成処理や塗布剤等による処理が行われる(例えば、特許文献1又は2参照)。
【0005】
アルミニウムホイールに対しても、一般に表面処理の後、プライマーや下塗り、上塗り、クリアー等の塗料が塗布され、耐食性や意匠性等の機能が付与される(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
アルミニウムホイール用プライマーについては、液状塗料や粉体塗料による塗装が行われているが(例えば、特許文献4又は5参照)、海岸地帯の海塩粒子や冬場の融雪剤等の付着等による腐食の激しい環境では、飛び石(チッピング)等を受けた部分等から錆が発生し、塗膜の腐食が進行する。
【0007】
そこで本発明者らは錆び防止のために塗料に防錆剤として広く用いられている、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、縮合リン酸カルシウム等を含有させて塗膜を形成してみた。しかし、これら防錆剤を含有した塗料は、防錆剤が完全に溶解しているのではなく微粒子が分散している状態なので白濁している。得られた塗膜は透明な膜ではなく白ボケ化しており、上記のようなアルミニウム金属の光沢を活かしたアルミニウムホイール等に塗装した場合に、金属光沢を阻害させるといった不具合を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−286582号公報
【特許文献2】特開2004−291445号公報
【特許文献3】特開2000−038523号公報
【特許文献4】特開平9−132752号公報
【特許文献5】特開2002−194273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、アルミニウム部材に対して、密着性に優れ、腐食の激しい環境でも錆の発生、特に糸錆腐食を防止することができ、しかもアルミニウム金属光沢を阻害することがないのでアルミニウムホイール等のアルミニウム部材に塗装しても鏡面光沢を活かした意匠性に優れたアルミニウム部材用防錆プライマー及び該プライマーを塗布したアルミニウム部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下の構成により、上記課題を達成できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0011】
本発明に従って、
(A)ポリオレフィン樹脂 5〜30質量%(固形分)、
(B)添加剤 0.01〜20質量%、
(C)溶剤 49〜95質量%、及び
(D)溶剤に可溶な防錆剤 0.01〜5質量%
を含有することを特徴とするアルミニウム部材用防錆プライマーが提供される。
【0012】
また、本発明に従って、上記アルミニウム部材用防錆プライマーで塗布されたアルミニウム部材が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルミニウム部材に対して、密着性に優れ、腐食の激しい環境でも錆の発生、特に糸錆腐食の発生を防止することができ、しかも塗膜が白ボケのない透明であるので金属光沢を有するアルミニウム部材に適したアルミニウム部材防錆プライマー及び該プライマーを塗布したアルミニウム部材を提供することができる。
【0014】
また、本発明のアルミニウム部材用防錆プライマーは、金属光沢を阻害することがないので、特にアルミニウムホイールにおいて鏡面光沢を活かした意匠性に優れたアルミニウム部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のアルミニウム部材用防錆プライマーについて、具体的に説明する。
【0016】
本発明のアルミニウム部材用防錆プライマーは、下記の4成分から構成される。
(A)ポリオレフィン樹脂 5〜30質量%(固形分)、
(B)添加剤 0.01〜20質量%、
(C)溶剤 49〜95質量%
(D)溶剤に可溶な防錆剤 0.01〜5質量%
【0017】
以下、(A)〜(D)の各成分について詳細に説明する。
【0018】
(A)ポリオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体、又は、これらα−オレフィンの二種以上を構成単量体とする共重合体、又は上記α−オレフィンとその他の共重合可能な単量体との共重合体である。それらはランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよい。具体的には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−3−メチル−1−ブテン、エチレン−プロピレン共重合体等がある。これらは、熱可塑性樹脂であり、可撓性を有するものが好ましい。
【0019】
また、ポリオレフィン樹脂は、水素原子の一部を塩素原子で置換した塩素化ポリオレフィンでも良く、その塩素化率は0〜60質量%であることが好ましい。塩素化率が60質量%を超えると、乾燥後の塗膜が黄変し易い為、アルミニウムの金属光沢を活かした意匠性を低下させる傾向にある。
