説明

アレルゲン抑制剤及びアレルゲン抑制製品

【課題】 本発明は、アレルゲンが特異抗体と反応するのを効果的に抑制し、アレルギー症状の軽減或いはその発現の予防をすることができると共に、不測の変色や日常の使用条件下での変色が生じにくいアレルゲン抑制剤を提供する。
【解決手段】 本発明のアレルゲン抑制剤は、Z平均分子量が15万以上のスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩をアレルゲン抑制化合物として含有することを特徴とするので、アレルゲンが特異抗体と反応するのを効果的に抑制し、アレルギー症状の軽減或いはその発現の予防をすることができると共に、不測の変色や日常の使用条件下での変色が生じにくく、各種生活用品に好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スギなどの草木の花粉、ダニ、室内の塵などのアレルゲンが特異抗体と反応するのを抑制することができ且つ不測の変色や日常の使用条件下での変色が生じ難いアレルゲン抑制剤、及び、このアレルゲン抑制剤をアレルゲン対象物に処理して得られるアレルゲン抑制製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などの多くのアレルギー疾患が問題となってきている。このアレルギー疾患の主な原因としては、住居内に生息するダニ類、特に、室内塵中に多く存在するヒョウヒダニのアレルゲン(Der1、Der2)や、主に春季に多量に空気中に浮遊するスギ花粉アレルゲン(Cry j1、Cry j2)などのアレルゲンが生活空間内に増加してきているためである。
【0003】
ヒョウヒダニのアレルゲンは、ヒョウヒダニそのものではなく、ヒョウヒダニの死骸や糞がアレルゲンとなるために、ヒョウヒダニを駆除しても、アレルギー疾患の根本的な解決にはならない。
【0004】
又、スギ花粉アレルゲンであるCry j1やCry j2は、各々分子量が約40kDaの糖タンパク質、分子量が約37kDaの糖タンパク質であり、これらのスギ花粉アレルゲンは、鼻粘膜などに付着すると生体外異物として認識されて炎症反応を引き起こす。
【0005】
従って、アレルギー疾患の症状を軽減し或いは新たなアレルギー症状を防止するためには、生活空間からアレルゲンを完全に取り除くか、アレルゲンを変性させるなどして不活性化させることが必要となる。
【0006】
アレルゲンは蛋白質であるので、アレルゲンを熱、強酸又は強アルカリなどで変性させると、アレルゲンはアレルゲン性を失うと考えられる。しかしながら、アレルゲンは非常に安定性が高く、家庭で安全に使用できる酸化剤、還元剤、熱、アルカリ、酸などでは容易に変性されない(非特許文献1参照)。
【0007】
又、アレルゲンに汚染された対象物に存在するアレルゲンを変性させようとすると、アレルゲンの汚染場所である対象物、例えば、畳、絨毯、床、家具(ソファー、布ばり椅子、テーブル)、寝具(ベッド、布団、シーツ)、車輛内用品(シート、チャイルドシート)、車輛内装材(天井材など)、キッチン用品、ベビー用品、カーテン、壁紙、タオル、衣類、ぬいぐるみ、その他の繊維製品、空気清浄機(本体及びフィルター)などが条件によっては破損してしまう可能性があった。
【0008】
このため、アレルゲンの分子表面を比較的温和な条件で化学的に変性する方法が考えられてきた。例えば、生皮のなめし(タンニング)などに用いられているタンニン酸を用いてアレルゲンを抑制する方法(特許文献1)、茶抽出物などを用いてアレルゲンを抑制する方法(特許文献2)、ヒドロキシ安息香酸系化合物又はその塩を用いてアレルゲンを抑制する方法(特許文献3)などが提案され、アレルゲン抑制効果も確認されている。
【0009】
しかしながら、これらの方法で用いられる化合物のほとんどはポリフェノールの一種であることから着色しており、上記対象物を着色してしまうといった問題点があった。
【0010】
又、特許文献4には、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、及びスチレンスルホン酸又はその塩に由来する構成単位を50〜100モル%含有するホモポリマー又はコポリマー等の水溶性高分子化合物をアレルゲン抑制成分として含有する住居内環境改善剤が提案されている。実施例では、住宅内環境改善剤としてのポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンなど用いた配合例が記載されているが、スチレンスルホン酸又はその塩に由来する構成単位を50〜100モル%含有するホモポリマーを用いた配合例の記載は一切なく、更に、実施例の全てにおいて、住宅内環境改善剤のアレルゲン抑制効果に関する評価データはなく容易に追試できるものではなった。
【0011】
又、段落番号〔0014〕には、水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、1000〜600万が好ましく、更に好ましくは、5000〜100万、特に好ましくは、1万〜50万と記載されている。
【0012】
そこで、重量平均分子量が1万〜50万の範囲にあるスチレンスルホン酸ナトリウム重合体として、ポリエチレンオキシド換算で重量平均分子量が約2.7万又は約6.7万のスチレンスルホン酸ナトリウム重合体を用いてアレルゲン抑制効果を評価してみたが、アレルゲン抑制効果を確認することはできなかった。
【0013】
【非特許文献1】The Journal of Immunology Vol.144:1353-1360
【特許文献1】特開昭61−44821号公報
【特許文献2】特開平6−279273号公報
【特許文献3】特開平11−292714号公報
【特許文献4】特開2004−275605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、アレルゲンが特異抗体と反応するのを効果的に抑制し、アレルギー症状の軽減或いはその発現の予防をすることができると共に、不測の変色や日常の使用条件下での変色が生じにくいアレルゲン抑制剤、及び、このアレルゲン抑制剤をアレルゲン対象物に処理して得られるアレルゲン抑制製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のアレルゲン抑制剤は、Z平均分子量が15万以上のスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩をアレルゲン抑制化合物として含有することを特徴とする。
【0016】
ここで、アレルゲン抑制剤とは、アレルゲン抑制効果を有するものをいい、又、「アレルゲン抑制効果」とは、ヒョウヒダニのアレルゲン(Der1、Der2)、空気中に浮遊するスギ花粉アレルゲン(Cryj1、Cryj2)、犬や猫に起因するアレルゲン(Can f1、Fel d1)などのアレルゲンを変性し或いは吸着し、アレルゲンの特異抗体に対する反応性を抑制する効果をいう。このようなアレルゲン抑制効果を確認する方法としては、例えば、ニチニチ製薬社から市販されているELISAキットを用いてELISA法によりアレルゲン量を測定する方法、アレルゲン測定具(住化エンビロサイエンス社製 商品名「マイティーチェッカー」)を用いてアレルゲン性を評価する方法などが挙げられる。
