説明

アンカー及びアンカーの固定方法

【課題】少ない本数で鋼ブラケット等の付加部材を既存のコンクリート部材に強固に固着するアンカーを提供する。
【解決手段】 既存のコンクリート部材3の表面3aから該コンクリート部材中の所定の深さまで切削された穴3bに鋼管11を挿入し、穴3bの内周面との間に充填材16を充填して固定する。上記穴の底部からさらに深い位置までこの穴より内径の小さい小径穴3cを設け、アンカーボルト12を挿入して固着する。アンカーボルトの後端部に形成された雄ねじ部にナット14を螺合し、支圧プレート13を介して鋼管がコンクリート部材から抜け出さないように拘束する。また鋼管の内部には充填材18を充填して硬化させる。上記鋼管の外周面には雄ねじが形成されており、この雄ねじに第2のナット15を螺合し、この第2のナットとコンクリート部材との間に付加部材である鋼ブラケットの当接板2aを挟み込み、固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存のコンクリート部材又はコンクリート構造物に鋼等からなる付加部材を固着するためのアンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート部材又はコンクリート構造物はコンクリートが硬化した後に鋼ブラケット等の付加部材を固着する必要が生じる場合がある。例えば、特許文献1に記載されているように、コンクリートの橋脚と橋桁とに鋼ブラケットを取り付け、これらを連結して落橋防止装置とする場合がある。また、橋脚の頂部に鋼ブラケットを取り付け、橋桁が橋脚に対して大きく変位しても鋼ブラケットで橋桁を支持する落橋防止装置が採用されることもある。
コンクリー構造物の改修や拡張を行うときには、特許文献2に記載されているように、作業足場や支保工を支持するために既存のコンクリート部材に鋼ブラケットを取り付け、この鋼ブラケットに作業足場や新たに打設するコンクリートの重量を一時的に支持させる場合がある。
一方、コンクリート部材の補強が必要となった場合にも、特許文献3に記載されているようにコンクリート部材の複数の位置にブラケットを取り付け、これらの間に緊張材を張架してコンクリート部材に追加のプレストレスを導入することがある。この他に既存のコンクリート部材に直接付加する部材をアンカーによって固着することなどが広く行われている。
【0003】
このようなブラケット等の付加部材は、一般に図10に示すようにアンカー100を用いて固着されている。この構造は、コンクリート部材110に固着しようとする付加部材に当接板103を設け、この当接板103をコンクリート部材110の表面に当接させる。当接板103には貫通孔を設けておき、この貫通孔にはコンクリート部材110に埋め込んだアンカーボルト101を挿通する。そして、アンカーボルト101にねじり合わされたナット104で鋼ブラケット102の当接板103を締め付け、コンクリート部材100に固着するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−38392号公報
【特許文献2】特開2009−62768号公報
【特許文献3】特開平10−183755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、鋼ブラケット102や付加部材等をアンカーボルト101で固定する従来の構造では、次のような解決が望まれる課題がある。
鋼ブラケット102や付加部材に荷重が作用し、コンクリート部材110の鋼ブラケット102等が取り付けられた面に沿って大きな力が作用すると、この力はアンカーボルト101を介してコンクリー部材110に伝達され、アンカーボルト101には大きなせん断力が作用する。このせん断力に抵抗するためには、アンカーボルト101の本数を多くするか、又はアンカーボルトの径を大きくしなければならない場合が生じる。アンカーボルト101の本数が多くなると、アンカーボルト101を埋め込むための穴を多く切削する必要があり、既存のコンクリート部材110の耐久性等を保持するためには望ましくない。また、アンカーボルト101の径を大きくするとコンクリート部材110に切削する穴の径も大きくしなければならず、鉄筋105を切断しないように穴を穿設することが難しくなる。
一方、アンカーボルト101に大きなせん断力が作用すると、せん断力が作用する方向の背面側でアンカーボルト101とコンクリートとの接触面106で大きな支圧力が作用する。この支圧力を低減するためにも、アンカーボルト101の数を多くするか、又は径を拡大する必要が生じることがある。
