説明

アレイハイブリダイゼーション用組成物及び方法

【課題】オリゴヌクレオチドの、改善されたハイブリダイゼーションアッセイ性能をもたらすための方法及び組成物を提供する。
【解決手段】標的とするオリゴヌクレオチドを、有機シリコーン系の超湿潤剤、有機硫酸塩界面活性剤、有機ポリアルコキシレート等を含む水性混合物(緩衝液)と共に、オリゴヌクレオチドプローブを結合したケイ質光学マイクロアレイに接触させるステップを含む、ハイブリダイゼーション法とそのためのキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチドのハイブリダイズを実施するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA又はRNAポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドのマイクロアレイは、分析、診断、及び治療を目的として、遺伝子の研究や評価に用いられる最先端の生物学的ツールである。マイクロアレイは、典型的には、ガラス支持体や基体上にアレイパターンにて合成又は付着された複数のオリゴマーから成る。支持体に結合しているオリゴマーは「プローブ」と呼ばれ、これは、ハイブリダイゼーション実験で「ターゲット(標的)」と呼ばれる検査対象DNA又はRNA材料サンプルと結合、即ちハイブリダイズするように機能する。表面に結合したオリゴヌクレオチドをターゲットと呼び、核酸溶液サンプルをプローブと呼ぶ、逆の定義を用いる研究者もいる。さらに研究者の中には、検査対象であるターゲットサンプルをマイクロアレイ基体に結合させて、オリゴマープローブをハイブリダイゼーション用溶液に入れる者もいる。「ターゲット」又は「プローブ」のいずれか一方が他方により評価されるべきものであればよい。従って、いずれか一方は、他方と結合することにより評価されるポリヌクレオチドの未知の混合物であり得る。これらの相互関係は全て、本開示の範囲内である。使用に関しては、ターゲットが1つ又は複数のプローブと特異的且つ高い親和性にて結合するのを促進する条件下において、アレイ表面を1つ又は複数のターゲットと接触させる。ターゲットに関しては、ハイブリダイズしたターゲットとプローブが走査装置により検出され得るように、典型的に、蛍光タグなどの光学的に検出可能な標識により標識化されている。DNAアレイ技術によって、mRNA分布の変化を分析するために、多数(例えば、数十万)のオリゴヌクレオチドを用いることが可能となる。
【0003】
DNAマイクロアレイのハイブリダイゼーションには、典型的に、適切な緩衝剤を含むターゲット溶液が用いられる。このような緩衝剤としては、多くの場合、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸リチウム、N−ラウリルサルコシド(N-lauryl sarcoside)などのアニオン性洗剤、又はTween20(登録商標)やTritonX−102(登録商標)などの非イオン性洗剤が挙げられる。既知のハイブリダイゼーション緩衝剤は、少なくともある程度の濡れ特性及び流動特性をもたらす。緩衝剤、ターゲット溶液、又はそれらの組み合わせの濡れ特性及び流動特性は、例えば、用いられるDNAマイクロアレイスライドが疎水性である場合に重要となる。適切な流動特性はまた、例えば、ターゲット溶液が時間とともにアレイ表面全体に均一に分布するのを助長するために混合若しくは撹拌することが望ましい場合に有利となり得る。このような混合は、ハイブリダイゼーションの動力学や熱力学に影響を及ぼし得る。
【0004】
一方向均一混合は、緩衝剤処理されたターゲット溶液を含むハイブリダイゼーションチャンバに、泡を導入することで達成することができる。ハイブリダイゼーションチャンバを回転させることで、泡はチャンバの縁に沿って移動し、バルク溶液の混合を助長する。DNAマイクロアレイスライドの疎水性特性、即ち、それらの濡れにくさ、一度濡れてもそれらが濡れをはじいてしまう傾向、及び他の要因のために、この泡の動きには問題のある恐れがある。例えば、スライド表面に動きにくい泡が形成され得、それによって、ターゲット溶液へのアレイの露出が不均一となり得る。場合によっては、アレイがターゲット溶液に不均一に曝されたためにハイブリダイゼーションがあまり上手く起こらなかったか又は全く起こらなかった場所には、「泡の痕跡」、即ち欠損が生じ得る。混合をはじめとする他のハイブリダイゼーション方法は、泡を用いない。しかしながら、適切な流動特性及び濡れ特性は、これらの方法においても同様に重要な役割を果たし得る。
【0005】
散発的又は不充分なハイブリダイゼーションアッセイ性能の問題は、例えば、マイクロアレイ基体上にあるフィーチャーの密度の低さや欠如、バックグラウンドの高さ、並びに視覚的に「しみだらけ」の基体として現れる。この問題は、例えば、約66℃のハイブリダイゼーション温度、約14〜18時間のハイブリダイゼーション時間による従来のハイブリダイゼーション条件を用いた場合に観測され得る。従来の緩衝溶液に関しては、中、高温における6時間足らずのインキュベーション時間において不充分な性能が観測され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、改善されたハイブリダイゼーションアッセイ性能並びに均一性を有する、ケイ質基体上のDNAマイクロアレイなどの表面とハイブリダイズさせるための、材料、条件、及び方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
概して言うと、本発明は、分子を表面に結合させるための、例えば、表面に結合した第一のオリゴヌクレオチドに第二の未結合オリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせるための、システム、組成物、及び方法に関する。
【0008】
本発明の一態様は、表面に結合した第一のオリゴヌクレオチドを第二の未結合オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる方法であって、超湿潤剤を含む水性混合物に前記表面を接触させるステップを含む方法である。
【0009】
本開示の他の態様は、超湿潤剤及び緩衝剤を含む緩衝剤濃縮物である。
【0010】
本開示のさらに他の態様は、超湿潤剤と、有機硫酸塩界面活性剤又はその塩と、水溶性有機スルホン酸又はその塩と、有機ポリアルコキシレートと、キレート剤又はその塩と、一価カチオン源と、任意選択の水性キャリアとを含んで成る混合生成物である。
【0011】
本開示のさらに別の態様は、オリゴヌクレオチド材料をハイブリダイズさせるキットであり、当該キットは、超湿潤剤を含む緩衝剤濃縮物と;ケイ質基体を有する光学マイクロアレイであって、基体表面が任意に誘導化されており且つ複数のオリゴヌクレオチドをアレイパターンのフィーチャーとして表面に結合させて有する光学マイクロアレイと;緩衝剤濃縮物を用いて、マイクロアレイに結合したオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせる方法に関する説明書とを含んで成る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の様々な実施形態を、図面がある場合にはそれを参照して詳細に説明することとする。様々な実施形態を参照するが、それらは本開示の範囲を限定するものではなく、本開示の範囲は本明細書に添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。また、本明細書に記載される実施例には限定の意はなく、単に特許請求する発明について考えられる多くの実施形態のうちのいくつかを記載したにすぎない。
【0013】
別途指示のない限り、本明細書中で用いる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本発明の実施や試験には、本明細書に記載するものと同じか又は等しい任意の方法や材料もまた用いることができ、ここでは単に好適な方法及び材料を記載するにすぎない。本明細書に記載する方法は、開示する特定のステップ順序以外の、理論上可能な任意の順序にて実施することができる。
【0014】
本明細書に記載の全ての刊行物は、引用する刊行物と関連する方法及び材料を開示、説明するために、参照することで本明細書中に取り入れることとする。本明細書において論じる刊行物は、それらの開示が本願の出願日前であるために提示したにすぎない。先の発明に基づいて、本発明が、そのような刊行物に先行する権利はないと承認するものと解釈されるべきではない。さらに、提示する公開日は、実際の公開日と異なっている可能性があり、これらはそれぞれ確認する必要があるかもしれない。
【0015】
本発明の実施には、別途記載しない限り、化学、生化学、分子生物学、及び診断法をはじめとする従来技術が用いられ、これらは当分野の技術の範囲内である。そのような技術は、文献で詳しく説明されている。
【0016】
以下の説明で用いる特定の用語に関し、以下の定義を与える。
定義
本明細書で用いるとき、以下の用語は、以下の意味を有するものとする。
【0017】
「超湿潤剤」とは、化合物、組成物、又は他の配合成分(特にターゲットやプローブ組成物)が表面全体に分布することを顕著に向上させる能力を有する化合物又は組成物を指す。「表面」には、一般に、物体や物(例えば、孔質もしくは非孔質の固体(即ち基体);液体;泡などの気体;及びそれらの組み合わせ(複合材料、発泡体、ゲル、及び似たような配合物)等)の外側境界や、類似する材料若しくは異種の材料間の界面が含まれ得る。従って、例えば、適切な湿潤液体は、適切な超湿潤剤により処理された表面(例えば、アレイ−液体界面、アレイ−泡界面、アレイ−超湿潤剤界面、超湿潤アレイ−液体界面、液体−気体界面、超湿潤気体−液体界面、及び同様の表面もしくは界面)上に広がるだろう。超湿潤表面は、例えば、固体表面が湿潤液体に反撥するのを防止する。本発明の超湿潤剤は、従来の湿潤剤と比較して、より大きな表面湿潤化特性並びに表面張力の低下をもたらす。本発明の緩衝剤調合物中の超湿潤剤は、それが接触した表面の平衡(静的)表面張力、動的表面張力、又はその両方を顕著に低下させ得る。従って、本発明の実施に有用な超湿潤剤は、例えば、経験的に見出された既知の化学的適合性、安定性、表面張力特性、及び類似の物性に基づいて、判別、選択することができる。適切な超湿潤剤は、例えば、25℃、水中濃度0.1重量%にて、約75mN/m未満の表面張力をもたらし得る。他の適切な超湿潤剤は、例えば、25℃、水中濃度0.1重量%にて、約65mN/m未満の表面張力をもたらし得る。さらに他の適切な超湿潤剤は、例えば、25℃、水中濃度0.1重量%にて、約55mN/m未満の表面張力をもたらし得る。さらに他の適切な超湿潤剤は、例えば、25℃、水中濃度0.1重量%にて、約45mN/m未満の表面張力をもたらし得る。さらに他の適切な超湿潤剤は、例えば、25℃、水中濃度0.1重量%にて、約35mN/m未満の表面張力をもたらし得る。さらに他の適切な超湿潤剤は、例えば、25℃、水中濃度0.1重量%にて、約25mN/m未満の表面張力をもたらし得る。さらに他の適切な超湿潤剤は、例えば、25℃、水中濃度0.1重量%にて、約20mN/m未満の表面張力をもたらし得る。一般的に、本発明の超湿潤剤調合物と接触した表面の表面張力が小さくなるほど、優れたハイブリダイゼーション結果及び性能信頼性がもたらされる。超湿潤剤は、本明細書に記載のように、既知であり且つ市販されている。表面張力及び界面張力の測定法や技術は当業者に既知である。
【0018】
「界面活性剤」は、一般に、洗剤などの任意の界面活性物質を指す。
【0019】
「水溶性」とは、物質の水中での分散特性を示し、例えば、1つ又は複数の温度における、物質の分子分散性、水中における物質の粒子分散性、又はその両方が包含される。
【0020】
「混合物」とは、例えば、超湿潤剤のような開示成分又は構成成分、及び緩衝剤処理された組成物の他の構成成分の、水溶液、分散液、又は二相もしくは多相の組合せを指す。本発明の緩衝剤組成物又は混合物は、好ましくは水溶液又は水性分散液である。
【0021】
「核酸」は、DNA又はRNAポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドといった高分子量物質を指す。
【0022】
「ポリヌクレオチド」とは、高分子ヌクレオチドや核酸重合体といった化合物や組成物を指す。ポリヌクレオチドは、天然化合物であっても合成化合物であってもよい。アッセイに関していう場合、ポリヌクレオチドは、約20〜5,000,000個又はそれより多くのヌクレオチドを有し得る。自然状態では、より大きなポリヌクレオチドが一般に見出される。単離状態では、ポリヌクレオチドは、約30〜50,000個又はそれより多くのヌクレオチドを、通常は約100〜20,000個ヌクレオチドを、多くの場合500〜10,000個のヌクレオチドを有し得る。ポリヌクレオチドの自然状態からの単離は、多くの場合、断片化に帰着し得る。ポリヌクレオチドには、精製若しくは未精製状態の任意の源(二本鎖若しくは一本鎖DNA(dsDNA及びssDNA);及びt−RNA、m−RNA、r−RNA、ミトコンドリアDNA及びミトコンドリアRNAをはじめとするRNA、葉緑体DNA及び葉緑体RNA、DNA/RNAハイブリッド、又はそれらの混合物、遺伝子、染色体、プラスミド、生物材料(微生物、例えば、細菌、酵母菌、ウイルス、ウイロイド、カビ、菌類、植物、動物、ヒトなど)のゲノム、及び類似の材料等)からの核酸及びその断片が包含され得る。ポリヌクレオチドは、生体サンプルなどの複雑な混合物中のわずかな断片にすぎない場合がある。同様に、鎌状赤血球貧血のヘモグロビン遺伝子、嚢胞性線維症遺伝子、発癌遺伝子、cDNAなどの遺伝子、及び類似の遺伝物質が挙げられる。
【0023】
