説明

アンジオテンシンI変換酵素阻害物及びその製造方法並びにそれを含む飲食品

【課題】本発明は、食品として安全性の高く活性の高い天然物由来のACE活性阻害物及びその製造方法並びにそれを含有する飲食品を提供することを目的とする。
【解決手段】カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物に脱ポリフェノール処理を施してなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物、カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物由来のアミノ酸組成物からなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物、それを含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害用飲食品、カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物を脱ポリフェノール処理することからなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物の製造方法、及びその製造方法により得られるアンジオテンシンI変換酵素阻害物を含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害用飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカカオ豆由来のアンジオテンシンI変換酵素阻害物、特に、カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物に脱ポリフェノール処理を施してなり、カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物由来のアミノ酸組成物からなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物及びその製造方法並びにそれを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は糖尿病、高脂血症、肥満などと共に、動脈硬化の起因となっている。また、重篤な合併症を伴うこともあるため、その治療法や予防には従来から大きな注目が集まっている。
【0003】
高血圧症の解決策の一つとして、血圧上昇機構として知られているレニン−アンジオテンシン系内のアンジオテンシンI変換酵素(以下、ACEと略す)を阻害することが有効であると知られている。ACEは主に肺や血管内皮細胞、腎近位尿細管に存在しており、基質であるアンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する酵素である。このアンジオテンシンIIは強力な血圧上昇ホルモンとして作用し、血管に存在するレセプターと結合することによって血管収縮を促進する。また、ACEはキニン−カリクレイン系(降圧系)のブラジキニンを分解する活性を有していることも分かっている。ACE活性の阻害はアンジオテンシンIIの産生やブラジキニンの分解を抑制することから、ACE阻害剤は臨床面において高血圧症の治療や予防に有効である。
【0004】
最近では、食品や天然物由来の成分にACE阻害活性が存在することが見出されている。例えば、カゼイン(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)、いわし(例えば、特許文献2、非特許文献2参照)、わかめ(例えば、特許文献3,4,5,6,7参照)、鮭卵(例えば、特許文献8参照)などから得られるペプチド体や、茶ポリフェノール(例えば、非特許文献3参照)、果実ポリフェノール(例えば、特許文献9参照)などのポリフェノール類、その他ユーカリ抽出物(例えば、特許文献10参照)、大豆抽出物(例えば、特許文献11参照)などの植物由来抽出物が挙げられる。
【0005】
一方、カカオ(Theobroma cacao)についてもその血圧降下作用が認められており、製造工程で発酵の程度を弱くすることによりポリフェノールの損失を抑え、カカオポリフェノール量を高めたココア抽出物などに血圧降下活性があるという報告(例えば、特許文献12,13参照)やカカオ中に含まれるポリフェノールの一種であるリグニンが高血圧自然発症ラットの血圧を降下させたという報告がなされている(例えば、非特許文献4参照)。また、コレステロール降下剤及びカカオポリフェノールを含有する組成物(例えば、特許文献14参照)あるいはL−アルギニン及びカカオポリフェノールを含有する組成物(例えば、特許文献15参照)に心疾患の治療及び予防効果があることが明らかにされている。ただし、カカオのポリフェノール以外の成分がACE阻害活性を示すことや、カカオ由来のアミノ酸組成物がACE阻害活性を示すことは明らかになっていない。
【0006】
【特許文献1】特開平6−128287号公報
【特許文献2】特開平7−188282号公報
【特許文献3】特開2002−138100号公報
【特許文献4】特開2003−246795号公報
【特許文献5】特開2003−246796号公報
【特許文献6】特開2003−246797号公報
