説明

アンジオテンシンペプチド−担体複合体およびその使用

【課題】免疫応答を誘導する際の使用に適した、コア粒子と1つ又は複数のアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチ部分とを含む複合体の提供。
【解決手段】担体、特に、ウイルス様粒子(VLP)に結合させることにより、反復骨格において提示される、哺乳動物ペプチドホルモンアンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンIおよびアンジオテンシンIIのペプチド誘導体の複合体。そのような複合体を生産する方法、およびレニンにより活性化されたアンジオテンシン系に関連する状態の治療と予防のための得られた免疫原複合体の免疫療法上の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、公衆衛生、免疫学、分子生物学およびウイルス学の分野に属している。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の動脈血圧は、レニン−アンジオテンシン系(RAS)として知られている生化学的カスケードにより主として制御されている。それは、動脈血圧の降下後の腎臓の傍糸球体装置の類上皮細胞からのレニンの放出により開始される。レニンは、肝臓により血清中に分泌されるペプチドであるアンジオテンシノーゲン(アミノ酸配列:Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe−His−Leu−Val−Ile−His−Asn,配列番号15)を酵素で切断する。この切断は、デカペプチドであるアンジオテンシンI(アミノ酸配列:Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe−His−Leu,配列番号16)の生成をもたらす。肺の内皮に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)は、ATIの2つのC末端アミノ酸を数秒以内に切断して、アンジオテンシンII(アミノ酸配列:Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe,配列番号17)を生成させる。アンジオテンシンIは、体内で非常に短い寿命を有し、血管収縮活性をまったく有さないか、わずかな血管収縮活性を有するにすぎないのに対して、アンジオテンシンIIは循環系ならびに内分泌系に対して著しい作用を及ぼす。RAS活性化アンジオテンシンIIの濃度の上昇は、両者とも心血管損傷をもたらす可能性のある動脈圧の増加(高血圧)に寄与する、血管収縮、塩および水の腎貯留を引き起こす。高血圧の可能な臨床症状は、卒中、梗塞、うっ血性心不全、腎不全および網膜出血である。
【0003】
米国疾病対策センター(U.S.Centers for Disease Control and Prevention[CDC])によれば、うっ血性心不全が高齢者の主要な慢性疾患であり、米国においてその死者は年間約260,000人にのぼる。1995年に、心不全に対してメディケアにより34億ドルが支払われた。高血圧の治療用の薬剤は利用可能であるが、高血圧の制御は、治療を受けている患者の約半数で得られているにすぎない。これは、一部は、患者の服薬不履行又は使用薬剤の無効に起因している。
【0004】
現在の高血圧療法としては、小有機分子を用いたRAS系のインターベンションが挙げられる。主な標的は、レニン、ACEおよびアンジオテンシンIIの受容体である。ACE阻害薬としてはリシノプリル(登録商標)、カプトプリル(登録商標)およびエナラプリル(登録商標)などがあるが、これらの薬剤は完全には成功を収めていない。第1にそれらはACE活性を完全には阻害しないように思われ、第2にブラジキニンなどの他の生物学的に活性なペプチドがACEにより生成されることも影響しており、これは望ましくない。これらの薬剤は、乾性咳ならびにめまいおよび起こり得る失神を伴う初回投与降圧効果のような副作用を誘発することがある。アンジオテンシンII受容体拮抗薬としては、AT1アンジオテンシン受容体に対して特異的に作用するロサルタン(登録商標)、バルサルタン(登録商標)およびイスベサフタン(登録商標)などがある。したがって、それらはアンジオテンシンIIの主要な血管収縮効果を阻害し、忍容性はより良好であるが、アンジオテンシンホルモンの他の作用には影響を及ぼさない。しかし、アンジオテンシンII受容体拮抗薬ならびにACE阻害薬は、不良な患者服薬遵守の少なくとも部分的な説明となる成人生涯の大部分にわたるような、しばしば長期間にわたり規則的に服用する必要がある。したがって、有効かつ忍容性が良好で、患者の高い服薬遵守につながる高血圧の療法が明らかに必要である。
【0005】
ホルモンの活性に関連する疾患又は障害を治療又は予防するうえでの可能なアプローチは、免疫療法により、すなわち、特異的抗ホルモン又は抗酵素抗体によりホルモンの活性を中和するか、又はそのレベルを低下させるような、ホルモン又はホルモンの発生に関与する酵素に対して患者を免疫化することにより、患者におけるホルモンを中和することである。そのような抗体は、受動免疫化において外来的に投与してもよく、あるいはホルモン又は関連酵素に基づく免疫原を用いて能動免疫化によりin situで発生させてもよい。
【0006】
高血圧を調節するためのRASの成分に対するワクチン接種の実現可能性が動物モデルにおいて示された(総説については、Michel、Am.Heart J.第117巻、756頁(1989)を参照)。レニンに対するワクチン接種は血圧降下には有効であったが、動物は自己免疫腎炎に罹患した(Michel et al.、Circulation、第81巻、1899頁(1990);Lo et al.、Hypertension、第16巻、80頁(1990)。同種ACEに対する能動免疫化に関するデータは非常に限られている。1つの報告では、ウサギのワクチン接種により50匹の動物のうちの1匹を除き検出可能な抗ACE抗体が生成した(Soffer、Fed.Proc.第42巻、2735頁(1983))。ACEに対する免疫血清の受動輸送は、ウサギにおける血圧を下降させることができるが、肺浮腫を伴う免疫アレルギー反応を引き起こす。これは、おそらくACEが肺において膜結合型として発現するためであると思われる(Cadwell、FEBS Lett.第63巻、82頁(1976))。アンジオテンシノーゲンに対する能動免疫化に関する報告は入手可能ではないが、いくつかの試験によりアンジオテンシンIおよびアンジオテンシンIIに対するワクチン接種の実現可能性が探究された。2つの試験でワクチン接種動物における血圧効果が報告され(Christlieb、J.Clin.Invest.第48巻、1506頁(1969)、Gardiner、Br.J.Pharmacol.、第129巻、1178頁(2000))、自己免疫は認められなかった。しかし、アンジオテンシンペプチドを用いたワクチン接種試験の大多数が陰性であり、これは、おそらくアンジオテンシンペプチドに対する誘導された力価が低すぎたか、あるいは誘導された抗体の特異性が最適でなかったためである。アンジオテンシンIIのみを標的とするワクチンは、RASに対して、アンジオテンシンIIならびにアンジオテンシンIに対して、またおそらく前躯体アンジオテンシノーゲンに対して抗体を誘導するワクチンと同じ作用を有さないということはあり得ることである。
【0007】
国際特許公開第98/58952号は、水酸化アルミニウムのようなアジュバントとともに投与した場合にラットにおいてアンジオテンシン特異抗体の誘導をもたらす、破傷風毒素に結合されたアンジオテンシンIを含む複合体による治療を記述している。アジュバントはしばしば、有毒又は少なくとも刺激性である。現在までのところ、ヒトにおける使用が許容された唯一のアジュバントは、無機塩類(水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム)およびウイルソームである。ヒトにおいて最も頻繁に使用されているアジュバントは、水酸化アルミニウム(Alum)である。それは安全と考えられるが、体内に長期間残留して貯蔵物を形成する。そのような貯蔵物の形成の結果は依然として十分には理解されておらず、したがって、それらの免疫原性を失うことのない将来のワクチンにAlumを避ける試みを行うべきである。
【0008】
したがって、当技術分野においてアジュバントの非存在下においても高い抗体価の誘導をもたらす複合体を提供する必要性が依然としてある。
【発明の開示】
【0009】
我々は今回、アジュバントを使用しない場合でさえも有効で、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIのような1つ又は複数のアンジオテンシンペプチドを特異的に標的とするin vivo抗体の開発を可能にする、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンII(本明細書では総称して「アンジオテンシンペプチド」と呼ぶ)に対して特異的な抗体の誘導のための強力な免疫原を開発した。その免疫原は、ウイルス様粒子(VLP)に結合しているアンジオテンシンペプチド部分からなる。これは、アジュバントを使用しない場合でさえも抗体生成を刺激することができる高度に免疫原性の反復抗原アレイになる。使用するアンジオテンシンペプチド部分のアミノ酸配列によって、高い抗体価が誘導され、さらに、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIのN又はC末端に対して特異的に誘導することができる。これは、アンジオテンシンペプチドの1つの種のみに、あるいはその組合せに特異的に標的を定めることを可能にする。したがって、本発明の免疫原は、RASにより産生されるアンジオテンシンIIの高いレベルに関連する状態を抑制するための免疫療法アプローチに用いることができる。
【0010】
操作又はメカニズムの特定の理論に限定することを意図することなく、複合体および本発明の複合体は、複数のアンジオテンシンペプチド種に結合し、それにより、アンジオテンシンのすべての関連する種を同時に阻害する抗体を誘導することができる。あるいは、誘導された抗体はアンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIのC末端に対して特異的である可能性がある。これらの条件下では、誘導された抗体は、それぞれレニン又はACEによるアンジオテンシノーゲン又はアンジオテンシンIの活性化を阻害するであろう。それにもかかわらず、エンドペプチダーゼおよびアミノペプチダーゼのようなACEやレニンと異なるプロテアーゼは、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIをN末端から分解し、それにより抗体に結合した完全なアンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIの蓄積を妨げることができる。
【0011】
したがって、本発明により、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチドもしくはペプチド部分又はその誘導体を含み、1つ又は複数のコア粒子、好ましくは1つ又は複数のウイルス様粒子(VLP)に結合して、規則正しい反復アレイの構造を有する複合体を形成する免疫原が提供される。第1付着部位を含むコア粒子と第2付着部位を含むアンジオテンシンペプチド又はその誘導体とが、前記第1および第2付着部位を介して会合して、そのような規則正しい反復アレイを形成する。第1部位と第2部位との相互作用は、直接であってよく、あるいは少なくとも1つの他の分子、例えば、リンカーを含んでいてよい。
【0012】
一実施形態において、第1付着部位はコア粒子に天然に存在する。あるいは、第1付着部位は、化学カップリング又は組換え技術により付加されている。好ましい第1付着部位は、アミノ基、カルボキシル基又はスルフヒドリル基を含む。第1付着部位を含む好ましいアミノ酸は、リシン、アルギニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシンおよびヒスチジンから選択される。リシン残基が特に好ましい。
【0013】
アンジオテンシンペプチド又はその誘導体上の適切な第2付着部位は、アミン、アミド、カルボキシルおよびスルフヒドリル基である。コア粒子のタンパク質分子の反応性基との共有結合を形成することにより、誘導体化分子へのペプチド/タンパク質の架橋又はタンパク質の結合を可能にするために開発された広範囲の化合物が存在する。
【0014】
本発明の第1付着部位を有するコア粒子としては、規則正しい反復アレイの形成に適したあらゆる粒子が挙げられる。いくつかの実施形態において、そのようなコア粒子としては、ウイルス様粒子(VLP)、バクテリオファージ、バクテリオファージウイルス様粒子、線毛などがある。特定の実施形態において、これらは、HbcAg VLP、バクテリオファージVLPおよびI型線毛である。本発明はまた、規則正しい反復構造を形成することが依然として可能であるコア粒子の変異型を提供する。変異型としては、コア粒子の組換えおよび天然型、ならびに突然変異型などがある。特定の実施形態において、コア粒子の突然変異型は、第1付着部位のタイプ又は前記部位の数が親と異なるものを含む。コア粒子上のリシン残基の数の変化が特に好ましい。
【0015】
特定の実施形態において、本発明の複合体は、ウイルス様粒子(VLP)に化学的に結合しているアンジオテンシンペプチド部分を含む。これは、アジュバントを用いない場合でさえも、抗体の生成を刺激することができる高度に免疫原性の反復抗原アレイを生じさせる。用いるアンジオテンシンペプチド部分のアミノ酸配列によって、高い抗体価が誘導され、さらに、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIのNもしくはC末端に対して特異的に誘導することができる。これは、アンジオテンシンペプチドの1つの種又はその組合せのみを特異的に標的にすることを可能にする。本発明による免疫原は、RASにより産生されるアンジオテンシンIIの高いレベルに関連する状態を抑制するための免疫療法アプローチに用いることができる。
【0016】
したがって、本発明は、免疫応答を誘導する際の使用に適した、コア粒子と1つ又は複数のアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチ部分とを含む複合体を提供する。本発明はまた、本発明のそのような複合体と、1つ又は複数の賦形剤又は担体、適切には1つ又は複数の薬剤的に許容できる賦形剤又は担体のような1つ又は複数の追加の成分とを含む複合体を提供する。複合体および本発明の複合体としては、追加の薬剤的に許容できる賦形剤又はアジュバントを含む、又は含まないワクチン複合体又は複合体などがある。例えば、本発明は、免疫学的に有効量の1つ又は複数の複合体又は本発明の複合体と薬剤的に許容できる希釈剤、担体又は賦形剤とを含むワクチン複合体も提供する。他の実施形態において、ワクチンはさらに、Alum又はフロイントアジュバントのような少なくと1つのアジュバントを含む。本発明はまた、動物に免疫学的に有効量の複合体、本発明の複合体又はワクチンを投与し、それにより、複合体又は複合体に対する免疫応答を誘導することを含む、動物、好ましくはヒトのような哺乳動物を免疫化及び/又は治療する方法を提供する。動物は、皮下、筋肉内、鼻腔内、皮内、静脈内、経皮、経粘膜、経口又はリンパ節内への直接的投与経路を含むが、これらに限定されないあらゆる当技術分野で既知の投与経路により複合体又は本発明の複合体により免疫化することが適切である。鼻腔内免疫化は特に適切な経路であり、この種の投与は、実施例で示すようにIgAを含む高い抗体価につながるだけでなく、疼痛のある免疫化処置(例えば、筋肉内)を回避することにより、患者にとってより許容できるものであり、服薬遵守の向上にもつながる。
【0017】
複合体および本発明の複合体は、抗体の産生を含む免疫応答を誘導する。したがって、他の実施形態において、本発明は、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチ部分に対する抗体を産生させる方法を提供する。本発明のそのような抗体は、RASに関連する身体的障害の治療又は予防に、ならびに例えば、動物の組織又は循環におけるRASの1つ又は複数の成分の存在に関連する身体的障害を診断する方法におけるアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチド部分の検出に有用である。
【0018】
関連する実施形態において、本発明は、卒中、梗塞、うっ血性心不全、腎不全、網膜出血などを含むが、これらに限定されない、RASに関連する疾患、障害又は状態の予防又は治療に有用である。複合体又は本発明の複合体による免疫化は、免疫分子、特に抗体がアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチド部分に結合するような、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチド部分に対する免疫応答をもたらす。抗体の受動輸送もRASに関連する障害の治療および予防に有用である。
【0019】
我々は、ウイルス様粒子(VLP)に結合したアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチド部分の複合体が高いアンジオテンシン特異IgG抗体を誘導することを発見した。したがって、本発明は、好ましい実施形態において、規則正しい反復VLP−アンジオテンシンペプチド/部分複合体に基づくRASに関連する身体的障害の治療を提供する。この治療は、ワクチン接種動物における高い力価の抗アンジオテンシン抗体を誘導することができる。高い抗体価は、アジュバントの非存在下でさえも誘導され、IgGだけでなく、IgAサブタイプも含む。さらに、この治療は、驚くべきことに、炎症のような潜在的に病的な免疫応答の誘導を伴わない。本発明の治療用複合体は、少なくとも1つのアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチド部分とVLP、好ましくはRNAファージのVLP、あるいは少なくとも1つのアンジオテンシンペプチドもしくはアンジオテンシンペプチド部分とHbcAgもしくは線毛のような別のコア粒子を含む。
【0020】
本発明の他の実施形態は、当技術分野で知られていること、本発明の以下の図面および説明ならびに特許請求の範囲に照らし合わせて当業者には明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
定義
以下の記述において、分子生物学、免疫学および医学の分野で用いられている多くの用語を広範に用いる。そのような用語が示す範囲を含む明細書および特許請求の範囲のより明確かつ矛盾のない理解を得るために、以下の非限定的な定義を示す。
【0022】
能動免疫化:本明細書で用いる「能動免疫化」という用語は、免疫原、ワクチン、抗原又はアンジオテンシンペプチド−担体複合体の投与により惹起された個体、一般的に動物における免疫応答の誘導を指す。これに対して、受動免疫化は、個体への免疫分子又は細胞の移入による個体における免疫の授与を指す。
【0023】
アルファウイルス:本明細書で用いる「アルファウイルス」という用語は、アルファウイルス属内に含まれているRNAウイルスのいずれかを指す。この属のメンバーの記述は、Strauss and Strauss、Microbiol.Rev.第58巻、491〜562頁(1994)に含まれている。アルファウイルスの例は、アウラ(Aura)ウイルス、ベバル(Bebaru)ウイルス、キャバッソウ(Cabassou)ウイルス、チクングニア(Chikungunya)ウイルス、イースター(Easter)ウマ脳脊髄炎ウイルス、フォートモルガン(Fort morgan)ウイルス、ゲター(Getah)ウイルス、キジラガー(Kyzylagach)ウイルス、マヨアロ(Mayoaro)ウイルス、ミドルブルグ(Middleburg)ウイルス、ムカンボ(Mucambo)ウイルス、ヌドュム(Ndumu)ウイルス、ピクナ(Pixuna)ウイルス、トナト(Tonate)ウイルス、トリニチ(Triniti)ウイルス、ウナ(Una)ウイルス、西部ウマ脳脊髄炎ウイルス、ワタロア(Whataroa)ウイルス、シンドビス(Sindbis)ウイルス(SIN)、セムリキフォレスト(Semliki forest)ウイルス(SFV)、べネズエラ(Venezuelan)ウマ脳脊髄炎ウイルス(VEE)およびロス川(Ross River)ウイルスなどである。
【0024】
アミノ酸リンカー:本明細書で用いる「アミノ酸リンカー」は、あるいは本明細書内で「リンカー」とも称するが、第2付着部位を含む抗原又は抗原決定基と結合するか、あるいはより好ましくは、一般的に(しかし、必然的にでない)、1つのアミノ酸残基として、好ましくはシステイン残基として、既に第2付着部位を含んでいる。しかし、アミノ酸残基からなるアミノ酸リンカーが本発明の好ましい実施形態であるとしても、「アミノ酸リンカー」という用語は、そのようなアミノ酸リンカーがアミノ酸残基だけからなることを意味するものはない。アミノ酸リンカーのアミノ酸残基は、当技術分野で知られている天然に存在するアミノ酸又は非天然アミノ酸で、すべてL又はすべてD又はその混合物からなることが好ましい。しかし、スルフヒドリル基又はシステイン残基を有する分子を含むアミノ酸リンカーも本発明に含まれる。そのような分子は、C1〜C6アルキル、シクロアルキル(C5、C6)、アリール又は複素アリール部分を含むことが好ましい。しかし、アミノ酸リンカーのほかに、好ましくはC1〜C6アルキル、シクロアルキル(C5、C6)、アリール又は複素アリール部分を含み、アミノ酸を欠くリンカーも本発明の範囲内に含まれるものとする。抗原又は抗原決定基、又は場合によって第2付着部位とアミノ酸リンカーとの結合は、好ましくは、少なくとも1つの共有結合によるものであり、より好ましくは少なくとも1つのぺプチド結合によるものである。
【0025】
アンジオテンシンペプチド部分:本明細書で用いる「アンジオテンシンペプチド部分」という用語は、その部分がin vivoでの天然アンジオテンシンの生物学的活性(例えば、アンジオテンシンIおよびIIを含む天然ホルモンの受容体における活性)を有するか、否かにかかわりなく、天然アンジオテンシンペプチドの免疫模擬体(すなわち、アンジオテンシンペプチドに結合する抗体を発生させるようにアンジオテンシンを免疫学的に模擬する)として作用することができるあらゆる部分を指す。したがって、そのような部分は、アンジオテンシンペプチド、好ましくはアンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI(式Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe−His−Leuのデカペプチド,配列番号16)もしくはアンジオテンシンII(Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Pheのオクタペプチド,配列番号17)又はその機能的に同等の変異体を含むことが都合がよい。したがって、「アンジオテンシンペプチド部分」は、本明細書におけるその用語の定義のとおりに「アンジオテンシンペプチド」を含む。そのような機能的に同等な変異体は、単一又は複数のアミノ酸置換、付加又は欠失によるアンジオテンシンI又はII配列の修飾を含んでいてよく、また、アミノ酸残基が化学的に修飾されているが、それにもかかわらず、アンジオテンシンの免疫原性活性を保持している配列を含んでいてよい。そのような機能的に(又は免疫学的に)同等な変異体は、天然の生物学的変異体として存在することがあり、あるいは、例えば、化学合成又は修飾、突然変異誘発、例えば、部位特異的又はランダム突然変異誘発等による既知および標準的な技術を用いて調製することができる。この定義の目的のために、この修飾に関する重要な特徴は、アンジオテンシンペプチドが天然アンジオテンシンの免疫模擬体として作用する能力を保持していることである。したがって、例えば、アミノ酸は、例えば、電荷密度、親水性/疎水性、サイズおよび立体配置に関するアンジオテンシンペプチド又はそのエピトープの物理化学的特性を維持し、したがって、免疫学的構造を維持する他のものにより置換されていてよい。「付加」変異体は、NもしくはC末端融合、ならびに単一又は複数のアミノ酸の配列内挿入を含んでいてよい。欠失は、配列内であってよく、あるいはNもしくはC末端からの切断であってよい。好ましい欠失突然変異体は、Nもしくは、好ましくはC末端抗体の誘導を可能にするものである。そのような抗体は、活性アンジオテンシンIIの発生を妨げることができるが、抗体結合アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIの分解を可能にする。
【0026】
アンジオテンシンペプチド:本明細書で用いる「アンジオテンシンペプチド」という用語は、すべての、好ましくは天然のアンジオテンシンペプチドおよびそれらの機能的に同等な変異体を含む。したがって、「アンジオテンシンペプチド」は、本明細書で定義した「アンジオテンシンペプチド部分」のサブセットとみなすことができる。実際的問題として、アンジオテンシンペプチド(又はアンジオテンシンペプチド部分)の所与の変異体が好ましくは天然のアンジオテンシンペプチドと「機能的に同等である」かは、アンジオテンシンペプチドの生物学的活性を測定するための様々なアッセイ法により確定することができる。これらのアッセイ法の特定のものは本明細書に記載し、他のものは当業者が容易に精通することができものである。
【0027】
