説明

アンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法

【課題】熟練工でなくても容易に施工が可能であり、均一なアンカー性能を達成することができる、アンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法を提供すること。
【解決手段】セメント粉体を内包する内管と、水や増粘剤などからなる粘性硬化材を内包する外管からなるアンカー体固着用カプセルを穿孔(アンカー孔)内に挿入し、アンカー体により粉砕してそれぞれの内容物を攪拌することによりモルタルを生成し、そのモルタル内にアンカー体を埋没せしめて定着する際、穿孔とアンカー体との間のクリアランスは、アンカー体の公称径の15〜30%であり、回転と打撃により破砕および攪拌を行う場合、アンカー体の累積回転数1回転当りのモルタル量は、700mm/1回転以下で、アンカー体の累積打撃数の1打撃当りのモルタル量は、90mm/1打撃以下ある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント粉体を内包する一方のガラス管と、水や増粘剤等を内包する他方のガラス管とが二重管構造に配置された無機系のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の床や壁面に、機械装置や部品などを固定する場合、あるいは天井に配管や二重天井のための吊りボルト(全ネジボルト、寸切りとも呼ばれる)を取り付けるために、コンクリート表面にハンマードリルなどで穿孔を形成し、アンカーボルトを固着する、いわゆる、あと施工アンカーの一形態として、接着系アンカーが広く利用されている。この接着系アンカーは、二重のガラス管構造の内部に、主剤と硬化剤とで構成されるエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を封入した有機系カプセルを用いた接着系アンカーと、セメント粉体等の無機材料と硬化剤とからなる無機系カプセルを用いた接着系アンカーとがある。
【0003】
しかしながら、前者の有機系カプセルを用いた接着系アンカーは、基本的にその成分が可燃性であることから耐火性の面で欠点がある。このため、近年では、後者の無機系カプセルを用いた接着系アンカーが注目を浴びている。
【0004】
この種の無機系カプセルは、ガラスやプラスチックからなる管を二重管構造に配置して、内管側にセメント粉体、外管側に水や増粘剤を封入したものや、その逆に外管側にセメント粉体、内管側に水や増粘剤を封入したものが知られている。この場合、砂などの骨材は、いずれか一方の管に配合される。
【0005】
このような無機系カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法では、コンクリート壁面に形成した穿孔に、かかる無機系カプセルを挿入し、その後、ハンマードリルなどの工具に装着した異形鉄筋や全ネジボルト等のアンカー体を回転や振動させて、その回転と打撃とにより無機系カプセルの内外のガラス管を破砕しながらセメント粉体や、水、砂、増粘剤などの内容物を攪拌混合している。この場合には、破砕されたガラス管も骨材として利用している(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−39639号公報
【特許文献2】実開平6−85432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述の無機系カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法では、ハンマードリル等に装着したアンカー体の回転と打撃の併用により無機系カプセルのガラス管を破砕しているが、その際のアンカー体の回転数や打撃数は、基本的に現場の作業者の経験や勘などにより行なわれている。このため、それが原因で定着後のアンカー体の引張強度やせん断耐力等のアンカー性能にバラツキが生じやすい。すなわち、従来の施工方法においては、均一なアンカー性能を安定して確保することが難しい、という課題があった。
【0008】
上記のようなバラツキの原因は、一義的にはアンカー体によるガラス管の破砕や内容物の攪拌混合が不十分であることに由来する。また、アンカー体でガラス管を破砕した際にセメント粉体や水などが穿孔から外部に飛散したり、十分に撹拌されていない状態の混合物の一部が穿孔から溢れ出すことも原因の一つである。このような場合には、所定の配合比率で封入されたセメント粉体や砂、水等がバランスの崩れた状態で硬化してしまうからである。