【0020】
使用するポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、45,000〜65,000であることが、塗膜物性特に塗膜硬度や耐チッピング性に優れるため好ましい。また、その融点は、60℃〜130℃のものが塗膜硬度や耐熱性に優れるため好ましい。
【0021】
ポリオレフィン樹脂の市販品としては、スーパークロン(日本製紙(株)、塩素化ポリオレフィン)、アウローレン(日本製紙(株)、非塩素系ポリオレフィン)、ハードレン(東洋化成工業(株)、非塩素系ポリオレフィン)等がある。
【0022】
(A)ポリオレフィン樹脂は、プライマー組成物中に固形分として5〜30質量%含有される。更には、7〜20質量%であることが好ましい。(A)の配合量が5質量%より少ないと、耐糸錆性や耐チッピング性が悪くなり、30質量%を超えると塗膜の安定性が低下する傾向がある。
【0023】
(B)添加剤は、シランカップリング剤、紫外線吸収剤(UVA)、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、及び分散剤であり、これらのうち少なくとも1種を含む。
【0024】
このうちシランカップリング剤は、塗膜の密着性の向上に寄与するものであり、具体例としては、例えば1−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−1−(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ユレイドプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン等が代表的なものとして挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランが塗膜の密着性から好ましい。
【0025】
紫外線吸収剤(UVA)は、塗膜の耐候性の向上に寄与するものであり、その種類には、ベンゾフェノン系や、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、安息香酸系、シアノアクリレート系、ヒンダードフェノール系、トリアジン系紫外線吸収剤等がある。
【0026】
使用するUVAの吸収波長は、250〜380nmの範囲にあるものが好ましく、特にベンゾフェノン系や、ベンゾトリアゾール系のUVAが好ましい。
【0027】
UVAの具体的な例としては、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニルサリシレート、3−ヒドロキシフェニルベンゾエート、フェニレン−1,3−ジベンゾエート、アリール化シアノアクリラート、オキサニリド、トリアジン、2−[4−(オクチル−2−メチルエタノエート)オキシ−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−[ビス(2,4−ジメチルフェニル)]−1,3,5−トリアジン、トリス[2,4,6−[2−{4−(オクチル−2−メチルエタノエート)オキシ−2−ヒドロキシフェニル}]−1,3,5−トリアジン等が挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)も同様に塗膜の耐候性の向上に寄与するものであり、UVAと併用することにより、耐候性向上において相乗的な効果を発揮する。
【0029】
HALSの具体的な例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−プロポキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ブトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ペンチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ヘプチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ノニロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−デカニロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−ドデシロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、等が挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