抗体:本明細書で用いる「抗体」という用語は、エピトープ又は抗原決定基に結合することができる分子を指す。この用語は、単鎖抗体を含む、抗体全体およびその抗原結合断片を含むことを意味する。そのような抗体は、ヒト抗原結合抗体断片を含み、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)ならびにV又はVドメインを含む断片を含むが、これらに限定されない。抗体は、鳥類および哺乳類を含むあらゆる動物に起源するものであってよい。好ましくは、抗体は、哺乳動物、例えば、ヒト、ネズミ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ等、又は他の適切な動物、例えば、ニワトリに起源するものである。本明細書で用いる「ヒト」抗体は、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体を含み、ヒト免疫グロブリンライブラリーから、あるいは、1つ又は複数のヒト免疫グロブリンで形質転換し、例えば、全部が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,939,598号に記載されているように内因性免疫グロブリンを発現しない動物から分離された抗体を含む。
【0028】
抗原:本明細書で用いる「抗原」という用語は、MHC分子により提示された場合、抗体又はT細胞受容体(TCR)により結合されることができる分子を指す。「抗原」という用語は、本明細書で用いるT細胞エピトープも含む。T細胞エピトープは、赤血球を除く身体のすべての細胞上に存在するクラスI、又は、免疫細胞および特に抗原提示細胞上に存在するクラスIIのMHCに関連してT細胞受容体により認識される。この認識事象は、T細胞の活性化と、T細胞の増殖、サイトカイン分泌、パーフォリン分泌などの後続のエフェクターメカニズムにつながる。抗原はさらに、免疫系により認識されることができ、かつ/又は、B及び/又はTリンパ球の活性化をもたらす体液性免疫応答及び/又は細胞性免疫応答を誘導することができる。しかし、これは、少なくとも特定の場合に、抗原がT細胞エピトープを含むか、又は結合していて、アジュバント中に投与することを必要とすることがある。抗原は、1つ又は複数のエピトープ(BおよびTエピトープ)を有することができる。上に記載した特異的反応は、抗原が、好ましくは、一般的に高度に選択的にその対応する抗体又はTCRと反応し、他の抗原により誘起される他の多数の抗体又はTCRsと反応しないことを示すことを意味する。抗原は、本明細書で用いる数種の抗原の混合物であってもよい。
【0029】
抗原決定基:本明細書で用いる「抗原決定基」という用語は、B又はTリンパ球により特異的に認識される抗原の部分を指して言う。Bリンパ球は抗体産生により外来抗原決定基に対して応答するのに対して、Tリンパ球は細胞性免疫のメディエーターである。したがって、抗原決定基又はエピトープは、抗体により、あるいは、MHCに関連して、T細胞受容体により認識される抗原の部分である。アレルゲンも脊椎動物において抗原として作用する。
【0030】
会合:本明細書で用いる「会合」という用語は、第1および第2付着部位に適用するとき、好ましくは少なくとも1つの非ペプチド結合による第1付着部位と第2付着部位との結合を指す。会合の性質は、共有結合、イオン性、疎水性、極性又はその組合せであってよく、好ましくは、会合の性質は共有結合である。
【0031】
付着部位、第1:本明細書で用いる「第1付着部位」という句は、非天然又は天然由来のもので、抗原又は抗原決定基にある第2付着部位が会合する、コア粒子の要素を指す。第1付着部位は、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、ペプチド、糖、ポリヌクレオチド、天然又は合成高分子、二次代謝物又は化合物(ビオチン、フルオレセイン、レチノール、ジゴキシゲニン、金属イオン、フッ化フェニルメチルスルホニル)、あるいはその組合せ、あるいはその化学的に反応性基であってよい。第1付着部位は、好ましくはウイルス様粒子のようなコア粒子の一般的にかつ好ましくは表面上にある。複数の第1付着部位は、それぞれ一般的に反復立体配置におけるコアおよびウイルス様粒子の表面に存在する。
【0032】
付着部位、第2:本明細書で用いる「第2付着部位」という句は、それぞれコア粒子およびウイルス様粒子の表面にある第1付着部位が会合する、抗原又は抗原決定基に会合している要素を指す。抗原又は抗原決定基の第2付着部位は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、糖、ポリヌクレオチド、天然又は合成高分子、二次代謝物又は化合物(ビオチン、フルオレセイン、レチノール、ジゴキシゲニン、金属イオン、フッ化フェニルメチルスルホニル)、あるいはその組合せ、あるいはその化学的に反応性基であってよい。少なくとも1つの第2付着部位が抗原又は抗原決定基に存在する。したがって、「少なくとも1つの第2付着部位を有する抗原又は抗原決定基」は、少なくとも抗原又は抗原決定基および第2付着部位を含む抗原又は抗原構成体を指す。しかし、特に、天然由来でない、すなわち、天然では抗原又は抗原決定基内に存在しない第2付着部位については、これらの抗原又は抗原構成体は「アミノ酸リンカー」を含む。
【0033】
結合:本明細書で用いる「結合」という用語は、共有結合、例えば、化学的に結合することによる共有結合、あるいは非共有結合、例えば、イオン性相互作用、疎水性相互作用、水素結合等であってよい結合又は付着を指す。共有結合は、例えば、エステル、エーテル、リン酸エステル、アミド、ペプチド、イミド、炭素−硫黄結合、炭素−リン結合等であってよい。「結合した」という用語は、「カップリング(結合)した」、「融合した」および「付着(結合)した」などの用語よりも広く、これらを含む。
【0034】
コートタンパク質:本明細書で用いる「コートタンパク質」という用語は、バクテリオファージ又はRNAファージのキャプシドアセンブリ内に組込むことができるバクテリオファージ又はRNAファージのタンパク質を指す。しかし、RNAファージのコートタンパク質遺伝子の特定の遺伝子産物を指す場合には、「CP」という用語を用いる。例えば、RNAファージQβのコートタンパク質遺伝子の特定の遺伝子産物は「Qβ CP」と称し、一方、バクテリオファージQβの「コートタンパク質」は、「Qβ CP」ならびにA1タンパク質を含む。バクテリオファージQβのキャプシドは、主としてQβ CPからなり、A1タンパク質の含量は小さい。同様に、VLP Qβコートタンパク質は、主としてQβ CPを含み、A1タンパク質の含量は小さい。
【0035】
コア粒子:本明細書で用いる「コア粒子」という用語は、固有の反復組織を有する強固な構造を指す。コア粒子は、本明細書で用いる合成過程の産物又は生物学的過程の産物であってよい。
【0036】
有効量:本明細書で用いる「有効量」という用語は、所望の生物学的効果を実現するために必要又は十分な量を指す。組成物の有効量は、この選択される結果を達成する量であり、そのような量は、当業者により日常業務として決定されるものであろう。例えば、免疫系欠損を治療するための有効量は、抗原への曝露時に抗原特異的免疫応答の発現をもたらす免疫系の活性化を引き起こすのに必要な量であろう。この用語は、「十分な量」と同義でもある。
【0037】
特定の適用分野における有効量は、治療する疾患又は状態、投与する個々の組成物、対象のサイズ、及び/又は疾患又は状態の重症度のような因子によって変化し得る。当業者は、本発明の特定の組成物の有効量を経験的に決定することができ、不相応な実験を必要としない。
【0038】
エピトープ:本明細書で用いる「エピトープ」という用語は、個々の抗体又はT細胞受容体による認識の基本要素又は最小単位で、したがって、前記抗体又はT細胞受容体が結合する特定のドメイン、領域又は分子構造を指す。抗原は多数のエピトープからなっており、一方、ハプテンは一般的に少数のエピトープを有する。
【0039】
融合:本明細書で用いる「融合」という用語は、1つのポリペプチド鎖における異なる起源のアミノ酸配列の、それらのコーディングヌクレオチドの枠内結合による結合を指す。「融合」という用語は、その末端への融合に加えて、内部融合、すなわち、ポリペプチド鎖内への異なる起源の配列の挿入を明らかに含む。
【0040】
異種配列:本明細書で用いる「異種配列」という用語は、前記核酸又はタンパク質とともに通常認められず、特定の特性を付与するために、通常、配列に人為的に付加される核酸又はタンパク質の第2の配列を指す。1つの例において、異種アミノ酸は、タンパク質の精製の目的のために組換えキャプシドタンパク質に付加するか、あるいは第1付着部位とすることができる。
【0041】
免疫応答:本明細書で用いる「免疫応答」という用語は、抗原のような分子又は化合物に対して誘導される個体の免疫系による作用を指す。哺乳動物では、免疫応答は、細胞の活性化ならびにサイトカインおよび抗体のような可溶性分子の産生を含む。したがって、この用語は、体液性免疫及び/又はB及び/又はTリンパ球の活性化又は増殖をもたらす細胞性免疫応答を含む。しかし、場合によっては、免疫応答は、強度が低いことがあり、本発明による少なくとも1つの物質を用いる場合にのみ検出可能になる。「免疫原性」は、免疫系の1つ又は複数の機能が増大し、免疫原性因子に対して誘導されるように、生存生物の免疫系を刺激するために用いる因子を指す。「免疫原性ポリペプチド」は、単独、あるいはアジュバントの存在下又は非存在下で担体に結合されているかどうかにかかわりなく、細胞性及び/又は体液性免疫応答をもたらすポリペプチドである。
【0042】
免疫偏向:本明細書で用いる免疫偏向という用語は、先在性免疫応答と性質が異なる免疫応答の刺激を指す。例えば、IgE抗体がアレルゲンへの曝露時に産生されるようなアレルゲンに対するT2免疫応答を有する個体は、アレルゲンに対するT1免疫応答をもたらすために、本発明の実施形態により誘導することができる。そのようなT1応答は、アレルギー誘導性T2応答を阻止し、それによりアレルギー性疾患を軽減する。
【0043】
免疫療法:本明細書で用いる「免疫療法」という用語は、疾患、障害又は状態の治療のための複合体を指す。より具体的には、この用語は、有用な免疫応答がワクチン接種により発生する、治療の方法を指すために用いられている。
【0044】
免疫学的に有効量:本明細書で用いる「免疫学的に有効量」という用語は、個体に導入したとき、個体における免疫応答を誘導するに十分な複合体の量を指す。免疫学的に有効であるために必要な複合体の量は、複合体、複合体中の他の成分の存在(例えば、アジュバント)、抗原、免疫化の経路、個体、事前の免疫又は生理的状態などの多くの因子によって異なる。
【0045】
個体:本明細書で用いる「個体」という用語は、多細胞性生物を指し、植物および動物を含む。好ましい多細胞性生物は、動物であり、より好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0046】
分離された:本明細書で用いる「分離された」という用語を分子に関して用いるとき、この用語は分子がその天然環境から除去されたことを意味する。例えば、ポリヌクレオチド又はポリペプチドは生存動物に天然に存在し、「分離されて」いないが、その天然の状態の共存物質から分離された同じポリヌクレオチド又はポリペプチドは、「分離されて」いる。さらに、ベクターに含まれている組換えDNA分子は、本発明の目的のために分離されているとみなされる。分離RNA分子は、DNAおよびRNA分子のin vivoおよびin vitro RNA複製産物を含む。分離核酸分子は、さらに合成により生産された分子を含む。さらに、組換え宿主細胞に含まれているベクター分子も分離されている。したがって、すべての「分離された」分子が「精製されている」必要はない。
【0047】
免疫療法:本明細書で用いる「免疫療法」という用語は、疾患又は障害の治療のための免疫分子を含む、かつ/又は免疫応答をもたらす複合体である。
【0048】
個体:本明細書で用いる「個体」という用語は、多細胞性生物を指し、植物および動物を含む。好ましい多細胞性生物は、動物であり、より好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0049】
低又は検出されない:本明細書で用いる「低又は検出されない」という句は、遺伝子発現レベルに関して用いるとき、遺伝子が最大限に誘導されるときに認められるよりも著しく低い(例えば、少なくとも5倍低い)又は以下の実施例の項で用いた方法により容易には検出されない発現のレベルを指す。
【0050】
レクチン:本明細書で用いる特定のモノ又はオリゴサッカリドに対する結合部位を有する、特にマメ科植物の種子からだけでなく、多くの他の植物および動物源からも得られるタンパク質である。例としては、糖タンパク質の研究で分析用および調製用試薬として広く用いられているコンカナバリンAおよび小麦麦芽凝集素などがある。
【0051】
ミモトープ:本明細書で用いる「ミモトープ」という用語は、抗原又は抗原決定基に対する免疫応答を誘導する物質を指す。一般的に、ミモトープという用語は、特定の抗原について用いられる。例えば、ホスホリパーゼA(PLA)に対する抗体の産生をもたらすペプチドは、抗体が結合する抗原決定基のミモトープである。ミモトープは、それが免疫応答を誘導する対象である抗原又は抗原決定基との実質的な構造類似性を有していても、有さなくてもよく、あるいは構造特性を共有していても、していなくてもよい。特定の抗原又は抗原決定基に対する免疫応答を誘導するミモトープを発生させ、同定する方法は、当技術分野で知られており、本明細書の他所に記載されている。
【0052】
突然変異タンパク質:本明細書で用いる「突然変異タンパク質」という用語は、所与の対照標準(例えば、天然、野生型等)ポリペプチドと1つ又は複数のアミノ酸が異なっているタンパク質又はポリペプチドを指す。
【0053】
天然由来:本明細書で用いる「天然由来」という用語は、その全体又は一部が合成でなく、天然に存在又は生成されることを意味する。好ましくは、本明細書で用いる「天然由来」という用語は、全体が合成でなく、天然に存在又は生成されることを意味する。
【0054】
非天然:本明細書で用いるこの用語は、一般的に天然由来でないことを意味し、より具体的には、この用語は人為的なものであることを意味する。
【0055】
非天然分子骨格:本明細書で用いる「非天然分子骨格」という句は、第1付着部位の強固な反復アレイを設ける役割を果たす人為的に調製された生成物を指す。必然的でないが、理想的には、これらの第1付着部位は、幾何学的秩序を有する。非天然分子骨格は、有機又は非有機であってよく、一部又は全体が化学的に、あるいは生物学的過程により合成されてよい。非天然分子骨格は、(a)天然又は非天然由来のコア粒子、および(b)少なくとも1つの第1付着部位からなる。非天然由来:本明細書で用いる「非天然由来」という用語は、一般的に合成によるもの、又は天然由来でないことを意味し、より具体的には、この用語は人為的なものであることを意味する。
【0056】
規則正しい反復抗原又は抗原決定基アレイ:本明細書で用いる「規則正しい反復抗原又は抗原決定基アレイ」という用語は、それぞれコア粒子およびウイルス様粒子に関して抗原又は抗原決定基の一般的にかつ好ましくは均一な空間的配置を特徴とする、抗原又は抗原決定基の反復パターンを一般的に指す。本発明の一実施形態において、反復パターンは幾何学的パターンであってよい。適切な規則正しい反復抗原又は抗原決定基アレイの一般的かつ好ましい例は、好ましくは、0.5〜30nm、好ましくは5〜15nmの間隔を有する厳密に反復性準結晶性秩序を有するものである。
【0057】
受動免疫化:本明細書で用いる「受動免疫化」という用語は、外因的に産生させた免疫分子(例えば、抗体)又は細胞(例えば、T細胞)の動物へのあらゆる経路による投与を指す。受動免疫化は、免疫応答をもたらすために個体への免疫原、ワクチン、抗原又はハプテン−担体複合体の導入により得られる「能動」免疫化と異なる。
【0058】
線毛:本明細書で用いる「線毛(pili)」(単数形は「pilus」)という用語は、規則正しい反復パターンに組織化されているタンパク質モノマー(例えば、ピリンモノマー)からなる細菌細胞の細胞外構造を指す。さらに、線毛は宿主細胞表面への細菌細胞の付着、細胞内遺伝子交換および細胞−細胞認識のような過程に関与する。線毛の例としては、1型線毛、P線毛、F1C線毛、S線毛および987P線毛などがある。線毛のさらなる例は、本明細書の他所に記載されている。
【0059】
線毛様構造:本明細書で用いる「線毛様構造」という句は、線毛と同様な特性を有し、タンパク質モノマーからなる構造を指す。「線毛様構造」の一例は、天然線毛と本質的に同じである、規則正しい反復アレイを形成しない修飾ピリンタンパク質を発現する細菌細胞により形成される構造である。
【0060】
ポリペプチド:本明細書で用いる「ポリペプチド」という用語は、互いにペプチド結合により結合されているアミノ酸残基、一般的に天然アミノ酸残基からなる高分子を指す。ポリペプチドは、必ずしもサイズが限定されておらず、タンパク質とペプチドとを含む。ペプチドは、約5個〜約50個の一般的なサイズのアミノ酸、又はこの一般的な範囲内のいずれかの数のアミノ酸からなるポリペプチドである。しかし、ペプチドは、より長い、例えば、最高120〜150個のアミノ酸からなるものであってもよい。
【0061】
タンパク質:タンパク質という用語は、一般的に約5個又はそれ以上、10個又はそれ以上、20個又はそれ以上、25個又はそれ以上、50個又はそれ以上、75個又はそれ以上、100個又はそれ以上、200個又はそれ以上、500個又はそれ以上、1000個又はそれ以上、2000個又はそれ以上のサイズのアミノ酸からなるポリペプチドを指す。タンパク質は一般的に、しばしば明確な3次元構造を有さず、多数の異なる立体配座をとることができ、折りたたまれていないと称されるペプチドおよびポリペプチドと異なり、必ずしも必要はないが、しばしば折りたたまれていると称される明確な3次元構造を有する。しかし、ペプチドは明確3次元構造も有することがある。
【0062】
精製された:本明細書で用いる「精製された」という用語を分子に関して用いる場合、精製される分子の濃度が、その自然環境、又はそれが産生され、発見され、もしくは合成された環境においてそれと会合していた分子と比較して増加したことを意味する。自然に会合した分子としては、タンパク質、核酸、脂質および糖などであるが、一般的に、精製される分子の精製の完全性を維持又は促進するために加えられる水、緩衝液および試薬は含まれない。例えば、オリゴdTカラムクロマトグラフィーの実施中にmRNAが水性溶媒で希釈されたとしても、自然に会合した核酸および他の生物学的分子がカラムに結合せず、対象mRNA分子から分離されるならば、mRNA分子はこのクロマトグラフィーにより精製される。この定義によれば、物質は、その汚染物質と比較して考えたとき、5%又はそれ以上、10%又はそれ以上、20%又はそれ以上、30%又はそれ以上、40%又はそれ以上、50%又はそれ以上、60%又はそれ以上、70%又はそれ以上、80%又はそれ以上、90%又はそれ以上、95%又はそれ以上、98%又はそれ以上、99%又はそれ以上又は100%純粋である。
【0063】
受容体:本明細書で用いる「受容体」という用語は、リガンドと呼ばれる他の分子と相互作用することができるタンパク質もしくは糖タンパク質又はその断片を指す。リガンドは生化学的又は化学的化合物のどのクラスに属してもよい。受容体は、必ずしも膜結合タンパク質である必要はない。例えば、マルトース結合タンパク質やレチノール結合タンパク質のような可溶性タンパク質も受容体である。
【0064】
残基:本明細書で用いる「残基」という用語は、ポリペプチド主鎖又は側鎖における特定のアミノ酸を意味する。
【0065】
組換え宿主細胞:本明細書で用いる「組換え宿主細胞」という用語は、本発明の1つ又は複数の核酸分子が導入された宿主細胞を指す。宿主細胞は、例えば、哺乳動物、昆虫、植物、鳥類、酵母などの真核生物、ならびに例えば、大腸菌および枯草菌(B.subtilis)などの原核生物を含む。
【0066】
組換えウイルス:本明細書で用いる「組換えウイルス」という句は、人為的に遺伝的に修飾されているウイルスを指す。この句は、当技術分野で知られているウイルスを対象として含む。より具体的には、この句は、人為的に遺伝的に修飾されているアルファウイルスを指し、また、より具体的には、この句は、人為的に遺伝的に修飾されているシンビスウイルスを指す。
【0067】
RNAファージ:本明細書で用いる「RNAファージ」という用語は、RNAウイルス感染細菌、より具体的には、1本鎖ポジティブセンスRNAウイルス感染細菌を指す。
【0068】
ベクター:本明細書で用いる「ベクター」という用語は、宿主細胞に遺伝物質を伝達するために用いる因子(例えば、プラスミド又はウイルス)を指す。ベクターは、DNA又はRNAからなっていてよい。
【0069】
ウイルス様粒子(VLP):本明細書で用いる「ウイルス様粒子」という用語は、ウイルス粒子に類似した構造を指す。さらに、本発明によるウイルス様粒子は、ウイルスゲノムのすべて又は一部、特に、ウイルスゲノムの複製および感染性成分を欠いているので、非複製性および非感染性である。本発明によるウイルス様粒子は、それらのゲノムと異なる核酸を含んでいてよい。本発明によるウイルス様粒子の一般的および好ましい実施形態は、対応するウイルス、バクテリオファージ又はRNAファージのウイルスキャプシドのようなウイルスキャプシドである。本明細書において同義で用いている「ウイルスキャプシド」又は「キャプシド」という用語は、ウイルスタンパク質サブユニットからなる巨大分子アセンブリを指す。一般的かつ好ましくは、ウイルスタンパク質サブユニットは、固有の反復組織を含む構造を有するウイルスキャプシドおよびキャプシドにそれぞれ集合し、前記構造は、一般的に球状又は管状である。例えば、RNAファージ又はHBcAg’sのキャプシドは、正十二面体対称性の球形の形態を有する。本明細書で用いている「キャプシド様構造」という用語は、上で定義した意味でキャプシド形態に集合するウイルスタンパク質サブユニットからなるが、十分な程度の秩序と反復性を維持しながら、一般的な対称性集合から偏っている巨大分子集合を指す。
【0070】
バクテリオファージのウイルス様粒子:本明細書で用いる「バクテリオファージのウイルス様粒子」という用語は、バクテリオファージの構造に類似し、非複製性かつ非感染性で、バクテリオファージの複製装置をエンコードする少なくとも1つの遺伝子又は複数の遺伝子を欠き、また、一般的に宿主細胞へのウイルスの付着又は侵入を担っているタンパク質又は複数のタンパク質をエンコードする遺伝子又は複数の遺伝子も欠いているウイルス様粒子を指す。しかし、この定義には、前述の遺伝子又は複数の遺伝子がまだ存在しているが、不活性で、したがって、バクテリオファージの非非複製性かつ非感染性ウイルス様粒子となっている、バクテリオファージのウイルス様粒子も含めるべきである。
【0071】
RNAコートタンパク質のVLP:RNAコートタンパク質の180サブユニットの自己集合により形成され、場合によって宿主RNAを含むキャプシド構造を「RNAコートタンパク質のVLP」と称する。特定の例は、Qβコートタンパク質のVLPである。この特定のケースにおいて、Qβコートタンパク質のVLPは、Qβ CPサブユニットのみの集合によるもの(例えば、抑制により、より長いA1タンパク質の発現を排除するTAA終止コドンを含むQβ CP遺伝子の発現により発生する、Kozlovska、T.M.、et al.、Intervirology、第39巻、9〜15頁(1996)を参照)又はキャプシド集合にさらにA1タンパク質サブユニットを含むものであってよい。
【0072】
ウイルス粒子:本明細書で用いる「ウイルス粒子」という用語は、ウイルスの形態学的型を指す。一部のウイルス型ではウイルス粒子はタンパク質キャプシドにより囲まれたゲノムを含み、他の型のものは別の構造(例えば、包膜、尾部等)を有する。
【0073】
1つ(one、a又はan):語「1つ」(「one」、「a」又は「an」)をこの開示で用いる場合、特に断らない限り、「少なくとも1つ」又は「1つ又は複数」を意味する。
【0074】
数値に適用する場合、本明細書で用いる「約」という語は記載する値の±10%の値を意味する(例えば、「約50℃」は45℃から55℃までの範囲(両端の値を含む)を含み、同様に、「約100mM」は90mMから110mMまでの濃度の範囲(両端の値を含む)を含む)。
【0075】
概要
我々は今回、アジュバントを使用しない場合でさえも有効で、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIを特異的に標的とすることができる、アンジオテンシンペプチドに対して特異的な抗体の誘導のための強力な免疫原を開発した。この免疫原は、ウイルス様粒子(VLP)又は細菌線毛又は線毛様粒子のような他の粒子に結合しているアンジオテンシンペプチド部分からなる。これは、アジュバントを使用しない場合でさえも抗体生成を刺激することができる高度に免疫原性の反復抗原アレイになる。使用するアンジオテンシンペプチド部分のアミノ酸配列によって、高い抗体価が誘導され、さらに、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIのN又はC末端に対して特異的に誘導することができる。これは、アンジオテンシンペプチドの1つの種のみに、あるいはその組合せに特異的に標的を定めることを可能にする。したがって、本発明の免疫原は、RASにより産生されるアンジオテンシンペプチド部分、特に、アンジオテンシンIIおよびその誘導体の高いレベルに関連する状態を抑制するための免疫療法アプローチに用いることができる。
【0076】
本発明の複合体の形成、すなわち、コア粒子(例えば、VLP)への1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の結合は、付着、連結、融合又は共有結合および非共有結合などの他の結合により達成される。一実施形態において、VLPが第1付着部位を含み、有機分子が第2付着部位を含む。有機分子間の会合は、第1付着部位を第2付着部位に直接、又は第3分子を介して連結することによって起こる。付着部位は、天然に存在することがあり、あるいは導入することもできる。
【0077】
