説明

アレルゲン吸着性物質とそれを含む繊維構造体

【課題】アレルゲンを確実に吸着するアレルゲン吸着性物質を提供する。
【解決手段】アレルゲン吸着性物質は、シランモノマーが表面に結合した無機酸化物微粒子を有効成分として含むことを特徴とする。また、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体は、繊維が互いに交絡して形成される繊維構造体本体と、前記繊維構造体本体に保持される、シランモノマーが表面に結合した無機酸化物粒子と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランモノマーで修飾された無機酸化物微粒子を有効成分とし、接触した花粉やダニ死骸などに含まれるアレルゲン物質を吸着する微粒子と、これらの微粒子を担持させたアレルゲン吸着性を有する繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スギ花粉やダニの死骸、カビの胞子、或いはハウスダストなどによる様々なアレルギー疾患が社会的な大きな問題になってきている。これらの粒子状物質は衣服やエアコン用フィルターなどに付着しやすいため、屋外から持ち込まれやすく、また、室内にとどまりやすい。アレルギーは粒子状物質に含まれるタンパク質等のアレルゲン物質によって引き起こされ、これを吸入することによって、疾患が引き起こされることが知られている。
【0003】
このため、アレルゲン物質を吸着し、留めることで人が吸入することがないようにすることが試みられている。たとえば、特許文献1では、アレルゲン吸着性を有する有機物質を塗布し、特許文献2では高い比表面積を有する多孔質物質を作成しアレルゲンその他の有害物質を吸着させている。また、特許文献3では膨潤性粘土鉱物をアレルゲン吸着物質として用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−263842
【特許文献2】特開2010−106007
【特許文献3】特開2010−144295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体や内装材には、以下のような様々な問題がある。
【0006】
例えば、特許文献1に代表される有機物質を用いたアレルゲン吸着部材では、ポリフェノール類やカテキン類が主に使用されるが、これらの有機物質は有色であることが多く、添加量を増やすと製品の色調に影響を引き起こすことや、光を受けて変性しやすく耐久性に難がある。また、特許文献2に記載の多孔質体は単体では高い吸着性を有するが、加工のためバインダー等を用いると孔がふさがれ、十分な効果が発揮できない。さらに、特許文献3に記載の膨潤性粘土鉱物は、膨潤性に富むことから、大気中の湿度により、膨潤、収縮を繰り返すことが考えられ、固定化し続けることが難しい。このように、従来の技術ではアレルゲン吸着性を保つことが難しかった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、シランモノマーで被覆されたアレルゲン吸着性を有する無機酸化物微粒子を基体上に固定化することで、効率よくアレルゲンを吸着できる複合部材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、シランモノマーが表面に結合した無機酸化物微粒子を有効成分として含むことを特徴とするアレルゲン吸着性物質を提供するものである。
【0009】
第2の発明は第1の発明に記載のシランモノマーが、疎水部を含むことを特徴とするアレルゲン吸着性物質を提供するものである。
【0010】
第3の発明は繊維が互いに交絡して形成される繊維構造体本体と、前記繊維構造体本体に固定される、シランモノマーが表面に結合した無機酸化物粒子と、を備えることを特徴とするアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を提供するものである。
【0011】
第4の発明は、前記シランモノマーが表面に結合した無機酸化物粒子は、シランモノマーおよび/またはシランモノマーの重合体との化学結合によって、前記繊維構造体本体に固定されることを特徴とする第3の発明に記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を提供するものである。
【0012】
第5の発明は、第3または4の発明において、記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を用いたマスクを提供するものである。
【0013】
第6の発明は、第3または4の発明において、記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を用いたフィルターを提供するものである。
【0014】
第7の発明は、第3または4の発明において、記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を用いた防虫網を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アレルゲンを確実に吸着するアレルゲン吸着性物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体の模式図である。
【図2】第2の実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体の模式図である。