【0009】
そこで、本発明者らは、工具の使用条件や穿孔径などについて、鋭意検討を重ねた結果、本発明に想到したのである。すなわち、工具に装着したアンカー体により確実に無機系のアンカー体固着用カプセルを破砕ないしは粉砕し、各カプセルの内容物を十分に攪拌混合して均質なモルタルの生成が可能となり、アンカー性能のバラツキを抑えて、均一なアンカー性能を達成することができる、アンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明は、セメント粉体を内包する一方のガラス管と、水等を内包する他方のガラス管とが二重管構造に配置されたアンカー体固着用カプセルを、予め所定の深さに穿孔したコンクリート構造物の穿孔内に挿入し、その後、工具に取り付けたアンカー体の回転と打撃で各ガラス管を破砕してそれぞれの内容物を攪拌混合することによりモルタルを生成し、穿孔内に充満したモルタルにアンカー体の端部を埋没させて定着するアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法であって、前記穿孔と前記アンカー体との間のクリアランスが、前記アンカー体の外径の15〜30%であり、前記アンカー体が前記穿孔の底部に到達するまでの累積回転数と前記モルタルの容量との関係が、700mm/1回転以下であり、かつ、前記アンカー体の累積打撃数と前記モルタルの容量との関係が、90mm/1打撃以下である、ことを特徴としている。この方法によれば、回転に打撃が加わることで、確実にアンカー体固着用カプセルの容器である内外のガラス管を破砕ないしは粉砕してそれぞれの内容物を攪拌混合し、均質なモルタルの生成が可能となり、定着後のアンカー性能のバラツキを抑えて、均一なアンカー性能を達成することができる。
ここで、前記アンカー体固着用カプセルの各ガラス管の一端側に空隙部が存在し、該アンカー体固着用カプセルを前記穿孔の上方から挿入する下向き施工の場合には、各ガラス管の空隙部が、共に、下側になるように前記穿孔内に挿入するようにしても良い(請求項2)。この場合、カプセルの上側には、内外のガラス管内の内容物が密に集積し、アンカー体固着用カプセルを破砕したときに、確実に、水等の液体成分がカプセルの破片やセメント粉体などの粒状物とを包み込み、穿孔の外部への飛散をより少なくして良質なモルタルを形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法によれば、熟練工でなくても、アンカー体の回転と打撃によって、確実にアンカー体固着用カプセルを破砕ないしは粉砕して、内容物の十分な攪拌混合が可能となり、定着後のアンカーの引張強度やせん断耐力などの性能のバラツキを抑え、均一なアンカー性能を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a),(b)は、それぞれ、本実施形態のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法に適用するアンカー体固着用カプセルの部分断面図、断面図である。
【図2】(a),(b)は、それぞれ、本実施形態のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法に適用するアンカー体の一例を示す斜視図である。
【図3】(a)〜(g)は、それぞれ、本実施形態のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法の一例を示す説明図である。
【図4】本実施形態の実験(アンカー体の回転と打撃とによりアンカー体固着用カプセルを破砕する実験)で使用した試料No.1〜19の条件等を示す表である。
【図5】本実施形態の実験で使用した工具の種類と、各工具の1分間当りの回転数と、1分間当りの打撃数とを示す表である。
【図6】図4に示す試料No.1〜19を使用した実験の結果を示す表である。
【図7】実験におけるアンカー体の累積打撃回数1打撃当たりのモルタル容量の値と、合否結果との関係を示すグラフである。
