説明

アンケート方法およびシステム

【課題】アンケート対象のサンプル集団が母集団を代表しているか否かを検証でき、さらには母集団からサンプル集団を偏りなく抽出できるアンケート方法およびシステムを提供する。
【解決手段】サンプルデータベース1には、多数のユーザUiおよびその知人数kiが記憶されている。目標記憶部2には目標次数特性が記憶されている。サンプル集団選抜部3は、サンプルデータベース1からアンケート対象のサンプル集団Ujを選抜する。知人数取得部4は、選抜されたサンプル集団Ujの知人数kjをサンプルデータベース1から取得する。次数特性算出部5は、取得された知人数kjに基づいてサンプル集団Ujの知人数kjに関する次数特性を算出する。検証部6は、サンプル集団Ujの次数特性と目標次数特性とを比較することにより、今回のサンプル集団Ujと社会ネットワーク構造との適合性を検証し、その検証結果を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンケート方法およびシステムに係り、特に、通信サービスに加入契約しているユーザの集合から、通信サービスを利用するユーザの社会ネットワーク構造に適合したサンプル集団をアンケート対象として選抜するアンケート方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、商品やサービスに関する市場調査を目的としたアンケート調査が知られている。従来のアンケート調査では、アンケート対象候補の母集団からアンケート対象のサンプル集団を選抜し、当該サンプル集団を対象にアンケート調査を実施して回答を収集・集計し、ユーザのニーズに合致した商品やサービス等を調査していた。
【0003】
特許文献1には、アンケートの回答者毎にアンケート回答結果と平均結果との一致度を計算あるいは予測結果との乖離値を計算し、与えられたヒヤリング目的に対応する一致度と乖離値の既定値とに基づいて、アンケート回答者の中から詳細ヒヤリングを実施する対象者を選択する方法およびシステムが開示されている。
【0004】
特許文献2には、商品の購買履歴などを管理するシステムにおいて、商品IDと購入者IDとを紐付けてユーザID毎に購買状況とアンケート回答状況とを管理・把握し、その上で、アンケート対象として商品を実際に購入したユーザや過去のアンケート回答履歴の良いユーザを選択することにより、アンケート精度やその効果を向上させる方法およびシステムが開示されている。
【0005】
特許文献3には、アンケート内容を番組としてBS放送し、視聴者が番組BML経由でアンケートの回答を返信することで大量のユーザから容易に回答を回収できるシステムが開示されている。
【0006】
なお、一般的なアンケートやヒヤリングでは、その目的毎に、その内容との整合性を踏まえた年齢構成、男女比、地域、職種、興味分野などの属性情報を調整し、サンプル対象者を抽出・選択し、あるいはWEB、チラシ、雑誌、TVなどを経由して大量の回答を集めることが行われている。
【0007】
一方、最近になって様々なトポロジ解明の研究が盛んに行われており、人間の知人関係や情報交換のネットワークから、社会ネットワーク構造の次数分布がべき乗則を満たすことが、非特許文献1,2において報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−241700号公報
【特許文献2】特開2007−272567号公報
【特許文献3】特開2002−335520号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】会田,小頭,中村,高野," 情報ネットワークサービスのデータを利用した社会ネットワークの次数分布の分析と検証, " 信学技報 IN2008-59,Sep.2008
【非特許文献2】R. Albert and A. -L, Barabasi, "Statistical mechanics of complex networks," Rev. Mod. Phys., vol.74, no.47, 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したアンケート方法では、アンケート対象候補の母集団と、この母集団から選抜されたアンケート対象のサンプル集団とに構成上あるいは特性上の相違があってサンプル集団が母集団を代表できていないと信頼性の高いアンケート結果が得られない。そのため、従来技術ではサンプル集団が母集団を代表できるように、両集団の年齢構成、男女比、職種構成、地域等の属性を予め一致させるようにしていた。
【0011】
しかしながら、発明者等が通信サービスのユーザを対象に、サービスの利用頻度や利用サービスの内容等を分析したところ、通信サービスの利用形態には年齢構成や男女比といった従来の尺度への依存性に加えて、さらにユーザ間の繋がりや社会ネットワーク構造、特に知人数に強く依存することがわかってきた。
【0012】