【図3】シランモノマー被覆率とタンパク質吸着量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、第1の実施形態について図1を用いて具体的に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100の断面の一部を模式的に拡大した図である。アレルゲン吸着性物質10は、無機酸化物微粒子1とシランモノマー2とにより構成されている。本発明の第1実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100は、繊維構造体の基材3の内部にアレルゲン吸着性物質10を固定させたものである。
【0019】
なお、本実施形態のアレルゲン吸着物質10が吸着するアレルゲンとは、アレルギーの原因となる抗原物質である。具体的には、本実施形態のアレルゲン吸着物質10は、花粉やダニの死骸やカビの胞子などに含まれるアレルゲンタンパク質を吸着することができる。
【0020】
本実施形態の無機酸化物微粒子1の最表面には、シランモノマー2が、シラノール基と無機酸化物微粒子の表面との脱水縮合により結合している。シランモノマー2の片末端であるシラノール基は親水性であるため、親水性である無機酸化物微粒子1の表面に引きつけられる。一方、逆末端の不飽和結合は疎水性であるため、無機酸化物微粒子1の表面からは離れようとする。このため、疎水基が無機酸化微粒子1の外側に向けて配向して結合して被覆を形成している。
【0021】
本実施形態に用いられる無機酸化物微粒子1としては非金属酸化物や、金属酸化物、金属複合酸化物、これらの混合物が挙げられる。非金属酸化物としては酸化ケイ素が挙げられる。金属酸化物の一例としては、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化タングステンなどが挙げられる。金属複合酸化物の一例としては、TiO2−WO3や、AlO−SiOや、WO−ZrOや、WO−SnOなどが挙げられる。
【0022】
なお、無機酸化物微粒子1の粒子径については、本実施形態の方法によって作成すれば特に限定されないが、平均の粒子径が10nmから300nmであることが好ましく、さらに平均の粒子径が10nmから100nmであれば、アレルゲン吸着物質10全体での表面積が増大し、より多くのアレルゲンを吸着できるので、より好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径をいう。
【0023】
前記の無機酸化物微粒子1に結合しているシランモノマー2は、疎水部を有していることが望ましく、加水分解後に2個以上の炭素を有していることが好ましく、4個以上の炭素を有していることがより好ましい。本実施形態のアレルゲン吸着性物質で用いられるシランモノマー2の一例としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピル トリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキポシプロピルメチルジメトキキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピル トリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノ プロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシリル−N−(1、3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0024】
アレルゲン吸着性物質10のアレルゲンタンパク質吸着機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、無機酸化物は一般的にタンパク質等をイオン交換反応により吸着することが知られている。そして、さらに無機酸化物微粒子1を、炭素鎖を有するシランモノマー2により修飾することで、粒子表面が疎水的になり、アレルゲンタンパク質と疎水結合を形成することにより強固に吸着するものであると考えられる。
【0025】
また、微細な粉体である無機酸化物微粒子1を用いることで、その吸着面積を拡大することが可能となり、アレルゲン吸着を有する繊維構造体100は多大な吸着性能を示すと考えられる。
【0026】
本実施形態では無機酸化物微粒子1の表面に、シランモノマー2を、シラノール基と無機酸化物微粒子の表面との脱水縮合により結合させる。その方法としては、水を含む溶媒に無機酸化物が分散した溶液に、シランモノマー2を無機酸化物微粒子1の比表面積に対し被覆率において、3%以上、さらに好ましくは5%以上となるように加える。そして、粉砕処理により無機酸化物を微粒子化した後、上記分散溶液を固液分離し、固液分離処理により得られた無機酸化物微粒子1を、100℃から180℃で加熱して、シランモノマー2を無機酸化物微粒子1の表面に結合させる方法が挙げられる。また、他の方法としては、無機酸化物を、有機溶剤に分散させた溶液に、シランモノマー2を無機酸化物微粒子1の比表面積に対し被覆率において、3%以上、さらに好ましくは5%以上となるように加える。そして、粉砕により無機酸化物を微粒子化した後、上記分散溶液を、冷却管を備えたフラスコに移して、加熱処理することにより、シランモノマー2を無機酸化物微粒子1の表面に結合させる方法などがある。
【0027】
ここでは、無機酸化物の表面にシランモノマーを結合させた後、粉砕処理しているが、無機酸化物を粉砕処理により微粒子化した後に、シランモノマーを結合させてもよい。
【0028】
ここで、シランモノマー2の被覆率は以下の式により求めるものとする。