【0006】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、少ない本数でブラケット等の付加部材を既存のコンクリート部材に強固に固着するアンカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 既存のコンクリート部材の表面から該コンクリート部材中の所定の深さまで切削された穴に挿入された鋼管と、 前記穴の底部から該穴より小さい内径でさらに深い位置まで又は前記コンクリート部材を貫通するように切削された小径穴に挿入され、抜け出さないように固定されるとともに、前記鋼管の内側に挿通されたアンカーボルトと、 前記アンカーボルトの前記コンクリート部材から突き出した端部に形成された雄ねじ部に螺合され、前記鋼管が該コンクリート部材から抜け出さないように拘束するナットと、を有し、 前記鋼管の外周面と前記穴の内周面との間及び前記鋼管の内部には、充填材が充填されて硬化しているアンカーを提供する。
【0008】
上記アンカーでは、先端から穴に挿入された鋼管の後端に、アンカーボルトが挿通される貫通孔を備えた支圧プレートが当接され、この支圧プレートを介してナットが鋼管の抜け出しを拘束するものとするのが望ましい。また、鋼管の端面に当接される支圧プレートは、鋼管とは分離可能な部材であっても良いし、後端面に当接して一体に接合されたものであってもよい。さらに、この支圧プレートは、このアンカーによってコンクリート部材に固着されるブラケット等、付加部材の一部を構成するものであっても良い。
上記鋼管は、先端から上記穴に挿入されたときに、コンクリート部材の表面より後端部が突出する長さを有するものであっても良いし、上記のように支圧プレートと一体に接合される場合には、上記鋼管は穴の深さより短いものであっても良い。
また、上記鋼管の外周面と穴の内周面との間に充填される充填材と、鋼管の内側に充填される充填される充填材とは、充填する時期が異なるものであっても良いし、双方に連続して充填されるものであっても良い。時期が異なるときには異なる種類の充填材を用いることもできる。
【0009】
上記アンカーでは、コンクリート部材に深く埋め込まれたアンカーボルトが引き抜きに対して抵抗し、鋼管がコンクリート部材から引き抜かれないように拘束する。そして、コンクリート部材の表面に沿った方向の力に対して、鋼管とアンカーボルトとこれらの間に充填され硬化した充填材とが一体となって抵抗する。したがって、大きなせん断抵抗力を有し、付加部材を支持するためのアンカー数は少なくなる。また、コンクリート部材に深く埋め込まれるアンカーボルトの径は小さくしても鋼管の外径を大きくしてコンクリート部材に作用する支圧力を小さく抑えることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアンカーにおいて、 前記鋼管の外周面に雄ねじが形成され、該雄ねじに螺合された第2のナットを有し、 前記コンクリート部材に支持させる付加部材に設けられた貫通孔に前記鋼管を挿通し、前記第2のナットと前記コンクリート部材との間に前記付加部材を挟み込み、前記第2のナットを締め付けて前記付加部材を支持するものとする。
【0011】
このアンカーでは、鋼管をコンクリート部材から突出するように固着し、その後に、付加部材に設けられた貫通孔に鋼管を挿通して付加部材を固着することができる。したがって、鋼管をコンクリートに固着する工程、付加部材をコンクリート部材に固着する工程を分離して確実に行うことができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載のアンカーにおいて、 先端が前記穴に挿入された前記鋼管の後端に、前記コンクリート部材の表面に当接される鋼プレートが固着され、 該鋼プレートが前記付加部材の一部を構成するものであり、 前記アンカーボルトに螺合されたナットを締め付けることにより、前記鋼プレートを前記コンクリート部材側に押し付けるものとする。
【0013】
このアンカーでは、鋼管とこれに固着された付加部材とを一体にしてコンクリート部材に固着することができ、効率の良い作業が可能となる。
【0014】