【0017】
そして、アレルゲン抑制化合物として含有されているスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩において、塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、エタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン塩、ポリスチレンスルホン酸エチルのようなエステル塩が挙げられ、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩がより好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。なお、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の分子中に含有されている塩は、単一の種類であっても複数種類が混合していてもよい。
【0018】
アレルゲン抑制化合物として含有されているスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩(ポリスチレンスルホン酸のスルホン酸塩)としては、特に限定されず、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体、スチレンスルホン酸カリウム単独重合体、スチレンスルホン酸リチウム単独重合体、スチレンスルホン酸カルシウム単独重合体、スチレンスルホン酸マグネシウム単独重合体、スチレンスルホン酸バリウム単独重合体、スチレンスルホン酸アルミニウム単独重合体、スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体、スチレンスルホン酸エチル単独重合体、スチレンスルホン酸ナトリウム・カリウム重合体、スチレンスルホン酸ナトリウム・カルシウム重合体、などが挙げられ、スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体、スチレンスルホン酸カリウム単独重合体、スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体、スチレンスルホン酸トリエチルアミン単独重合体が好ましく、スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体がより好ましく、アレルゲンとの反応性において立体障害が少ないことから、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体がより好ましい。なお、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0019】
スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩は、公知の要領で製造することができ、例えば、スチレンスルホン酸塩をラジカル重合する方法、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸を水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、塩化アンモニウムなどのアルカリを用いて中和する方法などが挙げられる。
【0020】
又、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の分子中のスルホン酸基の全てが塩とされていなくてもよいが、塩とされたスルホン酸基の割合が低いと、アレルゲン抑制剤の酸性が強くなり、後述するアレルゲン対象物を破損する虞れがあるので、50モル%以上が好ましく、70〜100モル%がより好ましく、85〜100モル%が特に好ましい。
【0021】
なお、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の分子中における塩とされたスルホン酸基の割合は下記の要領で算出される。スチレンスルホン酸塩を重合させて、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を得た場合には、重合に用いられた単量体中において、スルホン酸基及びこの誘導体の合計モル数を算出すると共に、塩とされたスルホン酸基のモル数を算出し、上記合計モル数に対する、塩とされたスルホン酸基のモル数の百分率を算出すればよい。又、単量体としてスチレンスルホン酸を用いてスチレンスルホン酸単独重合体を重合し、このスチレンスルホン酸単独重合体をアルカリによって中和してスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を製造した場合には、消費されたアルカリのモル数を中和滴定によって測定すると共に、重合に用いられたスチレンスルホン酸のモル数を測定し、スチレンスルホン酸のモル数に対する消費されたアルカリのモル数の百分率を算出すればよい。
【0022】
スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩のZ平均分子量は、低いと、アレルゲン抑制剤のアレルゲン抑制効果が低下するので、15万以上に限定され、20万以上が好ましく、50万以上がより好ましいが、高過ぎると、アレルゲン抑制剤の取扱性が低下することがあるので、上限は500万が好ましい。
【0023】
なお、本発明において重合体の重量平均分子量及びZ平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーでポリエチレンオキシドを標準物質として測定したものをいう。重合体の重量平均分子量及びZ平均分子量は、例えば、下記の条件にて測定することができる。
カラム:(東ソー社製TSKgel GMPWXL 7.8mmI.D.×30cm 2本)
溶離液:(0.2M硫酸ナトリウム水溶液:アセトニトリル=9:1)
流速:1ミリリットル/分
温度:40℃
検出:UV(210nm)
標準ポリエチレンオキシド:(東ソー社製、SE-2,5,8,15,30,70,150の7種類を使用)
【0024】
そして、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の重量平均分子量は、低いと、アレルゲン抑制化合物がアレルゲン抑制効果を奏しないことがある一方、高いと、アレルゲン抑制剤の取扱性が低下することがあるので、20万〜500万が好ましい。
【0025】
上記スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩は、水溶性であっても非水溶性であってもよいが、アレルゲン抑制剤を衣料や布団などの耐洗濯性が要求されるアレルゲン対象物に処理する場合には、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩は非水溶性であることが好ましい。ここで、非水溶性とは、20℃で且つpHが5〜9である水100gに対して溶解可能なグラム数(以下「溶解度」という)が1以下であることをいい、1を超えるものを水溶性という。