アンジオテンシンペプチド部分とコア粒子との複合体による、あるいは本発明により提供されるような複合体を含む複合体による動物の免疫化は、示されるアンジオテンシンペプチド部分に対する強い免疫応答を誘導する。したがって、複合体および本発明の複合体は、様々なアンジオテンシンペプチド部分又はその誘導体に対する免疫応答の刺激に、ひいては動物における使用に有用である。本発明はまた、免疫学的に有効量の1つ又は複数の複合体又は本発明の複合体と薬剤的に許容できる希釈剤、担体又は賦形剤とを含むワクチンに関する。複合体又は本発明の複合体は、動物に1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分又はその誘導体に対するワクチン接種を行うために用いることができる。ワクチン接種は、予防もしくは治療目的又は両方のためであってよい。関連する態様において、そのような複合体に対して産生させた抗体のような免疫分子又は複合体は、疾患、状態又は障害の治療、予防又は診断に用いることができる。そのような抗体、複合体および本発明の複合体は、成分キットとしても有用である。
【0078】
したがって、一態様において、本発明は、規則正しい反復アンジオテンシンペプチド部分−担体複合体としての1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分と担体との複合体、ならびにそのような複合体を調製する方法を提供する。本発明はまた、本発明のそのような少なくとも1つの複合体と、少なくとも1つの他の成分、適切には、少なくとも1つの賦形剤又は担体、および特に少なくとも1つの薬剤的に許容できる賦形剤又は担体とを含む複合体を提供する。複合体および本発明の複合体は、アンジオテンシンペプチド部分に対する免疫応答を誘導するのに有用である。そのような免疫応答は、治療、予防および診断目的に有用な抗体を生成させるために用いることができる。
【0079】
本発明の複合体は、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の高度に規則正しい反復アレイを含む。本発明のこの態様による複合体アレイは、(a)第1付着部位を含むコア粒子と(b)第2付着部位を含むアンジオテンシンペプチド部分とを含み、要素(a)と(b)とが第1および第2付着部位を介して会合して、前記アンジオテンシンペプチド部分の規則正しい反復アレイを形成する。
【0080】
複合体および本発明の複合体に用いることが適切なコア粒子は、天然又は非天然のものであってよい。複合体および本発明の複合体に用いる天然コア粒子としては、ウイルス粒子、ウイルス様粒子および線毛などがある。これらの天然コア粒子のタンパク質は、天然又は組換えタンパク質であってよい。コア粒子上の第1付着部位は、天然に存在していてよく、あるいは化学的又は組換え手段により導入してもよい。複合体および本発明の複合体に用いるアンジオテンシンペプチド部分は、RASの様々な成分(すなわち、様々なアンジオテンシンペプチド部分又はその誘導体)に対する免疫応答の誘導に適するものであって、アンジオテンシンペプチド部分、好ましくは、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI(式Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe−His−Leuのデカペプチド,配列番号16)もしくはアンジオテンシンII(式Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Pheのオクタペプチド,配列番号17)又は本明細書の他所に記載するアンジオテンシンペプチド部分を含むその機能的に同等な変異体の配列又はその断片を含む、あるいは、それからなるものを含むが、これに限定されない。アンジオテンシンペプチド部分における第2付着部位は、天然に存在していてよく、あるいは導入してもよい。第1および第2付着部位間の相互作用は、直接であってよく、あるいは少なくとも1つの他の分子、例えば、リンカーを含んでいてよい。さらに、第1付着部位と第2付着部位との会合のために、本発明により架橋分子を用いることができる。架橋分子は、一般的にリンカーに加えて用いる。
【0081】
複合体および本発明の複合体は、驚くべきことに、様々なアンジオテンシンペプチド部分に対する免疫応答、特に抗体の誘導に有効である。したがって、それらは、高血圧、卒中、梗塞、うっ血性心不全、腎不全又は網膜出血を含むが、これらに限定されないRASに関連する疾患、障害又は状態に対する治療又は予防のための動物の免疫化に適する複合体に有用である。複合体および本発明の複合体による免疫化により産生される抗体も治療および予防の目的のために有用である。
【0082】
他の実施形態において、本発明は、複合体および本発明の複合体を用いる疾患の治療および予防の方法を提供する。他の実施形態において、本発明は、診断およびスクリーニングに適するキットを提供する。
【0083】
規則正しい反復アレイの複合体
本発明は、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の規則正しい反復アレイを含む複合体、および複合体の複合体を提供する。さらに、本発明は、好都合なことに、開業医が様々な目的のために、好ましくは1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分又はその誘導体に対する免疫応答の誘導のために規則正しい反復アレイを構築することを可能にする。
【0084】
本発明の複合体は本質的に、2つの要素、すなわち、(1)非天然分子骨格及び、(2)少なくとも1つの結合により前記第1付着部位に会合することができる少なくとも1つの第2付着部位を有するアンジオテンシンペプチド部分とを含む、あるいはそれらからなる。
【0085】
非天然分子骨格は、(a)(1)非天然由来のコア粒子および(2)天然由来のコア粒子からなる群から選択されるコア粒子と、(b)少なくとも1つの共有結合により前記コア粒子に結合されている少なくとも1つの第1付着部位とを含む、あるいはそれらからなる。複合体、本発明の複合体および方法に用いるコア粒子としては、無機分子、ウイルス粒子、ウイルス様粒子および細菌線毛などがある。複合体、本発明の複合体および方法に用いるアンジオテンシンペプチド部分は、(a)アンジオテンシンペプチド部分内の天然に存在しない付着部位および(b)アンジオテンシンペプチド部分内の天然に存在する付着部位からなる群から選択される少なくとも1つの第2付着部位を有する。
【0086】
本発明は、少なくとも1つの結合による第2付着部位と第1付着部位との会合による規則正しい反復アレイを提供する。したがって、アンジオテンシンペプチド部分と非天然分子骨格とが第1および第2付着部位のこの会合により結び付けられて、規則正しい反復抗原アレイを形成する。開業医は、非天然分子骨格、又は特定の実施形態において、コア粒子に結合するすべての部分の配置が均一であるようなアンジオテンシン部分および第2付着部位を具体的に設計することができる。例えば、単一の第2付着部位をアンジオテンシンペプチド部分に置き、それにより、非天然分子骨格に付着するすべてのアンジオテンシンペプチド部分が均一に位置する完全な設計を確保することができる。本発明のそのような一態様において、特に、本発明によりコア粒子との配向した規則正しい会合を確保するために、1つ又は複数の別のアミノ酸(天然に存在しない第2付着部位をもたらす)をアンジオテンシンペプチド部分配列のC又はN末端に付加する。したがって、本発明は、あらゆるアンジオテンシンペプチド部分を定められた順序で、反復パターンを形成するように非天然分子骨格に置く都合のよい手段を提供する。
【0087】
当業者には明らかなように、本発明の特定の実施形態は、クローニング、ポリメラーゼ連鎖反応、DNAおよびRNAの精製、原核および真核細胞における組換えタンパク質の発現などの組換え核酸技術の使用を必要とする。そのような方法論は、当業者によく知られており、公表されている実験法マニュアル(例えば、Sambrook J.et al.編、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第2版、コールド スプリング ハーバー 研究所出版、コールド スプリング ハーバー、ニューヨーク(1989)、Ausubel F.et al.編、Current Protocols in Molecular Biology、John H.Wiley & Sons,Inc.(1997))に適宜見出すことができる。組織培養細胞系に関する研究のための基本的実験技術(Celis J.編、Cell Biology、Academic Press、第2版(1998))および抗体に基づく技術(Harlow E.and Lane D.「Antibodies:A Laboratory Manual」、コールド スプリング ハーバー研究所、コールド スプリング ハーバー、ニューヨーク(1988)、Deutscher M.P.「Guide to Protein Purification」、Meth.Enzymol.128頁、Academic Press San Diego(1990)、Scopes R.K.「Protein Purification Principles and Practice」、第3版、Springer−Verlag、New York(1994))も文献に十分に記載されている[これらのすべてを参照により本明細書に組込まれる]。
【0088】
さらに、本発明の実施に必要な、例えば、有機分子をアミノ酸に結合させる技術や適切な第2付着部位を含むアンジオテンシンペプチド部分の誘導体を調製する手段は、当業者によく知られている。そのような方法論は、化学教科書および刊行物に見出すことができ、それらの例を以下に含まれており、参照により組込まれる。米国特許第5,876,727号、国際公開第99/61054号、Isomura S.et al.J.Org.Chem.第66巻、4115〜4121頁(2001)、Matsushita H.et al.Biochem.Biophys.Res.Comm、第57巻、1006〜1010頁(1974)、Langone J.L.and Van Vunakis H.、Methods Enzymol.第84巻、628〜640頁(1982)、Wong、Chemistry of Protein Conjugation and Cross−Linking、CRC Press,Inc.、Boca Raton、Fla(1991)。
【0089】
コア粒子および非天然分子骨格
一実施形態において、本発明は、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の規則正しい反復アレイを形成する方法を提供する。本発明により、これは、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分が結合するコア粒子の第1および第2付着部位を介しての会合により起こる。
【0090】
したがって、特定の複合体および本発明の複合体における1つの要素は、コア粒子および第1付着部位を含む、あるいはそれらからなる非天然分子骨格である。より具体的には、非天然分子骨格は、(a)天然又は非天然由来のコア粒子および(b)少なくとも1つの共有結合によりコア粒子に結合している少なくとも1つの第1付着部位を含む、あるいはそれらからなる。
【0091】
コア粒子 本発明の一実施形態において、コア粒子は、合成高分子、脂質ミセル又は金属である。そのようなコア粒子は、当技術分野で知られており、本発明の新規の非天然分子骨格を構築するための基盤を提供する。例として、合成高分子又は金属コア粒子が、全部が参照により本明細書に組込まれる米国特許第5,770,380号および米国特許第5,334,394号に開示されている。適切な金属は、クロム、ルビジウム、鉄、亜鉛、セレン、ニッケル、金、銀、白金を含むが、これらに限定されない。適切なセラミック金属は、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ルテニウムおよび酸化スズを含むが、これらに限定されない。この実施形態のコア粒子は、ポリスチレン、ナイロンおよびニトロセルロースを含む炭素および適切な高分子を含むが、これらに限定されない有機材料から調製することができる。ナノ結晶性粒子については、酸化スズ、二酸化チタン又は炭素(ダイヤモンド)から調製した粒子が有用である。本発明用の脂質ミセルは、当技術分野で知られているいずれかの手段、例えば、全部が参照により本明細書に組込まれるBaiselle and Millar(Biophys.Chem.第4巻、355〜361頁(1975))又はCorti et al.(Chem.Phys.Lipids、第38巻、197〜214頁(1981))又はLopez et al.(FEBS Lett.第426巻、314〜318頁(1998))又はTopchieva and Karezin(J.Colloid Interface Sci.第213巻、29〜35頁(1999))又はMorein et al.(Nature、第308号、457〜460頁(1984))により調製される。
【0092】
本発明の一実施形態において、コア粒子は、天然又は非天然であってよい、生物学的過程により生成される。例えば、ウイルスおよび細菌線毛又は線毛様構造は、規則正しい反復構造に組織化されるタンパク質から形成される。したがって、本発明は、ウイルス、ウイルス様粒子、細菌線毛、ファージ、ウイルスキャプシド粒子又はその断片を含むが、これらに限定されない有用なコア粒子を含む複合体、複合体および方法を含む。そのような特定の実施形態において、タンパク質は組換えであってよい。
【0093】
特定の実施形態において、非天然分子骨格のコア粒子は、ウイルス、細菌線毛、細菌ピリンから形成される構造、バクテリオファージ、ウイルス様粒子、ウイルスキャプシド粒子又はその組換え型を含む。規則正しい反復コート及び/又はコアタンパク質構造を有する当技術分野で知られているウイルスは、非天然分子骨格として、本発明の方法、複合体および複合体における使用のために選択することができる。適切なウイルスの例は、シンドビスおよび他のアルファウイルス、ラブドウイルス(例えば、小水疱性口内炎ウイルス)、ピコナウイルス(例えば、ヒト鼻ウイルス、アイチ(Aichi)ウイルス)、トガウイルス(例えば、風疹ウイルス)、オルソミクソウイルス(例えば、Thogotoウイルス、Batkenウイルス、家禽ペストウイルス)、ポリオーマウイルス(例えば、ポリオーマウイルスBK、ポリオーマウイルスJC、鳥類ポリオーマウイルスBFDV)、パルボウイルス、ロタウイルス、バクテリオファージQβ、バクテリオファージR17、バクテリオファージM11、バクテリオファージMX1、バクテリオファージNL95、バクテリオファージfr、バクテリオファージGA、バクテリオファージSP、バクテリオファージMS2、バクテリオファージf2、バクテリオファージPP7、バクテリオファージAP205、ノーウォーク(Norwalk)ウイルス、口蹄疫ウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、タバコモザイクウイルス、フロックハウスウイルス(Flock House Virus)およびヒト乳頭腫ウイルスを含むが、これらに限定されない(例えば、Bachman M.F.and Zinkernagel R.M.Immunol.Today、第17巻、553〜558頁(1996)の表1を参照)。本発明のより特定的な具体例としての実施形態において、コア粒子は、ロタウイルスの組換えタンパク質、ノーウォークウイルスの組換えタンパク質、アルファウイルスの組換えタンパク質、細菌線毛又は線毛様構造を形成する組換えタンパク質、口蹄疫ウイルスの組換えタンパク質、レトロウイルスの組換えタンパク質、B型肝炎ウイルスの組換えタンパク質(例えば、HBcAg)、タバコモザイクウイルスの組換えタンパク質、フロックハウスウイルスの組換えタンパク質およびヒト乳頭腫ウイルスの組換えタンパク質を含む、あるいはそれらからなっていてよい。
【0094】
複合体、本発明の複合体および方法に用いるコア粒子は、さらに、そのようなタンパク質の1つ又は複数の断片、ならびに互いに会合して、規則正しい反復抗原又は抗原決定基アレイを形成する能力を保持しているそのようなタンパク質の変異体を含むか、あるいはそれらからなっていてよい。例えば、同一所有権者の同時係属米国特許出願第10/050902号(2002年1月18日に出願、その開示のその全部が参照により本明細書に組込まれる)に説明されているように、コア粒子は、アミノ酸配列の同一性および類似性ならびに配列の長さが野生型粒子と著しく異なっているヒトHBcAgの変異型から形成することができる。例えば、ハクガンおよびアヒルを感染させるB型肝炎ウイルスのHBcAgのアミノ酸配列は、タンパク質のアライメントが困難である、ウイルス感染哺乳動物のHBcAgのアミノ酸配列と十分に異なっている。しかし、両ウイルスは、規則正しい反復抗原アレイの形成に適するコア構造を形成する能力を保持している。同様に、HBcAgは、N末端リーダー配列の除去、さらなる欠失、置換又は配列への付加の後に、ウイルスに特有の多量体を形成する能力を保持していることがある。タンパク質がそのような構造を形成するかどうかを検討するために用いることができる方法は、ゲルろ過、アガロースゲル電気泳動、ショ糖密度勾配遠心分離および電子顕微鏡を含む(例えば、Koschel M.et al.、J.Virol.第73巻、2153〜2160頁(1999))。
【0095】
第1結合部位 天然又は非天然を問わず、複合体、本発明の複合体および方法に用いるコア粒子は一般的に、少なくとも1つの共有結合により、天然又は非天然コア粒子に結合する第1付着部位を含む成分を有する。第1付着部位を含む要素は、規則正しい反復配列を形成するための核生成部位を提供するコア粒子に規則的に結合する。必然的でないが、理想的には、この要素は幾何学的順序でコア粒子と結合する。第1付着部位は、第2付着部位に結合するのに適する表面曝露アミノ酸残基のようなコア粒子の天然部分であってよい。例えば、リシンおよびシステインは、アミノ酸の反応性基を介して非ペプチド結合を形成することができる。あるいは、第1付着部位を含む要素を、化学結合により、あるいは組換え分子の設計により、コア粒子に導入することができる。第1付着部位は、少なくとも1つの共有結合によるコア粒子への結合を含む要素であるか、あるいはその要素上に見出されるものであってよい。
【0096】
第1付着部位は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、アミノ酸(すなわち、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの残基)、糖、ポリヌクレオチド、天然又は合成高分子、二次代謝物又は化合物(ビオチン、フルオレセイン、レチノール、ジゴキシゲニン、金属イオン、フッ化フェニルメチルスルホニル)、又はその組合せ、又はその化学的反応性の基を含む第1付着部位を含むか、あるいはそれらからなっていてよい。より特定の実施形態において、第1付着部位は、抗原、抗体又は抗体断片、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、受容体、受容体リガンド、リガンド、リガンド結合タンパク質、相互作用性ロイシンジッパーポリペプチド、アミノ基、アミノ基に対して反応性の化学基、カルボキシル基、カルボキシル基に対して反応性の化学基、スルフヒドリル基、スルフヒドリル基に対して反応性の化学基又はその組合せを含む。
【0097】
一実施形態において、本発明は、ウイルスの遺伝子工学を用いて、規則正しい反復ウイルス包膜タンパク質と、異種タンパク質、ペプチド、抗原決定基又は適切な反応性アミノ酸残基を含む第1結合部位を含む要素との融合体を生成させる。当業者に知られている他の遺伝子操作を、非天然分子骨格の構築に含めることができる。例えば、遺伝子突然変異により組換えウイルスの複製能力を制限することが望ましい。第1付着部位タンパク質を含むタンパク質への融合のために選択するウイルスタンパク質は、組織化された反復構造を有するべきである。そのような組織化された反復構造は、ウイルスの表面上の0.5〜30nm、好ましくは、5〜15nmの間隔を有する準結晶組織などである。この種の融合タンパク質の生成は、ウイルスの表面上の複数の規則正しい反復性の第1付着部位を生じさせるであろう。したがって、それから生じた第1付着部位の規則正しい反復組織は、天然ウイルスタンパク質の正常組織を反映する。
【0098】
当業者より理解されるであろうように、第1付着部位は、非天然分子骨格に適切な抗原又は抗原決定基を特異的に結合させる機能を果たす可能性がある適切なタンパク質、ポリペプチド、糖、ポリヌクレオチド、ペプチド(アミノ酸)、天然又は合成ポリマー又はその組合せであるか、又はその一部であってよい。一実施形態において、この付着部位は、当技術分野で知られているものから選択されるようなタンパク質又はペプチドである。例えば、第1付着部位は、リガンド、受容体、レクチン、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、HA又はT7標識、Myc、Maxのようなエピトープ、免疫グロブリンドメインおよび第1付着部位として有用であると思われる当技術分野で知られている他のアミノ酸配列であってよい。
【0099】
本発明の他の実施形態において第1付着部位が、キャプシドタンパク質へのフレーム内融合の構築に用いる第1付着部位を運ぶ要素(例えば、タンパク質又はポリペプチド)の生成に伴い二次的に生成される可能性があることがさらに当業者より理解されるであろう。例えば、タンパク質は、特異的にグリコシル化されることが知られているアミノ酸配列を有する包膜タンパク質への融合に用いることができ、結果として付加される糖部分が次に、抗原の第2付着部位として機能するレクチンへの結合によりウイルス骨格の第1付着部位として機能する。あるいは、配列をin vivoでビオチン化すると、ビオチン部分は本発明の第1付着部位として機能することができ、あるいは、その配列の別のアミノ酸残基をin vitroで化学的修飾すると、修飾部分が第1付着部位として機能する。
【0100】
本発明の特定の実施形態において、第1付着部位は、B型肝炎キャプシド(コア)タンパク質(HBcAg)にフレーム内で融合するJUN−FOSロイシンジッパータンパク質ドメインである。しかし、他のキャプシドタンパク質を、第1付着部位を本発明の非天然分子骨格に置くための融合タンパク質構成体に用いることができることは、当業者には明らかであろう。例えば、本発明の他の実施形態において、第1付着部位は、HBcAgにフレーム内で融合されたリシン又はシステイン残基として選択される。他のウイルスキャプシド又はウイルス様粒子を、第1付着部位を本発明の非天然分子骨格に置くための融合タンパク質構成体に用いることができることもすべての当業者には明らかであろう。
【0101】
ウイルス粒子 本発明の一実施形態において、非天然分子骨格は、組換えアルファウイルスであり、より具体的には、組換えシンドビスウイルスである。アルファウイルスファミリーのいくつかのメンバー、すなわち、シンドビス(Xiong C.et al.、Science、第243巻、1188〜1191頁(1989)、Schlesinger S.、Trends Biotechnol.第11巻、18〜22頁(1993))、セムリキフォレスト(Semliki forest)ウイルス(SFV)(Liljestrom P.& Garoff H.、Bio/Technology、第9巻、1356〜1361頁(1991))およびその他(Davis N.L.et al.、Virology、第171巻、189〜204頁(1989))は、種々のタンパク質のウイルスに基づく発現ベクターとしての(Lundstrom K.、Curr.Opin.Biotechnol.、第8巻、578〜582頁(1997)、Liljestrom P.、Curr.Opin.Biotechnol.、第5巻、495〜500頁(1994))およびワクチン開発の候補としての使用について著しい注目を集めている。異種タンパク質の発現およびワクチン開発のためのアルファウイルスの使用は、開示されている(米国特許第5,766,602号、第5,792,462号、第5,739,026号、第5,789,245号および第5,814,482号、全部についてすべての開示を参照により組込む)。本発明のこの態様によるアルファウイルス骨格の構築は、参照により本明細書に組み込まれる前記の論文に記載されているような組換えDNA技術の分野で一般的に知られている手段によって行うことができる。1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の付着のためのウイルスに基づくコア粒子を生成させるために、種々の組換え宿主細胞を用いることができる。
【0102】
パッケージドRNAも宿主細胞を感染させるために用いることができる。これらのパッケージドRNAは、それらを培地に添加することにより宿主細胞に導入することができる。例えば、非感染性アルファウイルス粒子の調製は、「Sindbis Expression System」、Version C(Invitrogen Corporation、Carlsbad CA、カタログ番号K750−1)を含む多くの情報源に記載されている。
【0103】
哺乳動物細胞をウイルスに基づくコア粒子の生産のための組換え宿主細胞として用いる場合、これらの細胞は一般的に組織培養において成長させる。培養により細胞を成長させる方法は、当技術分野においてよく知られている(例えば、Celis J.編、Cell Biology、Academic Press、第2版(1998)、Sambrook J.et al.編、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第2版、コールド スプリング ハーバー 研究所出版、コールド スプリング ハーバー、ニューヨーク(1989)、Ausbel F.et al.編、Current Protocols in Molecular Biology、John H.Wiley & Sons,Inc.(1997)、Freshney R.、Culture of Animal Cells、Alan R.Liss,Inc.(1983)を参照)。
【0104】
