説明

アンジオテンシン変換酵素阻害剤

【課題】副作用がないかまたは少ない天然物又は天然物に由来する成分を有効成分とするACE阻害剤を提供する。またかかるACE阻害剤を有効成分とすることによって血圧上昇抑制作用を有し、高血圧症の予防に有効に利用することのできる医薬品ならびに飲食物を提供する。
【解決手段】アンジオテンシン変換酵素阻害剤、血圧上昇抑制剤、高血圧の予防剤、および飲食物について、それぞれブルーベリーの葉またはその加工処理物を有効成分として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤に関する。さらに本発明はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤を有効成分とする医薬品および飲食物に関する
【背景技術】
【0002】
高血圧症は現代成人病の最大疾患ともいわれ、その治療あるいは予防は緊急かつ重大な課題となっている。生体の血圧上昇機構の一つであるレニン・アンジオテンシン系ではアンジオテンシン変換酵素(以下、「ACE」とも略記する。)が中心的な役割を果たしている。すなわち、血圧上昇に不活性なアンジオテンシンIはACEにより血管の筋肉を収縮させる作用のあるアンジオテンシンIIへと変換され血圧を上昇させる。一方、血管の筋肉を拡張させる作用があるブラジキニンはACEにより分解され、不活性化される。従って、このACEの働きを阻害すれば、昇圧性ペプチドであるアンジオテンシンIIの生成を抑制し、降圧性ペプチドであるブラジキニンの分解も抑制されて血圧の降下が可能となる。
【0003】
このACEの昇圧作用を阻害する治療薬として、例えば、カプトプリル(D−2−メチル−3−メルカプトプロパノイル−L−プロリン)などの合成治療薬が多数知られているが、これらはアレルギー症状、頭痛、めまい、ふらつき等の副作用をおこす場合がある。
【0004】
一方、上述のような副作用のない天然物又はその分解物を用いる試みもなされ、例えば、牛乳カゼインをトリプシンで分解して得られるペプチド類(例えば、特許文献1など参照)、茶ポリフェノール(例えば特許文献2および非特許文献1など参照)、クロロゲン酸(例えば、特許文献3など参照)等も提案されている。
【特許文献1】特開昭61−36227号公報
【特許文献2】特開昭63−214183号公報
【特許文献3】特開2002−53464号公報
【非特許文献1】松本なつき、原征彦「茶の機能性 第5回 茶の血圧上昇抑制作用」食品工業38 〔10〕78−82(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、副作用がないか若しくは少ない天然物又は天然物に由来する成分を有効成分とするACE阻害剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、かかるACE阻害剤を有効成分とすることによって血圧上昇抑制作用を有し、高血圧症の予防に有効に利用することのできる医薬品ならびに飲食物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、各種の植物抽出物のACE阻害作用について鋭意研究を行なった結果、ブルーベリーの葉に既にACE阻害作用が知られている緑茶よりも有意に高いACE阻害作用があることを見出した。
【0007】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を有するものである:
項1.ブルーベリーの葉またはその加工処理物を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
項2.項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする血圧上昇抑制剤。
項3.項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする高血圧症の予防剤。
項4.項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を発揮する有効量含有する飲食物。
【発明の効果】
【0008】
アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、血圧上昇因子であるアンジオテンシンIIを生成させ、降圧性ペプチドであるブラジキニンを分解する作用を有する。本発明はかかるACEに対して阻害作用を有する製剤、医薬品および飲食物であり、既にACE阻害作用が知られている緑茶と同等か、またはそれよりも有意に高いACE阻害活性を有するブルーベリー葉またはその加工処理物を有効成分とするものである。
【0009】