すなわち、ユーザ間の繋がりや社会ネットワーク構造により使用形態が大きく変化する通信サービスに関してアンケートを実施する場合、サンプル集団と母集団とは各ユーザ間の繋がりや社会ネットワーク構造が類似していることが要求される。
【0013】
本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、通信サービスに関するアンケートでは、母集団とサンプル集団とはユーザ間の繋がりや社会ネットワーク構造が一致している必要があるという観点から、サンプル集団が母集団を代表しているか否かを検証でき、さらには、母集団からサンプル集団を偏りなく抽出できるアンケート方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、通信サービスを利用するアンケート対象候補の母集団からアンケート対象のサンプル集団を選抜するアンケートシステムにおいて、以下のような手段を講じた点に特徴がある。
【0015】
(1)サンプル集団に要求する知人数の目標次数特性を設定する手段と、母集団からサンプル集団を選抜する手段と、サンプル集団の各ユーザの知人数に基づいて次数特性を算出する手段と、目標次数特性とサンプル集団の次数特性とを比較して当該サンプル集団の適合性を検証する手段とを具備したことを特徴とする。
【0016】
(2)サンプル集団の適合性が否定されたときに、これを見直す手段をさらに具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下のような効果が達成される
(1)通信サービスに関するアンケートにおいて、アンケート対象の母集団から選抜されたサンプル集団が母集団や所望の集団を代表できているか否かを検証できるようになる。
(2)通信サービスに関するアンケートにおいて、アンケート対象の母集団から、この母集団や所望の集団を代表できるサンプル集団を抽出できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態の機能ブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態の機能ブロック図である。
【図4】本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートである。
【図5】通信サービスユーザの社会ネットワーク構造の次数分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。ここでは、始めに本発明の概要について説明し、次いで、その具体的な実施形態について説明する。
【0020】
社会のネットワーク構造は、人をノード、情報のやりとりを行う関係をリンクとしたネットワークトポロジであり、スケールフリー性を持つと考えられる。スケールフリー性とは、ごく一部のノードは数多くのリンク数を持つが大多数のノードはごく少数のリンクしか持たないという性質を指す。ノードのリンク数を表す次数をkとすれば、スケールフリーネットワークにおけるノードの次数分布p(k)は、べき指数γを用いて次式(1)の比例式で表わされる。
【0021】
【数1】

【0022】
発明者等による携帯電話のトラヒック量やSNS (Social Networking Service)ユーザ数の観察、分析結果によれば、人間の情報交換関係に関する社会ネットワークのグラフ構造では、通信サービスを利用する日本人の社会ネットワーク構造は、各ユーザの知人数を次数kに見立てれば、図5に示したように、上式(1)のノード次数分布p(k)において、べき指数γ≒4に従うことが確認されている。なお、同図(a)は線形軸による表記であり、同図(b)は対数軸による表記である。
【0023】
したがって、通信サービスのアンケートにおいて、通信サービスを利用するアンケート対象候補の全ユーザ(母集団)を、その中から選抜されたアンケート対象のユーザ(サンプル集団)で代表させるのであれば、選抜されたサンプル集団の各ユーザのノード次数分布p(k)を調査し、そのべき指数γが母集団のべき指数γから外れていれば、当該サンプル集団は母集団の社会ネットワーク構造、ひいては通信サービスを利用する日本人の社会ネットワーク構造に適合しておらず、何らかの偏りが生じていると推定できる。
【0024】
本発明は、上記の考察に基づいてなされたものであり、アンケート対象となるサンプル集団について、各ユーザの知人数を次数kに見立てて次数分布p(k)を調査し、そのべき指数γが母集団の次数γと一致しているか否かに基づいて社会ネットワーク構造との適合性を検証し、さらにはサンプル集団を社会ネットワーク構造に合わせて見直すようにしている。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態に係るアンケートシステムの主要部の構成を示したブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。本実施形態では、通信サービスのアンケートを例にして説明するものとし、通信サービスを利用する全ユーザ(母集団)の次数分布p(k)におけるべき指数γが「4」であるものとして説明する。
