説明

アレルゲンペプチド断片を含む組成物

【課題】アレルゲン特異的免疫療法に利用するための組成物を提供する。
【解決手段】キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体と共に、特定な配列からなるアミノ酸配列の連続する重複ペプチド断片、すなわち、前記アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、一般的に、アレルゲン特異的免疫療法のために企図された in vivo 方法と組成物に関する。 本願発明の組成物は、アレルゲンのアミノ酸配列全体と共に、連続する重複ペプチド断片を含んでいる。
【背景技術】
【0002】
IgEが介在するアレルギーは、工業化社会における主たる健康問題の一つである。 これら疾患(例えば、アレルギー性鼻腔結膜炎、皮膚炎、気管支喘息、アナフィラキシーショック)での直接的な症状は、ヒスタミンやロイコトリエンのような生物学的媒介物を遊離させるアレルゲンによって、エフェクター細胞が結合したIgE抗体との架橋によって発症する。 エフェクター細胞を強力に活性化させて、炎症性応答を誘発させる上で、アレルゲンは、エフェクター細胞が結合したIgE抗体に、効率的に架橋しなければならない。
【0003】
アレルギー免疫療法(アレルギーショット)とは、アレルギー症状を有する患者に少量のアレルゲンを注射する処置を含む治療法である。 経時的に注射濃度を高めることで、ブロック抗体(IgG抗体、ヒトでは主にIgG4抗体と称されている)の産生が促され、また、アレルギー性抗体(IgE抗体)のレベルが低下する。 このようにして、(例えば、草木、雑草および樹木花粉、室内塵性ダニ、ネコおよびイヌの鱗屑、そして昆虫毒に対するアレルギー免疫療法を必要とする患者は)免疫を獲得するのである。
【0004】
この治療形態での効果は、アレルギーのタイプの違いや、個体に応じても変化する。 通常、花粉、塵性ダニ、鱗屑および昆虫毒によるアレルギー性反応は、良好な反応性を示す。 現在の研究は、アレルゲン免疫療法が好適とされた個体における最適の作用機構を正確に決定することを目的としている。 また、アレルゲン免疫療法を安全に行い、しかも、注射の間隔を安全裏に延長する目的で、治療に用いるアレルゲンを化学的に正確に決定するための研究も進んでいる。
【0005】
減感作の免疫学的作用機構は、Th2からTh1へのサイトカインのシフト、アレルゲン特異的IgEレベルの低下、および当該アレルゲンに対するT細胞応答の顕著な低下に関与していると考えられており、T細胞寛容性をも付与するものであるが、その実体は未だ完全に解明されていない(Secrist et al., J. Exp. Med. 178. 2123, 1993; Jutel et al., J. Immunol. 154. 4187, 1995; Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100. 96, 1997; Akdis et al., FASEB J. 13. 603, 1999; and Muller et al., J. Allergy Clin. Immunol 101. 747, 1998)。 この作用機構は、肥満細胞の減少またはエオシン好性の活性化に対して直接的または間接的に寄与しており、また、アレルゲンに改めて曝された患者の防御能力を高めるとも考えられている(Jutel et al., Clin. Exp. Allergy 26. 1112, 1996)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
安全で、しかもアナフィラキシーの危険度も小さい免疫療法の開発が待望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の一実施態様によれば、蜂毒アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:4)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:1、2および3)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0008】
本願発明の他の実施態様によれば、樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:7)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:5および6)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0009】
本願発明の他の実施態様によれば、樺花粉プロフィリンアレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:10)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:8および9)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0010】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、塵性ダニアレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:14)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:11、12および13)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0011】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、塵性ダニアレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:17)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:15および16)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0012】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:18)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:5および8)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0013】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:19)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:6および9)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0014】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:20)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:5および8)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0015】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:21)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:6および9)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0016】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、キメラ塵性ダニアレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:22)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:15および11)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0017】
本願発明のさらに他の実施態様によれば、キメラ塵性ダニアレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:23)と共に、複数の連続する重複ペプチド断片(配列番号:13および16)、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物が提供される。
【0018】
好ましくは、本願発明の組成物を投与することで、低レベルのIgE刺激活性を奏する。
【0019】
具体的には、投与を行うことで、IgE刺激活性は、弱度または無活性(例えば、IgE結合性が、弱度または無活性)となる。 本明細書で使用する弱度のIgE結合性とは、未加工のタンパク質アレルゲンによって刺激を受けるIgE産生量および/またはIL-4産生量よりも少量のIgE産生および/または架橋を指す。 好ましくは、本願発明の組成物は、≦1μg/mlの濃度で皮内に注射しても、皮膚反応性(紅斑を伴わない<5mmの丘疹)を即座に示さない。 より好ましくは、本願発明の組成物を投与することで、タンパク質アレルゲンに曝露した際のT細胞応答が低下し、それにより、それらタンパク質アレルゲンに対する患者の免疫応答を調整することができる。
【0020】
その他の実施態様によれば、本願発明は、特定のアレルゲンに対して患者を減感作するために必要な組成物の用量を決定するためのin vivo方法、すなわち、当該アレルゲンのアミノ酸配列全体を含む複数の連続する重複ペプチド断片を含む組成物、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができ、また、IgEに対する結合性が皆無または小さい重複ペプチド断片を、一連の多様な濃度で当該患者の皮膚内に導入し、当該患者の皮膚内に、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールを導入し、導入部位での丘疹または紅斑の形成を確認し、および様々な濃度での複数の連続する重複ペプチド断片によって形成された丘疹(<5mm)または紅斑の大きさを、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールによって形成されたそれと比較し、それにより、当該特定のアレルゲンに対して当該患者を減感作するために必要な組成物の用量を決定する方法を提供する。 例えば、患者は、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ラットおよびマウスからなるグループから選択される。 ある好ましい実施態様によれば、患者は、ヒトである。 ある実施態様によれば、複数の連続する重複ペプチド断片の各ペプチドの長さは、30〜90個のアミノ酸、例えば、30、35、40、45、50、55、60、65、70、73、75、80、81、85、86および90個のアミノ酸である。 その他の実施態様によれば、連続する重複ペプチド断片でのアミノ酸配列において、約10〜約15個のアミノ酸、例えば、10、11、12、13、14および15個のアミノ酸が重複している。
【0021】
本願発明の方法は、様々なアレルゲンに起因する幾つかのアレルギーを治療する上で有用である。 これらアレルゲンとして、例えば、植物花粉、草木花粉、樹木花粉、雑草花粉、昆虫毒、塵性ダニタンパク質、動物鱗屑、唾液、菌類胞子および食物アレルゲン(すなわち、ピーナッツ、牛乳、グルテンおよび鶏卵)などがあるが、これらに限定されない。 ある実施態様では、昆虫毒をアレルゲンとしている。 ある好ましい実施態様では、昆虫毒として蜂毒をあてている。 複数の連続する重複ペプチド断片は、主要な蜂毒アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:4)と共に、配列番号:1、2および3に記載の断片を含む。 その他の実施態様では、樹木花粉をアレルゲンとしている。 ある好ましい実施態様では、樹木花粉として樺花粉をあてている。 複数の連続する重複ペプチド断片は、主要な樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:7)と共に、配列番号:5および6に記載の断片を含む。 複数の連続する重複ペプチド断片は、主要な樺花粉プロフィリンアレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:10)と共に、配列番号:8および9に記載の断片を含む。 その他の実施態様では、塵性ダニタンパク質をアレルゲンとしている。 複数の連続する重複ペプチド断片は、塵性ダニアレルゲン D. pteronyssinus 1のアミノ酸配列全体(配列番号:14)と共に、配列番号:11、12および13に記載の断片を含む。
【0022】
複数の連続する重複ペプチド断片は、塵性ダニアレルゲン D. pteronyssinus 2のアミノ酸配列全体(配列番号:17)と共に、配列番号:15および16に記載の断片を含む。 複数の連続する重複ペプチド断片は、配列番号:1、2、3,5、6、8、9、11、12、13、15および16に記載の断片からなるグループから選択された、少なくとも2つの連続する重複ペプチド断片を含む。
【0023】
様々な実施態様において、導入処置は、皮膚穿刺、皮内注入または皮下注射によって行われる。 当業者であれば、好適な導入手段を容易に認識するであろう。 ある実施態様では、連続する重複ペプチド断片の濃度を、約0.001μg/ml〜約100μg/mlの濃度としている。 好ましい実施態様によれば、連続する重複ペプチド断片の濃度を、0.001〜10.0、0.01〜10.0または0.1〜1.0μg/mlの濃度としている。
【0024】
さらにその他の実施態様によれば、本願発明は、特定のアレルゲンに対してアレルギー症状を示す患者に寛容性を付与するためのin vivo方法、すなわち、当該アレルゲンのアミノ酸配列全体を含む複数の連続する重複ペプチド断片、すなわち、当該アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができ、また、IgEに対する結合性が皆無または小さい重複ペプチド断片を、当該患者の皮膚内に導入し、および当該アレルゲンに対する抗体を形成し、それにより、当該アレルゲンに対する免疫、すなわち、当該アレルゲンに対する寛容性を当該患者に付与する免疫を構築する方法を提供する。 例えば、患者は、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ラットおよびマウスからなるグループから選択される。 ある好ましい実施態様によれば、患者は、ヒトである。 その他の実施態様によれば、当該アレルゲンに対して形成された抗体は、IgG抗体である。 具体的には、IgG抗体として、IgG4抗体があてられる。 ある実施態様によれば、複数の連続する重複ペプチド断片の各ペプチドの長さは、30〜90個のアミノ酸、例えば、30、35、40、45、50、55、60、65、70、73、75、80、81、85、86および90個のアミノ酸である。 様々な実施態様において、連続する重複ペプチド断片でのアミノ酸配列では、約10〜約15個のアミノ酸、例えば、10、11、12、13、14および15個のアミノ酸が重複している。 ある実施態様では、連続する重複ペプチド断片の濃度を、約0.001μg/ml〜約1000μg/mlの濃度としている。 好ましい実施態様によれば、連続する重複ペプチド断片の濃度を、0.001〜100.0、0.01〜10.0または0.1〜1.0μg/mlの濃度としている。
【0025】
本願発明の方法は、様々なアレルゲンに起因する幾つかのアレルギーを治療する上で有用である。 これらアレルゲンとして、例えば、植物花粉、草木花粉、樹木花粉、雑草花粉、昆虫毒、塵性ダニタンパク質、動物鱗屑、唾液、菌類胞子および食物アレルゲン(すなわち、ピーナッツ、牛乳、グルテンおよび鶏卵)などがあるが、これらに限定されない。 ある実施態様では、昆虫毒をアレルゲンとしている。 ある好ましい実施態様では、昆虫毒として蜂毒をあてている。 複数の連続する重複ペプチド断片は、主要な蜂毒アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:4)と共に、配列番号:1、2および3に記載の断片を含む。 その他の実施態様では、樹木花粉をアレルゲンとしている。 ある好ましい実施態様では、樹木花粉として樺花粉をあてている。 複数の連続する重複ペプチド断片は、主要な樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:7)と共に、配列番号:5および6に記載の断片を含む。 複数の連続する重複ペプチド断片は、主要な樺花粉プロフィリンアレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:10)と共に、配列番号:8および9に記載の断片を含む。 その他の実施態様では、塵性ダニタンパク質をアレルゲンとしている。 複数の連続する重複ペプチド断片は、塵性ダニアレルゲン D. pteronyssinus 1のアミノ酸配列全体(配列番号:14)と共に、配列番号:11、12および13に記載の断片を含む。
