説明

アレルゲン由来のアレルゴイド

本発明は、副作用の発生を減らすために、化学修飾によってアレルゲンからアレルゴイドを調製することに関する。詳細には、本発明は、対応する天然のアレルゲン物質に比べてアレルゲン性が少ない改変アレルゲンに関し、アレルゲン分子のリシン残基およびアルギニン残基の1級アミン基のすべてまたは一部が構造式(I)に示されるように修飾されていることを特徴とし、上記改変アレルゲンが下記の構造式(I)〔式中、RおよびR2は独立してH、C1-C5アルキル、任意にオルト位、メタ位、またはパラ位にてヒドロキシ、C1-C4アルコキシ、ハロゲン、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、メルカプト、C1-C4アルキルメルカプト基で置換されたフェニルから選択され;XはO、S、またはNR3を示し、R3はH、炭素数1から6のアルキル、フェニル、またはCNであり;R1はH、炭素数1から8のアルキル、フェニル、または炭素数が最大8のアリールアルキル、または複素環を含むアルキルを示し;protはアレルゲンのタンパク質残基を示し;nは修飾されたアルギニン基の数であって、1から、アレルゲンに存在するアルギニン基の数までの範囲であり;mは修飾されたリシン基の数であって、1から、アレルゲンに存在するリシン基の数までの範囲である〕を有することを特徴とする。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー疾患の免疫療法において抗アレルギーワクチンとして用いられる際に副作用を引き起こす危険性を減らすために、化学修飾によってアレルゲンからアレルゴイドを調製することに関する。
【0002】
アレルギー疾患は、免疫系の異常により引き起こされ、例えば主に、花粉、ダニ、上皮誘導体、膜翅類の昆虫の毒素、菌類の胞子、および種々の食物などの、それ自体は完全に無毒である偏在する物質(アレルゲンという用語で称される)に特異的な、IgEクラスの特定の抗体の産生により引き起こされる。このようなIgE抗体は、例えば粘膜型肥満細胞、好塩基球の膜上などの膜上に存在する特異的受容体に結合することができ、指向するアレルゲンと続いて反応することにより、伝達物質(とりわけヒスタミン)の放出を上記の細胞によって誘導することができ、この伝達物質が最終的に、アレルギー反応の真の促進物質である。アレルギー症候群は、鼻炎-結膜炎から蕁麻疹、喘息、アラフィラキシーショックにまで渡り、アナフィラキシーショックは致命的なこともある事象である。
【0003】
最近の概算では、工業国に住む人口の20%を超えるヒトがこの種の疾患に罹患していることを示しており、罹患し続ければ遂には、この種の疾患は、適切に治療しなければ、症状の悪化(例えば、鼻炎の後に喘息の発症)や、他のアレルゲンに対しても広がりうる感作の悪化を招く可能性があり、これは、罹患した患者の生活の質になお一層の悪影響を及ぼし、疾患の治療において用いられるべきより適切な治療方法の同定をより複雑にする。
【0004】
特異的減感作免疫療法(ITS)は、薬理学的療法がそれ自体は対症療法であるのみで、薬物の効果がなくなったときには症状がその後再発するのとは異なり、いくつかの免疫機構の活性化(これが、ITSにより誘導される臨床上の有益性の基礎である)によって、いわゆる「アレルギーマーチ」へと向かわせる原因に良い影響を与えることができる、アレルギー疾患の唯一の原因療法である(Clin Exp Allergy. 2008; 38:1074-88. Update on mechanisms of allergen injection immunotherapy. James LK, Durham SR.; Allergy. 2006; 61 Suppl 81:11-4. Immunological mechanisms of sublingual immunotherapy. Akdis CA, Barlan IB, Bahceciler N, Akdis M. )。
【0005】
ITSは、疾患を引き起こす同じ物質から出発して得られる、標準化された抽出物(ワクチン)の用量を増加させて投与することに、その本質がある。
【0006】
この方法では、患者の体内でこのような物質に対する一種の「免疫寛容」が次第に誘導される。免疫寛容は、「阻止抗体」とも称される、アレルゲン特異的IgG抗体により媒介される。阻止抗体は、IgE抗体がその指向するアレルゲンと反応するのを競合現象によって阻止することにより、アレルギー反応の誘発を阻害し、その結果として症状の出現を防止する。
【0007】
ITSに用いるワクチンは、タンパク質、すなわち糖タンパク質の大変複雑な混合物から構成され、この糖タンパク質は、アレルギーを有する対象が産生する特異的IgE抗体がその後指向する成分である。
【0008】
ITSの治療上の有効性は多くの臨床研究において示されているが、ワクチン投与後に起こりうる、これもまた重篤な望まない反応に関連する危険性から解放されてはいない(Immunopharmacol Immunotoxicol . 2008; 30:153-61. Local and systemic reactions occurring during immunotherapy: an epidemiological evaluation and a prospective safety-monitoring study. Ventura MT, Giuliano G, Buquicchio R, Accettura F, Carbonara M.; Immunol Allergy Clin North Am. 2007;27:295-307 Anaphylactic reactions during immunotherapy. Rezvani M, Bernstein DI; Allergy. 2008; 63:374. Anaphylactic shock because of sublingual immunotherapy overdose during third year of maintenance dose. Blazowski L.)。このような反応は、限局性の局所反応(蕁麻疹、紅潮(flush)、掻痒症など)から全身反応(症状の増悪、喘息、アナフィラキシーショックまで)までの範囲に及び得るものであり、このような危険性は、徐放型ワクチン(遅延放出型ワクチン)や注射経路の代替となる経路により投与されるワクチンの使用によってかなり減少してはいるが、これはいずれにせよ、アレルギー疾患治療においてITSの使用を制限したものであり、現在のところ、適切な診断調査の後に同定されるアレルギー患者全体に比べて少ない割合の患者に適用されている。
【0009】
食物アレルギーもまた、著しく増加している。数年前までは、この種のアレルギーに対する唯一の治療法は食餌から疑わしい食物を除去することであるようだと主張されてきたのとは異なり、近年では、アレルギー学の分野において、食物アレルギーのタイプに対しても特異的ITSアプローチという選択が適しているという考え方がだんだんと確立されている。しかしながら、食物アレルギーのタイプの治療に対して天然アレルゲンを使用することには、呼吸器アレルギータイプのITSにおいて認められるのと同様の制限(望まない作用の危険性)があるのは明らかである。実際のところ、このタイプのアレルギーにはしばしば、数ヶ月齢や数年齢の対象が含まれるので、このような危険性はさらに増悪し得る。
【0010】
近年、有効性がより高く、安全性がより高いワクチンの開発に対して大変な注目が集められてきた。特に、多かれ少なかれ選択的である化学修飾法であって、対象に投与された際に、アレルギーを有する対象が曝露される非修飾(天然)成分をもまた認識して特異的な症状を出現させ得るIgG抗体の形成を誘導する能力を意味する、その免疫原性を可能な限り保存することにより、ワクチンのアレルゲン可能性を減少させることを依然として目的とする化学修飾法を明らかにしたことにより、いわゆるアレルゴイドの開発に至った(J Allergy Clin Immunol. 1985; 76: 397-401. Modified forms of allergen immunotherapy. Grammer LC, Shaughnessy MA, Patterson R. ; Int Arc hAllergy Appl Immunol. 1971; 41:199-215. Preparation and properties of allergoids, derived from native pollen allergens by mild formalin treatment. Marsh DG)。
【0011】
食物をもまた起源とするアレルゲンのアレルゴイドの形態での開発、および特異的食物アレルギーの免疫療法におけるそれらの使用は、アレルギーを有する対象にある種の免疫寛容を与え、従って、対象が感作しているアレルゲンを極少量でも知らずに摂取した後に、対象自身の生命を脅かし得る反応の発生を、その対象のために避けるという意味で、実際のところ極めて重要であり得る。
【0012】
化学修飾により誘導される抽出物のアレルゲン可能性の減少の程度は、修飾に用いられる試薬の種類および/または抽出物の種類によって異なりうる。「修飾」試薬としてシアン酸カリウムを用いることにより、いわゆるカルバミル化された誘導体が得られ、これらの誘導体は、アレルゲン性が減少しており、かつ免疫原性が維持されていることを特徴とする(Allergy. 1996; 51:8-15. Monomeric chemically modified allergens: immunologic and physicochemical characterization. Mistrello G, Brenna O, Roncarolo D, Zanoni D, Gentili M, Falagiani P.)。
