説明

アレルゲン物質を吸着除去する繊維製品

【課題】ダニアレルゲンのゼータ電位が水中では負に帯電していることに着目し、繊維表面にカチオン化層を形成することで静電的作用を利用したダニアレルゲン等のアレルゲン物質の吸着除去機能を付与した肌着などの繊維製品を提供する。
【解決手段】アレルゲン物質を吸着除去する繊維製品は、低コストで四級アンモニウム塩を持つ高分子電解質及びキトサン等により繊維表面にカチオン化層2を形成し、繊維1の表面電位(ゼータ電位)を正に帯電させることにより、汗など水中では大きく負に帯電しているアレルゲン物質を繊維表面に静電的に吸着させ除去する。また、同時にドライスキン等の皮膚の乾燥を防ぐため、繊維上のカチオン化層の上にさらに絹タンパク質層3を形成することで、生地の保湿性を高める。吸着したアレルゲン等は洗濯時に洗い流すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維にカチオン系の表面処理を施すことで繊維の表面電位を正に帯電させることで負の表面電位を持つダニアレルゲン等のアレルゲンを繊維表面に吸着除去する繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の高気密高断熱住宅の登場は、我々に快適空間を提供してくれる。しかし、この快適な住宅は換気不足になりやすくダニの増殖に適した環境になってしまうことがある。
【0003】
アレルギー症状の発症は、生物が持つ免疫反応に由来する。杉花粉やダニの糞等のアレルゲン物質が体内に入ると、この進入タンパク質に対してIgE抗体が作られる。IgE抗体が肥満細胞の表面に結合し、感作となる。再度、これらアレルゲン物質が体内に侵入し、IgE抗体と結合した際には肥満細胞から種々のケミカルメディエータが放出される。これらケミカルメディエータがヒスタミンやロイコトリエンなどである。これらの体内物質が、発熱、発疹、鼻炎、咳等を発症する原因である。これらの症状が強くなると睡眠不足や集中力の低下など我々の経済活動あるいは創造活動に大きな障壁となる。
【0004】
飛散したアレルゲンを吸入することによる防止手段として、マスクなどの繊維製品による遮断がある。特許文献1には、アレルゲンを賦活する方法として銀イオン、銅イオン及び亜鉛イオンなどを多孔質物質に担持して、マスクに利用している。また、特許文献2には、タンニン酸でマスクなどの繊維製品を処理することによるアレルゲンの不活化が可能であるとしている。これらは一例であるがマスクを高機能化しアレルゲンを不活化する検討は多数なされている。
【0005】
一方、アレルギー症状の発症は、飛散したアレルゲンを吸入することによるぜんそく等の発症の他に、皮膚からの吸収による皮膚炎などもある。ダニアレルゲンもアトピー性皮膚炎の原因と言われている。アレルゲンを皮膚から体内へ遮断する検討は少ない。特許文献3では、金属フタロシアニンのもつ酸化還元触媒機能を利用したアレルゲン分解機能を繊維に付与した製品が示されている。また、特許文献4では天然物から抽出したダニや花粉のアレルゲン不活化剤を染色工程において添加する方法とその方法で製造された繊維製品が示されている。
【0006】
肌着にアレルゲン不活化剤を用いることは種々提案されている。しかし、肌着の役割として吸湿性や保湿性が同時に求められている。さらには、皮膚炎などは乾燥肌いわゆるドライスキンなどでも発症する。
【0007】
これらを解決する手段として、絹タンパク質の持つ保湿作用を繊維に応用した繊維製品がある。特許文献5では、繊維製品として汎用的に用いられているアクリル糸、アクリル系繊維糸、アクリルフィルム、アクリル成型品あるいはこれらのアクリルを主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織生地、紙、さらに、ナイロン糸、ナイロンフィルム、ナイロン成型品、絹糸、羊毛糸、獣毛繊維あるいはこれらのポリアミドを主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織生地などに、蚕糸業や製糸工場の副産物から得られる絹セリシンや絹フィブロインという絹タンパク成分を付着させることで、肌触りの向上や吸水性・吸湿性の向上、新たな染色性などの優れた性質を付与することのできるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−291031
【特許文献2】特願2004−90787
【特許文献3】特開2007−31929
【特許文献4】特開2009−84719
【特許文献5】特開2005−139588
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、アレルゲン不活化剤等は一般的には高価である。また、皮膚へのダニアレルゲン等のアレルゲン物質との接触を防ぐ方法としては直接皮膚に接触している肌着等への加工が必要になり、安全に使用できる不活化剤等も限られる。さらに、タンニン酸やフタロシアニンなどはそれ自体の色彩が強く、繊維製品の色彩が限定される課題があった。
【0010】
さらに、アレルゲン不活化剤等の薬剤は取り扱いが限定されるため、家庭で簡単にアレルゲン加工をすることは困難である。つまり、最初からアレルゲン不活化剤等で加工してある製品を購入しなくてはならず、現在使用している既存の肌着等へ加工を施すことは困難であった。
【0011】
さらに、皮膚の炎症は、遺伝的な要因だけでなく、環境因子が発症等の引き金になる。成人アトピー性皮膚炎患者においては、非アレルギー的要因として乾燥肌(ドライスキン)があり、乾燥、摩擦などで症状が悪化することが知られている。そのため、アトピー性皮膚炎の治療においては、内服・外用治療だけでなく、日常生活においてアレルギー性および非アレルギー的な刺激を避けることがきわめて重要である。これまで、掃除の励行、空気清浄機の活用などで防ダニ、防埃などが行われてきたが、皮膚に直接接する肌着等に対する注意は払われてこなかった。
【0012】
また、繊維表面に絹タンパクがあることで、保湿性や滑り性が改善されることが知られているが、絹タンパクもダニアレルゲン等のアレルゲンもタンパク質であり、その表面電位は負に帯電している。
【0013】
すなわち、繊維表面に絹タンパクが存在することで、アレルゲンとは斥力が働くため繊維への吸着が困難であった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、製品の色彩に影響を与えず、アレルゲン不活化剤などの高価な薬剤を使用することなく、繊維表面の保湿性を確保でき、さらに簡単に加工できるアレルゲン物質を吸着除去する繊維製品およびその加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の発明者は、微生物などタンパク質由来粒子の表面電位について長年に渡り研究してきた。その中で、微生物やウイルス等のタンパク質由来粒子は水中では負に帯電しており、正に帯電している表面に吸着し、水中から除去できることを明らかにしてきた。また、今回アトピー性皮膚炎に原因になるダニアレルゲンについて、汗等の水中では大きく負に帯電していること明らかにした。
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意開発の結果、本発明に到達した。本発明に係る繊維製品は、その表面電位を正に保つことにより、負に帯電しているダニアレルゲン等のアレルゲン粒子を静電的に繊維表面に吸着させて汗などの水中から除去することに成功した。
【0017】
上記目的を達成するため、請求項1の発明はカチオン系の表面処理を施すことで、繊維上に正に帯電した層を形成することによりアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。
【0018】
ここで、カチオン系の表面処理剤としては、塩化ベンザルコニウム酸、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート(メタクリレート)四級塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン四級塩、またこれらの共重合物、ジシアンジアミドとホルマリン、アルキレンジアミンとエピクロルヒドリンとの縮合物等、また、かに、えび、昆虫等の甲殻中に多量に含まれるキチン(2−アセトアミドグルコースを構成成分とする多糖類)をアルカリ中で加水分解し、脱アセチル化することにより得られるキトサン等があげられる。
【0019】
請求項2記載の発明は、カチオン系表面処理が第四級アンモニウム塩の自己組織化膜であることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。
【0020】
請求項3記載の発明は、前記第四級アンモニウム塩がポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項2記載のアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。
【0021】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のカチオン系表面処理がキトサンであることを特徴とするアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。
