説明

アレルゲン不活化繊維製品および該繊維製品の製造方法

【課題】高いアレルゲン不活作用を有し、かつその作用が持続するアレルゲン不活化繊維製品および該アレルゲン不活化繊維製品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】無機系のアレルゲン不活剤を担持したアレルゲン不活化繊維製品において、該無機系のアレルゲン不活剤が複合金属酸化物であり、また固溶体であり、かつ式(ZnO)1-x(Al23x (式中、xは0.005≦x<0.2である)で表される複合金属酸化物であるアレルゲン不活化繊維製品および該アレルゲン不活化繊維製品の製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアレルゲン不活化繊維製品および該繊維製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、スギ花粉等の植物性蛋白、ダニ虫体や排泄物、家畜の体毛等の動物性蛋白を継続的に吸入、接触もしくは摂取することにより感作状態となるアレルギー性疾患が問題となっている。例えばスギ花粉症は国民の相当多数が罹っており、花粉を発生させない、もしくは花粉の量が少ないスギの開発が大きな話題となっている。これらのアレルギー疾患においては、一旦感作状態となってしまうと微量の同種アレルゲンを吸入、接触等により再摂取することにより、皮膚炎、鼻炎、くしゃみ、喘息等の著しいアレルギー反応を生じる。このようなアレルギー反応を抑制するためには、原因物質となるアレルゲンを減少させるあるいは接触を避けることが肝要であり、前記の花粉の少ないスギの開発もこの考えによるものである。
【0003】
アレルゲンとの接触を避ける手段として、例えば掃除機や空気清浄機等により床面堆積塵や空中浮遊塵を物理的に除去しアレルゲンを減少させる方法があるが、微細な粒子状物質であるアレルゲンを除去することは困難であり、場合によっては再飛散させより問題を大きくする。また、衣服、カーテンや布団等の繊維製品に付着したアレルゲンを物理的に取り除くことも困難である。
【0004】
また、アレルゲン不活化能を有する薬剤を環境中に噴霧、散布、もしくは塗布する方法も開示されている。たとえば、タンニン酸化合物の蛋白結合作用を利用し、環境中に存在するアレルゲンを不活性化する抗アレルゲン剤ならびにその利用法や(特開昭61−44821号公報、特開平06−279273号公報)、上記成分を含有する茶抽出物を塗布することにより、アレルゲン不活化性を有したフィルター等(特開2000−5531号公報)が開示されている。しかし、カテコール類似構造を有するタンニン酸ならびにポリフェノール類は変色しやすく、含有不純物による臭気の発生があり好ましくなく、水溶性であるため容易に脱離する問題がある。
【0005】
またアレルゲンを不活化する方法としては、アンモニウム塩を用いる方法(特開2001−354573号公報)や天然抽出物を用いる方法(特開2002−370996号公報)がある。しかし、これらの方法は基材(繊維,紙等)へ付着性能に問題があり、耐久性や安全性の点で使用は困難と思われる。有機系のアレルゲン不活化剤を繊維製品に担持する場合、表面に付着させた場合は時間がたつと剥離、脱落する問題がある。特に、繊維製品を洗濯すると容易に脱落、失活し好ましくない。特に洗濯時に漂白剤を用いるとアレルゲン不活化剤が容易に酸化され不活化能を失う問題がある。
また、有機系アレルゲン不活化剤を合成繊維の空隙に含浸させる方法もあるが、これらは、洗濯によるアレルゲン不活化効果の低下があまり大きくなく好ましいが、洗濯時に必須の殺菌処理である次亜塩素酸処理でアレルゲン不活化効果を失い易い欠点を有する。また、これらの含浸処理、練り込み処理はその処理自体のコストが高いこと、また繊維の段階でアレルゲン不活化処理が必要なため、織布、最終形態の製品にするまでの長い工程に渡り、各種の用途に対応した製品を揃えるために多量の半製品(繊維、布等)の在庫が必要であるため、この点からもコストが高い欠点を有する。また、これらの含浸処理、練り込み処理はポリエステル等の一部の合成繊維では処理が可能であるが、綿、麻等の天然繊維、アセテート等の再生繊維では不可能である。肌触りが良く、吸汗性のある綿、麻、レーヨン等のセルロース繊維を用いたアレルゲン不活化繊維製品とアレルゲン不活化性能を簡便に、安価に、迅速に得られるアレルゲン不活化方法が求められていた。
【0006】
一般の家庭、事務所、商店等で用いられる繊維製品のみならず、食品工場、調理場等の食品関係の施設、医療、介護関係の施設等で使用するリネン類は十分なアレルゲン不活化効果が必要である。さらに洗濯、特に80℃の熱湯による洗濯、さらには次亜塩素酸等の漂白処理により、そのアレルゲン不活化効果を失わない必要がある。しかし、従来のアレルゲン不活化繊維はこれらの処理によりアレルゲン不活化効果を容易に失った。
【0007】
無機系のアレルゲン不活剤としては、二酸化ケイ素,酸化亜鉛及び酸化アルミニウムのうち2種以上からなる複合鉱物をアレルゲン不活剤に用いる技術が公開されている(特開2007−39620号公報)が、アレルゲン不活性能が十分でなく、また繊維製品に付着させた際に洗濯により容易に脱落し効果を失う問題がある。また、水溶性亜鉛化合物もしくは非水溶性亜鉛化合物、亜鉛/金属酸化物複合素材を含有する水性材料をアレルゲン不活剤に用いる技術も公開されている(特開2006−239393号公報)が、これも粒子の分散性に問題があり結果として十分な耐久性のあるアレルゲン不活作用を有していない。
【0008】
アレルゲンの除去が困難な大きな要因はアレルゲンが微細なもので、繊維製品等の微細な凹凸を有するものに容易に付着し、その付着物を除去することが困難なことが挙げられる。室内には衣服、寝具、カーテン、カーペット等の繊維製品が多量にあり、これらに付着したアレルゲンを不活化する方法が求められていた。また、外出時に衣服にアレルゲンが付着し、衣服とともに室内に持ち込まれることも大きな問題である。特に着心地の良い天然系の繊維を用いた繊維製品は、天然繊維に凹凸が多いためアレルゲンが付着し易く、また除去し難かった。これらの繊維製品に付着したアレルゲンの不活化が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−44821号公報
【特許文献2】特開平06−279273号公報
【特許文献3】特開2000−5531号公報
【特許文献4】特開2001−354573号公報
【特許文献5】特開2002−370996号公報
【特許文献6】特開2007−39620号公報
