説明

アルミ基材及びアルミ樹脂接合体の製造方法

【課題】アルミ基材と樹脂成形体との間において優れた接合強度を有するアルミ樹脂接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材の表面の一部又は全面を、塩化銅を含有する塩化銅水溶液でエッチング処理し、次いで、水酸化アルカリ水溶液を用いてアルカリ処理し、その後、酸水溶液を用いて酸処理して、このアルミ基材の表面に凹凸構造が形成された表面処理済アルミ基材、及びこれに樹脂成形体を接合させたアルミ樹脂接合体を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とが、熱可塑性樹脂の射出成形により、一体的に強固に接合されたアルミ樹脂接合体を製造するために用いられるアルミ基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、異種材質であるアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材と熱可塑性樹脂製の樹脂成形体とを一体的に接合したアルミ樹脂接合体が自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の分野で幅広く用いられている。そして、従来においては、このようなアルミ樹脂接合体としては、アルミ基材と樹脂成形体との間を接着剤により加圧下に接合したものが用いられていた。しかるに、昨今、工業的により好適な接合方法として、アルミ基材を射出成形用金型内にインサートし、このインサートされたアルミ基材の表面に向けて溶融した熱可塑性樹脂を射出し、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を成形する際に同時にアルミ基材と樹脂成形体との間を接合する方法が開発され、アルミ基材と樹脂成形体との間の接合をより安価に、また、接合強度をより向上させるための幾つかの方法が提案されている。そして、このような提案の多くは、アルミ基材の表面に適切な表面処理を施すというものである。
【0003】
例えば、本発明者らは、既にアルミ材の凹状部と熱可塑性樹脂の嵌入部とによりアルミ形状体と樹脂成形体とが互いに係止されているアンカー効果を利用したアルミ・樹脂射出一体成形品を提案し(特許文献1)、また、シリコン結晶からなる凸部を有することを特徴とする樹脂接合性に優れたアルミニウム合金部材を提案している(特許文献2)。
【0004】
また、例えば、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する前処理を経て得られたアルミニューム合金物と熱可塑性樹脂組成物とを射出成形によって一体化する技術(特許文献3、4、5)や、金属表面に皮膜形成を伴う化学エッチング処理を行い、その後、その皮膜を化学的に除去することにより、金属表面を粗面化する技術がそれぞれ提案されている(特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009−151099号公報
【特許文献2】特開2010−174372号公報
【特許文献3】特許第3954379号公報
【特許文献4】特許第4270446号公報
【特許文献5】特許第4685139号公報
【特許文献6】特許第3404286号公報
【特許文献7】特開2007−138224号
【0006】
ここで、特許文献3、4、及び5に記載されたアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物を利用した方法は、アルカリ性の水溶液で表面にナノメーターオーダーの孔を設ける手法であるが、処理後一定の期間内に射出成形しなければならないという制約があるため、安定した表面を維持できる時間が短いという問題がある。
【0007】
また、特許文献6に記載の処理方法においては、被処理材がアルミニウム材であり、かつ、使用する薬液が酸性側の場合には、リン酸イオンや場合によってはフッ素化合物イオンを含有させており、それらの使用は廃液処理の観点から環境上好ましくない。また、その粗化後の表面はシャープな(角のある)凹凸表面であり、その後の樹脂射出成形時の成形条件やハンドリング等によっては凹凸構造が比較的容易に破壊されて効果的なアンカー効果が得られないという問題がある。
【0008】
また、特許文献7に記載の処理方法においては、一旦、工程aでアルミニウム材の表面に遷移金属皮膜を形成し、その後の工程bで遷移金属皮膜を溶解除去しつつ局部電池効果によりアルミニウムを侵食させて粗化面を形成させる処理であり、両工程を踏まえないと粗化面は形成されないため、処理工程が多くなるといういう問題がある。
【0009】
更に、上記特許文献6及び7に記載の処理方法においては、金属表面に析出した遷移金属皮膜を優先的に溶解して除去する方法が好ましいとあるが、このように遷移金属皮膜を除去して金属表面上に凹凸構造を残した場合では、例えば、その後の樹脂射出成形時の成形条件やハンドリング等によっては凹凸構造が比較的容易に破壊されて効果的なアンカー効果が得られない可能性が大いにあり、それらの原因による接合強度の低下や接合部分の気密性の低下が発生するという問題がある。つまり、凹凸構造を積極的に修正しないと、残存する微細な凹凸構造が強度低下や気密性低下に繋がってしまう。この特許文献6,7の手法では遷移金属皮膜を優先的に除去してもアルミの構造が脆い状態のままであるため、成形やハンドリング時にその構造が破壊される可能性が十分ある。