【0026】
スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩が非水溶性であると、アレルゲン対象物が水に接触した場合にあってもスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩が水に溶解して消失するのを抑制することができ、後述するアレルゲン抑制製品のアレルゲン抑制効果を長期間に亘って安定的に持続させることができる。
【0027】
スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を非水溶性にする方法としては、水溶性のスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩に硬化剤を含有させてスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を架橋させる方法、水溶性のスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を担持体に固定させる方法、一部を脱スルホン化する方法、スルホン酸塩部分の構造を一部変化させる方法、難水溶性の塩にする方法などが挙げられる。なお、脱スルホン化する方法としては、高温でアレルゲン抑制化合物と水蒸気とを反応させる方法などが挙げられ、スルホン酸塩部分の構造を変化させる方法としては、アレルゲン抑制化合物を水酸化ナトリウム中で融解させ、その後にフェノール化する方法などが挙げられる。
【0028】
上記スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の硬化剤としては、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を架橋させることができれば、特に限定されず、例えば、アミン化合物、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物などの化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、熱潜在性カチオン重合触媒、光潜在性カチオン重合開始剤、ジシアンアミド及びその誘導体、ジビニルベンゼンなどが挙げられ、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0029】
上記アミン化合物としては、特に限定されず、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミンなどの脂肪族アミン及びその誘導体;メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどの脂環式アミン及びその誘導体;m−キシレンジアミン、α−(m−アミノフェニル)エチルアミン、α−(p−アミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼンなどの芳香族アミン及びその誘導体などが挙げられる。
【0030】
又、上記アミン化合物から合成される化合物としては、特に限定されず、例えば、上記アミン化合物と、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカ二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジヒドロイソフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などのカルボン酸化合物とから合成されるポリアミノアミド化合物及びその誘導体;上記アミン化合物と、ジアミノジフェニルメタンビスマレイミドなどのマレイミド化合物とから合成されるポリアミノイミド化合物及びその誘導体;上記アミン化合物とケトン化合物とから合成されるケチミン化合物及びその誘導体;上記アミン化合物と、エポキシ化合物、尿素、チオ尿素、アルデヒド化合物、フェノール化合物、アクリル化合物などの化合物とから合成されるポリアミノ化合物及びその誘導体などが挙げられる。
【0031】
更に、上記3級アミン化合物としては、特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビスシクロ(5,4,0)ウンデセン−1及びその誘導体などが挙げられる。
【0032】
そして、上記イミダゾール化合物としては、特に限定されず、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール及びその誘導体などが挙げられる。
【0033】
又、上記ヒドラジド化合物としては、特に限定されず、例えば、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド及びその誘導体などが挙げられる。
【0034】
更に、上記メラミン化合物としては、特に限定されず、例えば、2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジン及びその誘導体などが挙げられる。
【0035】
そして、上記酸無水物としては特に限定されず、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテート、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸−無水マレイン酸付加物、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物、ポリドデカン二酸無水物、クロレンド酸無水物及びその誘導体などが挙げられる。
【0036】
又、上記フェノール化合物としては、特に限定されず、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール及びその誘導体などが挙げられる。
【0037】
更に、上記熱潜在性カチオン重合触媒としては、特に限定されず、例えば、6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素などを対アニオンとした、ベンジルスルホニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ベンジルピリジニウム塩、ベンジルホスホニウム塩などのイオン性熱潜在性カチオン重合触媒;N−ベンジルフタルイミド、芳香族スルホン酸エステルなどの非イオン性熱潜在性カチオン重合触媒が挙げられる。
【0038】
そして、上記光潜在性カチオン重合開始剤としては特に限定されず、例えば、6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素などを対アニオンとした、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩及び芳香族スルホニウム塩などのオニウム塩類、並びに、鉄−アレン錯体、チタノセン錯体及びアリールシラノール−アルミニウム錯体などの有機金属錯体類などのイオン性光潜在性カチオン重合開始剤;ニトロベンジルエステル、スルホン酸誘導体、リン酸エステル、フェノールスルホン酸エステル、ジアゾナフトキノン、N−ヒドロキシイミドスルホナートなどの非イオン性光潜在性カチオン重合開始剤が挙げられる。