【図8】実験におけるアンカー体の累積回転数1回転当りのモルタル容量の値と、合否結果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係るアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法の実施形態について説明する。
【0014】
≪アンカー体固着用カプセルの構造の一例≫
まず、本実施形態で使用するアンカー体固着用カプセルの構造の一例から説明する。
【0015】
図1(a),(b)は、それぞれ、本実施形態のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法にて使用する、アンカー体固着用カプセル1の部分断面図、断面図である。
【0016】
図1(a),(b)に示すように、本実施形態のアンカー体固着用カプセル1は、中空筒体状の外管2と、外管2の内部に設けられる中空筒体状の内管3との二重管構造で構成されている。
【0017】
外管2および内管3は、共に、ガラス製やプラスチック製等、アンカー体により破砕可能な材質で形成されている。なお、本実施形態では、ガラス製として説明する。
【0018】
内管3は、その軸長方向の長さが外管2よりも短く、かつその外径寸法が外管2よりも細径で構成され、外管2の内部で当該外管2の軸長方向に収容される。本実施形態では、内管3内には、その内部にエポキシ樹脂等の有機系材料に較べ不燃性かつ耐熱性に優れたセメント粉体Aが封入される。ここで、本実施形態では、内管3内におけるセメント粉体Aの封入量は、図1(b)に示すように、アンカー体固着用カプセル1を直立させた状態において、内管3の軸長方向の下端部側にセメント粉体Aを寄せることにより、内管3の軸長方向の上端部3b側に空隙部Xが生じるように設定される。なお、セメント粉体Aの封入量は、内管3の容量一杯に設定するようにしても良い。
【0019】
外管2は、その内部に内管3が挿入され、内管3の周囲に粘性硬化材Bを充填した後、密封される。これにより外管2の内部には、内管3が内蔵されると共に、粘性硬化材Bが封入される。粘性硬化材Bは、例えば、水と、砂等の骨材、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性樹脂からなる増粘剤等を混ぜ合わせて作成される。
【0020】
外管2への粘性硬化材Bの封入量は、図1(b)に示すように、外管2の容量よりも少なく設定される。本実施形態にあっては、図1(b)に示すように、粘性硬化材Bは、アンカー体固着用カプセル1を立てるなどして、外管2の軸長方向下端部2a側に内管3及び粘性硬化材Bを寄せ、内管3の軸長方向下端部3aが粘性硬化材Bを押し退けて外管2の軸長方向下端部2aとほぼ重なりあうことで、外管2の軸長方向の上端部2bに空隙部Yが生じる程度に設定される。
【0021】
ここで、本実施形態では、外管2に内蔵される内管3は、粘性硬化材Bの粘性によって外管2内部での移動が抑制され、動き難くなっている。従って、例えばアンカー体固着用カプセル1を直立状態で保管しておくなどすると、内管3は、セメント粉体A自身の重量で粘性硬化材Bを押し退けて外管2内を下降移動し、図1(b)に示すように、その軸長方向の下端部3aが、ほぼ外管2の軸長方向下端部2aに当接した状態で安定する。勿論、アンカー体固着用カプセル1を勢い良く振るなどすれば、内管3は移動する。
【0022】
また、本実施形態では、外管2および内管3の両端部2a,2b、3a,3bは、図1(a),(b)に示すように、フラット状のものを利用している。これは、アンカー体の先端部が当ったときに、両端部2a,2b、3a,3bの形状が半球状等のドーム状であると、アンカー体が横滑りして、外管2および内管3を確実に破砕できないおそれがあるからである。また、フラット状であれば、ドーム状よりも、アンカー体固着用カプセル1の端部を細かく砕き易いからである。ただし、本発明では、外管2および内管3の両端部は、フラット状のものに限定されず、半球形状でも勿論よい。
【0023】
≪アンカー体の一例≫
次に、本実施形態で使用するアンカー体の一例を説明する。
【0024】
図2(a),(b)は、それぞれ、本実施形態のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法にて使用されるアンカー体4の一例を示す斜視図である。
【0025】