【0013】
しかしながら、シアン酸カリウムを用いて修飾される抽出物は、大変異なる成分からなるタンパク質混合物であるので、アミノ基の吸収線量から決定される修飾の程度は、存在するタンパク質の種類に厳密に関連しており、したがって、得られたデータは、修飾の程度の平均値を表していることに注意されたい。実際のところ、アレルゲンタンパク質の中には、シアン酸カリウムを用いた修飾によっては有意に効果が得られず、従って、そのアレルゲン活性の大部分を維持してしまうものがあることも起こり得る。修飾された抽出物のレベルでは、抽出物の構成成分によるアレルゲン活性の任意の保存は示すことができなかった。しかしながら、個々のアレルゲンの精製に用いられる様々な手法が、何年も渡り開発されてきた。したがって、化学修飾法を単一成分のレベルに広げることにより、今日では、シアン酸カリウムを用いて得ることができる単一成分のレベルでの置換度を示すことができる。例えば、ハウスダスト中に存在するヤケヒョウヒダニ属(Dermatophagoides pteronyssinus)のダニの主要なアレルゲンの1つであるDer p1アレルゲンの場合では、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いた反応により決定される修飾の程度は、抽出物の修飾の程度が約80%であるのに対し、50%を超えない。
【0014】
本発明の目的は、より高い耐容性を提供する、そして特に、先行技術のアレルゴイドにより示される、可能性のある望ましくない作用の危険性を、従来のアレルゲン療法に内在する減感作作用を減少させることなくさらに最小限にする、特異的免疫療法(ITS)のための調製物を提供することである。
【0015】
このような目的は、シアン酸カリウムまたは他の試薬を用いたカルバミル化反応またはチオカルバミル化反応による修飾の後に維持される残余のアレルゲン活性が、例えばフェニルグリオキサールまたは他の同様の試薬(グリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、p-ヒドロキシフェニルグリオキサールなど)などのジアルデヒドまたはジケトンを使用する第二の化学修飾法のおかげでさらに減少する、アレルゴイドを用いることにより達成される。シアン酸カリウム、または他のカルバミル化もしくはチオカルバミル化試薬が、リシン残基のε-アミノ基と特異的に反応するのに対し、フェニルグリオキサールは、タンパク質のアルギニン残基のグアニジン基と特異的に反応する(Blazer AN. Specific chemical modification of proteins. Annu Rev Biochem. 1970; 39:101-30)。アルギニン残基の修飾の程度はその後、Shahらにより記載されたようにして決定された(Shah MA, Tayyab S and Ali R. Probing Structure-activity relationship in diamine oxidase reactivities of lysine and arginine residues. Int. Journal of Biol. Macromolecules : 18; 77-81, 1996)。
【0016】
フェニルグリオキサール単独を用いた反応により実施される、アレルゲン抽出物または単一タンパク質の化学修飾によっては、そのアレルゲン活性を充分には減少させないことがわかった。同様に、修飾の順序を逆(フェニルグリオキサール、その後にシアン酸カリウム)にすると、アレルゲン可能性の減少に関して有望な結果は得られなかった。
【0017】
従って、本発明の目的は、詳細には、対応する天然のアレルゲン物質に比べてアレルゲン性が少ない改変アレルゲンであり、アレルゲン分子のリシン残基およびアルギニン残基の1級アミン基のすべてまたは一部が構造式(I)に示されるように修飾されていることを特徴とし、上記改変アレルゲンが、それぞれ(i)カルバミル化反応またはチオカルバミル化反応、および(ii)ジアルデヒドまたはジケトンとの反応による修飾の後、下記の構造式(I)
【化1】

【0018】
〔式中、
RおよびR2は独立してH、C1-C5アルキル、任意にオルト位、メタ位、またはパラ位にてヒドロキシ、C1-C4アルコキシ、ハロゲン、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、メルカプト、C1-C4アルキルメルカプト基で置換されたフェニルから選択され;
XはO、S、またはNR3を示し、R3はH、炭素数1から6のアルキル、フェニル、またはCNであり;
R1はH、炭素数1から8のアルキル、フェニル、または炭素数が最大8のアリールアルキル、または複素環を含むアルキルを示し;
protはアレルゲンのタンパク質残基を示し;
nは修飾されたアルギニン基の数であって、1から、アレルゲンに存在するアルギニン基の数までの範囲であり;
mは修飾されたリシン基の数であって、1から、アレルゲンに存在するリシン基の数までの範囲である〕
を有すると想定される。
【0019】
式(I)の好ましい改変アレルゲンは、Rが任意にオルト位、メタ位、またはパラ位にてヒドロキシ、C1-C4アルコキシ、ハロゲン、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、メルカプト、C1-C4アルキルメルカプト基で置換されたフェニルであり;R2がHである改変アレルゲンである。
【0020】
他の好ましい改変アレルゲンは、XがOまたはSであり;R1がHであり;好ましくはRおよびR2は上記に定義されたものである改変アレルゲンである。
【0021】
特に好ましい改変アレルゲンは、Rがフェニルであり;R1およびR2がHであり; XがOまたはSである改変アレルゲンである。
【0022】
例として、スキーム1に、シアン酸カリウムとのリシンの反応を示す。
【化2】

【0023】
下記のスキーム2は、アレルゴイドのアルギニン残基の、フェニルグリオキサールを用いた修飾反応の例を示す。
【化3】

【0024】
本発明の方法に用いられるアレルゲン物質は、例えばダニ、花粉、動物の上皮、菌類植物、食物由来タンパク質(ミルク、卵、穀類、モモ、リンゴなど)などの様々な原材料から、適切な溶媒(典型的には、水性溶媒)を用いたアレルゲンタンパク質の抽出により得ることができ、このようなアレルゲン物質はまた、上記の原材料から精製されるタンパク質から構成されるか、または、従来の分子生物学的手法により生成される組換え型で得ることができる。
【0025】
カルバミル化反応またはチオカルバミル化反応による修飾は、シアン酸のアルカリ金属塩(KCNOもしくはNaCNO)、または有機イソシアナートまたはチオシアナートを用いた処理により行われる。
【0026】
XがNR3である誘導体は、XがSである化合物から出発して、式R3-NH2の化合物を用いたグアニジル化反応により、従来からの当業者に知られた方法(例えば、向山試薬を用いるなど)に従って得ることができる。
【0027】
シアン酸カリウム(KCNO)を用いた抽出物の修飾については、この塩の最終濃度が0.1Mから1.5M、好ましくは0.4Mから0.8Mの範囲であり、pHを7から11、好ましくは9から9.6に任意に維持し、温度が室温から50℃、好ましくは35から40℃の範囲であってよく、総反応時間12から36時間、好ましくは16から24時間に渡って実施されるのが適切である。有機イソシアナートまたはイソチオシアナートを用いた修飾の場合には、これらの試薬がより反応性の高い物質であるので、反応は室温以下、好ましくは0℃から5℃の範囲の温度で実施されるべきであり、反応時間は30分間から8時間、好ましくは2から4時間の範囲であることができる。これらの試薬は水への溶解度が低いので、反応は相溶性の有機溶媒の存在下で実施することができる。
【0028】
反応終了時に、このようにして修飾された抽出物をゲル濾過して過剰量の試薬を除去し、適切な塩類溶液で平衡化する。
【0029】
シアン酸カリウムを用いた修飾の後における、抽出物を構成するアレルゲン分子に存在するリシンの-NH2基、または精製された単一アレルゲン分子もしくは組換え型単一アレルゲン分子のリシンの-NH2基の置換度は、トリニトロベンゼンスルホン酸を用いた分析により決定される(Habeeb, Anal. Bioch. 14, 328, 1966)か、または、リシン残基の消失とホモシトルリンの出現とを当業者に知られた適切な方法または機器分析を用いて分析することにより決定される。
【0030】
フェニルグリオキサール(PGO)を用いた修飾のために、前述の条件下でKCNOを用いて修飾されたサンプルに、0.1Mの量の炭酸水素ナトリウムを添加して、溶液のpHを8.0にする。サンプルのタンパク質濃度は、1から10mg/mL(抽出物)または0.1から2.5mg/mL(精製タンパク質)の範囲であり、Lowryに従って測定された(J. Biol. Chem, 1970:193, 265-275. Protein measurement With Folin Phenol reagent. Lowry, Rosebrough N. J., Farr A. L., Randall R.J.)。続いて、上述の溶液にPGOを加え、そのモル過剰量が100Mから1600M、好ましくは400Mから800Mの範囲になるようにする。フェニルグリオキサールの溶解を促進させるために、PGOを予めエチルアルコール中に約50 mg/mLの濃度で溶解させた。混合物は、30分間から8時間、好ましくは4時間に渡って、20から37℃、好ましくは25℃の温度で穏やかに攪拌し続けた。その後、このようにして得られた抽出物に適するバッファーに対して、反応物を透析またはゲル濾過する。アルギニン残基を修飾する他の試薬を用いる場合にも同様の方法に従う。