【0026】
複数の連続する重複ペプチド断片は、塵性ダニアレルゲン D. pteronyssinus 2のアミノ酸配列全体(配列番号:17)と共に、配列番号:15および16に記載の断片を含む。 複数の連続する重複ペプチド断片は、配列番号:1、2、3,5、6、8、9、11、12、13、15および16に記載の断片からなるグループから選択された、少なくとも2つの連続する重複ペプチド断片を含む。
【0027】
好ましくは、本願発明の方法は、≦1μg/mlの濃度で皮内に注射しても、皮膚反応性(紅斑を伴わない<5mmの丘疹)を即座に示さない。
【0028】
様々な態様において、患者への導入は、例えば、皮膚穿刺、静脈、皮内、皮下、経口、経鼻、粘膜(例えば、吸入)、経皮(局所的)、経粘膜、リンパ節および直腸などを介して、非経口的に行われる。 当業者であれば、好適な導入手段を容易に認識するであろう。
【0029】
特に断りの無い限り、本明細書で用いているすべての技術用語および科学用語は、いわゆる当業者が、通常理解している意味合いで使用しているものとする。 本明細書に記載の方法と同様または同等の方法と材料は、本願発明を実施または試験するために利用することができるが、好適な方法と物質を以下に示した。 すべての刊行物、特許出願、特許文献、それに本明細書で引用したその他の文献は、参照までに、本明細書に取り込んである。 なお、抵触が生じた場合には、本願明細書、とりわけ、本願明細書の定義によって調整を図る。 加えて、材料、方法および実施例は、例示目的で記載されているに過ぎず、これによって、本願発明が限定的に解釈されるべきでない。
【0030】
本願発明のその他の特徴部分および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲の記載から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本願発明の一部は、複数の連続する重複ペプチド断片が、アレルゲンに特異的な免疫療法に利用できるとの知見に基づくものである。 アレルゲン免疫療法への複数の連続する重複ペプチド断片の使用は、天然アレルゲンを用いた急進型の免疫療法に匹敵する体液性応答および細胞質性応答の双方を誘発する。
【0032】
本願発明の複数の連続する重複ペプチド断片を用いる利点として、考えうるすべてのT細胞エピトープを保有している過敏症患者でのTヘルパー細胞応答を誘発できること、アレルゲンに対する免疫応答を調整する特異的なT細胞を効率的に回収できること、それに、低度のIgE結合活性を示す(低アレルギー誘発性である)こと、などがあるが、これらに限定されない。 このように、本願発明の複数の連続する重複ペプチド断片は、顕著に低減されたIgE結合活性を示すものの、T細胞の活性化能力を損なうものではなく、したがって、それら断片は、特異的な免疫療法に供することができる新規かつ安全な候補物質であると言える。
【0033】
特定の作用機構だけを限定的に意図するものではないが、過敏症患者でのTヘルパー細胞応答を誘発する複数の連続する重複ペプチド断片の作用は、複数の連続する重複ペプチド断片のアミノ酸配列において、約10〜約15個のアミノ酸、例えば、10、11、12、13、14および15個のアミノ酸が重複し、また、複数のT細胞エピトープに関与しているものと考えられる。 したがって、これらペプチドの組み合わせによった場合、患者個々の主要組織適合(MHC)分子(HLA制限)に適合せしめるためのT細胞エピトープの改変は不要となる。 連続的な重複ペプチド断片が低いIgE結合活性を示すことは、連続的な重複ペプチド断片が線状であるので、IgE抗体と架橋できないという事実に起因している。
【0034】
本願発明のある重要な態様によれば、身の回りの食物または物質に対するアレルギーの問題である。 何百万もの個体が、本来は無害な環境中の成分、例えば、ブタクサまたは他の花粉に応答して、重篤な症候に患わされている。 本願発明の方法は、多様な不快感をもたらす、この種の免疫応答を予防または低減することができる。
【0035】
本願明細書で用いる用語は、単に特定の実施態様を説明する目的のためのものであり、本願発明の範囲の限定を意図するものではない、ことを理解すべきである。 本願明細書および特許請求の範囲中で用いられる、「a」、「and」および「the」の単数表現は、文脈で他に特に断りのない限りは、複数の対象物をも含む。
【0036】
本願明細書で用いる「ヒト白血球抗原」および「HLA」の用語は、白血球細胞および血小板上の遺伝的フィンガープリントであると定義され、これらは、身体の免疫系を活性化して、外来生物に応答する上で重要な役割を果たすタンパク質から構成される。
【0037】
本願明細書で用いる「複数の連続的な重複ペプチド断片(OPF)」の用語は、少なくとも一つの、しかし、ほとんどは、おそらくは2つ、3つ、4つまたは5つの連続的な重複ペプチド断片であると定義される。 例えば、以下の記述は、26残基のアルファベットペプチドにおいて、4つの重複ペプチド:OPF1-6、OPF4-15、OPF13-22およびOPF20-26
ABCDEF = OPF1-6
DEFGHIJKLMNO = OPF4-15
MNOPQRSTUV = OPF13-22
TUVWXYZ = OPF20-26
という、複数の連続的な重複ペプチド断片を例示するものである。
【0038】
本願明細書で用いる「過敏な」の用語は、IgE-媒介メカニズムを介する(抗原または薬剤としての)特定の試薬の生理学的に異常な感受性である、と定義される。 本願明細書および特許請求の範囲では、このような抗原をアレルゲンと称する。
【0039】
本願明細書で用いる「低過敏性」の用語は、(抗原または薬剤としての)特定の試薬に感受性ではないこと、と定義される。 本願明細書および特許請求の範囲では、このような抗原をアレルゲンと称する。
【0040】
本願明細書で用いる「減感する」、「免疫学的寛容性」または「寛容性」の用語は、特定の寛容性抗原に対する宿主の免疫学的反応性を減少させることにより、(感作されたまたは過敏な個体)を(抗原または薬剤としての)感作試薬に非感受性または非反応性にすることである、と定義される。 本願明細書および特許請求の範囲では、このような抗原をアレルゲンと称する。
【0041】
本願明細書で用いる「陽性コントロール」の用語は、皮膚に塗布したときに、もしIgE抗体が存在すれば試験部位に陽性反応(すなわち、赤色領域、紅斑および隆起箇所、膨疹)を生じるネイティブアレルゲンである、と定義される。 陽性コントロールとして、ネイティブアレルゲンの他に、ヒスタミンのような薬理学的試薬が挙げられるが、これらに限定されない。 最適な陽性コントロールは、ネイティブ確認におけるアレルゲンそれ自体である。
【0042】
本願明細書で用いる「陰性コントロール」の用語は、皮膚に塗布したときに、溶液の注射体積(50μl)が5mmの丘疹を自然に生じる場合、15分で5mmを超える紅斑を伴う応答を生じない組成物である、と定義される。 陰性コントロールとして、OPF希釈液、アルブミン溶液または生理食塩水(塩水)溶液が挙げられる。
【0043】
本願明細書で用いる「丘疹」の用語は、小さい限局性かつ表在性の固い皮膚の隆起である、と定義される。 アレルゲンに関しては、丘疹は、通常、アレルゲン導入部位における発赤の紅斑の外側に広がる領域である膨疹および紅斑反応により、続いて、速やかに膨疹(腫脹)によって測定される。
【0044】
本願明細書で用いる「紅斑」の用語は、種々の原因により生じ得る、毛細管の充血により生じる皮膚の赤みであると定義される。
【0045】
本願明細書で用いる「単離した」もしくは「精製した」ペプチド断片またはそれらの生物学的に活性な部分とは、細胞懸濁液、組織供給源、またはアレルゲンペプチド断片が誘導された血清製剤に由来する物質(例えば、他の汚染タンパク質)を実質的に含まないこと、あるいは化学的に合成された場合に化学的前駆体または他の化学物質を含まないことである。 「他の物質を実質的に含まない」の表現は、その細胞から単離または組み換え産生された細胞の細胞成分からペプチド断片が単離される、アレルゲン由来ペプチド断片の調製物を意味する。 ある実施態様によれば、約30%未満(乾燥重量)の非アレルゲンタンパク質(本願明細書で「汚染タンパク質」ともいう)、好ましくは約20%未満の非アレルゲンタンパク質、さらに好ましくは約10%未満の非アレルゲンタンパク質、および最も好ましくは約5%未満の非アレルゲンタンパク質を有するペプチド断片である。 アレルゲン由来ペプチド断片が組み換え産生される場合、好ましくは、実質的に培養培地を除外する(すなわち、培養培地が、重複ペプチド製剤の体積の約20%未満、好ましくは約10%未満、および最も好ましくは約5%未満にする)。
【0046】
「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」の表現は、タンパク質合成に関与する化学的前駆体または他の化学物質からペプチド断片が分離される、アレルゲン由来ペプチド断片の調製物を含む。 ある実施態様によれば、「化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない」の表現は、約30%未満(乾燥重量)の化学的前駆体または非アレルゲン化学物質、好ましくは約20%未満の化学的前駆体または非アレルゲン化学物質、さらに好ましくは約10%未満の化学的前駆体または非アレルゲン化学物質、および最も好ましくは約5%未満の化学的前駆体または非アレルゲン化学物質を有するアレルゲン由来ペプチド断片の調製物を含む。
【0047】
本願発明の範囲に含まれる配列の操作は、ペプチドレベルでなされる。 本願発明の範囲には、翻訳または合成中またはその後に修飾される(例えば、公知の保護基/ブロック基、タンパク分解切断、抗体分子または他の細胞リガンドへの結合などによりグリコシル化、アセチル化、ホスホリル化、アミド化、誘導体化される)ペプチド断片(その誘導体または類似体)が含まれる。 当該技術分野で公知の任意の多くの化学的修飾方法、例えば、臭化シアン、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ、NaBH、アセチル化、ホルミル化、酸化、還元、ツニカマイシン存在下での代謝合成などによる特異的化学的切断を用いることができるが、これらに限定されない。 ある実施態様によれば、ペプチドの配列は、蛍光標識を含むように修飾される。
【0048】
アレルゲン由来ペプチド断片、それらの類似体、誘導体および変異体は、化学的に合成することができる。 例えば、所望のドメインを含むかまたはin vitroで所望の活性を媒介するアレルゲンタンパク質の一部に対応するペプチド断片は、ペプチドシンセサイザーを用いて合成できる。 天然の供給源から単離したタンパク質のアミノ酸配列は、例えば、単離したタンパク質の直接配列決定により決定され得る。 タンパク質はまた、親水性分析(Hopp and Woods, PNAS USA 78; 3824, 1981を参照のこと)によっても合成され得、この親水性分析は、タンパク質の疎水性および親水性領域を同定して結合実験、抗体合成などの実験操作のためのペプチドの設計を補助する際に用いることができる。 二次構造分析はまた、特定の構造モチーフを適用するペプチドの領域を同定することによっても行うことができる(Chou and Fasman, Biochem, 13: 222, 1974を参照のこと)。 操作、翻訳、二次構造の予測、親水性および疎水性プロファイル、オープンリーディングフレームの予測およびプロッティング、ならびに配列相同性の決定は、当該分野で入手可能なコンピュータソフトウェアプログラムを用いて行うことができる。 構造分析の他の方法には、X線結晶解析(ngstrom Biochem Exp Biol 11: 7, 1974を参照のこと);マススペクトル分析およびガスクロマトグラフィー( Methods in Protein Science J. Wiley and Sons, New York, NY 1997を参照のこと)が挙げられるが、これらに限定されない;コンピュータモデリング(Fletterick and Zoller, eds., 1986, Computer Graphics and Molecular Modeling, In: Current Communications in Molecular Biology, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NYを参照のこと)、旋光度検出器(ORD)および円二色性(CD)もまた用いられ得る。
【0049】
本願明細書中に記載のペプチド断片、誘導体および他の変異体は、修飾することができる。 従って、本願発明は、例えば、ミリスチル化ペプチド、グリコシル化ペプチド、パルミトイル化ペプチドおよびホスホリル化ペプチドならびにそれらの誘導体を含む。
【0050】
保存アミノ酸置換は、一つ以上の予測された非必須アミノ酸残基におけるペプチド断片中で作ることができる。 「保存アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されたものである。 同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該分野で定義されている。 これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などがある。 従って、保存アミノ酸を有するペプチド断片において、アレルゲン由来断片中の予測された非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同じ側鎖ファミリー由来の他のアミノ酸残基で置換される。 あるいは、他の実施態様では、アレルゲンをコードする配列の全てまたは一部にわたって変異をランダムに導入することにより、T細胞刺激活性を保持するがIgE刺激活性のレベルが低いかまたは低減された/弱い変異体を同定することができる。
【0051】
いくつかの実施態様では、変異体アレルゲンペプチド断片が、(1)T細胞増殖を刺激または誘導する能力、あるいは(2)例えば、アレルゲンに過敏な個体の血清由来のIgE抗体を結合する能力または当該抗体の欠如をアッセイすることができる。 「刺激する」または「誘導する」の用語は、本願明細書では、互換的に用いられている。
【0052】
タンパク質アレルゲン由来の重複ペプチド断片のペプチド断片または組み合わせを試験して、ペプチドがI型反応に関連する局所的または全身症状を生じるかどうかを決定することができる。 この反応には、抗原と、皮膚および他の組織(肥満細胞、好塩基球、血小板および好酸球)中の宿主細胞に結合する免疫グロブリンクラスIgEの抗体との相互作用が挙げられる。 抗原接触により、細胞内容物(ヒスタミン、ヘパリン、セロトニンなどの活性分子、ならびに他の血管作動性物質が挙げられる)の放出が生じ、抗原-IgE相互作用の後、数分から数時間以内に明らかになる局所的または全身症状が生じる。
【0053】
T細胞刺激活性は、本願明細書に記載のアレルゲンタンパク質および変異体に感受性の個体(すなわち、タンパク質アレルゲンまたはタンパク質抗原に免疫応答を有する個体)から得られたT細胞をアレルゲンタンパク質または変異体とともに培養し、ペプチドへの応答におけるT細胞の増殖の有無を、例えば、トリチウム化チミジンの取り込みにより測定されるように決定することによって、試験することができる。 本願発明の方法において有用なペプチドに対するT細胞の応答についての刺激指数は、ペプチドに対する応答に含まれる1分当たりの最大数(cpm)をコントロール培地のcpmで除算して算出することができる。 例えば、タンパク質アレルゲン由来のペプチドは、約2.0の刺激指数を有する。 少なくとも2.0の刺激指数は、免疫療法剤として有用なペプチドを決定する目的では一般に陽性であると考えられる。 重複断片の好ましいペプチドまたは断片または組み合わせは、少なくとも2.5、好ましくは少なくとも3.5、および最も好ましくは少なくとも5.0の刺激指数を有する。
【0054】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸の相同性百分率を決定するため、配列を、最適な比較のために整列させる(例えば、第二のアミノ酸または核酸配列との最適なアラインメントのため、第一のアミノ酸配列または核酸配列にギャップを導入することができる)。
【0055】
次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。 第一の配列中の位置が、第二の配列中の対応する位置における同じアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占められる場合、分子はその位置で相同性である(すなわち、本願明細書でも言及しているように、アミノ酸または核酸の「相同性」は、アミノ酸または核酸の「同一」に等しい)。 2つの配列間の相同性百分率は、当該配列が共有する同じ位置の数の関数である(すなわち、相同性百分率は、同じ位置の数を位置の総数で除算して100を掛けたものに等しい)。
