説明

アンジオテンシン変換酵素阻害性降圧ペプチド組成物の製造方法

【課題】アンジオテンシン変換酵素を阻害する活性をもち、このことにより、血圧降下作用を示す有用な5種類のジペプチドおよびそれを含有するペプチド組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】魚肉性タンパク質を、食品工業用プロテアーゼをpH5.0〜9.0の至適条件下に40〜60℃の温度で反応させ、これにより該水不溶性タンパク質の酵素的加水分解を行い、得られた含水の加水分解反応混合物から疎水性樹脂カラム法により得られた吸着画分をさらに限外ろ過(分子量1000)に負荷することから成る、透過画分の組成物、又はTrp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ile、Val−Tyr又はTrp−Asnのアミノ酸配列を有するジペプチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害する活性をもち、このことにより、血圧降下作用を示す有用な5種類のジペプチドおよびそれを含有するペプチド組成物の製法に関するものである。本発明の新規な製法は、魚肉性タンパク質、特に鰹節を熱水抽出した時の残渣として残る不溶性タンパク質をプロチンNY100(天野エンザイム),サモアーゼPC10F(大和化成)酵素により加水分解して得られるジペプチドを疎水性樹脂に吸着させた後、含水アルコールにより脱着、さらに限外ろ過膜(分子量1000)に透過させること、その強いACE阻害活性画分は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤及び血圧降下剤の有効成分として利用できる。本発明のジペプチドを含有するペプチド組成物は高血圧症の治療または予防に有用であると期待される。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は代表的な生活習慣病であり、その患者数は予備軍を含め、5490万人といわれている(厚生労働省:平成18年国民健康・栄養調査結果)。高血圧症は脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、腎硬化症等種々の合併症を引き起こすことが知れており、高血圧症の発症メカニズムについて様々な研究が行われてきている。
【0003】
血圧の調節系として、昇圧に関与するレニン・アンジオテンシン系と降圧に関与するカリクレイン・キニン系が重要な役割を果たしている。レニン・アンジオテンシン系では肝臓から分泌されるアンジオシノーゲンが腎臓で生産されるレニンによってアンジオテンシンIとなり、更にアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンIIに変換される。このアンジオテンシンIIは血管平滑筋を収縮させ、血圧を上昇させる。一方、降圧系のカリクレインはキニノーゲンに作用してブラジキニンを産生する。このブラジキニンには血管を拡張して血圧を下げる効果があるが、ACEにはこのブラジキニンを分解してしまう作用がある。このように、ACEは昇圧ペプチドであるアンジオテンシンIIの産生と降圧ペプチドであるブラジキニンの不活化という二つの作用によって血圧の上昇に関与していることが知られている。
従って、このACEの酵素活性を抑制することにより血圧の上昇を抑制することが可能となる。このACE阻害活性物質として開発されたプロリン誘導体であるカプトプリル(D−2−メチル−3−メルカプトプロパノイル−L−プロリン)やエナラプリル等は高血圧症の治療に広く用いられている。
【0004】
また、最近では食品素材タンパク質の酵素分解物であるペプチドにACE阻害活性のあることが報告されている。例えば、ゼラチンのコラーギナーゼ分解物(特許文献1)、カゼインのトリプシン分解物(特許文献2、特許文献3および特許文献4)、イワシ筋肉のペプシン分解物(特許文献5)、かつお節のサーモライシン分解物(特許文献6)、ゴマ蛋白のサーモライシン分解物(特許文献7)、κ−カゼインのペプシン等の分解物(特許文献8)等多数の報告がなされている。天然物由来のアンギオテンシン変換酵素阻害剤は食品あるいは食品原料から得られるので低毒性で安全性の高い降圧剤となることが期待されるからである。
微生物あるいは種々の食品中にもACE阻害物質が見い出され、降圧剤としての実用化が検討されている(非特許文献1)。
そしてACE阻害活性を有するペプチドの製造法についても、幾つかの報告が為されている(特許文献9、10、11、12、13、14、15)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−148631号公報
【特許文献2】特開昭58−109425号公報
【特許文献3】特開昭61−36226号公報
【特許文献4】特開昭61−36227号公報
【特許文献5】特開平3−11097号公報
【特許文献6】特開平4−144696号公報
【特許文献7】特開平8−231588号公報
【特許文献8】特開平8−269088号公報
【特許文献9】特開平6−7188号公報
【特許文献10】特許第2794094号公報
【特許文献11】特許第2873318号公報
【特許文献12】特開2006−347937号公報
【特許文献13】特開2001−240600号公報
【特許文献14】特開平6−298794号公報
【特許文献15】特開2010−155788号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】末網邦男、発酵と工業、46巻(No.3)、179〜182頁(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品素材由来のACE阻害活性を有するペプチドは副作用、毒性等の安全性の点でも問題が少なく、通常の食品として摂取することが可能であることが大きな利点となっている。
しかし、上記の報告のペプチドの多くのものは、それの構成アミノ酸数が5以上のものである(特許文献1、2、3、4、5、8)。これらアミノ酸残基数の多いペプチドは摂取後にペプシン、トリプシン、キモトリプシン等の消化酵素により分解され易く、それらのACE阻害活性が生体中で消失したり、また、分解されない場合でもその分子構造が大きいために吸収され難いといわれている。
さらに、ACE阻害ペプチド組成物やその製法については、特許文献9では限外ろ過膜(分子量3000−10000)透過液から低分子成分の逆浸透膜により除去した画分の血圧降下作用を有するACE阻害ペプチド混合物を得ているが、塩、遊離アミノ酸の除去による阻害活性の上昇を目的としており、分画には至っておらず、逆浸透膜での具体的な成分ペプチドの追跡を明確にしていない。特許文献10ではいちじく由来の分子量10000以下の物質からカラムクロマトグラフィーにより分離精製、目的とするオリゴペプチドを得ることができるとしているが、合成で製造できること、その単離方法に終始しており、具体的に天然物から産業上有効な工業生産できるには至っておらず、限外ろ過膜10000の精製までしか示されていない。特許文献11ではゼインまたはグルテンミールのサーモライシン加水分解物であって、分子量が10000以下の画分の含有量が固形分基準で30%以上であるゲルろ過や限外ろ過により得る方法があるが、分子量10000透過液に含まれる分子量1000以下の含有量が95%であることの根拠が示されていない。特許文献12では畜肉タンパク質由来の血圧降下ペプチドであって、ミオシン、アクチンをアマノS等の酵素で加水分解したペプチド含有組成物を得ているが、精製については、ラボスケールに止まっており、単離ペプチドの合成が記載されている。その工業的大量生産は一般的な酵素調製方法を述べているに過ぎない。また、阻害ペプチドの精製に、樹脂を用いているが、構造決定をその目的としている。特許文献13ではタンパク質のACE阻害酵素分解物を平均細孔直径3nm以下の活性炭を用いて処理する方法が記載されており、ACE阻害活性を低下させることなく、苦みや臭いを除去することができたとしている。阻害活性の上昇を目的とはしていない。特許文献14では合成樹脂に接触させて非吸着画分に苦みペプチドを除去する方法を提案しており、非吸着画分に阻害活性が残存することと記載されている。一方、本発明では吸着画分に高ACE阻害活性が認められ、非吸着画分にはACE不阻害活性が示された。さらに限外ろ過の透過液により消化耐性に優れた低分子のACE阻害活性ペプチドを得ることができる製法に関する。
【0008】
したがって、本発明の課題は、経口摂取したとき消化酵素により分解されにくく、体内でのACE阻害活性が失われにくい、そのままで小腸粘膜吸収可能な、ACE阻害活性を有するジペプチドを含有するペプチド組成物の製法を提供することである。
さらに、本発明は上記のジペプチドを一種以上含有してなるアンジオテンシン変換酵素阻害剤あるいは血圧降下剤あるいは飲食用組成物(飲食料)を提供する。
【0009】
上記のように、天然有機物および食品由来のアンジオテンシン変換酵素阻害物質は、人体に対する安全性をもつことから重要性が高く、生活習慣病予防のためにも大きな研究課題である。
【0010】
本発明は、この課題を解決するためになされたものであって、アンジオテンシン変換酵素を有効に阻害することにより、血圧上昇を抑制する新規で安全な物質を、食品素材から見出し、その阻害物質の構造を明らかにするとともに、品質および価格面から適度な濃縮法を開発し、アンジオテンシン変換酵素阻害物質を含む食品素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
