説明

アルミニウム電解コンデンサ用セパレータおよびアルミニウム電解コンデンサ

【課題】音響用途のアルミニウム電解コンデンサにおいて、音圧の変化や振動による音質の変化がより少なく、品質の高い再生音が得られるようにする。
【解決手段】陽極箔と陰極箔とともにコンデンサ素子に含まれるセパレータとして、繊維基材に、表面にフッ素が担持されている誘電体粉末を含有させたセパレータを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータおよびアルミニウム電解コンデンサに関し、さらに詳しく言えば、音響機器のコンデンサとして好適なアルミニウム電解コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサは、ともにアルミニウム材からなる電極箔としての陽極箔と陰極箔とを、それらの間にセパレータを挟んで渦巻き状に巻回してなるコンデンサ素子に所定の電解液を含浸して有底筒状の金属ケース内に収納し、そのケース開口部を封口ゴム等の封口部材にて封止し、陽極箔と陰極箔とに接続されている一対のタブ端子を封口部材に穿設されている貫通孔を通して外部に引き出してなる構造を備えている。
【0003】
この種のアルミニウム電解コンデンサにおいて、セパレータには、通常、クラフトパルプ繊維やマニラ麻繊維等の繊維を抄製してなる繊維基材が用いられている。
【0004】
アルミニウム電解コンデンサは、多くの電子・電気機器に採用されているが、音響機器の電源平滑コンデンサやカップリング用コンデンサ等に用いられる音響用途の場合、スピーカから発せられる音圧の変化や実装回路基板から伝播される振動によってコンデンサ素子の電極箔のセパレータへの締め付け力が変化し、音響機器の音質が劣化するという問題がある。
【0005】
特に、電解液が含浸されているセパレータは、繊維間の機械的な結合が弱い膨潤状態にあるため、図4に示すアルミニウム電解コンデンサの等価回路において、セパレータ自体の抵抗とセパレータに含浸されている電解液の抵抗とを含むセパレータの抵抗Reが上記したような音圧の変化や振動等によって変化し、これによってアルミニウム電解コンデンサの電気的定数が変動することがある。
【0006】
なお、図4の等価回路において、Rfは皮膜抵抗,Lはコンデンサの巻き構造やタブ端子によるインダクタンス成分,Dは皮膜の極性,C+は陽極酸化皮膜の静電容量,C−は陰極の自然空気酸化皮膜の静電容量である。
【0007】
したがって、このようなセパレータを有するアルミニウム電解コンデンサを音響機器の電源平滑コンデンサやカップリング用コンデンサに使用した場合、音圧の変化や内部振動および外的振動等により、オーディオ信号の劣化や音質の歪みが生じやすくなる。
【0008】
そこで、特許文献1に記載された発明では、音響用のアルミニウム電解コンデンサにおいて、セパレータの膨潤状態における機械的強度を補強するため、セパレータの繊維基材にフッ素雲母粒子を含有させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−6980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された発明によれば、フッ素雲母粒子をセパレータに含有させることによってある程度オーディオ信号の劣化や音質の歪みを少なくすることができるが、十分な効果が得られるまでには至っていない。
【0011】
したがって、本発明の課題は、音響用途のアルミニウム電解コンデンサにおいて、音圧の変化や振動による音質の変化がより少なく、より品質の高い再生音が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は、アルミニウム電解コンデンサ用セパレータにおいて、その繊維基材に、表面にフッ素が担持された誘電体粉末を含有させたことを特徴としている。
【0013】
本発明において、誘電体粉末の表面に担持されるフッ素は、フッ素の原子および/またはフッ化物イオンであり、上記フッ素の含有率は上記誘電体粉末に対して0.01〜0.5wt%であることが好ましい。
【0014】
また、上記繊維基材に対する上記誘電体粉末の含有率は0.01〜1.0wt%であることが好ましい。
【0015】
また、上記誘電体粉末として、二酸化チタン(TiO)もしくはチタン酸バリウム(BaTiO)が好ましく採用され、上記繊維基材には、クラフトパルプ繊維もしくはマニラ麻繊維が用いられてよい。
【0016】