【特許文献7】特開2006−239393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高いアレルゲン不活作用を有し、かつその作用が持続するアレルゲン不活化繊維製品および該アレルゲン不活化繊維製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため鋭意研究の結果、本発明者は酸化亜鉛と酸化アルミニウムを含有する固溶体である複合金属酸化物が高いアレルゲン不活作用を有するアレルゲン不活剤であり、かつそのアレルゲン不活剤を担持した繊維製品が高いアレルゲン不活作用を長期に持続し、多数回の洗濯によってもその不活作用を失わないアレルゲン不活化繊維製品であることを見出した。
【0012】
(1)無機系のアレルゲン不活剤を担持したアレルゲン不活化繊維製品において、該無機系のアレルゲン不活剤が複合金属酸化物であり、かつ下記式(1)で表される複合金属酸化物であることを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品。
(ZnO)1-x(Al23x (1)
(式中、xは0.005≦x<0.2である)
(2)該複合金属酸化物が固溶体であることを特徴とする第(1)項に記載のアレルゲン不活化繊維製品。
(3)該複合金属酸化物の一次粒子サイズが0.01〜0.2μmであることを特徴とする第(1)項〜第(2)項のいずれかに記載のアレルゲン不活化繊維製品。
(4)該繊維製品が綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート、プロミックス等の半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等の合成繊維を少なくとも1種含有することを特徴とする第(1)項〜第(3)項のいずれかに記載のアレルゲン不活化繊維製品。
(5)該繊維製品が綿、麻、レーヨンを少なくとも1種を含有することを特徴とする第(4)項に記載のアレルゲン不活化繊維製品。
(6)第(1)項〜第(5)項に記載のアレルゲン不活化繊維製品の製造方法において、該製造方法が少なくとも1種の該複合金属酸化物を水に分散した液(水分散液)を用いる工程を含み、該工程の中の少なくとも一つの工程で、該水分散液中の該複合金属酸化物粒子の平均粒子サイズが0.05〜1.0μmであることを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。
(7)第(1)項〜第(5)項に記載のアレルゲン不活化繊維製品の製造方法において、該製造方法が該繊維製品に少なくとも1種の柔軟剤を処理する工程の前に、該複合金属酸化物を該繊維製品に処理することを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。
(8)第(1)項〜第(5)項にに記載されたアレルゲン不活化繊維製品を製造する方法において、該複合金属酸化物を少なくとも1種およびカルボン酸型アニオン界面活性剤を少なくとも1種含有する水分散液を用いることを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。
(9)第(1)項〜第(5)項に記載のアレルゲン不活化繊維製品の製造方法において、該製造方法が該繊維製品に少なくとも1種の合成高分子ポリビニルアルコールを処理する工程を含み、該複合金属酸化物を該繊維製品に処理することを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアレルゲン不活化繊維製品は、従来のアレルゲン不活化繊維製品より高いアレルゲン不活化作用を示し、かつ少量のアレルゲン不活化剤の添加で高いアレルゲン不活化作用発揮し、かつ多数回の洗濯により不活化作用を失わない点で優れている。また、着色、変色等の繊維製品の価値を落とす欠点も有せず好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の複合金属酸化物は固溶体であり、かつ下記式(1)で表される酸化亜鉛および酸化アルミニウムを含む複合金属酸化物である。
(ZnO)1-x(Al23x (1)
式中、xは0.005≦x<0.2であることが好ましく、0.02≦x<0.1であることがより粉ましく、0.04≦x<0.08であることがさらに好ましい。
xが0.2以上であるとアレルゲン不活化能が低下する。これはアレルゲン不活作用は主として複合金属酸化物の中の酸化亜鉛に由来しているためと思われる。一方、xが0.005未満であるとアレルゲン不活化能が低下するが、これは複合金属酸化物の水分散液中の分散性が低下し平均粒子系が大きくなり、その結果表面積が低下しアレルゲン不活作用を示すサイトが減るためと思われる。
本発明の複合金属酸化物は固溶体であることが好ましい。本発明において固溶体とはX線回折分析において酸化亜鉛および酸化アルミニウム各々の固有の回折線を実質上有しないもの(同一組成に計量された酸化亜鉛と酸化アルミニウムの混合物に比べ、酸化亜鉛および酸化アルミニウムの固有の回折線の強度が30%以下に低下したもの)を言う。すなわち、X線回折上は結晶内の原子(亜鉛イオンおよびアルミニウムイオン)が均一に混合された状態の化合物を示す。両金属イオンが均一に原子レベルで混合することで、少量の酸化アルミニウムにより水中での分散性向上が可能となり、かつ表面において両金属イオンの協奏的効果によりアレルゲンが速やかに不活化されると推測している。
【0016】
本発明の複合金属酸化物は粒子状であり、その一次粒子の平均粒子サイズが0.01〜0.2μmであることが好ましく、0.01〜0.1μmであることがより好ましく、0.01〜0.06μmであることがさらに好ましい。一次粒子の平均粒子サイズは、複合金属酸化物粒子の走査型電子顕微鏡写真から不作為に50個以上の粒子を選びその各粒子の画像と同等の面積の円の直径を求め、その直径を粒子サイズとした。
本発明の複合金属酸化物の水分散液中の粒子サイズは、水分散液を採取し、その液を5分間以上超音波で処理した後に、レーザー散乱法で測定した。
【0017】
本発明の複合金属酸化物においてBET比表面積は重要な指標である。一般にアレルゲン不活作用を高くするためにはBET比表面積が大きいことが好ましい。しかし、一方ではBET比表面積が大き過ぎると、繊維製品への付着、空中への散布等の使用の際に複合金属酸化物粒子が凝集し、かえって実用上の表面積が小さくなりアレルゲン不活作用が低くなることがある。このため、BET表面積は1〜300m/gが好ましく、3〜150m/gがより好ましく、5〜80m/gがさらに好ましい。
これらの複合金属酸化物の製造方法としては、特開平8−291011号記載の方法を用いることができる。