【0010】
ところで、本発明者らは、特許文献1や特許文献2に記載の通り、これまで主としてアンカー効果による嵌合による物理的な接合を提案し、その手法として処理浴にハロゲンイオンを含む特殊なエッチング処理による方法を提案してきたが、接合強度や接合部分の気密性といった性能に問題はないものの、このエッチング処理中に塩素系ガスや塩酸ガスといったハロゲンに由来するガスが発生し、周辺の金属部品や装置を腐食させず、また、周辺の環境を汚染させないための対策をとらなければならないという別の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明者らは、アルミ基材と熱可塑性樹脂製の樹脂成形体との間を接合するに際し、周辺の設備や環境に問題がなく、簡単な操作かつ低コストで、しかも、長期に亘って優れた接合強度を達成し得る方法を開発すべく鋭意検討した結果、アルミ基材表面の一部又は全面を塩化銅を含有する塩化銅水溶液でエッチング処理し、次いで、水酸化アルカリ水溶液を用いてアルカリ処理し、その後、酸水溶液を用いて酸処理して、このアルミ基材の表面に凹凸構造を形成することにより、この熱可塑性樹脂の射出成形の際に、成形された樹脂成形体とアルミ基材表面の凹凸構造との間に長期に亘って強固な接合が形成されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明の目的は、周辺の設備や環境に問題がなく、簡単な操作かつ低コストで、しかも、長期に亘って優れた接合強度を維持し得るアルミ樹脂接合体を製造することができるアルミ基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材の表面の一部又は全面を、塩化銅を含有する塩化銅水溶液でエッチング処理し、次いで、水酸化アルカリ水溶液を用いてアルカリ処理し、その後、酸水溶液を用いて酸処理して、このアルミ基材の表面に凹凸構造が形成された表面処理済アルミ基材を製造することを特徴とする表面処理済アルミ基材の製造方法である。
【0014】
本発明において、素地となるアルミ基材の材質や形状等については、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものであれば特には制限されず、これを用いて形成されるアルミ樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。
【0015】
本発明において、このようなアルミ基材の表面に凹凸構造を形成させるためには、先ず、塩化銅を含有する塩化銅水溶液でエッチング処理をする。このような塩化銅としては、具体的には、塩化第一銅又は塩化第二銅を単独で使用するか、或いはこれらを混合した混合液として使用することも可能である。塩化銅水溶液によるエッチング処理をすることで、アルミ基材の表面には銅が析出しつつ、かつ塩化物イオンの作用により、アルミ基材の表面がいわゆる孔食型で溶解していく。つまり、銅がアルミ基材の表面に完全な皮膜を形成しない状態を維持しながら、皮膜が形成されていない素地のアルミニウム部分を塩化物イオンによりエッチング処理することにより、強固なアンカー効果を得られる凹凸構造をアルミ基材の表面に形成することができる。
【0016】
そして、このような塩化銅水溶液によるエッチング処理の方法としては、具体的には、塩化銅の濃度は0.1g/L〜100g/Lとするのがよく、好ましくは1g/L〜30g/Lであり、より好ましくは5g/L〜15g/Lである。塩化銅の濃度が100g/Lを超えると、銅の析出速度が速くなり過ぎることにより反応が制御できず、一方、塩化銅の濃度が0.1g/L以下では、所望の表面状態を得るのに時間がかかりすぎるので好ましくない。
【0017】
また、この塩化銅水溶液中には溶存アルミニウムが含まれていても良く、その濃度は0.001g/L以上100g/L以下、好ましくは0.01g/L以上50g/L以下、より好ましくは0.1g/L以上40g/L以下である。塩化銅水溶液中にはエッチングによりアルミニウムが溶解していくため、初期の建浴状態を除けば連続使用により確実にアルミニウムは溶存している状態となる。そこで予めアルミニウムを塩化銅水溶液中に溶存させておくことが、浴管理の観点から望ましい。浴の管理を円滑に実施するためには溶存アルミニウムの下限濃度は0.001g/L以上であるのが望ましく、コスト性を考慮するとその下限値は0.1g/L以上であるのが望ましい。また、上限に関してはアルミニウムが溶存しすぎていると反応が効率的に進行しないため、その上限は100g/L以下であり、コスト性等を考慮しより効果的な濃度上限は40g/L以下である。塩化銅エッチング液に予めアルミニウムを溶存させておく手段については特に制限はなく、例えばアルミニウム板等を別途用意して塩化銅水溶液に浸漬させて、所定の溶存アルミニウム濃度になるように溶解させるようにする方法や、所定の溶存アルミニウム濃度になるように塩化アルミニウムを塩化銅水溶液に溶解させる方法等が例示でき、本発明の場合は後者の方法等がより効率的な方法である。
【0018】
