アルミ線用端子装置およびその製造方法
【課題】アルミ線と、銅またはステンレスなどの異種材料製の端子とを溶接接合する。
【解決手段】アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線2と、銅またはステンレスなどの異種材料製の端子部材3とをTIG溶接によって接合する。端子部材3は、アルミ線2を収容する筒状部分3aを有する。筒状部分3aは、溶接時に溶融金属を溜める保持プールを形成するための側壁を提供する。溶融した金属は、保持プールに数秒にわたって保持される。この結果、端子部材3の材料は、少なくとも部分的に侵食溶解する。この結果、溶接金属4には、アルミ線2の材料と、端子部材3の材料とが含まれる。さらに溶接時には、溶接金属4の脆性を改善するための、銀またはシリコン等の添加金属が添加される。
【解決手段】アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線2と、銅またはステンレスなどの異種材料製の端子部材3とをTIG溶接によって接合する。端子部材3は、アルミ線2を収容する筒状部分3aを有する。筒状部分3aは、溶接時に溶融金属を溜める保持プールを形成するための側壁を提供する。溶融した金属は、保持プールに数秒にわたって保持される。この結果、端子部材3の材料は、少なくとも部分的に侵食溶解する。この結果、溶接金属4には、アルミ線2の材料と、端子部材3の材料とが含まれる。さらに溶接時には、溶接金属4の脆性を改善するための、銀またはシリコン等の添加金属が添加される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、異種金属製の端子部材とを接合してなるアルミ線用端子装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1および特許文献2に記載のアルミ線用端子装置が知られている。この従来技術では、アルミ線と、銅製の圧着端子とを接合する構成が提案されている。このようなアルミ線用端子装置は、例えば特許文献3に記載の車両用交流発電機など、車載回転電機の電力線を接続するために有用である。
【0003】
また、アルミと銅、あるいはアルミとステンレスといった異種金属接合においては、異種金属の合金が比較的脆弱であることから、かかる脆弱性を改善するために、添加金属を付与することが提案されている。例えば、異種金属を接合する技術として、特許文献4ないし特許文献9に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−108445号公報
【特許文献2】特開2005−108608号公報
【特許文献3】特開2007−181396号公報
【特許文献4】特開2003−33865号公報
【特許文献5】特開2003−211270号公報
【特許文献6】特開2004−90093号公報
【特許文献7】特開2004−223548号公報
【特許文献8】特開2005−59091号公報
【特許文献9】特開2007−275981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載のアルミ線用端子装置によると、異種金属の接触腐食を抑制することができる。しかし、これらの技術は、アルミ線と端子部材とを抵抗溶接機または超音波溶接機によって導通接続している。このため、アルミ線の溶融量が比較的少なく、アルミ線の材料と端子部材の材料との溶融が十分に得られない。この結果、アルミ線と端子部材との間の接合部に十分な機械的強度を与えることが困難であった。また、アルミ線と端子との間の接合部に十分に低い電気抵抗を与えることが困難であった。さらには、接合初期の強度および抵抗を長期間にわたって持続することが困難であった。
【0006】
さらに、特許文献4ないし特許文献9には、板と板とを溶接する技術が開示されているが、比較的細い棒状のアルミ線を端子部材に溶接する技術は開示されない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、異種材料製の端子部材とを溶接したアルミ線用端子装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用することができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【0009】
請求項1に記載の発明は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)と、アルミ線と端子部材とを溶接により溶融させ凝固させた溶接金属(4、44、84)とを備え、端子部材は、アルミ線を囲むように設けられるとともに、溶接金属が溜められた保持プールを形成する側壁(3a、43a、63a、73a、83a)を有することを特徴とするアルミ線用端子装置という技術的手段を採用する。
【0010】
この発明によると、端子部材が提供する側壁により保持プールが形成される。この保持プールには、溶接金属が溜められる。この構成によると、溶接工程において溶接金属の流出が抑制され、アルミ線と端子部材との間に溶接金属が安定して形成される。この結果、アルミ線と端子部材とが良好に接合される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、端子部材は、側壁を提供する筒状の部分であって、その一端に溶接金属が設けられた筒状部分と、筒状部分の他端から延び出す電極部分(3d、23d、33d、43d)とを有することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の一端に溶接金属を設け、他端に電極部分を設けた端子装置が提供される。この構成は、電極部分と溶接金属とを離して配置することを可能とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、溶接金属が、筒状部分の内側面とアルミ線とに接合されていることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の内側面に溶接金属が接合されるため、広い面積を提供することができ、良好な接合を得ることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、溶接金属には、アルミ線の材料と、端子部材の材料とに加えて、さらに添加金属とが含まれていることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、添加金属により溶接金属の耐衝撃性および/または電気的特性を改善することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、端子部材は、アルミ線の材料より融点が高い材料製であることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミ線の材料よりも融点が高い材料を端子部材に用いても、溶接金属と端子部材との間に良好な接合状態を提供することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、端子部材は、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製であることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の端子部材とを溶接により接合したアルミ線用端子装置を提供することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)とを準備する準備工程と、端子部材を側壁(3a、43a、63a、73a、83a)として、当該側壁がアルミ線を囲むように端子部材を設けることにより、アルミ線の周囲に保持プールを形成する組立工程と、アルミ線と端子部材とを溶接により溶融させ、溶融した金属を保持プールに溜めた後、凝固させて溶接金属(4、44、84)を形成する溶接工程とを備えることを特徴とするアルミ線用端子装置の製造方法という技術的手段を採用する。この発明によると、溶接工程において溶融した金属が保持プールに溜められる。その後、溶融した金属を凝固させて溶接金属が形成される。このため、溶接工程において溶接金属の流出が抑制され、アルミ線と端子部材との間に溶接金属が安定して形成される。この結果、アルミ線と端子部材とが良好に接合される。
【0017】
請求項8に記載の発明は、組立工程では、側壁を提供する筒状部分の一端にアルミ線の先端を位置づけるとともに、筒状部分の他端に電極部分(3d、23d、33d、43d)を位置づけ、溶接工程では、筒状部分の一端において溶接金属が形成されることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、溶接金属と電極部分とを離して配置することができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、溶接工程では、筒状部分の一端を重力方向の上方へ向けて溶接金属が形成されることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の端部を保持プールとすることができる。
【0019】
請求項10に記載の発明は、組立工程では、アルミ線の先端を、筒状部分の一端より突出して位置づけることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、溶接工程において溶融されるアルミ線の量を確保することができる。
【0020】
請求項11に記載の発明は、溶接工程では、アルミ線を筒状部分の内側にまで深く溶融させるとともに、筒状部分の内側を保持プールとして、当該保持プールに溶融した金属を保持し、筒状部分の内側面とアルミ線とに接するように溶接金属を形成することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の内側面に溶接金属が接合されるため、広い面積を提供することができ、良好な接合を得ることができる。
【0021】
