説明

アレルゲン処理能を有するセルロース繊維

【課題】 優れたアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維を提供する。
【解決手段】 アレルゲン処理能を有するセルロース系繊維は、下記化学式(I)
【化1】


(前記式中、m、m、mおよびmは、同一または異なってもよい1〜4の数、
、R、RおよびRは、同一または異なってもよい−COOまたは−SO3基、
Aは−(CH2)m5−または−(CH2)m6−N[−(CH2)m7−R5]−(CH2)m8−で表される基(ここで、m、m、mおよびmは、同一または異なってもよい1〜4の数、Rは、−COOまたは−SO3基)、
Mは遷移金属、
pは2または3、qは1〜3の数、rは0〜2の数、
LはNHまたはNa、
ただし、Aが−(CH2)m5−で表される基のとき、p+q+r=4、
Aが−(CH2)m6−N[−(CH2)m7−R5]−(CH2)m8−で表される基のとき、p+q+r=5)
で表される窒素含有化合物またはその溶媒和物が担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有化合物またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン処理剤が担持された、アレルゲン処理能を有するセルロース系繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギー症状は、皮膚や呼吸器、消化器からアレルゲンがヒトの身体に侵入すると、ヒトが生来的に持つ抗原抗体反応に誘発されて体内にヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が遊離したり、活性酸素が生ずるため、二次症状として発熱、発疹、そう痒、嘔吐、鼻炎などを発症する。アレルゲンは、例えばダニ、その死骸や排泄物、スギ・ブタクサ・カモガヤ等の花粉、細菌、かび、卵、牛乳、魚貝類、大豆、米、昆虫、鳥の羽毛や犬猫等のペットの体毛やヒトのフケまたは分泌物などの成分として含まれ、多くは蛋白質である。このようなアレルゲンを処理する方法として、特許文献1には金属フタロシアニン化合物の触媒機能を利用したアレルゲン分解剤が開示されている。
【0003】
一方、下記化学式(I)
【化1】

で示されるようなキレート剤が市販されている。このキレート剤を繊維に担持させた消臭繊維について、未公開の特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2005/047414号
【特許文献2】特願2004−21863
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、金属フタロシアニン化合物よりもさらに優れたアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、カチオン化処理し窒素含有化合物またはその溶媒和物を担持させたセルロース系繊維が、アレルゲン吸着、分解機能を有することを見出し、本発明に至った。
【0007】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、下記化学式(I)
【化2】

(前記式中、m、m、mおよびmは、同一または異なってもよい1〜4の数、
、R、RおよびRは、同一または異なってもよい−COOまたは−SO3基、
Aは−(CH2)m5−または−(CH2)m6−N[−(CH2)m7−R5]−(CH2)m8−で表される基(ここで、m、m、mおよびmは、同一または異なってもよい1〜4の数、Rは、−COOまたは−SO3基)、
Mは遷移金属、
pは2または3、qは1〜3の数、rは0〜2の数、
LはNHまたはNa、
ただし、Aが−(CH2)m5−で表される基のとき、p+q+r=4、
Aが−(CH2)m6−N[−(CH2)m7−R5]−(CH2)m8−で表される基のとき、p+q+r=5)
で表される窒素含有化合物またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン処理剤が担持されたことを特徴とするアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維である。
【0008】
同じく特許請求の範囲の請求項2に記載された発明は、前記化学式(I)で表される窒素含有化合物またはその溶媒和物の担持量を有効成分に含むアレルゲン処理剤が、セルロース系繊維の重量に対して、0.1質量%以上10質量%以下である請求項1に記載のセルロース系繊維である。
【0009】
同じく特許請求の範囲の請求項3に記載された発明は、前記遷移金属が、Fe、Cr、MnまたはCoである請求項1に記載のセルロース系繊維である。
【0010】