被覆率(%)=(シランモノマー2の最小被覆面積(m2/g)×質量(g)×100)
/(無機酸化物粒子1の比表面積(m2/g)×質量(g))
【0029】
シランモノマー2は無機酸化物微粒子1の比表面積に対する被覆率において、100%以上加えることもできるが、被覆率が100%を超えると、シランモノマー同士が重合ししてしまう。そのために、無機酸化物微粒子1上への結合が阻害され、炭素鎖を外に向けて配向しないモノマーが生じてしまう。そのため、被覆率は100%以下とすることが望ましい。
【0030】
前記のシランモノマー2の加水分解後の炭素数に上限は無いが、加水分解後の炭素数が大きくなると疎水性が強くなる。疎水性が強くなると溶媒へ分散されにくくなるため、無機酸化物微粒子1の表面へのシラノール基の配向を制御するのが難しくなり、結合効率が低下する。そのため、シランモノマー2の加水分解後の炭素数は10個以下が好ましく、さらには8個以下がより好ましい。
【0031】
ここで第1の実施形態においては、保持されるアレルゲン吸着性物質10は1種類だけでもよいし、2種類以上が基材3にて保持されるようにしてもよい。
【0032】
また、例えばアレルゲン吸着性物質10ではない他の第2の無機微粒子5等が保持されるようにしてもよい。図1では、その一例として無機酸化物微粒子1と、無機酸化物微粒子1とは異なる他の種類の第2の無機微粒子5が保持されている状態を模式的に示している。さらに、無機酸化物微粒子1の他に2種以上の他の無機微粒子が保持される構成とすることも、もちろん可能である。
【0033】
第2の無機微粒子5としては、シランモノマー2またはそのオリゴマーと結合可能である限り、特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。具体的には、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物、または窒化物、及び、炭化物、ケイ酸塩、それらの混合物とすることができる。また、第2の無機微粒子5の結晶性は、非晶性あるいは結晶性のどちらでも良い。非金属酸化物としては、酸化珪素が挙げられる。また、金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化バリウム、過酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、過酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、水酸化鉄、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化インジウム、ギブサイト、ベーマイト、ダイスポア、酸化アンチモン、酸化コバルト、酸化ニオブ、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化プラセオジムなどが挙げられる。また、金属複合酸化物としては、酸化チタンバリウム、酸化コバルトアルミニウム、酸化ジルコニウム鉛、酸化ニオブ鉛、TiO−WO、AlO−SiO、WO−ZrO、WO−SnOCeO−ZrO、In−Sn、Sb−Sn、Sb−Zn、In−Sn−Zn、B−SiO、P−SiO、TiO−SiO、ZrO−SiO、Al−TiO、Al−ZrO、Al−CaO、Al−B、Al−P、Al−CeO、Al−Fe、TiO−ZrO、TiO−ZrO−SiO、TiO−ZrO−Al、TiO−Al−SiO、TiO−CeO−SiO、窒化物として窒化チタンや、窒化タンタル、窒化ニオブや、炭化物として炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ニオブ、吸着性を有するケイ酸塩として、ゼオライトA、ゼオライトP、ゼオライトX、ゼオライトYなどの合成ゼオライトや、クリノプチルライトやセピオラオライト、モルデナイトなどの天然ゼオライトなどや、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土などの層状ケイ酸塩化合物や、オラストナイト、ネプツナイトなどの環状ケイ酸塩化合物が挙げられる。また、リン酸3カルシウム、リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイトなどのリン酸塩化合物や、さらには、活性炭や、多孔質ガラスなどが挙げられる。
【0034】
また、図1に示すように、本実施形態では、さらに、シラン系バインダー成分4によってアレルゲン吸着性物質10を基材3に強固に固定している。
【0035】
本実施形態のシラン系バインダー成分4は、アレルゲン吸着性物質10同士、及び、または、アレルゲン吸着性物質10と繊維構造体本体である基体3を相互に結合し、アレルゲン吸着性物質10が剥離することを抑制するために添加するものである。シラン系バインダー成分4は一種類で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
このシラン系バインダー成分4は、不飽和結合を有するシランモノマーや、Si(OR1)(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシラン化合物、一例として、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランなどや、R2Si(OR3)(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、メチルトリルメトキシシランや、メチルトリエトキシシランや、ジメチルジエトキシシランや、フェニルトリエトキシシランや、ヘキサメチルジシラザンや、ヘキシルトリメトキシシランなど、他にアルコキシオリゴマーなどが用いられる。
