アレルギー抑制物質
【課題】本発明の目的は、パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したアレルギー抑制物質を提供することにある。
【解決手段】アレルギー性疾患を抑制するための物質に関する。
ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンからなるアレルギー抑制物質であって、本アモルファスパラミロンは、X線回折法による結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下の物質である。
このアレルギー抑制物質は、アレルギー性疾患であるアトピー性皮膚炎及び花粉症等を有効に抑制することができる。
【解決手段】アレルギー性疾患を抑制するための物質に関する。
ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンからなるアレルギー抑制物質であって、本アモルファスパラミロンは、X線回折法による結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下の物質である。
このアレルギー抑制物質は、アレルギー性疾患であるアトピー性皮膚炎及び花粉症等を有効に抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したアレルギー抑制物質に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性疾患の一つであるアトピー性皮膚炎では、環境抗原(ハウスダスト・花粉・カビ等)に対するアレルギー反応の獲得及びそれに対する過剰反応が起こることにより、痒みを伴う皮膚炎症状を呈すると考えられている。
これらのアレルゲンによる感作が成立するためには、抗原提示細胞による抗原の貪食と抗原情報の提示及びTh2型CD4+T細胞による抗原認識が必要である。
Th2型CD4+T細胞が皮膚病変領域に浸潤し、サイトカインを産出して炎症を惹起する場合(4型過敏症)と、更にリンパ節へ移動したTh2型CD4+T細胞がB細胞のIgEに感作された抹消組織における肥満細胞の脱顆粒による炎症反応が起こる場合(1型過敏症)がある。
人・動物のアトピー性皮膚炎には、この4型過敏症と1型過敏症の双方が関与している。
近年、β-1,3-glucanが免疫調節機能を有し、人の花粉症の症状改善効果を示すことなどが報告されているが、当該効果に関する報告は少なく、詳細には明らかにされていない。
【0003】
一方、β-1,3-glucanとして、微生物由来のパラミロン(paramylon)という多糖が一般的に知られている。
このパラミロンとは、約700個のグルコースが、β-1,3-結合により重合した高分子体であり、ユーグレナ(Euglena)が含有する貯蔵多糖である。
このパラミロンは、ユーグレナから単離されて、様々な用途に使用されている。
【0004】
このような単離されたパラミロン粒は、体に有効な作用が認められており、食用として活用されている。
例えば、パラミロン粒は、多孔質であることから、コレステロール等を吸着して大対外へ排出するという効果があると言われている。
また、パラミロン粒は、粒子が細かいことから、化粧品や日用品等への応用も期待されている。
【0005】
更に、上記のようにβ-1,3-glucanは、身体の免疫機構に作用し、抗菌作用、抗ウイルス作用、代謝改善作用、抗腫瘍性、抗アレルギー性等の様々な効能が確認されており、このような機能を活用する研究も進められている。
【0006】
このような状況下、ユーグレナよりパラミロンを単離し、このパラミロンを含有した健康食品やサプリメント等が開発されているとともに、薬剤等様々な用途に利用する技術が開発されている。
【0007】
その一例として、例えば、特許文献1には、パラミロンを含有する凍結乾燥した薬剤の技術が開示されている。
特許文献1に記載の技術では、培養したユーグレナ細胞からパラミロンを単離し、このパラミロンを含有させた非経口投与又は経口投与の薬剤を製造する。
そして、その薬剤は、生体用マトリックス、特にプラスター、栄養補助剤としての使用、化粧品成分、医薬成分の投与のため使用される。
【0008】
また、特許文献2には、肌荒れ等の皮膚疾患を改善する成分として、ユーグレナ属原生生動物が産出するβ-1,3-glucanを含有させる技術が開示されている。
特許文献2の技術では、β-1,3-glucanを基剤等に含有させて塗布したり、食品に含有させて経口投与することにより肌荒れ等の皮膚疾患を改善することができるということが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−529538号公報
【特許文献2】特開2004−339113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、ユーグレナより単離されたパラミロンは、様々な用途に使用され実績をあげている。
一方、出願人は、このようにユーグレナより単離されたパラミロンを更に有効に活用するために鋭意研究を重ねた。
つまり、パラミロンが奏する有用な機能、特に、皮膚炎を改善及び解消する機能を更に大きく発現させるべく、パラミロン自体に改良を加え、有用な知見を得たものである。
【0011】
本発明においては、パラミロンはアモルファス化され、「アモルファスパラミロン」となっている。
「アモルファス」(amorphous)とは、非晶質のことであり、これは、結晶のような長距離秩序は無いが、短距離秩序を有する物質の状態を指す。
熱力学的には、自由エネルギーの極小(非平衡準安定状態)にある状態のことをいう。
同じ物質であっても、結晶状態とアモルファス状態とでは、同じ材料でも物性が大幅に変わることがある。
例えば、電気伝導性、熱伝導性、光透過性、物理的強度、耐触性、超伝導性等が大幅に変わってしまうことがあることが報告されている。
【0012】
本発明の目的は、上記各問題点を解決することにあり、パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したアレルギー抑制物質に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、請求項1に係る発明であるアレルギー抑制物質によれば、アレルギー性疾患を抑制するための物質であって、ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンからなることにより解決される。
また、このとき、このアモルファスパラミロンの特性としては、X線回折法による、前記結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下である。
【0014】
このように、本発明においては、有効効果を向上させるべく、結晶性パラミロンをアモルファス化し、「アモルファスパラミロン」とした。
なお、「結晶性パラミロン」とは、培養されたユーグレナより公知の方法で精製されたパラミロンを指し、通常粉末体として提供される。
