説明

アレルゲン活性低減物質、抗アレルゲン清掃具、抗アレルゲン日用製品、抗アレルゲン洗剤及び抗アレルゲン溶液

【課題】安価で、且つ安全性が高く、迅速にアレルゲンに作用してアレルゲン活性を低減させることができるアレルゲン活性低減物質の提供。
【解決手段】アレルゲンに直接作用してアレルゲンの活性を低減させる、スルホン酸基を有する物質であり、このようなアレルゲン活性低減物質の一種としては、海藻から抽出された海藻抽出物質がある。海藻は褐藻類又は紅藻類であることが好ましく、特にシキンノリ及びヒジキからの抽出物質は、50%以上のアレルゲン低減率を有す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内空間における衛生を向上させる物質に関し、更に詳しくは、アレルゲンのアレルゲン活性を低減させる物質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アレルギー反応とは、ハウスダスト等に含まれる抗原(アレルゲン)が人体に侵入した際に、人体の抗体による免疫反応が過剰に起こり、浮腫、痒み、鼻炎及び喘息などの症状が発生することであり、通常生活を極めて不快なものにする。このアレルギー反応から回避する方法としては、人体の免疫反応を薬剤により低減化させる方法があり、例としては、特開平6−298661号公報(特許文献1)において、海藻抽出物質の摂取により、アレルギー反応を低減化させることが開示されている。しかし、この方法は、前記薬剤が人体に吸収されて作用を示すまでには時間がかかるという欠点があり、また、様々な副作用を引き起こすことで、人体に悪影響を与える可能性も秘めている。
【0003】
その一方、この様なアレルギー反応から回避する方法としては、人体の体外においてアレルゲン活性低減物質をアレルゲンに作用させ、このアレルゲンを不活化させることにより、このアレルゲンの人体への作用を低減させる方法がある。この方法においては、アレルゲン活性低減物質が直接にアレルゲンと反応するので、作用が迅速であり、しかも人体にこのアレルゲン活性低減物質が摂取される必要がなく、従って薬剤を摂取することと比べて人体に対する安全性が高く、副作用を起こす可能性も極めて低い。更に、人体の体外においてアレルゲンに前記アレルゲン活性低減物質を作用させるので、屋内の掃除や清浄などの工程における、アレルゲン活性低減工程において使用できるという利点もある。
【0004】
このような方法としては、特開2010−180130号公報(特許文献2)、特開2010−83834号公報(特許文献3)及び特開2008−248043号公報(特許文献4)において、メソポーラスシリカなどの多孔性物質をアレルゲンに作用させることが開示され、また特開2004−189604号公報(特許文献5)、特開平8−310908号公報(特許文献6)、再表2008/114553号公報(特許文献7)、特許4266093号公報(特許文献8)及び特開2008−214501号公報(特許文献9)において、オゾン水、有機カルボン酸塩、二酸化塩素、セスキテルペンアルコール、アザジラクチンなどの化学物質をアレルゲンに作用させることが開示され、更に特開2009−274972号公報(特許文献10)、特開2009−84719号公報(特許文献11)、特開2008−174529号公報(特許文献12)、特開2008−174526号公報(特許文献13)、特開2007−326992号公報(特許文献14)及び特開2006−143700号公報(特許文献15)において、タマリンド、スターフルーツ、キンミズヒキ、イチョウなどの陸上植物の抽出物質をアレルゲンに作用させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−298661号公報
【特許文献2】特開2010−180130号公報
【特許文献3】特開2010−83834号公報
【特許文献4】特開2008−248043号公報
【特許文献5】特開2004−189604号公報
【特許文献6】特開平8−310908号公報
【特許文献7】再表2008/114553号公報
【特許文献8】特許4266093号公報
【特許文献9】特開2008−214501号公報
【特許文献10】特開2009−274972号公報
【特許文献11】特開2009−84719号公報
【特許文献12】特開2008−174529号公報
【特許文献13】特開2008−174526号公報
【特許文献14】特開2007−326992号公報
【特許文献15】特開2006−143700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この様に、人体の体外において、アレルゲンをアレルゲン活性低減物質により不活化させることについては、数々のアレルゲン活性低減物質が開示されている。しかし、海藻から抽出された物質によるアレルゲンの不活化については、全く研究されておらず、開示もされておらず、示唆さえされていない。これらの海藻抽出物質は、スルホン酸基を多く含有していることが、本発明者の研究により判明されている。スルホン酸基(−SOH)は、陰イオン化され易いので、スルホン酸基を多く含有する物質は、アレルゲン上における多数の正帯電箇所と作用する。この物質は、アレルゲンと強固に結合するか、又はアレルゲンを変性させることにより、アレルゲンが抗体や生体細胞に作用できないようにする。特許文献1に記載されている通り、海藻抽出物質は、人体に作用する薬剤である抗アレルゲン剤として使用されているが、この様な抗アレルゲン剤は、人体に吸収されて作用を示すまでには時間がかかる。その一方、アレルゲン直接に作用するアレルゲン活性低減物質は、迅速な作用が期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明の第1の形態は、スルホン酸基を有する物質であり、アレルゲンに直接作用して前記アレルゲンのアレルゲン活性を低減させるアレルゲン活性低減物質である。
【0008】
本発明の第2の形態は、前記物質を有機スルホン酸化合物又は無機スルホン酸化合物とするアレルゲン活性低減物質である。
【0009】
本発明の第3の形態は、前記有機スルホン酸化合物が複数のスルホン酸基を有するアレルゲン活性低減物質である。
【0010】
本発明の第4の形態は、前記有機スルホン酸化合物を多糖類とするアレルゲン活性低減物質である。
【0011】
本発明の第5の形態は、前記物質を海藻から抽出された海藻抽出物質とするアレルゲン活性低減物質である。