鰹節を熱水抽出した後に残渣として残る水不溶性タンパク質を、プロテアーゼであるプロチンNY100(天野エンザイム)で加水分解して得られた生成分解物中に、上記問題を解決するペプチドが存在するのではないかと考え、該生成分解物の中にアミノ酸数が2以下でACE阻害活性を有するペプチドが含有されるか、探索を行った。
その結果、下記のアミノ酸配列をもち且つACE阻害活性を有する5種のジペプチドを、鰹節熱水抽出残渣である水不溶性タンパク質のプロチンNY100(天野エンザイム)による加水分解生成物から中に見出し、それらジペプチドを単離することに成功して本発明を完成するに至った。
【0012】
第1の本発明では、Trp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ile、Val−Tyr、Trp−Asnそれぞれ表されるアミノ酸配列を有するジペプチドであって、しかもアンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するジペプチドを提供する。
また、本発明は上記ジペプチドを一種以上含有してなる飲食用組成物、アンジオテンシン変換酵素阻害剤および血圧降下剤を提供する。
【0013】
本発明者らが種々研究を行い、その結果として、鰹タンパク質の中に、アンジオテンシン変換酵素阻害物質の存在が推測され、そして、この鰹節タンパク質中のアンジオテンシン変換酵素阻害物質が、逆相分配系樹脂に吸着される性質のものであることが判ってきた。さらに、限外ろ過(分子量1000)膜透過液に消化耐性な高活性画分が得られることも分かった。この阻害物質が、鰹節を原料とし熱水抽出により得られた不溶性タンパク質残渣を、プロテアーゼ、好ましくは、食品工業用のプロテアーゼ、特に、プロチンNY100(天野エンザイム),又はサモアーゼPC10F(大和化成)で分解して、疎水性吸着樹脂に吸着させ、含水有機溶媒により溶出させ、さらに、限外ろ過膜(分子量1000)処理によりACE阻害透過画分が高収量で得られ、かつ簡単に濃縮できること、そして、得られた阻害物質中の各成分について、UPLCクロマトグラフィーを用いて、ACE阻害活性の強い成分を単離し、その成分の阻害活性値(IC50値)の測定および構造解析を行ったところ、この成分で表されるアミノ酸配列をもち且つアンジオテンシン変換酵素阻害活性をもつジペプチドであることが判ってきたことによるものである。
【0014】
上述の目的を達成するための手段として、Trp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ile、Val−Tyr、Trp−Asnよりなるアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドを主とするアンジオテンシン変換酵素阻害物質を提供し、また、鰹節熱水抽出残渣タンパク質を、プロテアーゼ、例えば、プロチンNY100(天野エンザイム)、又はサモアーゼPC10F(大和化成)で分解後、直ちに疎水性吸着樹脂に吸着させ、含水有機溶媒で溶出し、限外ろ過膜(分子量1000)透過液に高いACE阻害活性を有することを特徴とするアンジオテンシン変換酵素阻害物質の製造法を提供するものである。一般に、限外ろ過膜処理は、数日間を要することから、その使用に関しては、腐敗の問題が解決されておらず、現在も食品での使用は例を見ない。課題として、温度を下げる、pHを下げることは、設備費用、ランニングコストの問題、塩酸の使用による品質の問題から明確な解決法は見あたらない。また、限外ろ過膜(分子量10000)と、逆浸透膜の併用があるが、本発明の様に正確な分子量分画はなされていない。本発明はこの点を改良し、疎水性樹脂処理の脱着を50%エタノール溶液で行うことにより、阻害活性のない画分と遊離アミノ酸を除去して精製1段階目のACE阻害活性を上昇させること、さらに、次にアルコール存在下による限外ろ過膜(分子量1000)処理工程による透過液に高活性成分が認められ、腐敗のない安定した製造工程により本発明は完結する。
【0015】
疎水性吸着樹脂すなわち芳香族系修飾型樹脂(例えば、三菱化学製:セパビーズSP207)は、芳香環に臭素を化学的に導入した芳香族系(スチレン−ジビニルベンゼン系)合成吸着剤で、細孔表面の疎水吸着性が強いことから親水性の高い有機物(疎水性が低い物質)に対しても優れた吸着性能を発揮すると思われ、アミノ酸分離精製、タンパク質除去、天然抽出物精製、発酵液前処理等に用いられてよい。
【0016】
本発明で用いるジペプチドは鰹節熱水抽出残渣タンパク質の酵素分解法、有機化学的な合成方法によりアミノ酸を段階的に導入する方法、加水分解酵素の逆反応を利用したペプチド合成法、遺伝子工学的方法等によって製造することができる。
【0017】
鰹節熱水抽出残渣である水不溶性タンパク質の酵素分解法により前記のジペプチドを製造する方法について説明する。原料の鰹節タンパク質として、それをさらに精製した熱水抽出不溶性画分を用いる場合について説明する。
【0018】
作用酵素としては、好ましくは、食品工業用途のプロテアーゼを挙げることができる。例えば、プロチンNY100(天野エンザイム)、又はサモアーゼPC10F(大和化成)を挙げることができる。ここで、プロチンNY100(天野エンザイム)は、Bacillus amyloliquefaciens由来のもので、至適pHは7.0、至適温度は55℃である。また、サモアーゼPC10F(大和化成)は、Bacillus stearothermophilus由来のもので、至適pHは7.0〜8.5であり、至適温度は65〜70℃である。一方、基質濃度は反応時に攪拌混合ができる範囲内であればいずれでもよいが、攪拌が容易なタンパク質濃度2〜30%(w/v)の範囲で行うのが好ましい。添加量は力価により異なるが通常はタンパク質あたり0.01重量%以上、好ましくは0.1 〜10重量%が適当である。反応のpH、温度は至適pH、至適温度付近を用いればよく、pH5.0〜9.0、好ましくは6.0〜7.5、温度40〜60℃好ましくは45〜55℃が適当である。反応中のpHの調整は必要に応じ水酸化ナトリウム水溶液、塩酸等により行う。
【0019】
酵素反応時間は酵素の添加量、反応温度、反応pHによって異なるため一定ではないが、通常は1〜50時間程度である。
【0020】
酵素分解反応の停止は、加水分解物の加熱、pHの変化による酵素の失活など公知の方法に従って行うことができる。ついで加水分解液を固液分離(例えば遠心分離、濾過等) し、分離液を限外濾過、ゲル濾過等により分別して例えば分子量が 10000以下の画分を含有する液を得る。この液中には本発明のジペプチドが含有されており、以下この液またはその濃縮物(例えばスプレードライ) をさらに分別して目的のジペプチドを得ることが出来る。
【0021】
本ジペプチドの酸付加塩は常法により製造することができる。例えば本ジペプチド(塩基性アミノ酸残基を含むもの)とそれに対し1当量の適当な酸とを水中で反応させて凍結乾燥することにより得ることができる。
【0022】
本ジペプチドおよびその酸付加塩はACE阻害作用ひいては血圧降下作用を有しヒトをはじめとする哺乳動物の高血圧症の治療、予防に有効であると期待される。
【0023】
本ジペプチドおよびその酸付加塩はそのまま、または通常少なくとも1つの製薬補助剤と製薬組成物にして使用する。
【0024】
本ジペプチドおよびその酸付加塩は非経口的(すなわち、静脈注射、直腸投与等)または経口的に投与し、各投与方法に適した形態に製剤することができる。
【0025】
注射剤としての製剤形態は、通常滅菌水溶液を包含する。上記形態の製剤はまた緩衝剤pH調節剤(リン酸水素ナトリウム、クエン酸等)、等張化剤(塩化ナトリウム、グルコース等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、P−ヒドロキシ安息香酸プロピル等)等の水以外の他の製薬補助剤を含有することができる。該製剤は細菌保持フィルターを通す濾過、組成物への殺菌剤の混入、組成物の照射や加熱によって滅菌することができる。該製剤はまた殺菌固体組成物として製造し、用時滅菌水等に溶解して使用することもできる。
【0026】
経口投与剤は胃腸器官による吸収に適した形に製剤する。錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、粉末剤は常用の製薬補助剤、例えば結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガカント、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等)、賦形剤(ラクトース、シュガー、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビット、グリシン等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(ポテトスターチ、カルボキシメチルセルロース等)、湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)を包含することができる。錠剤は常法によりコーティングすることができる。経口液剤は水溶液等に、ドライプロダクトにすることができる。そのような経口液剤は常用の添加剤例えば保存剤(p−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル、ソルビン酸等)を包含していてもよい。