【0056】
本願発明はまた、特異的アレルゲンキメラまたは融合タンパク質を提供する。 本願明細書で用いる特異的アレルゲンの「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」は、非アレルゲンポリペプチドに作動可能に結合したアレルゲンポリペプチドを含む。 「アレルゲンポリペプチド」とは、特異的アレルゲンに対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味し、一方で、「非アレルゲンポリペプチド」とは、特異的アレルゲンに実質的に相同性ではないタンパク質(例えば、アレルゲンとは異なる、同じまたは異なる生物由来のタンパク質)に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。 特異的アレルゲン融合タンパク質の範囲内で、アレルゲンポリペプチドは、特異的アレルゲンタンパク質の全てまたは一部に対応することができる。 好ましい実施態様によれば、特異的アレルゲン融合タンパク質は、特異的アレルゲンの少なくとも一つの生物学的に活性な部分を含む。 非アレルゲンポリペプチドは、アレルゲンポリペプチドのN末端またはC末端に融合することができる。
【0057】
アレルゲンを含む組成物
本願発明の連続的な重複アレルゲンペプチド断片(本願明細書では「活性化合物」とも称する)は、投与に適切な組成物に配合することができる。 このような組成物は、通常は、連続的な重複ペプチド断片および医薬上許容する担体を含む。 「医薬上許容し得る担体」の用語は、これら担体が投与される被検体に、アレルギー反応または他の不都合な影響を引き起こさない担体を意味する。 適切な医薬上許容し得る担体として、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせが挙げられる。 さらに、組成物は、必要に応じて、湿潤剤もしくは乳化剤、および/またはワクチンの有効性を増強するpH緩衝剤のような補助物質を少量含むことができる。 E. W. MartinのRemington's Pharmaceutical Scienceが注目される。 免疫刺激性アジュバントは、例えば、免疫系の細胞を活性化させるリポポリサッカリド(LPS)およびモノホスホリル脂質A(MPL)のような病原体から優勢に誘導される。 DNA中の細菌CpGモチーフは、in vitroで免疫細胞に対する直接的な免疫刺激効果を有し、免疫刺激効果は、後述の脊椎DNA中でメチル化される未メチル化CpGジヌクレオチドの存在に起因する。 選択的側面配列の背景における未メチル化CpGは、免疫系の細胞により認識され、自己DNAからの病原体由来DNAの認識を可能にすると考えられている。 CpGモチーフは、主に刺激TNF-β、IL-1、IL-6およびIL-12、ならびに共刺激性分子の発現によるTh1応答の誘導に最も重要である。 CpGはまた、経粘膜投与された補助薬としての重要な可能性を有する。 重要なことに、CpGはまた、現存の免疫応答を調節するための重要な能力をも有しているようであり、このことは、アレルギーを含む種々の臨床的状況において有用であり得る。(例えば、O'Hagan et al., Biomolecular Engineering, 18: 69-85, 2001; Singh and O'Hagan, Nature Biotechnology, 17: 1075-1081, 1999を参照のこと。)
医薬上活性な物質にそのような培地および試薬を用いることは、当該技術分野で周知である。 任意の従来の培地または試薬は、活性化合物と非相溶である場合を除いて、組成物への使用が意図される。 他の活性化合物もまた組成物に追加配合することができる。本願明細書で用いた「組成物」および「治療用組成物」の用語は、互換可能な用語である。
【0058】
連続的な重複アレルゲンペプチド断片またはその変異体を含む組成物は、タンパク質アレルゲンへ引き続き曝すことで哺乳動物のT細胞応答を減少させるような形態で、特異的アレルゲンに感受性の患者(例えば、ヒト)に投与することができる。 本願明細書で言及しているタンパク質アレルゲンに感受性の哺乳動物のT細胞応答の減少または改変は、標準的臨床的手順(Varney et al., British Medical Journal, 302: 265, 1990を参照のこと)により決定される、患者におけるタンパク質アレルゲンに対する症候の非応答性または減少(例えば、アレルゲンが誘導する喘息症状の減少)として定義される。 本願明細書で言及したアレルゲンに対する症候の減少として、本願明細書に記載の組成物を用いる処置養生法後の患者(例えば、ヒト)のアレルゲンに対するアレルギー応答における任意の減少が挙げることができる。 この症候の減少は、ヒト(例えば、アレルゲンへ曝されることで、より不快感を感じる患者)において主観的に測定され得るか、あるいは標準的皮膚試験または誘導アッセイを用いて臨床的に測定される。
【0059】
さらに、上記の連続的な重複アレルゲンペプチド断片またはそれらの変異体を投与することにより、低レベルのIgE刺激活性を生じ得る。 好ましくは、投与により、弱いIgE刺激活性が生じる。 さらに好ましくは、投与により、IgE刺激活性がゼロになる。 本願明細書で言及した弱いIgE刺激活性とは、全タンパク質アレルゲンに刺激されたIgE産生および/またはIL-4産生量未満であるIgE産生および/または架橋を意味する。
【0060】
タンパク質アレルゲンまたは他のタンパク質抗原に対して個体を減感作または寛容性付与するための、本願発明の組成物の投与は、タンパク質アレルゲンまたは他のタンパク質抗原に対する個々の感受性を低減する(すなわち、アレルギー応答を低減する)上で有効な手順、用量および期間を用いて行うことができる。 組成物の有効量は、個体のタンパク質アレルゲンに対する感受性の程度、年齢、性別および個体の重量、ならびにペプチドが個体において寛容原性応答を惹起する能力などの要因によって変動するであろう。 用量養生法は、最適な治療応答を提供するように調節できる。 例えば、いくつかの分割した用量を毎日投与してもよいし、治療状況の緊急性に応じて用量を比例的に低減してもよい。
【0061】
本願発明の組成物は、意図する投与経路に適合するように処方される。 投与経路の例として、例えば、非経口投与(例えば、皮膚を刺すことによる投与、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与、経鼻投与、粘膜投与(例えば、吸入)、経皮投与(局所)、経粘膜投与、リンパ節投与および直腸投与)がある。 すなわち、非経口投与、皮内投与または皮下投与に用いられる溶液または懸濁液は、以下の成分を含むことができる。 注射用水、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒のような無菌希釈液;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート化剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩のような緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースのような毒性を調節するための試薬などがある。 pHは、塩化水素酸または水酸化ナトリウムのような酸または塩基を用いて調節することができる。 非経口製剤は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数回投与用のバイアルに封入することができる。
【0062】
本願明細書に記載のアレルゲン由来重複ペプチドまたは変異体ペプチドを、患者(例えば、ヒト)に投与(例えば、皮下投与)することにより、適切なT細胞小集団に寛容性付与し、または不活性化して、それらがタンパク質アレルゲンに非応答性になり、かつ引き続いて曝露した際に免疫応答の刺激に関与しないようにすることができる。 さらに、そのようなペプチドを投与することで、天然に存在するタンパク質アレルゲンまたはその一部に対する曝露と比較して、リンホカイン分泌プロファイルを改変することができる(例えば、IL-4の減少、および/またはIL-10、TGF-βおよびIFN-γの増加が生じる)。 さらに、ペプチドへ曝露することで、アレルゲンへの応答に正常に関与するT細胞小集団に影響を与えて、これらのT細胞をネイティブアレルゲンに再曝露したときに、高レベルのIL-4またはIL-5の代わりに、高レベルのIL-10、TGF-βまたはIFN-γを分泌させることができる。 このT細胞小集団の免疫偏向は、個体の免疫系が、アレルゲンに対する正常な曝露の部位での通常の免疫応答を刺激する能力を緩和または低減して、アレルギー症候を低減する。
【0063】
注射への使用に適切な組成物として、無菌水溶液(ペプチドまたはタンパク質が水溶性である場合)または分散物、および無菌注射溶液または分散物の即時製剤のための無菌粉末などがある。 静脈内投与に適切な担体として、生理食塩水、滅菌水、Cremophor EL(商標)(BASF, Parsippany, N.J.)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)がある。 すべての場合において、組成物は無菌であるべきであり、かつ、容易な注射特性が存在する程度の流動性を有するべきである。 組成物は、製造および貯蔵の条件下で安定であるべきであり、かつ、細菌および真菌のような微生物の汚染作用から保護されるべきである。 担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)を含む溶媒または分散媒体、およびそれらの適切な混合物とすることができる。 適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散物の場合は必要とされる粒径を維持することにより、および界面活性剤の使用により、維持することができる。 微生物の作用からの防御は、種々の抗菌および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)の使用によって達成することができる。 多くの場合、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物に配合することが好ましいであろう。 組成物に、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を配合することによって、注射組成物の吸収の長期化が図れる。
【0064】
無菌の注射溶液は、活性化合物(例えば、重複ペプチド断片)を、必要な量で、適切な溶媒中に、必要に応じて上記成分の一つまたは組み合わせと共に配合し、次いで、無菌的にろ過することにより調製することができる。 一般的に、分散物は、活性化合物を、ベースの分散媒体およびその他の成分のうちで必要なものを含む無菌ビヒクルに配合することによって調製される。 無菌注射溶液の製剤用の無菌粉末の場合の好ましい製剤方法として、予め無菌ろ過した溶液から活性成分粉末および任意のさらなる所望の成分を生成する、真空乾燥および凍結乾燥がある。
【0065】
経口組成物は、一般的に、不活性の希釈液または可食性担体を含む。 これらはゼラチンカプセルに封入することもできるし、打錠して錠剤にすることもできる。 経口での治療用投与を目的として、活性化合物は、賦形剤に配合して錠剤、トローチまたはカプセルの形態で用いることができる。 経口組成物はまた、洗口剤として用いるため、流体担体を用いて調製することもでき、その流体担体中の化合物は、経口的に適用され、容器から出され、吐出されるかまたは飲み込まれる。 医薬上利用可能な結合剤および/または補助剤物質は、組成物の一部として配合することができる。 すなわち、錠剤、丸薬、カプセル、トローチなどは、任意の以下の成分または同様の性質を有する化合物を含むことができる。 すなわち、微結晶セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチンのような結合剤;デンプンまたはラクトースのような賦形剤、アルギン酸、プリモゲルまたはトウモロコシデンプンのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはステロテスのような潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素のような滑剤;スクロースまたはサッカリンのような甘味料;それに、ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香料のような香料などがある。
【0066】
吸入による投与のために、化合物は、適切な推進剤(例えば、二酸化炭素などのガス)を含む圧縮容器またはディスペンサからのエーロゾルスプレー、あるいはネブライザの形態で送達される。
【0067】
全身投与は、経粘膜的または経皮的手段によっても行うことができる。 経粘膜または経皮投与には、透過すべき障壁に適切な透過剤が処方物に用いることができる。 このような透過剤は、一般的に、当該技術分野で公知であり、例えば、経粘膜投与については、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体などが挙げられる。 経粘膜投与は、経鼻スプレーまたは坐剤の使用により達成することができる。 経皮投与のために、活性化合物は、一般的に、当該技術分野で公知の軟膏、軟膏、ゲルまたはクリームとして処方される。
【0068】
また、化合物は、直腸輸送のために、坐剤(例えば、カカオバターおよび他のグリセリドのような従来の坐剤基剤を含む)または滞留性浣腸の形態で処方される。
【0069】
ある実施態様によると、活性化合物として、身体からの速やかな除去に対して化合物を保護する担体とともに調製されるインプラントおよびマイクロカプセル送達システムのような徐放性製剤が挙げられる。 エチレン酢酸ビニルエステル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸のような生分解性の生体適合性ポリマーを用いることができる。 そのような製剤の調製方法は、当業者に明らかであろう。 これら物質は、Alza社およびNova Pharmaceuticals社から市販されている。 (感染細胞をターゲットにしたリポソームを、ウイルス性抗原に対するモノクローナル抗体と共に含む)リポソーム懸濁液も、医薬上許容可能な担体として用いることができる。 これらは、当業者に公知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号に記載の方法に従って調製することができる。
【0070】
経口または非経口組成物を単位形態で処方することは、投与の容易さおよび用量の均一性を図る上で特に有利である。 本願明細書で言及した投与単位形態とは、治療すべき被検体への単回投与に適した物理的に個別の単位を意味し、各単位は、必要とされる医薬担体と関連して所望の治療用効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。 本願発明の投与単位形態は、活性化合物の独特の特性および達成すべき特定の治療用効果、および個体の処置のためのそのような活性化合物を配合する際に固有の規制下で定められるか、またはそれら規制に直接に依存する。
【0071】
これら組成物は、投与のための指示書と共に、容器、パックまたはディスペンサーに含まれる。
【0072】
溶解性の向上、治療または予防効力の増強あるいは安定性(例えば、exo vivoでの寿命、およびin vivoでのタンパク分解寛容性)を目的として、本願発明の方法において有用なペプチドの構造を修飾することも可能である。 修飾ペプチドは、アミノ酸配列をアミノ酸置換、欠失または付加により改変して、免疫原性を改変するおよび/またはアレルゲン性を低減するか、あるいは同様の目的で成分を添加することにより製造することができる。例えば、T細胞エピトープ機能に必須のアミノ酸残基は、公知技術(例えば、各残基の置換およびT細胞反応性の存在または非存在の決定)を用いて決定することができる。
【0073】
必須とされているこれら残基は、T細胞反応性に必要とされない残基が(例えば、それを配合することでT細胞反応性を増強させるが、関連するMHC分子への結合は低減しない他のアミノ酸で置き換えることにより)修飾できるのと同様に、修飾する(例えば、その存在がT細胞反応性を増強することが示されている他のアミノ酸で置換する)ことができる。ペプチド修飾の他の例として、システイン残基を、好ましくは、アラニンで置換することにより、あるいはセリンまたはトレオニンで置換することにより、ジスルフィド結合による二量体化を最小化することが挙げられる。
【0074】
安定性および/または反応性を増強するため、ペプチドはまた、天然のアレル変異から生じるタンパク質アレルゲンのアミノ酸配列の一つ以上の多形を含むように修飾することができる。 さらに、D-アミノ酸、非天然アミノ酸または非アミノ酸の類似体を置換または付加して、本願発明の範囲内の修飾合成ペプチドを製造することができる。
