説明

アレルギー性疾患用医薬組成物

【課題】 シノビオリンの発現及び機能を調節することによりIL-4及びIgE産生を抑制又は促進する方法、シノビオリンの発現及び活性を調節する物質を含む医薬組成物の提供。
【解決手段】 シノビオリンの発現及び機能を調節する物質を含む医薬組成物、及びシノビオリンの発現及び機能を阻害することを特徴とするアレルギー性疾患治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シノビオリンの発現及び活性を調節することにより、IL-4及び/またはIgE産生を抑制又は阻害する方法に関する。また、本発明は、シノビオリンの発現及び活性を調節ることにより、IL-4及び/またはIgE産生を調節する物質を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シノビオリンは、リウマチ患者由来滑膜細胞で過剰発現している膜タンパク質として発見された新規タンパク質である(WO02/052007)。そして、遺伝子改変動物を用いた研究により、シノビオリンは関節リウマチの発症に必須の分子であることが判明した。
【0003】
タンパク質構造予測システムにより、シノビオリンはRING fingerモチーフを有することが示唆されている。このモチーフはタンパク質のユビキチン化に重要な役割を果たすE3ユビキチンライゲースという酵素に多く見出されているが、実際、シオビオリンがE3ユビキチンライゲースの特徴のひとつである自己ユビキチン化活性を有することが証明されている(WO02/052007)。しかし、シノビオリンと免疫系との関与は明らかとなっていない。
【0004】
一方、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショック、花粉症、食物アレルギー等のアレルギー性疾患は近年世界的に増加の傾向にあり、大きな問題となっている。従来の抗アレルギー剤は、肥満細胞からの化学伝達物質の遊離抑制剤、遊離した化学伝達物質の受容体阻害剤またはアレルギー性炎症反応の抑制剤等であるが、これらはいずれも対症療法であり、根本的なアレルギー性疾患の治療薬となっていない。アレルギー反応はその発症の機序、症状の違いなどによりI型アレルギー反応、II型アレルギー反応、III型アレルギー反応およびIV型アレルギー反応に区別されている。I型アレルギー反応においては、生体内に入った抗原によりIgEが生起し、これが組織の肥満細胞または血中の好塩基性細胞の細胞膜に固着したIgE抗体が抗原と反応することにより、当該細胞からヒスタミン、セロトニン、その他の種々の化学伝達物質を遊離する。該化学伝達物質は平滑筋の収縮、血管透過性の亢進など様々な組織反応を引き起こす。
【0005】
しかしながら、化学伝達物質の遊離もしくは生成を特異的に抑制する薬剤または特異的な拮抗薬が知られている化学伝達物質は少なく、また化学伝達物質は多種多様であるため、I型アレルギー反応を抑制するためには、種々の化学伝達物質の相互作用の解析が必要とされているのが現状である。
【0006】
根本的なアレルギー性疾患の治療薬として、アレルギー性疾患の発症に深く関与しているIgE抗体の産生抑制剤が考えられている。IgE産生抑制作用を有する化合物の一つとしてトシル酸スプラタスト(IPD-1151-T)がある。これはタイプ2のT細胞(Th2細胞)に作用し、IL−4の産生を抑制することにより、B細胞のIgE抗体産生細胞への分化を抑制すると報告されている(Yanagihara Y et al., Jpn. Pharmacol.(1993)61: 31-39)(非特許文献1)。B細胞に直接作用してIgE抗体産生を抑制する化合物としては、例えば肥満細胞脱顆粒阻害剤であるDSCG(インタール)またはネグクロミルソディウムがある。これらはB細胞のクラススイッチを阻害すると報告されている(J. Exp. Med.(1994)180: 663-671(非特許文献2)、J. Allergy Clin. Immunol. (1996)97: 1141-1150(非特許文献3))。また、J. Med. Chem.(1997)40: 395-407にもB細胞に直接作用してIgE産生を抑制する化合物が記載されている。並びに、サイクロスポリンAのような非特異的な免疫抑制剤によってIgE産生を抑制し、アレルギ−性疾患を治療しようとする試みも行われているが、IgE抗体以外の免疫グロブリンを抑制することは好ましくないため、IgE選択性が高く強力な阻害薬の開発が望まれている。
【非特許文献1】Yanagihara Y et al.,Jpn.Pharmacol.(1993)61: 31-39
【非特許文献2】Loh RK et al., J. Exp. Med.(1994)180, 663-671
【非特許文献3】Loh RK et al., J. Allergy Clin. Immunol. (1996)97: 1141-1150
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シノビオリンの発現及び機能を調節することにより、IL-4及びIgE産生を調節する医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。そして、シノビオリンへテロノックアウト(syno+/-)マウスを詳細に解析したところ、野生型に比し、IL-4及びIgE産生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) IL-4及び/又はIgEの産生を調節する物質を含む医薬組成物。
【0010】
シノビオリンの発現及び機能を調節する物質としては、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害又は促進するものが挙げられる。具体的には、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害物質として、シノビオリン又はシノビオリンをコードする遺伝子に対する低分子化合物、ペプチド、抗体、デコイ核酸、アンチセンス核酸、siRNA及びshRNAからなる群から選択される少なくとも1つを例示することができる。また、シノビオリンの発現及び/又は機能を促進する物質として、シノビオリンプロモーター活性促進剤、シノビオリンポリペプチド及びシノビオリンポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1つを例示することができる。