【0022】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4記載のアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品にさらにその表面上に繭または繭毛羽から抽出して得られる絹セリシンおよび絹フィブロインのうち少なくとも一つからなるタンパク質層を形成し、保湿性を持たせたアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。
【0023】
ここで、絹セリシンおよび絹フィブロインとは繭または繭毛羽から抽出して得られるものである。絹セリシンおよび絹フィブロインの役割は、繊維製品と皮膚との摩擦抵抗を低減し、皮膚の保湿性を高め、汗などにより発生するアンモニアの消臭機能を持たせることにある。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5記載の繊維製品の素材が綿であることを特徴とするアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に係る発明によれば、カチオン系の表面処理を施すことで、繊維上に正に帯電した層を形成することにより得られた繊維製品は、繊維の表面電位を正に保持するができる。そのため、アレルゲン等の負に帯電しているタンパク質を繊維上に吸着し、アレルゲンを除去することができる。また、微生物、ウイルス等も負に帯電している粒子であり、繊維表面に吸着することができる。すなわち、汗などの水中で負に帯電している粒子は、繊維表面に吸着され、除去されることになる。
【0026】
アレルゲンの発症は、タンパク質等のアレルゲン物質との接触量が多くなることでリスクが高まることが知られている。本発明の繊維製品は、皮膚とアレルゲンになる可能性のあるタンパク質との接触も減らすことが可能である。このことは、アレルギー性皮膚炎発症を低減できる予防効果も期待できる。
【0027】
また、アレルゲン不活化剤等は化学反応でアレルゲンを無害化することに主眼がおかれているが、化学反応では、一部不可逆的な反応により持続性が損なわれることが予想される。本発明では静電的な吸着を利用していることから、化学反応を利用する方法よりもアレルゲン除去効果の持続性に優れている。
【0028】
ほとんどの繊維製品は洗うことが可能である。表面に保持しているアレルゲン等のタンパク質は、洗濯の際に取り除かれる。つまり、洗濯時に繊維表面を再生できる効果を持つ。さらに、効果が失われた場合、洗濯後、再度高分子電解質の水溶液に浸漬することで、簡単に表面電位を正にすることが可能である。これは、従来の薬剤処理では考えられない画期的な方法である。
【0029】
請求項2に係る発明によれば、請求項1記載のカチオン系表面処理が第四級アンモニウム塩の自己組織化膜であることを特徴とするアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品であり、自己組織化膜とは、樹脂などのバインダーを使用せず繊維表面にカチオン化層を形成し、保持することである。
【0030】
請求項3に係る発明によれば、請求項2記載の第四級アンモニウム塩がジアリルジメチルアンモニウム塩重合体のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドであり、これにより繊維表面にポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド層を形成し、その結果繊維表面が正に帯電して、アレルゲン等の除去を行うものである。ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドは、常温水中で加工できる大きな特徴がある。また、安全性の高い薬剤であり、生地の染色工程でもカチオン化剤として利用されている。また、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドの大きな特徴として、交互積層が可能である。これは、表面のポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドの効果が失われても、さらにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドの溶液に浸漬することで、アレルゲン除去効果の回復が容易に行えるという効果がある。
【0031】
請求項4に係る発明によれば、請求項1記載のカチオン系表面処理がキトサンであることを特徴とするアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品であり、天然素材のキトサンで繊維表面電位を正に制御してアレルゲン等の除去を行うものである。
【0032】
キトサンは、かに、えび、昆虫等の甲殻中に多量に含まれるキチン(2−アセトアミドグルコースを構成成分とする多糖類)をアルカリ中で加水分解し、脱アセチル化することにより得られる。キトサンはすでに工業化されており安価に入手できる。既存の繊維製品の機能性を高めて、さらに製造コストを抑えることが可能であり、工業上利用可能性が高い。また、簡単な温度管理と浸漬するだけで加工できるので、既存の設備を有効に利用できる効果を持つ。
【0033】
請求項5に係る発明によれば、請求項1から4記載のアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品にさらにその表面上に繭または繭毛羽から抽出して得えられる絹セリシンおよび絹フィブロインのうち少なくとも一つからなるタンパク質層を部分的に形成し、保湿性を持たせたアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。繭または繭毛羽から抽出して得られる絹セリシンおよび絹フィブロインの混合水溶液であり、さらに皮膚の保湿効果を高めることができる。繭から抽出されるタンパク質は、セリシンとフィブロインがある。湯水による抽出では従来はセリシンの抽出がほとんどでフィブロインの含有量は少なかった。そこで、発明者らは圧力をかけて水温を上昇させることでフィブロインの抽出に成功した。フィブロインは、セリシンと異なり水に溶解しにくいことから、洗濯耐性があり、繊維表面に長期間安定に存在する効果がある。また、皮膚の保湿性、滑り性を高め、繊維と皮膚との摩擦を防ぐことが可能になる。これは、成人アトピー性皮膚炎患者においては、非アレルギー的要因として乾燥肌(ドライスキン)があり、乾燥、摩擦などで症状が悪化することが知られている。そのため、繊維表面に絹タンパクがあることで、保湿性や滑り性が改善される効果がある。
【0034】
請求項6に係る発明によれば、請求項1から5記載の繊維製品の素材が綿であることを特徴とするアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品である。綿の特徴は、中空断面構造を持つことから、他の繊維に比べて表面積が大きい。ダニアレルゲンとの接触面も多くなり、本発明の効果が最も良好に反映される。また、一本の繊維が80〜120回の撚れをもっていることから、皮膚に接触する部分も少ないことから効果的である。
【0035】
本発明の繊維製品は、肌着、靴下、ブラウス等の一般衣料関連として、生地団カバー、枕カバー、生地団綿等の寝具関連として、包帯、ガーゼ等の医療関連として、あるいは、ぬいぐるみ等の玩具関連等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のカチオン系の表面処理を施すことで、繊維上に正に帯電した層を形成することによりアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維の側面および正面の概念的な断面図である。
【図2】ダニアレルゲンのゼータ電位を測定したグラフである。
【図3】未処理の綿生地(a)とポリエステル生地(b)のゼータ電位を測定したグラフである。
【図4】ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで処理した綿生地(c)とポリエステル生地(d) のゼータ電位を測定したグラフである。
【図5】キトサンで処理した綿生地(e)とポリエステル生地(f) のゼータ電位を測定したグラフである。
【図6】本発明のカチオン系の表面処理を施すことで、繊維上に正に帯電した層を形成し、さらにその表面上に繭または繭毛羽から抽出して得られる絹セリシンおよび絹フィブロインのうち少なくとも一つからなるタンパク質層を部分的に形成し、保湿性を持たせたアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維の側面および正面の概念的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態として実施例を説明する。
【実施例1】
【0038】
本発明ではアレルゲン物質としてダニアレルゲンを用いたが、他のアレルゲン物質もタンパク質で、その表面電位は負に帯電しており、同様の効果が期待できるため、これらの例に限定されるものではない。
【0039】
綿生地、ポリエステル生地(JIS染色堅牢度試験用、織物)は、ジアリルジメチルアンモニウム塩重合体であるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで表面にカチオン化層を形成した。ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドは次の化学式で示される。
【0040】
【化1】