同じく特許請求の範囲の請求項4に記載された発明は、前記式(I)で示される窒素含有化合物が、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ジアンモニウムまたは1,3−ジアミノプロパン四酢酸鉄アンモニウムである請求項1に記載のセルロース系繊維である。
【0011】
同じく特許請求の範囲の請求項5に記載された発明は、前記アレルゲンが、ダニ、花粉、細菌、かび、卵、牛乳、魚貝類、大豆、米、昆虫、鳥獣、ハウスダストに由来する蛋白質系アレルゲンから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系繊維である。
【0012】
同じく特許請求の範囲の請求項6に記載された発明は、アルカリ存在下において、セルロースの水酸基に直接結合する反応基を有したカチオン化剤で、セルロース系繊維を処理する工程と、前記化学式(I)で示される窒素含有化合物またはその溶媒和物で、前記カチオン化処理したセルロース系繊維を処理する工程とを含むことを特徴とする、前記化学式(I)で示される窒素含有化合物またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン処理剤が担持されたアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維の製造方法である。
【0013】
同じく特許請求の範囲の請求項7に記載された発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース系繊維を含む繊維製品である。
【0014】
同じく特許請求の範囲の請求項8に記載された発明は、請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース系繊維を生活環境内に置くことを特徴とするアレルゲン処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセルロース系繊維はアレルゲンを処理することができ、優れた効果を発揮する。生活環境内にあるアレルゲンは、本発明のセルロース系繊維によって多くが吸着、分解され、僅かな残余がアレルギー体質を持つヒト身体内に入っても、アレルギー症状を発症する閾値まで濃度が到達しない。そのため、本発明のセルロース系繊維を含む製品が生活環境内に置かれていれば、アレルギー体質を持つヒトであっても発症することなく日常生活を送ることができる。
【0016】
また、本発明のセルロース系繊維は、上記化学式(I)に示す物質を担持しているため、橙色〜肌色〜山吹色の暖色を有し、繊維製品へ加工する際に、通常用いられる芳香族化合物等の合成染料で染色加工する工程を省くことができる。従って、燃焼したときにダイオキシン類の発生を抑制できるので、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン吸着剤が担持された、アレルゲン処理能を有するセルロース系繊維である。ここでいうアレルゲン処理能とは、アレルゲンを吸着または変性、分解する機能を示す。
【0018】
前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン吸着剤の担持量は、セルロース系繊維の重量に対して、好ましくは0.1質量%以上、10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上、5質量%以下である。前記アレルゲン吸着剤の量が0.1質量%以上であれば、アレルゲン処理能に優れる。
【0019】
前記セルロース系繊維としては、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン等の再生セルロース繊維等、公知のセルロース系繊維が挙げられる。
【0020】
前記窒素含有化合物(I)の溶媒和物としては、水または有機溶媒と前記窒素含有化合物(I)との溶媒和物が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。
【0021】
前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物は、前記式(I)中のR、R、RおよびRが−COOであると、より好ましい。また、前記式(I)中のm、m、mおよびmが1であると、より好ましい。
【0022】
前記遷移金属としては、周期表の3族から12族(1A族から1B族)の各族の元素が挙げられ、中でも第一遷移元素系列の元素が好ましい。第一遷移元素系列の元素の中でも、Fe、Cr、MnおよびCoが好ましく、Feであるとより好ましい。
【0023】
前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物は、前記遷移金属がFeの時、前記式(I)中のAが−(CH2)m5−で表される基であり、かつp=3、q=1、r=0であると好ましく、中でも前記mが2または3であるとより好ましい。
【0024】