本実施形態では、アンカー体4として、アンカー体固着用カプセル1の破砕、混合によって形成されるモルタルとの定着(付着)力等を期待するため、図2(a)に示すような異形鉄筋(竹節・ネジ節等)4aや,図2(b)に示すような全ネジボルト4bを使用する。そして、アンカー体4の先端部41は、アンカー体固着用カプセル1を構成する外管2および内管3のガラス管を細かく破砕または粉砕し、かつ、攪拌可能なように、図2(a),(b)に示すように、例えば、軸心に対して45度にカットされている。これにより、工具に装着したアンカー体4が回転すると、45度カットされたアンカー体4の先端部41により、外管2および内管3のガラス管が細かく破砕ないしは粉砕され、かつ、内容物が巻き上げられて攪拌される。
【0026】
なお、本実施形態では、装着は任意であるが、アンカー体4に、Oリング等のモルタル漏れ抑制具42(後述の図3(f),(g)参照。)を装着するようにしても良い。モルタル漏れ抑制具42は、アンカー体4の所定位置に留置させるため、内径がアンカー体4の外径より小さく、外径がコンクリート躯体に形成した穿孔の内径よりも大きく形成された弾性体等を使用する。なお、モルタル漏れ抑制具42の外形は、円形状でなくても良い。これにより、モルタル漏れ抑制具42でアンカー体4と穿孔との間が塞がれるため、モルタルの不必要な漏れ出しを防止できる。また、アンカー体4の回転に伴って、穿孔の開口部近くまで上昇したモルタルを堰き止め、下方に押し返すので、モルタルが上下でより混ざり合い、攪拌されることになる。なお、モルタル漏れ抑制具42は弾性を有するものであることが望ましい。モルタル漏れ抑制具42が弾性材料でないとすると、モルタル漏れ抑制具42とアンカー体4との隙間からモルタルが漏れ出してくる可能性があるし、その隙間を出来るだけ小さくして漏れ低減を図ったとしても、施工時にアンカー体4表面の凹凸にモルタル漏れ抑制具42が引っ掛かる等して、動き難くなるなど、施工性が低下する可能性が高いからである。
【0027】
≪アンカー体固着用カプセル1を用いた接着系アンカーの施工方法の一例≫
次に、アンカー体固着用カプセル1を用いた本実施形態の接着系アンカーの施工方法の一例について説明する
【0028】
図3(a)〜(g)は、それぞれ、アンカー体固着用カプセル1を用いた本実施形態の接着系アンカーの施工方法の一例を示す説明図である。
【0029】
(1)穿孔(図3(a))
まずは、図3(a)に示すように、ハンマードリル等によりコンクリート躯体5に穿孔51を形成する。穿孔径は、アンカー体4やアンカー体固着用カプセル1の外径より大きくする。ここで、本実施形態において、クリアランスは(穿孔径D−アンカー体4の公称径d)であり、アンカー体4の公称径dに対するクリアランスの比率、すなわちクリアランス比(D−d)/dは、別の実験で明らかになった値であるが、15〜30%とする。これは、クリアランス比(D−d)/dが15%を下回ると、アンカー体4がアンカー体固着用カプセル1を破砕する途中において、穿孔(アンカー孔)51の内壁面とアンカー体4の外周面との間に、十分に破砕されていない状態のガラス片が詰まり、穿孔の下端部にアンカー体4の先端が到達する前にそれ以上の作業が続けられなくなるアンカー体4の高止まり状態となり、攪拌時の作業性が低下する。その一方、クリアランス比が30%を越えると、ガラス管が穿孔51の内部で逃げやすくなる結果、細かな破砕物となりにくく、モルタルの均質性の低下により強度発現に支障を来たす、という問題が生じる。なお、本実施の形態では、穿孔に用いるドリル等の工具と、その後のアンカー体4の挿入時に使用する工具とは、別のものを使用してもよいが、基本的には、同じ工具を使用する。
【0030】
(2)穿孔(アンカー孔)内清掃(図3(b)〜(d))
次に、図3(b)〜(d)に示すように、例えば、穿孔(アンカー孔)51内をブロアー(吸引)→ブラシ52によるブラッシング→ブロアー(吸引)という手順により、穿孔(アンカー孔)51内を十分に清掃する。
【0031】
(3)アンカー体固着用カプセル1の挿入(図3(e))
次に、図3(e)に示すように、清掃後の穿孔(アンカー孔)51内に、アンカー体固着用カプセル1を挿入する。アンカー体固着用カプセル1の外径は、アンカー体4の外径(公称径)以下、より好ましくはアンカー体4の外径より少し細い方が好ましい。なお、アンカー体固着用カプセル1は、図1の説明で述べたように、内管3内には、早強セメント等のセメント粉体Aが封入されている一方、外管2内には、内管3とともに水や、砂、水溶性樹脂等の増粘剤などからなる粘性硬化材Bが封入されているが、その逆に、内管3内に粘性硬化材B、外管2内にセメント粉体Aを封入するようにしても勿論よい。