【0031】
同様の方法が、異なるジアルデヒドまたはジケトンを用いた修飾にも用いられる。
【0032】
アルギニン残基の置換度は、Shahに従って評価される。上述の方法を基にして、アルギニン残基の置換度は、PGOとの反応の結果として形成されるジフェニル-アルギニン複合体についての250nmでのモル吸光係数(11000M-1cm-1)を考慮することにより決定される。
【0033】
一般に、リシンの修飾された1級アミン基の割合の平均値は75%から100%の範囲、典型的には約90%であり、一方、置換アルギニン残基の割合の平均値は25%から100%の範囲、典型的には約40%である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、KCNOまたはKCNO/フェニルグリオキサールを用いた修飾の前(天然型)と後のDP抽出物のアレルゲン活性の評価を示す。
【図2】図2は、KCNO/フェニルグリオキサールを用いて修飾されたDP抽出物で免疫されたマウスの血清中のIgG反応性を示す。
【図3】図3は、DP抽出物(天然、KCNO修飾、またはKCNO/フェニルグリオキサール修飾)のタンパク質プロファイルを示す。
【図4】図4は、KCNOまたはKCNO/フェニルグリオキサールを用いた修飾の前(天然)と後のDer p1のアレルゲン活性の評価を示す。
【図5】図5は、KCNO/フェニルグリオキサールを用いて修飾されたDer p1で免疫されたマウスの血清中のIgG反応性を示す。
【図6】図6は、Der p1アレルゲン(天然、KCNO修飾、またはKCNO/フェニルグリオキサール修飾)のプロファイルを示す。
【図7】図7は、KCNOまたはKCNO/フェニルグリオキサールを用いた修飾の前(天然)と後の卵アルブミンのアレルゲン活性の評価を示す。
【図8】図8は、KCNO/フェニルグリオキサールを用いて修飾された卵アルブミンで免疫されたマウスの血清中のIgG反応性を示す。
【図9】図9は、卵アルブミン(天然、KCNO修飾、またはKCNO/フェニルグリオキサール修飾)のプロファイルを示す。
【図10】図10は、KCNOまたはKCNO/フェニルグリオキサールを用いた修飾の前(天然型)と後の組換えPru p3のアレルゲン活性の評価を示す。
【図11】図11は、KCNO/フェニルグリオキサールを用いて修飾された組換えPru p3で免疫されたマウスの血清中のIgG反応性を示す。
【図12】図12は、KCNOまたはKCNO/フェニルグリオキサールを用いた修飾の前(天然型)と後の組換えPru p3アレルゲンのプロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
実施例の部
上述の方法に従い、KCNOとの反応後に得られた、すなわち二重のKCNO/PGO置換を有するアレルゴイドのサンプルが調製される。
【0036】
その後、「二重に」修飾されたサンプルは、EAST阻害法によるアレルゲン可能性、SDS-PAGEによる分子サイズ、およびELISAによる免疫原性に関して、KCNO修飾サンプルおよび天然サンプルと比較される。
【0037】
本発明はここで、抽出物の形態および抽出物自体から精製された単一のタンパク質の形態の両方の形態での、または商業的、すなわち分子生物学的手法による組換え形態での、いくつかのアレルゲンのKCNO/PGO修飾方法に関連して、非限定的な実施例によってより詳細に説明される。治療用のアレルゲン抽出物の例としては、その偏在性のおかげで、世界中の至る所で特異的なアレルギーの原因となり得るために、DPダニ抽出物が選択されてきた。この意味で、DP抽出物はこの種類の代表的なものと考えることができる。しかしながら、Der p1として知られるアレルゲン(同一の抽出物から適切な精製過程により得られるDP抽出物の主要なアレルゲンの1つであり、KCNOを用いた修飾の後においてもその免疫原性が大部分維持される)などの単一の精製タンパク質に対しても、および食物由来の精製タンパク質(これもまた、アレルギーを起こした対象にとっては不幸にも死に至る結果となる可能性がある、特異的なアレルギーの原因物質である)に対してもまた、化学修飾法が広げられてきた。
【0038】
したがって、食物由来の2つのアレルゲンもまた、本発明者らの実験にて検討された。すなわち、卵アルブミン(OVA)(卵白から精製される市販タンパク質であり、卵白はしばしば、小児における特異的アレルギーの原因である)と、LTPとして知られるアレルゲン(脂質転移タンパク質、Pru p3;モモ抽出物の主要なアレルゲンであるが、多くの他の植物性食物に存在するもので、これもまた、さらに重篤なアレルギー反応の原因となる)である。後者のアレルゲンは、分子生物学的手法を用いて組換え形態で得られた。各々の実施例は、関連する試験法に付随して記載される。
【実施例1】
【0039】
ヤケヒョウヒダニ属(Dermatophagoides pteronyssinus)のダニ抽出物の、KCNOによる、およびこれに続くKCNO/PGO結合による化学修飾法
ヤケヒョウヒダニ属(Dermatophagoides pteronyssinus)のダニ抽出物(Greer Labs, Lenoir, NC, USA)は、エチルエーテルによる脱脂の後、0.05%のアジドを含む100mLのPBS(0.015M リン酸バッファー、0.135M NaCl、pH 7.2)(PBS-A)を5gの乾燥ダニの体に加え、その後、ダニの外骨格を壊してダニの中に含まれているアレルゲンタンパク質の抽出を容易にするために、混合物を1分間超音波処理(Branson Ultrasonics, Sonifier 450, Darbury CT, USA)することにより調製した。最後に、調製物を4℃で一晩攪拌した。14000rpmで30分間の遠心分離および不溶性ペレットの除去の後、上清を蒸留水に対して透析し、凍結乾燥させた。
【0040】
凍結乾燥抽出物をその後、20mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH 6.86)中に加え、Lowryに従って、タンパク質濃度を2.5 mg/mLにした。続いて、この抽出物をSephadex(TM) G-25 (GE Healthcare Uppsala, Sweden)にて、同じバッファーで溶出してゲル濾過し、排除ピークを採取した。この操作は、引き続く化学修飾法において妨げとなり得る低分子量化合物を除去するために行われる。50mLのこの溶液に、1.92gの四ホウ酸ナトリウム十水和物と2.05gのシアン酸カリウムを加える。この塩をゆっくり攪拌することにより溶液にし、1 M NaOHを用いてpHを任意に9.3に調整した。得られた溶液を密閉フラスコ中、サーモスタットで40℃に調温した浴中で16時間ゆっくり攪拌し続けた。最初の数時間の間、pHをモニターし、1Mリン酸を添加することにより任意に調整した。このようにして得られた調製物を、G-25カラムにて再びゲル濾過して過剰量の試薬を除去し、Millipore 0.22ミクロン膜にて滅菌した。引き続く分析には、その最小量を用いた。抽出物のアミン基の置換割合は、TNBS法によって評価され、その結果76%であった。KCNO修飾抽出物の残りは、下記の実験条件の下でPGOとの第二の化学修飾法に用いた。
【0041】
タンパク質濃度2.0mg/mLのKCNO修飾DP抽出物、すなわち修飾前のDP抽出物(Lowry)を、0.1Mの炭酸水素ナトリウムの添加によってpH8にする。続いて、KCNO修飾サンプルに、タンパク質に関して過剰量の800MのPGOを添加した。サンプルが抽出物であって単一のタンパク質ではないので、モル過剰量を算出するために、DP抽出物アレルゲンの既知の配列をすべて、UniProtKBデータベースからアンロード(unloaded)した。既知のアレルゲンの各々の分子量、特許請求の範囲に記載のアミノ酸配列に基づくアルギニン残基の数、およびDP抽出物のSDS-PAGE後の可視バンドの強度に基づく様々なアレルゲンの相対量を考慮することにより、DP抽出物について、平均分子量は40kDaであり、アルギニン残基の平均個数は15であると考えられることが任意に確立された。PGOの溶解を促進するために、PGOを濃度0.3Mでエチルアルコール中に予め溶解させた。混合物を25℃で4時間穏やかに攪拌した。その後反応物は、20mM PBSに対して透析またはゲル濾過する。検討されているサンプルのアルギニン残基の置換度は、37%という結果である。続いて、可能である場合には、KCNO/PGO修飾DPサンプルは、EAST阻害法によるアレルゲン可能性、ELISAによる免疫原性、およびSDS-PAGEによる分子サイズに関して、KCNO修飾DPサンプルおよび天然DPサンプルと比較される。
【0042】
EAST阻害法によるアレルゲン性の評価
この目的のために、予めグルタルアルデヒドで処理したポリスチレンビーズを、ビーズ当たりのタンパク質が1μgの比率で、DP抽出物を用いて活性化した。
【0043】