ポリヌクレオチドには、天然に存在するヌクレオチドの1つ又は複数のヌクレオチドが変性されている、天然ポリヌクレオチドの類似体も包含される。ポリヌクレオチドには、合成された化合物(例えば、米国特許第5,948,902号やその中で引用されている文献(参照することで、その全てを本明細書中に取り入れることとする)に記載のPNA)も包含され、これは、天然のポリヌクレオチドが相補的な態様でハイブリダイズするのと類似の配列特異的な態様でハイブリダイズし得る。
【0024】
ポリヌクレオチドは、当分野で既知の手法を用いて、種々の生体材料から得ることができる。適切な場合には、例えば、制限エンドヌクレアーゼ又は他の部位特異的な化学的開裂法を用いて剪断又は処理することによって、ポリヌクレオチドを開裂させて、ターゲットヌクレオチド配列を含む断片を得ることができる。
【0025】
本発明の実施形態においては、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチドから得られた開裂断片は、少なくとも部分的に変性されるか、一本鎖化されるか、又はそれが変性もしくは一本鎖化されるように処理することができる。このような処理は、当分野において既知であり、例えば、熱処理やアルカリ処理、又は一本の鎖の酵素的消化が挙げられる。例えば、二本鎖DNA(dsDNA)を90〜100℃にて約1〜10分間加熱することで変性材料を生成することができ、一方dsDNAテンプレートから転写により生成されたRNAはすでに一本鎖である。
【0026】
「オリゴヌクレオチド」は、一般に、2つ又はそれより多くの共有結合しているヌクレオチドを指し、通常は一本鎖であり、また、通常は合成ポリヌクレオチドであるが、天然ポリヌクレオチドであってもよい。オリゴヌクレオチド(単数又は複数)の長さは、通常、少なくとも5ヌクレオチド(例えば10〜数千ヌクレオチド、2,000〜約10,000など)、好ましくは20〜250ヌクレオチド、より好ましくは20〜125ヌクレオチド、そして最も好ましくは約60ヌクレオチドの配列により構成することができる。
【0027】
オリゴヌクレオチドを調製するためには、種々の技術を用いることができる。このようなオリゴヌクレオチドは、生物学的合成又は化学合成により得ることができる。上限約100ヌクレオチドのような短い配列については、化学合成の方が、生物学的合成よりも経済的である場合が多い。経済性に加えて、化学合成は、特定の合成ステップの間に、低分子量化合物、修飾塩基、又はその両方を組み込む簡単な方法をもたらす。さらに、化学合成は、ターゲットポリヌクレオチド結合配列の長さ及び領域の選択において非常に柔軟であり得る。オリゴヌクレオチドは、市販の自動核酸合成装置で利用されるような標準方法で合成され得る。適切に修飾されたガラス若しくは樹脂上でDNAを化学合成することによって、DNAを表面に共有結合させることができる。これは、洗浄及び試料の操作性に利点をもたらし得る。より長い配列については、J. Messing (1983) Methods Enzymol., 101:20-78に記載されるように、一本鎖DNAに対してM13を用いるなど、分子生物学で用いられる標準的な複製法を用いることができる。
【0028】
オリゴヌクレオチド合成の他の方法としては、ホスホトリエステル法及びホスホジエステル法(Narangらによる、(1979) Meth. Enzymol., 68:90)、支持体上での合成(Beaucageらによる、(1981) Tetrahedron Letters, 22: 1859-1862)、ホスホルアミデート法(Caruthers, M. H.らによる、“Methods in Enzymology”、 Vol.154, pp. 287-314 (1988))、並びに“Synthesis and Applications of DNA and RNA”, S, A. Narang編、Academic Press, New York, 1987及びその中で引用される文献に記載されるものが挙げられる。ガラス表面に結合している、空間的にアドレス指定可能なオリゴヌクレオチドアレイのフォトリソグラフィ法による化学合成が、A. C. Peaseらによる、 Proc. Nat. Acad. Sci., USA, (1994) 91:5022-5026に記載されている。別途指示のない限り、用語「オリゴヌクレオチド」と「ポリヌクレオチド」は、相互に交換して用いることができる。
【0029】
「ヌクレオチド」は、自然源から得られたか、合成されたかに関わらず、核酸ポリマー(即ち、DNA及びRNA)を構成するモノマー単位を指し、これは、含窒素複素環塩基を含み、プリン又はピリミジン、五炭糖、及びリン酸エステル(又はリン酸)の誘導体である。リン酸エステルを取り除くと、残りのモノマー単位は「ヌクレオシド」である。従って、ヌクレオチドは、対応するヌクレオシドの5‘−リン酸エステルである。ヌクレオチドから含窒素塩基を取り除くと、残りのモノマー単位は「ホスホジエステル」である。別途指示のない限り、「ヌクレオチド」は、その対応するヌクレオシドとホスホジエステルを含むことができ、そして「オリゴヌクレオチド」は、その対応するオリゴヌクレオシドとオリゴホスホジエステルを含むことができる。用語「ヌクレオチド」は、例えば、修飾された塩基、糖、又はリン酸基を含む「修飾ヌクレオチド」を含み得る。修飾ヌクレオチドは、核酸ポリマーの一部として、又は修飾ヌクレオチドを核酸ポリマーに組み込む前のいずれかで、ヌクレオチドの化学修飾により生成され得る。例えば、オリゴヌクレオチドの合成に関する上記の方法を用いることができる。他のアプローチでは、修飾ヌクレオチドは、増幅反応の間に、修飾ヌクレオシド三リン酸をポリマー鎖中に組み込むことにより生成することができる。限定はしないが、修飾ヌクレオチドの例としては、ジデオキシヌクレオチド;ビオチン化、アミン修飾、アルキル化、蛍光標識化された誘導体又は類似体;及び同様の修飾体が挙げられ、また、ホスホロチオエート、ホスファイト(亜リン酸塩(エステル))、環原子修飾誘導体、並びに同様の修飾体も挙げられる。
【0030】
「ターゲット物質」又は「ターゲット(標的)」は、通常は、ポリヌクレオチド(通常はポリヌクレオチド分析物)の一部又は全体内に存在する、同定されるべきヌクレオチド配列を指す。ターゲットヌクレオチド配列の同定(素性)は、一般に、当該ターゲット物質とハイブリダイズ可能な様々なプローブ配列の調製を可能にするのに十分な程度知られている。
【0031】
ターゲット物質は、通常、約30〜5,000個又はそれより多くのヌクレオチド、好ましくは50〜1,000個のヌクレオチドを含む。ターゲット物質は、一般に、巨大分子の断片であったり、又は上記のようなポリヌクレオチドなどの分子全体とし得る。ターゲット物質中の最小ヌクレオチド数は、試料中のターゲットポリヌクレオチドの存在が、試料中のポリヌクレオチドの存在の特異的指標であることを確実にするように選択される。ターゲット物質中の最大ヌクレオチド数は、通常、複数の因子(即ち、ヌクレオチド源であるポリヌクレオチドの長さ、ポリヌクレオチドが単離中に剪断又は他のプロセスにより破壊される傾向、分析用試料を調製するのに要求される任意の手順(例えば、DNAテンプレートのRNAへの転写)の効率、及び適切な場合は、ターゲットヌクレオチド配列の検出、増幅、又はその両方の効率)に左右される。
【0032】
「核酸プローブ」は、他のオリゴヌクレオチド又はターゲット物質などのポリヌクレオチドの一部に結合させるために用いられるオリゴヌクレオチド若しくはポリヌクレオチドを指す。核酸プローブの設計及び調製は、一般に、要求される感度及び特異性、ターゲット物質の配列、そして場合によっては、ターゲット物質の特定部位の生物学的重要性に依存する。
【0033】
ヌクレオチド配列に関連していう、「ハイブリダイゼーション」、「ハイブリダイズする」、「結合する」、及び同様の用語は、本明細書では、相互に交換して用いることができる。2つのヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズする能力は、この2つの配列の相補性の程度に依存し、言い換えると、一致する相補的ヌクレオチド対の断片に依存する。所定の配列中に他の配列と相補的なヌクレオチドが多いほど、ハイブリダイゼーション条件がよりストリンジェント(厳密)となり、2つの配列の結合はより特異的となるであろう。ストリンジェンシー(厳密性)の増加は、温度の上昇、共溶媒比の増加、塩濃度の低下などにより達成される。マイクロアレイ上のプローブとターゲット物質との相補的ワトソン/クリック塩基対ハイブリダイゼーションが一般に好ましいが、非ワトソン/クリック塩基対形成もまた、ハイブリダイゼーション時に起こり得る。
【0034】
従来のハイブリダイゼーション溶液及びハイブリダイゼーション手順は、J. Sambrookによる、”Molecular Cloning: A Laboratory Manual”(前出)(参照することで本明細書に取り入れることとする)に記載されている。ハイブリダイゼーション条件には、典型的には、(1)イオン強度の高い溶液、(2)制御された温度、(3)キャリアDNA及び界面活性剤及び2価カチオンのキレート剤の存在が含まれ、これらは全て当分野で既知である。
【0035】
用語「相補的」に関しては、或る配列が他の配列と逆平行にて結合する(即ち、各配列の3‘−末端が相手の配列の5’−末端に結合し、且つ一方の配列のA、T(U)、G、及びCがそれぞれ相手の配列のT(U)、A、C、及びGとワトソン/クリック塩基対を形成する)際に2つの配列は相補的であるという。RNA配列はまた、相補的なG=U又はU=G塩基対も含み得る。非標準的、即ち非ワトソン/クリック塩基対形成もまた、ヌクレオチド相補体において起こり得、例えば、好ましくはないものの、配列は互いに平行であり、且つRNA配列中では相補的なA=CもしくはG=U塩基対が、又はDNA配列では相補的なG=TもしくはA=C塩基対が生じ得る。
【0036】
「基体」又は「基体表面」とは、孔質若しくは非孔質の水不溶性支持材料を指す。基体は、細片、板、円盤、ロッド、ビーズをはじめとする粒子、などの様々な形状のいずれかとし得る。基体表面は、疎水性若しくは親水性であり得、又は疎水性若しくは親水性になることができ、例えば、シリカ、硫酸マグネシウム、及びアルミナなどの無機粉末;天然のポリマー材料、特に、含繊維紙(例えば、ろ紙、クロマトグラフィー用紙)などのセルロース材料及びセルロース由来の材料、並びに同様の材料;ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリルアミド、架橋デキストラン、アガロース、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルブテン)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ナイロン、ポリ(酪酸ビニル)などの合成ポリマー又は修飾された天然ポリマー、並びに同様の材料;単独で又は他の材料と組み合わせて用いられるもの;Bioglassとして入手し得るガラス、セラミックス、金属、及び同様の材料を挙げることができる。リポソーム、リン脂質ベシクル、及び細胞などの、天然又は合成構築物もまた用いることができる。
【0037】
本発明に従ってアレイに用いられる一般的な基体は、Z. Guoらによる、Nucleic Acids Res, 22, 5456-65 (1994); U. Maskos, E. M. Southernによる、 Nucleic Acids Res, 20, 1679-84 (1992)、及び E. M. Southernらによる、Nucleic Acids Res, 22, 1368-73 (1994)(参照することで、それぞれを本明細書に取り入れることとする)に記載されるような、表面誘導体化ガラス若しくはシリカ、又はポリマー膜表面である。ケイ質又は金属酸化物表面の修飾において用いらてきた1つの方法は、二官能性シラン(即ち、表面との共有結合を可能にする第一の官能基(多くの場合、−SiCl又は−Si(OCHにおけるような、Si−ハロゲン又はSi−アルコキシ基である)及び表面に所望の化学修飾及び/又は物理修飾をもたらし得る第二の官能基を有するシラン)で誘導体化して、生物学的プローブアレイ用のリガンド及び/又はポリマー若しくはモノマーを共有結合又は非共有結合させることである。当分野で既知のシリル化誘導体化及び他の表面誘導体化もまた、本発明の範囲内である。例えば、Sundbergの米国特許第5,624,711号、Willisの米国特許第5,266,222号、及びFarnsworthの米国特許第5,137,765号を参照されたい(参照することで、それらを本明細書に取り入れることとする)。アレイを調製する他の手順は、Agilent Corp.に委譲されたBassらによる米国特許第6,649,348号に記載されており、これには、in situ合成法により作製されたDNAアレイが開示されている。
【0038】
基体又は表面上へのオリゴヌクレオチドの固定化は、文献により公知の、既知の技法により実施することができる。例えば、A. C. Peaseらによる、Proc, Nat. Acad. Sci., USA, 91:5022-5026 (1994); Z. Guoらによる、Nucleic Acids Res, 22, 5456-65 (1994);及び M. Schenaらによる、Science, 270, 467-70 (1995)を参照されたい(参照することで、それらを本明細書に取り入れることとする)。
【0039】
「ケイ質基体」とは、主に二酸化ケイ素からなる任意の材料を示す。シリル化ケイ質基体は、核酸プローブの結合を促進するために、当分野で既知の材料及び方法を用いて、少なくとも1つの表面をシラン化合物で誘導化したケイ質基体である。
【0040】
「泡」とは、液体中における気体の小球を指す。用語「泡」は、気泡及び蒸気泡の両方を包含する。