【0075】
ある実施態様によれば、ペプチドは、レトロ逆転ペプチドとして合成することができる。(Sela and Zisman, FASEB J. 11: 449, 1997を参照のこと)。 進化は、天然に存在するタンパク質中のL-アミノ酸のほぼ排他的な発生によって確認される。 従って、事実上全てのプロテアーゼが、隣接するL-アミノ酸間のペプチド結合を切断する。 従って、D-アミノ酸から構成される人工タンパク質またはペプチドは、タンパク質分解寛容性を有する。 この寛容性は、薬剤の設計者にとって魅力的であるが、L-アミノ酸から作られるタンパク質に対する生体系の排他性は、そのようなタンパク質が、エナンチオマータンパク質から形成される鏡像の表面とは反応できないことを意味する。 従って、全てD-アミノ酸であるタンパク質は、通常、生物学的効果または活性を有しない。
【0076】
直線状の修飾レトロペプチド構造は、長期にわたって研究されており(Goodman et al., Accounts of Chemical Research, 12: 1-7, 1979を参照のこと)、「レトロ異性体」の用語は、配列の方向が元のペプチドに対して逆である異性体を含むと定義される。 「レトロ逆転異性体」とは、配列の方向が逆であり、かつ各アミノ酸残基のキラリティーが反転している直線状ペプチドの異性体を意味する。 従って、末端相補性はあり得ない。
【0077】
最近、Jameson et al.は、これらの二つの特性(逆転合成およびキラリティーの変化)を組み合わせることにより、CD4受容体のヘアピンループの類似体を作成した。 Jameson et al. Nature 368: 744-746, 1994 および Brady et al., Nature, 368: 692-693, 1994を参照のこと。 D-エナンチオマーおよび逆転合成の組み合わせの最終的な結果として、各アミノ結合内のカルボニル基およびアミノ基の位置が交換される一方で、各α炭素における側鎖基の位置はそれぞれ保存される。 Jameson et al. は、それらの逆Dペプチドに対する生物学的活性が増加したことを示したが、これは、従来の全てがLのそのエナンチオマーが、in vivoでの活性が(そのタンパク分解の感受性に起因して)制限を受けていることとは対照的である。
【0078】
部分的に修飾されたレトロ逆転偽ペプチドは、ヒトクラスI組織適合性分子であるHLA-A2の非天然リガンドとしての使用が報告されている(Guichard et al., Med. Chem. 39: 2030-2039, 1996を参照のこと)。 このような非天然リガンドは、安定性の増加および高いMHC-結合許容量を有していた。
【0079】
レトロ逆転ペプチドは、公知の配列のペプチドについて、以下の方法に従って調製される。 公知の配列を有するペプチド(例えば、腫瘍抗原ペプチド)を、設計用のモデルペプチドとして選択し、次いで、レトロ逆転ペプチド類似体を合成する。 D-アミノ酸を用いて、ペプチド鎖内のアミノ酸を、レトロ逆転ペプチド類似体内のアミノ酸配列が、モデルの役割をする選択されたペプチド内のアミノ酸配列と正確に逆向きになるように付加することにより、類似体を合成する。 例えば、ペプチドモデルが、配列ABCを有するL-アミノ酸からなるペプチドである場合、D-アミノ酸からなるレトロ逆転ペプチド類似体は、配列CBAを有するであろう。 D-アミノ酸の鎖を合成してレトロ逆転ペプチドを形成する手順は当該分野で公知であり、上述した参考文献にも例示されている。
【0080】
ネイティブペプチドに特有の問題は、天然プロテアーゼによる分解であるので、本願発明のペプチドは、所望のペプチドの「レトロ逆転異性体」を含むように調製される。 従って、ペプチドを天然タンパク分解から保護することで、特定のヘテロ二価またはヘテロ多価化合物の有効性が高まるであろう。
【0081】
高い生物学的活性は、レトロ逆転を含むペプチドが、非レトロ逆転を含む類似体と比較して、ネイティブタンパク質分解酵素による分解から保護されていることからも予測することができる。
【0082】
さらに、ペプチドを修飾して、ペプチドPEGコンジュゲートを調製することができる。ペプチドの修飾方法として、還元/アルキル化(Tarr in: Methods of Protein Microcharacterization, J. E. Silver, ed. Humana Press, Clifton, NJ, pp 155-194, 1986);アシル化(前出のTarrの文献);エステル化(前出のTarrの文献);適切な担体への化学的カップリング(Mishell and Shiigi, eds., Selected Methods in Cellular Immunology, WH Freeman, San Francisco, CA; 米国特許第4,939,239号、1980);または穏やかなホルマリン処理(Marsh International Archives of Allergy and Applied Immunology, 41:199, 1971)などがある。
【0083】
精製を容易にし、かつペプチドの溶解性を改善するために、ペプチド骨格にレポーター基を添加することが可能である。 例えば、ポリヒスチジンをペプチドに添加して、不動態化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー上で、ペプチドを精製することができる(例えば、Hochuli et al., Bio/Technology, 6: 1321, 1988)。 さらに、必要に応じて、特定のエンドプロテアーゼ切断部位を、ペプチドのレポーター基とアミノ酸配列との間に導入して、関連のない配列を含まないペプチドの単離を容易にすることができる。 個体をタンパク質抗原に対して首尾良く減感するため、さらなる官能基をペプチドに添加するか、あるいはペプチド中に疎水性T細胞エピトープまたは疎水性エピトープ含有領域を含まないようにすることにより、ペプチドの溶解性を改善することが必要である。
【0084】
ペプチド内におけるT細胞エピトープの適切な抗原調製を補助するため、標準的なプロテアーゼ感受性の部位を、それぞれ少なくとも一つのT細胞エピトープを含む領域内で組み換えまたは合成的に調製することができる。 例えば、合成の間に、KKまたはRRのような荷電したアミノ酸対を、ペプチド内の領域間に導入することができる。
【0085】
タンパク質抗原に感受性である多くの割合の個体群において、このような個体のタンパク質抗原への応答が実質的に低減するように、本願発明はさらに、タンパク質抗原(例えば、アレルゲン、自己抗原など)への免疫応答性に関与する症状を処置するのに有用な少なくとも一つの治療用組成物をさらに含み、また、タンパク質抗原のT細胞エピトープを十分な割合で有する少なくとも一つのペプチドを含むが、少なくとも一つのこれらペプチドは、全タンパク質抗原を含まない。
【0086】
蜂毒アレルゲン
蜂毒(BV)は、一つ以上の毒性ポリペプチドを誘発することができる抗原の複合混合物である。 これらポリペプチドの多くが、超増感剤として機能し、また、溶血性または神経毒性効果も奏する。
【0087】
総人口の約3%が、BVポリペプチドに対して過敏である。 BV過敏者から得たIgE抗体は、幾つかのBV毒性ポリペプチドを認識する。 BV過敏者においてIgEによって認識され、また、アレルゲンとも称されるBVポリペプチドとして、例えば、ホスホリパーゼA(PLA)、酸性ホスファターゼ、ヒアルロニダーゼ、アレルゲンC、および、その他の高分子量(MW)タンパク質がある。
【0088】
BVに過敏な個体は、ハチの咬傷に対する有害反応の危険性が高くなる。 ハチの咬傷から生じる重篤な有害反応を防止または最小化するための周知の方法の一つとして、個体を、BVに存在するアレルゲンに対して減感作する方法がある。 この方法は、毒免疫療法(VIT)と呼ばれる手順にによって誘導することができる。
【0089】
蜂毒アレルゲンの標準化製剤に基づく従来のVITは、減感作して3〜5年後もなお、少なくとも80%の患者において完全な保護効果を維持している。 (Kammerer et al., Clin. Experiment. allergy. 27: 1016-1026, 1997を参照のこと。)
樺花粉アレルゲン
樺花粉は、早春によく見られるI型アレルギーの主要な発生源である。 1億人の樺花粉アレルギー患者がいると見積もられている。 アレルゲン結合によって、肥満細胞や好塩基性白血球の表面に二つのIgEレセプターが架橋することで、ヒスタミン、PAF(血小板活性化因子)、ヘパリン、エオシン好性および好中性顆粒白血球の走化性因子、プロスタグランジンおよびトロンボキサンのような生理学的に活性な幾つかの物質の放出を開始する。 これらが媒介して、IgEが媒介したアレルギー反応の直接的な症状(I型過敏症)を引き起こす。
【0090】
主要な樺花粉アレルゲンであるBet v1は、160個のアミノ酸残基から構成されており、約17kDaの分子量を有している。 今日までに、84.4%(25/160のアミノ酸改変)〜99.4%(1個のアミノ酸改変)のアミノ酸一致率を有する11個のBet v1タンパク質の配列アイソファオームが同定されている。 (Swoboda et al., J. Biol. Chem. 270 (6): 2607. 1995を参照されたい)。 Bet v1の主要な三次元構造の特徴として、7本鎖の逆平行のβ-シートがあり、このシートは、C末端の長いα-へリックスを包み込み、それにより、タンパク質内部に大きな空洞を形成する。
【0091】
Bet v2の樺花粉アレルゲンは、133個のアミノ酸残基から構成されており、約15kDaの分子量を有している。 このアレルゲンは、構造的に高度に保存されたアクチン-およびホスホイノシチド-結合性タンパク質であり、また、交差反応性タンパク質でもある。 NMRによって決定された、3本のα-ヘリクスと7本のβ-鎖も、構造的特徴である。
【0092】
タンパク質アレルゲンに対して感受性を有する患者に寛容性を付与するために、樺花粉タンパク質または変異体から誘導したペプチドを用いる場合、好ましくは、シラカンバ属のタンパク質アレルゲンから誘導したペプチドを用いる。 rBet v1断片/変異体の免疫原性が報告されている。 (Vrtala et al., J. Immunol. 165: 6653, 2000; van Hage-Hamsten et al., J. Allergy Clin. Immunol. 104 (5): 969, 1999; Vrtala et al., Int. Arch Allergy Immun. 113: 246, 1997;および Wiedermann et al., Int. Arch. Allergy Immun. 126: 68 2001を参照されたい)。
【0093】
塵性ダニアレルゲン
塵性ダニ(DM)は、アレルギー性鼻炎および喘息の主要な起炎因子である。 塵性ダニは、微細な八本足の昆虫である。 1グラムの埃の中に、100,000を超える塵性ダニが棲息することができる。 ヒトは、塵性ダニそれ自体に対してではなく、塵性ダニの排泄物に対してアレルギー症状を示す。 塵性ダニは、ヒトや動物から出る微細な皮膚鱗屑を摂食し、そして、排泄する。 1匹の塵性ダニは、毎日、約20個の糞を排泄する。 塵性ダニは、ヒトや動物のみならず、カーペット、装飾家具、マットレスおよびボックススプリング、敷布および毛布、枕および縫いぐるみ人形など、家中の大半の家財の表面に存在する。 浮遊している塵性ダニの死骸や排泄物を吸入することによって、アレルギー反応が生じる。
【0094】
デルマトファゴイド属に属する二つのダニ種、D. pteronyssinusおよびD. farinaeが、室内塵アレルゲンの主要な発生源である。 これらデルマトファゴイド種から、二つの主要なアレルゲン、Der 1(Der p1およびDER f1)およびDer 2(Der p2およびDer f2)が精製されている。
【0095】
配列とそれに対応する配列番号
本明細書に記載の配列とそれに対応する配列番号を、以下に記した。
【0096】
配列番号:1 PLA断片アミノ酸配列 (60アミノ酸)
配列番号:2 PLA断片アミノ酸配列 (53アミノ酸)
配列番号:3 PLA断片アミノ酸配列 (45アミノ酸)
配列番号:4 PLAアミノ酸配列 (134アミノ酸)
配列番号:5 Bet v1断片アミノ酸配列 (90アミノ酸)
配列番号:6 Bet v1断片アミノ酸配列 (80アミノ酸)
配列番号:7 Bet v1アミノ酸配列 (160アミノ酸)
配列番号:8 Bet v2断片アミノ酸配列 (70アミノ酸)
配列番号:9 Bet v2断片アミノ酸配列 (73アミノ酸)
配列番号:10 Bet v2アミノ酸配列 (133アミノ酸)
配列番号:11 Der p1断片アミノ酸配列 (81アミノ酸)
配列番号:12 Der p1断片アミノ酸配列 (86アミノ酸)
配列番号:13 Der p1断片アミノ酸配列 (86アミノ酸)
配列番号:14 Der p1アミノ酸配列 (212アミノ酸)
配列番号:15 Der p2断片アミノ酸配列 (73アミノ酸)
配列番号:16 Der p2断片アミノ酸配列 (73アミノ酸)
配列番号:17 Der p2アミノ酸配列 (136アミノ酸)
【0097】
【表1】

キメラアレルゲン
本願発明は、キメラアレルゲンタンパク質および連続する重複ペプチド断片を収容した一つ以上の容器を含む、診断用途に供される組成物とキットをさらに提供する。 キメラアレルゲンタンパク質およびペプチド断片は、様々なアレルゲン(例えば、第一のアレルゲンに由来するアレルゲンと、同じクラスに属する第二のアレルゲンに由来する他のアレルゲン(例えば、蜂毒、樺花粉、塵性ダニなど))に由来するペプチドを含む。 このキットは、上述したアッセイで用いた、前出の一連の濃度の組成物、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールをさらに任意に含む。
【0098】
好ましい実施態様によれば、このキメラタンパク質は、特定のアレルゲンクラスに属するペプチド断片を含む。 例えば、Bet v1(配列番号:5および6)およびBet v2(配列番号:8および9)ペプチド断片、またはDer p1(配列番号:11〜13)およびDer p2(配列番号:15および16)を含むキメラタンパク質がある。 これらペプチド断片は連続性の断片ではあるが、互いに多様な配向性を有して識別可能であり、また、重複ペプチドを有することもある。 例えば、以下に示した重複ペプチド断片の一例、すなわち;
ABCDEF = OPF (1断片1)
DEFGHI = OPF (1断片2)
123456 = OPF (2断片1)
456789 = OPF (2断片2)
の断片は、以下に例示した重複キメラペプチド断片、すなわち;
ABCDEF123456 = OPF (キメラ断片1)
456789DEFGHI = OPF (キメラ断片2)
または
123456ABCDEF = OPF (キメラ断片3)
DEFGHI456789 = OPF (キメラ断片4)
を生成するために用いることができる。
【0099】
その他の実施態様によれば、キメラタンパク質は、異なるアレルゲンクラスに由来するペプチド断片を含む。 例えば、PLA(配列番号:1〜3)およびBet v1(配列番号:5および6)またはBet v2(配列番号:8および9)ペプチド断片を含むキメラタンパク質、またはPLA(配列番号:1〜3)およびDer p1(配列番号:11〜13)およびDer p2(配列番号:15および16)を含むキメラタンパク質がある。 他のアレルゲンに由来するキメラペプチド断片は、起源の異なるアレルギーに罹患した患者を診断する上で有用である。 例えば、PLAおよびBet v1またはBet v2を含むキメラタンパク質は、蜂毒および樺花粉の双方に対してアレルギー症状を示す患者に対して適用可能である。
【0100】
本願発明は、配列番号:1〜3、5、6、8、9、11〜13、15および16に記載の断片を含むキメラタンパク質またはそれらの断片またはそれらの組み合わせを包含している。 好ましいキメラペプチド断片を、表2に示している。 例えば、配列番号:18は、(一列にした)配列番号:5および8を含み、配列番号:19は、配列番号:9および6を含み、配列番号:20は、配列番号:8および5を含み、配列番号:21は、配列番号:6および9を含み、配列番号:22は、配列番号:15および11を含み、そして、配列番号:23は、配列番号:13および16の断片を含む。
【0101】
【表2】

アレルゲンを具備したキット
本願発明は、特定のアレルゲンタンパク質および連続する重複ペプチド断片を収容した一つ以上の容器を含む、診断用途に供されるキットをさらに提供する。 このキットは、上述したアッセイで用いた、前出の一連の濃度の組成物、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールをさらに任意に含む。
【0102】
本願発明の組成物および方法によって、様々なアレルゲンに対するアレルギー症状を処置することができる。 アレルゲンの例を挙げるが、これらに限定されない。
【0103】