したがって、本発明は、ウイルス、ウイルス様粒子、ファージ、ウイルスキャプシド粒子又はその組換え型を含むか、あるいはそれからなるウイルスに基づくコア粒子を含む。当業者はそのようなコア粒子を生成させ、それに第1付着部位を付着させる知識を有する。特に、HBcAgから集合又は自己集合させたB型肝炎ウイルス様粒子の生産、ならびにコア粒子としての麻疹ウイルスキャプシド粒子は、参照により本明細書に明確に組込まれる国際公開第00/32227号の実施例17〜22に開示されている。そのような実施形態において、JUNロイシンジッパータンパク質ドメイン又はFOSロイシンジッパータンパク質ドメインを本発明の非天然分子骨格の第1付着部位として用いることができる。当業者は、それぞれ第1および第2付着部位としての、反応性リシン残基を有するフレーム内融合ペプチドを運ぶB型肝炎コア粒子および遺伝学的に融合したシステイン残基を運ぶアンジオテンシンペプチド部分を構築する方法を知っているであろう。
【0105】
他の実施形態において、本発明の複合体に用いるコア粒子は、ウイルス様粒子を形成することができ、規則正しいアレイであり、遊離システイン残基を除去、又はその数を減少させるために修飾された、B型肝炎キャプシド(コア)タンパク質(HBcAg)、HBcAgの断片、あるいは、他のタンパク質又はペプチドから構成されている。Zhouら(J.Virol.第66巻、5393〜5398頁(1992))は、天然で常在するシステイン残基を除去するために修飾されたHBcAgは会合して、多量体構造を形成する能力を保持していることを示した。したがって、本発明の複合体への使用に適したコア粒子としては、1つ又は複数の天然で常在するシステイン残基を欠失させた、又は他のアミノ酸残基(例えば、セリン残基)で置換した修飾HBcAgs又はその断片を含むものなどである。本発明の一実施形態において、配列番号1又はその下位部分に示されているアミノ酸配列を含む修飾HBcAgを用いて、非天然分子骨格を調製する。特に、本発明の実施に際しての使用に適した修飾HBcAgとしては、配列番号1に示されているアミノ酸配列を有するタンパク質の位置48、61、107および185に対応する位置の1つ又は複数のシステイン残基を欠失させた、又は他のアミノ酸残基(例えば、セリン残基)で置換したタンパク質などがある。当業者が認識しているように、配列番号1に示されているものと異なるアミノ酸配列を有するHBcAg変異体における同様な位置にあるシステイン残基も欠失させ、又は他のアミノ酸残基で置換することができる。次いで、その修飾HBcAg変異体を用いて、本発明のワクチン複合体を調製することができる。
【0106】
特定の状況下(例えば、異種二官能性架橋物質を用いて、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分を非天然分子骨格に結合させる場合)では、HBcAgにおける遊離システイン残基の存在が、コア粒子への有毒化合物の共有結合と、単量体の架橋による未定義種の生成をもたらすと考えられている。さらに、多くの例において、これらの有毒化合物が、本発明の複合体について実施された定量法により検出できない可能性がある。非天然分子骨格への有毒化合物の共有結合が、有毒化合物が種々のシステイン残基に結合している多様な種の集団の生成をもたらすか、あるいは場合によってはHBcAgのシステイン残基が存在しないことがあるため、これが言える。言い換えれば、HBcAgの各遊離システイン残基は、有毒化合物に共有結合しない。さらに、多くの場合に、個々のHBcAgsのシステイン残基のいずれも有毒化合物に結合しない。したがって、有毒化合物は分子の混合集団中に存在すると思われるので、これらの有毒化合物の存在を検出することは困難である。しかし、有毒化合物を含むHBcAg種の個体への投与は、潜在的に重篤な副作用をもたらし得る。
【0107】
遊離システイン残基が多くの化学副反応に関与し得ることは当技術分野でよく知られている。これらの副反応は、ジスルフィド交換、例えば、注射された、又は他の物質との併用療法で生成した化学物質又は代謝物との反応、あるいは直接酸化およびUV光線への曝露時のヌクレオチドとの反応などである。特に、HBcAgが核酸と結合する強い傾向を有することを考慮すると、有毒な付加体が生成する可能性がある。広い範囲の分子量を有する生成物の分布が発生すると思われるので、遊離システインおよび異種二官能性架橋物質を含むHBcAgを用いて調製したキャプシドを用いて抗原−キャプシド複合体中のそのような有毒生成物を検出することは困難であろう。有毒な付加体がそのように複数の種にわたって分布し、個別にはそれぞれが低濃度で存在するが、一緒になったときに毒性レベルに達する可能性がある。
【0108】
上記のことを考慮すると、天然で常在するシステイン残基を除去するために修飾されたワクチン複合体中のHBcAgsの使用の1つの利点は、アンジオテンシンペプチド部分が非天然分子骨格に結合している場合に有毒種が結合することができる部位が、その数が減少するか、あるいはまったくなくなることである。さらに、高濃度の架橋物質を用いて高度に修飾された粒子を生成させることができ、HBcAg単量体の複数の未定義架橋種(すなわち、架橋単量体HBcAgsの多様な混合物)が発生するという欠点がなくなる。
【0109】
本発明の実施において使用するのが適切である多くの天然に存在するHBcAg変異体が特定された。Yuanら(J.Virol.第73巻、10122〜10128頁(1999))は、例えば、配列番号1における位置97に対応する位置のイソロイシンがロイシン残基又はフェニルアラニン残基で置換されている変異体を記述している。多くのHBcAg変異体ならびに数種のB型肝炎コア抗原前駆変異体のアミノ酸配列がGenBank報告AAF121240、AF121239、X85297、X02496、X85305、X85303、AF151735、X85259、X85286、X85260、X85317、X85298、AF043593、M20706、X85295、X80925、X85284、X85275、X72702、X85291、X65258、X85302、M32138、X85293、X85315、U95551、X85256、X85316、X85296、AB033559、X59795、X8529、X85307、X65257、X85311、X85301、X85314、X85287、X85272、X85319、AB010289、X85285、AB010289、AF121242、M90520、P03153、AF110999およびM95589に開示されている(この開示のそれぞれが参照により本明細書に組込まれる)。これらのHBcAg変異体は、配列番号1における位置12、13、21、22、24、29、32、33、35、38、40、42、44、45、49、51、57、58、59、64、66、67、69、74、77、80、81、87、92、93、97、98、100、103、105、106、109、113、116、121、126、130、133、135、141、147、149、157、176、178、182および183に存在するアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を含む多くの位置におけるアミノ酸配列が異なっている。
【0110】
本発明の組成物における使用に適し、本明細書の開示に従ってさらに修飾することができるさらなるHBcAg変異体は、全部が参照により本明細書に組込まれる国際公開第00/198333号、第00/177158号および第00/214478号に記載されている。
【0111】
本発明における使用に適するHBcAgsは、会合して、規則正しい反復抗原アレイを形成することができる限り、あらゆる生物から得ることができる。一般的に処理されたHBcAgs(すなわち、リーダー配列を欠くもの)は、本発明のワクチン複合体に使用される。本発明は、ワクチン複合体、ならびに非天然分子骨格の調製のために上述の変異型HBcAgsを用いる、これらの複合体を用いる方法を含む。さらに本発明の範囲内に含まれるのは、会合して、ニ量体又は多量体構造を形成することができる別のHBcAg変異体である。したがって、本発明はさらに、配列番号1および適切な場合、N末端リーダー配列を除去するめに処理されたこれらのタンパク質の型を含む、上の配列に示されているアミノ酸配列のいずれかと少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約97%又は約99%同じであるアミノ酸配列を含む、あるいは、それからなるHBcAgポリペプチドを含むワクチン複合体を含む。
【0112】
ポリペプチドのアミノ酸配列が上に示したアミノ酸配列の1つと少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約97%又は約99%同じであるアミノ酸配列を有するか、あるいはその下位部分であるかは、Bestfitプログラムのような既知のコンピュータプログラムを用いて適宜確定することができる。特定の配列が本発明による対照アミノ酸配列と、例えば、約95%同じであるかを確定するためにBestfit又は他の配列アライメントプログラムを用いる場合、同一性の割合が対照アミノ酸配列の全長にわたって計算され、対照配列におけるアミノ酸残基の総数の最高5%の相同性のギャップが許容されるようにパラメーターを設定する。そのようにして、配列番号1のHBcAgのアミノ酸配列と他のHBcAgとの比較を行うことができる。配列番号1における特定の位置に対応する位置にあるHBcAg変異体のアミノ酸残基に関して比較的類似しているタンパク質を比較するとき、配列番号1に示されているアミノ酸配列におけるその位置に存在するアミノ酸残基を基準にする。これらのHBcAg変異体間の相同性は、哺乳類に感染するB型肝炎ウイルスの間では大部分、十分に高いので、当業者は配列番号1に示されているアミノ酸配列と特定のHBcAg変異体のそれとを検討し、「対応する」アミノ酸を同定する困難はほとんどない。例えば、配列番号1とウッドチャックに感染するウイルス由来のHBcAgのアミノ酸配列との比較において、3つのアミノ酸残基挿入物が配列番号1のアミノ酸残基155と156との間の配列に存在することが容易にわかる。
【0113】
しかし、アライメントが困難である場合、当業者は、配列における特定のアミノ酸又はモチフの重要性を認識するであろう。例えば、ヒトウイルスのHBcAgのアミノ酸配列は、そのようなアライメントが困難なほどにアヒルウイルスのアミノ酸配列と異なっており、当業者は、本発明のワクチン複合体にそれらを含める前に保存システイン残基を他のアミノ酸で置換するか、欠失させることを認識するであろう。
【0114】
一実施形態において、配列番号1に示されているアミノ酸配列を有するタンパク質の位置48と107におけるシステイン残基が欠失しているか、あるいは他のアミノ酸残基で置換されているが、位置61におけるシステインは本来の位置に残っている。さらに、この修飾されたポリペプチドを用いて本発明のワクチン複合体を調製する。
【0115】
本発明に用いることができる好ましいB型肝炎ウイルス様粒子の調製は、例えば、国際公開第00/32227号およびこれによる特に実施例17〜19および21〜24ならびに国際公開第01/85208号およびこれによる特に実施例17〜19、21〜24、31および41、ならびに、2002年1月18日に本譲受人により出願された係属米国出願第10/050902号に開示されている。後者の出願において、これは特に実施例23、24、31および51に記載されている。3つの文書すべては参照により本明細書に明確に組込まれる。
【0116】
2002年1月18日に本譲受人により出願された米国出願第10/050902号の実施例31に記載されているように、溶媒が接触可能な位置48および107のシステイン残基は、例えば、部位特異的突然変異により除去することができる。そのような一実施例において、2002年1月18日に出願された同時係属米国出願第10/050902号(その全部が参照により本明細書に組込まれる)に記載されているように構築されたCys−48−Ser、Cys−107−Ser HBcAg二重突然変異体が大腸菌中で発現させることができることが見出された。
【0117】
上記のように、遊離システイン残基の除去により、有毒成分がHBcAgに結合することができる部位の数が減少し、また、同じ又は隣接HBcAg分子のリシンおよびシステイン残基の架橋が起こる部位も除去される。2量体形成に関与し、他のHBcAgの位置61のシステインとのジスルフィド架橋を形成する位置61のシステインは、通常、本発明のHBcAg2量体および多量体の安定化のためにそのままである。(1)遊離システイン残基を含むHBcAgs、ならびに(2)遊離システイン残基をヨードアセトアニドにより非反応性としたHBcAgsを用いた架橋実験により、HBcAgの遊離システイン残基は、異種2官能性架橋物質誘導体化リシン側鎖と遊離システイン残基との反応によるHBcAgs間の架橋に役割を担っていることが示されている。HBcAgサブユニットの架橋は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分解することができないサイズ未定義の高分子量種の生成をもたらすことも見出された。
【0118】
アンジオテンシンペプチド部分をリシン残基を介して非天然分子骨格に連結するとき、配列番号1の位置7および96に対応する位置にある天然に常在するリシン残基の1つ又は両方ならびにHBcAg変異体に存在する他のリシン残基を置換又は除去することが有利であると言える。これらのリシン残基の除去により、規則正しいアレイを破壊する可能性のあるアンジオテンシンペプチド部分の結合部位の除去がもたらされ、最終ワクチン複合体の品質と均一性が改善されるはずである。
【0119】
多くの場合に、配列番号1の位置7および96に対応する位置にある天然に常在するリシン残基の両方を除去する場合、他のリシンがアンジオテンシンペプチド部分の付着部位としてHBcAgに導入されるであろう。そのようなリシン残基を挿入する方法は、例えば、2002年1月18日に出願された同時係属米国特許出願第10/050902号およびそれによる特に、米国特許出願第10/050902号の実施例23(その全部が参照により本明細書に組込まれる)に記載されている。例えば、配列番号1の位置7および96に対応する位置にある天然に常在するリシン残基の両方を変化させ、アンジオテンシンペプチド部分を非天然分子骨格に異種2官能性架橋物質を用いて連結しようとする場合に、リシン残基をHBcAgに導入することがしばしば有利であろう。
【0120】
HBcAgのC末端は、このタンパク質の核局在化を誘導することが示された(Eckhardt et al.、J.Virol.第65巻、575〜582頁(1991))。さらに、このタンパク質のこの領域は、HBcAgに核酸に結合する能力も与えると考えられている。
【0121】
いくつかの実施形態において、本発明のワクチン複合体は、核酸結合活性を有するHBcAgsを含む(例えば、天然で常在するHBcAg核酸結合ドメインを含む)。1つ又は複数の核酸結合ドメインを含むHBcAgsは、高いT細胞刺激活性を示すワクチン複合体を調製するのに有用である。したがって、本発明のワクチン複合体は、核酸結合活性を有するHBcAgsを含む複合体を含む。HBcAgsが核酸に結合している、ワクチン複合体ならびにワクチン接種プロトコールにおけるそのような複合体の使用がさらに含まれる。これらのHBcAgsは、個体への投与前に核酸に結合されていてよく、あるいは投与後に結合してもよい。
【0122】
本発明の実施における使用に適するさらなるHBcAgsは、NおよびC末端切形突然変異体、ならびにアミノ酸配列が前記切形突然変異体と少なくとも約80%、約85%、約90%、約95%、約97%又は約99%同じであるアミノ酸配列を含むか、あるいはそれからなる突然変異体を含む。
【0123】
上記のように、本発明の特定の実施形態において、リシン残基を、非天然分子骨格を形成するポリペプチドに第1付着部位として導入する。好ましい実施形態において、本発明のワクチン複合体を、位置79および80に対応するアミノ酸がGly−Gly−Lys−Gly−Gly(配列番号31)のアミノ酸配列を有するペプチドで置換されており、位置48および107のシステイン残基が欠失しているか、又は他のアミノ酸残基で置換され、位置61のシステインは本来の位置に残っているように修飾されている配列番号1のアミノ酸1〜144又はアミノ酸1〜149又はアミノ酸1〜185を含む、あるいはそれからなるHBcAgを用いて調製する。
【0124】
本発明はさらに、配列番号1における対応する位置に存在しないシステイン残基が除去された、配列番号1に示されている以外のアミノ酸配列を含む、あるいはそれからなるHBcAgの断片含むワクチン複合体を含む。
【0125】
本発明のワクチン複合体は、種々のHBcAgの混合物を含んでいてよい。したがって、これらのワクチン複合体は、アミノ酸配列が異なっているHBcAgsから構成されていてよい。例えば、「野生型」HBcAgおよび1つ又は複数のアミノ酸残基が変化した(例えば、欠失、挿入又は置換された)修飾HBcAgを含むワクチン複合体を調製することができる。
【0126】
本発明はさらに、非天然分子骨格を、他のタンパク質に融合されたHBcAgを用いて調製するワクチン複合体を含む。上記のように、そのような融合タンパク質の1つの例は、HBcAg/FOS融合体である。本発明のワクチン複合体における使用に適するHBcAg融合タンパク質の他の例としては、HBcAg2量体および多量体の生成及び/又は安定化を促進するアミノ酸が付加された融合タンパク質などがある。この追加のアミノ酸配列は、HBcAgのC末端に融合されていてよい。そのような融合タンパク質の一例は、HBcAg2量体および多量体を調製し、安定化するために用いることができる非共有結合相互作用によりホモ2量体を形成するサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のGCN4らせん領域とHBcAgとの融合である。
【0127】
他の一実施形態において、本発明は、HBcAg又はその断片を含み、C末端に融合されたGCN4ポリペプチド(配列番号5,PAALKRARNEAARRSRARKLQRMKQLEDKVEELLSKNYHLENEVARLKK)を含むHBcAg融合タンパク質を用いて調製したワクチン複合体を提供する。このGCN4ポリペプチドは、HbcAgのN末端に融合されていてもよい。
【0128】
HBcAg/src相同性3(SH3)ドメイン融合タンパク質も本発明のワクチン複合体を調製するのに用いることができよう。SH3ドメインは、タンパク質結合パートナーにおけるプロリンに富む特定の配列と相互作用をする能力を付与する多くのタンパク質に認められる比較的小さいドメインである(McPherson、Cell Signal、第11巻、229〜238頁(1999)を参照)。HBcAg/SH3融合タンパク質は、いくつかの方法で用いることができよう。第1に、SH3ドメインは、アンジオテンシンペプチド部分の第2付着部位と相互作用する第1付着部位を形成することができよう。同様に、プロリンに富むアミノ酸配列は、HBcAgに付加させ、アンジオテンシンペプチド部分のSH3ドメイン第2付着部位に対する第1付着部位として用いることができよう。第2に、SH3ドメインは、HBcAgに導入されたプロリンに富む領域と会合することができよう。したがって、SH3ドメインおよびプロリンに富むSH3相互作用部位は、同じ又は異なるHBcAgsに挿入し、本発明の2量体および多量体を形成し、安定化するために用いることができよう。
【0129】
前記の例によって明らかなように、当業者は、コア粒子および第1付着部位を含む分子骨格をHBcAgおよびHBcAg由来突然変異体からどのようにして形成させるかを知っているであろう。当技術分野で知られている技術と常用の実験の適用により、当業者は他のウイルスを同様に用いて分子骨格を構築する方法を理解するであろう。
【0130】
本明細書の他所に示すように、ウイルスキャプシドは、(1)1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の提示、および(2)本発明のワクチン複合体の調製に用いることができる。特に、本発明の実施に有用なものは、本明細書で「コートタンパク質」とも称する、発現時にキャプシド又はキャプシド様粒子を形成するウイルスキャプシドタンパク質である。したがって、これらのキャプシドタンパク質は、コア粒子および非天然分子骨格を形成することができる。一般的に、これらのキャプシドおよびキャプシド様構造は、抗原決定基の提示および本発明のワクチン複合体の調製に用いることができる規則正しい反復アレイを形成する。
【0131】
1つ又は複数(例えば、1、2、3、4、5等)のアンジオテンシンペプチド部分をいずれかの数の手段により、ウイルスキャプシド又はキャプシド様構造を形成する1つ又は複数(例えば、1、2、3、4、5等)のタンパク質(例えば、バクテリオファージコートタンパク質)ならびに他のタンパク質に付着させることができる。例えば、アンジオテンシンペプチド部分を第1および第2付着部位を用いてコア粒子に付着させることができる。さらに、1つ又は複数(例えば、1、2、3、4、5等)の異種二官能性架橋物質を用いて、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分をウイルスキャプシド又はキャプシド様構造を形成する1つ又は複数のタンパク質に付着させることができる。
【0132】
ウイルスキャプシドタンパク質又はその断片を用いて、例えば、本発明のコア粒子およびワクチン複合体を調製することができる。例えば、Qβコートタンパク質は、組換えにより大腸菌において発現させることができる。さらに、そのような発現により、これらのタンパク質は、ウイルス様粒子であるキャプシドを自発的に形成する。さらに、これらのキャプシドは、アンジオテンシンペプチド部分の提示とワクチン複合体の調製に用いることができる規則正しい反復アレイを形成する。
【0133】
好ましい実施形態において、ウイルス様粒子は、RNAファージの組換えタンパク質又はその断片を含む、それらから本質的になる、あるいはそれらからなっている。好ましくは、RNAファージは、a)バクテリオファージQβ、b)バクテリオファージR17、c)バクテリオファージfr、d)バクテリオファージGA、e)バクテリオファージSP、f)バクテリオファージMS2、g)バクテリオファージM11、h)バクテリオファージMX1、i)バクテリオファージNL95、k)バクテリオファージf2、l)バクテリオファージPP7およびm)バクテリオファージAP205からなる群から選択する。
【0134】
本発明の他の好ましい実施形態において、ウイルス様粒子は、RNAバクテリオファージQβ、又はRNAバクテリオファージfr、又はRNAバクテリオファージAP205の組換えタンパク質又はその断片を含む、あるいはそれらから本質的になる、あるいはそれらからなっている。
【0135】
本発明の複合体を調製するために用いることができるバクテリオファージコートタンパク質の特定の例は、バクテリオファージQβ(Qβ CPについては配列番号3、PIRデータベース受託番号VCBPQβ、およびQβ A1タンパク質については配列番号4、受託番号AAA16663)、バクテリオファージR17(PIR受託番号VCBPR7)、バクテリオファージfr(PIR受託番号VCBPFR)、バクテリオファージGA(GenBank受託番号NP−040754)、バクテリオファージSP(SP CPについてはGenBank受託番号CAA30374、およびSP A1タンパク質については受託番号)、バクテリオファージMS2(PIR受託番号VCBPM2)、バクテリオファージM11(GenBank受託番号AAC06250)、バクテリオファージMX1(GenBank受託番号AAC14699)、バクテリオファージNL95(GenBank受託番号AAC14704)、バクテリオファージf2(GenBank受託番号P03611)、バクテリオファージPP7、バクテリオファージAP205(配列番号12)のようなRNAバクテリオファージのコートタンパク質などである。当業者が認識しているように、キャプシド又はキャプシド様構造を形成するあらゆるタンパク質を本発明のワクチン複合体の調製に用いることができる。さらに、バクテリオファージQβのA1タンパク質(GenBank受託番号AAA16663(配列番号4)又はそのC末端から約100、約150又は約180アミノ酸を欠失しているC末端切形は、Qβコートタンパク質のキャプシドアセンブリに組込むことができる。A1タンパク質は、第2付着部位を含むアンジオテンシンペプチド部分の付着のための、第1付着部位を含む要素に融合することもできる。一般的に、キャプシドアセンブリ中のQβ CPに対するA1タンパク質の割合は、キャプシド形成を保証するために制限する。
【0136】
Qβコートタンパク質も大腸菌中で発現させたとき、キャプシドに自己集合することが見出された(Kozlovska TM.et al.、Gene、第137巻、133〜137頁(1993))。得られたキャプシド又はウイルス様粒子は、直径25nmでT=3の準対称を有する正十二面体ファージ様キャプシド構造を示した。さらに、ファージQβの結晶構造が解明された。キャプシドは、ジスルフィド架橋により共有結合五量体および六量体に連結されている180コピーのコートタンパク質を含む(Golmohammadi R.et al.、Structure、第4巻、543〜5554頁(1996))。他のRNAファージコートタンパク質も細菌宿主中の発現により自己集合することが示された(Kastelein RA,et al.、Gene、第23巻、245〜254頁(1983)、Kozlovskaya TM.et al.、Dokl.Akad.Nauk SSSR、第287巻、452〜455頁(1986)、Adhin MR et al.、Virology、第170巻、238〜242頁(1989)、Ni CZ et al.、Protein Sci.第5巻、2485〜2493頁(1996)、Priano,C.et al.、J.Mol.Biol.第249巻、283〜297頁(1995))。Qβファージキャプシドは、コートタンパク質に加えて、いわゆる読み過しタンパク質A1と成熟タンパク質A2を含む。A1は、UGA停止コドンにおける抑制により生成し、329aaの長さを有する。本発明に用いるファージQβ組換えコートタンパク質のキャプシドは、A2溶解タンパク質が欠けており、宿主からのRNAを含む。RNAファージのコートタンパク質は、RNA結合タンパク質であり、ウイルスの生活環における翻訳レプレッサーとして作用する複製遺伝子のリボソーム結合部位のステムループと相互作用する。相互作用の配列および構造的要素は知られている(Witherell GW.& Uhlenbeck OC.、Biochemistry、第28巻、71〜76頁(1989)、Lim F.et al.、J.Biol.Chem.第271巻、31839〜31845頁(1996))。ステムループおよびRNAは一般にウイルス集合に関与することが知られている(Golmohammadi R.et al.、Structure、第4巻、543〜5554頁(1996))。