【0041】
タンパク質又はペプチドのセットなど、任意の事物に関していう「セット」又は「サブセット」とは、その事物のうち1つのみ、又は2つのみ、又は3つ、あるいは任意の複数個のその事物を包含し得る。
【0042】
「ペプチド混合物」は、典型的に、タンパク質を含む試料を開裂させた結果得られる、ペプチドの複雑な混合物である。
【0043】
「タンパク質サンプル」は、典型的に、タンパク質及び/又はその修飾物及び/又は加工物から成る任意の複雑な混合物であり、これには、限定はしないが、細胞試料(例えば、溶解物、懸濁液、培養プレートの付着細胞の収集物、組織の剥離物、断片、もしくは切片、腫瘍、バイオプシー試料、記録保管(archival)細胞又は組織試料、レーザーキャプチャーダイセクションした細胞、及び同様の源)、生物(例えば、細菌又は酵母菌などの微生物)、細胞内断片(例えば、核又はミトコンドリアなどの細胞内小器官、リボソーム又はゴルジなどの巨大タンパク質複合体、及び同様の源を含む)、卵、精子、胚、生体液、ウイルス、及び同様の源をはじめとする源から得ることができる。
【0044】
「ペプチド」とは、少なくとも1つのペプチド結合を含む成分を指し、Dアミノ酸及び/又はLアミノ酸のいずれも含み得る。ペプチドは、例えば、約2〜約20個のアミノ酸(例えば、約2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸)を有し得る。
【0045】
「タンパク質」は、任意のタンパク質を指し、限定はしないが、ペプチド、酵素、糖タンパク質、ホルモン、受容体、抗原、抗体、成長因子、及び類似の天然若しくは合成分子が挙げられる。タンパク質には、約20個より多いアミノ酸、約35個より多いアミノ酸残基、又は約50個より多いアミノ酸残基から構成されるものが含まれる。
【0046】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は、本明細書においては、相互に交換可能なものとして用いられる。
【0047】
「生体液」としては、限定はしないが、例えば、血液、血漿、血清、痰、尿、涙、唾液、脳脊髄液、洗浄液、白血球搬出試料(leukapheresis samples)、乳、管液、汗、リンパ液、精液、臍帯液、及び羊水、ならびに発酵ブロス及び細胞培養培地などの、細胞を培養することにより得られる液体が挙げられる。
【0048】
「複雑なタンパク質サンプル」は、例えば、約100より多い、約500より多い、約1,000より多い、約5,000より多い、約10,000より多い、約20,000より多い、約30,000より多い、約100,000より多い、又はそれより多くの異なるタンパク質を含むことができる。このようなサンプルは、天然の生物源(例えば、細胞、組織、体液、土壌、又は水試料など)から得ることができ、又は人工的に(例えば、天然及び/又は合成もしくは組換えタンパク質源の1つ又は複数のサンプルを合わせることにより)生成することができる。
【0049】
「表現形(expression)」とは、生成物の濃度、形態、又は位置を示す。例えば、「タンパク質の表現形」とは、タンパク質の濃度、形態(例えば、修飾の有無や質、開裂若しくは他の処理を施された生成物の有無や質)、又は位置のうちの1つ又は複数を示す。
【0050】
「プロテオーム」とは、典型的に、所定の時点で表される、ゲノムにより産生されるタンパク質構成成分を示す。「サブプロテオーム」とは、例えば、所与の代謝経路に関与するタンパク質、又は共通する酵素活性を有するタンパク質のセットなど、プロテオームの一部又はサブセットである。
【0051】
「遠隔地」とは、ハイブリダイゼーション及び/又はアレイ分析が行われる場所以外の場所を示す。例えば、遠隔地とは、同じ市内の別の場所(例えば、事務所、研究所など)、他の市の別の場所、他の州の別の場所、他の国の別の場所などであり得る。従って、1つの事物が別の事物から「離れて」いると示す場合、これが意味することは、2つの事物が少なくとも異なる部屋又は異なる建物にあり、そして少なくとも1マイル、10マイル、又は少なくとも100マイルは離れている可能性があるということである。
【0052】
「情報を通信する」とは、適切な通信経路(例えば、私的若しくは公共の通信網)を通じて、情報を表すデータを信号(例えば、電気、光、無線、磁気など)として伝送することを意味する。
【0053】
システムの別の構成要素と「接続されている」又は「通信する」システムのある部品は、その部品から入力を受け、かつ/又はその部品に出力を与え、システムの機能を実行する。別の部品と「接続されている」又は「通信する」ある部品は、必ずしも必要ではないが、他の部品と物理的に接続させることができる。例えば、当該部品は、他の部品に情報を通信することができ、かつ/又は他の部品から情報を受け取ることができる。「入力」又は「出力」とは、電気信号、光、データ(例えば、スペクトルデータ)、材料の形態であったり、又はシステムもしくはシステムの部品により実施される機能の形態であってもよい。「接続されている」という用語は、物理的接続も包含し、これは1つのシステムと他のシステム、又はシステムの1つの部品と他の部品との間の直接的又は間接的な接続を示す。
【0054】
事物を「送る」とは、その事物を物理的に移動させるかそれ以外か(可能な場合)に関わらず、或る場所から他の場所へと移動させる任意の手段を示し、そして少なくともデータの場合には、データを保有するメディアを物理的に移動させるかデータを通信することが包含される。
【0055】
「コンピュータシステム」とは、本発明の情報を分析するのに用いられる、ハードウェア手段、ソフトウェア手段、及びデータ記憶手段を示す。本発明のコンピュータシステムの最小限のハードウェアは、中央演算処理装置(CPU)、入力手段、出力手段、及びデータ記憶手段を備える。現在入手可能な任意のコンピュータシステムが本発明での使用に適することは、当業者であれば容易に理解できるだろう。データ記憶手段としては、上記のような本情報の記録を含む任意の製品、又はこのような製品にアクセス可能なメモリアクセス手段が挙げられる。いくつかの例では、コンピュータシステムは、1つ又は複数のワイヤレス機器を含むことができる。
【0056】
データ、プログラム、又は他の情報を、コンピュータ読み取り可能メディアに「記録する」とは、当分野で既知であるような任意の方法を用いて、情報を記憶するプロセスを意味する。記憶された情報にアクセスするのに用いられる手段に応じて、任意の従来のデータ記憶構造を選択し得る。種々のデータ処理プログラム及びフォーマットを用いることで、例えば、文書処理テキストファイル、データベースフォーマット、及び類似のフォーマットを記憶することができる。
【0057】
「プロセッサ」とは、要求される機能を実行し得る、任意のハードウェア及び/又はソフトウェアの組合せを示す。例えば、本明細書におけるプロセッサは、電子制御装置、大型汎用コンピュータ、サーバ、又はパーソナルコンピュータ(デスクトップ型もしくはポータブル型)として入手可能なもののような、プログラミング可能なデジタルマイクロプロセッサとし得る。プロセッサがプログラミング可能な場合、適切なプログラミングは、プロセッサと離れた場所から通信されるか、コンピュータープログラム製品(磁気、光、又は物理的装置のいずれに基づくかに関わらず、ポータブル型又は取り付け型のコンピュータ読み取り可能な記憶メディアなど)にあらかじめ記録することができる。例えば、磁気メディア又は光ディスクにプログラミングを格納することができ、各プロセッサと接続されている適切な読み取り機により、それに対応する場所で読み取ることが可能である。
【0058】
「データベース」とは、階層的に、リンクしたファイルを用いて、データが順序だっているかどうかを決定するデータモデルに従って、又は関係表に従って、又はシステムオペレータにより決定されたある他のモデルに従って、整理された、情報若しくは結果の集合である。
【0059】
「情報管理システム」とは、プログラム、又は一連のプログラムを示し、これは、データベースを検索したり、検索の結果同定されたデータ間の関連性を決定したりすることができる。
【0060】
「ユーザ機器の表示に関するインターフェース」又は「ユーザインターフェース」又は「グラフィカルユーザインターフェース」とは、ユーザーがシステムプロセッサ及び/又はシステムメモリ(例えば、データベース及び情報管理システムを含む)とやり取りすることを可能にする、ネットワークに接続可能なユーザ機器のスクリーン又はモニタにより表示される表示(文字及び/又は画像情報を含む)である。
【0061】
「データベースの少なくとも一部へのアクセス権を与える」とは、視覚的又は聴覚的通信手段を通じて、ユーザ(複数可)がデータベースの情報を利用できるようにすることを意味する。
【0062】
「分離」とは、ヌクレオチド又はタンパク質混合物などの物質を、同様のタンパク質分子同士又はヌクレオチドもしくはヌクレオチド混合物の相補的ハイブリダイゼーション物のようなその構成部分に部分的に又は完全に分けること、また、任意に、不純物を除去することを意味する。「分離」はまた、例えば、近接シグナル、ノイズ、又はそれらの組み合わせから、シグナルピークを分離することも意味する。
【0063】
「判定する」及び「評価する」とは、任意の態様の測定を示すのに相互に交換して用いることができ、また、或る要素が存在するかどうかを決定することも包含する。
【0064】
「決定する」、「測定する」、「判定する」、「アッセイする」、及び類似の用語は、相互に交換して用いることができ、それは、定量的決定及び定性的決定の両方を包含する。判定は、相対的であっても絶対的であってもよい。「存在を判定する」とは、あるものが存在するかしないかを決定することだけでなく、存在する或るものの量を決定することも包含する。
【0065】
本明細書並びに添付の特許請求の範囲において用いるとき、単数形は、別途明確な指示のない限り、複数形の指示対象を含むことに留意されたい。即ち、例えば、「タンパク質」という場合、複数のタンパク質を含むことができ、1つ又は複数のタンパク質及び当業者に既知のその等価物も含み得る。
【0066】
本発明の実施形態を説明する際に用いる、例えば、組成物中の構成成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、回収率又は収率、流速等の値、並びにその範囲を修飾する「約」とは、例えば、典型的な測定及び操作手順;それらの手順における不可避の誤差;方法を実行するために用いられる成分の差異等により生じ得る、数値の変動を包含する意がある。用語「約」はまた、特定の初期濃度を有する調合物又は混合物の、時間経過による変化量、並びに特定の初期濃度を有する調合物又は混合物の、混合又は加工による変化量も包含する。用語「約」で修飾されているかどうかに関わらず、本明細書に添付の特許請求の範囲は、それらの量の等価物を包含する。
【0067】
数値範囲を提示する場合、別途明確に指示のない限り、その範囲の上限と下限との間にある各値(下限の単位の10分の1にて介在する各値、及び他に記載した値又は介在する任意の値)は、本開示に包含されることを理解されたい。これらの範囲内に含まれる、より小さな範囲(副範囲)もまた、本開示に包含される。
【0068】
本発明者らは、ハイブリダイゼーション緩衝剤組成物中の高効率基体湿潤剤、即ち超湿潤剤が、本明細書に示すような多くの利益をもたらすことを見出した。ドデシル硫酸リチウム及びTritonX−102などの洗剤がハイブリダイゼーション溶液の構成成分として報告されていたが(例えば、EP1186671 A2、現在は放棄されている)、効率の高い表面湿潤化特性を有する界面活性材料を用いることで、洗剤とは対照的に優れた予期せぬ結果がもたらされた。超湿潤剤は、既知であり、一般的には、例えば、塗料、ラッカー、被膜、インク等の調合物に用いられる調合添加物として販売されている。
【0069】
本発明は、改善されたハイブリダイゼーション緩衝剤組成物を提供し、それは、
ハイブリダイゼーション組成物の、マイクロアレイ表面を濡らす能力を改善し、
より広範な条件下において、マイクロアレイ表面を濡れたままに維持し、
ハイブリダイゼーションチャンバ中を確実に動く泡の能力を改善し、
より少ない体積、より小さい厚み、又はその両方を有するハイブリダイゼーションチャンバの使用を可能にし、
ハイブリダイゼーション混合プロセス中の回転速度の範囲をより広げることを可能にし、且つ
無泡混合法の実施を可能にしたり又は改善したりすることができる。
【0070】
さらに、本発明の超湿潤剤は、低起泡性とすることができ、方法及び組成物に非泡性を有利にもたらすことができる。
【0071】
本発明の特に好ましい超湿潤剤は、水性システムとともに用いられて、接触した表面に非常に高い濡れ性及び非常に低い表面張力を付与し得るところの、水溶性又は水分散性の化合物若しくは組成物である。接触する調合物中の超湿潤剤濃度は、緩衝剤組成物の全重量(w/w)又は全体積(w/v)に基づいて、例えば、約0.01重量%(又は体積%)〜50重量%(又は体積%)、約0.05%重量%(又は体積%)〜20重量%(又は体積%)、及び約0.1重量%(又は体積%)〜10重量%(又は体積%)の範囲とし得る。
【0072】
本発明の方法及び組成物に有用な超湿潤剤としては、例えば、シリコーンポリオキシアルキレン共重合体などのシリコーン系界面活性剤が挙げられる。このような物質は、例えば、TEGO(登録商標)Wet260、TEGO(登録商標)Wet280、TEGO(登録商標)WetKL245として市販されている。TEGO(登録商標)Wet260などの、シリコーンポリオキシアルキレン共重合体とも称される超湿潤ポリエーテルシロキサン共重合体は、Tego Chemie Service, GmbH(以前のGoldschmidt Chemicals)から市販されている。超湿潤剤に用い得るシリコーン界面活性剤の他の例は、“silicone Surfactants”, R. M. Hill, ed., Marcel Dekker, 1999に記載がある。他の適切な超湿潤剤には、例えば、Zonyl(登録商標)及びNovec(登録商標)などのフッ化炭素系界面活性剤、並びにTEGO(登録商標)Wet510、Dynol(登録商標)、Surfynol(登録商標)及びEnviroGem(登録商標)界面活性剤などの炭化水素系界面活性剤が挙げられる。