【特許文献7】特開2003−252897号公報
【特許文献8】特開2005−145827号公報
【特許文献9】特開2002−47196号公報
【特許文献10】特開平11−60498号公報
【特許文献11】特開2005−95156号公報
【特許文献12】特開2003−204758号公報
【特許文献13】特開2001−500016号公報
【特許文献14】特開2003−530410号公報
【特許文献15】特開2002−505864号公報
【非特許文献1】バイオサイエンス バイオテクノロジー アンド バイオケミストリー,58,12,2244−2245,1994
【非特許文献2】日本栄養・食糧学会誌,53,2,77−85,2000
【非特許文献3】日本農芸化学会誌,61,803−808,1987
【非特許文献4】日本農芸化学会誌,68,957−965,1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らはカカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物に脱ポリフェノール処理を行い、得られた処理物が高いACE阻害活性を有することを見出した。また、本発明者らは特にカカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物由来のアミノ酸組成物が高いACE阻害活性を有することを見出した。先に示したようにカカオの血圧降下作用に対する報告は多数あるが、カカオ中に含有されるポリフェノールが効能成分として示されているのみであり、カカオ中のポリフェノール以外の成分がACE阻害活性を示すことが明らかになったのは本発明が初めてである。
【0008】
即ち、本発明の目的は食品として安全性の高く活性の高い天然物由来のACE活性阻害物及びその製造方法並びにそれを含有する飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するため、カカオ豆及び/又はカカオ豆抽出物に脱ポリフェノール処理を施し、ACE活性阻害試験を実施した。具体的には、抽出処理を行っていないカカオ豆及び/又はカカオ豆を水、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチルなどの溶媒またはこれらの混合溶媒を用いて抽出して得られたカカオ豆抽出物に対し、ポリビニルピロリドン等の吸着助剤による処理や酵素処理等を施すことにより、ポリフェノールを効率良く除去し、さらにカラム分画等のアミノ酸組成物濃縮処理を行うことによりアミノ酸を高含有する画分を得、これらの画分が有意なACE阻害活性を有していることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明はカカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物に脱ポリフェノール処理を施してなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物、カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物由来のアミノ酸組成物からなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物、及びそれを含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害用飲食品である。
【0011】
本発明はまた、カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物を脱ポリフェノール処理することからなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物の製造方法、及びその製造方法により得られるアンジオテンシンI変換酵素阻害物を含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害用飲食品である。
【発明の効果】
【0012】
以上に示したように、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物は、血圧上昇に関与するACEを効果的に阻害する作用を有する。従って本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物を様々な飲食品に含有させることにより、高血圧症の治療もしくは予防に利用できる。なお、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物は血圧降下に有効とされているサーデンペプチドと比較して顕著に高いACE阻害効果を有している。
【0013】
本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物は食品(カカオ豆)由来であることから安全面に問題はない。
【0014】
また、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物は脱ポリフェノール処理が施されていることから、ポリフェノール特有の苦味が少なく呈味性に優れており従来よりも容易に摂取することができるという効果が期待できる。
【0015】