以下の実施例は、本願発明の好適な実施態様を、より詳細に説明するためのものである。
本明細書に添付した特許請求の範囲に記載の本願発明の範囲が、これら実施例によって、限定的に解釈されるべきでない。
【実施例】
【0104】
実施例1:アレルゲン由来の重複ペプチド断片を用いた蜂毒特異的T細胞寛容性の誘発
本実施例は、アレルゲン由来の重複ペプチド断片(OPF)免疫療法の安全性および免疫原性を評価するために計画された。
【0105】
物質および方法
患 者: 16名の蜂毒(BV)に過敏な患者(男性9名/女性7名)を、スイス国ローザンヌに所在のアレルギーおよび免疫学部門の外来患者専用クリニックで募集した。 採用基準は、野外でミツバチに刺されたときにI〜IV等級の全身性過敏反応を示す(Muller J. Asthma Res. 3: 331-333, 1996)こと;陽性抗PLAおよび抗全BV特異的IgE(Pharmacia社、Uppsala、SwedenのCAPシステムでの滴定値は>0.35kU/lであり、かつ免疫ブロッティングによる)、ホスホリパーゼA2(PLA)および全BV(アレルゲン濃度≦0.1μg/mlで紅斑を伴う>5mmの膨疹の存在)に対する陽性即時皮内(ID)皮膚試験、ならびに個々のOPFおよびOPF混合物に対する陰性ID試験(ペプチド濃度>0.1μg/mlで≦5mmの膨疹および紅斑反応)であった。
【0106】
ペプチド合成および精製: ヨーロッパミツバチ(Apis mellifera)由来のPLA(配列番号:4)の全134アミノ酸をマッピングする三つの重複ペプチド断片OPF1−60(配列番号:1)、OPF47−99(配列番号:2)およびOPF90−134(配列番号:3)を、Applied Biosystems 431A Peptide Synthesizer (Perkin Elmer, Foster City, CA)を用いて合成し、Roggero et al., FEBS Lett. 408: 285-288, 1997に記載のように精製した。 分析HPLCおよびマススペクトル分析を用いて、各ペプチドの純度(>80%)を評価したが、これらペプチドはPBSに容易に溶解可能であった。 注射を行う日に、ペプチド混合物を、0.3mg/mlアルブミン溶液(4mg/mlのフェノールを含む)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)中で再調製して、三角筋領域に皮下注射した。
【0107】
皮膚試験: BV、PLAおよびペプチドを用いたID試験を、Muller et al., Allergy, 48 (14): 37-46, 1993に記載の方法に従って行った。 試験した濃度は、10−3μg/ml〜1μg/ml(10倍希釈シリーズ)の範囲内であった。 ID試験結果は、濃度≦0.1μg/mlで、膨疹反応が直径5mmを超え(BV、PLAおよびペプチドについて)かつ紅斑が存在する場合、陽性と考えられた。 高濃度のBVおよびPLAは非特異的毒性反応を誘導し得るので、0.1μg/mlの濃度を終点濃度(EPC)と定めた。 Muller et al., J. Allergy Clin. Immunol. 96: 395-402, 1995を参照のこと。
【0108】
試験計画: 試験は、二重盲検の、ランダム化された、2回投与の、プラシーボコントロールされた試験として設計した。 第0日に、OPFグループからの患者(n=9)に、連続的に0.1μg、1μg、10μg、20μg、40μg、80μgおよび100μgとした三つのOPFのそれぞれを、30分間隔で連続的に注射した(各OPFの3時間以内の蓄積用量251.1μg)。 次いで、第4日、第7日、第14日、第42日および第70日に、7名の患者に、三つのOPFのそれぞれを、維持用量100μgで注射した。 維持用量300μgの各OPFを、42日まで、2名の患者に最初に注射した。 コントロールグループからの患者(n=7)には、等体積のペプチド希釈液(4mg/mlのフェノールを含む0.3mg/mlアルブミン溶液)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)のみを注射した。
【0109】
試 薬: 全BVおよびPLAは、Latoxan (Rosans, France)から購入した。 細胞培養のために、PLAをHPLCでさらに精製した。 その細胞毒性を、100モル過剰のジチオスレイトールで37℃で一晩還元し、次いで、1000モル過剰のN-エチルマレイミドでアルキル化することにより、阻害した。 PLAを、Sephadex G-25カラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)で最終的に精製した。 PMAおよびイオノマイシンは、Calbiochem, San Diego, CAから購入した。
【0110】
増殖アッセイ: 各OPF注射の直前に採血し、末梢血単核細胞(PBMC)を、Ficoll-Paque (Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)による密度勾配遠心分離により、ヘパリン化血液から単離した。 H-チミジン(Du Pont NEN Products Boston, MA, USA)取り込みの前に、各提供者からのPBMC(2×10細胞/ウェル)を、10%AB血清(スイス赤十字社、ベルン、スイス国)、2mMグルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1%カナマイシン(全てGibco社から入手)と、最適濃度のOPF(10μg/ml)またはPLA(10μg/ml)とを含むRPMI 1640培地(Gibco, Basel, Switzerland)中の96ウェル平底プレート(Costar Corning Inc., New York, NY)中で6日間、8連で培養した。 Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997を参照のこと。
【0111】
短期T細胞株: T細胞株を各注射の前に単離したPBMCから誘導し、24ウェルプレート(Nunc)(10細胞/ウェル)中で3つのOPF(10μg/ml)の混合物を用いて7日間、上述の10%AB添加RPMI 1640培地中で刺激した。 得られた短期T細胞株を洗浄し、24時間(IL-4、IL-5、IL-13およびTGF-β分泌)または48時間(IFN-γおよびIL-10)、プラスチック架橋OKT3(1μg/ml)で再刺激した(Jutel et al., Clin. Experiment. Allergy, 25: 1108-1117, 1995を参照のこと)。 細胞の培養上清を、サイトカインの定量のために回収し、−80℃で保存した。
【0112】
サイトカインの定量: IL-4、IL-10およびIFN-γを、市販のELISAキット(IL-4、IL-10およびIFN-γに関してはMabtech AG, Nacka, Swedenから、IL-5、IL-13およびTGF-βに関してはR&D Systemから入手)を用いて、製造者の推奨に従って滴定した。
【0113】
特異的血清IgEおよびIgG4の定量: 全BVおよび抗PLA特異的IgEは、Phamarcia CAP System Fluoroimmunoassay (Pharmacia Diagnostic AB, Uppsala, Sweden)を用いて、Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997の記載に従って定量した。 特異的抗PLA IgG4の定量のため、ネイティブPLA(5μg/ml)を、炭酸/重炭酸緩衝液(pH9.6)中で2時間、室温にて96ウェルプレート(Maxisorb, Denmark)上にコーティングした。 プレートを、ミルク5%/PBS/Tween 0.05%でブロックした。 1%ミルク/Tween 0.05%中の血清の一連の希釈物を、室温で1時間インキュベートした。 プレートを3回洗浄し、セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識化抗IgG4 モノクローナル抗体 JDC-141/10'000 (Pharmingen, Hamburg, Germany)と共にインキュベートし、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)に曝露した。 光学密度を、450nmで、マイクロタイタープレートアナライザ(MR5000, Dynatech Laboratories)で測定した。 標準血清に対する力価が報告され、任意の標準的単位で表された。
【0114】
免疫ブロッティングおよびドットブロット分析: 抗BVまたは抗PLA免疫ブロットは、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401, 1999に記載の手順に従って処理した。 ドットブロット分析のため、1μgの全BV、PLA、OPFまたはヒトアルブミンを、DMSO中で1/4に希釈し、PVDF膜に滴下し、37℃で30分間乾燥した。 無脂肪ミルク5%中でブロッキングした後、さらなる工程を、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401 1999に記載の手順に従って処理した。 ドット密度を、Advanced American Biotechnology scanner, Fullerton, CAを利用したスキャンニング密度測定法により分析した。
【0115】
統計的分析: グループ内およびグループ間の差異は、ノンパラメトリックANOVA検定(多重比較事後検定またはMann-Whitney検定をそれぞれ用いるFriedmanまたはKruskal-Wallisのノンパラメトリック検定)によるか;あるいはFisherの正確検定(グループ間差異:応答者対非応答者、陽性応答は第0日の値の2倍であると定義される)により、Instat 3.0ソフトウェアを用いて評価した。
【0116】
試 験 結 果
患者のデータ: 患者は、OPFグループまたはコントロール(アルブミン)グループにランダムに割り当てた。 OPFグループでは、患者の平均年齢は、39±14歳(男性5名/女性4名)であった。 1名の患者は、BVに対してMuellerの分類による等級Iの過敏症病歴を以前に有しており、7名は等級IIIおよび1名は等級IVの過敏症病歴を有していた。 BVに対するID試験用のEPCは、10−1.7μg/ml(幾何平均)であった。 平均血清抗BV特異的IgEレベルは、21.5±33.9kU/lであった。 コントロールグループの平均年齢は、40±10歳であった(男性4名/女性3名)。 1名の患者は、以前に蜂毒に対して等級Iの過敏反応を発症したことがあり、3名は等級IIおよび3名は等級IIIの過敏反応を発症したことがあった。 BVに対するID試験用のEPCは、10−2.0μg/ml(幾何平均)であった。 平均血清抗BV特異的IgEレベルは、29.8±26.1kU/lであった。 性別、年齢、最初の臨床的反応の重篤性、抗BV IgEおよび抗PLA特異的IgEおよびIgG4抗体レベルに関する内容には、グループ間で顕著な差異は見られなかった。
【0117】
重複ペプチド免疫療法はT細胞不活性化を誘発する: 両方のグループにおいて、OPFまたはアルブミンを注射する前にそれぞれ回収したPBMCを、3つのOPFの混合物(10μg/ml)で刺激した。 Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997に記載の手順に従って、第1回目の注射の前、第0日における三つのOPFに応答したT細胞の増殖(PMA(100ng/ml)に対するT細胞応答/内部コントロールとして用いたイオノマイシン(1μM)の比で表される)は、どのグループにおいても、試験期間中はずっと低く、コントロールグループ(Friedman、p>0.05)においても、ずっと低かった(図1)。 対照的に、ペプチドグループにおける三つのOPFに対する応答において、T細胞増殖比は顕著に増強し、この増強はグループ内(Friedman、p=0.035)およびグループ間(Mann-Whitney、第14日および第42日、p<0.05)のいずれでも顕著であった。 増殖比メジアンは、第14日に0.03から0.22に上昇し、その後、コントロールグループで得られた値まで次第に減少したが、このことは活発な寛容性誘導を示す。 従って、このパターンは、第42日後におけるペプチドグループでのT細胞寛容性の発生に先立って、第14日における活発な活性化相のピークが発生していることを示す。
【0118】
T細胞サイトカインの産生: 各注射の前に回収したPBMCを、三つのOPFの混合物で7日間刺激し、次いで、OKT3(1μg/ml)を用いて、上述のプロトコル(Jutel et al. , Clin. Experiment Allergy 25: 1108-1117, 1995)に従って、24〜48時間活性化した。
【0119】
OKT3で最大に刺激された、PBMCによるIL-4分泌は、ペプチドグループにおいて低いままであった(図2A)。 同様のパターンは、IL-5およびIL-13の分泌についても観察された。 対照的に、本発明者らは、OPF特異的T細胞によってIFN-γおよびIL-10分泌の両方が顕著に増強し、この増強は療法の第42日にピークに達することを観察した(Kruskal-Wallis、それぞれp<0.018およびp<0.012)(図2Bおよび2C)。 IL-10およびIFN-γ分泌は、第80日に向かって下落する傾向があった(有意ではない)。 TGF-βの分泌は、検定の間ずっと、バックグラウンドレベルで留まっていた。 対照的に、コントロールグループから単離したPBMCによるIL-4、IL-5、IL-10、IL-13、TGF-βおよびIFN-γの産生には、経時変化はなかった。 これらのデータは、観察される活性T細胞の寛容性誘導に関与するサイトカインであるIL-10の産生の増強と並行するTH0のTH1への免疫偏向と適合した(図1)。 Akdis et al., J Clin. Invest. 102: 98-106, 1998を参照のこと。
【0120】
特異的抗PLA血清IgEおよびIgG4: スクリーニング時に、血清抗PLA IgEを、第14日、第42日および第80日に、CAPアッセイを用いて測定した。 ペプチド対コントロールグループにおける抗PLA IgEレベル間の経時的差異は、ペプチドグループにおいてIgE値がさらに高くなる傾向を示した(Fisherの正確検定、T14、T42、T80、p<0.03)が、グループ間での比較において、経時的な抗PLA IgEレベルにあっては、顕著な変動が無いことが示された(Friedman、p>0.05)(図3A、B)。対照的に、特異的抗PLA IgG4抗体は、ペプチドグループにおいて経時的に着実に増加し、有意に達した(Friedman、p<0.001)(図4A)。 各点は、個々の値を示す。 グループ内の差異は、統計的に有意ではなかった(Friedman、p>0.05)。 コントロールグループにおける血清抗PLA IgG4レベル(図4B)は、研究の間ずっと一定であり、ペプチドグループとは有意に異なっていた(Fisherの正確検定、T42、T70、T80、p<0.01)。
【0121】
皮内試験に対する皮膚の即時反応性: スクリーニング時に、OPFグループまたはコントロールグループの患者はいずれも、別個の三つのOPFまたはそれらの混合物(EPC≧1μg/ml)を用いたいずれの皮内注射に対しても即時アレルギー反応を発症しなかった(図5および図6A、6C)。 各点は、個々の値を示す。 グループ内の差異を、FriedmannノンパラメトリックANOVA検定(ペプチドグループについてp<0.001、コントロールグループについてp>0.05)により検定し、多重事後検定(第0日に対する第42日、第70日および第80日について、それぞれp<0.01、p<0.05およびp<0.05)によって、パネルAを完了した。 検定の終了時(第70日)、コントロールグループの患者は、いずれもEPC≦0.1μg/mlを有していなかったが、ペプチドグループの9名の患者のうち4名は、0.1μg/mlのOPF混合物に対して皮膚反応性を発症し、これが陽性の下限と考えられた。 第0日において、OPFグループおよびコントロールグループにおける全ての患者がネイティブPLAに対する陽性ID試験を受けた(図6B、6D)。 検定の終了時(第70日)、ペプチドグループ(図6B)の2名の患者のEPCで、log10が2だけ増加したが、2名の他の患者はlog10だけ増加した。 1名の患者では0.1〜0.01μg/mlで、PLAに対してEPCが減少したが、4名の患者では、PLAに対してEPCは変化しなかった。 第70日のコントロールグループ(図6B)では、2名の患者はPLAに対するEPCをlogだけ増加せしめたが、1名の患者のEPCで、log10が1だけ減少し、そして、4名の患者ではEPCは変化しなかった。 全体的にみて、これらの変化はグループ間で有意ではないが、OPFグループでのEPCは、(log10が2だけ増えて)ネイティブPLAに対して顕著な増強を示す患者が2名出現した。
【0122】
In vitroでの重複ペプチド断片へのIgE結合性