つまり、本明細書においては、「アモルファス」との物質的区別を図るべく「結晶性」という文言を使用したものである。
このように、本発明によれば、結晶性パラミロンをアモルファス化し、非晶性とした(ただし、「全く結晶構造を持たない」という意味合いではなく、「結晶性パラミロンと比して結晶性が低くなっている」という意味合いで「非晶性」という文言を使用する)。
【0015】
このように、アモルファス化することにより、本発明に係るアモルファスパラミロンにおいては、X線回折法による、結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下となっている。
このように、アモルファス化されたアモルファスパラミロンは、結晶性パラミロン粉末体とは異なった物性を示し(比重、結晶の大きさ等)、特に、アレルギー抑制効果を有する有効な物質となる。
【0016】
また、具体的には、前記アレルギーは、皮膚炎若しくは花粉症であり、前記皮膚炎は、1型過敏症及び4型過敏症双方を含むアトピー性皮膚炎である。
上記のような特性を有した、本発明に係るアレルギー抑制物質は、食品、薬品、飼料から選択される少なくとも一の製品に含有されて提供されることにより、有効な効果であるアレルギー抑制機能を有効に奏する。
【0017】
「含有」という文言は、「少なくとも一部に成分として含まれる」という意味であり、「全てがアモルファスパラミロン(アレルギー抑制物質)で構成される」こともその概念に含む。
このように、本発明に係るアモルファスパラミロンからなるアレルギー抑制物質は、あらゆる形態でアレルギー抑制機能を有する物質として提供され得るとともに、広く活用の場を想定することができる有用な物質である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るアレルギー抑制物質は、結晶性パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したものである。
このアモルファスパラミロンで構成されるアレルギー抑制物質を投与することによって、アレルギー症状が有効に抑制されることがわかった。
このように、本発明に係るアレルギー抑制物質は、アレルギー性疾患を有効に抑制するために広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るアモルファスパラミロンの製造工程を示す工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るアモルファスパラミロンの回折ピーク位置確認フルスキャン結果を示すスキャンチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係るアモルファスパラミロンの回折強度測定用詳細スキャン結果を示すスキャンチャートである。
【図4】実験プロトコルである。
【図5】皮膚炎スコア結果を示すグラフである。
【図6】耳介の状態及び背面皮膚状態を撮像した写真である。
【図7】耳介の厚さを示すグラフである。
【図8】皮膚の病理組織を撮像した写真である。
【図9】血清総IgE濃度を示すグラフである。
【図10】血清IL-4濃度を示すグラフである。
【図11】血清IFN−γ濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する構成は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
本実施形態は、結晶性パラミロンをアモルファス化し、結晶性パラミロンよりも有用効果を向上させたアモルファスパラミロンに関するものである。
【0021】
図1はアモルファスパラミロンの製造工程を示す工程図、図2はアモルファスパラミロンの回折ピーク位置確認フルスキャン結果を示すスキャンチャート、図3はアモルファスパラミロンの回折強度測定用詳細スキャン結果を示すスキャンチャート、図4は実験プロトコル、図5は皮膚炎スコア結果を示すグラフ、図6は耳介の状態及び背面皮膚状態を撮像した写真、図7は耳介の厚さを示すグラフ、図8皮膚の病理組織を撮像した写真、図9は血清総IgE濃度を示すグラフ、図10は血清IL-4濃度を示すグラフ、図11は血清IFN−γ濃度を示すグラフである。
【0022】
図1により、アモルファスパラミロンの製造方法について説明する。
なお、本製造方法は、約40gのアモルファスパラミロンを製造するための例であり、アモルファスパラミロンの製造量を増減させるためには、適宜スケールを変更することにより対応する。手順は同様である。
【0023】
まず、工程1で、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を調整する。
本実施形態においては、水酸化ナトリウム水溶液を2リットル調整した。
次いで、工程2で、1N水酸化ナトリウム水溶液に結晶性パラミロン粉末を50g添加して溶解させる。
結晶性パラミロン粉末は、1〜2時間スターラで撹拌することにより、1N水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた。
この結晶性パラミロン粉末は、培養したユーグレナより、公知の方法で分離精製されたものである。
【0024】
次いで、工程3で、1N塩酸により、パラミロン粉末が溶解した1N水酸化ナトリウム水溶液を中和した。
なお、1N塩酸を滴下するに従い、滴下部分がゲル化するが、このゲルをスパーテル等で崩しながら、中和が確認されるまで中和反応を継続した。
中和が完了した時点では、水分がゲルに完全に抱き込まれ、全体がゼリー状となる。
【0025】
次いで、工程4で、水分を分離すべく、遠心分離を行った。
この遠心分離は、水分が分離し、沈殿を回収することができる条件で行えばよい。
本実施形態においては、100ml遠沈管で2500rpm、10分間の遠心分離を行った。
【0026】
次いで、工程5で、上清を捨て、沈殿の洗浄を行う。
この工程では、蒸留水を沈殿に添加して撹拌し、遠心分離を行う。
つまり、上清廃棄→蒸留水添加→撹拌→遠心分離という工程を繰り返し実施することにより沈殿を洗浄し、沈殿したゲルを回収する。
本実施形態においては、4回の上記洗浄工程を繰り返した。
【0027】
次いで、工程6で、回収したゲルをバットに広げ、冷凍庫で凍結させ、工程7で凍結乾燥機により凍結乾燥させ、アモルファスパラミロンを得た。
このようにして回収したアモルファスパラミロンは、吸湿性が高いため、ある程度手でほぐした後、乾燥剤を入れたデシケータで保存する。
この操作で、約40gのアモルファスパラミロンを作成することができた。
【0028】
次いで、本発明に係るアモルファスパラミロンについて説明する。
アモルファスパラミロンの結晶度を測定するために、各パラミロンサンプルのX線回折を行った。
サンプルとしては、以下のサンプルを準備した。
(1)サンプル
1.サンプルA 結晶性パラミロン
2.サンプルB アモルファスパラミロン(30g生産スケール)
3.サンプルC アモルファスパラミロン(15g生産スケール)