【0027】
本ACE阻害剤あるいは血圧降下剤中の本ジペプチドまたはその酸付加塩の量は種々かえることができるが、通常5〜10%(w/w) 、特に10〜60%(w/w)が適当である。本ACE阻害剤あるいは血圧降下剤の投与量はヒトに対して投与する場合、有効成分として0.01〜50mg/kg/日が適当である。
【0028】
また、本ジペプチドは多量に摂取しても生体に悪影響を与えない利点を有することから、そのまま、または種々の栄養分等を加えて、もしくは飲食品中に含有させて血圧降下作用、高血圧予防の機能をもたせた機能性食品、健康食品として食してもよい。すなわち、例えば各種ビタミン類、ミネラル類等の栄養分を加えて、例えば栄養ドリンク、豆乳、スープ等の液状の食品や各種形状の固形食品、さらには粉末状としてそのままあるいは各種食品へ添加して用いることもできる。機能性食品、健康食品としての本ACE阻害剤あるいは血圧降下剤中の有効成分の含有量、摂取量はそれぞれ上記製薬における含有量、投与量と同様でよい。
前記のジペプチドの有機化学的合成法としては液相法、固相法の2種があり、いずれも常法、例えば泉屋信夫、加藤哲夫、青柳東彦及び脇道典著、「ペプチド合成の基礎と実験」、丸善株式会社、1985、に従って行うことができる。液相法では、例えば、本ジペプチドのC末端に位置すべきアミノ酸であってそのカルボキシル基をベンジル基(Bzl )、t−ブチル基(t−Bu )等で保護したアミノ酸と、該C末端アミノ酸の隣に位置すべきアミノ酸であってそのα−アミノ基をt−ブチルオキシカルボニル基 ( Boc )、ベンジルオキシカルボニル基(Z)等で保護したアミノ酸をジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等に溶解し、それらをジシクロヘキシルカルボジイミド ( DCC )及び1−ヒドロキシベンゾトリアゾール( HOBT )の存在下通常室温で一夜反応させる。ついで生成物のアミノ保護基を常法によって除去した後のジペプチド誘導体を必要に応じ、アミノ基を保護した第3のアミノ酸と同様に反応させ、アミノ保護基を除去し、必要に応じ同じ手順を繰り返して本ジペプチド誘導体を得る。反応させるアミノ酸がヒドロキシル基、グアニジノ基またはイミダゾリル基を有する場合には、これらの基は一般に上記反応に先立って保護すべきである。アルコール性ヒドロキシル基の保護基はBzl、t−Bu等、フェノール性ヒドロキシル基の保護基はBzl等、グアニジノ基の保護基はトシル基 ( Tos)等、イミダゾリル基の保護基は Tos等を包含する。最終反応の終了後、すべての保護基を除去して本ジペプチドを得る。これらの保護基の導入及び除去は常法により行うことができる。
【0029】
他方、固相法に関してはペプチドシンセサイザーを用いる方法が近年広く用いられており、例えばアプライドバイオシステムズ社製の430A型ペプチドシンセサイザーを用いて本トリペプチドを製造することができる。すなわち、基本的には、本ジペプチドのC末端に位置するアミノ酸が結合したフェニルアセトアミドメチル(PAM )樹脂 L−Xaa−O−CH2−PAM (Xaa) はアミノ酸残基) ( アプライドバイオシステムズ社から入手し得る) のN側から、Bocでアミノ基を保護したα−アミノ酸(Boc−アミノ酸) をペプチド結合と Bocの除去の繰り返しによって段階的に延長する。Boc−アミノ酸は DCCの使用によるその対称的無水物を中間体として経由する延長反応に付す。上記 Boc−アミノ酸またはL−Xaa−O−CH2−PAMにおいて、反応に関与すべきでない反応性官能基がある場合には一般に適当な保護基によって保護すべきである。430A型ペプチドシンセサイザーを用いる合成系においてはアミノ酸原料に加え以下の試薬及び溶媒を用いる:N,N−ジイソプロピルエチルアミン( TFA中和剤 )、TFA ( Boc切断 )、MeOH(生成尿素系化合物の溶解及び除去) 、HOBT (0.5M HOBT/DMF)、DCC( 0.5M DCC/ジクロロメタン( DCM) 、DCM 及びDMF(溶媒) 、中和剤( 70%エタノールアミン、29.5% メタノール) ( 廃液の中和) 。アミノ酸原料及びこれらの試薬及び溶媒は所定の場所に装填する。これらの使用はペプチドシンセサイザーが自動的に行う。反応温度及び時間の調整も自動的に行われるが、反応温度は通常室温である。上記手順によってジペプチド中の反応性基が保護されたジペプチド−O−CH2−PAMが得られる。上記固相ペプチド合成の実際の操作はアプライドバイオシステムズ社による430A型ペプチドシンセサイザーユーザーズマニュアルによって行う。
【0030】
得られた、反応性官能基が保護されたジペプチド−O−CH2−PAMを常法、例えば前記「ペプチド合成の基礎と実験」または430A型ペプチドシンセサイザーユーザーズマニュアルに記載された方法、例えば、保護基の切断によって生成するカチオンを捕獲するスカベンジャーとしてチオアニソール及び/またはエタンジチオールの存在下TFAと共のトリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA)(TFAはTFMSAの希釈剤) によって処理して、樹脂及び保護基を切断し、それによって目的とするジペプチドを得る。
【0031】
本発明ジペプチドは、上記のとおり有機合成によって製造してもよい。けれども、経口摂取する飲食品または医薬品に添加してACE阻害活性を発揮させる目的のためには、鰹節等に由来するタンパク質をプロチンNY100(天野エンザイム),又はサモアーゼPC10F(大和化成)で分解し、さらには、単離精製して得られるところの、上記5種のジペプチドの少なくとも一種を含む経口摂取可能な組成物として製造することが好ましい。
【0032】
原料としては、鰹、鰹荒節、鰹枯節、宗田鰹、宗田鰹節、鰯、鰯節、鯵、鯵節、鯖、鯖節、煮干他雑節等の魚肉、およびそれらの熱水抽出物残渣が使用できる。
【0033】
プロチンNY100(天野エンザイム),又はサモアーゼPC10F(大和化成)による分解で、本発明のジペプチドを得る場合、原料となる鰹節タンパク質を、まず前処理として、加熱処理によるアミノ酸、水溶性タンパク質の除去を行うことが好ましい。また、プロチンNY100(天野エンザイム)、又はサモアーゼPC10F(大和化成)酵素分解を効率よくするために、原料となる素材は細かく粉砕してから水に攪拌・懸濁することが好ましい。また、得られたタンパク質は難溶性であるが、酵素反応の為に最適なpHになるように仮性ソーダを加え、均一に分散・懸濁・溶解させる。これにタンパク質100gあたり、0.1〜10重量%のプロチンNY100(天野エンザイム)、又はサモアーゼPC10F(大和化成)を加え、pH5.0〜9.0、温度40〜55℃で0.5〜30時間、攪拌操作を加えながらタンパク質分解を行った後、苛性ソーダでpH6〜7.5に調整する。および加熱処理(98℃、15分間)によって、酵素の活性を失活させる。分解液はバイブスクリーンで未分解タンパク質を除去後、デカンタ、デラバル、超高速遠心分離機(15000回転/分)や濾過処理(セライト濾過:Hyflo Super Celiteなど)等で未分解物、沈殿物を除き、得られた濾液を苛性ソーダもしくは塩酸を用いて中和後、濃縮する。このようにして得られた鰹節ペプチドにはTrp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ile、Val−Tyr、Trp−Asnがそれぞれ0.0005重量%から0.5重量%含まれる。
【0034】
本発明のジペプチドとして、上記の得られたプロチンNY100(天野エンザイム)、又はサモアーゼPC10F(大和化成)酵素分解物やこれをさらにハイポーラスポリマー樹脂(疎水性吸着樹脂)やイオン交換樹脂等で処理して高分子のタンパク質や、モノマーなアミノ酸、さらに塩類を除去し、限外ろ過に通して高分子ペプチドを除くことが出来、本発明のジペプチドを豊富に含有する粗精製品を得、これをそのまま用いることが出来る。以下、このような分解物および粗精製物を総称して、ジペプチドを豊富に含有する組成物と呼ぶ。
【0035】
精製によって本発明のペプチドを得る場合には、上記濃縮物をゲル濾過カラムクロマトグラフィー、イオン交換樹脂やハイポーラスポリマー樹脂を用いたクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等で、ACE阻害活性を有する本発明のペプチド分画を集め、さらに、この活性画分をODSカラム等の逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等を用いた通常のペプチド精製法で、ほぼ純粋な各ペプチドに精製することができる。なお、本発明のジペプチドは鰹節および鰹節熱水抽出残渣物に限らず、鰹、鰹熱水抽出残渣物、宗田鰹、宗田鰹節、宗田、宗田熱水抽出残渣物他、魚肉タンパク質からも上記に示した方法で得ることができる。ジペプチドまたはそれを豊富に含む組成物のACE阻害活性は、例えば試験例1に記載した方法で測定できる。
【0036】
化学合成によって本発明のペプチドを得る場合には、通常のペプチド合成に用いられる固相法あるいは液相法のいずれの方法でも合成ができる。合成によって得られた本発明のペプチドは逆相高速液体クロマトグラフィー、イオン交換樹脂やハイポーラスポリマー樹脂を用いたクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を用いた通常の精製法で精製することができる。さらに限外ろ過により高分子ペプチドを除去し、ACE阻害活性の上昇と消化耐性を有するペプチドを得ることが出来る。