本発明品は、種々の飲食品、製剤への応用が可能である。また、本発明品の原料となるカカオ豆は、いずれも飲食品素材や天然添加物として古くより用いられているものであり、その安全性については全く問題ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に記載する。
【0017】
本発明品の原料であるカカオ豆としては、通常は加熱処理したカカオニブ(可食部分)もしくはカカオジャーム(胚芽部分)が用いられ、その加熱処理方法及び部位はこれらに限定されるものではない。
【0018】
カカオ豆からカカオ豆抽出物を得る方法については特に限定しないが、水、メタノール、エタノール並びにn−プロパノール等の低級アルコール、酢酸エチル等の有機溶剤の1種または2種以上の混合溶媒を加え、従来行われている抽出方法によって、本発明のカカオ豆抽出物を得ることができる。しかし、本発明品はヒトが飲食品あるいは製剤として用いるものであることを考慮すると、抽出溶剤としては安全性の面から水とエタノールとの組み合わせを用いるのが好ましい。
【0019】
抽出条件としては20〜90℃のいずれの温度で抽出することもできるが、50〜80℃で1〜5時間程度が好ましい。得られた抽出液は、濾過し、さらに、減圧下において濃縮または凍結乾燥して使用することができる。
【0020】
上記カカオ豆抽出物又はカカオ豆自体からポリフェノールを除去する処理としては、水アセトンなどの溶剤抽出処理や、セファデックス、メタクリル酸エステル重合体、ポリビニルポリピロリドンなどの吸着助剤処理や、ポリフェノールオキシダーゼなどの酵素処理や、塩化第二鉄法や、これらの方法を組み合わせが挙げられる。
【0021】
さらにアミノ酸組成物濃縮処理としては、カラム分画等、有機溶剤やイオン交換カラムクロマトグラフィなどを用いて処理物の精製を行うことにより、アミノ酸高含有組成物を得ることができる。本アミノ酸高含有組成物はタンパク質の分解物、ペプチド、アミノ酸から成るものと考えられる。
【0022】
また、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物は香り、呈味性に優れ、安全性が高いことから、例えば、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート等の菓子、シャーベット、飲料等の飲食品及び錠剤、含そう剤等の製剤に配合し、日常的に利用することが可能である。
【0023】
その添加量としては、飲食品又は製剤に対して乾燥処理物の状態で約0.001重量%以上、好ましくは約0.01重量%以上添加するとよい。
【0024】
本発明品の原料となるカカオ豆は、食品素材や天然添加物として古くより用いられているものであり、これらの処理物や、これを配合した飲食品及び製剤の安全性については全く問題ない。
【0025】
以下、試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、それらによって本発明品の範囲を制限するものではない。
【試験例1】
【0026】
本試験は、カカオ豆より抽出物を調製するために実施した。
【0027】
1) 供試試料
カカオニブ、カカオジジャームを用いた。
【0028】
2) 試験法
以下の如く、抽出物を調製した。
【0029】
i) カカオニブの溶媒抽出
カカオニブ200gに50%エタノールを1.5L加え、80℃で1時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧濃縮後、凍結乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物NAを25g得た。
【0030】
ii) カカオニブの溶媒抽出
カカオニブ200gに水を1.5L加え、70℃で3時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧濃縮後、凍結乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物NBを30g得た。
【0031】
iii) カカオニブの溶媒抽出
カカオニブ200gに100%エタノールを1L加え、60℃で1時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物NCを10g得た。
【0032】
iv) カカオニブの溶媒抽出
カカオニブ200gに100%メタノールを1L加え、60℃で2時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物NDを11g得た。
【0033】
v) カカオニブの溶媒抽出
カカオニブ200gに100%酢酸エチルを1L加え、70℃で1時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物NEを10g得た。
【0034】
vi) カカオジャームの溶媒抽出
カカオジャーム90gに50%エタノールを600mL加え、50℃で3時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧濃縮後、凍結乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物JAを12g得た。
【0035】