4.サンプルD アモルファスパラミロン(5g生産スケール)
これらのサンプルは、粉砕機により粉砕された後、X線回折装置により分析される。
なお、サンプルAは、結晶性パラミロン粉末であるが、サンプルB乃至サンプルDを粉砕するため、前処理条件を同一とする目的で粉砕処理を実施した。
また、サンプルAは対照であり、アモルファス化されたパラミロンであるサンプルB乃至サンプルDのサンプルAに対する相対結晶度を算定する。
【0029】
(2)前処理
1.粉砕器
Retsh社製ボールミルMM400
粉砕条件:振動数20回/秒、粉砕時間5分
2.X線回折装置
スペクトリス社製H’PertPRO
測定条件:管電圧45KV、管電流40mA
測定範囲:2θ 5〜70°(回折ピーク位置確認フルスキャン)
2θ 5〜30°(強度測定用詳細スキャン)
【0030】
(3)分析
1.ピーク位置確認
フルスキャンで回折ピーク位置を確認し、回折ピーク強度測定に用いる角度を決定した。
2.回折ピーク強度測定
上記ピーク位置確認で決定した角度で詳細スキャンを実施し、回折ピーク強度を測定した。
その結果を基に、回折ピーク強度比を相対結晶度として算出した。
【0031】
(4)結果
1.ピーク位置確認
回折ピーク位置確認フルスキャンの結果を図2に示す。
図2に示すとおり、サンプルAにおいて、2θ=20°の付近に顕著なピークを観測することができた。
よって、強度測定用詳細スキャンを行う範囲を2θが5°乃至30°の範囲と決定した。
2.強度測定結果
強度測定用詳細スキャンの結果を図3に示す。
図3に示すように、サンプルB乃至サンプルDにおける2θ=20°の付近の回折ピークが、サンプルAの回折ピークに比して小さくなっていることが認められ、このことより、サンプルB乃至サンプルDの結晶度がサンプルAの結晶度に比して小さくなっていることがわかる。
3.結晶度算出
強度測定結果とアモルファスパラミロンのサンプルであるサンプルB乃至サンプルDの相対結晶度の算出結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
相対結晶度は、強度測定結果に基づき下式にて算出する。
相対結晶度(%)=(サンプル回折ピーク強度/対照回折ピーク強度)×100
つまり、対照である結晶性パラミロンの結晶度を100%とし、アモルファス化したパラミロンの結晶度を算出したものである。
このように、アモルファスパラミロンの相対結晶度は、相対結晶度20%以下程度であると考えられ、より詳しくは、相対結晶度16%以下となっていることがわかる。
【0034】
なお、回折ピーク位置確認フルスキャンの結果である図2には、その他、2θ=20°付近のピークの他に、数本のシャープなピークが存在する。
これは、サンプルB乃至サンプルDに共通に現れていることから、同様の構造によるものであると考えられ、このことからも、アモルファス化によって、結晶構造が変化し、結晶性パラミロンとは異なる構造となったことがわかる。
【0035】
これは、元は3重螺旋であったβ-1,3-glucanの結晶構造が、アモルファス化を行うことによって無くなり、β-1,3-glucanの螺旋構造ではない立体構造のピーク若しくはノーマルな一本鎖のβ-1,3-glucanのピーク等が現れている可能性があると推測される。
【0036】
以上のように、結晶性パラミロンをアモルファス化し、アモルファスパラミロンを形成することによって、結晶構造を変化させ、これに伴う有用な効果を創出することができる。
つまり、通常の結晶構造の結晶性パラミロンには無い若しくは通常構造の結晶性パラミロンにおいては低い効能を、アモルファスパラミロンは高く発揮することができるものである。
【0037】
次いで、効果の一例を示す。
アトピー性皮膚炎モデルマウスを使用した。
実験方法について説明する。
まず、NC/Ngaマウス、オス、5週齢を購入し、1週間の馴致飼育の後、図4に示すプロトコルに基づき実験及び評価を行った。
NC/Ngaマウスとは、皮膚炎を自然発症させることを目的として作成された自然発症皮膚炎モデルマウスである。
NC/Ngaマウスには、被検物質を所定量混入した粉末飼料及び被検物を混入しない粉末飼料(陰性及び陽性コントロール)を試験期間中、毎日自由に摂取させた(試験期間:54日)。
被検物質投与後7日目に背部及び腹部を毛刈し、接触皮膚炎感作性物質トリニトロクロルベンゼン(2,4,6-Trinitrochlorbenzene:以下「TNCB」)溶液を感作のために胸・腹部・後肢(フットパット)に150μl塗布した。
TNCB溶液は、99.5%エタノール:アセトン=4:1の割合で混合した溶液に、TNCBを5%の濃度で溶解させたものを使用した。
感作後4日目以降1週間おきにTNCB溶液を背部及び左右耳介両面に塗布した。
TNCB溶液は、背部に130μl、耳介一面に対して10μlずつ塗布した。
感作後47日目に安楽死を施し、背部皮膚、左右耳介、血液を採取し、各評価を実施した。
【0038】
実験群は、
a.陰性コントロール(TNCB非感作):標準飼料投与
b.陽性コントロール:標準飼料投与
c.結晶性パラミロン0.1%投与(飼料に混合)
d.結晶性パラミロン1%投与(飼料に混合)
e.アモルファスパラミロン0.1%投与(飼料に混合)
f.アモルファスパラミロン1%投与(飼料に混合)
とした。
各、n=10である。
【0039】
(1)皮膚炎スコア
結果を、図5に示す。
図5は、皮膚炎スコアの結果を示す。
皮膚炎スコアとは、
a.発赤・出血
b.浮腫
c.擦傷・表皮剥離・組織欠損
d.乾皮・痂皮
の程度に基づき、0(無兆候)、1(軽微)、2(中程度)、3(重篤)の4段階に評点化し、合計点数をスコアとして示したものである(0〜12点)。
感作後、0、4、11、18、25、32、39、46、47日目に評価を実施した。
【0040】
図5に示すように、陽性コントロール群には、顕著な皮膚炎兆候が認められたことに対し、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群は、皮膚炎兆候が抑制されていることがわかる。
そして、陽性コントロール群と、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群との間には、有意差が認められた(有意水準5%)。
更に、結晶性パラミロン投与群とアモルファスパラミロン投与群との間にも有意差が認められ(有意水準5%)、アモルファスパラミロン投与群の方が、より有効に皮膚炎兆候が抑制されていることが検証された。
【0041】
(2)耳介肥厚
感作後、0、4、11、18、25、32、39、46、47日目における耳介の厚さをダイヤルシックネスゲージ(型式G−6C、株式会社尾崎製作所)にて測定した。
結果を図6(写真)及び図7に示す。
【0042】
図6に示すように、陽性コントロール群では、耳介が顕著に肥厚及び変形していたことがわかる。
これは、皮膚炎の症状が進行したためである。
これに対して、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群においては、当該徴候の抑制が認められた。