本発明には、アルミニウム電解コンデンサも含まれる。すなわち、本発明のアルミニウム電解コンデンサは、ともにアルミニウム材からなる陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して渦巻き状に巻回し所定の電解液が含浸されたコンデンサ素子を有底筒状の金属ケース内に収納し、上記金属ケースの開口部を封口部材にて封止してなるアルミニウム電解コンデンサで、上記セパレータとして、繊維基材にフッ素皮膜を有する誘電体粉末を含有させたセパレータを用いることを特徴としており、特に、音響機器のコンデンサとして好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルミニウム電解コンデンサのセパレータに、繊維基材に、表面にフッ素が担持された誘電体粉末を含有させたセパレータを用いることにより、音響用途のアルミニウム電解コンデンサにおいて、音圧の変化や振動による音質の変化がより少なく、より品質の高い再生音を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アルミニウム電解コンデンサの基本的な構成を示す模式的な断面図。
【図2】コンデンサ素子の構成要素を図解した模式的な斜視図。
【図3】本発明で用いられる誘電体粉末を超拡大して示す模式的な断面図。
【図4】アルミニウム電解コンデンサの等価回路図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図1ないし図3を参照して、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
まず、図1に示すように、本発明のアルミニウム電解コンデンサは、基本的な構成として、コンデンサ素子10と、その収納容器である有底筒状の金属ケース20と、金属ケース20の開口部を封止する封口部材30とを備える。
【0021】
図2に示すように、コンデンサ素子10は、陽極箔11と陰極箔12とを、それらの間にセパレータ13(13a,13b)を介在させて渦巻き状に巻回することにより構成される。
【0022】
図示の例では、セパレータ13a,陽極箔11,セパレータ13b,陰極箔12を重ねた状態で巻回される。なお、セパレータ13a,13bは同一の素材からなるため、特に区別する必要がない場合には、セパレータ13とする。
【0023】
陽極箔11と陰極箔12は、ともにアルミニウム材からなり、陽極箔11には、アルミニウム材をエッチングし、さらに陽極化成したものが用いられ、また、陰極箔12には、アルミニウム材をエッチングしてなるエッチド箔が好ましく用いられる。
【0024】
陽極箔11と陰極箔12は、テープ状であって巻回する前に、その各々に引出リードとしてのタブ端子14,15が例えばかしめ針等の接続手段によって電気的・機械的に取り付けられる。
【0025】
詳しくは図示しないが、タブ端子14,15は、アルミニウム材の丸棒からなり、その一端側をプレス等により扁平に押し潰して羽子板状とした端子本体と、端子本体の他端側に残されている丸棒の端部に溶接等により一体的に接続されたCOP線(銅被覆鋼線)とから構成されてよい。
【0026】
金属ケース20には、アルミニウム材のプレス成型品が用いられる。また、この実施形態において、封口部材30には、ブチルゴム等からなる封口ゴムが用いられている。
【0027】
封口部材30には、タブ端子14,15を貫通する貫通孔が穿設されており、封口部材(封口ゴム)30は、タブ端子14,15に取り付けられた状態でコンデンサ素子10とともに金属ケース20内に挿入され、金属ケース20の開口端縁のかしめにより固着される。
【0028】
コンデンサ素子10には、電解液が含浸される。電解液の含浸は、金属ケース20に収納する前もしくは収納後のいずれに行われてもよい。
【0029】
電解液には、溶質として例えば無機酸や、芳香族カルボン酸および脂肪族カルボン酸等の有機酸を使用でき、また、溶媒としては、γ−ブチロラクトン等の非プロトン溶媒や、エチレングリコール等のプロトン溶媒を使用できるが、これに限定されるものではない。
【0030】
また、電解液には、初期の損失角の正接(tanδ)を改善するためにケトン類を添加したり、pHを調整するためにpH調整剤を添加する等、その他の添加剤が添加されてよい。
【0031】
セパレータ13には、繊維を紙のように抄製したものが用いられる。繊維としては、クラフトパルプ繊維やマニラ麻繊維等の植物繊維やポリプロピレン,ビニロン,レーヨン,ポリエチレン,ポリエステル等の合成繊維を単独で用いたり、あるいはこれらにガラス繊維を混抄させたものが使用される。
【0032】
本発明では、音響用途のアルミニウム電解コンデンサにおいて、音圧の変化や振動による音質の変化がより少なく、より品質の高い再生音が得られるようにするため、セパレータ13の繊維基材に、図3に示すように、粒子状の誘電体41の表面41aにフッ素が担持されている誘電体粉末40を含有させる。なお、以下の説明において、フッ素が担持されている表面41aを「フッ素担持表面」と言うことがある。
【0033】