粒子サイズが小さいと総表面積が大きくなる。アレルゲン不活作用は複合金属酸化物の表面で反応し失活すると思われるので、粒子サイズが小さいほどアレルゲン不活作用は大きくなる。しかし、ある程度以上一次粒子サイズが小さくなると、表面積が大きいゆえに粒子が凝集し易くなり、かえって実際の使用時の表面積が減少することが起こりやすい。本発明の複合金属酸化物粒子のサイズに最適領域が存在するのはこのためと思われる。
【0018】
本発明の複合金属酸化物は表面処理されることが好ましい。 表面処理剤として好ましく用いられるものを例示すれば次の通りである。ステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸類;前記高級脂肪酸のアルカリ金属塩;ステアリルアルコール、オレイルコール等の高級アルコールの硫酸エステル塩;ポリエチレングリコールエーテルの硫酸エステル塩、アミド結合硫酸エステル塩、エステル結合硫酸エステル塩、エステル結合スルホネート、アミド結合スルホン酸塩、エーテル結合スルホン酸塩、エーテル結合アルキルアリルスルホン酸塩、エステル結合アルキルアリルスルホン酸塩、アミド結合アルキルアリルスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤類;オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノまたはジエステルまたは両者の混合物であって、それらの酸型またはアルカリ金属塩またはアミン塩等のリン酸エステル類;ビニルエトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシーエトキシ)シラン、ガンマ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ベーター(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤類;イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロフォスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタネート系カップリング剤類;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート等の多価アルコールと脂肪酸のエステル類。
この中でも、高級脂肪酸、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル、カップリング剤(シラン系、チタネート系、アルミニウム系)および多価アルコールと脂肪酸のエステル類からなる群から選ばれた表面処理剤の内の少なくとも一種による表面処理が好ましく、さらにステアリン酸、エルカ酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸等の炭素数10以上の高級脂肪酸類および前記高級脂肪酸のアルカリ金属塩が特に好ましい。
表面処理は特開2001−123071号の実施例1記載の方法に準じた方法で行うことができる。
【0019】
本発明のアレルゲン不活化繊維製品に好ましく用いられる繊維は、綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)、プロミックス等の半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維がある。より好ましいのは、綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)、プロミックス等の半合成繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維である。さらに好ましいのは、綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)等の半合成繊維である。さらに好ましいのは、綿、麻等のセルロース繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)等の半合成繊維からなるセルロース繊維である。もっとも好ましいものは綿、麻、レーヨンである。好ましい繊維は水酸基を有し、かつ表面に凹凸が多いものである。なお、綿、麻、レーヨンを含有する混紡も特に好ましい。混紡の相手は特に選ばないがポリエステルが好ましい。混紡率は綿、麻、レーヨンを10%以上含むことが好ましい。
【0020】
本発明のアレルゲン不活化繊維製品には、本発明の複合金属酸化物に加え、界面活性剤、柔軟剤、高分子化合物(バインダー)、紫外線吸収剤、染料等を含有させることができる。柔軟剤を含有させる場合は、予め本発明の複合金属酸化物を担持させた後に、柔軟剤を担持させることが好ましい。
【0021】
柔軟剤を本発明のアレルゲン不活化繊維製品に付与(処理)する工程を、本発明の複合金属酸化物を付与(処理)する工程と同時、前、後のいずれで可能であるが、特に本発明の複合金属酸化物を付与(処理)する工程の後に柔軟剤を本発明のアレルゲン不活化繊維製品に付与(処理)する工程があることが好ましい。
本発明に用いられる柔軟剤は、一般に使用されているエステルアンモニウム型柔軟材を挙げることができる。このようなものとして、例えば、プロピレングリコール、グリセロールエステル、グルコースエステル、ペンタエリトリトールエステル、ショ糖エステル、プロピレングリコールエステル、ビスメチル−α−D−グルコピラノシドエステル、ジ長鎖アルキルジ短鎖アルキル第4級アンモニウム塩等を挙げることができる。特に好ましいものはカチオン界面活性剤であり、具体的にはジオレイルジメチルアンモニウム塩である。
【0022】
本発明の複合金属酸化物を水その他の溶剤に分散するときに、界面活性剤を用いることが好ましい。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤のいずれをも用いることができる。また低分子型界面活性剤、高分子型界面活性剤のいずれも用いることができる。これらの界面活性剤を1種用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤の中では分散の安定性の観点でアニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤がより好ましい。アニオン界面活性剤の中でもカルボン酸型アニオン界面活性剤が特に好ましい。
【0023】