請求項12に記載の発明は、溶接工程では、アルミ線の材料と、端子の材料とに加えて、さらに添加金属が溶融され、溶接金属に加えられることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、添加金属により溶接金属の耐衝撃性および/または電気的特性を改善することができる。
【0022】
請求項13に記載の発明は、準備工程では、アルミ線の材料より融点が高い材料により端子部材を形成することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミ線の材料よりも融点が高い材料を端子部材に用いても、溶接金属と端子部材との間に良好な接合状態を提供することができる。
【0023】
請求項14に記載の発明は、準備工程では、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の端子部材を形成することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の端子部材とを溶接により接合したアルミ線用端子装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の分解斜視図である。
【図3】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接前の斜視図である。
【図4】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接前の背面の斜視図である。
【図5】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接装置を示す斜視図である。
【図6】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【図7】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。
【図8】本発明を適用した第2実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図9】本発明を適用した第3実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図10】本発明を適用した第4実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図11】本発明を適用した第5実施形態に係るアルミ線用端子装置の分解斜視図である。
【図12】本発明を適用した第6実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。
【図13】本発明を適用した第7実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。
【図14】本発明を適用した第8実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図15】本発明を適用した第8実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明を適用した第1実施形態を説明する。図1は、第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【0026】
図1において、端子装置1は、回転電機などの電気機器の電力線を電気的に接続するための接触接続式の端子である。端子装置1は、例えば、車両用回転電機の固定子巻線の電気的な接続を提供している。端子装置1のひとつの機能は、複数の固定子巻線を互いに接続する機能である。端子装置1においては、複数の固定子巻線は、溶接によって互いに接続されている。端子装置1の他のひとつの機能は、複数の固定子巻線を電気回路に接続する機能である。端子装置1は、電極部分を有し、電極部分が接触接続されることにより複数の固定子巻線を電気回路に接続する。端子装置1は、固定子巻線としてのアルミ線2と、端子部材3と、アルミ線2と端子部材3とを電気的に接続する溶接金属4とを有する。
【0027】
アルミ線2は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製である。アルミ線2は、一列に並べられた4本の素線の集合体である。このため、アルミ線2は、ほぼ長方形の断面をなしている。それぞれの素線は、ほぼ正方形の断面を有し、絶縁被膜を有する。
【0028】
端子部材3は、アルミ線2とは異なる材料製である。端子部材3は、接触によって電気的な導通を提供するために適した銅製または銅系合金製である。端子部材3は、板材を所定の形状に切断し、曲げることによって形成されている。端子部材3は、アルミ線2を囲むように設けられた筒状部分3aを有する。筒状部分3aは、アルミ線2に対応した断面形状として、長円形の断面をもつ。
【0029】
筒状部分3a内には、アルミ線2が収容されている。筒状部分3aは、アルミ線2の端部を囲むように配置されている。アルミ線2の先端部は筒状部分3aの一端3bに位置付けられている。筒状部分3aの他端3cからは、アルミ線2が延び出している。アルミ線2は、ほぼL字状に曲げられており、筒状部分3aの径方向外側を回避して延びている。このようなアルミ線2と筒状部分3aとの配置は、後述する溶接工程における筒状部分3aの固定を可能とする。
【0030】
筒状部分3aの一端3bには、溶接により溶融した後に凝固した溶接金属4が設けられている。溶接金属4は、少なくともアルミ線2と端子部材3の一部とを含む合金である。溶接金属4には、溶接金属4の機械的、および電気的特性を調整するための添加金属を含むことができる。溶接金属4は、筒状部分3aの一端3bの上にドーム状をなして設けられている。溶接金属4は、筒状部分3aの一端3bの全体を覆っている。溶接金属4は、筒状部分3aと、この筒状部分3a内に収容されたアルミ線2とを機械的に、かつ電気的に接続している。
【0031】
筒状部分3aの他端3cからは、アルミ線2が延び出すように配置されている。さらに、他端3cには、電極部分3dが設けられている。電極部分3dは、接触によって電気的な接続を提供する。電極部分3dは、板状部分と、締め付け用のボルトを挿通するためのボルト受入部とを有している。電極部分3dは、扁平な開口をなす他端3cのひとつの長辺から延び出している。電極部分3dは、筒状部分3aの軸方向に沿ってまっすぐに延び出している。筒状部分3aの一端3bに溶接金属4を設け、他端3cに電極部分3dを設けたので、両者を離して配置することができる。また、後述する溶接工程においては、電極部分3dを溶接に伴う熱や生成物から保護することができる。
【0032】
筒状部分3aのひとつの扁平面には、長円形断面をもつ筒状部分3aの断面形状を変形させた固定部3eが形成されている。固定部3eは、筒状部分3aの断面を変形させることにより、筒状部分3aの一部によりアルミ線2を締め付けて、筒状部分3aとアルミ線2とを機械的に固定している。
【0033】
筒状部分3aは、その一端3bにおいて、アルミ線2の周囲を囲むように配置されている。このため、筒状部分3aは、溶接金属4が溜められた保持プールを形成している。筒状部分3aは、保持プールを囲む側壁を提供している。溶接工程において溶融状態にあった溶接金属4は、筒状部分3aの一端3bに形成された長円形の保持プールに溜まる。やがて要求状態にあった溶接金属4は保持プール内に溜まったまま凝固する。この結果、図示のような形状の溶接金属4が得られる。
【0034】
次に、図2ないし図6を参照して、アルミ線用端子装置の製造方法を説明する。図2は、アルミ線用端子装置の溶接前の分解斜視図である。図3は、アルミ線用端子装置の溶接前の斜視図である。図4は、アルミ線用端子装置の溶接前の背面の斜視図である。図5は、アルミ線用端子装置の溶接装置を示す斜視図である。図6は、アルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【0035】
図2において、アルミ線用端子装置1の溶接前の状態、すなわち予備組立体1aの分解斜視図が図示されている。まず、準備工程において、複数の部品が準備される。アルミ線2は、複数の素線を束ね、かつ筒状部分3aへの挿入に適した形状、例えばL字型に曲げられる。端子部材3は、板材を切断し、曲げることによって筒状部分3aと電極部分3dとを持つ形状に形成される。筒状部分3aは、板材を突き合わせた継ぎ目3fを有する。添加金属片5は、筒状部分3aの一端3bから、筒状部分3aとアルミ線2との間に挿入可能な形状に形成される。ここでは、長方形の板状に形成される。添加金属片5の材料は、主として溶接金属4の脆性を改善して溶接部の強度を高めるために選定される。添加金属片5の材料は、溶接金属4の耐衝撃性および/または電気的特性を改善する材料とすることができる。添加金属片5の材料としては、銀および/またはシリコンを用いることができる。この実施形態では、シリコンアルミ(A4043)が用いられる。
【0036】
組立工程においては、アルミ線2の先端が、筒状部分3aの他端3cから、筒状部分3a内へ挿入される。添加金属片5は、一端3bから、アルミ線2と筒状部分3aとの間の隙間に差し込まれる。
【0037】
図3において、組立工程における予備組立体1aの形状が図示されている。組立工程においては、アルミ線2の先端は、一端3bから所定長さだけ突き出すように位置付けられる。アルミ線2の突き出し長さは、後述する溶接工程においてアルミ線2の先端が溶融したときに、保持プールを満たすために十分な溶融量が得られるように設定される。添加金属片5は、アルミ線2とともに溶融するようにアルミ線2の先端に並んで位置付けられる。
【0038】
さらに、組立工程には、筒状部分3aを変形させることによりアルミ線2と筒状部分3aとを機械的に仮固定するかしめ工程を含むことができる。かしめ工程においては、筒状部分3aの一方の平面に、かしめ型6が押し付けられる。かしめ型6によって、筒状部分3aには、固定部3eが形成される。固定部3eは、アルミ線2の幅方向の全体にわたって延びる帯状の凹部である。この固定部3eにより、筒状部分3aの内部が絞られ、アルミ線2に押し付けられる。
【0039】