【0039】
又、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩が固定される担持体としては、特に限定されず、例えば、タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、珪藻土、シリカ、バーミュライト、パーライトなどの無機担体や、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの有機高分子担体などが挙げられる。
【0040】
有機高分子担体の形態としては、特に限定されず、例えば、微粒子状、繊維状、シート状、フィルム状、発泡体などが挙げられる。スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を発泡体に担持させる場合には、発泡体の原反となる発泡性成形体の発泡前にスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を担持させても発泡後にスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を担持させてもよい。
【0041】
そして、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を担持体に固定する方法としては、特に限定されないが、例えば、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を担持体に吸着させる方法、グラフトなどの化学結合やバインダーによる結合によってスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を担持体に固定する方法などが挙げられる。
【0042】
本発明のアレルゲン抑制剤には、アレルゲン抑制効果の有効性を阻害しない範囲において、分散剤、乳化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、移染防止剤などの製剤用補助剤が配合されていてもよく、又、殺ダニ剤、殺菌剤、防黴剤、消臭剤などが含有されていてもよい。
【0043】
移染防止剤としては、特に限定されず、例えば、塩化カルシウムなどの塩類、水溶性カチオン化合物、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジンベタイン、ポリアミンN−オキシド重合体などが挙げられる。
【0044】
次に、上記アレルゲン抑制剤の使用要領について説明する。上記アレルゲン抑制剤は、スプレー型、エアゾール型、燻煙型、加熱蒸散型、マトリックスへの混合などの汎用の使用方法を用いることができる。
【0045】
上記アレルゲン抑制剤を溶媒に溶解或いは分散させてアレルゲン抑制剤溶液とし、このアレルゲン抑制剤溶液に水溶剤、油剤、乳剤、懸濁剤などを配合することによって、アレルゲン抑制剤をスプレー型とすることができる。なお、スプレー型とは、常圧下にあるアレルゲン抑制剤溶液に圧力を加えてアレルゲン抑制剤を霧状に噴霧する使用方法をいう。
【0046】
なお、上記溶媒としては、例えば、水(好ましくは、イオン交換水)、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなど)、炭化水素類(トルエン、キシレン、メチルナフタレン、ケロセン、シクロヘキサンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミドなど)が挙げられる。
【0047】
そして、上記スプレー型のアレルゲン抑制剤に、固体担体(タルク、ベントナイト、クレー、カオリン、珪藻土、シリカ、バーミュライト、パーライトなど)を添加することにより、アレルゲン抑制剤をエアゾール型とすることができる。
【0048】
ここで、エアゾール型とは、容器内にアレルゲン抑制剤溶液を噴射剤と共に該噴射剤が圧縮された状態に封入しておき、噴射剤の圧力によってアレルゲン抑制剤を霧状に噴霧させる使用方法をいう。なお、噴射剤としては、例えば、窒素、炭酸ガス、ジメチルエーテル、LPGなどが挙げられる。
【0049】
そして、上記スプレー型のアレルゲン抑制剤に、酸素供給剤(過塩素酸カリウム、硝酸カリウム、塩素酸カリウムなど)、燃焼剤(糖類、澱粉など)、発熱調整剤(硝酸グアニジン、ニトログアニジン、リン酸グアニル尿素など)、酸素供給剤分解用助剤(塩化カリウム、酸化銅、酸化クロム、酸化鉄、活性炭など)などを添加することにより、アレルゲン抑制剤を燻煙型することができる。なお、燻煙型とは、アレルゲン抑制剤を微粒子化して煙状とし、分散させる使用方法をいう。
【0050】
又、アレルゲン抑制剤を混合させるマトリックスとしては、アレルゲン抑制剤を変性させないものであれば、特に限定されず、例えば、多糖類やその塩、デキストリン、ゼラチン、高級アルコール、油脂類、ステアリン酸などの高級脂肪酸、パラフィン類、流動パラフィン類、白色ワセリン、ハイドロカーボンゲル軟膏、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、各種塗料などが挙げられる。
【0051】
そして、上記アレルゲン抑制剤を、各種使用方法に応じて、生活用品などのような、アレルゲンが存在し或いはアレルゲンが将来に存在する可能性のある対象物、即ち、アレルゲンを抑制したい対象物(以下、「アレルゲン対象物」という)に噴霧、分散、塗布又は固着させることによって供給することによりアレルゲン抑制製品とし、アレルゲン対象物のアレルゲンを抑制することができる。上記アレルゲン抑制剤は、単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。アレルゲン抑制剤は、上述のアレルゲン抑制剤溶液に懸濁剤を配合して懸濁液とした場合の安定性に優れていることから、アレルゲン抑制剤を懸濁液としスプレー型としてアレルゲン対象物に噴霧することが好ましい。なお、アレルゲン抑制剤をアレルゲン対象物に化学的又は物理的に固着させる方法としては、後述するアレルゲン抑制化合物を繊維に化学的に結合させ或いは物理的に固着させる方法を用いることができる。
【0052】
又、上記アレルゲン対象物としては、生活空間においてアレルゲンの温床となる生活用品などが挙げられる。この生活用品としては、例えば、畳、絨毯、家具(ソファー、ソファー内部の発泡体、布ばり椅子、テーブルなど)、寝具(ベッド、布団、布団の中綿、羽毛布団の羽毛、シーツ、マットレス、クッション及びこれらを構成している発泡体など)、車、飛行機、船などの車輛内用品及び車輛内装材(シート、チャイルドシート及びこれらを構成している発泡体など)、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材(壁紙、床材など)、繊維製品(カーテン、タオル、衣類、ぬいぐるみなど)、網戸などのフィルター、網戸、建築内装材、医薬品、医薬部外品、化粧品などが挙げられる。
【0053】
