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アンスラコビア酸化合物、その医薬用途、その取得方法および取得に有用な菌株
説明

アンスラコビア酸化合物、その医薬用途、その取得方法および取得に有用な菌株

【課題】 過剰免疫反応、アレルギー、癌、アルツハイマー病、2型糖尿病、高血圧、狭心症などの予防薬や治療薬として有用なCa2+シグナル伝達阻害作用を有する天然由来の新規物質を提供すること。
【解決手段】 下記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物。




[式中、R1とR2は同一または異なってそれぞれ水素またはメチル基を示す。n1とn2は同一または異なって1〜5の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンスラコビア酸化合物、その医薬用途としての過剰免疫反応をはじめとする種々の疾患の予防や改善や治療に有用なCa2+シグナル伝達阻害剤、その取得方法および取得に有用な菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系の反応は、Ca2+によって活性化されたカルシニューリン(セリン・スレオニンフォスファターゼ2B)により、転写因子NFκBが脱リン酸化されて核内に移行し、IL-2に代表されるサイトカインの転写を活性化し、産生されたサイトカインにより免疫細胞が増殖して引き起こされることが明らかにされている。従って、亢進したCa2+シグナル伝達を抑制する物質は、カルシニューリンの活性化を抑制し、過剰免疫反応やアレルギー症状などに対する予防薬や治療薬として有用である。
また、Ca2+の細胞内への流入の調節機能の一つに、電位依存型L型Ca2+チャネルがある。このチャンネルに結合してCa2+の細胞内への流入を抑制する物質は、心筋や血管などの平滑筋細胞でCa2+と拮抗し、虚血性心疾患、高血圧、末梢血管障害、脳血管障害、心不整脈などに対する予防薬や治療薬として有用である。
さらに、Ca2+シグナル伝達系は、MAP(Mitogen Avtivated Protein kinase)キナーゼであるMpk1を活性化することから、Ca2+シグナル伝達を抑制する物質は、その活性化調節が異常となった各種の癌に対する予防薬や治療薬として有用である。また、Ca2+シグナル伝達系は、グリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3(Gsk-3:Glycogen Synthase Kinase-3、酵母ではMck1)と関連していることから、Ca2+シグナル伝達を抑制する物質は、2型糖尿病、アルツハイマー病などに対する予防薬や治療薬として有用である。
このように、生命の根幹を成すシグナル伝達系の一つであるCa2+シグナル伝達系を抑制する物質は、Ca2+シグナル伝達の亢進により引き起こされる様々な疾病(過剰免疫反応、アレルギー、癌、アルツハイマー病、2型糖尿病、高血圧、狭心症など)を、そのシグナルを阻害することで、予防や改善や治療できることから注目されている。Ca2+シグナル伝達阻害剤の、免疫抑制剤や抗アレルギー剤への適用例としては、サイクロスポリンA、FK506がある。また、Ca2+シグナル伝達阻害剤の、高血圧や狭心症に対する予防薬や治療薬への適用例としては、ニフェジピン、バラパミル、ジルチアゼムがある。しかしながら、これらは活性も強いが毒性も強いため、副作用が少ないまたは皆無のCa2+シグナル伝達阻害剤の探索はたいへん意義深い活動である。
【0003】
以上の観点から、本発明者らは、天然由来のCa2+シグナル伝達阻害剤を見出すべく、研究を精力的に行っており、これまでに、Ca2+シグナル伝達阻害作用を有する物質として、モクレン科のホオノキから、ネオリグナン化合物[2個のC6C3単位が8,8’-結合(β,β’-結合)以外の結合により連結した炭化水素を基本構造とする化合物]である、下記の構造式(5)で表されるホノキオール(honokiol)と、下記の構造式(6)で表されるマグノールオール(magnolol)を見出している(非特許文献1)。
【0004】
【化11】

【0005】
【化12】

【0006】
【非特許文献1】日本農芸化学会2004年度大会講演要旨集p123「2B05p24 ホオノキに含まれるCa2+シグナル伝達阻害物質honokiol,magnolol」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、天然には更なる新規なCa2+シグナル伝達阻害作用を有する物質が存在することが考えられる。
そこで本発明は、優れたCa2+シグナル伝達阻害作用を有する天然由来の新規物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、子のう菌類の1種であるアンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株の培養物中に優れたCa2+シグナル伝達阻害作用を有する物質が存在することを見出した。
【0009】
上記の知見に基づいてなされた本発明のアンスラコビア酸化合物は、請求項1記載の通り、下記の一般式(1)または一般式(2)で表されることを特徴とする。
【0010】
【化13】