BV、ネイティブPLAおよび三つのOPFそれぞれに対するin vitro特異的IgE応答を、第0日、第7日、第14日、第42日、第70日および第80日におけるドットアッセイによって試験した(図7)。 第14日およびそれ以降は、ペプチドグループにおける平均の抗全BVおよび抗ネイティブPLA IgE結合は、第0日および第7日と比べて穏やかに増強する傾向があったものの、グループ間には有意な差異はなかった(図7A、7B)。 同様に、個々のOPFに対するIgE結合にも、グループ間で有意な差異はなかった(図7C、7D、7E)。 OPFグループでは、再び、ペプチドOPF90−134のIgE認識の増強に向かう非有意な傾向が見られた。 コントロールグループおよびペプチドグループの両方において、C末端ペプチドOPF90−134が、次いで、N末端ペプチドOPF1−60が、高レベルでIgEを結合していた。 内部ペプチドOPF47−99へのIgE結合は検出できなかった。 ネイティブPLAのみを用いた皮内試験は陽性であった。
【0123】
安全性評価試験: 第0日に、各ペプチドのOPF用量を、3.5時間以内に250μgの蓄積用量まで急激に増加させて注射した(100μg OPFグループ)にもかかわらず、局所的または全身的反応を経験した患者はいなかった。 第14日、第42日および第70日のペプチド注射後に、2名の患者において、穏やかで遅い(>2時間)局所的反応(紅斑)が生じ、約1時間後に消失した。 これら2名の患者において、第70日の最後の注射後、OPF注射後3時間を超えると、掌のかゆみおよび胴体の上部の一時的な紅斑が生じた。 重篤な有害事象(生命を脅かす反応)はなかった。
【0124】
300μgの維持用量のOPFを、最初に2名の患者に局所投与した。 一方の患者は、第42日に、局所的皮膚反応および胴体上部での発赤が遅れて(>2時間)発症したので、処置を中断した。 他方の患者は、300μgの用量に対し十分に寛容であったが、安全性のため、その後、100μg OPF処置グループに割り当てた。
【0125】
検 討
本試験は、主要なBVアレルゲンであるPLA由来のOPFを含むペプチド組成物によるアレルゲン免疫療法が、T細胞不活性化、Thl型T細胞サイトカイン応答への免疫偏向、IL-10分泌の増強およびPLA特異的IgG4の産生を誘発することができたことを示した。 2名の患者で用量蓄積により穏やかな非即時反応が誘導されたようであったが、OPF免疫療法は、安全であり、重篤な全身反応を誘発しなかった。
【0126】
各ペプチドの蓄積用量が250μgを超えたが(300μgのOPFを注射した2名の患者において550μg)、第0日に、いかなる局所的または全身的な有害事象もなくOPFを注射することができたという事実は、OPFの高い安全性を示すものである。 第14日、第42日および第70日に、注射の120分後以降、2名の患者のみに穏やかな局所的反応(痒みおよび紅斑)が生じ、この反応は1時間を超えては続かなかった。 何名かの患者では、最終的なペプチド注射により、手の痒みおよび胴体上部の発赤により特徴付けられる遅い(>3時間)全身反応を示した。 この症状は、従来の免疫療法またはラッシュプロトコルにおいて数分以内に発症する通常のアナフィラキシー反応と比べると比較的遅く(>3時間)起こったので、アナフィラキシーに特有の症状ではない。 これらの反応の遅延性の特徴は、従来のアレルゲンペプチド試験(Norman et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 154: 1623-1628, 1996; Oldfield et al., J. Immunol. 167: 1734-1739,2001; およびHaselden et al., J. Exp. Med. 189: 1885-1894, 1999)で認められるように、遅いアレルギー反応を示唆するものであるが、TH1炎症促進性サイトカインを生じるための特異的T細胞の刺激に関連する。 これらの二次的事象は用量依存性であり(Oldfield et al., J. Immunol. 167: 1734-1739, 2001)、このことは、まさに、OPF免疫療法のさらなる臨床的評価において、OPFの用量を適合させる必要があることを示唆するものである。 しかしながら、反応はすべて良性かつ自己制限的であった。 生命を脅かす反応は起こらなかった。
【0127】
In vitroドットブロットアッセイでは、3回目のOPF注射後、IgEのネイティブPLA、全BVまたはペプチドへの結合を改善する非有意な傾向が明らかであった。 血清抗PLA IgEレベルが増加する傾向と併せて考慮すると、これらのデータは、OPF免疫療法では、従来のBV免疫療法と同様に、第1週目の処置の間にアレルゲン特異的IgEの増加が生じ得ることを示唆するものである(Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1995 および Miiller Insect Sting Allergy: Clinical picture, diagnosis and treatment. Stuggart, New York: Gustav Fischer Verlag, 1990)。 この増加は、療法の最初の2週間で観察された一時的な特異的T細胞の活性化を本質的に反映するものである。 ペプチドに対するIgE結合活性は、第42日の後、明らかに阻害を受けて停滞した。
【0128】
このことは、試験を開始した際のin vivo皮膚試験では反映されていなかった。 試験の過程の間、4名の患者は、0.1μg/mlでOPFに対して穏やかに陽性ID試験結果を示したが、他の5名は1μg/mlにおいてもまだ陰性であった。 この差異は、確かに顕著であった。 これはすなわち、コントロールグループでは、0.1μg/mlの濃度で、いずれの患者も、検定の終了時に陽性ID試験結果を示さないことによる。 しかしながら、これらの陽性ID試験の臨床的重要性は、理解しにくい。 第70日の後の注射後、4名の患者のうち、2名の患者が穏やかな全身反応を発症した。 しかしながら、他の2名では、OPF注射に対する臨床的寛容性は良好であった。 OPFベースの免疫療法の長期安全性を評価するためには、より多くの集団について、より長期間の研究が必要であろう。
【0129】
この試験での最も顕著な結果の一つは、第80日における著しい特異的T細胞低応答性の誘発であった。 スクリーニング時に、OPFへの応答におけるT細胞増殖が低い場合、このことはBV特異的T細胞前駆体の数が少なく、低応答に進行する前に、ペプチドグループにて、第14日にピークに達したことを本質的に示唆した。 これらの結果は、マウスモデルについては既に示されているが(Tsitoura et al., J. Immunol. 163: 2592-2600, 1999; Hoyne et al., Int. Immunol. 8: 335-342 1996; および Pape et al., J. Immunol. 160: 4719-4729, 1998)、ヒトでの不活性化誘発が、T細胞活性化により進行することを示すものである。 この観察は、ネコアレルギー性喘息においてアレルゲン由来T細胞ペプチドの最初の投与で誘発された遅い喘息反応が、抗原低応答の誘発により進行するという最近の実証(Oldfield et al., J. Immunol. 167: 1734-1739, 2001)と一致する。 T細胞のOPFに対する応答の漸進的なダウンレギュレーションは、IL-10およびIFN-γ分泌の増強と並行して起こり、第42日でピークに達して、その後減少する。 T細胞増殖の経時的パターンは、T細胞不活性化の誘発を示唆した。 T細胞クローンの欠失は、特に、療法の後の過程で発生するサイトカイン分泌の減少に関する現象にも寄与した。 興味深いことに、IL-10およびIFN-γ分泌のピークは、最大T細胞増殖(すなわち、T細胞不活性化が確立された時点)の約4週間後に認められた。 この状況は、T細胞寛容性とは相容れない。 なぜなら、in vitroで不活性なCD4T細胞クローンはなお、Th1様エフェクター細胞に分化して、T-依存性IgG2a抗ハプテン応答および遅延型過敏反応に関与することができるからである(Malvey et al., J. Immunol. 161: 2168-2177, 1998)。 同様に、マウスにおけるPLAに対するアレルギーモデルでは、OPFによる寛容性誘発にかかわらず、強いIFN-γ産生および抗アレルゲンIgG2a応答の持続が示された(von Garnier et al., Eur. J. Immunol 30: 1638-1645, 2000 および Astori et al., J. Immunol. 165: 3497-3505, 2000)。 IL-10は、T細胞不活性誘発に関与し、他のCD4T細胞特異的活性を抑制するTリンパ球の亜集団、いわゆるTrlサブセットにより分泌される(Groux et al., Nature 389: 737-742, 1997 および Akdis et ctl., FASEB J. 13: 603-609, 1999)。 IL-10は、顕著な抗炎症性をも有する(de Waal Malefyt et al., J. Immunol. 150: 4754-4765, 1993)。 TH1型サイトカイン産生への免疫偏向は、それ自身は有害であり得る(Hansen et al., J. Clin. Invest. 103: 175-183, 1999)が、IL-10およびIFN-γのような抗炎症性サイトカインの組み合わせは、潜在的に有害なサイトカインの分泌を再均衡化する。
【0130】
特異的抗PLA血清IgG4応答は、有意に刺激された。 以前は、従来の免疫療法の増加期には、IgG4の穏やかな上昇が示された(Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997 および Muller et al., Allergy 44: 412-418, 1989)。 血清IgG4レベルは、免疫療法に対する応答における有効な保護が予測できる(Urbanek et al., Clin. Allergy 16: 317-322, 1986 および Lesourd et al., J. Allergy Clin Immunol. 83: 563-571, 1989)が、この考えは賛否両論であり得る(Muller et al., Allergy 44: 412-418, 1989)。 特異的免疫療法の2年後に得られたIgEおよびIgG4レベルは、膜翅目の毒を試した後に認められる反応性の特異的および高感度な予測手段(高いIgG4応答は保護に関連し、低いIgG4レベルはアナフィラキシーに関連する)である、ことが最近示された(Ollert et al., J. Allergy Clin. Immunol. 105: S59, Abstract 178, 2000)。 IgG4は、アレルゲンへのIgE結合と部分的に競合して、臨床的保護にも貢献する(Schneider et al., J. Allergy Clin. Immunol 94: 61-70, 1994)。
【0131】
このプラシーボ制御された試験は、OPFベースのアレルゲン免疫療法が安全で、かつ特異的T細胞低応答性、IL-10分泌と並行するTH1サイトカイン分泌への免疫偏向および増強されたIgG4産生を誘発することを示した。 従って、OPF免疫療法は、ラッシュ免疫療法および従来の免疫療法で観察された細胞および体液で認められたパターン現象を、その療法に特有の二次的なアナフィラキシー現象を引き起こさずに再現する。 (Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997; Akdis et al., J. Clim. Invest. 102: 98-106, 1998; Akdis et al., J Clin Invest 98: 1676-83, 1996;およびJutel et al., J. Immunol. 154: 4187-4194, 1995)。
【0132】
実施例2:アレルゲン由来の重複ペプチド断片を用いた樺花粉(Bet v1)特異的T細胞寛容性の誘発
物質および方法
患 者: 本試験に適切な患者として、季節性樺花粉アレルギーの病歴を有し、アルブミン10mg/ml膨疹と比較したSPT反応が≧3+であり、かつ市販の樺花粉抽出物に対して3mmを超える膨疹の結果しか示さない患者が挙げられる。
【0133】
皮膚試験: 試験に用いる濃度は、10−3μg/ml〜1μg/ml(10倍希釈シリーズ)の範囲内である。 ID試験結果は、濃度≦0.1μg/mlで、(樺花粉、Bet v1およびペプチドについて)膨疹反応が直径5mmを超え、かつ紅斑が存在する場合、陽性と考えられるであろう。
【0134】
試験計画: 試験は、二重盲検の、ランダム化された、2回投与の、プラシーボコントロールされた試験として設計する。 第0日に、OPFグループからの患者に、連続的に0.1μg、1μg、10μg、20μg、40μg、80μgおよび100μgとした二つのOPFのそれぞれを、30分間隔で注射する。 次いで、第4日、第7日、第14日、第42日および第70日に、患者に、二つのOPFのそれぞれを、維持用量100μgで注射する。 維持用量300μgの各OPFを、42日まで、2名の患者に最初に注射する。 コントロールグループからの患者には、等体積のペプチド希釈液(4mg/mlのフェノールを含む0.3mg/mlアルブミン溶液)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)のみを注射する。
【0135】
ペプチド合成および精製: Bet v1(配列番号:7)の全160アミノ酸をマッピングする二つの重複ペプチド断片OPF1−90(配列番号:5)およびOPF80−160(配列番号:6)を、Applied Biosystems 431A Peptide Synthesizer (Perkin Elmer, Foster City, CA)を用いて合成し、Roggero et al., FEBS Lett. 408: 285-288, 1997に記載のように精製する。 分析HPLCおよびマススペクトル分析を用いて、各ペプチドの純度(>80%)を評価するが、これらペプチドはPBSに容易に溶解可能である。 注射を行う日に、ペプチド混合物を、0.3mg/mlアルブミン溶液(4mg/mlのフェノールを含む)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)中で再調製して、三角筋領域に皮下注射する。
【0136】
試 薬: 全樺花粉およびBet v1を購入する。 細胞培養のために、Bet v1をHPLCでさらに精製する。 その細胞毒性を、100モル過剰のジチオスレイトールで37℃で一晩還元し、次いで、1000モル過剰のN-エチルマレイミドでアルキル化することにより、阻害する。 Bet v1を、Sephadex G-25カラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)で精製する。 PMAおよびイオノマイシンは、Calbiochem, San Diego, CAから購入する。
【0137】
増殖アッセイ: 各OPF注射の直前に採血し、PBMCを、Ficoll-Paque (Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)による密度勾配遠心分離により、ヘパリン化血液から単離する。 H-チミジン(Du Pont NEN Products Boston, MA, USA)取り込みの前に、各提供者からのPBMC(2×10細胞/ウェル)を、10%AB血清(スイス赤十字社、ベルン、スイス国)、2mMグルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1%カナマイシン(全てGibco社から入手)と、最適濃度のOPF(10μg/ml)またはBet v1(10μg/ml)とを含むRPMI 1640培地(Gibco, Basel, Switzerland)中の96ウェル平底プレート(Costar Corning Inc., New York, NY)中で6日間、8連で培養する。 Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997を参照のこと。
【0138】
短期T細胞株: T細胞株を各注射の前に単離したPMBCから誘発し、24ウェルプレート(Nunc)(10細胞/ウェル)中で二つのOPF(10μg/ml)の混合物を用いて7日間、上述の10%AB添加RPMI 1640培地中で刺激する。 得られた短期T細胞株を洗浄し、24時間(IL-4、IL-5、IL-13およびTGF-β分泌)または48時間(IFN-γおよびIL-10)、プラスチック架橋OKT3(1μg/ml)で再刺激する(Jutel et al., Clin. Experiment. Allergy, 25: 1108-1117, 1995を参照のこと)。 細胞の培養上清を、サイトカインの定量のために回収し、−80℃で保存する。
【0139】