vii) カカオジャームの溶媒抽出
カカオジャーム180gに水を1.2L加え、70℃で3時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧濃縮後、凍結乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物JBを12g得た。
【0036】
viii) カカオジャームの溶媒抽出
カカオジャーム200gに100%エタノールを1.5L加え、60℃で1時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物JCを10g得た。
【0037】
ix) カカオジャームの溶媒抽出
カカオジャーム180gに100%メタノールを1.2L加え、60℃で2時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物JDを12g得た。
【0038】
x) カカオジャームの溶媒抽出
カカオジャーム200gに100%酢酸エチルを1.5L加え、70℃で1時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧乾燥した。この操作を2回繰り返すことによって抽出乾燥物JEを12.5g得た。
【0039】
3) 試験結果
本処理によりカカオマスより抽出物NA〜NEを得た。また、カカオジャームより抽出物JA〜JEを得た。
【試験例2】
【0040】
本試験は、カカオ豆抽出物より脱ポリフェノール処理物を調製するために実施した。
【0041】
1) 供試試料
試験例1にて調製したカカオニブの各溶媒抽出物(NA〜NE)及びカカオジャームの各溶媒抽出物(JA〜JE)を用いた。
【0042】
2) 試験法
各抽出物10gを抽出溶媒と同じ溶媒500mLに溶解し、そこへポリフェノール吸着剤であるポリビニルポリピロリドン(PVPP)50gを付加して2時間攪拌吸着させることにより、ポリフェノールを除去した。その後、吸引濾過し、濾液を減圧濃縮後、凍結乾燥を行った。
【0043】
3) 試験結果
各カカオニブ抽出物(NA〜NE)の脱ポリフェノール処理物(NAP〜NEP)をそれぞれ6.0g、5.0g、5.0g、5.5g、6.0g得た。各カカオジャーム抽出物(JA〜JE)の脱ポリフェノール処理物(JAP〜JEP)をそれぞれ6.0g、5.5g、6.0g、5.5g、6.0g得た。
【試験例3】
【0044】
本試験はカカオ豆より脱ポリフェノール処理物を調製するために実施した。
【0045】
1)供試試料
カカオニブ、カカオジャームを用いた。
【0046】
2)試験法
以下の如く、抽出物を調製した。
【0047】
i)カカオニブの脱ポリフェノール処理
粉砕したカカオニブ200gに水1.5Lを加え、さらにポリフェノール吸着剤であるポリビニルピロリドン(PPVP)50gを付加し、24時間撹拌吸着させることにより、ポリフェノールを除去した。その後、80℃で1時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧濃縮後、凍結乾燥した。この操作を2回繰り返すことにより抽出乾燥物NP2.5gを得た。
【0048】
ii)カカオジャームの脱ポリフェノール処理
粉砕したカカオジャーム200gに50%アセトン1.5Lを加え、さらにポリフェノール吸着剤であるポリビニルピロリドン(PPVP)50gを付加し、24時間撹拌吸着させることにより、ポリフェノールを除去した。その後、45℃で1時間静置して抽出を行った。これを濾過し、濾液を減圧濃縮後、凍結乾燥した。この操作を2回繰り返すことにより抽出乾燥物JP3gを得た。
【試験例4】
【0049】
本試験は、脱ポリフェノール処理物のアミノ酸組成物を濃縮するために実施した。
【0050】
1) 供試試料
試験例2で調製したNAP、NBP、JAP、JBPを用いた。
【0051】
2) 試験法
i)陽イオン交換樹脂による処理
NAP、NBP、JAP、JBPをHフォームに調製したDowex50W×4(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社)によって、カラム吸着画分と非吸着画分に分画した。即ち、5gの供試試料をDowex50W×4に供し、水3Lで溶出させて未吸着部分を除去した後、2Nアンモニア水2.5Lで溶出した。得られた溶出画物を濃縮後、凍結乾燥を行った。
【0052】
ii)イオン交換ゲル濾過による処理
NAP、NBP、JAP、JBPをHフォームに調製したSP Sephadex C−25(Pharmacia)によって、カラム吸着画分と非吸着画分に分画した。即ち、5gの供与試料をSP Sephadex C−25に供し、水3Lで溶出させて未吸着部分を除去した後、2%NaCl水溶液2.5Lで溶出した。その画分をさらにDowex50W×4(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社)により分画して脱塩操作を行った。得られた溶出画物を濃縮後、凍結乾燥を行った。
【0053】
3) 試験結果
陽イオン交換樹脂による処理にて、NAP、NBP、JAP、JBPよりアミノ酸組成物が濃縮された画分NAPD、NBPD、JAPD、JBPDを得た。また、イオン交換ゲル濾過による処理にてNAP、NBP、JAP、JBPよりアミノ酸組成物が濃縮された画分NAPS、NBPS、JAPS、JBPSを得た。