【0137】
Stoll E.et al.、J.Biol.Chem.第252巻、990〜993頁(1977)に記載されているように、我々がN末端エドマン配列決定により認めたように、大腸菌中での発現によりQβコートタンパク質のN末端メチオニンが通常除去される。N末端が除去されていないQβコートタンパク質からなるVLP、あるいは、N末端メチオニンが切断された、又は存在するQβコートタンパク質の混合物を含むVLPも本発明の範囲内である。
【0138】
1.本発明のさらなる好ましい実施形態において、ウイルス様粒子は、RNAファージAP205の組換えタンパク質又はその断片を含む、あるいはそれらから本質的になる、あるいはそれらからなっている。
【0139】
2.AP205ゲノムは、関連ファージに存在しない成熟タンパク質、コートタンパク質、レプリカーゼおよび2つの読み取り枠、ならびに成熟遺伝子の翻訳に役割を果たす溶解遺伝子および読み取り枠からなる(Klovins J.et al.、J.Gen.Virol.第83巻、1523〜33頁(2002))。AP205コートタンパク質は、pQb10の誘導体であり(Kozlovska T.M.et al.、Gene、第137巻、133〜37頁(1993))、AP205リボソーム結合部位を含むプラスミドpAP283−58(配列番号11)から発現させることができる。あるいは、AP205コートタンパク質は、ベクターに存在するリボソーム結合部位の下流のpQb185にクローンすることができる。両アプローチにより、発明の名称が「分子抗原アレイ(Molecular Antigen Array)」で、本譲受人が2002年7月17日に出願し、その全部が参照により組込まれ、その特許出願の実施例2に特に記載されている、同時係属米国仮特許出願第60/396126号に記載のようなタンパク質の発現およびキャプシドの形成がもたらされる。ベクターpQb10およびpQb185は、pGEMベクター由来のベクターであり、これらのベクターにおけるクローン化タンパク質の発現は、trpプロモーターにより制御されている(Kozlovska T.M.et al.、Gene、第137巻、133〜37頁(1993))。プラスミドpAP283−58(配列番号11)は、XbaI部位の下流にあり、AP205コートタンパク質のATG開始コドンのすぐ上流にある以下の配列における推定上のAP205リボソーム結合部位を含む。すなわち、tctagaATTTTCTGCGCACCCATCCCGGGTGGCGCCCAAAGTGAGGAAAATCACatg(配列番号33)。ベクターpQb185は、XbaI部位の下流にあり、開始コドンの上流にあるシャインダルガルノ配列を含む(tctagaTTAACCCAACGCGTAGGAG TCAGGCCatg、下線部がシャインダルガルノ配列である,配列番号18)。
【0140】
3.本発明のさらなる好ましい実施形態において、ウイルス様粒子は、RNAファージAP205の組換えコートタンパク質又はその断片を含む、あるいはそれらから本質的になる、あるいはそれらからなっている。
【0141】
4.したがって、本発明のこの好ましい実施形態は、キャプシドを形成するAP205コートタンパク質を含む。そのようなタンパク質は、組換えにより発現させるか、又は天然源から調製する。電子顕微鏡法(EM)および免疫拡散により明らかなように、細菌において産生されるAP205コートタンパク質はキャプシドを自発的に形成する。EMで観察したとき、AP205コートタンパク質(配列番号12)により形成されるキャプシドの構造特性とAP205 RNAファージのコートタンパク質により形成されるものとほぼ区別できない。AP205 VLPは、高度に免疫原性で、抗原及び/又は抗原決定基に結合させて、有する抗原及び/又は抗原決定基の反復性の配向を示すワクチン構成体を生成することができる。結合した抗原及び/又は抗原決定基が抗体分子との相互作用に利用でき、免疫原性であることを示す、そのように提示された抗原に対して高い力価がもたらされる。
【0142】
5.本発明のさらなる好ましい実施形態において、ウイルス様粒子は、RNAファージAP205の組換え突然変異コートタンパク質又はその断片を含む、あるいはそれらから本質的になる、あるいはそれらからなっている。
【0143】
6.アミノ酸5におけるプロリンのトレオニンへの置換を有するAP205コートタンパク質(配列番号13)を含む、AP205 VLPの集合能力のある突然変異型も、本発明の実施に用いることができ、本発明のさらなる好ましい実施形態につながる。これらのVLP、天然源由来のAP205 VLP又はAP205ウイルス粒子は、抗原に結合させて、本発明による抗原の規則正しい反復アレイを生成させることができる。
【0144】
7.AP205 P5−T突然変異コートタンパク質は、pQb185から直接誘導され、Qβコートタンパク質遺伝子の代わりにAP205コートタンパク質遺伝子を含むpAP281−32(配列番号14)から発現させることができる。AP205コートタンパク質の発現のために、AP205コートタンパク質の発現のためのベクターを大腸菌にトランスフェクトする。
【0145】
8.VLPへの自己集合をもたらす、それぞれコートタンパク質および突然変異コートタンパク質を発現させる方法は、発明の名称が「分子抗原アレイ(Molecular Antigen Array)」で、本譲受人が2002年7月17日に出願し、その全部が参照により組込まれる、同時係属米国仮特許出願第60/396126号に記載されている。適切な大腸菌株は、大腸菌K802、JM109、RR1を含むが、これらに限定されない。適切なベクターおよび株ならびにその組合せは、コートタンパク質および突然変異コートタンパク質の発現をそれぞれ試験することにより、SDS−PAGEならびにキャプシド形成および集合により、場合によって最初にゲルろ過によりキャプシドを精製し、次にそれらを免疫拡散検定(オクタロニー試験)又は電子顕微鏡法(Kozlovska T.M.et al.、Gene、第137巻、133〜37頁(1993))により特定することができる。
【0146】
9.ベクターpAP283−58およびpAP281−32から発現させたAP205コートタンパク質は、大腸菌の細胞質中での処理のため、最初のメチオニンアミノ酸を欠いていることがある。AP205 VLPの切断、非切断型又はその混合物は、本発明のさらなる実施形態である。
【0147】
10.本発明のさらなる好ましい実施形態において、ウイルス様粒子は、RNAファージAP205の組換えコートタンパク質又はその断片の混合物、ならびにRNAファージAP205の組換え突然変異コートタンパク質又はその断片を含む、あるいはそれらから本質的になる、あるいはそれらからなっている。
【0148】
11.本発明のさらなる好ましい実施形態において、ウイルス様粒子は、RNAファージAP205の組換えコートタンパク質又は組換え突然変異コートタンパク質を含む、あるいはそれらから本質的になる、あるいはそれらからなっている。
【0149】
12.VLPおよびキャプシドにそれぞれ集合することができる組換えAP205コートタンパク質断片も本発明の実施に有用である。これらの断片は、それぞれコートタンパク質および突然変異コートタンパク質の内部又は末端における欠失により生成させることができる。コートタンパク質および突然変異コートタンパク質配列への挿入又はコートタンパク質および突然変異コートタンパク質配列への抗原配列の融合、およびVLPへの集合との適合性は、本発明のさらなる実施形態であり、それぞれキメラAP205コートタンパク質および粒子につながる。コートタンパク質配列への挿入、欠失および融合の結果ならびにそれがVLPへの集合と適合しているかどうかは、電子顕微鏡法により確認することができる。
【0150】
13.上記のAP205コートタンパク質、コートタンパク質断片およびキメラコートタンパク質により形成された粒子は、発明の名称が「分子抗原アレイ(Molecular Antigen Array)」で、本譲受人が2002年7月16日に出願し、その全部が参照により組込まれる、同時係属米国仮特許出願に記載されているように、沈殿による分画段階と、例えば、セファロースCL−4B、セファロースCL−2B、セファロースCL−6Bカラムおよびその組合せを用いたゲルろ過による精製段階との組合せにより純粋な形で分離することができる。ウイルス様粒子を分離する他の方法が当技術分野で知られており、バクテリオファージAP205のウイルス様粒子(VLP)を分離するために用いることができる。例えば、酵母レトロトランスポゾンTyのVLPを分離するための超遠心分離の使用は、全部が参照により組込まれる米国特許第4,918,166号に記載されている。
【0151】
本発明によれば、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分をRNAファージコートタンパク質のキャプシドのサブユニットに付着させることができる。RNAファージのコートタンパク質のキャプシド、および特にQβキャプシドのサブユニット当たり数個のアンジオテンシンペプチド部分を結合する能力は、高密度のアンジオテンシンペプチド部分アレイの生成を可能にするものである。例えば、その主要免疫優性領域(MIR、国際公開第00/32227号)におけるリシン残基で修飾したHBcAgのような、他のウイルスキャプシドを化学的架橋によるアンジオテンシンペプチド部分の共有結合付着のために用いることができる。HBcAgのスパイク(MIRに対応する)間の距離は、50Åであり(Wynne SA.et al.、Mol.Cell、第3巻、771〜780頁(1999))、したがって、50Åより短い距離を有するアンジオテンシンペプチド部分アレイは生成させることはできない。
【0152】
Qβコートタンパク質のキャプシドは、それらの表面上に、キャプシドの内側に向き、RNAと相互作用する3つのリシン残基と、キャプシドの外側に露出した他の4つのリシン残基を有するという定まったトポロジーを有する定まった数のリシン残基を示す。これらの定まった特性は、アンジオテンシンペプチド部分の粒子の外側への付着に有利であり、リシン残基がRNAと相互作用する内部への付着に有利でない。他のRNAファージコートタンパク質のキャプシドもそれらの表面上の定まった数のリシン残基とこれらのリシン残基の定まったトポロジーを有する。RNAファージ由来のキャプシドの他の利点は、手頃な費用で大量な物質の生産を可能にする細菌におけるそれらの高い発現収率である。
【0153】
Qβコートタンパク質のキャプシド他の特徴は、その安定性である。Qβサブユニットは互いにジスルフィド架橋を介して結合していて、サブユニットが共有結合により連結している。Qβキャプシドタンパク質は、有機溶媒および変性剤に対しても異常な耐性を示す。驚くべきことに、我々は、約30%という高いDMSOおよびアセトニトリル濃度、ならびに約1Mと高いグアニジニウム濃度をキャプシドの安定性又はアンジオテンシンペプチド部分アレイを形成する能力に影響を及ぼさずに用いることができたことを見出した。したがって、これらの有機溶媒を特定のアンジオテンシンペプチド部分のような疎水性分子を結合させるために用いることができる。Qβコートタンパク質のキャプシドの高い安定性は、特に哺乳動物およびヒトの免疫化およびワクチン接種のためのその使用に関して重要な特徴である。キャプシドが有機溶媒に対して耐性を有することより、水性緩衝液中で可溶性でないアンジオテンシンペプチド部分又はその誘導体の結合が可能となる。
【0154】
RNAファージMS−2のコートタンパク質のN末端βヘアピンへのシステイン残基の挿入は、全部が参照により組込まれる米国特許第5,698,424号に記載されている。しかし、我々は、キャプシドにおける露出遊離システイン残基の存在が、ジスルフィド架橋形成によるキャプシドのオリゴマー化をもたらす可能性があることを認めた。上記の米国特許において検討された他の結合は、アンジオテンシンペプチド部分とQβ粒子との間のジスルフィド架橋の形成がある。そのような結合は、スルフヒドリル部分を含む分子に対して不安定である。
【0155】
Qβ上のシステインにより形成された最初のジスルフィド架橋と遊離スルフヒドリル残基を含む抗原との反応により、アンジオテンシンペプチド部分以外のスルフヒドリル含有種が放出される。これらの新たに形成されたスルフヒドリル含有種は、再び、粒子上に存在する他のジスルフィド架橋と反応することができ、それにより平衡を確立する。粒子上の形成されたジスルフィド架橋との反応時に、アンジオテンシンペプチド部分は、粒子からのシステイン残基と、あるいは、粒子上の最初のジスルフィド架橋を形成していた遊離基分子のシステイン残基とジスルフィド架橋を形成する。さらに、1側のQβ粒子上のシステインと、また、他側のアンジオテンシンペプチド部分上のリシン残基と、反応する異種二官能性架橋剤を用いた、記載した他の結合方法は、粒子上のアンジオテンシンペプチド部分のランダム配向をもたらし得る。
【0156】
我々はさらに、QβおよびFrコートタンパク質のキャプシドと異なり、米国特許第5698424号に記載されている組換えMS−2は、本質的に核酸を含まないが、RNAは上記の2つのキャプシドの内部に詰め込まれていることを認めた。
【0157】
我々はここに、新規かつ発明による複合体と、複合体中に可変の密度のアンジオテンシンエピトープを含むアンジオテンシンペプチド部分の頑健なアレイの形成を可能にする複合体を記述する。我々は、アンジオテンシンペプチド部分をVLPに付着させることにより、非常に高いエピトープ密度を達成できることを示す。さらに、アンジオテンシンペプチド部分の密度と間隔は、適切な第1付着部位を有する残基の数と種類を変化させることにより、修正することができる。例えば、2002年1月18日に出願された同時係属米国特許出願第10/050902号は、野生型Qβコートタンパク質で認められるよりも高い密度のアレイを得るのに適した別のリシン残基を有するQβ突然変異コートタンパク質を開示している。さらに、前記出願はまた、適切な間隔を有するいくつかの抗原の同時の提示に適した複合体と、補助的分子の追加が溶解度を増加させ、あるいは適切かつ所望の仕方でキャプシドを修飾する複合体を開示している。ウイルス様粒子であるキャプシドを形成する他のQβコートタンパク質突然変異体が、同時係属米国特許出願第10/050902号に開示されており、本発明の組成物を生成するのに適している。特に、アンジオテンシンペプチド部分およびQβ−アンジオテンシンペプチド抗原アレイの溶解度が、Qβウイルス様粒子に付着させることができるアンジオテンシンペプチド部分の数に制限を課している場合、リシンが、リシン残基と同じ反応性を有さないアルギニンで置換された突然変異体を用いることができる。これらの組成物を調製する場合、高濃度のアンジオテンシンペプチド部分、又は第2付着部位を含むように修飾したアンジオテンシンペプチド部分を用いて、wtQβウイルス様粒子を用いた場合のように、より多数の付着アンジオテンシンペプチド部分を有する潜在的に不溶性粒子を発生させることなく、突然変異Qβウイルス様粒子上のリシン残基における完全な反応を達成することができる。
【0158】
数種のRNAバクテリオファージの結晶構造が決定された(Golmohammadi R.et al.、Structure、第4巻、543〜554頁(1996))。そのような情報を用いて、当業者は容易に、表面露出残基を特定し、1つ又は複数の反応性アミノ酸残基を挿入することができるように、バクテリオファージコートタンパク質を修飾することができよう。したがって、当業者は本発明の実施において用いることができる修飾型のバクテリオファージコートタンパク質を容易に発生させ、同定することができよう。したがって、キャプシド又はキャプシド様構造を形成するタンパク質の変異体(例えば、バクテリオファージQβ、バクテリオファージR17、バクテリオファージfr、バクテリオファージGA、バクテリオファージSP、バクテリオファージMS2のコートタンパク質)も本発明のワクチン複合体を調製するために用いることができる。
【0159】
上で論じた変異タンパク質の配列はそれらの野生型と異なっているが、これらの変異タンパク質は一般的にキャプシド又はキャプシド様構造を形成する能力を保持している。したがって、本発明はさらに、キャプシド又はキャプシド様構造を形成するタンパク質の変異体を含むワクチン複合体、ならびにそのようなワクチン複合体を調製する方法、そのようなワクチン複合体を調製するために用いる個々のタンパク質サブユニットを含む。したがって、規則正しい反復アレイを形成し(例えば、キャプシド又はキャプシド様構造を形成するタンパク質の変異体)、会合して、キャプシド又はキャプシド様構造を形成する能力を保持している野生型タンパク質の変異型が本発明の範囲内に含まれる。通常、C又はN末端切形変異体は、ウイルス様粒子を形成する能力を保持している。その結果、欠失、付加又は置換を含む変異型、キメラ型および天然に存在する変異体は、本発明の適切な構成成分である。
【0160】
細菌線毛およびピリンタンパク質. 他の実施形態において、細菌ピリン、細菌ピリンの下位部分、又は細菌ピリンもしくはその下位部分を含む融合タンパク質を用いて、本発明のワクチン複合体を調製する。ピリンタンパク質の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、カウロバクタークレセンタス(Caulobacter Crescentus)、シュードモナススツツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)により生成されるピリンなどがある。本発明に関する使用に適したピリンタンパク質のアミノ酸配列は、すべての開示が参照により組込まれる、GenBank報告AJ000636、AJ132364、AF229646、AF051814、AF051815およびX00981に記載されているものを含む。
【0161】
細菌ピリンタンパク質は一般的に、細菌ペリプラズムへのタンパク質の輸出の前にN末端リーダー配列を除去するために処理する。さらに、当業者が認識しているように、本発明のワクチン複合体を調製するために用いる細菌ピリンタンパク質は、一般的に天然に存在するリーダー配列を有していない。
【0162】
本発明における使用に適したピリンタンパク質の1つの特定の例は、大腸菌のPピリンである(GenBank報告AF237482)。本発明における使用に適した1型大腸菌ピリンの例は、GenBank報告P04128に記載され、GenBank報告M27603に示されているヌクレオチド配列を有する核酸によりエンコードされるアミノ酸配列(配列番号2)を有するピリンである。これらのGenBank報告のすべての開示は参照により本明細書に組込まれる。再び、上述のタンパク質の成熟型は、一般的に本発明のワクチン複合体を調製するために使用されよう。
【0163】
本発明の実施における使用に適した細菌ピリン又はピリン下位部分は、一般的に会合して、非天然分子骨格を形成することができる。in vitroで線毛および線毛様構造を調製する方法は、当技術分野で知られている。例えば、Bullitt et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第93巻、12890〜12895頁(1996)に、大腸菌P線毛サブユニットのin vitro再構成が記載されている。さらに、Eshdatら(J.Bacteriol.第148巻、308〜314頁(1981))は、大腸菌の1型線毛を解離させるのに適した方法と線毛の再構成を記載している。概要を示すと、これらの方法は次のとおりである。線毛を飽和塩酸グアニジン中で37℃でインキュベートして解離させる。次いで、ピリンタンパク質をクロマトグラフィーにより精製し、その後、5mM塩酸トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH8.0)に対して透析して、ピリン2量体を形成させる。Eshdatらは、5mM MgClを含む5mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(pH8.0)に対して透析することにより、ピリン2量体が再集合して、線毛を形成することも見出した。
【0164】
さらに、例えば、従来の遺伝子工学とタンパク質修飾法を用いて、アンジオテンシンペプチド部分が第2付着部位を介して結合する第1付着部位を含むようにピリンタンパク質を修飾することができる。あるいは、アンジオテンシンペプチド部分は、これらのタンパク質に天然で常在するアミノ酸残基に第2付着部位を介して直接結合することができる。これらの修飾ピリンタンパク質は、本発明の免疫化複合体に用いることができる。
【0165】
本発明の複合体を調製するために用いる細菌ピリンタンパク質は、HBcAgについて本明細書で記載したの同様に修飾することができる。例えば、システインおよびリシン残基を欠失させるか、又は他のアミノ酸残基で置換し、第1付着部位をこれらのタンパク質に付加することができる。さらに、ピリンタンパク質は、修飾された形態で発現させるか、あるいは、発現後に化学的に修飾することもできる。同様に、完全なピリンを細菌から収集し、次いで、化学的に修飾することができる。
【0166】
他の実施形態において、線毛又は線毛様構造を細菌(例えば、大腸菌)から収集して、本発明のワクチン複合体を形成するために用いる。ワクチン複合体の調製に適した線毛の一例は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するピリン単量体から形成される大腸菌の1型線毛である。
【0167】
細菌線毛を収集する多くの方法が当技術分野で知られている。例えば、BullittおよびMakowski(Biophys.J.第74巻、623〜632頁(1998))は、大腸菌からP線毛を収集するための線毛精製法を記載している。この方法によれば、線毛をP線毛プラスミドを含む高線毛大腸菌から採取し、可溶化とMgCl(1.0M)沈殿のサイクルにより精製する。2002年1月18日に出願された同時係属米国出願第10/050902号は、天然で線毛を生産する、又は線毛生産を担っているfimオペロンをエンコードするベクターが導入された細菌からのI型線毛の収集と精製を開示している。
【0168】
収集されたならば、線毛および線毛様構造は、様々な方法で修飾することができる。例えば、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分を第2付着部位を介して付着させることができる、第1付着部位を線毛に付加することができる。言い換えれば、細菌線毛および線毛様構造を収集し、修飾して、非天然分子骨格を形成させることができる。
【0169】
線毛および線毛様構造はまた、非天然第1付着部位が存在しない場合に、アンジオテンシンペプチド部分の付着によっても修飾することができる。例えば、抗原又は抗原決定基を天然に存在するシステイン残基又はリシン残基に結合させることができよう。そのような例において、天然に存在するアミノ酸の高い秩序と反復性が、線毛および線毛様構造へのアンジオテンシンペプチド部分の結合のガイドとなるであろう。例えば、線毛および線毛様構造を、アンジオテンシンペプチド部分の第2付着部位に異種二官能性架橋物質を用いて結合させることができるであろう。
【0170】
生物により天然で合成される構造(例えば、線毛)を用いて本発明のワクチン複合体を調製する場合、所望の特性を有する構造を生産するようにこれらの生物を遺伝子工学的に処理することがしばしば有利である。例えば、大腸菌の1型線毛を用いる場合、これらの線毛を収集する大腸菌を、特定の特性を有する構造を生産するように変異させることができる。ピリンタンパク質の可能な修飾の例は、1つ又は複数のリシン残基の挿入、1つ又は複数の天然に常在するリシン残基の欠失又は置換、および1つ又は複数の天然に常在するシステイン残基(配列番号2における位置44および84におけるシステイン残基)の欠失又は置換などである。
【0171】
さらに、リシン残基以外の第1付着部位(例えば、FOS又はJUNドメイン)を含む発現産物をもたらす付加的修飾をピリン遺伝子に対して行うことができる。もちろん、適切な第1付着部位は一般的に、ピリンタンパク質が本発明のワクチン複合体における使用に適する線毛および線毛様構造を形成することを妨げないものに限定される。組換えピリンタンパク質が線毛を形成する能力は、電子顕微鏡法を含む多くの方法により測定することができる。
【0172】
細菌細胞に天然で常在するピリン遺伝子をin vivoで修飾することができ(例えば、相同的組換えにより)、あるいは、特定の特性を有するピリン遺伝子をこれらの細胞に挿入することができる。例えば、ピリン遺伝子を複製性クローニングベクター又は細菌染色体に挿入するベクターの成分として細菌細胞に導入することができよう。挿入されたピリン遺伝子は、発現調節制御配列(例えば、lacオペレーター)に連結させることもできる。
【0173】
ほとんどの場合に、本発明のワクチン複合体に用いる線毛および線毛様構造は、単一の種類のピリンサブユニットから構成されるであろう。しかし、本発明の複合体には、異種ピリンサブユニットから形成される線毛および線毛様構造を含むワクチンも含まれる。同じサブユニットからなる線毛および線毛様構が一般的に使用されるであろう。その理由は、それらは高度に規則正しい反復抗原アレイを示す構造を形成すると予想されるためである。
【0174】
第2付着部位 高いエピトープ密度を有するRNAファージコートタンパク質のキャプシドの複合体を含む、規則正しい反復アレイを有する分子骨格の調製が本発明により提供される。当業者により理解されるように、アンジオテンシンペプチド部分の性質、その部分における第2付着部位の性質と位置は、本発明の複合体を構築するために利用可能な手段、および免疫応答を誘導することに関するそれらの複合体の有効性に影響を及ぼす可能性がある重要な因子である。