【0032】
ここで、本実施形態では、アンカー体固着用カプセル1におけるセメント粉体Aの重量に対する水の重量の比率である水セメント比は、およそ0.3〜0.5とする。これは、水セメント比が0.3より小さい場合は、作業性(攪拌性)が低下するのに対し、0.5を超えると、モルタルとしての強度や耐久性が劣るので、本実施の形態では、水セメント比は、0.3〜0.5とする。
【0033】
また、セメント粉体Aの質量に対する骨材(砂)の質量の比率である骨材セメント比は、1.0〜3.0とする。これは、骨材セメント比が1.0を下回ると、単位セメント量が大きくなり、水セメント比が小さくなるため、水和熱が大きくなり、乾燥収縮が発生し易く、強度発現に支障を来たすことが懸念される。その一方、骨材セメント比が3.0を超えると、単位セメント量が小さくなるため、作業性が悪化し、攪拌性が低下するので、強度発現に支障を来たす。このような理由から、本実施の形態では、骨材セメント比を1.0〜3.0としている。
【0034】
ここで、骨材(砂)には、砕かれたアンカー体固着用カプセル1のガラス管の破片を利用し、上述の1.0〜3.0の骨材セメント比になるようにガラス管の形状や厚さなどを決定する。ガラス管が大きくなり過ぎる場合は、外管2内等に不足分の砂を予め封入する。
【0035】
また、本実施形態では、図3(a)〜(g)に示すように、アンカー体固着用カプセル1を穿孔51の上方から下向きに挿入する下向き施工の場合、外管2内の空隙部Yと、内管3内の空隙部Xとが、共に、下側になるようにして穿孔(アンカー孔)51内に挿入する。このようにすると、外管2の上側には、内管3内のセメント粉体Aと反応して硬化作用を生じさせる水や、砂、増粘剤等の粘性硬化材Bが密に集積し、穿孔51の上部に滞留するので、アンカー体固着用カプセル1を破砕したときに、確実に、粘性硬化材B等が、ガラス管に由来するガラス破片と、内管3側のセメント粉体Aを巻き込み、モルタルを形成するからである。なお、このようにすると、穿孔(アンカー孔)51内の下端部に空隙が残るおそれがあるが、アンカー体4先端は、図2(a),(b)に示すように、45度の角度にカットされており、モルタルが充填されていたとしても、それほど耐力に貢献しないので、仮に下側に空隙が残ったとしても、耐力低下の影響はほとんどないからである。
【0036】
(4)施工(アンカー体固着用カプセル1の破砕および攪拌)(図3(f))
次に、ハンマードリル等の工具にアンカー体4をセットし、図3(f)に示すように、アンカー体4を回転や打撃(上下動)させながら打ち込み、アンカー体4の先端部41によりアンカー体固着用カプセル1の外管2および内管3を破砕ないしは粉砕して骨材化する。すると、穿孔(アンカー孔)51内周面と、アンカー体4外周面との間隙であるクリアランス部分に、内管2と外管3の内容物の攪拌混合によって生成されたモルタルが充填される。なお、図3(f),(g)において、アンカー体4の所定位置には、Oリング等のモルタル漏れ抑制具42が事前に装着されている。また、本実施形態では、後述するように、ハンマードリル等の工具として、回転数が200回転/分以上であり、かつ、打撃数が3000回数/分程度のものを使用する。
【0037】
(5)施工完了(図3(g))
そして、図3(g)に示すように、アンカー体4の先端部41が穿孔51内の底面に到達すると、ハンマードリルの回転と打撃などを停止させ、ハンマードリルからアンカー体4を取外す。その後、所定の養生時間をおき、モルタルの強度を十分に発現させて、アンカー体4を穿孔51内に定着させる。これにより、アンカー体固着用カプセル1を用いた接着系アンカーの施工が完了する。なお、穿孔に使用するドリルと、アンカー体4を挿入する際に用いるドリルとは、同じものを使用しても、別のものを使用してもどちらでも良い。
【0038】
≪実験(回転と打撃による破砕の場合)≫
次に、ハンマードリルに取り付けたアンカー体4の回転と打撃の双方によりアンカー体固着用カプセル1を破砕および攪拌混合した場合における累積回転数1回転当りのモルタル量(mm/1回転)と、累積打撃数の1打撃当りのモルタル量(mm/1打撃)について実験の結果について説明する。本実験では、後述する試料No.1〜19の条件で実験を行った。そして、所定のアンカー性能を満たすか否かの合否判断は、例えば、アンカー体4の引張強さσy(単位:N/mm)/アンカー体4の公称降伏点σo(単位:N/mm)>1の評価基準を満たすか否かにより行った。