【試験例5】
【0054】
本試験は、各試料のACE阻害活性、ポリフェノール含量、アミノ酸含量を測定するために実施した。
【0055】
1) 供試試料
試験例1〜4にて調製した試料を用いた。
【0056】
2) 試験法
i)ACE阻害活性の測定
バイオケミカルファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)20.1637,1971記載の方法に準じて行なった。
【0057】
供試試料が終濃度500ppmになるように10%ジメチルスルホキシドで溶解した被試験液を調製した。また、基質となるヒプリルヒスチジイルロイシンを、400mMリン酸緩衝液(pH8.5)に600mMの塩化ナトリウムを含む溶液に溶解させ、2mg/mlにした反応液を調製した。前記被試験液0.05mlに反応液0.1mlを添加して37℃3分間振とうし、この混合溶液に0.1U/mlに調製したACE0.1mlを添加して37℃、1時間反応させた。1時間後に1N塩酸0.5mlを添加することにより、反応を停止した。この反応で生成するヒプリル酸を得るため、反応溶液に酢酸エチル1.5mlを加えて抽出した。ヒプリル酸はHPLCによって定量し、以下に示す式(A=供試試料より抽出されたヒプリル酸のピーク面積、B=10%ジメチルスルホキシドより抽出されたヒプリル酸のピーク面積)により供試試料のACE阻害率を求めた。
【0058】
ACE阻害率(%)=(1−A/B)×100
【0059】
ii)ポリフェノール含量の測定
フォーリンチオカルト(Folin−Ciocalteu)法を用いて測定した。
【0060】
50mL容メスフラスコに供試試料0.1g、蒸留水35ml、Folin−Ciocalteu試薬(Sigma社)5mlを添加し、混合して1分間静置した。その後20%炭酸ナトリウム溶液5mlを添加し、直ちに50mlにメスアップした。これらを混合し、1時間静置した後、波長765nmにおける吸光度を測定した。検量線用試料としては(−)−エピカテキン(Sigma社)を用い、これをもとに各試料のポリフェノール量を求めた。
【0061】
iii)タンパク質量の測定
ケルダール法を用いてタンパク質量(アミノ酸組成物量)を測定した。
【0062】
ケルダール反応用分解チューブに供試試料1g、硫酸10ml、30%過酸化水素水8ml、適量の分解促進剤を添加し、分解用加熱装置(ティケーター社)を用いて420℃下、タンパク質の分解を行った。この分解液に純水を100ml加え、蒸留・滴定装置(ティケーター社)によって窒素含有量を求めた。窒素含有量は次式で表される。
【0063】
窒素(%)=0.0014×(V−V)×f/S×100
:滴定に要した0.1N硫酸標準用液体積(mL):ブランク
:滴定に要した0.1N硫酸標準用液体積(mL):供試試料
f:0.1N硫酸標準用液ファクター
S:供試試料量(g)
【0064】
タンパク質含有量は次式より求めた。
【0065】
タンパク質含有量(%)=窒素(%)*×6.25**
*:カフェイン・テオブロミン窒素(%)を差し引いた値
**:タンパク質換算係数
【0066】
3) 試験結果
結果は表1、2に示した。
【0067】
表1、2の如く、上記の方法で得た本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物は、アミノ酸からなる組成物を主成分としており、脱ポリフェノール処理することによりアミノ酸組成物量を増加させ、有意に高い活性を示すACE阻害物である。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【試験例6】
【0070】
本試験は、カカオ豆抽出物のアミノ酸組成物が有するACE阻害活性効果が、主に、アミノ酸組成物に由来することを検討するために実施した。
【0071】
1) 供試試料
試験例1で得られたNAのポリフェノール含量が、試験例4で得られたNAPのポリフェノール含有量と同じ値になるように、10%ジメチルスルホキシドで希釈して調製したNAdとNAPを用いた。
【0072】
2) 試験方法
バイオケミカルファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)20.1637,1971記載の方法に準じてACE阻害を測定した。
【0073】
供試試料が終濃度500ppmになるように10%ジメチルスルホキシドで溶解した被試験液を調製した。また、基質となるヒプリルヒスチジイルロイシンを、400mMリン酸緩衝液(pH8.5)に600mMの塩化ナトリウムを含む溶液に溶解させ、2mg/mlにした反応液を調製した。前記被試験液0.05mlに反応液0.1mlを添加して37℃3分間振とうし、この混合溶液に0.1U/mlに調製したACE0.1mlを添加して37℃、1時間反応させた。1時間後に1N塩酸0.5mlを添加することにより、反応を停止した。この反応で生成するヒプリル酸を得るため、反応溶液に酢酸エチル1.5mlを加えて抽出した。ヒプリル酸はHPLCによって定量し、以下に示す式(A=供試試料より抽出されたヒプリル酸のピーク面積、B=10%ジメチルスルホキシドより抽出されたヒプリル酸のピーク面積)により供試試料のACE阻害率を求めた。
【0074】