このように、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、皮膚炎の進行が抑制されていることがわかる。
【0043】
また、図7に示すように、感作後47日目における耳介の厚さにおいては、陽性コントロール群と結晶性パラミロン1%投与群との間、陽性コントロール群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間、結晶性パラミロン0.1%投与群及び結晶性パラミロン1%投与群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間、に有意差(有意水準5%)が認められた。
このように、結晶性パラミロン自体にも皮膚炎抑制効果が認められるが、アモルファス化させたアモルファスパラミロンの方が、より効果的に皮膚炎を抑制することが検証された。
【0044】
(3)皮膚の病理組織学的所見
各群の皮膚のパラフィン包埋切片を作成し、HE染色を施した。
結果を図8(写真)に示す。
【0045】
図8に示すように、陰性コントロール群では、明らかな病理組織学変化が認められなかったことに対し、陽性コントロール群では、表皮の肥厚、角化亢進、真皮における好酸球、肥満細胞、リンパ球をはじめとする炎症細胞の浸潤が観察された。
結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、当該組織学的所見の軽減化が認められた。
この効果は、結晶性パラミロン投与群よりもアモルファスパラミロン投与群の方が大きく、双方、0.1%投与群よりも1%投与群の方の効果が大きかった。
【0046】
(4)血清総IgE濃度
マウスIgE測定キット(コスモバイオ、YSE-7675)を用い、ELISA法にて測定を実施した。
結果を図9に示す。
【0047】
陽性コントロール群では、血清IgE濃度の顕著な上昇が認められたことに対し、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、血清IgE上昇が抑制されていた。
また、陽性コントロール群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間には、有意差(有意水準5%)が認められ、アモルファスパラミロン投与群においては、血清IgE濃度の上昇が抑制されていることがわかった。
この結果より、アモルファスパラミロンは、アトピー性皮膚炎の特に1型過敏症を有効に抑制することが示唆される。
つまり、アトピー性皮膚炎の1型過敏症は、リンパ節へ移動したTh2型CD4+T細胞がB細胞のIgEに感作された抹消組織における肥満細胞を脱顆粒することによる炎症反応であるため、アモルファスパラミロンによりIgEを減少させ、本症状を抑制することができることが示唆されることとなる。
また、この結果より、アモルファスパラミロンが、アレルギーの一種である花粉症の抑制に有効であることも示唆される。
つまり、アモルファスパラミロンは血清IgE濃度の上昇を抑制するため、花粉のアレルゲンと結合するIgEを減少させ、アレルギー症状を抑制するために有効であることが示唆されることとなる。
換言すれば、アモルファスパラミロンは免疫調節機能を有し、アトピー性皮膚炎の1型過敏症及び人の花粉症の症状改善効果を示すことが示唆される。
【0048】
(5)血清サイトカイン
血清サイトカインである血清IL-4濃度及び血清IFN−γ濃度の測定を実施した。
その結果を図10及び図11に示す。
【0049】
図10に示すように、陽性コントロール群では、血清IL-4濃度の顕著な上昇が認められたことに対し、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、血清IL-4濃度の上昇が抑制されていた。
陽性コントロール群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間には、有意差(有意水準5%)が認められ、アモルファスパラミロン投与群においては、血清IL-4濃度の上昇が抑制されていることがわかった。
【0050】
なお、図11に示すように、陽性コントロール群では、血清IFN−γ濃度の顕著な上昇が認められた。
結晶性パラミロン各投与群及びアモルファスパラミロン各投与群では、血清IFN−γ濃度の減少傾向が認められたが、統計学的有意差は生じなかった。
しかし、図11に示すように、血清IFN−γ濃度の減少傾向が認められるため、結晶性パラミロン及びアモルファスパラミロンには、血清IFN−γ濃度上昇を抑制する効果があるものと考えられる。
この結果より、アモルファスパラミロンは、アトピー性皮膚炎の4型過敏症を有効に抑制することが示唆される。
つまり、アトピー性皮膚炎の4型過敏症は、Th2型CD4+T細胞が皮膚病変領域に浸潤し、サイトカインを産出して炎症を惹起するところ、アモルファスパラミロンはサイトカインを減少させ、有効にアトピー性皮膚炎の4型過敏症を抑制することが示唆されるものである。
【0051】
このように、結晶性パラミロン自体に各アレルギー性疾患を抑制する効果は認められるが、このような通常の結晶性パラミロンに比して、アモルファスパラミロンは、各アレルギー性疾患を抑制する効果が更に高いことが検証された。
【0052】
このように、アモルファスパラミロンは、アモルファス化することにより通常の結晶性パラミロンにはない効果を奏する物質となる。
つまり、アモルファスパラミロンは、アレルギー性疾患を有効に抑制するアレルギー抑制物質として機能することが検証された。
本実施形態においては、経口投与したが、投与方法はこれに限られることはなく、本発明の趣旨を逸脱するものでなければ、どのような投与方法でもよい。
【0053】
つまり、薬品としての使用にとどまらず、他の材料と混和して健康食品として活用することも可能であるし、飼料等としての用途も想定することができる。
以上のように、アモルファスパラミロンは、アレルギー抑制物質として、広い用途に供することが期待されるものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したアレルギー抑制物質に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性疾患の一つであるアトピー性皮膚炎では、環境抗原(ハウスダスト・花粉・カビ等)に対するアレルギー反応の獲得及びそれに対する過剰反応が起こることにより、痒みを伴う皮膚炎症状を呈すると考えられている。
これらのアレルゲンによる感作が成立するためには、抗原提示細胞による抗原の貪食と抗原情報の提示及びTh2型CD4+T細胞による抗原認識が必要である。
Th2型CD4+T細胞が皮膚病変領域に浸潤し、サイトカインを産出して炎症を惹起する場合(4型過敏症)と、更にリンパ節へ移動したTh2型CD4+T細胞がB細胞のIgEに感作された抹消組織における肥満細胞の脱顆粒による炎症反応が起こる場合(1型過敏症)がある。