【0041】
化学式より、アミノ基を有する高分子電解質で、この高分子部分が繊維と吸着し、繊維の表面にカチオン化層を形成し、表面電位を正に帯電させることができ、図1のような構造になると思われる。アミノ基を有する高分子電解質の中からジアリルジメチルアンモニウム塩重合体さらにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドを選択した理由は、生地を常温で簡単にカチオン化処理できるからである。
【0042】
各生地は、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド1%溶液に浴比は20:1で1分間浸漬し、水道水で洗浄して室温で乾燥させた。
【0043】
実験に用いたダニ抗原は、精製ダニ抗原rDerf2(アサヒフードアンドヘルスケア(株)製)を用いた。ダニ抗原濃度は、100μg/mLになるよう蒸留水で希釈した。ダニ抗原のゼータ電位の測定は、顕微鏡電気泳動装置(ZEECOM、マイクロテックニチオン)で行った。
【0044】
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで加工した生地のゼータ電位の測定については、加工した綿生地およびポリエステル生地をミキサー(ワンダーブレンダー 大阪ケミカル)にして粉砕して測定した。その後、水道水中に分散し、ゼータ電位を測定した。実験に使用した水道水は、浄水器(東レ製:トレビーノカセッティー203X)で処理し、オートクレーブ滅菌をおこなった桐生市の水道水で作製した。尚、これらの作製した水に微粒子などの夾雑物がないことはゼータ電位測定装置のレーザー光下で確認した。
【0045】
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで加工した生地によるダニアレルゲン除去効果の確認は以下に示す方法で行った。実験に用いたダニ抗原は、精製ダニ抗原rDerf2(アサヒフードアンドヘルスケア(株)製)をである。本精製ダニ抗原rDerf2は、大腸菌から調整したrDerf2を、1%ラクトース添加PBSに100μg/mLの濃度に溶解し、1バイアルに500μL分注した後、凍結乾燥したものである。これに蒸留水500μL加えて、100ng/μLのダニアレルゲン原液を調製した。
【0046】
加工した綿生地およびポリエステル生地は0.5gをそれぞれ試験管に入れ、蒸留水5mLと上記で作製したダニアレルゲン懸濁液5mLを加えた。よく撹拌してから、37℃、75rpmで2時間浸透させた。その後、処理液から20 μL採取し、ダニスキャン(アサヒフードアンドヘルスケア(株))で測定を行った。クリーンベンチ内で15分放置してから、呈色反応を確認して判定した。
【0047】
精製ダニ抗原rDerf2は、レーザー光を用いることで微少な粒子として確認できることがわかった。そのため、顕微鏡電気泳動法でゼータ電位を測定することができた。各粒子の表面電位はゼータ電位として測定できる。ダニアレルゲンの表面電位であるゼータ電位を測定した例は、おそらく本実施例が初めてであろう。結果を図2に示す。図2から明らかなように、-35mV付近にピークが観測できた。この結果から、ダニアレルゲンは水中では、大きく負に帯電していることが明らかとなった。
【0048】
水道水中での未処理の綿生地とポリエステル生地およびの結果を図3に示す。各生地ともにゼータ電位が、約-10mVにピークを持つことがわかった。このことから、未処理の生地ではダニアレルゲンと同じ負の電位を持つため、通常の繊維製品ではダニアレルゲン等の負に帯電したタンパク質粒子とは斥力が働き、吸着できない。
【0049】
次に、水道水中でのカチオン化剤であるポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで処理した綿生地とポリエステル生地のゼータ電位測定の結果を図4に示す。ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドによる処理によりゼータ電位が、大きく正に帯電することがわかった。綿生地では、ゼータ電位のバラツキがポリエステル生地よりも大きいことが分かった。このことは、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド処理はポリエステル生地に適していると思われる。
【0050】
未処理生地およびポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで処理した加工生地のダニアレルゲンの除去の判定値を表1に示す。結果からわかるように、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドで加工した生地では、ほとんどダニアレルゲンが検出されないことが明らかとなった。生地のゼータ電位が正に帯電したため、負に帯電しているダニアレルゲンが効率よく吸着除去できると思われる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【実施例2】
【0053】
次に綿生地およびポリエステル生地(JIS染色堅牢度試験用、織物)は、直接下着に加工することを念頭に入れ、天然物由来で繊維表面の表面電位を正に帯電することができるキトサン10%溶液(大日精化工業(株)製)で行った。まず、上記キトサンを水道水に溶解し、5mL/Lの濃度とした。浴比は20:1で、溶液温度を60℃に保ちながら、各生地を入れ、撹拌し30分間処理した。処理後、40℃のお湯で、10分間洗浄した。洗浄は2回行った。その後、自然乾燥させて実験に供した。
【0054】
キトサンは以下の化学式で示される。
【0055】
【化2】