請求項4に係る発明は、 既存のコンクリート部材の表面から該コンクリート部材に埋め込まれた鉄筋に到達する深さで穴を切削する工程と、 前記穴より内径の小さい小径穴を、前記穴の底から所定の深さまで又は前記コンクリート部材を貫通するように切削する工程と、 前記小径穴にアンカーボルトを挿入し、充填材によって前記アンカーボルトが抜け出さないように固定するか、又は該小径穴にアンカーボルトを貫通させ、該アンカーボルトが抜け出さないように貫通した先端部をコンクリー部材に係止する工程と、 前記穴に鋼管を挿入し、前記アンカーボルトの前記コンクリート部材から突き出した後端部に形成された雄ねじ部に螺合されるナットを前記鋼管に係止した状態で締め付け、前記鋼管を前記コンクリート部材側に押し付けるとともに、前記鋼管の外周面と前記穴の内周面との間に充填した充填材の硬化によって前記鋼管を前記コンクリート部材に固定する工程と、 前記鋼管の内側に充填材を充填する工程と、を含むアンカーの固定方法を提供するものである。
【0015】
この方法では、内径の大きな穴を鉄筋に到達する深さで穿設してコンクリート部材の表面近くに埋め込まれた鉄筋の位置を確認することができる。そして、この穴の底から鉄筋の位置を避けて鉄筋より深い位置まで小径穴を穿設することができ、鉄筋を損傷することなくアンカーボルト用の穴を設けることができる。そして、小径穴内に固着したアンカーボルトで浅く挿入された鋼管が抜け出さないように拘束することによって、コンクリート部材の表面近くで外形が大きく、大きなせん断抵抗力を有するアンカーが形成される。
なお、上記発明において、コンクリート部材に埋め込まれた鉄筋に到達する深さで切削する穴は、鉄筋の表面が穴の底に露出する深さで形成するものであっても良いし、これより浅い穴であって穴の底の凹凸等によって鉄筋の表面の一部が露出し、鉄筋の位置が認識できる程度の深さであっても良い。
【0016】
請求項5に係る発明は、 既存のコンクリート部材の表面から該コンクリート部材に埋め込まれた鉄筋に到達する深さで穴を切削する工程と、 前記穴より内径の小さい小径穴を、前記穴の底部から所定の深さまで、又は前記コンクリート部材を貫通するように切削する工程と、 前記小径穴にアンカーボルトを挿入し、充填材によって前記アンカーボルトが抜け出さないように固定するか、又は該小径穴にアンカーボルトを貫通させ、該アンカーボルトが抜け出さないように貫通した先端部をコンクリー部材に係止する工程と、 前記穴と対応する位置に貫通孔を有し、該貫通孔を囲むように鋼管が溶接された鋼プレートを前記コンクリート部材の表面に当接し、該鋼プレートに軸線がほぼ直角となるように接合された前記鋼管を前記穴に挿入するとともに、前記鋼管の内側及び前記鋼プレートに設けられた貫通孔に前記アンカーボルトを挿通し、前記アンカーボルトの前記コンクリート部材から突き出した後端部に形成された雄ねじ部に螺合されるナットを締め付けて前記鋼プレートを前記コンクリート部材側に押し付ける工程と、 前記鋼管の外周面と前記穴の内周面との間、及び前記鋼管の内側に充填材を充填する工程と、を含むアンカーの固定方法を提供する。
【0017】
この方法では、鉄筋を切断することなく、アンカーボルトを埋め込むための小径穴を形成することができる。そして、コンクリート部材の表面近くでは外径が太く、小径のアンカーボルトがコンクリート部材の深くまで埋め込まれて強固に固着されたアンカーが形成される。また、予め付加部材と一体に固着された鋼管を、アンカーの一部として付加部材とともにコンクリート部材に強固に固着することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明のアンカーでは、大きなせん断抵抗力を有し、少ない本数で付加部材を強固に支持することができる。また、本発明のアンカーの固定方法では、コンクリート部材に埋め込まれている鉄筋を損傷することなくアンカーを固着するための穴をコンクリート部材に穿設することができるとともに、大きなせん断抵抗力を有するアンカーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るアンカーによってコンクリート部材に固着された鋼ブラケットを示す概略断面図である。
【図2】図1に示す鋼ブラケットを固着するアンカーの拡大断面図である。
【図3】図2に示すアンカーを設ける工程を示す概略断面図である。
【図4】図2に示すアンカーを設ける工程を示す概略断面図である。
【図5】図2に示すアンカーを設ける工程を示す概略断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態であるアンカーによって付加部材をコンクリート部材に固着した状態を示す断面図である。