ここで、このエッチング処理の処理条件については、処理温度10℃〜50℃、好ましくは20℃〜40℃であるのがよく、また、処理時間30秒〜5分、好ましくは1分〜3分であるのがよい。処理温度については、10℃以下では反応に時間がかかり過ぎ、一方、50℃以上では反応が速すぎるので、銅の析出が過剰となり、銅イオンの消費量が激しくなる点で好ましくない。処理時間についても、10秒以下では反応に時間がかかり過ぎ、30分以上では反応量が多くなるので、寸法精度の管理が困難になる場合や、処理液の消費量が多すぎて時間コストに加えて処理コストも増加するため好ましくない。一般的には、塩化銅の濃度が高い場合は短時間で処理を行い、濃度が低い場合はある程度時間をかけて処理を行うのが良い。
【0019】
本発明においては、上記の如くエッチング処理を行ってアルミ基材の表面に銅が析出している凹凸構造を形成させた後、次いで、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムから選ばれた1種以上の水酸化アルカリ水溶液を用いてアルカリ処理を行うのがよい。その理由としては、上記の如くエッチング処理を行ってアルミ基材の表面に銅が析出している凹凸構造は、異種金属腐食の原因となること、及び、この凹凸構造自体が角々しい状態であって強度が弱く脆いため、樹脂との接合時に凹凸構造が破壊されて所望の接合強度が得られないことが問題である。そのため、水酸化アルカリ水溶液によるアルミ基材の全面溶解型の処理を行うことにより、アルミの溶解で結果的に銅が表面から脱落して異種金属腐食の問題は解決されると共に、アルミ基材表面の微細凹凸構造のうち、壊れやすい角々しい構造が丸みを帯びた構造に修正されるため、強固な凹凸構造のみが残り、この結果、射出成形やハンドリング時に凹凸構造が壊れる事がなくなる。
【0020】
そして、上記の如くアルカリ処理を行った後には、アルミ基材の表面にスマットが形成されて熱可塑性樹脂との接合が阻害されるという問題が生じるため、次いで、酸水溶液を用いた酸処理によりデスマット処理を行う。酸水溶液としては、硝酸、硫酸、及び塩酸から選ばれた1種以上を用いるのがよい。なお、より清浄な表面とするために、酸水溶液を用いた酸処理前後での超音波水洗の実施や酸水溶液中で超音波加振を行うなど物理的な方法による洗浄処理を追加することも可能であるが、それらについては予め処理条件を決定する前に表面状態を観察しその必要性について適宜選択すれば良い。
【0021】
また、本発明においては、素地となるアルミ基材の表面全体を処理してもよく、あるいはコスト性を考慮して、アルミ基材の表面を適宜選択して処理してもよい。処理する部分を選択する際には、樹脂と接合する部分のみを処理するのであるが、処理する部分以外の部分を、例えばマスキングテープ等でマスキングし、浸漬処理やシャワー処理などして処理し、次にこのマスキングした部分を除去すればよい。
【0022】
本発明において、上記のエッチング処理、アルカリ処理、及び酸処理によってアルミ基材の表面に所望の凹凸構造を形成して得られた表面処理済アルミ基材については、その表面上に熱可塑性樹脂の射出成型により樹脂成形体が一体的に接合されるが、この樹脂成形工程で用いられ、樹脂成形体を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂のような一般的な汎用樹脂から、ポリフェニレンスルフィド樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶ポリマーといったエンジニアリングプラスチックスまで様々な樹脂が挙げられる。
【0023】
本発明におけるアルミ樹脂接合体の製造方法においては、好ましくは上記のエッチング処理、アルカリ処理、及び酸処理に先駆けて、アルミ基材の表面の前処理として、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理から選ばれたいずれか1種以上の処理を行ってもよい。
【0024】
上記前処理として行う脱脂処理については、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、界面活性剤等からなる通常の脱脂浴を用いて行うことができ、処理条件としては、通常、浸漬温度が15〜55℃、好ましくは25〜40℃であって、浸漬時間が1〜10分、好ましくは3〜6分である。
【0025】
また、上記前処理として行うエッチング処理については、通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液、又は、硫酸−リン酸混合水溶液等の酸水溶液が用いられる。そして、アルカリ水溶液を用いる場合には、濃度20〜200g/L、好ましくは50〜150g/Lのものを用い、浸漬温度30〜70℃、好ましくは40〜60℃及び処理時間0.5〜5分、好ましくは1〜3分の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。また、酸水溶液である硫酸−リン酸混合水溶液を用いる場合には、硫酸濃度10〜500g/L、好ましくは30〜300g/L及びリン酸濃が10〜1200g/L、好ましくは30〜500g/Lのものを用い、浸漬温度30〜110℃、好ましくは55〜75℃及び浸漬時間0.5〜15分、好ましくは1〜6分の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。
【0026】