【0056】
キトサンにもアミノ基が存在しており、繊維表面にカチオン化層を形成することにより、繊維の表面電位を正にすることができる。
【0057】
キトサンで加工した各生地のゼータ電位の測定については、加工した綿生地をミキサー(ワンダーブレンダー 大阪ケミカル)にして粉砕して測定した。その後、水道水中に分散し、ゼータ電位を測定した。実験に使用した水道水は、浄水器(東レ製:トレビーノカセッティー203X)で処理し、オートクレーブ滅菌をおこなった桐生市市水で作製した。尚、これらの作製した水に微粒子などの夾雑物がないことをゼータ電位測定装置のレーザー光下で確認した。
【0058】
キトサンで加工した各生地によるダニアレルゲン除去効果の確認は実施例1と同様の方法で行った。
【0059】
水道水中でのキトサン処理した各生地のゼータ電位測定の結果を図5に示す。キトサン処理により綿生地およびポリエステル生地ともにゼータ電位が、約+10mVにピークが観測できた。これは各生地がキトサンにより一様に繊維の表面にカチオン化層が形成されたことを裏付けている。
【0060】
各生地のダニアレルゲンの除去の判定値を表1に示す。結果からわかるように、キトサン加工した各生地では、実施例1で示したジアリルジメチルアンモニウム塩重合体の結果同様、ダニアレルゲンが検出されないことが明らかとなった。
【0061】
【表3】