【0073】
TEGO(登録商標)Wet260などの超湿潤剤は、室温では、全ての濃度において水と混和性である。しかしながら、DNAアレイハイブリダイゼーションに必要となる高温(例えば、65℃)では、TEGO(登録商標)Wet260界面活性剤は、例えば、超湿潤剤の量、緩衝剤組成物中の他の構成成分の有無等の条件に応じて、水性緩衝剤からの相分離する場合がある。ドデシル硫酸リチウム(LiDS)などの他の界面活性剤をさらに存在させることによって、この相分離を防止し得ることが見出されている。この相分離を防ぐために必要なLiDSの量は、緩衝剤組成物に加えられたTEGO(登録商標)Wet260の量の関数である。特定の実施形態においては、適切な調合物は、好ましくは、例えば、約65℃で相分離を防ぐのに十分なLiDS、又は等価の材料を含むように調合される。
【0074】
特定の実施形態では、超湿潤剤としては、有機シリコーン湿潤剤、有機フッ素系湿潤剤、ヒドロカルビル湿潤剤等の超湿潤剤、又はこれらの混合物を挙げることができる。本発明の方法及び組成物に用いられる超湿潤剤には、例えば、以下の一般式を有する特定の有機シリコーン界面活性剤が含まれる。
【0075】
【化4】

【0076】
式中、xは約1〜約10であり、yは約0〜約10であり、nは約3〜約4であり、aは約0〜約15であり、bは約0〜約14であり、但し、a及びbのうち少なくとも一方は0ではなく且つa+bは約1〜約30であり、Rは、例えば、水素、炭素数約1〜約4のアルキル基、アセチル基、及びそれらの混合物であり得る。他の類似の構造変異体(有機シリコーン共重合体骨格がさらに又は代替的にアルコキシル化されているものなど)も適している。
【0077】
具体的な超湿潤剤の例は、Uchiyamaらによる2003年1月7日付けの米国特許第6,503,413号に開示されており、例えば以下の式を有するポリアルキレンオキシドポリシロキサンが開示されている。
【0078】
【化5】

【0079】
式中、xは約1〜約8であり、nは約3〜約4であり、aは約1〜約15であり、bは約0〜約14であり、a+bは約5〜約15であり、Rは、水素、炭素数約1〜約4のアルキル基、及びアセチル基から成る群から選択される。当該ポリアルキレンポリシロキサンは、約数百〜数千(例えば、約1,000未満から10,000未満)の分子量を有し得る。
【0080】
本発明の方法及び組成物に用いるのに適するさらに他の超湿潤剤としては、例えば、Sandbrinkらによる、1999年11月16日付けの米国特許第5,985,793号に開示されるような、以下の式を有するポリアルキレンオキシドポリシロキサン及び類似のポリエーテルシロキサンコポリマーなどの特定の有機シリコーン系界面活性剤並びにフッ化炭素系界面活性剤が挙げられる。
【0081】
【化6】

【0082】
Steinbergerによる1983年4月19日付け米国特許第4,380,451号には、ポリオキシアルキレンポリシロキサン共重合体の消泡剤及び疎水性シリカを用いた、織物材料の連続染色及び同時仕上げが、ポリオキシアルキレンポリシロキサン共重合体材料を調製する方法を含めて開示されている(実施例1を参照)。Fielerらによる1988年3月1日付け米国特許第4,728,457号には、不揮発性シリコーン流体が開示されており、これらは、例えば、ポリアルキルシロキサン共重合体、ポリアリールシロキサン共重合体、ポリアルキルアリールシロキサン共重合体、又はポリエーテルシロキサン共重合体であり得る。適切な他のシリコーン流体を開示するものとしては、Geenの米国特許第2,826,551号、Drakoffの米国特許第3,964,500号、Paderの米国特許第4,364,837号、及びWoolstonの英国特許第849,433号が挙げられる。これらの特許は全て、参照することでその内容を本明細書中に取り入れることとする。Petrarch Systems, Inc.により頒布された”silicon Compounds”(1984)である。本発明に有用なシロキサン、シリコーン、及び関連する化合物の他の出所は、例えば、Gelest,Inc.であり、1995年のカタログ及びwww.gelest.comを参照されたい。本発明の組成物に有用であり得るさらに他のシリコーン材料としては、Spitzerらによる米国特許第4,152,416号、及びNoll, Walterによる”Chemistry and Technology of silicones”, New York: Academic Press 1968をはじめとする、Petrarchらにより記載されるシリコーンガムが挙げられる。Beckmeyerらによる米国特許第5,156,834号では、ポリアルキルシロキサン共重合体、ポリアルキルアリールシロキサン共重合体、又はポリエーテルシロキサン共重合体などの不揮発性皮膚軟化剤を含む制汗組成物が開示されている。これらのシロキサンは、例えば、General Electric Companyから、Vicasilシリーズとして、また、Dow CorningからDow Corning200シリーズとして入手可能である。EP−A 633 018号には、ポリオキシアルキレンポリジメチルシロキサンの使用が開示されており、類似の共重合体は、例えば、白金含有触媒の存在下におけるヒドロシリル化により調製され得る。J. B. Plumb 及び J. H. Athertonによる”Block Copolymers”; D. C. Allport 及び W. H. Janesによる、 Applied Science Publishers Ltd., London, 1973, page 305-325もまた参照されたい。長鎖炭化水素基だけでなくポリオキシアルキレン基も直鎖ポリシロキサンに結合している共重合体が既知である。このような化合物の合成は、米国特許第3,234,252号、米国特許第4,047,958号、米国特許第4,427,958号、米国特許第3,427,271号、及び米国特許第2,846,458号に記載がある。合成は、例えば、炭素数6〜18のオレフィンと、オレフィン性不飽和アルコールのポリオキシアルキレンエーテル(例えば、アリルアルコールのポリオキシアルキレンエーテル)とを、SiH基を有するポリジオルガノシロキサンに加えることにより実施することができ、添加は白金含有触媒の存在下で行われる。エトキシル化有機シリコーン湿潤剤もまた、米国特許第5,985,793号、米国特許第4,160,776号、米国特許第4,226,794号、及び米国特許第4,337,168号に開示されており、参照することでそれらの内容を本明細書中に取り入れることとする。
【0083】
適切なポリアルキレンオキシドポリシロキサン界面活性剤のさらに他の例は、Witco Corporationから入手可能な商品名Silwet(登録商標)L−77、Silwet(登録商標)L−7280、及びSilwet(登録商標)L−7608、並びにDow Corning Corporationから入手可能なDCQ2−5211及びSylgard(登録商標)309である。
【0084】
フッ化炭素系超湿潤剤には、例えば、以下の式a)〜c)の有機フッ素系化合物又はそれらの塩、また、化合物a)、b)又はc)が重合性である場合にはそれらの重合体、並びにそれらの混合物をはじめとする類似の若しくは等価の化合物を用いることができる:
a){(C2n+1−Cn‘2n’−SO−R}
式中、mは約1〜3であり、nは約3〜約20であり、n‘は約0〜約20であり、pは1〜2であり、xは約1〜約100であり、Rは水素、(C1−10)飽和アルキル、又は(C2−10)不飽和アルキルである。
【0085】
b)(C2n+1−Cn‘2n’−R
式中、Rは、
−H、
−Cl、−Br、−Iなどのハロ
−OH、
(C1−10)アルキル、
(C2−10)不飽和アルキル、
−CH−O−C(=O)−(C1−20)アルキル、
−CH−O−C(=O)−(C2−20)不飽和アルキル、
−O−P(=O)(OH)
−O−P(=O)(−OH)−、
−O−P(=O)(OH)(−O−CH−CH−)−OH、
−COH、
(+)N(R−O(−)
(+)N(R−CH−COH、
−O−C(=O)−CH−CH(SOH)−C(=O)−O−、
−O(CH−CH−O)−H、
−S−CH−CH−C(=O)−OH、又は
(C1−10)アルキル−C(=O)−O−CH−CH(+)N(R−(CH1−4−COH、
から選択される一価又は二価の基であり、
各Rは、個々独立して、水素、又は(C1−10)アルキルであり、
mは、1〜2であり、
nは、約1〜約20であり、
n‘は、約1〜約20であり、
oは、約1〜約10であり、
pは、1〜2であり、そして
yは、0〜約20である。
c)
【0086】
【化7】

【0087】
式中、Rは、式−C2n+1の一価の基であり、
nは、約1〜約20であり、そして
xは、1〜100である。
【0088】
上記の式a)の化合物は、例えば、Novec(商品名)フルオロ界面活性剤として既知であり、3M Companyから入手可能である。上記の式b)の化合物は、例えば、Mason Chemical Companyから入手可能なMarsurfFS−フルオロ界面活性剤及びDu Pont Companyから入手可能なZonyl(登録商標)及びForafac(登録商標)フッ化界面活性剤又は中間体として既知である。上記の式c)の化合物は、PolyFox製品として既知であり、OMNOVA Solutions, Inc.(www.omnova.com)から入手可能である。
【0089】
式C2n+1−SORの好ましい化合物としては、例えば、非イオン性及びアニオン性スルホニル化合物やそれらの重合体があり、パーフルオロブタンスルホネートのようなこれらの製品は、Novec(商品名)フルオロ界面活性剤(3M Fluorad(商品名)フルオロ界面活性剤の後継)として3M Companyから市販されている。式C2n+1−SORにおいて、C2n+1の炭素鎖及びRに選択される(C1−10)アルキルや(C2−10)不飽和アルキルは、開示の他のアルキル置換基と同様に、直鎖、分岐鎖、環状、又はそれらの混合物であり得る。具体的なNovec(商品名)超湿潤材料としては、非イオン性重合体フルオロ界面活性剤製品のFC−4432及びFC−4430が挙げられる。
【0090】
本発明のさらに他の超湿潤剤として、例えば、以下の式に示すアルコキシル化ヒドロカルビル化合物などの炭化水素系湿潤剤若しくはヒドロカルビル湿潤剤がある:
【0091】
【化8】

【0092】
式中、Rは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R〜Rは、個々独立して、水素、又は炭素数3〜10のアルキル基であり、そしてm、n、o、及びpは、0〜30であり且つその合計は3〜約60である。エチレンオキシド付加物(EO)を表すm個の単位及びo個の単位、並びにプロピレンオキシド付加物(PO)を表すn個の単位及びp個の単位から構成されるアルコキシル化共重合体単位は、m+n又はo+pの一方又は両方が存在する(ゼロでない)場合は、例えば、ランダムEO−PO混合物、ブロックEO−PO混合物、勾配(gradient)EO−PO混合物、交番(交互、alternating)EO−PO混合物、セグメント化(segmented)EO−PO混合物、及び類似の組合せ、又はそれらの混合物とし得る。m及びn、並びにo及びpで表されるアルコキシル化共重合体単位は、−O−(EO)−(PO)−R又は−O(PO)−(EO)−R等のように任意の順序とし得る。Air Productsに委譲された米国特許第6,313,182号には、例えば、Air Products CorporationからDynoI(商品名)604などのDynoI(商品名)界面活性剤として入手可能なアセチレングリコール化合物(代替的にエトキシル化アセチレンジオール化合物と称される)、並びにSurfynol(登録商標)及びEnviroGem(登録商標)AE界面活性剤のようなエトキシル化及びエトキシル化/プロポキシル化製品などの、アセチレンジオールエチレンオキシド/プロピレンオキシド付加物が開示されている。以下の米国特許明細書にもまた、界面活性剤として種々のアセチレンアルコール及びそれらのエトキシル化物が記載されている:米国特許第3,268,593号(第三級アセチレンアルコールのエチレンオキシド付加物);米国特許第4,117,249(アセチレングリコールの、3〜30モルのエチレンオキシド(EO)付加物);及び米国特許第5,650,543号。具体的なアセチレンジオール−エチレンオキシド付加物としては、例えば、3−メチル−1−ノニン(nonyn)−3−オール;7,10−ジメチル−8−ヘキサデシン−7,10−ジオール;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、及び4,7−ジメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
【0093】
本発明のさらに他の超湿潤剤には、所望の濡れ特性及びハイブリダイゼーション結果をもたらし得る任意の他の同様な、又は任意の他の適切な材料を用いることができ、例えば、Air Products Corp.から市販されているAD01などのEnviroGem(商品名)消泡湿潤剤があるが、これは2つの疎水構造と2つの親水構造を有する(即ち、二量体界面活性剤又はジェミニ(双子)界面活性剤である)。
【0094】
