説明

アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチド

【課題】
経口摂取したとき消化酵素により分解されにくく、体内でのACE阻害活性が失われにくい、ACE阻害活性を有するトリペプチドを提供する。
【解決手段】
ゴマのサーモライシンによる分解物から、ACE阻害活性を有し、動物実験で血圧降下作用を有する3種のトリペプチドを見出した。本発明のトリペプチドは、Leu−Val−Tyrのアミノ酸配列を有し、アンジオテンシン変換酵素
阻害活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンジオテンシン変換酵素を阻害することにより、血圧降下作用を示す健康食品、医薬品等として有用なペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は代表的な生活習慣病であり、その患者数は年々増加している。高血圧症は脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、腎硬化症等種々の合併症を引き起こすことが知られており、高血圧症の発症メカニズムについて様々な研究が行われてきている。
【0003】
血圧の調節系として、昇圧に関与するレニン・アンジオテンシン系と降圧に関与するカリクレイン・キニン系が重要な役割を果たしている。レニン・アンジオテンシン系では肝臓から分泌されるアンジオシノーゲンが腎臓で生産されるレニンによってアンジオテンシンIとなり、更にアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンIIに変換される。このアンジオテンシンIIは血管平滑筋を収縮させ、血圧を上昇させる。一方、降圧系のカリクレインはキニノーゲンに作用してブラジキニンを産生する。このブラジキニンには血管を拡張して血圧を下げる効果があるが、ACEにはこのブラジキニンを分解してしまう作用がある。このように、ACEは昇圧ペプチドであるアンジオテンシンIIの産生と降圧ペプチドであるブラジキニンの不活化という二つの作用によって血圧の上昇に関与していることが知られている。従って、このACEの酵素活性を抑制することにより血圧の上昇を抑制することが可能となる。このACE阻害活性物質として開発されたプロリン誘導体であるカプトプリルやエナラプリル等は高血圧症の治療に広く用いられている。
【0004】
また、最近では食品素材蛋白質の酵素分解物であるペプチドにACE阻害活性のあることが報告されている。例えば、ゼラチンのコラーギナーゼ分解物(特開昭52−148631)、カゼインのトリプシン分解物(特開昭58−109425、特開昭59−44323、特開昭60−23086及び23087、特開昭61−36226及び36227)、γ−ゼインのサーモライシン分解物(特開平2−32127)、イワシ筋肉のペプシン分解物(特開平3−11097)、かつお節のサーモライシン分解物(特開平4−144696)、ゴマ蛋白のサーモライシン分解物(特開平8−231588)、κ−カゼインのペプシン等の分解物(特開平8−269088)等多数の報告がなされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら食品素材由来のACE阻害活性を有するペプチドは副作用、毒性等の安全性の点でも問題が少なく、通常の食品として摂取することが可能であることが大きな利点となっている。しかし、上記の報告のペプチドはアミノ酸数が5以上のものが多く含まれている(特開昭52-148631、特開昭58-109425、特開昭59-44323、特公昭60-23086、特開昭61-36226、特開昭61-36227、特開平3-11097、特許3135812、特開平8-269088)。これらアミノ酸数の多いペプチドは摂取後に消化酵素により分解され易く、ACE阻害活性が失われたり、また、分解されない場合でもその分子構造が大きいために吸収され難いといった問題があり、in vitroでのACE阻害活性の強さに比べて、期待された程の降圧効果が得られないという指摘がされている。
【0006】
したがって、本発明の課題は、経口摂取したとき消化酵素により分解されにくく、体内でのACE阻害活性が失われにくい、ACE阻害活性を有するトリペプチドを提供することである。
さらに、本発明は上記トリペプチドを一種以上含有してなる飲食用組成物、アンジオテンシン変換酵素阻害剤および血圧降下剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは植物性食品素材のサーモライシン分解物中に、上記問題を解消するペプチドが存在するのではないかと考え、アミノ酸数が3以下でACE阻害活性を有するペプチドの探索をおこなった。その結果、ACE阻害活性を有し、動物実験で血圧降下作用を有する3種のトリペプチドをゴマのサーモライシンによる分解物から見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明は、Leu−Ser−Ala、Val−Ile−TyrあるいはLeu−Val−Tyrのアミノ酸配列を有し、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するトリペプチドを提供する。 さらに、本発明は上記トリペプチドを一種以上含有してなる飲食用組成物、アンジオテンシン変換酵素阻害剤および血圧降下剤を提供する。