特に、本発明のアレルゲン抑制剤は、不測の着色や、日常の生活環境における変色が殆どないことから、光による退色、変色が課題となる用途、例えば、建築内装材、車輛内用品、車輛内装材、フィルター、繊維製品などに適している。
【0054】
上記フィルターとは、分離、濾過、異物を排除する能力を有するものをいい、例えば、空気清浄機、エアコン、掃除機、換気扇などのフィルターや、埃や花粉などの進入を防ぐマスク、障子、虫などの進入を防ぐ網戸やカヤなどを挙げることができる。
【0055】
上記医薬品、医薬部外品及び化粧品とは、特に限定されるものではなく、例えば、皮膚外用剤、鼻スプレー、点眼剤、シャンプー、入浴剤、整髪料、ファンデーション、洗顔剤などを挙げることができる。
【0056】
上記建築内装材とは、特に限定されるものではなく、例えば、床材、壁紙、天井材、塗料、ワックスなどを挙げることができる。
【0057】
上記繊維製品とは、特に限定されるものではなく、例えば、寝具、カーペット、カーテン、タオル、衣類、ぬいぐるみなどを挙げることができる。
【0058】
上記車輛内用品及び車輛内装材とは、特に限定されるものではなく、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、絨毯などを挙げることができる。
【0059】
本発明のアレルゲン抑制剤におけるアレルゲン対象物に対する使用量としては、少ないと、アレルゲン抑制剤のアレルゲン抑制効果が発現しないことがある一方、多いと、アレルゲン対象物を痛めることがあるので、アレルゲン対象物100重量部に対して0.001〜100重量部が好ましく、0.01〜50重量部がより好ましく、0.02〜30重量部が特に好ましく、0.02〜20重量部が最も好ましい。
【0060】
本発明のアレルゲン抑制剤が対象とするアレルゲンとしては、ヒョウヒダニのアレルゲン(Der1、Der2)、犬や猫に起因するアレルゲン(Can f1、Fel d1)などの動物性アレルゲン、空気中に浮遊するスギ花粉アレルゲン(Cryj1、Cryj2)、花粉などの植物性アレルゲンが挙げられる。特に効果のある動物アレルゲンとしては、ダニ類のアレルゲン(ダニ類、節足動物一蛛形綱−ダニ目の生物で、主に7つの亜目に分かれている。アシナガダニに代表される背気門、カタダニに代表される四気門、ヤマトマダニ、ツバメヒメダニに代表される後気門、イエダニ、スズメサシダニ代表される中気門、クワガタツメダニ、ナミホコリダニに代表される前気門、コナヒョウヒダニなどのヒョウヒダニ類、ケナガコナダニに代表される無気門、イエササラダニ、カザリヒワダニに代表される隠気門など)のいずれの種類でも対象となり得るが、室内塵中、特に寝具類に多く、アレルギー疾患の原因となるヒョウヒダニ類に特に効果がある。
【0061】
上述のアレルゲン抑制剤の使用要領によれば、アレルゲン対象物に必要に応じてアレルゲン抑制剤を供給することによって、アレルゲン対象物に存在し或いは将来、存在するであろうアレルゲンの特異抗体に対する反応性を抑制するものであった。
【0062】
上記アレルゲン抑制剤を繊維に含有させてアレルゲン抑制繊維とし、繊維自体にアレルゲン抑制効果を付与してもよい。このアレルゲン抑制繊維を用いて上記生活用品を作製することによって、生活用品にアレルゲン抑制効果を予め付与しておくことができる。
【0063】
アレルゲン抑制剤を繊維に含有させる方法としては、繊維にアレルゲン抑制化合物を化学的に結合させ或いは物理的に固着させる方法が挙げられる。そして、繊維としては、アレルゲン抑制化合物を含有させることができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル系繊維、ポリオレフィン系繊維などの合成繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、キュプラ、レーヨンなどの再生繊維、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、又は、これら各種繊維の複合化繊維、混綿などが挙げられる。
【0064】
スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を繊維に化学的に結合させる要領としては、グラフト化反応により繊維にスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を化学的に結合させる方法が挙げられる。グラフト化反応としては、特に限定されず、例えば、(1)繊維となる幹ポリマーに重合開始点をつくり、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を枝ポリマーとして重合させるグラフト重合方法、(2)スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩を高分子反応によって繊維に化学的に結合させる高分子反応法などが挙げられる。
【0065】
グラフト重合方法としては、例えば、(1)繊維への連鎖移動反応を利用し、ラジカルを生成し重合する方法、(2)第2セリウム塩や硫酸銀塩などをアルコール、チオール、アミンのような還元性物質を作用させて酸化還元系(レドックス系)を形成し、繊維にフリーラジカルを生成して重合を行う方法、(3)繊維と、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体とを共存させた状態で、繊維にγ線や加速電子線を照射する方法、(4)γ線や加速電子線を繊維だけに照射し、その後にスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体を加えて重合を行う方法、(5)繊維を構成する高分子を酸化してペルオキシ基を導入し或いは側鎖のアミノ基からジアゾ基を導入して、これを重合開始点として重合する方法、(6)水酸基、アミノ基、カルボキシル基などの側鎖の活性基によるエポキシ、ラクタム、極性ビニルモノマーなどの重合開始反応を利用する方法などが挙げられる。
【0066】
更に、グラフト重合方法を具体的に列挙する。a)スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体中でセルロースを磨砕することによってフリーラジカルを生成させてグラフト重合を行う方法。b)スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体と、繊維として連鎖移動を受けやすい基を持つセルロース誘導体(例えば、メルカプトエチルセルロースなど)を用いてグラフト重合を行う方法。c)オゾンや過酸化物を酸化し、ラジカルを生成させる方法でグラフト重合を行う方法。d)アリルエーテル、ビニルエーテルまたはメタクリル酸エステルなどの二重結合を、セルロースの側鎖に導入してグラフト重合を行う方法。e)アントラキノン−2,7−ジスルホン酸ナトリウムなどを光増感剤として用い、繊維に紫外線を照射してグラフト重合を行う方法。f)カソードの周りに繊維を巻き、希硫酸中に、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体を加えて外部電圧を加えることにより電気化学的にグラフト重合を行う方法。
【0067】
