説明

アレンカルボン酸エステル類の製造法

【課題】高純度のアレンカルボン酸エステル類を工業的に効率よく製造するための方法を提供する。
【解決手段】アルキン誘導体と一酸化炭素とを、パラジウム触媒、R4OH(式中、R4はC1〜C6アルキル基を示す。)で表される低級アルコール類及び塩基の存在下に反応させることを特徴とするアレンカルボン酸エステル類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘック反応を用いたアレンカルボン酸エステル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘック反応を用いたアレンカルボン酸エステル類の製造方法としては、プロパルギルメチル炭酸エステルから製造する方法(例えば、非特許文献1参照。)、プロパルギルブロミドから製造する方法(例えば、非特許文献2参照。)知られている。
【非特許文献1】Jiro TSUJI, Teruo SUGIURA and Ichiro MINAMI, Tetrahedron Lett., 27, 731 (1986)
【非特許文献2】NGUYEN D. TRIEU, CORNELIS J. ELSEVIER and KEES VRIEZE, J. Organomet. Chem., 325 (1987) C23-C26
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の非特許文献1では、反応条件や収率の具体的な記載が無く、生成物としてアレンカルボン酸メチルの生成が確認されているだけであり、非特許文献2では、溶媒使用量が多い希薄な条件での結果であって、バッチ当たりの生産量が低く、工業的な製造方法として適用することは困難であった。また、非特許文献2に開示されているトリエチルアミンを塩基として用いた場合、アレンカルボン酸メチル、アレンカルボン酸エチル等のように目的化合物の水溶性が高く、沸点が近接している場合には、目的化合物との分離が難しく、高純度のアレンカルボン酸エステル類を工業的に製造することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記課題を解決し、高純度のアレンカルボン酸エステル類を工業的に効率よく製造するため鋭意検討を行った結果、特定の塩基を用いることにより、高濃度での反応が可能となり、バッチ当たりの生産量を飛躍的に向上させることが判明した。また、同時に塩基と目的化合物との分離が容易になり、高純度のアレンカルボン酸エステル類を製造することが可能となった。即ち、本発明は
1)一般式(II)
【化3】


(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なっても良く、水素原子、C1〜C6アルキル基、C3〜C6シクロアルキル基又は置換しても良いフェニル基を示す。又、R1、R2及びR3はお互いに結合して環を形成することもできる。Xはハロゲン原子、C1〜C6アルキルスルホニルオキシ基、ハロC1〜C6アルキルスルホニルオキシ基、置換しても良いフェニルスルホニルオキシ基又はC1〜C6アルコキシカルボニルオキシ基を示す。)で表されるアルキン誘導体と一酸化炭素とを、パラジウム触媒、R4OH(式中、R4はC1〜C6アルキル基を示す。)で表される低級アルコール類及び塩基の存在下に反応させることを特徴とする、一般式(I)
【化4】