ACE阻害率(%)=(1−A/B)×100
【0075】
3) 試験結果
結果を表3に示した。
【0076】
【表3】

【0077】
表3の如く、ポリフェノール含量が同一にも係らず、本発明のカカオ抽出物NAPはNAdよりも高いACE阻害活性を示した。以上のことから、カカオ抽出物のアミノ酸組成物が高いACE阻害活性を有していることが明らかになった。
【試験例7】
【0078】
本試験は、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物のACE阻害活性と、特定保健用食品の一つで、血圧降下に有効とされているサーデンペプチドを配合した「マリンペプチド」(日清オイリオグループ株式会社)のACE阻害活性を比較、検討するために実施した。
【0079】
1) 供試試料
特定保健用食品の一つで、血圧降下に有効とされているサーデンペプチドを配合した「マリンペプチド」(日清オイリオグループ株式会社、タンパク質含量44%)と、試験例4で得られた分画物NAP(カカオニブ抽出物の脱ポリフェノール処理物であって、タンパク質含量30.6%)を供試試料とした。
【0080】
2) 試験法
バイオケミカルファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)20.1637,1971記載の方法に準じてACE阻害を測定した。
【0081】
その際、両者間のタンパク質含有率の差を考慮し、タンパク質の終濃度を揃えた上で試験を実施した。
【0082】
即ち、NAPが終濃度500ppm(マリンペプチドは348ppm)になるように10%ジメチルスルホキシドで溶解した被試験液を調製した。また、基質となるヒプリルヒスチジイルロイシンを、400mMリン酸緩衝液(pH8.5)に600mMの塩化ナトリウムを含む溶液に溶解させ、2mg/mlにした反応液を調製した。前記被試験液0.05mlに反応液0.1mlを添加して37℃3分間振とうし、この混合溶液に0.1U/mlに調製したACE0.1mlを添加して37℃、1時間反応させた。1時間後に1N塩酸0.5mlを添加することにより、反応を停止した。この反応で生成するヒプリル酸を得るため、反応溶液に酢酸エチル1.5mlを加えて抽出した。ヒプリル酸はHPLCによって定量し、以下に示す式(A=供試試料より抽出されたヒプリル酸のピーク面積、B=10%ジメチルスルホキシドより抽出されたヒプリル酸のピーク面積)により供試試料のACE阻害率を求めた。
【0083】
ACE阻害率(%)=(1−A/B)×100
【0084】
3) 試験結果
結果を表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
表4の如く、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物であるカカオニブ抽出物の脱ポリフェノール処理物NAPはマリンペプチドよりも顕著に高いACE阻害率を示した。
【0087】
以上の検討により、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害物は血圧降下に有効とされているサーデンペプチドと比較して顕著に高いACE阻害効果を示すことが明らかになった。
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、それらによって本発明品の範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0089】
試験例4にて得られたNAPSを用い、以下の処方にて、錠剤を調製した。
【0090】
D−マンニトール 44.0部
乳糖 40.0部
結晶セルロース 10.0部
ヒドロキシプロピルセルロース 5.0部
分画物NAPS 1.0部
【実施例2】
【0091】
試験例4にて得られたNBPSを用い、以下の処方にて、トローチ剤を調製した。
【0092】
ブドウ糖 72.3部
乳糖 19.0部
アラビアゴム 6、0部
香料 1.0部
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7部
分画物NBPS 1.0部
【実施例3】
【0093】
試験例4にて得られたNBPDを用い、以下の処方にて、チューインガムを調製した。
【0094】
ガムベース 20.0部
砂糖 55.0部
グルコース 15.0部
水飴 9.0部
香料 0.5部
分画物NBPD 0.5部
【実施例4】
【0095】
試験例4にて得られたJAPSを用い、以下の処方にて、キャンディを調製した。
【0096】
砂糖 50.0部
水飴 34.0部
香料 0.5部
分画物JAPS 0.5部
水 15.0部
【実施例5】
【0097】
試験例4にて得られたJBPDを用い、以下の処方にて、錠菓を調製した。
【0098】
砂糖 76.4部
グルコース 19.0部
ショ糖脂肪酸エステル 0.2部
香料 0.2部
分画物JBPD 0.1部
水 4.1部
【実施例6】
【0099】
試験例4にて得られたJBPSを用い、以下の処方にて、グミゼリーを調製した。
【0100】
ゼラチン 60.0部
水飴 23.0部
砂糖 8.5部
植物油脂 4.5部
マンニトール 2.9部
レモン果汁 1.0部
分画物JBPS 0.1部
【実施例7】
【0101】