本発明で用いることができるアニオン性界面活性剤としては、カルボン酸型、スルホン酸型、スルホン酸エステル型、リン酸エステル型↓二音界面活性剤がある。具体的には例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等の脂肪酸石鹸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、 ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン酸、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム、ラウリルメチルタウリッドナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、モノラウロイルモノエタノールアミドポリオキシエチレンスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム等のN−アシルグルタミン酸、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等の高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム、N−パルミトイルアスパラギン酸、ジトリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸コラーゲン加水分解アルカリ塩等が挙げられる。
【0024】
本発明で用いることができるカルボン酸型アニオン界面活性剤としては炭素数が5〜22のものが好ましい。具体的にはカプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトイル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレステアリン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ヤシ脂肪酸等およびその塩が好ましい。塩としてはこれらのナトリウム塩、あるいはカリウム塩が好ましい。
【0025】
本発明で用いることができるノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリエチレンオキシド含有化合物、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アミドジエタノ−ル、アシルグルコシド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられるが、特に好ましくは、ポリエチレンオキシド含有化合物、ポリエチレンオキシドポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー類またはショ糖脂肪酸エステルである。
【0026】
本発明で用いることができる両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、イミダゾリン型、グリシン型などが挙げられる。好ましくは、2ーアルキルーNーカルボキシメチルーNー ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインまたはヤシ 油脂肪酸アミドプロピルベタインである。
これらのアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤は単独で、またはこれらを組み合わせて2種以上用いることができ、その配合量は界面活性剤の総量としては、無機系複合金属酸化物を含有する分散液、溶液の全量の0.005〜5重量%、好ましくは、0.05〜3重量%である。
【0027】
本発明で用いられる複合金属酸化物を繊維製品に付与する方法は種々のものがある。複合金属酸化物を水に分散した複合金属酸化物含有の水分散液に布を浸漬させる方法(浸漬法)、複合金属酸化物を水に分散した複合金属酸化物含有の水分散液を布に噴霧する方法(噴霧法)、複合金属酸化物を水に分散した複合金属酸化物含有の水分散液を布に塗布する方法(塗布法)、布にインクジェット法で付着させる方法、複合金属酸化物粒子を繊維の空隙に含浸させる方法(含浸法)、複合金属酸化物粒子を繊維に練りこむ方法(練りこみ法)等を用いることができる。
これらの内、含浸法、練りこみ法は特定の合成繊維でのみ可能な方法であり、綿、麻、レーヨンのセルロース系繊維には用いることができないことと、布に処理できす繊維の段階で処理せざるを得ないため、在庫の増加によるコストの増加、注文に適切に応じることができないことによる、取引機会の損失等の好ましくない点がある。
上記の浸漬法、塗布法、噴霧方法、インクジェット法はいずれも布に処理した段階で行えるため、在庫が少量ですむ為コストが安く、迅速に注文に応じられることもあり好ましい。これらの方法の中では、インクジェット法は設備が高価なため、残りの他の方法よりはコストが高く好ましくない。浸漬法、塗布法、噴霧法の中では、設備のコストが安いことから、浸漬法、噴霧法が好ましい。さらに、他の用途の既存の設備であっても容易に利用でき、かつ付着量の制御が容易であることから浸漬法が最も好ましい。浸漬させた後にニップローラー、スクイーズローラー、ドクターナイフ等で付着量を制御することが好ましい。複合金属酸化物は水分散液に均一に分散されているので、この水分散液の付着量および水分散液中の複合金属酸化物の含有量で布への複合金属酸化物の付着量を決めることができる。
【0028】
噴霧法は布を裁断後にも容易にアレルゲン不活化処理ができるため、安価で、迅速に、簡便に繊維製品を製造する方法として好ましい。噴霧時の液滴のサイズが1〜500μmで噴霧することが好ましく、1〜100μmがより好ましく、1〜20μmが特に好ましい。
【0029】
本発明のアレルゲン不活化繊維製品が洗濯および漂白処理時のアレルゲン不活化性能の低下が小さい理由は、一つは本発明の複合金属酸化物が酸化されにくい性質のためであるが、これらの処理において本発明の複合金属酸化物が繊維から脱落し難いこともその理由である。本発明の複合金属酸化物がこれらの処理中に脱落し難い理由は明確ではない。しかし、この効果が綿、麻等のセルロース系繊維で顕著であることから、次のように推定している。酸化亜鉛に酸化アルミニウムが固溶化することで、表面の水酸基の性質が変化したこと、微粒子の物理的性質(硬度等)が変化したこと、粒子同士の凝集力が低下し水分散液の分散性が向上したことが考えられる。これらにより繊維との付着が強固になったと思われる。特に水酸基を有するセルロース系繊維(綿、麻、レーヨン)でこれが顕著である。
【0030】