同時に、ダニアレルギーの臨床記録を有する、DP抽出物に対してアレルギーを示す患者から選択して、ヒト貯蔵血清を調製する。
【0044】
ELISAプレートのウェルに、予め同じ濃度にしておいた検討するサンプル(天然DP抽出物、KCNO修飾DP抽出物、KCNO/PGO修飾DP抽出物)のPBS-2% BSA(希釈剤)中の連続希釈液30μLと、20μLの貯蔵血清とを加え、混合物を室温で2時間攪拌する。同時に、阻害剤が希釈剤から構成される、陽性対照サンプルを調製する。2時間終了時に、DP活性化ビーズと50μLのPBS-2% BSAとを各ウェルに加え、プレートを室温で一晩攪拌し続ける。その後、ビーズを洗浄し、100μLのペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgE抗体溶液を各ウェルに加え、攪拌しながら2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加えて、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、50μLの1M HClを添加することにより消失し、その後、100μLの各ウェルからの混合物を新しいプレートに移し、呈色強度を450nmでの分光光度計の記録により評価する。
【0045】
検出された光学密度を陽性対照と比較した阻害割合に変換し、Y軸に阻害割合を示し、X軸に試験に使用したサンプルの容量の対数を示すグラフを作成する。示されたデータ点から線形回帰直線を作図し、線形回帰直線からIC50値を計算する。IC50値は、ビーズに対するIgE結合の50%阻害に必要なサンプルの容量(マイクロリットル)を示す。この値は、検討しているサンプルのアレルゲン可能性に逆比例する。
【0046】
図1に示された結果は、KCNOを用いた修飾によりアレルゲン活性が18倍減少し、一方、KCNO/PGOを組み合わせた修飾により相乗効果を奏して、DP抽出物のアレルゲン活性が227倍減少することを示す。KCNO/PGO修飾後のDP抽出物のアレルゲン活性がこのようにさらに減少するのは、Der p1アレルゲンの二重修飾の効果に因るものである可能性があるように思われる(実施例2を参照)。
【0047】
予め免役されたマウスの血清についての、ELISAによるKCNO/PGO修飾DP抽出物の免役原性の評価
a)マウスの免疫化プロトコール
4匹のBalb/c株雌マウス(Charles River)からなる群を、100μLのフロイント完全アジュバントと100μLの生理学的溶液中20μgのKCNO/PGO修飾DP抽出物とからなるエマルションを200μL用いて、皮下免疫した。他の3回の追加免疫は、完全アジュバントを不完全アジュバントに置き換えることにより、2週間の間隔で実施された。最後の免疫化の7日後、マウスの尾からの採血を実施し、このサンプルは、免疫原に対する抗体反応、ならびに天然タンパク質を認識する能力に関し、ELISAによって検査される。
【0048】
b)試験方法
天然の非修飾DP抽出物に対してもまた指向されるIgG反応をマウスにおいて誘導する能力を意味する免役原性を、下記のプロトコールに従って投与された場合にKCNO/PGO修飾DP抽出物が維持するかどうか証明するために、試験は実施される。この目的のために、50mM炭酸塩/炭酸水素塩バッファー(pH 9.6)中の等量(0.25μg)のDP抽出物(天然またはKCNO/PGO修飾)を、4℃で16時間インキュベーションすることにより、ELISAアッセイ用ポリスチレンプレートのウェルに吸着させた。その後、洗浄溶液(0.05% Tween 20を含む60mMリン酸バッファー;pH 6.5)を用いてウェルを洗浄し、希釈溶液(150mMリン酸バッファー(pH 7.4)中、25%ウマ血清、1mM EDTA、0.05% Tween 20、0.01%チオメルサール)を用いて、未反応の吸着サイトを飽和した。等量(100μL)のマウス貯蔵血清10倍連続希釈液(希釈バッファー中)を各ウェルに加え、25℃で2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、ウサギペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG血清を、希釈バッファー中1:2000の希釈度で加え、混合物を25℃で1.5時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加え、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、100μLの1N HClを添加することにより消失し、450nmでの分光光度計の記録により評価する。免疫するのに用いられた抽出物のタンパク質と非修飾(天然)対照物のタンパク質との両方に対する、KCNO/PGO修飾DP抽出物を用いて免疫したマウスの貯蔵血清の特異的IgG反応性に関する結果は、図2に示す。観察することができるように、KCNO/PGO修飾DP抽出物を用いた処理により誘導されるIgG抗体は、天然DPタンパク質もまた(修飾タンパク質に対する濃度よりも低い濃度でではあるが)認識することができ、このことは、天然DP抽出物中に存在するエピトープに類似するエピトープTが、KCNO/PGO修飾DP抽出物中において保存されることを示す。したがって、KCNO/PGO修飾抽出物は、免疫系を適切に刺激する能力を維持し、天然DP抽出物のタンパク質に対してもまた指向する特異的IgG抗体を産生する。
【0049】
この観察は、KCNO/PGO修飾DP抽出物が、アレルゲン活性がさらに減少することから考えて、天然DPタンパク質に対してもまたIgG反応を潜在的に誘導することができる状態を維持することを意味するので、ヒトに関連する場合には重要であり、そして、したがって、特異的IgG抗体の産生はITS(Int Arch Allergy Immunol. 2003; 132: 13-24. Renaissance of the blocking antibody concept in type I allergy., Flicker S, Valenta R)の治療有効性の発現において重要な要素であるので、臨床上の有益性を潜在的に引き出すことができる。
【0050】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
電気泳動は、パッケージ製品である、4〜12%勾配のアクリルアミドゲルを用いて実施され、製造者の指示書に従って用いられた(NuPAGE(登録商標) Novex(登録商標) mini gels, Invitrogen, Milan)。この中性pHバッチ電気泳動システムによって、本発明者らが対象とする分子量範囲におけるバンドをよりよく分析することができる。
【0051】
DP抽出物サンプル(天然、またはKCNO修飾もしくはKCNO/PGO修飾)は、還元条件下(5% 2-メルカプトエタノールの存在下)で、同量(20μg)のサンプルをゲルにのせることにより、上記の手法によって評価された。分離は、装置をMicrocomputer Electrophoresis Power Supply 400/1000に接続し、180mAの一定の電流を約1時間流すことにより実施される。最後に、ゲルをコロイドクーマシーで染色する(Colloidal Blue staining kit, Novex(登録商標), Invitrogen)。図3に見ることができる結果は、天然DPサンプルとKCNOまたはKCNO/PGOで修飾されたサンプルとの両方において、多数のバンドが存在することを示す。KCNO/PGOによる反応によりもたらされる分子サイズの増加可能性をこのような複雑なサンプルにおいて評価することが事実上困難であるとしても、SDS-PAGEプロファイルは、実質的に同様に思われる。しかしながら、単一タンパク質について実施される逐次実施例においては、KCNO/PGOを用いた修飾が、検討しているタンパク質の分子サイズの有意な増加を伴わないことは明らかである。
【実施例2】
【0052】
KCNOを用いて精製された、およびこれに続くKCNO/PGO結合による、主要アレルゲンDer p1の化学修飾法
a)DP抽出物からのDer p1アレルゲンの精製ステップ
Der p1アレルゲンは、たとえばCNBr-Sepharose (GE Helthcare, Milan)などの適切なマトリックスに共有結合した特異的モノクローナル抗体(イソタイプIgGl, Lofarma laboratoriesで製造)を用いて、製造者によって指示される方法に従って、アフィニティクロマトグラフィーによりDP抽出物から精製された。カラム中に保持されたDer p1アレルゲンは、5 mMグリシン、50%エチレングリコールから構成されるバッファー(pH 10.0)を用いてカラムから溶出される。精製されたアレルゲンは、そのモル吸光係数(E280)(47330に等しい)、したがって濃度1mg/mLでの吸光度(1.89に等しい)を考慮することにより、280nmでの分光光度計の記録によって定量した。最後に、1%のサッカロース存在下、Der p1を凍結乾燥させた。
【0053】