【発明の実施の態様】
【0009】
本発明のトリペプチドは、合成によって製造してもよいが、経口摂取する飲食品または医薬品に添加してACE阻害活性を発揮させる目的のためには、ゴマ等に由来する植物蛋白質をサーモライシンで分解し所望によりさらに精製して得られる、上記3種のトリペプ
チドの少なくとも一種を豊富に含む経口摂取可能な組成物として製造することが好ましい。
【0010】
植物蛋白質の原料としては、米、小麦、大麦、オート麦、トウモロコシ等の穀類、インゲン、ソラマメ、大豆、緑豆等の豆類、ゴマ等の、蛋白質を豊富に含む植物組織、好ましくは種子が使用できる。
【0011】
サーモライシンによる分解で本発明のペプチドを得る場合、原料となる素材の性状により処理方法は変わるが、まず前処理として、脱脂処理、例えば搾汁による脱脂や溶媒、例えばアルコール類、アセトン、ヘキサン等による脱脂を行うことが好ましい。また、原料のサーモライシン分解を効率よくするために、原料となる素材は細かく粉砕してから水に攪拌・懸濁することが好ましい。また、蛋白が難溶性の場合には苛性ソーダを加えたり、加熱処理等の前処理によって、均一に溶解・懸濁させてもよい。これに適量、好ましくは蛋白1gあたり、500〜50000PUのサーモライシンを加え、pH5〜9、温度10〜80℃で0.5〜48時間、静置もしくは攪拌操作を加えながら蛋白分解反応を行う(なお、PUはProtease Unitで、乳性カゼインを基質として、pH7.2、35℃において1分間に1μg のチロシンに相当する非蛋白性のFolin's試液呈色物質の増加をもたらす酵素量を1PU(Protease Unit)とする)。反応が十分に進行したこと(ここでは目的とするトリペプチドを得るのに十分な反応)を確認する方法として「反応液をOGSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付し、溶出パターンを210nmの吸光度によって測定する」ことができる。反応の停止のためには例えば塩酸を添加する。または加熱処理によって、サーモライシンの活性を失活させてもよく、塩酸の添加と加熱処理のいずれも行って反応を停止してもよい。反応液は遠心や濾過処理等で沈殿物を除き、得られた濾液を苛性ソーダもしくは塩酸を用いて中和後、濃縮する。さらに香味上の問題、例えば苦味やえぐ味、異臭等を活性炭処理を行って改善することもできる。このようにして得られたゴマペプチドにはLeu−Ser−Ala、Val−Ile−TyrおよびLeu−Val−Tyrがそれぞれ0.001重量%から0.1重量%含まれる。
【0012】
本発明のトリペプチドとしては、上記のごとくして得られたサーモライシン分解物やこれをさらにイオン交換樹脂やハイポーラスポリマー樹脂等で処理して高分子の蛋白を除去し、本発明のトリペプチドを豊富に含有する粗精製品を得、これをそのまま用いることが出来る。以下、このような分解物及び粗精製物を総称して、トリペプチドを豊富に含有する組成物と呼ぶことがある。これらの組成物に、さらに香味上の問題、例えば,苦味やえぐ味、異臭等を活性炭処理を行って改善して用いることもできる。
【0013】
精製によって本発明のペプチドを得る場合には、上記濃縮物をゲル濾過カラムクロマトグラフィー、イオン交換樹脂やハイポーラスポリマー樹脂を用いたクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等で、ACE阻害活性を有する本発明のペプチド分画を集め、さらに、この活性画分をODSカラム、C30カラム等の逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等を用いた通常のペプチド精製法で、ほぼ純粋な各ペプチドに精製することができる。なお、本発明のトリペプチドはゴマに限らず、米、小麦、大麦、オート麦、トウモロコシ等の穀類、インゲン、ソラマメ、大豆、緑豆等の豆類からも上記に示した方法で得ることができる。トリペプチドまたはそれを豊富に含む組成物のACE阻害活性は、例えば実施例に記載したインビトロおよび/またはインビボの試験方法により測定できる。
【0014】
化学合成によって本発明のペプチドを得る場合には、通常のペプチド合成に用いられる固相法あるいは液相法のいずれの方法でも合成ができる。合成によってえられた本発明のペプチドは逆相高速液体クロマトグラフィー、イオン交換樹脂やハイポーラスポリマー樹脂を用いたクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を用いた通常の精製法で精製することができる。
【0015】
このようにして得られたトリペプチドまたはそれを豊富に含む組成物のACE阻害作用の比活性は強く、経口摂取によっても強いACE阻害作用を有することから極めて有用なACE阻害剤として用いることができる。さらに胃腸管からの吸収もよく熱に対しても比較的安定であることから、各種飲食物の形態及び医薬品製剤のいずれに応用することも可能である。
【0016】