【0011】
ここで、シノビオリンをコードする遺伝子は、例えば配列番号1に示される塩基配列を含むものである。
【0012】
本発明において、siRNAとしては、配列番号1に示す塩基配列のうち一部の配列を標的
とするものが挙げられる。
【0013】
また、本発明は、アレルギー性疾患、感染症、自己免疫疾患又は白血病を予防及び/又は治療するための医薬組成物を提供する。
【0014】
上記アレルギー性疾患としては、例えば気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショック、ダニアレルギー疾患、花粉症及び食物アレルギー疾患からなる群から選ばれる少なくとも1つを例示することができる。
【0015】
感染症としては、寄生虫由来の感染症が挙げられ、例えばアメーバ症、回虫症、バベシア症、クリプトスポリジウム症、ジアルジア症、 鉤虫症、マラリア、蟯虫症、住血吸虫症、条虫感染症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、旋毛虫症、鞭虫症、疥癬、アニサキス症、エキノコックス症、食品媒介寄生蠕虫症、シラミ症、幼虫移行症及びサルコイドーシスからなる群から選択される少なくとも1つを例示することができる。
【0016】
自己免疫疾患としては、例えば関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性硬化症、多発性筋炎、ギラン・バレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、水疱性類天疱瘡、グレーヴス病(バセドウ病)、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、天疱瘡、悪性貧血、膠原病、低IgE血症及び無γグロブリン血症からなる群から選択される少なくとも1つを例示することができる。
【0017】
さらに、白血病としては、骨髄形成症、多発性骨髄腫、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病及び慢性骨髄性白血病からなる群から選択される少なくとも1つを例示することができる。
【0018】
(2) シノビオリンの発現及び/又は機能を調節する物質を含有する、サイトカイン類産生調節用の食品、飲料又は飼料。
(3) シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する物質を含有する、抗アレルギー用の食品、飲料又は飼料。
(4)シノビオリンの発現及び/又は機能を調節することを特徴とするIL-4及びIgE産生調節方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、シノビオリンの発現及び機能を調節する物質が提供される。この物質は、シノビオリンの発現及び機能を調節することによりIL-4及び/又はIgEの産生を調節(抑制又は促進)することができるため、産生を抑制する場合はアレルギー性疾患の治療用医薬組成物として、また、産生を促進する場合は感染症、自己免疫疾患、白血病の治療用医薬組成物として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明は、シノビオリンの発現及び機能を調節する物質を含む医薬組成物を用いて、疾患を治療することを特徴とする。具体的には、シノビオリンの機能を阻害してIL-4、及び/又はIgEの産生を抑制することにより、アレルギー性疾患を治療することを特徴とする。また、本発明は、シノビオリンの機能を促進してIL-4、及び/又はIgEの産生を促進することにより、感染症、自己免疫疾患、白血病を治療することを特徴とする。
【0022】
本発明においては、シノビオリンの発現及び活性阻害をアレルギー性疾患治療の有効な方法の一つとするため、シノビオリンの機能に着目した。そして、シノビオリンヘテロノックアウト動物を作製し、詳細に解析したところ、野生型に比してIL-4及びIgE産生抑制が観察された。すなわち、シノビオリンの機能を阻害すると、アレルギー性疾患に深く関与しているIL-4及びIgEの産生が抑制され、シノビオリンの機能阻害がアレルギー性疾患治療につながることを見出した。また、本発明者は、シノビオリン遺伝子を遺伝子治療用ウイルスベクターで感染させることにより過剰発現させたときは、IL-4及びIgEの産生が促進され、感染症、自己免疫疾患、白血病の治療につながることを見出した。
【0023】
したがって、本発明は、IL-4の産生及び/又はIgEの産生を調節する物質を含む医薬組成物を提供する。ここで、「調節」とは、IL-4の産生、IgEの産生またはシノビオリンの発現を促進または抑制することを意味し、促進するときは正の調節、抑制するときは不の調節ともいう。当業者は、治療の対象となる疾患に応じて、IL-4の産生、IgEの産生またはシノビオリンの発現を促進又は阻害するよう、調節することができる。
【0024】
2.シノビオリン発現及び/又は活性調節
IL-4及びIgE産生を調節するためには、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害又は促進する方法が採用される。
【0025】
(1)シノビオリンの発現阻害
シノビオリンの発現阻害には、特に限定されるものではないが、例えばRNA干渉(RNAi)を利用することができる。シノビオリン遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)を設計及び合成し、これを細胞内に導入させることによって、RNAiを引き起こすことができる。また、本発明においては、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する物質として、シノビオリン又はシノビオリンをコードする遺伝子に対する低分子化合物、ペプチド、抗体、デコイ核酸、アンチセンス核酸を使用することもできる。