更に、上記前処理として行うデスマット処理については、例えば1〜30%濃度の硝酸水溶液からなるデスマット浴を用い、浸漬温度15〜55℃、好ましくは25〜40℃及び浸漬時間1〜10分、好ましくは3〜6分の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。なお、上記前処理として行う化学研磨処理や電解研磨処理については、従来公知の方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明におけるアルミ樹脂接合体の製造方法によれば、アルミ基材の表面に所望の凹凸構造を形成する処理において、ガス発生等もないほか常温での操作も可能であり、周辺の設備や環境に問題がなく、簡単な操作かつ低コストで、長期に亘って優れた接合強度を発揮し得るアルミ樹脂接合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施例1で作成されたアルミ樹脂接合体を説明するための説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1で実施された接合強度の評価試験の方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0030】
[実施例1]
(1)表面処理済アルミ基材の作製
市販のアルミニウム板材(A5052; 板厚2.0mm)から40mm×40mmの大きさのアルミ基材を切り出した。次いで、10g/Lの塩化第二銅水溶液に室温で5分間浸漬処理を実施し、水洗を行った。次いで10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に2分浸漬し、水洗後に15%硝酸に3分浸漬した後、水洗し、表面に凹凸構造を有する試験用の表面処理済アルミ基材2を作製した。
【0031】
(2)アルミ樹脂接合体の作製
熱可塑性樹脂としてPPS(ポリプラスチックス社製商品名:フォートロン)もしくはPBT(ポリプラスチックス社製商品名:ジュラネックス)を用い、上で得られた試験用の表面処理済アルミ基材を射出成形機の金型内にセットし、PPSの場合は金型温度160℃、樹脂温度320℃、射出速度100mm/s、保圧50MPa、保圧時間5秒の射出成形の条件で、PBTの場合は金型温度80℃、樹脂温度250℃、射出速度100mm/s、保圧50MPa、保圧時間5秒の射出成形の条件で射出成形を行い、図1に示すように、40mm×40mm×2mmの大きさの樹脂成形体3を成形すると共に、これら成形体3を5mm×10mmの面積で表面処理済アルミ基材2の上に接合させ、試験用のアルミ樹脂接合体1を作製した。
【0032】
(3)アルミ樹脂接合体の耐久試験前後の接合強度の評価試験
このようにして作製された試験用のアルミ樹脂接合体について、アルミ樹脂接合体を温度85℃及び湿度85%の環境下に1000時間放置してアルミ樹脂接合体の耐食性を評価するアルミ樹脂接合体の耐久試験を行い、この耐久試験の前後のアルミ樹脂接合体について、下記の方法でその接合強度の評価試験を行った。
【0033】
図2に示すように、耐久試験の前又は後のアルミ樹脂接合体1の表面処理済アルミ基材2を冶具4に固定し、樹脂成形体3の上端にその上方から1mm/min.の速度で荷重5を印加し、表面処理済アルミ基材2と樹脂成形体3との間の接合部分を破壊する方法でアルミ樹脂接合体の接合部のせん断強度を評価する試験を実施し、その際の破断面を観察し、○:接合面全てが樹脂の凝集破壊で破壊された場合、△:接合面の一部が樹脂の凝集破壊で破壊された場合、及び×:アルミ基材と樹脂成形体との界面で破壊された場合の基準で、耐久試験の前後におけるアルミ樹脂接合体の接合強度を評価した。
結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例2]
塩化第二銅水溶液の濃度を100g/Lにし、処理温度を50℃にし、及び処理時間を10秒にした以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0036】
[実施例3]
塩化第二銅水溶液の濃度を0.1g/Lにし、処理温度を10℃にし、及び処理時間を30分に変更した以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0037】
[実施例4]
水酸化ナトリウム水溶液を水酸化カリウム水溶液に変更し、処理温度を30℃にした以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例5]
最後の酸洗浄処理液の種類を硝酸から硫酸に変更し、処理温度を30℃にした以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例6]
前処理として50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に3分間浸漬し、水洗後15%硝酸溶液に3分間浸漬し、その後水洗し、処理温度を30℃にしてから実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例7]
アルミ基材をA5052材からA1050材に変更した以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0041】
〔実施例8〕
塩化銅水溶液に塩化アルミニウム六水和物を0.9g/L(アルミニウム濃度として0.1g/L)添加した以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0042】
〔実施例9〕