サイトカインの定量: IL-4、IL-10およびIFN-γを、市販のELISAキット(IL-4、IL-10およびIFN-γに関してはMabtech AG, Nacka, Swedenから、IL-5、IL-13およびTGF-βに関してはR&D Systemから入手)を用いて、製造者の推奨に従って滴定する。
【0140】
特異的血清IgEおよびIgG4の定量: 全樺花粉および抗Bet v1特異的IgEは、Phamarcia CAP System Fluoroimmunoassay (Pharmacia Diagnostic AB, Uppsala, Sweden)を用いて、Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997の記載に従って定量する。 特異的抗Bet v1 IgG4の定量のため、ネイティブBet v1(5μg/ml)を、炭酸/重炭酸緩衝液(pH9.6)中で2時間、室温にて96ウェルプレート(Maxisorb, Denmark)上にコーティングする。 プレートを、ミルク5%/PBS/Tween 0.05%でブロックする。 1%ミルク/Tween 0.05%中の血清の一連の希釈物を、室温で1時間インキュベートする。 プレートを3回洗浄し、セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識化抗IgG4 モノクローナル抗体 JDC-141/10'000 (Pharmingen, Hamburg, Germany)と共にインキュベートし、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)に曝露する。 光学密度を、450nmで、マイクロタイタープレートアナライザ(MR5000, Dynatech Laboratories)で測定する。 標準血清に対する力価が報告され、任意の標準的単位で表される。
【0141】
免疫ブロッティングおよびドットブロット分析: 抗樺花粉または抗Bet v1免疫ブロットは、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401, 1999に記載の手順に従って処理する。 ドットブロット分析のため、1μgの全樺花粉、Bet v1、OPFまたはヒトアルブミンを、DMSO中で1/4に希釈し、PVDF膜に滴下し、37℃で30分間乾燥する。 無脂肪ミルク5%中でブロッキングした後、さらなる工程を、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401 1999に記載の手順に従って処理する。 ドット密度を、Advanced American Biotechnology scanner, Fullerton, CAを利用したスキャンニング密度測定法により分析する。
【0142】
統計的分析: グループ内およびグループ間の差異は、ノンパラメトリックANOVA検定(多重比較事後検定またはMann-Whitney検定をそれぞれ用いるFriedmanまたはKruskal-Wallisのノンパラメトリック検定)によるか;あるいはFisherの正確検定(グループ間差異:応答者対非応答者、陽性応答は第0日の値の2倍であると定義される)により、Instat 3.0ソフトウェアを用いて評価する。
【0143】
実施例3:アレルゲン由来の重複ペプチド断片を用いた樺花粉プロフィリン(Bet v2)特異的T細胞寛容性の誘発
物質および方法
患 者: 本試験に適切な患者として、季節性樺花粉アレルギーの病歴を有し、アルブミン10mg/ml膨疹と比較したSPT反応が≧3+であり、かつ市販の樺花粉抽出物に対して3mmを超える膨疹の結果しか示さない患者が挙げられる。
【0144】
皮膚試験: 試験に用いる濃度は、10−3μg/ml〜1μg/ml(10倍希釈シリーズ)の範囲内である。 ID試験結果は、濃度≦0.1μg/mlで、(樺花粉プロフィリン、Bet v2およびペプチドについて)膨疹反応が直径5mmを超え、かつ紅斑が存在する場合、陽性と考えられるであろう。
【0145】
試験計画: 試験は、二重盲検の、ランダム化された、2回投与の、プラシーボコントロールされた試験として設計する。 第0日に、OPFグループからの患者に、連続的に0.1μg、1μg、10μg、20μg、40μg、80μgおよび100μgとした二つのOPFのそれぞれを、30分間隔で注射する。 次いで、第4日、第7日、第14日、第42日および第70日に、患者に、二つのOPFのそれぞれを、維持用量100μgで注射する。 維持用量300μgの各OPFを、42日まで、2名の患者に最初に注射する。 コントロールグループからの患者には、等体積のペプチド希釈液(4mg/mlのフェノールを含む0.3mg/mlアルブミン溶液)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)のみを注射する。
【0146】
ペプチド合成および精製: Bet v2(配列番号:10)の全133アミノ酸をマッピングする二つの重複ペプチド断片OPF1−70(配列番号:8)およびOPF60−133(配列番号:9)を、Applied Biosystems 431A Peptide Synthesizer (Perkin Elmer, Foster City, CA)を用いて合成し、Roggero et al., FEBS Lett. 408: 285-288, 1997に記載のように精製する。 分析HPLCおよびマススペクトル分析を用いて、各ペプチドの純度(>80%)を評価するが、これらペプチドはPBSに容易に溶解可能である。 注射を行う日に、ペプチド混合物を、0.3mg/mlアルブミン溶液(4mg/mlのフェノールを含む)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)中で再調製して、三角筋領域に皮下注射する。
【0147】
試 薬: 全樺花粉プロフィリンおよびBet v2を購入する。 細胞培養のために、Bet v2をHPLCでさらに精製する。 その細胞毒性を、100モル過剰のジチオスレイトールで37℃で一晩還元し、次いで、1000モル過剰のN-エチルマレイミドでアルキル化することにより、阻害する。 Bet v1を、Sephadex G-25カラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)で精製する。 PMAおよびイオノマイシンは、Calbiochem, San Diego, CAから購入する。
【0148】
増殖アッセイ: 各OPF注射の直前に採血し、PBMCを、Ficoll-Paque (Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)による密度勾配遠心分離により、ヘパリン化血液から単離する。 H-チミジン(Du Pont NEN Products Boston, MA, USA)取り込みの前に、各提供者からのPBMC(2×10細胞/ウェル)を、10%AB血清(スイス赤十字社、ベルン、スイス国)、2mMグルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1%カナマイシン(全てGibco社から入手)と、最適濃度のOPF(10μg/ml)またはBet v1(10μg/ml)とを含むRPMI 1640培地(Gibco, Basel, Switzerland)中の96ウェル平底プレート(Costar Corning Inc., New York, NY)中で6日間、8連で培養する。 Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997を参照のこと。
【0149】
短期T細胞株: T細胞株を各注射の前に単離したPMBCから誘発し、24ウェルプレート(Nunc)(10細胞/ウェル)中で二つのOPF(10μg/ml)の混合物を用いて7日間、上述の10%AB添加RPMI 1640培地中で刺激する。 得られた短期T細胞株を洗浄し、24時間(IL-4、IL-5、IL-13およびTGF-β分泌)または48時間(IFN-γおよびIL-10)、プラスチック架橋OKT3(1μg/ml)で再刺激する(Jutel et al., Clin. Experiment. Allergy, 25: 1108-1117, 1995を参照のこと)。 細胞の培養上清を、サイトカインの定量のために回収し、−80℃で保存する。
【0150】
サイトカインの定量: IL-4、IL-10およびIFN-γを、市販のELISAキット(IL-4、IL-10およびIFN-γに関してはMabtech AG, Nacka, Swedenから、IL-5、IL-13およびTGF-βに関してはR&D Systemから入手)を用いて、製造者の推奨に従って滴定する。
【0151】
特異的血清IgEおよびIgG4の定量: 全樺花粉プロフィリンおよび抗Bet v2特異的IgEは、Phamarcia CAP System Fluoroimmunoassay (Pharmacia Diagnostic AB, Uppsala, Sweden)を用いて、Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997の記載に従って定量する。 特異的抗Bet v1 IgG4の定量のため、ネイティブBet v2(5μg/ml)を、炭酸/重炭酸緩衝液(pH9.6)中で2時間、室温にて96ウェルプレート(Maxisorb, Denmark)上にコーティングする。 プレートを、ミルク5%/PBS/Tween 0.05%でブロックする。 1%ミルク/Tween 0.05%中の血清の一連の希釈物を、室温で1時間インキュベートする。 プレートを3回洗浄し、セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識化抗IgG4 モノクローナル抗体 JDC-141/10'000 (Pharmingen, Hamburg, Germany)と共にインキュベートし、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)に曝露する。 光学密度を、450nmで、マイクロタイタープレートアナライザ(MR5000, Dynatech Laboratories)で測定する。 標準血清に対する力価が報告され、任意の標準的単位で表される。
【0152】
免疫ブロッティングおよびドットブロット分析: 抗樺花粉プロフィリンまたは抗Bet v2免疫ブロットは、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401, 1999に記載の手順に従って処理する。 ドットブロット分析のため、1μgの全樺花粉プロフィリン、Bet v2、OPFまたはヒトアルブミンを、DMSO中で1/4に希釈し、PVDF膜に滴下し、37℃で30分間乾燥する。 無脂肪ミルク5%中でブロッキングした後、さらなる工程を、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401 1999に記載の手順に従って処理する。 ドット密度を、Advanced American Biotechnology scanner, Fullerton, CAを利用したスキャンニング密度測定法により分析する。
【0153】
統計的分析: グループ内およびグループ間の差異は、ノンパラメトリックANOVA検定(多重比較事後検定またはMann-Whitney検定をそれぞれ用いるFriedmanまたはKruskal-Wallisのノンパラメトリック検定)によるか;あるいはFisherの正確検定(グループ間差異:応答者対非応答者、陽性応答は第0日の値の2倍であると定義される)により、Instat 3.0ソフトウェアを用いて評価する。
【0154】
実施例4:アレルゲン由来の重複ペプチド断片を用いた塵性ダニ(Der p1)特異的T細胞寛容性の誘発
物質および方法
患 者: 本試験に適切な患者として、塵性ダニアレルギーの病歴を有し、アルブミン10mg/ml膨疹と比較したSPT反応が≧3+であり、かつ市販の塵性ダニ抽出物に対して3mmを超える膨疹の結果しか示さない患者が挙げられる。
【0155】
皮膚試験: 試験に用いる濃度は、10−3μg/ml〜1μg/ml(10倍希釈シリーズ)の範囲内である。 ID試験結果は、濃度≦0.1μg/mlで、(塵性ダニ、Der p1およびペプチドについて)膨疹反応が直径5mmを超え、かつ紅斑が存在する場合、陽性と考えられるであろう。
【0156】
試験計画: 試験は、二重盲検の、ランダム化された、2回投与の、プラシーボコントロールされた試験として設計する。 第0日に、OPFグループからの患者に、連続的に0.1μg、1μg、10μg、20μg、40μg、80μgおよび100μgとした二つのOPFのそれぞれを、30分間隔で注射する。 次いで、第4日、第7日、第14日、第42日および第70日に、患者に、二つのOPFのそれぞれを、維持用量100μgで注射する。 維持用量300μgの各OPFを、42日まで、2名の患者に最初に注射する。 コントロールグループからの患者には、等体積のペプチド希釈液(4mg/mlのフェノールを含む0.3mg/mlアルブミン溶液)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)のみを注射する。
【0157】
ペプチド合成および精製: Der p1(配列番号:14)の全212アミノ酸をマッピングする三つの重複ペプチド断片OPF1−81(配列番号:11)、OPF67−152(配列番号:12)およびOPF137−212(配列番号:13)を、Applied Biosystems 431A Peptide Synthesizer (Perkin Elmer, Foster City, CA)を用いて合成し、Roggero et al., FEBS Lett. 408: 285-288, 1997に記載のように精製する。 分析HPLCおよびマススペクトル分析を用いて、各ペプチドの純度(>80%)を評価するが、これらペプチドはPBSに容易に溶解可能である。 注射を行う日に、ペプチド混合物を、0.3mg/mlアルブミン溶液(4mg/mlのフェノールを含む)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)中で再調製して、三角筋領域に皮下注射する。
【0158】
試 薬: 全DMおよびDer p1を購入する。 細胞培養のために、Der p1をHPLCでさらに精製する。 その細胞毒性を、100モル過剰のジチオスレイトールで37℃で一晩還元し、次いで、1000モル過剰のN-エチルマレイミドでアルキル化することにより、阻害する。 Der p1を、Sephadex G-25カラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)で精製する。 PMAおよびイオノマイシンは、Calbiochem, San Diego, CAから購入する。
【0159】
増殖アッセイ: 各OPF注射の直前に採血し、PBMCを、Ficoll-Paque (Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)による密度勾配遠心分離により、ヘパリン化血液から単離する。 H-チミジン(Du Pont NEN Products Boston, MA, USA)取り込みの前に、各提供者からのPBMC(2×10細胞/ウェル)を、10%AB血清(スイス赤十字社、ベルン、スイス国)、2mMグルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1%カナマイシン(全てGibco社から入手)と、最適濃度のOPF(10μg/ml)またはBet v1(10μg/ml)とを含むRPMI 1640培地(Gibco, Basel, Switzerland)中の96ウェル平底プレート(Costar Corning Inc., New York, NY)中で6日間、8連で培養する。 Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997を参照のこと。
【0160】
短期T細胞株: T細胞株を各注射の前に単離したPMBCから誘発し、24ウェルプレート(Nunc)(10細胞/ウェル)中で三つのOPF(10μg/ml)の混合物を用いて7日間、上述の10%AB添加RPMI 1640培地中で刺激する。 得られた短期T細胞株を洗浄し、24時間(IL-4、IL-5、IL-13およびTGF-β分泌)または48時間(IFN-γおよびIL-10)、プラスチック架橋OKT3(1μg/ml)で再刺激する(Jutel et al., Clin. Experiment. Allergy, 25: 1108-1117, 1995を参照のこと)。 細胞の培養上清を、サイトカインの定量のために回収し、−80℃で保存する。
【0161】
サイトカインの定量: IL-4、IL-10およびIFN-γを、市販のELISAキット(IL-4、IL-10およびIFN-γに関してはMabtech AG, Nacka, Swedenから、IL-5、IL-13およびTGF-βに関してはR&D Systemから入手)を用いて、製造者の推奨に従って滴定する。
【0162】