【0011】
【化14】

【0012】
[式中、R1とR2は同一または異なってそれぞれ水素またはメチル基を示す。n1とn2は同一または異なって1〜5の整数を示す。]
【0013】
また、本発明のアンスラコビア酸A(Anthracobic acid A)は、請求項2記載の通り、下記の構造式(3)で表されることを特徴とする。
【0014】
【化15】

【0015】
また、本発明のアンスラコビア酸B(Anthracobic acid B)は、請求項3記載の通り、下記の構造式(4)で表されることを特徴とする。
【0016】
【化16】

【0017】
また、本発明のCa2+シグナル伝達阻害剤は、請求項4記載の通り、上記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明の上記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物の取得方法は、請求項5記載の通り、アンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株の培養物から分離精製することによることを特徴とする。
また、請求項6記載の取得方法は、請求項5記載の取得方法において、アンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P-20614として寄託されているYST-55を用いることを特徴とする。
また、請求項7記載の本発明は、上記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物の産生能を有する、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P-20614として寄託されているアンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株YST-55である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、過剰免疫反応、アレルギー、癌、アルツハイマー病、2型糖尿病、高血圧、狭心症などの予防薬や治療薬として有用なCa2+シグナル伝達阻害作用を有する天然由来の新規物質が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のアンスラコビア酸化合物は、下記の一般式(1)または一般式(2)で表されることを特徴とするものである。
【0020】
【化17】

【0021】
【化18】

【0022】
[式中、R1とR2は同一または異なってそれぞれ水素またはメチル基を示す。n1とn2は同一または異なって1〜5の整数を示す。]
【0023】
上記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物の内、代表的な化合物としては、下記の構造式(3)で表されるアンスラコビア酸A(Anthracobic acid A)と下記の構造式(4)で表されるアンスラコビア酸B(Anthracobic acid B)が挙げられる。
【0024】
【化19】