分散剤は、顔料等の分散性を向上するために添加する添加剤であり、その種類としては、ポリアミド系樹脂、水酸基含有カルボン酸エステル、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート等が挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
(B)添加剤は、これらシランカップリング剤、UVA、HALS、及び分散剤のうち少なくとも1種を含むものであり、プライマー組成物中には0.01〜20質量%含有され、好ましくは0.1〜10質量%含有される。0.01質量%未満であると、密着性や耐候性に劣る傾向があり、20質量%を超えて含有されるとコストアップとなり好ましくない。
【0032】
(C)溶剤は、(A)ポリオレフィン樹脂や(B)添加剤を溶解・分散するための媒体となるものであり、塗装し易いようにプライマー組成物中49〜95質量%に調整され、好ましくは70〜95質量%である。49質量%未満であると高粘度となり塗装し難くなり、95質量%を超えるとバインダー成分が希薄となり安定性が悪くなる傾向がある。
【0033】
溶剤としては、一般に塗料で使用される、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶剤が挙げられ、これらは2種以上を組み合わせて使用することができる。これら溶剤の中でも、キシレンやトルエン等の芳香族炭化水素系溶剤が、ポリオレフィン樹脂の溶解性に優れるため好ましい。
【0034】
(D)本発明で用いられる防錆剤は塗料中に完全に相溶化出来るタイプ、つまり溶剤に可溶な防錆剤であることが必須である。水酸化アルミニウム等の防錆顔料は微粒子であるため塗料中に完全に相溶化出来ず、塗料が白濁してしまい塗膜の透明化ができなかった。一方、溶剤に可溶な防錆剤は溶剤に溶解するのでプライマー組成物と相溶化し、乾燥後の塗膜が透明となり、金属光沢を活かしたアルミニウム部材に塗装しても意匠性を低下させない。これら溶剤に溶解する防錆剤としてはイミダゾール化合物、ジノニルナルタレンスルホン酸の金属塩(カルシウム、バリウム、亜鉛等)が挙げられる。中でもイミダゾール化合物は、イミダゾール、2メチルイミダゾールであることが好ましく、ジノニルナルタレンスルホン酸カルシウム、ジノニルナルタレンスルホン酸亜鉛が好ましい。溶剤は、防錆剤が可溶であれば(C)溶剤と同じものでも異なるものでも構わない。プライマー組成物中に0.01〜5質量%含有され、好ましくは0.1〜3質量%含有される。0.01質量%未満であると防錆効果が発揮できず、5質量%を超えて含有すると塗料が白濁し塗膜に白ボケが発生する。
【0035】
本発明の防錆プライマーの被塗物であるアルミニウム部材は、アルミニウムを主成分とし、又は、場合によりそれに更にマグネシウムやケイ素等を含むアルミニウム合金からなる。
【0036】
本発明の防錆プライマーにおいては、アルミニウム部材でも特に車両用のアルミニウムホイールに適用することが好ましい。アルミニウムホイールは、鋳造や鍛造等によって成型加工された後、軽量化及び意匠性等の目的で任意の形状に切削加工される。また、場合により、酸化被膜や離型剤、切削油等の除去の目的のために、ショットブラスト処理が行われる。その後、耐食性や密着性の付与のために、通常ホイール表面の化成処理が施される。その化成処理には、主にクロメート処理やノンクロメート処理が施される。化成処理については、クロメート処理が主に有害な6価Crを使用するため、6価Crを含まない3価Crのクロメート処理やノンクロメート処理による化成処理が好ましい。
【0037】
アルミニウムホイールに対して表面処理を施して光輝表面を得る表面処理方法は、意匠面を形成する鋳肌面をバフ研磨する方法もしくはバフ研磨した後にクリア塗装する方法、アルミニウムホイールの意匠面を成す鋳肌面を研磨して湿式のニッケルメッキ及びクロムメッキを施す方法、アルミニウムホイールの意匠面を成す鋳肌面に樹脂塗装層を形成した上に乾式メッキ層を付けて、その表面にクリア塗装する方法等がある。
【0038】
本発明の防錆プライマーの塗装方法は、刷毛塗りやスプレー塗装等によって塗装することができ、塗装する塗膜の膜厚は特に限定されないが、乾燥膜厚で5〜20μmの範囲であることが好ましい。また、塗装後の塗膜の乾燥は加熱乾燥、あるいは自然乾燥等によって塗膜を形成することができる。更に、その上からメタリックやクリヤーを塗装することができ、プライマー塗膜の保護や意匠性の付与等の点で好ましい。
【0039】
車両用のアルミニウムホイールは、実際の使用環境においては、特に寒冷地等において機械的摩擦による高温状態と雪や氷等による冷却状態の繰り返しによる冷熱ストレスを受け易く、特にその表面を被覆する塗膜においては冷熱ストレスによる塗膜のクラック発生や物性低下を引き起こす。
【0040】
更に寒冷地等においては融雪剤等による腐食性成分が、塗膜に生じたクラック部分から浸入し、錆の発生や成長を促進する。それに対して、本発明の防錆プライマーは、バインダーが可撓性を有するポリオレフィン樹脂であり、アルミニウムホイール等の冷熱ストレスを受ける環境においても塗膜にクラックが発生し難く、防錆性能に優れ、特にアルミニウム部材の糸錆発生を防止する。