【図7】図6に示すアンカーを設ける工程を示す概略断面図である。
【図8】図6に示すアンカーを設ける工程を示す概略断面図である。
【図9】図6に示すアンカーを設ける工程を示す概略断面図である。
【図10】従来のアンカーによってコンクリート部材に固着された鋼ブラケットを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るアンカーによってコンクリート部材に固着された鋼ブラケットを示す概略断面図である。また、図2は、図1に示す鋼ブラケットを固着するアンカーの拡大断面図である。
この鋼ブラケット2は、コンクリート部材3の鉛直面3aにアンカー1によって取り付けられたものであり、アンカー1は上下に2段が設けられ、横方向には2列以上が設けられている。
鋼ブラケット2は、コンクリート部材3の鉛直面3aに当接される当接板2aを有し、この当接板2aに張り出し部2bが設けられ、この張り出し部2bによって作業足場や支保工等の荷重を支持するものとなっている。
【0021】
上記アンカー1は、既存のコンクリート部材3に穴3bを切削し、この穴3bに先端部が埋め込まれた鋼管11と、この鋼管11の内側に挿通されるとともに、前記穴3bの底部からさらに深い位置まで切削された小径穴3cに挿入して固定されたアンカーボルト12と、中央部に有する貫通孔に上記アンカーボルト12が挿通された支圧プレート13と、上記アンカーボルト12のコンクリート部材3から突き出した後端部に形成された雄ねじ部12aに螺合され、上記支圧プレート13を上記鋼管11の後端面に押し付けるナット14と、上記鋼管11の外周面に形成された雄ねじにねじ合わされた第2のナット15と、を有するものである。
【0022】
上記鋼管11は、既存のコンクリート部材3の表面から切削された穴3bに挿入して固定されたものである。この穴3bはコアドリル等を用いて切削することができ、鋼管11の外径よりやや大きい内径となっている。そして、鋼管11の外周面もしくは穴の内周面又はこれらの双方に塗布され、鋼管11を穴3b内へ挿入した後に硬化した充填材16を介して双方が互いに固着されている。充填材16は、例えばエポキシ樹脂等の合成樹脂又はモルタル等を用いることができる。
また、上記鋼管11の長さは、上記穴3bの深さより大きくなっており、先端部を穴3bに挿入して固定された状態で後部がコンクリート部材3の表面から突き出している。このコンクリート部材3の表面から突き出した部分には、雄ねじが形成されており、上記第2のナット15が螺合されている。
【0023】
上記アンカーボルト12は断面が円形となった棒状の鋼部材であり、小径穴3c内から抜け出さないように先端部分に複数の凹部が設けられたものが望ましい。
このアンカーボルト12は、上記鋼管11が挿入される穴3bの底部からさらに深い位置まで切削された小径穴3cに先端から挿入され、硬化した充填材17によって抜け出さないように固定されたものである。上記小径穴3cは上記穴3bより内径が小さくなっており、上記穴3bと同様にコアドリルや、ハンマードリル等のコンクリートに削孔が可能な既存の手段を用いて設けることができる。この小径穴3c内に上記アンカーボルト12を固定する充填材17は、上記鋼管11を固定するものと同様にエポキシ樹脂等の合成樹脂を用いることができる。
【0024】
上記支圧プレート13は、中央部に円形の貫通孔を有する鋼板部材であり、この貫通孔に上記アンカーボルト12が挿通され、穴3bに挿入された上記鋼管11の後端面に当接されている。また、上記ナット14は上記アンカーボルト12の後端部にねじ合わされ、上記支圧プレート13に当接して、支圧プレート13を介して鋼管11をコンクリート部材3側に押し付けるものとなっている。
【0025】
また、上記鋼管11の内側には充填材18が充填され、この充填材18の硬化によって鋼管11の内側に挿通されたアンカーボルト12と一体に固着されている。
【0026】
上記のような構成を有するアンカー1によってコンクリート部材3に固定する鋼ブラケット2つまり付加部材は、コンクリート部材3の表面に当接される当接板2aを有し、この当接板2aに設けられた貫通孔に上記鋼管11が挿通されている。そして、上記第2のナット15を締め付けて、鋼ブラケット2の当接板2aをコンクリート部材3の表面3aに押し付けて固定される。また、当接板2aとコンクリート部材の表面3aとの間、及び鋼管11の外周面と鋼ブラケットの当接板2aに設けられた貫通孔の内周面との間には、モルタル又はエポキシ樹脂等の充填材が介挿され、硬化している。これにより、当接板2aとコンクリート部材の表面3aとの間、及び鋼管の外周面と鋼ブラケットの当接板2aに設けられた貫通孔の内周面との間が硬化した充填材で埋められ、充填材を介して力の伝達が可能な状態となっている。