塩化第二銅水溶液の濃度を100g/Lにし、塩化銅水溶液に塩化アルミニウム六水和物を450g/L(アルミニウム濃度として50g/L)添加した以外は実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例10〜実施例18]
塩化銅水溶液を塩化第一銅水溶液とした以外は、実施例1〜実施例9と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1〜実施例9と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例19]
塩化銅水溶液を、5g/L塩化第二銅水溶液と5g/L塩化第一銅水溶液との混合液とした以外は、実施例1と同様にして試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
〔比較例1〕
市販のアルミニウム板材(A5052; 板厚2.0mm)から40mm×40mmの大きさのアルミ基材を切り出した。そして、実施例1に記載の塩化第二銅水溶液による処理を行わずに水酸化ナトリウム水溶液による処理と硝酸による処理を実施した以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[比較例2]
実施例1において処理温度を30℃にし、水酸化ナトリウム水溶液による処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る試験用のアルミ樹脂接合体を作製し、実施例1と同様にして接合強度の評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
実施例1において、塩化第二銅水溶液による処理の代わりに濃度0.1 mol/Lの塩化第二鉄水溶液を使用して、50℃で1分間浸漬処理を実施した以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る試験用のアルミ樹脂接合体を作製したが、アルミ基材と樹脂が接合しなかった。結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明におけるアルミ樹脂接合体は、初期も耐久試験後も優れた接合強度を有するため、自動車の各種センサー部品、家庭電化製品部品、産業機器部品等の各種部品に好適である。
【符号の説明】
【0049】
1…アルミ樹脂接合体、2…表面処理済アルミ基材、3…樹脂成形体、4…冶具、5…荷重。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材の表面の一部又は全面を、塩化銅を含有する塩化銅水溶液でエッチング処理し、次いで、水酸化アルカリ水溶液を用いてアルカリ処理し、その後、酸水溶液を用いて酸処理して、このアルミ基材の表面に凹凸構造が形成された表面処理済アルミ基材を製造することを特徴とする表面処理済アルミ基材の製造方法。
【請求項2】
塩化銅水溶液中の塩化銅の濃度が0.1g/L〜100g/Lである請求項1に記載の表面処理済アルミ基材の製造方法。
【請求項3】
塩化銅を含有する塩化銅水溶液に、さらに0.001g/L〜100g/Lの溶存アルミニウムが含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理済アルミ基材の製造方法。
【請求項4】
エッチング処理が、処理温度10〜50℃及び処理時間10秒〜30分間の条件下で行われる処理である請求項1〜3に記載の表面処理済アルミ基材の製造方法。
【請求項5】
水酸化アルカリ水溶液中の水酸化アルカリが、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、及び水酸化カリウムから選ばれた1種以上からなる請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理済アルミ基材の製造方法。
【請求項6】
酸水溶液中の酸が、硝酸、硫酸、及び塩酸から選ばれた1種以上からなる請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理済アルミ基材の製造方法。
【請求項7】
アルミ基材の表面には、塩化銅水溶液によるエッチング処理に先駆けて、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理から選ばれた1種以上の前処理が施される請求項1〜6に記載の表面処理済アルミ基材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によって得られた表面処理済アルミ基材の表面上に、熱可塑性樹脂の射出成形により樹脂成形体を形成して、アルミ基材と樹脂成形体とが接合されたアルミ樹脂接合体を製造することを特徴とするアルミ樹脂接合体の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、及び液晶ポリマーから選ばれたいずれか1種以上である請求項8に記載のアルミ樹脂接合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−95975(P2013−95975A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240963(P2011−240963)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】