固定部3eは、一端3bから所定距離だけ離れて設けられている。これにより、筒状部分3a内には、一端3bから固定部3eまでの範囲に比較的大きな隙間が設けられる。この隙間の少なくとも上部は、溶融状態の溶接金属4を保持する保持プールを提供する。よって、固定部3eは、保持プールの下端を規定するためにも貢献している。
【0040】
図4において、予備組立体1aの完成状態が図示されている。アルミ線2と添加金属片5とは、筒状部分3aの一端3bから突出して位置付けられている。これにより、溶接工程においてアルミ線2と添加金属片5との溶融が促進される。筒状部分3aの一端3bは、保持プールを提供するために十分な広さをもっている。筒状部分3aは、アルミ線2の周囲を囲むことによって保持プールを提供している。
【0041】
図5において、溶接工程において使用される溶接装置が図示されている。溶接装置7は、溶接機7aと、治具7bと、トーチ7cと、移動装置7dとを有する。溶接装置7は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接装置である。溶接装置7としては、種々の溶接装置を使用することができる。溶接機7aは、溶接電源およびガス供給機を備える。
【0042】
治具7bは、予備組立体1aを保持する保持器と、溶接中の熱を逃がして予備組立体1aを冷却する冷やし金と、接地電極との機能を有している。治具7bは、扁平な筒状部分3aの厚さ方向に移動可能な2つの部位を備えることができる。治具7bは、筒状部分3aをその厚さ方向に挟むことによって、筒状部分3aの外周面に接触する。治具7bは、筒状部分3aの一端3b側の一部分を突出させるようにして予備組立体1aを保持する。治具7bは、筒状部分3aの一端3bよりやや下側の部位から他端3cの近傍にかけて筒状部分3aの外周面に接触している。
【0043】
このように、筒状部分3aの一端3bを突出させ、筒状部分3aの残部に治具7bを接触させることにより、治具7bは、一端3bからやや下側の部位においては、溶接熱を多く奪う。この結果、溶接時に生じる溶融金属は、一端3bの近傍では高温を維持するが、一端3bのやや下側においては大幅に冷却される。この構成は、端子部材3に比べて融点が大幅に低いアルミ線2だけが溶融することを阻止する。その一方で、一端3bの近傍においては、溶融金属が高温を維持することを可能とする。
【0044】
また、治具7bは、筒状部分3aの一端3bと、他端3cとの間に広がるように設けられる。治具7bは、溶接工程の間中、そこに障壁を提供する。この結果、治具7bは、溶接工程において生じる熱、および溶接工程における生成物から、電極部分3dを保護する。
【0045】
トーチ7cは、アルミ線2の素線配列方向に沿って移動可能に構成されており、移動装置7dによって素線配列方向に揺動可能に構成されている。トーチ7cは、アルミ線2の先端を指向するように配置されている。移動装置7dは、トーチ7cを移動させる。
【0046】
溶接工程では、まず、予備組立体1aが治具7bに固定される。筒状部分3aの一端3bは、重力方向の上方へ向けて固定される。次に、トーチ7cがアルミ線2の上に位置づけられる。この後、溶接機7aによりガスが供給されて、遅れて溶接電流が供給され、TIG溶接が実行される。よって、一端3bを重力方向の上方に向けたまま、溶接金属4が形成される。
【0047】
アーク放電は、トーチ7cから、主としてアルミ線2に向けて生成される。さらに、トーチ7cが移動することにより、アルミ線2の全体の上をアーク放電が移動する。アーク放電による熱によって、アルミ線2と添加金属片5とが溶融する。
【0048】
溶融金属は、一端3b上に液滴状になって保持される。アルミ線2の溶融が進行すると、溶融金属は、一端3b上を覆うとともに、筒状部分3a内に溜まるようにして保持される。溶融金属は、一端3b上において端子部材3の材料と直接に接触する。このとき、端子部材3の材料の融点はアルミ線2の材料の融点より十分に高い。しかし、端子部材3の材料は、少なくとも侵食溶解によって溶融する。端子部材3の材料の侵食溶解は、アルミ線2の材料と添加金属片5の材料との溶融金属との接触部分から進行する。また、端子部材3の材料の一部は、アーク放電によって溶融することもある。この結果、溶融金属には、アルミ線2の材料と、添加金属片5の材料と、端子部材3の材料とが含まれることとなる。
【0049】
また、固定部3eにおける狭窄により、溶融金属が筒状部分3aの内部を流れ下ることが抑制される。また、治具7bによる冷却も、溶融金属が筒状部分3aの内部を流れ下ることを抑制する。この結果、溶融金属は、一端3bの近傍にだけ溜められる。
【0050】
やがてアーク放電が弱くなると、溶融金属は凝固し、溶接金属4を形成する。溶接金属4は筒状部分3aが提供する側壁で囲まれた保持プール内に溜まった液滴状である。溶接金属4は、一部ではアルミ線2と隣接し、連続的に接合されている。また、溶接金属4は、他の一部は筒状部分3aと隣接し、連続的に接合されている。
【0051】
図6において、溶接機7aにより供給される溶接電流がグラフと表によって示されている。アーク放電の初期における初期期間Tinにおいては、一定の初期電流Iinが供給される。その後、アップスロープ期間Tupにおいては、初期電流Iinからベース電流Ibsへ徐々に増加する電流が供給される。その後、ベース期間Tbsにおいては、一定のベース電流Ibsが供給される。この期間に、溶接による溶融金属の増加が進行し、合金が形成される。その後、ダウンスロープ期間Tdwにおいては、ベース電流Ibsからクレータフロー電流Icrへ徐々に減少する電流が供給される。その後、クレータフロー期間Tcrにおいては、一定のクレータフロー電流Icrが供給される。
【0052】
溶接電流の電流値と供給時間とは、筒状部分3aによって提供される保持プール内に溶融金属が所定時間の間にわたって保持されるように設定される。この所定時間は、アルミ線2の材料と、添加金属片5の材料と、端子部材3の材料とが溶融し、それらが混合されるために十分な長さとされる。さらに、電流値と上記所定時間とは、端子部材3の材料が、アルミ線2の材料の溶湯との接触によって侵食溶解される程度に設定される。このために、少なくともアップスロープ期間Tupと、ベース期間Tbsと、ダウンスロープ期間Tdwとの合計時間は、数秒以上の長さとされる。この実施形態では、ベース期間Tbsが数秒の長さとされている。また、電流値は、アーク放電によって溶融金属が飛び散ることなく、溶融金属が液滴となって保持される程度に設定される。
【0053】
図7は、アルミ線用端子装置の断面を示す模式的な断面図である。同図右半部には溶接前の予備組立体1aの形状が図示されている。左半部には溶接後の形状が図示されている。
【0054】
溶接工程では、アルミ線2と添加金属片5とが深く溶融される。これに比べて、筒状部分3aは、溶融量が少ない。アルミ線2と添加金属片5とは、筒状部分3aの内側にまで深く溶融される。この構成によると、筒状部分3aは溶融した金属の流出を抑制する。
【0055】
また、筒状部分3aの内側は保持プールの一部とされ、筒状部分3aの内側に溶融した金属が保持される。この結果、筒状部分3aの内側面においても、侵食溶解が進行する。溶融した金属は、筒状部分3aの一端3bに相当する端面から、筒状部分3aの内側面にわたる広い面積で、筒状部分3aと接触する。
【0056】
溶接金属4は、保持プールを満たす。さらに、溶接金属4は、表面張力によって筒状部分3aの一端3bからドーム状に盛り上がって形成される。この結果、溶接金属4と筒状部分3aとは、内側面を含む広い面積で接合される。また、溶接金属4は、アルミ線2の端面とも接合される。
【0057】
溶接金属4は、主としてアルミ線2が溶融することによって提供されている。その溶接金属4には、添加金属片5の材料と、端子部材3の材料とが含まれている。特に、添加金属片5の材料は、溶接金属4中に拡散している。また、端子部材3の材料も、溶接金属4に拡散している。この結果、添加金属片5の材料によって溶接金属4の脆性が改善される。また、溶接金属4とアルミ線2との接合部分が良好な接合状態となる。また、溶接金属4と筒状部分3aとの接合部分が良好な接合状態となる。さらに、溶接金属4と筒状部分3aとの接合部分には、拡散層3gが形成され、両者の間が高い機械的強度と、低い電気抵抗とをもって接合される。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明を適用した第2実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図8は、アルミ線用端子装置1の斜視図である。アルミ線用端子装置1は、電極部分23dをもつ端子部材23を備えている。電極部分23dは、筒状部分3aの軸方向に対して90度だけ曲げられている。電極部分23dは、アルミ線2の延び出し方向とは反対側へ延び出している。電極部分23dの平面部分は、筒状部分3aの軸と垂直に広がっている。
【0059】
(第3実施形態)
次に、本発明を適用した第3実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図9は、アルミ線用端子装置1の斜視図である。アルミ線用端子装置1は、電極部分33dをもつ端子部材33を備えている。電極部分33dは、筒状部分3aの軸方向に対して90度だけ曲げられるとともに、90度だけ捻られている。電極部分33dは、アルミ線2の延び出し方向とは反対側へ延び出している。電極部分33dの平面部分は、筒状部分3aの軸と平行に広がっている。
【0060】
(第4実施形態)
次に、本発明を適用した第4実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図10は、アルミ線用端子装置1の斜視図である。
【0061】