その後、凍結乾燥Der p1サンプルを、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 6.86)中に入れ、タンパク質濃度が0.2mg/mLになるようにする。KCNOを用いた修飾のために、50.25mgの無水四ホウ酸ナトリウムと101.4mgのシアン酸カリウムを、2.5mLのDer p1溶液に加える。この塩をゆっくり攪拌することにより溶液にし、1 M NaOHを用いてpHを任意に9.3に調整した。得られた溶液を密閉フラスコ中、サーモスタットで40℃に調温した浴中で16時間ゆっくり攪拌し続けた。最初の数時間の間、pHをモニターし、1Mリン酸を添加することにより任意に調整した。このようにして得られた調製物を、G-25カラムにて再びゲル濾過して過剰量の試薬を除去し、Millipore 0.22ミクロン膜にて滅菌した。引き続く分析には、その最小量を用いた。抽出物のアミン基の置換割合は、TNBS法によって評価され、その結果50%であった。KCNO修飾サンプルの残りは、下記の実験条件の下でフェニルグリオキサールとの第二の化学修飾法に用いた。
【0054】
タンパク質濃度0.14mg/mL(Abs 280nm)のKCNO修飾Der p1サンプルは、0.1 M炭酸水素ナトリウムの添加によりpH 8にする。次に、タンパク質に対して過剰量の800MのPGOをそれに加える。モル過剰量を算出するために、本発明者らは、UniProtKBデータベースに従い、Der p1アレルゲンについて分子サイズを25KDであると考え、このことから、アルギニン残基の数は15であるという結果を得た。PGOの溶解を促進するために、PGOを濃度0.15Mでエチルアルコール中に予め溶解させた。混合物を25℃で4時間軽く攪拌した。その後反応物は、20mM PBSに対して透析またはゲル濾過する。アルギニン残基の置換度は、41%という結果である。続いて、可能である場合には、KCNO/PGO修飾Der p1サンプルは、EAST阻害法によるアレルゲン可能性、ELISAによる免疫原性、およびSDS-PAGEによる分子サイズに関して、KCNO修飾サンプルまたは天然サンプルと比較される。
【0055】
EAST阻害法によるアレルゲン性の評価
この目的のために、予めグルタルアルデヒドで処理したポリスチレンビーズを、ビーズ当たりのタンパク質が1μgの比率で、Der p1を用いて活性化した。
【0056】
同時に、ダニアレルギーの臨床記録を有する、DP抽出物に対してアレルギーを示す患者から選択して、ヒト貯蔵血清を調製する。
【0057】
ELISAプレートのウェルに、予め同じ濃度にしておいた検討するサンプル(天然Der p1、KCNO修飾Der p1、KCNO/PGO修飾Der p1)のPBS-2% BSA(希釈剤)中の連続希釈液30μLと、20μLの貯蔵血清とを加え、混合物を室温で2時間攪拌する。同時に、阻害剤が希釈剤から構成される、陽性対照サンプルを調製する。2時間終了時に、Der p1活性化ビーズと50μLのPBS-2% BSAとを各ウェルに加え、プレートを室温で一晩攪拌し続ける。その後、ビーズを洗浄し、100μLのペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgE抗体溶液を各ウェルに加え、攪拌しながら2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加えて、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、50μLの1N HClを添加することにより消失し、その後、100μLの各ウェルからの混合物を新しいプレートに移し、呈色強度を450nmでの分光光度計の記録により評価する。
【0058】
検出された光学密度を陽性対照と比較した阻害割合に変換し、Y軸に阻害割合を示し、X軸に試験に使用したサンプルの容量の対数を示すグラフを作成する。示されたデータ点から線形回帰直線を作図し、線形回帰直線からIC50値を計算する。IC50値は、ビーズに対するIgE結合の50%阻害に必要なサンプルの容量(マイクロリットル)を示す。この値は、検討しているサンプルのアレルゲン可能性に逆比例する。
【0059】
図4に示された結果は、KCNOを用いた修飾により、Der p1のアレルゲン活性が16倍減少し、一方、KCNO/PGOを用いた修飾により相乗効果を奏して、Der p1のアレルゲン活性が303倍減少することを示す。
【0060】
予め免役されたマウスの血清についての、ELISAによるKCNO/PGO修飾Der p1の免役原性の評価
a)マウスの免疫化プロトコール
4匹のBalb/c株雌マウス(Charles River)からなる群を、100μLのフロイント完全アジュバントと100μLの生理学的溶液中20μgのKCNO/PGO修飾Der p1とからなるエマルションを200μL用いて、皮下免疫した。他の3回の追加免疫は、完全アジュバントを不完全アジュバントに置き換えることにより、2週間の間隔で実施される。最後の免疫化の7日後、採血を実施し、免疫原に対するIgG抗体反応、ならびに天然タンパク質を認識する能力を、ELISAによって検査する。
【0061】
b)試験方法
天然の非修飾Der p1に対してもまた指向されるIgG反応をマウスにおいて誘導する能力を意味する免役原性を、下記のプロトコールに従って投与された場合にKCNO/PGO修飾Der p1が維持するかどうか証明するために、試験は実施される。この目的のために、50mM炭酸塩/炭酸水素塩バッファー(pH 9.6)中の等量(0.1μg)のDer p1(天然またはKCNO/PGO修飾)を、4℃で16時間インキュベーションすることにより、ELISAアッセイ用ポリスチレンプレートのウェルに吸着させた。その後、洗浄溶液(0.05% Tween 20を含む60mMリン酸バッファー;pH 6.5)を用いてウェルを洗浄し、希釈溶液(150mMリン酸バッファー(pH 7.4)中、25%ウマ血清、1mM EDTA、0.05% Tween 20、0.01%チオメルサール)を用いて、未反応の吸着サイトを飽和した。等量(100μL)のマウス貯蔵血清10倍連続希釈液(希釈バッファー中)を各ウェルに加え、25℃で2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、ウサギペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG血清を、希釈バッファー中1:2000の希釈度で加え、混合物を25℃で1.5時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加え、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、100μLの1N HClを添加することにより消失し、450nmでの分光光度計の記録により評価する。免疫するのに用いられたアレルゲンと非修飾(天然)対照物との両方に対する、KCNO/PGO修飾Der p1を用いて免疫したマウスの貯蔵血清の特異的IgG反応性に関する結果は、図5に示す。観察することができるように、KCNO/PGO修飾Der p1を用いた処理により誘導されるIgG抗体は、天然Der p1タンパク質もまた(修飾タンパク質に対する濃度よりも低い濃度でではあるが)認識することができ、このことは、天然対照物中に存在するエピトープに類似するT細胞エピトープが、KCNO/PGO修飾Der p1中において保存されることを示す。したがって、KCNO/PGO修飾Der p1は、免疫系を適切に刺激する能力を維持し、天然Der p1に対してもまた指向する特異的IgG抗体を産生する。
【0062】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
電気泳動は、パッケージ製品である、4〜12%勾配のアクリルアミドゲルを用いて実施され、製造者の指示書に従って用いられた(NuPAGE(登録商標) Novex(登録商標) mini gels, Invitrogen, Milan)。この中性pHバッチ電気泳動システムによって、本発明者らが対象とする分子量範囲におけるバンドをよりよく分析することができる。
【0063】
Der p1サンプル(天然、またはKCNO修飾もしくはKCNO/PGO修飾)は、還元条件下(5% 2-メルカプトエタノールの存在下)で、同量(5μg)のサンプルをゲルにのせることにより、上記の手法によって評価された。分離は、装置をMicrocomputer Electrophoresis Power Supply 400/1000に接続し、180mAの一定の電流を約1時間流すことにより実施される。最後に、ゲルをコロイドクーマシーで染色する(Colloidal Blue staining kit, Novex(登録商標), Invitrogen)。図6に表される結果は、検討しているサンプルのプロファイルに差はないことを示しており、したがって、このことは、Der p1アレルゲンの分子サイズがKCNO/PGOを用いた反応によっては変更されず、修飾された場合にもまた、そのモノマー型を維持することを示している。
【実施例3】
【0064】
KCNOを用いた、およびこれに続くKCNO/PGO結合による、主要アレルゲン 卵アルブミン(OVA)の化学修飾法