【実施例3】
【0062】
次に、ダニアレルゲンの除去効果を詳細に確認するため、市販の肌着の生地を用いてELISA法による検証を行った。なお、今回検討を行った試験生地は次の4種類である。
(1)
ポリエステル編み生地
(2)
キトサンで加工したポリエステル編み生地
(3)
編み生地
(4)
キトサンで加工した編み綿生地
【0063】
生地の加工は、各生地をキトサン10%溶液(大日精化工業(株)製)で行った。まず、上記キトサンを水道水に溶解し、2g/Lの濃度とした。浴比は20:1で、溶液温度を60℃に保ちながら、各生地を入れ、撹拌し30分間処理した。処理後、40℃のお湯で、10分間洗浄した。洗浄は2回行った。その後、自然乾燥させた。
【0064】
各試料によるダニアレルゲン除去効果の確認を行った。実験に用いたダニ抗原は、精製ダニ抗原rDerf2(アサヒフードアンドヘルスケア(株)製)をである。本精製ダニ抗原rDerf2は、大腸菌から調整したrDerf2を、1%ラクトース添加PBSに100μg/mLの濃度に溶解し、1バイアルに500μL分注した後、凍結乾燥したものである。これに蒸留水500μL加えて、100ng/μLのダニアレルゲン原液を調製した。
【0065】
各試験生地0.5gをそれぞれ試験管に入れ、蒸留水5mLと上記で作製したダニアレルゲン懸濁液5μLを加えた。よく撹拌してから、37℃、75rpmで2時間浸透させた。その後、処理液から適量採取し、酵素免疫測定法により性能評価を行った。
【0066】
酵素免疫測定法(Sandwich法-ELISA)による性能評価について説明する。繊維表面を正にすることで静電的に付着したダニアレルゲンが除去される程度を評価する方法としては、酵素標識した抗体との抗原抗体反応を利用して定量的に検出する酵素免疫測定法で行った。今回行った方法は、ダニアレルゲン汚染測定の国際的スタンダードであり、一般にサンドイッチ法(非競合法)と呼ばれる方法である。
【0067】
マイクロプレートのウェルの固相に、あらかじめ目的物質であるダニ抗原(コナヒョウヒダニ)に対する抗体を結合させておく。これにサンプルを添加すると、サンプル中の目的物質が抗原抗体反応により固相に結合する。夾雑物を洗い流した後、酵素標識した第二の抗体を添加すると再度抗原抗体反応が起こり、「固相化抗体/目的物質/酵素標識抗体」のサンドイッチ構造が構築される。ここで遊離の酵素標識抗体を洗い流し、発色基質を添加すると、サンドイッチ構造の量(すなわちサンプル中の目的物質量)に比例して発色反応が起こる。生成した発色物質の吸光度を吸光度計で読み取り、濃度既知の標準品を用いて作製した標準曲線からサンプル中の目的物質量を定量する。
【0068】
ダニアレルゲンの測定は、和光純薬工業製のダニアレルゲン測定試薬TAC(R) Der f2
ELISA KITを用いて常法により行った。検量線は、ダニ抗原濃度50、25、12.5、6.25、3.13、1.56、0.78ng/μLの測定値から作成した。
【0069】
各処理生地のダニアレルゲンの除去の結果を表に示す。キトサン加工して表面電位を正に制御したポリエステルと綿では、ダニアレルゲンを除去することができることが明らかとなった。
【0070】
【表4】