本発明のアレルゲン不活化繊維製品に好ましく用いられる繊維は、綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)、プロミックス等の半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリウレタン繊維、ポリオキシメチレン(ポリアセタール)繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維がある。より好ましいのは、綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)、プロミックス等の半合成繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維である。さらに好ましいのは、綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)等の半合成繊維である。さらに好ましいのは、綿、麻等のセルロース繊維、レーヨン、キュプラ等の再生セルロース繊維、酢酸セルロース(アセテート等)等の半合成繊維からなるセルロース繊維である。もっとも好ましいものは綿、麻、レーヨンである。好ましい繊維は水酸基を有し、かつ表面に凹凸が多いものである。なお、綿、麻、レーヨンを含有する混紡も特に好ましい。混紡の相手は特に選ばないがポリエステルが好ましい。混紡率は綿、麻、レーヨンを15%以上含むことが好ましい。
【0031】
本発明のアレルゲン不活化繊維製品は事業所および家庭等のあらゆる場所で用いられる作業着、ユニホーム、帽子、手袋、靴下、スリッパ、ハンカチ、マスク、下着、寝巻き等の衣類、カーテン、カーペット、椅子のカバー、壁の内張り、タオル等の内装品、シーツ、布団、毛布、肌掛け、枕カバー等の寝具、空調機の空気フィルター、浄水器の水用のフィルター、風呂の循環水のフィルター、各種の器具、用具の保管容器等に用いることができる。
【0032】
本発明で用いられる合成高分子ポリビニルアルコールは、通常の酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルを鹸化させた水酸基を持ったビニル樹脂である。合成高分子ポリビニルアルコールであればいずれも好ましく用いることができる。合成高分子ポリビニルアルコールの重合度、けん化度は種々のものを用いることができる。繊維製品に付着させる工程に用いる合成高分子ポリビニルアルコールの水溶液の好ましい性質、すなわち合成高分子ポリビニルアルコールの濃度(溶解度)、溶液粘度が得られる重合度、けん化度を選ぶ必要がある。一般に重合度が上がると溶解性が低下し、また溶液粘度が高くなる。また、けん化度が上がると溶解性が低下し、また溶液粘度が高くなる傾向がある。また、繊維製品に付着後に本発明の複合金属酸化物を保持する能力を高めるためには、重合度は高めで、けん化度は中程度が好ましい。さらに、繊維製品に合成高分子ポリビニルアルコールを付着させる工程で、該合成高分子ポリビニルアルコールを含む水溶液のゲル化を防止することも考慮する必要がある。水溶液のゲル化が進むと繊維製品に付着する成高分子ポリビニルアルコールの量が変化する、あるいは水溶液のハンドリングが困難になる等の好ましくない点がある。該合成高分子ポリビニルアルコール水溶液のゲル化を防止する方法としては、該合成高分子ポリビニルアルコールの種類を適切に選択するのみでなく、その水溶液の該合成高分子ポリビニルアルコールの含有濃度、水溶液のpH(6以下の低めが好ましい)、水溶液の保存温度(30℃以下が好ましい)、水溶液にメチルアルコール(10%から30%含有させることが好ましい)等の有機系溶剤を混合する等種々の方法がある。
合成高分子ポリビニルアルコールはいずれも好ましく用いることができる。たとえば日本合成化学のゴーセノールの種々の品種が挙げられる。特に限定されないが、好ましい例としてたとえば、ゴーセノールKL−20,05,03、KP−08R、KH−17,11、H−17,14,14L,05が挙げられる。
【0033】
アレルゲン不活化繊維製品の合成高分子ポリビニルアルコールの含有量は、0.02〜1.0g/mが好ましく、0.03〜0.7g/mがより好ましく、0.03〜0.4g/mがさらに好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により詳細説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)<複合金属酸化物の合成>
硝酸亜鉛と硝酸アルミニウムの混合水溶液(Zn+2=0.95mol/L、Al+3=0.05mol/L)2Lを、2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液2Lと0.6mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液0.5Lとの混合溶液に、撹拌下に約1分間(添加時間)で全量加え、反応させた(反応温度約30℃)。得られた反応物スラリーを減圧濾過、水洗し、乾燥した。乾燥物を粉砕して得られた粉末を400℃で1.5時間焼成し本発明の複合金属酸化物A−3を得た。
上記の添加時間を2分間にし、反応温度を45℃にした以外はA−3と同様にして、複合金属酸化物A−6を得た。
上記の添加時間を6分間にし、反応温度を60℃にした以外はA−3と同様にして、複合金属酸化物A−7を得た。
また、硝酸亜鉛と硝酸アルミニウムの量比を変更した以外はA−3と同様にして本発明の複合金属酸化物A−1,2,4,5、および比較例の複合金属酸化物C−1、2を得た。
複合金属酸化物A−1〜7、C−1,2を粉末X線回折法により測定した結果、酸化亜鉛および酸化アルミニウム固有の回折線の強度が新規に発生した回折線の強度の10%以下になっており、固溶体であることが確認できた。
複合金属酸化物の一次粒子の平均サイズを走査型電子顕微鏡写真より求めた。A−1〜7の一次粒子の平均サイズは、それぞれ0.05、0.03、0.02、0.02、0.02、0.16、0.30μmであった。
<本発明の複合金属酸化物>
A−1からA−7の複合金属酸化物は本発明の式(1)で表される化合物である。
化合物No. 式(1)中のxの値
A−1 0.01 本発明
A−2 0.03 本発明
A−3 0.05 本発明
A−4 0.10 本発明
A−5 0.16 本発明
A−6 0.05 本発明
A−7 0.05 本発明
【0036】
<比較例化合物>
化合物No. 式(1)中のxの値
C−1 0.22 比較例
C−2 0.001 比較例
C−1およびC−2は本発明の複合金属酸化物の式(1)で表される化合物であるが、xの値が本発明の規定を外れている。
その他の比較例化合物(アレルゲン不活化剤)
C−3 ATOMY BALL−TZR 比較例
(亜鉛を担持させた酸化チタン粒子の水分散液、触媒化成工業(株)製)
C−4 シュークレンズ(ラサ工業(株)製) 比較例
(二酸化ケイ素と酸化亜鉛からなる複合鉱物
C−5 ミズカナイトHP(水澤化学工業(株)製) 比較例
(二酸化ケイ素,酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる複合鉱物)