【0037】
このようにして得られたジペプチドまたはそれを豊富に含む組成物のACE阻害作用の比活性は強いことから極めて有用なACE阻害剤として用いることができる。さらに胃腸管からの吸収もよく熱に対しても比較的安定であることから、各種飲食物の形態および医薬品製剤のいずれに応用することも可能である。
【0038】
したがって、本発明では上記ジペプチドを一種以上添加配合してなるところの、アンジオテンシン変換酵素阻害作用の発揮を期待しうる飲食用組成物(飲食料)が提供される。また、および上記ジペプチドを一種以上含有してなるアンジオテンシン変換酵素阻害剤と血圧降下剤とを提供するものである。
【0039】
本発明のジペプチドを飲食品、医薬品等に使用、配合する場合、鰹節熱水抽出残渣タンパク質のプロチンNY100(天野エンザイム)、又はサモアーゼPC10F(大和化成)酵素による分解物からジペプチドを十分に精製したものを用いても良く、あるいは化学合成により得られた合成品を用いても良い。しかし、本発明のペプチドは安定且つACE阻害活性が強いので、上記のとおり粗精製品あるいはプロチンNY100(天野エンザイム)、サモアーゼPC10F(大和化成)酵素分解物をそのままジペプチドを豊富に含む組成物として用いて十分なACE阻害活性を得ることが出来る。
【0040】
本発明の飲食用組成物(飲食料)は、上記ジペプチドの一種以上を、1回の摂取量として0.001mg〜100mg、好ましくは0.01mg〜20mg添加して製造される。本発明のペプチド組成物は、取り扱いが容易で安定な固体ないし粉末であり、水への溶解性もよい。また、胃腸管からの吸収もよい。したがって、食品への添加の時期、及び方法に特別の制限はなく、粉末状、溶液状、懸濁液状等として、食品製造の原料段階、中間工程、最終工程に、食品分野で慣用の方法で添加することが可能である。本発明のジペプチドを含有する飲食用組成物を、一時的、断続的、継続的または日常的に摂取することにより、アンジオテンシン変換酵素を阻害し、例えば血圧降下作用が可能である。飲食品の形態としては、固形状、半流動状、流動状などを挙げることができる。固形状食品としては、シート状、タブレットやカプセルなどの錠剤、顆粒粉末などの形態の一般食品および健康食品が挙げられる。半流動状食品としては、ペースト状、ゼリー状、ゲル状などの、また、流動状食品としては、ジュース、清涼飲料、茶飲料、ドリンク剤などの形態の一般食品および健康食品が挙げられる。飲食物を栄養ドリンクや調味料として、本発明のジペプチドを継続して摂取することにより、血圧の上昇を抑制することも可能である。
【0041】
本発明によるACE阻害剤または降圧剤である形の医薬組成物は、本発明のジペプチドを、上記飲食用組成物と同様の量で含有する。本発明の医薬組成物は、患者のアンジオテンシン変換酵素を阻害し、例えば血圧降下作用を発揮させるために、高血圧症状の患者に一時的に投与してもよく、あるいは本発明の医薬組成物の有効成分は天然物由来であることから、継続して安全に使用することもできる。本発明の医薬組成物により高血圧を治療または予防することができる。医薬組成物の形態は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シロップ等の経口投与剤が好ましい。非経口投与用の製剤としては、静脈、動脈、皮下、筋肉を通して投与するため、あるいは鼻腔から吸入するための、無菌の液剤が挙げられる。液剤は、用時溶解できる乾燥固体であってもよい。注射用製剤は有効成分のジペプチドを生理食塩水に溶解し、通常の無菌操作により注射用製剤に製造することができる。
【0042】
本発明手段においては、原料として鰹節を用い、その熱水抽出処理により、アミノ酸および水溶性タンパク質を除き、不溶性タンパク質残渣を得る。この鰹節熱水抽出残渣タンパク質をプロチンNY100(天野エンザイム)、サモアーゼPC10F(大和化成)酵素により酵素分解処理する。
【0043】
次いで、この酵素分解後の液を、吸着能力を効率的にする上において有効である、バイブスクリーン、デラバル、シャープレス、セライトろ過処理を行った後に、疎水性吸着樹脂を充填したカラムに負荷し、そのカラム内を流過させることで吸着を行なう。
【0044】
疎水性吸着樹脂に吸着したアンジオテンシン変換酵素阻害物質は、含水エタノール等の含水有機溶媒を用いて溶出させる。
【0045】
この溶媒により溶出を行なう際も、吸着させた前述の阻害物質の前記溶媒による溶出を効果的に行わせるために、その溶媒を供給する前に、水の供給により、水に溶解する物質を溶出させる処理を行なうことが有効である。すなわち、酵素分解物水溶液は、カラムの約2〜10倍容量が望ましく、カラムに負荷した後に、次に、水をカラムの約2〜10倍量を通過させる。非吸着画分を全て、溶出させる。さらに、エタノール50%濃度で脱着を行い、目的の吸着画分を得る。
【0046】
エタノール溶液により溶出したアンジオテンシン変換酵素阻害物質を含む画分は、その溶出液を、限外ろ過(分子量1000)に負荷し、高阻害活性透過液画分を減圧濃縮し、噴霧乾燥(スプレードライ)することで、粉剤の、アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドを主体とする食品素材の製品が粉末の形態で得られる。
【0047】
このアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドを主とする食品素材は、前述の溶出液を、高速液体クロマトグラフィーを用いて成分の単離を行ない、アセトニトリル・トリフルオロ酢酸でイソクラティック溶出することにより、アンジオテンシン変換酵素阻害活性の強い成分に精製・単離された形態のものが得られる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、長い食経験から安全性が立証されている食材である鰹節を原料として、プロチンNY100(天野エンザイム)、又はサモアーゼPC10F(大和化成)との反応により、アンジオテンシン変換酵素阻害活性をもつ5種類のジペプチドを得ることが出来た。また、酵素分解物を疎水性吸着樹脂に吸着させ、含水有機溶媒で溶出することにより高活性なペプチド画分を生産できることも判った。さらに、限外ろ過(分子量1000膜)に通液循環させ、消化耐性な高ACE阻害ペプチドを得ることも分かった。さらに、動物実験においても少量で降圧作用が発現することも分かった。本製法により得られるジペプチドを含む鰹節ペプチドは日常摂取する食品として安全で有効性の高い素材であることが明らかであり、今後の高齢化社会にとって非常に意義の有る食品素材であり、特定保健用食品、機能性食品等への利用が期待される。本製法は工業規模での機能性素材の生産に幅広く活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1の鰹節ペプチドのSHRに対する血圧降下作用を示すグラフである。
【図2】図1の血圧降下作用を示すグラフを%変換した後のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
試験例1
ACE阻害活性測定は次のように行った。すなわち、以上のようにして得た本トリペプチドのACE阻害活性は、Cheung and Cushmanの方法(Biochemical Pharamacology,20,1637(1971))の緩衝液をリン酸緩衝液からホウ酸緩衝液に変えた方法に準じて測定した。
すなわち、ラビットラングアセトンパウダー5gを0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液(pH 8.3 ) 50mlに溶かし、40000G 、40分の条件で遠心分離し、その上清液をさらにハイドロキシアパタイトで精製し、1unit/mgタンパク質のアンジオテンシン変換酵素液を得た。あるいは、ラビットラング由来精製ACE(Sigma社、0.25ユニット)を用いた。
【0051】
本ジペプチドの各濃度の溶液をそれぞれ試験管に0.030ml入れ、次に上記アンジオテンシン変換酵素液 0.1mlを加え、37℃、5分間反応させる。次に、基質として、ヒプリルヒスチジルロイシン( ペプチド研究所、Bz−Gly−His−Leu・H2O、最終濃度5mM、NaCl300mM を含む) 0.25mlを添加し、37℃で30分間反応させた。その後、1N塩酸0.25mlを添加して反応を停止させた後、1.5 mlの酢酸エチルを加え、ボルテックスミキサーで20秒攪拌した後、遠心分離(3000回転、5分間)を行い、酢酸エチル層1mlを分取した。加熱105℃、30分間(アルミブロック)後、蒸留水3mlに溶解して、酢酸エチル中に抽出された馬尿酸の228nmでの吸収値を測定し、これを酵素活性とした。
阻害率を次の式より算出した。A:阻害剤を含まない場合の228nm吸収値 B:阻害剤添加の場合の228nm吸収値 また阻害率50%のときの本オトリペプチドの濃度をIC50値とした。阻害率=[1−(A−a)/(B−b) ] × 100
A:試料添加
a:試料添加、酵素のかわりに緩衝液添加
B:試料のかわりに蒸留水添加
b:試料のかわりに蒸留水添加、酵素のかわりに緩衝液添加
【0052】
鰹節熱水抽出残渣のプロチンNY100(天野エンザイム),サモアーゼPC10F(大和化成)酵素分解物中の単離した5ジペプチドのACE阻害活性値を表1に示す。