または、前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物は、前記遷移金属がFeの時、前記式(I)中のAが−(CH2)m6−N[−CH2)m7−R5]−(CH2)m8−で表される基であり、かつp=3、q=1、r=1であると好ましく、中でも前記m、mおよびmが1であってRが−COO基であり、LがNHであるとより好ましい。
【0025】
前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物は、前記遷移金属がCr、MnまたはCoの時、前記式(I)中のAが−(CH2)m5−で表される基であり、かつp=2、q=2、r=0であると好ましく、中でも前記mが2または3であるとより好ましい。
【0026】
または、前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物は、前記遷移金属がCr、MnまたはCoの時、前記式(I)中のAが−(CH2)m6−N[−(CH2)m7−R5](CH2)m8−で表される基であり、かつp=2、q=2、r=1であると好ましく、中でも前記m、mおよびmが1であってRが−COO基であり、LがNHであるとより好ましい。
【0027】
前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物は、市販のものを購入してもよく、従来公知の方法により製造してもよい。
【0028】
前記窒素含有化合物(I)はアレルゲン蛋白質をイオン的、物理的に引き付け、アレルゲンを吸着する。前記窒素含有化合物(I)の触媒作用によってアレルゲン蛋白質のペプチド結合を切り、低分子化させたり分子構造を変化させたりすることで、アレルゲンを変性、分解することも可能である。
【0029】
本発明の窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン吸着剤が担持されたアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維は、例えば、以下の方法で製造することができる。
【0030】
まず、アルカリ存在下において、セルロースの水酸基に直接結合する反応基を有したカチオン化剤で、セルロース系繊維を処理し、次に前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物で、前記カチオン化処理したセルロース系繊維を処理することにより、窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン吸着剤が担持されたセルロース系繊維を得る。
【0031】
本発明の製造方法における、前記セルロースの水酸基に直接結合する反応基を有したカチオン化剤とは、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子、カチオン系高分子、クロスリンク型ポリアルキルイミン、ポリアミン系カチオン樹脂、グリオキザール系繊維反応型樹脂等が挙げられる。前記第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体としては、例えば、下記式(II)および式(III)で示される化合物が挙げられる。
【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
前記式(II)および(III)中、R11、R12、R13およびR14は同一または異なってもよい炭素数1〜4の低級アルキル基、nは2〜6の数、Xはハロゲン原子である。
【0035】
前記式(II)中、R11、R12およびR13は−CHであり、XはClであるのが好ましい。前記式(II)で表される化合物としては、具体的には、カチオノンCT(商品名)(一方社油脂工業株式会社製)が挙げられる。
【0036】
前記式(III)中、R11、R12、R13およびR14が−CHであり、XがClであるのが好ましい。前記一般式(III)で表される化合物としては、具体的には、カチオノンUK(商品名)(一方社油脂工業株式会社製)が挙げられる。
【0037】
前記第4級アンモニウム塩型高分子としては、例えば、式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【化5】

【0039】
前記式(IV)中、Xはハロゲン原子であり、Clであるのが好ましい。前記式(IV)で表される化合物としては、具体的には、ダンシェード185(商標名)(日東紡績株式会社製)が挙げられる。
【0040】
前記カチオン系高分子としては、例えば、ポリビニルアミンが挙げられる。前記クロスリンク型ポリアルキルイミンとしては、例えば、ポリエチレンイミンが挙げられる。前記ポリアミン系カチオン樹脂としては、例えば、ポリスチレンテトラメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。前記グリオキザール系繊維反応型樹脂としては、例えば、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素が挙げられる。中でも第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体が好ましい。前記カチオン化剤は、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