本発明はまた、特定の実施形態において、表面を修飾する方法、例えば、表面(例えば、修飾ケイ質基体)に結合した第一のオリゴヌクレオチドのマイクロアレイを、第二の未結合オリゴヌクレオチド材料とハイブリダイズさせる方法を提供し、当該方法は、マイクロアレイを、超湿潤剤を含む水性混合物と接触させることを包含する。特定の実施形態において、ハイブリダイズさせる方法は、第二の未結合オリゴヌクレオチド材料とハイブリダイゼーション又は接触させる前後に、調整調合物(表面の濡れ特性を整えるための調合物)として超湿潤剤を含む水性混合物を用いることにより完遂することができる。
【0095】
特定の実施形態では、ハイブリダイズさせる方法は、例えば、第二のオリゴヌクレオチド材料を含む水性混合物を用いて完遂することができる。特定の実施形態では、ハイブリダイズさせる方法はまた、超湿潤剤及び第二のオリゴヌクレオチド材料を含む水性混合物とマイクロアレイとの二次的な接触をさらに含むことができる。二次的な接触は、例えば、所定のゲノム内容物に関して試料の凝集スクリーニング(aggregate screening)を実施するために、又は試料源のゲノム特性の経時変化を検出若しくは測定するために、同一又は異なる水性混合物及びオリゴヌクレオチド材料とマイクロアレイとの1回又はそれより多い(例えば複数回の)接触工程を包含し得る。
【0096】
超湿潤剤を含む水性混合物の緩衝容量及びpHは、例えば、約5〜約9、約5〜約8、約5〜約7、約5〜約6等のpH値(特定の実施形態では、約5.5〜約6.7など)とし得る。接触は、当業者に既知の様々な温度、例えば、約30℃〜約70℃、約40℃〜約70℃、約50℃〜約70℃、約50℃〜約65℃、約55℃〜約65℃等の温度で実施することができる。
【0097】
好ましい実施形態では、接触工程は、発散する泡、例えば、回転する気泡のような動く気泡又は崩壊する気泡を与える装置を用いて実行することができる(例えば、Schembriの米国特許第6,513,968号、及び米国特許第6,186,659号を参照)。これらの特許は、流体のフィルムを混合するための、及び、例えば、泡でアレイハイブリダイゼーションを行うための方法及び装置を開示する。Bedilion et.al.の米国特許第6,613,529号、及び米国特許第6,420,114号もまた、泡混合法を開示する。
【0098】
特定の実施形態では、本発明の方法及び組成物は、水性混合物中に、超湿潤剤のほかに、さらなる性能向上成分、例えば、1種又は複数の有機スルホン酸、有機硫酸塩界面活性剤、有機ポリアルコキシレート、一価カチオン源、キレート剤、又はそれらの混合物を含み得る。特定の実施形態では、本発明の組成物は、超湿潤剤及び緩衝剤成分を含んで成る緩衝剤濃縮物を含む。緩衝剤濃縮物は、有機化合物、無機化合物、又はそれらの混合物などの、本明細書に示す任意の適切な緩衝剤を含むことができる。
【0099】
緩衝剤濃縮物は、例えば、
一価カチオン源、
水溶性有機スルホン酸又はその塩、
キレート剤又はその塩、
有機硫酸塩界面活性剤又はその塩、
有機ポリアルコキシレート、
水性キャリア、
又はそれらの混合物
のうちの1つ又は複数を含むことができる。
【0100】
一価カチオン源には、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムハロゲン化物塩などのアルカリ金属ハロゲン化物塩(例えば、LiCl)及び類似の塩、又はそれらの混合物を用いることができる。有機スルホン酸には、例えば、MES、MOPSなどのモルホリノ置換アルキルスルホン酸、及び類似の物質を用いることができる。キレート剤には、例えば、EDTAなどの二価カチオンキレート剤、及び類似のキレート剤、又はそれらの混合物を用いることができる。有機硫酸塩界面活性剤には、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム又はドデシル硫酸リチウム(LiDS)(ラウリル硫酸塩、n−C1225−OSO)などの(C−C16)アルキル硫酸塩等の界面活性剤、又はそれらの混合物を用いることができる。有機ポリアルコキシレートには、例えば、TritonX−100、4−オクチルフェノールポリエトキシレート(分子式:C1422O(CO)H、式中1分子当たりのエチレンオキシド単位の平均数は約9又は10(CASNo:9002−93−1))などのアルコキシル化アルキルフェノール等の物質、又はそれらの混合物を用いることができる。
【0101】
超湿潤剤は、濃縮物全体のうち約0.05〜約50重量%にて存在させ得る。水溶性有機スルホン酸は、濃縮物全体のうち約0.01〜約10重量%にて存在させ得る。有機硫酸塩界面活性剤は、例えば、濃縮物全体のうち約0.1〜約50重量%にて存在させ得る。有機ポリアルコキシレートは、例えば、濃縮物全体のうち約0.1〜約50重量%にて存在させ得る。キレート剤は、例えば、濃縮物全体のうち、約0.01〜約10重量%にて存在させ得る。一価カチオン源は、例えば、濃縮物全体のうち約0.01〜約50重量%にて存在させ得る。水などの水性キャリアは、例えば、濃縮物中に存在させないか若しくは最小限の量とするか、又は都合の良い貯蔵濃度もしくは使用濃度(例えば、1×使用濃度、及び2×、3×、4×、5×等のn×濃度(ここでnは整数又はその分数である))を達成するような緩衝剤濃縮物や組成物の残部とすることができる。特定の実施形態において、水性キャリアは、他の成分、例えば、溶解した尿素、ホルムアミド、及び類似の化合物、又は共溶媒を含み得る。特定の実施形態では、当該キャリアは、代替的に非水性媒体、例えば、ホルムアミド、DMSO等の液体を含み得る。本発明の組成物は、特定の実施形態において、水を含む水性キャリアを含むことができる。用いられる水は、蒸留水、脱イオン水、又は水道水とし得る。本組成物中の水の量は、組成物の具体的用途に応じて変更することができる。調合物の構成成分は、合計して100重量%又は100重量部とし得る。緩衝剤濃縮物のpHは、例えば、約4〜10とすることができ、用いられる組成物は、本明細書に示す任意の適切な中間pHを有し得る。
【0102】
本発明は、例えば、高速大量処理の分析、治療、及び診断用途において、核酸マイクロアレイを、用いられる他の核酸材料とハイブリダイズさせる方法及び組成物を提供する。この方法は、例えば、高いハイブリダイゼーション温度で長時間のアッセイを行うために、ケイ質基体及び表面誘導化ケイ質基体と有利に適合性であるハイブリダイゼーション条件を用いる。特定の実施形態では、基体は重合体コーティングされた表面のように疎水性である(例えば、Agilent Corp.に委譲された、Lefkowitz et.al.の米国特許第6,444,268号及び米国特許第6,258,454号を参照。これらの特許は、中程度に疎水性の表面を有するDNAアレイ用基体を製造するためのシラン化合物及び表面修飾を開示する)。本発明は、例えば、シラン誘導化ケイ質基体(「シリル化ケイ質」基体)上で特に良く機能するハイブリダイゼーション組成物及び条件を提供する。本発明のハイブリダイゼーション条件には、溶液pH、緩衝剤の種類、塩組成、界面活性剤組成、温度、及び時間が含まれ得る。本発明は、誘導化ケイ質表面の完全性及び安定性を維持しつつ、ターゲット核酸の高感度且つ選択的検出を可能とする。特定の実施形態では、本発明の方法は、ターゲット物質をハイブリダイズするのに用いられる時間にわたって、約55℃〜約70℃のような高いハイブリダイゼーション温度を採用することで、誘導化ケイ質基体上でアッセイを準備若しくは実施する際の基体表面の濡れを向上することにより、基体受容性に関する問題を解決する。本発明の方法はまた、ケイ質基体の誘導化表面の完全性を維持することにより、優れたハイブリダイゼーションアッセイ性能をもたらす。
【0103】
本発明の一態様では、表面誘導化ケイ質基体上で核酸マイクロアレイを他の核酸材料とハイブリダイズさせる方法が提供される。この方法は、ハイブリダイゼーション溶液を5〜7の間のpHに維持するステップ、及び、pHの維持されたハイブリダイゼーション緩衝剤組成物中において、約55℃〜約70℃の範囲のハイブリダイゼーション温度にて、核酸マイクロアレイを核酸材料とともにインキュベートするステップを包含する。ハイブリダイズさせる方法の一実施形態においては、ハイブリダイゼーション溶液のpHは、緩衝剤の緩衝容量がpH5.5〜6.7であり且つ一価カチオンを含む場合、5.5〜6.7に維持される。好ましくは、pHは、pH6.0〜6.6の間に維持され、緩衝剤はMES又はMOPSの1種又は複数から選択され、そして一価カチオンは好ましくはLiCl、NaCl、又はKClの1種又は複数から選択される塩によりもたらされる。ハイブリダイゼーション温度は、好ましくは約60℃〜66℃の範囲とし得る。他の実施形態では、ハイブリダイゼーション緩衝剤組成物はさらに、1種又は複数のキレート化剤及び界面活性剤を含み得る。
【0104】
特定の実施形態では、ハイブリダイゼーションアッセイは、少なくともハイブリダイゼーション実験のタイプ及び複雑さに応じて、約2時間未満から、48時間より長い場合まで実施し得る。当分野での表面誘導化ケイ質基体の溶解問題は、高いハイブリダイゼーション温度にて完了するのに約8時間以上かかるハイブリダイゼーションの場合により顕著である。「完了する」とは、所望量のターゲット核酸物質のハイブリダイゼーションが達成されることを意味し、これはユーザ及びターゲット物質の両方に依存する。本発明の方法及び組成物は、従来のハイブリダイゼーションパラメータでは失敗する場合(例えば、約6時間以上のハイブリダイゼーション時間)においても、良く機能する。本発明の方法及び組成物は、完了するのに少なくとも24時間かかるハイブリダイゼーションにおいて特に良い性能を示し、さらに、約12時間から少なくとも24時間の間かかるハイブリダイゼーションにおいてより良い性能を示す。
【0105】
本発明の別の態様では、シリル化ケイ質基体に結合させたオリゴヌクレオチドマイクロアレイを、別のオリゴヌクレオチド材料とハイブリダイズさせる方法が提供される。当該ハイブリダイズさせる方法は、オリゴヌクレオチド材料を、pH5.5〜6.7のpHを有し且つ緩衝剤と一価カチオンを含むハイブリダイゼーション緩衝剤組成物と組み合わせるステップ、及び約55℃〜約70℃の範囲のハイブリダイゼーション温度にて、緩衝剤組成物中の材料をオリゴヌクレオチドマイクロアレイと共にインキュベートしてオリゴヌクレオチド材料をハイブリダイズさせるステップを包含する。インキュベーション時間は、例えば、約2時間未満から48時間より長い時間までの範囲とし得る。この方法は、シリル化ケイ質基体を用いた場合に、高温で、従来のハイブリダイゼーションパラメータでは失敗する場合に特に有用である。好ましくは、緩衝剤は、緩衝容量がpH5.5〜6.7のpH範囲内である、1種又は複数のMES若しくはMOPSなどの有機スルホン酸から選択することができる。一価カチオンは、好ましくは1種又は複数のLiCl、NaCl、KCl、及びそれらの混合物から選択されるアルカリハロゲン化物などの塩により提供し得る。さらに、ハイブリダイゼーション温度は、好ましくは、約60℃〜66℃の範囲である。より好ましくは、ハイブリダイゼーション緩衝剤組成物はさらに、1種又は複数のキレート剤及び界面活性剤を含み得る。
【0106】
本発明の方法及び組成物は、例えば、ケイ質基体の表面誘導化の劣化並びにさらなる基体のエッチング(両方とも、高温での核酸プローブとターゲット物質との間のハイブリダイゼーション結果に影響を及ぼし得る)を最小限とすることにより、当分野における問題を克服することができる。さらに、本発明の方法及び組成物は、従来のハイブリダイゼーションアッセイで用いられるシグナル標識システムのシグナル強度に影響を及ぼさない。本発明のハイブリダイゼーション条件及び方法は、誘導化された従来のケイ質基体と反応する恐れがあり且つハイブリダイゼーション結果に影響を及ぼし得る高いpH(例えば、6.8以上のpH)緩衝容量を有する従来の緩衝剤組成物(限定はしないが、SSC、SSPE、Tris−Cl等)を用いて、例えば、約55℃より高い高温で、約6時間より長いハイブリダイゼーション時間にて実施されるDNA若しくはRNAマイクロアレイアッセイで特に有用である。
【0107】
本発明のさらに別の態様では、ケイ質基体の誘導化表面上のオリゴヌクレオチドマイクロアレイ及び当該マイクロアレイを用いてハイブリダイゼーションアッセイを行うための説明書を含んで成るキットが提供される。説明書には、本発明の方法、組成物、又はその両方が含まれる。一実施形態では、キットはさらに、超湿潤剤を含み且つ好ましくは、例えばpH5.5〜6.7の間に維持されたpHを有し、好ましくは、そのpH範囲で有用な緩衝容量を有する緩衝剤を用いる、ハイブリダイゼーション組成物を含む。
【0108】
本発明の組成物及び調製法を用いることで、特異的非ハイブリダイズ化アレイ又は特異的ハイブリダイズ化アレイのような、カスタム、即ちオーダーメードアレイ製品を調製することができる。
【0109】
本発明の緩衝剤組成物はまた、適切な容器、ディスペンサ、又はそれらの組合せに収容された組成物を含む製品に用いることができる。好ましくは、当該製品は、アレイハイブリダイゼーション等の用途における組成物の使用法を記載した説明書が付加されており、当該説明書には、例えば、組成物の使用形態、量、又はその両方、及び好ましい使用法が含まれる。説明書はできるだけ簡単で明瞭であることが望ましいため、絵や記号を用いることが望ましい。従って、説明書には、1つ又は複数の記載方法に従って緩衝剤濃縮物又は実用的緩衝剤を調製する説明が含まれ得る。説明書にはまた、緩衝剤濃縮物又は実用的緩衝剤を用いてアレイを調製したり、又はアレイをハイブリダイズさせることに関する説明が含まれる。「付加されている」とは、製品の消費者や使用者に説明書を伝えるべく、説明書が、容器又は容器ラベルに直接印刷されているか、又は分離形態(限定はしないが、冊子、印刷公告、電子広告、口頭でのやり取り、及び類似の表現が挙げられる)で存在するかのいずれかであることを示す。説明には、好ましくは有効量の組成物を、好ましくは実用的緩衝剤をアレイと接触させることにより適用して、示した利益(例えば、アレイの形成又はアレイハイブリダイゼーション)をもたらすための説明が含まれる。