【0026】
RNAiとは、dsRNA(double-strand RNA)が標的遺伝子に特異的かつ選択的に結合し、当該標的遺伝子を切断することによりその発現を効率よく阻害する現象である。例えば、dsRNAを細胞内に導入すると、そのRNAと相同配列の遺伝子の発現が抑制(ノックダウン)される。
【0027】
siRNAの設計は、以下の通り行なうことができる。
【0028】
(a) シノビオリンをコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。例えば、ヒトの場合では、GenBank Accession number AB024690(配列番号1)の任意の領域を候補にすることができる。
【0029】
(b) 選択した領域から、AAで始まる配列を選択し、その配列の長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。その配列のGC含量は、例えば40〜60%となるものを選択するとよい。具体的には、配列番号1に示される塩基配列のうち、以下の塩基配列から選ばれる少なくとも1つの配列を含むDNAをsiRNAの標的配列として使用することができる。特に、(i) (配列番号2)、(ii) (配列番号3)、(vi) (配列番号7)、(vii) (配列番号8)、(viii) (配列番号9)を標的とすることが好ましい。
(i) AA TGTCTGCATCATCTGCCGA GA(配列番号2)
(ii) AA GCTGTGACAGATGCCATCA TG(配列番号3)
(iii) AA AGCTGTGACAGATGCCATC AT(配列番号4)
(iv) AA GAAAGCTGTGACAGATGCC AT(配列番号5)
(v) AA GGTTCTGCTGTACATGGCC TT(配列番号6)
(vi) AA CAAGGCTGTGTACATGCTC TA(配列番号7)
(vii) AA ATGTTTCCACTGGCTGGCT GA(配列番号8)
(viii) AA GGTGTTCTTTGGGCAACTG AG(配列番号9)
(ix) AA CATCCACACACTGCTGGAC GC(配列番号10)
(x) AA CACCCTGTATCCAGATGCC AC(配列番号11)
(xi) AA GGTGCACACCTTCCCACTC TT(配列番号12)
(xii) AA TGTTTCCACTGGCTGGCTG AG(配列番号13)
(xiii) AA GAGACTGCCCTGCAACCAC AT(配列番号14)
(xiv) AA CGTTCCTGGTACGCCGTCA CA(配列番号15)
siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本のRNAをアニールする方法などを採用することができる。
【0030】
また、本発明は、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNA(short hairpin RNA)と呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。
【0031】
shRNAは、その一部がステムループを構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順になるようにこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するようにし、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となるシノビオリン遺伝子(配列番号1)の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。
【0032】
「低分子化合物」とは、シノビオリンの発現及び機能を阻害する化合物を意味し、例えばシノビオリン酵素活性阻害剤、シノビオリンプロモーター活性阻害剤などが挙げられる。このような低分子化合物は、合成することにより、あるいは試薬会社から購入することにより、得ることができる。
【0033】
「ペプチド」とは、シノビオリンのアミノ酸配列と類似のアミノ酸配列を有するペプチドであって、シノビオリン受容体に競合的に結合することにより、シノビオリンの機能を阻害するペプチドを意味する。このようなペプチドは、通常のペプチド合成法によって合成できる。ペプチド合成法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC 法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置を使用してもよい。
【0034】
「抗体」とは、シノビオリンと結合することにより、シノビオリンの機能を阻害する抗体を意味し、ポリクローナル抗体であるとモノクローナル抗体であるとを問わない。また、抗体には、Fab断片、F(ab')2、Fv断片なども含まれる。
【0035】
ポリクローナル抗体を作製するためには、シノビオリン又はその部分断片を抗原として用いて動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)を免疫し、最終免疫後に抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得ればよい。抗原の動物1匹当たりの投与量は、ウサギの場合、1〜10 mgであり、アジュバントの有無によって適宜調節する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)等が挙げられる。抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0036】
モノクローナル抗体を作製するには、当該分野で周知のハイブリドーマ法によって製造することができる。例えば、シノビオリン又はその部分断片を抗原として、哺乳動物を免疫した後に得られる抗体産生細胞(脾臓細胞、リンパ節細胞等)とミエローマ細胞(例えばP3X63-Ag.8.U1、NS-Iなど)との細胞融合を行い、細胞融合後に目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすればよい。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。