【実施例】
【0041】
以下、本発明について更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0042】
<実施例1〜11及び比較例1〜10>
表1に示すように各成分を配合・混合し、実施例1〜11と比較例1〜10の組成物を得た。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
1)非塩素化ポリオレフィン樹脂A:塩素化率0%、分子量60000、融点80℃
2)塩素化ポリオレフィン樹脂B:塩素化率30%、分子量70000、融点80℃
3)防錆剤A:イミダゾール
4)防錆剤B:2−メチルイミダゾール
5)防錆剤C:ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム(キングインダストリー社製NACCOR1351 有効成分50%、溶剤ミネラルスピリット)
6)防錆剤D:ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛(キングインダストリー社製NACCOR1552 有効成分50%、溶剤ブチルソロソルブ)
7)防錆剤E:バナジン酸カルシウム
8)防錆剤F:水酸化アルミニウム
9)防錆剤G:トリポリリン酸アルミニウム
10)防錆剤H:縮合リン酸カルシウム
11)シランカップリング剤A:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
12)シランカップリング剤B:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
13)UVA:TINUVIN384(チバガイギー社製ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)
14)HALS:TINUVIN292(チバガイギー社製ヒンダードアミン系光安定剤)
15)分散剤:アマイド変性アクリル樹脂
【0046】
<防錆プライマー塗料の外観>
表1に示す各成分を配合・混合した実施例1〜11と比較例1〜10の防錆プライマー塗料の外観を目視にて観察した。
◎:透明である
○:少し白濁等している
×:完全に白濁等している
【0047】
<試験片の作製>
鏡面光沢を有するアルミニウムホイール用のアルミニウム合金板を用い、化成処理として3価クロメート処理を行い、プライマーとして上記組成物を塗布し、その上から下記配合のクリヤーをwet塗装し、150℃で30分間乾燥炉で焼き付け、試験板を得た。各塗膜の膜厚は、プライマー層10μm、クリヤー層30μmであった。
【0048】
(クリヤー組成)
アクリル樹脂 56質量部 (大日本インキ化学工業製、A405、NV50%)
メラミン樹脂 20質量部 (大日本インキ化学工業製、L−127−60、NV60%)
溶剤 21質量部 (n−ブタノール、キシレン、ヘビーアロマティック100、ヘビーアロマティック150が、1:1:1:1の混合物)
表面調整剤 1質量部 (上記11)表面調整剤と同じ)
UVA 1質量部 (TINUVIN384、上記13)と同じ)
HALS 1質量部 (TINUVIN292、上記14)と同じ)
上記で得られた各試験板について、それぞれの塗膜性能試験を以下のように実施した。
【0049】
<外観観察>
得られた各試験板について、塗膜の透明性の状態を目視にて観察した。
◎:鏡面光沢を有し、意匠性に優れている。
○:多少鏡面光沢が低下又は黄変している。
×:白ボケにより鏡面光沢が失われ、意匠性に乏しい。
【0050】
<SST試験>
得られた試験片を用いて冷熱サイクル(100℃、1時間→−20℃、1時間を100サイクル)を行った後、塗膜表面にカッターでクロスカットを入れ、JIS Z2371に準拠して、5%食塩水による35℃の塩水噴霧を120時間行い、塗膜のクロスカット部分から発生した糸錆等の発生を目視で観察し、下記の基準により評価した。
◎:糸錆の発生は見られない
○:発生した糸錆の長さが、2mm以下である
×:発生した糸錆の長さが、2mmを超える
【0051】
<CCT試験>
試験片を用いて冷熱サイクル(100℃、1時間→−20℃、1時間を100サイクル)を行った後、塗膜表面にカッターでクロスカットを入れ、CCT(35℃塩水噴霧、2時間)→(乾燥60℃、20〜30%RH、4時間)→(湿潤50℃、96%RH以上、2時間)のサイクルを合計50サイクル行い、塗膜のクロスカット部分から発生した糸錆等の発生を目視で観察し、下記の基準により評価した。
◎:糸錆の発生は見られない
○:発生した糸錆の長さが、2mm以下である
×:発生した糸錆の長さが、2mmを超える
【0052】
<CASS試験>