ブルーベリー葉は天然物であるため、実験例3で示すように、本発明のACE阻害剤、血圧上昇抑制剤、並びに高血圧症の予防剤は、カプトプリルなどの合成医薬品とは異なって、副作用がなく安全である。このため、本発明のACE阻害剤は、飲食物にも応用することができ、高血圧症の予防若しくは改善効果(抗高血圧効果)を有する飲食物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
I.アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤
本発明に用いるブルーベリーは、ツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium)サイアノココス節(Cyanococcus)に属する落葉性もしくは常緑性の低木または半高木果樹である。ブルーベリーはおよそ6種類からなるが、果樹園芸上重要なのは下記の三種である。
【0011】
(1)ハイブッシュブルーベリー(Highbush blueberry, Vaccinium corymbosum. L):オニール、シャープブルー、ジョージア、フローダブルー、レベレイ、スパルタン、ダロウ、デューク、バークレイ、ハリソン等。
【0012】
(2)ラビットアイブルーベリー(Rabbiteye blueberry, V.ashei reade):ウッダード、ガーデンブルー、ティフブルー、ホームベル、マイヤー等。
【0013】
(3)ローブッシュブルーベリー(Lowbush blueberry, V.angstifolium Micaux; V.myrtilloides Aition):チグネクト、ブロンズウィック、ブロミドン等。
【0014】
特に制限はされないが、本発明では、中でも高いACE阻害作用を有するラビットアイブルーベリー種の葉を用いるのが望ましい。
【0015】
ブルーベリーの葉はそのまま又は加工処理して用いる。加工処理方法としては、実用的には乾燥処理、粉砕処理、搾汁処理、溶媒抽出処理を挙げることができる。なお、粉砕処理および溶媒抽出処理は、生葉の状態で行ってもよいし、また乾燥処理後に行うこともできる。これらの処理は1種単独で行ってもよいし、また2種以上を組み合わせて行うこともできる。好ましくは、乾燥粉砕処理および溶媒抽出処理である。
【0016】
乾燥粉砕処理は、ブルーベリーの葉をそのまま乾燥した後粉砕するか、または生葉を細く切断した後、乾燥することによって行うことができる。ここで乾燥方法は、ブルーベリーの葉が有するACE阻害作用を損なわなければ、特に制限はなく、真空凍結乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥、減圧乾燥、マイクロ波減圧乾燥及び加熱蒸気乾燥等を広く用いることができる。なかでも、成分変化の少ない真空凍結乾燥によるのが実用的である。
【0017】
溶媒抽出処理は、ブルーベリーの葉をそのままもしくは破砕物とした後、溶媒で抽出するか、または乾燥後必要に応じて粉砕物とした後、溶媒で抽出することによって行うことができる。また葉を搾って得られる搾汁を抽出原料として使用することもできる。この場合、必要に応じて搾汁原液を濃縮または乾燥した後に溶媒抽出に供してもよい。
【0018】
ここで溶媒抽出に使用する溶媒は、特に制限されないが、水、水と相溶性のある極性溶媒、またはこれらの混合物の使用が好適である。水と相溶性のある極性溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルキルアルコール;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール類;エチルエーテルまたはアセトン等を例示することができる。これらの極性溶媒は二種以上組み合わせて使用することもできる。例えば、アセトンとエチルエーテルの混合溶媒、好ましくはアセトンとエチルエーテルの1:1(v/v)混合溶媒を挙げることができる。
【0019】
抽出溶媒として、好ましくは水、炭素数1〜4の低級アルキルアルコールまたはこれらの混合物(含水アルコール)である。安全性の観点からは、水、エタノールまたはこれらの混合物(含水エタノール)の使用が実際的である。含水アルコール中のアルコール濃度は、一般的に5〜90容量%である。
【0020】
溶媒抽出方法としては、溶媒中に、ブルーベリー葉をそのまま若しくは乾燥した状態で、またはブルーベリー葉の粗末物、細切物、粉砕物若しくはそれらを乾燥した状態(例えば乾燥粉砕物)で、冷浸または温浸等によって浸漬し抽出するのが一般的である。加温下または室温下で撹拌若しくは超音波をかけながら抽出し、ろ過して抽出液を得ることもできる。また、パーコレーション法によってもよい。例えば、制限はされないが、例えば水または含水エタノール(例えば80%エタノール水溶液)による撹拌抽出を採用する場合、溶液温度は望ましくは室温であり、浸漬時間は30秒〜1時間の範囲を例示することができる。
【0021】