【0027】
上記アンカー1でコンクリート部材3に固着された鋼ブラケット2に、コンクリート部材の表面3aに沿った方向の力Pが作用すると、第2のナット15によって締め付けられた当接板2aとコンクリート部材の表面3aとの間の接着力及び摩擦力と、アンカー1のせん断抵抗力によって鋼ブラケット2が支持される。つまり、アンカー1は鋼管11とアンカーボルト12と鋼管内で硬化した充填材18とが一体となった合成部材としてせん断力に抵抗し、鋼管に作用した力をコンクリート部材3に伝達する。このとき、アンカー1に力が作用する方向の背面側1aでは、鋼管11の外周面とコンクリートとの間に支圧力が作用するが、鋼管11の外径は、図10に示すような従来のアンカー構造におけるアンカーボルトの外径より充分に大きく、支圧力は小さく抑えられる。また、鋼管11はコンクリート部材3に埋め込まれた長さが小さくなっているが、アンカーボルト12、支圧プレート13及びナット14によってコンクリート部材3から抜け出すのが拘束され、上記力Pに対して抵抗するものとなる。
【0028】
次に、上記のようなアンカー1をコンクリート部材3に設ける工程を図3から図5までに基づいて説明する。
アンカー1を設置するには、まずコンクリート部材3の鋼ブラケット2を取り付けようとする位置に鋼管11を挿入するための穴3bを設ける。この穴3bは、図3(a)に示すように鋼管11の外径よりやや大きいものとし、コンクリート部材の表面3a近くに埋め込まれている鉄筋3dに到達する深さとする。また、この穴3bの切削によって鉄筋3dを損傷しない深さとする。この穴3bを設けることにより、鉄筋3dの位置を確認することが可能となり、鉄筋3dの位置を避けて上記穴3bの底部からアンカーボルト12を挿入して固定する小径穴3cをさらに深い位置まで切削する。このとき小径穴3cは必ずしも径が大きい穴3bの中心に設ける必要はない。鉄筋3dが配置されている位置を避けて、中心からはずれた位置に設けることができる。
なお、上記鋼管を挿入するための穴3bは、コンクリート部材が無筋コンクリート又は鉄筋が穴を切削する位置に無いことが明確なものであるときには、鉄筋が配置されている深さに関係なく穴の深さを設定することができる。
【0029】
上記小径穴3cが切削されると、図3(b)に示すように小径穴3cにアンカーボルト12を先端から挿入するとともに、小径穴3c内にエポキシ樹脂等の充填材を充填し、固化させてアンカーボルト12をコンクリート部材3に固着する。続いて、図4(a)に示すように径が大きい穴3bには鋼管11を先端から挿入して固定する。この鋼管11の固定は、該鋼管11の外周面もしくは穴3bの内周面又はこれらの双方にエポキシ樹脂等の充填材を塗布しておき、鋼管11を穴内に挿入して鋼管11の外周面と穴の内周面との間に充填材16が満たされた状態とする。なお、注入管等を用いて充填材を注入するものであっても良い。
【0030】
充填材16の硬化によって鋼管11がコンクリート部材3に固定されると、鋼ブラケット2を所定の位置でコンクリート部材の表面3aに当接する。鋼ブラケット2はコンクリート部材の表面3aに当接される位置に鋼からなる当接板2aを備えており、図4(b)に示すように、この当接板2aに設けられた貫通孔に上記アンカーの鋼管11を挿通して当接板2aをコンクリート部材3に当接する。また、鋼管11には外周面に形成されている雄ねじに第2のナット15をねじ合わせる。当接板2aをコンクリート部材の表面3aに当接するときには、予めコンクリート部材の表面3aもしくは当接板2aのコンクリート部材3に当接される面又はこれらの双方にエポキシ樹脂等の充填材又は接着剤を塗布しておく。また、当接板2aに設けられた貫通孔の内周面と鋼管11の外周面との間にも充填材が充填されるように鋼管11の外周面もしくは当接板2aの貫通孔の内周面又はこれらの双方に充填材を塗布しておく。
【0031】
上記アンカーボルト12は、図5(a)に示すように支圧プレート13の貫通孔に挿通させ、支圧プレート13を鋼管11の後端面に当接させる。そして、アンカーボルト12の後端部に形成されている雄ねじにナット14を螺合し、支圧プレート13に締め付けて鋼管11をコンクリート部材3側に押し付ける。上記ナット14を締め付けた後に第2のナット15を締め付け、鋼ブラケットの当接板2aをコンクリート部材の表面3aに押し付けて固定する。