【0071】
表4から明らかなようにキトサンで処理したポリエステル生地および綿生地については、ダニアレルゲンが大幅に低減することがわかった。これは、実施例2に示した結果と同じである。また、綿では未処理でもアレルゲンが減少することがわかった。これは、実施例2の織物では認められなかった現象であり、編物にすることで生地とアレルゲンの接触のための空隙が多くなったためであると考えている。そのため、本発明では一般的に肌着等に用いられている編物の綿生地をキトサン等でカチオン化することで、ダニアレルゲンがほぼすべて吸着できる画期的な肌着になることが明らかになった。

【実施例4】
【0072】
次に、キトサン等のカチオン化加工の後、絹タンパク質でさらに繊維表面をコーティングした際の結果を示す。
【0073】
アトピー性皮膚炎は、非アレルギー性の刺激、例えば衣類が皮膚に擦れることでかゆみの症状、皮膚の状態が悪くなることが知られている。これらの改善のためには、皮膚の保湿性や摩擦係数を低減させることが重要である。
【0074】
アトピー性皮膚炎患者に絹タンパク質を含浸させたアームリストを使用してもらいその効果を確認した。
【0075】
生地の加工は、キトサン10%溶液(大日精化工業(株)製)で行った。まず、上記キトサンを水道水に溶解し、2g/Lの濃度とした。浴比は20:1で、溶液温度を60℃に保ちながら、各生地を入れ、撹拌し30分間処理した。処理後、40℃のお湯で、10分間洗浄した。洗浄は2回行った。その後、自然乾燥させた。
【0076】
次に、繭毛羽を圧力釜などの高圧容器で、浴比1:20で、水温100〜130℃、1〜2時間抽出した主にセリシンを主成分とする絹タンパク質含有水溶液20mLとこの残渣にさらに浴比1:20になるよう水を加え、水温を140〜180℃、1〜2時間抽出した主にフィブロインを主成分とする絹タンパク質含有水溶液20mLの合計40mLを加えた水に、浴比1:20、40℃で30分間処理したアームリストを作製した。これを乾燥させて、タンパクを含浸させたアームリストとした。
【0077】
被験者は20歳以上のアトピー性皮膚炎患者とし、アトピー性皮膚炎の診断にあたっては日本皮膚化学学会のアトピー性皮膚炎の定義・診断基準を満たしたものとした。性別は問わず、副腎質ホルモン内服・注射療法を受けている患者は除外した。
【0078】
方法は、右前腕に絹タンパクを含浸させたナイロン製アームリスト製品を、左腕前には対照として絹タンパク質を含浸させていないナイロン製アームリスト製品を就寝時に2週間にわたり着用した。アームリスト製品使用開始前、開始後の角質水分量、経皮水分喪失量を測定し比較した。角質水分量と経皮水分喪失量はデルマラボ測定装置で評価した。
【0079】
絹タンパク質を含浸させるアームリスト製品および対照の製品を用いた結果、13名中1名で両前腕ともに皮疹と痒みが増加したため一時使用を中止した。また、13名中2名は両腕前ともに痒みが増加し、4名では、絹タンパク浸漬アームリストにより痒みが改善した。6名では変化がなかった。
【0080】
角質水分量・経皮水分喪失量は、測定値が20%以上の変動を示した場合を測定値上昇、または低下とした。
【0081】
絹タンパク質を含浸させたアームリスト製品使用部位では、角質水分量が13名中3名で上昇し、3名で低下した。残りの7名では20%以上の変化はみられなかった。経皮水分喪失量については5名で上昇、2名で低下した。6名では、20%以上の変化は認められなかった。
【0082】
対照区では、角質水分量は、13名中3名で上昇し6名で低下した。残りの7例では20%以上の変化は認めなかった。経皮水分喪失量については5名で上昇し、2名で低下した。6名では20%以上の変化は認められなかった。
【0083】
安全性については、13名中1名で絹タンパク質含浸アームリストおよび対照区ともに皮疹と痒みが増加した。アームリスト製品を用いることで4名では痒みが改善したが、3名では増加した。症状の増悪は両側性に生じていることから素材自体や刺激に問題があると思われる。
【0084】
絹タンパク質の効果については、絹タンパク質を含浸させたアームリスト製品によるアトピー性皮膚炎患者に対する望ましい変化は、角層水分量の増加と経皮水分喪失量の減少である。対照区では、角質水分量は13名中3名で上昇し、6名で低下した。一方、絹タンパク質を含浸させたアームリスト製品使用部位では角質水分量は13名中3名で上昇し、3名で低下した。すなわち、角質水分量に着目すると、対照では6名が減少した角質水分量が絹タンパクを含浸したことで3名は低下しなかったと考えられる。経皮水分喪失量については明らかな傾向はなかった。
【0085】
以上の結果より、素材のナイロン生地自体が角質水分量を低下させる可能性があるものの、絹タンパク質は角質水分量を増加させる可能性があると考えられた。