【0039】
図4は、実験にて使用する試料No.1〜19の条件等を示す表である。
【0040】
図4は、試料No.1〜19について、アンカー体4の呼び名(サイズ)、公称径d(単位:mm)、公称断面積a(単位:mm)と、穿孔径D(単位:mm)と、穿孔深さL(単位:mm)と、穿孔断面積A(単位:mm)と、モルタル容量(モルタル体積)L(A−a)(単位:mm)と、クリアランス比(D−d)/dそれぞれの値を示している。ここで、アンカー体4の呼び名のMは、図2(b)に示すような全ネジボルト4bを示しており、Dは図2(a)に示すような異形鉄筋4aを示している。
【0041】
例えば、図4において、試料No.1の場合、アンカー体4の種別は、M12であり、公称径dは12.0mm、公称断面積aは84.3mm、穿孔径Dは14.5mm、穿孔深さLは100.0mm、穿孔断面積Aは165.1mm、モルタル容量(モルタル体積)は8,083mmと、クリアランス比は21%であることを示している。
【0042】
図5は、本実施形態の実験にて使用する工具の種類と、各工具の1分間当りの回転数と、1分間当りの打撃数とを示す表である。
【0043】
図5に示すように、本実施形態では、アンカー体4を装着するハンマードリル等の工具として、1分間当りの回転数が200回転以上で、かつ、1分間当りの打撃数が3000回程度のものを3種選択し、これらを使用して実験を行った。
【0044】
具体的には、図5に示すように、工具:PR−38E(日立工機製)は、1分間あたりの回転数が400、1分間当りの打撃数は3000であり、工具:DH40SA(日立工機製)は、1分間あたりの回転数が360、1分間当りの打撃数は2800であり、共に、回転と打撃が連動している工具である。また、工具:DH24(日立工機製)は、1分間あたりの回転数が1150、1分間当りの打撃数は4600で、回転と打撃が連動または非連動を選択可能な形式、すなわち打撃を行わずに回転のみが可能な工具であるが、本実施形態では、回転と打撃とを連動させて使用する。
【0045】
図6は、図4に示す試料No.1〜19の条件でのアンカー体固着用カプセル1を用いた本実施形態の接着系アンカーの施工方法により実験を行った結果を示す表である。
【0046】
具体的には、図6は、試料No.1〜19の条件での本実施形態の接着系アンカーの施工方法を実験した際の工具、施工時間(秒)、1分間当りの回転数、累積回転数(総回転数)、累積回転数1回転当りのモルタル量(mm/1回転)、1分間当りの打撃数、累積打撃数(総打撃数)、累積打撃数1打撃当りのモルタル量(mm/1打撃)、前述した評価基準に基づく合否結果を示している。なお、施工時間とは、アンカー体4の先端部41をアンカー体固着用カプセル1にあてがい、その位置から工具を作動させて穿孔の底部に到達するまでの時間である。また、合否結果において、合格(○)はアンカー体4の引張強さσy(単位:N/mm)/アンカー体4の公称降伏点σo(単位:N/mm)が1より大きいもの、不合格(×)はアンカー体4の引張強さσy(単位:N/mm)/アンカー体4の公称降伏点σo(単位:N/mm)が1以下の強度不足のものである。
【0047】
例えば、試料No.1の場合、使用工具はPR−38E、施工時間は4.0秒、1分間当りの回転数は400、累積回転数(総回転数)は27、累積回転数1回転当りのモルタル量は303mm、1分間当りの打撃数は3000、累積打撃数(総打撃数)は200、累積打撃数の1打撃当りのモルタル量は40mmで、アンカー体4の引張強さσy(単位:N/mm)/アンカー体4の公称降伏点σo(単位:N/mm)が1より大きく、合格(○)であることを示している。
【0048】
そして、図6の表の最右欄の合否判定欄に示すように、試料No.1〜14,18,19の16個の試料(条件)では、アンカー性能の評価基準、すなわち、アンカー体4の引張強さσy(N/mm)/アンカー体4の公称降伏点σo(N/mm)>1を満足し、合格となった。なお、安全率を見込み、例えば、1.3より大きいものを合格とするようにしても勿論よい。
【0049】