繊維へのグラフト重合であることを勘案すれば、下記方法が好ましい。g)メタクリル酸グリシジル(GMA)と過酸化ベンゾイルを塗った繊維を、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体溶液中で加熱することによりグラフト重合する方法。h)過酸化ベンゾイル、界面活性剤(非イオン界面活性剤又は陰イオン界面活性剤)及びモノクロロベンゼンを水へ分散させた分散液に、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体を加え、繊維として、例えばポリエステル系繊維を浸漬して、加熱してグラフト重合を行う方法。
【0068】
上記高分子反応法としては、汎用の方法が使用でき、例えば、(1)C−Hに対する連鎖移動反応、酸化反応、置換反応、(2)二重結合に対する付加反応、酸化反応、(3)水酸基のエステル化、エーテル化、アセタール化、エステル基やアミド基に対する置換反応、付加反応、加水分解反応、ハロゲン基に対する置換反応、脱離反応、(4)芳香環に対する置換反応(ハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、クロルメチル化)などが挙げられる。
【0069】
次に、アレルゲン抑制化合物を繊維に物理的に固着させる方法について説明する。アレルゲン抑制剤を繊維に物理的に固着させる方法としては、例えば、(1)アレルゲン抑制剤を溶剤中に溶解或いは分散させてアレルゲン抑制剤溶液を作製し、このアレルゲン抑制剤溶液中に繊維を含浸させて、繊維にアレルゲン抑制剤溶液を含浸させる方法、(2)上記アレルゲン抑制剤溶液を繊維表面に塗布する方法、(3)上記アレルゲン抑制剤を溶解或いは分散させてなるバインダー中に繊維を浸漬させて、アレルゲン抑制剤をバインダーによって繊維に固着させる方法、(4)上記アレルゲン抑制剤を溶解或いは分散させてなるバインダーを繊維表面に塗布し、アレルゲン抑制剤をバインダーによって繊維に固着させる方法などが挙げられる。なお、上記(1)(2)の方法において、アレルゲン抑制剤溶液中に下記バインダーを含有させてもよい。
【0070】
上記溶剤としては、特に限定されず、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどのアルコール類;トルエン、キシレン、メチルナフタレン、ケロセン、シクロヘキサンなどの炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類などが挙げられる。
【0071】
上記バインダーとしては、アレルゲン抑制剤を繊維表面に固着できるものであれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂からなるバインダーとしては、一液型ウレタン樹脂、二液型ウレタン樹脂などのウレタン系樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂などが挙げられ、ウレタン系樹脂が好ましい。
【0072】
又、上記では、アレルゲン抑制剤を別途製造された繊維に化学的に結合させ或いは物理的に固着させることによって、繊維にアレルゲン抑制剤を含有させる要領を説明したが、アレルゲン抑制剤を化学的に結合させた繊維原料を紡糸して繊維を作製してもよい。
【0073】
アレルゲン抑制剤を化学的に結合させた繊維原料の作製要領としては、特に限定されず、例えば、スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩の原料となる単量体と、一般の繊維原料となる単量体とを共重合させて繊維原料を作製する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0074】
本発明のアレルゲン抑制剤は、Z平均分子量が15万以上のスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩をアレルゲン抑制化合物として含有することを特徴とするので、アレルゲンが特異抗体と反応するのを効果的に抑制し、アレルギー症状の軽減或いはその発現の予防をすることができると共に、不測の変色や日常の使用条件下での変色が生じにくく、各種生活用品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(和光純薬社製)280重量部を水645重量部に溶解して単量体水溶液を作製した。一方、2,2′−アゾビス{2−メチル−N−[1,1′−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}0.38重量部を水60重量部に溶解させて重合開始剤水溶液を作製した。
【0077】
重合容器中を予め窒素置換しておき、重合容器中に水100重量部を供給して攪拌しながら85℃に昇温した後、重合容器中に単量体水溶液及び重合開始剤水溶液を6時間かけて連続的に供給しながらp−スチレンスルホン酸ナトリウムの重合を行った。
【0078】
単量体水溶液の重合容器内への供給が終了した後に2時間に亘って熟成してp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)を得た。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が1139000、Z平均分子量が1902000であった。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体中におけるナトリウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0079】
得られたp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体をイオン交換水に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制溶液を得た。
【0080】
(実施例2)
p−スチレンスルホン酸ナトリウムを陽イオン交換樹脂(オルガノ社製 商品名「アンバーライトIR−120B」)を用いてカチオン交換してp−スチレンスルホン酸とした。次に、p−スチレンスルホン酸に等量モルの水酸化アンモニウム水溶液を添加することによってp−スチレンスルホン酸アンモニウムを得た。
【0081】
p−スチレンスルホン酸ナトリウムの代わりに、上述のようにして得られたp−スチレンスルホン酸アンモニウム水溶液(p−スチレンスルホン酸アンモニウム濃度:26重量%)925重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてp−スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸アンモニウムホモポリマー)を得た。p−スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体は、その重量平均分子量が996000、Z平均分子量が1604000であった。p−スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体中におけるアンモニウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0082】