したがって、本発明は上記トリペプチドを一種以上添加してなるアンジオテンシン変換酵素阻害作用の発揮を期待しうる飲食用組成物、及び上記トリペプチドを一種以上含有してなるアンジオテンシン変換酵素阻害剤および血圧降下剤を提供するものである。
【0017】
本発明のトリペプチドを飲食品、医薬品等に使用する場合、ゴマ等に由来する蛋白質のサーモライシンによる分解物からトリペプチドを十分に精製したものを用いても良く、あるいは化学合成により得られた合成品を用いても良い。しかし、本発明のペプチドは安定且つACE阻害活性が強いので、上記のとおり粗精製品あるいはサーモライシン分解物またはその粗精製品をそのままトリペプチドを豊富に含む組成物として用いて十分なACE阻害活性を得ることも出来、これは本発明の好ましい態様である。
【0018】
本発明の飲食用組成物は、上記トリペプチドの一種以上を、1回の摂取量として0.001mg〜100mg、好ましくは0.01mg〜20mg、より好ましくは0.1mgから10mg添加して製造される。本発明のトリペプチドは、取り扱いが容易で安定な固体ないし粉末であり、水への溶解性もよい。また、胃腸管からの吸収もよい。したがって、食品への添加の時期、及び方法に特別の制限はなく、粉末状、溶液状、懸濁液状等として、食品製造の原料段階、中間工程、最終工程に、食品分野で慣用の方法で添加することが可能である。本発明のトリペプチドを含有する飲食用組成物を、一時的、断続的、継続的または日常的に摂取することにより、アンジオテンシン変換酵素を阻害し、例えば血圧降下作用を奏することが可能である。飲食品の形態としては、固形状、半流動状、流動状などを挙げることができる。固形状食品としては、ビスケット状、シート状、タブレットやカプセルなどの錠剤、顆粒粉末などの形態の一般食品および健康食品が挙げられる。半流動状食品としては、ペースト状、ゼリー状、ゲル状などの、また、流動状食品としては、ジュース、清涼飲料、茶飲料、ドリンク剤などの形態の一般食品および健康食品が挙げられる。飲食物を栄養ドリンクや調味料として、本発明のトリペプチドを継続して摂取することにより、血圧の上昇を抑制することも可能である。
【0019】
医薬組成物は、本発明のトリペプチドを、上記飲食用組成物と同様の量で含有する。本発明の医薬組成物は、患者のアンジオテンシン変換酵素を阻害し、例えば血圧降下作用を発揮させるために、高血圧症状の患者に一時的に投与してもよく、あるいは本発明の医薬組成物の有効成分は天然物由来であることから、継続して安全に使用することもできる。本発明の医薬組成物により治療および/または予防することができる疾患の例は、高血圧などである。医薬組成物の形態は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ等の経口投与剤が好ましい。非経口投与用の製剤としては、静脈、動脈、皮下、筋肉を通して投与するため、あるいは鼻腔から吸入するための、無菌の液剤が挙げられる。液剤は、用時溶解できる乾燥固体であってもよい。注射用製剤は有効成分のトリペプチドを生理食塩水に溶解し、通常の無菌操作により注射用製剤に製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ACE阻害活性測定法:
本発明におけるACE阻害活性(IC50)は、以下の方法に従って測定した。
緩衝液:0.1M HEPES、0.3M NaCl、0.01%Triton−X(pH 8.3)
酵素:ウサギ肺由来ACE(Sigma)
上記緩衝液に溶解し、濃度を1mU/50μlに調整。
基質:Bz−Gly−His−Leu・H2O(ペプチド研究所)
8.95mgを1mlのジメチルスルホキシドに溶解し、さらに水で5倍に希釈する(最終濃度4mM)。
【0021】
本発明物質を含む試料5μlを96穴マイクロプレートに入れ、緩衝液25μlと酵素10μlを加えて十分に攪拌後、37℃、5分間インキュベートする。基質10μlを添加して、37℃、30分間反応後、0.1N NaOHを40μl加えて反応を停止させる。1% o−フタルアルデヒドメタノール溶液20μlを加え、室温下、10分放置後、0.1N HClを100μl添加し、37℃、30分間インキュベートする。ACEにより加水分解されて生じたHis−Leu量をヒスチジン残基のアミノ基とO−フタルアルデヒドが反応して生じた蛍光物質を355nmで励起し、460nmの蛍光波長として測定し、以下の式により本発明のペプチドの阻害率を求め、ACE阻害活性(IC50)を算出した。
阻害率=[1−(A−a)/(B−b) ] × 100
A:試料添加
a:試料添加、酵素のかわりに緩衝液添加
B:試料のかわりに蒸留水添加
b:試料のかわりに蒸留水添加、酵素のかわりに緩衝液添加
【0022】
実施例1.ペプチドの製造・精製:
脱脂ゴマ100gに水2Lを加え、水酸化ナトリウムを添加してpHを12.0〜12.5に調整し、55℃で1時間攪拌後、濾過して蛋白抽出液を得た。この蛋白抽出液に塩酸を添加してpHを4.0に調整し、遠心分離してゴマ蛋白質(乾燥重量19.8g)を得た。
【0023】
得られたゴマ蛋白質10gに水300mlを加え、水酸化ナトリウムでpHを7.5に調整し、サーモライシン10mg(ナカライテスク、7000PU/mg)を添加して、緩やかな攪拌を行いながら、65℃、6時間反応させた。反応後に塩酸を加えてpHを4.0に調整し、90℃、10分間加温してサーモライシンを失活させた。加温後、生じた沈殿を遠心分離により除去し、上清を濾紙(Toyo、No.2)で濾過した。濾液を凍結乾燥して5.9gのペプチド粉末を得た。