斯くして得られた抽出物は、必要に応じてろ過または遠心分離などにより固形物を除去する。次工程に応じて、固形物を除去した濾液または上清をそのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮もしくは減圧乾燥や凍結乾燥等によって乾燥固化して用いてもよい。本発明においては、上記溶媒抽出液を濃縮あるいは乾燥固化し、必要に応じて適正な洗浄溶媒、例えば非溶解性溶媒で洗浄精製した後、ブルーベリー葉乾燥抽出エキスとして使用することもできるし、またこれをさらに適当な溶剤、例えば水、エタノールまたはこれらの混合液(含水エタノール)に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。
【0022】
本発明のACE阻害剤は、上記の如くブルーベリー葉またはその加工処理物(粉砕物、搾汁もしくは抽出物など)(固体または液体状)からなるものであってもよいが、必要に応じてさらに薬学的もしくは食品上許容される担体または添加剤を含有するものであってもよい。後者の場合、ACE阻害剤中に含まれるブルーベリー葉またはその加工処理物の割合としては、最終ACE阻害剤がACE阻害作用を有する限り制限されず、ACE阻害剤100重量%中にブルーベリー葉またはその加工処理物を通常1〜99.5重量%の範囲で配合することができる。なお、ブルーベリー葉の加工処理物の場合、ACE阻害剤100g中、ブルーベリー葉の乾燥重量に換算して約0.1〜1000gの割合で配合することができる。
【0023】
かかる本発明のACE阻害剤は、医薬品または機能性飲食物の有効成分として有用である。当該医薬品または飲食物は、上記ACE阻害剤を、ACE阻害作用を発揮する有効量含有することに基づいて、血圧上昇抑制作用、または高血圧症状を予防若しくは改善する作用を有する。よって本発明は、上記ACE阻害剤を有効成分として含む医薬品(血圧上昇抑制剤、または高血圧症の予防剤)を提供する。さらに本発明は、上記ACE阻害剤を、ACE阻害作用を発揮する有効量含有する飲食物を提供する。
【0024】
II.医薬品(血圧上昇抑制剤、高血圧症の予防剤)
本発明の医薬品(血圧上昇抑制剤、または高血圧症の予防剤)は、上記ACE阻害剤だけからなるものであってもよいが、通常当該ACE阻害剤に加えて薬学的に許容された担体または添加剤とともに調製される。
【0025】
本発明の医薬品(血圧上昇抑制剤、または高血圧症の予防剤)は、その形態は特に問わないが、経口に適した形態であることが好ましい。経口投与用固形医薬製剤としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の形態を、また経口投与用液状医薬製剤としては、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などの形態を挙げることができる。これらの製剤の調製にあたっては、各種製剤の形態に応じて薬学的に許容された賦形剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、滑沢剤、溶解補助剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定化剤、保存剤、等張化剤、着色料、矯味矯臭剤、甘味剤、pH調整剤等を適宜配合することができる。
【0026】
本発明の医薬品(血圧上昇抑制剤、または高血圧症の予防剤)中に含まれる上記ACE阻害剤の量ならびに投与量は、患者の体重、年齢、病態などの諸条件に応じて適宜選択することができる。医薬品中のACE阻害剤の割合は、特に制限されないが、ブルーベリー葉またはその加工処理物が通常1〜99.5重量%の範囲で含まれるような割合を挙げることができる。投与量としては、体重60kgのヒトに対して1日投与あたりブルーベリー葉の乾燥重量換算値で、約0.1〜50g、好ましくは約0.2〜10g、より好ましくは約0.3〜6gの範囲を挙げることができる。
【0027】
なお、投与は1日1回である必要はなく、1日2〜3回に分割して投与することも可能であり、医薬品の形態に応じて適切な投与経路、例えば経口投与により投与することができる。
【0028】
III.飲食物
本発明が対象とする飲食物は、上記ACE阻害剤(ブルーベリー葉またはその加工処理物を有効成分とする)を、ACE阻害作用を発揮する有効量含むことによって血圧上昇抑制作用を有する飲食物であるが、当該飲食物には血圧上昇抑制機能を有することを特徴とする特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む)が含まれる。当該特定保健用食品は、ACE阻害作用を発揮する有効量のブルーベリー葉またはその加工処理物を含有することを特徴とするものであって、食品の包装パッケージまたはその広告にその作用効果(血圧上昇抑制作用、高血圧改善作用)に関する記載を付することが可能な食品である。
【0029】