【0110】
組成物は、ボトル(特に計量キャップ(measuring closure)を備えたボトル)に詰めることができる。計量キャップは、特に濃縮組成物をより希釈した溶液又は混合物へと分配する場合に、適量の組成物を分配するための簡便な方法をもたらす。好ましくは、ボトルは、ドレインバック(戻り、drain-back)口も備えており、これによって、組成物をより簡単に、且つ廃棄や漏出をより少なくして分配することが可能になる。適切なボトルの非限定例は、Ohrenの米国特許第4,666,065号、Muckenfuhsらの米国特許第4,696,416号、及びCappelらの米国特許第4,981,239号に詳細に記載されている。
【0111】
具体的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本開示の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更をなすことができ、且つ等価物で置き換えてもよいことが当業者には理解されよう。また、特定の、状況、材料、対象の組成物、プロセス、プロセスステップ(単数又は複数)を、本開示の目的、趣旨、及び範囲に適合させるために、多くの改良をなすことができる。このような改良は全て、本明細書に添付の特許請求の範囲の範囲内にあるものとする。
材料及び方法
緩衝剤
本発明の超湿潤剤を含む緩衝剤組成物は、好ましくは、緩衝剤を含み、それによりさらなる利益がもたらされる。例えば、低分子量のポリアルキレンオキシドポリシロキサン界面活性剤は、特に組成物のpHが注意深く制御されていない場合には、不安定であり得る。本組成物のpHは、約4〜約10、好ましくは約5〜約9.5、より好ましくは約6〜約9の範囲内に制御することができる。緩衝剤は、約4〜約10、好ましくは約5〜約9.5、より好ましくは約6〜約9といった、少なくとも1つのpK値及び/又はpK値を有する任意の有機又は無機の酸若しくは塩基並びにそれらのアルカリ金属塩とし得る。好ましくは、緩衝剤は、約6〜約9の少なくとも1つのpK値を有する、有機酸及び/又は無機酸のアルカリ金属塩である。緩衝剤は1つより多いpK値及び/又はpK値を有し得る。緩衝剤は、好ましくは、上記の範囲内に、そのpK値及び/又はpK値のうち少なくとも1つを有する。
【0112】
適切な緩衝剤としては、例えば、アクリジン、フェニルアラニン、アロトレオニン、n−アミルアミン、アニリン、n−アリルアニリン、4−ブロモアニリン、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、3−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、3,5−ジブロモアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N−エチルアニリン、4−フルオロアニリン、N−メチルアニリン、4−メチルチオアニリン、3−スルホン酸アニリン、4−スルホン酸アニリン、p−アニシジン、アルギニン、アスパラギン、グリシルアスパラギン、DL−アスパラギン酸、アジリジン、2−アミノエチルベンゼン、ベンジジン、ベンズイミダゾール、2−エチルベンズイミダゾール、2−メチルベンズイミダゾール、2−フェニルベンズイミダゾール、2−アミノ安息香酸、4−アミノ安息香酸、ベンジルアミン、2−アミノビフェニル、ブルシン、1,4−ジアミノブタン、t−ブチルアミン4−アミノ酪酸、グリシル−2−アミノ−n−酪酸、カコジル酸、β−クロロトリエチルアンモニウム−n−酪酸、コデイン、シクロヘキシルアミン、シスチン、n−デシルアミン、ジエチルアミン、n−ドデカンアミン、1−エフェドリン、1−アミノ−3−メトキシエタン、1,2−ビスメチルアミノエタン、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸、1−グルタミン酸、α−モノエチルグルタミン酸、1−グルタミン、1−グルタチオン、グリシン、n−アセチルグリシン、ジメチルグリシン、グリシルグリシルグリシン、ロイシルグリシン、メチルグリシン、フェニルグリシン、N−n−プロピルグリシン、テトラグリシルグリシン、グリシルセリン、ヘキサデカンアミン、1−アミノヘプタン、2−アミノヘプタン、2−アミノヘキサン酸、DL−ヒスチジン、β−アラニルヒスチジン、イミダゾール、1−アミノインダン、2−アミノイソ酪酸、イソキノリン、1−アミノイソキノリン、7−ヒドロキシイソキノリン、1−ロイシン、グリシルロイシン、メチオニン、メチルアミン、モルヒネ、モルホリン、1−アミノ−6−ヒドロキシナフタレン、ジメチルアミノナフタレン、α−ナフチルアミン、β−ナフチルアミン、n−メチル−α−ナフチルアミン、cis−ネオボルニルアミン、ニコチン、n−ノニルアミン、オクタデカンアミン、オクチルアミン、オルニチン、パパベリン、3−アミノペンタン、吉草酸、スペルミジン、フェナントリジン、1,10−フェナントロリン、2−エトキシアニリン、3−エトキシアニリン、4−エトキシアニリン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ピロカルピン、ピペラジン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1−n−ブチルピペリジン、1,2−ジメチルピペリジン、1−エチルピペリジン、1−メチルピペリジン、プロリン、ヒドロキシプロリン、1−アミノ−2,2−ジメチルプロパン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2,3−トリアミノプロパン、3−アミノプロパン酸、プテリジン、2−アミノ−4,6−ジヒドロキシプテリジン、2−アミノ−4−ヒドロキシプテリジン、6−クロロプテリジン、6−ヒドロキシ−4−メチルプテリジン、プリン、6−アミノプリン、2−ジメチルアミノプリン、8−ヒドロキシプリン、2−メチルピラジン、2−アミノ−4,6−ジメチルピリミジン、ピリジン、2−アルドキシムピリジン、2−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2−ベンジルピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,3−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジン、2−エチルピリジン、メトキシピリジン、4−メチルアミノピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、1,2−ジメチルピロリジン、n−メチルピロリジン、5−ヒドロキシキナゾリン、キニーネ、3−キノリノール、8−キノリノール、8−ヒドロキシ−5−スルホキノリン、6−メトキシキノリン、2−メチルキノリン、4−メチルキノリン、5−メチルキノリン、セリン、ストリキニーネ、タウリン、ミリスチルアミン、2−アミノチアゾール、スレオニン、o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン、2,4,6−トリアミノ−1,2,3−トリアジン、トリデカンアミン、トリメチルアミン、トリプトファン、チロシン、チロシンアミド、バリン、それらの塩、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0113】
他の適切な緩衝剤としては、例えば、酢酸、アセト酢酸、アクリル酸、アジプアミド酸、アジピン酸、d−アラニン、アラントイン酸、アロキサン酸、α−アミノ酢酸、o−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、m−アミノベンゾスルホン酸、p−アミノベンゾスルホン酸、アニス酸、o−β−アニシルプロピオン酸、m−β−プロピオン酸、p−β−プロピオン酸、アスコルビン酸、DL−アスパラギン酸、バルビツール酸、安息香酸、m−ブロモ安息香酸、n−酪酸、イソ酪酸、カコジル酸、n−カプロン酸、イソカプロン酸、m−クロロ安息香酸、p−クロロ安息香酸、β−クロロ酪酸、γ−クロロ酪酸、o−クロロ桂皮酸、m−クロロ桂皮酸、p−クロロ桂皮酸、o−クロロフェニル酢酸、m−クロロフェニル酢酸、p−クロロフェニル酢酸、β−(o−クロロフェニル)プロピオン酸、β−(m−クロロフェニル)プロピオン酸、β−(p−クロロフェニル)プロピオン酸、β−クロロプロピオン酸、cis−桂皮酸、trans−桂皮酸、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、trans−クロトン酸、シクロヘキサン−1:1−ジカルボン酸、シクロプロパン−1:1−ジカルボン酸、DL−システイン、L−システイン、重水素化酢酸(deuteroacetic acid)、2,3−ジクロロフェノール、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、ジメチルグリシン、ジメチルリンゴ酸、2,4−ジニトロフェノール、3,6−ジニトロフェノール、ジフェニル酢酸、エチル安息香酸、ギ酸、trans−フマル酸、没食子酸、グルタルアミド酸、グルタル酸、グリシン、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサヒドロ安息香酸、ヘキサン酸、馬尿酸、ヒスチジン、ヒドロキノン、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、β−ヒドロキシ酪酸、γ−ヒドロキシ酪酸、β−ヒドロキシプロピオン酸、γ−ヒドロキシキノリン、ヨード酢酸、m−ヨード安息香酸、イタコン酸、リジン、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、DL−マンデル酸、メサコン酸、メシチレン酸、メチル−o−アミノ安息香酸、メチル−m−アミノ安息香酸、メチル−p−アミノ安息香酸、o−メチル桂皮酸、m−メチル桂皮酸、p−メチル桂皮酸、β−メチルグルタル酸、n−メチルグリシン、メチルコハク酸、o−モノクロロフェノール、m−モノクロロフェノール、p−モノクロロフェノール、α−ナフトエ酸、β−ナフトエ酸、α−ナフトール、β−ナフトール、ニトロベンゼン、m−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、o−ニトロフェニル酢酸、m−ニトロフェニル酢酸、p−ニトロフェニル酢酸、o−β−ニトロフェニルプロピオン酸、m−β−ニトロフェニルプロピオン酸、p−β−ニトロフェニルプロピオン酸、ノナン酸、オクタン酸、シュウ酸、フェノール、フェニル酢酸、o−フェニル安息香酸、γ−フェニル酪酸、α−フェニルプロピオン酸、β−フェニルプロピオン酸、o−フタル酸、m−フタル酸、p−フタル酸、ピメリン酸、プロピオン酸、イソプロピル安息香酸、2−ピリジンカルボン酸、3−ピリジンカルボン酸、4−ピリジンカルボン酸、ピロカテコール、レソルシノール、サッカリン、スベリン酸、コハク酸、α−酒石酸、メソ酒石酸、テオブロミン、テレフタル酸、チオ酢酸、チオフェンカルボン酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、トリクロロフェノール、トリメチル酢酸、トリプトファン、チロシン、尿酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、ベロナール酸、ビニル酢酸、キサンチン、それらの塩、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0114】
他の適切な緩衝剤としては、例えば、ヒ酸、亜ヒ酸、o−ホウ酸、炭酸、クロム酸、ゲルマン酸(germanic acid)、シアン化水素酸、フッ化水素酸、硫化水素、次亜臭素酸、亜硝酸、o−リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、亜セレン酸、m−ケイ酸、o−ケイ酸、亜硫酸、テルル酸、亜テルル酸(tellureous acid)、四ホウ酸、それらの塩、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0115】
本組成物中の緩衝剤としては、例えば、3−クロロプロパン酸、クエン酸、エチレンジニトロ四酢酸、エチレンジアミン四酢酸(即ち、「EDTA」)、アラニン、アミノベンゼン、スルファニル酸、2−アミノ安息香酸、2−アミノフェノール、アンモニア、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、ジメチレンイミン、ベンゼン−1,2,3−トリカルボン酸、安息香酸、ベンジルアミン、2,2−ビピリジン、ブタン酸、マレイン酸、炭酸、ジクロロ酢酸、ジエチルアミン、カテコール、レソルシノール、d−酒石酸、エチレンジアミン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アジピン酸、次亜リン酸水素、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、3−ニトロ安息香酸、4−ニトロ安息香酸、フタル酸、ヨード酢酸、ヒスチジン、リジン、4−メチルアニリン、o−クレゾール、2−ナフトエ酸、ニトリロ三酢酸、2−ニトロ安息香酸、4−ニトロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、亜硝酸、リン酸、フェニルアラニン、ピペリジン、セリン、亜硫酸水素、スレオニン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(即ち、「TRIS」又は「THAM」)、チロシン、それらのアルカリ金属塩、及びそれらの混合物を挙げることができる。他の適切な緩衝剤としては、例えば、MES、リジン、ビシン(bisine)、及び類似の化合物の双性イオン緩衝剤、それらの塩、又はそれらの混合物を挙げることができる。さらに他の適切な緩衝剤としては、例えば、いわゆる一般的な「Goode」緩衝剤を挙げることができ、この緩衝剤は、上記の緩衝剤又は化合物のいくつかを包含することができ、そしてこの緩衝剤は、一般的にまた有利なことに、生物学的に不活性であり、生化学反応に干渉しない。