適切な量の、卵白から精製された市販OVAアレルゲン(Sigma Aldrich, Milan)を秤量し、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 6.86)中に入れ、Lowryに従って、タンパク質濃度が2mg/mLになるようにする。KCNOを用いた修飾のために、50.25mgの四ホウ酸ナトリウム十水和物と101mgのシアン酸カリウムを、2.5mLのOVA溶液に加える。この塩をゆっくり攪拌することにより溶液にし、1M NaOHを用いてpHを任意に9.3に調整した。得られた溶液を密閉フラスコ中、サーモスタットで40℃に調温した浴中で16時間ゆっくり攪拌し続けた。最初の数時間の間、pHをモニターし、1Mリン酸を添加することにより任意に調整した。このようにして得られた調製物を、G-25カラムにて再びゲル濾過して過剰量の試薬を除去し、Millipore 0.22ミクロン膜にて滅菌した。引き続く分析には、その最小量を用いた。アレルゲンのアミン基の置換割合は、TNBS法によって評価され、その結果82%であった。KCNO修飾サンプルの残りは、下記の実験条件の下でフェニルグリオキサールとの第二の化学修飾法に用いた。
【0065】
タンパク質濃度1.4mg/mL(Lowry)のKCNO修飾OVAサンプルは、0.1 M炭酸水素ナトリウムの添加によりpH 8にする。次に、タンパク質に対して過剰量の800MのPGOをこれに加える。モル過剰量を算出するために、本発明者らは、UniProtKBデータベースに従い、OVAアレルゲンについて分子サイズを43KDであると考え、このことから、アルギニン残基の数は15であるという結果を得た。PGOの溶解を促進するために、PGOを濃度0.3Mでエチルアルコール中に予め溶解させた。混合物を25℃で4時間軽く攪拌した。その後反応物は、20mM PBSに対して透析またはゲル濾過する。サンプルのアルギニン残基の置換度は、35%という結果である。続いて、可能である場合には、KCNO/PGO修飾OVAサンプルは、EAST阻害法によるアレルゲン可能性、ELISAによる免疫原性、およびSDS-PAGEによる分子サイズに関して、KCNO修飾サンプルまたは天然サンプルと比較される。
【0066】
EAST阻害法によるアレルゲン性の評価
この目的のために、予めグルタルアルデヒドで処理したポリスチレンビーズを、ビーズ当たりのタンパク質が1μgの比率で、OVAを用いて活性化した。
【0067】
同時に、特定の血清学的検査で確認された、卵アレルギーの臨床記録を有する患者から選択して、ヒト貯蔵血清を調製する。
【0068】
ELISAプレートのウェルに、予め同じ濃度にしておいた検討するサンプル(天然OVA、KCNO修飾OVA、KCNO/PGO修飾OVA)のPBS-2% BSA(希釈剤)中の連続希釈液30μLと、20μLの貯蔵血清とを加え、混合物を室温で2時間攪拌する。同時に、阻害剤が希釈剤から構成される、陽性対照サンプルを調製する。2時間終了時に、OVA活性化ビーズと50μLのPBS-2% BSAとを各ウェルに加え、プレートを室温で一晩攪拌し続ける。その後、ビーズを洗浄し、100μLのペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgE抗体溶液を各ウェルに加え、攪拌しながら2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加えて、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、50μLの1N HClを添加することにより消失し、その後、100μLの各ウェルからの混合物を新しいプレートに移し、呈色強度を450nmでの分光光度計の記録により評価する。
【0069】
検出された光学密度を陽性対照と比較した阻害割合に変換し、Y軸に阻害割合を示し、X軸に試験に使用したサンプルの容量の対数を示すグラフを作成する。示されたデータ点から線形回帰直線を作図し、線形回帰直線からIC50値を計算する。IC50値は、ビーズに対するIgE結合の50%阻害に必要なサンプルの容量(マイクロリットル)を示す。この値は、検討しているサンプルのアレルゲン可能性に逆比例する。
【0070】
図7に示された結果は、KCNOを用いた修飾により、OVAのアレルゲン活性が178倍減少し、一方、KCNO/PGOを用いた修飾により、OVAのアレルゲン性の更なる減少がもたらされ、より正確にはOVAのアレルゲン活性が1687倍減少することを示しており、これは、このケースにおいてもまた、一連のKCNO/PGO結合が相乗効果を奏することを示す。
【0071】
予め免役されたマウスの血清についての、ELISAによるKCNO/PGO修飾OVAの免役原性の評価
a)マウスの免疫化プロトコール
4匹のBalb/c株雌マウス(Charles River)からなる群を、100μLのフロイント完全アジュバントと100μLの生理学的溶液中20μgのKCNO/PGO修飾OVAとからなるエマルションを200μL用いて、皮下免疫した。他の3回の追加免疫は、完全アジュバントを不完全アジュバントに置き換えることにより、2週間の間隔で実施される。最後の免疫化の7日後、マウスの尾から採血を実施し、免疫原に対する抗体反応、ならびに天然タンパク質を認識する能力を、ELISAによって検査する。
【0072】
b)試験方法
天然の非修飾OVAに対してもまた指向されるIgG反応をマウスにおいて誘導する能力を意味する免役原性を、下記のプロトコールに従って投与された場合にKCNO/PGO修飾OVAアレルゲンが維持するかどうか証明するために、試験は実施される。この目的のために、50mM炭酸塩/炭酸水素塩バッファー(pH 9.6)中の等量(0.1μg)のOVA(天然またはKCNO/PGO修飾)を、4℃で16時間インキュベーションすることにより、ELISAアッセイ用ポリスチレンプレートのウェルに吸着させた。その後、洗浄溶液(0.05% Tween 20を含む60mMリン酸バッファー;pH 6.5)を用いてウェルを洗浄し、希釈溶液(150mMリン酸バッファー(pH 7.4)中、25%ウマ血清、1mM EDTA、0.05% Tween 20、0.01%チオメルサール)を用いて、未反応の吸着サイトを飽和した。等量(100μL)のマウス貯蔵血清10倍連続希釈液(希釈バッファー中)を各ウェルに加え、25℃で2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、ウサギペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG血清を、希釈バッファー中1:2000の希釈度で加え、混合物を25℃で1.5時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加え、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、100μLの1N HClを添加することにより消失し、450nmでの分光光度計の記録により評価する。免疫するのに用いられたアレルゲンと非修飾(天然)対照物との両方に対する、KCNO/PGO修飾OVAを用いて免疫したマウスの貯蔵血清の特異的IgG反応性に関する結果は、図8に示す。示されているように、KCNO/PGO修飾OVAを用いた処理により誘導されるIgG抗体は、天然OVAタンパク質もまた(修飾タンパク質に対する濃度よりも低い濃度でではあるが)認識することができ、このことは、天然対照物中に存在するエピトープに類似するT細胞エピトープが、KCNO/PGO修飾OVA中において保存されることを示す。したがって、KCNO/PGO修飾OVAは、免疫系を適切に刺激する能力を維持し、天然OVAに対してもまた指向する特異的IgG抗体を産生する。
【0073】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
電気泳動は、パッケージ製品である、4〜12%勾配のアクリルアミドゲルを用いて実施され、製造者の指示書に従って用いられた(NuPAGE(登録商標) Novex(登録商標) mini gels, Invitrogen, Milan)。この中性pHバッチ電気泳動システムによって、本発明者らが対象とする分子量範囲におけるバンドをよりよく分析することができる。
【0074】
OVAサンプル(天然、またはKCNO修飾もしくはKCNO/PGO修飾)は、還元条件下(5% 2-メルカプトエタノールの存在下)で、同量(5μg)のサンプルをゲルにのせることにより、上記の手法によって評価された。分離は、装置をMicrocomputer Electrophoresis Power Supply 400/1000に接続し、180mAの一定の電流を約1時間流すことにより実施される。最後に、ゲルをコロイドクーマシーで染色する(Colloidal Blue staining kit, Novex(登録商標), Invitrogen)。図9に表される結果は、OVAアレルゲンの分子サイズがKCNO/PGOを用いた反応によっては有意には変更されず、修飾された場合にもまた、そのモノマー型を維持することを示している。
【実施例4】
【0075】
KCNO結合またはKCNO/PGO結合を用いた、組換え型で得られる主要モモアレルゲンPru p3の化学修飾法
大腸菌(E.coli)におけるrPru p3アレルゲンの産生ステップ
Pru p3 cDNAは、クレムソン大学ゲノム研究所(Genomics Institute of Clemson University(USA))により提供された、PP LEa0029C22Fクローン(GenBank, Acc. No. BU047210)中に含まれるヌクレオチド配列AY792996を増幅することにより得られる。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)増幅反応に用いられたオリゴヌクレオチドは、Pru p 3-6H ECO (5' ccg gaa ttc cat atg cat cac cat cac cat cac ata aca tgt ggc caa gtg)とPru p 3 Bam (5' cgc gga tcc tca ctt cac ggt ggc gc)であり、成熟タンパク質に対応する転写物の5’および3’末端配列に相当する。下線を引いた配列は、増幅および発現ベクターにおけるクローニングに必要な、制限酵素Eco R I、Nde I、およびBam H Iの切断部位であり、6個のヒスチジン残基をコードする配列をイタリックで強調表示する。得られたcDNAは、精製した後、発現ベクターに挿入され、増幅され、自動配列決定(M-Medical/MWG-Biotech)により配列の正確性を確かめられた。