本発明の飲食物も、その形態は特に制限されない。例えば、上記ブルーベリー葉またはその加工処理物を有効成分とするACE阻害剤に、必要に応じて食品上配合が許容される担体や添加剤を配合して、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、トローチ剤、または溶液(ドリンク)等の形態に調製したものであってもよいし(サプリメント)、また原料として上記ACE阻害剤を、ACE阻害作用を発揮する量使用して調製される、飲食物(機能性飲食物)の形態をとることができる。
【0030】
機能性飲食物の適用例としては、本発明のACE阻害剤を、ACE阻害作用を発揮する有効量の割合で添加した、次の形態のものを挙げることができる。
(1)乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜
飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料などの飲料類。
(2)カスタードプリン、ミルクプリン、スフレプリン、果汁入りプリン等のプリンゼリー、ババロア、ヨーグルト等のデザート類。
(3)アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、氷菓等の冷菓類。
(4)チューインガムや風船ガム等の板状または糖衣錠ガム類。
(5)マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類。
(6)ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類。
(7)ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類。
(8)コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類。
(9)味噌、醤油、ドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース、ふりかけなどの各種調味料。
(10)ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類。
(11)赤ワイン等の果実酒。
(12)シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工果実。
(13)ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品。
(14)魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、鯨ベーコン等の水産練り製品。
(15)うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類。
(16)その他、各種総菜及び麩、田麩等の種々の加工食品。
【0031】
飲食物(サプリメント、機能性飲食物)における上記ACE阻害剤の含有量、ならびに飲食物の摂取量は、飲食物の種類、その他の諸条件に応じて適宜選択することができる。飲食物中のACE阻害剤の割合は、当該飲食物を摂取することによってACE阻害作用を発揮する割合であれば特に制限されず、ブルーベリー葉またはその加工処理物が通常1〜99.5重量%の範囲で含まれるような範囲で適宜調整することができる。望ましい飲食物の摂取量として、例えば体重60kgのヒト1日摂取あたりのACE阻害剤の量が、ブルーベリー葉の乾燥重量に換算して、約0.1〜50g、好ましくは0.2〜10g、より好ましくは0.3〜6gとなる割合を例示することができる。
【0032】
本発明の飲食物は、成分として含有するブルーベリー葉またはその加工処理物に起因して血圧上昇抑制作用を有し、血圧の上昇によって生じる高血圧状態を改善する作用を発揮する。このため、本発明の飲食物は、血圧の上昇を抑制して血圧を適正域に維持するための飲食物として、また高血圧に起因する各種の病態や疾患の発症や進行を予防するための飲食物として有効に使用することができる。
【実施例】
【0033】
次に実施例及び実験例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例などに制限されるものではない。
【0034】
実施例1 ブルーベリー葉水抽出物の調製
ブルーベリー葉としてラビットアイブルーベリー種のホームベルの葉を使用して水抽出物を調製した。具体的には、ラビットアイブルーベリー種のホームベルの生葉を凍結温度−30℃、乾燥温度30℃、乾燥時間24時間で真空凍結乾燥(真空凍結乾燥機、FTSSYSTEM、Dura―TOP MP&Dura―Dry MP)した。次いで、超遠心粉砕機(MRK&RETSCH、EM-1型)の0.5mmスクリーンを通して粉砕し、ブルーベリー葉の凍結乾燥粉末物を得た。得られた葉の凍結乾燥粉末物の0.3gに蒸留水10mlを加え、室温で超音波洗浄機を用い15分間抽出後、3000rpmで10分間遠心分離し、上清を0.45μフィルターにて濾過して固形物を除いて濾液(6.9ml)を取得し、これをブルーベリー葉水抽出物とした。