得られたp−スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体をイオン交換水に溶解させて、p−スチレンスルホン酸アンモニウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制溶液を得た。
【0083】
(実施例3)
p−スチレンスルホン酸ナトリウムを陽イオン交換樹脂(オルガノ社製 商品名「アンバーライトIR−120B」)を用いてカチオン交換してp−スチレンスルホン酸とした。次に、p−スチレンスルホン酸に等量モルの水酸化カリウム水溶液を添加することによってp−スチレンスルホン酸カリウムを得た。
【0084】
p−スチレンスルホン酸ナトリウムの代わりに、上述のようにして得られたp−スチレンスルホン酸カリウム水溶液(p−スチレンスルホン酸カリウム濃度:26重量%) 重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてp−スチレンスルホン酸カリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸カリウムホモポリマー)を得た。p−スチレンスルホン酸カリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸カリウム単独重合体は、その重量平均分子量が892000、Z平均分子量が1507000であった。p−スチレンスルホン酸カリウム単独重合体中におけるカリウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0085】
得られたp−スチレンスルホン酸カリウム単独重合体をイオン交換水に溶解させて、p−スチレンスルホン酸カリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制溶液を得た。
【0086】
(実施例4)
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(和光純薬社製)280重量部を水645重量部に溶解して単量体水溶液を作製した。一方、4,4′−アゾビス−(4−シアノペンタイックナトリウム)0.50重量部を水40重量部に溶解させて重合開始剤水溶液を作製した。
【0087】
重合容器中を予め窒素置換しておき、重合容器中に水100重量部を供給して攪拌しながら90℃に昇温した後、重合容器中に単量体水溶液及び重合開始剤水溶液を6時間かけて連続的に供給しながらp−スチレンスルホン酸ナトリウムの重合を行った。
【0088】
単量体水溶液の重合容器内への供給が終了した後に2時間に亘って熟成してp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)を得た。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が598000、Z平均分子量が975000であった。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体中におけるナトリウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0089】
得られたp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体をイオン交換水に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制溶液を得た。
【0090】
(実施例5)
p−スチレンスルホン酸ナトリウムを陽イオン交換樹脂(オルガノ社製 商品名「アンバーライトIR−120B」)を用いてカチオン交換してp−スチレンスルホン酸とした。次に、p−スチレンスルホン酸に等量モルの水酸化カルシウム水溶液を添加することによってp−スチレンスルホン酸カルシウムを得た。
【0091】
p−スチレンスルホン酸ナトリウムの代わりに、上述のようにして得られたp−スチレンスルホン酸カルシウム水溶液(p−スチレンスルホン酸カルシウム濃度:26重量%) 重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にしてp−スチレンスルホン酸カルシウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸カルシウムホモポリマー)を得た。p−スチレンスルホン酸カルシウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸カルシウム単独重合体は、その重量平均分子量が516000、Z平均分子量が898000であった。p−スチレンスルホン酸カルシウム単独重合体中におけるカルシウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0092】
得られたp−スチレンスルホン酸カルシウム単独重合体をイオン交換水に溶解させて、p−スチレンスルホン酸カルシウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制溶液を得た。
【0093】
(実施例6)
アレルゲン抑制化合物であるp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)(ALDRICH社製)をイオン交換水に添加して均一に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制剤溶液を得た。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が136000、Z平均分子量が238000であった。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体中におけるナトリウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0094】
(実施例7)
アレルゲン抑制化合物であるp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)(ALDRICH社製)をイオン交換水に添加して均一に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制剤溶液を得た。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が510000、Z平均分子量が884000であった。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体中におけるナトリウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0095】
(実施例8)