【0037】
「デコイ核酸」とは、シノビオリンのプロモーターに結合する転写因子に結合し、シノビオリンの機能を抑制することができるデコイ核酸(デコイオリゴヌクレオチド)、あるいはシノビオリン遺伝子に直接結合し、シノビオリンの機能を抑制することができるデコイ核酸である。
【0038】
本発明において使用し得る好ましいデコイ核酸の例は、例えばシノビオリンプロモーターのEBS(Ets binding site)に結合する転写因子と結合し得る核酸、プロモーターのABSに結合する転写因子と結合し得る核酸、プロモーターのSBS(Sp1 binding site)に結合する転写因子と結合し得る核酸、これらの相補体を含むオリゴヌクレオチド、これらの変異体、又はこれらを分子内に含む核酸などが挙げられる。デコイ核酸は、上記EBS、ABS(AML binding site)又はSBSの配列をもとに、1本鎖、又はその相補鎖を含む2本鎖として設計することができる。長さは特に限定されるものではなく、15〜60塩基、好ましくは20〜30塩基である。核酸は、DNAでもRNAでもよく、またはその核酸内に修飾された核酸及び/又は擬核酸を含んでいてもよい。またこれらの核酸、その変異体、又はこれらを分子内に含む核酸は、1本鎖又は2本鎖であってもよく、また環状でも線状でもよい。本発明で用いられるデコイ核酸は、当業界で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、遺伝子組換え技術として一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を使用することもできる。さらに、これらの方法により得られた核酸を、制限酵素等を用いて切断し、DNAリガーゼを用いて結合することにより所望の核酸を製造してもよい。さらに、細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、塩基等にアルキル化、アシル化等の化学修飾を付加することができる。デコイ核酸の変異体の作製方法は、当業界で公知の方法、たとえば、部位特異的突然変異誘発法等によって合成することもできる。部位特異的突然変異誘発法は当分野において周知であり、市販のキット、例えばGeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等(タカラバイオ社製))を使用することができる。
【0039】
「アンチセンス核酸」とは、シノビオリン遺伝子に相補的な配列を有し、当該遺伝子にハイブリダイズすることにより、シノビオリン遺伝子の発現を阻害することができる核酸を意味する。アンチセンス核酸は、シノビオリンをコードする遺伝子の部分塩基配列に対して相補的な核酸化合物を合成化学的手法などにより調製することができる。当該核酸化合物がシノビオリンの産生を効率的に阻害するかどうかを評価するためには、遺伝子の発現量を指標としたスクリーニング試験を行えばよい。上記アンチセンス核酸化合物としては、例えばシノビオリンの発現を、コントロールと比較して少なくとも50%以下に抑えることができるものである。
【0040】
(2)シノビオリンの発現促進
一方、シノビオリンの発現促進には、特に限定されるものではないが、例えば転写因子、小胞体ストレス誘導剤等を利用することができる。
【0041】
シノビオリンの発現を促進するために利用される「転写因子」とは、シノビオリンプロモーター遺伝子の転写制御領域を調節する転写促進物質であることを意味し、例えばGABPα/β (GA-binding proteinα/β)、IRE1、ATF6(activating transcription factor 6)などが挙げられる(WO05093067、 M. Kaneko et al., FEBS Letters (2002)532: 147-152)。また、シノビオリンの発現を促進するために利用される「小胞体ストレス誘導剤」とは、シノビオリンプロモーター遺伝子のERSE (ER stress response elements ) を活性化することで転写を促進する物質であることを意味し、例えばツニカマイシン、タプシガルギンなどが挙げられる(M. Kaneko et al., FEBS Letters (2002)532: 147-152)。
3.医薬組成物
本発明において作製されたshRNA、siRNA、低分子化合物、ペプチド、抗体、デコイ核酸及びアンチセンス核酸は、シノビオリンの発現を抑制する物質であり、IL-4及びIgE産生を抑制させる医薬組成物(特にアレルギー性疾患の遺伝子治療剤)として使用することができる。本発明において作製された転写因子、小胞体ストレス誘導剤は、シノビオリンの発現を促進する物質であり、IL-4及びIgE産生を促進させる医薬組成物(特に感染症、自己免疫疾患、白血病の治療剤)として使用することができる。
【0042】
本発明の医薬組成物(シノビオリンの発現を抑制する物質)をアレルギーの遺伝子治療剤として使用する場合は、適用部位は特に限定されず、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、アナフィラシーショック、ダニアレルギー疾患、花粉症及び食物アレルギー性疾患等を対象として適用される。
【0043】
上記疾患は、他の疾患と併発したものであってもよい。
【0044】
本発明の医薬組成物(シノビオリンの発現を促進する物質)を感染症、自己免疫疾患、白血病の治療剤として使用する場合は、適用部位は限定されるものではない。
【0045】
感染症(主に寄生虫による感染症)としては、例えばアメーバ症、回虫症、バベシア症、クリプトスポリジウム症、ジアルジア症、 鉤虫症、マラリア、蟯虫症、住血吸虫症、条虫感染症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、旋毛虫症、鞭虫症、疥癬、アニサキス症、エキノコックス症、食品媒介寄生蠕虫症、シラミ症、幼虫移行症及びサルコイドーシスが挙げられ、 感染症を治療するためには、シノビオリンの発現を抑制する物質を医薬組成物として使用する。