【0035】
実施例2 ブルーベリー葉水抽出物の調製
ブルーベリー葉として北部ハイブッシュブルーベリーのハリソンの葉を使用して、実施例1と同様にしてブルーベリー葉水抽出物(6.9ml)を調製した。
【0036】
実施例3 ブルーベリー葉水抽出物の調製
ブルーベリー葉として北部ハイブッシュブルーベリーのスパルタンの葉を使用して、実施例1と同様にしてブルーベリー葉水抽出物(6.9ml)を調製した。
【0037】
実験例1 ACE阻害活性の評価
実施例1〜3で調製した各ブルーベリー葉水抽出物(被験抽出物)についてACE阻害活性を測定した。ACE阻害活性の測定は、食品の機能性マニュアル集(農林水産省農林水産技術会議事務局、1999)に従って、下記の方法で行った。なお、比較のため、ブルーベリーの可食部であるブルーベリー果実の水抽出物、並びにACE阻害能が既に知られている緑茶の水抽出物についても同様にACE阻害活性を測定した。なお、緑茶の水抽出物は、緑茶葉やぶきた種の凍結乾燥粉末0.3gを用いて実施例1と同様に処理して調製した(7.0ml)。またブルーベリー果実の水抽出物は、ラビットアイブルーベリー種ホームベルの果実の凍結乾燥粉0.3gを用いて実施例1と同様に処理して調製した(6.3ml)。
【0038】
<ACE阻害活性の測定>
4.7mMのHHL溶液〔400mMリン酸緩衝液(pH8.5)1mlにHippryl-His-Leu(ICN社製)2mgを溶解した溶液〕0.1mlに、被験抽出物0.05mlを添加混合し、そこに0.025U/mlのACE溶液〔ACE(ウシ肺由来、和光純薬製)0.2Uを蒸留水8mlで溶解した溶液〕を0.1ml添加して、37℃で30分間反応を行った。次いで0.3M NaOH 1.5mlを添加して終了させた。反応終了後にメタノールに溶解した2%オルトフタルアルデヒド溶液0.1mlを加え攪拌して静置し、正確に10分後、3M HCl 0.2mlを加え反応を停止した。この液を蒸留水にて250倍に希釈し、蛍光分光光度計(島津製作所製、RF―5000)にて90分後の蛍光強度(励起波長360nm、蛍光波長480nm)を測定した。測定はn=3で行った。各被験抽出物のACE阻害活性は、被験抽出物を配合しないHHL溶液を用いて同様に測定したACE活性を100%にした場合に、ACE活性が50%を示すときの、反応液中の被験抽出物の濃度(IC50[mg/ml])として示す。値が小さいほど、ACEに対する阻害活性が高いことを意味する。
【0039】
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
この結果から、ブルーベリー葉の中でもラビットアイ種およびハイブッシュ種に、既にACE阻害活性が認められている緑茶抽出物よりも高いACE阻害活性があることがわかる。また、ブルーベリーの果実よりも葉の方に高いACE阻害活性が認められ、このことからブルーベリー葉の中にACE阻害活性成分が多く含まれることが認められた。
【0042】
実験例2 ACE阻害活性の評価(その2)
ラビットアイブルーベリー種ホームベルの葉および果実に含まれるポリフェノール組成について測定したところ、クロロゲン酸の含有量が高いことがわかった。クロロゲン酸についてはACE阻害作用を有することが既に知られている。そこで実施例1で調製したブルーベリー葉水抽出物について、そのACE阻害活性に対するクロロゲン酸の寄与率を検討した。
【0043】
(1)クロロゲン酸の定量
実施例1の方法で調製したブルーベリー葉水抽出物(ホームベル[ラビットアイ種])のクロロゲン酸含量(重量%)を、下記条件の高速液体クロマトグラフィーを用いて定量した。
【0044】
<HPLC条件>
分析装置:高速液体クロマトグラフ島津LC―VP
カラム:SINWA CHEMICAL INDUSTRIES,LTD
STR-ODSII 250mm×4.6mm
カラム温度:40℃
移動相A:0.05%トリフルオロ酢酸
移動相B:100%メタノール
注入量:10μl
流量:1ml/min
検出器:UV検出器 SPD−vp 検出波長270nm。
【0045】
(2)クロロゲン酸のACE阻害活性の測定
クロロゲン酸を蒸留水に0.05〜5mg/ml濃度となるように溶解し、この溶液を被験試料として実験例1の方法に従って、クロロゲン酸のACE阻害活性(IC50)を測定した。
【0046】
(3)ブルーベリー葉水抽出物のACE阻害活性に対するクロロゲン酸の寄与率
下式により、実施例1のブルーベリー葉水抽出物のACE阻害活性(IC50)に対するクロロゲン酸の寄与率を算出した。
【0047】
【数1】

【0048】
結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2よりブルーベリー葉水抽出物(実施例1)中にはクロロゲン酸が2.5%含まれているが、そのブルーベリー葉水抽出物のACE阻害活性に対する寄与率は5.7%程度にすぎなかった。このことから、ブルーベリー葉水抽出物のACE阻害活性は、クロロゲン酸以外の成分が大きく関与していることが示唆された。