界面活性剤
本発明の緩衝剤組成物は、任意に、1種又は複数の界面活性剤又は共界面活性剤(co-surfactant)を含み得る。界面活性剤又は共界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ラウリルサルコシンなどの双性イオン界面活性剤、フッ化炭素系界面活性剤(これらは、例えば、他の構造、他の表面活性、又はその両方を有することにより、本発明のフッ化炭素系超湿潤剤とは差別化される)、及び類似の界面活性剤、又はそれらの混合物を挙げることができる。界面活性剤物質の優れた種の一覧は、McCutcheon‘s Vol.1 :Emulsifiers and Detergents,North American Ed., McCutheon Division, MC Publishing Co., 1995において提示されており、参照することでその内容を取り入れることとする。適切な非イオン性界面活性剤としては、限定はしないが、アルキルエトキシル化界面活性剤、ブロック共重合体界面活性剤、ヒマシ油界面活性剤、ソルビタンエステル界面活性剤、ポリエトキシル化脂肪酸アルコール界面活性剤、グリセロールモノ脂肪酸エステル界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル界面活性剤、及びそれらの混合物が挙げられる。他の有用な非イオン性アルキルアルコキシル化界面活性剤には、エチレンオキシドの疎水性アルキルアミンとの縮合に由来するエトキシル化アルキルアミンがある。有用なエトキシル化界面活性剤の他の例としては、エーテルカルボキシレートとしても既知であるカルボキシル化アルコールエトキシレートが挙げられる。
【0116】
界面活性剤又は共界面活性剤として、任意にアニオン性界面活性剤を本組成物に添加することができる。アニオン性界面活性剤の種類に関しては、多くの適切な非限定例として、McCutoheon‘s (前出)、Surfactants and Interfacial Phenomena),2nd Ed., Milton J. Rosen, 1989, John Wiley & Sons, Inc., pp. 7-16において見出すことができ、参照することで本明細書に取り入れることとする。アニオン性界面活性剤の他の適切な非限定例は、Handbook of Surfactants, M. R. Porter, 1991, Blackie & Son Ltd, pp. 54-115 及びその中の引用文献において見出すことができ、参照することでその内容を本明細書に取り入れることとする。
ハイブリダイゼーション
緩衝剤の希釈混合物を形成するために、水などの他の構成成分も加えることができる。第二のオリゴヌクレオチド材料を、緩衝剤濃縮物に、又は希釈混合物に加えることができる。得られる緩衝剤混合物は、単独で、又は第二のオオリゴヌクレオチド材料と組み合わせて、アレイに入れられる。第二のオリゴヌクレオチド材料は、アレイに付けられた第一のオリゴヌクレオチド材料と同じであるか、第一のオリゴヌクレオチド材料と異なっているか、又はそれらの組合せもしくは混合物とし得る。本発明の組成物は、一般に、1つ又は複数の列記した成分を混合して緩衝剤濃縮物溶液を形成することにより調製される。緩衝剤濃縮物は、所望の使用濃度に簡単に希釈することができる。
【0117】
ハイブリダイゼーションアッセイに用いられる基体には多数の種類がある。アレイアッセイ用に用いられる一般的な基体又は支持体は、表面修飾された、ガラスなどのケイ質基体である。DNAマイクロアレイは、常にではないが一般的に、これらの基体上において合成されるか又は付着される。基体表面は、アレイプローブの製造のために、表面への核酸の初期結合を可能にしたり又は促進するように修飾されている。表面修飾法又は誘導法は、当該分野で既知である。一般的な表面誘導化はシランを用いて行う。
【0118】
オリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドなどのオリゴマープローブのアレイは、従来の方法及びハイブリダイゼーション溶液を用いてハイブリダイズされる。J. Sambrook, E. F. Fritsch, T. Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 2nd Ed., 1989, vol. 1-3(参照することで、その内容を本明細書に取り入れることとする)は、オリゴヌクレオチドプローブのハイブリダイゼーションについての検討並びに条件を記載している。プローブ長、ハイブリダイゼーション温度、並びに当分野で既知の他の要因が、ハイブリダイゼーション条件に影響を及ぼす。典型的には、合成オリゴマーを用いるハイブリダイゼーションは、通常、プローブとターゲットとの間のミスマッチな塩基対形成、即ち非ワトソン/クリック塩基対形成を最小限とし、且つワトソン/クリック塩基対が形成される速度を最大限とするために、完全にハイブダイズしたものの計算融解温度Tよりも5〜10℃低い条件にて実施される。ハイブリッド形成の速度に影響する他の因子として、塩濃度、溶媒又は共溶媒の存在、溶液中の核酸濃度、ハイブリダイゼーションの長さ、ならびに撹拌の程度及び方法が挙げられる。
【0119】
従来のハイブリダイゼーション溶液は、代表的には、例えば、塩(例えば、一価カチオン);pH6.8〜8.5(より典型的にはpH7.0〜7.5)の緩衝容量をもたらす緩衝剤;二価カチオンキレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸、EDTA);並びに界面活性剤、タンパク質、実験と関係のない生物からのキャリアDNA等の成分のような、ターゲットがアレイ表面と非特異的に結合するのを防止する薬剤、を含み得る。典型的なハイブリダイゼーション溶液は、6×SSPE(0.9MのNaCl、60mMのリン酸ナトリウム(pH7.4)、6mMのEDTA)、又は6×SSC(0.9MのNaCl、90mMのクエン酸ナトリウム(pH7.0))、0.5%w/vのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、100マイクログラム/mLの変性フラグメント化サケ精子DNA、及び0.1%w/vの乾燥脱脂乳を含有する。従来のハイブリダイゼーション溶液及び方法は、本発明の方法及び組成物に従ってそれらを修飾することにより改善することができる。
【0120】
アレイは、本明細書において開示、参照する標準プロトコルに従って、少なくともプローブの構造(即ち、プローブ長及びプローブ組成物の多様性)やターゲットの複雑さに応じて、約2時間〜約2日間の時間、例えば、制御された温度(これは典型的には、上記のように、融解温度T応じて20℃〜70℃の範囲)にて、ハイブリダイズすることができる。低温ハイブリダイゼーションは、約20℃〜約50℃(典型的には約37〜45℃)にて実施される。高温ハイブリダイゼーションは、約55℃〜約70℃(典型的には60℃〜65℃)にて実施される。しかしながら、大部分の核酸マイクロアレイについては、高温ハイブリダイゼーションが当分野において好適である。なぜなら、より高い温度は、ヌクレオチドのワトソン/クリック塩基対の形成速度を最大にするためである。アレイハイブリダイゼーションの典型的な期間は、ターゲットとハイブリダイズするように、一晩又はそれより長い(即ち、8時間から少なくとも24時間の任意の時間)。次いで、アレイは洗浄、乾燥されて、当分野で既知の従来の方法及び装置を用いて光学的に走査されて、ハイブリダイゼーションの度合い(程度)が測定される。ここで、ホルムアミドなどの上記の非水性キャリアを適用することができ、特に、低温で実施されるハイブリダイゼーションについて適用し得る。
【0121】
典型的なマイクロアレイハイブリダイゼーションチャンバは、例えば、約0.4mmの厚みを有し、そして約0.5mLのハイブリダイゼーション溶液を含有する。チャンバの厚みが減ると、これを満たすために必要なハイブリダイゼーション溶液の体積も減り、このことはユーザにとって好都合であり得る。しかしながら、厚みが減ると、泡はチャンバ中を動くことがより難しくなり、泡の不自然な結果(望ましくない挙動、artifact)が観測されやすくなる。現在、この効果によりマイクロアレイハイブリダイゼーションチャンバの厚みは、約0.4mmまでと制限されている。
【0122】
ハイブリダイゼーションチャンバの領域を減少させることが有利な場合がある。しかし、マイクロアレイハイブリダイゼーションチャンバの領域が減ると、厚みが同じままであっても、より小さいチャンバにおいて要求される比較的小さいサイズの泡は、確実に動くことが困難となり得る。このことは、望ましくないアッセイ結果をもたらす、異常な付着又は混合挙動を引き起こし得る。
【0123】
回転速度もまた、ハイブリダイゼーションに影響を及ぼし得る。ある速度では、泡はより小さな複数の泡に分裂する傾向があり、これによって、望ましくないアッセイ結果につながる異常な付着又は混合挙動が現れる。他の速度では、泡はスライドの周囲を均一に回らないか、又は全く回らず、これが望ましくない結果を引き起こす。
標準ハイブリダイゼーションプロトコル
標準ハイブリダイゼーションプロトコルの一例として、男性(XY)対女性(XX)におけるハイブリダイゼーションでのX染色体プローブのコピー数の相違を測定する一連の対照アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)実験を、公知のプロトコル(Barrettらによる、Proc. Nat. Acad. Sci., USA, 101:51, 17765-17770, (2004))にわずかな変更を加えて実施した。精製された制限DNA(6マイクログラム)を、Bioprime標識キット(Invitrogen)を用いて、メーカの取扱い説明書に従い、50マイクロリットル体積中、修飾dNTPプール(それぞれ120μMのdATP、dGTP、dCTP、60μMのdTTP、及びXYについては60μMのCy5−dUTP、総染色体数46のXX女性試料については60μMのCy3−dUTP(米国マサチューセッツ州ボストンのPerkin-Elmer)を用いて標識化した。次いで、標識化したターゲットを、CentriconYM−30フィルター(米国マサチューセッツ州ベッドフォードのMillipore)を用いてろ過した。各ハイブリダイゼーション用の実験ターゲット及び参照ターゲットをプールし、50マイクログラムのヒトCot−1DNA(Invitrogen)、100マイクログラムの酵母菌tRNA(Invitrogen)及び1×ハイブリダイゼーション対照ターゲット(Agilent Technologies)と混合した。ターゲット混合物を精製し、次いでCentrioonYM−30カラムで濃縮し、そしてTEGO(登録商標)Wet260などの超湿潤剤の存在下又は非存在下、最終体積250マイクロリットルになるよう再懸濁させ、次いで同容積のAgilent 2×in situハイブリダイゼーション緩衝剤と混合した。あるいはまた、TEGO(登録商標)Wet260は、2×ハイブリダイゼーション緩衝剤に存在させることもできる。組合せ又は混合のいずれにおいても、TEGO(登録商標)Wet260の組成物中最終濃度は、全容積に基づいて、1.5質量対容量%(w/v)とした。
【0124】
アレイをハイブリダイズさせる前に、ハイブリダイゼーション混合物を、100℃にて1.5分間変性させ、37℃にて30分間インキュベートした。Agilentマイクロアレイハイブリダイゼーションチャンバを用いて、試料をアレイに適用し、そしてRobbinsScientific回転式オーブン中において、約4〜5rpm、65℃にて14〜18時間ハイブリダイゼーションを行った。次いで、0.5×SSC/0.005%(w/v)TritonX−102(洗液1)中、65℃にて、アレイを分解し、洗液1中室温で5分間洗浄し、次いで0.1×SSC/0.005%(w/v)TritonX−102(洗液2)中、37℃にて5分間洗浄した。スライドを乾燥させて、Agilent2565AADNAマイクロアレイスキャナを用いて走査した。
【0125】
XY/XX比較に関するX染色体プローブのlog比の分布(プロットは図示せず)は、繰り返し実験で、XY(Cy5)試料中のX染色体1コピー当たりXX(Cy3)試料中2コピーを表す、−0.8〜−0.95の中央値を有した。対照的に、同じ実験において、染色体1〜22の常染色体プローブの分布は、各試料中において等しいコピー数を表す、0に集中した。
【0126】
以下に記載する実施例2、及び実施例5〜7は、小容量ハイブリダイゼーションについてより遅い回転速度(3rpm)を用いたことを除いて、上記の標準プロトコルと同じ又は類似の条件下で行った。また、アレイは、オーブン中において30分間温めた後、すぐに取り出すことができ、そして存在する多数の泡はアレイ又はアレイホルダーを軽くたたくことで1つにまとめることができる。
【0127】