アレルゲン抑制化合物として、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)(東ソー有機化学社製 商品名「PS−50」、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体含有量:20重量%)をイオン交換水に添加して均一に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制剤溶液を得た。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が354000、Z平均分子量が566000であった。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体中におけるナトリウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0096】
(実施例9)
アレルゲン抑制化合物として、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)(東ソー有機化学社製 商品名「PS−5」、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体含有量:20重量%)をイオン交換水に添加して均一に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制剤溶液を得た。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が103000、Z平均分子量が171000であった。p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体中におけるナトリウム塩とされたスルホン酸基の割合は100モル%であった。
【0097】
(比較例1)
アレルゲン抑制化合物であるp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)(ALDRICH社製)をイオン交換水に添加して均一に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制剤溶液を得た。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が67000、Z平均分子量が132000であった。
【0098】
(比較例2)
アレルゲン抑制化合物であるp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウムホモポリマー)(東ソー有機化学社製 商品名「PS−1」、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体含有量:20重量%)をイオン交換水に添加して均一に溶解させて、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体の濃度が2重量%であるアレルゲン抑制剤溶液を得た。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は水溶性であった。なお、p−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体は、その重量平均分子量が27000、Z平均分子量が45000であった。
【0099】
次に、実施例1〜9及び比較例1、2で得られたアレルゲン抑制剤溶液のアレルゲン抑制能を下記の要領で評価し、その結果を表1に示した。
【0100】
(アレルゲン抑制能)
アレルゲンの冷結乾燥粉末(コスモ・バイオ社製 商品名「Mite Extract-Df」)をリン酸バッファー(pH7.6)に溶解させて、タンパク量が8μg/ミリリットルのアレルゲン液を調製した。
【0101】
一方、実施例1〜9及び比較例1、2で得られたアレルゲン抑制剤溶液の原液と、実施例1〜9及び比較例1、2で得られたアレルゲン抑制剤溶液をイオン交換水で4倍に希釈したアレルゲン抑制剤4倍希釈液と、実施例1〜9及び比較例1、2で得られたアレルゲン抑制剤溶液をイオン交換水で10倍に希釈したアレルゲン抑制剤10倍希釈液と、実施例1〜9及び比較例1、2で得られたアレルゲン抑制剤溶液をイオン交換水で20倍に希釈したアレルゲン抑制剤20倍希釈液を調製した。
【0102】
続いて、上記アレルゲン液を1ミリリットルづつ供給した試験管を用意し、上記アレルゲン抑制剤溶液の原液、上記アレルゲン抑制剤4倍希釈液、上記アレルゲン抑制剤10倍希釈液及び上記アレルゲン抑制剤20倍希釈液をそれぞれ別々の試験管に100マイクロリットルづつ添加し、37℃で1時間に亘って振盪した。
【0103】
次に、試験管内の液100マイクロリットルを、アレルゲン測定具(住化エンビロサイエンス社製 商品名「マイティーチェッカー」)に添加し、アレルゲン測定具の発色度合いを目視観察して下記の基準によりアレルゲン抑制能を評価した。なお、アレルゲン測定具の発色が濃いほどアレルゲンが液中に濃い濃度で存在している。
【0104】
表1では、アレルゲン抑制剤溶液の原液、アレルゲン抑制剤4倍希釈液、アレルゲン抑制剤10倍希釈液及びアレルゲン抑制剤20倍希釈液の評価結果をアレルゲン抑制剤溶液の「原液」「4倍」「10倍」「20倍」の欄のそれぞれに記載した。
【0105】
5・・・濃く、太くはっきりとしたラインが観測された。
4・・・ラインであることがはっきりと分かる。
3・・・ライン状にうっすらと発色している。
2・・・うっすらと発色している。
1・・・全く発色していない。
【0106】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z平均分子量が15万以上のスチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩をアレルゲン抑制化合物として含有することを特徴とするアレルゲン抑制剤。
【請求項2】
スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩がスチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体であることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン抑制剤。
【請求項3】
スチレンスルホン酸単独重合体のスルホン酸塩がp−スチレンスルホン酸ナトリウム単独重合体であることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン抑制剤。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のアレルゲン抑制剤をアレルゲン対象物に処理してなることを特徴とするアレルゲン抑制製品。
【請求項5】
アレルゲン対象物が、フィルター、建築内装材、繊維製品、車輛内用品又は車輛内装材であることを特徴とする請求項4に記載のアレルゲン抑制製品。

【公開番号】特開2010−31069(P2010−31069A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191503(P2008−191503)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】