アルミ線用端子装置1は、端子部材43を有する。端子部材43は、アルミ線42を収容する筒状部分43aを備える。アルミ線42は、4本の素線を束ねて構成されている。アルミ線42のうち、筒状部分43a内に収容される部分は、破線で図示されるように方形に束ねられている。筒状部分43aは、方形に束ねられたアルミ線42を収容するように、ほぼ円筒形となっている。筒状部分43aの一端には、溶接金属44が形成されている。筒状部分43aの他端からは、電極部分43dが延び出している。電極部分43dは、筒状部分43aの軸方向に対して90度だけ曲げられている。電極部分43dは、アルミ線42の延び出し方向とは反対側へ延び出している。電極部分43dの平面部分は、筒状部分3aの軸と垂直に広がっている。筒状部分43aには、固定部43eが設けられている。固定部43eにより、アルミ線42が筒状部分43a内に固定される。筒状部分43aは、角筒状に形成されてもよい。
【0062】
(第5実施形態)
次に、本発明を適用した第5実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図11は、第5実施形態で用いる添加金属片55を示すアルミ線用端子装置の分解斜視図である。添加金属片55は、先行実施形態の添加金属片5に代えて用いられる。添加金属片55は、筒状部分3a内の対向する壁に沿って位置付けられる2つの板状部分を連結してなるU字状の板材である。この添加金属片55によると、予備組立体1aの組立て作業を容易にすることができる。また、溶接工程においては、アーク放電が添加金属片55の連結部分の上を通過する。このため、溶融金属の中に添加金属片55の材料が分散しやすくなる。
【0063】
(第6実施形態)
次に、本発明を適用した第6実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図12は、第6実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。添加金属片5に代えて、端子部材63の表面に設けられた添加金属層65を有する。端子部材63には、少なくとも筒状部分63aに添加金属層65が設けられている。添加金属層65の材料は、溶接工程において溶融し、溶接金属4に混入する。この構成においても、溶接金属4は、アルミ線2の材料と、端子部材63の材料と、添加金属層65の材料とを含むこととなり、脆性が改善される。また、この構成においても、筒状部分63aの一端63bには、拡散層63gが形成される。
【0064】
(第7実施形態)
次に、本発明を適用した第7実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図13は、第7実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。端子部材73は、少なくとも筒状部分73aに保護層76を有する。保護層76は、例えばスズメッキ層によって提供される。この実施形態では、溶接工程において、保護層76が溶融して流動化し、溶接金属4の表面を覆うように流れてゆく。この結果、溶接金属4の表面のうち、少なくとも外周縁部の表面には、保護層76の材料によって形成された薄い保護層76aが形成される。この実施形態によると、溶接金属4の表面を保護層76aによって保護することができる。
【0065】
(第8実施形態)
次に、本発明を適用した第8実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図14は、第8実施形態に係るアルミ線用端子装置1の斜視図である。図15は、第8実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【0066】
この実施形態では、端子部材83は、ステンレス鋼(SUS304)製である。溶接金属84は、端子部材83のステンレス鋼と、アルミ線2の材料とを含んでいる。さらに、溶接金属84には、添加金属片によって提供される添加金属が含まれている。添加金属としては、銀および/またはシリコンを用いることができる。この実施形態では、シリコンアルミ(A4043)が用いられる。
【0067】
この実施形態では、図15に図示される溶接電流が溶接機7aにより供給される。この実施形態でも、筒状部分83aによって提供される保持プールに、溶融した金属湯が少なくとも数秒にわたって保持される。これにより、アルミ線2の材料よりも融点が高い端子部材83の材料が侵食溶解も伴いながら溶融する。この結果、アルミ線2と端子部材83との間を接合する溶接金属4が形成される。しかも、溶接金属4は、アルミ線2との間でも、端子部材83との間でも良好な接合状態を提供する。
【0068】
なお、ステンレス鋼製の端子部材83は、先行する実施形態で示された形態にも用いることができる。また、ステンレス鋼に代えて、鉄製または鉄系合金製の端子部材を用いることができる。
【0069】
(他の実施形態)
本発明の技術的範囲は、上述した実施形態にのみ限定されるものではない。上述した実施形態は、本発明の技術的範囲内で、多様な変形、改良、または拡張を伴うことができる。
【0070】
例えば、添加金属は、溶接工程において溶加材として加えられてもよい。また、添加金属としては、アルミ線の材料と端子部材の材料とを主として含む合金の耐衝撃性を改善し、および/または同合金の電気的な特性を改善する種々の金属を用いることができる。また、溶接装置は、TIG溶接機に限らず、MIG溶接機など種々の溶接機を用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 アルミ線用端子装置
1a 予備組立体
2、42 アルミ線
3、23、33、43、63、73、83 端子部材
3a、43a、63a、73a、83a 筒状部分
3b、63b 一端
3c 他端
3d、23d、33d、43d 電極部分
3e、43e 固定部
3f 継ぎ目
3g、63g 拡散層
4、44、84 溶接金属
5、55 添加金属片
65 添加金属層
7 溶接装置
7a 溶接機
7b 治具
7c トーチ
7d 移動装置
76、76a 保護層
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、異種金属製の端子部材とを接合してなるアルミ線用端子装置およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1および特許文献2に記載のアルミ線用端子装置が知られている。この従来技術では、アルミ線と、銅製の圧着端子とを接合する構成が提案されている。このようなアルミ線用端子装置は、例えば特許文献3に記載の車両用交流発電機など、車載回転電機の電力線を接続するために有用である。
【0003】
また、アルミと銅、あるいはアルミとステンレスといった異種金属接合においては、異種金属の合金が比較的脆弱であることから、かかる脆弱性を改善するために、添加金属を付与することが提案されている。例えば、異種金属を接合する技術として、特許文献4ないし特許文献9に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−108445号公報
【特許文献2】特開2005−108608号公報
【特許文献3】特開2007−181396号公報
【特許文献4】特開2003−33865号公報
【特許文献5】特開2003−211270号公報
【特許文献6】特開2004−90093号公報
【特許文献7】特開2004−223548号公報
【特許文献8】特開2005−59091号公報
【特許文献9】特開2007−275981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載のアルミ線用端子装置によると、異種金属の接触腐食を抑制することができる。しかし、これらの技術は、アルミ線と端子部材とを抵抗溶接機または超音波溶接機によって導通接続している。このため、アルミ線の溶融量が比較的少なく、アルミ線の材料と端子部材の材料との溶融が十分に得られない。この結果、アルミ線と端子部材との間の接合部に十分な機械的強度を与えることが困難であった。また、アルミ線と端子との間の接合部に十分に低い電気抵抗を与えることが困難であった。さらには、接合初期の強度および抵抗を長期間にわたって持続することが困難であった。
【0006】
さらに、特許文献4ないし特許文献9には、板と板とを溶接する技術が開示されているが、比較的細い棒状のアルミ線を端子部材に溶接する技術は開示されない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、異種材料製の端子部材とを溶接したアルミ線用端子装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用することができる。なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
【0009】
請求項1に記載の発明は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)と、アルミ線と端子部材とを溶接により溶融させ凝固させた溶接金属(4、44、84)とを備え、端子部材は、アルミ線を囲むように設けられるとともに、溶接金属が溜められた保持プールを形成する側壁(3a、43a、63a、73a、83a)を有することを特徴とするアルミ線用端子装置という技術的手段を採用する。
【0010】