【0051】
実験例3 血圧上昇抑制作用の評価
高血圧自然発症ラット(SHR: Spontaneously Hypertension Rats) (5週齢、供給元:日本エスエルシー(株))に、ブルーベリー葉乾燥粉末を3週間摂取させて血圧およびその他身体への影響を検討した。なお、ブルーベリー葉乾燥粉末は、実施例1に記載する方法と同様に、ラビットアイブルーベリー種のホームベルの生葉を凍結温度−30℃、乾燥温度30℃、乾燥時間24時間で真空凍結乾燥し、次いでこれを超遠心粉砕機の0.5mmスクリーンを通して粉砕することによって調製した。
【0052】
具体的には、上記ラット15匹を、LB群、HB群およびControl群の3群(3群×5匹)に分け、各群のラットに、ブルーベリー葉乾燥粉末を3重量%の割合で混入した飼料(LB飼料)、ブルーベリー葉乾燥粉末を5重量%の割合で混入した飼料(HB飼料)、およびブルーベリー葉乾燥粉末非混合の飼料(Control飼料)を3週間に亘って摂取させた。各飼料の組成を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
飼料投与前および飼料投与から1週間毎に、各ラットの血圧を小動物血圧測定装置(MK-2000BP、室町器械(株)製)を用いて測定した。また、飼料投与前および飼料投与3週間目に体重を測定するとともに、3週間目に飼料の総摂取量および肝臓重量を調べた。
【0055】
血圧の測定結果を図1に示す。図1に示すように、ブルーベリー葉乾燥粉末を摂取させることによって高血圧自然発症ラットの血圧上昇が有意に抑制され、ブルーベリー葉に血圧上昇抑制作用があることが確認された。
【0056】
表4に、各群ラットの体重の変動、摂取飼料の総量、および肝臓重量(体重100gあたりのg数)を示す。
【0057】
【表4】

【0058】
この結果からわかるように、ブルーベリー葉乾燥粉末を摂取することによって、食欲低減ならびに肝臓などの臓器重量の変化はとくに認められず、ブルーベリー葉の安全性が確認された。
【0059】
また、ブルーベリー葉乾燥粉末を1重量%の割合で混入した飼料を同様にして2週間に亘って摂取させた場合もラットの血圧上昇が有意に抑制され、ブルーベリー葉の血圧上昇抑制作用が確認された。
【0060】
これらの結果から、血圧上昇抑制に効果を発揮するブルーベリー葉の投与量は下記の式から算出することができる:
(1) 最低投与量(ラット1kgあたり、1日あたり)
355g(飼料の総摂取量)÷ 21日間× 1% ÷ 171.5g(ラット平均重量)×1000 = 0.99
(2) 最高投与量(ラット1kgあたり、1日あたり)
355g(飼料の総摂取量)÷ 21日間× 5% ÷ 167g(ラット平均重量)×1000 = 5.06
これから、血圧上昇抑制に効果を発揮するブルーベリー葉のラットに対する投与量は、約0.5〜10g/kg・day、好ましくは1〜5 g/kg・day。これを体重60kgのヒト一日摂取量に換算すると30〜600g/day、好ましくは60〜300g/day。経験上、ヒトに対する効果は実験動物(ラット)の1/100量で得られるため、上記換算量を体重60kgのヒトに対する有効量に換算すると、ヒト一日摂取量は0.3〜6g/day、好ましくは0.6〜3g/dayと考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実験例3で行ったブルーベリー葉乾燥粉末摂取による血圧上昇抑制効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブルーベリーの葉またはその加工処理物を有効成分とするアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項2】
請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする血圧上昇抑制剤。
【請求項3】
請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を有効成分とする高血圧症の予防剤。
【請求項4】
請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害剤を、アンジオテンシン変換酵素阻害作用を発揮する有効量含有する飲食物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−217406(P2007−217406A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6796(P2007−6796)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(392001933)雲海酒造株式会社 (11)
【Fターム(参考)】