【実施例5】
【0086】
生地の加工は、キトサン10%溶液(大日精化工業(株)製)で行った。まず、上記キトサンを水道水に溶解し、2g/Lの濃度とした。浴比は20:1で、溶液温度を60℃に保ちながら、各生地を入れ、撹拌し30分間処理した。処理後、40℃のお湯で、10分間洗浄した。洗浄は2回行った。その後、自然乾燥させた。
【0087】
次に、繭毛羽を圧力釜などの高圧容器で、浴比1:20で、水温100〜130℃、1〜2時間抽出した主にセリシンを主成分とする絹タンパク質含有水溶液20mLとこの残渣にさらに浴比1:20になるよう水を加え、水温を140〜180℃、1〜2時間抽出した主にフィブロインを主成分とする絹タンパク質含有水溶液20mLの合計40mLを加えた水に、浴比1:20、40℃で30分間処理したナイロン製インナーを作製した。これを乾燥させて、タンパクを含浸させたインナーとした。
【0088】
被験者は20歳から40歳までの現在皮膚疾患を有していない30名の女性とした。絹タンパク質加工済みインナーを2週間着用し、着用前後上腕屈側の角質水分量と経皮水分喪失量を測定した。測定装置は、デンマークのCORTEX社の皮膚検査専用測定器DermaLabに取り付けられたモジュールプローブを皮膚表面に接触させて測定した。
【0089】
結果、絹タンパク加工済みインナー使用前後ともに、皮膚に異常が見られた被験者はいなかった。使用当初に痒みを感じた被験者が3名であったが、数回使用した後に痒みは消失した。インナー着用前後での角質水分量と経皮水分喪失量の実測値を表5に示す。
【0090】
【表5】

【0091】
角質水分量について、測定値が20%以上の変動を示した場合を測定値上昇、または低下とした。角質水分量は、30名中6名(被験者2,8,10,27,28,29)で上昇し、12名で低下した(被験者1,4,5,9,11,12,17,18,19,21,22,26)。残りの12例では20%以上の変化はみられなかった。経皮水分喪失量についても測定値が20%以上変動した場合を測定値上昇、または低下とした。14名(被験者2,6,8,10,13,14,15,16,20,22,25,26,27,29)で上昇、7名(被験者1,5,7,9,17,19,30)で測定値が低下していた。一方、被験者2,6,14,25,27,29の6名は着用後に逆に20以上上昇していた。なお、角質水分量と経皮水分喪失量を着用前後で比較したが、統計学的に有意差はなかった。
【0092】
以上の結果より安全性については、絹タンパク質加工済みインナーを2週間使用した全例で副作用は認めず、安全と判断した。絹タンパク質加工済みインナーは、健常人においては角質水分量に対し明らかな影響は示さないと考えられた。一方、経皮水分喪失量に対しては、基礎値の高い場合にはそれを是正する方向に働くことが考えられた。

【実施例6】
【0093】
本発明の繊維上にカチオン化層を形成し、さらにその上に絹タンパク質層を形成した場合の、加工生地の持つ保湿性の試験を行った。
【0094】
生地の加工は、キトサン10%溶液(大日精化工業(株)製)で行った。まず、上記キトサンを水道水に溶解し、2g/Lの濃度とした。浴比は20:1で、溶液温度を60℃に保ちながら、各生地を入れ、撹拌し30分間処理した。処理後、40℃のお湯で、10分間洗浄した。洗浄は2回行った。その後、自然乾燥させた。
【0095】
次に、繭毛羽を圧力釜などの高圧容器で、浴比1:20で、水温100〜130℃、1〜2時間抽出した主にセリシンを主成分とする絹タンパク質含有水溶液20mLとこの残渣にさらに浴比1:20になるよう水を加え、水温を140〜180℃、1〜2時間抽出した主にフィブロインを主成分とする絹タンパク質含有水溶液20mLの合計40mLを加えた水に、浴比1:20、40℃で30分間処理したナイロン生地を作製した。これを乾燥させて、タンパクを含浸させたインナーとした。
【0096】
試験方法は、高温多湿状態(40℃、90%RH)に4時間、標準状態に(20℃、65%)に4時間放置し、1時間毎の質量を測定し水分率を算出し、保湿性を求めた。
【0097】
また、洗濯回数による保湿性の変化を測定した。洗濯の条件は、JIS L 0217
繊維製品の取扱いに関する表示記号及びその方法 103 の方法を参考に「洗濯5分-脱水3分-すすぎ2分-脱水3分-すすぎ2分-脱水3分」の工程を洗濯1回分とした。
【0098】
保湿性の結果を表6に示す。
【表6】