【0012】
本発明の第6の形態は、前記海藻を褐藻類又は紅藻類とするアレルゲン活性低減物質である。
【0013】
本発明の第7の形態は、前記褐藻類をホンダワラ科又はチガイソ科とするアレルゲン活性低減物質である。
【0014】
本発明の第8の形態は、前記紅藻類をシキンノリ科とするアレルゲン活性低減物質である。
【0015】
本発明の第9の形態は、前記アレルゲンをダニ糞及び/又はダニ由来のアレルゲンとするアレルゲン活性低減物質である。
【0016】
本発明の第10の形態は、前記アレルゲンをDerf1、Derf2、Derp1又はDerp2とするアレルゲン活性低減物質である。
【0017】
本発明の第11の形態は、前記アレルゲンをスギ花粉及び/又はヒノキ花粉由来のアレルゲンとするアレルゲン活性低減物質である。
【0018】
本発明の第12の形態は、前記アレルゲンをCryj1、Cryj2、Chao1又はChao2とするアレルゲン活性低減物質である。
【0019】
本発明の第13の形態は、ダニ糞及び/又はダニを少なくとも含有するダニ培地にケイ砂を加え、前記ダニ培地をすり潰して摩砕ダニ培地とし、前記摩砕ダニ培地0.5g〜2.0gに含有されるアレルゲンを室温において溶剤50mL〜200mLにより4時間〜20時間抽出した溶液又はその希釈液により前記アレルゲンの濃度が5〜2000ng/mLのアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、アレルゲン低減率=[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]×100(%)の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上のアレルゲン活性低減物質である。(尚、本明細書においては、「L」はリットルを意味する。)
【0020】
本発明の第14の形態は、前記Derf1、前記Derf2、前記Derp1及び前記Derp2のいずれかの1種の2ng〜200ngを溶剤100〜400μLに溶解又は分散させた溶液又はその希釈液によりアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、アレルゲン低減率=[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]×100(%)の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上のアレルゲン活性低減物質である。
【0021】
本発明の第15の形態は、スギ花粉及び/又はヒノキ花粉0.5g〜2.0gに含有されるアレルゲンを室温において溶剤50mL〜200mLにより4時間〜20時間抽出した溶液又はその希釈液により前記アレルゲンの濃度が5〜2000ng/mLのアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、アレルゲン低減率=[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]×100(%)の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上のアレルゲン活性低減物質である。
【0022】
本発明の第16の形態は、前記Cryj1、前記Cryj2、前記Chao1及び前記Chao2のいずれかの1種の2ng〜200ngを溶剤100〜400μLに溶解又は分散させた溶液又はその希釈液によりアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、アレルゲン低減率=[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]×100(%)の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上のアレルゲン活性低減物質である。
【0023】
本発明の第17の形態は、前記アレルゲン活性低減物質が海藻抽出物質であり、前記海藻抽出物質を前記海藻の湿質量の2〜20倍量の熱湯により100〜150℃且つ1〜3気圧において5〜40分抽出されたものとするアレルゲン活性低減物質である。
【0024】
本発明の第18の形態は、本発明に係るアレルゲン活性低減物質をモップ、マット、クロス、紙タオル及びスポンジを含む清掃具に担持させた抗アレルゲン清掃具である。
【0025】
本発明の第19の形態は、本発明に係るアレルゲン活性低減物質を衣類、敷物、畳、フローリング、壁面、寝具、家具及びカーテンを含む日用製品に担持させた抗アレルゲン日用製品である。
【0026】
本発明の第20の形態は、本発明に係るアレルゲン活性低減物質が洗剤に含有された抗アレルゲン洗剤である。
【0027】
本発明の第21の形態は、本発明に係るアレルゲン活性低減物質が溶剤に溶解又は分散された抗アレルゲン溶液である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の第1の形態によれば、アレルゲン活性低減物質がスルホン酸基を有する物質であり、アレルゲンに直接作用して前記アレルゲンのアレルゲン活性を低減させるアレルゲン活性低減物質であるので、前記アレルゲン活性低減物質における多数の前記スルホン酸基を前記アレルゲンの表面における正電荷に作用させることにより、前記アレルゲンを迅速に不活化させることができる。
【0029】
生体由来のアレルゲンはタンパク質からなり、このタンパク質を構成するアミノ酸の内、リシン、ヒスチジン及びアルギニンは、正帯電され易い。これらのアミノ酸は、アレルゲンの表面に多数に配置されるので、アレルゲンの表面も正帯電部分を多数有する。本発明のアレルゲン活性低減物質は、スルホン酸基を多数有し、これらのスルホン酸基は、アニオン基になり易いので、負帯電され易く、従って前記アレルゲンの正帯電部分にこれらのスルホン酸基が結合し易い。この結合により、前期アレルゲン活性低減物質が前記アレルゲンの立体構造を変化させる、又は/及び前記アレルゲンを被覆することにより、前記アレルゲンと抗体や生体細胞との作用が阻害される。従って、ここにおけるスルホン酸基は、いわゆるスルホ基(−SOH)の他にも、スルホン酸塩の基であるスルホン酸塩基(−SOM、Mはナトリウム、カリウム、マグネシウム及びカルシウム等の金属又はアンモニウム等の陽イオン)及びスルホン酸陰イオンの基であるスルホン酸イオン基(−SO)も含む。これらのスルホン酸基は、既に陰イオン化されているか、又は陰イオン化され易いので、前記アレルゲンの正帯電部分と作用し易い。