【0053】
実施例1
(a) ACE阻害活性を有するペプチド組成物の工業生産
鰹節タンパク質1000kgに水10000Lを加え、加熱処理(95℃、35分間)後、アミノ酸、水溶性タンパク質を除き、得られた熱水抽出残渣1153kg(タンパク質576kg)に水2884Lを加え、6N苛性ソーダでpH 7に調整後、プロチンNY100(天野エンザイム)酵素1.0wt%(酵素量:タンパク質当り)を添加して、攪拌を行いながら、50℃、17時間反応させた。反応後に苛性ソーダを加えてpHを6.8に調整し、98℃、15分間加熱して酵素を失活させた。その後、未分解タンパク質をバイブスクリーン、デラバル、遠心分離機により除去し、上清をセライトでろ過し、ろ液(タンパク質200kg)を得た。ACE阻害活性IC50値は、0.136mg/ml(タンパク質)であった。
【0054】
このペプチド200kgを疎水性クロマトグラフィーに負荷した。
以下に疎水性クロマトグラフィの実施条件を記す。
カラム負荷量:50kg
カラム:SP−207(1000L容量カラム;日本練水)
溶出液:0,50%濃度のエタノール溶液
流速:2000L/時間
サイクル:4サイクル
【0055】
疎水性吸着樹脂を充填したカラムからの溶出は、アルコール濃度により2分画し、8000Lずつの2つの画分を分取した。各画分はACE阻害活性を試験例1の方法で測定した結果、0%または50%エタノール溶出画分のACE阻害活性値IC50はそれぞれ、検出せず、0.047 mg/mlであった。4サイクル繰り返し分取し、タンパク質量74.9kgを得た。
【0056】
次に疎水性クロマトグラフィーで得られたACE阻害活性画分(50%エタノール溶出画分)を限外ろ過膜(GE社製モジュール7.9インチ×40インチ×2本、ろ過面積48.4m2;分子量1000、圧1.8MPa;型番GE8040F1002)に通液し、非透過液に20倍濃縮液を得た。非透過液と透過液のACE阻害活性を測定し、透過液に0.034mg/ml、非透過液に0.110mg/mlの値が得られた。
【0057】
透過液を減圧濃縮し、噴霧乾燥して、タンパク質量47.6kgの粉末を大量生産した。収支を表2に表した。