【0024】
このペプチド粉末80mgを2mlの10%エタノール溶液に溶解し、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーに付した。以下に条件を記す。
カラム:Bio-Gel P-2(15mm ID × 820mm L、Bio-Rad)
溶出液:10%エタノール
流 速:0.15ml/min
検 出:UV 210nm
【0025】
カラムからの溶出液はフラクションコレクターにより15分毎に1フラクションずつ採集した。各フラクションは上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した結果、上記条件で得られるACE阻害活性の主画分はフラクション32〜38であり、これらのフラクションを集めて凍結乾燥を行った。この操作を3回行い、合計で37.5mgのペプチドを得た。
【0026】
次にBio-Gel P-2ゲル濾過カラムクロマトグラフィーで得られたACE阻害活性ペプチド37.5mgを2mlの精製水に溶解し、ODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付し、ペプチドを分画した。以下に条件を記す。
カラム:Develosil ODS-10(20mm ID × 250mm L、野村化学)
移動層:Buffer A:5%CH3CN、0.1%TFA
Buffer B:40%CH3CN、0.1%TFA
勾 配:0〜20min:0%Buffer B 20〜80min:0〜100 %Buffer B
流 速:10ml/min
検 出:UV 210nm
【0027】
上記条件でフラクションコレクターを用い、1分毎に1フラクションずつ採集した。各フラクションから5μlを96穴マイクロプレートに採り、減圧下蒸発乾固後、5μlの精製水で溶解させ、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、フラクション39、52、54に強いACE阻害活性が認められた。これら3フラクションは凍結乾燥を行い、各々、微量のペプチドが得られた。
【0028】
フラクション39中のACE阻害活性ペプチドの精製
フラクション39の凍結乾燥ペプチドを200μlの精製水に溶解し、C30カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付し、ペプチドを分画した。以下に条件を記す。
カラム:Develosil C30-UG-5(10mm ID × 250mm L、野村化学)
移動層:Buffer :10%CH3CN、0.1%TFA
流 速:4ml/min
検 出:UV 210nm
【0029】
上記条件でフラクションコレクターを用い、15秒毎に1フラクションずつ採集した。各フラクションから5μlを96穴マイクロプレートに採り、減圧下蒸発乾固後、5μlの精製水で溶解させ、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、フラクション44〜45に強いACE阻害活性が認められた。これら2つのフラクションはそれぞれ凍結乾燥を行い、各々、微量のペプチドが得られた。これらフラクションについて、アミノ酸分析およびTOF MSMS解析を行い、フラクション44〜45のペプチドはLeu−Ser−Alaであることが判明した。
【0030】
フラクション52中のACE阻害活性ペプチドの精製
フラクション52の凍結乾燥ペプチドを200μlの精製水に溶解し、C30カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付し、ペプチドを分画した。以下に条件を記す。
カラム:Develosil C30-UG-5(10mm ID × 250mm L)
移動層:Buffer :14%CH3CN、0.1%TFA
流 速:4ml/min
検 出:UV 210nm
【0031】
上記条件でフラクションコレクターを用い、15秒毎に1フラクションずつ採集した。各フラクションから5μlを96穴マイクロプレートに採り、減圧下蒸発乾固後、5μlの精製水で溶解させ、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、フラクション89〜90とフラクション96〜97に強いACE阻害活性が認められた。これら4つのフラクションはそれぞれ凍結乾燥を行い、各々、微量のペプチドが得られた。これらフラクションについて、アミノ酸分析およびTOF MSMS解析を行い、フラクション89〜90のペプチドはIle−Val−Tyr、フラクション96〜97のペプチドはVal−Ile−Tyrであることが判明した。
【0032】
フラクション54中のACE阻害活性ペプチドの精製
フラクション54の凍結乾燥ペプチドを200μlの精製水に溶解し、C30カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付し、ペプチドを分画した。以下に条件を記す。