アルカリ存在下、前記カチオン化剤によるセルロース系繊維の処理は、例えば前記カチオン化剤の水溶液と、無水炭酸ナトリウム(ソーダ灰)、水酸化ナトリウム等のアルカリとの混合物により、前記セルロース系繊維を50℃〜100℃で、10分〜1時間処理することにより行う。前記カチオン化剤の量は、1g/リットル〜100g/リットル程度が好ましい。前記セルロース系繊維は、予備処理として、オーバーマイヤー染色機、チーズ染色機等を用いて、予め精練処理されているのが好ましい。
【0042】
前記カチオン化剤で処理した後、酢酸などの酸の水溶液により前記セルロース系繊維を30℃〜60℃で、5分〜1時間処理して中和するのが好ましい。前記中和処理の後、前記セルロース系繊維を水洗、脱水および乾燥するのが好ましい。
【0043】
次に、前述のように、前記セルロース系繊維を、前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物の水溶液で処理することにより、窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物が担持されたセルロース系繊維を製造することができる。この処理は、30℃〜100℃で、10分〜1時間行われることが好ましい。
【0044】
前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物は、前述のものを用いることができる。前記処理で用いる前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物の量は、前記セルロース系繊維に対して、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは1質量%以上5質量%以下程度である。前記処理の後、処理済の前記セルロース繊維を水洗、脱水および乾燥するのが好ましい。
【0045】
本発明は、前記窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物が担持されたアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維を含む繊維製品である。前記繊維製品としては、紡績糸、織編物、不織布、紙等の中間繊維製品や、これらを使用した布団、毛布およびシーツ、電気毛布やホットカーペット等の採暖具、寝装製品、肌着、シャツ、パンツ、外衣、帽子、靴下および手袋等のような衣料製品、カーテン、テーブルクロス、クッション、ぬいぐるみ、カーペットおよび家具材等のようなインテリア製品、マスク、フィルター(空気清浄器、エアコン、掃除機用等)、集塵袋、人工皮革、車用内装材および建築材料等のような産業資材製品、タオル、ハンカチ、おしぼり、ガーゼ、ティッシュペーパー、家庭用ワイパー、キッチンシート、化粧シート、フェイスマスク、押入・タンスシート、洋服カバー、布団袋、畳、マット、壁紙、サンダル、包帯、おむつ、ナプキン、靴中敷き、および包装紙等のような生活用品等の最終繊維製品等が挙げられる。また、本発明のセルロース系繊維は、布団・マットやクッション、ソファー・椅子、ぬいぐるみ等の詰綿、アレルゲン処理性不織布やアレルゲン処理性紙等の原綿としても利用できる。これらの繊維製品は本発明のセルロース系繊維を単独で用いることはもちろん、用途に応じて、他の繊維と混合または組み合わせて用いてもよい。当該繊維製品中に本発明のセルロース系繊維が20質量%以上、より好ましくは50質量%以上含まれると、生活環境内に発生したアレルゲンを好適に処理することができる。
【0046】
吸着または分解、変性できるアレルゲンは蛋白質系のアレルゲンであり、具体的にはダニ、その死骸や排泄物、スギ・ヒノキ・ブタクサ・カモガヤ・イネ等の花粉、細菌、かび、卵、牛乳、魚貝類、大豆、米、昆虫、鳥獣やヒトのフケまたは分泌物などの成分として含まれている。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物の担持量は、以下の式により算出した。
【0048】
【数1】

【0049】
(実施例1)
レギュラーレーヨンステープルワタ(ダイワボウレーヨン株式会社製)を、オーバーマイヤー染色機で精練処理(60℃湯洗)した。その後、前記ワタに対して、浴比1:10で、2cc/リットルのクリーンN−15(商品名)(一方社油脂工業株式会社製、浸透剤)、30g/リットルのカチオノンUK(商品名)(一方社油脂工業株式会社製、前記式(III)中、R11、R12、R13およびR14がメチル基で、XがClである化合物、カチオン化剤)、および9g/リットルの水酸化ナトリウムを含むカチオン化溶液を調製した。前記ワタと前記カチオン化溶液で、80℃で40分間処理し、カチオン化を行った。その後、1cc/リットルの酢酸水溶液で30℃、10分間中和処理した。