【0058】
また、経口摂取した場合の生体内での消化酵素による分解の程度を確認するため、ペプシン、トリプシン、及びキモトリプシンにて、透過液及び非透過液について人工消化を行った(ペプシン、トリプシン、キモトリプシン4時間分解)。結果を表3に示した。


透過液のACE阻害活性に高い値が示されたことより、消化酵素耐性の可能性が推定された。非透過液のACE阻害活性(IC50)に1.6倍の強い値が示されたが、透過液の値には及ばなかった。
【0059】
HPLC法による分子量の分析を下記の条件(表4)で行い、その結果を表5した。




その結果、ろ液と樹脂脱着非透過液の最大分子量はともに5000であった。
目的とする樹脂脱着透過液の最大分子量は1500で、うち分子量1000以下の割合は79.75%であった。
【0060】
ジペプチドの精製における回収率を下表6に示した。


酵素ろ過液の樹脂処理により、タンパク質40%の収率で、Trp−Leu100%の回収率であった。
さらに、限外ろ過膜処理により、タンパク質63%の収率、濃縮液側1/20倍の液量で、Trp−Leuのロス率は10%であった。よって、精製タンパク質収率は25.2%、Trp−Leuの回収率は90%であった。
【0061】
鰹節ペプチドの大量生産の製造スケールを表7に示した。


その結果、スケール1,2,3のいずれにおいても工業生産できることが分かった。
【0062】
(b)5つのジペプチドの単離
鰹節のプロチンNY100酵素分解液のカラム吸着後アルコール脱着画分の限外ろ過膜透過液(鰹節ペプチド)中のジペプチドの単離を行った。
カラム:Acquity UPLC BEH C18
(2.1mmID ×100mmL、1.7μm)
移動層:15%CH3CN in 0.1%TFA
流速:0.2ml/min
温度:40℃
検出:UV 200−300nm
【0063】
上記条件で、30秒毎に1フラクションずつ分取した。各フラクションから、減圧下蒸発乾固後、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、ペプチドのフラクションに強いACE阻害活性が認められた。フラクションはそれぞれ凍結乾燥を行い、微量のペプチドが得られた。フラクションについて、アミノ酸分析およびTOF MS解析を行い、各フラクションのペプチドは、Trp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ileのジペプチドであることが判明した。
【0064】
鰹節のプロチンNY100酵素分解液のカラム吸着後アルコール脱着画分の限外ろ過膜透過液(鰹節ペプチド)中のジペプチドの単離を行った。
カラム:Acquity UPLC BEH C18
(2.1mmID ×100mmL、1.7μm)
移動層:5%CH3CN in 0.1%TFA
流速:0.2ml/min
温度:40℃
検出:UV 200−300nm
上記条件で、30秒毎に1フラクションずつ分取した。各フラクションから、減圧下蒸発乾固後、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、ペプチドのフラクションに強いACE阻害活性が認められた。フラクションはそれぞれ凍結乾燥を行い、微量のペプチドが得られた。フラクションについて、さらに、移動相1.25%CH3CN in 0.1%TFAのリクロマトを行い、フラクションのアミノ酸分析およびTOF MS解析を行い、フラクションのペプチドは、Val−Tyr、Trp−Asnジペプチドであることが判明した。
【0065】
実施例2
(a) ACE阻害活性を有するペプチド組成物の工業生産
鰹節タンパク質1000kgに水10000Lを加え、加熱処理(95℃、35分間)後、アミノ酸、水溶性タンパク質を除き、得られた熱水抽出残渣1774kg(タンパク質886kg)に水4436Lを加え、6N苛性ソーダでpH 7に調整後、サモアーゼPC10F(大和化成)酵素1.0wt%(酵素量:タンパク質当り)を添加して、攪拌を行いながら、50℃、17時間反応させた。反応後に苛性ソーダを加えてpHを6.8に調整し、98℃、15分間加熱して酵素を失活させた。その後、未分解タンパク質をバイブスクリーン、デラバル、遠心分離機により除去し、上清をセライトでろ過し、ろ液(タンパク質200kg)を得た。ACE阻害活性IC50値は、0.204mg/ml(タンパク質)であった。
【0066】
このペプチド200kgを疎水性クロマトグラフィーに負荷した。
以下に疎水性クロマトグラフィの実施条件を記す。
カラム負荷量:50kg
カラム:SP−207(1000L容量カラム;日本練水)
溶出液:0,50%濃度のエタノール溶液
流速:2000L/時間
サイクル:4サイクル
【0067】
疎水性吸着樹脂を充填したカラムからの溶出は、アルコール濃度により2分画し、8000Lずつの2つの画分を分取した。各画分はACE阻害活性を試験例1の方法で測定した結果、0%または50%エタノール溶出画分のACE阻害活性値IC50はそれぞれ、検出せず、0.071mg/mlであった。4サイクル繰り返し分取し、タンパク質量74.0kgを得た。
【0068】
次に疎水性クロマトグラフィーで得られたACE阻害活性画分(50%エタノール溶出画分)を限外ろ過膜(GE社製モジュール7.9インチ×40インチ×2本、ろ過面積48.4m2;分子量1000、圧1.8MPa;型番GE8040F1002)に通液し、非透過液に20倍濃縮液を得た。非透過液と透過液のACE阻害活性を測定し、透過液に0.050mg/ml、非透過液に0.165mg/mlの値が得られた。
【0069】
透過液を減圧濃縮し、噴霧乾燥して、タンパク質量71.4kgの粉末を大量生産した。収支を表8に表した。

【0070】
また、経口摂取した場合の生体内での消化酵素による分解の程度を確認するため、ペプシン、トリプシン、及びキモトリプシンにて、透過液及び非透過液について人工消化を行った(ペプシン、トリプシン、キモトリプシン4時間分解)。結果を表9に示した。


透過液のACE阻害活性に高い値が示されたことより、消化酵素耐性の可能性が推定された。非透過液のACE阻害活性(IC50)に1.5倍の強い値が示されたが、透過液の値には及ばなかった。
【0071】
HPLC法による分子量の分析を下記の条件(表10)で行い、その結果を表11した。




その結果、ろ液と樹脂脱着非透過液の最大分子量はともに5000であった。
目的とする樹脂脱着透過液の最大分子量は1500で、うち分子量1000以下の割合は79.8%であった。
【0072】
ジペプチドの精製における回収率を下表12に示した。


酵素ろ過液の樹脂処理により、タンパク質40%の収率で、Trp−Leu100%の回収率であった。
さらに、限外ろ過膜処理により、タンパク質65%の収率、濃縮液側1/20倍の液量で、Trp−Leuのロス率は10%であった。よって、精製タンパク質収率は26.0%、Trp−Leuの回収率は90%であった。
【0073】
鰹節ペプチドの大量生産の製造スケールを表13に示した。


