説明

アンカーおよび構造物の浮き上がり防止方法

【課題】構造物の形状を制約することなく構造物の浮き上がりを防止することができるアンカーおよび構造物の浮き上がり防止方法を提供する。
【解決手段】構造物2の浮き上がりを防止するためのアンカー10であり、ねじ節鉄筋12とこのねじ節鉄筋12に設けられた複数のコーン状のカプラー14とから構成する。地震時などに構造物に作用する浮き上がり力により発生するアンカー界面のせん断力は、コーン状カプラーを介して斜め方向(斜め上方向)への支圧力に変換される。その支圧力は支持地盤にも伝達されることから、ねじ節鉄筋との付着力に加えて十分なアンカー耐力が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーおよび構造物の浮き上がり防止方法に関し、特に、構造物の地震時浮き上がりを防止するアンカーおよび構造物の浮き上がり防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物などの構造物の基礎を支持地盤にアンカーで固定して、構造物の浮き上がりを防止する方法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
一方、原子力発電計画において硬岩盤上に建設される原子炉建屋等の建物は、一般に、建物に入力される地震力が大きいため、建物の浮き上がりに対する抵抗を増す必要がある。そのため、従来は建物脚部周辺に関連建物を一体化して側面視で凸型断面の構造物とすることで構造物基礎と岩盤との接触面積を大きくとり、浮き上がり抵抗力を増加させる対策をとってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−239420号公報
【特許文献2】特開2009−256896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の浮き上がり抵抗力を増加させる対策によれば、岩盤上の構造物の形状を制約し、構造物内の機器配置の最適化や標準化を制約してしまうという問題がある。このため、構造物の形状を制約しない浮き上がり防止技術の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、構造物の形状を制約することなく構造物の浮き上がりを防止することができるアンカーおよび構造物の浮き上がり防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るアンカーは、構造物の浮き上がりを防止するためのアンカーであり、ねじ節鉄筋とこのねじ節鉄筋に設けられたコーン状のカプラーとからなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るアンカーは、上述した請求項1において、前記ねじ節鉄筋に複数の前記コーン状のカプラーが螺合してあることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る構造物の浮き上がり防止方法は、上述した請求項1または2に記載のアンカーを利用した構造物の浮き上がり防止方法であって、構造物を前記アンカーで支持地盤に固定したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る構造物の浮き上がり防止方法は、上述した請求項3において、前記支持地盤に孔を設ける工程と、前記孔に流体状の固化材を注入する工程と、前記孔に前記アンカーを挿入する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアンカーによれば、構造物の浮き上がりを防止するためのアンカーであり、ねじ節鉄筋とこのねじ節鉄筋に設けられたコーン状のカプラーとからなるので、地震時などに構造物に作用する浮き上がり力により発生するアンカー界面のせん断力は、コーン状カプラーを介して斜め方向(斜め上方向)への支圧力に変換される。その支圧力は支持地盤にも伝達されることから、ねじ節鉄筋との付着力に加えて十分なアンカー耐力が得られる。したがって、浮き上がりに抵抗するのに、従来のように支持地盤との接触面積が大きくなるように構造物の形状を計画する必要はない。このため、構造物の形状を制約することなく構造物の浮き上がりを防止することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る構造物の浮き上がり防止方法によれば、本発明のアンカーを利用した構造物の浮き上がり防止方法であって、構造物を前記アンカーで支持地盤に固定したので、地震時などに構造物に作用する浮き上がり力により発生するアンカー界面のせん断力は、コーン状カプラーを介して斜め方向(斜め上方向)への支圧力に変換される。その支圧力は支持地盤にも伝達されることから、ねじ節鉄筋との付着力に加えて十分なアンカー耐力が得られる。したがって、浮き上がりに抵抗するのに、従来のように支持地盤との接触面積が大きくなるように構造物の形状を計画する必要はない。このため、構造物の形状を制約することなく構造物の浮き上がりを防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係るアンカーの実施例を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係るアンカーの設置位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るアンカーおよび構造物の浮き上がり防止方法の実施例について図面に基づいて原子炉建屋の基礎版を岩盤に固定する場合を例にとり、詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明に係るアンカー10は、ねじ節鉄筋12とコーン状のカプラー14(以下、コーン状カプラーと呼ぶ。)とからなる。このアンカー10は、図2に示すように、原子炉建屋2(構造物)の地表レベル以下にある基礎版4を岩盤6(支持地盤)に固定するものである。なお、図1は、図2のA部分の拡大図となっている。
【0016】