C−3〜C−5は多数のアレルゲン不活剤の中では、繊維製品に担持させた場合のアレルゲン不活作用の持続性に優れているものである。
【0037】
(実施例2)
<本発明の複合金属酸化物A−3の水分散液の調製;水分散液Y−3>
容器にの精製水を入れ、それにカルボン酸型アニオン界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムを1重量%添加し、さらに複合金属酸化物A−3を添加し、0.5mm径のアルミナ製のボールを投入し、この容器を回転ローラーに載せ、ボールミル機の常法に従い48時間回転分散処理をし、本発明の複合金属酸化物A−3の水分散液Y−3を調製した。A−3の濃度は10重量%であった。
本発明の複合金属酸化物A−3の代わりに各々C−3,4,5を用いた以外はY−3と同様にして比較例化合物の水分散液CY−3,4,5を得た。
<処理布(アレルゲン不活化繊維製品)の製造>
上記の本発明の複合金属酸化物A−3の水分散液Y−3を水で希釈し、A−3を0.6重量%含有する水分散希釈液を得た。この水分散希釈液に綿ブロードを浸漬し、その後にニップローラーを通し、乾燥しA−3が1mあたり0.45g含有する処理布サンプルH1−3を得た。A−3の付着量はニップローラーを通した直後に布に付着した液重量を計量し、それと水分散液のA−3の含有率より計算して得た。本発明の複合金属酸化物の水分散液Y−3の代わりにて比較例化合物の水分散液CY−3,4,5の水分散液を各々用いた以外はH1−3と同様にして、各比較例化合物を1mあたり0.45g含有する処理布サンプルCH1−3,4,5を得た。
【0038】
(実施例3)
<洗濯方法>
ワッシャー洗濯機を用い、水量90L に「JAFET標準配合洗剤」(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム)120ml を添加
して洗濯液とし、洗濯液に浴比が1:30になるようサンプル布を投入し、80℃の高温で120分間洗濯をし、その後で家庭洗濯機を用いてすすぎを行いった。この高温での洗濯とすすぎ、乾燥の一連の工程1回を、SEKのマニュアルに従い洗濯10回相当とした。下記に示す洗濯20回相当とはこの一連の工程を2回行ったことを示し、洗濯50回相当とはこの工程を5回繰り返したことを示す。
【0039】
<Derf2アレルゲン試験液の調整およびダニアレルゲンの検出法>
ダニアレルゲンはアサヒフードアンドヘルスケア社製の精製ダニ抗原Derf2を使用した。このダニ抗原を各1.0μg/10ml、1.5μg/10mlの濃度にリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈し、これを濃度の異なる2種類の試験液(以下ダニ試験液と称す)を得た。
ダニアレルゲンの検出には屋内塵性ダニ簡易検査キットである「マイティチェッカー(住化エンビロサイエンス株式会社製)」を使用した。
<アレルゲン不活作用の試験>
処理布を5cm×10cmに切り、試験管に筒状に丸めて入れ、上記のダニ試験液を滴下した後、オレフィンフイルムとアルミニウムホイルで密封し、60℃で24時間保存した後、「マイティチェッカー(住化エンビロサイエンス株式会社製)」を用いて試験管中の液のダニアレルゲンの有無を確認した。
【0040】
(実施例4)
<アレルゲン不活作用の試験結果>
実施例2記載の処理布サンプルに、実施例3記載の洗濯方法で洗濯した後、カットして実施例3記載のアレルゲン不活作用の試験を行った。ダニ試験液は2種類用いた。判定は発色なし(ダニ検出せず)を○、弱い発色(ダニが少量あり)を△、発色あり(ダニあり)をXとして表示した(以下の実施例も同様にこの表記を用いる)。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 1.0μg/10ml 1.5μg/10ml
洗濯回数 0 20 50 0 20 50回
H1−3 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
CH1−3 △ X X X X X 比較例
CH1−4 △ X X X X X 比較例
CH1−5 △ X X X X X 比較例
未処理綿ブロード X X X X X X 比較例
本発明の複合金属酸化物の水分散液で処理したサンプルH1−3は、比較例のCH1−3〜5よりもアレルゲン不活化作用が高く、また洗濯によるアレルゲン不活化作用の低下が小さく好ましかった。
【0041】
(実施例5)
複合金属酸化物A−3の代わりに複合金属酸化物A−6,7をおのおの用いた以外は実施例2記載のY−3と同様にして、複合金属酸化物の水分散液Y−6,7を得た。これらの水分散液を各々用いた以外は実施例2記載の処理布サンプルH1−3と同様にして処理布サンプルH1−6,7を得た。これらの処理布を用いて、実施例4と同様のアレルゲン不活作用の試験を行った。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 1.0μg/10ml 1.5μg/10ml
洗濯回数 0 20 50 0 20 50回
H1−3 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
H1−6 ○ ○ ○ ○ ○ △ 本発明
H1−7 ○ △ △ ○ △ △ 本発明
本発明の一般式(1)で表される複合金属酸化物において、一次粒子サイズが0.02μmの複合金属酸化物を用いた処理布サンプルH1−3がアレルゲン不活作用の洗濯による低下が見られず最も好ましく、一次粒子サイズが0.16μmの複合金属酸化物を用いた処理布サンプルH1−6はアレルゲン不活作用の洗濯による低下がやや見られ、一次粒子サイズが0.30μmの複合金属酸化物を用いた処理布サンプルH1−7はアレルゲン不活作用の洗濯による低下が大きくやや好ましくなかった。
【0042】
(実施例6)
複合金属酸化物A−3の代わりに複合金属酸化物A−1、2、4,5、C−1、2をおのおの用いた以外は実施例2記載のY−3と同様にして、複合金属酸化物の水分散液Y−1,2,4,5,CY−1,2を得た。これらの水分散液を各々用いた以外は実施例2記載の処理布サンプルH1−3と同様にして処理布サンプルH1−1,2,4,5、CH−1,2を得た。これらの処理布を用いて、実施例4と同様のアレルゲン不活作用の試験を行った。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 1.0μg/10ml 1.5μg/10ml
洗濯回数 0 20 50 0 20 50回
H1−1 ○ ○ △ ○ ○ △ 本発明
H1−2 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