上記支圧プレート13を鋼管11の後端面に当接したとき、小径穴3cが径の大きい穴3bの中心に設けられていないと支圧プレート13が鋼管11に対して偏心することになるが、支圧プレート13は偏心があっても鋼管11の後端面の全域に当接する大きさに設定されており、鋼管11の後端面の全域に押し付けることができる。
【0032】
その後、図5(b)に示すように支圧プレート13に設けられている注入孔13aに注入管13bを取り付け、充填材18を鋼管11の内側に注入する。この充填材18は、モルタル、セメントミルク、合成樹脂等を用いることができる。この充填材18が硬化することによりアンカー1の設置及び鋼ブラケット2の取り付けを完了する。
【0033】
このようなアンカー1では、径の大きい穴3bは深さがコンクリート部材3に埋め込まれている鉄筋3dの位置より浅くなっているので、鉄筋3dの位置に影響されること無く正確な位置に設けることができる。したがって、鋼ブラケット2の当接板2aに設ける貫通孔はこの径の大きい穴3bに挿入される鋼管11の位置に合わせて形成しておけば、これらの貫通孔に鋼管11を挿入して鋼ブラケット2をコンクリート部材3に当接させることができる。そして、鉄筋3dの位置を避けて設ける小径穴3cの位置は鉄筋3dの位置に影響されて実際に切削するまでは正確な位置が定まらないが、アンカーボルト12と鋼管11とは偏心が許容される。したがって、従来のように実際にアンカーボルトが設置された位置に合わせて当接板の貫通孔を設ける必要はない。
【0034】
図6は、本発明の他の実施形態であるアンカー31によって付加部材である鋼ブラケットの当接板32をコンクリート部材33に固着した状態を示す断面図である。
このアンカー31は、コンクリート部材33中に埋め込まれた鉄筋33dに到達する深さで切削された穴33bに挿入された鋼管41と、上記穴33bの底部からさらに深い位置まで切削された小径穴33cに挿入して固定されたアンカーボルト42と、中央部に有する貫通孔に上記アンカーボルト42が挿通された支圧プレート43と、上記アンカーボルト42のコンクリート部材33から突き出した後端部に形成された雄ねじ部に螺合され、上記支圧プレート43に当接されるナット44と、を有するものである。上記鋼管41は、鋼ブラケットの当接板32に溶接よって固着されている。そして、上記支圧プレート43は鋼ブラケットの当接板32に押し付けられ、当接板32をコンクリート部材33の表面33aに押し付けて固定するものとなっている。
【0035】
上記アンカーボルト42は、図2に示すアンカー1と同様に先端から小径孔33cに挿入され、硬化した充填材47によってコンクリート部材33に固着されている。このアンカーボルト42の後端部はコンクリート部材33の表面より突き出しているが、図2に示すアンカー1より突き出し長は短くなっている。
【0036】
鋼ブラケットの当接板32には貫通孔が設けられており、上記鋼管41はこの貫通孔を囲むように接合されている。つまり、貫通孔から鋼管41の内側に通じるように接合されており、この鋼管41が接合された位置は、コンクリート部材33に径が大きい穴33bが設けられた位置と対応している。そして、上記当接板32がコンクリート部材の表面33aに当接され、鋼管41がコンクリート部材33に穿設された径の大きい穴33bに挿入されている。また、小径穴33cに挿入して固着されたアンカーボルト42は鋼管41及び当接板32に設けられた貫通孔に挿通され、当接板32より後方に突き出している。このアンカーボルト42の突出した部分に、貫通孔を有する支圧プレート43が装着され、ナット44が螺合されている。
【0037】
一方、穴33bに挿入された鋼管41の先端面は穴33bの底面との間に間隔を保持して対向するように、鋼管41の長さ及び穴33bの深さが設定されている。また、この鋼管41が挿入される穴33bの径は、内周面と鋼管41の外周面との間に、充填材46を注入することができる程度の間隔が生じるように設定されている。
【0038】
上記支圧プレート43は、ナット44を締め付けることによって鋼ブラケットの当接板32に当接され、鋼ブラケットの当接板32をコンクリート部材の表面33aに押し付けて固定するものとなっている。この支圧プレート43は、アンカーボルト42を挿入する小径穴33cが鉄筋33dを避けて径の大きい穴33bに対して偏心している場合にも、貫通孔の周囲の全域にわたって当接板32に当接されるものとなっている。