カラム:Develosil C30-UG-5(10mm ID × 250mm L、野村化学)
移動層:Buffer :17%CH3CN、0.1%TFA
流 速:4ml/min
検 出:UV 210nm
【0033】
上記条件でフラクションコレクターを用い、15秒毎に1フラクションずつ採集した。各フラクションから5μlを96穴マイクロプレートに採り、減圧下蒸発乾固後、5μlの精製水で溶解させ、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、フラクション69〜73に強いACE阻害活性が認められた。これら5つのフラクションはそれぞれ凍結乾燥を行い、各々、微量のペプチドが得られた。これらフラクションのうちフラクション69、70、72、73について、アミノ酸分析およびTOF MSMS解析を行い、いずれのフラクションのペプチドともLeu−Val−Tyrであることが判明した。
【0034】
実施例2.合成法によるペプチドの合成:
アプライドバイオシステムズ社のペプチド自動合成機(ABI 430モデル)を使用し、プログラムに従ってC端より逐次BOC法によりペプチド鎖を延長し目的の保護ペプチド樹脂の合成をおこなった。
【0035】
樹脂上へのペプチドの構築が終了した後、保護ペプチド樹脂を乾燥した。得られた保護ペプチドの脱保護基とペプチドの樹脂担体からの切り離しは無水フッ化水素処理(HF/p-Cresol 8:2 v/v,60min)によって行った。得られた粗ペプチドは90%酢酸によって抽出し、
凍結乾燥により粉末固体として得た。さらに得られた粗ペプチドをODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーに付し精製を行い、目的のペプチドを得た。
カラム:YMC-Pack ODS-A(30mm ID × 250mm L、ワイエムシィ)
移動層:Buffer A:5%CH3CN、0.1%TFA
Buffer B:40%CH3CN、0.1%TFA
勾 配:0〜10min:0%Buffer B 10〜90min:0〜100 %Buffer B
流 速:20ml/min
検 出:UV 220nm
【0036】
精製ペプチドの純度はODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーで検定した。
カラム:Zorbax 300SB-C18(4.6mm ID × 150mm L、Agilent Technologies)
移動層:Buffer A:1%CH3CN、0.1%TFA
Buffer B:60%CH3CN、0.1%TFA
勾 配: 0〜25min:0〜100 %Buffer B
流 速:1ml/min
検 出:UV 220nm
【0037】
Leu−Ser−Alaの合成
出発アミノ酸樹脂担体はBoc-Ala(BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc-Ser、Boc-Leuを各2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Leu−Ser−Alaを精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、99.0%であった。
【0038】
Val−Ile−Tyrの合成
出発アミノ酸樹脂担体はBoc-Tyr(BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc-Ile、 Boc-Valを各2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Val−Ile−Tyrを精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、98.8%であった。
【0039】
Leu−Val−Tyrの合成
出発アミノ酸樹脂担体はBoc-Tyr(BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc-Val、Boc-Leuを各2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Leu−Val−Tyrを精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、99.2%であった。
【0040】
実施例3.ペプチドのACE阻害活性測定:
実施例2.で得られた3種のペプチドについて、上記の方法に従って、ACE阻害活性を測定し、IC50を求めた。その結果を表1に示す。なお、対象として実施例1で得られたゴマのペプチド粉末のACE阻害活性を測定し、IC50を求めた。
【0041】
【表1】

@0001
【0042】
実施例4.高血圧自然発症ラットを用いたペプチドの降圧作用:
17〜22週齢のSHR系ラットを1晩絶食させ、実施例2.で得られた3種のペプチドを1mg/kgの用量で経口投与した。なお、対照群として同量の水を経口投与したものと比較した。投与前から投与24時間後まで、血圧の推移を非観血式血圧測定装置(BP-98A、SOFTRON 社)によって測定した。その経時変化を図1に示した。
【0043】
実施例5.