試験例4にて得られたNBPDを用い、以下の処方にて、チョコレートを調製した。
【0102】
粉糖 40.8部
カカオビター 20.0部
全脂粉乳 20.0部
カカオバター 17.0部
マンニトール 1.0部
分画物NBPD 1.0部
香料 0.2部
【実施例8】
【0103】
試験例2にて得られたJAPを用い、以下の処方にて、シャーベットを調製した。
【0104】
オレンジ果汁 25.0部
砂糖 25.0部
卵白 10.0部
分画物JAP 2.0部
水 38.0部
【実施例9】
【0105】
試験例2にて得られたNBPを用い、以下の処方にて、ビスケットを調製した。
【0106】
薄力粉1級 25.0部
中力粉1級 22.0部
精白糖 5.0部
食塩 1.0部
ブドウ糖 1.0部
パームショートニング 12.0部
炭酸水素ナトリウム 0.2部
重亜硫酸ナトリウム 0.2部
米粉 2.0部
全脂粉乳 1.0部
代用粉乳 0.6部
分画物NBP 1.0部
水 29.0部
【実施例10】
【0107】
試験例2にて得られたJAPを用い、以下の処方にて、アイスクリームを調製した。
【0108】
脱脂粉乳 50.0部
生クリーム 25.0部
砂糖 10.0部
卵黄 10.0部
分画物JAP 1.0部
香料 0.1部
水 3.9部
【実施例11】
【0109】
試験例2にて得られたJBPを用い、以下の処方にて、粉末剤を調製した。
【0110】
トウモロコシ澱粉 55.0部
カルボキシメチルセルロース 40.0部
分画物JBP 5.0部
【実施例12】
【0111】
試験例1にて得られたNCを用い、以下の処方にて、チューインガムを調製した。
【0112】
ガムベース 20.0部
砂糖 55.0部
グルコース 15.0部
水飴 9.0部
香料 0.5部
抽出物NC 0.5部
【実施例13】
【0113】
試験例1にて得られたJAPを用い、以下の処方にて、アイスクリームを調製した。
【0114】
脱脂粉乳 50.0部
生クリーム 25.0部
砂糖 10.0部
卵黄 10.0部
抽出物NA 1.0部
香料 0.1部
水 3.9部
【実施例14】
【0115】
試験例3にて得られたNPを用い、以下の処方にて、飲料を調製した。
【0116】
オレンジ果汁 30.0部
異性化糖 15.0部
クエン酸 0.1部
ビタミンC 0.1部
分画物NP 0.1部
香料 0.1部
水 54.6部
【実施例15】
【0117】
試験例3にて得られたJPを用い、以下の処方にて、ジャムを調製した。
【0118】
果肉 4.0部
砂糖 65.0部
清澄果汁 25.0部
クエン酸 0.5部
分画物JP 2.0部
水 3.5部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物に脱ポリフェノール処理を施してなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物。
【請求項2】
カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物由来のアミノ酸組成物からなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物。
【請求項3】
カカオ豆がカカオニブ及び/又はカカオジャームである請求項1又は2記載のアンジオテンシンI変換酵素阻害物。
【請求項4】
脱ポリフェノール処理が溶剤抽出処理、吸着助剤処理、酵素処理及び塩化第二鉄法から構成される群より選択される一つ又は二つ以上の処理の組合せである請求項1記載のアンジオテンシンI変換酵素阻害物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のアンジオテンシンI変換酵素阻害物を含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害用飲食品。
【請求項6】
カカオ豆及び/又はカカオ豆の抽出物を脱ポリフェノール処理することからなるアンジオテンシンI変換酵素阻害物の製造方法。
【請求項7】
脱ポリフェノール処理物に対し更にアミノ酸組成物濃縮処理することからなる請求項6記載のアンジオテンシンI変換酵素阻害物の製造方法。
【請求項8】
カカオ豆がカカオニブ及び/又はカカオジャームである請求項6又は7記載のアンジオテンシンI変換酵素阻害物の製造方法。
【請求項9】
脱ポリフェノール処理が溶剤抽出処理、吸着助剤処理、酵素処理及び塩化第二鉄法から構成される群より選択される一つ又は二つ以上の処理の組合せである請求項6乃至8の何れか一項に記載のアンジオテンシンI変換酵素阻害物の製造方法。
【請求項10】
請求項6乃至9の何れか一項に記載のアンジオテンシンI変換酵素阻害物の製造方法により得られるアンジオテンシンI変換酵素阻害物を含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害用飲食品。

【公開番号】特開2008−19228(P2008−19228A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194942(P2006−194942)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(307013857)株式会社ロッテ (101)
【Fターム(参考)】