【0030】
本発明の第2の形態によれば、前記物質が有機スルホン酸化合物又は無機スルホン酸化合物であるアレルゲン活性低減物質なので、スルホン酸基を有する有機物質又は無機物質によりアレルゲンのアレルゲン活性を効果的に低減させることができる。ここにおけるスルホン酸化合物としては、スルホン酸、スルホン酸塩及びスルホン酸陰イオンを含み、またスルホン酸低分子及び分子量が3000以上のスルホン酸高分子も含む。従って、本形態における無機スルホン酸化合物としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム及び硫酸カリウムアルミニウム12水和物(ミョウバン)等の硫酸塩を含む。又、有機スルホン酸化合物としては、直鎖アルキルスルホン酸、分岐鎖アルキルスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホン酸基含有多糖類、スルホン酸基含有リグニン、スルホン酸基含有蛋白質及びそれらの陰イオン及び塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩及びアンモニウム塩を含む)がある。更に、これらの無機スルホン酸化合物又は有機スルホン酸化合物は、液体でも、また固体でも良いし、その他にも溶媒に分散又は溶解されたものでも良い。
【0031】
本発明の第3の形態によれば、前記有機スルホン酸化合物が複数のスルホン酸基を有するので、負帯電されたこれらのスルホン酸基がアレルゲン上における複数の正帯電部分と作用して、このアレルゲンを確実に不活化できる。ここにおける有機スルホン酸化合物としては、多数のスルホン酸基を含有することができる高分子化合物が好ましく、例として、スルホン酸基含有多糖類、スルホン酸基含有リグニン、スルホン酸基含有蛋白質及びそれらの陰イオン及び塩が好ましい。
【0032】
本発明の第4の形態によれば、前記有機スルホン酸化合物が多糖類であるので、海藻などに多く含まれているスルホン酸基含有多糖類を、本発明のアレルゲン活性低減物質として使用できる。これらの多糖類の内、6炭糖並びにその誘導体を含むスルホン酸含有多糖類は、海藻などに特に多く含まれているので、最も好ましい。
【0033】
本発明の第5の形態によれば、前記物質が海藻から抽出された海藻抽出物質であるアレルゲン活性低減物質なので、豊富な海藻から、安全性が極めて高く、アレルゲン低減の有効性が極めて高いアレルゲン活性低減物質を得ることができる。海藻は、無機スルホン酸化合物、並びに高分子及び低分子の有機スルホン酸化合物を豊富に含む。これらのスルホン酸化合物は、アレルゲン活性を効果的に低減させることが本発明者の研究により確認されている。又、海藻は大量に採集できるので、海藻から得られるアレルゲン活性低減物質は安価であり且つ大量生産が容易である。更に、海藻抽出物質は安全性が高いので、衣類やテーブルクロスなどの日用製品等に担持させても、経口摂取などによる害が殆ど無く、従って安全性が高いアレルゲン活性低減物質を、屋内において広範囲に散布することができる。本形態において使用できる海藻としては、褐藻類、紅藻類及び緑藻類などがあるが、後に記述するとおり、褐藻類及び紅藻類が最も好ましい。
【0034】
本発明の第6の形態によれば、前記海藻が褐藻類又は紅藻類であるので、特に効果が高いアレルゲン活性低減物質が得られる。本発明者の研究により、褐藻類及び紅藻類から抽出される海藻抽出物質のアレルゲン低減率が特に高いことが判明した。後に記述するとおり、これらの海藻を使用することにより、アレルゲン低減率が30%以上であるアレルゲン活性低減物質を得る可能性が高くなり、またアレルゲン低減率が40%以上又は50%以上であるアレルゲン活性低減物質を得ることも可能となる。
【0035】
本発明の第7の形態によれば、前記褐藻類がホンダワラ科又はチガイソ科であるので、アレルゲン低減率が30%以上であるアレルゲン活性低減物質を得ることができ、場合によれば、アレルゲン低減率が40%又は50%以上であるアレルゲン低減物質を得ることもできる。後に記述するとおり、本発明者の実験において、30%以上のダニアレルゲン低減率を示した褐藻類海藻抽出物質は、ホンダワラ科のヒジキ及びチガイソ科のワカメ(メカブ即ち根元の部分)から由来したものであった。これらの内、アレルゲン低減率が50%以上であるものは、ヒジキから由来したものであった。又、スギ花粉アレルゲン低減率及びヒノキ花粉アレルゲン低減率についても、同様の傾向が見られた。
【0036】
本発明の第8の形態によれば、前記紅藻類がシキンノリ科であるので、第7の形態と同様に、アレルゲン低減率が30%以上であるアレルゲン活性低減物質を得ることができ、場合によれば、アレルゲン低減率が40%又は50%以上であるアレルゲン低減物質を得ることもできる。後に記述するとおり、本発明者の実験において、30%以上のダニアレルゲン低減率を示した紅藻類海藻抽出物質は、シキンノリ科のシキンノリから由来したものであり、このシキンノリ抽出物質のダニアレルゲン低減率は50%以上であった。又、スギ花粉アレルゲン低減率及びヒノキ花粉アレルゲン低減率においても、同様の傾向が見られた。
【0037】
本発明の第9の形態によれば、前記アレルゲンがダニ糞及び/又はダニ由来のアレルゲンであるので、重要性が高いアレルゲンに対して、アレルゲン活性の低減を行うことができる。いわゆる「ハウスダストアレルゲン」の主成分の基となるダニとしては、コナヒョウダニ(Dermatophagoides farinae)及びヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)などがある。これらのダニは、ヒトの皮膚から由来する皮屑などを食料にするので、屋内におけるほぼ全域において分布する。こららのダニの糞及び虫体は、屋内に広く分布し、しかもこれらのアレルゲン活性は高いので、ダニ由来のアレルゲンを低減することは極めて重要である。なお、ここにおいて、「ダニ糞及び/又はダニ由来の」とは、ダニ糞の他に、生きたダニ及びダニの死骸の両方を含む。又、ダニアレルゲンの構造に基づき、遺伝子組み換えによりダニ以外の生物(例えば大腸菌)から生成された遺伝子組み換えダニアレルゲンも含む。
【0038】