誘電体粉末40がフッ素担持表面を有していることにより、表面への電解液の溶媒分子の吸着挙動や酸化物表面近傍の誘電率が変化し、溶媒のみの場合と比べて誘電率の大きな部位が創出されるものと推測される。
【0034】
また、フッ素担持条件を制御することにより、表面の親水性を増加させることができ、セパレータへの均一な固定が可能になる。さらには、フッ素担持表面を有する誘電体粉末は、その静電的反発から凝集を起こしにくいため、微小な粒子としてセパレータに固定することが可能となる。
【0035】
フッ素の好ましい含有率は、誘電体粉末40に対して0.01〜0.5wt%である。これより少なくても、多くても所期の効果が得られないので好ましくない。
【0036】
誘電体粉末40の粒径は1nm〜10μmであることが好ましい。すなわち、1nm未満では、音圧の変化や振動による音質の変化に改善が見られず、他方において、10μmを超えると、かえって音質が損なわれるおそれがあるので好ましくない。
【0037】
また、繊維基材に対する誘電体粉末40の含有率は0.01〜1.0wt%であることが好ましい。すなわち、0.01wt%未満と少なすぎても、また、1.0wt%超と多すぎても、所期の効果が得られないので好ましくない。
【0038】
コアとなる誘電体41には、二酸化チタン(TiO)もしくはチタン酸バリウム(BaTiO)が好ましく採用される。本発明で使用する誘電体粉末40は、誘電体41の粒子をフッ素ガスと接触させることにより得ることができる。
【0039】
二酸化チタンについて説明すれば、二酸化チタンには、アナターゼ型二酸化チタン,ルチル型二酸化チタン,ブルッカイト型二酸化チタン,アモルファス型二酸化チタン等が知られているが、これらの中では、アナターゼ型二酸化チタンが好ましい。
【0040】
二酸化チタン粒子は、乾燥させた二酸化チタン粒子であってよいが、二酸化チタンゲル,二酸化チタンゾル等であってもよい。
【0041】
二酸化チタンゲル,二酸化チタンゾル等の二酸化チタンの分散体を用いる場合には、フッ素化効率を高める観点から、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる前に、二酸化チタンの分散体に含まれている溶媒をあらかじめ除去しておくことが好ましい。商業的に入手できる二酸化チタンには、例えば石原産業社製の品番ST−21等が挙げられる。
【0042】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させることによって二酸化チタン粒子にフッ素担持表面を形成するには、フッ素ガスが大気中に放出されることを防止するうえで、密閉式のバッチ式反応装置を用いることが好ましい。
【0043】
二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる際には、まず、反応装置内に二酸化チタン粒子を入れる。その量は、特に限定されず、使用する反応装置の規模等に応じて適宜調整すればよい。反応装置内に二酸化チタン粒子を入れた後、反応装置内に存在している空気等の不純物ガスを排除するため、その内部雰囲気を減圧することが好ましい。
【0044】
次に、反応装置内にフッ素ガスを導入して、二酸化チタン粒子をフッ素ガスと接触させる。その際のフッ素ガスの圧力は、粒子表面に効率よくフッ素を担持させる観点から、好ましくは0.5kPa以上であり、また、効率よく製造する観点および安全性の観点から、好ましくは200kPa以下、より好ましくは100kPa以下、さらに好ましくは50kPa以下、特に好ましくは15kPa以下である。
【0045】
また、フッ素ガスの温度は、粒子表面に効率よくフッ素を担持させる観点から、好ましくは0℃以上であり、過度のフッ素化反応の進行を抑制するとともに反応プロセスにおける安全性を確保する観点から、好ましくは400℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。
【0046】
また、反応時間は、二酸化チタン粒子の粒子径および量、フッ素ガスの圧力および温度等によって異なるので、一概には決定することができないが、通常は、0.5〜5時間程度である。
【実施例】
【0047】