H1−3 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
H1−4 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
H1−5 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
CH1−1 ○ ○ X ○ X X 比較例
CH1−2 ○ X X ○ X X 比較例
本発明の一般式(1)で表される複合金属酸化物において、一般式(1)のxの値が0.005≦x<0.2の範囲内の本発明の複合金属酸化物を用いた処理布サンプルH1−1〜5は、xの値が範囲外の比較例の複合金属酸化物を用いた処理布サンプルCH1−1,2に比べ洗濯によるアレルゲン不活化作用の低下が小さく好ましかった。
【0043】
(実施例7)
複合金属酸化物の水分散液の調製において、ボールミル機による48時間回転分散処理の代わりに、各々24時間、12時間、6時間の回転処理をした以外は実施例2記載のY−3と同様にして本発明の複合金属酸化物A−3の水分散液Y−6,7,8を得た。水分散液中の複合金属酸化物の粒子サイズは、Y−3,6,7,8は各々、0.12,0.40,0.70,1.20μmであった。粒子サイズの測定は超音波分散機で水分散液を5分間処理した後に、ヤマト科学製レーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した。
これらの水分散液を各々用いた以外は実施例2記載の処理布サンプルH1−3と同様にして処理布サンプルH1−6,7,8を得た。これらの処理布を用いて、実施例4と同様のアレルゲン不活作用の試験を行った。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 1.0μg/10ml 1.5μg/10ml
洗濯回数 0 20 50 0 20 50回
H1−3 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
H1−6 ○ ○ △ ○ △ X 本発明
H1−7 ○ ○ △ ○ △ X 本発明
H1−8 ○ ○ △ ○ △ X 本発明
いずれも本発明のサンプルであるが、水分散液中の複合金属酸化物の粒子サイズが0.12μmのサンプルH1−3は、粒子サイズが0.40μm以上のサンプルH1−6,7,8より洗濯後のアレルゲン不活作用の低下が小さく好ましかった。
【0044】
(実施例8)
綿ブロードを綿/ポリエステル=15/85の混紡に変えた以外は実施例2記載のサンプルH1−3、CH1−3,4,5と同様にしてアレルゲン不活化繊維製品のサンプルH2−3、CH2−3,4,5を作製し、未処理布(綿/ポリエステル=15/85の混紡)を加え、実施例4と同様のアレルゲン不活化試験を行った。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 1.0μg/10ml 1.5μg/10ml
洗濯回数 0 20 50 0 20 50回
H2−3 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 本発明
CH2−3 △ X X X X X 比較例
CH2−4 △ X X X X X 比較例
CH2−5 △ X X X X X 比較例
未処理布 X X X X X X 比較例
本発明の複合金属酸化物の水分散液で処理したサンプルH2−3は、比較例のCH2−3〜5よりもアレルゲン不活化作用が高く、また洗濯によるアレルゲン不活化作用の低下が小さく好ましかった。
【0045】
(実施例9)
<本発明の複合金属酸化物A−3の水分散液の調製;分散液Z−3>
カルボン酸型アニオン界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムの代わりに、スルホン酸型アニオン界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(商品名ライポンLS−250;ライオン(株)製)を1重量%用いた以外は実施例2に記載の複合金属酸化物の水分散液Y−3と同様にして分散液Z−3を得た。
複合金属酸化物A−3の代わりに、比較例化合物C−3〜5を用いた以外はZ−3と同様にして、水分散物CZ−3〜5を得た。
<アレルゲン不活作用の試験結果>
実施例2記載の処理布サンプル作製と同様にして処理布サンプルZH1−3、CZH1−3〜5を得た。実施例3記載の洗濯方法で洗濯した後、カットして実施例3記載のアレルゲン不活作用の試験を行った。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 1.0μg/10ml 1.5μg/10ml
洗濯回数 0 20 50 0 20 50回
ZH1−3 ○ ○ ○ ○ ○ △ 本発明
CZH1−3 △ X X X X X 比較例
CZH1−4 △ X X X X X 比較例
CZH1−5 △ X X X X X 比較例
未処理綿ブロード X X X X X X 比較例
本発明の複合金属酸化物の水分散液で処理したサンプルZH1−3は、比較例のCZH1−3〜5よりもアレルゲン不活化作用が高く、また洗濯によるアレルゲン不活化作用の低下が小さく好ましかった。
【0046】
(実施例10)
<柔軟剤工程との関係>
実施例2に記載の処理布H1−3の作製において、水分散液Y−3を水で希釈する際に、柔軟剤であるジオレイルジメチルアンモニウム塩を添加し本発明の複合金属化合物A−3を0.6重量%、ジオレイルジメチルアンモニウム塩1.0重量%含有する水分散液を用いた以外は処理布サンプルH1−3と同様にして、処理布サンプルH3−31を得た。柔軟剤であるジオレイルジメチルアンモニウム塩を1.0重量%含む水溶液(柔軟剤水溶液A)に綿ブロードを浸漬した後に、水分散液Y−3を水で希釈した本発明の複合金属化合物A−3を0.6重量%含有の水分散液(希釈液A−3)に浸漬して処理布サンプルH3−32を得た。綿ブロードを希釈液A−3に浸漬した後、柔軟剤水溶液Aに浸漬し処理布サンプルH3−33を得た。
水分散液Y−3の代わりに実施例9に記載の水分散液Z−3を用いた以外は、サンプルH3−31、32、33と同様にして、サンプルZH3−31、32,33を得た。
これら6種のサンプルのA−3の含有量は0.45g/mであり、柔軟剤の含有量は0.75g/mであった。
これらの処理布サンプルを用い、実施例4と同様のアレルゲン不活作用の試験を行った。ただし、ダニ試験液は1種類のみ用いた。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 1.5μg/10ml
洗濯回数 0 20 50
H3−31 ○ △ X 本発明