本発明の第10の形態によれば、前記アレルゲンがDerf1、Derf2、Derp1又はDerp2であるので、最も重要なダニアレルゲンに対してアレルゲン活性の低減を行うことができる。Derf1はコナヒョウダニの糞から由来するアレルゲンであり、Derf2はコナヒョウダニの虫体から由来するアレルゲンである。又、Derp1はヤケヒョウダニの糞から由来するアレルゲンであり、Derp2はヤケヒョウダニの虫体から由来するアレルゲンである。これらの内においても、糞は虫体よりも多く、また糞の方が活性が高く、しかも糞は虫体より小さく気管に入りやすいので、Derf1及びDerp1が特に重要となる。又、Derf1、Derf2、Derp1又はDerp2は広く市販されているので、アレルゲン低減率の測定時において、これらのアレルゲンを基準として使用することもできる。尚、第9の形態と同様に、本形態におけるDerf1、Derf2、Derp1及びDerp2は、遺伝子組み換えによりダニ以外の生物(例えば大腸菌)から生成されたものでもよい。
【0039】
本発明の第11の形態によれば、前記アレルゲンがスギ花粉及び/又はヒノキ花粉由来のアレルゲンであるので、重要性が高いアレルゲンに対して、アレルゲン活性の低減を行うことができる。スギ(Cryptomeria japonica)及びヒノキ(Chamaecyparis obtusa)の花粉は、アレルギー反応である花粉症の原因となるアレルゲンを有し、これらのアレルゲンを低減することは健康上及び衛生上において極めて重要である。なお、ここにおいて、「スギ花粉及び/又はヒノキ花粉由来の」とは、スギ花粉アレルゲン又はヒノキ花粉アレルゲンの構造に基づき、遺伝子組み換えによりスギ及びヒノキ以外の生物(例えば大腸菌)から生成された遺伝子組み換えアレルゲンも含む。
【0040】
本発明の第12の形態によれば、前記アレルゲンがCryj1、Cryj2、Chao1又はChao2であるので、最も重要なスギ花粉又はヒノキ花粉アレルゲンに対してアレルゲン活性の低減を行うことができる。Cryj1及びCryj2はスギ花粉由来のアレルゲンであり、Chao1及びChao2はヒノキ花粉由来のアレルゲンである。これらの花粉由来アレルゲンは市販されているので、アレルゲン低減率の測定時において、これらの市販アレルゲンを基準として使用することもできる。尚、第11の形態と同様に、本形態におけるCryj1、Cryj2、Chao1及びChao2は、遺伝子組み換えによりスギ及びヒノキ以外の生物(例えば大腸菌)から生成されたものでもよい。
【0041】
本発明の第13の形態によれば、ダニ糞及び/又はダニを少なくとも含有するダニ培地から溶剤によりアレルゲンを抽出し、このアレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質により処理するので、ダニの糞及び/又は虫体から直接に得られたアレルゲンを利用してアレルゲン低減率の数値を得ることができ、多種類のアレルゲンに対するアレルゲン低減率を一度に測定することができる。又、前記ダニ培地から前記ダニアレルゲンを抽出する際に、前記ダニ培地にケイ砂を加えた後にすり潰して摩砕ダニ培地とするので、前記ダニ培地の摩砕効率が前記ケイ砂により向上し、従って前記ダニアレルゲンの抽出効率も向上する。更に、ELISA法による測定によりアレルゲン低減率が30%以上であることを確認するので、アレルゲン低減率の数値の再現性が高く、確実なアレルゲン低減率を得ることができる。加えて、前記アレルゲン活性低減物質のアレルゲン低減率が30%以上であるので、効果が高いアレルゲン活性低減物質を得ることができる。本形態における測定方法により30%以上のアレルゲン低減率を示し、且つスルホン酸基を有するアレルゲン活性低減物質は、全て本発明の技術的範囲内に包含される。
【0042】
ELISA法(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay、酵素結合免疫吸着法)は、アレルゲンなどの抗原を、この抗原に対して特異性を示す抗体と結合させ、この抗体の発色反応または発光反応によりこの抗原の量を測定する方法であり、ごく少量の生化学物質を測定するのに向いている。又、1つの抗原の異なった箇所と結合する2つの抗体を利用するサンドイッチ型ELISA法においては、複数の抗原が含有されている溶液中においても、特定の抗原(生化学物質)の高精度の測定が可能であり、特に本形態の測定方法に向いている。
【0043】
本発明の第14の形態によれば、前記Derf1、前記Derf2、前記Derp1及び前記Derp2のいずれかの1種によりアレルゲン溶液を調製し、前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質により処理するので、市販されているダニアレルゲンにより、測定を行うことができる。この様な市販ダニアレルゲンは、精製度が高く、また定量化も厳密に行われているので、測定されるアレルゲン低減率も再現性が高いものになる。又、前記アレルゲン活性低減物質のアレルゲン低減率が30%以上であるので、効果が高いアレルゲン活性低減物質を得ることができる。本形態における測定方法により30%以上のアレルゲン低減率を示し、且つスルホン酸基を有するアレルゲン活性低減物質は、全て本発明の技術的範囲内に包含される。尚、第9の形態において説明したとおり、ここにおけるDerf1、Derf2、Derp1及びDerp2は、遺伝子組み換えによりダニ以外の生物(例えば大腸菌)から生成されたものでもよい。
【0044】
本発明の第15の形態によれば、スギ花粉又はヒノキ花粉から溶剤によりアレルゲンを抽出し、このアレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質により処理するので、スギ花粉又はヒノキ花粉から直接に得られたアレルゲンを利用してアレルゲン低減率の数値を得ることができ、多種類のアレルゲンに対するアレルゲン低減率を一度に測定することができる。又、ELISA法による測定によりアレルゲン低減率が30%以上であることを確認するので、アレルゲン低減率の数値の再現性が高く、確実なアレルゲン低減率を得ることができる。更に、前記アレルゲン活性低減物質のアレルゲン低減率が30%以上であるので、効果が高いアレルゲン活性低減物質を得ることができる。本形態における測定方法により30%以上のアレルゲン低減率を示し、且つスルホン酸基を有するアレルゲン活性低減物質は、全て本発明の技術的範囲内に包含される。
【0045】