人・動物のアトピー性皮膚炎には、この4型過敏症と1型過敏症の双方が関与している。
近年、β-1,3-glucanが免疫調節機能を有し、人の花粉症の症状改善効果を示すことなどが報告されているが、当該効果に関する報告は少なく、詳細には明らかにされていない。
【0003】
一方、β-1,3-glucanとして、微生物由来のパラミロン(paramylon)という多糖が一般的に知られている。
このパラミロンとは、約700個のグルコースが、β-1,3-結合により重合した高分子体であり、ユーグレナ(Euglena)が含有する貯蔵多糖である。
このパラミロンは、ユーグレナから単離されて、様々な用途に使用されている。
【0004】
このような単離されたパラミロン粒は、体に有効な作用が認められており、食用として活用されている。
例えば、パラミロン粒は、多孔質であることから、コレステロール等を吸着して大対外へ排出するという効果があると言われている。
また、パラミロン粒は、粒子が細かいことから、化粧品や日用品等への応用も期待されている。
【0005】
更に、上記のようにβ-1,3-glucanは、身体の免疫機構に作用し、抗菌作用、抗ウイルス作用、代謝改善作用、抗腫瘍性、抗アレルギー性等の様々な効能が確認されており、このような機能を活用する研究も進められている。
【0006】
このような状況下、ユーグレナよりパラミロンを単離し、このパラミロンを含有した健康食品やサプリメント等が開発されているとともに、薬剤等様々な用途に利用する技術が開発されている。
【0007】
その一例として、例えば、特許文献1には、パラミロンを含有する凍結乾燥した薬剤の技術が開示されている。
特許文献1に記載の技術では、培養したユーグレナ細胞からパラミロンを単離し、このパラミロンを含有させた非経口投与又は経口投与の薬剤を製造する。
そして、その薬剤は、生体用マトリックス、特にプラスター、栄養補助剤としての使用、化粧品成分、医薬成分の投与のため使用される。
【0008】
また、特許文献2には、肌荒れ等の皮膚疾患を改善する成分として、ユーグレナ属原生生動物が産出するβ-1,3-glucanを含有させる技術が開示されている。
特許文献2の技術では、β-1,3-glucanを基剤等に含有させて塗布したり、食品に含有させて経口投与することにより肌荒れ等の皮膚疾患を改善することができるということが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2003−529538号公報
【特許文献2】特開2004−339113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、ユーグレナより単離されたパラミロンは、様々な用途に使用され実績をあげている。
一方、出願人は、このようにユーグレナより単離されたパラミロンを更に有効に活用するために鋭意研究を重ねた。
つまり、パラミロンが奏する有用な機能、特に、皮膚炎を改善及び解消する機能を更に大きく発現させるべく、パラミロン自体に改良を加え、有用な知見を得たものである。
【0011】
本発明においては、パラミロンはアモルファス化され、「アモルファスパラミロン」となっている。
「アモルファス」(amorphous)とは、非晶質のことであり、これは、結晶のような長距離秩序は無いが、短距離秩序を有する物質の状態を指す。
熱力学的には、自由エネルギーの極小(非平衡準安定状態)にある状態のことをいう。
同じ物質であっても、結晶状態とアモルファス状態とでは、同じ材料でも物性が大幅に変わることがある。
例えば、電気伝導性、熱伝導性、光透過性、物理的強度、耐触性、超伝導性等が大幅に変わってしまうことがあることが報告されている。
【0012】
本発明の目的は、上記各問題点を解決することにあり、パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したアレルギー抑制物質に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、請求項1に係る発明であるアレルギー抑制物質によれば、アレルギー性疾患を抑制するための物質であって、ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンからなることにより解決される。
また、このとき、このアモルファスパラミロンの特性としては、X線回折法による、前記結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下である。
【0014】
このように、本発明においては、有効効果を向上させるべく、結晶性パラミロンをアモルファス化し、「アモルファスパラミロン」とした。
なお、「結晶性パラミロン」とは、培養されたユーグレナより公知の方法で精製されたパラミロンを指し、通常粉末体として提供される。
つまり、本明細書においては、「アモルファス」との物質的区別を図るべく「結晶性」という文言を使用したものである。
このように、本発明によれば、結晶性パラミロンをアモルファス化し、非晶性とした(ただし、「全く結晶構造を持たない」という意味合いではなく、「結晶性パラミロンと比して結晶性が低くなっている」という意味合いで「非晶性」という文言を使用する)。
【0015】
このように、アモルファス化することにより、本発明に係るアモルファスパラミロンにおいては、X線回折法による、結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下となっている。
このように、アモルファス化されたアモルファスパラミロンは、結晶性パラミロン粉末体とは異なった物性を示し(比重、結晶の大きさ等)、特に、アレルギー抑制効果を有する有効な物質となる。
【0016】
また、具体的には、前記アレルギーは、皮膚炎若しくは花粉症であり、前記皮膚炎は、1型過敏症及び4型過敏症双方を含むアトピー性皮膚炎である。
上記のような特性を有した、本発明に係るアレルギー抑制物質は、食品、薬品、飼料から選択される少なくとも一の製品に含有されて提供されることにより、有効な効果であるアレルギー抑制機能を有効に奏する。
【0017】
「含有」という文言は、「少なくとも一部に成分として含まれる」という意味であり、「全てがアモルファスパラミロン(アレルギー抑制物質)で構成される」こともその概念に含む。
このように、本発明に係るアモルファスパラミロンからなるアレルギー抑制物質は、あらゆる形態でアレルギー抑制機能を有する物質として提供され得るとともに、広く活用の場を想定することができる有用な物質である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るアレルギー抑制物質は、結晶性パラミロンの結晶構造を変化させた物質であるアモルファスパラミロンの効能を利用したものである。
このアモルファスパラミロンで構成されるアレルギー抑制物質を投与することによって、アレルギー症状が有効に抑制されることがわかった。