【0025】
【化20】

【0026】
本発明のアンスラコビア酸化合物は、例えば、アンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株の培養物から分離精製することによって取得することができる。アンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株として用いることができる好適な菌株としては、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P-20614として寄託されているYST-55が挙げられる。菌株の培養は、チャワンタケは糸状菌であるのでPDA培地などを用いた糸状菌の一般的な培養方法に従って行えばよい。培養物からのアンスラコビア酸化合物の分離精製は、一般的な微生物代謝産物の分離精製方法、例えば、アルコール(メタノールやエタノールなど)、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンなどの有機溶媒や水を用いた抽出操作、イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー、活性炭やアルミナやシリカゲルなどの吸着剤によるクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーを用いた分離操作の他、結晶化操作、減圧濃縮操作、凍結乾燥操作などの各種操作を単独または適宜組み合わせて行えばよい。なお、本発明のアンスラコビア酸化合物は、自体公知の有機合成化学手法で合成することもできる。また、本発明のアンスラコビア酸化合物は、複数の不斉炭素を有するので、種々の立体異性体や光学異性体が存在し得るが、本発明はそのいずれをも権利範囲に包含するものである。
【0027】
本発明のアンスラコビア酸化合物の薬学的に許容される塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどとの無機塩、低級アルキルアミン、低級アルコールアミンなどとの有機塩、リジン、アルギニン、オルニチンなどとの塩基性アミノ酸塩の他、アンモニウム塩などの公知のものが挙げられる。
【0028】
本発明のアンスラコビア酸化合物またはその薬学的に許容される塩は、Ca2+シグナル伝達阻害剤の有効成分として用いることができる。医薬品としてヒトや動物に対して投与する場合の投与方法は、経口的な投与方法であってもよいし、非経口的な投与方法であってもよい。非経口的な投与方法としては、例えば、静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、経腸投与、口腔内投与、経粘膜投与などが挙げられ、この場合、本発明のアンスラコビア酸化合物またはその薬学的に許容される塩は、これらの投与方法に適した形態に自体公知の方法で製剤化されて投与される。この場合、本発明のアンスラコビア酸化合物またはその薬学的に許容される塩は、高度に精製された形態で製剤化されてもよいし、例えば、アンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株の培養物からの粗分離精製物の形態で製剤化されてもよい。製剤形態としては、例えば、注射剤、坐剤、エアゾール剤、経皮吸収テープ、点眼剤、点鼻剤などが挙げられる。注射剤を調製する場合、適宜、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して注射剤とする。経口投与製剤としては、例えば、錠剤(糖衣錠、コーティング錠、バッカル錠を含む)、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、顆粒剤(コーティングしたものを含む)、丸剤、トローチ剤、液剤、これらの製剤学的に許容され得る徐放化製剤などが挙げられる。液剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤(ドライシロップを含む)、エリキシル剤などを含む。例えば、錠剤は、公知の製剤学的製造法に準じ、薬学的に許容され得る担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤などとともに調製することができる。この場合、担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などを用いることができる。結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボシキメチルセルロースなどを用いることができる。崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどを用いることができる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴールなどを用いることができる。着色剤としては、医薬品に添加することが許容されているものを用いることができる。錠剤や顆粒剤は、必要に応じ、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などで被膜してもよいし、2層以上の層で被膜してもよい。さらにエチルセルロースやゼラチンなどを用いてカプセル化してもよい。
【0029】
本発明のアンスラコビア酸化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするCa2+シグナル伝達阻害剤が有効に作用する疾患としては、過剰免疫反応、アレルギー、癌、アルツハイマー病、2型糖尿病、高血圧、狭心症などが挙げられる。Ca2+シグナル伝達阻害剤を患者に投与する場合、その投与量は、患者の年齢や体重、症状の程度、健康状態などの条件によって適宜設定すればよいが、標準的には、成人1日当たり約10mg〜約10gを、経口的または非経口的に1日1回〜数回にて投与すればよい。点眼剤の場合、有効成分の濃度が0.003〜5(w/v)%の点眼剤を、1日数回、1回数滴投与すればよい。
【0030】
また、本発明のアンスラコビア酸化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするCa2+シグナル伝達阻害剤は、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、Ca2+シグナル伝達阻害作用を発揮するに足る有効量を添加して食してもよい(体重1kg当たり0.1mg〜100mgの摂取が標準的である)。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0032】
(A)アンスラコビア酸A(Anthracobic acid A)とアンスラコビア酸B(Anthracobic acid B)の取得
玄米20gと蒸留水35mlをシャーレに入れてオートクレーブで滅菌したもの合計150枚を用意し、室温まで冷却した後、それぞれのシャーレに山形県の高舘山より採取した樹木の小枝から分離したアンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株YST-55を植菌した。25℃で3週間静置培養した後、培養物をメタノールに浸漬してメタノール抽出物を得、これを濃縮し、水溶性の残渣を酢酸エチルで抽出した。得られた酢酸エチル抽出物を濃縮し(10.5g)、ヘキサン−酢酸エチルの混合溶媒系を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。酢酸エチルを50%含む溶媒と60%含む溶媒の溶出画分(合計2.3g)について、メタノールを用いて結晶化を行い、下記の構造式(7)で表されるBAUYT55A(アンスラコビア酸A:Anthracobic acid A)を黄色粉末として350mg得た。次に、酢酸エチルを40%含む溶媒の溶出画分(1.1g)をジクロロメタン−酢酸エチルの混合溶媒系を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。酢酸エチルを40%含む溶媒と50%含む溶媒の溶出画分(合計310mg)について、メタノール−水の混合溶媒系でODSカラムを用いて10%のステップワイズにて溶出した。最後に、ジクロロメタン−アセトン(10:1)の混合溶媒系のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、下記の構造式(8)で表されるBAUYT55B(アンスラコビア酸B:Anthracobic acid B)を黄色油状物質として15.6mg得た。
なお、YST-55がアンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株であることは、これをポテトデキストロース寒天平板培地に接種し、25℃で1週間培養した検体からDNeasy Plant Mini Kitを用いてDNAを抽出し、このゲノムDNAを鋳型として18S rDNAフラグメントのPCR増幅を行い、反応生成物の塩基配列を調べ、国際データベース上で相同検索を行うことで、Anthracobia sp. OSC 100026の塩基配列と99.1%の高い相同性を示したこと、系統樹においてもそれと単一の系統枝を形成したことから確認した。YST-55は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P-20614として寄託されている。
【0033】
【化21】