DNAマイクロアレイのハイブリダイゼーション時に混合を達成するために、種々のプロトコルが報告されている。これらには、例えば、Agilentマイクロアレイ、Affymetrix GeneChip(登録商標)、Amersham Codelink(登録商標)、Biochip、及びBioMicro MAUI(登録商標)ハイブリダイゼーションシステムを使用するために記載された手順が挙げられる。基体の湿潤化、流体混合、又はその両方が、多くのDNAハイブリダイゼーション技法において重要な考慮事項であり得る。本発明の方法及び組成物は、代替的ハイブリダイゼーション法を提供するべく、多くの異なるプロトコルにおいて改善された湿潤化及び混合をもたらすことができる。
【0128】
本発明の方法及び組成物は、DNAハイブリダイゼーションにおける使用に限定される必要はない。タンパク質アレイ又はペプチドアレイなどのタンパク質又は小分子の分析用に設計されたシステムは、DNAハイブリダイゼーションの場合と同じような基体の湿潤化及び流体混合の問題の多くに遭遇しており、そして本発明の超湿潤剤の使用の恩恵を受けることができる。流体が細いチャネル、即ち毛細管を通って移送されることが望ましいマイクロ流体に基づくアッセイのような他のシステムもまた、超湿潤剤の使用の恩恵を受けることができる。
【実施例1】
【0129】
以下の実施例は、本発明の実施形態をさらに詳しく記載するために、並びに本発明の種々の態様のうち最適の様態と考えられるものを記載するために提示するものである。これらの実施例は、本発明の真の範囲を制限する意はなく、例示のために提示することを理解されたい。実施例で用いる%は、重量比(w/w)であり、溶液については重量対容積比(w/v)で表す。
【実施例2】
【0130】
1,225mMのLiCl、300mMの2−[N−モルホリノ]エタンスルホン酸リチウム(Li−MES)(pH6.1)、12mMのEDTAキレート剤、3%(w/v)のドデシル硫酸リチウム(LiDS)、2%(w/v)のTritonX−100非イオン性界面活性剤、及び3%(w/v)のTEGO(登録商標)Wet260超湿潤剤を混合して、ハイブリダイゼーション緩衝剤濃縮(2×)組成物を調製した。緩衝剤濃縮(2×)組成物は、以下の表にまとめた。
【0131】
【表1】

【実施例3】
【0132】
標準プロトコルに従ってターゲット溶液を調製し、そして1部の2×緩衝剤を用いて希釈し、1.5%(w/v)のTEGO(登録商標)Wet260超湿潤剤含量を有する1×緩衝剤を得た。ハイブリダイゼーション及び洗浄を、例示の標準プロトコルに従って実施した。
【実施例4】
【0133】
図を参照すると、図1は、欠損がある場合とない場合の2つのアレイについての、フィーチャー強度の比較分布図を示す。軸から外れて現れるフィーチャーデータ点のかたまりは、超湿潤剤が存在せずに調製された比較アレイにおける泡の痕跡欠損に起因するものである(写真は示さず)。超湿潤剤の存在下で調製されたアレイには、泡の痕跡欠損がなかった(写真は示さず)。ある傾きを有する単一線上に実質的に現れるデータ点は、比較したアレイのフィーチャー強度が同等であったことを示す。
【実施例5】
【0134】
相分離を防ぐためのLiDSの添加
612mMのLiCl、150mMのLi−MES(pH6.1)、6mMのEDTA及び1%(w/v)のTritonX−100を含有する緩衝剤に、TEGO(登録商標)Wet260及びドデシル硫酸リチウム(LiDS)の両方をある範囲の濃度で含有する一連の溶液を調製した。TEGO(登録商標)Wet260の濃度は、0〜8%(w/v)の範囲であり、LiDSの濃度は、0〜4%(w/v)の範囲とした。調製物は全て、室温で明らかに均一な溶液であった。TEGO(登録商標)Wet260を含まない場合、溶液は全て、65℃に加熱しても単一相のままであった。調製物にTEGO(登録商標)Wet260が含まれる場合、単一相調製物のなかには、65℃に加熱すると第二相を生じる、即ち2相に分離するものがあった。分離した第二相は、主にTEGO(登録商標)Wet260からなった。十分量又は過剰量で存在するLiDSは、相分離が観測されないように系を安定化させた。単一相を維持し相分離を防ぐために必要なLiDSの量は、以下の表にまとめるように、存在するTEGO(登録商標)Wet260の量に依存した。結果を用いて相ダイアグラムを作成した(示さず)。
【0135】
【表2】

【実施例6】
【0136】
大容量ハイブリダイゼーションと小容量高濃度ターゲットハイブリダイゼーションとの比較
一方は、400ミクロン厚さのチャンバ(チャンバの全体積は約530マイクロリットル)中に450マイクロリットルの試料体積を有する大容量のもの、他方は、175ミクロン厚さのチャンバ(チャンバの全体積は約230マイクロリットル)中に175マイクロリットルの試料体積を有する小容量のものに関し、2つのアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(アレイCGH)を行った。両方のハイブリダイゼーションに等量のDNAターゲットが存在した。小容量ハイブリダイゼーションで生じたシグナル強度は、大容量ハイブリダイゼーションで観測されたものより約3倍大きかった。観測されたバックグラウンドレベルは、両方の場合でほぼ同じであった。Log比の標準偏差は、小容量ハイブリダイゼーションの場合が低かった。当該結果を用いて標準偏差の比較プロットを作成した(示さず)。
【実施例7】
【0137】
大容量ハイブリダイゼーションと小容量少量ターゲットハイブリダイゼーションとの比較
2つのアレイCGH実験(一方は400ミクロン厚さのチャンバ(チャンバの全体積は約530マイクロリットル)、475マイクロリットルの試料体積中6マイクログラムのゲノム物質を用いる大容量ハイブリダイゼーションであり、他方は110ミクロン厚さのチャンバ(チャンバの全体積は約145マイクロリットル)、125マイクロリットルの試料体積中1マイクログラムのゲノム物質を用いる小容量ハイブリダイゼーションであるもの)を行った。両方のハイブリダイゼーションについてシグナル強度及びバックグラウンドはほぼ同じであった。プロットした結果(示さず)から、小容量ハイブリダイゼーション及び大容量ハイブリダイゼーションの両方が、同じような標準偏差で、約0.85のほぼ同じLog比分離を示した。
【実施例8】
【0138】
TEGOWet260有りの速い回転(20rpm)でのハイブリダイゼーションと、TEGOWet260有り及び無しでの遅い回転のハイブリダイゼーションとの比較
全て、400ミクロン厚さのチャンバ(チャンバの全体積は約530マイクロリットル)、475マイクロリットルの試料体積を用いて、複数のアレイCGHを行った。6つのハイブリダイゼーションは、TEGO(登録商標)Wet260なしで5rpm(低速)にて実施した。3つのハイブリダイゼーションは、1.5%(w/v)のTEGO(登録商標)Wet260を加えて、5rpm(低速)にて実施した。3つのハイブリダイゼーションは、1.5%(w/v)のTEGO(登録商標)Wet260を加えて、20rpm(より高速)にて実施した。全てのハイブリダイゼーションに、等量、等濃度のDNAターゲットが存在した。20rpmで実施したハイブリダイゼーションのシグナルレベルは、5rpmで実施したハイブリダイゼーションにおいて観測されたシグナルレベルの約2倍であった。TEGO(登録商標)Wet260有りで20rpmで実施したハイブリダイゼーションのシグナル対ノイズ比(S/N比)は、TEGO(登録商標)Wet260有り及び無しで実施した5rpmでのハイブリダイゼーションで観測されたものより一貫して高かった。プロットした結果(示さず)から、Log比の標準偏差は、5rpm及び20rpmの両方で、TEGO(登録商標)Wet260の存在下で実施したハイブリダイゼーションの方が低かった。
【0139】
刊行物、特許、及び特許文書の全開示内容は、参照することであたかもその内容が個別に取り入れられるように、本明細書中に取り入れることとする。本発明は、種々の具体的実施形態及び方法を参照して記載してきた。本開示のさらなる態様は、もしあれば、さらに図に記載し、説明される。しかしながら、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多くの変更及び改良が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の実施形態における、痕跡欠損がある場合と痕跡欠損がない場合の2つのアレイについて観測されたフィーチャー強度の比較分布図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に結合した第一のオリゴヌクレオチドを第二の未結合オリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせる方法であって、
前記表面を超湿潤剤を含む水性混合物と接触させることを含む、方法。
【請求項2】
前記超湿潤剤が、有機シリコーン湿潤剤、有機フッ素湿潤剤、ヒドロカルビル湿潤剤、又はそれらの混合物を含み、且つ前記水性混合物が、以下:
第二のオリゴヌクレオチド材料;
有機スルホン酸;
有機硫酸塩界面活性剤;
有機ポリアルコキシレート;
一価カチオン源;
キレート剤;又は
それらの混合物
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触させることが、約30℃〜約70℃の温度で実施され、且つ前記水性混合物の緩衝容量及びpHが約5〜約9である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記接触させることが、動いている気泡又は崩壊する気泡を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記表面が、シランにより表面修飾されたケイ質マイクロアレイである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
超湿潤剤及び緩衝剤を含む緩衝剤濃縮物であって、前記緩衝剤が、有機化合物、無機化合物、又はそれらの混合物を含む、緩衝剤濃縮物。
【請求項7】
一価カチオン源;
水溶性有機スルホン酸又はその塩;
キレート剤又はその塩;
有機硫酸塩界面活性剤又はその塩;
有機ポリアルコキシレート;
水性キャリア;又は
それらの混合物
のうちの1つ又は複数をさらに含む、請求項6に記載の緩衝剤濃縮物。
【請求項8】
前記超湿潤剤が:
以下の式の有機シリコーン化合物:
【化1】

〔式中、xは約1〜約10であり;yは約0〜約10であり;nは約3〜約4であり;aは約0〜約15であり;bは約0〜約14であり;但し、a及びbのうちの少なくとも一方は0ではなく且つa+bは約1〜約30であり;Rは、水素、炭素数約1〜約4のアルキル基、アセチル基及びそれらの混合物から成る群から選択される〕;又は
以下の式a)〜c)の化合物から成る群から選択される有機フッ素化合物又はその塩:
a){(C2n+1-Cn‘2n’-SO-R}
〔式中、mは1〜3であり;nは約3〜約20であり;n‘は約0〜約20であり;pは1〜2であり;xは約1〜約100であり;Rは水素、(C1−10)飽和アルキル、又は(C2−10)不飽和アルキルである〕;
b)(C2n+1-Cn‘2n’-R
〔式中、Rは、
−H、
ハロ、
−OH、
(C1−10)アルキル、
(C2−10)不飽和アルキル、
−CH−O−C(=O)−(C1−20)アルキル、
−CH−O−C(=O)−(C2−20)不飽和アルキル、
−O−P(=O)(OH)
−O−P(=O)(−OH)−、
−O−P(=O)(OH)(−O−CH−CH−)−OH、
−COH、
(+)N(R−O(−)
(+)N(R−CH−COH、
−O−C(=O)−CH−CH(SOH)−C(=O)−O−、
−O(CH−CH−O)−H、
−S−CH−CH−C(=O)−OH、又は
(C1−10)アルキル−C(=O)−O−CH−CH(+)N(R−(CH1−4−COH、
から選択される一価又は二価の基であり;
は、個々独立して、水素、又は(C1−10)アルキルであり;
mは、1〜2であり;
nは、約1〜約20であり;
n‘は、約1〜約20であり;
oは、約1〜約10であり;
pは、1〜2であり;そして
yは、約0〜約20である〕;
c)
【化2】

〔式中、Rは、式−C2n+1の一価の基であり;
nは、約1〜約20であり;そして
xは、1〜100である〕;又は
以下の式のアルコキシル化ヒドロカルビル化合物:
【化3】

〔式中、Rは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり;
〜Rは、個々独立して、水素、又は炭素数3〜10のアルキル基であり;
m、n、o及びpは、0〜30であり且つそれらの合計が3〜約60である〕;又は
それらの混合物、である、請求項6に記載の緩衝剤濃縮物。
【請求項9】
超湿潤剤;
有機硫酸塩界面活性剤又はその塩;
水溶性有機スルホン酸又はその塩;
有機ポリアルコキシレートと;
キレート剤又はその塩;
一価カチオン源;及び
任意選択の水性キャリア
を含んで成る、混合生成物。
【請求項10】
オリゴヌクレオチド材料をハイブリダイズさせるためのキットであって、
超湿潤剤を含む緩衝剤濃縮物;
ケイ質基体を有する光学マイクロアレイであって、前記基体の表面が任意に誘導化されており、且つ複数のオリゴヌクレオチドがアレイパターンのフィーチャーとして前記表面に任意に結合している、光学マイクロアレイ;及び
前記緩衝剤濃縮物を用いて、マイクロアレイに結合したオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせるための説明書
を含む、キット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−254912(P2006−254912A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69349(P2006−69349)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】