この発明によると、端子部材が提供する側壁により保持プールが形成される。この保持プールには、溶接金属が溜められる。この構成によると、溶接工程において溶接金属の流出が抑制され、アルミ線と端子部材との間に溶接金属が安定して形成される。この結果、アルミ線と端子部材とが良好に接合される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、端子部材は、側壁を提供する筒状の部分であって、その一端に溶接金属が設けられた筒状部分と、筒状部分の他端から延び出す電極部分(3d、23d、33d、43d)とを有することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の一端に溶接金属を設け、他端に電極部分を設けた端子装置が提供される。この構成は、電極部分と溶接金属とを離して配置することを可能とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、溶接金属が、筒状部分の内側面とアルミ線とに接合されていることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の内側面に溶接金属が接合されるため、広い面積を提供することができ、良好な接合を得ることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、溶接金属には、アルミ線の材料と、端子部材の材料とに加えて、さらに添加金属とが含まれていることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、添加金属により溶接金属の耐衝撃性および/または電気的特性を改善することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、端子部材は、アルミ線の材料より融点が高い材料製であることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミ線の材料よりも融点が高い材料を端子部材に用いても、溶接金属と端子部材との間に良好な接合状態を提供することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、端子部材は、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製であることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の端子部材とを溶接により接合したアルミ線用端子装置を提供することができる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)とを準備する準備工程と、端子部材を側壁(3a、43a、63a、73a、83a)として、当該側壁がアルミ線を囲むように端子部材を設けることにより、アルミ線の周囲に保持プールを形成する組立工程と、アルミ線と端子部材とを溶接により溶融させ、溶融した金属を保持プールに溜めた後、凝固させて溶接金属(4、44、84)を形成する溶接工程とを備えることを特徴とするアルミ線用端子装置の製造方法という技術的手段を採用する。この発明によると、溶接工程において溶融した金属が保持プールに溜められる。その後、溶融した金属を凝固させて溶接金属が形成される。このため、溶接工程において溶接金属の流出が抑制され、アルミ線と端子部材との間に溶接金属が安定して形成される。この結果、アルミ線と端子部材とが良好に接合される。
【0017】
請求項8に記載の発明は、組立工程では、側壁を提供する筒状部分の一端にアルミ線の先端を位置づけるとともに、筒状部分の他端に電極部分(3d、23d、33d、43d)を位置づけ、溶接工程では、筒状部分の一端において溶接金属が形成されることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、溶接金属と電極部分とを離して配置することができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、溶接工程では、筒状部分の一端を重力方向の上方へ向けて溶接金属が形成されることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の端部を保持プールとすることができる。
【0019】
請求項10に記載の発明は、組立工程では、アルミ線の先端を、筒状部分の一端より突出して位置づけることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、溶接工程において溶融されるアルミ線の量を確保することができる。
【0020】
請求項11に記載の発明は、溶接工程では、アルミ線を筒状部分の内側にまで深く溶融させるとともに、筒状部分の内側を保持プールとして、当該保持プールに溶融した金属を保持し、筒状部分の内側面とアルミ線とに接するように溶接金属を形成することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、筒状部分の内側面に溶接金属が接合されるため、広い面積を提供することができ、良好な接合を得ることができる。
【0021】
請求項12に記載の発明は、溶接工程では、アルミ線の材料と、端子の材料とに加えて、さらに添加金属が溶融され、溶接金属に加えられることを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、添加金属により溶接金属の耐衝撃性および/または電気的特性を改善することができる。
【0022】
請求項13に記載の発明は、準備工程では、アルミ線の材料より融点が高い材料により端子部材を形成することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミ線の材料よりも融点が高い材料を端子部材に用いても、溶接金属と端子部材との間に良好な接合状態を提供することができる。
【0023】
請求項14に記載の発明は、準備工程では、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の端子部材を形成することを特徴とするという技術的手段を採用する。この発明によると、アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線と、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の端子部材とを溶接により接合したアルミ線用端子装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の分解斜視図である。
【図3】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接前の斜視図である。
【図4】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接前の背面の斜視図である。
【図5】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接装置を示す斜視図である。
【図6】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【図7】第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。
【図8】本発明を適用した第2実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図9】本発明を適用した第3実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図10】本発明を適用した第4実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図11】本発明を適用した第5実施形態に係るアルミ線用端子装置の分解斜視図である。
【図12】本発明を適用した第6実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。
【図13】本発明を適用した第7実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。
【図14】本発明を適用した第8実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【図15】本発明を適用した第8実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明を適用した第1実施形態を説明する。図1は、第1実施形態に係るアルミ線用端子装置の斜視図である。
【0026】
図1において、端子装置1は、回転電機などの電気機器の電力線を電気的に接続するための接触接続式の端子である。端子装置1は、例えば、車両用回転電機の固定子巻線の電気的な接続を提供している。端子装置1のひとつの機能は、複数の固定子巻線を互いに接続する機能である。端子装置1においては、複数の固定子巻線は、溶接によって互いに接続されている。端子装置1の他のひとつの機能は、複数の固定子巻線を電気回路に接続する機能である。端子装置1は、電極部分を有し、電極部分が接触接続されることにより複数の固定子巻線を電気回路に接続する。端子装置1は、固定子巻線としてのアルミ線2と、端子部材3と、アルミ線2と端子部材3とを電気的に接続する溶接金属4とを有する。
【0027】
アルミ線2は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製である。アルミ線2は、一列に並べられた4本の素線の集合体である。このため、アルミ線2は、ほぼ長方形の断面をなしている。それぞれの素線は、ほぼ正方形の断面を有し、絶縁被膜を有する。
【0028】
端子部材3は、アルミ線2とは異なる材料製である。端子部材3は、接触によって電気的な導通を提供するために適した銅製または銅系合金製である。端子部材3は、板材を所定の形状に切断し、曲げることによって形成されている。端子部材3は、アルミ線2を囲むように設けられた筒状部分3aを有する。筒状部分3aは、アルミ線2に対応した断面形状として、長円形の断面をもつ。
【0029】
筒状部分3a内には、アルミ線2が収容されている。筒状部分3aは、アルミ線2の端部を囲むように配置されている。アルミ線2の先端部は筒状部分3aの一端3bに位置付けられている。筒状部分3aの他端3cからは、アルミ線2が延び出している。アルミ線2は、ほぼL字状に曲げられており、筒状部分3aの径方向外側を回避して延びている。このようなアルミ線2と筒状部分3aとの配置は、後述する溶接工程における筒状部分3aの固定を可能とする。
【0030】
筒状部分3aの一端3bには、溶接により溶融した後に凝固した溶接金属4が設けられている。溶接金属4は、少なくともアルミ線2と端子部材3の一部とを含む合金である。溶接金属4には、溶接金属4の機械的、および電気的特性を調整するための添加金属を含むことができる。溶接金属4は、筒状部分3aの一端3bの上にドーム状をなして設けられている。溶接金属4は、筒状部分3aの一端3bの全体を覆っている。溶接金属4は、筒状部分3aと、この筒状部分3a内に収容されたアルミ線2とを機械的に、かつ電気的に接続している。