【0050】
次に、前記ワタを水洗した。前記ワタに対して浴比1:10で、2.5質量%のキレストFNZ(商品名)(キレスト株式会社製、式(I)の化合物を98質量%含有した一水和物であり、かつ、式(I)中、m、m、mおよびmは1であり、R、R、RおよびRは−COO基であり、Aは−CH−N[−CH−COOH]−CH−で表される基であり、MはFeであり、p=3、q=1、r=1である)で、前記ワタを0℃で20分間処理した。つぎに、前記ワタを水洗し、乾燥させて、本発明の窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン吸着剤が2質量%担持されたアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維を得た。
【0051】
(実施例2)
20s綿糸(大和紡績株式会社製)を、チーズ染色機で精練漂白処理した。前記精練漂白処理は、4g/リットルの苛性ソーダ水溶液、5cc/リットルの過酸化水素水および0.25cc/リットルのクリーンN−15(商品名)(一方社油脂工業株式会社製)の混合物中で、80℃で30分間処理して行った。その後、前記綿糸を水洗し、ついで、前記綿糸に対して浴比1:20で、10g/リットルのダンシェード185(商品名)(日東紡績株式会社製、前記式(IV)中、X=Clの化合物、カチオン剤)、および10g/リットルのソーダ灰のカチオン化溶液を調製した。前記20s綿糸を、前記カチオン化溶液で、60℃で30分間処理し、カチオン化を行った。その後、1cc/リットルの酢酸水溶液で30℃、10分間中和処理した。
【0052】
次に、前記綿糸を水洗した。前記綿糸に対し浴比1:20で5質量%のクレワットFeH(商品名)(ナガセケムテックス株式会社製、前記式(I)の化合物を30質量%含有しており、式(I)中、m、m、mおよびmは1であり、R、R、RおよびRは−COO基であり、Aは−CHCH−で表される基であり、MはFeであり、p=3、q=1、r=0である)で、前記綿糸を80℃で20分間処理した。つぎに、前記綿糸を水洗し、乾燥させて、本発明の窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン吸着剤が4質量%担持されたアレルゲン処理能を有する綿糸を得た。
尚、上記実施例1.2で得られたレーヨン繊維や綿糸を用いて、公知の方法にて前述の繊維製品等を作製出来ることはいうまでもない。
【0053】
(参考例) 一次膨潤度が約240%、長さ31m/mのレーヨンステープルを、コバルトフタロシアニン・ポリスルホン酸の水溶液(水溶液濃度0.2g/リットル)に80℃で30分間浸漬した。その後、このステープルを脱水乾燥して、コバルトフタロシアニン・ポリスルホン酸が約2質量%担持されたレーヨンステープルを得た。
【0054】
(評価)
1.LAB表色系
試料を分光測色計で測定して、その色差をLab表色系色度図(JIS Z8729)にて示した。試料としては、実施例1および参考例のセルロース系繊維を用いた。その結果を以下の表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
前記表1に示すように、参考例のセルロース系繊維は濃青色の寒色であったが、本発明の窒素含有化合物(I)またはその溶媒和物が担持されたセルロース系繊維は、肌色の暖色であった。
【0057】
(評価)
2.アレルゲン吸着試験
SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)により、本発明のセルロース系繊維のアレルゲン処理能を評価した。
【0058】
遠心フィルターユニットにて、実施例1で得られたセルロース系繊維に、アレルゲン(カモガヤ)溶液としてOrchard Grass(商品名)(GREER Laboratories, Inc.社製)の溶液を加えた。25℃、1000rpmで撹拌して、10分後および24時間後に該溶液を各20μL採取し、それぞれ等量のBufferを加えて3分間ボイルしたものをサンプルとした。
【0059】
アクリルアミド濃度(%T)を12%に設定し、一般的な方法によりゲルを作製した後、15mA、120Vの条件で泳動した。泳動後のゲルを銀染色して、スキャナーでゲルをスキャンした。尚、比較のため、実施例1で得られたセルロース系繊維を用いなかったこと以外は上記と同様にして調製した比較サンプルのゲルについてもSDS−PAGEを行った。
【0060】
泳動結果を図1に示す。