その一方、試料No.15〜17の3個の試料(条件)では、アンカー性能の評価基準を満足せず、すなわち、アンカー体4の引張強さσy(N/mm)/アンカー体4の公称降伏点σo(N/mm)≦1となり、不合格(×)となった。なお、安全率を見込み、例えば、1.3以下のものを不合格とするようにしても勿論よい。
【0050】
図7は、アンカー体4の回転と打撃とによりアンカー体固着用カプセル1を破砕等する場合におけるアンカー体4の累積打撃回数1打撃当たりのモルタル容量の値と、合否結果との関係を示すグラフである。
【0051】
図6で説明したように、試料No.1〜14,18,19の試料(条件)では、アンカー性能の評価基準を満足し合格となった一方、試料No.15〜17の試料(条件)では、アンカー性能の評価基準を満足せず、不合格であった。
【0052】
そして、図6を参照すると、アンカー性能の評価基準を満足し合格(○)となった試料No.1〜14,18,19の試料(条件)では、アンカー体4の累積打撃回数1打撃当たりのモルタル容量の値は、14〜90mmの範囲であった。
【0053】
これに対し、アンカー性能の評価基準を満足せず不合格(×)となった試料No.15〜17の試料(条件)では、アンカー体4の累積打撃回数1打撃当たりのモルタル容量の値は、図6に示すように、それぞれ、92、95、98mmであった。
【0054】
その結果、この実験の結果より、アンカー体4の打撃と回転とによりアンカー体固着用カプセル1を破砕等してモルタル化する場合、アンカー体4の累積打撃回数1打撃当たりのモルタル容量は、図7に示すように、およそ1打撃当り90mm以下であると、上述のアンカー性能の評価基準を満足することがわかる。
【0055】
図8は、アンカー体4の回転と打撃とによりアンカー体固着用カプセル1を破砕等する場合におけるアンカー体4の累積回転数1回転当りのモルタル容量の値と、合否結果との関係を示すグラフである。
【0056】
図6で説明したように、試料No.1〜14,18,19の試料(条件)では、アンカー性能の評価基準を満足し合格となった一方、試料No.15〜17の試料(条件)では、アンカー性能の評価基準を満足せず、不合格であった。
【0057】
そして、図6を参照すると、アンカー性能の評価基準を満足し合格となった試料No.1〜14,18,19の試料(条件)では、アンカー体4の累積回転数1回転当りのモルタルの容量は、図6に示すように、107〜698mmの範囲で合格であった。
【0058】
これに対し、アンカー性能の評価基準を満足せず不合格であった試料No.15〜17の試料(条件)では、アンカー体4の累積回転数1回転当りのモルタルの容量は、図6に示すように、それぞれ、719、735、737mmで不合格であった。
【0059】
その結果、この実験の結果より、アンカー体4の打撃と回転とによりアンカー体固着用カプセル1を破砕等してモルタル化する場合、アンカー体4の累積回転数1回転当りのモルタルの容量は、図8に示すように、およそ1回転当り700mm以下であると、前述のアンカー性能の評価基準を満足することがわかる。
【0060】
従って、アンカー体4の打撃と回転とによりアンカー体固着用カプセル1を破砕等してモルタル化する実験の結果によれば、その累積回転数1回転当りのモルタル量は、700mm以下であり、かつ、アンカー体4の打撃数に対するモルタルの容量は、1打撃当り90mm以下で攪拌する必要があることがわかる。これは、時間当たりのハンマードリルの回転数および打撃数が著しく低い場合、あるいは累積回転数および累積打撃数に対してモルタル容量が多すぎるのも、攪拌不足の原因となるからである。これにより、ハンマードリルの打撃と回転とでアンカー体4を介して確実にアンカー体固着用カプセル1を破砕等してモルタル化し、十分な攪拌を行って、熟練工でなくても容易に施工が可能であり、性能のバラツキを抑えて、均一なアンカー性能を達成することが可能となる。
【0061】
≪上向き施工・横向き施工の場合≫
なお、上記実施形態では、アンカー体固着用カプセル1を穿孔の上方から挿入する下向き施工の場合について説明したが、コンクリートの天井や梁等に下方からアンカー体4を取り付ける上向き施工や、本発明では、コンクリートの横壁や柱等に横方向や下方から上向きにアンカー体4を取り付ける横向き施工や上向き施工にも適用できる。ただし、横向き施工や上向き施工の場合は、硬化剤となる水に増粘剤などを添加し、外管2側の液体層の粘度を、例えば、10〜10mPa・s程度にする。これは、粘度が10mPa・sより小さい場合には、モルタルの垂れが発生する一方、粘度が10mPa・sより大きい場合には、アンカー体4が穿孔の下端部に到達する前に挿入できなくなり、所定の長さを埋設することができなくなる、いわゆる高止まり等が生じるからである。このように粘度を所定範囲に上げることで、上向き施工等の施工状況であっても、施工中に穿孔からモルタルが垂れてくることがなくなり、均一なアンカー性能を保持することが可能となる。