厚さ90μmのアルミニウム箔(純度4N)をエッチングし化成処理したものを陽極箔とし、厚さ50μmのアルミニウム箔(純度2N)をエッチングしたものを陰極箔とし、これらの間に表1のように仕様が異なるセパレータを挟んで巻回してコンデンサ素子を作成した。そして、各コンデンサ素子にエチレングリコール系の電解液を含浸させた後、有底筒状のアルミニウムケースに入れ、各タブ端子を封口ゴムの貫通孔を貫通させて外部に引き出しながら、アルミニウムケースの開口部を密封することにより、直径10mm,高さ10mm,定格16V220μFの音響用アルミニウム電解コンデンサ(実施例1〜8,比較例1〜10および特許文献1に記載のもの)を作成した。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜8,比較例1〜10およびフッ素雲母粒子含有のセパレータを用いた特許文献1に記載のアルミニウム電解コンデンサを音響機器の電源平滑用コンデンサとして用い、音楽の再生音を6名で試聴して、その音質を帯域,質感,解像度,音像および音場に分けて10点満点で評価した。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
ここで、帯域とは、周波数特性であり、高得点のものほど再現できる音の周波数帯域が広いことを意味している。質感とは、音のS/N比で、音の伸びの再現性を意味している。解像度とは、音の分解能であり、例えば重なった旋律をそれぞれ把握できる度合いを意味している。音像とは、音の美しさであり、音の透明感や輪郭を意味し、音場とは、音の厚み、すなわち音の収束感を意味している。
【0052】
表2から分かるように、本発明の実施例1〜8によれば、帯域,質感,解像度,音像および音場ともに7点以上(特に、実施例5〜8はすべてが10点)の高得点であるのに対して、比較例1〜10ではいずれも5点評価であり、また、特許文献1の場合は6点評価であり、本発明の繊維基材にフッ素皮膜を有する誘電体粉末を含有させたセパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサの優位性が検証された。
【0053】
以上説明したように、本発明のアルミニウム電解コンデンサは、音響用途に好適であるが、これ以外の用途に適用されてもよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
10 コンデンサ素子
11 陽極箔
12 陰極箔
13(13a,13b) セパレータ
14,15 タブ端子
20 金属ケース(アルミニウムケース)
30 封口部材
40 誘電体粉末
41 誘電体粒子
41a 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材に、表面にフッ素が担持されている誘電体粉末を含有させたことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項2】
上記誘電体粉末の表面に担持されるフッ素は、フッ素の原子および/またはフッ化物イオンであり、上記フッ素の含有率は上記誘電体粉末に対して0.01〜0.5wt%であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項3】
上記誘電体粉末の粒径が1nm〜10μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項4】
上記繊維基材に対する上記誘電体粉末の含有率が0.01〜1.0wt%であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項5】
上記誘電体粉末が二酸化チタン(TiO)もしくはチタン酸バリウム(BaTiO)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項6】
上記繊維基材がクラフトパルプ繊維もしくはマニラ麻繊維であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアルミニウム電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項7】
ともにアルミニウム材からなる陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して渦巻き状に巻回し所定の電解液が含浸されたコンデンサ素子を有底筒状の金属ケース内に収納し、上記金属ケースの開口部を封口部材にて封止してなるアルミニウム電解コンデンサにおいて、
上記セパレータに請求項1ないし6のいずれか1項によるセパレータを用いたことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ。
【請求項8】
音響機器のコンデンサとして用いられることを特徴とする請求項7に記載のアルミニウム電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−99525(P2012−99525A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243463(P2010−243463)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000103220)エルナー株式会社 (48)