試験片を用いて冷熱サイクル(100℃、1時間→−20℃、1時間を100サイクル)を行った後、塗膜表面にカッターでクロスカットを入れ、酢酸酸性の5%塩化ナトリウム水溶液に塩化銅(II)を添加した溶液に室温で浸漬し、240時間後に試験片を取出し、塗膜のクロスカット部分から発生した糸錆等の発生を目視で観察し、下記の基準により評価した。
◎:糸錆の発生は見られない
○:発生した糸錆の長さが、2mm以下である
×:発生した糸錆の長さが、2mmを超える
【0053】
<耐水性>
試験片を、40℃に保った恒温水槽中に浸漬し、240時間後に取り出して乾燥させた後、塗膜表面にカッターで碁盤目(1mm間隔で10×10のマス目を入れる)のカットを入れて、その上からセロテープ(登録商標)による貼着と剥離を行い、目視による観察により、下記の基準により評価した。
◎:塗膜の剥がれは見られない(剥がれたマス目0個)
○:一部の塗膜が剥がれる(剥がれたマス目1〜99個)
×:全体的に塗膜が剥がれる(剥がれたマス目100個)
【0054】
<耐湿性>
試験片を、50℃で95%RH以上の恒温恒湿槽に240時間放置後、上記耐水性試験と同様に塗膜の碁盤目試験を行い、下記の基準により評価した。
◎:塗膜の剥がれは見られない(剥がれたマス目0個)
○:一部の塗膜が剥がれる(剥がれたマス目1〜99個)
×:全体的に塗膜が剥がれる(剥がれたマス目100個)
【0055】
<耐候性>
試験片を、JIS K5400に準拠して、サンシャインウェザーメーター(温度63±3℃、湿度50%RH以下、降雨18分/2時間)により1500時間促進耐候性試験を行い、試験後の塗膜を下記の基準により評価した。
◎:塗膜外観に変化はなく、光沢にも変化はない
○:塗膜外観の変化が軽微にあり、光沢が少し低下した
×:塗膜外観の変化が著しく、光沢も著しく低下した
【0056】
<耐チッピング性>
グラベロメータ試験機を用いて、−20℃でショット材として5号砕石を50g使用し、3.92×10Pa(4kgf/cm)のエア圧で試験片に垂直に吹付けた時の塗膜の傷付き程度を目視で観察し、下記の基準により評価した。
◎:殆ど傷が見られない
○:少し傷が見られる
×:多くの傷が見られる
【0057】
<評価結果>
上記の塗膜性能試験の評価結果を、表2に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表2より明らかな通り、本発明の防錆プライマーを使用した実施例1〜11は、各々の項目について優れた塗膜性能を有していた。一方、防錆顔料を使用した比較例1〜4及び8〜10、防錆剤が本発明の範囲外の比較例5〜7は塗料中に完全に相溶化出来ず塗料が白濁し、塗膜に白ボケが発生し鏡面光沢が失われてしまった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィン樹脂 5〜30質量%(固形分)、
(B)添加剤 0.01〜20質量%、
(C)溶剤 49〜95質量%、及び
(D)溶剤に可溶な防錆剤 0.01〜5質量%
を含有することを特徴とするアルミニウム部材用防錆プライマー。
【請求項2】
上記(B)添加剤が、シランカップリング剤、紫外線吸収剤(UVA)、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、及び分散剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載のアルミニウム部材用防錆プライマー。
【請求項3】
上記シランカップリング剤が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン又は3−アミノプロピルトリエトキシシランである請求項1又は2に記載のアルミニウム部材用防錆プライマー。
【請求項4】
上記溶剤に可溶な防錆剤が、イミダゾール化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム部材用防錆プライマー。
【請求項5】
上記イミダゾール化合物が、イミダゾール又は2−メチルイミダゾールである請求項4に記載のアルミニウム部材用防錆プライマー。
【請求項6】
上記溶剤に可溶な防錆剤が、ジノニルナルタレンスルホン酸の金属塩である請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム部材用防錆プライマー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のアルミニウム部材用防錆プライマーで塗装されたことを特徴とするアルミニウム部材。
【請求項8】
上記アルミニウム部材が、車両用アルミニウムホイールである請求項7に記載のアルミニウム部材。

【公開番号】特開2011−74251(P2011−74251A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227881(P2009−227881)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】