本発明の第16の形態によれば、前記Cryj1、前記Cryj2、前記Chao1及び前記Chao2のいずれかの1種によりアレルゲン溶液を調製し、前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質により処理するので、市販されているスギ花粉アレルゲン又はヒノキ花粉アレルゲンにより、測定を行うことができる。この様な市販花粉アレルゲンは、精製度が高く、また定量化も厳密に行われているので、測定されるアレルゲン低減率も再現性が高いものになる。又、前記アレルゲン活性低減物質のアレルゲン低減率が30%以上であるので、効果が高いアレルゲン活性低減物質を得ることができる。本形態における測定方法により30%以上のアレルゲン低減率を示し、且つスルホン酸基を有するアレルゲン活性低減物質は、全て本発明の技術的範囲内に包含される。尚、第11の形態において説明したとおり、本形態におけるCryj1、Cryj2、Chao1及びChao2は、遺伝子組み換えによりスギ及びヒノキ以外の生物(例えば大腸菌)から生成されたものでもよい。
【0046】
本発明の第17の形態によれば、前記海藻抽出物質を前記海藻の湿質量の2〜20倍量の熱湯により100〜150℃且つ1〜3気圧において5〜40分抽出されたものとするので、第13〜16の形態のいずれかにおける測定において、前記アレルゲン活性低減物質の濃度について、再現性を持たせることができる。尚、ここにおいて、湿重量とは、前記海藻が乾燥していない場合の重量を指し、前記海藻の採集直後における重量の他に、前記海藻が乾燥状態から水に戻されて水分含有状態になった際の重量も含む。
【0047】
本発明の第18の形態によれば、抗アレルゲン清掃具が、本発明に係るアレルゲン活性低減物質をモップ、マット、クロス、紙タオル及びスポンジを含む清掃具に担持させたものであるので、安全で低価格なアレルゲン活性低減物質により、屋内のアレルゲン低減を簡単に行うことができる。
【0048】
本発明の第19の形態によれば、抗アレルゲン日用製品が、本発明に係るアレルゲン活性低減物質を衣類、敷物、畳、フローリング、壁面、寝具、家具及びカーテンを含む日用製品に担持させたものであるので、安全性が高いアレルゲン活性低減物質を担持させることにより、日常生活において安全に使用できる日用製品を得ることができる。
【0049】
本発明の第20の形態によれば、抗アレルゲン洗剤には、本発明に係るアレルゲン活性低減物質が洗剤に含有されるので、安全性が高く、抗アレルゲン性も高い洗剤を得ることができる。尚、本形態における洗剤は、界面活性剤を含む合成洗剤の他にも、天然油脂由来の脂肪酸塩である石鹸も含まれる。又、本形態における洗剤は、固形洗剤でも良いし、液状洗剤でも良い。
【0050】
本発明の第21の形態によれば、抗アレルゲン溶液は、本発明に係るアレルゲン活性低減物質が溶剤に溶解又は分散されたものであるので、室内への噴霧及び塗布に適する安全な抗アレルゲン溶液を得ることができる。又、この様な抗アレルゲン溶液は、人体へ塗付することもでき、殺菌剤及び化粧品としての用途に適する。尚、本形態における溶剤は、水でも良いし、アルコールなどの有機溶媒でも良い。又、ワセリン又はクリームなどの軟膏状の溶剤でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】アレルゲン溶液作製の説明表である。
【図2】ELISA法によるアレルゲン測定の説明表である。
【図3】ELISA法によるアレルゲン測定の工程図である。
【図4】各海藻抽出物質について測定されたダニアレルゲン低減率の棒グラフである。
【図5】一定量の各種海藻抽出物質により処理されるダニアレルゲンの量を変化させた場合のアレルゲン低減率のグラフである。
【図6】各海藻抽出物質について測定されたスギ花粉アレルゲン低減率の棒グラフである。
【図7】各海藻抽出物質について測定されたヒノキ花粉アレルゲン低減率の棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
[実施例1〜7:各種海藻抽出物質に対するダニアレルゲン低減率]
海藻に、海藻の湿重量の5倍量の蒸留水を加え、121℃、2気圧で20分加熱することにより抽出し、濾紙を用いて濾過したものを海藻抽出物質として使用した。これらの海藻抽出物質のアレルゲン活性低減効果を測定するために、ダニ糞及び/又はダニを含有するコナヒョウダニのダニ培地からアレルゲンを抽出し、このダニアレルゲンを前記海藻抽出物質により処理して、アレルゲン低減率を測定した。図1は、アレルゲン溶液作製の説明表である。コナヒョウダニの培地(10g)にケイ砂(30g)を加えた後に、この培地をすり潰して摩砕ダニ培地を作製し、この摩砕ダニ培地(1.0g)をウシ血清アルブミン(0.1%)含有リン酸緩衝生理食塩液(PBS−B、100mL)に加えて、室温で一晩静置させることにより、ダニアレルゲンを抽出した。この抽出溶液を濾紙により濾過して、この濾過抽出液を必要に応じて希釈して、ダニアレルゲン溶液として使用した。
【0053】
前記濾過抽出液をPBS−Bにより2倍又は5倍に希釈してダニアレルゲン溶液を作製し、このダニアレルゲン溶液(100μL)を、前記海藻抽出物質(100μL)と混合して、一晩、室温で処理した。後のELISA法による測定においては、この処理後アレルゲン溶液を、界面活性剤であるツイーン20(0.1%)及びウシ血清アルブミン(1.0%)を含有するリン酸緩衝生理食塩液(1%BSA−PBS−T)により20倍及び40倍に希釈し、測定サンプルとして使用し、処理後アレルゲン量を測定する際に、これらのサンプルの測定値の平均を算出した。
【0054】
ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン量の測定は、ELISA法により測定した。図2は、ELISA法によるダニアレルゲン測定の説明表である。又、図3は、ELISA法によるダニアレルゲン測定の工程図である。本実施例におけるELISA法測定においては、ダニアレルゲンDerf1の異なる箇所と結合する2種類のモノクローナル抗体(1次抗体及び2次抗体)を用いて、サンドイッチ型ELISA法によりDerf1を測定した。この方法により、複数種の生化学物質が混合されたダニアレルゲン溶液においても、Derf1の測定を行うことができる。
【0055】