その結果、スケール1,2,3のいずれにおいても工業生産できることが分かった。
【0074】
(b)5つのジペプチドの単離
鰹節のサモアーゼPC10F(大和化成)酵素分解液のカラム吸着後アルコール脱着画分の限外ろ過膜透過液(鰹節ペプチド)中のジペプチドの単離を行った。
カラム:Acquity UPLC BEH C18
(2.1mmID ×100mmL、1.7μm)
移動層:15%CH3CN in 0.1%TFA
流速:0.2ml/min
温度:40℃
検出:UV 200−300nm
【0075】
上記条件で、30秒毎に1フラクションずつ分取した。各フラクションから、減圧下蒸発乾固後、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、ペプチドのフラクションに強いACE阻害活性が認められた。フラクションはそれぞれ凍結乾燥を行い、微量のペプチドが得られた。フラクションについて、アミノ酸分析およびTOF MS解析を行い、各フラクションのペプチドは、Trp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ileのジペプチドであることが判明した。
【0076】
鰹節のサモアーゼPC10F(大和化成)酵素分解液のカラム吸着後アルコール脱着画分の限外ろ過膜透過液(鰹節ペプチド)中のジペプチドの単離を行った。
カラム:Acquity UPLC BEH C18
(2.1mmID ×100mmL、1.7μm)
移動層:5%CH3CN in 0.1%TFA
流速:0.2ml/min
温度:40℃
検出:UV 200−300nm
上記条件で、30秒毎に1フラクションずつ分取した。各フラクションから、減圧下蒸発乾固後、ACE阻害活性測定用試料とし、上記の方法に従い、ACE阻害活性を測定した。その結果、ペプチドのフラクションに強いACE阻害活性が認められた。フラクションはそれぞれ凍結乾燥を行い、微量のペプチドが得られた。フラクションについて、さらに、移動相1.25%CH3CN in 0.1%TFAのリクロマトを行い、フラクションのアミノ酸分析およびTOF MS解析を行い、フラクションのペプチドは、Val−Tyr、Trp−Asnジペプチドであることが判明した。
【0077】
実施例3
合成法によるペプチドの合成:
アプライドバイオシステムズ社のペプチド自動合成機(ABI 430モデル)を使用し、プログラムに従ってC端より逐次BOC法によりペプチド鎖を延長し目的の保護ペプチド樹脂の合成を行った。
樹脂上へのペプチドの構築が終了した後、保護ペプチド樹脂を乾燥した。得られた保護ペプチドの脱保護基とペプチドの樹脂担体からの切り離しは無水フッ化水素処理(HF/p−Creso18:2 v/v,60分)によって行った。得られた粗ペプチドは90%酢酸によって抽出し、凍結乾燥により粉末固体として得た。さらに得られた粗ペプチドをODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフに負荷し精製を行い、目的のペプチドを得た。
カラム:YMC−Pack ODS−A(30mmID × 250mmL、ワイエムシィ)
移動層:Buffer A:5%CH3CN、0.1%TFA
Bufer B :40%CH3CN、0.1%TFA
勾配:0〜10min:0% Buffer B
10〜90min:0〜100 % Buffer B
流速:20ml/min
検出:UV220nm
【0078】
精製ペプチドの純度はODSカラムを用いた高速液体クロマトグラフィーで検定した。
カラム:Zorbax 300SB−C18(4.6mmID × 150mmL、
Agilent Technologies)
移動層:Buffer A:1%CH3CN、0.1%TFA
Buffer B:60%CH3CN、0.1%TFA
勾配: 0〜25min:0〜100%Buffer B
流速:1ml/min
検出:UV220nm
【0079】
(a)Trp−Leuのジペプチドの合成:
出発アミノ酸樹脂担体はBoc−Leu (BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc−Trp2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Trp−Leu精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、94.06%であった。
【0080】
(b)Leu−Trpのジペプチドの合成:
出発アミノ酸樹脂担体はBoc−Trp(BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc−Leu2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Leu−Trpを精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、88.84%であった。
【0081】
(c)Trp−Ileのジペプチドの合成:
出発アミノ酸樹脂担体はBoc−Ile(BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc−Trp2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Trp−Ileの精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、95.00%であった。
【0082】
(d)Val−Tyrのジペプチドの合成:
出発アミノ酸樹脂担体はBoc−Tyr(BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc−Val2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Val−Tyrの精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、95.00%であった。
【0083】
(e)Trp−Asnジペプチドの合成:
出発アミノ酸樹脂担体はBoc−Asn(BrZ)樹脂(0.5mmol)を使用し、アミノ酸誘導体Boc−Trp2mMを用いてペプチド鎖を伸長した。上記の方法で精製を行い、Trp−Asnの精製物を得た。上記の方法で精製物の純度を測定した結果、95.00%であった。
【0084】
実施例4
実施例1で得たジペプチド合成品を用いて、下記の組成のだし飲料を製造した。
(a) 素材および配合量:
鰹節熱水抽出液(めんつゆ)500mlと、実施例2で合成し、単離した5種類の合成ジペプチドの混合品(Trp−Leuのジペプチド43mg、Leu−Trpのジペプチドの30mg、Trp−Ileのジペプチド16mg、Val−Tyrのジペプチド36mg、Trp−Asnのジペプチド40mg)。
【0085】
(b) 製造方法:
鰹節の熱水抽出(95℃、35分開)後、セライト濾過を行い、そのろ液を常温に冷却した。得られた冷却後の、抽出液に、上記5種のジペプチドの混合物を加えて攪拌、溶解させた。これによりだし飲料を製造した。
【0086】
実施例5
(a) 鰹節タンパク質熱水抽出残渣をプロチンNY100酵素で分解した反応混合物からのジペプチドの定量
鰹節タンパク質160gに水2000mlを加え、熱水抽出(95℃、35分間)を行った。得られた残渣(不溶性タンパク質)に10倍量加水後、pH7に調整、プロチンNY100(天野エンザイム)酵素分解後、pH6.8に調整し、加熱(98℃、15分間)後、バイブスクリーン、デカンタ、デラバル、シャープレス処理、セライトろ過を行い、減圧濃縮、スプレードライを行った。
【0087】
上記の粉末を疎水性クロマトグラフに負荷し、水250ml溶出後、50%エタノール250ml溶出に高活性な画分を得る。さらに限外ろ過(分子量1000膜)の透過画分の減圧濃縮(固形40%)液後、スプレードライ(入口温度150〜200℃、出口温度50〜90℃)に掛けて、高活性な粉末品を500mg得る。
【0088】
上記粉末品を原料として用い、これの500mgを配合した機能性食品を得る。その加工食品は、飲料、錠剤、スープ等にも用いられる。
【0089】
実施例6
Trp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ile、Val−Tyr、Trp−Asnの定量を次のように行った。すなわち、粉末品あるいは、その加工品から、本ジペプチドの定量を、以下のように実施した。
【0090】
Sep−Pak C18前処理:
鰹節抽出残渣酵素分解物、およびその加工食品を、それぞれ、25mg、加工食品5g秤量し、Sep−Pak C18カートリッジに負荷し、水溶性画分を除去後、吸着画分を50%エタノール溶液で溶出した液を試料とする。
【0091】
Sep−Pak C18処理して上記のように得られた試料から回収されたACE阻害精製ペプチド8000μgを、100μlの精製水に溶解し、C−18カラムを用いた高速液体クロマトグラフに2000μg/25μl負荷し、ペプチドを分画した。以下に条件を記す。
カラム:Acquity UPLC BEH C18
(2.1mmID×100mmL、1.7μm)
移動層:15%CH3CN in 0.1%TFA
流速:0.2ml/min
温度:40℃
検出:UV 200−300nm
合成品のTrp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ileを標品として1μg/μl負荷した。Trp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ileの溶出時間は、それぞれ、28.61,20.65,20.32分であった。
【0092】
定量した結果、Trp−Leu、Leu−Trp、Trp−Ileの含量は、鰹節ペプチド中にそれぞれ、43mg、30mg、16mg含まれていた。
【0093】
合成品のVal−Tyr、Trp−Asnを標品として1μg/μlを下記のカラム条件で負荷した。
カラム:Acquity UPLC BEH C18
(2.1mmID×100mmL、1.7μm)
移動層:5%CH3CN in 0.1%TFA
流速:0.2ml/min
温度:40℃
検出:UV 200−300nm
Val−Tyr、Trp−Asnの溶出時間は、9.56分であった。さらに下記の条件でリクロマトを行った。
【0094】
カラム:Acquity UPLC BEH C18
(2.1mmID×100mmL、1.7μm)
移動層:1.25%CH3CN in 0.1%TFA
流速:0.2ml/min
温度:40℃
検出:UV 200−300nm
Val−Tyr、Trp−Asnの溶出時時間は、それぞれ、35.60分、28.92分であった。
鰹節ペプチドから単離したジペプチドと標品のピーク面積から定量値を算出した。
【0095】
定量した結果、Val−Tyr、Trp−Asnの含量は、鰹節ペプチド中に36mg、40mg含まれていた。
【0096】
実施例7
ACE阻害ペプチドのプラント製造:
鰹節タンパク質21.9kgを95℃、35分間熱水抽出して、可溶性タンパク質5.5kgを出汁(めんつゆ)に使用する。副産物として得た鰹節熱水抽出残渣としての水不溶性タンパク質16.4kgを原料として用い、これをプロチンNY100(天野エンザイム)酵素により分解した。酵素分解反応混合物を、スクリーン(100メッシュ)、デラバル(3層連続排出遠心分離機)、シャープレス(超遠心分離機15000回転/分)、セライトろ過(ハイフロスーパーセライト:Hyflo Super Celite 0.4%)後、ろ過液を得た。このろ過液をスプレードライ(噴霧乾燥機、入口温度150〜200℃、出口温度90℃以下)することにより、粉末品(10kg)を得ることが出来た。また、この粉末品について、アンジオテンシン変換酵素阻害活性のIC50は136.25μg/mlであった。
【0097】
上記のろ過液(タンパク質10kg) を600リットルの水に溶解し、疎水性吸着樹脂(セパビーズSP−207、三菱化学)を充填して予め水で平衡化したカラム(φ45cm×150cm)に負荷し、吸着を行なわせ、次に600Lの水で溶出した後、50%エタノール液600Lにて溶出を行った。
ここで用いた疎水性吸着樹脂は、スチレン−ジビニルベンゼン系樹脂を用いたが、逆相分配系樹脂は、オクタデシルシリカ(株式会社ワイエムシー)他、何れの逆相分配系樹脂、疎水性吸着樹脂も使用できる。また、溶出にエタノールを用いたがこれにかぎるものではない。
更に、上記で得られた50%エタノール溶出画分を限外ろ過膜(GE社製モジュール2.4インチ×40インチ×2本、ろ過面積5m2;分子量1000膜;型番2540F1072)に通液し、透過液を減圧濃縮(固形量40%)、スプレードライ(噴霧乾燥機)して、鰹節ペプチドを得た。
【0098】
50%エタノール溶出画分に高活性が認められたこと、このことからアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドは、疎水性吸着樹脂に吸着する性質を有していると思われる。また、限外ろ過分子量1000膜透過液に高い活性が認められたこと、非透過画分の人工消化液に活性の上昇が示されたことから、例分子ペプチドに活性の強いペプチドが存在することが推定された。上記のことを踏まえて、精製を行うことより、本発明において、効率的に、カラムクロマトと限外ろ過処理によりアンジオテンシン変換酵素阻害活性の高い物質を工業生産規模で高収量、得ることができた。
【0099】
実施例8
鰹節ペプチドの動物実験静脈注射試験
ラット雄(SHR/Izm)をウレタン・α−クロラロース (1g/kg、50mg/kg) 混合液の腹腔内投与により麻酔し、背位に固定する。血圧は、右大腿動脈に挿入したカニューレに接続した圧トランスデューサー (P23XL、Spectramed社) および血圧アンプ (2238、日本電気三栄株式会社) を介して記録する。心拍数は血圧脈波より瞬時型計数ユニット (1321、日本電気三栄株式会社) を駆動させることにより測定する。これらのパラメータはペン書き記録計 (RECTI−HORIZ−8K、日本電気三栄株式会社) に記録する。日本薬局方生理食塩液(大塚製薬工場株式会社)を左大腿静脈より持続注入し、試験物質はその部位よりマイクロシリンジを用いて投与する。試験物質は、実施例7で得られた鰹節ペプチドを用いた。