【0031】
筒状部分3aの他端3cからは、アルミ線2が延び出すように配置されている。さらに、他端3cには、電極部分3dが設けられている。電極部分3dは、接触によって電気的な接続を提供する。電極部分3dは、板状部分と、締め付け用のボルトを挿通するためのボルト受入部とを有している。電極部分3dは、扁平な開口をなす他端3cのひとつの長辺から延び出している。電極部分3dは、筒状部分3aの軸方向に沿ってまっすぐに延び出している。筒状部分3aの一端3bに溶接金属4を設け、他端3cに電極部分3dを設けたので、両者を離して配置することができる。また、後述する溶接工程においては、電極部分3dを溶接に伴う熱や生成物から保護することができる。
【0032】
筒状部分3aのひとつの扁平面には、長円形断面をもつ筒状部分3aの断面形状を変形させた固定部3eが形成されている。固定部3eは、筒状部分3aの断面を変形させることにより、筒状部分3aの一部によりアルミ線2を締め付けて、筒状部分3aとアルミ線2とを機械的に固定している。
【0033】
筒状部分3aは、その一端3bにおいて、アルミ線2の周囲を囲むように配置されている。このため、筒状部分3aは、溶接金属4が溜められた保持プールを形成している。筒状部分3aは、保持プールを囲む側壁を提供している。溶接工程において溶融状態にあった溶接金属4は、筒状部分3aの一端3bに形成された長円形の保持プールに溜まる。やがて要求状態にあった溶接金属4は保持プール内に溜まったまま凝固する。この結果、図示のような形状の溶接金属4が得られる。
【0034】
次に、図2ないし図6を参照して、アルミ線用端子装置の製造方法を説明する。図2は、アルミ線用端子装置の溶接前の分解斜視図である。図3は、アルミ線用端子装置の溶接前の斜視図である。図4は、アルミ線用端子装置の溶接前の背面の斜視図である。図5は、アルミ線用端子装置の溶接装置を示す斜視図である。図6は、アルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【0035】
図2において、アルミ線用端子装置1の溶接前の状態、すなわち予備組立体1aの分解斜視図が図示されている。まず、準備工程において、複数の部品が準備される。アルミ線2は、複数の素線を束ね、かつ筒状部分3aへの挿入に適した形状、例えばL字型に曲げられる。端子部材3は、板材を切断し、曲げることによって筒状部分3aと電極部分3dとを持つ形状に形成される。筒状部分3aは、板材を突き合わせた継ぎ目3fを有する。添加金属片5は、筒状部分3aの一端3bから、筒状部分3aとアルミ線2との間に挿入可能な形状に形成される。ここでは、長方形の板状に形成される。添加金属片5の材料は、主として溶接金属4の脆性を改善して溶接部の強度を高めるために選定される。添加金属片5の材料は、溶接金属4の耐衝撃性および/または電気的特性を改善する材料とすることができる。添加金属片5の材料としては、銀および/またはシリコンを用いることができる。この実施形態では、シリコンアルミ(A4043)が用いられる。
【0036】
組立工程においては、アルミ線2の先端が、筒状部分3aの他端3cから、筒状部分3a内へ挿入される。添加金属片5は、一端3bから、アルミ線2と筒状部分3aとの間の隙間に差し込まれる。
【0037】
図3において、組立工程における予備組立体1aの形状が図示されている。組立工程においては、アルミ線2の先端は、一端3bから所定長さだけ突き出すように位置付けられる。アルミ線2の突き出し長さは、後述する溶接工程においてアルミ線2の先端が溶融したときに、保持プールを満たすために十分な溶融量が得られるように設定される。添加金属片5は、アルミ線2とともに溶融するようにアルミ線2の先端に並んで位置付けられる。
【0038】
さらに、組立工程には、筒状部分3aを変形させることによりアルミ線2と筒状部分3aとを機械的に仮固定するかしめ工程を含むことができる。かしめ工程においては、筒状部分3aの一方の平面に、かしめ型6が押し付けられる。かしめ型6によって、筒状部分3aには、固定部3eが形成される。固定部3eは、アルミ線2の幅方向の全体にわたって延びる帯状の凹部である。この固定部3eにより、筒状部分3aの内部が絞られ、アルミ線2に押し付けられる。
【0039】
固定部3eは、一端3bから所定距離だけ離れて設けられている。これにより、筒状部分3a内には、一端3bから固定部3eまでの範囲に比較的大きな隙間が設けられる。この隙間の少なくとも上部は、溶融状態の溶接金属4を保持する保持プールを提供する。よって、固定部3eは、保持プールの下端を規定するためにも貢献している。
【0040】
図4において、予備組立体1aの完成状態が図示されている。アルミ線2と添加金属片5とは、筒状部分3aの一端3bから突出して位置付けられている。これにより、溶接工程においてアルミ線2と添加金属片5との溶融が促進される。筒状部分3aの一端3bは、保持プールを提供するために十分な広さをもっている。筒状部分3aは、アルミ線2の周囲を囲むことによって保持プールを提供している。
【0041】
図5において、溶接工程において使用される溶接装置が図示されている。溶接装置7は、溶接機7aと、治具7bと、トーチ7cと、移動装置7dとを有する。溶接装置7は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接装置である。溶接装置7としては、種々の溶接装置を使用することができる。溶接機7aは、溶接電源およびガス供給機を備える。
【0042】
治具7bは、予備組立体1aを保持する保持器と、溶接中の熱を逃がして予備組立体1aを冷却する冷やし金と、接地電極との機能を有している。治具7bは、扁平な筒状部分3aの厚さ方向に移動可能な2つの部位を備えることができる。治具7bは、筒状部分3aをその厚さ方向に挟むことによって、筒状部分3aの外周面に接触する。治具7bは、筒状部分3aの一端3b側の一部分を突出させるようにして予備組立体1aを保持する。治具7bは、筒状部分3aの一端3bよりやや下側の部位から他端3cの近傍にかけて筒状部分3aの外周面に接触している。
【0043】
このように、筒状部分3aの一端3bを突出させ、筒状部分3aの残部に治具7bを接触させることにより、治具7bは、一端3bからやや下側の部位においては、溶接熱を多く奪う。この結果、溶接時に生じる溶融金属は、一端3bの近傍では高温を維持するが、一端3bのやや下側においては大幅に冷却される。この構成は、端子部材3に比べて融点が大幅に低いアルミ線2だけが溶融することを阻止する。その一方で、一端3bの近傍においては、溶融金属が高温を維持することを可能とする。
【0044】
また、治具7bは、筒状部分3aの一端3bと、他端3cとの間に広がるように設けられる。治具7bは、溶接工程の間中、そこに障壁を提供する。この結果、治具7bは、溶接工程において生じる熱、および溶接工程における生成物から、電極部分3dを保護する。
【0045】
トーチ7cは、アルミ線2の素線配列方向に沿って移動可能に構成されており、移動装置7dによって素線配列方向に揺動可能に構成されている。トーチ7cは、アルミ線2の先端を指向するように配置されている。移動装置7dは、トーチ7cを移動させる。
【0046】
溶接工程では、まず、予備組立体1aが治具7bに固定される。筒状部分3aの一端3bは、重力方向の上方へ向けて固定される。次に、トーチ7cがアルミ線2の上に位置づけられる。この後、溶接機7aによりガスが供給されて、遅れて溶接電流が供給され、TIG溶接が実行される。よって、一端3bを重力方向の上方に向けたまま、溶接金属4が形成される。
【0047】
アーク放電は、トーチ7cから、主としてアルミ線2に向けて生成される。さらに、トーチ7cが移動することにより、アルミ線2の全体の上をアーク放電が移動する。アーク放電による熱によって、アルミ線2と添加金属片5とが溶融する。
【0048】
溶融金属は、一端3b上に液滴状になって保持される。アルミ線2の溶融が進行すると、溶融金属は、一端3b上を覆うとともに、筒状部分3a内に溜まるようにして保持される。溶融金属は、一端3b上において端子部材3の材料と直接に接触する。このとき、端子部材3の材料の融点はアルミ線2の材料の融点より十分に高い。しかし、端子部材3の材料は、少なくとも侵食溶解によって溶融する。端子部材3の材料の侵食溶解は、アルミ線2の材料と添加金属片5の材料との溶融金属との接触部分から進行する。また、端子部材3の材料の一部は、アーク放電によって溶融することもある。この結果、溶融金属には、アルミ線2の材料と、添加金属片5の材料と、端子部材3の材料とが含まれることとなる。
【0049】
また、固定部3eにおける狭窄により、溶融金属が筒状部分3aの内部を流れ下ることが抑制される。また、治具7bによる冷却も、溶融金属が筒状部分3aの内部を流れ下ることを抑制する。この結果、溶融金属は、一端3bの近傍にだけ溜められる。
【0050】
やがてアーク放電が弱くなると、溶融金属は凝固し、溶接金属4を形成する。溶接金属4は筒状部分3aが提供する側壁で囲まれた保持プール内に溜まった液滴状である。溶接金属4は、一部ではアルミ線2と隣接し、連続的に接合されている。また、溶接金属4は、他の一部は筒状部分3aと隣接し、連続的に接合されている。
【0051】
図6において、溶接機7aにより供給される溶接電流がグラフと表によって示されている。アーク放電の初期における初期期間Tinにおいては、一定の初期電流Iinが供給される。その後、アップスロープ期間Tupにおいては、初期電流Iinからベース電流Ibsへ徐々に増加する電流が供給される。その後、ベース期間Tbsにおいては、一定のベース電流Ibsが供給される。この期間に、溶接による溶融金属の増加が進行し、合金が形成される。その後、ダウンスロープ期間Tdwにおいては、ベース電流Ibsからクレータフロー電流Icrへ徐々に減少する電流が供給される。その後、クレータフロー期間Tcrにおいては、一定のクレータフロー電流Icrが供給される。
【0052】