【0062】
従って、本実施形態のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法によれば、実験により、クリアランス比、すなわちアンカー体4の外径に対する穿孔51とアンカー体4との間のクリアランスを15〜30%とし、アンカー体4が穿孔51の底部に到達するまでの累積回転数とモルタル量との関係を700mm/1回転以下とし、かつ、アンカー体4の累積打撃数とモルタル量との関係を90mm/1打撃以下にすると、回転に打撃が加わることで、熟練工でなくても確実にアンカー体固着用カプセルの容器である内外のガラス管を破砕ないしは粉砕してそれぞれの内容物を攪拌混合して、均質なモルタルの生成が可能となり、定着後のアンカー性能のバラツキを抑えて、均一なアンカー性能を達成することができる。
【0063】
また、本実施形態のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法において、アンカー体固着用カプセル1の外管2および内管3の各ガラス管の一端側に空隙部が存在し、アンカー体固着用カプセル1を穿孔51の上方から挿入する下向き施工の場合には、外管2および内管3の各ガラス管の空隙部が、共に、下側になるように穿孔51内に挿入するようにすると、アンカー体固着用カプセル1の上側には、外管2および内管3のガラス管内の内容物が密に集積し、アンカー体固着用カプセル1を破砕したときに、確実に、水等の液体成分がカプセルの破片やセメント粉体などの粒状物とを包み込み、穿孔の外部への飛散をより少なくして良質なモルタルを形成することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 アンカー体固着用カプセル
2 外管
3 内管
4 アンカー体
A セメント粉体
B 粘性硬化材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント粉体を内包する一方のガラス管と、水等を内包する他方のガラス管とが二重管構造に配置されたアンカー体固着用カプセルを、予め所定の深さに穿孔したコンクリート構造物の穿孔内に挿入し、その後、工具に取り付けたアンカー体の回転と打撃で各ガラス管を破砕してそれぞれの内容物を攪拌混合することによりモルタルを生成し、穿孔内に充満したモルタルにアンカー体の端部を埋没させて定着するアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法であって、
前記穿孔と前記アンカー体との間のクリアランスが、前記アンカー体の外径の15〜30%であり、
前記アンカー体が前記穿孔の底部に到達するまでの累積回転数と前記モルタルの容量との関係が、700mm/1回転以下であり、かつ、前記アンカー体の累積打撃数と前記モルタルの容量との関係が、90mm/1打撃以下である、
ことを特徴とするアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法。
【請求項2】
請求項1記載のアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法において、
前記アンカー体固着用カプセルの各ガラス管の一端側に空隙部が存在し、
該アンカー体固着用カプセルを前記穿孔の上方から挿入する下向き施工の場合、
各ガラス管の空隙部が、共に、下側になるように前記穿孔内に挿入する、
ことを特徴とするアンカー体固着用カプセルを用いた接着系アンカーの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−241366(P2012−241366A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110493(P2011−110493)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】