【0037】
本実施形態のシラン系バインダー成分4を添加する場合、これを重合させ、アレルゲン吸着性物質10同士、及び、または、アレルゲン吸着性物質10と基材3を相互に化学結合を生じさせることが望ましい。
【0038】
本実施形態のシラン系バインダー成分4の重合方法としては、例えば、熱や光エネルギーを用いる方法や、放射線によるラジカル重合などが挙げられる。このうち、重合プロセスの簡便性や、生産スピード等の観点より、放射線ラジカル重合が特に適している。ここで、ラジカル重合において用いられる放射線としては、α線や、β線や、γ線や、電子線や、紫外線などを挙げることができるが、本実施形態において用いるには、γ線や、電子線や、紫外線が特に適している。
【0039】
なお、本実施形態に含まれるシラン系バインダー成分4が、アレルゲン吸着性物質10に対して30質量%より多くなると、アレルゲンの吸着量が低下する。したがって、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体100に含まれるアレルゲン吸着性物質10の含有量に対してシラン系バインダー成分4の含有量は、0.1質量%以上40質量%以下、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上20質量%以下である。
【0040】
なお、シラン系バインダー成分4は、アレルゲン吸着性物質10を繊維構造体である基材3に、強固に固定したい場合に加えればよく、必ずしも加えられていなくてもよい。シラン系バインダー成分4を加えない場合でも、アレルゲン吸着物質10の表面のシランモノマー2あるいはシランモノマー2の重合体が基材の繊維に化学結合しているため、ファンデルワールス力や物理的吸着力以上に強固に固定されるからである。
【0041】
このほか、第1の実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100においては、アレルゲン吸着性物質10のほか、所望の機能を繊維構造体100に付与するために、任意の機能性材料を、基材3表面あるいは内部に、保持させてもよい。
【0042】
当該機能性材料としては、抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、および触媒などを挙げることができる。なお、これら機能性材料は、例えば、シラン系バインダー成分4を介して基材3やアレルゲン吸着性物質10等に結合して固定されるようにしてもよい。
【0043】
本実施形態の基体3を構成する材料としては、繊維構造体を形成できる物であればよい。また、基体3は、繊維が交絡して形成される繊維構造体であればよいが、たとえば、不織布や、混抄紙などの紙類、編み物や織物などが挙げられる。
【0044】
以上の構成の本実施形態の繊維構造体100は、外壁材、建装材、内装材、衣類、寝具、寝装材、マスク、ハンカチ、タオル、絨毯、カーテンなどのシート状の製品や、空気清浄機やエアコン、換気扇、電気掃除機、扇風機などのフィルターや、防虫網など、様々な製品に使用することができる。
【0045】
続いて、アレルゲン吸着性物質10を保持している、第1の実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100の製造について、より具体的に説明する。
【0046】
第1実施形態のアレルゲン吸着性物質10は、例えば繊維を交絡させて製造される不織布や、パルプと結着剤を混抄して製造される混抄紙などを繊維構造体として製造する際に混合することで、繊維構造体内部の空間内にて担持させることができる。また、不織布や、パルプと結着剤を混抄して製造される混抄紙などを形成したのちに、塗布することで担持させることもできる。
【0047】
そして、アレルゲン吸着性物質10のシランモノマー2と基体3とを化学結合させることにより、アレルゲン吸着性物質10を基体3に固定する。基体3とシランモノマー2とを化学結合させる方法として、共有結合、水素結合、イオン結合、疎水結合など特に限定されないが、たとえば、共有結合による結合方法を用いることができる。
【0048】
共有結合としては、例えばパーオキサイド触媒を用いるグラフト重合、熱や光エネルギーを用いるグラフト重合、放射線によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられ、形状や形態に応じて適宜選択して用いられる。
【0049】
ここで、シランモノマー2の化学結合を効率良く、かつ、均一に行わせるために、予め、基体3の表面を、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理などの親水化処理をしてもよい。
【0050】
なお、不織布を形成する繊維としては、前述の合成繊維や、綿、麻、絹等の天然繊維の他、ガラス、金属、セラミックス、パルプ、炭素繊維などが挙げられる。不織布は、まずフリースと呼ばれる不織布の素となる集積層を製造し、そのフリースの繊維間を結合し、積層させる、という2つの工程により製造される。第1実施形態のアレルゲン吸着性物質10は、フリース形成時に繊維に混合してもよいし、フリースの積層時に混入しても良い。またフリースを積層する際には、アレルゲン吸着性物質10を含むフリースと含まないフリースとを積層することもできる。
【0051】
フリースの製造方法としては、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法などの一般的な製法が用いられるが、アレルゲン吸着性物質10の安定性を考慮すると、水や、加熱を行わない乾式法が好適に用いられる。