【0046】
自己免疫疾患としては、例えば関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性硬化症、多発性筋炎、ギラン・バレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、水疱性類天疱瘡、グレーヴス病(バセドウ病)、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、重症筋無力症、天疱瘡、悪性貧血、膠原病、低IgE血症及び無γグロブリン血症などが挙げられ、シノビオリンの発現を抑制する物質を医薬組成物として使用する。
【0047】
白血病としては、骨髄形成症、多発性骨髄腫、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病などが挙げられ、シノビオリンの発現を促進する物質を医薬組成物として使用する。
【0048】
上記疾患は、他の疾患と併発したものであってもよい。
【0049】
本発明の医薬組成物は、経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる。本発明の医薬を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれのものであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の治療剤を非経口投与する場合は、静脈内注射(点滴を含む)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐剤などの製剤形態を選択することができ、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0050】
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0051】
上記各種製剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、本発明の剤型に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
【0052】
本発明の治療剤の投与量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。本発明のペプチドの有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組合せとして投与される有効量は、一回につき0.1μg〜100 mg/body、好ましくは1〜10μg/bodyの範囲の投与量を選ぶことができ、1日1回から数回に分けて1日以上投与される。
【0053】
本発明の医薬組成物を遺伝子治療剤として使用する場合は、本発明の医薬組成物を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれたベクターを投与する方法が挙げられる。上記ベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられ、これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。
【0054】
また、本発明の医薬組成物をリポソームなどのリン脂質小胞体に導入し、その小胞体を投与することも可能である。siRNAやshRNAを保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内、動脈内等の全身投与する。脳等に局所投与することもできる。
【0055】
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合の投与量は1日1回あたり106〜1013個程度であり、1週〜8週間隔で投与される。
【0056】
siRNA又はshRNAを目的の組織又は器官に導入するために、市販の遺伝子導入キット(例えばアデノエクスプレス:クローンテック社)を用いることもできる。
4.サイトカイン類産生調節用又は抗アレルギー用の食品、飲料、飼料又は化粧料
本発明は、シノビオリンの発現及び/又は機能を調節する物質を含有する、食品、飲料又は飼料を提供する。これらの食品、飲料、飼料及び化粧料は、サイトカイン類産生調節用に使用され、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する物質を含有するときは、抗アレルギー用食品に使用される。
【0057】
ここで、「サイトカイン類産生調節」とは、IL-4の産生を調節(促進又は抑制)することを意味する。また、産生調節の対象となるサイトカインとしては、IL-4などが挙げられる。
【0058】
本発明の食品、飲料、飼料および化粧料において、シノビオリンの発現及び/又は機能を調節する物質の含有割合は特に限定はされず、各種用途(さらにはその種類)に応じて、適宜設定することができる。また、本発明の食品、飲料、飼料および化粧料を得る方法についても限定されるものではなく、各種用途(さらにはその種類)に応じた公知の製造方法を採用することができる。
【0059】
本発明の食品としては、限定はされないが、例えば、食用パン類、ビスケット、チョコレート、ゼリー、アイスクリーム等の菓子類、うどん、そば、中華そば、各種パスタ等の麺類、ハンバーグ、ハム、ベーコン、ウインナー等の加工肉、チーズ、牛乳等の乳製品、健康食品、各種調味料、各種インスタント食品等が挙げられる。
【0060】
本発明の飲料としては、限定はされないが、例えば、コーヒー、紅茶、緑茶、野菜ジュース、果物ジュース、各種スポーツドリンク等が挙げられる。
【0061】
本発明の飼料としては、限定はされないが、例えば、家畜用の餌、ペットフード等が挙げられる。
【0062】
本発明の化粧料としては、限定はされないが、例えば、化粧水、乳液、ファンデーション、エッセンス、クリーム、日焼け止めローション等が挙げられる。
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