【0026】
サンプルデータベース1には、EメールやSNSなどの通信サービスに加入契約している全ユーザUiがアンケート対象候補の母集団として登録されている。本実施形態では、サンプルデータベース1に数千万人のユーザUiが登録されているので、この母集団を日本人の社会ネットワーク構造とみなすことができる。
【0027】
目標記憶部2には、サンプル集団Ujに要求する知人数の次数特性が目標次数特性として設定される。本実施形態では、上式(1)においてべき指数γ=4とした次数特性が、サンプルデータベース1に既登録の全ユーザの社会ネットワーク構造を代表する目標次数特性として設定されている。サンプル集団選抜部3は、前記サンプルデータベース1から、ユーザUiの一部をアンケート対象のサンプル集団Ujとして任意に選抜する。
【0028】
知人数取得部4は、前記選抜されたサンプル集団Ujの各ユーザの知人数kjを適宜に取得する。本実施形態では、全ユーザUiの知人数kiがサンプルデータベース1に予め記憶されているので、知人数取得部4はサンプル集団Ujの知人数kjをサンプルデータベース1から取得できる。このような知人数kiに関する情報は、予めアンケート調査等を行って取得しても良いし、あるいは各ユーザUiが電子メールや電話を利用した際の通信ログを分析し、通信相手の人数を知人数kiとして取得するようにしても良い。なお、本実施形態における知人数kiは、各ユーザUiの知人数である必要はなく、上記の取得例のように、ある一定期間に通信した人数であっても良い。
【0029】
なお、本実施形態ではサンプルデータベース1に既登録の全ユーザUiからサンプル集団Ujが任意に選抜され、その知人数kjも取得されるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、予めWeb等を通じてサンプル集団を事前募集・登録しておき、その全部または一部をサンプル集団Ujとし、その後、サンプル集団Ujの各ユーザに知人数kjを問い合わせたり、あるいは当該ユーザUjの通信トラヒック履歴を分析したりすることで取得しても良い。すなわち、本実施形態では全てのユーザUiや、その知人数kiを事前に把握し、あるいは記録しておく必要はない。
【0030】
次数特性算出部5は、前記取得された知人数kjを上式(1)に適用してサンプル集団Ujの次数特性を算出する。検証部6は、サンプル集団Ujの次数特性と前記目標次数特性とを関数フィッティング等の適宜の手法で比較することにより、今回のサンプル集団Ujと母集団との適合性、すなわち社会ネットワーク構造との適合性を検証し、その検証結果を出力する。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態の動作を示したフローチャートであり、ステップS11では、前記サンプル集団選抜部3において、多数のユーザUiの中から一部のユーザが今回のサンプル集団Ujとして任意に選抜される。ここでは、N人のユーザがサンプル集団Uj(j=1〜N)として選抜されたものとして説明を続ける。ステップS12では、前記知人数取得部4において、前記選抜されたN人のサンプル集団Ujの知人数kjがサンプルデータベース1から取得される。ステップS13では、前記次数特性算出部5において、抽出された知人数kjを上式(1)に適用してサンプル集団Ujの次数特性が算出される。
【0032】
ステップS14では、前記ステップS13で算出された今回のサンプル集団Ujの次数特性と前記目標記憶部2に記憶されている目標次数特性とが、前記検証部6において関数フィッティング等の適宜の手法を用いて比較され、この比較結果に基づいて、今回のサンプル集団Ujが社会ネットワーク構造に適合しているか否かが判定される。適合していると判定されればステップS15へ進み、適合している旨の判定結果が出力される。これに対して、不適合と判定されればステップS16へ進み、不適合である旨の判定結果が出力される。
【実施例2】
【0033】
図3は、本発明の第2実施形態に係るアンケートシステムの主要部の構成を示したブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表している。本実施形態でも、通信サービスのアンケートを例にして説明するものとし、通信サービスを利用する全ユーザ(母集団)の次数分布p(k)におけるべき指数γが「4」であるものとして説明する。本実施形態では、図1に示した第1実施形態に見直部7が追加された点に特徴がある。
【0034】
この見直部7は、前記算出されたユーザUjの次数特性と前記目標次数特性との乖離が大きいと、サンプル集団選抜部3に対してサンプル集団Ujの見直しを要求する。本実施形態では、全てのサンプル集団の入替、一部のサンプル集団の入替、およびサンプルの追加、のいずれかが要求される。サンプル集団選抜部3は、前記見直し要求に応答してサンプル集団Ujを見直す。