【0175】
第2付着部位を設計するための必要条件は、それを融合し、挿入又は遺伝子工学的に処理する、又は結合する位置を選択することである。当業者は、第2付着部位の位置の選択の指針となるものをどのようにして見出すのか、そしてこのような決定に関連する多くの因子を考慮することを知っているであろう。アンジオテンシンペプチド部分の化学及び/又は結晶構造は、結合に適する分子上のドメインの利用可能性に関する情報を提供する可能性がある。反応性ドメインの溶媒への接触可能性は、第1結合部位への化学的結合の速度論における制限因子となることがある。スルフヒドリル残基のような、結合に適する基が利用可能でなければならない。一般的に、アンジオテンシンパプチド部分による免疫化が、基質又は受容体のようなその天然リガンドを有する自己抗原でもあるアンジオテンシンパプチド部分の相互作用を阻害することを目的とする場合、第2付着部位は、天然リガンドとの相互作用の部位に対する抗体の生成を可能にするように付加させる。したがって、第2付着部位の位置は、第2付着部位又はそれを含むアミノ酸リンカーによる立体障害を避けるように選択する。さらなる実施形態において、抗原のその天然リガンドとの相互作用部位と異なる部位において誘導された抗体反応が望ましい。そのような実施形態において、第2付着部位は、それが抗原のその天然リガンドとの相互作用部位に対する抗体の生成を妨げるように選択することができる。考慮すべき他の因子は、アンジオテンシンパプチド部分の性質、pIのようなその生化学的特性、電荷分布、さらなる修飾などである。一般的に、可変リンカーが好ましい。
【0176】
第2付着部位の位置の選択における他の基準は、アンジオテンシンパプチド部分のオリゴマー化の程度、オリゴマー化の部位、補因子の存在、ならびにアンジオテンシンパプチド部分の修飾が機能部分と、又は部分を認識し、好ましくはアンジオテンシンパプチド部分の機能を阻害する抗体の生成と適合する部分の構造における部位および配列を明らかにする実験的証拠の入手可能性などである。特定の実施形態において、特に、本発明によりウイルス様粒子へのアンジオテンシンパプチド部分の配向した規則正しい結合を確保するために、1つ又は複数の別のアミノ酸(天然に存在しない第2付着部位につながる)をアンジオテンシンパプチド部分配列のC又はN末端に付加する。
【0177】
ポリペプチド抗原をVLPおよび特に、RNAファージコートタンパク質のキャプシドに付着させる特に好ましい方法は、RNAファージコートタンパク質のキャプシドの表面のリシン残基を抗原上のシステイン残基に認められるようなスルフヒドリル基とを結合させることである。同様に、アンジオテンシンペプチド部分上の遊離スルフヒドリル基も有効な付着部位である。第2付着部位として酸化スルフヒドリル基を機能させるために還元しなければならない場合、還元は、例えば、DTT、TCEP又はβ−メルカプトエタノールを用いて実現できる。
【0178】
本発明によれば、RNAファージコートタンパク質のキャプシド上のエピトープ密度は、架橋物質の選択および他の反応条件により調節することができる。例えば、架橋物質Sulfo−GMBSおよびSMPHは、高いエピトープ密度を達成することを可能にする。誘導体化は高濃度の反応体による正の影響を受けるので、反応条件の操作を用いてRNAファージキャプシドタンパク質および特に、Qβキャプシドタンパク質に結合する抗原の数を調節することができる。さらに、コア粒子上の第1付着部位の数は、アンジオテンシンペプチド部分アレイの密度に影響を及ぼす他の因子である。本発明の一実施形態において、我々はより高密度のアレイを得るのに適した付加的リシン残基を有するQβ突然変異体コートタンパク質を提供する。
【0179】
最も好ましい実施形態において、アンジオテンシンペプチド部分は、それぞれコア粒子上の第1付着部位およびVLPs又はVLPサブユニットと会合することができる単一第2付着部位又は単一反応性付着部位を含む。これは、少なくとも1つ、しかし一般的には複数、好ましくは10、20、40、80、120個の抗原のそれぞれコア粒子およびVLPへのそれぞれ明確かつ均一な結合および会合を保証する。したがって、抗原上の単一第2付着部位又は単一反応性付着部位の供給は、それぞれ非常に高度に規則正しい反復アレイにつながる単一かつ均一なタイプの結合および会合を保証する。例えば、結合および会合がそれぞれリシン(第1付着部位としての)およびシステイン(第2付着部位としての)相互作用による影響を受ける場合、本発明のこの好ましい実施形態により、抗原当たり1つのシステイン残基が、このシステイン残基が抗原上に天然で存在するか、あるいは天然で存在しないかにかかわりなく、それぞれVLPおよびコア粒子の第1付着部位とそれぞれ結合および会合することができることが保証される。
【0180】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、共有結合は非ペプチド結合である。
【0181】
いくつかの実施形態において、抗原上の第2付着部位の工学的処理は、本発明の開示による第2付着部位として適したアミノ酸を含むアミノ酸リンカーの融合を必要とする。したがって、本発明の好ましい実施形態において、アミノ酸リンカーを少なくとも1つの共有結合により抗原又は抗原決定基に結合させる。好ましくは、アミノ酸リンカーは、第2付着部位を含む、あるいはそれからなっている。さらなる好ましい実施形態において、アミノ酸リンカーは、スルフヒドリル基又はシステイン残基を含む。他の好ましい実施形態において、アミノ酸リンカーはシステインである。アミノ酸リンカーの選択のいくつかの基準ならびに本発明によるアミノ酸リンカーのさらなる好ましい実施形態は、既に上で述べた。
【0182】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、少なくとも1つの抗原又は抗原決定基、すなわち、PrPタンパク質、PrPペプチド又はPrPドメインをそれぞれコア粒子およびウイルス様粒子に融合させる。上で略述したように、VLPは、一般的に、VLPに集合する少なくとも1つのサブユニットからなる。したがって、再び本発明のさらなる好ましい実施形態において、抗原又は抗原決定基、好ましくは、少なくとも1つのアンジオテンシンペプチド部分を、ウイルス様粒子又はVLPに組込むことができるタンパク質の少なくとも1つのサブユニットに融合して、キメラVLPサブユニット−アンジオテンシンペプチド部分融合体を生成させる。
【0183】
アンジオテンシンペプチド部分の融合は、VLPサブユニット配列への挿入により、又はVLPサブユニットもしくはVLPに組込むことができるタンパク質のN又はC末端への融合により行うことができる。以後、VLPサブユニットへのペプチドの融合タンパク質に言及する場合、サブユニット配列のいずれかの末端への融合又はサブユニット配列内のペプチドの内部挿入が含まれる。
【0184】
融合は、さらに切形突然変異体と称されているサブユニット配列の一部が欠失したVLPサブユニットの変異体へのアンジオテンシンペプチド部分配列の挿入によっても行うことができる。切形突然変異体は、NもしくはC末端、又はVLPサブユニットの配列の一部の内部の欠失を有していてよい。例えば、例えばアミノ酸残基79〜81の欠失を有する特定のVLP HBcAgは、内部欠失を有する切形突然変異体である。切形突然変異体VLPサブユニットのNもしくはC末端へのアンジオテンシンペプチド部分の融合も本発明の実施形態につながる。同様に、VLPサブユニットの配列へのエピトープの融合は、置換によっても行うことができ、例えば、特定のVLP HBcAgの場合には、アミノ酸残基79〜81が外来エピトープで置換されている。したがって、本明細書で以後に記載するとき、融合は、VLPサブユニットへのアンジオテンシンペプチド部分配列の挿入により、VLPサブユニットの配列の一部のアンジオテンシンペプチド部分配列による置換により、あるいは、欠失、置換又は挿入により行うことができる。
【0185】
キメラアンジオテンシンペプチド部分−VLPサブユニットは、一般的にVLPに自己集合することができる。それらのサブユニットに融合されているVLP提示エピトープも、本明細書ではキメラVLPと称する。示したように、ウイルス様粒子は、少なくとも1つのVLPサブユニットを含むか、あるいはそれにより構成されている。本発明のさらなる実施形態において、ウイルス様粒子は、キメラVLPサブユニットと非キメラVLPサブユニット、すなわちそれに融合した抗原を有さないVLPサブユニットとの混合物(いわゆるモザイク粒子につながる)を含むか、あるいはそれにより構成されている。これは、VLPの形成およびそれへの集合を確保するために有利であると思われる。それらの実施形態において、キメラVLPサブユニットの割合は、1、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95%又はより高い値であってよい。
【0186】
フランキングアミノ酸残基は、VLPのサブユニットの配列のいずれかの末端に融合させるためにペプチド又はエピトープの配列のいずれかの末端、あるいはVLPのサブユニットの配列へのそのようなペプチド配列の内部挿入のために加えることができる。グリシンおよびセリン残基は、融合するアンジオテンシンペプチド部分に加えるフランキング配列に用いられる特に好ましいアミノ酸である。グリシン残基は、VLPのサブユニットの配列への外来配列の融合の潜在的不安定化効果を低減させるような付加的柔軟性を与える。
【0187】
本発明の特定の実施形態において、VLPはB型肝炎コア抗原VLPである。HBcAgのN末端への融合タンパク質(Neyrinck S.et al.、Nature Med.第5巻、1157〜1163頁(1999)又はいわゆる主要免疫優性領域(MIR)への挿入が記載され(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001))、国際公開第01/98333号)、これらは本発明の好ましい実施形態である。MIRの欠失を有するHBcAgの天然に存在する変異体も記載され(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001)、これは参照により全部が特に組込まれる)、N又はC末端への融合ならびにwt HBcAgと比較した欠失に対応するMIRの位置への挿入は本発明のさらなる実施形態である。C末端への融合も記載された(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001))。当業者は古典的分子生物学技術を用いて融合タンパク質を構築する方法に関する手引きを容易に見出すであろう(Sambrook J.et al.編、Molecular Cloning,A Laboratory Manual、第2版、コールド スプリング ハーバー 研究所出版、コールド スプリング ハーバー、ニューヨーク(1989)、Ho et al.、Gene、第77巻、51頁(1989))。HBcAgおよびHBcAg融合タンパク質をエンコードし、HBcAgおよびHBcAg融合タンパク質の発現に有用なベクターおよびプラスミドが記載され(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001)、Neyrinck S.et al.、Nature Med.第5巻、1157〜1163頁(1999))、これらは、本発明の実施において用いることができる。我々はまた、実施例(実施例6)により、キメラ自己集合HBcAgをもたらす、HBcAgのMIRへのエピトープの挿入を述べる。自己集合の効率およびHBcAgのMIRに挿入するエピトープの提示の最適化における重要な因子は、挿入部位の選択ならびに挿入時にMIR内のHBcAg配列から除去するアミノ酸の数(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001)、欧州特許第421635号、米国特許第6231864号)、すなわち、言い換えれば、HBcAgを形成するアミノ酸が新しいエピトープで置換される数である。例えば、HBcAgアミノ酸76〜80、79〜81、79〜80、75〜85又は80〜81の外来エピトープによる置換が記載された(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001)、欧州特許第421635号、米国特許第6231864号)。HBcAgは、長いアルギニン尾部を含み(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001))、これは、キャプシド集合に重要なものでなく、核酸に結合することができる(Pumpens P.and Grens E.、Intervirology、第44巻、98〜114頁(2001))。このアルギニン尾部を含む、又は欠くHBcAgは、本発明の両実施形態である。
【0188】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、VLPは、RNAファージのVLPである。RNAファージの主要コートタンパク質は、細菌、特に大腸菌における発現時にVLPに自発的に集合する。本発明の組成物を調製するのに用いることができるバクテリオファージコートタンパク質の特定の例としては、バクテリオファージQβのようなRNAバクテリオファージのコートタンパク質(Qβ CPについては配列番号3、PIRデータベース受託番号VCBPQβ、およびQβ A1タンパク質については配列番号4、受託番号AAA16663)およびバクテリオファージfr(配列番号32、PIR受託番号VCBPFR)などがある。
【0189】
より好ましい実施形態において、少なくとも1つのアンジオテンシンペプチド部分がQβコートタンパク質に融合されている。エピトープがQβの切形のA1タンパク質のC末端に融合又はA1タンパク質内に挿入された融合タンパク質構成体が記載された(Kozlovska T.M.et al.、Interviroligy、第39巻、9〜15頁(1996))。A1タンパク質は、UGA停止コドンにおいて抑制されることによって生成し、329aa、又は、N末端メチオニンの切断を考慮に入れた場合、328aaの長さを有する。アラニン(Qβ CP遺伝子によりエンコードされる第2アミノ酸)の前のN末端メチオニンの切断は通常、大腸菌において起こり、Qβコートタンパク質CPのN末端について当てはまる。A1遺伝子の一部であるUGAアンバーコドンの3’は、195アミノ酸の長さを有するCPエクステンションをエンコードする。CPエクステンションの位置72と73との間への少なくとも1つのアンジオテンシンペプチド部分の挿入は、本発明のさらなる実施形態につながる(Kozlovska T.M.et al.、Interviroligy、第39巻、9〜15頁(1996))。C末端において切断されたQβ A1タンパク質のC末端におけるアンジオテンシンペプチド部分の融合は、本発明のさらなる好ましい実施形態につながる。例えば、Kozlovskaら(Interviroligy、第39巻、9〜15頁(1996))は、エピトープが、位置19において切断されたQβ CPエクステンションのC末端に融合されているQβ A1タンパク質融合を記載している。
【0190】
Kozlovskaら(Interviroligy、第39巻、9〜15頁(1996))によって記載されたように、融合エピトープを提示する粒子の集合には一般的に、モザイク粒子を形成するための、A1タンパク質−アンジオテンシンペプチド部分融合体とwt CPとの存在を必要とする。しかし、ウイルス様粒子、およびそれに融合された少なくとも1つのアンジオテンシンペプチド部分を有するVLPサブユニットからもっぱら構成されている、それによる特に、RNAファージQβコートタンパク質のVLPを含む実施形態も本発明の範囲内にある。
【0191】
モザイク粒子の生産は、多くの方法により行うことができる。Kozlovskaら(Interviroligy、第39巻、9〜15頁(1996))は、両方とも本発明の実施において用いることができる2つの方法を記載している。第1のアプローチでは、VLP上の融合エピトープの効率のよい提示は、UGAコドンのTrp(pISM3001)プラスミドへの翻訳をもたらすクローン化UGAサプレッサーtRNAをエンコードするプラスミドを有する大腸菌株におけるCPとCPエクステンションとの間にUGA停止コドンを有するQβ A1タンパク質融合をエンコードするプラスミドの発現によって媒介される(Smiley B.K.et al.、Gene、第134巻、33〜40頁(1993))。他のアプローチでは、CP遺伝子停止コドンをUAAに修飾し、A1タンパク質−アンジオテンシンペプチド部分融合体を発現する第2のプラスミドを同時形質転換する。第2のプラスミドは、異なる抗生物質耐性をエンコードし、複製起点は第1のプラスミドと両立する(Kozlovska T.M.et al.、Interviroligy、第39巻、9〜15頁(1996))。第3のアプローチでは、CPおよびA1タンパク質−アンジオテンシンペプチド部分融合体は、Kozlovska T.M.et al.、Interviroligy、第39巻、9〜15頁(1996)の図1に記述されているように、Trpプロモーターのようなプロモーターに実働できるように連結されて、2シストロン的にエンコードされる。
【0192】
さらなる実施形態において、アンジオテンシンペプチド部分をアミノ酸2と3との間(切断CPの番号付け、すなわち、N末端メチオニンが切断されている場合)に挿入し、それによりアンジオテンシンペプチド部分−fr CP融合タンパク質を生成させる。VLPに自己集合し、本発明の実施に有用であるfr CP融合タンパク質の構築と発現のためのベクターおよび発現系が記載された(Pushko P.et al.、Prot.Eng.第6巻、883〜891頁(1993))。特定の実施形態において、アンジオテンシンペプチド部分を、fr CPの残基3および4が欠失した、fr CPの欠失変異体のアミノ酸2の後に挿入する(Pushko P.et al.、Prot.Eng.第6巻、883〜891頁(1993))。
【0193】
RNAファージMS−2のコートタンパク質のN末端突出βヘアピンにおけるエピトープの融合と、RNAファージMS−2の自己集合VLP上の融合エピトープのそのごの提示も記載されており(国際公開第92/131081号)、MS−2 RNAファージのコートタンパク質への挿入又は置換によるアンジオテンシンペプチド部分の融合も本発明の範囲に入る。
【0194】
本発明の他の実施例において、アンジオテンシンペプチド部分を乳頭腫ウイルスのキャプシドタンパク質に融合させる。より特定的実施形態において、アンジオテンシンペプチド部分をウシ1型乳頭腫ウイルス(BPV−1)の主要キャプシドタンパク質L1に融合させる。バキュロウイルス/昆虫細胞系におけるBPV−1融合タンパク質の構築および発現のためのベクターと発現系が記載された(Chackerian B.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第96巻、2373〜2378頁(1999)、国際公開第00/23955号)。BPV−1 L1のアミノ酸130〜136のアンジオテンシンペプチド部分による置換により、本発明の好ましい実施形態であるBPV−1 L1−アンジオテンシンペプチド部分融合タンパク質が得られる。バキュロウイルスにおけるクローニングとバキュロウイルス感染Sf9細胞における発現が記載され、本発明の実施において用いることができる(Chackerian B.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第96巻、2373〜2378頁(1999)、国際公開第00/23955号)。融合アンジオテンシンペプチド部分を提示する集合粒子の精製は、例えば、ゲルろ過又はショ糖密度勾配遠心分離のような多くの方法により実施することができる(Chackerian B.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第96巻、2373〜2378頁(1999)、国際公開第00/23955号)。
【0195】
本発明のさらなる実施形態において、アンジオテンシンペプチド部分を、Ty VLPに組込むことができるTyタンパク質に融合させる。より特定的実施形態において、アンジオテンシンペプチド部分をTYA遺伝子によりエンコードされるp1又はキャプシドタンパク質に融合させる(Roth J.F.、Yeast、第16巻、785〜795頁(2000))。酵母レトロトランスポゾンTy1、2、3および4はサッカロミセスセレビシエ(Saccharomyces serevisiae)から分離され、一方、レトロトランスポゾンTf1はシゾサッカロミセスポムベ(Schizosaccharomyces Pombae)から分離された(Boeke J.D.and Sandmeyer S.B.、「Yeast Transposable elements」、in The moleucular and Cellular Biology of the Yeast Saccharomyces: Genome dynamics、Protein Synthesis and Energetics.、193頁、コールド スプリング ハーバー 研究所出版(1991))。レトロトランスポゾンTy1および2は植物および動物要素のコピアクラスに属しているが、Ty3は、植物および動物レトロウイルスに関連するレトロトランスポゾンのジプシーファミリーに属している。Ty1レトロトランスポゾンにおいては、Gag又はキャプシドタンパク質とも称されるp1タンパク質は、440アミノ酸の長さを有する。p1は、位置408におけるVLPの突然変異時に切断されて、VLPの必須成分であるp2タンパク質となる。
【0196】
p1との融合タンパク質および酵母における前記融合タンパク質の発現のためのベクターが記載された(Adams S.E.et al.、Nature、第329巻、68〜70頁(1987))。したがって、例えば、アンジオテンシンペプチド部分をコードする配列をpMA5620プラスミドのBamH1部位に挿入することによって、アンジオテンシンペプチド部分をp1に融合させることができる(Adams S.E.et al.、Nature、第329巻、68〜70頁(1987))。外来エピトープをコードする配列をpMA5620ベクターにクローニングすることにより、外来エピトープのN末端にC末端が融合したTy1−15のp1のアミノ酸1〜381を含む融合タンパク質の発現がもたらされる。同様に、アンジオテンシンペプチド部分のN末端融合、又はp1配列への内部挿入、又はp1配列の一部の置換も、本発明の範囲内に入るものである。特に、Tyタンパク質p1のアミノ酸30〜31、67〜68、113〜114および132〜133の間のTy配列へのアンジオテンシンペプチド部分の挿入(欧州特許第0677111号)は、本発明の好ましい実施形態につながる。
【0197】
アンジオテンシンペプチド部分の融合に適するさらなるVLPは、例えば、レトロウイルス様粒子(国際公開第9630523号)、HIV2 Gag(Kang Y.C.et al.、Biol.Chem.第380巻、353〜364頁(1999))、Cowpeaモザイクウイルス(Taylor K.M.et al.、Biol.Chem.第380巻、387〜392頁(1999))、パルボウイルスVP2 VLP(Rueda P.et al.、Virology、第263巻、89〜99頁(1999))、HBsAg(米国特許第4722840号、欧州特許第0020416B1号)である。
【0198】
本発明の実施に適するキメラVLPの例もIntervirology、第39巻、1頁(1996)に記載されている。本発明における使用が考えられるVLPのさらなる例は、HPV−1、HPV−6、HPV−11、HPV−16、HPV−18、HPV−33、HPV−45、CRPV、COPV、HIV GAG、タバコモザイクウイルスである。SV−40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ロタウイルスおよびノーウォークウイルスのウイルス様粒子も調製されており、これらのVLPのキメラVLPも本発明の範囲内にある。
【0199】
架橋.アンジオテンシンペプチド部分をコア粒子に結合させる方法は、当業者の実際的知識の範囲内に十分含まれており、当業者向けの多数の参考文献が存在する(例えば、すべてが参照により本明細書に組込まれるSambrook J.et al.編、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第2版、コールド スプリング ハーバー 研究所出版、コールド スプリング ハーバー、ニューヨーク(1989)、Ausubel F.et al.編、Current Protocols in Molecular Biology、John H.Wiley & Sons,Inc.(1997)、Celis J.編、Cell Biology、Academic Press、第2版(1998))、Harlow E.and Lane D.「Antibodies:A Laboratory Manual」、コールド スプリング ハーバー研究所、コールド スプリング ハーバー、ニューヨーク(1988))。
【0200】
コア粒子とアンジオテンシンペプチド部分との間の会合を実現する種々の方法が本明細書に記載されており、また、2002年1月18日に出願された同時係属米国出願第10/050902号(その全部が参照により本明細書に組込まれる)にさらに記載されている。これらの方法では、JUNおよびFOSロイシンジッパータンパク質ドメインをそれぞれ本発明の第1および第2付着部位に用いることが含まれる。
【0201】