ねじ節鉄筋12は、市販されている一般的なねじ節鉄筋を用いることができる。また、コーン状カプラー14は、市販のねじ節鉄筋どうしを接合する際に使用されるカプラーの外周形状を、略円錐状に加工したものを用いることができる。
【0017】
コーン状カプラー14とねじ節鉄筋12の固定方法は、一般に使用されているカプラーと同様にして行うことができる。この場合、ねじ節鉄筋12に螺合するコーン状カプラー14の外周面に内周面に通ずる注入孔を設けておき、その注入孔からノズルを介して接着用のグラウト材を注入することにより行う。このようにして、コーン状カプラー14をねじ節鉄筋12に所定間隔で複数配置する。各コーン状カプラー14は、小径側14aが同じ側を向くように配置する。
【0018】
次に、本発明に係る構造物の浮き上がり防止方法について説明する。
まず、アンカー10を設ける岩盤6に、コーン状カプラー14の径(大径側14bの径)よりもやや大きい径で十分な定着が可能な長さまで穿孔する。次に、穿孔した孔8内にセメントミルク16(固化材)を注入した後、アンカー10を挿入する。ここで、アンカー10は、コーン状カプラー14の小径側14aが上方に位置するように挿入する。この一連の工程を所定箇所に対してアンカー10の必要本数分について行う。
【0019】
アンカー10と基礎版4との定着は、従来のアンカーと同様にして行うことができ、例えばアンカー10のねじ節鉄筋12部分と基礎版4のコンクリートとの付着力によるか、定着版を用いた構造によって行うことができる。
【0020】
上記構成の動作および作用について説明する。
地震時などに建屋2に浮き上がり力が作用して、アンカー10が上方に引っ張られた際には、固化したセメントミルク16との界面のせん断力はコーン状カプラー14を介して斜め上方向への支圧力に変換される。その支圧力はセメントミルク16と岩盤6との界面にも支圧力として伝達されることから、施工条件に影響されない十分なアンカー耐力が得られることになる。
【0021】
このように、本発明のアンカー10によって建屋2の浮き上がりに抵抗することができ、従来のように建屋(構造物)と岩盤との接触面積が大きくなるように建屋の形状を計画する必要はない。したがって、建屋の形状を制約することなくその浮き上がりを防止することができる。このため、従来の方法では難しかった建屋の形状の最適化や、機器配置の最適化および標準化を図ることが可能となる。
【0022】
なお、コーン状カプラー14を設けずにねじ節鉄筋12のみを穿孔8に挿入した場合には、アンカー耐力は孔8内のセメントミルク16と岩盤6とのせん断界面の付着力や摩擦力で決まるため、旋工条件によっては十分な付着力がとれず所望のアンカー耐力が得られないおそれがある。しかし、本発明によれば、アンカー耐力は孔8内のセメントミルク16と岩盤6とのせん断界面の付着力や摩擦力に加え、コーン状カプラー14を介した斜め上方向への支圧力で決定される。このため、ねじ節鉄筋12のみを挿入した場合に比べて建屋2の浮き上がりを防止するのに必要なアンカー耐力を得ることが可能である。
【0023】
以上説明したように、本発明に係るアンカーによれば、構造物の浮き上がりを防止するためのアンカーであり、ねじ節鉄筋とこのねじ節鉄筋に設けられたコーン状のカプラーとからなるので、地震時などに構造物に作用する浮き上がり力により発生するアンカー界面のせん断力は、コーン状カプラーを介して斜め方向(斜め上方向)への支圧力に変換される。その支圧力は支持地盤にも伝達されることから、ねじ節鉄筋との付着力に加えて十分なアンカー耐力が得られる。したがって、浮き上がりに抵抗するのに、従来のように支持地盤との接触面積が大きくなるように構造物の形状を計画する必要はない。このため、構造物の形状を制約することなく構造物の浮き上がりを防止することができる。
【0024】
また、本発明に係る構造物の浮き上がり防止方法によれば、本発明のアンカーを利用した構造物の浮き上がり防止方法であって、構造物を前記アンカーで支持地盤に固定したので、地震時などに構造物に作用する浮き上がり力により発生するアンカー界面のせん断力は、コーン状カプラーを介して斜め方向(斜め上方向)への支圧力に変換される。その支圧力は支持地盤にも伝達されることから、ねじ節鉄筋との付着力に加えて十分なアンカー耐力が得られる。したがって、浮き上がりに抵抗するのに、従来のように支持地盤との接触面積が大きくなるように構造物の形状を計画する必要はない。このため、構造物の形状を制約することなく構造物の浮き上がりを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上のように、本発明に係るアンカーおよび構造物の浮き上がり防止方法は、構造物の地震時浮き上がりを防止するのに有用であり、特に、硬岩盤上に建設される原子炉建屋等の構造物の形状を制約することなく浮き上がりを防止するのに適している。
【符号の説明】
【0026】
2 建屋(構造物)
4 基礎版
6 岩盤(支持地盤)
8 孔
10 アンカー
12 ねじ節鉄筋
14 コーン状カプラー
16 セメントミルク(固化材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の浮き上がりを防止するためのアンカーであり、
ねじ節鉄筋とこのねじ節鉄筋に設けられたコーン状のカプラーとからなることを特徴とするアンカー。
【請求項2】
前記ねじ節鉄筋に複数の前記コーン状のカプラーが螺合してあることを特徴とする請求項1に記載のアンカー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアンカーを利用した構造物の浮き上がり防止方法であって、
構造物を前記アンカーで支持地盤に固定したことを特徴とする構造物の浮き上がり防止方法。
【請求項4】
前記支持地盤に孔を設ける工程と、前記孔に流体状の固化材を注入する工程と、前記孔に前記アンカーを挿入する工程とを有することを特徴とする請求項3に記載の構造物の浮き上がり防止方法。

【図1】
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【図2】
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