【0052】
第1実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100の繊維構造体として混抄紙を用いる場合、混抄紙は、パルプを抄紙することにより得られる。パルプとしては、木材パルプ、ポリエチレンパルプ、レーヨンパルプ、ビニロンパルプなどの各種パルプとすることができる。また、各種パルプに加えて、ポリエステル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などの有機合成繊維を単独または複数組み合わせて用いても良い。
【0053】
抄紙は、例えば、パルプと水とを混合した希釈スラリーを抄紙機で漉きあげて製造される。第1実施形態のアレルゲン吸着性物質10は、漉きあげる前のパルプスラリーに添加することで繊維構造体中に固定される。
【0054】
以上説明した本実施形態の繊維構造体100によれば、アレルゲンを確実に吸着する繊維構造体を提供することができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2の実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100を説明する。図2は、本実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100の断面の一部を拡大した模式図である。本実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100は、基材3上にアレルゲン吸着性物質10を含む無機微粒子層20が固定されることにより構成されている。なお、第1の実施形態と共通する構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0056】
本実施形態のアレルゲン吸着性物質10は、基材3に対して第1の実施形態と同様に、シラン系バインダー4と、アレルゲン吸着性物質10の表面のシランモノマー2(あるいはシランモノマー2の重合体)と基材3との化学結合と、によって、固定される。
【0057】
また、第2の実施形態においても、保持されるアレルゲン吸着性物質10は1種類だけでもよいし、2種類以上が繊維構造体1にて保持されるようにしてもよい。
【0058】
さらに、例えばアレルゲン吸着性物質10ではない他の第2の無機微粒子5等が保持されるようにしてもよい。図2では、その一例としてアレルゲン吸着性物質10と、アレルゲン吸着性物質10とは異なる1種の第2の無機微粒子5が保持されている状態を模式的に示している。しかしながら、アレルゲン吸着性物質10の他に2種以上の無機微粒子が保持される構成とすることも、もちろん可能である。
【0059】
このほか、第2の実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100においては、アレルゲン吸着性物質10のほか、所望される機能をアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100に付与するために、任意に用いられる機能性材料が、基材3表面に保持されるようにしてもよい。
【0060】
当該機能性材料としては、抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、および触媒などを挙げることができる。なお、これら機能性材料は、例えば、シラン系バインダー成分4を介して基材3やアレルゲン吸着性物質10等に結合して固定されるようにしてもよい。
【0061】
このように、第2の実施形態のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100においては、アレルゲン吸着性物質10が、基材3の表面に露出した状態で基材3に保持されている。よって、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体100表面に付着したアレルゲンがアレルゲン吸着性物質10と接触する確率を、一般的な樹脂などのバインダー等を用いて繊維構造体1に固定した場合と比較して高くすることができるため、少量でも効率よくアレルゲンを吸着することができる。
【0062】
第2の実施形態において、アレルゲン吸着性物質10が基材3に保持される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、アレルゲン吸着性物質10が基材3上において散在していてもよい。また、アレルゲン吸着性物質10が平面状または3次元状に並ぶ無機微粒子集合体の形態で保持されるようにしてもよい。すなわち、点状、島状、薄膜状等の形状で保持されることができる。
【0063】
また、3次元形状の集合体として保持される場合、アレルゲン吸着性物質10には、シランモノマー2を介して基材3に結合するものと、該アレルゲン吸着性物質10同士で結合するものとが存在する。
【0064】
このとき、基材3表面により多くの微細な凹凸が形成され、当該凹凸によって基材3への塵埃などの付着が抑制されるため、アレルゲン吸着性物質10は、3次元形状の集合体として基材3上に保持されていることが好ましい。このような塵埃などの付着の抑制により、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体100のアレルゲン吸着作用を一層長く維持することができる。すなわち、本実施形態の繊維構造体100は、塵埃などは吸着せず、アレルゲンを選択的に吸着することができる。従って、塵埃などによってアレルゲン吸着性物質10が覆われてしまうことがないため、より長い期間アレルゲンだけを確実に捕集することができる。