1次抗体(1)(2.0mg/mL)10μLを、50mMの炭酸/重炭酸緩衝液(pH9.6)で10mL(1000倍希釈)に溶かし、その液をELISAプレートの各穴に100μLずつ入れ、一晩4℃でインキュベート(静置)することで前記プレートを1次抗体(1)により被覆した(図3の(3A))。その後、1次抗体(1)溶液を除去し、0.05%のツイーン20を含有するリン酸塩緩衝液(以下、PBS−T)で3回洗浄した後、各穴に1%BSA−PBS−Tを100μLずつ入れ、30分間、室温でインキュベートした。液を除去し、PBS−Tでプレートを3回洗浄した。
【0056】
プレートの穴に測定サンプルを100μL添加し、室温で1時間インキュベートして、測定サンプルの抗原(2)であるDerf1を1次抗体(1)に吸着させた(図3の(3B))。その後、液を除去し、PBS−Tでプレートを3回洗浄した。ビオチン標識Derf1抗体である2次抗体(3)を100μL添加し、室温で1時間インキュベートした(図3の(3C))。その後、液を除去し、PBS−Tでプレートを3回洗浄した。
【0057】
西洋ワサビペルオキシダーゼにより標識されたストレプトアビジン(4、Sigma社、商品番号S5512、0.25mg/mL)を各穴につき100μLずつ加え、1時間室温で反応させた(図3の(3D))。その後、液を除去し、PBS−Tでプレートを3回洗浄した。発色基質であるABTS(2,2′−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)2アンモニウム塩(5)10mgを、20mLの70mMクエン酸緩衝液に溶かし、そこへ過酸化水素を20μL加え、撹拌する。その液100μLをプレートの各穴に入れ、7分間反応させ、ABTS(5)を反応させて酸化ABTS(6)を生成することにより、発色させた(図3の(3E))。マイクロプレートリーダーを用いて405nmの波長の吸光度を測定した。
【0058】
又、未処理アレルゲン量を測定するために、未処理アレルゲン溶液をPBS−Bにより100倍、200倍及び400倍に希釈したものサンプルとしてプレートの各穴に注入し、上記と同様の方法で測定した。更に、吸光度からDerf1の濃度を測定して検量線を作成するために、サンプル添加時に、Derf1溶液(2500ng/mL)をPBS−Bを用いて0.5ng/mL、1.0ng/mL、2.0ng/mL、3.9ng/mL、7.8ng/mL、15.6ng/mL、31.3ng/mL、62.5ng/mL、125ng/mLの濃度に希釈したものを添加し、以降操作は同様にして吸光度を測定し、検量線を作成した。
【0059】
検量線より、未処理アレルゲン量及び処理後アレルゲン量を求め、数式1によりアレルゲン低減率を計算した。
【0060】
アレルゲン低減率=
[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]
×100(%) (数式1)
【0061】
表1は、各海藻抽出物質について測定されたダニアレルゲン低減率をまとめた表である。又、図4は、各海藻抽出物質について測定されたダニアレルゲン低減率の棒グラフである。
【0062】
【表1】

【0063】
ここにおいて、シキンノリ(実施例1、紅藻類スギノリ目シキンノリ科)及びヒジキ(実施例2、褐藻類ヒバマタ目ホンダワラ科)の抽出物質のダニアレルゲン低減率は、50%以上を示した。又、ワカメ(メカブ(根元の部分))(実施例3、褐藻類コンブ目チガイソ科)の抽出物質のダニアレルゲン低減率は、30%以上(40%未満)を示した。本実験において30%以上のダニアレルゲン低減率を示した海藻抽出物質は、全て褐藻類又は紅藻類の海藻から由来したものであった。尚、ミリン(実施例4、紅藻類スギノリ目ミリン科)の抽出物質のダニアレルゲン低減率は、30%未満であった。
【0064】
又、海藻抽出物質の量を一定に保ちながら、アレルゲンの濃度を変化させて、海藻抽出物質によるアレルゲン処理実験を行った。接触アレルゲンの量が多くなれば、アレルゲン低減率が低くなることが予想される。尚、処理後アレルゲン量及び未処理アレルゲン量の測定は、実施例1〜4と同様に、ELISA法により行われた。表2は、一定量の各種海藻抽出物質により処理されるアレルゲンの量を変化させた場合のアレルゲン低減率であり、図5は、処理前のアレルゲン量(即ち未処理アレルゲン量)に対するアレルゲン低減率のグラフである。予想通り、ヒジキ(実施例5)、ワカメ(メカブ)(実施例6)及びミリン(実施例7)について、これらの抽出物質により処理されるアレルゲンの量が増加することに従って、アレルゲン低減率が低下することが判る。
【0065】
【表2】

【0066】
[実施例8〜11:各種海藻抽出物質に対するスギ花粉アレルゲン低減率]
図1において説明されるとおり、スギ花粉(1.0g)をPBS−B(100mL)に加えて、室温で一晩静置させることにより、アレルゲンを抽出した。この抽出溶液を濾過して、この濾過抽出液を必要に応じて希釈して、スギ花粉アレルゲン溶液として使用した。実施例1〜7における処理と同様の手法により、スギ花粉アレルゲン溶液を、海藻抽出物質により処理した。この処理後アレルゲン溶液及び未処理アレルゲン溶液をELISA法により測定して、アレルゲン低減率を算出した。なお、このELISA法による測定においては、Cryj1に対する1次抗体及び2次抗体を用いて、実施例1〜7と同様の手法により測定を行った。
【0067】
表3は、各海藻抽出物質について測定されたスギ花粉アレルゲン低減率をまとめた表である。又、図6は、各海藻抽出物質について測定されたスギ花粉アレルゲン低減率の棒グラフである。ここにおいて、シキンノリ(実施例8)及びヒジキ(実施例9)の抽出物質のスギ花粉アレルゲン低減率は、50%以上を示した。又、ワカメ(メカブ)(実施例10)の抽出物質のスギ花粉アレルゲン低減率は、30%以上(40%未満)を示した。本実験において30%以上のスギ花粉アレルゲン低減率を示した海藻抽出物質は、全て褐藻類又は紅藻類の海藻から由来したものであった。尚、ミリン(実施例11)の抽出物質のスギ花粉アレルゲン低減率は、30%未満であった。スギ花粉アレルゲン低減率の傾向は、ダニアレルゲン低減率の傾向とよく似ており、アレルゲン活性の低減機構がダニアレルゲンとスギ花粉アレルゲンとにおいてほぼ同じであることを示している。
【0068】
【表3】

【0069】
[実施例12〜15:各種海藻抽出物質に対するヒノキ花粉アレルゲン低減率]