(式中、R1、R2、R3及びR4は前記に同じ。)で表されるアレンカルボン酸エステル類の製造方法、
【0005】
2)Xが塩素原子又は臭素原子であり、R1、R2及びR3が水素原子であり、R4がメチル基又はエチル基である1)に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法、
3)塩基が水酸化物、炭酸塩、酢酸塩及び有機塩基から選択される1若しくは2以上の塩基である1)又は2)に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法、
4)塩基が水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムから選択される1若しくは2以上の水酸化物である1)又は2)に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法、
5)塩基が炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選択される1若しくは2以上の炭酸塩である1)又は2)に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法、
6)塩基が酢酸リチウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムから選択される1若しくは2以上の酢酸塩である1)又は2)に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法、
7)塩基がピリジン、ピコリン、ルチジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン及びジイソプロピルエチルアミンから選択される1若しくは2以上の有機塩基である1)又は2)に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高純度のアレンカルボン酸エステル類を工業的に効率よく製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の一般式(I)又は(II)の定義において、「ハロゲン原子」とは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はフッ素原子を示す。「C1〜C6アルキル基」とは、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基等の直鎖又は分鎖状の炭素原子数1〜6個のアルキル基を示す。「C1〜C6ハロアルキル基」とは、同一又は異なっても良い1以上のハロゲン原子により置換された直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1〜6個のアルキル基を示し、例えばトリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロイソプロピル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、1−ブロモエチル基、2,3−ジブロモプロピル基等を示す。「C3〜C6シクロアルキル基」とは、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−メチルシクロプロピル基、2−メチルシクロペンチル基等の炭素原子数3〜6個の脂環式アルキル基を示す。「C1〜C6アルコキシ基」とは、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1〜6個のアルコキシ基を示す。
【0008】
上記の定義は「C1〜C6アルキルスルホニルオキシ基」、「ハロC1〜C6アルキルスルホニルオキシ基」、「C1〜C6アルコキシカルボニルオキシ基」のように「C1〜C6アルキル」等が複合した基の一部となっている場合にも同じ意味を示す。
「置換しても良いフェニル基」又は「置換しても良いフェニルスルホニルオキシ基」の置換基としては、ヘック反応に対して不活性な置換基であれば制限されず、例えば、フッ素原子、塩素原子、ニトロ基、シアノ基、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルコキシ基、フェニル基等を挙げることができる。但し、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメタンスルホニル基のようなヘック反応に対して活性な基は好ましくない。
1、R2及びR3としては、同一又は異なっても良く、水素原子、C1〜C6アルキル基又はC3〜C6シクロアルキル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
4としては、メチル基又はエチル基が好ましい。
Xとしては、ヘック反応が進行する脱離基であれば特に制限されないが、塩素原子、臭素原子又はトリフルオロメタンスルホニルオキシ基が好ましく、特に塩素原子が好ましい。
【0009】
本発明を図示すると以下のように示される。
【化5】



(式中、R1、R2、R3、R4及びXは前記に同じ。)
一般式(II)で表されるアルキン誘導体と一酸化炭素とを、パラジウム触媒、R4OH(式中、R4は前記に同じ。)で表される低級アルコール類及び塩基の存在下に反応させることにより一般式(I)で表されるアレンカルボン酸エステル類を製造することができる。
【0010】
本発明で使用することのできるパラジウム触媒としては、塩化パラジウム、酢酸パラジウム等の2価パラジウム塩、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム錯体等の0価のパラジウム錯体、パラジウム炭素等が挙げられ、特に好ましくは、塩化パラジウムである。パラジウム触媒の使用量は一般式(II)で表されるアルキン誘導体に対して0.00001倍モル〜0.1倍モルの範囲で適宜選択すればよいが、好ましくは0.0001倍モル〜0.01倍モルの範囲である。
【0011】
本発明で使用できる塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸塩、ピリジン、ピコリン、ルチジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基等が挙げられ、好ましくは炭酸塩である。塩基の使用量としては反応中に発生する酸を中和するだけの化学量論量があればよいが、一般式(II)で表されるアルキン誘導体に対して0.4当量〜1.5当量の範囲が好ましい。
【0012】
反応溶媒としては、反応条件で不活性なものであればよく、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独または2種以上の混合溶媒として使用することができる。さらに、反応で用いる低級アルコール類、例えばメタノールやエタノールを過剰に用い、溶媒として用いることも可能である。
【0013】
反応圧力は、常圧から10MPaの範囲で実施可能であるが、好ましくは1から5MPaの範囲である。反応温度は常温から100℃の範囲で実施することができるが、好ましくは20℃から80℃である。反応時間は反応温度や反応スケールに依存し、一定しないが、1時間から数10時間の範囲で適宜選択すればよく、好ましくは1時間から6時間である。
【0014】
また、通常のヘック反応と同様に、反応促進、触媒の安定化等のため配位子を添加することもできる。使用できる配位子としては、トリt−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリo-トリルホスフィン等の単座配位子、1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン、1,3−ビスジフェニルホスフィノプロパン、1,4−ビスジフェニルホスフィノブタン等の二座配位子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。配位子の使用量はパラジウム触媒1モルに対して、0.1〜100倍モルの範囲で適宜選択すればよいが、好ましくは2〜10倍モルの範囲である。
【0015】
更に反応を加速する目的で添加物を加えることができ、該添加物としては、例えば無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブ等の脱水剤を添加することができる。
反応終了後、目的物を含む反応系から常法に従って単離すれば良く、必要に応じて再結晶、カラムクロマトグラフィー、蒸留等で精製することにより一般式(I)で表されるアレンカルボン酸エステル類を製造することができる。
次に本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1
2.00g(26.9ミリモル)のプロパルギルクロリドと48mg(0.269ミリモル)の塩化パラジウム及び1.56g(14.8ミリモル)の炭酸ナトリウム、25.8gのメタノールを100mLオートクレーブに仕込み、4.0MPaまで一酸化炭素を導入して50℃で4時間反応させた。ガスクロマトグラフによる分析の結果、粗反応液には収率70%に相当するアレンカルボン酸メチルが含まれていた。
【0017】
実施例2
2.00g(26.9ミリモル)のプロパルギルクロリドと48mg(0.269ミリモル)の塩化パラジウム及び2.48グラム(29.5ミリモル)の炭酸水素ナトリウム、25.8gのメタノールを100mLオートクレーブに仕込み、4.0MPaまで一酸化炭素を導入して30度で2時間反応させた。ガスクロマトグラフによる分析の結果、粗反応液には収率82%に相当するアレンカルボン酸メチルが含まれていた。
【0018】
実施例3
4.20g(56.4ミリモル)のプロパルギルクロリドと19mg(0.113ミリモル)の塩化パラジウム及び2.48g(29.5ミリモル)の炭酸リチウム、25.8gのメタノールを100mLオートクレーブに仕込み、4.0MPaまで一酸化炭素を導入して30度で3.5時間反応させた。ガスクロマトグラフによる分析の結果、粗反応液には収率89%に相当するアレンカルボン酸メチルが含まれていた。
【0019】
実施例4
2.86g(26.9ミリモル)のプロパルギルクロリド70%トルエン溶液と10mg(0.054ミリモル)の塩化パラジウム及び2.48g(29.6ミリモル)の炭酸水素ナトリウム、24.7gのエタノールを100mLオートクレーブに仕込み、4.0MPaまで一酸化炭素を導入して80℃で3時間反応させた。ガスクロマトグラフによる分析の結果、クロロホルム抽出液には収率91%に相当するアレンカルボン酸エチルが含まれていた。
【0020】
実施例5
10.0g(84.1ミリモル)のプロパルギルブロミドと30mg(0.168ミリモル)の塩化パラジウム及び7.8g(92ミリモル)の炭酸水素ナトリウム、26.9gのメタノールを100mLオートクレーブに仕込み、2.5MPaまで一酸化炭素を導入して20℃で3時間反応させた。ガスクロマトグラフによる分析の結果、粗反応液には収率71%に相当するアレンカルボン酸メチルが含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II)
【化1】