【0076】
Pru p3は、抗生物質(100μg/mL Amp、15μg/mL Kan、および12.5μg/mL Tet)の存在下37℃で増殖するEscherichia coli BL21 Origami (DE3)細胞(Stratagene)において、OD600=0.6に相当する密度にまで発現し、この発現は、培養培地に1mM IPTGを添加することにより誘導される。25℃で16時間の増殖の後、細胞を遠心分離によって回収し、50mM NaH2PO4(pH 8)中に再懸濁し、音波処理により細胞溶解させる。遠心分離により不溶性残留物から分離された可溶性の組換えタンパク質は、ヒスチジン配列と結合するNi-NTAアガロースカラム(Qiagen, Italy)を用いて、製造者の指示書に従い、アフィニティークロマトグラフィーにて精製する。
【0077】
このようにして精製したタンパク質(SDS-PAGEプロファイルにより示される純度は98%以上)は、モル吸光係数(E280)(3480に等しい)、したがって濃度1mg/mLでの吸光度(0.345に等しい)を考慮することにより、280nmでの分光光度計の記録によって定量した。最後に、Pru p3溶液をH2Oに対して透析し、その後、1%サッカロースの存在下で凍結乾燥させた。
【0078】
その後、凍結乾燥rPru p3サンプルを、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 6.86)中に入れ、タンパク質濃度が0.7mg/mLになるようにする。KCNOを用いた修飾のために、50.25mgの四ホウ酸ナトリウム十水和物と101.4mgのシアン酸カリウムを、2.5mLのrPru p3溶液に加える。この塩をゆっくり攪拌することにより溶液にし、1 M NaOHを用いてpHを任意に9.3に調整した。得られた溶液を密閉フラスコ中、サーモスタットで40℃に調温した浴中で16時間ゆっくり攪拌し続けた。最初の数時間の間、pHをモニターし、1Mリン酸を添加することにより任意に調整した。このようにして得られた調製物を、G-25カラムにて再びゲル濾過して過剰量の試薬を除去し、Millipore 0.22ミクロン膜にて滅菌した。引き続く分析には、その最小量を用いた。Pru p3のアミン基の置換割合は、TNBS法によって評価され、その結果74%であった。KCNO修飾サンプルの残りは、下記の実験条件の下でフェニルグリオキサールとの第二の化学修飾法に用いた。
【0079】
タンパク質濃度0.5mg/mLのKCNO修飾Pru p3サンプルは、0.1 M炭酸水素ナトリウムの添加によりpH 8にする。次に、タンパク質に対して過剰量の800MのPGOをこれに加える。モル過剰量を算出するために、本発明者らは、UniProtKBデータベースに従い、Pru p3アレルゲンについて分子サイズを10KDであると考え、このことから、アルギニン残基の数は4であるという結果を得た。PGOの溶解を促進するために、PGOを濃度0.3Mでエチルアルコール中に予め溶解させた。混合物を25℃で4時間軽く攪拌した。その後反応物は、20mM PBSに対して透析またはゲル濾過する。アルギニン残基の置換度は、50%という結果である。続いて、KCNO/PGO修飾Pru p3サンプルは、EAST阻害法によるアレルゲン可能性、ELISAによる免疫原性、およびSDS-PAGEによる分子サイズに関して、KCNO修飾サンプルまたは天然サンプルと比較される。
【0080】
EAST阻害法によるアレルゲン性の評価
この目的のために、予めグルタルアルデヒドで処理したポリスチレンビーズを、ビーズ当たりのタンパク質が1μgの比率で、Pru p3を用いて活性化した。
【0081】
同時に、特定の血清学的検査で確認された、モモアレルギーの臨床記録を有する患者から選択して、ヒト貯蔵血清を調製する。
【0082】
ELISAプレートのウェルに、予め同じ濃度にしておいた検討するサンプル(天然Pru p3、KCNO修飾Pru p3、KCNO/PGO修飾Pru p3)のPBS-2% BSA(希釈剤)中の連続希釈液30μLと、20μLの貯蔵血清とを加え、混合物を室温で2時間攪拌する。同時に、阻害剤が希釈剤から構成される、陽性対照サンプルを調製する。2時間終了時に、Pru p3活性化ビーズと50μLのPBS-2% BSAとを各ウェルに加え、プレートを室温で一晩攪拌し続ける。その後、ビーズを洗浄し、100μLのペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgE抗体溶液を各ウェルに加え、攪拌しながら2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加えて、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、50μLの1N HClを添加することにより消失し、その後、100μLの各ウェルからの混合物を新しいプレートに移し、呈色強度を450nmでの分光光度計の記録により評価する。
【0083】
検出された光学密度を陽性対照と比較した阻害割合に変換し、Y軸に阻害割合を示し、X軸に試験に使用したサンプルの容量の対数を示すグラフを作成する。示されたデータ点から線形回帰直線を作図し、線形回帰直線からIC50値を計算する。IC50値は、ビーズに対するIgE結合の50%阻害に必要なサンプルの容量(マイクロリットル)を示す。この値は、検討しているサンプルのアレルゲン可能性に逆比例する。
【0084】
図10に示された結果は、KCNOを用いた修飾により、rPru p3アレルゲンのアレルゲン活性が64倍減少し、一方、KCNO/PGOを用いた修飾により上記の活性がさらに減少して、天然対照物よりも1422倍減少する結果となることを示す。
【0085】
予め免役されたマウスの血清についての、ELISAによるKCNO/PGO修飾Pru p3アレルゲンの免役原性の評価
a)マウスの免疫化プロトコール
4匹のBalb/c株雌マウス(Charles River)からなる群を、100μLのフロイント完全アジュバントと100μLの生理学的溶液中20μgのKCNO/PGO修飾Pru p3とからなるエマルションを200μL用いて、皮下免疫した。他の3回の追加免疫は、完全アジュバントを不完全アジュバントに置き換えることにより、2週間の間隔で実施される。最後の免疫化の7日後、採血を実施し、免疫原に対する抗体反応、ならびに天然タンパク質を認識する能力を、ELISAによって検査する。
【0086】
b)試験方法
天然の非修飾Pru p3に対してもまた指向されるIgG反応をマウスにおいて誘導する能力を意味する免役原性を、下記のプロトコールに従って投与された場合にKCNO/PGO修飾Pru p3が維持するかどうか証明するために、試験は実施される。この目的のために、50mM炭酸塩/炭酸水素塩バッファー(pH 9.6)中の等量(0.1μg)のPru p3(天然またはKCNO/PGO修飾)を、4℃で16時間インキュベーションすることにより、ELISAアッセイ用ポリスチレンプレートのウェルに吸着させた。その後、洗浄溶液(0.05% Tween 20を含む60mMリン酸バッファー;pH 6.5)を用いてウェルを洗浄し、希釈溶液(150mMリン酸バッファー(pH 7.4)中、25%ウマ血清、1mM EDTA、0.05% Tween 20、0.01%チオメルサール)を用いて、未反応の吸着サイトを飽和した。等量(100μL)のマウス貯蔵血清10倍連続希釈液(希釈バッファー中)を各ウェルに加え、25℃で2時間インキュベーションする。3回洗浄した後、ウサギペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG血清を、希釈バッファー中1:2000の希釈度で加え、混合物を25℃で1.5時間インキュベーションする。3回洗浄した後、100μLのTMB試薬(BioFX Laboratories, Owings Mills, MD)を加え、25℃で15分間インキュベーションすることにより、比色反応を呈する。この反応は、100μLの1N HClを添加することにより消失し、450nmでの分光光度計の記録により評価する。免疫するのに用いられたPru p3と非修飾(天然)対照物との両方に対する、KCNO/PGO修飾Pru p3を用いて免疫したマウスの貯蔵血清の特異的IgG反応性に関する結果は、図11に示す。観察することができるように、KCNO/PGO修飾Pru p3を用いた処理により誘導されるIgG抗体は、天然Pru p3タンパク質もまた認識することができ、このことは、天然対照物中に存在するエピトープに類似するT細胞エピトープが、KCNO/PGO修飾Pru p3中において保存されることを示す。したがって、KCNO/PGO修飾Pru p3は、免疫系を適切に刺激する能力を維持し、天然Pru p3に対してもまた指向する特異的IgG抗体を産生する。