このように、本発明に係るアレルギー抑制物質は、アレルギー性疾患を有効に抑制するために広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るアモルファスパラミロンの製造工程を示す工程図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るアモルファスパラミロンの回折ピーク位置確認フルスキャン結果を示すスキャンチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係るアモルファスパラミロンの回折強度測定用詳細スキャン結果を示すスキャンチャートである。
【図4】実験プロトコルである。
【図5】皮膚炎スコア結果を示すグラフである。
【図6】耳介の状態及び背面皮膚状態を撮像した写真である。
【図7】耳介の厚さを示すグラフである。
【図8】皮膚の病理組織を撮像した写真である。
【図9】血清総IgE濃度を示すグラフである。
【図10】血清IL-4濃度を示すグラフである。
【図11】血清IFN−γ濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下に説明する構成は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
本実施形態は、結晶性パラミロンをアモルファス化し、結晶性パラミロンよりも有用効果を向上させたアモルファスパラミロンに関するものである。
【0021】
図1はアモルファスパラミロンの製造工程を示す工程図、図2はアモルファスパラミロンの回折ピーク位置確認フルスキャン結果を示すスキャンチャート、図3はアモルファスパラミロンの回折強度測定用詳細スキャン結果を示すスキャンチャート、図4は実験プロトコル、図5は皮膚炎スコア結果を示すグラフ、図6は耳介の状態及び背面皮膚状態を撮像した写真、図7は耳介の厚さを示すグラフ、図8皮膚の病理組織を撮像した写真、図9は血清総IgE濃度を示すグラフ、図10は血清IL-4濃度を示すグラフ、図11は血清IFN−γ濃度を示すグラフである。
【0022】
図1により、アモルファスパラミロンの製造方法について説明する。
なお、本製造方法は、約40gのアモルファスパラミロンを製造するための例であり、アモルファスパラミロンの製造量を増減させるためには、適宜スケールを変更することにより対応する。手順は同様である。
【0023】
まず、工程1で、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を調整する。
本実施形態においては、水酸化ナトリウム水溶液を2リットル調整した。
次いで、工程2で、1N水酸化ナトリウム水溶液に結晶性パラミロン粉末を50g添加して溶解させる。
結晶性パラミロン粉末は、1〜2時間スターラで撹拌することにより、1N水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた。
この結晶性パラミロン粉末は、培養したユーグレナより、公知の方法で分離精製されたものである。
【0024】
次いで、工程3で、1N塩酸により、パラミロン粉末が溶解した1N水酸化ナトリウム水溶液を中和した。
なお、1N塩酸を滴下するに従い、滴下部分がゲル化するが、このゲルをスパーテル等で崩しながら、中和が確認されるまで中和反応を継続した。
中和が完了した時点では、水分がゲルに完全に抱き込まれ、全体がゼリー状となる。
【0025】
次いで、工程4で、水分を分離すべく、遠心分離を行った。
この遠心分離は、水分が分離し、沈殿を回収することができる条件で行えばよい。
本実施形態においては、100ml遠沈管で2500rpm、10分間の遠心分離を行った。
【0026】
次いで、工程5で、上清を捨て、沈殿の洗浄を行う。
この工程では、蒸留水を沈殿に添加して撹拌し、遠心分離を行う。
つまり、上清廃棄→蒸留水添加→撹拌→遠心分離という工程を繰り返し実施することにより沈殿を洗浄し、沈殿したゲルを回収する。
本実施形態においては、4回の上記洗浄工程を繰り返した。
【0027】
次いで、工程6で、回収したゲルをバットに広げ、冷凍庫で凍結させ、工程7で凍結乾燥機により凍結乾燥させ、アモルファスパラミロンを得た。
このようにして回収したアモルファスパラミロンは、吸湿性が高いため、ある程度手でほぐした後、乾燥剤を入れたデシケータで保存する。
この操作で、約40gのアモルファスパラミロンを作成することができた。
【0028】
次いで、本発明に係るアモルファスパラミロンについて説明する。
アモルファスパラミロンの結晶度を測定するために、各パラミロンサンプルのX線回折を行った。
サンプルとしては、以下のサンプルを準備した。
(1)サンプル
1.サンプルA 結晶性パラミロン
2.サンプルB アモルファスパラミロン(30g生産スケール)
3.サンプルC アモルファスパラミロン(15g生産スケール)
4.サンプルD アモルファスパラミロン(5g生産スケール)
これらのサンプルは、粉砕機により粉砕された後、X線回折装置により分析される。
なお、サンプルAは、結晶性パラミロン粉末であるが、サンプルB乃至サンプルDを粉砕するため、前処理条件を同一とする目的で粉砕処理を実施した。
また、サンプルAは対照であり、アモルファス化されたパラミロンであるサンプルB乃至サンプルDのサンプルAに対する相対結晶度を算定する。
【0029】
(2)前処理
1.粉砕器
Retsh社製ボールミルMM400
粉砕条件:振動数20回/秒、粉砕時間5分
2.X線回折装置
スペクトリス社製H’PertPRO
測定条件:管電圧45KV、管電流40mA
測定範囲:2θ 5〜70°(回折ピーク位置確認フルスキャン)
2θ 5〜30°(強度測定用詳細スキャン)
【0030】
(3)分析
1.ピーク位置確認
フルスキャンで回折ピーク位置を確認し、回折ピーク強度測定に用いる角度を決定した。
2.回折ピーク強度測定
上記ピーク位置確認で決定した角度で詳細スキャンを実施し、回折ピーク強度を測定した。
その結果を基に、回折ピーク強度比を相対結晶度として算出した。
【0031】
(4)結果
1.ピーク位置確認
回折ピーク位置確認フルスキャンの結果を図2に示す。
図2に示すとおり、サンプルAにおいて、2θ=20°の付近に顕著なピークを観測することができた。
よって、強度測定用詳細スキャンを行う範囲を2θが5°乃至30°の範囲と決定した。
2.強度測定結果
強度測定用詳細スキャンの結果を図3に示す。
図3に示すように、サンプルB乃至サンプルDにおける2θ=20°の付近の回折ピークが、サンプルAの回折ピークに比して小さくなっていることが認められ、このことより、サンプルB乃至サンプルDの結晶度がサンプルAの結晶度に比して小さくなっていることがわかる。
3.結晶度算出
強度測定結果とアモルファスパラミロンのサンプルであるサンプルB乃至サンプルDの相対結晶度の算出結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
相対結晶度は、強度測定結果に基づき下式にて算出する。
相対結晶度(%)=(サンプル回折ピーク強度/対照回折ピーク強度)×100