【0100】
結果、鰹節ペプチド0.1、0.3、1.0mg/kgの静脈注射で、降圧降下が認められた(表15、表16、表17)。





【0101】
鰹節ペプチドの動物実験経口投与試験
動物 :SHR/Izm
例数 :32匹
測定項目 :血圧 (収縮期血圧) および心拍数
測定時間 :投与前、投与後2、4、6、8および24時間に測定する。
測定方法:テイルカフ法 (ラット・マウス用血圧計、MK−2000、室町機械株式会社) により、非観血的に測定する。毎回5回の計測を行い、血圧はそのうちの最低および最高値を除いた3回の平均値を採用する。心拍数は採用された血圧測定時の心拍数の平均値を採用する。
測定時、ラットが暴れるなどして異常値が測定された場合はその測定データは測定回数に含めず、追加測定する。

【0102】
結果、実施例7の鰹節ペプチド(試料C)1、3、10mg/kgの投与で、降圧作用が認められた(図1、図2)。
【0103】
比較例
本発明の製造方法に対する比較例を記載した。
酵素は、プロチンNY100(天野エンザイム)を用い、実施例1の製造方法により得られた酵素分解物と、さらに本発明の疎水性樹脂吸着画分の限外ろ過膜(分子量1000)透過画分(鰹節ペプチド)のSHRに対する単回投与試験結果を表19に示した。


上記の結果から、in vitro試験であるACE阻害活性値からは、本発明の製法で得られた鰹節ペプチドの値は、酵素分解物の約4倍の強さを有している。さらに、in vivo試験であるSHRの単回投与試験結果からは、本発明品(鰹節ペプチド)は酵素分解物に対して500倍の力価が認められた。本発明の製法により得られた鰹節ペプチドの降圧作用に必要な投与量は、酵素分解物のACE阻害活性値からのみ換算しても約100mg(500mg/kg/4≒100mg/kg)であるが、実際に効果が認めれらる量はその約100分の1(1mg/kg)の値であったことより、本発明の製法は、降圧ペプチドを得るためには有効な精製法であると推定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Trp−Leuのアミノ酸配列を有するジペプチド、または、Leu−Trpのアミノ酸配列を有するジペプチド、または、Trp−Ileのアミノ酸配列を有するジペプチド、または、Val−Tyr、または、Trp−Asnのアミノ酸配列を有するジペプチドであって、アンジオテンシン変換酵素阻害活性と降圧作用をもつジペプチドの製造方法。
【請求項2】
請求項1のジペプチドを含有するペプチド組成物の製造方法。
【請求項3】
鰹、鰹荒節、鰹枯節、宗田鰹、宗田鰹節、鰯、鰯節、鯵、鯵節、鯖、鯖節、煮干またはその他雑節の魚肉性タンパク質を熱水で抽出し、その熱水抽出後に残留する水不溶性タンパク質を粉砕し、得られた粉砕物を水分に分散して該水不溶性タンパク質の水分散液を作り、該水分散液中で、分散された水不溶性タンパク質の粒子に、プロテアーゼをpH5.0〜9.0の至適条件下に40〜60℃の温度で反応させ、これにより該水不溶性タンパク質の酵素的加水分解を行い、その後、酵素反応を停止させ、そして得られた含水の加水分解反応混合物から水不溶性の粒子を除去し、これにより、疎水性・親水性高分子・低分子プチドおよび水溶性アミノ酸を含む水溶液を収得し、該水溶液から疎水性樹脂カラム法により得られた吸着画分をさらに限外ろ過(分子量1000)に負荷し透過画分の組成物、また、請求項1に記載されるアミノ酸配列を有するジペプチドの少なくとも1つを分離することから成る、請求項1に記載のジペプチドの製造方法。
【請求項4】
前記プロテアーゼは、食品工業用のプロテアーゼである、請求項3に記載のジペプチドの製造方法。
【請求項5】
前記プロテアーゼは、プロチンNY100(天野エンザイム)及びサモアーゼPC10F(大和化成)より選択される、請求項3又は4に記載のジペプチドの製造方法。
【請求項6】
経口単回投与実験で1単位中0.0001mg〜1mg/kgの投与量で請求項1に記載のジペプチドを含むアンジオテンシン変換酵素阻害剤と血圧降下剤。
【請求項7】
請求項1に記載されるアミノ酸配列をもちかつアンジオテンシン変換酵素への阻害活性をもつジペプチドあるいは該ジペプチドの酸付加塩を配合されてあることを特徴とする、飲食料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−71897(P2013−71897A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210463(P2011−210463)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000114732)ヤマキ株式会社 (16)
【Fターム(参考)】