【0039】
上記支圧プレート43には、充填材46の注入孔43aが設けられており、この注入孔43aから注入された充填材46が鋼管41の内側に充填されるとともに先端から外側に回り込んで鋼管41の外周面とコンクリート部材33に設けられた穴33bの内周面との間にも充填されている。
【0040】
このようなアンカーは、次のような工程によって設けることができる。
コンクリート部材33のアンカーが設けられる位置には、図2に示すアンカーと同様に、鋼管41を挿入する大きい径の穴33bを穿設する。この穴33bはコンクリート部材33の表面近くに埋め込まれている鉄筋33dに到達する深さで設け、鉄筋33dの位置を避けてこの穴33bの底部からアンカーボルト42を固定する小径穴33cを穿設する。そして、図7(a)に示すようにアンカーボルト42を小径穴33cに挿入し、充填した充填材47の硬化によってコンクリート部材33に固着する。
【0041】
コンクリート部材33に固定する鋼ブラケットは、図7(b)に示すように当接板32に鋼管41を溶接で接合しておき、これをコンクリート部材33に当接させる。つまり、当接板32をコンクリート部材の表面33aに当接させるとともに、鋼管41を穴33bに挿入し、コンクリート部材33に固着されたアンカーボルト42を鋼管41の内側に挿通させる。
【0042】
上記アンカーボルト42には、図8(a)に示すように支圧プレート43を装着し、ナットを螺合する。そして、図8(b)に示すようにナット44を支圧プレート43に締め付け、当接板32をコンクリート部材の表面33aに押し付けて鋼ブラケットを固定する。その後、図9に示すように支圧プレート43に設けられた注入孔43aから充填材46を注入し、鋼管41の内側に充填するとともに、鋼管41の先端から鋼管41の外側にも充填材を回り込ませ、鋼管41の外周面と穴33bの内周面との間にも充填材46を充填する。この充填材46が硬化することによってアンカーボルト42と、鋼管41と、鋼ブラケットの当接板32とが一体に固着され、アンカー31の設置及び鋼ブラケットの固着が完了する。
【0043】
このようなアンカー31では、鋼ブラケットの当接板32に結合された鋼管41とアンカーボルト42と充填材46との合成部材によって鋼ブラケットの当接板32から作用する荷重に抵抗するものとなる。これにより、アンカー31の本数を少なくするとともに、既存のコンクリート部材33に埋め込まれた鉄筋33dを損傷することなく、アンカーボルト42を固着するための穴33cを穿設することができる。また、鋼管41を付加部材である鋼ブラケットに予め固着しておくことにより、部品の数を減じるとともに、アンカー31によって鋼ブラケットをコンクリート部材33に固着する工程を効率よく行うことが可能となる。
【0044】
以上に説明した実施の形態では、コンクリート部材3,33に所定の深さの小径穴3c,33cを設けてアンカーボルト12,42を挿入し、固定するものであったが、上記小径穴3c、33cに代えてコンクリート部材を貫通する孔を設けるものであっても良い。貫通孔を設けた場合には、アンカーボルトを先端から貫通孔に挿入し、貫通した先端にプレート及びナット等を装着して後方への引き抜きに対して抵抗させることができる。
また、本発明のアンカーでコンクリート部材に固着される付加部材は、作業足場や支保工等の鉛直方向への荷重を支持するブラケットや、プレストレスを導入するための緊張材が定着されるブラケットとすることができる。また、構造物の改修等によって付加される設備、例えば照明灯の支柱等を支持する構造であっても良い。
その他、本発明は上述の態様に限定されること無く、様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
1:アンカー、 2:鋼ブラケット、 3:コンクリート部材、 3a:コンクリート部材の表面(鉛直面)、 3b:鋼管を挿入する径の大きい穴、 3c:アンカーボルトを挿入する小径穴、 3d:コンクリート部材に埋め込まれた鉄筋、
11:鋼管、 12:アンカーボルト、 13:支圧プレート、 14:ナット、 15:第2のナット、 16:充填材、 17:充填材、 18:充填材、
31:アンカー、 32:鋼ブラケットの当接板、 33:コンクリート部材、 33a:コンクリート部材の表面、 33b:鋼管を挿入する径の大きい穴、 33c:アンカーボルトを挿入する小径穴、 33d:コンクリート部材に埋め込まれた鉄筋、