図1において説明されるとおり、ヒノキ花粉(1.0g)をPBS−B(100mL)に加えて、室温で一晩静置させることにより、アレルゲンを抽出した。この抽出溶液を濾過して、この濾過抽出液を必要に応じて希釈して、ヒノキ花粉アレルゲン溶液として使用した。実施例1〜11における処理と同様の手法により、ヒノキ花粉アレルゲン溶液を、海藻抽出物質により処理した。この処理後アレルゲン溶液及び未処理アレルゲン溶液をELISA法により測定して、アレルゲン低減率を算出した。なお、このELISA法による測定においては、Chao1に対する1次抗体及び2次抗体を用いて、実施例1〜11と同様の手法により測定を行った。
【0070】
表4は、各海藻抽出物質について測定されたヒノキ花粉アレルゲン低減率をまとめた表である。又、図7は、各海藻抽出物質について測定されたヒノキ花粉アレルゲン低減率の棒グラフである。ここにおいて、シキンノリ(実施例12)及びヒジキ(実施例13)の抽出物質のヒノキ花粉アレルゲン低減率は、50%以上を示した。又、ワカメ(メカブ)(実施例14))の抽出物質のヒノキ花粉アレルゲン低減率は、30%以上(40%未満)を示した。本実験において30%以上のヒノキ花粉アレルゲン低減率を示した海藻抽出物質は、全て褐藻類又は紅藻類の海藻から由来したものであった。尚、ミリン(実施例15)の抽出物質のヒノキ花粉アレルゲン低減率は、30%未満であった。ヒノキ花粉アレルゲン低減率の傾向は、ダニアレルゲン低減率の傾向及びスギ花粉アレルゲン低減率の傾向とよく似ており、アレルゲン活性の低減機構がヒノキ花粉アレルゲンにおいてもほぼ同じであることを示している。
【0071】
【表4】

【0072】
[実施例16〜21:ミョウバン及びコンドロイチン硫酸に対するダニ、スギ花粉及びヒノキ花粉アレルゲン低減率]
無機スルホン酸化合物であるミョウバンの水溶液(0.5重量%)と、多数のスルホン酸基を含有する有機スルホン酸化合物であり且つ多糖類であるコンドロイチン硫酸の水溶液(1.0重量%)を調製し、これらの溶液各々100μLにより、実施例1〜7において使用されたダニアレルゲン溶液100μL、実施例8〜11において使用されたスギ花粉アレルゲン溶液100μL又は実施例12〜15において使用されたヒノキ花粉アレルゲン100μLを一晩、室温において処理した。これらの処理後アレルゲン溶液及び未処理アレルゲン溶液のアレルゲン量を上記のELISA 法により測定した後に、アレルゲン低減率を算出した。表5は、これらのスルホン酸化合物について測定されたダニアレルゲン低減率をまとめた表である。
【0073】
【表5】

【0074】
ミョウバン溶液によるダニアレルゲン低減率(実施例16)は30.4%であり、またスギ花粉アレルゲン低減率は(実施例17)は26.2%であり、更にヒノキ花粉アレルゲン低減率(実施例18)は28.6%であった。又、コンドロイチン硫酸溶液によるダニアレルゲン低減率(実施例19)は56.9%であり、またスギ花粉アレルゲン低減率(実施例20)は43.7%であり、更にヒノキ花粉アレルゲン低減率(実施例21)は40.1%であった。これらの結果によれば、コンドロイチン硫酸は極めて良好なアレルゲン活性低減作用を示し、またミョウバンも良好なアレルゲン低減作用を示す。
【0075】
[実施例22〜27:布片のアレルゲン低減化]
モップのパイル、清掃用ウエスのクロス及びカーテン生地(5g)をそれぞれ2片用意し、それぞれの布片にダニアレルゲン溶液(1mL、前記抽出溶液をPBS−Bで2倍に希釈)を吸収させて乾燥させた。前記パイル、前記クロス及び前記カーテン生地のそれぞれ1片に、ヒジキからの抽出物質(1mL)を吸収させて乾燥させた。これらの布片各々を1%BSA−PBS−T(10mL)により3時間抽出し、この布片抽出溶液中のDerf1をELISA法により測定した。又、同様のアレルゲン活性低減処理を、ワカメ(メカブ)からの抽出物質を使用して行った。
【0076】
表6は、海藻抽出物質による布片のアレルゲン低減化を示す。ヒジキ抽出物質によりパイル(実施例22)、クロス(実施例23)及びカーテン生地(実施例24)を処理した場合には、極めて良好なアレルゲン低減化が得られた。又、ワカメ(メカブ)抽出物質によりパイル(実施例25)、クロス(実施例26)及びカーテン生地(実施例27)を処理した場合においても、平均して良好なアレルゲン低減化が得られた。
【0077】
【表6】

【0078】
[実施例28:アレルゲン活性低減物質含有洗剤]
ヒジキ抽出物質(10mL)を市販の液体洗剤(100mL)に混合した。この洗剤により、アレルゲン溶液(10mL、未希釈)を担持させたクロス(100g)を洗浄したところ、ヒジキ抽出物質を含有しない洗剤を使用した場合よりも顕著なアレルゲン低減化が見られた。
【0079】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
豊富な海藻を材料とすることにより、安価でしかもアレルゲンの低減効果が高いスルホン酸基含有アレルゲン活性低減物質が得られる。これらの海藻由来アレルゲン活性低減物質及び他のスルホン酸基含有アレルゲン活性低減物質は、アレルゲンに直接に作用して不活化させるので、アレルゲンを迅速に低減でき、しかも安全性が高い海藻から抽出されるので、日常生活において差し支えなく使用できる。このアレルゲン活性低減物質を使用することにより、家などの居住空間、オフィスなどの作業空間、レストラン、学校、保育所及び病院などにおいて、安全且つ安価なアレルゲン低減化を行うことができる。
【符号の説明】
【0081】
1 1次抗体
2 抗原
3 2次抗体
4 ストレプトアビジン
5 ABTS
6 酸化ABTS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する物質であり、アレルゲンに直接作用して前記アレルゲンのアレルゲン活性を低減させることを特徴とするアレルゲン活性低減物質。
【請求項2】
前記物質が有機スルホン酸化合物又は無機スルホン酸化合物である請求項1に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項3】
前記有機スルホン酸化合物が複数のスルホン酸基を有する請求項2に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項4】
前記有機スルホン酸化合物が多糖類である請求項2又は3に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項5】
前記物質が海藻から抽出された海藻抽出物質である請求項1〜4のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項6】