【0065】
アレルゲン吸着性を有する繊維構造体100の形態は、織物・編物・不織布などを含む繊維構造体を、ロール状や、ウェブ状や、ハニカム状など、使用目的に合った種々の形状及びサイズ等のものが適用でき、特に制限されるものではない。
【0066】
本実施形態でのアレルゲン吸着性を有する繊維構造体100の製造方法は、以下に記した方法により好適に製造される。
【0067】
本実施形態における好適な方法としては、アレルゲン吸着性物質10及び、シラン系バインダー成分4が分散した溶液を、結合しようとする基体3に塗布し、必要に応じて溶剤(溶液の溶媒)を加熱乾燥などの方法により除去した後、γ線や、電子線や、紫外線などの放射線を照射することで、シラン系バインダー成分4を基体3の表面にラジカル重合させると同時にアレルゲン吸着性物質10同士を結合させるという手順により製造される。
【0068】
具体的なアレルゲン吸着性物質10の分散液の塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法を用いることができる。また、部分的に塗布する方法として、スクリーン印刷法や、パッド印刷法や、オフセット印刷法や、ドライオフセット印刷法や、フレキソ印刷法や、インクジェット印刷法などの様々な方法を用いることができる。塗布方法は、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0069】
また、アレルゲン吸着性物質10の塗布を、均一に行わせるためには、予め、基体3の表面が、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による化学的な処理などにより親水化処理されてあっても良い。
【0070】
また、本実施形態によれば、アレルゲン吸着性物質10を化学結合により基体3上に強固に固定できることから、製品形状とした後で、または、製品化の過程でアレルゲン吸着性物質10を固定することが可能であり、このため、アレルゲン吸着性物質10の存在が繊維構造体の形成に影響しないというメリットがある。
【0071】
なお、本発明の実施形態において、基体3は、例えば、繊維状、布状、メッシュ状など、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることが可能である。したがって、これら様々な形態の各種基体をアレルゲン吸着性を有する繊維構造体とすることが可能となり、外壁材、建装材、内装材、衣類、寝具、寝装材、マスク、ハンカチ、タオル、絨毯、カーテン、空気清浄機やエアコン、換気扇、電気掃除機、扇風機などのフィルター、または防虫網などの繊維構造体の製品へ応用が可能となる。従って、本発明は、様々な分野に優れた各種製品を提供することができる有用な物質である。
【0072】
なお、本実施形態では、アレルゲン吸着性物質10を基材3に固定するために、シラン系バインダー成分4を含むとして説明したが、第1の実施形態で説明した通り、アレルゲン吸着性物質10を強固に固定する必要が無い場合には、必ずしもシラン系バインダー成分4は含まれていなくてもよい。
【0073】
以上説明した本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、アレルゲンを確実に吸着する繊維構造体を提供することができる。さらに、本実施形態の場合には、繊維構造体の表面に微細な凹凸が形成されるため、アレルゲン以外の埃は繊維構造体に当たっても付着せず、埃がアレルゲン吸着性物質を覆ってしまうことがない。従って、より長期間アレルゲンだけを選択的に捕集できるという効果が得られる。
【実施例】
【0074】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0075】
(アレルゲン吸着性物質の作製)
以下の方法により、アレルゲン吸着性物質の実施例1〜7を作成した。まず、市販の二酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製、MT−100HD、比表面積80m/g、平均一次粒子径15nm)をメタノールに対して10質量%、シランモノマーとして表1の各シランモノマーを加えてpHを3.0に塩酸で調整した後、ビーズミルにより平均粒子径18nmに粉砕分散した。その後、遠心分離により固液分離して120℃で加熱してシランモノマーを二酸化チタン微粒子の表面に脱水縮合反応により結合させて被覆を形成した。
【0076】
【表1】

【0077】
(シランモノマー添加量の最適化)
上記の方法において、シランモノマーの添加量を二酸化チタン微粒子に対して被覆率が、0〜150%となるように変化させて、実施例1〜7のアレルゲン吸着性物質を作成し、タンパク質吸着量を測定した。
【0078】
(タンパク質吸着量の測定方法)
タンパク質吸着量を評価するため、牛血清タンパク質(以下BSA)を使って評価を行った。シランモノマーの添加量を変化させて作成したアレルゲン吸着性物質10mgに対して、リン酸緩衝液に溶解したBSA溶液1mg/ml を1ml加え、1時間、室温で攪拌した。1時間後、遠心分離によりBSA溶液とアレルゲン吸着性物質とを分離し、BSA溶液のBSA量を定量した。BSA濃度の変化より、アレルゲン吸着性物質に対するBSA吸着量を求めた。
【0079】