溶接電流の電流値と供給時間とは、筒状部分3aによって提供される保持プール内に溶融金属が所定時間の間にわたって保持されるように設定される。この所定時間は、アルミ線2の材料と、添加金属片5の材料と、端子部材3の材料とが溶融し、それらが混合されるために十分な長さとされる。さらに、電流値と上記所定時間とは、端子部材3の材料が、アルミ線2の材料の溶湯との接触によって侵食溶解される程度に設定される。このために、少なくともアップスロープ期間Tupと、ベース期間Tbsと、ダウンスロープ期間Tdwとの合計時間は、数秒以上の長さとされる。この実施形態では、ベース期間Tbsが数秒の長さとされている。また、電流値は、アーク放電によって溶融金属が飛び散ることなく、溶融金属が液滴となって保持される程度に設定される。
【0053】
図7は、アルミ線用端子装置の断面を示す模式的な断面図である。同図右半部には溶接前の予備組立体1aの形状が図示されている。左半部には溶接後の形状が図示されている。
【0054】
溶接工程では、アルミ線2と添加金属片5とが深く溶融される。これに比べて、筒状部分3aは、溶融量が少ない。アルミ線2と添加金属片5とは、筒状部分3aの内側にまで深く溶融される。この構成によると、筒状部分3aは溶融した金属の流出を抑制する。
【0055】
また、筒状部分3aの内側は保持プールの一部とされ、筒状部分3aの内側に溶融した金属が保持される。この結果、筒状部分3aの内側面においても、侵食溶解が進行する。溶融した金属は、筒状部分3aの一端3bに相当する端面から、筒状部分3aの内側面にわたる広い面積で、筒状部分3aと接触する。
【0056】
溶接金属4は、保持プールを満たす。さらに、溶接金属4は、表面張力によって筒状部分3aの一端3bからドーム状に盛り上がって形成される。この結果、溶接金属4と筒状部分3aとは、内側面を含む広い面積で接合される。また、溶接金属4は、アルミ線2の端面とも接合される。
【0057】
溶接金属4は、主としてアルミ線2が溶融することによって提供されている。その溶接金属4には、添加金属片5の材料と、端子部材3の材料とが含まれている。特に、添加金属片5の材料は、溶接金属4中に拡散している。また、端子部材3の材料も、溶接金属4に拡散している。この結果、添加金属片5の材料によって溶接金属4の脆性が改善される。また、溶接金属4とアルミ線2との接合部分が良好な接合状態となる。また、溶接金属4と筒状部分3aとの接合部分が良好な接合状態となる。さらに、溶接金属4と筒状部分3aとの接合部分には、拡散層3gが形成され、両者の間が高い機械的強度と、低い電気抵抗とをもって接合される。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明を適用した第2実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図8は、アルミ線用端子装置1の斜視図である。アルミ線用端子装置1は、電極部分23dをもつ端子部材23を備えている。電極部分23dは、筒状部分3aの軸方向に対して90度だけ曲げられている。電極部分23dは、アルミ線2の延び出し方向とは反対側へ延び出している。電極部分23dの平面部分は、筒状部分3aの軸と垂直に広がっている。
【0059】
(第3実施形態)
次に、本発明を適用した第3実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図9は、アルミ線用端子装置1の斜視図である。アルミ線用端子装置1は、電極部分33dをもつ端子部材33を備えている。電極部分33dは、筒状部分3aの軸方向に対して90度だけ曲げられるとともに、90度だけ捻られている。電極部分33dは、アルミ線2の延び出し方向とは反対側へ延び出している。電極部分33dの平面部分は、筒状部分3aの軸と平行に広がっている。
【0060】
(第4実施形態)
次に、本発明を適用した第4実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図10は、アルミ線用端子装置1の斜視図である。
【0061】
アルミ線用端子装置1は、端子部材43を有する。端子部材43は、アルミ線42を収容する筒状部分43aを備える。アルミ線42は、4本の素線を束ねて構成されている。アルミ線42のうち、筒状部分43a内に収容される部分は、破線で図示されるように方形に束ねられている。筒状部分43aは、方形に束ねられたアルミ線42を収容するように、ほぼ円筒形となっている。筒状部分43aの一端には、溶接金属44が形成されている。筒状部分43aの他端からは、電極部分43dが延び出している。電極部分43dは、筒状部分43aの軸方向に対して90度だけ曲げられている。電極部分43dは、アルミ線42の延び出し方向とは反対側へ延び出している。電極部分43dの平面部分は、筒状部分3aの軸と垂直に広がっている。筒状部分43aには、固定部43eが設けられている。固定部43eにより、アルミ線42が筒状部分43a内に固定される。筒状部分43aは、角筒状に形成されてもよい。
【0062】
(第5実施形態)
次に、本発明を適用した第5実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図11は、第5実施形態で用いる添加金属片55を示すアルミ線用端子装置の分解斜視図である。添加金属片55は、先行実施形態の添加金属片5に代えて用いられる。添加金属片55は、筒状部分3a内の対向する壁に沿って位置付けられる2つの板状部分を連結してなるU字状の板材である。この添加金属片55によると、予備組立体1aの組立て作業を容易にすることができる。また、溶接工程においては、アーク放電が添加金属片55の連結部分の上を通過する。このため、溶融金属の中に添加金属片55の材料が分散しやすくなる。
【0063】
(第6実施形態)
次に、本発明を適用した第6実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図12は、第6実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。添加金属片5に代えて、端子部材63の表面に設けられた添加金属層65を有する。端子部材63には、少なくとも筒状部分63aに添加金属層65が設けられている。添加金属層65の材料は、溶接工程において溶融し、溶接金属4に混入する。この構成においても、溶接金属4は、アルミ線2の材料と、端子部材63の材料と、添加金属層65の材料とを含むこととなり、脆性が改善される。また、この構成においても、筒状部分63aの一端63bには、拡散層63gが形成される。
【0064】
(第7実施形態)
次に、本発明を適用した第7実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図13は、第7実施形態に係るアルミ線用端子装置の断面図である。端子部材73は、少なくとも筒状部分73aに保護層76を有する。保護層76は、例えばスズメッキ層によって提供される。この実施形態では、溶接工程において、保護層76が溶融して流動化し、溶接金属4の表面を覆うように流れてゆく。この結果、溶接金属4の表面のうち、少なくとも外周縁部の表面には、保護層76の材料によって形成された薄い保護層76aが形成される。この実施形態によると、溶接金属4の表面を保護層76aによって保護することができる。
【0065】
(第8実施形態)
次に、本発明を適用した第8実施形態を説明する。先行する説明を参照することができる構成要素には、先行実施形態と同一の符号を付した。図14は、第8実施形態に係るアルミ線用端子装置1の斜視図である。図15は、第8実施形態に係るアルミ線用端子装置の溶接工程を示すグラフである。
【0066】
この実施形態では、端子部材83は、ステンレス鋼(SUS304)製である。溶接金属84は、端子部材83のステンレス鋼と、アルミ線2の材料とを含んでいる。さらに、溶接金属84には、添加金属片によって提供される添加金属が含まれている。添加金属としては、銀および/またはシリコンを用いることができる。この実施形態では、シリコンアルミ(A4043)が用いられる。
【0067】
この実施形態では、図15に図示される溶接電流が溶接機7aにより供給される。この実施形態でも、筒状部分83aによって提供される保持プールに、溶融した金属湯が少なくとも数秒にわたって保持される。これにより、アルミ線2の材料よりも融点が高い端子部材83の材料が侵食溶解も伴いながら溶融する。この結果、アルミ線2と端子部材83との間を接合する溶接金属4が形成される。しかも、溶接金属4は、アルミ線2との間でも、端子部材83との間でも良好な接合状態を提供する。
【0068】
なお、ステンレス鋼製の端子部材83は、先行する実施形態で示された形態にも用いることができる。また、ステンレス鋼に代えて、鉄製または鉄系合金製の端子部材を用いることができる。
【0069】
(他の実施形態)
本発明の技術的範囲は、上述した実施形態にのみ限定されるものではない。上述した実施形態は、本発明の技術的範囲内で、多様な変形、改良、または拡張を伴うことができる。
【0070】
例えば、添加金属は、溶接工程において溶加材として加えられてもよい。また、添加金属としては、アルミ線の材料と端子部材の材料とを主として含む合金の耐衝撃性を改善し、および/または同合金の電気的な特性を改善する種々の金属を用いることができる。また、溶接装置は、TIG溶接機に限らず、MIG溶接機など種々の溶接機を用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 アルミ線用端子装置
1a 予備組立体
2、42 アルミ線
3、23、33、43、63、73、83 端子部材
3a、43a、63a、73a、83a 筒状部分
3b、63b 一端
3c 他端
3d、23d、33d、43d 電極部分
3e、43e 固定部
3f 継ぎ目
3g、63g 拡散層
4、44、84 溶接金属
5、55 添加金属片
65 添加金属層
7 溶接装置
7a 溶接機
7b 治具
7c トーチ
7d 移動装置
76、76a 保護層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、