本実施例では、野生型マウスの各免疫系細胞におけるシノビオリンの発現解析を行った。各免疫系細胞として、末梢血単核球、肝臓単核球、脾臓細胞(B細胞およびT細胞)及び腹腔内細胞を使用した。
【0065】
末梢血単核球は以下の方法で回収した。すなわち、野生型マウスから全血採血を行い、全血に10%FCSを含むRPMI1640培地(以下培地と略す)5mLを加え、Lympholyte-M (CEDARLANE) 5mL上に重層させたものを1500rpm 20分遠心を行った。中間層を回収して培地で2回洗浄後1mLの培地に懸濁した。
【0066】
肝臓単核球は、以下の方法により調製した。すなわち、リン酸緩衝液で還流した肝臓をメッシュでつぶし、45%パーコール液5 mLに懸濁した。この懸濁液を67.5%パーコール液3mL上に重層し、2000rpmで20分の遠心を行った。遠心後の中間層を回収して培地で2回洗浄後、1mLの培地に懸濁した。
【0067】
脾臓細胞として、スライドグラスを用いて臓器を細分化後、スチールメッシュを通過したものを回収し、赤血球を除去後に培地に懸濁したものを用意した。
【0068】
脾臓B細胞およびT細胞は以下の方法で回収した。ビオチン標識マウス抗CD45R抗体(RA3-6B2)5 μgを、洗浄したマグネットビーズ(Dynabeads)250 μLに加え、30分間4℃でインキューベートしてマグネットビーズ標識抗マウスCD45R抗体を作製した。脾臓細胞5x107個を加えて30分間4℃でインキューベート後、マグネットを用いて脾臓CD45R陽性細胞を回収し、これを脾臓B細胞として用いた。CD45R陽性細胞を除去した残りの細胞を脾臓T細胞として以下の実験に用いた。
【0069】
腹腔内細胞は、マウスの腹腔内を培地5mLで洗浄した液を回収し、1 mLの培地に懸濁しなおしたものを用いた。
【0070】
単離した各細胞は、ISOGEN(WAKO)1mLを加えて溶解させ、定法に従い総RNAを抽出した。DNaseI処理およびフェノールクロロホルム処理後エタノール沈殿を行って回収した
RNAをDEPC水10μLに溶解した。総RNA1μLをシノビオリン特異的なTaqManプローブ(ABI)もしくはhuman18S (ABI)各0.5 μL、TaqMan Mixture(ABI)5μL、DEPC水 3.5μLを含む混合液に加え、7500Real-Time PCR System(ABI)のプログラムに従いRT-PCRを行い、シノビオリン/18Sの比を求めた。
【0071】
その結果、解析したすべての細胞でシノビオリンの発現が見られたが、特に、B細胞で高値を示した(図1)。
【実施例2】
【0072】
本実施例では、シノビオリン遺伝子のヘテロノックアウトマウス(syno+/-)におけるアレルギー誘導時の抗原特異的な抗体産生について検討した。syno+/-マウスは、当業者に周知の技術に従って本発明者らが作製したもの(WO 02/052007、Genes Dev. 2003 Vol. 17:2436-49)を使用した。
【0073】
DBA/1Jマウスをバックグラウンドとするsyno+/-マウスおよび野生型マウス(雄:5〜9週齢, syno+/-4匹、野生型2匹)に対し、1匹当たり水酸化アルミニウムゲル(alum)4mgと卵白アルブミン(OVA)10μgを0.1 Mリン酸緩衝液(pH 7.5) 0.2 mLに懸濁したalum-OVAを腹腔内投与し、14日後に同量のalum-OVAを腹腔内へ再投与した。28日目に剖検を行い、各マウスの心臓から全血採血を行った。得られた全血から遠心分離を行って血清を回収した。血清中の抗原特異的な抗体産生はELISA法により検出した。
【0074】
リン酸緩衝液に溶解したOVAを25 ng/ウェルとなるように96 ウェルプラスティックプレート(スミロン)にコートし、その上に採取した各マウス血清を加え、1時間室温で放置した。各ウェルを洗浄後に1.0μg/mL のHRP標識抗マウスIgG1抗体 (LO-MG1-2)を各ウェルに50μLずつ加え、OVA特異的なIgG1を検出した。検出にはTMB基質液セット(BD Pharmingen)を用い、反応停止後にマイクロプレートリーダーを用いて450nmにて測定を行った。OVA特異的なIgG2aについては、IgG1の検出と同様に、OVAを100 ng/ウェルでコートし、HRP標識抗マウスIgG2a抗体 (LO-MG2a-7)を用いて検出を行った。
【0075】
OVA特異的なIgEの測定は以下の方法で行った。抗マウスIgE抗体(LO-ME-3)を100ng/ウェルずつコートした96ウェルプラスティックプレートに、2倍段階希釈した血清を加えて1時間室温で放置した。ウェルを洗浄後5μg/mLの濃度のビオチン標識OVAを加え、1時間室温で放置した。ビオチン標識OVAはEZ-LinkSulfo-NHS-Biotin試薬(PIERCE)を用いて作製した。各ウェルを洗浄後、1000倍希釈したECLストレプトアビディンHRP(アマシャム)を加えてさらに1時間室温で放置した。各ウェルを洗浄後TMB基質液を加え、反応停止後にマイクロプレートリーダーを用いて450nmにて測定を行った。
【0076】
その結果、syno+/-では抗原(OVA)特異的なIgEの産生が低下していた。一方、抗原特異的なIgG1およびIgG2aについては差は認められなかった(図2)。
【実施例3】
【0077】
本実施例では、DBA/1Jバックグラウンドのsyno+/-マウスにおけるアレルギー誘導時の総IgE、総IgMの産生について検討を行った。血清中総IgE濃度の測定はtotal EIA IgE測定キット(ヤマサ)を、また総IgM濃度はMouse IgM ELISA Quantitation Kitキット(BETHYL)を用いて測定を行った。各ウェルを洗浄後TMB基質液を加え、反応停止後にマイクロプレートリーダーを用いて450nmにて測定を行った。
【0078】
その結果、syno+/-マウスでは総IgE産生が低下傾向にあった(図3)。
【実施例4】
【0079】
本実施例では、C57BL/6をバックグラウンドとしたsyno+/-マウスおよび野生型マウス(雌:7〜13週齢, syno+/- 4匹、野生型3匹)を用いて実施例2と同様の実験を行った。血清中のOVA特異的なIgE、IgG1およびIgG2aの測定は実施例2に記載した方法で行った。血清中のOVA特異的なIgMの測定方法については以下に記した。