本発明の好ましい実施形態は、アンジオテンシンペプチド部分に非天然分子骨格を化学的架橋により結合させることを含む。誘導体化分子、例えば、アンジオテンシンペプチド部分へのタンパク質/ペプチドの架橋又はタンパク質の結合を促進するために開発された広範囲の化合物が存在する。これらは、当業者に知られている、カルボン酸由来活性エステル(活性化化合物)、混合アルデヒド、ハロゲン化アシル、アシルアジド、ハロゲン化アルキル、N−マレイミド、イミノエステル、イソシアナートおよびイソチオシアナートを含むが、これらに限定されない。これらは、タンパク質分子の反応性基と共有結合を形成することができる。活性化される基によって、反応性基は、反応したとき、アミド、アミン、チオエーテル、アミジン尿素又はチオ尿素結合の形成をもたらすタンパク質上のリシン残基のアミノ基、又は担体タンパク質もしくは修飾担体タンパク質分子におけるチオール基である。当業者は、例えば、Chemistry of Protein Conjugation and Cross−Linking(Wong、CRC Press,Inc.、ボカラトン、フロリダ(1991))のような一般参考教科書においてさらなる適切な活性化基を特定することができる。ほとんどの試薬は、リシン側鎖基と選択的に反応する。
【0202】
いくつかの実施形態において、異種二官能性架橋物質を用いて、アンジオテンシンペプチド部分を化学的架橋によりコア粒子に付着させる。いくつかの異種二官能性架橋物質が当技術分野で知られている。一実施形態において、異種二官能性架橋物質は、コア粒子のリシン残基の側鎖アミノ基と反応することができる官能基、ならびに、還元により反応に利用可能な、あるいはアンジオテンシンペプチド部分上で工学的に処理された、又は場合によって還元により反応に利用可能な、存在するシステイン残基もしくはスルフヒドリル基と反応することができる官能基を含む。手順の第1段階は、誘導体化と呼ばれる、コア粒子と架橋物質との反応である。この反応の生成物は、活性化担体とも呼ばれている、活性化コア粒子である。第2段階では、ゲルろ過や透析のような通常の方法を用いて、未反応架橋物質を除去する。第3段階では、抗原(例えば、アンジオテンシンペプチド部分)を活性化コア粒子と反応させる。この段階は、結合段階と呼ばれる。未反応抗原は、場合によって、第4段階で除去してもよい。
【0203】
別の実施形態において、第1付着部位との架橋に適する活性部分を有するアンジオテンシンペプチド部分を誘導体化し、活性化アンジオテンシンペプチド部分を生成させる。そのような誘導体化は、分離アンジオテンシンペプチド部分で、又は化学合成により起こり得る。次いで、結合が起こるように、活性化アンジオテンシンペプチド部分をコア粒子と反応させる。
【0204】
数種の二官能性架橋物質が当技術分野で知られている。これらは、架橋物質SMPH(Pierce)、Sulfo−MBS、Sulfo−EMCS、Sulfo−GMBS、Sulfo−SIAB、Sulfo−SMPB、Sulfo−SMCC、SVSB、SIAおよび例えば、Pierce Chemical Company(ロックフォード、イリノイ、アメリカ合衆国)から入手可能で、アミノ酸に対して反応性の1つの官能基とSH残基に対して反応性の1つの官能基を有する他の架橋物質である。上記の架橋物質はすべて、チオエーテル結合の形成をもたらす。本発明の実施に適する他のクラスの架橋物質は、結合時にアンジオテンシンペプチド部分とコア粒子との間へのジスルフィド結合の導入を特徴とする。このクラスに属する架橋物質は、例えば、SPDPおよびSulfo−LC−SPDP(Pierce)などである。架橋物質によるコア粒子の誘導体化の程度は、有機化学の分野における反応理論からよく知られているように、反応パートナーのそれぞれの濃度、1つの試薬の他の試薬に対する過剰の程度、pH、温度およびイオン強度のような様々な実験条件による影響を受ける可能性がある。結合の程度、すなわち、担体当たりのアンジオテンシンペプチド部分の量は、上記の実験条件を変化させることにより、ワクチンの要件に適合させることができる。アンジオテンシンペプチド部分の溶解性が各サブユニットに結合させることができる抗原の量に制限を課すことがあり、得られるワクチンが不溶性である場合、サブユニット当たりの抗原の量を減少させることが有利である。
【0205】
1つの特定の実施形態において、化学物質は、(1)アミノ基と反応性のスクシンイミド基および(2)SH基と反応性のマレイミド基を含む、異種二官能性架橋物質であるε−マレイミドカプロン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルである(Tanimori et al.、J.Pharm.Dyn.第4巻、812頁(1981)、Fujiwara et al.、J.Immunol.Meth.第45巻、195頁(1981))。第1付着部位の異種タンパク質又はポリペプチドは、異種二官能性架橋物質のスクシンイミド部分に対する反応性部分として機能する1つ又は複数のリシン残基を含むように工学的に処理することができる。異種タンパク質のリシン残基に化学的に結合させたならば、異種二官能性架橋物質のマレイミド基は、抗原又は抗原決定基上のシステイン残基のSH基との反応に利用可能となる。このような例における抗原又は抗原決定基は、非天然分子骨格の第1付着部位に結合した架橋物質上の遊離マレイミド基と反応することができるように、第2付着部位としてのスルフヒドリル残基の工学的処理を必要とする。したがって、そのような例においては、異種二官能性架橋物質は、非天然分子骨格の第1付着部位に結合し、その骨格をアンジオテンシンペプチド部分の第2付着部位に連結する。
【0206】
アンジオテンシンペプチド部分をコア粒子に結合させる他の方法としては、アンジオテンシンペプチド部分をカルボジイミド結合を用いてコア粒子に架橋させる方法がある。これらは、カルボジイミドEDC(塩酸1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド)およびNHSを含む。1つの方法において、EDCを、遊離カルボン酸、アミノ又はアミド部分を含むアンジオテンシンペプチド部分と混合し、次いで、タンパク質担体に加える。他の方法において、グルタルアルデヒド、DSG、BM[PEO]、BS(Pierce Chemical Company、ロックフォード、イリノイ、アメリカ合衆国)のような同種二官能性架橋物質又はコア粒子のアミノ基又はカルボキシル基に対して反応性の官能基を有する他の既知の同種二官能性架橋物質を用いて、アンジオテンシンペプチド部分をコア粒子に結合させる。
【0207】
ハプテンをそれぞれコア粒子およびウイルス様粒子に付着させるのに適する別の架橋法および架橋物質、ならびに、カップリング反応の実施および化学架橋物質の使用および化学的架橋法に関する手引きは、Hermanson G.T.、in Bioconjugate Techniques、Academic Press Inc.、サン ディエゴ、カリフォルニア、アメリカ合衆国に見出すことができる。
【0208】
アンジオテンシンペプチド部分にコア粒子に結合させるさらなる方法としては、コア粒子をビオチン化し、部分をストレプトアビジンに融合させる方法、又は部分とコア粒子とをビオチン化する方法などである。この場合、遊離結合部位が次の段階で加えるコア粒子の結合に利用可能であるように部分とストレプトアビジンとの比率を調節することにより、アンジオテンシンペプチド部分を最初にストレプトアビジン又はアビジンに結合させることができる。あるいは、すべての成分を「1ポット」反応において混合してもよい。可溶型の受容体およびリガンドが利用可能で、コア粒子又はアンジオテンシンペプチド部分に架橋させることができる他のリガンド−受容体対をコア粒子にアンジオテンシンペプチド部分を結合させるための結合剤として用いることができる。
【0209】
アンジオテンシンペプチド部分
したがって、一態様において、本発明は、そのような部分に対する免疫化に適するアンジオテンシンペプチド部分の規則正しい反復アレイを提供する。好ましいアンジオテンシンペプチド部分は、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンIもしくはアンジオテンシンIIの配列又はその断片を含む、あるいはそれからなるものである。上記のように、特に、コア粒子に対するアンジオテンシンペプチド部分の配向した規則正しい会合を確保するために、1つ又は複数の別のアミノ酸をアンジオテンシンペプチド部分配列のC又はN末端に適切に付加することができる。
【0210】
複合体および本発明の複合体に用いる好ましいアンジオテンシンペプチド部分は、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンIもしくはアンジオテンシンIIの全長配列を含む、あるいはそれからなるものである。好ましくは、アンジオテンシンペプチド部分は、CGGDRVYIHPF(配列番号19,本明細書では「Angio1」と称する、アンジオテンシンペプチド部分に追加されたアミノ酸をイタリック体で示す)のようなアンジオテンシンIIの全長配列、又はCGGDRVYIHPFHL(配列番号20,「Angio2」)、DRVYIHPFHLGGC(配列番号21,「Angio3」)およびCDRVYIHPFHL(配列番号22,「Angio4」)のようなアンジオテンシンIの全長配列を含む、あるいはそれからなる。さらなる好ましい実施形態は、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンIもしくはアンジオテンシンIIの配列の断片のみを含む、あるいはそれからなるアンジオテンシンペプチド部分である。そのような特定の実施形態は、アンジオテンシンペプチドのC末端の少なくとも3つのアミノ酸を含む、あるいはそれらからなるアンジオテンシンペプチド部分を含み、また、それについて別の実施形態において、N末端の少なくとも4つのアミノ酸が欠失したもの。他の関連実施形態は、CHPFHL(配列番号23,「Angio5」)およびCGPFHL(配列番号24,「Angio6」)のようなアンジオテンシンIから誘導されたもの、又はCYIHPF(配列番号25,「Angio7」)、CGIHPF(配列番号26,「Angio8」)およびCGGHPF(配列番号27,「Angio9」)のようなアンジオテンシンIIから誘導されたものである。
【0211】
本発明のさらなる実施形態は、アンジオテンシンペプチドのN末端の少なくとも3つのアミノ酸を含む、あるいはそれからなるアンジオテンシンペプチド部分を使用するものであり、それについてさらなる好ましい実施形態においてC末端の少なくとも4つ、好ましくは5つが欠失したものである。他の関連実施形態は、DRVYIGGC(配列番号28,「Angio13」)、DRVYGGC(配列番号29,「Angio14」)およびDRVGGC(配列番号30,「Angio15」)である。しかし、アンジオテンシンペプチド部分の前述の例は非限定的な例であり、C又はN末端における結合のために付加されたアミノ酸の数と性質は変わり得ることは、当業者により理解されるであろう。
【0212】
本発明において、免疫化アンジオテンシンペプチド部分が特定のアンジオテンシンペプチド部分の完全な分子全体を含むことは必要でない。問題のアンジオテンシンペプチド部分に対する適切な免疫応答は、アンジオテンシンペプチド部分の断片、又はその誘導体、突然変異体もしくは突然変異タンパク質を用いて発生させることができる。
【0213】
本発明は、コア粒子に対するアンジオテンシンペプチド部分の結合の種々の部位および手段を具体化するものであり、その非限定的例は、本明細書の他所に記載する。好ましい結合の部位および手段はまた、以前の経験、理論に基づき、また通常の実験により当業者が決定することができる。
【0214】
複合体、ワクチンおよび使用方法
本発明は、したがって、RASの1つ又は複数の成分、特に、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分に関連する疾患又は障害を予防かつ/又は減弱させるために用いることができる複合体を提供する。本発明はさらに、個体、特に哺乳動物のような動物、および特にヒトにおける疾患又は障害を予防かつ/又は減弱させるためのワクチン接種方法を提供する。好ましい実施形態において、複合体および本発明の複合体は、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分に結合する抗体を含む免疫分子の産生をもたらす免疫応答を刺激する。本発明はさらに、個体におけるRASに関連する疾患又は障害を予防かつ/又は減弱させるためのワクチン接種方法を提供する。
【0215】
免疫応答の性質又は種類は、この開示の制限因子ではない。治療的又は予防的免疫応答の望ましい結果は、当技術分野においてよく知られている原理によれば、疾患によって異なることがある。以下の機構的説明により本発明を限定することを意図するものではないが、本発明による複合体は、複数のアンジオテンシンペプチド種に結合し、それにより、アンジオテンシンのすべての関連する種を同時に阻害する抗体を誘導すると思われる。あるいは、誘導される抗体は、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンIもしくはアンジオテンシンIIのC末端に特異的に結合すると思われる。これらの条件下では、誘導される抗体は、それぞれレニン又はACEによるアンジオテンシノーゲン又はアンジオテンシンIの活性化を阻害する。それにもかかわらず、エンドペプチダーゼおよびアミノペプチダーゼのようなACEやレニンと異なるプロテアーゼは、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIをN末端から分解し、それにより抗体に結合した完全なアンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンIIの蓄積を妨げることができる。
【0216】
さらに、疾患に応じて、また当技術分野においてよく知られている原理により、種々のタイプの免疫応答を刺激することが望ましい。例えば、ある種の免疫応答が他の免疫応答より特定の抗原に対して適切であることはよく知られている。ある種の免疫応答は、実際に不適切で、病原性炎症のような病的状態をもたらすことがある。
【0217】
免疫応答の性質は、抗原の性質、体内への導入経路、用量、投与法、抗原の反復性、宿主背景および免疫系のシグナリング因子による影響を受けることがある。そのような知識は、当技術分野でよく知られている。それとして、免疫応答は、当技術分野の理論と通常の実験を適用して、適応させることができる。
【0218】
さらに、本発明は、アンジオテンシンペプチド部分に対するワクチン接種の過程における種々のコア粒子の使用を具体化する。例えば、線毛のようなコア粒子に対する強い免疫応答を発現する個体は、同じアンジオテンシンペプチド部分と異なるコア粒子を含む複合体で免疫化することができる。
【0219】
理論により束縛されることは望まないが、本発明の最新の複合体は、1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分に対する免疫応答を発生する薬剤複合体の成分として、また特にワクチンとして、特有の新規かつ驚くべき利点を備えている。BSA、カサガイヘモシアニン、破傷風毒素、細菌外膜タンパク質、コレラ毒素およびシュードモナス アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)エキソトキシンAなどの当技術分野で知られている他の担体は、個体、および特にヒトにおける使用は不適切である。前述の担体は、アレルギー反応を誘発したり、病原性免疫応答を刺激することがある(例えば、コレラ毒素、KLH、BSA)。前述の担体は、現在、ヒトにおける使用が不適切と考えられている、完全フロイントアジュバントのようなアジュバントの存在を必要とする。多くの担体が現在のワクチンの成分であってよい(例えば、破傷風毒素、コレラ毒素、エキソトキシンA)。それとして、個体はこれらの担体に対する高レベルの前在性免疫を有している可能性があり、そのため、抗原−担体複合体による免疫化により、新規の抗原に対するよりも担体に対する比較的大きい免疫応答を誘導するであろう。これらに理由のため、個別に、あるいは全体として、複合体および本発明の複合体は、上述の担体タンパク質よりも有用な改善を示す。
【0220】
本発明の実施形態の使用に際して、コア粒子に結合した1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分は抗原提示細胞により取り込まれ、それにより、T細胞を刺激して、免疫応答を誘導することを助けることができる。Tヘルパー細胞応答は、タイプ1(T1)およびタイプ2(T2)Tヘルパー細胞応答に分けることができる(Romagnani、Immunol.Today、第18巻、263〜266頁(1997))。T1細胞は、B細胞がIgG1−3を産生すること誘発するγインターフェロンおよび他のサイトカインを分泌する。これに対して、T2細胞により産生される重要なサイトカインは、B細胞がIgG4およびIgEを産生することを誘導するIL−4である。多くの実験系では、T1細胞はT2細胞の誘導を抑え、T2細胞はT1細胞の誘導を抑えるため、T1およびT2応答の発現は互いに相反する。したがって、強いT1応答を誘発する抗原は、同時にT2応答の発生とひいてはIgE抗体の産生を抑制する。興味深いことに、実際上すべてのウイルスが宿主細胞におけるT1応答を誘導し、IgE抗体の産生を誘発しない(Coutelier et al.、J.Exp.Med.第165巻、64〜69頁(1987))。IgEイソタイプの抗体は、アレルギー反応における重要な構成要素である。マスト細胞がそれらの表面上のIgE抗体に結合し、マスト細胞表面に結合したIgE分子に対する特異的抗原の結合時にヒスタミンおよびアレルギー反応の他のメディエーターを放出する。T1応答に特有なイソタイプパターンは、生ウイルスに限定されず、不活性化又は組換えウイルス粒子についても認められた(Lo−Man et al.、Eur.J.Immunol.第28巻、1401〜1407頁(1998))。したがって、本発明の方法(例えば、アルファウイルス技術)を用いることにより、ウイルス粒子を様々なアンジオテンシンペプチド部分でデコレートし、免疫化に用いることができる。得られるアレイの「ウイルス構造」により、T1応答が誘発され、「防御」IgG1−3抗体が産生され、アレルギー反応を誘発するIgE抗体の産生は妨げられる。したがって、本発明は、好ましい免疫応答、特にT1タイプ応答を誘導することができる複合体を具体化する。さらに、本発明は、問題の抗原に対する別のワクチンにより誘導されるアレルギー反応に拮抗する本発明の複合体の使用を具体化する。
【0221】
本発明のさらなる有利な特徴は、アンジオテンシンペプチド部分を、T細胞補助の存在下および非存在下での効率的免疫応答を誘導できる規則正しい反復アレイとして粒子上に提示することができることである。本発明のこの特徴は、特に有利である。
【0222】
分離タンパク質と異なり、ウイルスは、T細胞補助の存在下および非存在下、かつあらゆるアジュバントの非存在下で、速やかで、効率のよい免疫応答を誘導する(Bachmann & Zinkernagel、Ann.Rev.Immunol.第15巻、235〜270頁(1997))。ウイルスは、しばしば数種のタンパク質からなるが、それらの分離成分よりはるかに強い免疫応答を誘発することができる。B細胞応答については、ウイルスの免疫原性に関する1つの重要な因子は表面エピトープの反復性と秩序であることは知られている。多くのウイルスは、B細胞上のエピトープ特異的免疫グロブリンに効率よく架橋するエピトープの規則正しいアレイを示す準結晶性表面を示す(Bachmann & Zinkernagel、Immunol.Today、第17巻、553〜558頁(1996))。B細胞上の表面免疫グロブリンのこの架橋は、細胞周期の進行とIgM抗体の産生を直接誘導する強い活性化シグナルである。さらに、そのような誘発B細胞はTヘルパー細胞を活性化することができ、これがひいてはB細胞におけるIgM抗体産生からIgG抗体産生への切り替えと長命B細胞メモリーの発生(ワクチン接種の目標)を誘発する(Bachmann & Zinkernagel、Ann.Rev.Immunol.第15巻、235〜270頁(1997))。本発明は、コア粒子にアンジオテンシンペプチド部分を結合させることにより、免疫化に用いるアンジオテンシンペプチド部分の反復性の程度を増加させて、ワクチン接種の効率を向上させる1つの方法を提供する。前記のように、本発明は、形成体の数及び/又は配列を変化させるために修飾したコア粒子を含む複合体を提供する。
【0223】
当業者により理解されるように、本発明の複合体を個体に投与するとき、それらは、塩類、緩衝液、アジュバント又は複合体の有効性を改善するために望ましい他の物質を含む複合体としてであってよい。薬剤複合体を調製する際の使用に適した物質の例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Osol A編、Mack Publishing Co.(1990))などの多数の情報源に示されている。
【0224】
本発明の複合体は、それらの投与に対して被投与者が耐えることができる場合、「薬理学的に許容できる」と言われる。さらに、本発明の複合体は「治療上有効量」(すなわち、所望の生理学的効果をもたらす量)で投与する。
【0225】
免疫応答を誘導するために、本発明の複合体は、動物、適切にはヒトのような哺乳動物に当技術分野で知られている様々な方法で投与することができるが、通常、注射、注入、吸入、経口投与又は他の適切な物理的方法で投与する。あるいは、複合体は、筋肉内、静脈内、経粘膜、経皮又は皮下投与することができる。投与のための複合体の成分は、滅菌水性(例えば、生理食塩水)又は非水性溶液および懸濁液などである。非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、およびオレイン酸エチルのような注射用有機エステルである。担体又は閉塞包帯は、皮膚透過性を増加させ、抗原吸収を促進するために用いることができる。
【0226】
本発明のさらなる実施形態は、本発明の複合体による免疫化により産生された免疫分子を含む。免疫分子としては、抗体およびT細胞受容体などがある。そのような免疫分子は、ワクチンを接種する個体における1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分を標的とするための結合に有用である。免疫分子は、複合体又は本発明の複合体に対して免疫化されていない個体に伝達し、それにより免疫を「受動的」に伝達するときにも有用である。一実施形態において、免疫分子は抗体である。1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の結合に適するモノクローナル抗体を個体に伝達して、治療又は予防を実現することができる。
【0227】
本発明はまた、イムノアッセイ(例えば、ELISA)における1つ又は複数のアンジオテンシンペプチド部分の検出用のキットにおける複合体又は本発明の複合体による免疫化により産生される抗体の使用を含む。関連実施形態において、アンジオテンシンペプチド部分の規則正しい反復アレイは、結合アッセイにおけるそのような部分に対する抗体の検出に有用であり得る。本発明の他の実施形態は、本発明の複合体の生産の方法ならびに高血圧、卒中、梗塞、うっ血性心不全、腎不全又は網膜出血のような特にRASに関連する1つ又は複数の身体的障害を治療するためのそのような複合体を用いる内科的治療の方法を含む。
【0228】
本明細書に記載する方法および適用に対する他の適切な修正および適応は、容易に明らかであり、本発明の範囲又はその実施形態から逸脱することなく行うことができることは、当業者により理解されるであろう。本発明を詳細に説明したが、例示のみの目的のために含めるのであって、本発明を限定することを意図するものではない以下の実施例を参照することによって、本発明がより明確に理解されよう。
【実施例1】
【0229】
アンジオテンシンIおよびアンジオテンシンIIから誘導されたペプチドのQβへの結合および得られた複合体によるマウスの免疫化
A.複合体の生産
以下のアンジオテンシンペプチド部分を化学的に合成した。CGGDRVYIHPF(配列番号19,「Angio1」)、CGGDRVYIHPFHL(配列番号20,「Angio2」)、DRVYIHPFHLGGC(配列番号21,「Angio3」)、CDRVYIHPFHL(配列番号22,「Angio4」)、CHPFHL(配列番号23,「Angio5」)、CGPFHL(配列番号24,「Angio6」)、CYIHPF(配列番号25,「Angio7」)、CGIHPF(配列番号26,「Angio8」)、CGGHPF(配列番号27,「Angio9」)、DRVYIGGC(配列番号28,「Angio13」)、DRVYGGC(配列番号29,「Angio14」)およびDRVGGC(配列番号30,「Angio15」)。以下に記載するように、それらをQβに対する化学的結合に用いた。
【0230】
ペプチドAngio1〜Angio4について:20mMヘペス中2mg/mlQβキャプシドタンパク質の5mlの溶液。150mM NaCl pH7.4をHO中13mg/ml Sulfo−MBS(Pierce)の507μlの溶液とロッキング振とう機上で25℃で30分間反応させた。その後、反応溶液を2Lの20mMヘペス、150mM NaCl、pH7.4に対して4℃で2時間にわたり2回透析した。次いで、665μlの透析済み反応混合物を2.8μlのそれぞれの対応する100mMペプチド保存溶液(DMSO中)とロッキング振とう機上で25℃で2時間反応させた。その後、反応混合物を2Lの20mMヘペス、150mM NaCl、pH7.4に対して4℃で2時間にわたり2回透析した。
【0231】
ペプチドAngio5〜9およびAngio13〜15について:20mMヘペス中2mg/mlQβキャプシドタンパク質の3mlの溶液。150mM NaCl pH7.2をDMSO中100mM SMPH(スクシンイミジル−6−(β−マレイミドプロピオノアミドヘキサノアート、Pierce)の86μlの溶液とロッキング振とう機上で25℃で50分間反応させた。その後、反応溶液を2Lの20mMヘペス、150mM NaCl、pH7.2に対して4℃で2時間にわたり2回透析した。514μlの透析済み反応混合物を3.6μlのそれぞれの対応する100mMペプチド保存溶液(DMSO中)とロッキング振とう機上で25℃で4時間反応させた。その後、反応混合物を2Lの20mMヘペス、150mM NaCl、pH7.2に対して4℃で2時間にわたり2回透析した。