つまり、対照である結晶性パラミロンの結晶度を100%とし、アモルファス化したパラミロンの結晶度を算出したものである。
このように、アモルファスパラミロンの相対結晶度は、相対結晶度20%以下程度であると考えられ、より詳しくは、相対結晶度16%以下となっていることがわかる。
【0034】
なお、回折ピーク位置確認フルスキャンの結果である図2には、その他、2θ=20°付近のピークの他に、数本のシャープなピークが存在する。
これは、サンプルB乃至サンプルDに共通に現れていることから、同様の構造によるものであると考えられ、このことからも、アモルファス化によって、結晶構造が変化し、結晶性パラミロンとは異なる構造となったことがわかる。
【0035】
これは、元は3重螺旋であったβ-1,3-glucanの結晶構造が、アモルファス化を行うことによって無くなり、β-1,3-glucanの螺旋構造ではない立体構造のピーク若しくはノーマルな一本鎖のβ-1,3-glucanのピーク等が現れている可能性があると推測される。
【0036】
以上のように、結晶性パラミロンをアモルファス化し、アモルファスパラミロンを形成することによって、結晶構造を変化させ、これに伴う有用な効果を創出することができる。
つまり、通常の結晶構造の結晶性パラミロンには無い若しくは通常構造の結晶性パラミロンにおいては低い効能を、アモルファスパラミロンは高く発揮することができるものである。
【0037】
次いで、効果の一例を示す。
アトピー性皮膚炎モデルマウスを使用した。
実験方法について説明する。
まず、NC/Ngaマウス、オス、5週齢を購入し、1週間の馴致飼育の後、図4に示すプロトコルに基づき実験及び評価を行った。
NC/Ngaマウスとは、皮膚炎を自然発症させることを目的として作成された自然発症皮膚炎モデルマウスである。
NC/Ngaマウスには、被検物質を所定量混入した粉末飼料及び被検物を混入しない粉末飼料(陰性及び陽性コントロール)を試験期間中、毎日自由に摂取させた(試験期間:54日)。
被検物質投与後7日目に背部及び腹部を毛刈し、接触皮膚炎感作性物質トリニトロクロルベンゼン(2,4,6-Trinitrochlorbenzene:以下「TNCB」)溶液を感作のために胸・腹部・後肢(フットパット)に150μl塗布した。
TNCB溶液は、99.5%エタノール:アセトン=4:1の割合で混合した溶液に、TNCBを5%の濃度で溶解させたものを使用した。
感作後4日目以降1週間おきにTNCB溶液を背部及び左右耳介両面に塗布した。
TNCB溶液は、背部に130μl、耳介一面に対して10μlずつ塗布した。
感作後47日目に安楽死を施し、背部皮膚、左右耳介、血液を採取し、各評価を実施した。
【0038】
実験群は、
a.陰性コントロール(TNCB非感作):標準飼料投与
b.陽性コントロール:標準飼料投与
c.結晶性パラミロン0.1%投与(飼料に混合)
d.結晶性パラミロン1%投与(飼料に混合)
e.アモルファスパラミロン0.1%投与(飼料に混合)
f.アモルファスパラミロン1%投与(飼料に混合)
とした。
各、n=10である。
【0039】
(1)皮膚炎スコア
結果を、図5に示す。
図5は、皮膚炎スコアの結果を示す。
皮膚炎スコアとは、
a.発赤・出血
b.浮腫
c.擦傷・表皮剥離・組織欠損
d.乾皮・痂皮
の程度に基づき、0(無兆候)、1(軽微)、2(中程度)、3(重篤)の4段階に評点化し、合計点数をスコアとして示したものである(0〜12点)。
感作後、0、4、11、18、25、32、39、46、47日目に評価を実施した。
【0040】
図5に示すように、陽性コントロール群には、顕著な皮膚炎兆候が認められたことに対し、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群は、皮膚炎兆候が抑制されていることがわかる。
そして、陽性コントロール群と、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群との間には、有意差が認められた(有意水準5%)。
更に、結晶性パラミロン投与群とアモルファスパラミロン投与群との間にも有意差が認められ(有意水準5%)、アモルファスパラミロン投与群の方が、より有効に皮膚炎兆候が抑制されていることが検証された。
【0041】
(2)耳介肥厚
感作後、0、4、11、18、25、32、39、46、47日目における耳介の厚さをダイヤルシックネスゲージ(型式G−6C、株式会社尾崎製作所)にて測定した。
結果を図6(写真)及び図7に示す。
【0042】
図6に示すように、陽性コントロール群では、耳介が顕著に肥厚及び変形していたことがわかる。
これは、皮膚炎の症状が進行したためである。
これに対して、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群においては、当該徴候の抑制が認められた。
このように、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、皮膚炎の進行が抑制されていることがわかる。
【0043】
また、図7に示すように、感作後47日目における耳介の厚さにおいては、陽性コントロール群と結晶性パラミロン1%投与群との間、陽性コントロール群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間、結晶性パラミロン0.1%投与群及び結晶性パラミロン1%投与群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間、に有意差(有意水準5%)が認められた。
このように、結晶性パラミロン自体にも皮膚炎抑制効果が認められるが、アモルファス化させたアモルファスパラミロンの方が、より効果的に皮膚炎を抑制することが検証された。
【0044】
(3)皮膚の病理組織学的所見
各群の皮膚のパラフィン包埋切片を作成し、HE染色を施した。
結果を図8(写真)に示す。
【0045】
図8に示すように、陰性コントロール群では、明らかな病理組織学変化が認められなかったことに対し、陽性コントロール群では、表皮の肥厚、角化亢進、真皮における好酸球、肥満細胞、リンパ球をはじめとする炎症細胞の浸潤が観察された。
結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、当該組織学的所見の軽減化が認められた。
この効果は、結晶性パラミロン投与群よりもアモルファスパラミロン投与群の方が大きく、双方、0.1%投与群よりも1%投与群の方の効果が大きかった。
【0046】
(4)血清総IgE濃度
マウスIgE測定キット(コスモバイオ、YSE-7675)を用い、ELISA法にて測定を実施した。
結果を図9に示す。
【0047】
陽性コントロール群では、血清IgE濃度の顕著な上昇が認められたことに対し、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、血清IgE上昇が抑制されていた。