【0034】
(BAUYT55Aの物理化学的データ)
yellow powder; mp 215-217℃; [α]D20 -170°(c 0.17, MeOH); UV (MeOH) λmax (log ε); 337 (4.56) nm; IR νmax (KBr) 3402, 2917, 2894, 1716, 1617, 1588, 1247, 1221, 1123, 998 cm-1; 1H and 13C NMR data(in C5D5N, 表1参照); HRFABMS m/z 419.2199 [M+Na]+ (calcd for C25H32O4Na, 419.2193); FABMS m/z; 419 [M+Na]+.
UVスペクトル:図3,IRスペクトル:図5,1H NMR:図7,13C NMR:図9
【0035】
【表1】

【0036】
【化22】

【0037】
(BAUYT55Bの物理化学的データ)
yellow oil; [α]D20 -120°(c 0.10, MeOH); UV (MeOH) λmax (log ε); 337 (4.48) nm; IR νmax (KBr) 3400, 2923, 1688, 1614, 1593, 1259, 1148, 999 cm-1; 1H and 13C NMR data(in C5D5N, 表2参照); HRFABMS m/z 419.2157 [M+Na]+ (calcd for C25H32O4Na, 419.2193); FABMS m/z; 419 [M+Na]+.
UVスペクトル:図4,IRスペクトル:図6,1H NMR:図8,13C NMR:図10
【0038】
【表2】

【0039】
(B)BAUYT55AとBAUYT55BのCa2+シグナル伝達阻害作用
Ca2+シグナル伝達阻害作用の評価は、遺伝子Δzds1破壊酵母(Saccharomyces cerevisiae)がCa2+超感受性を示し、高濃度Ca2+を含む培地では増殖がG2期停止する表現型(Nature, 392, 303-306, 1998)を改良した系を用いて行った。
基本となる系の有用性は、微生物培養液や合成化合物ライブラリーを用いて既に実証済みであり、既知化合物であるラディシコールのCa2+シグナル伝達阻害作用がこの系により発見されている(生物工学, 77, 406-408, 1999)。この系は、高濃度のCa2+を含む培地では、Ca2+シグナルが超活性化され酵母は生育しないが、培地中にその経路を阻害する物質が含まれている場合には、酵母を生育させる(酵母の生育円が生じる)というポジティブスクリーニングである(図1参照)。そのため、毒性が無く、特異性の高い化合物の発見が可能である(Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(9), 1942-1946, 2000)。実際に、この系を用いて、医薬品として実用化されている免疫抑制剤のFK506やサイクロスポリン、Ca2+拮抗剤のニフェジピンなどのCa2+シグナル伝達阻害作用が確認されている。さらに、図2に示した通り、この系によれば、Ca2+拮抗剤やカルシニューリン阻害剤以外にも、論理的にはMpk1阻害剤、Mck1(Gsk-3)阻害剤も選択が可能である。
この実施例において用いた改良系は、遺伝子Δzds1Δsyr1Δpdr1Δpdr3の4重破壊酵母を用いたものである。この遺伝子4重破壊酵母は、遺伝子1重破壊酵母の薬剤の膜透過性を高めるために、さらに膜成分と薬剤排出ポンプの遺伝子を自体公知の方法で破壊したものであり、薬剤感受性に優れることから、遺伝子1重破壊酵母を用いた基本系よりも精度よくCa2+シグナル伝達阻害作用の評価を行うことができる。
【0040】
(方法と結果)
遺伝子4重破壊酵母をYPD培地(イーストエキストラクト10g/l、ペプトン20g/l、デキストロース20g/l、pH6.5)で28℃、一晩前培養し、培養液の1/10希釈液A590=0.2の液を3ml、5MのCaCl2を3ml、YPD寒天培地を44mlの割合でよく懸濁し、シャーレに12.5mlずつ分注した。測定用の各種濃度のサンプルをペーパーディスク(8mm、thick)に40μlしみ込ませてシャーレの上に載せ、28℃で3日間培養した後、生育円の大きさを測定し、Ca2+シグナル伝達阻害活性を評価した。ポジティブコントロールは、免疫抑制剤FK506(0.02μg/disc)とした。BAUYT55AとBAUYT55Bのそれぞれを、種々の濃度でペーパーディスクにしみ込ませ、そのCa2+シグナル伝達阻害活性を酵母の生育円の大きさで評価した結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から明らかなように、BAUYT55AとBAUYT55Bは優れたCa2+シグナル伝達阻害作用を有し、とりわけBAUYT55Aは、幅広い濃度範囲でFK506(0.02μg/disc)同等またはそれ以上の大きな生育円を生じさせた。
【0043】
製剤例1:注射剤
BAUYT55AまたはBAUYT55Bのナトリウム塩1.5gを生理食塩水100mlに溶解し(合計1.5g/100ml)、バイアルに充填した後、加熱殺菌を行って、静注用注射剤を製造した。
【0044】
製剤例2:錠剤
以下の組成で各成分を混合し、打錠して、BAUYT55AまたはBAUYT55Bを50mg含む500mgの錠剤400個を製造した。
BAUYT55AまたはBAUYT55B ・・・ 20g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 6g
ステアリン酸タルク ・・・ 4g
6%HPC乳糖 ・・・ 170g
(合計200g)
【0045】
製剤例3:顆粒剤
以下の組成で各成分を混合し、圧縮成形し、粉砕し、整粒して、20〜50メッシュの5%顆粒剤を製造した。
BAUYT55AまたはBAUYT55B ・・・ 10g
乳糖 ・・・ 187g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 3g
(合計200g)
【0046】
製剤例4:カプセル剤
以下の組成で各成分をよく混合し、混合物を1号カプセルに充填して、カプセル剤300個を製造した。
BAUYT55AまたはBAUYT55B ・・・ 5g
乳糖 ・・・ 40g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 50g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース ・・・ 3.5g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 1.5g
(合計100g)
【0047】
製剤例5:点眼剤
以下の各成分を滅菌精製水100mlに溶解し、常法により点眼剤を製造した。
BAUYT55AまたはBAUYT55B ・・・ 0.1g
塩化ナトリウム ・・・ 0.9g
塩化ベンザルコニウム ・・・ 微量
1N水酸化ナトリウム ・・・ 適量
1N塩酸 ・・・ 適量
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、過剰免疫反応、アレルギー、癌、アルツハイマー病、2型糖尿病、高血圧、狭心症などの予防薬や治療薬として有用なCa2+シグナル伝達阻害作用を有する天然由来の新規物質を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】遺伝子破壊酵母を用いたCa2+シグナル伝達阻害評価系の原理図。
【図2】遺伝子破壊酵母におけるCa2+シグナル伝達経路と期待できる活性を示す図。
【図3】実施例におけるBAUYT55AのUVスペクトルを示す図。
【図4】同、BAUYT55BのUVスペクトルを示す図。
【図5】同、BAUYT55AのIRスペクトルを示す図。
【図6】同、BAUYT55BのIRスペクトルを示す図。
【図7】同、BAUYT55Aの1H NMRスペクトルを示す図。
【図8】同、BAUYT55Bの1H NMRスペクトルを示す図。
【図9】同、BAUYT55Aの13C NMRスペクトルを示す図。
【図10】同、BAUYT55Bの13C NMRスペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物。
【化1】