【0099】
表6から、絹タンパク質加工品は、未加工品に比べて保湿性が高まることが明らかとなった。また、洗濯回数30回後でも未加工品に比べて高い保湿性があった。このことから、繊維上の絹タンパク質層には高い保湿性があることが検証できた。

【実施例7】
【0100】
これまでの実施例において、キトサンによる加工で繊維の表面電位は正になりダニアレルゲン等の除去に効果があることがわかった。また、これはナイロンでのみ評価であるが、さらに絹タンパク質を加工することで皮膚への安全性は認められ、また、皮膚の保湿性を保つ可能性があることがわかった。
【0101】
そこで、次に各生地をキトサン加工して、次に絹タンパク質で加工した場合のダニアレルゲンの吸着効果に対する評価を行った。
【0102】
生地の加工は、実施例3、4記載の方法と同様である。また、ダニアレルゲンの除去についても実施例3に記載の方法と同様に行った。対照区として何も加工しない各生地(編物)を使用した。
【0103】
結果を表7に示す。
【0104】
【表7】

【0105】
表から明らかなように、加工綿のみダニアレルゲンを除去できることが明らかとなった。また、ポリエステルは絹タンパク質で加工する前、キトサンでのみカチオン化加工した場合にはダニアレルゲンの効果が認められた。このことから、絹タンパク質はカチオン化した生地の表面電位を打ち消す方向に働くと考えられる。
【0106】
結果からナイロンには、素材自体にもダニアレルゲンの吸着効果は全くなく、加工したナイロンにもダニアレルゲンの除去効果は認められなかった。実施例4、5で行った実験では素材ナイロンを使用しており、綿を用いればさらに高い効果が期待できるものと思われる。
【0107】
これらの結果を総合すると、アレルゲンを除去する下着として最適なものは綿であり、キトサン等の高分子電解質でカチオン化することにより、表面電位を正に保持することによりダニアレルゲン等の除去を可能にし、さらに絹タンパク質で加工することにより皮膚の保湿性を高めることができる。
【0108】
これは、綿がポリエステルとは異なり表面積が大きく、綿繊維ではキトサンによるカチオン化層の一部が絹タンパク質層に覆われているためであると考えられる。これは図6のように絹タンパク質が積層している概念図で示すことができる。
【0109】
なお、ポリエステル等もキトサン等でカチオン化層を形成することにより、表面電位を正にすることができるため、ダニアレルゲン等の負に帯電しているタンパク質を除去する効果は認められる。さらに、ポリエステルについては部分的に絹タンパク質層を形成すれば、絹タンパク質加工後もダニアレルゲンの除去効果を綿同様保持できるものと考えている。これらの結果から、カチオン化層を形成した繊維表面に部分的に絹タンパク質層を形成するか、あるいは表面にカチオン化層のみ形成した繊維と表面に絹タンパク質層のみ形成した糸を混合して織物あるいは編みものにすることで高いアレルゲン物質除去作用を持ちさらに保湿性が高い繊維製品になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、これまでにはない全く新しい肌着等の繊維製品を提供するものである。本発明による加工技術は、実際の皮膚科での試験で安全性も認められた。実際に、アトピー性皮膚炎等で困っている人に役立ち、産業上の利用可能性は極めて高い。

【符号の説明】
【0111】
1 繊維
2 カチオン化層
3 絹タンパク質層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン系の表面処理を施すことで、繊維上に正に帯電した層を形成することによりアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品。

【請求項2】
前記カチオン系表面処理が第四級アンモニウム塩の自己組織化膜であることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品。

【請求項3】
前記第四級アンモニウム塩がポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドであることを特徴とする請求項2記載のアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品。

【請求項4】
請求項1記載のカチオン系表面処理がキトサンであることを特徴とするアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品。

【請求項5】
請求項1乃至4記載のアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品にさらにその表面上に繭または繭毛羽から抽出して得られる絹セリシンおよび絹フィブロインのうち少なくとも一つからなるタンパク質層を部分的に形成し、保湿性を持たせたアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品。

【請求項6】
請求項1乃至5記載の繊維製品の素材が綿であることを特徴とするアレルゲン物質を吸着除去する機能を付与した繊維製品。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−26054(P2012−26054A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166314(P2010−166314)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(301066888)株式会社アート (1)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】