【0080】
50 ng/ウェルのOVAをコートしたプレートに段階希釈した血清を加え1時間室温で放置した。各ウェルを洗浄後、20 ng/mLのHRP標識IgMを加えさらに1時間室温で放置した。ウェルを洗浄後TMB基質液を加え、反応停止後にマイクロプレートリーダーを用いて450 nmにて測定を行った。
【0081】
その結果、DBA/1Jバックグラウンドの場合と同様にC57BL/6バックグラウンドsyno+/-マウスにおいても、alum-OVA免疫時の抗原特異的なIgE産生が有意に低下していた(図4)。
【実施例5】
【0082】
本実施例では、C57BL/6バックグラウンドのsyno+/-マウスにおけるアレルギー誘導時の総IgE、総IgMの産生について検討を行った。総IgM濃度の測定は実施例3に記載の方法で行った。
【0083】
血清中総IgE濃度の測定は抗マウスIgE抗体(LO-ME-3)を100ng/ウェルずつコートした96ウェルプラスティックプレート上に血清を加えて1時間室温で放置した。ウェルを洗浄後に、total EIA IgE測定キット(ヤマサ)を用いて測定を行った。
【0084】
総IgG1濃度測定は以下の方法で行った。
【0085】
精製抗マウスIgG1抗体(A85-3)を200倍希釈してコートしたプレートに段階希釈した血清を加え1時間室温で放置した。スタンダードには抗マウスIgG1抗体(MOPC-31C)を用いた。各ウェルを洗浄後、0.1μg/mL のHRP標識抗マウスIgG1抗体を各ウェルに50μLずつ加え1時間室温で放置した。各ウェルを洗浄後TMB基質液を加え、反応停止後にマイクロプレートリーダーを用いて450 nmにて測定を行った。
【0086】
その結果、DBA/1Jバックグラウンドの場合と同様にC57BL/6バックグラウンドsyno+/-マウスにおいて、alum-OVA免疫時の総IgE産生がsyno+/-マウスにおいて低下傾向を示した(図5)。
【実施例6】
【0087】
本実施例では、syno+/-マウスにおけるアレルギー誘導時のサイトカイン産生を検討した。
【0088】
実施例2に記載のスケジュールでalum-OVA免疫を行ったマウスから脾臓を摘出し、スライドグラスを用いて細分化後に培地5 mLに懸濁した。赤血球除去後にsyno+/-群および野生型群毎に細胞をプールし、各々を培地5 mLに懸濁した。細胞数を測定後に2.5x105細胞/ウェルとなるように96ウェル培養プレートに細胞を播種した。各ウェルには培地のみもしくはOVAを最終濃度0.1 mg/mLとなるように加え、CO2濃度5%、37℃下で90時間培養を行った。培養終了後、培養プレートを1200 rpm 5分間遠心し、培養上清を新しいプレートに回収した。培養上清中のIFN-γおよびIL-4の濃度はOptEIA Set Mouse IFN-γ(BD Pharmingen)およびOptEIA Set Mouse IL-4(BD Pharmingen)を用いて検出した。発色はTMB基質液を用い、反応停止後にマイクロプレートリーダーを用いて450 nmにて測定を行った。
【0089】
その結果、alum-OVA免疫時の脾臓細胞にOVA刺激を加えたところ、syno+/-マウス群では低用量のOVA刺激下にてIL-4産生量が低下していた(図6)。
【実施例7】
【0090】
本実施例では、syno+/-マウス脾臓細胞におけるIL-4レセプターの発現を検討した。
【0091】
DBA/1Jをバックグラウンドとしたsyno+/-マウスおよび野生型マウス(雌:9〜16週齢, syno+/- 3匹、野生型3匹)から全血採血後に脾臓を摘出した。脾臓細胞はスライドグラスを用いて臓器を細分化後、スチールメッシュを通過したものを回収し、赤血球を除去後に培地に懸濁したものを用意した。1x106/チューブに調整した脾臓細胞に、ブロッキング液として抗マウスCD16/CD32抗体(2.4G2)を加え、4℃にて30分間インキュベートを行った後、余分なブロッキング液を除去した。そこにT細胞マーカーとしてFITC標識抗マウスTCRβ抗体(H57-597)、PE標識抗マウスIL-4レセプター抗体(mIL4R-M1)、およびB細胞マーカーとしてビオチン標識抗CD45R抗体を1μgずつ加え、4℃にて30分間インキュベートした。染色バッファー(1%BSAを含むリン酸バッファー)にて2回洗浄後にストレプトアビディンPerCP-Cy5.5(BD)を0.25μg添加し、さらに4℃にて30分間インキュベートした。3回洗浄後に1mLの染色バッファーに懸濁したサンプルをFACS Callibar(BD)で取り込み、CellQuest(BD)を用いて解析を行った。
【0092】
その結果、脾臓細胞でのIL-4レセプターの発現比率は、syno+/-マウス細胞と野生型マウスの細胞間で差は認められなかった(図7)。
【実施例8】
【0093】
本実施例では、IL-4産生に関わるレセプターであるICOSの発現についてsyno+/-マウス脾臓細胞を用いて検討した。 実施例7に記載した方法で調整したsyno+/-マウスおよび野生型マウスの脾臓細胞を用いて以下の実験を行った。
【0094】
フローサイトメトリー用に調整した脾臓細胞1x106個に対し、T細胞マーカーとしてFITC標識抗マウスTCRβ抗体(H57-597)およびビオチン標識抗マウスICOS抗体(7E.17G9)を1μgずつ加え、4℃にて30分間インキュベートした。染色バッファー(1%BSAを含むリン酸バッファー)にて2回洗浄後にストレプトアビディンPerCP-Cy5.5(BD)を0.25μg添加し、さらに4℃にて30分間インキュベートした。3回洗浄後に1mLの染色バッファーに懸濁したサンプルをFACS Callibar(BD)で取り込み、CellQuest(BD)を用いて解析を行った。
【0095】
その結果、脾臓T細胞でのICOS発現比率は、syno+/-マウス細胞と野生型マウスの細胞間で差は認められなかった(図8)。
【実施例9】
【0096】
本実施例では、脾臓細胞にIL-4刺激を加えた際の細胞増殖反応について検討した。
【0097】