41:鋼管、 42:アンカーボルト、 43:支圧プレート、 44:ナット、 46:充填材、 47:充填材




【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存のコンクリート部材の表面から該コンクリート部材中の所定の深さまで切削された穴に挿入された鋼管と、
前記穴の底部から該穴より小さい内径でさらに深い位置まで又は前記コンクリート部材を貫通するように切削された小径穴に挿入され、抜け出さないように固定されるとともに、前記鋼管の内側に挿通されたアンカーボルトと、
前記アンカーボルトの前記コンクリート部材から突き出した端部に形成された雄ねじ部に螺合され、前記鋼管が該コンクリート部材から抜け出さないように拘束するナットと、を有し、
前記鋼管の外周面と前記穴の内周面との間及び前記鋼管の内部には、充填材が充填されて硬化していることを特徴とするアンカー。
【請求項2】
前記鋼管の外周面に雄ねじが形成され、該雄ねじに螺合された第2のナットを有し、
前記コンクリート部材に支持させる付加部材に設けられた貫通孔に前記鋼管を挿通し、前記第2のナットと前記コンクリート部材との間に前記付加部材を挟み込み、前記第2のナットを締め付けて前記付加部材を支持するものであることを特徴とする請求項1に記載のアンカー。
【請求項3】
先端が前記穴に挿入された前記鋼管の後端に、前記コンクリート部材の表面に当接される鋼プレートが固着され、
該鋼プレートが前記付加部材の一部を構成するものであり、
前記アンカーボルトに螺合されたナットを締め付けることにより、前記鋼プレートを前記コンクリート部材側に押し付けるものであることを特徴とする請求項1に記載のアンカー。
【請求項4】
既存のコンクリート部材の表面から該コンクリート部材に埋め込まれた鉄筋に到達する深さで穴を切削する工程と、
前記穴より内径の小さい小径穴を、前記穴の底から所定の深さまで又は前記コンクリート部材を貫通するように切削する工程と、
前記小径穴にアンカーボルトを挿入し、充填材によって前記アンカーボルトが抜け出さないように固定するか、又は該小径穴にアンカーボルトを貫通させ、該アンカーボルトが抜け出さないように貫通した先端部をコンクリー部材に係止する工程と、
前記穴に鋼管を挿入し、前記アンカーボルトの前記コンクリート部材から突き出した後端部に形成された雄ねじ部に螺合されるナットを前記鋼管に係止した状態で締め付け、前記鋼管を前記コンクリート部材側に押し付けるとともに、前記鋼管の外周面と前記穴の内周面との間に充填した充填材の硬化によって前記鋼管を前記コンクリート部材に固定する工程と、
前記鋼管の内側に充填材を充填する工程と、を含むことを特徴とするアンカーの固定方法。
【請求項5】
既存のコンクリート部材の表面から該コンクリート部材に埋め込まれた鉄筋に到達する深さで穴を切削する工程と、
前記穴より内径の小さい小径穴を、前記穴の底部から所定の深さまで、又は前記コンクリート部材を貫通するように切削する工程と、
前記小径穴にアンカーボルトを挿入し、充填材によって前記アンカーボルトが抜け出さないように固定するか、又は該小径穴にアンカーボルトを貫通させ、該アンカーボルトが抜け出さないように貫通した先端部をコンクリー部材に係止する工程と、
前記穴と対応する位置に貫通孔を有し、該貫通孔の周囲を囲むように鋼管が溶接された鋼プレートを前記コンクリート部材の表面に当接し、鋼プレートに軸線がほぼ直角となるように接合された前記鋼管を前記穴に挿入するとともに、前記鋼管の内側及び前記鋼プレートに設けられた貫通孔に前記アンカーボルトを挿通し、前記アンカーボルトの前記コンクリート部材から突き出した後端部に形成された雄ねじ部に螺合されるナットを締め付けて前記鋼プレートを前記コンクリート部材側に押し付ける工程と、
前記鋼管の外周面と前記穴の内周面との間、及び前記鋼管の内側に充填材を充填する工程と、を含むことを特徴とするアンカーの固定方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−225090(P2012−225090A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95068(P2011−95068)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)