実施例2の合成品を用いて、下記の組成の穀物茶飲料を製造した。
配合量
焙煎大麦 60g
熱水 2000ml
製造例2のペプチド
Leu−Ser−Ala 19mg
Val−Ile−Tyr 18mg
Leu−Val−Tyr 18mg
【0044】
製造法
焙煎大麦に熱水を加え、90℃、5分間加熱する。40℃に冷却後、濾過を行い、抽出液に水を加え、2000mlに調整した後、上記ペプチドを加えて攪拌、溶解させ、穀物茶飲料を製造した。
【0045】
実施例6.植物種子蛋白酵素処理物からのLeu−Val−Tyrの単離・定量
米およびオート麦をそれぞれ25gずつ破砕して粉体を作製した。それぞれの粉体に50mlのヘキサンを加え、濾紙(Whattman、No.1)で濾過して溶剤を除去した。同様の操作を計4回繰り返したのち、ヘキサンを除去して、米の脱脂粉体を18.8g、オート麦の脱脂粉体を15.9g得た。
【0046】
それぞれの脱脂粉体10gを200mlの0.01N水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、55℃で1時間攪拌した。室温に冷却後、懸濁液を濾紙(Whattman、No.1)で濾過した。この濾液に0.1N塩酸を加えてpHを4.0に調整した。生じた沈殿を遠心分離して集め、凍結乾燥し、米から0.38g、オート麦から0.57gの粗蛋白質粉末を得た。
【0047】
得られた粉末0.2gを秤量し、10mlの0.1mM CaCl2に懸濁した。懸濁液をpH7.5に調整した後、0.2mgのサーモライシン(7000PU/mg、ナカライテスク)を加えて、緩やかな攪拌を行いながら、65℃、6時間酵素反応を行った。反応時間後、1N塩酸でpHを4.0に調整し、90℃、10分間加温することによりサーモライシンを失活させた。加温により生じた沈殿を、3000rpm、30分の遠心分離により除去した。上清を凍結乾燥して、米からは28.6mg、オート麦からは87.8mgのペプチド粉末を得た。
【0048】
上で得られた米およびオート麦のペプチド粉末からの本発明ペプチドの一つであるLeu−Val−Tyrの単離および定量を、以下のように実施した。
【0049】
i) PD−10カラムによる前処理
米およびオート麦から得られたペプチドを20mg秤量し、0.1N酢酸に溶解して5mg/mlとし、ミクロフィルター(Millex−HV、孔径0.45 μm、フィルター径13 mm、Millipore社)で濾過して不溶物を除去した。濾液の2.5mlを0.1N酢酸で平衡化したPD−10カラム(脱塩用カラム、Amersham Biosciences社)に供した。更に3.5 ml容の0.1N酢酸で洗浄した。次いで、追加の3.0ml容の0.1N酢酸で溶出した画分を採取し、濃縮乾固後、0.5mlの水で溶解し、凍結乾燥した。
【0050】
ii) TSK−GEL G2000SWXCを用いたゲル濾過HPLC
PD−10カラムによる前処理をした試料を250μlの45% CH3CN、0.1% TFAに溶解し、2000rpm、5分間、遠心分離した。ミクロフィルター(Millex−HV、孔径0.45 μm、フィルター径13mm、Millipore社)で濾過して不溶物を除去した。
【0051】
濾液の50μlを45% CH3CN、0.1% TFAで平衡化したTSK−GEL G2000SWXC(7.8×300 mm、東ソー(株))に負荷し、45% CH3CN、0.1% TFAでHPLCを実施した(流速0.7 ml/min、検出波長280 nm)。Leu−Val−Tyrの保持時間の前後30秒の間の1分間の溶出液を採取し、濃縮乾固後、0.5 mlの水に溶解し、凍結乾燥した。Leu−Val−Tyrの保持時間は、別に合成Leu−Val−Tyrを同じ条件下のHPLCに供することにより事前に測定した。
【0052】
iii) Develosil C30−UG−5を用いた逆相HPLC(Leu−Val−Tyrの定量)