また、陽性コントロール群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間には、有意差(有意水準5%)が認められ、アモルファスパラミロン投与群においては、血清IgE濃度の上昇が抑制されていることがわかった。
この結果より、アモルファスパラミロンは、アトピー性皮膚炎の特に1型過敏症を有効に抑制することが示唆される。
つまり、アトピー性皮膚炎の1型過敏症は、リンパ節へ移動したTh2型CD4+T細胞がB細胞のIgEに感作された抹消組織における肥満細胞を脱顆粒することによる炎症反応であるため、アモルファスパラミロンによりIgEを減少させ、本症状を抑制することができることが示唆されることとなる。
また、この結果より、アモルファスパラミロンが、アレルギーの一種である花粉症の抑制に有効であることも示唆される。
つまり、アモルファスパラミロンは血清IgE濃度の上昇を抑制するため、花粉のアレルゲンと結合するIgEを減少させ、アレルギー症状を抑制するために有効であることが示唆されることとなる。
換言すれば、アモルファスパラミロンは免疫調節機能を有し、アトピー性皮膚炎の1型過敏症及び人の花粉症の症状改善効果を示すことが示唆される。
【0048】
(5)血清サイトカイン
血清サイトカインである血清IL-4濃度及び血清IFN−γ濃度の測定を実施した。
その結果を図10及び図11に示す。
【0049】
図10に示すように、陽性コントロール群では、血清IL-4濃度の顕著な上昇が認められたことに対し、結晶性パラミロン投与群及びアモルファスパラミロン投与群では、血清IL-4濃度の上昇が抑制されていた。
陽性コントロール群とアモルファスパラミロン0.1%投与群及びアモルファスパラミロン1%投与群との間には、有意差(有意水準5%)が認められ、アモルファスパラミロン投与群においては、血清IL-4濃度の上昇が抑制されていることがわかった。
【0050】
なお、図11に示すように、陽性コントロール群では、血清IFN−γ濃度の顕著な上昇が認められた。
結晶性パラミロン各投与群及びアモルファスパラミロン各投与群では、血清IFN−γ濃度の減少傾向が認められたが、統計学的有意差は生じなかった。
しかし、図11に示すように、血清IFN−γ濃度の減少傾向が認められるため、結晶性パラミロン及びアモルファスパラミロンには、血清IFN−γ濃度上昇を抑制する効果があるものと考えられる。
この結果より、アモルファスパラミロンは、アトピー性皮膚炎の4型過敏症を有効に抑制することが示唆される。
つまり、アトピー性皮膚炎の4型過敏症は、Th2型CD4+T細胞が皮膚病変領域に浸潤し、サイトカインを産出して炎症を惹起するところ、アモルファスパラミロンはサイトカインを減少させ、有効にアトピー性皮膚炎の4型過敏症を抑制することが示唆されるものである。
【0051】
このように、結晶性パラミロン自体に各アレルギー性疾患を抑制する効果は認められるが、このような通常の結晶性パラミロンに比して、アモルファスパラミロンは、各アレルギー性疾患を抑制する効果が更に高いことが検証された。
【0052】
このように、アモルファスパラミロンは、アモルファス化することにより通常の結晶性パラミロンにはない効果を奏する物質となる。
つまり、アモルファスパラミロンは、アレルギー性疾患を有効に抑制するアレルギー抑制物質として機能することが検証された。
本実施形態においては、経口投与したが、投与方法はこれに限られることはなく、本発明の趣旨を逸脱するものでなければ、どのような投与方法でもよい。
【0053】
つまり、薬品としての使用にとどまらず、他の材料と混和して健康食品として活用することも可能であるし、飼料等としての用途も想定することができる。
以上のように、アモルファスパラミロンは、アレルギー抑制物質として、広い用途に供することが期待されるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルギー性疾患を抑制するための物質であって、ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンからなることを特徴とするアレルギー抑制物質。
【請求項2】
前記アモルファスパラミロンは、X線回折法による、前記結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のアレルギー抑制物質。
【請求項3】
前記アレルギー性疾患は、皮膚炎若しくは花粉症であることを特徴とする請求項1に記載のアレルギー抑制物質。
【請求項4】
前記皮膚炎は、1型過敏症及び4型過敏症双方を含むアトピー性皮膚炎であることを特徴とする請求項3に記載のアレルギー抑制物質。
【請求項5】
食品、薬品、飼料から選択される少なくとも一の製品に含有されていることを特徴とする請求項1及び請求項4に記載のアレルギー抑制物質。
【請求項1】
アレルギー性疾患を抑制するための物質であって、ユーグレナ由来の結晶性パラミロンをアモルファス化したアモルファスパラミロンからなることを特徴とするアレルギー抑制物質。
【請求項2】
前記アモルファスパラミロンは、X線回折法による、前記結晶性パラミロンの結晶度に対する相対結晶度が20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のアレルギー抑制物質。
【請求項3】
前記アレルギー性疾患は、皮膚炎若しくは花粉症であることを特徴とする請求項1に記載のアレルギー抑制物質。
【請求項4】
前記皮膚炎は、1型過敏症及び4型過敏症双方を含むアトピー性皮膚炎であることを特徴とする請求項3に記載のアレルギー抑制物質。
【請求項5】
食品、薬品、飼料から選択される少なくとも一の製品に含有されていることを特徴とする請求項1及び請求項4に記載のアレルギー抑制物質。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図8】
【公開番号】特開2011−184371(P2011−184371A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52072(P2010−52072)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月16日 インターネットアドレス「http://www.jstage.jst.go.jp/article/jvms/advpub/0/1002090154/_pdf」に発表
【出願人】(506141225)株式会社ユーグレナ (12)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月16日 インターネットアドレス「http://www.jstage.jst.go.jp/article/jvms/advpub/0/1002090154/_pdf」に発表
【出願人】(506141225)株式会社ユーグレナ (12)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
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