【0035】
図4は、本発明の第2実施形態の動作を示したフローチャートであり、前記と同一の符号を付したステップでは同一または同等の処理が実行されるので、その説明は省略する。
【0036】
本実施形態では、ステップS14において、今回のサンプル集団Ujが社会構成に不適合と判定されるとステップS17へ進み、前記見直部7によりサンプル集団Ujの見直しが行われる。このようなサンプル集団Ujの見直しは、ステップS14において適合判定がなされるまで繰り返される。これに対して、前記ステップS14で適合判定がなされるとステップS18へ進み、今回のサンプル集団Ujを対象にアンケートが実施される。
【0037】
本実施形態によれば、アンケート対象の母集団に適合したサンプル集団を正確に選抜できるようになる。
【実施例3】
【0038】
なお、上記の各実施形態では、アンケート対象候補の母集団の次数分布p(k)におけるべき指数γが「4」であり、サンプル集団をこれに一致させるものとして説明したが、例えば、サークル、会社の部署、家族、親戚などの様々なグループに属するユーザは当該グループに属さないユーザに較べてユーザ間の繋がりが密であり、その次数分布p(k)におけるべき指数γは前記「4」よりも小さくなる(例えば、γ=2〜3)傾向にあることが発明者等による通信トラヒックの分析結果などから確認されている。したがって、サンプル集団をこのようなグループに属するユーザに絞り込みたいのであれば、目標次数分布p(k)のべき指数γ=2〜3として上記の手順を実行すれば良い。
【0039】
同様に、上記グループに属さないユーザでは、その次数分布p(k)におけるべき指数γが前記「4」よりも大きくなる(例えば、γ=5〜6)傾向にあることが発明者等による通信トラヒックの分析結果などから確認されている。したがって、アンケート対象をこのようなグループに属さないユーザに絞り込みたいのであれば、目標次数分布p(k)のべき指数γ=5〜6として上記の手順を実行すれば良い。
【0040】
このように、本発明は母集団を代表できるサンプル集団を選抜する場合のみならず、アンケートの主催者側が意図した他のサンプル集団を選抜する場合にも極めて有効である。
【符号の説明】
【0041】
1…サンプルデータベース,2…目標記憶部,3…サンプル集団選抜部,4…知人数取得部,5…次数特性算出部,6…検証部,7…見直部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信サービスを利用するアンケート対象候補の母集団からアンケート対象のサンプル集団を選抜するアンケートシステムにおいて、
サンプル集団に要求する知人数の目標次数特性を設定する手段と、
母集団からサンプル集団を選抜する手段と、
前記サンプル集団の各ユーザの知人数に基づいて次数特性を算出する手段と、
前記目標次数特性とサンプル集団の次数特性とを比較して当該サンプル集団の適合性を検証する手段とを具備したことを特徴とするアンケートシステム。
【請求項2】
適合性が否定されたときにサンプル集団を見直す手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1に記載のアンケートシステム。
【請求項3】
前記サンプル集団を見直す手段は、サンプル集団の少なくとも一部を入れ替えることを特徴とする請求項2に記載のアンケートシステム。
【請求項4】
前記サンプル集団を見直す手段は、サンプル集団にサンプルを追加することを特徴とする請求項2に記載のアンケートシステム。
【請求項5】
前記目標次数特性が前記母集団の各ユーザの知人数に関する次数特性であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のアンケートシステム。
【請求項6】
各ユーザの知人数をkとしたとき、前記次数特性p(k)が、次式においてべき指数γを所定数とする比例式で与えられることを特徴とする請求項5に記載のアンケートシステム。

【請求項7】
前記べき指数γ≒4であることを特徴とする請求項6に記載のアンケートシステム。
【請求項8】
通信サービスを利用するアンケート対象候補の母集団からアンケート対象のサンプル集団を選抜するアンケート方法において、
サンプル集団に要求する知人数の目標次数特性を設定する手順と、
母集団からサンプル集団を選抜する手順と、
前記サンプル集団の各ユーザの知人数に基づいて次数特性を算出する手順と、
前記目標次数特性とサンプル集団の次数特性とを比較して当該サンプル集団の適合性を検証する手順とを具備したことを特徴とするアンケート方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−262513(P2010−262513A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113486(P2009−113486)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)