ゲル濾過で得られた活性ペプチド画分をDevelosil C30−UG−5(3×150mm、野村化学(株))を用いた逆相HPLCにより Leu−Val−Tyrの定量を行なった。TSK−GEL G2000SWXCを用いたゲル濾過HPLCで得られた画分は250μlの5% CH3CN、0.1% TFAに溶解し、2000 rpm、5分間の遠心分離し、そして上清をミクロフィルター(Millex−HV、孔径0.45μm、フィルター径13mm、Millipore社)で濾過して不溶物を除去した。
【0053】
濾液の50μlを5% CH3CN、0.1% TFAで平衡化したDevelosil C30−UG−5に負荷し、下記条件でクロマトグラフィーを実施した。
【0054】
溶離溶剤:
0〜5min:5% CH3CN、0.1% TFA
5〜10min:5〜14% CH3CN、0.1% TFA
10〜35min:14% CH3CN、0.1% TFA
流速:0.4ml
検出波長:280nm
【0055】
Develosil C30−UG−5クロマトグラフィーでの米およびオート麦のペプチドそれぞれのピークであって、標準Leu−Val−Tyrのペプチドの保持時間と一致する保持時間のピークを採取した。この画分を、アミノ酸分析、TOF MS解析およびTOF MS/MS解析に供し、Leu−Val−Tyrであることを確認した。
【0056】
異なる量の標準Leu−Val−Tyrを上述したのと同じ条件下でDevelosil C30−UG−5に負荷し、ピーク面積を負荷量に対してプロットすることにより、検量線を作成した。
【0057】
検量線 Y = 249197X − 2150.6 (R2 = 0.9991)
Y:ピーク面積、X:Leu−Val−Tyr量(μg)
【0058】
米およびオート麦のDevelosil C30−UG−5クロマトグラフィーからのLeu−Val−Tyr画分のピーク面積を、この検量線へ適用した。結果、米およびオート麦からの1mgのペプチド中のLeu−Val−Tyr量は、それぞれ0.71μgおよび1.05μgであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】高血圧自然発症ラットを用い本発明のペプチドの降圧作用を調べた結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Leu−Val−Tyrのアミノ酸配列を有するトリペプチド。
【請求項2】
米、小麦、大麦、オート麦、トウモロコシ、インゲン、ソラマメ、大豆、ゴマより選ばれた一つ以上に由来する蛋白をサーモライシンにより分解することにより得られた請求項1に記載のトリペプチド。
【請求項3】
Leu−Val−Tyrのアミノ酸配列を有するトリペプチドを含有してなる飲食用組成物。
【請求項4】
Leu−Val−Tyrのアミノ酸配列を有するトリペプチドを有効成分として含有してなる、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項5】
Leu−Val−Tyrのアミノ酸配列を有するトリペプチドを有効成分として含有してなる、血圧降下剤。
【請求項6】
1回の摂取量中に0.001mg〜100mgの前記トリペプチドを含む、請求項3記載の飲食用組成物。
【請求項7】
経口投与のための1回の投与量中に0.001mg〜100mgの前記トリペプチドを含む、請求項4記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項8】
経口投与のための1回の投与量中に0.001mg〜100mgの前記トリペプチドを含む、請求項5記載の血圧降下剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−84295(P2009−84295A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306269(P2008−306269)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【分割の表示】特願2006−507670(P2006−507670)の分割
【原出願日】平成16年3月17日(2004.3.17)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】