【0087】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
電気泳動は、パッケージ製品である、4〜12%勾配のアクリルアミドゲルを用いて実施され、製造者の指示書に従って用いられた(NuPAGE(登録商標) Novex(登録商標) mini gels, Invitrogen, Milan)。この中性pHバッチ電気泳動システムによって、本発明者らが対象とする分子量範囲におけるバンドをよりよく分析することができる。
【0088】
Pru p3サンプル(天然、またはKCNO修飾もしくはKCNO/PGO修飾)は、還元条件下(5% 2-メルカプトエタノールの存在下)で、同量(5μg)のサンプルをゲルにのせることにより、上記の手法によって評価された。分離は、装置をMicrocomputer Electrophoresis Power Supply 400/1000に接続し、180mAの一定の電流を約1時間流すことにより実施される。最後に、ゲルをコロイドクーマシーで染色する(Colloidal Blue staining kit, Novex(登録商標), Invitrogen)。図12に表される結果は、rPru p3アレルゲンの分子サイズがKCNO/PGOを用いた修飾によっては変更されず、修飾された場合に、そのモノマー型を維持することを示している。
【0089】
アレルゲン抽出物、または上記のように修飾された単一精製タンパク質は、アレルギー患者の治療に用いることができ、適切な器具を用いて、非経口経路、または経鼻、または舌下、または口腔粘膜、または経口、または気管支を介して投与することができる。上述した生成物はまた、凍結乾燥形態で調製し、その後再構成して水溶性形態について指示されたように投与することができ、あるいは、送達システム(例えばリポソーム)に挿入することができ、あるいは、専用器具により経鼻または気管支の経路により投与できるように、不活性賦形剤(例えばラクトース)中に組み込まれている散剤として製剤化するか、または舌下/口腔粘膜投与のための速やかな溶解性を任意に備えた錠剤に製剤化するか、または経口投与に適する方法で任意に胃耐性にされたカプセルに製剤化するか、または口腔粘膜との接触時間を増加させて局所の樹状細胞との相互作用を促進するバイオフィルムもしくは粘膜付着性散剤として製剤化することもできる。
【0090】
上述した生成物はまた、油性懸濁液、シロップ、エリキシルの形態で、舌下、口腔粘膜、または経口投与にとって好ましくするための賦形剤または物質を任意に添加して調製することができる。
【0091】
上述した生成物はまた、ThI型またはTreg型のアジュバント活性を発現することが知られている物質(例えば、CpG、バクテリア誘導体、マイコバクテリア、マイコプラズマ、ナイセリア属(Neisseria)、ウイルスもしくは原生動物、非メチル化CpG、リポタンパク質、またはトリアシル化リポペプチド、リポ多糖(LPS)、およびA型脂質の誘導体)、合成物質(例えば、イミキモド(imiquimod)、レシキモド(resiquimod)、ポリI‐C(poly (I:C)))に結合またはコンジュゲートすることができる。
【0092】
本発明の組成物は一般的に、当技術分野の当業者の知識、および、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences Handbook, Mack Pub. Co., N. Y., USA, 第17版, 1985に報告されている事項に従い、選択される投与形態に適合する様々な賦形剤および/または担体を含有することができる。
【0093】
これらのすべての医薬製剤において、本発明の調製物は、特異的免疫療法の実施に用いられる投与経路に従い、総タンパク質が0.5μg(最小用量)から200μg(維持用量)の範囲の量で存在することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲン分子のリシン残基およびアルギニン残基の1級アミン基のすべてまたは一部が構造式(I)に示されるように修飾されていることを特徴とし、改変アレルゲンが下記の構造式(I)
【化1】

〔式中、
RおよびR2は独立してH、C1-C5アルキル、任意にオルト位、メタ位、またはパラ位にてヒドロキシ、C1-C4アルコキシ、ハロゲン、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、メルカプト、C1-C4アルキルメルカプト基で置換されたフェニルから選択され;
XはO、S、またはNR3を示し、R3はH、炭素数1から6のアルキル、フェニル、またはCNであり;
R1はH、炭素数1から8のアルキル、フェニル、または炭素数が最大8のアリールアルキル、または複素環を含むアルキルを示し;
protはアレルゲンのタンパク質残基を示し;
nは修飾されたアルギニン基の数であって、1から、アレルゲンに存在するアルギニン基の数までの範囲であり;
mは修飾されたリシン基の数であって、1から、アレルゲンに存在するリシン基の数までの範囲である〕
を有することを特徴とする、対応する天然アレルゲン物質に比べてアレルゲン性が少ない改変アレルゲン。
【請求項2】
修飾される前記天然アレルゲン物質が、ダニ、花粉、動物の上皮、菌類植物、食物由来タンパク質(好ましくはミルク、卵、穀類、モモ、リンゴのタンパク質から選択される)から、適切な溶媒を用いたアレルゲンタンパク質の抽出により得ることができるか、または、
前記天然アレルゲン物質が、上記の原材料から精製されるタンパク質から構成されるか、または、
前記天然アレルゲン物質が、組換え型で得られる、
請求項1に記載の改変アレルゲン。
【請求項3】
リシンの修飾された1級アミン基の割合の平均値が75%から100%の範囲、好ましくは約90%であり、置換アルギニン残基の割合の平均値が25%から100%の範囲、好ましくは約40%である、請求項1または2に記載の改変アレルゲン。
【請求項4】
Rが任意にオルト位、メタ位、またはパラ位にてヒドロキシ、C1-C4アルコキシ、ハロゲン、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、メルカプト、C1-C4アルキルメルカプト基で置換されたフェニルであり;
R2がHである、
請求項1から3のいずれか1項に記載の改変アレルゲン。
【請求項5】
XがOまたはSであり;
R1がHである、
請求項1から4のいずれか1項に記載の改変アレルゲン。
【請求項6】
Rがフェニルであり;
R1およびR2がHであり;
XがOまたはSである、
請求項1から5のいずれか1項に記載の改変アレルゲン。
【請求項7】
a)原材料の天然アレルゲン物質のリシン残基のすべてもしくは一部をカルバミル化反応またはチオカルバミル化反応させるステップと;
b)その後、ステップa)の前記アレルゲン物質のアルギニン残基のすべてまたは一部をジアルデヒドまたはジケタールと反応させるステップ
とを含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の改変アレルゲンを得る方法。
【請求項8】
ステップa)の前記カルバミル化反応が、前記天然アレルゲン物質を、最終塩濃度が0.1Mから1.5M、好ましくは0.4Mから0.8Mのシアン酸カリウムと反応させ、pHを7から11、好ましくは9から9.6に維持することにより;
温度が室温から50℃、好ましくは35から40℃で、総反応時間12から36時間、好ましくは16から24時間に渡って実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップa)と前記ステップb)との間に、上記のように修飾された天然アレルゲン物質が、ゲル濾過されて過剰量の試薬を除去され、適切な塩類溶液を用いて平衡化される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップb)が、過剰量の100Mから1600M、好ましくは400Mから800Mのフェニルグリオキサールと反応させることにより、
30分間から8時間、好ましくは4時間に渡って、温度が20から37℃、好ましくは25℃で実施される、請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか1項に記載の免疫療法に有効な用量の1以上の改変アレルゲンを、医薬上許容可能な賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項12】
前記改変アレルゲンが、対応する天然アレルゲンもまた認識し得る特異的IgG抗体を誘導することができるが、特異的IgE抗体との結合を減少させることができる、
特異的免疫療法において用いるための、請求項1から6のいずれか1項に記載の改変アレルゲン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−506620(P2013−506620A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524512(P2011−524512)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054325
【国際公開番号】WO2010/032228
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(508194548)ロファルマ ソシエタ ペル アチオニ (2)
【氏名又は名称原語表記】LOFARMA S.P.A.
【Fターム(参考)】