syno+/-マウスおよび野生型マウス(各雌3匹)から脾臓細胞を採取し、96ウェルプレートに5x105細胞/ウェルとなるよう播種した。リコンビナントマウスIL-4(PeproTech EC)を最終濃度1および10 ng/mLの濃度で、さらにポジティブコントロールとしてLPSを最終濃度1μg/mLとなるよう添加し、24時間37℃、5%CO2存在下にて培養を行い、WST-8(Dojindo)20μLを添加して4時間後にマイクロプレートリーダーを用いて450 nmの波長にて測定を行った。
【0098】
その結果、syno+/-群と野生型群間に有意な差は認められなかった(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明により、シノビオリンの発現及び機能を調節する物質を含む医薬組成物、及び当該物質を含む食品、飲料、飼料又は化粧料が提供される。本発明において、シノビオリンの発現及び機能を抑制する物質は、抗アレルギー剤等の医薬組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】野生型マウスの各免疫系細胞におけるシノビオリンの発現解析を示す図。
【図2】syno+/-マウス(DBA/1J)におけるアレルギー誘導時の抗原特異的な抗体産生を示す図。
【図3】syno+/-マウス(DBA/1J)におけるアレルギー誘導時の抗体産生(total)を示す図。
【図4】syno+/-マウス(C57BL/6)におけるアレルギー誘導時の抗原特異的な抗体産生を示す図。
【図5】syno+/-マウス(C57BL/6)におけるアレルギー誘導時の抗体産生 (total) を示す図。
【図6】syno+/-マウス(DBA/1J)におけるアレルギー誘導時のサイトカイン産生を示す図。
【図7】syno+/-マウス脾臓細胞におけるIL-4Rの発現を示す図。
【図8】syno+/-マウス脾臓細胞におけるICOSの発現を示す図。
【図9】syno+/-マウス脾臓細胞のIL-4刺激に対する増殖反応を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL-4の産生及び/又はIgEの産生を調節する物質を含む医薬組成物。
【請求項2】
IL-4の産生及び/又はIgEの産生調節物質が、シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害又は促進するものである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する物質が、シノビオリン又はシノビオリンをコードする遺伝子に対する低分子化合物、ペプチド、抗体、デコイ核酸、アンチセンス核酸、siRNA及びshRNAからなる群から選択される少なくとも1つである請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
シノビオリンをコードする遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列を含むものである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
siRNAが、配列番号1に示す塩基配列のうち一部の配列を標的とするものである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項6】
IL-4の産生及び/又はIgEの産生を調節する物質を含む、アレルギー性疾患、感染症、自己免疫疾患又は白血病を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項7】
アレルギー性疾患が、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショック、ダニアレルギー疾患、花粉症及び食物アレルギー疾患からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
感染症が、アメーバ症、回虫症、バベシア症、クリプトスポリジウム症、ジアルジア症、 鉤虫症、マラリア、蟯虫症、住血吸虫症、条虫感染症、トキソカラ症、トキソプラズマ症、旋毛虫症、鞭虫症、疥癬、アニサキス症、エキノコックス症、食品媒介寄生蠕虫症、シラミ症、幼虫移行症及びサルコイドーシスからなる群から選択される少なくとも1つである請求項6記載の医薬組成物。
【請求項9】
自己免疫疾患が、関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性硬化症、多発性筋炎、ギラン・バレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、水疱性類天疱瘡、グレーヴス病(バセドウ病)、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、天疱瘡、悪性貧血、膠原病、低IgE血症及び無γグロブリン血症からなる群から選択される少なくとも1つである請求項6記載の医薬組成物。
【請求項10】
白血病が、骨髄形成症、多発性骨髄腫、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血及び慢性骨髄性白血病からなる群から選択される少なくとも1つである請求項6記載の医薬組成物。
【請求項11】
シノビオリンの発現及び/又は機能を調節する物質を含有する、サイトカイン類産生調節用の食品、飲料又は飼料。
【請求項12】
シノビオリンの発現及び/又は機能を阻害する物質を含有する、抗アレルギー用の食品、飲料又は飼料。
【請求項13】
シノビオリンの発現及び/又は機能を調節することを特徴とするIL-4及びIgEの産生調節方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−155204(P2009−155204A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366318(P2005−366318)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(301050902)株式会社ロコモジェン (15)
【Fターム(参考)】