前記海藻が褐藻類又は紅藻類である請求項5に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項7】
前記褐藻類がホンダワラ科又はチガイソ科である請求項6に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項8】
前記紅藻類がシキンノリ科である請求項6に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項9】
前記アレルゲンがダニ糞及び/又はダニ由来のアレルゲンである請求項1〜8のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項10】
前記アレルゲンがDerf1、Derf2、Derp1又はDerp2である請求項9に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項11】
前記アレルゲンがスギ花粉及び/又はヒノキ花粉由来のアレルゲンである請求項1〜8のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項12】
前記アレルゲンがCryj1、Cryj2、Chao1又はChao2である請求項11に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項13】
ダニ糞及び/又はダニを少なくとも含有するダニ培地にケイ砂を加え、前記ダニ培地をすり潰して摩砕ダニ培地とし、前記摩砕ダニ培地0.5g〜2.0gに含有されるアレルゲンを室温において溶剤50mL〜200mLにより4時間〜20時間抽出した溶液又はその希釈液により前記アレルゲンの濃度が5〜2000ng/mLのアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、
アレルゲン低減率=
[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]
×100(%)
の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上である請求項9に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項14】
前記Derf1、前記Derf2、前記Derp1及び前記Derp2のいずれかの1種の2ng〜200ngを溶剤100〜400μLに溶解又は分散させた溶液又はその希釈液によりアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、
アレルゲン低減率=
[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]
×100(%)
の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上である請求項10に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項15】
スギ花粉及び/又はヒノキ花粉0.5g〜2.0gに含有されるアレルゲンを室温において溶剤50mL〜200mLにより4時間〜20時間抽出した溶液又はその希釈液により前記アレルゲンの濃度が5〜2000ng/mLのアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、
アレルゲン低減率=
[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]
×100(%)
の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上である請求項11に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項16】
前記Cryj1、前記Cryj2、前記Chao1及び前記Chao2のいずれかの1種の2ng〜200ngを溶剤100〜400μLに溶解又は分散させた溶液又はその希釈液によりアレルゲン溶液を調製し、50〜200μLの範囲内にある一定体積の前記アレルゲン溶液を前記アレルゲン活性低減物質50〜200μLにより室温で4時間〜20時間処理して処理後アレルゲン溶液とし、他方、前記アレルゲン活性低減物質により全く処理されていない前記一定体積の前記アレルゲン溶液を未処理アレルゲン溶液とし、前記処理後アレルゲン溶液の処理後アレルゲン量及び前記未処理アレルゲン溶液の未処理アレルゲン量をELISA法により測定して、
アレルゲン低減率=
[(未処理アレルゲン量−処理後アレルゲン量)/未処理アレルゲン量]
×100(%)
の式からアレルゲン低減率を算出し、前記アレルゲン低減率が30%以上である請求項12に記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項17】
前記アレルゲン活性低減物質が海藻抽出物質であり、前記海藻抽出物質が前記海藻の湿質量の2〜20倍量の熱湯により100〜150℃且つ1〜3気圧において5〜40分抽出されたものである請求項13〜16のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質をモップ、マット、クロス、紙タオル及びスポンジを含む清掃具に担持させたことを特徴とする抗アレルゲン清掃具。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質を衣類、敷物、畳、フローリング、壁面、寝具、家具及びカーテンを含む日用製品に担持させたことを特徴とする抗アレルゲン日用製品。
【請求項20】
請求項1〜17のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質が洗剤に含有されたことを特徴とする抗アレルゲン洗剤。
【請求項21】
請求項1〜17のいずれかに記載のアレルゲン活性低減物質が溶剤に溶解又は分散されたことを特徴とする抗アレルゲン溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−214549(P2012−214549A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79136(P2011−79136)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)
【Fターム(参考)】