H3−32 ○ △ △ 本発明
H3−33 ○ ○ ○ 本発明
ZH3−31 △ △ X 本発明
ZH3−32 ○ △ X 本発明
ZH3−33 ○ ○ △ 本発明
いずれも本発明のサンプルであるが、柔軟剤の処理の前に本発明の複合金属化合物を処理したH3−33が、柔軟剤の処理後のH3−32、柔軟剤と同時処理のH3−31に比べアレルゲン不活作用の洗濯による低下が小さくより好ましかった。また同様に柔軟剤の処理の前に本発明の複合金属化合物を処理したZH3−33が、柔軟剤の処理後のZH3−32、柔軟剤と同時処理のZH3−31に比べアレルゲン不活作用の洗濯による低下が小さくより好ましかった。さらに、複合金属酸化物の水分散液を調製する際にカルボン酸型アニオン界面活性剤であるラウリン酸ナトリウムを用いたH3−31〜33は、対応する複合金属酸化物の水分散液を調製する際にスルホン酸型アニオン界面活性剤であるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いたZH3−31〜33に比べアレルゲン不活作用が大きく好ましかった。
【0047】
(実施例11)
<合成高分子ポリビニルアルコール処理工程との関係>
実施例2に記載の処理布H1−3の作製において、水分散液Y−3を水で希釈した液にする際に、合成高分子ポリビニルアルコールである日本合成化学製のゴーセノールKH−17(以下PVA−17と称する)を0.13重量%含有し、本発明の複合金属化合物A−3を0.6重量%含有する水分散液を用いた以外は処理布サンプルH1−3と同様にして、処理布サンプルH4−31を得た。PVA−17を0.5重量%含む水溶液(PAV−17水溶液と称す)に綿ブロードを浸漬した後に、水分散液Y−3を水で希釈した本発明の複合金属化合物A−3を0.6重量%含有の水分散液(希釈液A−3)に浸漬して処理布サンプルH4−32を得た。綿ブロードを希釈液A−3に浸漬した後、PAV−17水溶液に浸漬し処理布サンプルH4−33を得た。
綿ブロードの代わりにポリエステル100の織布を用いた以外は、H4−31〜33と同様にして、処理布サンプルH5−31〜33を得た。
これら6種のサンプルのA−3の含有量は0.45g/mであり、PVA−17の含有量は0.10g/mであった。
これらの処理布サンプルを用い、実施例4と同様のアレルゲン不活作用の試験を行った。ただし、ダニ試験液は1種類のみ用いた。
処理布サンプルNo. 判定結果
ダニ試験液 2.0μg/10ml
洗濯回数 0 60
H4−31 ○ △ 本発明
H4−32 ○ △ 本発明
H4−33 ○ ○ 本発明
H5−31 ○ △ 本発明
H5−32 ○ △ 本発明
H5−33 ○ ○ 本発明
H1−3 ○ △ 本発明(実施例2のサンプル)
いずれも本発明のサンプルであるが、PVA−17処理の前に本発明の複合金属化合物を処理したH4−33が、PVA−17処理と複合金属化合物を処理が同時のH4−31、PVA−17処理が複合金属化合物を処理の前のH4−32に比べアレルゲン不活作用の洗濯による低下が小さくより好ましかった。また、ポリエステル織布においても同様の傾向であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系のアレルゲン不活剤を担持したアレルゲン不活化繊維製品において、該無機系のアレルゲン不活剤が複合金属酸化物であり、かつ下記式(1)で表される複合金属酸化物であることを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品。
(ZnO)1-x(Al23x (1)
(式中、xは0.005≦x<0.2である)
【請求項2】
該複合金属酸化物が固溶体であることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン不活化繊維製品。
【請求項3】
該複合金属酸化物の一次粒子サイズが0.01〜0.2μmであることを特徴とする求項1〜2のいずれかに記載のアレルゲン不活化繊維製品。
【請求項4】
該繊維製品が綿、麻等のセルロース繊維、ウール、カシミヤ等のタンパク繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート、プロミックス等の半合成繊維、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等の合成繊維を少なくとも1種含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアレルゲン不活化繊維製品。
【請求項5】
該繊維製品が綿、麻、レーヨンを少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項4に記載のアレルゲン不活化繊維製品。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のアレルゲン不活化繊維製品の製造方法において、該製造方法が少なくとも1種の該複合金属酸化物を水に分散した液(水分散液)を用いる工程を含み、該工程の中の少なくとも一つの工程で、該水分散液中の該複合金属酸化物粒子の平均粒子サイズが0.05〜1.0μmであることを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載のアレルゲン不活化繊維製品の製造方法において、該製造方法が該繊維製品に少なくとも1種の柔軟剤を処理する工程を含み、かつ該柔軟剤を処理する工程の前に該複合金属酸化物を該繊維製品に処理することを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5に記載されたアレルゲン不活化繊維製品を製造する方法において、該複合金属酸化物を少なくとも1種およびカルボン酸型アニオン界面活性剤を少なくとも1種含有する水分散液を用いることを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5に記載のアレルゲン不活化繊維製品の製造方法において、該製造方法が該繊維製品に少なくとも1種の合成高分子ポリビニルアルコールを処理する工程を含み、該複合金属酸化物を該繊維製品に処理することを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品の製造方法。

【公開番号】特開2013−19066(P2013−19066A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151893(P2011−151893)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(501011875)
【Fターム(参考)】