前記アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)と、
前記アルミ線と前記端子部材とを溶接により溶融させ凝固させた溶接金属(4、44、84)とを備え、
前記端子部材は、前記アルミ線を囲むように設けられるとともに、
前記溶接金属が溜められた保持プールを形成する側壁(3a、43a、63a、73a、83a)を有することを特徴とするアルミ線用端子装置。
【請求項2】
前記端子部材は、
前記側壁を提供する筒状の部分であって、その一端に前記溶接金属が設けられた筒状部分と、
前記筒状部分の他端から延び出す電極部分(3d、23d、33d、43d)とを有することを特徴とする請求項1に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項3】
前記溶接金属が、前記筒状部分の内側面と前記アルミ線とに接合されていることを特徴とする請求項2に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項4】
前記溶接金属には、前記アルミ線の材料と、前記端子部材の材料とに加えて、さらに添加金属とが含まれていることを特徴とする請求項2または3に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項5】
前記端子部材は、前記アルミ線の材料より融点が高い材料製であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のアルミ線用端子装置。
【請求項6】
前記端子部材は、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製であることを特徴とする請求項5に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項7】
アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、前記アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)とを準備する準備工程と、
前記端子部材を側壁(3a、43a、63a、73a、83a)として、当該側壁が前記アルミ線を囲むように前記端子部材を設けることにより、前記アルミ線の周囲に保持プールを形成する組立工程と、
前記アルミ線と前記端子部材とを溶接により溶融させ、溶融した金属を前記保持プールに溜めた後、凝固させて溶接金属(4、44、84)を形成する溶接工程とを備えることを特徴とするアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項8】
前記組立工程では、前記側壁を提供する筒状部分の一端に前記アルミ線の先端を位置づけるとともに、前記筒状部分の他端に電極部分(3d、23d、33d、43d)を位置づけ、
前記溶接工程では、前記筒状部分の一端において前記溶接金属が形成されることを特徴とする請求項7に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項9】
前記溶接工程では、前記筒状部分の一端を重力方向の上方へ向けて前記溶接金属が形成されることを特徴とする請求項8に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項10】
前記組立工程では、前記アルミ線の先端を、前記筒状部分の前記一端より突出して位置づけることを特徴とする請求項8または9に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項11】
前記溶接工程では、前記アルミ線を前記筒状部分の内側にまで深く溶融させるとともに、前記筒状部分の内側を前記保持プールとして、当該保持プールに溶融した金属を保持し、前記筒状部分の内側面と前記アルミ線とに接するように前記溶接金属を形成することを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項12】
前記溶接工程では、前記アルミ線の材料と、前記端子の材料とに加えて、さらに添加金属が溶融され、前記溶接金属に加えられることを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項13】
前記準備工程では、前記アルミ線の材料より融点が高い材料により前記端子部材を形成することを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項14】
前記準備工程では、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の前記端子部材を形成することを特徴とする請求項13に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項1】
アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、
前記アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)と、
前記アルミ線と前記端子部材とを溶接により溶融させ凝固させた溶接金属(4、44、84)とを備え、
前記端子部材は、前記アルミ線を囲むように設けられるとともに、
前記溶接金属が溜められた保持プールを形成する側壁(3a、43a、63a、73a、83a)を有することを特徴とするアルミ線用端子装置。
【請求項2】
前記端子部材は、
前記側壁を提供する筒状の部分であって、その一端に前記溶接金属が設けられた筒状部分と、
前記筒状部分の他端から延び出す電極部分(3d、23d、33d、43d)とを有することを特徴とする請求項1に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項3】
前記溶接金属が、前記筒状部分の内側面と前記アルミ線とに接合されていることを特徴とする請求項2に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項4】
前記溶接金属には、前記アルミ線の材料と、前記端子部材の材料とに加えて、さらに添加金属とが含まれていることを特徴とする請求項2または3に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項5】
前記端子部材は、前記アルミ線の材料より融点が高い材料製であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のアルミ線用端子装置。
【請求項6】
前記端子部材は、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製であることを特徴とする請求項5に記載のアルミ線用端子装置。
【請求項7】
アルミニウム製またはアルミニウム合金製のアルミ線(2、42)と、前記アルミ線とは異なる材料製の端子部材(3、23、33、43、63、73、83)とを準備する準備工程と、
前記端子部材を側壁(3a、43a、63a、73a、83a)として、当該側壁が前記アルミ線を囲むように前記端子部材を設けることにより、前記アルミ線の周囲に保持プールを形成する組立工程と、
前記アルミ線と前記端子部材とを溶接により溶融させ、溶融した金属を前記保持プールに溜めた後、凝固させて溶接金属(4、44、84)を形成する溶接工程とを備えることを特徴とするアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項8】
前記組立工程では、前記側壁を提供する筒状部分の一端に前記アルミ線の先端を位置づけるとともに、前記筒状部分の他端に電極部分(3d、23d、33d、43d)を位置づけ、
前記溶接工程では、前記筒状部分の一端において前記溶接金属が形成されることを特徴とする請求項7に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項9】
前記溶接工程では、前記筒状部分の一端を重力方向の上方へ向けて前記溶接金属が形成されることを特徴とする請求項8に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項10】
前記組立工程では、前記アルミ線の先端を、前記筒状部分の前記一端より突出して位置づけることを特徴とする請求項8または9に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項11】
前記溶接工程では、前記アルミ線を前記筒状部分の内側にまで深く溶融させるとともに、前記筒状部分の内側を前記保持プールとして、当該保持プールに溶融した金属を保持し、前記筒状部分の内側面と前記アルミ線とに接するように前記溶接金属を形成することを特徴とする請求項8から10のいずれかに記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項12】
前記溶接工程では、前記アルミ線の材料と、前記端子の材料とに加えて、さらに添加金属が溶融され、前記溶接金属に加えられることを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項13】
前記準備工程では、前記アルミ線の材料より融点が高い材料により前記端子部材を形成することを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【請求項14】
前記準備工程では、銅製、銅系合金製、鉄製または鉄系合金製の前記端子部材を形成することを特徴とする請求項13に記載のアルミ線用端子装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−251067(P2010−251067A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98293(P2009−98293)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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