(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なっても良く、水素原子、C1〜C6アルキル基、C3〜C6シクロアルキル基又は置換しても良いフェニル基を示す。又、R1、R2及びR3はお互いに結合して環を形成することもできる。Xはハロゲン原子、C1〜C6アルキルスルホニルオキシ基、ハロC1〜C6アルキルスルホニルオキシ基、置換しても良いフェニルスルホニルオキシ基又はC1〜C6アルコキシカルボニルオキシ基を示す。)で表されるアルキン誘導体と一酸化炭素とを、パラジウム触媒、R4OH(式中、R4はC1〜C6アルキル基を示す。)で表される低級アルコール類及び塩基の存在下に反応させることを特徴とする、一般式(I)
【化2】


(式中、R1、R2、R3及びR4は前記に同じ。)で表されるアレンカルボン酸エステル類の製造方法。
【請求項2】
Xが塩素原子又は臭素原子であり、R1、R2及びR3が水素原子であり、R4がメチル基又はエチル基である請求項1に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法。
【請求項3】
塩基が水酸化物、炭酸塩、酢酸塩及び有機塩基から選択される1若しくは2以上の塩基である請求項1又は2に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法。
【請求項4】
塩基が水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムから選択される1若しくは2以上の水酸化物である請求項1又は2に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法。
【請求項5】
塩基が炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選択される1若しくは2以上の炭酸塩である請求項1又は2に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法。
【請求項6】
塩基が酢酸リチウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムから選択される1若しくは2以上の酢酸塩である請求項1又は2に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法。
【請求項7】
塩基がピリジン、ピコリン、ルチジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン及びジイソプロピルエチルアミンから選択される1若しくは2以上の有機塩基である請求項1又は2に記載のアレンカルボン酸エステル類の製造方法。

【公開番号】特開2007−153823(P2007−153823A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352884(P2005−352884)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】