シランモノマー被覆率とBSA吸着量の関係を図3に示す。シランモノマーの加水分解後の炭素数によりBSA吸着量が異なることがわかる。シランモノマーによって被覆されていない無機酸化物であっても、アレルゲンを含むタンパク質を吸着することが知られており、このことは、図3における被覆率0%でのBSA吸着量の結果からもわかる。しかし、さらにシランモノマーにより被覆することで、BSAの吸着量が増大した。シランモノマーで被覆することにより、無機酸化物粒子が疎水化し、これにより、無機酸化物の有するイオン結合力に加えて、疎水結合力が付与されることで、シランモノマーを被覆しない無機酸化物に比べて強力にアレルゲンが吸着すると考えられる。
【0080】
一方で加水分解後の炭素数が10のシランモノマーで被覆されたアレルゲン吸着性物質(実施例6)では、被覆率が高くなるとBSA吸着量が低下した。さらには加水分解後の炭素数が12のシランモノマーで被覆されたアレルゲン吸着性物質(実施例7)では、被覆率が高くなると吸着量は増加するものの、実施例3から6と比較すると低い吸着量のままであった。これはシランモノマーの加水分解後の炭素数が大きくなると、シランモノマーの疎水度が高くなり、シランモノマー同士で疎水結合を形成するために、シランモノマーが無機酸化物粒子表面に配向しなくなっていったためと考えられる。
【0081】
さらに、低炭素数のシランモノマーでは被覆量が増えるにしたがって、アレルゲン吸着性物質のBSA吸着量が増加した。被覆率が3%以上となると、シランモノマーを被覆していない無機酸化物粒子(被覆率0%)に比べ、BSA吸着量が1.2倍に増加した。さらに、被覆率が5%以上となるとBSA吸着量が1.5倍に増加した。さらに被覆率を高めるとBSA吸着量は最大でおよそ37mg/gとなり、被覆率0%のときの吸着量の2倍以上にまで達した。
【0082】
特に、加水分解後の炭素数が3〜8且つ被覆率5%以上のシランモノマーで被覆した微粒子は、安定して高い吸着量を示した。
【0083】
(他の無機酸化物粒子)
他の市販の無機酸化物粒子についても、実施例4で用いたシランモノマー、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いて、添加量を被覆率30%となるように加え、実施例2などと同様な方法でアレルゲン吸着性物質を作成し、BSA吸着量を測定した。用いた無機酸化物とシランモノマーの被覆率、それぞれのBSA吸着量の測定結果を表2に示す。また、比較例として、シランモノマーによって被覆されていない無機酸化物微粒子についても、同様の試験を行い結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
いずれの無機酸化物粒子においても、シランモノマーで被覆することにより、BSA吸着量が上昇し、高いアレルゲン吸着性能を有することが確認できた。このことから、シランモノマーにより被覆することで、無機酸化物の有するアレルゲン吸着量を増加させることができ、たとえば、アレルゲン吸着物質を繊維構造体に固定して用いる場合に、必要な繊維構造体の風合いや、色合いなどに応じて、最適な無機酸化物粒子を選択することができる。
【0086】
(アレルゲン吸着性繊維構造体の作成)
さらに、アレルゲン吸着性微粒子を担持する繊維構造体の実施例を作成し、アレルゲンの吸着性能について評価した。
【0087】
(実施例11)
被覆率12%となるように、実施例4で用いたシランモノマーで被覆したアレルゲン吸着性微粒子を、メタノールに3質量%となるよう加え、ビーズミルにより平均粒子径16nmに再度粉砕分散した。次に、ポリエステル製メッシュ(メッシュ数48本/インチ)にアレルゲン吸着性微粒子分散液を塗布し、100℃で乾燥させた。アレルゲン吸着性微粒子を塗付したポリエステルメッシュに、電子線照射装置(岩崎電気株式会社製、エレクトロカーテン型CB250/15/180L)を用い、電子線を200kVの加速電圧で5Mrad照射することで、アレルゲン吸着性微粒子をシランモノマーのグラフト重合によりポリエステルメッシュ表面に結合させたアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を得た。
【0088】
(実施例12)
実施例11において、アレルゲン吸着性微粒子をビーズミルにより再度粉砕分散した後に、シラン系バインダー成分として、テトラメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−04)を、アレルゲン吸着性微粒子に対して20質量%加えた。そして、テトラメトキシシランが加えられたアレルゲン吸着性微粒子分散液をポリエステル製メッシュに塗布し、以降は実施例11と同様の方法で処理を行って、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体を得た。
【0089】
(実施例13)
実施例12において、テトラメトキシシランを、アレルゲン吸着性微粒子に対して30質量%加えた以外は同様の方法で、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体を得た。
【0090】
(実施例14)
実施例12において、テトラメトキシシランを、アレルゲン吸着性微粒子に対して40質量%加えた以外は同様の方法で、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体を得た。
【0091】
(実施例15)
実施例12において、テトラメトキシシランを、アレルゲン吸着性微粒子に対して50質量%加えた以外は同様の方法で、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体を得た。
【0092】
(比較例4)