特異的血清IgEおよびIgG4の定量: 全DMおよび抗Der p1特異的IgEは、Phamarcia CAP System Fluoroimmunoassay (Pharmacia Diagnostic AB, Uppsala, Sweden)を用いて、Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997の記載に従って定量する。 特異的抗Der p1 IgG4の定量のため、ネイティブDer p1(5μg/ml)を、炭酸/重炭酸緩衝液(pH9.6)中で2時間、室温にて96ウェルプレート(Maxisorb, Denmark)上にコーティングする。 プレートを、ミルク5%/PBS/Tween 0.05%でブロックする。 1%ミルク/Tween 0.05%中の血清の一連の希釈物を、室温で1時間インキュベートする。 プレートを3回洗浄し、セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識化抗IgG4 モノクローナル抗体 JDC-141/10'000 (Pharmingen, Hamburg, Germany)と共にインキュベートし、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)に曝露する。 光学密度を、450nmで、マイクロタイタープレートアナライザ(MR5000, Dynatech Laboratories)で測定する。 標準血清に対する力価が報告され、任意の標準的単位で表される。
【0163】
免疫ブロッティングおよびドットブロット分析: 抗DMまたは抗Der p1免疫ブロットは、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401, 1999に記載の手順に従って処理する。 ドットブロット分析のため、1μgの塵性ダニアレルゲン、Der p1、OPFまたはヒトアルブミンを、DMSO中で1/4に希釈し、PVDF膜に滴下し、37℃で30分間乾燥する。 無脂肪ミルク5%中でブロッキングした後、さらなる工程を、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401 1999に記載の手順に従って処理する。 ドット密度を、Advanced American Biotechnology scanner, Fullerton, CAを利用したスキャンニング密度測定法により分析する。
【0164】
統計的分析: グループ内およびグループ間の差異は、ノンパラメトリックANOVA検定(多重比較事後検定またはMann-Whitney検定をそれぞれ用いるFriedmanまたはKruskal-Wallisのノンパラメトリック検定)によるか;あるいはFisherの正確検定(グループ間差異:応答者対非応答者、陽性応答は第0日の値の2倍であると定義される)により、Instat 3.0ソフトウェアを用いて評価する。
【0165】
実施例5:アレルゲン由来の重複ペプチド断片を用いた塵性ダニ(Der p2)特異的T細胞寛容性の誘発
物質および方法
患 者: 本試験に適切な患者として、塵性ダニアレルギーの病歴を有し、アルブミン10mg/ml膨疹と比較したSPT反応が≧3+であり、かつ市販の塵性ダニ抽出物に対して3mmを超える膨疹の結果しか示さない患者が挙げられる。
【0166】
皮膚試験: 試験に用いる濃度は、10−3μg/ml〜1μg/ml(10倍希釈シリーズ)の範囲内である。 ID試験結果は、濃度≦0.1μg/mlで、(塵性ダニ、Der p2およびペプチドについて)膨疹反応が直径5mmを超え、かつ紅斑が存在する場合、陽性と考えられるであろう。
【0167】
試験計画: 試験は、二重盲検の、ランダム化された、2回投与の、プラシーボコントロールされた試験として設計する。 第0日に、OPFグループからの患者に、連続的に0.1μg、1μg、10μg、20μg、40μg、80μgおよび100μgとした二つのOPFのそれぞれを、30分間隔で注射する。 次いで、第4日、第7日、第14日、第42日および第70日に、患者に、二つのOPFのそれぞれを、維持用量100μgで注射する。 維持用量300μgの各OPFを、42日まで、2名の患者に最初に注射する。 コントロールグループからの患者には、等体積のペプチド希釈液(4mg/mlのフェノールを含む0.3mg/mlアルブミン溶液)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)のみを注射する。
【0168】
ペプチド合成および精製: Der p2(配列番号:17)の全136アミノ酸をマッピングする二つの重複ペプチド断片OPF1−73(配列番号:15)およびOPF57−136(配列番号:16)を、Applied Biosystems 431A Peptide Synthesizer (Perkin Elmer, Foster City, CA)を用いて合成し、Roggero et al., FEBS Lett. 408: 285-288, 1997に記載のように精製する。 分析HPLCおよびマススペクトル分析を用いて、各ペプチドの純度(>80%)を評価するが、これらペプチドはPBSに容易に溶解可能である。 注射を行う日に、ペプチド混合物を、0.3mg/mlアルブミン溶液(4mg/mlのフェノールを含む)(ALK/Abello, Horsholm, Denmark)中で再調製して、三角筋領域に皮下注射する。
【0169】
試 薬: 全DMおよびDer p2を購入する。 細胞培養のために、Der p2をHPLCでさらに精製する。 その細胞毒性を、100モル過剰のジチオスレイトールで37℃で一晩還元し、次いで、1000モル過剰のN-エチルマレイミドでアルキル化することにより、阻害する。 Der p2を、Sephadex G-25カラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)で精製する。 PMAおよびイオノマイシンは、Calbiochem, San Diego, CAから購入する。
【0170】
増殖アッセイ: 各OPF注射の直前に採血し、PBMCを、Ficoll-Paque (Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)による密度勾配遠心分離により、ヘパリン化血液から単離する。 H-チミジン(Du Pont NEN Products Boston, MA, USA)取り込みの前に、各提供者からのPBMC(2×10細胞/ウェル)を、10%AB血清(スイス赤十字社、ベルン、スイス国)、2mMグルタミン、1%ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、1%カナマイシン(全てGibco社から入手)と、最適濃度のOPF(10μg/ml)またはBet v1(10μg/ml)とを含むRPMI 1640培地(Gibco, Basel, Switzerland)中の96ウェル平底プレート(Costar Corning Inc., New York, NY)中で6日間、8連で培養する。 Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997を参照のこと。
【0171】
短期T細胞株: T細胞株を各注射の前に単離したPMBCから誘発し、24ウェルプレート(Nunc)(10細胞/ウェル)中で二つのOPF(10μg/ml)の混合物を用いて7日間、上述の10%AB添加RPMI 1640培地中で刺激する。 得られた短期T細胞株を洗浄し、24時間(IL-4、IL-5、IL-13およびTGF-β分泌)または48時間(IFN-γおよびIL-10)、プラスチック架橋OKT3(1μg/ml)で再刺激する(Jutel et al., Clin. Experiment. Allergy, 25: 1108-1117, 1995を参照のこと)。 細胞の培養上清を、サイトカインの定量のために回収し、−80℃で保存する。
【0172】
サイトカインの定量: IL-4、IL-10およびIFN-γを、市販のELISAキット(IL-4、IL-10およびIFN-γに関してはMabtech AG, Nacka, Swedenから、IL-5、IL-13およびTGF-βに関してはR&D Systemから入手)を用いて、製造者の推奨に従って滴定する。
【0173】
特異的血清IgEおよびIgG4の定量: 全DMおよび抗Der p2特異的IgEは、Phamarcia CAP System Fluoroimmunoassay (Pharmacia Diagnostic AB, Uppsala, Sweden)を用いて、Kammerer et al., J. Allergy Clin. Immunol. 100: 96-103, 1997の記載に従って定量する。 特異的抗Der p2 IgG4の定量のため、ネイティブDer p2(5μg/ml)を、炭酸/重炭酸緩衝液(pH9.6)中で2時間、室温にて96ウェルプレート(Maxisorb, Denmark)上にコーティングする。 プレートを、ミルク5%/PBS/Tween 0.05%でブロックする。 1%ミルク/Tween 0.05%中の血清の一連の希釈物を、室温で1時間インキュベートする。 プレートを3回洗浄し、セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識化抗IgG4 モノクローナル抗体 JDC-141/10'000 (Pharmingen, Hamburg, Germany)と共にインキュベートし、3,3’,5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)に曝露する。 光学密度を、450nmで、マイクロタイタープレートアナライザ(MR5000, Dynatech Laboratories)で測定する。 標準血清に対する力価が報告され、任意の標準的単位で表される。
【0174】
免疫ブロッティングおよびドットブロット分析: 抗DMまたは抗Der p2免疫ブロットは、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401, 1999に記載の手順に従って処理する。 ドットブロット分析のため、1μgの塵性ダニアレルゲン、Der p2、OPFまたはヒトアルブミンを、DMSO中で1/4に希釈し、PVDF膜に滴下し、37℃で30分間乾燥する。 無脂肪ミルク5%中でブロッキングした後、さらなる工程を、Kettner et al., Clin. Experiment. Allergy 29: 394-401 1999に記載の手順に従って処理する。 ドット密度を、Advanced American Biotechnology scanner, Fullerton, CAを利用したスキャンニング密度測定法により分析する。
【0175】
統計的分析: グループ内およびグループ間の差異は、ノンパラメトリックANOVA検定(多重比較事後検定またはMann-Whitney検定をそれぞれ用いるFriedmanまたはKruskal-Wallisのノンパラメトリック検定)によるか;あるいはFisherの正確検定(グループ間差異:応答者対非応答者、陽性応答は第0日の値の2倍であると定義される)により、Instat 3.0ソフトウェアを用いて評価する。
【0176】
他の実施態様
これまでに、本願発明の特定の実施態様について詳細に説明してきたが、これら説明が、特定の方法および組成物に関するものであることは明らかである。 本願明細書では特定の実施態様について詳細に記載してきたものであって、これら開示は、例示目的とした実施例に過ぎず、ここに添付した特許請求の範囲の欄に記載の発明の限定を意図するものではない。 すなわち、本願発明者は、特許請求の範囲の欄での記載によって包含される発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本願発明に対して種々の置換、改変および変更が加えることを意図するものである。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】PLA由来の重複ペプチドを利用した治療が、蜂毒に対して過敏な患者において、特異的なT細胞アレルギーを招くことを示すグラフである。 斜線を付した帯棒は、ペプチド処置したグループを、そして、無斜線の帯棒は、(アルブミン処置した)コントロールグループを示している。 その結果を、5、25、50、75、95の百分位を明示した帯棒と細線で示している。 中央値は、太線で示してある。
【図2】重複ペプチドを利用した治療が、T細胞サイトカイン応答に変調をきたし、また、IL-10の分泌を強力に刺激することを示す一連のグラフである。 短期T細胞系の上清に由来するサイトカイン(図A:IL-4;図B:IFN-γ;図C:IL-10)を、細胞上清を用いたELISAによって定量した。 その結果を、5、25、50、75、95の百分位を明示した帯棒と細線で示している。 中央値は、太線で示してある。
【図3】抗PLA特異的血清IgEを示す一連のグラフである。 抗PLA特異的血清IgEを、表示した時点にて、ペプチド処置したグループ(図A)およびコントロールグループ(図B)について定量した。 中央値は、太線で示してある。
【図4】抗PLA特異的血清IgG4を示す一連のグラフである。 抗PLA特異的血清IgG4を、表示した時点にて、ペプチド処置したグループ(図A)およびコントロールグループ(図B)について定量した。 中央値は、太線で示してある。
【図5】重複ペプチド断片に対する即時アレルギー症状の欠如を示す写真である。 ペプチド処置グループに属する患者の皮内に、左側から右側に向かって、0.01μg/mlの天然PLA、三つの合成ペプチド断片、OPF1-60、OPF47-99およびOPF90-134の各1μg/ml、およびこれらペプチド断片断片の混合物(各1μg/ml)(矢印)が注射されている。
【図6】ペプチドおよび天然PLAを用いた皮内試験を示す一連のグラフである。 その試験結果を、三つの重複ペプチド断片(混合物)(図A、C)および天然PLA(図B、D)でそれぞれ処置した、ペプチドグループ(図A、B)およびコントロールグループ(図C、D)に属する患者の試験登録時(0日目)および70日目の最終注射を行った後の終点濃度で表した。
【図7−1】各回の注射を終えた後にドットブロット分析によって決定した、天然蜂毒、天然PLA(図A、B)および重複ペプチド断片OPF1-60、OPF47-99およびOPF90-134(図C、D、E)に対するin vitroでのIgE結合性を示す一連のグラフである。 その結果を、任意単位の吸光度で表現した。 無斜線の帯棒は、コントロールグループを、そして、斜線を付した帯棒は、ペプチドグループである。
【図7−2】各回の注射を終えた後にドットブロット分析によって決定した、天然蜂毒、天然PLA(図A、B)および重複ペプチド断片OPF1-60、OPF47-99およびOPF90-134(図C、D、E)に対するin vitroでのIgE結合性を示す一連のグラフである。 その結果を、任意単位の吸光度で表現した。 無斜線の帯棒は、コントロールグループを、そして、斜線を付した帯棒は、ペプチドグループである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:18)と共に、配列番号:5および8に記載の複数の連続する重複ペプチド断片、すなわち、前記アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物。
【請求項2】
キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:19)と共に、配列番号:6および9に記載の複数の連続する重複ペプチド断片、すなわち、前記アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物。
【請求項3】
キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:20)と共に、配列番号:5および8に記載の複数の連続する重複ペプチド断片、すなわち、前記アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物。
【請求項4】
キメラ樺花粉アレルゲンのアミノ酸配列全体(配列番号:21)と共に、配列番号:6および9に記載の複数の連続する重複ペプチド断片、すなわち、前記アレルゲンに対して過敏な患者においてT細胞応答を誘発することができる断片を含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【公開番号】特開2011−201886(P2011−201886A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94277(P2011−94277)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【分割の表示】特願2006−165170(P2006−165170)の分割
【原出願日】平成16年3月15日(2004.3.15)
【出願人】(506129315)
【Fターム(参考)】