【0232】
B.免疫化
雌Balb/cマウスにQβキャプシドタンパク質に結合させた9種のアンジオテンシンペプチド誘導体のうちの1つを用いてアジュバントを加えずにワクチン接種した。各試料の50μg(Qβ−Angio1〜4ワクチン)又は20μg(Qβ−Angio5〜9ワクチン)の総タンパク質をPBSで200μlに希釈し、0日目と14日目に皮下注射した(腹側2箇所に100μl)。21日目にマウスの後眼窩洞から採血し、血清をアンジオテンシン特異的ELISAを用いて分析した。
【0233】
アンジオテンシンペプチドのヒトおよびマウス配列は互いにまったく同じに対応することに注意すべきである。したがって、本発明による抗原決定基としてのアンジオテンシンペプチド部分をそれぞれ含むワクチン又は複合体によるヒト又はマウスの免疫化は、自己抗原に対するワクチン接種である。
【実施例2】
【0234】
Qβに結合させたアンジオテンシンIおよびアンジオテンシンIIから誘導されたペプチドによるワクチン接種マウスからの血清のELISA分析
実施例1で記載したように調製したAngio1〜Angio9およびAngio13〜15ペプチド誘導体を化学架橋物質sulfo−SPDPを用いて個別にウシRNAseA(Sigma)に結合させた。ELISAプレートを結合RNAse調製物でコーティング緩衝液(0.1M NaHCO、pH9.6)中10μg/mlの濃度で4℃で一夜コーティングした。あるいは、アンジオテンシンI又はアンジオテンシンII(SIGMA)を同じコーティング緩衝液で200μg/mlに希釈した。プレートをブロッキング緩衝液(PBS(pH7.4)/0.05%トゥイーン20中2%ウシ血清アルブミン(BSA))を用いて37℃で2時間ブロックし、PBS(pH7.4)/0.05%トゥイーン20で洗浄し、次いで、ブロッキング緩衝液中連続希釈マウス血清とともに室温で2時間インキュベートした。プレートをPBS(pH7.4)/0.05%トゥイーン20で洗浄し、次いで、1μg/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)とともに室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS(pH7.4)/0.05%トゥイーン20で洗浄し、基質溶液を加えた(0.066M NaHPO、0.035Mクエン酸(pH5.0)+0.4mg OPD(1,2−フェニレンジアミン二塩酸塩)+0.01%H)。10分後に5%HSOで呈色反応を停止させ、450nmで吸光度を測定した。
【0235】
対照として、同じマウスの免疫前血清も試験した。Qβ又は他の担体に架橋させた非関連ペプチドで免疫化したマウスの血清を用いた対照ELISA実験では、検出された抗体は各ペプチドに対して特異的であることが示された。ELISA力価は、ELISAにおける最大シグナルの半値(最大光学濃度の50%)を示す血清希釈度の逆数として計算した。
【0236】
結果:
図1にQβキャプシドタンパク質に結合させたAngio1〜4ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio2ペプチドおよびアンジオテンシンIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析を示す。図で用いたQβ−Angio1、Qβ−Angio1、Qβ−Angio3およびQβ−Angio4は、マウスに注射したワクチンを表し、マウスからの血清はアンジオテンシンペプチドの上の定義に従って誘導される。雌Balb/cマウスに0日目と14日目にPBS中ワクチン50μgを皮下にワクチン接種した。Qβ−Angio1、Qβ−Angio2、Qβ−Angio3およびQβ−Angio4を用いてワクチン接種したマウスの血清中のIgG抗体をRNAse Aに結合させたAngio2ペプチドに対して、およびアンジオテンシンIに対して21日目に測定した。対照として、免疫前血清も分析した。示した血清希釈物に関する結果を450nmでの光学濃度として示す。3匹の各マウスの平均値(標準偏差を含む)をAngio2について示す。2匹の各マウスの平均値をアンジオテンシンIについて示す。Angio2、Angio3又はAngio4ペプチドで免疫化したマウスは、Angio2、Angio3およびAngio4ペプチドならびにアンジオテンシンIの密接な類似性で相互に関連するAngio1をワクチン接種したマウスよりも高い力価を示したが、すべてのワクチン接種マウスはAngio2ならびにアンジオテンシンIに対する特異IgG抗体を産生した。
【0237】
図2にQβキャプシドタンパク質に結合させたAngio1〜4ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio1ペプチドおよびアンジオテンシンIIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析を示す。図で用いたQβ−Angio1、Qβ−Angio2、Qβ−Angio3およびQβ−Angio4は、マウスに注射したワクチンを表し、マウスからの血清はアンジオテンシンペプチドの上の定義に従って誘導される。雌Balb/cマウスに0日目と14日目にPBS中ワクチン50μgを皮下にワクチン接種した。Qβ−Angio1、Qβ−Angio2、Qβ−Angio3およびQβ−Angio4をワクチン接種したマウスの血清中のIgG抗体をRNAse Aに結合させたAngio1ペプチドに対して、およびアンジオテンシンIIに対して21日目に測定した。対照として、免疫前血清も分析した。示した血清希釈物に関する結果を450nmでの光学濃度として示す。3匹の各マウスの平均値(標準偏差を含む)をAngio1について示す。2匹の各マウスの平均値をアンジオテンシンIIについて示す。Angio1ペプチドで免疫化したマウスは最高力価を示し、Angio1およびアンジオテンシンIIの密接な類似性で相互に関連するが、すべてのワクチン接種マウスはAngio1ならびにアンジオテンシンIIに対する特異IgG抗体を産生した。
【0238】
図3にQβキャプシドタンパク質に結合させたAngio5〜9ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio2ペプチドおよびアンジオテンシンIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析を示す。図で用いたQβ−Angio5、Qβ−Angio6、Qβ−Angio7、Qβ−Angio8およびQβ−Angio9は、マウスに注射したワクチンを表し、マウスからの血清はアンジオテンシンペプチドの上の定義に従って誘導される。雌Balb/cマウスに0日目と14日目にPBS中ワクチン20μgを皮下にワクチン接種した。Qβ−Angio4、Qβ−Angio5、Qβ−Angio6、Qβ−Angio7、Qβ−Angio8およびQβ−Angio9をワクチン接種したマウスの血清中のIgG抗体をRNAse Aに結合させたAngio2ペプチドに対して、およびアンジオテンシンIに対して21日目に測定した。示した血清希釈物に関する結果を450nmでの光学濃度として示す。2匹の各マウスの平均値を示す。Qβ−Angio8およびQβ−Angio9をワクチン接種した2匹のマウスは、Angio2ならびにアンジオテンシンIに対する非常に低い、又は特異的力価を示さなかった。このことは、これらの2つのタイプのワクチンがアンジオテンシンIIのC末端に対して主として特異的であるが、アンジオテンシンIに対してはそうでない抗体を誘導することを示している(図4も参照)。
【0239】
図4にQβキャプシドタンパク質に結合させたAngio5〜9ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio1ペプチドおよびアンジオテンシンIIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析を示す。図で用いたQβ−Angio5、Qβ−Angio6、Qβ−Angio7、Qβ−Angio8およびQβ−Angio9は、マウスに注射したワクチンを表し、マウスからの血清はアンジオテンシンペプチドの上の定義に従って誘導される。雌Balb/cマウスに0日目と14日目にPBS中ワクチン20μgを皮下にワクチン接種した。Qβ−Angio4、Qβ−Angio5、Qβ−Angio6、Qβ−Angio7、Qβ−Angio8およびQβ−Angio9を用いてワクチン接種したマウスの血清中のIgG抗体をRNAse Aに結合させたAngio1ペプチドに対して、およびアンジオテンシンIIに対して21日目に測定した。示した血清希釈物に関する結果を450nmでの光学濃度として示す。2匹の各マウスの平均値を示す。Qβ−Angio5およびQβ−Angio6でワクチン接種した2匹のマウスは、Angio1ならびにアンジオテンシンIIに対する非常に低い、又は特異的力価を示さなかった。このことは、これらの2つのタイプのワクチンがアンジオテンシンIのC末端に対して主として特異的であるが、アンジオテンシンIIに対してはそうでない抗体を誘導することを示している(図3も参照)。
【0240】
以下の表にQβに結合させたAngioペプチド1〜9をワクチン接種したマウスの血清のELISA分析を要約する。21日目の平均ELISA力価は、実施例2に記載したように計算した。
【0241】

【0242】
Angio5および6に関する結果から、アンジオテンシンIを選択的に認識するペプチドを誘導することができることがわかる。さらに、Angio7〜9に関する結果から、アンジオテンシンIIを選択的に認識するが、アンジオテンシンIについてはそうでない抗体を誘導することができることがわかる。アンジオテンシンIおよびIIは、C末端における2アミノ酸だけが異なっているが、残りの8アミノ酸は同じであるので、これらの結果は、Angio5又はAngio6により誘導されたすべての抗体がアンジオテンシンIのC末端を選択的に認識し、Angio7〜9、および特にAngio8〜9により誘導されたすべての抗体がアンジオテンシンIIのC末端を選択的に認識することを示すものである。したがって、共通の8アミノ酸は認識されず、また、特に共通のN末端は認識されない。このことから、N末端は、結合するとき抗体内に埋もれず、したがって、プロテアーゼと接触することができることがわかる。
【0243】
理解を明確にする目的で図表と実施例により本発明を詳細に記述したので、広く同等の条件の範囲内で本発明を、発明の範囲又はその特定の実施形態に影響を及ぼすことなく処方および他のパラメーターを修正又は変更することにより同じことを実施することができ、そして、そのような修正又は変更は、添付した特許請求の範囲内に含まれることを意図するものであることは当業者には明らかであろう。
【0244】
本明細書に記載したすべての刊行物、特許および特許出願は、本発明が属する技術分野の熟達者の技術の水準を示すものであり、個々の刊行物、特許および特許出願を具体的かつ個別に参照により組込まれたことを示されたと同程度に、参照により本明細書に組込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0245】
【図1】Qβキャプシドタンパク質に結合したAngio1、Angio2、Angio3又はAngio4ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio1ペプチドおよびアンジオテンシンIIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析。
【図2】Qβキャプシドタンパク質に結合したAngio1、Angio2、Angio3又はAngio4ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio2ペプチドおよびアンジオテンシンIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析。
【図3】Qβキャプシドタンパク質に結合したAngio5、Angio6、Angio7、Angio8又はAngio9ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio1ペプチドおよびアンジオテンシンIIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析。
【図4】Qβキャプシドタンパク質に結合したAngio5、Angio6、Angio7、Angio8又はAngio9ペプチドで免疫化したマウスの血清中のAngio2ペプチドおよびアンジオテンシンIに対して特異的なIgG抗体のELISA分析。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つの第1付着部位を有する担体、及び
(b)少なくとも1つの第2付着部位を含んでなり、
前記担体がコア粒子を含み、及び
前記第2付着部位が、規則正しい反復アンジオテンシンペプチド部分−担体複合体を形成するように、少なくとも1つの共有結合により前記第1付着部位に結合することができる、
アンジオテンシンペプチド部分−担体複合体。
【請求項2】
前記コア粒子がウイルス又はウイルス様粒子である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
(a)少なくとも1つの第1付着部位を有する担体、及び
(b)少なくとも1つの第2付着部位を有する少なくとも1つのアンジオテンシンペプチド部分を含んでなり、
前記担体がウイルス又はウイルス様粒子であるコア粒子を含み、
前記第2付着部位が、規則正しい反復アンジオテンシンペプチド部分−担体複合体を形成するように、少なくとも1つの共有結合により前記第1付着部位に結合することができる、
アンジオテンシンペプチド部分−担体複合体。
【請求項4】
前記ウイルス様粒子が、
(a)B型肝炎ウイルスの組換えタンパク質、
(b)麻疹ウイルスの組換えタンパク質、
(c)シンドビスウイルスの組換えタンパク質、
(d)ロタウイルスの組換えタンパク質、
(e)口蹄疫ウイルスの組換えタンパク質、
(f)レトロウイルスの組換えタンパク質、
(g)ノルウォークウイルスの組換えタンパク質、
(h)アルファウイルスの組換えタンパク質、
(i)ヒト乳頭腫ウイルスの組換えタンパク質、
(j)ポリオーマウイルスの組換えタンパク質、
(k)バクテリオファージの組換えタンパク質、
(l)RNAファージの組換えタンパク質、
(m)Qβファージの組換えタンパク質、
(n)GAファージの組換えタンパク質、
(o)frファージの組換えタンパク質、
(p)AP205ファージの組換えタンパク質、及び
(q)Tyの組換えタンパク質
からなる群から選択される組換えタンパク質又はその断片を含む請求項2又は3に記載の複合体。
【請求項5】
前記ウイルス様粒子がB型肝炎ウイルスキャプシドタンパク質である、請求項2又は3に記載の複合体。
【請求項6】
B型肝炎ウイルスキャプシドタンパク質のアミノ酸配列が配列番号1の配列と80%同一である請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
前記コートタンパク質が、少なくとも1つのリシン残基の欠失により、挿入による少なくとも1つのリシン残基の付加により、又は少なくとも1つのリシン残基の置換により修飾された、請求項5に記載の複合体。
【請求項8】
前記ウイルス又はウイルス様粒子がRNAバクテリオファージのタンパク質又はその断片を含む、請求項2又は3に記載の複合体。
【請求項9】
前記RNAバクテリオファージが、
a)バクテリオファージQβ、
b)バクテリオファージR17、
c)バクテリオファージfr、
d)バクテリオファージGA、
e)バクテリオファージSP、
f)バクテリオファージMS2、
g)バクテリオファージM11、
h)バクテリオファージMX1、
i)バクテリオファージNL95、
j)バクテリオファージf2、
k)バクテリオファージAP205、及び
l)バクテリオファージPP7
からなる群から選択される請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
前記ウイルス様粒子がバクテリオファージQβの組換えタンパク質又はその断片を含む、請求項2又は3に記載の複合体。
【請求項11】
前記ウイルス様粒子がバクテリオファージfr又はバクテリオファージAP205の組換えタンパク質又はその断片を含む請求項2又は3に記載の複合体。
【請求項12】
前記RNAバクテリオファージの前記組換えタンパク質が突然変異体コートタンパク質を含む、請求項8に記載の複合体。
【請求項13】
前記突然変異体コートタンパク質が置換による少なくとも1つのリシン残基の除去により、又は置換による少なくとも1つのリシン残基の付加により修飾された、請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
前記突然変異体コートタンパク質が少なくとも1つのリシン残基の欠失により、又は挿入による少なくとも1つのリシン残基の付加により修飾された、請求項12に記載の複合体。
【請求項15】
前記組換えタンパク質が配列番号3のアミノ酸配列を有する1つ又は複数のコートタンパク質を含む、請求項12に記載の複合体。
【請求項16】
前記組換えタンパク質が配列番号4又はその突然変異体および配列番号3のアミノ酸配列を有するコートタンパク質の混合物を含む、請求項12に記載の複合体。
【請求項17】
前記組換えタンパク質が突然変異体Qβコートタンパク質を含む、請求項12に記載の複合体。
【請求項18】
前記突然変異体Qβコートタンパク質が、置換による少なくとも1つのリシン残基の除去により、又は置換による少なくとも1つのリシン残基の付加により修飾された、請求項17に記載の複合体。
【請求項19】
前記突然変異体Qβコートタンパク質が、少なくとも1つのリシン残基の欠失により、又は挿入による少なくとも1つのリシン残基の付加により修飾された、請求項17に記載の複合体。
【請求項20】
前記突然変異体Qβコートタンパク質が、
a)配列番号6のアミノ酸配列、
b)配列番号7のアミノ酸配列、
c)配列番号8のアミノ酸配列、
d)配列番号9のアミノ酸配列、及び
e)配列番号10のアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するタンパク質を含む、請求項17に記載の複合体。
【請求項21】
前記ウイルス様粒子が、
a)配列番号6のアミノ酸配列、
b)配列番号7のアミノ酸配列、
c)配列番号8のアミノ酸配列、
d)配列番号9のアミノ酸配列、及び
e)配列番号10のアミノ酸配列
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する1つ又は複数の突然変異体Qβコートタンパク質を含む、請求項2又は3に記載の複合体。
【請求項22】
前記第1付着部位が、
(a)アミノ基、
(b)カルボキシル基、
(c)スルフヒドリル基、
(d)ヒドロキシ基、
(e)グアニジニル基、又は
(f)ヒスチジニル基
を含む、請求項1又は3に記載の複合体。
【請求項23】
前記少なくとも第1付着部位が、リシン残基、アルギニン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、セリン残基、トレオニン残基、ヒスチジン残基及びチロシン残基からなる群から選択される、請求項1又は3に記載の複合体。
【請求項24】
前記少なくとも第1付着部位がリシン残基である、請求項1又は3に記載の複合体。
【請求項25】
前記コア粒子が細菌線毛又は線毛様粒子である、請求項1に記載の複合体。
【請求項26】
線毛又は線毛様粒子が、
(a)大腸菌(Escherichia coli)、
(b)インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、
(c)髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、
(d)淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、
(e)カウロバクタークレセンタス(Caulobacter Crescentus)、
(f)シュードモナススツツェリ(Pseudomonas stutzeri)、
(g)シュードモナス アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、
(h)サルモネラ(Salmonella spp)、および
(i)コレラ菌(Vibrio cholera)
からなる群から選択される生物により生成されるタンパク質又は線毛タンパク質の断片を含む、請求項25に記載の複合体。
【請求項27】
線毛粒子が、
(a)1型線毛タンパク質、及び
(b)P−線毛タンパク質
からなる群から選択されるタンパク質又は線毛タンパク質の断片を含む、請求項25に記載の複合体。
【請求項28】
線毛粒子が組換えタンパク質を含む、請求項25に記載の複合体。
【請求項29】
線毛粒子が組換えおよび非組換えタンパク質を含む、請求項25に記載の複合体。
【請求項30】
線毛粒子が1型線毛タンパク質又はその断片を含む、請求項25に記載の複合体。
【請求項31】
線毛粒子が突然変異体線毛タンパク質を含む、請求項25に記載の複合体。
【請求項32】
前記線毛タンパク質が、置換による少なくとも1つのリシン残基の除去、置換による少なくとも1つのリシン残基の付加、少なくとも1つのリシン残基の欠失、又は挿入による少なくとも1つのリシン残基の付加により修飾された、請求項31に記載の複合体。
【請求項33】
前記線毛粒子が配列番号2のアミノ酸配列を有する線毛タンパク質からなる、請求項30に記載の複合体。
【請求項34】
前記アンジオテンシンペプチド部分が、好ましくは、アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII及びその断片もしくは誘導体からなる群から選択されるアンジオテンシンペプチドである、請求項1又は3に記載の複合体。
【請求項35】
前記第2付着部位を含む前記アンジオテンシンペプチド部分が、
a)CGGDRVYIHPF、
b)CGGDRVYIHPFHL、
c)DRVYIHPFHLGGC、
d)CDRVYIHPFHL、
e)CHPFHL、
f)CGPFHL、
g)CYIHPF、
g)CGIHPF、
h)CGGHPF、
i)CRVYIGGC、
j)DRVYGGC、及び
k)DRVGGC
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1又は3に記載の複合体。
【請求項36】
請求項1又は3に記載の1つ又は複数の複合体及び薬剤的に許容できる担体又は賦形剤を含んでなる薬剤組成物。
【請求項37】
免疫学的に有効量の請求項1又は3に記載の複合体及び免疫学的に許容できる担体又は賦形剤を含んでなるワクチン組成物。
【請求項38】
前記ワクチン組成物がさらに少なくとも1つのアジュバントを含む、請求項37に記載のワクチン組成物。
【請求項39】
動物がアンジオテンシンペプチド部分に対する免疫応答を発現するような条件下で、動物に請求項1又は3に記載の複合体を投与することを含んでなる、アンジオテンシンペプチド部分に対して動物を免疫化する方法。
【請求項40】
前記複合体を前記動物に、鼻腔内投与、経口投与、皮下投与、経皮投与、筋肉内投与及び静脈内投与からなる群から選択される投与経路により投与する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記複合体を前記動物に鼻腔内投与する、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
動物がアンジオテンシンペプチド部分に対する免疫応答を発現するような条件下で、動物に請求項37に記載のワクチン組成物を投与することを含んでなる、アンジオテンシンペプチド部分に対して動物を免疫化する方法。
【請求項43】
前記組成物を前記動物に、鼻腔内投与、経口投与、皮下投与、経皮投与、筋肉内投与および静脈内投与からなる群から選択される投与経路により投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記組成物を前記動物に鼻腔内投与する、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
治療上又は予防上有効量の請求項1又は3に記載の1つ又は複数の複合体を、それを必要とする動物に投与することを含んでなる、レニンにより活性化されたアンジオテンシン系に関連した身体的障害を治療又は予防する方法。
【請求項46】
レニンにより活性化されたアンジオテンシン系に関連した前記身体的障害が、高血圧、卒中、梗塞、うっ血性心不全、腎不全及び網膜出血からなる群から選択される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
治療上又は予防上有効量の請求項36に記載の薬剤組成物を、それを必要とする動物に投与することを含んでなる、レニンにより活性化されたアンジオテンシン系に関連した身体的障害を治療又は予防する方法。
【請求項48】
治療上又は予防上有効量の請求項37に記載のワクチン組成物を、それを必要とする動物に投与することを含んでなる、レニンにより活性化されたアンジオテンシン系に関連した身体的障害を治療又は予防する方法。
【請求項49】
レニンにより活性化されたアンジオテンシン系に関連した前記身体的障害が高血圧、卒中、梗塞、うっ血性心不全、腎不全及び網膜出血からなる群から選択される請求項47又は48に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−189406(P2010−189406A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−85112(P2010−85112)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【分割の表示】特願2003−534448(P2003−534448)の分割
【原出願日】平成14年10月7日(2002.10.7)
【出願人】(503261085)サイトス バイオテクノロジー アーゲー (3)
【Fターム(参考)】