実施例11において、アレルゲン吸着性微粒子をビーズミルにより再度粉砕分散した後に、有機系バインダー成分としてライトアクリレート(共栄社化学株式会社製、9EG−A)を、アレルゲン吸着性微粒子に対して20質量%加えた。そして、ライトアクリレートが加えられたアレルゲン吸着性微粒子分散液をポリエステル製メッシュに塗布し、以降は実施例11と同様の方法で処理を行って、アレルゲン吸着性を有する繊維構造体を得た。
【0093】
(比較例5)
比較例5として、アレルゲン吸着性微粒子などが何も塗布されていない、ポリエステル製メッシュ(メッシュ数48本/インチ)を用いた。
【0094】
(アレルゲン吸着性評価)
アレルゲン吸着性の評価は上述した実施例11〜15および比較例4、5のそれぞれの繊維構造体を2cm×2cmの大きさに切り取り、10μg/mlのスギ花粉アレルゲンCryJ1タンパク質溶液1mlの中に浸漬した。24時間後、上澄み液中のスギ花粉アレルゲン量の判定を行った。スギ花粉アレルゲン量の判定には、スギ花粉アレルゲンタンパク質であるCryJ1を標的としたELISA法により定量を行い、アレルゲン吸着率を求めた。
【0095】
アレルゲン吸着率は次の式に従い求めた。

吸着率(%)=(試験前CryJ1濃度(μg/ml)−試験後CryJ1濃度(μg/ml))
/試験前CryJ1濃度(μg/ml)×100

【0096】
各実施例および比較例のアレルゲン吸着率を表3に示す。
【0097】
【表3】

【0098】
表3の結果より以下のことが明らかとなった。
【0099】
バインダーにシラン系バインダーを用い、その添加比率が30質量%以下であれば、アレルゲン吸着性を阻害せずに、アレルゲン吸着性微粒子同士あるいは、アレルゲン吸着性微粒子と基材を強固に固定することが可能である(実施例11〜13)。
【0100】
40質量%以上を添加した試料では、十分なアレルゲン吸着率を示すが、若干の吸着率低下が見られた(実施例14〜15)。
【0101】
一方で、有機高分子系バインダーを用いた比較例4では20質量%だけ用いたのにも係わらず、アレルゲン吸着率が大幅に低下した。
【0102】
以上の結果について、まずシラン系バインダーを添加した実施例においてアレルゲンの吸着率が高いのは、シラン系バインダーがゾルゲル反応により固化する際、多孔質状に固化するため、アレルゲン吸着性微粒子の表面を覆い隠さず、アレルゲンタンパク質を吸着する隙間を保持できるためであると推測された。ただし、バインダー添加量が所定量より多くなると、アレルゲン吸着性微粒子の表面を覆ってしまうため、アレルゲン吸着量が低下すると考えられる。
【0103】
一方、比較例4においてアレルゲンの吸着率が低いのは、有機系バインダーは、アレルゲン吸着性微粒子の表面を膜状に覆ってしまい、アレルゲン吸着性微粒子が機能しなくなってしまうために、少量であってもアレルゲン吸着量が著しく低下すると考えられる。
【0104】
よって、アレルゲン吸着性微粒子を強固に固定するためにバインダーを添加する場合は、シラン系バインダーなど多孔質状に固化する性質を有することが好ましい。さらに十分なアレルゲン吸着性を発揮させるためにはアレルゲン吸着性微粒子に対して40質量%以下であることが望ましく、30質量%以下であることがさらに望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明による技術の実施形態は、基体を、例えば、フィルム状、繊維状、布状、メッシュ状、ハニカム状等、使用目的に合った様々な形態(形状、大きさ等)とすることが可能であり、様々な形態の各種基体に防塵性の機能を付加した製品に適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1: 無機酸化物微粒子
2: シランモノマー
3: 基材
4: シラン系バインダー成分
5: 第2の無機微粒子
10: アレルゲン吸着性物質
20: 無機微粒子層
100:アレルゲン吸着性を有する繊維構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランモノマーが表面に結合した無機酸化物微粒子を有効成分として含むことを特徴とするアレルゲン吸着性物質。
【請求項2】
前記シランモノマーは、疎水部を含むことを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン吸着性物質。
【請求項3】
繊維が互いに交絡して形成される繊維構造体本体と、
前記繊維構造体本体に固定される、シランモノマーが表面に結合した無機酸化物粒子と、
を備えることを特徴とするアレルゲン吸着性を有する繊維構造体。
【請求項4】
前記シランモノマーが表面に結合した無機酸化物粒子は、シランモノマーおよび/またはシランモノマーの重合体との化学結合によって、前記繊維構造体本体に固定されることを特徴とする請求項3に記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を用いたマスク
【請求項6】
請求項3又は4に記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を用いたフィルター。
【請求項7】
請求項3又は4に記載のアレルゲン吸着性を有する繊維構造体を用いた防虫網。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213681(P2012−213681A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79401(P2011−79401)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】