【化2】

[式中、R1とR2は同一または異なってそれぞれ水素またはメチル基を示す。n1とn2は同一または異なって1〜5の整数を示す。]
【請求項2】
下記の構造式(3)で表されるアンスラコビア酸A(Anthracobic acid A)。
【化3】

【請求項3】
下記の構造式(4)で表されるアンスラコビア酸B(Anthracobic acid B)。
【化4】

【請求項4】
下記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とするCa2+シグナル伝達阻害剤。
【化5】

【化6】

[式中、R1とR2は同一または異なってそれぞれ水素またはメチル基を示す。n1とn2は同一または異なって1〜5の整数を示す。]
【請求項5】
アンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株の培養物から分離精製することによる下記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物の取得方法。
【化7】

【化8】

[式中、R1とR2は同一または異なってそれぞれ水素またはメチル基を示す。n1とn2は同一または異なって1〜5の整数を示す。]
【請求項6】
アンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P-20614として寄託されているYST-55を用いる請求項5記載の取得方法。
【請求項7】
下記の一般式(1)または一般式(2)で表されるアンスラコビア酸化合物の産生能を有する、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P-20614として寄託されているアンスラコビア(Anthracobia)属チャワンタケの菌株YST-55。
【化9】

【化10】

[式中、R1とR2は同一または異なってそれぞれ水素またはメチル基を示す。n1とn2は同一または異なって1〜5の整数を示す。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−197354(P2007−197354A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16864(P2006−16864)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】