図1のAは実施例1で得られたセルロース系繊維とアレルゲン溶液とを10分間撹拌して採取したサンプルのSDS−PAGEのスポット、Bは24時間撹拌して採取したサンプルのSDS−PAGEのスポットである。また、A、Bとも、左側がアレルゲン溶液のみから調製した比較サンプルのスポット、右側が実施例1で得られたセルロース系繊維とアレルゲン溶液とを撹拌して調製したサンプルのスポットである。スポットの濃淡は蛋白質の濃度が高いほど濃くなり、その濃度が低いほど薄くなる。よってA、B各左側の比較サンプルのスポットはアレルゲン蛋白質の存在を示す。図1から明らかなように、実施例1を用いたサンプルは、反応時間10分、24時間ともにスポットが消失している。(A、B各右側スポットが消失。)これは、本発明のセルロース系繊維がアレルゲン溶液中のアレルゲン蛋白質を吸着した、もしくはアレルゲン蛋白質を分解、変性させたことを示している。したがって、本発明のセルロース系繊維はアレルゲン処理能を有することが確認された。
【0061】
また、上記(参考例)で得られたセルロース系繊維についても上記実施例1で得られたセルロース系繊維と同様にSDA−PAGEによりアレルゲン吸着能を評価したところ、本発明と同様に反応時間10分、24時間ともにスポットが消滅しており、カモガヤのアレルゲン処理能力において同等であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のセルロース系繊維は、アレルゲン処理材として、紡績糸、織編物、不織布、紙等の中間繊維製品や、寝具、衣類、インテリア用品、生活用品、産業資材用途等の最終繊維製品に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明を適用するセルロース系繊維とアレルゲン溶液とを用いて調製したサンプルのSDS−PAGEゲルを撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)
【化1】

(前記式中、m、m、mおよびmは同一または異なってもよい1〜4の数、
、R、RおよびRは同一または異なってもよい−COOまたは−SO3基、
Aは−(CH2)m5−または−(CH2)m6−N[−(CH2)m7−R5]−(CH2)m8−で表される基(ここで、m、m、mおよびmは同一または異なってもよい1〜4の数、Rは、−COOまたは−SO3基)、
Mは遷移金属、
pは2または3、qは1〜3の数、rは0〜2の数、
LはNHまたはNa、
ただし、Aが−(CH2)m5−で表される基のとき、p+q+r=4、
Aが−(CH2)m6−N[−(CH2)m7−R5]−(CH2)m8−で表される基のとき、p+q+r=5)
で表される窒素含有化合物またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン処理剤が担持されたことを特徴とするアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維。
【請求項2】
前記化学式(I)で表される窒素含有化合物またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン処理剤の担持量が、セルロース系繊維の重量に対して、0.1質量%以上、10質量%以下である請求項1に記載のセルロース系繊維。
【請求項3】
前記遷移金属が、Fe、Cr、MnまたはCoである請求項1に記載のセルロース系繊維。
【請求項4】
前記式(I)で示される窒素含有化合物が、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ジアンモニウムまたは1,3−ジアミノプロパン四酢酸鉄アンモニウムである請求項1に記載のセルロース系繊維。
【請求項5】
前記アレルゲンが、ダニ、花粉、細菌、かび、卵、牛乳、魚貝類、大豆、米、昆虫、鳥獣、ハウスダストに由来する蛋白質系アレルゲンから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のセルロース系繊維。
【請求項6】
アルカリ存在下において、セルロースの水酸基に直接結合する反応基を有したカチオン化剤で、セルロース系繊維を処理する工程と、前記化学式(I)で示される窒素含有化合物またはその溶媒和物で、前記カチオン化処理したセルロース系繊維を処理する工程とを含むことを特徴とする、前記化学式(I)で示される窒素含有化合物またはその溶媒和物を有効成分に含むアレルゲン処理剤が担持されたアレルゲン処理能を有するセルロース系繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース系繊維を含む繊維製品。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載のセルロース系繊維を生活環境内に置くことを特徴とするアレルゲン処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−31889(P2007−31889A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218344(P2005−218344)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【Fターム(参考)】